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特開2022-189110軽度認知障害の検査キット及び検査方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189110
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】軽度認知障害の検査キット及び検査方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 10/00 20060101AFI20221215BHJP
   C11B 9/00 20060101ALN20221215BHJP
【FI】
A61B10/00 H
C11B9/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097498
(22)【出願日】2021-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】福本 高大
(72)【発明者】
【氏名】江▲崎▼ 俊文
(72)【発明者】
【氏名】石山 龍太郎
【テーマコード(参考)】
4H059
【Fターム(参考)】
4H059BC10
4H059DA09
4H059EA36
4H059EA40
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、嗅覚検査によって軽度認知障害を検査する技術を提供することである。
【解決手段】バター調香料液、歯磨き粉調香料液、及び墨汁調香料液を使用してそれぞれ嗅覚検査を行うことにより、軽度認知障害の罹患の有無を診断できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
認知機能レベルに基づいて軽度認知障害の罹患の有無を検査するためのキットであって、
嗅覚検査用香料液として、バター調香料液、歯磨き粉調香料液、及び墨汁調香料液を含む、検査キット。
【請求項2】
更に、嗅覚検査用香料液として、りんご調香料液、ひのき調香料液、及び石鹸調香料液よりなる群から選択される少なくとも1種の香料液を含む、請求項1に記載の検査キット。
【請求項3】
更に、嗅覚検査用香料液として、りんご調香料液、ひのき調香料液、及び石鹸調香料液を含む、請求項1に記載の検査キット。
【請求項4】
被験者に嗅覚検査の結果を回答させるための回答用紙が含まれる、請求項1~3のいずれかに記載の検査キット。
【請求項5】
認知機能レベルに基づいて軽度認知障害を検査する方法であって、バター調香料液、歯磨き粉調香料液、及び墨汁調香料液を用いて嗅覚検査を行う、検査方法。
【請求項6】
更に、りんご調香料液、ひのき調香料液、及び石鹸調香料液よりなる群から選択される少なくとも1種の香料液を用いて嗅覚検査を行う、請求項5に記載の検査方法。
【請求項7】
更に、りんご調香料液、ひのき調香料液、及び石鹸調香料液を用いて嗅覚検査を行う、請求項5に記載の検査方法。
【請求項8】
香料液毎に回答の正誤に応じたスコアを設定し、当該スコアの合計値を検査指標として使用する、請求項5~7のいずれかに記載の検査方法。
【請求項9】
以下の比率を満たすように香料液毎に回答の正誤に応じたスコアを設定し、当該スコアの合計値を検査指標として使用する、請求項7に記載の検査方法。
<回答の正誤に応じたスコアの比率>
・バター調香料液の嗅覚検査:正答の場合は2、正答でない場合は-3~0
・歯磨き粉調香料液:正答の場合は0.25~4、正答でない場合は-3~0
・墨汁調香料液:正答の場合は0.25~4、正答でない場合は-3~0
・りんご調香料液:正答の場合は0.25~4、正答でない場合は-3~0
・ひのき調香料液:正答の場合は0.25~4、正答でない場合は-3~0
・石鹸調香料液:正答の場合は0.25~4、正答でない場合は-3~0
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽度認知障害の罹患の有無を検査するための検査キット及び検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢化社会がますます進む中で、認知症患者は増加の一途をたどっている。更に、日本国としても認知症施策推進大綱という国策も進めており、社会的課題としての認知症に取り組んでいく必要がある。そのような中で、認知症の特効薬はなく、治療よりも予防が重要な課題となっている。また、早期で予防的介入を行うことで認知症の進行を抑えられることがわかっているため、認知機能低下等の臨床症状が出始めるよりも前段階でそのリスクを把握することができれば非常に有意義である。
【0003】
認知症を発症する過程において、軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment;MCI)という前駆状態を経由することが知られている。軽度認知障害は、正常と認知症の中間の症状であり、物忘れはあるが、日常生活に支障はない症状であり、高齢者が必ず発症するものではなく、比較的若年の中高年でも認められている。また、軽度認知症を発症すれば、必ず認知症に進行するのではなく、軽度認知症から正常レベルに回復する人もいる。そのため、認知症に進行する前の軽度認知障害に対して適切な処置を行うことが認知症を予防に有効であり、そのためには軽度認知障害の罹患の有無を検査することが重要になる。
【0004】
従来、軽度認知障害の検査方法について種々報告されている。例えば、特許文献1には、生体試料中のHMGB1の濃度を指標として軽度認知障害を検査できることが報告されている。また、特許文献2には、生体試料中の特定のmiRNA発現レベルを指標として軽度認知障害を検査できることが記載されている。しかしながら、特許文献1及び2に記載の手法では、血漿や脳脊髄液等の生体試料が必要とされ、侵襲な検査であり、被験者の負担が大きいという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-204554号公報
【特許文献2】特開2017-46659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
認知症は嗅覚機能の低下を伴うため、嗅覚検査によって認知症の罹患の有無を検査できることが知られている。しかしながら、従来、軽度認知障害の有無を嗅覚検査によって検査できることは知られておらず、まして、どのような香りを選択すれば、嗅覚検査によって軽度認知障害の有無を判定できるかについては明らかにされていない。
【0007】
そこで、本発明は、嗅覚検査によって軽度認知障害を検査する技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、多種存在する香りの中でも、バターの香り、歯磨き粉の香り、及び墨汁の香りの組み合わせを選択し、これらの香りを使用して嗅覚検査を行うことにより、軽度認知障害の有無を判定できることを見出した。更に、前記3種の香りに加えて、りんごの香り、ひのきの香り、及び石鹸の香りの中の少なくとも1種の香りを組み合わせて嗅覚検査を行うことにより、より高精度に、軽度認知障害の有無を判定できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0009】
即ち、本発明は、以下に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 認知機能レベルに基づいて軽度認知障害の罹患の有無を検査するためのキットであって、
嗅覚検査用香料液として、バター調香料液、歯磨き粉調香料液、及び墨汁調香料液を含む、検査キット。
項2. 更に、嗅覚検査用香料液として、りんご調香料液、ひのき調香料液、及び石鹸調香料液よりなる群から選択される少なくとも1種の香料液を含む、項1に記載の検査キット。
項3. 更に、嗅覚検査用香料液として、りんご調香料液、ひのき調香料液、及び石鹸調香料液を含む、項1に記載の検査キット。
項4. 被験者に嗅覚検査の結果を回答させるための回答用紙が含まれる、項1~3のいずれかに記載の検査キット。
項5. 認知機能レベルに基づいて軽度認知障害を検査する方法であって、バター調香料液、歯磨き粉調香料液、及び墨汁調香料液を用いて嗅覚検査を行う、検査方法。
項6. 更に、りんご調香料液、ひのき調香料液、及び石鹸調香料液よりなる群から選択される少なくとも1種の香料液を用いて嗅覚検査を行う、項5に記載の検査方法。
項7. 更に、りんご調香料液、ひのき調香料液、及び石鹸調香料液を用いて嗅覚検査を行う、項5に記載の検査方法。
項8. 香料液毎に回答の正誤に応じたスコアを設定し、当該スコアの合計値を検査指標として使用する、項5~7のいずれかに記載の検査方法。
項9. 使用した香料液毎に回答の正誤に応じたスコアが以下の比率を満たすように設定し、当該スコアの合計値を検査指標として使用する、項7に記載の検査方法。
<回答の正誤に応じたスコアの比率>
<回答の正誤に応じたスコアの比率>
・バター調香料液の嗅覚検査:正答の場合は2、正答でない場合は-3~0
・歯磨き粉調香料液:正答の場合は0.25~4、正答でない場合は-3~0
・墨汁調香料液:正答の場合は0.25~4、正答でない場合は-3~0
・りんご調香料液:正答の場合は0.25~4、正答でない場合は-3~0
・ひのき調香料液:正答の場合は0.25~4、正答でない場合は-3~0
・石鹸調香料液:正答の場合は0.25~4、正答でない場合は-3~0
【発明の効果】
【0010】
本発明の検査キット及び検査方法によれば、非侵襲な嗅覚検査によって、検査軽度認知障害の罹患の有無を精度よく検査することができるので、認知症に罹患するおそれがある者を効率的にスクリーニングすることが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.軽度認知障害の検査キット
本発明の検査キットは、軽度認知障害の罹患の有無を検査するためのキットであって、嗅覚検査用香料液として、バター調香料液、歯磨き粉調香料液、及び墨汁調香料液を含むことを特徴とする。以下、本発明の検査キットについて詳述する。
【0012】
[臭覚検査用香料液]
本発明の検査キットでは、臭覚検査用の香料液として、バター調香料液、歯磨き粉調香料液、及び墨汁調香料液を含む。これらの3種の香料液をそれぞれ使用して臭覚検査を行うことにより、軽度認知障害の罹患の有無を検査することが可能になる。
【0013】
バター調香料液とは、バターを想起させる香りを呈する香料液である。当業者であれば、バター調香料液は、公知の香料成分を用いて公知の調香手法で調製することができる。例えば、バター調香料液は、δ-デカラクトン、アセトアルデヒド、メチルブタノン、ヘプタナール等の香料成分を主成分として調香することにより調製することができる。また、バター調香料液は、香料成分のみで構成されていてもよく、また、香料成分に加えて、水、パラフィン系炭化水素、1価低級アルコール、多価アルコール等の溶剤;界面活性剤、可溶化剤等の添加剤等が含まれていてもよい。バター調香料液における香料成分の含有量については、バターを想起させる香りを呈し得ることを限度として特に制限されないが、例えば、0.001~100重量%が挙げられる。軽度認知障害の検査精度をより向上させる観点から、バター調香料液における香料成分の含有量として、好ましくは0.001~10重量%、より好ましくは0.005~1.0重量%が挙げられる。
【0014】
歯磨き粉調香料液とは、歯磨き粉を想起させる香りを呈する香料液である。当業者であれば、歯磨き粉調香料液は、公知の香料成分を用いて公知の調香手法で調製することができる。例えば、歯磨き粉調香料液は、カルボン、ミントオイル、メントフラン、メントール、メントン、メンチルアセテート、プレゴン、ロツンジホロン等の香料成分を主成分として調香することにより調製することができる。また、歯磨き粉調香料液は、香料成分のみで構成されていてもよく、また、香料成分に加えて、水、パラフィン系炭化水素、1価低級アルコール、多価アルコール等の溶剤;界面活性剤、可溶化剤等の添加剤等が含まれていてもよい。歯磨き粉調香料液における香料成分の含有量については、歯磨き粉を想起させる香りを呈し得ることを限度として特に制限されないが、例えば、0.001~100重量%が挙げられる。軽度認知障害の検査精度をより向上させる観点から、歯磨き粉調香料液における香料成分の含有量として、好ましくは0.001~10重量%、より好ましくは0.005~5.0重量%が挙げられる。
【0015】
墨汁調香料液とは、墨汁を想起させる香りを呈する香料液である。当業者であれば、墨汁調香料液は、公知の香料成分を用いて公知の調香手法で調製することができる。例えば、墨汁調香料液は、ボルネオール等の香料成分を主成分として調香することにより調製することができる。また、墨汁調香料液は、香料成分のみで構成されていてもよく、また、香料成分に加えて、水、パラフィン系炭化水素、1価低級アルコール、多価アルコール等の溶剤;界面活性剤、可溶化剤等の添加剤等が含まれていてもよい。墨汁調香料液における香料成分の含有量については、墨汁を想起させる香りを呈し得ることを限度として特に制限されないが、例えば、0.0005~100重量%が挙げられる。軽度認知障害の検査精度をより向上させる観点から、墨汁調香料液における香料成分の含有量として、好ましくは0.001~10重量%、より好ましくは0.001~1重量%が挙げられる。
【0016】
本発明の検査キットでは、前記3種の香料液に加えて、りんご調香料液、ひのき調香料液、及び石鹸調香料液の中の少なくとも1種の香料液が更に含まれていてもよい。前記3種の香料液と共に、りんご調香料液、ひのき調香料液、及び石鹸調香料液の中の少なくとも1種の香料液をそれぞれ使用して嗅覚検査を行うことにより、より高精度に軽度認知障害の罹患の有無を検査することが可能になる。とりわけ、前記、前記3種の香料液に加えて、りんご調香料液、ひのき調香料液、及び石鹸調香料液を組み合わせて合計6種の香料液をそれぞれ使用して嗅覚検査を行うことにより、格段高精度に軽度認知障害の罹患の有無を検査することができる。
【0017】
りんご調香料液とは、りんごを想起させる香りを呈する香料液である。当業者であれば、りんご調香料液は、公知の香料成分を用いて公知の調香手法で調製することができる。例えば、りんご調香料液は、酢酸2-(tert-ブチル)シクロヘキシル、ヘプタン酸アリル、エチレンブラシレート、酢酸ヘキシル、ヘキサノール、ヘキサナール、トランス-2-ヘキセナール、エチルブチレート、ブチルアセテート、ブチルブチレート等の中の1種以上の香料成分を主成分として調香することにより調製することができる。また、りんご調香料液は、香料成分のみで構成されていてもよく、また、香料成分に加えて、水、パラフィン系炭化水素、1価低級アルコール、多価アルコール等の溶剤;界面活性剤、可溶化剤等の添加剤等が含まれていてもよい。りんご調香料液における香料成分の含有量については、りんごを想起させる香りを呈し得ることを限度として特に制限されないが、例えば、0.001~100重量%が挙げられる。軽度認知障害の検査精度をより向上させる観点から、りんご調香料液における香料成分の含有量として、好ましくは0.01~50重量%、より好ましくは0.02~10重量%が挙げられる。
【0018】
ひのき調香料液とは、ひのきを想起させる香りを呈する香料液である。当業者であれば、ひのき調香料液は、公知の香料成分を用いて公知の調香手法で調製することができる。例えば、ひのき調香料液は、α-セドレン、セドロール、ツヨプセン、ヒノキチオール、αピネン等の中の1種以上の香料成分を主成分として調香することにより調製することができる。また、ひのき調香料液は、香料成分のみで構成されていてもよく、また、香料成分に加えて、水、パラフィン系炭化水素、1価低級アルコール、多価アルコール等の溶剤;界面活性剤、可溶化剤等の添加剤等が含まれていてもよい。ひのき調香料液における香料成分の含有量については、ひのきを想起させる香りを呈し得ることを限度として特に制限されないが、例えば、0.001~100重量%が挙げられる。軽度認知障害の検査精度をより向上させる観点から、ひのき調香料液における香料成分の含有量として、好ましくは0.005~50重量%、より好ましくは0.005~10重量%が挙げられる。
【0019】
石鹸調香料液とは、石鹸を想起させる香りを呈する香料液である。当業者であれば、石鹸調香料液は、公知の香料成分を用いて公知の調香手法で調製することができる。例えば、石鹸調香料液は、ジヒドロジャスモン酸メチル、フェニルアルコール、2-フェニルエタノール、ゲラニオール、ネロール、シトロネロール、アルデハイド等の中の1種以上の香料成分を主成分として調香することにより調製することができる。また、石鹸調香料液は、香料成分のみで構成されていてもよく、また、香料成分に加えて、水、パラフィン系炭化水素、1価低級アルコール、多価アルコール等の溶剤;界面活性剤、可溶化剤等の添加剤等が含まれていてもよい。石鹸調香料液における香料成分の含有量については、石鹸を想起させる香りを呈し得ることを限度として特に制限されないが、例えば、0.001~100重量%が挙げられる。軽度認知障害の検査精度をより向上させる観点から、石鹸調香料液における香料成分の含有量として、好ましくは0.001~10重量%、より好ましくは0.002~1.0重量%が挙げられる。
【0020】
本発明の検査キットは、嗅覚検査用の香料液として、更に必要に応じて、バニラアイス調香料液、蒸れた靴下調香料液、みかん調香料液、及びコーヒー調香料液の中の少なくとも1種の香料液が含まれていてもよい。
【0021】
バニラアイス調香料液とは、バニラアイスを想起させる香りを呈する香料液である。当業者であれば、バニラアイス調香料液は、公知の香料成分を用いて公知の調香手法で調製することができる。例えば、バニラアイス調香料液は、バニリン等の香料成分を主成分として調香することにより調製することができる。また、バニラアイス調香料液は、香料成分のみで構成されていてもよく、また、香料成分に加えて、水、パラフィン系炭化水素、1価低級アルコール、多価アルコール等の溶剤;界面活性剤、可溶化剤等の添加剤等が含まれていてもよい。バニラアイス調香料液における香料成分の含有量については、バニラアイスを想起させる香りを呈し得ることを限度として特に制限されないが、例えば、0.001~100重量%、好ましくは0.002~10重量%、より好ましくは0.02~10重量%が挙げられる。
【0022】
蒸れた靴下調香料液とは、蒸れた状態の靴下を想起させる香りを呈する香料液である。当業者であれば、蒸れた靴下調香料液は、公知の香料成分を用いて公知の調香手法で調製することができる。例えば、蒸れた靴下調香料液は、イソ吉草酸等の香料成分を主成分として調香することにより調製することができる。また、蒸れた靴下調香料液は、香料成分のみで構成されていてもよく、また、香料成分に加えて、水、パラフィン系炭化水素、1価低級アルコール、多価アルコール等の溶剤;界面活性剤、可溶化剤等の添加剤等が含まれていてもよい。蒸れた靴下調香料液における香料成分の含有量については、蒸れた靴下を想起させる香りを呈し得ることを限度として特に制限されないが、例えば、0.001~100重量%、好ましくは0.005~25重量%、より好ましくは0.05~5.0重量%が挙げられる。
【0023】
みかん調香料液とは、みかんを想起させる香りを呈する香料液である。当業者であれば、みかん調香料液は、公知の香料成分を用いて公知の調香手法で調製することができる。例えば、みかん調香料液は、D-リモネン、ミルセン、α-ピネン、リナロール等の香料成分を主成分として調香することにより調製することができる。また、みかん調香料液は、香料成分のみで構成されていてもよく、また、香料成分に加えて、水、パラフィン系炭化水素、1価低級アルコール、多価アルコール等の溶剤;界面活性剤、可溶化剤等の添加剤等が含まれていてもよい。みかん調香料液における香料成分の含有量については、みかんを想起させる香りを呈し得ることを限度として特に制限されないが、例えば、0.001~100重量%、好ましくは0.05~50重量%、より好ましくは0.1~10.0重量%が挙げられる。
【0024】
コーヒー調香料液とは、コーヒーを想起させる香りを呈する香料液である。当業者であれば、コーヒー調香料液は、公知の香料成分を用いて公知の調香手法で調製することができる。例えば、コーヒー香料液は、メチルシクロペンテノロン、フルフラール、バニリン、フルフリルメルカプタン等の香料成分を主成分として調香することにより調製することができる。また、コーヒー調香料液は、香料成分のみで構成されていてもよく、また、香料成分に加えて、水、パラフィン系炭化水素、1価低級アルコール、多価アルコール等の溶剤;界面活性剤、可溶化剤等の添加剤等が含まれていてもよい。コーヒー調香料液における香料成分の含有量については、みかんを想起させる香りを呈し得ることを限度として特に制限されないが、例えば、0.00~100重量%、好ましくは0.002~10重量%、より好ましくは0.0025~5.0重量%が挙げられる。
【0025】
本発明の検査キットの一実施形態では、前記香料液は、噴霧容器(スプレー容器等)、滴下容器、又は塗布用容器(ペン型容器等)に収容された状態で提供される。前記香料液が、これらの容器に収容された状態で提供される場合には、容器に収容された香料液を被付香基材に噴霧、滴下又は塗布することにより、被付香基材に付香させて、嗅覚検査を行えばよい。即ち、本発明の検査キットにおいて、前記香料液が、噴霧容器、滴下容器、又は塗布用容器に収容されている場合には、本発明の検査キットには被付香基材が更に付属されていてもよい。当該実施態様の検査キットにおいて、前記容器に収容された香料液の液量については、1回の検査で使用する量であってもよく、また2回以上の検査に使用できる量であってもよい。また、当該実施態様の検査キットにおいて、前記香料液を被付香基材に噴霧、滴下又は塗布する量については、被付香基材に各香料液の香りを付与できること限度として特に制限されず、使用する香料液の組成等に応じて適宜設定すれよいが、例えば、10~1000μl、好ましくは50~500μl、より好ましくは100~400μlが挙げられる。また、被付香基材の素材については、香料液によって付香され得ることを限度として特に制限されないが、例えば、紙、不織布、織布、編物、プラスチック等が挙げられる。また、被付香基材の形状についても、嗅覚検査が可能であることを限度として特に制限されないが、例えば、シート状、カップ状、ブロック状、スポンジ状等が挙げられる。
【0026】
また、本発明の検査キットの他の一実施形態では、前記香料液は、開閉可能な開口部を有する容器に収容して密封した状態で提供することができる。前記香料液が当該容器に密封された状態で提供される場合には、容器の開口部を開口させた状態にして、当該開口部から発される香りを嗅ぐことにより、嗅覚検査を行えばよい。当該実施態様の検査キットにおいて、前記容器に収容される前記香料液の量については、開口部を開口させた状態にした際に、各香料液の香りが呈されることを限度として特に制限されないが、例えば、10~1000μl、好ましくは50~500μl、より好ましくは100~400μlが挙げられる。
【0027】
また、本発明の検査キットの更に別の一実施形態では、前記香料液は、紙、不織布、織布、編物、濾紙、スポンジ、ゲル等の基材に含浸された状態で密封されて提供することができる。前記香料液が当該基材に含浸させた状態で提供される場合には、前記香料液が含浸している基材を取り出して、その香りを嗅ぐことにより、嗅覚検査を行えばよい。当該実施態様の検査キットにおいて、前記基材に含浸させる前記香料液の量については、各香料液の香りが呈されることを限度として特に制限されないが、例えば、基材1個当たりに、10~1000μl、好ましくは50~500μl、より好ましくは100~400μlが挙げられる。
【0028】
[嗅覚検査の手法]
本発明の検査キットに付属している前記香料液を使用して、香料液毎に嗅覚検査を行うことにより、認知機能レベルを評価して軽度認知障害の罹患の有無を判定する。
【0029】
本発明の検査キットを使用した嗅覚検査では、被験者に各香料液の香りを任意の順で嗅がせて、感じた香りを回答させればよい。被験者による回答は、回答の選択肢を提示せずに自由形式で行ってもよいが、回答の選択肢を複数提示して選択形式で行うことが望ましい。
【0030】
選択形式で回答させる場合、例えば、正答となる香りの選択肢に加えて、1個又は複数個(例えば3個)の正解ではない香りのダミー選択肢、分からないとの選択肢、及びこの中にはないという選択肢を提示すればよい。より高精度で軽度認知障害の罹患の有無する観点から、選択形式で回答させる場合の選択肢として、以下の例が挙げられる。バター調香料液の場合であれば、正答となる「バター」の選択肢に加えて、「尿素」、「シナモン」、「りんご」、「分からない」、及び「この中にはない」の計5個の選択肢を提示すればよい。歯磨き粉調香料液の場合であれば、正答となる「歯磨き粉」の選択肢に加えて、「下水道」、「わさび」、「ゴム」、「分からない」、及び「この中にはない」の計5個の選択肢を提示すればよい。墨汁調香料液の場合であれば、正答となる「墨汁」の選択肢に加えて、「味噌」、「カレー」、「汗臭」、「分からない」、及び「この中にはない」の計5個の選択肢を提示すればよい。りんご調香料液の場合であれば、正答となる「りんご」の選択肢に加えて、「ひのき」、「土」、「にんにく」、「分からない」、及び「この中にはない」の計5個の選択肢を提示すればよい。ひのき調香料液の場合であれば、正答となる「ひのき」の選択肢に加えて、「カレー」、「コーヒー」、「にんにく」、「分からない」、及び「この中にはない」の計5個の選択肢を提示すればよい。石鹸調香料液の場合であれば、正答となる「石鹸」の選択肢に加えて、「生ごみ」、「にんにく」、「接着剤」、「分からない」、及び「この中にはない」の計5個の選択肢を提示すればよい。バニラアイス調香料液の場合であれば、正答となる「バニラアイス」の選択肢に加えて、「ハッカ」、「にんにく」、「汗臭」、「分からない」、及び「この中にはない」の計5個の選択肢を提示すればよい。蒸れた靴下調香料液の場合であれば、正答となる「蒸れた靴下」の選択肢に加えて、「畳」、「醤油」、「バラ」、「分からない」、及び「この中にはない」の計5個の選択肢を提示すればよい。みかん調香料液の場合であれば、正答となる「みかん」の選択肢に加えて、「線香」、「家庭用ガス」、「カレー」、「分からない」、及び「この中にはない」の計5個の選択肢を提示すればよい。コーヒー調香料液の場合であれば、正答となる「コーヒー」の選択肢に加えて、「線香」、「生ごみ」、「ゴム」、「分からない」、及び「この中にはない」の計5個の選択肢を提示すればよい。
【0031】
また、嗅覚検査において、選択形式で回答させる場合には、複数の選択肢を提示する前に、先ず、何らかの香りを感じるか否かについて回答させ、何らかの香りを感じると回答した場合に、複数の選択肢を提示して回答させてもよい。
【0032】
本発明の検査キットでは、被験者の回答内容を簡便に集計可能にして利便性を高めるために、嗅覚検査の結果を回答させるための回答用紙が付属されていてもよい。自由形式で回答させる場合、回答用紙には、使用する香料液毎に自由回答できる欄が設けられていればよい。また、選択形式で回答させる場合、回答用紙には、使用する香料液毎に選択肢が示されていればよい。
【0033】
本発明の検査キットを使用した嗅覚検査において、付属している複数個の香料液を連続して嗅覚検査を行ってもよいが、嗅覚の馴化を防ぐために、1個の香料液を使用した嗅覚検査を行う度に数分間の休憩を挟んでもよく、また、数個の香料液を使用した嗅覚検査を連続的に行った後に数分間の休憩を挟んで更に数個の香料液を使用した嗅覚検査を連続的に行ってもよい。
【0034】
[軽度認知障害の罹患の有無の判定方法]
本発明の検査キットを使用した嗅覚検査の結果に基づいて、認知機能レベルを評価して軽度認知障害の有無が判定される。
【0035】
本発明の検査キットを使用した検査方法における軽度認知障害の有無の判定は、嗅覚検査の正答率(検査した香料液の総数に対して、正答できた香料液の数の割合)を指標として行うことができる。嗅覚検査の正答率が高いほど、認知機能レベルが高く、嗅覚検査の正答率が低いほど、認知機能レベルが低いと評価され、評価された認知機能のレベルに基づいて、軽度認知障害の有無が判定される。但し、使用する香料液の種類によって、軽度認知障害の罹患の有無の識別性に差異があるので、本発明の検査キットを使用した検査方法における軽度認知障害の有無の判定は、使用した香料液毎に回答の正誤に応じたスコアを設定し、当該スコアの合計値を指標として行うことが望ましい。
【0036】
例えば、好適な一例として、香料液毎の嗅覚検査の回答の正誤に応じて付与するスコアを表1に示す比率(以下、「スコア勾配パターンA」と表記することもある)を満たすように設定して、そのスコアの合計値を、軽度認知障害の有無を判定するための指標とすることが挙げられる。
【0037】
【表1】
【0038】
とりわけ、前記スコア勾配パターンAにおいて、追加される他の香料液として、りんご調香料液、ひのき調香料液、及び石鹸調香料液の3種の香料液を組み合わせて使用し、そのスコアの合計値を指標とすることにより、軽度認知障害の有無をより一層高精度に判定することが可能になる。以下の表2に、前記スコア勾配パターンAにおいて、追加される他の香料液として、りんご調香料液、ひのき調香料液、及び石鹸調香料液の3種の香料液を組み合わせた場合に、各嗅覚検査の回答の正誤に応じて付与するスコアの比率(スコア勾配パターンA’)を示す。
【0039】
【表2】
【0040】
また、例えば、他の好適な一例として、香料液毎の嗅覚検査の回答の正誤に応じて付与するスコアを表3に示す比率(以下、「スコア勾配パターンB」と表記することもある)を満たすように設定して、そのスコアの合計値を、軽度認知障害の有無を判定するための指標とすることが挙げられる。
【0041】
【表3】
【0042】
特に、前記スコア勾配パターンBにおいて、追加される他の香料液として、りんご調香料液、ひのき調香料液、及び石鹸調香料液の3種の香料液を組み合わせて使用し、そのスコアの合計値を指標とすることにより、軽度認知障害の有無を更に高精度に判定することが可能になる。以下の表4に、前記スコア勾配パターンBにおいて、追加される他の香料液として、りんご調香料液、ひのき調香料液、及び石鹸調香料液の3種の香料液を組み合わせた場合に、各嗅覚検査の回答の正誤に応じて付与するスコアの比率(スコア勾配パターンB’)を示す。
【0043】
【表4】
【0044】
本発明の検査キットを使用した検査方法において、嗅覚検査の正答率を指標として、軽度認知障害の有無の判定する場合には、正答率が多い程、軽度認知障害に罹患している可能性が低く、正答率が少ない程、軽度認知障害に罹患している可能性が高いと判定できる。
【0045】
本発明の検査キットを使用した検査方法において、前記スコア勾配パターンA、A’、B、及びB’のように使用した香料液毎に回答の正誤に応じたスコアを設定した場合には、スコアの合計値が高い程、軽度認知障害に罹患している可能性が低く、スコアの合計値が低い程、軽度認知障害に罹患している可能性が高いと判定できる。
【0046】
また、本発明の検査キットで使用する香料液の組み合わせ、香料液の香りの強度、嗅覚検査の手法等によって、同一被験者であっても嗅覚検査の正答率又はスコアが変化し得るので、実際に使用する検査キットを使用して、予め、軽度認知障害ではないことが確認されている複数の健常者、及び軽度認知障害であることが診断されている複数の者に対して嗅覚検査を行い、それぞれの正答率又はスコアを求めておき、健常者と軽度認知障害者との正答率又はスコアのカットオフ値(健常者と軽度認知障害者を識別する境界値)をROC(receiver operating characteristic curve:受信者動作特性曲線)解析によって設定しておくことが望ましい。このようにカットオフ値を定めておくことにより、被験者の正答率又はスコアに基づいて、被験者の軽度認知障害の罹患の有無を簡便に判定することが可能になる。更に、実際に使用する検査キットを使用して、予め、認知症であることが診断されている複数の者に対しても嗅覚検査を行ってその正答率又はスコアを求めておき、軽度認知障害者と認知症患者の正答率又はスコアのカットオフ値(軽度認知障害者と認知症患者を識別する境界値)をROC解析により設定しておくことによって、被験者が、健常者には該当しない判定された場合、軽度認知障害又は認知症のいずれであるかを判定することも可能になる。
【0047】
本発明の検査キットを使用することにより、軽度認知障害の罹患の有無を高い精度で検査できる。例えば、本発明の検査キットを使用した検査方法において、バター調香料液、歯磨き粉調香料液、墨汁調香料液、りんご調香料液、ひのき調香料液、及び石鹸調香料液の6種の香料液を使用し、前記スコア勾配パターンA’に従って合計スコアを求める場合の一実施形態では、健常者と軽度認知障害者との間でのROC解析において、曲線下面積(AUC:area under the curve)は0.75以上;感度は65%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは74%以上;特異性は60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは69%以上、という高精度で健常者と軽度認知障害者を識別することが可能になる。また、例えば、本発明の検査キットを使用した検査方法において、バター調香料液、歯磨き粉調香料液、墨汁調香料液、りんご調香料液、ひのき調香料液、及び石鹸調香料液の6種の香料液を使用し、前記スコア勾配パターンA’に従って合計スコアを求める場合の一実施形態では、軽度認知障者と認知症患者との間でのROC解析において、AUCは0.80以上;感度は65%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは76%以上;特異性は60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、更に好ましくは79%以上、という高精度で軽度認知障害者と認知症患者を識別することが可能になる。
【0048】
2.軽度認知障害の検査方法
本発明の検査方法は、軽度認知障害の罹患の有無を検査する方法であって、バター調香料液、歯磨き粉調香料液、及び墨汁調香料液を用いて嗅覚検査を行う工程を含むことを特徴とする。
【0049】
本発明の検査方法は、前記検査キットを使用して軽度認知障害の罹患の有無を検査する方法であり、バター調香料液、歯磨き粉調香料液、及び墨汁調香料液の組成、これらの以外で必要に応じて使用される香料液の種類や組成、嗅覚検査の手法、臭覚検査結果に基づく軽度認知障害の罹患の有無の判定手法等は、前記「1.軽度認知障害の検査キット」の欄に記載の通りである。
【実施例0050】
以下に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されて解釈されるものではない。
【0051】
試験例
・被験者
健常者100名、軽度認知障害者(MCI)61名、及びアルツハイマー型認知症患者(AD)62名を被験者とした。
【0052】
100名の健常者は、MMSE(Mini-mental State Examination;ミニメンタルステート検査)が28点以上の者である。
【0053】
61名のMCIは、MMSEが24点以上27点以下であり、且つPetersenらの診断基準(Petersen RC: Mild cognitive impairment as a diagnostic entity. J. Intern. Med. 2004; 256(3): 183-194.)に基づく認知症専門医の判断により、記憶障害を有する軽度認知障害と診断された者である。
【0054】
62名のADは、MMSEが23点以下であり、且つICD-10(International classification of diseases-10)、DSM-5(Diagnostic and statistical manual of mental disorders-5)及びNIA-AA(National Institute on Aging and Alzheimer's Association )のいずれかに基づき、認知症専門医の判断により、アルツハイマー型認知症と診断された者である。
【0055】
・香料液の準備
以下に示す組成の各種香りを呈する香料液(合計20種類、香りのタイプは10種)を準備した。なお、香料液Bは、同じ香料を含む香料液Aに比べて、10~454倍量の香料が含まれている。
・バター調香料液A:バター調の香料成分(δ-デカラクトン含有)を0.01重量%含有し、バターの香りを呈する香料液
・バター調香料液B:バター調の香料成分(δ-デカラクトン含有)を0.5重量%含有し、バターの香りを呈する香料液
・歯磨き粉調香料液A:歯磨き粉の香料成分(カルボン含有)を0.01重量%含有し、歯磨き粉の香りを呈する香料液
・歯磨き粉調香料液B:歯磨き粉調の香料成分(カルボン含有)を2.5重量%含有し、歯磨き粉の香りを呈する香料液
・墨汁調香料液A:墨汁調の香料成分(ボルネオール含有)を0.001重量%含有し、墨汁の香りを呈する香料液
・墨汁調香料液B:墨汁調の香料成分(ボルネオール含有)を0.1重量%含有し、墨汁の香りを呈する香料液
・りんご調香料液A:りんご調の香料成分(酢酸2-(tert-ブチル)シクロヘキシル、ヘプタン酸アリル、及びエチレンブラシレート及び酢酸ヘキシル含有)を0.04重量%含有し、りんごの香りを呈する香料液
・りんご調香料液B:りんご調の香料成分(酢酸2-(tert-ブチル)シクロヘキシル、ヘプタン酸アリル、及びエチレンブラシレート及び酢酸ヘキシル含有)を5.0重量%含有し、りんごの香りを呈する香料液
・石鹸調香料液A:石鹸調の香料成分(ジヒドロジャスモン酸メチル及びフェニルアルコール含有)を0.00)重量%含有し、石鹸の香りを呈する香料液
・石鹸調香料液B:石鹸調の香料成分(ジヒドロジャスモン酸メチル及びフェニルアルコール含有)を0.12重量%含有し、石鹸の香りを呈する香料液
・ひのき調香料液A:ひのき調の香料成分(α-セドレン、セドロール及びツヨプセン含有)を0.011重量%含有し、ひのきの香りを呈する香料液
・ひのき調香料液B:ひのき調の香料成分(α-セドレン、セドロール及びツヨプセン含有)を5.0重量%含有し、ひのきの香りを呈する香料液
・バニラアイス調香料液A:バニラアイス調の香料成分(バニリン含有)を0.02重量%含有し、バニラアイスの香りを呈する香料液
・バニラアイス調香料液B:バニラアイス調の香料成分(バニリン含有)を5.0重量%含有し、バニラアイスの香りを呈する香料液
・蒸れた靴下調香料液A:蒸れた靴下調の香料成分(イソ吉草酸含有)を0.1重量%含有し、蒸れた靴下の香りを呈する香料液
・蒸れた靴下調香料液B:蒸れた靴下調の香料成分(イソ吉草酸含有)を2.5重量%含有し、蒸れた靴下の香りを呈する香料液
・みかん調香料液A:みかん調の香料成分(リモネン含有)を0.5重量%含有し、みかんの香りを呈する香料液
・みかん調香料液B:みかん調香料(リモネン含有)を5.0重量%含有し、みかんの香りを呈する香料液
・コーヒー調香料液A:コーヒー調の香料成分(メチルシクロペンテノロン含有)を0.0025重量%含有し、コーヒーの香りを呈する香料液
・コーヒー調香料液B:コーヒー調の香料成分(メチルシクロペンテノロン含有)を1.0重量%含有し、コーヒーの香りを呈する香料液
【0056】
・嗅覚検査
先ず、95ml容の紙コップの中に前記香料液をスプレーにて2回噴霧して約300μlの香料液を紙コップに付着させることにより、付香紙コップを準備した。付香紙コップは、前記20種の香料液毎に準備した。
【0057】
表5に示す5つの検査順番パターンP~Tを用意し、被験者に対してランダムに選択した検査順番パターンを設定した。設定された検査順番パターンに従って、検査順番1~10番の付香紙コップ(香料液Aを付着させた紙コップ)を机に並べて、被験者に検査順番1~5番の順で香りを嗅がせて、回答させた。その後、嗅覚の馴化を防ぐために2分間の休憩を挟んだ後、残りの検査順番6~10番の順で香りを嗅がせて、回答させた。その後、嗅覚の馴化を防ぐために5分間の休憩を挟んだ。次いで、設定された検査順番パターンに従って、検査順番11~20番の付香紙コップ(香料液Bを付着させた紙コップ)を机に並べて、被験者に検査順番11~15番の順で香りを嗅がせて、回答させた。その後、嗅覚の馴化を防ぐために2分間の休憩を挟んだ後、残りの検査順番16~20番の順で香りを嗅がせて、回答させた。
【0058】
被験者には、付香紙コップの香りを嗅ぐ度に、何らかの香りを感じるか否かについて回答させた。何らかの香りを感じると回答した場合には、表6に示す香料液毎に設定した選択肢A~Fを示し、感じた香りがA~Fのいずれに該当するかを回答させた。
【0059】
【表5】
【0060】
【表6】
【0061】
・結果
健常者、MCI、及びADの各被験者について、20種の香料液の検査において香りを正しく回答した割合(正答率)の平均値を表7に示す。同じ香料を含む香料液において、香料の濃度が低い香料液Aと香料の濃度が高い香料液Bを比べると、香料液Bの方が高い正答率になる傾向が認められた。但し、MCIと健常者との正答率の差、MCIとADのとの正答率の差の点では、香料液Aと香料液Bとでは同じ傾向が認められた。また、20種の香料液の検査において、正答率は、健常者、MCI、及びADの順で高くなっていた。
【0062】
但し、歯磨き粉調香料液、バター調香料液及び墨汁調香料液については、他の香料液に比べて、MCIと健常者との正答率の差が大きくなっていた。また、歯磨き粉調香料液、バター調香料液及び墨汁調香料液の正答率については、MCIとADとの差が大きくなっており、とりわけ墨汁調香料液の正答率については、MCIとADの差が顕著であった。更に、リンゴ調香料液、ひのき調香料液、及び石鹸調香料液についても、MCIとMCIとの正答率の差が比較的大きく、且つMCIとADとの正答率の差も大きかった。以上の結果から、歯磨き粉、バター調香料液及び墨汁調香料液を使用して嗅覚検査を行うことにより、MCIと健常者の識別、及びMCIとADの識別ができ、MCIの診断が可能になることが明らかとなった。また、前記香料液に加えて、リンゴ調香料液、ひのき調香料液、及び石鹸調香料液を使用して嗅覚検査を行うことにより、MCIをより高精度に検査できることが明らかとなった。
【0063】
【表7】
【0064】
次に、ROC解析を行い、複数の香料液を組み合わせた場合の検査精度を検討した。具体的には、香料の濃度が高い10種の香料液Bの結果に基づいて、1つの香料液Bを正答した場合を1点としてスコア化して、表8及び9に示す各香料液を組み合わせた場合のスコアの合計点を用いてROC解析を行い、ROC曲線のAUC(Area Under the Curve)、カットオフ値、感度、及び特異度を求めた。ROC解析には、SAS(release 9.4)(SAS Institute Japan株式会社)を使用し、カットオフ値はYouden Index法により算出した。結果を表8及び9に示す。歯磨き粉、バター及び墨汁の香りを呈する香料液の検査結果を組み合わせた場合には、MCIと健常者との間、及びMCIとADとの間で、ROC解析におけるAUC及び感度が高く、且つ特異度が低くなっており、MCIと健常者の識別、及びMCIとADの識別ができ、MCIの高精度の検査が可能になることが分かった。特に、歯磨き粉調香料液、バター調香料液及び墨汁調香料液に加えて、リンゴ調香料液、ひのき調香料液、及び石鹸調香料液の少なくとも1種、特にこれらの4種を組み合わせて嗅覚検査することにより、MCIの検査精度がより一層向上することが確認された。
【0065】
【表8】
【0066】
【表9】
【0067】
以上の通り、1つの香料液を正答した場合を1点としてスコア化してROC解析を行うことにより、歯磨き粉調香料液、バター調香料液、墨汁調香料液、リンゴ調香料液、ひのき調香料液、及び石鹸調香料液を用いた嗅覚検査が、とりわけ高精度なMCIの診断に有効であることが確認された。そこで、次に、香料液毎に正答した場合の点数を表10に示すように代えて、前記6種の香料液を組み合わせた場合の検査精度をROC解析によって検討した。結果を表11に示す。この結果、点数勾配パターンA’及びB’のように、香料液毎に正答した場合の点数をスコア化した場合には、MCIの検査精度が更に向上することが分かった。特に、点数勾配パターンA’に従ってスコア化することにより、MCIの検査精度が格段顕著に高まることが確認された。
【0068】
【表10】
【0069】
【表11】