(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188887
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】積層フィルムおよび積層フィルムの製造方法、並びに、積層フィルムのリサイクル方法
(51)【国際特許分類】
B32B 7/06 20190101AFI20221215BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20221215BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20221215BHJP
B29C 55/02 20060101ALI20221215BHJP
B29C 55/26 20060101ALI20221215BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
B32B7/06
B32B27/36
B32B27/32 C
B29C55/02
B29C55/26
B65D65/40 D BRH
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097150
(22)【出願日】2021-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】多田 和信
(72)【発明者】
【氏名】金子 寛
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
4F210
【Fターム(参考)】
3E086AB01
3E086BA04
3E086BA15
3E086BA33
3E086BB01
3E086BB22
3E086BB41
3E086BB51
3E086BB85
3E086CA01
3E086DA06
4F100AK01A
4F100AK03B
4F100AK07A
4F100AK07B
4F100AL07B
4F100AT00A
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4F100BA02
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4F100GB15
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4F210AA03
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4F210AG01
4F210AG03
4F210AH54
4F210AR01
4F210AR06
4F210AR08
4F210QA01
4F210QA02
4F210QA03
4F210QC05
4F210QK05
4F210QL16
4F210QM15
(57)【要約】
【課題】積層フィルムの表面層を剥離してリサイクルすることを想定した場合に、易溶解性樹脂層などの特殊な層を備えなくてもリサイクルすることができ、しかも、洗浄工程及び洗浄設備を用意しなくてもリサイクルすることができる積層フィルムを提供する。
【解決手段】層(A)と、これと隣接する層(B)とを備えた積層フィルムであって、少なくとも一方向に延伸されており、延伸倍率が面積比で1.2~8倍であり、且つ、層(A)と層(B)のJIS K6854-2(1999)に準拠して測定した23℃における層間強度の最大値が7.0N/cm以下である、積層フィルムである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
層(A)と、これと隣接する層(B)とを備えた積層フィルムであって、
少なくとも一方向に延伸されており、延伸倍率が面積比で1.2~8倍であり、且つ、層(A)と層(B)のJIS K6854-2(1999)に準拠して測定した23℃における層間強度の最大値が7.0N/cm以下である積層フィルム。
【請求項2】
前記層(A)が表面層である、請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
JIS K7244-4(1998)に準拠して測定される、前記層(A)と前記層(B)の23℃、1Hzにおける貯蔵弾性率E’の差値が1500MPa以上である、請求項1または2に記載の積層フィルム。
【請求項4】
前記層(A)が、ポリエステル系樹脂を主成分として含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の積層フィルム。
【請求項5】
前記層(B)が、ポリオレフィン系樹脂を主成分として含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の積層フィルム。
【請求項6】
JIS R3257(1999)に準拠して23℃、50%RHで測定される、前記層(A)または該層(A)の主成分であるポリエステル系樹脂の水滴接触角と、前記層(B)または該層(B)の主成分であるポリオレフィン系樹脂の水滴接触角との差が10°~40°である、請求項1~5のいずれか1項に記載の積層フィルム。
【請求項7】
前記ポリオレフィン系樹脂が酸変性ポリオレフィン系樹脂である、請求項5または6に記載の積層フィルム。
【請求項8】
前記層(A)を前記層(B)から剥離して、少なくとも前記層(A)をリサイクルすることができる、請求項1~7のいずれか1項に記載の積層フィルム。
【請求項9】
ポリエステル系樹脂を主成分として含む層(A)と、ポリオレフィン系樹脂を主成分として含む層(B)とが積層してなる構成を備え、前記層(A)と前記層(B)のJIS K6854-2(1999)に準拠して測定した23℃における層間強度の最大値が6~15N/cmである積層フィルムを、少なくとも一方向に延伸倍率が面積比で1.2~8.0倍で延伸する、積層フィルムの製造方法。
【請求項10】
JIS K7244-4(1998)に準拠して測定される、前記層(A)と前記層(B)の23℃、1Hzにおける貯蔵弾性率E’の差値が1300MPa以上である温度において延伸する、請求項9に記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項11】
延伸温度が80℃以下である、請求項9または10に記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項12】
延伸速度が3mm/s以上である、請求項9~11のいずれか1項に記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項13】
請求項1~8のいずれか1項に記載の積層フィルム、または、請求項9~12のいずれか1項に記載の製造方法によって製造された積層フィルムを用いて、その前記層(A)を前記層(B)から剥離する、積層フィルムのリサイクル方法。
【請求項14】
前記層(A)が表面層である、請求項13に記載の積層フィルムのリサイクル方法。
【請求項15】
前記層(A)に剥離用フィルムを積層し、層(A)と当該剥離用フィルムを密着させて、当該剥離用フィルムと共に層(A)を、層(B)から剥離する、請求項13または14に記載の積層フィルムのリサイクル方法。
【請求項16】
前記剥離用フィルムは、層(A)の主成分と同じ樹脂を主成分として含有するフィルムである、請求項15に記載の積層フィルムのリサイクル方法。
【請求項17】
請求項1~8のいずれか1項に記載の積層フィルムの層(A)または層(B)を出発原料とした再生原料を含む、積層フィルムおよび包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば食品用途などに使用される積層フィルムなどに関し、少なくともその一部を容易にリサイクルすることができる積層フィルム、該積層フィルムの製造方法、並びに、積層フィルムのリサイクル方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品等は、販売の際に、包装袋や包装容器などの包装体によって包装されるのが一般的である。このような包装体には、内容物の保護等の為に、様々な性能が要求されている。そのため、一部の包装体では、特性の異なる複数の層が積層された積層フィルムが用いられている。
包装体に用いられる積層フィルムとしては、様々な汎用積層フィルムが提案されている。例えば、深絞り成形用積層フィルムとして外層にポリエチレンテレフタレートグリコール樹脂(PETG)、中間層にポリアミド(PA)及びエチレン-酢酸ビニル共重合けん化物(EVOH)を配し、かつシール層に凝集破壊タイプのイージーピール層を有する積層フィルムが広く一般的に使用されている。その理由は、この構成を有する深絞り包装体が良好な腰を有し、光沢、透明性に優れ、かつ見栄えも非常に良好であるためである。
【0003】
包装体に用いられる積層フィルムには、近年の環境問題への配慮から、再利用の要求が高まりつつある。
しかし、積層フィルムをそのまま再溶融してリサイクルしようとしても、様々な種類の樹脂が溶融樹脂中に混入してしまうため、押し出し時の異臭や、ゲル化によるフィルター昇圧などにより、製膜性の悪化につながる。仮に製膜できたとしても、着色や異物混入、溶融粘度低下など物性への悪影響は避けられない。
また、仮に一部の層を削り取るなどしてから溶融押出しした場合も、押出し時の濾過工程で残存した樹脂層によってフィルターが目詰まりを起こし、正常な製膜ができなくなるなどの問題を生じることになる。
【0004】
そのため、積層フィルムの一部層を分離除去し、リサイクルする技術が開発されている。
例えば、特許文献1においては、基材フィルムの少なくとも片面に易溶解性樹脂層と表面機能層とをこの順に積層してなる積層フィルムを、使用後に、易溶解性機能層のみ溶解可能であって、基材フィルムを溶解しない溶媒で洗浄することにより、積層フィルムから基材フィルムを分離回収し、この分離回収したものを再溶融して、基材フィルムを構成していた樹脂組成物を再生することを特徴とする、積層フィルムのリサイクル方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されている積層フィルムのリサイクル方法では、基材フィルムの表面に易溶解性樹脂層を備えた積層フィルムのみしかリサイクルできないという課題を抱えていた。さらに、易溶解性機能層のみ溶解可能であって、基材フィルムを溶解しない溶媒で洗浄する必要があるため、洗浄工程及び洗浄設備を別に用意しなければならないという課題を抱えていた。
【0007】
そこで本発明は、易溶解性樹脂層などの特殊な層を備えていなくてもリサイクルすることができ、しかも、洗浄工程及び洗浄設備を用意しなくてもリサイクルすることができる積層フィルム、該積層フィルムの製造方法及び積層フィルムのリサイクル方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、層(A)と、これと隣接する層(B)とを備えた積層フィルムであって、
少なくとも一方向に延伸されており、延伸倍率が面積比で1.2~8倍であり、且つ、層(A)と層(B)のJIS K6854-2(1999)に準拠して測定した23℃における層間強度の最大値が7.0N/cm以下である積層フィルムを提案する。
【0009】
当該積層フィルムにおいて、前記層(A)は表面層であるのが好ましい。
また、前記積層フィルムは、JIS K7244-4(1998)に準拠して測定される、前記層(A)と前記層(B)の23℃、1Hzにおける貯蔵弾性率E’の差値が1500MPa以上であるのが好ましい。
さらに、前記層(A)は、ポリエステル系樹脂を主成分として含むのが好ましい。
前記層(B)は、ポリオレフィン系樹脂を主成分として含むのが好ましい。
さらに当該ポリオレフィン系樹脂は酸変性ポリオレフィン系樹脂であるのが好ましい。
【0010】
さらに、前記積層フィルムは、JIS R3257(1999)に準拠して23℃、50%RHで測定される、前記層(A)または該層(A)の主成分であるポリエステル系樹脂の水滴接触角と、前記層(B)または該層(B)の主成分であるポリオレフィン系樹脂の水滴接触角との差が10°~40°であるのが好ましい。
【0011】
前記積層フィルムは、前記層(A)を前記層(B)から剥離して、少なくとも前記層(A)をリサイクルすることができるものであるのが好ましい。
【0012】
本発明はまた、ポリエステル系樹脂を主成分として含む層(A)と、ポリオレフィン系樹脂を主成分として含む層(B)とが積層してなる構成を備え、前記層(A)と前記層(B)のJIS K6854-2(1999)に準拠して測定した23℃における層間強度の最大値が6~15N/cmである積層フィルムを、少なくとも一方向に延伸倍率が面積比で1.2~8.0倍で延伸する、積層フィルムの製造方法を提案する。
【0013】
当該積層フィルムの製造方法では、JIS K7244-4(1998)に準拠して測定される、前記層(A)と前記層(B)の23℃、1Hzにおける貯蔵弾性率E’の差値が1300MPa以上である温度において延伸するのが好ましい。
また、延伸温度は80℃以下であるのが好ましい。
延伸速度は、3mm/s以上であるのが好ましい。
【0014】
本発明はまた、前記積層フィルム、または、前記積層フィルムの製造方法によって製造された積層フィルムを用いて、その前記層(A)を前記層(B)から剥離する、積層フィルムのリサイクル方法を提案する。
【0015】
当該リサイクル方法において、前記層(A)は表面層であるのが好ましい。
また、前記層(A)に剥離用フィルムを積層し、層(A)と当該剥離用フィルムを密着させて、当該剥離用フィルムと共に層(A)を、層(B)から剥離するのが好ましい。
さらにまた、前記剥離用フィルムは、層(A)の主成分と同じ樹脂を主成分として含有するフィルムであるのが好ましい。
【0016】
本発明はまた、前記積層フィルムの層(A)または層(B)を出発原料とした再生原料を含む、積層フィルムおよび包装体を提案する。
【発明の効果】
【0017】
本発明が提案する積層フィルム、該積層フィルムの製造方法及び該積層フィルムのリサイクル方法によれば、例えば層(A)を層(B)から剥離して、少なくとも前記層(A)をリサイクルすることができる。よって、例えば包装体等に用いられている積層フィルムに関し、易溶解性樹脂層などの特殊な層を備えていなくてもリサイクルすることができ、しかも、洗浄工程及び洗浄設備を用意しなくてもリサイクルすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、実施の形態例に基づいて本発明を説明する。但し、本発明が次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0019】
なお、本発明において、「フィルム」とは、厚いシートから薄いフィルムまでを包括した意を有する。
また、「X~Y」(X、Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意とともに、「好ましくはXより大きい」および「好ましくはYより小さい」の意を包含するものである。
さらにまた、「X以上」(Xは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはXより大きい」の意を包含し、「Y以下」(Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
また、本発明で規定する数値範囲の上限値および下限値は、本発明が特定する数値範囲内から僅かに外れる場合であっても、当該数値範囲内と同様の作用効果を備えている限り本発明の均等範囲に包含するものとする。
【0020】
本発明において「主成分」とは、対象物に含まれる成分のうち最も多い質量%を占める成分であることを意味し、対象物の合計質量を100質量%したとき、その成分が占める質量が50質量%以上である場合、60質量%以上である場合、70質量%以上である場合、80質量%以上である場合、90質量%以上である場合、100質量%である場合を想定することができる。
【0021】
<<本リサイクル方法>>
本発明の実施形態の一例に係る積層フィルムのリサイクル方法(「本リサイクル方法」)は、リサイクルするのに好適な積層フィルム(「本積層フィルム」と称する)を作製し、該本積層フィルムからリサイクルする部分、例えば層(A)を剥離してリサイクルする方法である。
【0022】
<本積層フィルム>
本積層フィルムは、層(A)と、これと隣接する層(B)を備えた積層フィルムであって、少なくとも一方向に延伸されたものである。
積層フィルムを延伸することにより、層(A)を層(B)から剥離し易くすることができる。
【0023】
<層(A)>
層(A)は、表面層であることが好ましい。
また、層(A)は、ポリエステル系樹脂を主成分として含むことが好ましい。
包装体等に用いられる積層フィルムは、光沢、剛性、熱成形性などの観点からポリエステル系樹脂を主成分として含む表面層を有するものが多く使用されている。
【0024】
(ポリエステル系樹脂)
ポリエステル系樹脂は、耐破れ性、衝撃強度、耐熱性などを考慮すれば、フィルムにしたとき、非晶状態になるポリエステル系樹脂が好ましい。
非晶状態になるポリエステル系樹脂であれば、低温で延伸し易いだけでなく、後述するように、剥離用フィルム(リードフィルム)とヒートシールし易いため、好ましい。
当該非晶状態になるポリエステル系樹脂としては、ポリエステル系樹脂を構成するユニット100モル%中にエチレンテレフタレートユニットを50モル%以上含むものが好ましく、中でも55モル%以上、その中でも60モル%以上含むものがさらに好ましい。
したがって、例えば、多価カルボン酸成分100モル%中にテレフタル酸成分(テレフタル酸又はそのエステルから形成される成分)を50モル%以上含有するものが好ましく、中でも55モル%以上、その中でも60モル%以上含有するものが特に好ましい一方、95モル%以下の割合で含有するものが好ましく、中でも90モル%以下、その中でも88モル%以下の割合で含有するものが特に好ましい。
また、多価アルコール成分100モル%中にエチレングリコール成分を50モル%以上含有するものが好ましく、中でも55モル%以上、その中でも60モル%以上含有するものが特に好ましい一方、95モル%以下の割合で含有するものが好ましく、中でも90モル%以下、その中でも88モル%以下の割合で含有するものが特に好ましい。
【0025】
上記多価アルコール成分を形成するための多価アルコール類としては、エチレングリコールの他に、1,4-シクロヘキサンジメタノール(以下、1,4CHDMと記載することがある。)を含有していることが好ましい。その他に、1,3-プロパンジオール、トリエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、2-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオールなどのアルキレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ジエチレングリコール、ダイマージオール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ビスフェノール化合物又はその誘導体のアルキレンオキサイド付加物なども併用できる。
【0026】
また、多価カルボン酸成分を形成するための多価カルボン酸類としては、上述のテレフタル酸及びそのエステルの他に、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸及びそれらのエステル形成誘導体などであってもよい。
芳香族ジカルボン酸としては、例えば、イソフタル酸、ナフタレン-1,4-ジカルボン酸、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸などを挙げることができる。またこれらの芳香族ジカルボン酸やテレフタル酸のエステル誘導体としてはジアルキルエステル、ジアリールエステルなどの誘導体を挙げることができる。
脂肪族ジカルボン酸としては、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、シュウ酸、コハク酸などや、通常ダイマー酸と称される脂肪族ジカルボン酸などを挙げることができる。さらに、p-オキシ安息香酸などのオキシカルボン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸などの多価カルボン酸を必要に応じて併用してもよい。
【0027】
前記ポリエステル系樹脂は、これらの他、多価アルコール類、多価カルボン酸類ではないが、ε-カプロラクトンに代表されるラクトン類も一部含有してもよい。
ラクトン類は、開環して両端にエステル結合を有するユニットとなるものであり、1つのラクトン類由来のユニットが、カルボン酸成分であり、かつ、アルコール成分であると考えることができる。よって、ラクトン類を用いる場合、1,4-シクロヘキサンジメタノール成分量や、他の多価アルコール成分の量は、フィルムの全多価アルコール成分量に、ラクトン類由来のユニット量を加えた量を100モル%として計算する。また、各多価カルボン酸成分の量を計算する際も、フィルムの全多価カルボン酸成分量に、ラクトン類由来のユニット量を加えた量を100モル%とする。
【0028】
層(A)に使用できるポリエステル系樹脂の密度は、特に限定されないが、例えば、1.2~1.4g/cm3であるものが好ましい。コストと機械物性(剛性、強度)とのバランスの観点からすると、中でも1.22g/cm3以上或いは1.36g/cm3以下であるものがさらに好ましい。
【0029】
層(A)の主成分であるポリエステル系樹脂としては、非晶性ポリエステル樹脂、例えば、ジオール成分が1,4-シクロヘキサンジメタノール及びエチレングリコールからなり、ジカルボン酸成分がテレフタル酸からなるポリエチレンテレフタレートグリコール樹脂(以下、PETG樹脂やPETGと記載することがある。)が好ましい。
特に、1,4-シクロヘキサンジメタノール成分を5モル%以上含むものが好ましく、非晶化度を高める観点からは、1,4-シクロヘキサンジメタノール成分を10モル%以上含むものがより好ましく、中でも12モル%以上、その中でも15モル%以上含むものがさらに好ましい。一方、1,4-シクロヘキサンジメタノール成分が多すぎると、非晶化の効果や、経済性の面から、上限は50モル%であることが好ましく、47モル%以下であることがより好ましく、45モル%以下であることがさらに好ましい。
【0030】
ポリエチレンテレフタレートグリコール樹脂(PETG)の具体例として、SKケミカル社製「SKYPET S2008」、イーストマンケミカル社製「Easter Copolyester GN001」等を例示することができる。
【0031】
層(A)の主成分のガラス転移温度は、積層フィルムとしたときの剛性や熱成形性の観点から、50~120℃が好ましく、中でも60℃以上或いは110℃以下、その中でも70℃以上或いは100℃以下であるのがさらに好ましい。
【0032】
(他の成分)
前記層(A)は、必要に応じて、ポリエステル系樹脂以外の他の成分を含有することができる。
当該他の成分としては、例えば防曇性、帯電防止性、滑り性、粘着性などの性能を付与するために次のような各種添加剤を挙げることができる。
各種添加剤としては、例えば炭素数が1~12、好ましくは1~6の脂肪酸アルコールと、炭素数が10~22、好ましくは12~18の脂肪酸との化合物である脂肪族アルコール系脂肪酸エステル、具体的には、モノグリセリオレート、ポリグリセリンオレート、グリセリントリリシノレート、グリセリンアセチルリシノレート、ポリグリセリンステアレート、グリセリンラウレート、ポリグリセリンラウレート、メチルアセチルリシノレート、エチルアセチルリシノレート、ブチルアセチルリシノレート、プロピレングリコールオレート、プロピレングリコールラウレート、ペンタエリスリトールオレート、ポリエチレングリコールオレート、ポリプロピレングリコールオレート、ソルビタンオレート、ソルビタンラウレート、ポリエチレングリコールソルビタンオレート、ポリエチレングリコールソルビタンラウレートなど、ならびに、ポリアルキルエーテルポリオール、具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなど、さらに、パラフィン系オイルなどを挙げることができ、これらのうち一種または二種以上を併用することができる。
【0033】
これらの添加剤の含有量は、各層を構成する樹脂成分100質量部に対して12質量部以下であるのが好ましく、中でも0.1質量部以上或いは8質量部以下、その中でも1質量部以上或いは5質量部以下であるのがさらに好ましい。
【0034】
また、本積層フィルムの性能を阻害しない範囲であれば、酸化防止剤、熱安定剤、抗酸化剤、UV吸収剤、アンチブロッキング剤、光安定剤、相溶化剤、着色剤などの添加剤を適宜含有することも可能である。
【0035】
(層(A)の構成)
前記層(A)は、層(B)に隣接していれば複数層有しても構わない。但し、各層の主成分はポリエステル系樹脂であることが好ましい。
また、層(A)は、リサイクル性の観点から、本積層フィルムの表面層であることが好ましい。
【0036】
(層(A)の厚さ)
層(A)の厚さは、特に限定されるものではない。但し、層(A)の厚さが、積層フィルムの総厚さの10%以上あれば、剥離時に破断が起きにくくなるため剥離性が向上する。また上限を60%とすることにより、層(A)の剛性が適度になり、適度な軽剥離化を達成できる。
かかる観点から、層(A)の厚さは、総厚さの10%以上であるのが好ましく、中でも15%以上、その中でも20%以上であるのがさらに好ましい。他方、60%以下であるのが好ましく、中でも50%以下、その中でも40%以下であるのがさらに好ましい。
【0037】
<層(B)>
層(A)と、層(B)とは、JIS K7244-4(1998)に準拠して測定される、23℃、1Hzにおける貯蔵弾性率E’の差値が1500MPa以上であるのが好ましい。
当該貯蔵弾性率E’の差値が1500MPa以上であれば、所定の延伸を施すことにより、層(A)を層(B)から剥離し易くなる。
かかる観点から、当該貯蔵弾性率E’の差値は1500MPa以上であるのが好ましく、中でも1550MPa以上、その中でも1600MPa以上、その中でも1650MPa以上であるのがさらに好ましい。他方、上限は特に限定されないが、多層フィルムとしたときのハンドリングなどの観点から、2500MPa以下であるのが好ましく、その中でも2400MPa以下、その中でも2300MPa以下であるのがさらに好ましい。
【0038】
また、層(A)と、層(B)とは、延伸する温度、例えば60℃、1Hzにおける貯蔵弾性率E’の差値が800MPa以上であるのが好ましい。
当該貯蔵弾性率E’の差値が800MPa以上であれば、所定の延伸を施すことにより、層(A)を層(B)から剥離し易くなる。
かかる観点から、当該貯蔵弾性率E’の差値は800MPa以上であるのが好ましく、中でも1000MPa以上、その中でも1200MPa以上、その中でも1400MPa以上であるのがさらに好ましい。他方、上限は特に限定されないが、剥離する際のハンドリングなどの観点から、2200MPa以下であるのが好ましく、その中でも2100MPa以下、その中でも2000MPa以下であるのがさらに好ましい。
【0039】
当該貯蔵弾性率E’の差値を上記範囲に調整する観点から、層(B)の主成分は、ポリオレフィン系樹脂(PO)であるのが好ましい。
【0040】
(ポリオレフィン系樹脂)
層(B)は、ポリオレフィン系樹脂(PO)を主成分として含むことで、層(A)との適度な密着性と剥離性を得ることができる。かかる観点から、層(B)の主成分はポリオレフィン系樹脂(PO)であるのが好ましい。
当該ポリオレフィン系樹脂(PO)としては、例えば低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン-メタクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)、エチレン-アクリル酸メチル共重合体(EMA)、アイオノマー樹脂、酸変性ポリオレフィン系樹脂等を例示することができる。
層(B)は、これらのポリオレフィン系樹脂を単独で主成分として含んでいてもよいし、また、これらのうちの2種類以上を主成分として含んでいてもよい。
【0041】
JIS R3257(1999)に準拠して23℃、50%RHで測定される、層(B)又はその主成分の水滴接触角と、層(A)又はその主成分の水滴接触角との差は10°~40°であるのが好ましい。
水滴接触角は、各樹脂の極性と相関があることが知られており、両者の水滴接触角の差が上記範囲であれば、適度な密着性と、剥離性を兼ね備えることができる。
かかる観点から、両者の水滴接触角との差は10°以上であるのが好ましく、中でも11°以上、その中でも12°以上、その中でも13°以上であるのがさら好ましい。一方、40°以下であるのが好ましく、中でも30°以下、中でも25°以下、その中でも20°以下であるのがさら好ましい。
【0042】
前記ポリオレフィン系樹脂の密度は、層(A)との適度な密着性と剥離性の観点から、0.85~0.95g/cm3であることが好ましく、中でも0.88g/cm3以上或いは0.92g/cm3以下であることがより好ましく、その中でも0.89g/cm3以上或いは0.91g/cm3以下であることがさらに好ましい。
【0043】
かかる観点を考慮すると、層(B)の主成分であることが好ましいポリオレフィン系樹脂は、酸変性ポリオレフィン系樹脂であることが好ましい。
例えば、層(A)の主成分が、ポリエステル系樹脂である場合、ポリオレフィン系樹脂を酸変性することにより、ポリオレフィン系樹脂の極性を、層(A)の主成分であるポリエステル系樹脂の極性に近づけることができ、層(A)との密着性を調整しやすくなる傾向がある。
【0044】
ここで、酸変性ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂を不飽和カルボン酸又はその誘導体を共重合(例えば、グラフト共重合)した変性重合体を挙げることができる。
【0045】
酸変性ポリオレフィン系樹脂の該ポリオレフィン系樹脂としては、オレフィン類の単独重合体、相互共重合体、他の共重合可能なモノマー(例えば、他のビニル系モノマー)との共重合体を例示できる。具体的には、例えばポリエチレン(LDPE、LLDPEなど)、ポリプロピレン、ポリブテン、これらの相互共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体等を例示できる。
【0046】
酸変性ポリオレフィン系樹脂の酸、例えば前記の不飽和カルボン酸又はその誘導体としては、例えば、マレイン酸、フマル酸等の不飽和カルボン酸、その酸無水物、そのエステル又はその金属塩等を例示することができる。この中では、マレイン酸で変性された酸変性ポリオレフィン系樹脂が好ましい。
【0047】
層(B)の主成分のガラス転移温度は、層(A)を含む隣接する層との適度な接着性をえるとの観点から、上限は20℃以下が好ましく、0℃以下がより好ましい。下限は特に限定されないが-50℃以上である。
層(A)の主成分のガラス転移温度との差は、剥離しやすい観点から、50℃以上が好ましく、中でも70℃以上、その中でも80℃以上であるのがさらに好ましい。上限は特に限定されないが150℃以下である。
【0048】
(他の成分)
前記層(B)は、必要に応じて、ポリオレフィン系樹脂以外の他の成分を含有することができる。
当該他の成分としては、層(A)が含有することができる前記他の成分と同様であり、その含有量も同様である。
【0049】
(層(B)の構成)
前記層(B)は、層(A)に隣接していれば、複数層有しても構わない。但し、各層の主成分はポリオレフィン系樹脂であることが好ましい。
【0050】
(層(B)の厚さ)
層(B)の厚さは、特に限定されるものではない。但し、層(B)の厚さが、積層フィルムの総厚さの1%以上あれば、製品としての適度な密着性を得ることができ、また上限を15%とすることにより、剥離時の適度な軽剥離化を達成できる。
かかる観点から、層(B)の厚さは、総厚さの1%以上であるのが好ましく、中でも3%以上であるのがさらに好ましい。他方、15%以下であるのが好ましく、中でも10%以下であるのがさらに好ましい。
【0051】
<延伸>
本積層フィルムは、少なくとも一方向に延伸されたものであることが必要であり、二方向以上に延伸されていてもよい。
積層フィルムを延伸することにより、層(A)を層(B)から剥離し易くすることができる。
【0052】
当該延伸は、延伸倍率が面積比で1.2~8.0倍であるのが好ましい。
延伸倍率が面積比で1.2倍以上であることで、層(A)の剥離性が向上し、リサイクル性が向上する。他方、8.0倍以下であることで、積層フィルムが均一に延伸させることができ、延伸時に破断することなく延伸できるため好ましい。
かかる観点から、延伸倍率が面積比で1.2~8.0倍であるのが好ましく、中でも1.3倍以上或いは7.0倍以下、その中でも1.5倍以上或いは5.0倍以下であるのがさらに好ましい。
【0053】
<層間強度>
本積層フィルムは、層(A)と層(B)のJIS K6854-2(1999)に準拠して測定した23℃における層間強度の最大値が7.0N/cm以下であることが好ましい。
層(A)と層(B)の前記層間強度の最大値が7.0N/cm以下であれば、剥離する際にフィルムが破断することなく剥離することができる。
かかる観点から、層(A)と層(B)の前記層間強度の最大値が7.0N/cm以下であるのが好ましく、中でも6.0N/cm以下、その中でも5.5N/cm以下、その中でも5.0N/cm以下であるのがさらに好ましい。
他方、前記層間強度の最大値の下限値は小さいほどよいが、一定の剥離力で安定して剥離ができるとの観点から、0.1N/cm以上であるのが好ましく、0.5N/cm以上であることが好ましい。
【0054】
層(A)と層(B)の前記層間強度の最大値を上記範囲に調整するためには、層(A)および層(B)に使用する樹脂、延伸倍率を調整し、貯蔵弾性率E’の差が1300MPa以上となる温度にて延伸するなどすればよい。但し、この方法に限定するものではない。
【0055】
<本積層フィルムの層構成>
本積層フィルムは、層(A)および層(B)の2層を備えていれば、必要に応じて他の層を備えていてもよい。
例えば、層(A)/層(B)の2層構成以外に、層(A)/層(B)/層(A)構成などの2種3層構成や、層(A)および層(B)とその他の層3の少なくとも3層から構成されている場合は、層(A)/層(B)/層3の3層構成、層(A)/層(B)/層3/層(B)/層(A)などの3種5層構成や、さらにその他の層4の少なくとも4層から構成されている場合は、層(A)/層(B)/層3/層4の4層構成、層(A)/層(B)/層3/層4/層3/層(B)/層(A)などの4種7層構成などの構成を採用することができ、層数や層の順番、層(A)、層(B)以外のその他の層の種類や数に制限はない。
【0056】
上述のように、本積層フィルムは、層(A)および層(B)の2層からなる積層フィルムであってもよいし、また、必要に応じて、他の層を備えていてもよい。
【0057】
当該他の層としては、例えば、耐衝撃性を向上させるために、耐衝撃向上層を備えていてもよい。
当該耐衝撃向上層としては、例えば、透明性、耐衝撃性とコストのバランスなどの観点から、ポリアミド系樹脂(PA)を主成分として含む層を挙げることができる。
【0058】
また、ガスバリア性を向上させるために、ガスバリア層を備えていてもよい。
当該ガスバリア層としては、例えば、ガスバリア性とコストのバランスなどから、エチレン-酢酸ビニル共重合けん化物(EVOH)を主成分として含む層を挙げることができる。
【0059】
また、ヒートシール性を付与するために、例えば層(A)とは反対側の表面層にヒートシール層を備えていてもよい。
当該ヒートシール層としては、例えば、ヒートシール性とコストのバランスなどから、ポリオレフィン系樹脂を主成分として含む層を挙げることができる。
【0060】
本積層フィルムは、印刷、コーティング、蒸着などの表面処理や表面加工を行うことができる。
また、ポリオレフィンやポリエステル等の他の樹脂層や粘着層、金属箔、紙などを積層して使用することができ、積層方法は公知の方法を用いることが可能で、例えばドライラミネート法、ウェットラミネート法、サンドラミネート法、押出ラミネート法などを挙げることができる。また、積層の際に、本発明の積層フィルム表面にコロナ放電、アンカーコート等の表面処理を施してもよい。
【0061】
また、本積層フィルムを包装材に用いる場合は、内容物の品質保持や腐敗防止の観点から、アルミニウム、酸化珪素、アルミナ、ダイヤモンドライクカーボン等を蒸着加工する、ポリビニルアルコール(PVA)系樹脂、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)系樹脂などのガスバリア性コート剤を塗布する等により、さらにガスバリア性や防湿性を向上させることができる。
【0062】
なお、本積層フィルムは、本発明の効果を損なわない範囲で、再生原料をいずれかの層に添加することができる。例えば製膜したフィルムの両端をカットしてトリミングした際に発生するトリミングロス分や停止していた生産機を立ち上げた直後の生産初期に製膜したフィルム、成形不良品などの販売する製品とならないロス分を、構成原料として添加するようにして調製することができる。これにより、材料の無駄を無くし、材料コストの軽減を図ることができる。
【0063】
<本積層フィルムの厚さ>
本積層フィルム全体の厚さ(「総厚」とも称する)は、特に限定されるものではない。中でも、剥離性や破断リスクなどの観点から、下限は15μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましい。ハンドリング性などの観点から、上限は300μm以下が好ましく、250μm以下がより好ましい。総厚が上記範囲内であれば、剥離性やハンドリング性が良好で、かつ剥離時の破断リスクが低減され、リサイクル時の生産性が向上する。
【0064】
<本積層フィルムの製造方法>
次に、本積層フィルムの製造方法の一例について説明する。但し、本積層フィルムの製造方法が、次に説明する製造方法に限定されるものではない。
【0065】
本積層フィルムは、リサイクルしたい積層フィルム(「原料積層フィルム」と称する)を、少なくとも一方向に所定条件の延伸をすることで作製することができる。
【0066】
(原料積層フィルム)
原料積層フィルムは、上述した層(A)を表面層として備え、当該層(A)と隣接する層(B)を備えた積層フィルムであればよく、当該層(A)及び層(B)については前述したとおりである。また、積層構成、各層の厚さ、総厚などについても前述したとおりである。
【0067】
原料積層フィルムは、未延伸フィルムであっても、既に延伸されたフィルムであってもよい。
【0068】
原料積層フィルムの製造方法は任意である。一例を挙げれば、層(A)、層(B)およびその他の層に用いる樹脂をそれぞれ押出機にて溶融し、フィードブロック、またはマルチマニホールドのフラットダイ、または環状ダイで合流させてから、積層フィルムとして共押出した後、冷却することによりフラット状、または環状の積層フィルムを製造する方法を挙げることができる。但し、この方法に限定するものではない。
【0069】
原料積層フィルムに関しては、層(A)と層(B)のJIS K6854-2(1999)に準拠して測定した23℃における層間強度の最大値が6.0~15.0N/cmであるのが好ましい。
原料積層フィルムに関しては、層(A)と層(B)の前記層間強度の最大値が6.0N/cm以上であれば、原料積層フィルムとして、層(A)と層(B)が剥離することなく使用することができ、15.0N/cm以下であれば、延伸することにより層(A)と層(B)を剥離し易くなる。
かかる観点から、原料積層フィルムに関しては、層(A)と層(B)の前記層間強度の最大値が6.0N/cm以上であるのが好ましく、中でも6.5N/cm以上、その中でも7.0N/cm以上であるのがさらに好ましい。他方、15.0N/cm以下であるのが好ましく、中でも13.0N/cm以下、その中でも10.0N/cm以下であるのがさらに好ましい。
【0070】
(延伸)
延伸は、少なくとも一方向に延伸することが必要である。一方向の延伸であっても、二方向以上の延伸であってもよい。
延伸方法としては、例えば、ロール延伸法、テンター延伸法、チューブラー延伸法、長間隔延伸法等を挙げることができ、これらの方法を組み合わせることもできる。
また、延伸は、縦方向のみ延伸してもよく、横方向のみ延伸してもよく、縦方向に延伸した後、横方向に延伸してもよく、横方向に延伸した後、縦方向に延伸してもよい。また、同じ方向に2回以上延伸してもよい。さらには、縦方向に延伸した後、横方向に延伸し、さらに縦方向に延伸してもよい。また、同時二軸延伸機により縦方向、横方向に同時に延伸してもよい。
【0071】
延伸倍率については、前述したとおりである。
【0072】
延伸温度は、層(A)又はその主成分と、層(B)又はその主成分の、1Hzにおける貯蔵弾性率E’の差値が1300MPa以上、中でも1400MPa以上、その中でも1500MPa以上である温度において、延伸するのが好ましい。
当該貯蔵弾性率E’の差値が1300MPa以上である温度において延伸することにより、層(A)を層(B)からより一層剥離し易くすることができる。
【0073】
例えば、層(A)の主成分が上記ポリエステル系樹脂であり、層(B)の主成分が上記ポリオレフィン系樹脂である場合は、層(A)を層(B)からより一層剥離し易くする観点及び均一に延伸することができる観点から、延伸温度は、80℃以下であるのが好ましく、中でも23℃以上であるのがより好ましく、中でも25℃以上或いは75℃以下であるのがさらに好ましく、中でも28℃以上或いは70℃以下であるのが特に好ましいく、その中でも30℃以上或いは65℃以下であるのが最も好ましい。
【0074】
延伸速度は、遅すぎると、層(A)を層(B)から剥離する際の剥離性が劣る傾向があるため、3mm/s以上であるのが好ましく、中でも5mm/s以上、その中でも7mm/s以上であるのがより好ましい。
他方、速すぎると、フィルムが破断し易くなる傾向があるため、上限値は50mm/s程度であることが好ましい。
【0075】
<層(A)の剥離方法>
上記のように作製した本積層フィルムは、その層(A)を層(B)から剥離することにより、層(A)をリサイクルにまわすことができる。すなわち、剥離した層(A)を粉砕したり、リペレット化したりするなどした後、フィルムの原材料として押出機で溶融混錬するなどして、再利用することができる。
【0076】
層(A)を層(B)から剥離する方法としては、例えば、本積層フィルムの層(A)に剥離用フィルム(「リードフィルム」とも称する)を重ねて、層(A)と当該剥離用フィルムを密着させて、当該該剥離用フィルムと共に層(A)を、層(B)から剥離することができる。但し、このような方法に限定するものではない。
この際、層(A)と剥離用フィルムとを密着させる手段としては、例えば、加熱することによって密着させる手段、すなわち、ヒートシールを挙げることができる。
ここで、前記剥離用フィルムの主成分が、層(A)の主成分と同じ樹脂であれば、ヒートシールし易く、また、剥離した後、剥離用フィルムと層(A)を一緒に処理することができるから、再利用し易い観点から特に好ましい。
【0077】
<再利用>
このように剥離した層(A)、または、残された層(B)は、それぞれリサイクルすることができる。例えば、層(A)または層(B)を出発原料とした、再生原料を含む積層フィルムや包装体などを製造することができる。
【実施例0078】
次に、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。但し、本発明が、以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0079】
<原材料>
実施例、比較例に用いた樹脂の略号、成分、物性等は次の通りである。
【0080】
[層(A)の樹脂]
・PETG:イーストマンケミカル社製ポリエチレンテレフタレートグリコール樹脂(1,4CHDM32mol%共重合)、密度:1.27g/cm3、ガラス転移温度86℃、水滴接触角84.6°
・PP:プライムポリマー社製プライムポリプロ(ポリプロピレン樹脂)、密度:0.9g/cm3
、ガラス転移温度4℃、水滴接触角91.6°
【0081】
[層(B)の樹脂]
・PO:三菱ケミカル社製モディックF353(マレイン酸変性ポリオレフィン系樹脂)、密度:0.9g/cm3
、ガラス転移温度-22℃、水滴接触角100.2°
【0082】
[その他の層の樹脂]
・PA:宇部興産社製UBEナイロン(ポリアミド6)、密度1.14g/cm3
・EVOH:三菱ケミカル社製ソアノール(エチレン-酢酸ビニル共重合けん化物)、エチレン含有率32モル%、密度1.19g/cm3
・PO:三菱ケミカル社製モディックF353(マレイン酸変性ポリオレフィン系樹脂)、密度:0.9g/cm3
・PE:日本ポリエチレン社製ノバテック(ポリエチレン樹脂)、密度:0.920g/cm3
【0083】
<フィルム作製、フィルム層構成>
各実施例・比較例ごと、上記樹脂を用いて次のように原料積層フィルムを作製した後、この原料積層フィルムを用いて積層フィルムを作製した。
【0084】
(実施例1~6、比較例1~3)
積層口金が接合された押出設備にて、表1に示す原料を、設定温度を240℃とした押出機にそれぞれ供給し、溶融混錬を行い、50℃のキャストロールで引き取り、冷却固化させて、PETG(50μm)/PO(10μm)/PA(6μm)/EVOH(14μm)/PO(10μm)/PE(50μm)からなる未延伸の原料積層フィルム(厚さ:140μm)を作製した。
但し、比較例3については、PP(20μm)/PO(10μm)/PA(7μm)/EVOH(6μm)/PA(7μm)/PO(10μm)/PE(30μm)からなる未延伸の原料積層フィルム(厚さ:90μm)を作製した。
【0085】
そして、表1に示す延伸条件により、前記原料積層フィルムを流れ方向(MD)及びその直交方向(TD)の2方向に延伸して、表1に示す厚さの積層フィルムを得た。
なお、比較例1は、延伸を行わず、原料積層フィルムをそのまま積層フィルムとした。
【0086】
<評価>
次のように評価を行った。
【0087】
<層(A)、層(B):貯蔵弾性率E’>
実施例、比較例で作製した層(A)及び層(B)の組成からなる単層フィルム(5μm)をそれぞれ作製し、0.5×5cmに切り出して短冊フィルムを測定サンプルとした。
貯蔵弾性率E’の測定は、TAインスツルメント社製レオメーターDiscovery HR-2を用いて、JIS K7244-4(1998)に準拠して、マイナス100℃からプラス100℃の温度範囲を、昇温速度3℃/分で昇温しながら、周波数1Hz、ひずみ0.1%で引張変形させ、各温度における貯蔵弾性率E’を測定した。
【0088】
<水滴接触角>
同様に、実施例、比較例で作製した層(A)及び層(B)の組成からなる単層フィルム(5μm)をそれぞれ作製し、測定サンプルを切り出して短冊フィルムを測定サンプルとした。
JIS R3257(1999)に準拠して、23℃、50%RHの下で12時間以上調温・調湿した後、協和界面科学株式会社製DropMaster500を用いて測定した。積層フィルム表面に蒸留水を滴下した直後の接触角を測定した。測定は5回実施し、その平均値を採用した。
【0089】
<層間強度>
JIS K6854-2(1999)に準拠して、23℃における層間強度を測定した。すなわち、実施例、比較例で作製した積層フィルムについて、層(A)の表面に、該層(A)と同一組成からなるフィルム(「リードフィルム」と称する)を重ねて、富士インパルス社のポリシーラー「P-300」にて、200℃で5秒間ヒートシールして積層し、10mm巾×200mm長の短冊状になる様に裁断して剥離力測定サンプルを作製した。
室温(23℃)において、剥離力測定サンプルのリードフィルムを、180°をなす角度に剥離速度200mm/min.にて引っ張ることにより、該リードフィルムと密着した層(A)を層(B)から150mmの長さ剥離した。
層(A)の剥離強度(N/cm)の測定は、剥離開始点から25mm剥離した位置から値を読み取り始め、剥離開始点から125mm剥離した位置まで読み取り、この範囲における剥離強度の最大値を求め、該最大値を層(A)と層(B)の層間強度とした。
【0090】
<リサイクル性評価>
リサイクル性は、層(A)と層(B)の層間強度の値によって評価した。層間強度低い方が容易に剥離してリサイクルし易いといえ、評価基準は以下のとおりである。
◎(very good):層間強度の最大値が4.0N/cm未満。
〇( good):層間強度の最大値が4.0N/cm以上7.0N/cm以下。
×( poor):層間強度の最大値が7.0N/cmより大きい。
【0091】
【0092】
実際例1~6は、延伸倍率が面積比で1.2~8倍の範囲であり、層(A)と層(B)の剥離強度、すなわち、層(A)と層(B)のJIS K6854-2(1999)に準拠して測定した23℃における層間強度の最大値が7.0N/cm以下であるから、層(A)を層(B)から容易に剥離することができ、リサイクル性が優れた結果となった。
【0093】
これに対し、比較例1は、延伸倍率が、面積比で1倍であるため、層(A)と層(B)の剥離強度が大きく、フィルム破断が発生したため、層(A)と層(B)の剥離が困難であり、リサイクル性が良くない結果となった。
【0094】
比較例2は、延伸倍率が面積比で9倍であるため、延伸時に、フィルムが破断してしまい、積層フィルム採取ができなかった。
【0095】
比較例3は、延伸した積層フィルムにおいて、層(A)と層(B)の層間強度が大きく、剥離前に破断が生じたため、リサイクル性が良くない結果となった。
【0096】
上記実施例及びこれまで本発明者が行ってきた試験結果から、層(A)と、これと隣接する層(B)とを備えた積層フィルムに関しては、少なくとも一方向に延伸されており、延伸倍率が面積比で1.2~8倍であれば、層(A)と層(B)のJIS K6854-2(1999)に準拠して測定した23℃における層間強度の最大値を7.0N/cm以下とすることができ、易溶解性樹脂層などの特殊な層を備えなくてもリサイクルすることができ、しかも、洗浄工程及び洗浄設備を用意しなくても、当該層(A)を層(B)から剥離してリサイクルすることができることが分かった。