(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188798
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】研磨組成物
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20221215BHJP
C08L 79/00 20060101ALI20221215BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20221215BHJP
C09G 1/02 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
C09K3/14 550Z
C08L79/00 A
C08K3/22
C09K3/14 550D
C09G1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097011
(22)【出願日】2021-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】要 俊輔
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CM051
4J002DE027
4J002DE046
4J002DE096
4J002DE146
4J002GD00
4J002GT00
4J002HA06
(57)【要約】
【課題】研磨面のスクラッチを十分に低減できる研磨組成物の提供。
【解決手段】金属酸化物及び半金属酸化物の少なくとも一方と、導電性ポリマーと、水とを含有し、25℃におけるpHが2以上である、研磨組成物。前記研磨組成物は、フラットパネルディスプレー基板用又は半導体デバイス基板用として好適である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物及び半金属酸化物の少なくとも一方と、導電性ポリマーと、水とを含有し、
25℃におけるpHが2以上である、研磨組成物。
【請求項2】
前記導電性ポリマーが酸性基又はその塩を有する、請求項1に記載の研磨組成物。
【請求項3】
前記導電性ポリマーが下記一般式(1)で表される単位を有する、請求項2に記載の研磨組成物。
【化1】
式(1)中、R
1~R
4は各々独立に、水素原子、炭素数1~24の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、炭素数1~24の直鎖若しくは分岐鎖のアルコキシ基、酸性基又はその塩、ヒドロキシ基、ニトロ基、又ハロゲン原子を表し、R
1~R
4のうちの少なくとも1つは酸性基又はその塩である。
【請求項4】
前記金属酸化物が、酸化セリウム、酸化アルミニウム、及び酸化ジルコニウムからなる群より選ばれる1種以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の研磨組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラットパネルディスプレー基板、半導体デバイス基板等を研磨するのに好適な研磨組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フラットパネルディスプレー(FPD)の製造工程においては、まず、ガラス等の基板を化学的機械的研磨(CMP)して基板表面を平坦化処理する。次いで、平坦化処理された基板上に配線となる金属膜及びレジスト膜を順次成膜した後、レジスト膜を露光、現像してパターニングすることによりレジストパターンを形成することが行われている。レジストパターンが形成された後、レジストのない部分を選択的にエッチングし、さらにエッチングにより生じた金属の削りカスやレジスト膜を除去することによって、レジストパターンが形成された基板が得られる。
【0003】
半導体デバイスは、シリコンウェハ等の基板上に配線となる金属膜等を成膜した後、CMPによって表面の平坦化処理を行い、平坦となった面の上に新たな層を積み重ねることで製造される。
【0004】
CMP工程で用いられる研磨剤として、例えば特許文献1には、砥粒と、酸性基を有するアニリン系ポリマーと、水とを含有する研磨組成物が開示されている。
特許文献2には、表面に有機酸が固定されてなる砥粒と、酸性基を有する第1の水溶性高分子と、前記第1の水溶性高分子とは異なる第2の水溶性高分子と、ノニオン系界面活性剤と、水性キャリアとを含有する研磨組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-189814号公報
【特許文献2】特開2020-164780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、研磨組成物に含まれる砥粒は、研磨組成物中で凝集することがある。凝集した砥粒を含んだ研磨組成物をCMP工程で用いると、基板の研磨面にスクラッチ(傷)が発生することがある。スクラッチの発生は、短絡、断線等の不具合の原因となる。
特に近年では、高集積化や高速化のため配線の微細化が進んでいる。配線の微細化に対応するためには、研磨面のスクラッチを低減する必要があるが、研磨面の品質に関する近年の要求レベルには十分に対応できていない。
本発明は、研磨面のスクラッチを十分に低減できる研磨組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記の態様を有する。
[1] 金属酸化物及び半金属酸化物の少なくとも一方と、導電性ポリマーと、水とを含有し、
25℃におけるpHが2以上である、研磨組成物。
[2] 前記導電性ポリマーが酸性基又はその塩を有する、前記[1]の研磨組成物。
[3] 前記導電性ポリマーが下記一般式(1)で表される単位を有する、前記[2]の研磨組成物。
【0008】
【0009】
式(1)中、R1~R4は各々独立に、水素原子、炭素数1~24の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、炭素数1~24の直鎖若しくは分岐鎖のアルコキシ基、酸性基又はその塩、ヒドロキシ基、ニトロ基、又ハロゲン原子を表し、R1~R4のうちの少なくとも1つは酸性基又はその塩である。
【0010】
[4] 前記金属酸化物が、酸化セリウム、酸化アルミニウム、及び酸化ジルコニウムからなる群より選ばれる1種以上である、前記[1]~[3]のいずれかの研磨組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、研磨面のスクラッチを十分に低減できる研磨組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本発明において「導電性」とは、1×1011Ω/□以下の表面抵抗率を有することである。表面抵抗率は、試験物の単位面積(1cm2)当たりの表面抵抗値である。表面抵抗値は、一定の電流を流した場合の電極間の電位差より求められる。
また、本明細書において「溶解性」とは、単なる水、塩基及び塩基性塩の少なくとも一方を含む水、酸を含む水、水と水溶性有機溶媒との混合物のうちの1つ以上の溶媒10g(液温25℃)に、0.1g以上均一に溶解することを意味する。また、「水溶性」とは、上記溶解性に関して、水に対する溶解性のことを意味する。
【0013】
[研磨組成物]
本発明の研磨組成物は、金属酸化物及び半金属酸化物の少なくとも一方(以下、「(A)成分」ともいう。)と、導電性ポリマー(以下、「(B)成分)」ともいう。)と、水(以下、「(C)成分)」ともいう。)とを含有する。
研磨組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、必要に応じて、(A)成分、(B)成分及び(C)成分以外の成分(任意成分)をさらに含有していてもよい。
【0014】
<(A)成分>
(A)成分は、金属酸化物及び半金属酸化物の少なくとも一方である。
金属酸化物としては、CMPに砥粒として用いられるものであれば特に制限されないが、優れた分散安定性を得ることができる観点から、酸化セリウム、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムが好ましい。これらの金属酸化物は、いずれか1種を単独で用いてもよいし、2種以上を任意の割合で混合して用いてもよいが、これらの中でも、低硬度で研磨時に基板表面に傷が入りにくく、研磨速度や研磨選択性に優れる点から、酸化セリウムがより好ましい。
【0015】
半金属酸化物とは、金属と非金属の中間的な性質を有する半金属の酸化物である。
半金属酸化物としては、CMPに砥粒として用いられるものであれば特に制限されないが、ケイ素酸化物、ホウ素酸化物、ゲルマニウム酸化物、鉛酸化物などが挙げられる。これらの中でも、ケイ素酸化物が好ましい。ケイ素酸化物としては、例えばコロイダルシリカ、ヒュームドシリカ、カチオン変性シリカ、アニオン変性シリカなどが挙げられる。
これらの半金属酸化物は、いずれか1種を単独で用いてもよいし、2種以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0016】
(A)成分の粒子径は研磨対象物である基板の種類や、基板の研削・研磨の目的に応じて決定することができる。一般に、(A)成分の粒子径が小さいほど、加工効率は高くなる。また(A)成分と基板間のメカノケミカル反応を利用する場合、(A)成分が小さい(比表面積が大きい)ほど高活性となる。しかし、(A)成分が小さいほど目詰まりが発生しやすくなり、逆に大きすぎると、基板の研磨傷発生が起こりやすくなる。
このような理由から、金属酸化物及び半金属酸化物の平均粒子径は、それぞれ0.005~10.0μmが好ましく、0.01~5.0μmがより好ましい。
ここで、金属酸化物及び半金属酸化物の平均粒子径は、それぞれレーザー散乱・回折式の粒度分布測定装置(例えば、株式会社堀場製作所製、装置名「LA-960」)を用いて測定することができる。
【0017】
研磨組成物中の(A)成分の含有量は、研磨組成物の総質量に対して0.01~20質量%が好ましく、0.05~10質量%がより好ましく、0.1~3質量%がさらに好ましい。(A)成分の含有量が上記下限値以上であれば、FPD基板、半導体デバイス基板等を十分に研磨できる。(A)成分の含有量が上記上限値以下であれば、研磨組成物の液安定性に優れる。
【0018】
<(B)成分>
(B)成分は、導電性ポリマーである。
導電性ポリマーとしては、例えばポリチオフェン、ポリチオフェンビニレン、ポリ(3-アルキルチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシ)チオフェン(PEDOT)、ポリ3,4エチレンジオキシチオフェン-ポリスチレンスルホン酸(PEDOT-PSS)、ポリアニリン、ポリピロール、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリアセン、ポリアセチレンなどが挙げられる。
【0019】
導電性ポリマーは、酸性基又はその塩を有することが好ましい。導電性ポリマーが酸性基又はその塩を有することで、酸性基又はその塩と(A)成分の表面との静電相互作用やファンデルワールス相互作用により、(A)成分の表面に導電性ポリマーが吸着しやすくなる。(A)成分の表面に導電性ポリマーが吸着することで、立体障害や電荷の反発により(A)成分の凝集をより抑制できる。
導電性ポリマーは、一分子中に2種の酸性基を有してもよい。酸性基の一部又は全部が塩を形成していてもよい。
【0020】
ここで、「酸性基」とは、スルホン酸基(スルホ基)又はカルボキシ基(カルボン酸基)である。
スルホン酸基は、酸の状態(-SO3H)で含まれていてもよく、イオンの状態(-SO3
-)で含まれていてもよい。また、スルホン酸基には、スルホン酸基を有する置換基(-R5SO3H)も含まれる。
一方、カルボキシ基は、酸の状態(-COOH)で含まれていてもよく、イオンの状態(-COO-)で含まれていてもよい。カルボキシ基には、カルボキシ基を有する置換基(-R5COOH)も含まれる。
前記R5は炭素数1~24の直鎖若しくは分岐鎖のアルキレン基、炭素数6~24の直鎖若しくは分岐鎖のアリーレン基、又は炭素数7~24の直鎖若しくは分岐鎖のアラルキレン基を表す。
酸性基としてはスルホン酸基が好ましい。
【0021】
酸性基の塩としては、スルホン酸基又はカルボキシ基のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、又は置換アンモニウム塩などが挙げられる。
アルカリ金属塩としては、例えば、硫酸リチウム、炭酸リチウム、水酸化リチウム、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、硫酸カリウム、炭酸カリウム、水酸化カリウム及びこれらの骨格を有する誘導体などが挙げられる。
アルカリ土類金属塩としては、例えばマグネシウム塩、カルシウム塩などが挙げられる。
置換アンモニウム塩としては、例えばメチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、エチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、メチルエチルアンモニウム、ジエチルメチルアンモニウム、ジメチルエチルアンモニウム、プロピルアンモニウム、ジプロピルアンモニウム、イソプロピルアンモニウム、ジイソプロピルアンモニウム、ブチルアンモニウム、ジブチルアンモニウム、メチルプロピルアンモニウム、エチルプロピルアンモニウム、メチルイソプロピルアンモニウム、エチルイソプロピルアンモニウム、メチルブチルアンモニウム、エチルブチルアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラメチロールアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラn-ブチルアンモニウム、テトラsec-ブチルアンモニウム、テトラt-ブチルアンモニウム等の脂肪族アンモニウム塩;ピペリジニウム、ピロリジニウム、モルホリニウム、ピペラジニウム及びこれらの骨格を有する誘導体等の飽和脂環式アンモニウム塩;ピリジニウム、α-ピコリニウム、β-ピコリニウム、γ-ピコリニウム、キノリニウム、イソキノリニウム、ピロリニウム、及びこれらの骨格を有する誘導体等の不飽和脂環式アンモニウム塩などが挙げられる。
【0022】
酸性基又はその塩を有する導電性ポリマーとしては、例えば特開昭61-197633号公報、特開昭63-39916号公報、特開平1-301714号公報、特開平5-504153号公報、特開平5-503953号公報、特開平4-32848号公報、特開平4-328181号公報、特開平6-145386号公報、特開平6-56987号公報、特開平5-226238号公報、特開平5-178989号公報、特開平6-293828号公報、特開平7-118524号公報、特開平6-32845号公報、特開平6-87949号公報、特開平6-256516号公報、特開平7-41756号公報、特開平7-48436号公報、特開平4-268331号公報、特開2014-65898号公報等に示された導電性ポリマーなどが、水に対する溶解性に優れる観点から好ましい。
【0023】
導電性ポリマーとしては、具体的には、α位若しくはβ位が、スルホン酸基、及びカルボキシ基からなる群より選択される少なくとも1つの基で置換されたフェニレンビニレン、ビニレン、チエニレン、ピロリレン、フェニレン、イミノフェニレン、イソチアナフテン、フリレン、及びカルバゾリレンからなる群から選ばれた少なくとも1種を繰り返し単位として含む、π共役系導電性ポリマーが挙げられる。
また、前記π共役系導電性ポリマーがイミノフェニレン、及びカルバゾリレンからなる群から選ばれた少なくとも1種の繰り返し単位を含む場合は、前記繰り返し単位の窒素原子上に酸性基又はその塩を有する導電性ポリマー、或いは、酸性基又はその塩で置換されたアルキル基若しくはエーテル結合を含むアルキル基を前記窒素原子上に有する導電性ポリマーが挙げられる。
この中でも、導電性や溶解性の観点から、β位が酸性基又はその塩で置換されたチエニレン、ピロリレン、イミノフェニレン、フェニレンビニレン、カルバゾリレン、及びイソチアナフテンからなる群から選ばれた少なくとも1種をモノマーユニット(単位)として有する導電性ポリマーが好ましく用いられる。
【0024】
導電性ポリマーとしては、上述した中でも、導電性に優れ、(A)成分の凝集をより抑制できる観点で、酸性基又はその塩を有するアニリン系ポリマー、PEDOT-PSSが好ましい。その中でも特に、酸性基又はその塩を有するアニリン系ポリマーは水に対する溶解性に優れる化合物であり、研磨組成物中で凝集しにくいことから、導電性ポリマーとして特に好適である。
【0025】
酸性基又はその塩を有するアニリン系ポリマーとしては、例えば無置換又は置換基を有するポリアニリン、ポリジアミノアントラキノン等のπ共役系ポリマー中の骨格又は該π共役系ポリマー中の窒素原子上に、酸性基又はその塩を有しているポリマーが挙げられる。これらの中でも、水への溶解性により優れる観点から、導電性ポリマーとしては、ポリアニリン骨格を含むポリマーがより好ましい。特に、高い溶解性を発現できる観点から、下記一般式(2)で表される単位を、ポリマーを構成する全単位(100mol%)中に20~100mol%含有するポリマーが好ましい。
【0026】
【0027】
式(2)中、R6~R10は各々独立に、水素原子、炭素数1~24の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、炭素数1~24の直鎖若しくは分岐鎖のアルコキシ基、酸性基又はその塩、ヒドロキシ基、ニトロ基、ハロゲン原子、-N(R11)2、-NHCOR11、-SR11、-OCOR11、-COOR11、-COR11、-CHO、及び-CNからなる群より選ばれ、R11は炭素数1~24の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、炭素数6~24のアリール基、又は炭素数7~24のアラルキル基を表し、R6~R10のうちの少なくとも1つは酸性基又はその塩である。
【0028】
導電性ポリマーとしては、前記一般式(2)で表される単位を有するポリマーの中でも、水に対する溶解性により優れる観点から、下記一般式(1)で表される単位を有するポリマーが好ましい。
【0029】
【0030】
式(1)中、R1~R4は各々独立に、水素原子、炭素数1~24の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、炭素数1~24の直鎖若しくは分岐鎖のアルコキシ基、酸性基又はその塩、ヒドロキシ基、ニトロ基、又ハロゲン原子を表し、R1~R4のうちの少なくとも1つは酸性基又はその塩である。
【0031】
前記一般式(1)で表される単位としては、製造が容易な点で、R1~R4のうち、いずれか1つが炭素数1~4の直鎖又は分岐鎖のアルコキシ基であり、他のいずれか1つがスルホン酸基又はその塩であり、残りが水素原子であるものが好ましい。
【0032】
導電性ポリマーは、pHに関係なく水及び有機溶媒への溶解性に優れる観点から、該導電性ポリマーを構成する全単位(100mol%)のうち、前記一般式(1)で表される単位を10~100mol%含有することが好ましく、50~100mol%含有することがより好ましく、100mol%含有することが特に好ましい。
また、導電性ポリマーは、導電性に優れる観点で、前記一般式(1)で表される単位を1分子中に10以上含有することが好ましい。
【0033】
また、導電性ポリマーにおいて、溶解性がより向上する観点から、ポリマー中の芳香環の総数に対する、酸性基又はその塩が結合した芳香環の数の割合は、50%以上であることが好ましく、70%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましく、90%以上が特に好ましく、100%が最も好ましい。
ポリマー中の芳香環の総数に対する、酸性基又はその塩が結合した芳香環の数の割合は、導電性ポリマー製造時の、モノマーの仕込み比から算出した値のことを指す。
【0034】
また、導電性ポリマーにおいて、モノマーユニットの芳香環上の酸性基又はその塩以外の置換基は、モノマーへの反応性付与の観点から電子供与性基が好ましく、具体的には、炭素数1~24のアルキル基、炭素数1~24のアルコキシ基、ハロゲン基(-F、-Cl、-Br又は-I)等が好ましく、このうち、電子供与性の観点から、炭素数1~24のアルコキシ基であることが最も好ましい。
【0035】
さらに、導電性ポリマーは、前記一般式(1)で表される単位以外の構成単位として、溶解性、導電性及び性状に影響を及ぼさない限り、置換又は無置換のアニリン、チオフェン、ピロール、フェニレン、ビニレン、二価の不飽和基、二価の飽和基からなる群より選ばれる1種以上の単位を含んでいてもよい。
【0036】
導電性ポリマーとしては、高い導電性と溶解性を発現できる観点から、下記一般式(3)で表される構造を有する化合物であることが好ましく、下記一般式(3)で表される構造を有する化合物の中でも、溶解性に優れる点で、ポリ(2-スルホ-5-メトキシ-1,4-イミノフェニレン)、ポリ(2-メトキシアニリン-5-スルホン酸)が特に好ましい。
【0037】
【0038】
式(3)中、R12~R27は各々独立に、水素原子、炭素数1~24の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、炭素数1~24の直鎖若しくは分岐鎖のアルコキシ基、酸性基又はその塩、ヒドロキシ基、ニトロ基、又ハロゲン原子を表し、R12~R27のうちの少なくとも1つは酸性基又はその塩である。また、nは重合度を示す。
【0039】
導電性ポリマーの質量平均分子量は、導電性及び溶解性のバランスに特に優れる観点から、3000~1000000が好ましく、5000~80000がより好ましく、10000~70000がさらに好ましい。
ここで、導電性ポリマーの質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される質量平均分子量(ポリスチレンスルホン酸ナトリウム換算)である。
【0040】
導電性ポリマーの製造方法は特に限定されない。例えば、酸性基又はその塩を有する導電性ポリマーは、重合溶媒及び酸化剤の存在下、導電性ポリマーの原料モノマーを重合することで得られる。
以下に、導電性ポリマーの製造方法の一例について説明する。
【0041】
(導電性ポリマーの製造方法)
本実施形態の導電性ポリマーの製造方法は、重合溶媒及び酸化剤の存在下、導電性ポリマーの原料モノマーを重合する工程(重合工程)を含む。また本実施形態の導電性ポリマーの製造方法は、重合工程で得られた反応生成物を精製する工程(精製工程)を含んでいてもよい。
【0042】
<<重合工程>>
重合工程は、重合溶媒及び酸化剤の存在下、導電性ポリマーの原料モノマーを重合する工程である。
原料モノマーの具体例としては、上述したモノマーユニットの由来となる重合性単量体が挙げられ、具体的には酸性基置換アニリン、そのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩及び置換アンモニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
酸性基置換アニリンとしては、例えば酸性基としてスルホン酸基を有するスルホン酸基置換アニリンが挙げられる。
スルホン酸基置換アニリンとして代表的なものは、アミノベンゼンスルホン酸類であり、具体的にはo-,m-,p-アミノベンゼンスルホン酸、アニリン-2,6-ジスルホン酸、アニリン-2,5-ジスルホン酸、アニリン-3,5-ジスルホン酸、アニリン-2,4-ジスルホン酸、アニリン-3,4-ジスルホン酸などが好ましく用いられる。
【0043】
アミノベンゼンスルホン酸類以外のスルホン酸基置換アニリンとしては、例えばメチルアミノベンゼンスルホン酸、エチルアミノベンゼンスルホン酸、n-プロピルアミノベンゼンスルホン酸、iso-プロピルアミノベンゼンスルホン酸、n-ブチルアミノベンゼンスルホン酸、sec-ブチルアミノベンゼンスルホン酸、t-ブチルアミノベンゼンスルホン酸等のアルキル基置換アミノベンゼンスルホン酸類;メトキシアミノベンゼンスルホン酸、エトキシアミノベンゼンスルホン酸、プロポキシアミノベンゼンスルホン酸等のアルコキシ基置換アミノベンゼンスルホン酸類;ヒドロキシ基置換アミノベンゼンスルホン酸類;ニトロ基置換アミノベンゼンスルホン酸類;フルオロアミノベンゼンスルホン酸、クロロアミノベンゼンスルホン酸、ブロムアミノベンゼンスルホン酸等のハロゲン置換アミノベンゼンスルホン酸類などを挙げることができる。
これらの中では、導電性や溶解性に特に優れる導電性ポリマーが得られる点で、アルキル基置換アミノベンゼンスルホン酸類、アルコキシ基置換アミノベンゼンスルホン酸類、ヒドロキシ基置換アミノベンゼンスルホン酸類、又はハロゲン置換アミノベンゼンスルホン酸類が好ましく、製造が容易な点で、アルコキシ基置換アミノベンゼンスルホン酸類、そのアルカリ金属塩、アンモニウム塩及び置換アンモニウム塩が特に好ましい。
これらのスルホン酸基置換アニリンは、いずれか1種を単独で用いてもよいし、2種以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0044】
重合溶媒としては、水、有機溶媒、水と有機溶媒との混合溶媒などが挙げられる。
水としては、水道水、イオン交換水、純水、蒸留水などが挙げられる。
有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、プロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類;アセトニトリル等のニトリル類;アセトン、エチルイソブチルケトン等のケトン類;エチレングリコール、エチレングリコールメチルエーテル等のエチレングリコール類;プロピレングリコール、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル等のプロピレングリコール類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド類;N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン等のピロリドン類などが挙げられる。
重合溶媒としては、水、又は水と有機溶媒との混合溶媒が好ましい。
なお、重合溶媒として水と有機溶媒との混合溶媒を用いる場合、これらの質量比(水/有機溶媒)は1/100~100/1であることが好ましく、2/100~100/2であることがより好ましい。
【0045】
酸化剤としては、標準電極電位が0.6V以上である酸化剤であれば限定はないが、例えばペルオキソ二硫酸、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸カリウム等のペルオキソ二硫酸類;過酸化水素などが挙げられる。
これらの酸化剤は、いずれか1種を単独で用いてもよいし、2種以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0046】
重合工程は、重合溶媒及び酸化剤に加えて、塩基性反応助剤の存在下で原料モノマーを重合してもよい。
塩基性反応助剤としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等の無機塩基;アンモニア;メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチルメチルアミン、エチルジメチルアミン、ジエチルメチルアミン等の脂式アミン類;環式飽和アミン類;ピリジン、α-ピコリン、β-ピコリン、γ-ピコリン、キノリン等の環式不飽和アミン類などが挙げられる。
これらの中では、無機塩基、脂式アミン類、環式不飽和アミン類が好ましく、環式不飽和アミン類がより好ましい。
これらの塩基性反応助剤は、いずれか1種を単独で用いてもよいし、2種以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0047】
重合の方法としては、例えば、酸化剤溶液中に原料モノマー溶液を滴下する方法、原料モノマー溶液に酸化剤溶液を滴下する方法、反応容器等に原料モノマー溶液と、酸化剤溶液を同時に滴下する方法などが挙げられる。原料モノマー溶液には、必要に応じて塩基性反応助剤が含まれていてもよい。
酸化剤溶液及び原料モノマー溶液の溶媒としては、上述した重合溶媒を用いることができる。
【0048】
重合反応の反応温度は、50℃以下が好ましく、-15~30℃がより好ましく、-10~20℃がさらに好ましい。重合反応の反応温度が50℃以下、特に30℃以下であれば、副反応の進行や、生成する導電性ポリマーの主鎖の酸化還元構造の変化による導電性の低下を抑止できる。重合反応の反応温度が-15℃以上であれば、十分な反応速度を維持し、反応時間を短縮できる。
【0049】
重合工程により、反応生成物である導電性ポリマーが重合溶媒に溶解又は沈殿した状態で得られる。
反応生成物が重合溶媒に溶解している場合は、重合溶媒を留去して反応生成物を得る。
反応生成物が重合溶媒に沈殿している場合は、遠心分離器等の濾過器により重合溶媒を濾別して反応生成物を得る。
【0050】
反応生成物には、未反応の原料モノマー、副反応の併発に伴うオリゴマー、酸性物質(導電性ポリマーから脱離した遊離の酸性基や、酸化剤の分解物である硫酸イオンなど)、塩基性物質(塩基性反応助剤や、酸化剤の分解物であるアンモニウムイオンなど)等の低分子量成分が含まれている場合がある。これら低分子量成分はFPD基板や半導体デバイス基板などの研磨において基板上に付着することがあり、基板の汚染の原因となる。
よって、反応生成物に低分子量成分が残存している場合は、反応生成物を精製して低分子量成分を除去することが好ましい。
精製された導電性ポリマーは、原料モノマー等の低分子量成分が十分に除去されているので、研磨組成物として用いた際に基板の汚染を防止できる。
【0051】
<<精製工程>>
精製工程は、重合工程で得られた反応生成物を精製する工程である。
反応生成物を精製する方法としては、洗浄溶媒を用いた洗浄法、膜濾過法、イオン交換法、加熱処理による不純物の除去、中和析出などあらゆる方法を用いることができる。これらの中でも、原料モノマー、オリゴマー、酸性物質などを効率よく除去でき、純度の高い導電性ポリマーを容易に得ることができる観点から、洗浄法、膜濾過法が有効である。精製工程では、洗浄法と膜濾過法とを組み合わせて用いてもよい。
【0052】
洗浄法に用いる溶剤(洗浄溶媒)としては、例えばメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、2-ブタノール、3-ブタノール、t-ブタノール、1-ペンタノール、3-メチル-1-ブタノール、2-ペンタノール、n-ヘキサノール、4-メチル-2-ペンタノール、2-エチルブチノール、ベンジルアルコール、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール等のアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、メトキシメトキシエタノール、プロピレングリコールモノエチルエーテル、グリセリルモノアセテート等の多価アルコール誘導体;アセトン;アセトニトリル;N,N-ジメチルホルムアミド;N-メチルピロリドン;ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。これらの中でも、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、アセトニトリルが効果的である。
【0053】
膜濾過法により反応生成物を精製する場合は、反応生成物を溶剤に溶解させて膜濾過することが好ましい。
膜濾過法に用いる溶剤としては、例えば水が挙げられる。水には、塩基性塩、酸、水に可溶なアルコール類の1種以上が含まれていてもよい。
膜濾過法に用いる分離膜としては、原料モノマーの除去効率を考慮すると、限外濾過膜が好ましい。
分離膜の材質としては、例えばセルロース、セルロースアセテート、ポリスルホン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン等の高分子(ポリマー)を用いた有機膜;セラミックスに代表される無機材料を用いた無機膜を用いることができ、通常、限外濾過膜の材質として使用するものであれば、特に制限はない。
【0054】
洗浄後の反応生成物、すなわち洗浄後の導電性ポリマーを乾燥すれば、原料モノマー等の低分子量成分が十分に除去された固体状の導電性ポリマーが得られる。
膜濾過後の導電性ポリマーは、水に溶解した状態である。従って、エバポレータなどで水を除去し、乾燥すれば、原料モノマー等の低分子量成分が十分に除去された固体状の導電性ポリマーが得られるが、導電性ポリマーは水に溶解した状態のまま研磨組成物に用いてもよい。
【0055】
研磨組成物中の(B)成分の含有量は純分換算(固形分換算)で、研磨組成物の総質量に対して0.001~20質量%が好ましく、0.01~10質量%がより好ましく、0.03~5質量%がさらに好ましく、0.05~5質量%が特に好ましく、0.1~1質量%が最も好ましい。(B)成分の含有量が上記下限値以上であれば、(A)成分の凝集をより抑制でき、研磨面のスクラッチをより低減できる。(B)成分の含有量が上記上限値以下であれば、研磨組成物の液安定性に優れる。
【0056】
<(C)成分>
(C)成分は水である。
水としては、水道水、脱イオン水(イオン交換水)、純水、超純水、蒸留水などが挙げられる。これらの中でも、不純物やpHへの影響が少ない観点から、脱イオン水、純水、超純水が好ましい。
膜濾過法により導電性ポリマーを精製し、精製後の導電性ポリマーを水に溶解した状態のまま用いる場合は、研磨組成物中の導電性ポリマーの含有量が上記範囲内となるように、濃縮したり水を加えて希釈したりしてもよい。
【0057】
研磨組成物中の(C)成分の含有量は、研磨組成物の総質量に対して60~99.89質量%が好ましく、70~99.8質量%がより好ましく、80~99.5質量%がさらに好ましく、85~99質量%が特に好ましい。
なお、研磨組成物に含まれる(A)成分、(B)成分及び(C)成分の含有量の合計が、研磨組成物の総質量に対して100質量%を超えないものとする。
【0058】
<任意成分>
任意成分としては、(A)成分以外の砥粒(他の砥粒)、有機溶剤、各種添加剤などが挙げられる。
他の砥粒としては、例えば窒化珪素、炭化珪素、窒化硼素、炭化硼素、ダイヤモンド、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリアクリロニトリルなどが挙げられる。
研磨組成物中の他の砥粒の含有量は、研磨組成物の総質量に対して0.01~20質量%が好ましく、0.05~10質量%がより好ましく、0.1~3質量%がさらに好ましい。
【0059】
有機溶剤としては、水に可溶な水溶性有機溶剤が好ましい。水溶性有機溶剤は水に可溶な有機溶剤であり、例えばメタノール、エタノール、2-プロパノール、1-プロパノール、1-ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、エチルイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;エチレングリコール、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル等のエチレングリコール類;プロピレングリコール、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル等のプロピレングリコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン等のピロリドン類;乳酸メチル、乳酸エチル、β-メトキシイソ酪酸メチル、α-ヒドロキシイソ酪酸メチル等のヒドロキシエステル類などが挙げられる。
これらの有機溶剤は、例えば添加剤との組み合わせで適宜選択することができ、いずれか1種を単独で用いてもよいし、2種以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
また、研磨組成物中の有機溶剤の含有量は、例えば研磨組成物の総質量に対して1~30質量%とすることができる。
【0060】
添加剤としては、FPD基板や半導体デバイス基板などの研磨に用いる研磨剤に含まれる公知の添加剤が挙げられ、具体的には、酸化防止剤、防錆剤、pH調整剤、緩衝剤、防腐剤、ハイドロトロープ剤、界面活性剤、消泡剤などが挙げられる。
なお、FPD基板や半導体デバイス基板などの研磨時における金属膜の腐食防止や、泡立ち防止を考慮すると、研磨組成物は界面活性剤を実質的に含まないことが好ましい。
また、消泡剤による基板の汚染防止を考慮すると、研磨組成物は消泡剤を実質的に含まないことが好ましい。
ここで、「実質的に含まない」とは、意図せずして含有するものを除き、積極的に界面活性剤及び消泡剤の少なくとも一方を配合しないことを意味する。
【0061】
研磨組成物が任意成分を含有する場合、研磨組成物に含まれる(A)成分、(B)成分、(C)成分及び任意成分の含有量の合計が、研磨組成物の総質量に対して100質量%を超えないものとする。
【0062】
<物性>
(pH)
研磨組成物の25℃におけるpHは2以上である。研磨組成物のpHが2以上であれば、研磨組成物中で(A)成分が凝集するのを抑制でき、研磨面のスクラッチを十分に低減できる。
研磨組成物のpHは、2.5以上が好ましく、3以上がより好ましい。また、研磨組成物のpHの上限については特に制限されないが、pHが高くなるにつれて(A)成分の電位が下がる傾向にあり、研磨組成物中で沈降する場合がある。よって、研磨組成物中での(A)成分の分散性を良好に維持できる観点から、研磨組成物のpHは14以下が好ましく、12以下がより好ましく、10以下がさらに好ましく、8以下がよりさらに好ましく、6以下が特に好ましく、5以下が最も好ましい。
前記pHの上限及び下限は任意に組み合わせることができる。例えば、研磨組成物のpHは2~14が好ましく、2~12がより好ましく、2~10がさらに好ましく、2~8がよりさらに好ましく、2~6がよりさらに好ましく、2~5がよりさらに好ましく、2.5~5が特に好ましく、3~5が最も好ましい。
研磨組成物のpHは、研磨組成物の温度を25℃に保持した状態で、pH計を用いて測定した値である。
研磨組成物のpHは、必要に応じて、pH調整剤を添加することにより調整できる。
pH調整剤としては、例えば硫酸、塩酸、硝酸、フッ酸、ホウ酸、炭酸、ジ亜リン酸、亜リン酸、およびリン酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、クエン酸、フタル酸、リンゴ酸、アジピン酸等の有機酸;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化バリウム等のアルカリ土類金属水酸化物;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミンなどが挙げられる。
【0063】
(ゼータ電位)
研磨組成物中の(A)成分のゼータ電位の絶対値は、15mV以上が好ましく、20mV以上がより好ましく、25mV以上がさらに好ましく、30mV以上が特に好ましい。また、前記ゼータ電位の絶対値は200mV以下が好ましく、150mV以下がより好ましく、100mV以下がさらに好ましく、80mV以下が特に好ましい。前記ゼータ電位の絶対値の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。例えば、ゼータ電位の絶対値は15~200mVが好ましく、20~150mVがより好ましく、25~100mVがさらに好ましく、30~80mVが特に好ましい。
一般に、ゼータ電位の絶対値が小さくなるほどファンデルワールス力に起因する粒子間の引力が静電的反発に打ち勝つため、粒子の凝集が起こりやすくなる。研磨組成物中の(A)成分のゼータ電位の絶対値が上記下限値以上であれば、研磨組成物中での(A)成分同士の間で働く粒子間反発力が大きくなり、(A)成分が凝集しにくくなる。また、研磨組成物中で(A)成分が安定して分散しやすくなる。研磨組成物中の(A)成分のゼータ電位の絶対値が上記上限値以下であれば、研磨性能と研磨後の洗浄性を両立することができる。
研磨組成物中の(A)成分のゼータ電位は、電気泳動光散乱測定法(別名レーザードップラー法)によって測定される値である。
【0064】
研磨組成物は、下記式(i)を満たすことが好ましい。下記a/bは1.1以上が好ましく、1.2以上がより好ましく、1.3以上がさらに好ましい。下記a/bの上限値については特に制限されず、大きいほど好ましい。
a/b>1 ・・・(i)
式(i)中、aは25℃におけるpHが4であるときの研磨組成物(α)中の(A)成分のゼータ電位の絶対値であり、「b」は「a」の測定に用いた前記研磨組成物(α)から導電性ポリマーを除いた研磨組成物(β)の25℃におけるpHが4であるときの、前記研磨組成物(β)中の(A)成分のゼータ電位の絶対値である。
なお、「a」の測定に用いた研磨組成物(α)に含まれる水の種類、並びに(A)成分の種類及び含有量と、「b」の測定に用いた研磨組成物(β)に含まれる水の種類、並びに(A)成分の種類及び含有量は同じである。
【0065】
<研磨組成物の製造方法>
本発明の研磨組成物は、例えば上述した(A)成分と、(B)成分と、(C)成分と、必要に応じてpH調整剤以外の任意成分とを混合し、25℃でのpHが2以上となるように必要に応じてpH調整剤を添加することで得られる。
また、上述したように、膜濾過法により導電性ポリマーを精製した場合、精製後の導電性ポリマーは水に溶解した状態である。よって、水に溶解した精製後の導電性ポリマーに(A)成分と必要に応じてpH調整剤以外の任意成分を添加し、25℃でのpHが2以上となるように必要に応じてpH調整剤をさらに添加して研磨組成物としてもよい。また、水に溶解した精製後の導電性ポリマーを濃縮したり水で希釈したりしたものに、(A)成分と必要に応じてpH調整剤以外の任意成分を添加し、25℃でのpHが2以上となるように必要に応じてpH調整剤をさらに添加して研磨組成物としてもよい。
混合処理や添加処理は、例えば、ペイントコンディショナー、遊星式撹拌機、スターラー、超音波分散器、ミックスローターを用いて行ってもよい。これらの中でも、超音波分散器を用い、超音波のエネルギーにより(A)成分の凝集をほぐすことが好ましい。
【0066】
<作用効果>
以上説明した本発明の研磨組成物は、(A)成分と(B)成分と(C)成分とを含有し、かつ25℃におけるpHが2以上であるので、研磨組成物中で(A)成分が凝集するのを抑制できる。係る理由は定かではないが、pHが2以上の研磨組成物中において、(B)成分により(A)成分の表面に均一な電位分布が形成されることで、研磨組成物中で(A)成分が凝集しにくくなるものと考えられる。
よって、本発明の研磨組成物であれば、(A)成分が凝集しにくいので、研磨面のスクラッチを十分に低減できる。加えて、本発明の研磨組成物であれば、(A)成分の分散性にも優れる。
【0067】
ところで、酸化セリウムは凝集しやすい砥粒であり、金属酸化物として酸化セリウムを含む研磨剤を用いてCMP工程を行うと研磨面にスクラッチが発生しやすい傾向にある。
しかし、本発明の研磨組成物であれば、酸化セリウムを含んでいても、酸化セリウムの凝集を抑制でき、研磨面のスクラッチを十分に低減できる。加えて、酸化セリウムが研磨組成物中で安定して分散できる。
【0068】
<用途>
本発明の研磨組成物は、電子材料を研磨するための研磨剤として用いることができる。
研磨の対象となる電子材料としては、FPD基板、半導体デバイス基板、磁気ディスク基板、フォトマスク基板、太陽電池用基板、プリント基板、電子部品などが挙げられる。これらの中でも、本発明の研磨組成物は、FPD基板、半導体デバイス基板の研磨剤として特に好適である。
【0069】
例えば、本発明の研磨組成物をFPD基板用として用いる場合、FPDの製造工程のうち、CMPによりFPD基板の表面を平坦化処理する研磨工程(CMP工程)で使用する研磨剤として適用することが好ましい。すなわち、FPDの製造方法は、本発明の研磨組成物を用い、FPD基板の表面をCMPにより平坦化処理する研磨工程を有することが好ましい。
本発明の研磨組成物を半導体デバイス基板用として用いる場合、半導体デバイスの製造工程のうち、半導体デバイス基板上に配線となる金属膜等を成膜した後の表面をCMPにより平坦化処理するCMP工程で使用する研磨剤として適用することが好ましい。すなわち、半導体デバイスの製造方法は、半導体デバイス基板の表面に配線となる金属膜を成膜する工程と、前記金属膜が成膜された半導体デバイス基板の前記表面を本発明の研磨組成物を用い、CMPにより平坦化処理する研磨工程を有することが好ましい。
【0070】
また、上述した以外にも、例えばビルドアップのコア材表面に過剰に付着した穴埋め樹脂を除去する工程、ソルダーレジストのコーティング前の表面研磨の工程などに用いる研磨剤として本発明の研磨組成物を用いることもできる。
【実施例0071】
以下、本発明を実施例により更に詳しく説明するが、以下の実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
なお、実施例及び比較例における各種測定・評価方法は以下の通りである。
【0072】
[測定・評価方法]
<表面抵抗率の測定>
導電性ポリマーの濃度が5.1質量%になるように、導電性ポリマーを水に溶解させ、導電性組成物を調製した。
ガラス基材上に導電性組成物を2.0mL滴下し、基材表面全体を覆うように、スピンコーターにて2000rpm×60秒間の条件で回転塗布して塗膜を形成した後、ホットプレートにて80℃で2分間加熱処理を行い、基材上に膜厚約30nmの塗膜(導電膜)を形成して試験片を得た。
得られた試験片について、ハイレスタUX-MCP-HT800(株式会社三菱ケミカルアナリテック製)を用い2端子法(電極間距離20mm)にて塗膜の表面抵抗値を測定し、塗膜の単位面積(1cm2)当たりの表面抵抗率を求めた。
【0073】
<pHの測定>
pH計(株式会社堀場製作所製、製品名「F-55」)を用いて、研磨組成物の25℃におけるpHを測定した。
【0074】
<ゼータ電位の測定>
ゼータ電位測定装置(大塚電子株式会社製、製品名「ELSZ2000」)を用い、温度25℃、測定角34.1度の条件で電気泳動光散乱測定法より、研磨組成物中の金属酸化物のゼータ電位を測定した。
【0075】
「実施例1」
<酸性基を有するアニリン系ポリマーの製造>
2-メトキシアニリン-5-スルホン酸100mmolを、4mol/L濃度のトリエチルアミン溶液(溶媒:水/アセトニトリル=5/5)300mLに25℃で溶解し、モノマー溶液を得た。
別途、ペルオキソ二硫酸アンモニウム100mmolを、水/アセトニトリル=5/5の溶液に溶解し、酸化剤溶液を得た。
ついで、酸化剤溶液をモノマー溶液に滴下した。滴下終了後、25℃で12時間さらに攪拌した後、反応生成物を遠心濾過器にて濾別した。さらに、反応生成物をメタノールにて洗浄した後、乾燥させ、粉末状の導電性ポリマー(ポリ(2-メトキシアニリン-5-スルホン酸))を15g得た。
得られた導電性ポリマーを水に溶解した、濃度5.1質量%の導電性組成物について表面抵抗率を測定したところ、2.4×106Ω/□であった。
【0076】
<研磨組成物の製造>
超純水に、導電性ポリマーとしてポリ(2-メトキシアニリン-5-スルホン酸)0.2質量部を添加して溶解させた後に、金属酸化物として酸化セリウム(株式会社高純度化学研究所製)1質量部をさらに添加し、超音波分散器(アズワン株式会社製、製品名「AS72GTU」)を用いて分散させて分散液を調製した。25℃における研磨組成物のpHが表1に示す値となるように、pH調整剤として塩酸及び水酸化カリウムの少なくとも一方を分散液に添加してpH調整し、研磨組成物を得た。なお、水とpH調整剤の合計は98.8質量部であった。
得られた研磨組成物について、各pHにおける酸化セリウムのゼータ電位を測定した。結果を表1に示す。
【0077】
「実施例2」
超純水に、導電性ポリマーとしてPEDOT-PSS(Heraeus社製、商品名「PH500」、表面抵抗率3.83×106Ω/□)0.2質量部と、金属酸化物として酸化セリウム(株式会社高純度化学研究所製)1質量部を添加し、超音波分散器(アズワン株式会社製、製品名「AS72GTU」)を用いて分散させて分散液を調製した。25℃における研磨組成物のpHが表1に示す値となるように、pH調整剤として塩酸及び水酸化カリウムの少なくとも一方を分散液に添加してpH調整し、研磨組成物を得た。なお、水とpH調整剤の合計は98.8質量部であった。
得られた研磨組成物について、各pHにおける酸化セリウムのゼータ電位を測定した。結果を表1に示す。
【0078】
「比較例1」
超純水に、金属酸化物として酸化セリウム(株式会社高純度化学研究所製)1質量部を添加し、超音波分散器(アズワン株式会社製、製品名「AS72GTU」)を用いて分散させて分散液を調製した。25℃における研磨組成物のpHが表1に示す値となるように、pH調整剤として塩酸及び水酸化カリウムの少なくとも一方を分散液に添加してpH調整し、研磨組成物を得た。なお、水とpH調整剤の合計は99質量部であった。
得られた研磨組成物について、各pHにおける酸化セリウムのゼータ電位を測定した。結果を表1に示す。
【0079】
「比較例2」
pH調整を行わなかった以外は、実施例1と同様にして研磨組成物を得た。得られた研磨組成物の25℃におけるpHは1.4であった。
得られた研磨組成物は、酸化セリウムの凝集が比較例1に比べて顕著であった。そのため、ゼータ電位の測定は行わなかった。
【0080】
【0081】
表1中の「a/b」は、実施例1又は2で得られた研磨組成物の25℃におけるpHが4であるときの酸化セリウムのゼータ電位の絶対値(a)を、比較例1で得られた研磨組成物の25℃におけるpHが4であるときの酸化セリウムのゼータ電位の絶対値(b)で除した値である。
【0082】
表1から明らかなように、実施例1、2で得られた研磨組成物は、比較例1で得られた研磨組成物に比べて、酸化セリウムのゼータ電位の絶対値が大きく、研磨組成物中で酸化セリウムが凝集しにくく、かつ安定して分散していることが示された。
特に、実施例1で得られた研磨組成物は、室温(25℃)で60日間、保管しても導電性ポリマーが超純水に溶解していた。一方、実施例2で得られた研磨組成物は、室温(25℃)で60日間、保管すると、実施例1の場合よりも幅広いpH範囲で導電性ポリマーの一部が凝集したが、撹拌により再分散させることで、実用可能であった。