(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022188923
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】セルロースエステル樹脂用改質剤、セルロースエステル樹脂組成物、光学フィルム及び表示装置
(51)【国際特許分類】
C08L 67/02 20060101AFI20221215BHJP
C08L 1/10 20060101ALI20221215BHJP
C08G 63/16 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
C08L67/02
C08L1/10
C08G63/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097214
(22)【出願日】2021-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 知代
(72)【発明者】
【氏名】氏原 鉄平
(72)【発明者】
【氏名】田尻 裕輔
【テーマコード(参考)】
4J002
4J029
【Fターム(参考)】
4J002AB021
4J002CF032
4J002CF033
4J002FD023
4J002GP00
4J002HA09
4J029AA03
4J029AB07
4J029AC01
4J029AE03
4J029AE04
4J029BA03
4J029BA08
4J029CA06
4J029JB182
4J029JB183
4J029JC751
4J029JF321
4J029KD02
4J029KE06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】光学フィルムに対して十分な柔軟性を付与して加工性を向上させるとともに、光学フィルムの透明性を損なわないセルロースエステル樹脂用改質剤を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表されるポリエステルと、下記一般式(2)で表されるジエステル化合物を含有するセルロースエステル樹脂用改質剤。式中、B
1は、脂肪族モノアルコール残基であり、Aは、脂肪族ジカルボン酸残基であり、G
1は、アルキレングリコール残基又はオキシアルキレングリコール残基であり、B
2は、芳香族モノカルボン酸残基又は脂肪族モノカルボン酸残基であり、G
2は、アルキレングリコール残基又はオキシアルキレングリコール残基である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるポリエステルと、下記一般式(2)で表されるジエステル化合物とを含有するセルロースエステル樹脂用改質剤。
【化1】
(前記一般式(1)中、
B
1は、それぞれ独立に、炭素原子数1~12の脂肪族モノアルコール残基であり、
Aは、それぞれ独立に、炭素原子数1~6の脂肪族ジカルボン酸残基であり、
G
1は、炭素原子数2~12のアルキレングリコール残基又は炭素原子数4~12のオキシアルキレングリコール残基であり、
nは繰り返し数を表す。
但し、繰り返し単位ごとに括弧内のG
1およびAはそれぞれ同じでもよく、異なっていてもよい。
前記一般式(2)中、
B
2は、それぞれ独立に、炭素原子数6~12の芳香族モノカルボン酸残基又は炭素原子数1~8の脂肪族モノカルボン酸残基であり、
G
2は、炭素原子数2~12のアルキレングリコール残基又は炭素原子数4~12のオキシアルキレングリコール残基である。)
【請求項2】
前記Aは、コハク酸残基又はアジピン酸残基である請求項1に記載のセルロースエステル樹脂用改質剤。
【請求項3】
前記ポリエステルの数平均分子量が400~2,000の範囲である請求項1又は2に記載のセルロースエステル樹脂用改質剤。
【請求項4】
前記ジエステル化合物が、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール及びジプロピレングリコールから選択される1種以上と、安息香酸及びパラトルイル酸から選択される1種以上とのジエステルである請求項1~3のいずれかに記載のセルロースエステル樹脂用改質剤。
【請求項5】
前記ポリエステルと前記ジエステル化合物との質量比(ポリエステル/ジエステル化合物)が95/5~30/70の範囲である請求項1~4のいずれかに記載のセルロースエステル樹脂用改質剤。
【請求項6】
セルロースエステル樹脂用可塑化剤である請求項1~5のいずれかに記載のセルロースエステル樹脂用改質剤。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載のセルロースエステル樹脂用改質剤とセルロースエステル樹脂とを含有するセルロースエステル樹脂組成物であって、前記セルロースエステル樹脂100質量部に対して、前記セルロースエステル樹脂用改質剤を1~30質量部の範囲で含有するセルロースエステル樹脂組成物。
【請求項8】
請求項7に記載のセルロースエステル樹脂組成物を含有する光学フィルム。
【請求項9】
偏光板保護用である請求項8に記載の光学フィルム。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の光学フィルムを有する表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースエステル樹脂用改質剤、セルロースエステル樹脂組成物、光学フィルム及び表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン、ノートパソコン、テレビ等に使用される液晶ディスプレイは大画面化・薄型・軽量化しており、それに伴って偏光板の周辺に使用される光学フィルムも薄膜化が要求されている。
【0003】
上記光学フィルムに用いられているセルロースアセテートフィルム等のセルロースエステル樹脂フィルムは一般に硬脆いため、フィルムを薄膜化した場合に、柔軟性が不足して破損し易い問題があるほか、吸湿性が高いために寸法変化等の物性変化も起こり易い問題があった。
【0004】
上記課題に対しては、セルロースエステル樹脂フィルムに種々の添加剤を加えて物性を改善する方法が提案されている(例えば特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-151699号公報
【特許文献2】国際公開第2019/124096号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記添加剤は例えばセルロースエステル樹脂用の可塑化剤であるが、フィルムの柔軟性や吸湿による物性変化の改善は不十分であった。また、添加剤のセルロースエステル樹脂に対する相溶性が不十分である場合は、添加剤がブリードアウトして光学フィルムの透明性が著しく損なわれる問題もあった。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、セルロースエステル樹脂の光学フィルムに対して、十分な柔軟性を付与して加工性を向上させるとともに、光学フィルムに吸湿性抑制と耐湿熱性を与え、セルロースエステル樹脂に対しても十分な相溶性を有することで光学フィルムの透明性を損なわないセルロースエステル樹脂用改質剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、特定の構造のポリエステルと特定の構造のジエステル化合物からなるセルロースエステル樹脂用改質剤が、セルロースエステル樹脂フィルムに対して、十分な柔軟性を付与して加工性を向上させるとともに、フィルムの吸湿性を抑制し、フィルムに耐湿熱性、寸法安定性などを付与できることを見出した。また、当該セルロースエステル樹脂用改質剤がセルロースエステル樹脂に対して十分な相溶性を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)で表されるポリエステルと、下記一般式(2)で表されるジエステル化合物を含有するセルロースエステル樹脂用改質剤に関するものである。
【0010】
【化1】
(前記一般式(1)中、
B
1は、それぞれ独立に、炭素原子数1~12の脂肪族モノアルコール残基であり、
Aは、それぞれ独立に、炭素原子1~6の脂肪族ジカルボン酸残基であり、
G
1は、炭素原子数2~12のアルキレングリコール残基又は炭素原子数4~12のオキシアルキレングリコール残基であり、
nは繰り返し数を表す。
但し、繰り返し単位ごとに括弧内のG
1およびAはそれぞれ同じでもよく、異なっていてもよい。
前記一般式(2)中、
B
2は、それぞれ独立に、炭素原子数6~12の芳香族モノカルボン酸残基又は炭素原子数1~8の脂肪族モノカルボン酸残基であり、
G
2は、炭素原子数2~12のアルキレングリコール残基又は炭素原子数4~12のオキシアルキレングリコール残基である。)
【発明の効果】
【0011】
本発明により、セルロースエステル樹脂の光学フィルムに吸湿性抑制と耐湿熱性を与え、セルロースエステル樹脂に対しても十分な相溶性を有することで光学フィルムの透明性を損なわないセルロースエステル樹脂用改質剤が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を損なわない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。
【0013】
[セルロースエステル樹脂用改質剤]
本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤は、下記一般式(1)で表されるポリエステル(以下、「本発明のポリエステル」という場合がある)と、下記一般式(2)で表されるジエステル化合物(以下、「本発明のジエステル化合物」という場合がある)を含有する。
【0014】
【化2】
(前記一般式(1)中、
B
1は、それぞれ独立に、炭素原子数1~12の脂肪族モノアルコール残基であり、
Aは、それぞれ独立に、炭素原子1~6の脂肪族ジカルボン酸残基であり、
G
1は、炭素原子数2~12のアルキレングリコール残基又は炭素原子数4~12のオキシアルキレングリコール残基であり、
nは繰り返し数を表す。
但し、繰り返し単位ごとに括弧内のG
1およびAはそれぞれ同じでもよく、異なっていてもよい。
前記一般式(2)中、
B
2は、それぞれ独立に、炭素原子数6~12の芳香族モノカルボン酸残基又は炭素原子数1~8の脂肪族モノカルボン酸残基であり、
G
2は、炭素原子数2~12のアルキレングリコール残基又は炭素原子数4~12のオキシアルキレングリコール残基である。)
【0015】
本発明において「アルコール残基」とは、アルコールから水酸基を除いた残りの有機基を示すものである。
本発明において「グリコール残基」とは、グリコールから水酸基を除いた残りの有機基を示すものである。
本発明において「カルボン酸残基」とは、カルボン酸からカルボキシル基を除いた残りの有機基を示すものである。尚、カルボン酸残基の炭素原子数については、カルボキシル基中の炭素原子は含まないものとする。
【0016】
本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤では、ポリエステル自身が芳香環構造を含まない柔軟な構造であるため、セルロースエステル樹脂に対して柔軟性を付与する可塑化剤として機能することができる。また、ジエステル化合物がセルロースエステル樹脂の間隙に配置されることで、セルロースエステルフィルムの透湿を抑制し、耐湿熱性と寸法安定性を向上させることができるとともに、セルロースエステル樹脂に対する相溶性も高めることができる。
【0017】
(ポリエステル)
B1の脂肪族モノアルコール残基の脂肪鎖は、直鎖でも分岐状でもよく、脂環構造及び/又はエーテル結合(-O-)を含んでもよい。
【0018】
B1の炭素原子数1~12の脂肪族モノアルコール残基としては、例えばメタノール残基、エタノール残基、1-プロパノール残基、2-プロパノール残基、1-ブタノール残基、2-ブタノール残基、イソブタノール残基、tert-ブタノール残基、1-ペンタノール残基、2-ペンタノール残基、3-メチル-1-ブタノール残基、1-ヘキサノール残基、2-ヘキサノール残基、1-ヘプタノール残基、1-オクタノール残基、2-エチル-1-ヘキサノール残基、3,3,5-トリメチル-1-ヘキサノール残基、イソノニルアルコール残基、1-ノニルアルコール残基、シクロペンタノール残基、シクロヘキサノール残基、メチルシクロヘキサノール残基、トリメチルシクロヘキサノール残基等が挙げられる。
【0019】
B1の炭素原子数1~12の脂肪族モノアルコール残基は、好ましくは炭素原子数2~10の脂肪族モノアルコール残基であり、より好ましくは1-ブタノール残基、2-エチル-1-ヘキサノール残基、イソノニルアルコール残基から選択される1種以上である。
【0020】
Aの炭素原子1~6の脂肪族ジカルボン酸残基の脂肪鎖は、直鎖でも分岐状でもよく、脂環構造及び/又はエーテル結合(-O-)を含んでもよい。
【0021】
Aの炭素原子1~6の脂肪族ジカルボン酸残基としては、例えばコハク酸残基、アジピン酸残基、マレイン酸残基、ピメリン酸残基、スベリン酸残基、シクロヘキサンジカルボン酸残基等が挙げられる。
【0022】
Aの炭素原子1~6の脂肪族ジカルボン酸残基は、好ましくはコハク酸残基、アジピン酸残基から選択される1種以上である。
【0023】
G1の炭素原子数2~12のアルキレングリコール残基としては、例えばエチレングリコール残基、1,2-プロピレングリコール残基、1,3-プロパンジオール残基、1,2-ブタンジオール残基、1,3-ブタンジオール残基、2-メチル-1,3-プロパンジオール残基、1,4-ブタンジオール残基、1,5-ペンタンジオール残基、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)残基、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール(3,3-ジメチロ-ルペンタン)残基、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール(3,3-ジメチロールヘプタン)残基、3-メチル-1,5-ペンタンジオール残基、1,6-ヘキサンジオール残基、2,2,4-トリメチル1,3-ペンタンジオール残基、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール残基、2-メチル-1,8-オクタンジオール残基、1,9-ノナンジオール残基、1,10-デカンジオール残基、1,12-ドデカンジオール残基等が挙げられる。
【0024】
G1の炭素原子数2~12のアルキレングリコール残基は、脂環構造を含んでもよく、当該脂環構造を含む炭素原子数2~12の脂肪族ジオール残基としては、例えば1,3-シクロペンタンジオール残基、1,2-シクロヘキサンジオール残基、1,3-シクロヘキサンジオール残基、1,4-シクロヘキサンジオール残基、1,2-シクロヘキサンジメタノール残基、1,4-シクロヘキサンジメタノール残基等が挙げられる。
【0025】
G1の炭素原子数2~12のアルキレングリコール残基は、好ましくは炭素原子数2~4のアルキレングリコール残基であり、より好ましくはエチレングリコール残基、1,2-プロピレングリコール残基、1,3-プロパンジオール残基、1,2-ブタンジオール残基、2-メチル-1,3-プロパンジオール残基から選択される1種以上である。
【0026】
G1の炭素原子数4~12のオキシアルキレングリコール残基は、アルキレングリコール残基のいずれかの1つ炭素炭素結合間にエーテル結合(-O-)が挿入された基であり、例えばジエチレングリコール残基、トリエチレングリコール残基、テトラエチレングリコール残基、ジプロピレングリコール残基、トリプロピレングリコール残基等が挙げられる。
【0027】
G1は、好ましくはエチレングリコール残基、ジエチレングリコール残基、1,2-プロピレングリコール残基、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール残基から選択される1種以上であり、より好ましくはエチレングリコール残基、ジエチレングリコール残基、1,2-プロピレングリコール残基である。
【0028】
nの繰り返し数は、例えば0~20の範囲の整数である。
nの繰り返し数の平均値は、好ましくは1.0~10.0の範囲であり、より好ましくは1.0~8.0の範囲であり、より好ましくは1.5~7.0の範囲である。
nの繰り返し数の平均値は、本発明のポリエステルの数平均分子量から算出することができる。
【0029】
本発明のポリエステルの数平均分子量(Mn)は、例えば100~5,000の範囲であり、好ましくは350~2,000の範囲であり、より好ましくは400~1,500の範囲の範囲である。
上記数平均分子量(Mn)はゲルパーミエージョンクロマトグラフィー(GPC)測定に基づきポリスチレン換算した値であり、実施例に記載の方法により測定する。
【0030】
本発明のポリエステルの酸価は、例えば10mgKOH/g以下であり、好ましくは5mgKOH/g以下であり、より好ましくは3mgKOH/g以下であり、さらに好ましくは1mgKOH/g以下である。
本発明のポリエステルの酸価の下限は特に限定されないが、例えば0mgKOH/gである。
上記ポリエステルの酸価は実施例に記載の方法により確認する。
【0031】
本発明のポリエステルの性状は、数平均分子量や組成などによって異なるが、通常、常温にて液体、固体、ペースト状などである。
【0032】
本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤を構成する本発明のポリエステルは、前記一般式(1)を満たすポリエステルであればよく、例えば互いに構造が異なる2種以上のポリエステルであってもよい。
【0033】
本発明のポリエステルは、各残基を構成する脂肪族モノアルコール、脂肪族ジカルボン酸、並びにアルキレングリコール及び/又はオキシアルキレングリコールを含む反応原料を用いて得られる。ここで反応原料とは、本発明のポリエステルを構成する原料という意味であり、ポリエステルを構成しない溶媒や触媒を含まない意味である。
本発明のポリエステルの製造方法は特に限定されず、公知の方法により製造することができ、後述する製造方法により製造することができる。
【0034】
本発明のポリエステルの製造に用いる脂肪族モノアルコールは、B1の炭素原子数1~12の脂肪族モノアルコール残基に対応する脂肪族モノアルコールであり、使用する脂肪族モノアルコールは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明のポリエステルの製造に用いる脂肪族ジカルボン酸は、Aの炭素原子1~6の脂肪族ジカルボン酸残基に対応する脂肪族ジカルボン酸であり、使用する脂肪族ジカルボン酸は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明のポリエステルの製造に用いるアルキレングリコールは、G1の炭素原子数2~12のアルキレングリコール残基に対応するアルキレングリコールであり、使用するアルキレングリコールは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明のポリエステルの製造に用いるオキシアルキレングリコールは、G1の炭素原子数4~12のオキシアルキレングリコール残基に対応するオキシアルキレングリコールであり、使用するオキシアルキレングリコールは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
本発明のポリエステルの製造に用いる脂肪族モノアルコール、脂肪族ジカルボン酸、アルキレングリコール及びオキシアルキレングリコールは、いずれもその誘導体を用いることができる。
当該誘導体としては、例えばエステル化物、酸塩化物、環状エステル等が挙げられる。
【0036】
本発明のポリエステルは、例えば本発明のポリエステルの各残基を構成する脂肪族モノカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸並びにアルキレングリコール及び/又はオキシアルキレングリコールを反応原料に含まれる水酸基の当量がカルボキシル基の当量よりも多くなる条件下で一括で反応させることによって製造できる。
本発明のポリエステルは、例えば本発明のポリエステルの各残基を構成する脂肪族ジカルボン酸並びにアルキレングリコール及び/又はオキシアルキレングリコールを、反応原料に含まれるカルボキシル基の当量が水酸基の当量よりも多くなる条件下で反応させ、主鎖の末端にカルボキシル基を有するポリエステルを得た後、得られたポリエステルにさらに脂肪族モノアルコールを反応させることによっても製造できる。
【0037】
本発明のポリエステルの製造において、前記反応原料の反応は、必要に応じてエステル化触媒の存在下で、例えば170~250℃の温度範囲内で10~25時間の範囲でエステル化反応させるとよい。
尚、エステル化反応の温度、時間などの条件は特に限定されず、適宜設定してよい。
【0038】
前記エステル化触媒としては、例えば、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等のチタン系触媒;酢酸亜鉛等の亜鉛系触媒;オクチル酸錫、ジブチル錫オキサイド等のスズ系触媒;p-トルエンスルホン酸等の有機スルホン酸系触媒などが挙げられる。
【0039】
前記エステル化触媒の使用量は、適宜設定すればよいが、通常、反応原料の全量100質量部に対して、0.0001~0.1質量部の範囲で使用する。
【0040】
(ジエステル化合物)
B2の炭素原子数6~12の芳香族モノカルボン酸残基としては、例えば安息香酸残基、ジメチル安息香酸残基、トリメチル安息香酸残基、テトラメチル安息香酸残基、エチル安息香酸残基、プロピル安息香酸残基、ブチル安息香酸残基、クミン酸残基、パラターシャリブチル安息香酸残基、オルソトルイル酸残基、メタトルイル酸残基、パラトルイル酸残基、エトキシ安息香酸残基、プロポキシ安息香酸残基、アニス酸残基、ナフトエ酸残基等が挙げられる。
【0041】
B2の炭素原子数1~8の脂肪族モノカルボン酸残基としては、例えば酢酸残基、プロピオン酸残基、ブタン酸残基、ヘキサン酸残基、オクタン酸残基、オクチル酸残基等が挙げられる。
【0042】
B2は、好ましくは安息香酸残基、パラトルイル酸残基から選択される1種以上である。
【0043】
G2の炭素原子数2~12のアルキレングリコール残基の具体例及び好ましい炭素原子数2~12のアルキレングリコール残基は、G1の炭素原子数2~12のアルキレングリコール残基と同じである。
【0044】
G2の炭素原子数4~12のオキシアルキレングリコール残基の具体例及び好ましい炭素原子数4~12のオキシアルキレングリコール残基は、G1の炭素原子数4~12のオキシアルキレングリコール残基と同じである。
【0045】
尚、G1とG2は互いに同じでもよく、異なってもよい。
【0046】
本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤を構成する本発明のジエステル化合物は、前記一般式(2)を満たすジエステル化合物であればよく、例えば互いに構造が異なる2種以上のジエステル化合物であってもよい。
【0047】
本発明のジエステル化合物は、各残基を構成するアルキレングリコール又はオキシアルキレングリコール、並びに脂肪族モノカルボン酸及び/又は芳香族モノカルボン酸を含む反応原料を用いて得られる。
【0048】
本発明のジエステル化合物は、好ましくはエチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール及びジプロピレングリコールから選択される1種以上と、安息香酸及びパラトルイル酸から選択される1種以上とのジエステルである。
【0049】
本発明のジエステル化合物の製造方法は特に限定されず、公知の方法により製造することができ、市販品を用いてもよい。
【0050】
本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤において、本発明のポリエステルと本発明のジエステル化合物との質量比(ポリエステル/ジエステル化合物)は、好ましくは95/5~30/70の範囲であり、より好ましくは80/20~40/60の範囲である。
【0051】
[セルロースエステル樹脂組成物]
本発明のセルロースエステル樹脂組成物は、本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤とセルロースエステル樹脂とを含有する組成物である。
本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤の含有量(ポリエステル及びジエステル化合物の合計量)は、セルロースエステル樹脂100質量部に対して、1~30質量部の範囲であり、好ましくは1~20質量部の範囲であり、より好ましくは3~20質量部の範囲である。
【0052】
以下、本発明のセルロースエステル樹脂組成物が含む各成分について説明する。
【0053】
(セルロースエステル樹脂)
セルロースエステル樹脂としては、例えば、セルロースアセテート(CA)、セルロースジアセテート(DAC)、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートブチレート(CAB)、セルロースアセテートフタレート、ポリカプロラクトングラフト化セルロースアセテート等が挙げられる。これらの中でも、機械的特性(引張強度、曲げ強度、曲げ弾性等)が良好なことから、好ましくは、セルロースアセテート、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート等のアセチル化されたセルロースである。
セルロースエステル樹脂は、1種単独で用いることも2種以上を併用することもできる。
【0054】
セルロースエステル樹脂が、アセチル化されたセルロースの場合には、その重合度が250~400の範囲であることが好ましい。また、セルロースエステル樹脂が、アセチル化されたセルロースの場合には、酢化度が54.0~62.5質量%の範囲であることが好ましく、58.0~62.5質量%の範囲であることがより好ましい。
前記セルロースアセテートの重合度と酢化度が上記範囲であれば、優れた機械的物性を有するフィルムを得ることができる。本発明では、所謂セルローストリアセテートを使用することがより好ましい。尚、本発明でいう酢化度とは、セルロースアセテートの全量に対する、該セルロースアセテートをケン化することによって生成する酢酸の質量割合である。
【0055】
尚、「平均重合度」とは、宇田らの極限粘度法(宇田和夫、斉藤秀夫、「繊維学会誌」、第18巻第1号、105~120頁、1962年)に準拠して測定できる。具体的には、絶乾したセルロースエステル0.2gを精秤し、メチレンクロライド:エタノール=9:1(質量比)の混合溶媒100mlに溶解し、この溶液をオストワルド粘度計にて恒温水槽温度25℃で落下秒数を測定して、平均重合度を以下の〔式1〕により算出する。
平均重合度=[η]/Km・・・〔式1〕
[η]=(lnηrel)/C
ηrel=T/T0
Km=6×10-4
T:測定サンプルの落下時間(秒)
T0:溶剤の落下時間(秒)
C:サンプルの濃度(g/l)
【0056】
セルロースエステル樹脂の数平均分子量は、好ましくは70,000~300,000の範囲であり、より好ましくは80,000~200,000の範囲である。
【0057】
セルロースエステル樹脂は、市販品を用いてもよく、当該市販品としては、例えば、株式会社ダイセル製「L-20」(平均アセチル置換度2.41、平均重合度145)、「L-30」(平均アセチル置換度2.41、平均重合度160)、「L-50」(平均アセチル置換度2.41、平均重合度180)、「L-70」(平均アセチル置換度2.41、平均重合度190)等のセルロースジアセテート、株式会社ダイセル製「LT-35」(平均アセチル置換度2.87、平均重合度270)、「LT-105」(平均アセチル置換度2.87、平均重合度350)等のセルローストリアセテート等が挙げられる。
【0058】
セルロースエステル樹脂は、前記市販品を用いることができるほか、合成したものを用いることもできる。セルロースエステル樹脂の合成方法は、公知の方法により合成することができ、その合成方法は特に限定されない。
【0059】
セルロースエステル樹脂の合成方法としては、例えば、木材パルプ(例えば、針葉樹パルプ、広葉樹パルプ等)、コットンリンター等のセルロース分子内のグルコース残基の2位、3位、6位の水酸基を全て、若しくはその一部の水酸基をエステル化して合成することができる。
【0060】
セルロースエステル樹脂として、アセチル化されたセルロースを得る場合には、セルロースを所定量のアセチル化剤と反応させる公知のエステル化により生成でき、必要に応じて熟成工程・沈殿工程・精製工程・乾燥工程等を経て合成することができる。
【0061】
例えば、(1)パルプ(セルロース)を解砕後、酢酸を主とするモノカルボン酸の散布混合により前処理活性化した後、無水酢酸を主とするモノカルボン酸無水物を硫酸等のエステル化触媒を用いてセルローストリアセテートを調製するエステル化工程、次いで、(2)得られたセルローストリアセテートを加水分解により所望のアシル置換度に調整する熟成工程、更に、(3)得られたセルロースアセチル化物より、濾過、沈殿分離、水洗、脱水、乾燥する後処理工程、等の一連の工程を経ることにより合成できる。
【0062】
前記エステル化触媒の種類、使用量、反応温度、熟成温度等の諸条件は、特に限定されない。
また、前記エステル化触媒としては、例えば、硫酸等の酸を使用した場合には、残留した酸を中和するためにモノカルボン酸金属塩等の塩基で生成物を処理してもよく、中和に用いる塩基の種類は、特に限定されない。
【0063】
(その他添加剤)
本発明のセルロースエステル樹脂組成物は、本発明のセルロースエステル樹脂用改質剤とセルロースエステル樹脂とを含めばよく、本発明の効果を損なわない範囲でその他添加剤を含有してもよい。
【0064】
前記その他添加剤としては例えば、本発明の改質剤以外のその他改質剤、熱可塑性樹脂、紫外線吸収剤、マット剤、安定剤、劣化防止剤(例えば、酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤等)、染料などが挙げられる。
【0065】
前記その他の改質剤としては、本発明のポリエステル及びジエステル化合物以外のエステル化合物、トリフェニルホスフェート(TPP)、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート等のリン酸エステル、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ-2-エチルヘキシルフタレート等のフタル酸エステル、エチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、トリメチロールプロパントリベンゾエート、ペンタエリスリトールテトラアセテート、アセチルクエン酸トリブチル等が挙げられる。
【0066】
前記熱可塑性樹脂としては、例えば、本発明のエステル樹脂以外のポリエステル樹脂、ポリエステルエーテル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、トルエンスルホンアミド樹脂等が挙げられる。
【0067】
前記紫外線吸収剤としては、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等が挙げられる。
前記紫外線吸収剤は、前記セルロースエステル樹脂100質量部に対して、0.01~2質量部の範囲で用いることが好ましい。
【0068】
前記マット剤としては、例えば、酸化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、リン酸カルシウム、カオリン、タルク等が挙げられる。
前記マット剤は、前記セルロースエステル樹脂100質量部に対して、0.1~0.3質量部の範囲で用いることが好ましい。
【0069】
前記安定剤としては、例えば、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、脂肪酸金属塩等が挙げられる。
前記安定剤は、前記セルロースエステル樹脂100質量部に対して、50~5000ppmの範囲で用いることが好ましい。
【0070】
前記染料は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、種類や配合量などは特に限定されない。
【0071】
[光学フィルム]
本発明の光学フィルムは、本発明のセルロースエステル樹脂組成物を用いることにより製造でき、弾性率、耐湿熱性、耐透湿性、且つ寸法安定性に優れていることから、例えば、表示装置の光学フィルムに使用できる。
前記表示装置の光学フィルムとしては、例えば、偏光板用保護フィルム、位相差フィルム、反射フィルム、視野角向上フィルム、防眩フィルム、無反射フィルム、帯電防止フィルム、カラーフィルター等が挙げられ、それらの中でも、偏光板用保護フィルムとして好適に用いることができる。
【0072】
本発明の光学フィルムの膜厚は、20~120μmの範囲が好ましく、25~100μmの範囲がより好ましく、25~80μmの範囲が特に好ましい。
【0073】
本発明の光学フィルムを得るには、例えば、押し出し成形、キャスト成形等の手法が用いられる。具体的には、例えば、Tダイ、円形ダイ等が装着された押出機等を用いて、未延伸状態の光学フィルムを押し出し成形することができる。押し出し成形により本発明の光学フィルムを得る場合は、事前に前記エステル樹脂、エステル樹脂混合物、セルロースエステル樹脂等の光学材料用樹脂、その他添加剤等を溶融混錬して得られる樹脂組成物を用いることもできれば、押し出し成形時に溶融混錬し、そのまま押し出し成形することもできる。
【0074】
前記光学フィルムは、例えば、前記セルロースエステル樹脂組成物等の光学材料用樹脂を有機溶剤中に溶解して得られる樹脂溶液を、金属支持体上に流延させ、次いで、前記有機溶剤を留去し乾燥させる、いわゆる溶液流延法(ソルベントキャスト法)で成形することによって得ることもできる。
【0075】
溶液流延法で得られる未延伸フィルムは、実質的に光学等方性を示す。前記光学等方性を示すフィルムは、例えば液晶ディスプレイ等の光学材料に使用することができ、中でも偏光板用保護フィルムに有用である。また、前記方法によって得られたフィルムは、その表面に凹凸が形成されにくく、表面平滑性に優れる。
【0076】
前記溶液流延法は、一般に、例えば、セルロースエステル樹脂とセルロースエステル樹脂用改質剤を溶剤中に溶解させ、得られた樹脂溶液を金属支持体上に流延させる第1工程と、流延させた前記樹脂溶液中に含まれる有機溶剤を留去し乾燥させてフィルムを形成する第2工程、それに続く、金属支持体上に形成されたフィルムを金属支持体から剥離し加熱乾燥させる第3工程からなる。
【0077】
前記第1工程で使用する金属支持体としては、無端ベルト状又はドラム状の金属製のもの等を例示でき、例えば、ステンレス製でその表面が鏡面仕上げの施されたものを使用することができる。
【0078】
前記金属支持体上に樹脂溶液を流延させる際には、得られるフィルムに異物が混入することを防止するために、フィルターで濾過した樹脂溶液を使用することが好ましい。
【0079】
前記第2工程の乾燥方法としては、特に限定しないが、例えば30~50℃の温度範囲の風を前記金属支持体の上面及び/又は下面に当てることで、流延した前記樹脂溶液中に含まれる有機溶剤の50~80質量%を蒸発させ、前記金属支持体上にフィルムを形成させる方法が挙げられる。
【0080】
次いで、前記第3工程は、前記第2工程で形成されたフィルムを金属支持体上から剥離し、前記第2工程よりも高い温度条件下で加熱乾燥させる工程である。前記加熱乾燥方法としては、例えば100~160℃の温度条件にて段階的に温度を上昇させる方法が、良好な寸法安定性を得ることができるため、好ましい。前記温度条件にて加熱乾燥することにより、前記第2工程後のフィルム中に残存する有機溶剤をほぼ完全に除去することができる。
【0081】
尚、前記第1工程~第3工程で、溶媒は回収し再使用することも可能である。
【0082】
セルロースエステル樹脂とセルロースエステル樹脂用改質剤を溶解する際に使用できる有機溶剤としては、それらを溶解可能なものであれば特に限定しないが、例えば光学材料用樹脂としてセルロースアセテートを使用する場合は、良溶媒として、例えばメチレンクロライド等の有機ハロゲン化合物やジオキソラン類を使用することが好ましい。
【0083】
前記良溶媒と共に、例えばメタノール、エタノール、2-プロパノール、n-ブタノール、シクロヘキサン、シクロヘキサノン等の貧溶媒を併用することが、フィルムの生産効率を向上させるうえで好ましい。
前記良溶媒と貧溶媒との混合割合は、良溶媒/貧溶媒=75/25~95/5質量比の範囲であることが好ましい。
【0084】
前記樹脂溶液中のセルロースエステル樹脂の濃度は、10~50質量%の範囲が好ましく、15~35質量%の範囲がより好ましい。
【0085】
本発明においては、例えば、前記の方法で得られる未延伸状態の光学フィルムを必要に応じて、機械的流れ方向に縦一軸延伸、機械的流れ方向に直行する方向に横一軸延伸することで延伸された光学フィルムを得ることができる。また、ロール延伸とテンター延伸の逐次2軸延伸法、テンター延伸による同時2軸延伸法、チューブラー延伸による2軸延伸法等によって延伸することにより2軸延伸された延伸フィルムを得ることができる。延伸倍率は少なくともどちらか一方向に0.1%以上300%以下であることが好ましく、0.2%以上250%以下であることがさらに好ましく、0.3%以上200%以下であることが最も好ましい。この範囲に設計することにより、複屈折、耐熱性、強度の観点で好ましい延伸された光学フィルムが得られる。
【0086】
本発明に係る光学フィルムは、光学材料として、偏光レンズやサングラス用の偏光板保護フィルム、液晶表示装置、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、リアプロジェクションテレビ等のディスプレイに用いられる偏光板保護フィルム、1/4波長板、1/2波長板、視野角制御フィルム、液晶光学補償フィルム等の位相差フィルム、ディスプレイ前面板等に好適に用いることができる。また、本発明の樹脂組成物は、その他にも、光通信システム、光交換システム、光計測システムの分野において、導波路、レンズ、光ファイバー、光ファイバーの基材、被覆材料、LEDのレンズ、レンズカバーなどにも用いることができる。
【実施例0087】
以下、実施例と比較例とにより、本発明を具体的に説明する。
尚、本発明は下記実施例に限定されない。
【0088】
本願実施例において、酸価及び水酸基価の値は、下記方法により評価した値である。
[酸価の測定方法]
JIS K0070-1992に準じた方法により測定した。
[水酸基価の測定方法]
JIS K0070-1992に準じた方法により測定した。
【0089】
本願実施例において、ポリエステルの数平均分子量は、GPC測定に基づきポリスチレン換算した値であり、測定条件は下記の通りである。
[GPC測定条件]
測定装置:東ソー株式会社製高速GPC装置「HLC-8320GPC」
カラム:東ソー株式会社製「TSK GURDCOLUMN SuperHZ-L」+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZM-M」+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZM-M」+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZ-2000」+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZ-2000」
検出器:RI(示差屈折計)
データ処理:東ソー株式会社製「EcoSEC Data Analysis バージョン1.07」
カラム温度:40℃
展開溶媒:テトラヒドロフラン
流速:0.35mL/分
測定試料:試料7.5mgを10mlのテトラヒドロフランに溶解し、得られた溶液をマイクロフィルターでろ過したものを測定試料とした。
試料注入量:20μl
標準試料:前記「HLC-8320GPC」の測定マニュアルに準拠して、分子量が既知の下記の単分散ポリスチレンを用いた。
【0090】
(単分散ポリスチレン)
東ソー株式会社製「A-300」
東ソー株式会社製「A-500」
東ソー株式会社製「A-1000」
東ソー株式会社製「A-2500」
東ソー株式会社製「A-5000」
東ソー株式会社製「F-1」
東ソー株式会社製「F-2」
東ソー株式会社製「F-4」
東ソー株式会社製「F-10」
東ソー株式会社製「F-20」
東ソー株式会社製「F-40」
東ソー株式会社製「F-80」
東ソー株式会社製「F-128」
東ソー株式会社製「F-288」
【0091】
(合成実施例1:ポリエステル(P1)の合成)
2リットル4つ口フラスコに、グリコール成分として1,2-プロピレングリコール(以下「PG」と略す。)216g、ジカルボン酸成分としてアジピン酸(以下「AA」と略す。)611g、モノアルコール成分として2-エチルヘキサノール462g及び触媒としてテトライソプロピルチタネート(以下「TiPT」と略す。)0.081gを仕込み、窒素導入管より窒素気流下、攪拌しながら段階的に220℃まで昇温した。220℃で13時間縮合反応させ、酸価が1.0以下になった時点で反応生成物から減圧下200℃で未反応成分を除去して、透明淡黄色液体のポリエステル(P1)を得た。
得られたポリエステル(P1)の数平均分子量は760であり、酸価0.3であり、水酸基価は10であった。
【0092】
(合成実施例2:ポリエステル(P2)の合成)
2リットル4つ口フラスコに、グリコール成分としてエチレングリコール(以下「EG」と略す。)83g及びPG102g、ジカルボン酸成分としてAA574g、モノアルコール成分としてイソノニルアルコール482g及び触媒としてTiPT0.062gを仕込み、窒素導入管より窒素気流下、攪拌しながら段階的に220℃まで昇温した。220℃で13時間縮合反応させ、酸価が1.0以下になった時点で反応生成物から減圧下200℃で未反応成分を除去して、透明淡黄色液体のポリエステル(P2)を得た。
得られたポリエステル(P2)の数平均分子量は1,190であり、酸価0.3であり、水酸基価は9であった。
【0093】
(合成実施例3:ポリエステル(P3)の合成)
2リットル4つ口フラスコに、グリコール成分としてEG217g、ジカルボン酸成分としてAA614g、モノアルコール成分としてブタノール125g及び触媒としてTiPT0.057gを仕込み、窒素導入管より窒素気流下、攪拌しながら段階的に220℃まで昇温した。220℃で13時間縮合反応させ、酸価が1.0以下になった時点で反応生成物から減圧下200℃で未反応成分を除去して、透明淡黄色液体のポリエステル(P3)を得た。
得られたポリエステル(P3)の数平均分子量は1,280であり、酸価0.3であり、水酸基価は12であった。
【0094】
(合成比較例1:ポリエステル(P1’)の合成)
2リットル4つ口フラスコに、グリコール成分としてPG405g、ジカルボン酸としてAA79g、無水フタル酸240g、モノカルボン酸として安息香酸(以下「BzA」と略す。)586g及び触媒としてTiPT0.08gを仕込み、窒素導入管より窒素気流下、攪拌しながら230℃まで段階的に昇温した。230℃で19時間縮合反応させ、酸価が1.0以下になった時点で反応生成物から減圧下200℃で未反応成分を除去して、透明淡黄色液体のポリエステル(P1’)を得た。得られたポリエステル(P1’)の数平均分子量(Mn)は405であり、酸価0.2であり、水酸基価は16であった。
【0095】
(合成実施例5:ジエステル(D1)の合成)
2リットル4つ口フラスコに、BzA900gと、ジプロピレングリコール(以下「DPG」と略す。)547gと、TiPTを0.74gとを仕込んだ後、220℃まで昇温し11時間反応させた。反応後、200℃で未反応のグリコールを減圧留去した。未反応アルコールの流出がなくなった後、減圧を解除及び降温して、反応生成物を濾過して取り出し、透明黄色液状のジエステル(D1)を得た。
ジエステル化合物(D1)の数平均分子量は340であり、酸価は0.2であり、水酸基価は5であった。
【0096】
(合成実施例6:ジエステル(D2)の合成)
2リットル4つ口フラスコに、BzA900gと、PG294g、DPG50gと、TiPTを0.62gとを仕込んだ後、220℃まで昇温し11時間反応させた。反応後、200℃で未反応のグリコールを減圧留去した。未反応アルコールの流出がなくなった後、減圧を解除及び降温して、反応生成物を濾過して取り出し、透明黄色液状のジエステル(D2)を得た。
ジエステル化合物(D2)の数平均分子量は290であり、酸価は0.2であり、水酸基価は5であった。
【0097】
(実施例1:セルロースエステル光学フィルムの製造と評価)
トリアセチルセルロース樹脂(株式会社ダイセル製「LT-35」)100質量部、ポリエステル(P1)を6質量部、ジエステル(D1)を4質量部を、メチレンクロライド810部及びメタノール90部からなる混合溶剤に加えて溶解し、セルロースエステル樹脂組成物であるドープ液を調製した。
得られたドープ液をガラス板上に流延し、室温で16時間乾燥させた後、50℃で30分、さらに120℃で30分乾燥させることで、光学フィルム(膜厚40μm)を得た。得られたフィルムについて、下記評価を実施した。結果を表1に示す。
【0098】
(1)透湿度
光学フィルムの透湿度をJIS Z 0208-1976に記載の方法で測定した。測定条件は、温度40℃、相対湿度90%で行なった。
透湿度は、得られる値が小さい程、耐透湿性に優れることを表す。
【0099】
(2)HAZE値
光学フィルムのHAZE値を、濁度計(日本電色工業株式会社製「NDH 5000」)を用いて、JIS K 7105-1981に準じて測定した。
HAZE値は、得られる値が0%に近いほど透明であること表す。
【0100】
(3)湿熱試験
膜厚40μmの光学フィルムを85℃、相対湿度90%の環境下(湿熱環境下)に120時間晒した。
(3-1)湿熱試験後の状態
湿熱試験後の光学フィルムの状態を目視で確認し、以下の基準で評価した。
A:湿熱試験前後でフィルムの状態に変化無し
B:フィルム表面にわずかにブリードアウトが確認された
C:フィルム表面に明らかなブリードアウトが確認された
(3-2)湿熱試験後HAZE値
湿熱試験後の光学フィルムについて、上記と同じ方法でHAZE値を測定した。
(3-3)湿熱試験後減量
湿熱試験前の光学フィルムと湿熱試験後の光学フィルムとで重量を比較し、(湿熱試験前の光学フィルムの質量-湿熱試験後の光学フィルムの質量)/湿熱試験前の光学フィルムの計算をして、湿熱試験後の光学フィルムの減量を評価した。この値が低いほど、光学フィルムの不揮発性が高いことになり好ましい。
【0101】
(4)弾性率
光学フィルムの弾性率を下記装置と条件で評価した。
弾性率は、値が小さい程、柔らかいフィルムであることを表す。
装置 :(株)島津製作所製オートグラフAG-IS
試験片 :150mm×10mm,厚さ40μmの短冊形
チャック間:100mm
試験速度 :10mm/分
【0102】
(5)伸度
光学フィルムの伸度を下記装置と条件で評価した。
伸度は、その値が大きいほど柔らかく加工性に優れたフィルムであることを表す。
装置 :(株)島津製作所製オートグラフ AG IS
試験片 :150mm×10mm,厚さ40μmの短冊形
チャック間:100mm
試験速度 :10mm/分
【0103】
(6)寸法安定性
相対湿度を0%から80%にしたときの光学フィルムの寸法変化率を測定した。変化率が小さいほど、寸法安定性に優れることを示す。
装置 :(株)日立ハイテク社製 SIINT TMA/SS6100+湿度制御ユニット
測定温度 :40℃一定
相対湿度 :0%~80%
測定荷重 :50mN
試験片膜厚:40μm
【0104】
(実施例2~6及び比較例1~6:セルロースエステル光学フィルムの製造と評価)
表1に示すポリエステル及びジエステルを表1に示すで用いた他は実施例1と同様にして光学フィルムを製造し、評価した。結果を表1に示す。
【0105】
【0106】
表1の結果から、特定のポリエステルとジエステルを含有する実施例1-5の組成物を用いて得られた光学フィルムでは透湿度が低く抑えられ、透明性も損なわれておらず、寸法安定性にも優れていることが分かる。一方、ポリエステルは含有するもののジエステルを含有しない比較例2-4の組成物を用いて得られた光学フィルムでは、ポリエステルの相溶性が不十分でブリードアウトが生じて透明性が確保できていない。ポリエステルとジエステルを含有するものの、前記ポリエステルが芳香族環構造を含むものである比較例5の組成物を用いて得られた光学フィルムでは、可塑化効果が得られていない。
また、ジエステルを含有するもののポリエステルを含有しない比較例6の組成物を用いて得られた光学フィルムでは、湿熱後減量が大きく、耐湿熱性が不十分である。添加剤を含有しない比較例1およびトリフェニルホスフェートを含有する比較例7では、耐透湿性が不十分である。尚、トリフェニルホスフェートは、セルロースエステル光学フィルム用として公知の可塑剤である(例えば特許文献1)。
【0107】
(耐久性評価)
実施例2の光学フィルムおよび比較例7の光学フィルムについては、耐久性試験を別途行った。具体的には、1.200gのフィルムを24mLの密閉容器に入れ、蓋を開放した状態で85℃90湿度%条件下でフィルムに十分吸水させた。その後に密閉容器を密栓し、再び85℃90湿度%条件下に1週間保管し、フィルムから発生する酢酸発生量をガス検知管(北川式ガス検知管216S、ガス採取器AP-20、光明理化学工業株式会社製)により測定した。結果を表2に示す。尚、酢酸発生量の検出限界は125ppmである。
セルロースエステルフィルムが加水分解をすると酢酸を発生するため、酢酸発生量が少ないほど、耐久性に優れるフィルムであると言える。
【0108】
【0109】
トリフェニルホスフェートを含有する比較例7の光学フィルムでは酢酸発生量が検出限界を超えており、フィルムの耐久性に問題があることが分かる。