(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188695
(43)【公開日】2022-12-21
(54)【発明の名称】高分子材料及び導電性材料
(51)【国際特許分類】
C08L 101/06 20060101AFI20221214BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
C08L101/06
C08K3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021096930
(22)【出願日】2021-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】000115083
【氏名又は名称】ユシロ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼島 義徳
(72)【発明者】
【氏名】原田 明
(72)【発明者】
【氏名】大▲崎▼ 基史
(72)【発明者】
【氏名】朴 峻秀
(72)【発明者】
【氏名】以倉 崚平
(72)【発明者】
【氏名】梶本 晃太
(72)【発明者】
【氏名】白川 瑛規
(72)【発明者】
【氏名】北村 裕二郎
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA03W
4J002AA05W
4J002BC04W
4J002BG04W
4J002BG04X
4J002DA016
4J002DA026
4J002DA036
4J002FD116
4J002GQ00
4J002GQ02
(57)【要約】
【課題】導電性を有しながら、力学特性にも優れる高分子材料及び該高分子材料を含む導電性材料を提供する。
【解決手段】本発明の高分子材料は、少なくとも1個のホスト基を有する高分子化合物Hと、導電性材料を含有し、前記ホスト基は、シクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体から1個の水素原子又は水酸基が除された1価の基である。本発明の高分子材料は、導電性を有しながら、力学特性にも優れる。高分子材料の一実施形態では、前記高分子化合物Hがさらに少なくとも1個のゲスト基を有し、前記高分子化合物Hは分子間でホスト-ゲスト相互作用を形成している。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1個のホスト基を有する高分子化合物Hと、導電性材料を含有し、
前記ホスト基は、シクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体から1個の水素原子又は水酸基が除された基である、高分子材料。
【請求項2】
前記高分子化合物Hは、さらに少なくとも1個のゲスト基を有し、
前記高分子化合物Hは分子間でホスト-ゲスト相互作用を形成している、請求項1に記載の高分子材料。
【請求項3】
少なくとも1個のゲスト基を有する高分子化合物Gをさらに含み、
前記高分子化合物Hが有する少なくとも1個の前記ホスト基と、前記高分子化合物Gが有する少なくとも1個の前記ゲスト基とがホスト-ゲスト相互作用を形成している、請求項1に記載の高分子材料。
【請求項4】
前記高分子化合物Hが有する少なくとも1個の前記ホスト基には、他の高分子化合物Hの主鎖が貫通している、請求項1に記載の高分子材料。
【請求項5】
前記高分子化合物H以外の鎖状高分子化合物Pをさらに含む、請求項4に記載の高分子材料。
【請求項6】
前記高分子化合物H以外の鎖状高分子化合物Pをさらに含み、
前記高分子化合物Hが有する少なくとも1個の前記ホスト基には、前記鎖状高分子化合物Pの主鎖が貫通している、請求項1に記載の高分子材料。
【請求項7】
前記導電性材料が炭素材料を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の高分子材料。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の高分子材料を含有する、導電性高分子材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子材料及び導電性材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高分子材料の用途はますます多様化していることから、種々の機能を有する高分子材料の創生が求められている。例えば、硬い材料でありながら伸張性にも優れるといったように、いわゆるトレードオフの関係にある複数の物性を向上させた高分子材料は、様々な分野に応用することが期待される。
【0003】
特に、近年のエレクトロニクス分野に代表される電子デバイスは、IoTの急速な発展とともに普及が進んでおり、この観点から、高強度及び高耐久性を有する導電性高分子材料のニーズは今後さらに高まることは容易に予想される。導電性高分子材料の研究は盛んに行われており、例えば、特許文献1には、自己修復性能を有するイオン伝導ゲルが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の導電性材料は、導電性は必要な水準に達するにしても柔軟性及び伸張性等の力学特性が十分ではなく、改善の余地が残されていた。この観点から、導電性を有しつつも、柔軟性及び伸張性等の力学特性にも優れる導電性材料の創生が強く望まれていた。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、導電性を有しながら、力学特性にも優れる高分子化合物及び高分子材料、並びに、該高分子材料を含む導電性材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、高分子化合物に特定の官能基と導電性材料を導入することにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1
少なくとも1個のホスト基を有する高分子化合物Hと、導電性材料を含有し、
前記ホスト基は、シクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体から1個の水素原子又は水酸基が除された基である、高分子材料。
項2
前記高分子化合物Hは、さらに少なくとも1個のゲスト基を有し、
前記高分子化合物Hは分子間でホスト-ゲスト相互作用を形成している、項1に記載の高分子材料。
項3
少なくとも1個のゲスト基を有する高分子化合物Gをさらに含み、
前記高分子化合物Hが有する少なくとも1個の前記ホスト基と、前記高分子化合物Gが有する少なくとも1個の前記ゲスト基とがホスト-ゲスト相互作用を形成している、項1に記載の高分子材料。
項4
前記高分子化合物Hが有する少なくとも1個の前記ホスト基には、他の高分子化合物Hの主鎖が貫通している、項1に記載の高分子材料。
項5
前記高分子化合物H以外の鎖状高分子化合物Pをさらに含む、項4に記載の高分子材料。
項6
前記高分子化合物H以外の鎖状高分子化合物Pをさらに含み、
前記高分子化合物Hが有する少なくとも1個の前記ホスト基には、前記鎖状高分子化合物Pの主鎖が貫通している、項1に記載の高分子材料。
項7
前記導電性材料が炭素材料を含む、項1~6のいずれか1項に記載の高分子材料。
項8
項1~7のいずれか1項に記載の高分子材料を含有する、導電性高分子材料。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る高分子化合物は、導電性を有しながら、力学特性にも優れる高分子材料を製造するための原料として適している。また、本発明に係る高分子材料は、導電性を有しながら、力学特性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の高分子材料の構造を模式的に示す概略図である。
【
図2】実施例1-1で実施した反応スキームを示す。
【
図3】実施例2-1で実施した反応スキームを示す。
【
図4】実施例3-1で実施した反応スキームを示す。
【
図5】実施例4-1で実施した反応スキームを示す。
【
図6】実施例1-1、実施例1-2及び比較例1-1で得られた高分子材料の力学特性の評価結果を示す。
【
図7】実施例3-1~3-6及び比較例3-1~3-2で得られた高分子材料の力学特性の評価結果を示している。
【
図8】実施例3-1~3-6で得られた高分子材料の導電性の測定結果を示す。
【
図9】実施例4-1~4-3及び比較例4-1で得られた高分子材料の力学特性の評価結果を示す。
【
図10】(a)は実施例4-2で得られた高分子材料Dのひずみを5%ごとに最大100%まで増加させたときの繰り返し引張試験結果、(b)は抵抗値測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0012】
本発明の高分子材料は、少なくとも1個のホスト基を有する高分子化合物Hと、導電性材料を含有する。前記ホスト基は、シクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体から1個の水素原子又は水酸基が除された基である。
【0013】
本発明の高分子材料は、前記高分子化合物H及び導電性材料を含む限り、その形態は特に制限は無い。例えば、本発明の高分子材料は、以下の高分子材料A、高分子材料B、高分子材料C及び高分子材料Dを包含する。
【0014】
高分子材料Aは、前記高分子化合物H及び前記導電性材料を含み、かつ、前記高分子化合物Hは、さらに少なくとも1個のゲスト基を有し、前記高分子化合物Hは分子間でホスト-ゲスト相互作用を形成している。
【0015】
高分子材料Bは、前記高分子化合物H及び前記導電性材料を含み、かつ、少なくとも1個のゲスト基を有する高分子化合物Gをさらに含み、前記高分子化合物Hが有する少なくとも1個の前記ホスト基と、前記高分子化合物Gが有する少なくとも1個の前記ゲスト基とがホスト-ゲスト相互作用を形成している。
【0016】
高分子材料Cは、前記高分子化合物H及び前記導電性材料を含み、かつ、前記高分子化合物Hが有する少なくとも1個の前記ホスト基には、他の高分子化合物Hの主鎖が貫通している。
【0017】
高分子材料Dは、前記高分子化合物H及び前記導電性材料を含み、かつ、前記高分子化合物H以外の鎖状高分子化合物Pをさらに含み、前記高分子化合物Hが有する少なくとも1個の前記ホスト基には、前記鎖状高分子化合物Pの主鎖が貫通している。
【0018】
高分子材料において、前記高分子化合物Hは少なくとも1個のホスト基を有する限り、その構造は特に限定されない。例えば、本発明の一実施形態においては、前記高分子化合物Hは、その構造中にホスト基含有重合性単量体単位を有することができる。また、本発明の他の実施形態においては、前記高分子化合物Hは、その構造中にホスト基含有重合性単量体単位の他、第3の重合性単量体単位を有することもできる。また、前記高分子材料Bに含まれる高分子化合物Hにあっては、その構造中にホスト基含有重合性単量体単位及び前記第3の重合性単量体単位の他、さらにゲスト基含有重合性単量体単位を有することができる。以下、まずは前記ホスト基含有重合性単量体単位、前記ゲスト基含有重合性単量体単位及び前記第3の重合性単量体単位について詳述する。
【0019】
(ホスト基含有重合性単量体単位)
ホスト基含有重合性単量体単位とは、ホスト基含有重合性単量体が重合された場合に形成される繰り返しの構成単位を意味する。ホスト基含有重合性単量体単位は、少なくとも1個のホスト基を有する重合性単量体単位である。
【0020】
ホスト基は、前述のように、シクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体から1個の水素原子又は水酸基が除された基である。ホスト基は、シクロデキストリン誘導体から1個の水素原子又は水酸基が除された基であることが好ましい。ホスト基は1価の基に限定されるものではなく、例えば、ホスト基は2価の基であってもよい。また、ホスト基含有重合性単量体単位において、ホスト基は1個のみ含むことができ、あるいは、2個以上を含むことができる。
【0021】
前記シクロデキストリン誘導体とは、例えば、シクロデキストリンが有する水酸基のうちの少なくとも1個の水酸基において、その水素原子が疎水基で置換された構造を有することが好ましい。つまり、シクロデキストリン誘導体とは、シクロデキストリン分子が疎水性を有する他の有機基で置換された構造を有する分子をいう。ただし、シクロデキストリン誘導体は、少なくとも一つの水素原子又は少なくとも一つの水酸基を有し、好ましくは少なくとも一つの水酸基を有する。
【0022】
前記疎水基は、炭化水素基、アシル基及び-CONHR(Rはメチル基又はエチル基)からなる群より選ばれる少なくとも1種の基で置換された構造を有することが好ましい。以下、本明細書において、前述の「炭化水素基、アシル基及び-CONHR(Rはメチル基又はエチル基)からなる群より選ばれる少なくとも1種の基」を便宜上、「炭化水素基等」と表記することがある。
【0023】
ここで、念のための注記に過ぎないが、本明細書でのシクロデキストリンなる表記は、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン及びγ-シクロデキストリンからなる群より選ばれる少なくとも1種を意味する。従って、シクロデキストリン誘導体は、α-シクロデキストリン誘導体、β-シクロデキストリン誘導体及びγ-シクロデキストリン誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0024】
ホスト基は、シクロデキストリン誘導体から1個の水素原子又は水酸基が除された1価以上の基であるが、シクロデキストリン誘導体において除される水素原子又は水酸基は、シクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体のどの部位であってもよい。
【0025】
ここで、シクロデキストリン1分子が有する水酸基の全個数をNとした場合、α-シクロデキストリンはN=18、β-シクロデキストリンはN=21、γ-シクロデキストリンはN=24である。
【0026】
仮に、ホスト基がシクロデキストリン誘導体から1個の「水酸基」が除された1価の基である場合は、シクロデキストリン誘導体は、シクロデキストリン1分子あたり最大N-1個の水酸基の水素原子が炭化水素基等で置換されて形成される。他方、ホスト基がシクロデキストリン誘導体から1個の「水素原子」が除された1価の基である場合は、シクロデキストリン誘導体は、シクロデキストリン1分子あたり最大N個の水酸基の水素原子が炭化水素基等で置換され得る。
【0027】
前記ホスト基は、シクロデキストリン1分子中に存在する全水酸基数のうちの70%以上の水酸基の水素原子が前記炭化水素基等で置換された構造を有することが好ましい。前記ホスト基は、シクロデキストリン1分子中に存在する全水酸基数のうちの80%以上の水酸基の水素原子が前記炭化水素基等で置換されていることがより好ましく、全水酸基数のうちの90%以上の水酸基の水素原子が前記炭化水素基等で置換されていることが特に好ましい。
【0028】
前記ホスト基は、α-シクロデキストリン1分子中に存在する全水酸基のうちの13個以上の水酸基の水素原子が前記炭化水素基等で置換された構造を有することが好ましい。前記ホスト基は、α-シクロデキストリン1分子中に存在する全水酸基のうちの15個以上の水酸基の水素原子が前記炭化水素基等で置換されていることがより好ましく、全水酸基のうちの17個の水酸基の水素原子が前記炭化水素基等で置換されていることが特に好ましい。
【0029】
前記ホスト基は、β-シクロデキストリン1分子中に存在する全水酸基のうちの15個以上の水酸基の水素原子が前記炭化水素基等で置換された構造を有することが好ましい。前記ホスト基は、β-シクロデキストリン1分子中に存在する全水酸基のうちの17個以上の水酸基の水素原子が前記炭化水素基等で置換されていることがより好ましく、全水酸基のうちの19個以上の水酸基の水素原子が前記炭化水素基等で置換されていることが特に好ましい。
【0030】
前記ホスト基は、γ-シクロデキストリン1分子中に存在する全水酸基のうちの17個以上の水酸基の水素原子が前記炭化水素基等で置換された構造を有することが好ましい。前記ホスト基は、γ-シクロデキストリン1分子中に存在する全水酸基のうちの19個以上の水酸基の水素原子が前記炭化水素基等で置換されていることがより好ましく、全水酸基のうちの21個以上の水酸基の水素原子が前記炭化水素基等で置換されていることが特に好ましい。
【0031】
シクロデキストリン誘導体において、前記炭化水素基の種類は特に限定されない。前記炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、及びアルキニル基を挙げることができる。
【0032】
前記炭化水素基の炭素数の数は特に限定されず、例えば、炭化水素基の炭素数は1~4個であることが好ましい。
【0033】
炭素数が1~4個である炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、ブチル基を挙げることができる。炭化水素基がプロピル基及びブチル基である場合は、直鎖状及び分岐鎖状のいずれであってもよい。
【0034】
シクロデキストリン誘導体において、アシル基は、アセチル基、プロピオニル、ホルミル基等を例示することができる。ホスト-ゲスト相互作用を形成しやすく、又は、ホスト基環内を他の高分子鎖が貫通しやすいという点で、また、靭性及び強度に優れる靭性及び強度に優れる高分子材料を得やすいという点で、アシル基は、アセチル基であることが好ましい。
【0035】
シクロデキストリン誘導体において、-CONHR(Rはメチル基又はエチル基)は、メチルカルバメート基又はエチルカルバメート基である。ホスト-ゲスト相互作用を形成しやすく、又は、ホスト基環内を他の高分子鎖が貫通しやすいという点で、また、靭性及び強度に優れる靭性及び強度に優れる高分子材料を得やすいという点で、-CONHRは、エチルカルバメート基であることが好ましい。
【0036】
シクロデキストリン誘導体において、炭化水素基等は、炭素数1~4のアルキル基又はアシル基が好ましく、メチル基及びアシル基が好ましく、メチル基、アセチル基、プロピオニル基がさらに好ましく、メチル基及びアセチル基が特に好ましい。
【0037】
ホスト基含有重合性単量体単位は、前記ホスト基を有し、かつ、重合性を有する化合物である限りは特に限定されず、例えば、公知のホスト基含有重合性単量体を広く例示することができる。ホスト基含有重合性単量体は、ラジカル重合性を有する官能基を有することが好ましい。ラジカル重合性を有する官能基は、炭素-炭素二重結合を含む基を挙げることができ、具体的には、アクリロイル基(CH2=CH(CO)-)、メタクリロイル基(CH2=CCH3(CO)-)、その他、スチリル基、ビニル基、アリル基等が挙げられる。これらの炭素-炭素二重結合を含む基は、ラジカル重合性が阻害されない程度であればさらに置換基を有していてもよい。
【0038】
ホスト基含有重合性単量体の具体例としては、前記ホスト基を有するビニル系重合性単量体を挙げることができる。例えば、ホスト基含有重合性単量体は、下記の一般式(h1)で表される化合物を挙げることができる。
【0039】
【0040】
式(h1)中、Raは水素原子またはメチル基を表し、RHは前記ホスト基を表し、R1はヒドロキシル基、チオール基、1個以上の置換基を有していてもよいアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいチオアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、1個の置換基を有していてもよいアミノ基、1個の置換基を有していてもよいアミド基、アルデヒド基及びカルボキシル基からなる群より選択される1価の基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基を表す。
【0041】
あるいは、ホスト基含有重合性単量体は、下記の一般式(h2)で表される化合物を挙げることができる。
【0042】
【0043】
式(h2)中、Ra、RH及びR1はそれぞれ式(h1)のRa、RH及びR1と同義である。
【0044】
さらには、ホスト基含有重合性単量体は、下記の一般式(h3)で表される化合物を挙げることができる。
【0045】
【0046】
式(h3)中、Ra、RH及びR1はそれぞれ式(h1)のRa、RH及びR1と同義である。nは1~20、好ましくは1~10、より好ましくは1~5の整数である。Rbは、水素又は炭素数1~20のアルキル基(好ましくは炭素数1~10のアルキル基、より好ましくは炭素数1~6のアルキル基)を示す。
【0047】
なお、式(h1)、(h2)及び(h3)で表されるホスト基含有重合性単量体におけるホスト基RHは、シクロデキストリン誘導体から1個の水酸基が除された1価の基である場合の例である。
【0048】
また、ホスト基含有重合性単量体は、式(h1)、式(h2)及び式(h3)で表される化合物のうちの1種単独とすることができ、あるいは2種以上を含むことができる。この場合、式(h1)、式(h2)及び式(h3)のRaは互いに同一又は異なる場合がある。同様に、式(h1)、式(h2)及び式(h3)のRH、並びに式(h1)、式(h2)及び式(h3)のR1は各々互いに同一又は異なる場合がある。
【0049】
式(h1)~(h3)において、置換基は特に限定されず、例えば、置換基としては、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、ハロゲン原子、カルボキシル基、カルボニル基、スルホニル基、スルホン基、シアノ基等を挙げることができる。
【0050】
式(h1)~(h3)において、R1が1個の置換基を有していてもよいアミノ基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基であれば、アミノ基の窒素原子がC=C二重結合の炭素原子と結合し得る。
【0051】
式(h1)~(h3)において、R1が1個の置換基を有していてもよいアミド基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基であれば、アミド基の炭素原子がC=C二重結合の炭素原子と結合し得る。
【0052】
式(h1)~(h3)において、R1がアルデヒド基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基であれば、アルデヒド基の炭素原子がC=C二重結合の炭素原子と結合し得る。
【0053】
式(h1)~(h3)において、R1がカルボキシル基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基である場合、カルボキシル基の炭素原子がC=C二重結合の炭素原子と結合し得る。
【0054】
式(h1)~(h3)で表されるホスト基含有重合性単量体は、例えば、(メタ)アクリル酸エステル誘導体(すなわち、R1が-COO-)、(メタ)アクリルアミド誘導体(すなわち、R1が-CONH-又は-CONR-であり、Rは前記置換基と同義である)であることが好ましい。前記-CONR-のRとしては、例えば、炭素数1~20のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましく、炭素数1~6のアルキル基が特に好ましい。
【0055】
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは「アクリル」または「メタクリル」を、「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート」または「メタクリレート」を、「(メタ)アリル」とは「アリル」または「メタリル」を意味する。
【0056】
前記ホスト基含有重合性単量体の製造方法は特に限定されず、例えば、公知の製造方法を広く採用することができる。
【0057】
(ゲスト基含有重合性単量体単位)
ゲスト基含有重合性単量体単位とは、ゲスト基含有重合性単量体が重合された場合に形成される繰り返しの構成単位を意味する。ゲスト基含有重合性単量体単位は、少なくとも1個のゲスト基を有する重合性単量体単位である。
【0058】
ゲスト基としては、前記ホスト基とホスト-ゲスト相互作用をすることができる基である限り、特には前記ホスト基に包接される基である限りは、その種類は限定されない。ゲスト基は1価の基に限定されるものではなく、例えば、ゲスト基は2価の基であってもよい。また、ゲスト基含有重合性単量体単位において、ゲスト基は1個のみ含むことができ、あるいは、2個以上を含むことができる。
【0059】
ゲスト基としては、炭素数3~30の直鎖又は分岐状の炭化水素基、シクロアルキル基、ヘテロアリール基及び有機金属錯体等が挙げられ、これらは一以上の置換基を有していてもよい。置換基としては、前述の置換基と同様であり、例えば、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、臭素等)、水酸基、カルボキシル基、エステル基、アミド基、保護されていてもよい水酸基等を挙げることができる。
【0060】
より具体的なゲスト基としては、炭素数4~18の鎖状又は環状のアルキル基、多環芳香族炭化水素に由来する基が挙げられる。炭素数4~18の鎖状のアルキル基は直鎖及び分岐のいずれでもよい。環状のアルキル基は、かご型の構造であってもよい。多環芳香族炭化水素としては、例えば、少なくとも2個以上の芳香族環で形成されるπ共役系化合物が挙げられ、具体的には、ナフタレン、アントラセン、テトラセン、ペンタセン、ベンゾピレン、クリセン、ピレン、トリフェニレン等を挙げることができる。
【0061】
ゲスト基は、その他、例えば、アルコール誘導体;アリール化合物;カルボン酸誘導体;アミノ誘導体;環状アルキル基又はフェニル基を有するアゾベンゼン誘導体;桂皮酸誘導体;芳香族化合物及びそのアルコール誘導体;アミン誘導体;フェロセン誘導体;アゾベンゼン;ナフタレン誘導体;アントラセン誘導体;ピレン誘導体:ペリレン誘導体;フラーレン等の炭素原子で構成されるクラスター類;ダンシル化合物の群から選ばれる少なくとも1種が例示されるゲスト分子から一個の原子(例えば、水素原子)が除されて形成される1価の基を挙げることもできる。
【0062】
ゲスト基のさらなる具体例としては、t-ブチル基、n-オクチル基、n-ドデシル基、イソボルニル基、アダマンチル基、ピレン由来の基及びこれらに前記置換基が結合した基を挙げることができる。
【0063】
ゲスト基含有重合性単量体単位は、前記ゲスト基を有し、かつ、重合性を有する化合物である限りは特に限定されず、例えば、公知のゲスト基含有重合性単量体を広く例示することができる。ゲスト基含有重合性単量体は、ラジカル重合性を有する官能基を有することが好ましい。ラジカル重合性を有する官能基は、炭素-炭素二重結合を含む基を挙げることができ、具体的には、アクリロイル基(CH2=CH(CO)-)、メタクリロイル基(CH2=CCH3(CO)-)、その他、スチリル基、ビニル基、アリル基等が挙げられる。これらの炭素-炭素二重結合を含む基は、ラジカル重合性が阻害されない程度であればさらに置換基を有していてもよい。
【0064】
ゲスト基含有重合性単量体の具体例としては、前記ゲスト基を有するビニル系の重合性単量体を挙げることができる。例えば、ゲスト基含有重合性単量体は、下記の一般式(g1)で表される化合物を挙げることができる。
【0065】
【0066】
式(g1)中、Raは水素原子またはメチル基を示し、RGは前記ゲスト基を示し、R2は式(h1)のR1と同義である。式(g1)で表される重合性単量体の中でも、(メタ)アクリル酸エステル又はその誘導体(すなわち、R2が-COO-)、(メタ)アクリルアミド又はその誘導体(すなわち、R2が-CONH-又は-CONR-であり、Rは前記置換基と同義である)であることが好ましい。この場合、重合反応が進みやすいので、重合体Aの製造が容易になる。
【0067】
ゲスト基含有重合性単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸n-ドデシル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアダマンチル、1-(メタ)アクリルアミドアダマンタン、2-エチル-2-アダマンチル(メタ)アクリレート、N-ドデシル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸t-ブチル、1-アクリルアミドアダマンタン、N-(1-アダマンチル)(メタ)アクリルアミド、N-ベンジル(メタ)アクリルアミド、N-1-ナフチルメチル(メタ)アクリルアミド、エトキシ化o-フェニルフェノールアクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、イソステアリルアクリレート、ノニルフェノールEO付加物アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ピレン部位を有する(メタ)アクリレート、ピレン部位を有する(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0068】
ゲスト基含有重合性単量体は、公知の方法で製造することができる。また、ゲスト基含有重合性単量体は、市販品を使用することもできる。
【0069】
(第3の重合性単量体単位)
第3の重合性単量体単位は、第3の重合性単量体が重合された場合に形成される繰り返しの構成単位を意味する。
【0070】
第3の重合性単量体単位は、前記ホスト基含有重合性単量体及び前記ゲスト基含有重合性単量体と共重合可能な重合性単量体(以下、「第3の重合性単量体」という)が重合された場合に形成される繰り返しの構成単位を意味する。第3の重合性単量体は前記ホスト基を有さない。
【0071】
第3の重合性単量体としては、公知である各種のビニル系重合性単量体を挙げることができる。第3の重合性単量体の具体例としては、下記一般式(a1)で表される化合物を挙げることができる。
【0072】
【0073】
式(a1)中、Raは水素原子またはメチル基、R3はハロゲン原子、ヒドロキシル基、チオール基、1個の置換基を有していてもよいアミノ基又はその塩、1個の置換基を有していてもよいカルボキシル基又はその塩、1個以上の置換基を有していてもよいアミド基又はその塩、1個以上の置換基を有していてもよいフェニル基を示す。
【0074】
式(a1)中、R3が1個の置換基を有するカルボキシル基である場合、カルボキシル基の水素原子が炭素数1~20の炭化水素基、ヒドロキシアルキル基(例えば、ヒドロキシメチル基、1-ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシエチル基)、メトキシポリエチレングリコール(エチレングリコールのユニット数は1~20、好ましくは1~10、特に好ましくは、2~5)、エトキシポリエチレングリコール(エチレングリコールのユニット数は1~20、好ましくは1~10、特に好ましくは、2~5)等で置換されたカルボキシル基(すなわち、エステル)が挙げられる。炭素数1~20の炭化水素基は、炭素数1~15であることが好ましく、1~10であることが好ましく、1~3であることが特に好ましい。炭化水素基は、直鎖及び分岐のいずれであってもよい。
【0075】
式(a1)中、R3が1個以上の置換基を有するアミド基、すなわち、第2級アミド又は第3級アミドである場合、第1級アミドの1個の水素原子又は2個の水素原子が互いに独立に炭素数1~20の炭化水素基又はヒドロキシアルキル基(例えば、ヒドロキシメチル基、1-ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシエチル基)で置換されたアミド基が挙げられる。炭素数1~20の炭化水素基は、炭素数1~15であることが好ましく、2~10であることが好ましい。炭化水素基は、直鎖及び分岐のいずれであってもよい。
【0076】
式(a1)で表される単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸、アリルアミン、無水マレイン酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシ-ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ-トリエチレングルコール(メタ)アクリレート、メトキシ-ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、スチレン等が挙げられる。これらは1種単独で使用でき、又は2種以上を併用できる。
【0077】
第3の重合性単量体単位は、式(a1)で表される化合物の中でも、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド又はその誘導体であることが好ましい。この場合、重合反応が進みやすいので、重合体の製造が容易になる。
【0078】
(高分子化合物H)
本発明の高分子材料において、高分子化合物Hは、前記ホスト基含有重合性単量体単位を必須の構成単位として有し、必要に応じて前記第3の重合性単量体単位も有することができる。また、高分子材料Aにあっては、高分子化合物Hは、前記ゲスト基含有重合性単量体単位も含む。以下、前記ホスト基含有重合性単量体単位を「ホスト単位」、前記ゲスト基含有重合性単量体単位を単に「ゲスト単位」、前記第3の重合性単量体単位を「第3の単位」と略記する。
【0079】
高分子材料が優れた力学特性を有しやすく、柔軟性に優れやすいという点で、高分子化合物Hは、前記ホスト単位と前記第3の単位の両方を有することが好ましい。高分子化合物Hの全構成単位中、前記ホスト単位の含有割合は0.1モル%以上であることが好ましく、0.3モル%以上であることがより好ましく、0.5モル%以上であることがさらに好ましく、1モル%以上であることが特に好ましい。また、高分子化合物Hの全構成単位中、前記ホスト単位の含有割合は40モル%以下であることが好ましく、20モル%以下であることがより好ましく、10モル%以下であることがさらに好ましく、5モル%以下であることが特に好ましい。なお、本発明において、高分子化合物Hにおける各構成単位の割合(モル比)は、当該高分子化合物の製造時に使用する各単量体のモル比と一致するとみなすことができる。
【0080】
高分子化合物Hの質量平均分子量(Mw)も特に限定されず、例えば、1万~200万とすることができ、好ましくは2万~100万である。高分子化合物Hは、例えば、ランダムポリマーとすることができる、また、高分子化合物Hは、直鎖状とすることができ、本発明の効果が阻害されない限りや、枝分かれ構造及び架橋構造を有することもできる。
【0081】
高分子化合物Hのさらなる好ましい態様としては、後記する「高分子化合物Ha」、「高分子化合物Hb」、「高分子化合物Hc」、及び「高分子化合物Hd」を挙げることができる。
【0082】
高分子化合物Hの製造方法は特に限定されず、公知の製造方法を広く採用することができる。例えば、前記ホスト基含有重合性単量体と、必要に応じて含まれる前記ゲスト基含有重合性単量体単位及び/又は前記第3の重合性単量体を含む原料の重合反応により、高分子化合物Hを製造することができる。重合反応も特に限定されず、例えば、ラジカル重合性モノマーを含む原料である場合は、公知のラジカル重合反応を広く適用することができる。
【0083】
(導電性材料)
本発明の高分子材料に含まれる導電性材料は、導電性を示す限り、その種類は限定されず、例えば、公知の導電性材料を広く挙げることができる。例えば、導電性材料としては、炭素材料、金属材料等が挙げられ、その他、各種の有機材料、無機材料を挙げることができる。
【0084】
中でも、高分子材料が優れた導電性を有しつつ、力学特性が優れるものとなりやすいという点で、導電性材料は、炭素材料を少なくとも含むことが好ましい。
【0085】
炭素材料としては、カーボンブラック、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンペーパー、グラフェン、アモルファスカーボン、黒鉛等を挙げることができる。カーボンブラックとしては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラック等が例示される。グラフェンとしては、グラフェン・ナノプレートレットが例示される。黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛等が例示される。
【0086】
炭素材料の形状、大きさ等も特に制限は無い。例えば、粉末状、鱗片状、繊維状、棒状、不定形状(アモルファス)等の種々の形状とすることができる。
【0087】
高分子材料に含まれる導電性材料は、1種単独とすることができ、あるいは、異なる2種以上とすることもできる。また、導電性材料は、炭素材料と、これ以外の金属材料等の導電性材料を含むことができ、あるいは、導電性材料は、炭素材料のみとすることもできる。
【0088】
導電性材料は公知の製造方法で製造することができ、あるいは、市販品等から入手することもできる。
【0089】
以下、前記高分子材料A、前記高分子材料B、前記高分子材料C及び前記高分子材料Dについて詳述する。
【0090】
(高分子材料A)
高分子材料Aは、前記高分子化合物H及び前記導電性材料を含み、かつ、前記高分子化合物Hは、さらに少なくとも1個のゲスト基を有し、前記高分子化合物Hは分子間でホスト-ゲスト相互作用を形成している。以下、高分子材料Aに含まれる前記高分子化合物Hを「高分子化合物Ha」と表記する。
【0091】
高分子化合物Haは、前記ホスト単位と、前記ゲスト単位と、前記第3の単位とを分子中に有する。ホスト基及びゲスト基は、高分子化合物Haの主鎖又は側鎖に共有結合によって結合している。
【0092】
高分子材料Aの力学特性が向上しやすく、柔軟性に優れやすいという点で、高分子化合物Haの全構成単位中、前記ホスト単位の含有割合は0.1モル%以上であることが好ましく、0.3モル%以上であることがより好ましく、0.5モル%以上であることがさらに好ましく、1モル%以上であることが特に好ましい。また、高分子化合物Haの全構成単位中、前記ホスト単位の含有割合は40モル%以下であることが好ましく、20モル%以下であることがより好ましく、10モル%以下であることがさらに好ましく、5モル%以下であることが特に好ましい。
【0093】
高分子材料Aの力学特性が向上しやすく、柔軟性に優れやすいという点で、高分子化合物Haの全構成単位中、前記ゲスト単位の含有割合は0.1モル%以上であることが好ましく、0.3モル%以上であることがより好ましく、0.5モル%以上であることがさらに好ましく、1モル%以上であることが特に好ましい。また、高分子化合物Haの全構成単位中、前記ゲスト単位の含有割合は40モル%以下であることが好ましく、20モル%以下であることがより好ましく、10モル%以下であることがさらに好ましく、5モル%以下であることが特に好ましい。
【0094】
高分子材料Aの力学特性が向上しやすく、柔軟性に優れやすいという点で、高分子化合物Haの全構成単位中、前記第3の単位の含有割合は50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることがさらに好ましく、90モル%以上であることが特に好ましい。また、高分子化合物Haの全構成単位中、前記第3の単位の含有割合は99.8モル%以下であることが好ましく、99モル%以下であることがより好ましい。
【0095】
高分子化合物Haは、本発明の効果が阻害されない限り、他の単量体単位を含むことができ、あるいは、高分子化合物Haは、前記ホスト単位、前記ゲスト単位及び前記第3の単位のみで形成することもできる。
【0096】
高分子化合物Haにおいて、ホスト基及びゲスト基の組み合わせは特に限定されず、前述のホスト基及びゲスト基を任意に組み合わせることができる。中でも、高分子化合物Haどうしのホスト-ゲスト相互作用によって、高分子材料Aの力学特性を向上させやすいという点で、ホスト基がα-シクロデキストリン又はその誘導体由来である場合、ゲスト基はオクチル基及びドデシル基の群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。同様の理由で、ホスト基がβ-シクロデキストリン又はその誘導体由来である場合、ゲスト基はアダマンチル基及びイソボルニル基の群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ホスト基がγ-シクロデキストリン又はその誘導体由来である場合、ゲスト基はオクチル基、ドデシル基、シクロドデシル基、アダマンチル基、多環芳香族炭化水素由来の基からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。ここでの多環芳香族炭化水素は、例えば、ピレン等を挙げることができる。ゲスト基が多環芳香族炭化水素由来の基である場合は、高分子材料Aにおいて、高分子化合物Haと導電性材料とがより均一に混ざり合うことで導電性及び力学特性が向上しやすく、特に、導電性材料が炭素材料の場合に、導電性及び力学特性が特に向上しやすい。
【0097】
高分子材料Aでは、前記高分子化合物Hが前記高分子化合物Haであることで、当該高分子化合物どうしが分子間でホスト-ゲスト相互作用を形成することができる。即ち、前記高分子化合物Haのホスト基の少なくとも一つに、他の高分子化合物Haの少なくとも一つのゲスト基が包接され、これにより、分子間のホスト-ゲスト相互作用が形成され得る。
【0098】
図1(a)は、前記高分子化合物Haどうしがホスト-ゲスト相互作用を形成している様子を模式的に示している。斯かる分子間のホスト-ゲスト相互作用によって、高分子材料A中に存在する導電性材料が均一に分散しやすくなり、この結果として、優れた導電性が発揮されると共に、高分子材料Aの力学特性が向上し、強靭でありながら優れた柔軟性を有することができる。
【0099】
高分子材料Aは、分子間のホスト-ゲスト相互作用が形成されることから、自己修復性を有することもできる。例えば、高分子材料Aが切断等されたとしても、切断面どうしを再接着することで、その接着面でホスト-ゲスト相互作用が再度形成され、この結果、再接合が起こって自己修復が生じる。
【0100】
高分子材料Aにおいて、前記高分子化合物Ha及び導電性材料の含有割合は特に限定されない。例えば、導電性及び力学特性が高まりやすいという点で、前記高分子化合物Haの総質量に対する導電性材料の含有割合は0.1質量%以上とすることができ、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上、特に好ましくは5質量%以上である。また、導電性及び力学特性が高まりやすいという点で、前記高分子化合物Haの総質量に対する導電性材料の含有割合は80質量%以下とすることができ、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下、特に好ましくは40質量%以下である。導電性材料がケッチェンブラックの場合、前記高分子化合物Haの総質量に対する導電性材料の含有割合は1質量%以上とすることができ、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは6質量%以上、特に好ましくは7質量%以上であり、導電性及び力学特性が高まりやすいという点で、前記高分子化合物Haの総質量に対する導電性材料の含有割合は30質量%以下とすることができ、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは12.5質量%以下、特に好ましくは10質量%以下である。
【0101】
高分子材料Aには、前記高分子化合物Ha及び導電性材料以外の他の添加剤が含まれていてもよいし、あるいは、高分子材料Aには、前記高分子化合物Ha及び導電性材料のみで形成することもできる。
【0102】
高分子材料Aを製造する方法は特に限定されず、例えば、公知の方法を広く採用することができる。例えば、前記高分子化合物Ha及び導電性材料を公知の混合手段で混合することで高分子材料Aを得ることができる。混合手段は公知の混合機を広く使用することができ、例えば、ボールミル等の混合機を挙げることができる。混合は乾式及び湿式のいずれで行ってもよい。湿式の場合は、例えば、前記高分子化合物Haの溶液と、導電性材料を混合する方法が挙げられる。前記高分子化合物Haの溶液において、溶媒は特に限定されず、前記高分子化合物Haが溶解する各種有機溶媒を使用することができる。
【0103】
(高分子材料B)
高分子材料Bは、前記高分子化合物H及び前記導電性材料を含み、かつ、少なくとも1個のゲスト基を有する高分子化合物Gをさらに含む。高分子材料Bでは、前記高分子化合物Hが有する少なくとも1個の前記ホスト基と、前記高分子化合物Gが有する少なくとも1個の前記ゲスト基とがホスト-ゲスト相互作用を形成している。以下、高分子材料Bに含まれる前記高分子化合物Hを「高分子化合物Hb」と表記する。
【0104】
高分子化合物Hbは、前記ホスト単位と、前記第3の単位とを分子中に有するものであって、前記ゲスト単位は含まない。前記ホスト基は、高分子化合物Hbの主鎖又は側鎖に共有結合によって結合している。
【0105】
高分子材料Bの力学特性が向上しやすく、柔軟性に優れやすいという点で、高分子化合物Hbの全構成単位中、前記ホスト単位の含有割合は0.1モル%以上であることが好ましく、0.3モル%以上であることがより好ましく、0.5モル%以上であることがさらに好ましく、1モル%以上であることが特に好ましい。また、高分子化合物Hbの全構成単位中、前記ホスト単位の含有割合は40モル%以下であることが好ましく、20モル%以下であることがより好ましく、10モル%以下であることがさらに好ましく、5モル%以下であることが特に好ましい。
【0106】
高分子材料Bの力学特性が向上しやすく、柔軟性に優れやすいという点で、高分子化合物Hbの全構成単位中、前記第3の単位の含有割合は50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることがさらに好ましく、90モル%以上であることが特に好ましい。また、高分子化合物Hbの全構成単位中、前記第3の単位の含有割合は99.9モル%以下であることが好ましく、99モル%以下であることがより好ましい。
【0107】
高分子化合物Hbは、本発明の効果が阻害されない限り、他の単量体単位(ただし、ゲスト単位を除く)を含むことができ、あるいは、高分子化合物Hbは、前記ホスト単位及び前記第3の単位のみで形成することもできる。
【0108】
一方、前記高分子化合物Gは、前記ゲスト単位と、前記第3の単位とを分子中に有するものであって、前記ホスト単位は含まない。前記ゲスト基は、高分子化合物Gの主鎖又は側鎖に共有結合によって結合している。
【0109】
高分子材料Bの力学特性が向上しやすく、柔軟性に優れやすいという点で、高分子化合物Gの全構成単位中、前記ゲスト単位の含有割合は0.1モル%以上であることが好ましく、0.3モル%以上であることがより好ましく、0.5モル%以上であることがさらに好ましく、1モル%以上であることが特に好ましい。また、高分子化合物Gの全構成単位中、前記ゲスト単位の含有割合は40モル%以下であることが好ましく、20モル%以下であることがより好ましく、10モル%以下であることがさらに好ましく、5モル%以下であることが特に好ましい。
【0110】
高分子材料Bの力学特性が向上しやすく、柔軟性に優れやすいという点で、高分子化合物Gの全構成単位中、前記第3の単位の含有割合は50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることがさらに好ましく、90モル%以上であることが特に好ましい。また、高分子化合物Gの全構成単位中、前記第3の単位の含有割合は99.9モル%以下であることが好ましく、99モル%以下であることがより好ましい。
【0111】
高分子化合物Gは、本発明の効果が阻害されない限り、他の単量体単位(ただし、ホスト単位を除く)を含むことができ、あるいは、高分子化合物Gは、前記ホスト単位及び前記第3の単位のみで形成することもできる。
【0112】
高分子化合物Gの質量平均分子量(Mw)も特に限定されず、例えば、1万~200万とすることができ、好ましくは2万~100万である。高分子化合物Gは、例えば、ランダムポリマーとすることができる、また、高分子化合物Hは、直鎖状とすることができ、本発明の効果が阻害されない限りや、枝分かれ構造及び架橋構造を有することもできる。
【0113】
高分子化合物Gの製造方法は特に限定されず、公知の製造方法を広く採用することができる。例えば、前記ゲスト基含有重合性単量体と、前記第3の重合性単量体とを含む原料の重合反応により、高分子化合物Gを製造することができる。重合反応も特に限定されず、例えば、ラジカル重合性モノマーを含む原料である場合は、公知のラジカル重合反応を広く適用することができる。
【0114】
高分子化合物Hb及び高分子化合物Gにおいて、第3の単位は互いに同一であってもよいし、一部又は全部が異なるものであってもよい。
【0115】
高分子化合物Hbにおけるホスト基及び高分子化合物Gにおけるゲスト基の組み合わせは特に限定されず、前述のホスト基及びゲスト基を任意に組み合わせることができる。中でも、高分子化合物Hbが有する少なくとも1個の前記ホスト基と、前記高分子化合物Gが有する少なくとも1個の前記ゲスト基とがホスト-ゲスト相互作用によって、高分子材料Bの力学特性を向上させやすいという点で、ホスト基がα-シクロデキストリン又はその誘導体由来である場合、ゲスト基はオクチル基及びドデシル基の群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。同様の理由で、ホスト基がβ-シクロデキストリン又はその誘導体由来である場合、ゲスト基はアダマンチル基及びイソボルニル基の群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ホスト基がγ-シクロデキストリン又はその誘導体由来である場合、ゲスト基はオクチル基、ドデシル基、シクロドデシル基、アダマンチル基、多環芳香族炭化水素由来の基からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。ここでの多環芳香族炭化水素は、例えば、ピレン等を挙げることができる。ゲスト基が多環芳香族炭化水素由来の基である場合は、高分子材料Bにおいて、高分子化合物Hb及び高分子化合物Gと、導電性材料とがより均一に混ざり合うことで導電性及び力学特性が向上しやすく、特に、導電性材料が炭素材料の場合に、導電性及び力学特性が特に向上しやすい。
【0116】
高分子材料Bでは、前記高分子化合物Hが前記高分子化合物Hbであり、かつ、高分子化合物Gを含むことで、両高分子化合物どうしが分子間でホスト-ゲスト相互作用を形成することができる。即ち、前記高分子化合物Hbのホスト基の少なくとも一つに、高分子化合物Gの少なくとも一つのゲスト基が包接され、これにより、分子間のホスト-ゲスト相互作用が形成され得る。
【0117】
図1(b)は、前記高分子化合物Hb及び前記高分子化合物Gどうしがホスト-ゲスト相互作用を形成している様子を模式的に示している。斯かる分子間のホスト-ゲスト相互作用によって、高分子材料B中に存在する導電性材料が均一に分散しやすくなり、この結果として、優れた導電性が発揮されると共に、高分子材料Bの力学特性が向上し、強靭でありながら優れた柔軟性を有することができる。
【0118】
高分子材料Bは、分子間のホスト-ゲスト相互作用が形成されることから、自己修復性を有することもできる。例えば、高分子材料Bが切断等されたとしても、切断面どうしを再接着することで、その接着面でホスト-ゲスト相互作用が再度形成され、この結果、再接合が起こって自己修復が生じる。
【0119】
高分子材料Bにおいて、前記高分子化合物Hb、高分子化合物G及び導電性材料の含有割合は特に限定されない。例えば、導電性及び力学特性が高まりやすいという点で、前記高分子化合物Hb及び前記高分子化合物Gの総質量に対する導電性材料の含有割合は0.1質量%以上とすることができ、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上、特に好ましくは5質量%以上である。また、導電性及び力学特性が高まりやすいという点で、前記高分子化合物Hb及び前記高分子化合物Gの総質量に対する導電性材料の含有割合は80質量%以下とすることができ、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下、特に好ましくは40質量%以下である。導電性材料がケッチェンブラックの場合、前記高分子化合物Hb及び前記高分子化合物Gの総質量に対する導電性材料の含有割合は1質量%以上とすることができ、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは6質量%以上、特に好ましくは7質量%以上であり、導電性及び力学特性が高まりやすいという点で、前記高分子化合物Hb及び前記高分子化合物Gの総質量に対する導電性材料の含有割合は30質量%以下とすることができ、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは12.5質量%以下、特に好ましくは10質量%以下である。
【0120】
高分子材料Bにおいて、前記高分子化合物Hb及び高分子化合物Gの含有割合は特に限定されない。例えば、ホスト-ゲスト相互作用がしやすい点で、導電性及び力学特性が高まりやすいという点で、前記高分子化合物Hb及び高分子化合物Gの総質量に対する前記高分子化合物Hbの含有割合は30~80質量%、好ましくは40~60質量%であり、両者は等量であってもよい。
【0121】
高分子材料Bには、前記高分子化合物Hb、前記高分子化合物G及び導電性材料以外の他の添加剤が含まれていてもよいし、あるいは、前記高分子化合物Hb、前記高分子化合物G及び導電性材料のみで形成することもできる。
【0122】
高分子材料Bを製造する方法は特に限定されず、例えば、公知の方法を広く採用することができる。例えば、前記高分子化合物Hb、前記高分子化合物G及び導電性材料を公知の混合手段で混合することで高分子材料Bを得ることができる。混合手段は公知の混合機を広く使用することができ、例えば、ボールミル等の混合機を挙げることができる。混合は乾式及び湿式のいずれで行ってもよい。湿式の場合は、例えば、前記高分子化合物Hb及び前記高分子化合物Gを含む溶液と、導電性材料を混合する方法が挙げられる。前記溶液の溶媒は特に限定されず、前記高分子化合物Hb及び前記高分子化合物Gの両方が溶解する各種有機溶媒を使用することができる。
【0123】
(高分子材料C)
高分子材料Cは、前記高分子化合物H及び前記導電性材料を含み、かつ、前記高分子化合物Hが有する少なくとも1個の前記ホスト基には、他の高分子化合物Hの主鎖が貫通している。以下、高分子材料Cに含まれる前記高分子化合物Hを「高分子化合物Hc」と表記する。
【0124】
高分子化合物Hcは、前記ホスト単位と、前記第3の単位とを分子中に有するものであって、前記ゲスト単位は含まない。前記ホスト基は、高分子化合物Hcの主鎖又は側鎖に共有結合によって結合している。
【0125】
高分子化合物Hcにおける前記第3の単位は、高分子化合物Hcが有するホスト基の環内を貫通することができるサイズである。これにより、前述のように、高分子化合物Hcのホスト基環内を他の高分子化合物Hcの主鎖が貫通することができ、より厳密には他の高分子化合物Hc中の第3の単位で構成されるセグメントがホスト基環内を貫通する。
【0126】
斯かる前記第3の単位を構成するための第3の重合性単量体の種類としては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド又はその誘導体のポリマーであることが好ましく、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル等であることがより好ましく、特に、ホスト基がγ-シクロデキストリン又はその誘導体である場合は、(メタ)アクリル酸エチルが好ましい。
【0127】
高分子材料Cの力学特性が向上しやすく、柔軟性に優れやすいという点で、高分子化合物Hcの全構成単位中、前記ホスト単位の含有割合は0.1モル%以上であることが好ましく、0.3モル%以上であることがより好ましく、0.5モル%以上であることがさらに好ましく、1モル%以上であることが特に好ましい。また、高分子化合物Hcの全構成単位中、前記ホスト単位の含有割合は40モル%以下であることが好ましく、20モル%以下であることがより好ましく、10モル%以下であることがさらに好ましく、5モル%以下であることが特に好ましい。
【0128】
高分子材料Cの力学特性が向上しやすく、柔軟性に優れやすいという点で、高分子化合物Hcの全構成単位中、前記第3の単位の含有割合は50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることがさらに好ましく、90モル%以上であることが特に好ましい。また、高分子化合物Hbの全構成単位中、前記第3の単位の含有割合は99.9モル%以下であることが好ましく、99モル%以下であることがより好ましい。
【0129】
高分子化合物Hcは、本発明の効果が阻害されない限り、他の単量体単位(ただし、ゲスト単位を除く)を含むことができ、あるいは、高分子化合物Hcは、前記ホスト単位及び前記第3の単位のみで形成することもできる。
【0130】
高分子材料Cは、前記高分子化合物Hc以外に鎖状高分子化合物Pをさらに含むことも好ましい。これにより、高分子材料Cの力学特性がさらに向上しやすくなる。
【0131】
鎖状高分子化合物Pは、例えば、前記第3の単位を有し、かつ、ホスト基を有さない高分子化合物である。中でも、鎖状高分子化合物Pは、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド又はその誘導体のポリマーであることが好ましく、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル等のポリマーであることがさらに好ましい。
【0132】
鎖状高分子化合物Pは、本発明の効果が阻害されない限り、他の単量体単位(ただし、ホスト単位及びゲスト単位を除く)を含むことができ、あるいは、鎖状高分子化合物Pは、前記第3の単位のみで形成することもできる。
【0133】
鎖状高分子化合物Pの質量平均分子量(Mw)も特に限定されず、例えば、1万~200万とすることができ、好ましくは2万~100万である。鎖状高分子化合物Pは、例えば、ホモポリマー、ランダムポリマー等の構造を有することができる、また、鎖状高分子化合物Pは、直鎖状とすることができ、本発明の効果が阻害されない限りや、枝分かれ構造及び架橋構造を有することもできる。
【0134】
高分子化合物Pの製造方法は特に限定されず、公知の製造方法を広く採用することができる。例えば、前記第3の重合性単量体を含む原料の重合反応により、鎖状高分子化合物Pを製造することができる。重合反応も特に限定されず、例えば、ラジカル重合性モノマーを含む原料である場合は、公知のラジカル重合反応を広く適用することができる。
【0135】
高分子化合物Hc及び鎖状高分子化合物Pにおいて、第3の単位は互いに同一であってもよいし、一部又は全部が異なるものであってもよい。
【0136】
高分子材料Cでは、前記高分子化合物Hが前記高分子化合物Hcであることで、高分子化合物Hcのホスト基環内を他の高分子化合物Hcの第3の単位で構成されるセグメントがホスト基環内を貫通する。
【0137】
図1(c)は、前記高分子化合物Hcのホスト基に他の前記高分子化合物Hcが貫通している様子を模式的に示している。前記高分子化合物Hcのホスト基に他の前記高分子化合物Hcが貫通することよって、前記高分子化合物Hcが可動性を有する架橋構造(可動性架橋構造体)が形成され、これにより、高分子材料Cの力学特性が向上し、強靭でありながら優れた柔軟性を有することができる。なお、ホスト基を貫通した高分子化合物Hcもまたホスト基を有することから、当該ホスト基がいわゆるストッパーとなり、脱落が防止され得る。
【0138】
前記高分子化合物Hcの可動性架橋構造体を形成する方法は特に限定されない。例えば、前記高分子化合物Hcを重合反応で生成させることで、同時に可動性架橋構造体も形成され得る。具体的には、前記高分子化合物Hcの重合反応において、高分子化合物Hcの生長反応が進行すると同時に、この生長中のポリマー鎖が他のポリマー鎖のホスト基を貫通することで、
図1(c)に示すような可動性架橋構造体が形成され得る。
【0139】
高分子材料Cが鎖状高分子化合物Pを含む場合、例えば、
図1(c)に示すように、鎖状高分子化合物Pは、高分子化合物Hcの可動性架橋構造体中に存在しているものと推察され、これによって、高分子材料Cの力学特性がさらに向上し得る。
【0140】
高分子材料Cにおいて、前記高分子化合物Hc、鎖状高分子化合物P及び導電性材料の含有割合は特に限定されない。例えば、導電性及び力学特性が高まりやすいという点で、前記高分子化合物Hc及び鎖状高分子化合物Pの総質量に対する導電性材料の含有割合は0.1質量%以上とすることができ、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上、特に好ましくは5質量%以上である。また、導電性及び力学特性が高まりやすいという点で、前記高分子化合物Hc及び鎖状高分子化合物Pの総質量に対する導電性材料の含有割合は80質量%以下、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下、特に好ましくは40質量%以下である。導電性材料がケッチェンブラックの場合、前記高分子化合物Hc及び鎖状高分子化合物Pの総質量に対する導電性材料の含有割合は1質量%以上とすることができ、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは6質量%以上、特に好ましくは7質量%以上であり、導電性及び力学特性が高まりやすいという点で、前記高分子化合物Hc及び鎖状高分子化合物Pの総質量に対する導電性材料の含有割合は20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは12.5質量%以下、特に好ましくは10質量%以下である。
【0141】
高分子材料Cが鎖状高分子化合物Pを含む場合、前記高分子化合物Hc及び鎖状高分子化合物Pの含有割合は特に限定されない。例えば、導電性及び力学特性が高まりやすいという点で、前記高分子化合物Hc及び鎖状高分子化合物Pの総質量に対する前記高分子化合物Hcの含有割合は例えば10質量%以上とすることができ、好ましくは20質量%以上、より好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上である。また、導電性及び力学特性が高まりやすいという点で、前記高分子化合物Hc及び鎖状高分子化合物Pの総質量に対する前記高分子化合物Hcの含有割合は90質量%以下とすることができ、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下ある。
【0142】
高分子材料Cには、前記高分子化合物Hc、鎖状高分子化合物P及び導電性材料以外の他の添加剤が含まれていてもよいし、あるいは、前記高分子化合物Hc、鎖状高分子化合物P及び導電性材料のみで形成することもできる。
【0143】
高分子材料Cを製造する方法は特に限定されず、例えば、公知の方法を広く採用することができる。例えば、あらかじめ可動性架橋構造体を形成するよう製造した前記高分子化合物Hcと、導電性材料と、必要に応じて鎖状高分子化合物Pとを、公知の混合手段で混合することで高分子材料Cを得ることができる。混合手段は公知の混合機を広く使用することができ、例えば、ボールミル等の混合機を挙げることができる。混合は乾式及び湿式のいずれで行ってもよい。湿式の場合は、例えば、可動性架橋構造体を形成するように製造した前記高分子化合物Hcを含む溶液と、導電性材料を混合する方法が挙げられる。前記溶液の溶媒は特に限定されず、前記高分子化合物Hcが溶解する各種有機溶媒を使用することができる。
【0144】
(高分子材料D)
高分子材料Dは、前記高分子化合物H及び前記導電性材料を含み、かつ、前記高分子化合物H以外の鎖状高分子化合物Pをさらに含み、前記高分子化合物Hが有する少なくとも1個の前記ホスト基には、前記鎖状高分子化合物Pの主鎖が貫通している。以下、高分子材料Dに含まれる前記高分子化合物Hを「高分子化合物Hd」と表記する。
【0145】
高分子化合物Hdは、前記ホスト単位と、前記第3の単位とを分子中に有するものである。前記ホスト基は、高分子化合物Hdの主鎖又は側鎖に共有結合によって結合している。
【0146】
高分子化合物Hdにおける前記第3の単位は、高分子化合物Hdが有するホスト基の環内を貫通することができないサイズであり、この点で、先の高分子材料Cにおける高分子化合物Hcと異なる。
【0147】
斯かる前記第3の単位はホスト基の環内を貫通することができず、かつ、包接錯体を形成することができないサイズであることが好ましい。斯かる第3の単位としては、例えば、スチレン、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、へキシル(メタ)アクリレート、2-エトキシ-へキシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレートが挙げられ、スチレンが好ましい。
【0148】
高分子材料Dの力学特性が向上しやすく、柔軟性に優れやすいという点で、高分子化合物Hdの全構成単位中、前記ホスト単位の含有割合は0.1モル%以上であることが好ましく、0.3モル%以上であることがより好ましく、0.5モル%以上であることがさらに好ましく、1モル%以上であることが特に好ましい。また、高分子化合物Hcの全構成単位中、前記ホスト単位の含有割合は40モル%以下であることが好ましく、30モル%以下であることがより好ましく、20モル%以下であることがさらに好ましく、10モル%以下であることが特に好ましい。
【0149】
高分子材料Cの力学特性が向上しやすく、柔軟性に優れやすいという点で、高分子化合物Hdの全構成単位中、前記第3の単位の含有割合は50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることがさらに好ましく、90モル%以上であることが特に好ましい。また、高分子化合物Hbの全構成単位中、前記第3の単位の含有割合は99.9モル%以下であることが好ましく、99モル%以下であることがより好ましい。
【0150】
高分子化合物Hdは、本発明の効果が阻害されない限り、他の単量体単位(ただし、ゲスト単位を除く)を含むことができ、あるいは、高分子化合物Hcは、前記ホスト単位及び前記第3の単位のみで形成することもできる。
【0151】
高分子材料Dに含まれる鎖状高分子化合物Pは、前記第3の単位を有し、かつ、ホスト基は有さ、高分子化合物Hdが有するホスト基を貫通する高分子化合物である。斯かる鎖状高分子化合物Pは、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド又はその誘導体のポリマーであることが好ましく、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル等のポリマーであることがさらに好ましい。
【0152】
鎖状高分子化合物Pは、本発明の効果が阻害されない限り、他の単量体単位(ただし、ホスト単位及びゲスト単位を除く)を含むことができ、あるいは、鎖状高分子化合物Pは、前記第3の単位のみで形成することもできる。
【0153】
鎖状高分子化合物Pの質量平均分子量(Mw)も特に限定されず、例えば、1万~200万とすることができ、好ましくは2万~100万とすることができる。鎖状高分子化合物Pは、例えば、ホモポリマー、ランダムポリマー等の構造を有することができる、また、鎖状高分子化合物Pは、直鎖状とすることができ、本発明の効果が阻害されない限りや、枝分かれ構造及び架橋構造を有することもできる。
【0154】
高分子化合物Pの製造方法は特に限定されず、公知の製造方法を広く採用することができる。例えば、前記第3の重合性単量体を含む原料の重合反応により、鎖状高分子化合物Pを製造することができる。重合反応も特に限定されず、例えば、ラジカル重合性モノマーを含む原料である場合は、公知のラジカル重合反応を広く適用することができる。
【0155】
高分子化合物Hd及び鎖状高分子化合物Pにおいて、第3の単位は互いに異なる種類である。つまり、高分子化合物Hdが有する第3の単位は高分子化合物Hd中のホスト基を貫通することができないものであるのに対し、鎖状高分子化合物Pが有する第3の単位は高分子化合物Hd中のホスト基を貫通することができるものである。
【0156】
高分子材料Dでは、前記高分子化合物Hが前記高分子化合物Hdであり、かつ、ホスト基を貫通することができる鎖状高分子化合物Pを含むことで、高分子化合物Hdのホスト基環内を鎖状高分子化合物Pが貫通して形成される可動性架橋構造体が含まれる。
【0157】
図1(d)は、前記高分子化合物Hdのホスト基に他の前記高分子化合物Hcが貫通している様子を模式的に示している。前記高分子化合物Hcのホスト基に鎖状高分子化合物Pが貫通することよって、前記高分子化合物Hdと鎖状高分子化合物Pとで可動性架橋構造体が形成され、これにより、高分子材料Dの力学特性が向上し、強靭でありながら優れた柔軟性を有することができる。
【0158】
高分子材料Dにおいて、前記高分子化合物Hd、鎖状高分子化合物P及び導電性材料の含有割合は特に限定されない。例えば、導電性及び力学特性が高まりやすいという点で、前記高分子化合物Hd、鎖状高分子化合物P及び導電性材料の総質量に対する導電性材料の含有割合は0.1質量%以上とすることができ、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上、特に好ましくは5質量%以上である。また、導電性及び力学特性が高まりやすいという点で、前記高分子化合物Hd及び導電性材料の総質量に対する導電性材料の含有割合は80質量%以下とすることができ、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下特に好ましくは40質量%以下である。導電性材料がケッチェンブラックの場合、前記高分子化合物Hd及び導電性材料の総質量に対する導電性材料の含有割合は1質量%以上とすることができ、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは8質量%以上、特に好ましくは10質量%以上であり、導電性及び力学特性が高まりやすいという点で、前記高分子化合物Hd及び導電性材料の総質量に対する導電性材料の含有割合は50質量%以下とすることができ、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下である。
【0159】
高分子材料Dにおいて、前記高分子化合物Hd及び鎖状高分子化合物Pの含有割合は特に限定されない。例えば、導電性及び力学特性が高まりやすいという点で、前記高分子化合物Hd及び鎖状高分子化合物P双方の構成単位の全量に対し、前記高分子化合物Hdにおけるホスト単位の含有割合が0.01モル%以上であることが好ましく、0.1モル%以上であることがより好ましく、0.3モル%以上であることがさらに好ましく、0.5モル%以上であることが特に好ましい。また、前記高分子化合物Hd及び鎖状高分子化合物P双方の構成単位の全量に対し、前記高分子化合物Hdにおけるホスト単位の含有割合が40モル%以下であることが好ましく、20モル%以下であることがより好ましく、10モル%以下であることがさらに好ましく、5モル%以下であることが特に好ましい。
【0160】
高分子材料Dには、前記高分子化合物Hd、鎖状高分子化合物P及び導電性材料以外の他の添加剤が含まれていてもよいし、あるいは、前記高分子化合物Hd、鎖状高分子化合物P及び導電性材料のみで形成することもできる。
【0161】
高分子材料Dは、例えば、以下の方法で製造することができる。まず、あらかじめ製造した前記高分子化合物Hdの存在下で、鎖状高分子化合物Pを得るための原料(第3の重合性単量体単位)の重合反応を行う。この重合反応により、鎖状高分子化合物Pの生長反応が進行すると同時に、この生長中のポリマー鎖がホスト基を貫通し得る。この結果、前記高分子化合物Hdと鎖状高分子化合物Pとで構成される可動性架橋構造体が生成する。得られた可動性架橋構造体と導電性材料とを、公知の混合手段で混合することで高分子材料Dを得ることができる。混合手段は公知の混合機を広く使用することができ、例えば、ボールミル等の混合機を挙げることができる。混合は乾式及び湿式のいずれで行ってもよい。湿式の場合は、例えば、前記高分子化合物Hdと鎖状高分子化合物Pとで構成される可動性架橋構造体を含む溶液と、導電性材料を混合する方法が挙げられる。
【0162】
(高分子材料)
本発明の高分子材料は、前述のように、高分子材料A、高分子材料B、高分子材料C及び高分子材料Dを包含する。
【0163】
高分子材料の形態は特に限定されず、例えば、フィルム、シート、板、ブロック等の成形体であってもよいし、あるいは、粒子状、繊維状、顆粒状、ペレット状等であってもよい。
【0164】
高分子材料の成形体を製造する場合、その製造方法は特に限定されず、例えば、公知の成形方法を広く採用することができ、具体的には、キャスト法、プレス成形法、押出成形法、射出成形法等を挙げることができる。
【0165】
本発明の高分子材料は、導電性を有しながら、力学特性にも優れるものであり、特に、柔軟性を有し、かつ、強靭な材料である。このため、本発明の高分子材料は、成形性に優れ、種々の形状に成形及び加工をすることができる。また、本発明の高分子材料、特に、高分子材料A及びBは自己修復機能を発揮しやすいので、ダメージ等を受けたとしても修復が可能であり、結果として耐久性に優れると共に廃棄物の現象にも寄与することができる。
【0166】
本発明の高分子材料は、導電性を有することから、導電性高分子材料の原料としても適したものである。斯かる導電性高分子材料は、本発明の高分子材料を含むので、優れた導電性を有しながら、力学特性にも優れるものであり、これにより、導電性が求められる各種用途に好適に使用することができる。例えば、導電性高分子材料は、導電性フィルムの他、導電性コーティング剤、配線、電子機器、精密機械等の各種分野に適用可能である。
【実施例0167】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0168】
(製造例1)
アクリルアミドβシクロデキストリンを公知の方法で製造した。具体的には、6-アミノ-β-シクロデキストリンと、塩化アクリロイルとをNaHCO3の存在下で反応させることで、アクリルアミドβシクロデキストリン(以下、βCDAAmと表記)を得た。このβCDAAm20gをピリジン300mLに溶解し、無水酢酸170.133gを加え、55℃で12時間以上撹拌した。その後、メタノール50mLを加えクエンチし、内容量が200mLになるまでエバポレーターで濃縮した。得られた濃縮液を、水2000mLに滴下し、沈殿を回収した。沈殿をアセトン200mLに溶解し、水2000mLに滴下し、生成した沈殿物を回収し、これを減圧乾燥することにより目的物であるホスト基含有重合性単量体を単離した。得られたホスト基含有重合性単量体は、下記の式(h1-1)で表される化合物であった(以下、「PAcβCD」と表記する)。
【0169】
【0170】
(製造例2)
200mLガラス製丸底フラスコにγシクロデキストリン5g(3.9mmol)、N-ヒドロキシメチルアクリルアミド700mg(6.9mmol)及びp-トルエンスルホン酸一水和物95mg(0.6mmol)を秤量し、これらを25mLのN,N-ジメチルホルムアミドに加えて反応液を調製した。溶液をオイルバスで90℃に加熱し、1時間にわたって加熱撹拌することで反応液を得た。次いで、該反応液を放冷し、激しく撹拌しているアセトン45mLに注ぎこんだ。生じた沈殿をろ別した後、10mLのアセトンで三回洗浄し常温で一時間減圧乾燥することで反応物を得た。反応物を蒸留水100mLに溶解し、多孔質ポリスチレン樹脂(三菱化学ダイヤイオンHP-20)を充填したカラム(見かけ密度600g/L)に通じ、30分間吸着させた。その後、溶液成分を除去し、カラムに新たに10%メタノール(もしくはアセトニトリル)水溶液50mLを3回通じ、ポリスチレン樹脂を洗浄することで未反応γシクロデキストリンを除去した。続いてカラムに25%メタノール水溶液500mLを二回通ずることで、目的物であるアクリルアミドメチルγシクロデキストリン(γCDAAmMeと表記)を溶出させた。溶媒を減圧除去することで、γCDAAmMeを白色粉末として得た。
【0171】
このγCDAAmMe20gをピリジン300mLに溶解し、無水酢酸170.133gを加え、55℃で12時間以上撹拌した。その後、メタノール50mLを加えクエンチし、内容量が200mLになるまでエバポレーターで濃縮した。得られた濃縮液を、水2000mLに滴下し、沈殿を回収した。沈殿をアセトン200mLに溶解し、水2000mLに滴下し、生成した沈殿物を回収し、これを減圧乾燥することにより目的物であるホスト基含有重合性単量体を単離した。得られたホスト基含有重合性単量体は、下記の式(h1-2)で表される化合物であった(以下、「PAcγCD」と表記する)。
【0172】
【0173】
(実施例1-1)
図2に示す反応スキームに従って、高分子化合物Haを合成した。具体的に、製造例1で得られたPAcβCDを1mol%、ゲスト基含有重合性単量体であるアクリルアミドアダマンチル1mol%、及び、エチルアクリレート98mol%含む重合性単量体混合物と、IRGACURE184とを混合して原料を調製し、該原料に紫外線(λ=365nm)を照射することで重合反応を行い、高分子化合物Haを得た。
【0174】
得られた高分子化合物Haは、ホスト基含有重合性単量体単位(1モル%)と、ゲスト基含有重合性単量体単位(1モル%)と、第3の重合性単量体の共重合体単位(98モル%)とを有する高分子化合物であった。次に、100質量部の高分子化合物Haに対し、導電性材料としてケッチェンブラック7.5質量部(ライオンスペシャリティケミカルズ社「EC600JD」)を配合し、ボールミルで混合することで、高分子材料Aを得た。
【0175】
(実施例1-2)
ケッチェンブラックの配合量を10質量部に変更したこと以外は実施例1-1と同様の方法で高分子材料Aを得た。
【0176】
(比較例1-1)
ケッチェンブラックの配合量を0質量部、つまり、ケッチェンブラックを使用しなかったこと以外は実施例1-1と同様の方法で高分子材料を得た。
【0177】
(実施例2-1)
図3(a)に示す反応スキームに従って、高分子化合物Hbを合成した。具体的に、製造例2で得られたPAcγCDを1mol%、エチルアクリレート99mol%含む重合性単量体混合物の重合反応をAIBNの存在下、酢酸エチル中で行うことで、高分子化合物Hbを得た。一方、
図3(b)に示す反応スキームに従って、高分子化合物Gを合成した。具体的に、ピレン部位を有するアクリルアミドを1mol%、エチルアクリレート99mol%含む重合性単量体混合物の重合反応をAIBNの存在下、酢酸エチル中で行うことで、高分子化合物Gを得た。
【0178】
得られた高分子化合物Hbは、ホスト基含有重合性単量体単位(1モル%)と、第3の重合性単量体の共重合体単位(99モル%)とを有する高分子化合物であり、また、高分子化合物Gは、ゲスト基含有重合性単量体単位(1モル%)と、第3の重合性単量体の共重合体単位(99モル%)とを有する高分子化合物であった。次に、100質量部の高分子化合物Hb及び高分子化合物Gの混合物(高分子化合物Hb:高分子化合物G=1:1)に対し、導電性材料としてケッチェンブラック5質量部(ライオンスペシャリティケミカルズ社「EC600JD」)を配合し、ボールミルで混合することで、高分子材料Bを得た。
【0179】
(実施例2-2)
ケッチェンブラックの配合量を10質量部に変更したこと以外は実施例2-1と同様の方法で高分子材料Bを得た。
【0180】
(実施例2-3)
ケッチェンブラックの配合量を20質量部に変更したこと以外は実施例2-1と同様の方法で高分子材料Bを得た。
【0181】
(実施例2-4)
高分子化合物Hb:高分子化合物G=1:2に変更したこと以外は実施例2-1と同様の方法で高分子材料Bを得た。
【0182】
(実施例2-5)
高分子化合物Hb:高分子化合物G=1:2に変更したこと以外は実施例2-2と同様の方法で高分子材料Bを得た。
【0183】
(実施例2-6)
高分子化合物Hb:高分子化合物G=1:2に変更したこと以外は実施例2-3と同様の方法で高分子材料Bを得た。
【0184】
(実施例2-7)
ケッチェンブラック5質量部の代わりにグラフェンナノプレートレット(GNP)30質量部に変更したこと以外は実施例2-1と同様の方法で高分子材料Bを得た。
【0185】
(実施例3-1)
図4(a)に示す反応スキームに従って、高分子化合物Hcを合成した。具体的に、製造例2で得られたPAcγCDを1mol%、エチルアクリレート99mol%含む重合性単量体混合物と、IRGACURE184とを混合して原料を調製し、該原料に紫外線(λ=365nm)を照射することで重合反応を行い、高分子化合物Hcを得た。得られた高分子化合物Hcは、高分子化合物Hcのホスト基の環内を他の高分子化合物Hcが貫通した構造(可動性架橋構造体)を有する。得られた高分子化合物Hcは、ホスト基含有重合性単量体単位(1モル%)と、第3の重合性単量体の共重合体単位(99モル%)とを有する高分子化合物であった。
【0186】
一方、
図4(b)に示す反応スキームに従って、鎖状高分子化合物Pを合成した。具体的に、エチルアクリレートと、IRGACURE184とを混合して原料を調製し、該原料に紫外線(λ=365nm)を照射することで重合反応を行い、鎖状高分子化合物Pを得た。
【0187】
次に、前記高分子化合物Hc及び前記鎖状高分子化合物Pの混合物100質量部(質量比50:50)に対し、導電性材料としてケッチェンブラック2.5質量部(ライオンスペシャリティケミカルズ社「EC600JD」)を配合し、ボールミルで混合することで、高分子材料Cを得た。
【0188】
(実施例3-2)
ケッチェンブラック5質量部に変更したこと以外は実施例3-1と同様の方法で高分子材料Cを得た。
【0189】
(実施例3-3)
ケッチェンブラック7.5質量部に変更したこと以外は実施例3-1と同様の方法で高分子材料Cを得た。
【0190】
(実施例3-4)
ケッチェンブラック10質量部に変更したこと以外は実施例3-1と同様の方法で高分子材料Cを得た。
【0191】
(実施例3-5)
ケッチェンブラック12.5質量部に変更したこと以外は実施例3-1と同様の方法で高分子材料Cを得た。
【0192】
(実施例3-6)
ケッチェンブラック15質量部に変更したこと以外は実施例3-1と同様の方法で高分子材料Cを得た。
【0193】
(比較例3-1)
ケッチェンブラック0質量部に変更、すなわち、ケッチェンブラックを使用しなかったこと以外は実施例3-1と同様の方法で高分子材料Cを得た。
【0194】
(比較例3-2)
鎖状高分子化合物Pを使用しなかったこと以外は比較例3-1と同様の方法で高分子材料Cを得た。
【0195】
(実施例4-1)
図5(a)に示す反応スキームに従って、高分子化合物Hdを合成した。具体的に、製造例2で得られたPAcγCDを1mol、スチレン20mol含む重合性単量体混合物を、AIBNの存在下、トルエン中で重合反応を行い、高分子化合物Hdを得た。次に、
図5(b)に示す反応スキームに従って、高分子化合物Hdと鎖状高分子化合物Pとで形成される可動性架橋構造体を合成した。具体的に、高分子化合物Hdとエチルアクリレートと、IRGACURE184とを混合して原料を調製し、該原料に紫外線(λ=365nm)を照射することで重合反応を行い、可動性架橋構造体を得た。斯かる可動性架橋構造体は、ホスト基の環内をポリエチルアクリレート(鎖状高分子化合物P)が貫通した構造を有する。なお、高分子化合物Hd及び鎖状高分子化合物Pの全構成単位中に対するホスト単位の割合は1モル%となるように可動性架橋構造体の使用量を調整した。次に、100質量部の可動性架橋構造体に対し、導電性材料としてケッチェンブラック5質量部(ライオンスペシャリティケミカルズ社「EC600JD」)を配合し、ボールミルで混合することで、高分子材料Dを得た。
【0196】
(実施例4-2)
ケッチェンブラックの配合量を10質量部に変更したこと以外は実施例4-1と同様の方法で高分子材料Dを得た。
【0197】
(実施例4-3)
ケッチェンブラックの配合量を20質量部に変更したこと以外は実施例4-1と同様の方法で高分子材料Dを得た。
【0198】
(比較例4-1)
ケッチェンブラックの配合量を0質量部、つまり、ケッチェンブラックを使用しなかったこと以外は実施例4-1と同様の方法で高分子材料Dを得た。
【0199】
図6(a)、(b)は、実施例1-1、実施例1-2及び比較例1-1で得られた高分子材料の力学特性の評価結果を示している。
図6の結果から、実施例1-1及び1-2で得られた高分子材料Aは、比較例1-1で得られた高分子材料に比べて延伸性、破壊エネルギー、ヤング率が向上しており、優れた力学特性を有することがわかった。また、
図6(c)から、実施例1-1及び1-2で得られた高分子材料Aは、8質量%のケッチェンブラックを含むポリエチルアクリレート(図中PEA(KB8%))に比べても優れた力学特性を有することがわかった。
【0200】
また、実施例1-1及び1-2で得られた高分子材料Aを用いて導通試験を行ったところ、いずれも導電性を有することがわかった。さらに、実施例1-1及び1-2で得られた高分子材料Aを切断してから、切断面どうしを接着することで、再接着すること、及び、再接着後も導通可能であることも確認した。以上より実施例1-1及び1-2で得られた高分子材料Aは、導電性を有しつつも優れた力学特性を有する材料であることが実証された。
【0201】
表1は、実施例2-1~2-6で得られた高分子材料Bの抵抗値の測定結果を示している。この結果、いずれの高分子材料Bも抵抗値が低く、導電性を有していることがわかった。
【0202】
【0203】
図7は、実施例3-1~3-6及び比較例3-1~3-2で得られた高分子材料の力学特性評価結果を示している。この結果、実施例3-1~3-6で得られた高分子材料Cは比較例3-1及び3-2で得られた高分子材料よりも強靭化していることがわかった。
【0204】
図8は、実施例3-1~3-6で得られた高分子材料の導電率測定結果を示している。
図8の結果から、実施例3-1~3-6で得られた高分子材料Cは、導電性を有していることがわかった。
【0205】
以上より、実施例3-1~3-6で得られた高分子材料Cは、導電性を有しつつも優れた力学特性を有する材料であることが実証された。
【0206】
図9(a)、(b)は、実施例4-1~4-3及び比較例4-1で得られた高分子材料の力学特性の評価結果を示している。
図9の結果から、実施例4-1~4-3で得られた高分子材料Dは、比較例4-1で得られた高分子材料に比べて延伸性、破壊エネルギー、ヤング率が向上しており、優れた力学特性を有することがわかった。
【0207】
図10は、実施例4-2で得られた高分子材料Dのひずみを10%ごとに最大100%まで増加させたときの繰り返し引張試験結果(
図10(a))及び抵抗値測定結果(
図10(b))を示している。具体的には、高分子材料Dを所定の大きさまで引き伸ばして15秒静止してから抵抗値を測定し、その後、高分子材料Dをひずみ0%の状態(初期状態)に戻し、その後、次の所定のひずみまで引き伸ばして同様の測定を順次繰り返して行った。
【0208】
表2は、実施例4-1~4―3で得られた高分子材料Dの抵抗値の測定結果を示している。この結果、実施例4-2~4―3は抵抗値が低く、導電性を有していることがわかった。なお、実施例4-1は導電性を有さなかった。
【0209】
【0210】
(力学特性の評価方法)
高分子材料の力学特性は、引張試験(ストローク-試験力曲線)(島津製作所社製「AUTOGRAPH」(型番:AGX-plus)により、高分子材料の破断点を観測することで評価した。この破断点を終点として、終点までの最大応力を高分子材料の破断応力とした。この引張り試験は、厚み200~400μmに成形したフィルム状の高分子材料の下端を固定し、上端を引張り速度1mm/min又は5mm/minで稼動させるアップ方式で実施した。また、その際のストローク、すなわち、高分子材料を引っ張った際の最大長さを、引張り前の高分子材料長さで除した値を歪率として算出した。なお、「ストローク-試験力曲線」(応力-歪曲線)試験において、破断応力及び破断歪(単に歪ともいう)の一方又は両方が高い値を示す材料は、高分子材料の靭性及び強度が優れると判断できる。特に、破断応力及び歪の両方が高い値を示す材料は、破壊エネルギーが優れる材料であると判断できる。