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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189418
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】即席油揚げ麺及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/109 20160101AFI20221215BHJP
   A23L 7/113 20160101ALI20221215BHJP
【FI】
A23L7/109 A
A23L7/113
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021097978
(22)【出願日】2021-06-11
(71)【出願人】
【識別番号】713011603
【氏名又は名称】ハウス食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100196405
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 邦光
(72)【発明者】
【氏名】冨永 弦
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 章一
(72)【発明者】
【氏名】多貝 真一
【テーマコード(参考)】
4B046
【Fターム(参考)】
4B046LA05
4B046LB07
4B046LC20
4B046LG04
4B046LG15
4B046LG16
4B046LG20
4B046LG29
4B046LP03
4B046LP10
4B046LP15
4B046LP38
4B046LP40
(57)【要約】
【課題】本発明は、硬い食感を有し、かつ火膨れが抑制された即席油揚げ麺及びその製造方法を提供することを目的としている。
【解決手段】本発明の即席油揚げ麺の製造方法は、
小麦強力粉及び澱粉を含む粉体原料と、水とを混合して生地を調製する工程と、
前記生地から麺線を調製する工程と、
前記麺線を油揚げする工程と
を含み、前記水の配合量が、前記小麦強力粉及び前記澱粉の配合量の合計に対して31.0質量%以下であり、
前記澱粉が、10質量%の濃度の水溶液をラピッドビスコアナライザー(RVA)により以下の条件:
(i)50℃で1分間保持、
(ii)95℃まで11.2℃/分で昇温、
(iii)95℃を2.5分間保持、
(iv)50℃まで11.2℃/分で降温、
(v)50℃で2分間保持、
で分析したときのブレイクダウン値が2000mPa・s以下のものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
即席油揚げ麺の製造方法であって、
小麦強力粉及び澱粉と、水とを混合して生地を調製する工程と、
前記生地から麺線を調製する工程と、
前記麺線を油揚げする工程と
を含み、前記水の配合量が、前記小麦強力粉及び前記澱粉の配合量の合計に対して31.0質量%以下であり、
前記澱粉が、10質量%の濃度の水溶液をラピッドビスコアナライザー(RVA)により以下の条件:
(i)50℃で1分間保持、
(ii)95℃まで11.2℃/分で昇温、
(iii)95℃を2.5分間保持、
(iv)50℃まで11.2℃/分で降温、
(v)50℃で2分間保持、
で分析したときのブレイクダウン値が2000mPa・s以下のものである、製造方法。
【請求項2】
前記生地が、酸化還元酵素及び/又はグルテン強化剤を含まない、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記澱粉が、高アミロース澱粉又は架橋澱粉を含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記高アミロース澱粉が、その原料中の澱粉総量に対して25質量%以上のアミロースを含む、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記高アミロース澱粉が、エンドウ豆、サゴヤシ、高アミロース米、高アミロース小麦、コーン、及び緑豆からなる群から選択される1種以上の原料に由来する澱粉を含む、請求項3又は4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記麺線を調製する工程が、
前記生地を圧延して麺帯を調製する工程と、
前記麺帯をカットして前記麺線を調製する工程と
を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記麺帯を、1.4mm以下の間隔の切り刃でカットして前記麺線を調製する、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
小麦強力粉及び澱粉を含み、油揚げ後の麺表面に火膨れがない即席油揚げ麺であって、
前記澱粉が、10質量%の濃度の水溶液をRVAにより以下の条件:
(i)50℃で1分間保持、
(ii)95℃まで11.2℃/分で昇温、
(iii)95℃を2.5分間保持、
(iv)50℃まで11.2℃/分で降温、
(v)50℃で2分間保持、
で分析したときのブレイクダウン値が2000mPa・s以下のものである、即席油揚げ麺。
【請求項9】
酸化還元酵素及び/又はグルテン強化剤を含まない、請求項8に記載の即席油揚げ麺。
【請求項10】
前記澱粉が、高アミロース澱粉又は架橋澱粉を含む、請求項8又は9に記載の即席油揚げ麺。
【請求項11】
麺幅が1.8mm以下である、請求項8~10のいずれか1項に記載の即席油揚げ麺。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、即席油揚げ麺の製造方法に関しており、特に小麦強力粉及び澱粉を含む即席油揚げ麺の製造方法及び当該方法によって製造された即席油揚げ麺に関する。
【背景技術】
【0002】
即席油揚げ麺は、短時間で湯戻しして調理できる食品として広く知られている。特許文献1には、強力粉、グルコースオキシダーゼ、カタラーゼ、小麦グルテン、及びエンドウ澱粉などを含む生地から調製した即席油揚げ麺について、食感が良好である旨が記載されている。特許文献2には、中力粉及び馬鈴薯澱粉などを含む即席油揚げ麺は、油揚げ処理時の火膨れがなく外観が優れたものとなっており、湯戻し後の食感も良好である旨が記載されている。特許文献3には、準強力粉、加工澱粉、アルギン酸プロピレングリコールエステル、及び、カルボキシメチルセルロースなどを含む即席油揚げ麺においては、油揚げ時の吸油が抑制され、食感や外観が改善されている旨が記載されている。他方、特許文献1~3には、小麦強力粉及び特定の澱粉と、水とを混合して即席油揚げ麺用の生地を調製するにあたり、水の配合量を少なくすることは具体的には記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-180305号公報
【特許文献2】特開平07-194328号公報
【特許文献3】特開2016-158518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
麺を油揚げすると香ばしい独特の風味が得られるものの、麺組織が膨化するために食感が柔らかくなる。硬い食感の即席油揚げ麺を製造するためには、強力粉を主原料としたり、ゲル化剤を添加したりすることが考えられるが、グルテンの形成が促進したり、増粘成分が増加したりすることで麺組織の粘りが強くなると、油揚げ時に麺内部の水分が抜けにくくなり、麺表面に不均一な膨らみ(火膨れ)が発生し、麺の外観及び食感が損なわれる。そこで、本発明は、硬い食感を有し、かつ火膨れが抑制された即席油揚げ麺及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、小麦強力粉及び特定の澱粉と、少なめの水とを混合して調製した生地を用いれば、硬い食感を有しつつ火膨れも抑制された即席油揚げ麺を製造できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下に示す即席油揚げ麺の製造方法及び即席油揚げ麺を提供するものである。
〔1〕即席油揚げ麺の製造方法であって、
小麦強力粉及び澱粉と、水とを混合して生地を調製する工程と、
前記生地から麺線を調製する工程と、
前記麺線を油揚げする工程と
を含み、前記水の配合量が、前記小麦強力粉及び前記澱粉の配合量の合計に対して31.0質量%以下であり、
前記澱粉が、10質量%の濃度の水溶液をラピッドビスコアナライザー(RVA)により以下の条件:
(i)50℃で1分間保持、
(ii)95℃まで11.2℃/分で昇温、
(iii)95℃を2.5分間保持、
(iv)50℃まで11.2℃/分で降温、
(v)50℃で2分間保持、
で分析したときのブレイクダウン値が2000mPa・s以下のものである、製造方法。
〔2〕前記生地が、酸化還元酵素及び/又はグルテン強化剤を含まない、前記〔1〕に記載の製造方法。
〔3〕前記澱粉が、高アミロース澱粉又は架橋澱粉を含む、前記〔1〕又は〔2〕に記載の製造方法。
〔4〕前記高アミロース澱粉が、その原料中の澱粉総量に対して25質量%以上のアミロースを含む、前記〔3〕に記載の製造方法。
〔5〕前記高アミロース澱粉が、エンドウ豆、サゴヤシ、高アミロース米、高アミロース小麦、コーン、及び緑豆からなる群から選択される1種以上の原料に由来する澱粉を含む、前記〔3〕又は〔4〕に記載の製造方法。
〔6〕前記麺線を調製する工程が、
前記生地を圧延して麺帯を調製する工程と、
前記麺帯をカットして前記麺線を調製する工程と
を含む、前記〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の製造方法。
〔7〕前記麺帯を、1.4mm以下の間隔の切り刃でカットして前記麺線を調製する、前記〔6〕に記載の製造方法。
〔8〕小麦強力粉及び澱粉を含み、油揚げ後の麺表面に火膨れがない即席油揚げ麺であって、
前記澱粉が、10質量%の濃度の水溶液をRVAにより以下の条件:
(i)50℃で1分間保持、
(ii)95℃まで11.2℃/分で昇温、
(iii)95℃を2.5分間保持、
(iv)50℃まで11.2℃/分で降温、
(v)50℃で2分間保持、
で分析したときのブレイクダウン値が2000mPa・s以下のものである、即席油揚げ麺。
〔9〕酸化還元酵素及び/又はグルテン強化剤を含まない、前記〔8〕に記載の即席油揚げ麺。
〔10〕前記澱粉が、高アミロース澱粉又は架橋澱粉を含む、前記〔8〕又は〔9〕に記載の即席油揚げ麺。
〔11〕麺幅が1.8mm以下である、前記〔8〕~〔10〕のいずれか1項に記載の即席油揚げ麺。
【発明の効果】
【0006】
本発明に従えば、小麦強力粉及び上記特定の澱粉と、前記小麦強力粉及び前記澱粉の配合量の合計に対して31.0質量%以下の水とを混合して調製した生地を用いることにより、製造される即席油揚げ麺において硬い食感を実現しつつ火膨れを抑制することができる。したがって、硬い食感及び良好な外観を有する即席油揚げ麺を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の即席油揚げ麺の製造方法は、
小麦強力粉及び澱粉と、水とを混合して生地を調製する工程と、
前記生地から麺線を調製する工程と、
前記麺線を油揚げする工程と
を含んでいる。本明細書に記載の「即席油揚げ麺」とは、数分茹でるだけ又は熱湯をかけて数分おくだけで食べられるように加工された麺類のうち、食用油で揚げることで乾燥された麺類のことをいう。前記即席油揚げ麺は、袋麺又はカップ麺などの形態で流通し、中華麺、和風麺、又は欧風麺を含む料理などに用いられ得る。
【0008】
本発明においては、小麦強力粉を使用して即席油揚げ麺を製造する。前記小麦強力粉はタンパク質含量が高いため、水分の添加によりグルテンを多く生じ、製造する即席油揚げ麺に硬い歯応えをもたらす。また、本発明の生地の調製工程において使用される水の量(加水量)は、従来よりも少なく、前記小麦強力粉及び前記澱粉の配合量の合計に対して約31.0質量%以下、好ましくは約28.0質量%~約31.0質量%又は約28.4質量%~約29.4質量%である。一般に、加水量が少ないと、火膨れは起こりにくくなるものの、グルテンネットワークの形成及び発達が不十分なものとなり、脆くて粘りや弾力の少ない生地が調製されがちであるが、本発明においては、特定の澱粉を使用することで、良好な生地のシート適性を維持しつつ、火膨れを抑制し、かつ所望の食感を有する即席油揚げ麺の製造を可能としている。なお、本明細書に記載の「生地のシート適性」とは、圧延装置で加工するときの生地の延伸性のことをいう。
【0009】
本発明の製造方法において使用される前記澱粉は、10質量%の濃度の水溶液をラピッドビスコアナライザー(RVA)により以下の条件:
(i)50℃で1分間保持、
(ii)95℃まで11.2℃/分で昇温、
(iii)95℃を2.5分間保持、
(iv)50℃まで11.2℃/分で降温、
(v)50℃で2分間保持、
で分析したときのブレイクダウン値が、約2000mPa・s以下、約1000mPa・s以下、又は約400mPa・s以下のものである。RVAとは、澱粉などを含むサンプルに水を加えて懸濁し、設定した条件下でのサンプルの粘度変化を連続的に記録する粘度計である。一般に、澱粉は糊化開始までは結晶構造を保持しており、糊化開始温度で澱粉が結晶性を失うと、澱粉分子の間に水分子が入り込んで膨張を始める。そして、加熱に伴って吸水が進み、やがて最高粘度を示すようになる。さらに加熱し続けると、澱粉粒が崩壊して分散し、澱粉の流出により粘度が下がって最低粘度を示すようになる。最高粘度と最低粘度との差をブレイクダウンという。その後温度の低下とともに流出した澱粉が網目状のネットワークを形成し、粘度が再び上昇して最終粘度を示すようになる。最低粘度と最終粘度との差をコンシステンシー又はセットバックという。特定の理論に拘束されるものではないが、澱粉粒が崩壊すると麺組織が一様に連なり、麺組織内の水分が逃れることができなくなって火膨れが発生するのに対し、本発明が規定する澱粉は、ブレイクダウンの値が小さく加熱による澱粉粒の崩壊が少ないものであるため、油揚げの際に麺組織の澱粉粒同士の間の隙間が保持され、その隙間から水分が抜けることで、火膨れが抑制されていると考えられる。
【0010】
前記澱粉としては、当技術分野で通常使用されるものを特に制限されることなく採用することができるが、例えば、前記澱粉は、高アミロース澱粉又は架橋澱粉などを含んでもよい。前記高アミロース澱粉とは、その原料中の澱粉総量に対して比較的高い割合でアミロースを含んでいる澱粉のことをいい、例えば、前記高アミロース澱粉は、約25質量%以上のアミロースを含んでいてもよい。前記高アミロース澱粉は、特に限定されないが、例えば、エンドウ豆、サゴヤシ、高アミロース米、高アミロース小麦、コーン、及び緑豆からなる群から選択される1種以上の原料に由来する澱粉を含んでもよく、具体的には、エンドウ澱粉、サゴヤシ澱粉、コーンスターチ、若しくはリョクトウ澱粉、又はそれらの加工澱粉などを含んでもよい。これらの具体的な澱粉のアミロース含有量は25質量%以上であり、例えば、エンドウ澱粉のアミロース含有量は約35質量%であり、コーンスターチのアミロース含有量は約26質量%である。なお、バレイショ澱粉のアミロース含有量は約20質量%である。前記架橋澱粉は、特に限定されないが、例えば、リン酸架橋澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、アセチル化リン酸架橋澱粉、又はアセチル化アジピン酸架橋澱粉などを含んでもよい。また、前記澱粉は、それを含む穀粉などの態様であってもよく、穀類などから精製した澱粉であってもよい。
【0011】
前記小麦強力粉及び前記澱粉の配合量は、麺の生地を調製することができる限り特に限定されないが、例えば、前記小麦強力粉及び前記澱粉を、約98:2~約86:14、好ましくは約97:3~約90:10の質量比で混合してもよい。前記澱粉がこのような量で含まれていると、生地のシート適性及び製造される即席油揚げ麺の外観がより良好なものとなり得る。
【0012】
前記生地の原料としては、本発明の目的を損なわない限り、当技術分野で通常使用される任意の食品原料及び/又は添加剤をさらに使用してもよい。前記任意の食品原料及び/又は前記任意の添加剤は、特に限定されないが、例えば、グルテン、アルギン酸などの食感改良剤、調味原料、又は、かん水(粉末かん水)などを含んでもよい。ある態様では、前記生地は、過剰なグルテンネットワークの形成を避けるため、トランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼなどの酸化還元酵素、及び/又は、グルテン強化剤を含まないこともある。
【0013】
本発明の製造方法が規定する生地を調製する工程、麺線を調製する工程、及び油揚げする工程の作業自体には、当技術分野において通常使用される手段を特に制限されることなく採用することができる。例えば、前記麺線を調製する工程は、切り出し製麺により実施してもいいし、押し出し製麺により実施してもよい。前者の場合には、前記麺線を調製する工程は、前記生地を圧延して麺帯を調製する工程と、前記麺帯をカットして前記麺線を調製する工程とを含む。
【0014】
前記麺帯の厚さ及び前記麺線の幅は、製造する即席油揚げ麺の種類及び用途によって適宜調整することができる。例えば、前記麺帯の厚さは、約1.2mm以下であってもよく、好ましくは約0.90mm~約1.1mm、より好ましくは約0.92mm~約1.0mmである。また、前記麺帯を、約1.4mm以下の間隔の切り刃でカットして前記麺線を調製してもよく、好ましくは、約1.1mm~約1.3mmの間隔の切り刃でカットして前記麺線を調製する。麺幅が狭くかつ硬い食感を有する、いわゆる細硬麺を製造するために、小麦強力粉を使用して加水量を少なくすると、シートの延伸性が低下することでシート適性が低下しがちであるが、本発明においては、特定の澱粉を使用することで、良好な生地のシート適性を維持しつつ、所望の食感を有する即席油揚げ麺の製造を可能としている。
【0015】
前記麺線を油揚げする工程は、例えば、前記麺線を蒸熱し、金属枠に型詰めして、当該金属枠ごと麺線を揚げ油に入れることにより実施してもよい。前記麺線を揚げ油に入れるときの条件は、特に限定されないが、例えば、前記麺線を約110℃~約160℃の揚げ油に約1分~約2分入れてもよい。従来の即席油揚げ麺においては、油揚げ後の麺表面に揚げ油が付着し、油揚げ以降の工程の装置を汚したり、調理時に手がべたつくなどの不快感を与えたりするという問題があったが、本発明の製造方法で製造された即席油揚げ麺は、麺表面の油付着量が従来よりも少ないため、装置が汚れにくくなり、調理時の不快感が軽減される。特定の理論に拘束されるものではないが、本発明が規定する澱粉は、ブレイクダウンの値が小さく加熱による澱粉粒の崩壊が少ないものであるため、油揚げの際に麺組織の澱粉粒同士の間の隙間が保持され、その隙間から揚げ油が麺組織内部に浸透するため、麺表面に残る揚げ油が少なくなると考えられる。
【0016】
本発明の製造方法は、当技術分野で通常使用される製造工程をさらに含んでもよい。例えば、前記製造方法は、油揚げ後の麺を冷却する工程、及び/又は、調味料と共に包装する工程などをさらに含んでもよい。
【0017】
別の態様では、本発明は、小麦強力粉及び澱粉を含み、油揚げ後の麺表面に火膨れがない即席油揚げ麺にも関しており、前記澱粉は、上述の特性を有している。前記即席油揚げ麺は、植物油脂などの油脂をさらに含んでもよい。本発明の即席油揚げ麺は、硬い食感及び良好な外観を備えている。
【0018】
ある態様では、前記即席油揚げ麺の麺幅は約1.8mm以下であってもよく、好ましくは、約1.3mm~約1.7mmである。本発明の即席油揚げ麺は、火膨れがないため舌触りも良好であり、かつ細くても硬い食感を維持することができるため、いわゆる細硬麺に好適に利用できる。
【0019】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例0020】
1.即席油揚げ麺の製造及び評価
以下の表1に記載の小麦強力粉及び澱粉、0.8質量部の粉末活性グルテン、0.15質量部のアルギン酸、及び0.5質量部の他の調味原料と、0.3質量部の粉末かん水を含む表1に記載の量の水とを混合して生地(小麦ドウ)を調製した。
【0021】
【表1】

*1 小麦強力粉及び澱粉の配合量の合計に対する質量パーセント
【0022】
上記生地(小麦ドウ)を圧延して厚さ0.96mmの麺帯を調製し、当該麺帯を1.2mmの幅の切り刃でカットして麺線を調製した。この麺線を約100℃で90秒間蒸熱し、1食分の量になるようにカットした後、約130℃で1分20秒間油揚げし、実施例1~8及び比較例1~3の即席油揚げ麺を製造した。製造した即席油揚げ麺の麺幅は1.4mmで、厚さは1.3mmだった。そして、上記生地(小麦ドウ)及び製造した即席油揚げ麺について、以下の項目を評価した。
【0023】
(小麦ドウのシート適性)
◎:圧延装置で安定的に加工可能な延伸性を有している
○:圧延装置の微調整で問題なく製造できる
△:部位ごとのばらつきが大きい
×:シートにならない
(即席油揚げ麺の外観)
◎:火膨れはほとんど見当たらない
○:小さな火膨れが数個あるが気にならない
△:大きな火膨れが数個ある
×:大きな火膨れが麺全体に生じている
【0024】
さらに、油揚げ後すぐに、即席油揚げ麺2個をキッチンペーパーの上に置いて30秒間静置し、キッチンペーパーへの油付着量を測定した。
(油付着量)
◎:1.2g以下
○:1.2g超から2.4g以下
×:2.4g超
【0025】
また、製造した即席油揚げ麺を熱湯で1分30秒茹でて、スープの入った器に移し、麺の食感を5名のパネリストが以下の基準で評価して、最も多かった点数をその即席油揚げ麺の評点とした。各評価結果を表2に示す。
(湯戻し後の食感)
5:良好な歯応え及び粘りのある小麦粉麺らしい食感(実施例3)
4:「5」ほどではないが良好な歯応え及び粘りのある小麦粉麺らしい食感
3:歯応え及び粘りが「4」と「2」の中間程度の食感
2:「1」ほどではないが歯応えがなく、粘りの少ない食感
1:歯応えが全くなくのびた麺のような食感
【0026】
【表2】
【0027】
硬い食感を実現するために小麦強力粉を使用すると、従来の加水量では粘性が高くなった一方で火膨れが麺全体に生じてしまい、麺の外観が損なわれた(比較例1)。そこで加水量を少なくすると、火膨れは抑制できたが、生地のシート適性が悪化した(比較例2)。他方、小麦強力粉と併せて特定の澱粉、すなわちリン酸架橋エンドウ澱粉、リン酸架橋バレイショ澱粉、エンドウ澱粉、コーンスターチ、リョクトウ澱粉、又はサゴヤシ澱粉を用いると、良好なシート適性を維持したまま火膨れを抑制することができた(実施例1~8)。これらの澱粉を併用した即席油揚げ麺は、良好な歯応え及び粘りを有していたが(実施例1~8)、このような効果は、澱粉としてバレイショ澱粉を使用しても発揮されなかった(比較例3)。また、実施例1~8の即席油揚げ麺においては、比較例1及び2の即席油揚げ麺と比較して麺への油付着量も低減されていた。
【0028】
2.使用した澱粉の特性
上記項目1で使用した澱粉について、10質量%の濃度の水溶液を調製し、ラピッドビスコアナライザー(RVA)により以下の条件:
(i)50℃で1分間保持、
(ii)95℃まで11.2℃/分で昇温、
(iii)95℃を2.5分間保持、
(iv)50℃まで11.2℃/分で降温、
(v)50℃で2分間保持、
で分析し、各水溶液の最高粘度、ブレイクダウン(最高粘度と最低粘度との差)、最終粘度、及びセットバック(最低粘度と最終粘度との差)を求めた。結果を表3に示す。
【0029】
【表3】
【0030】
上記項目1の試験結果と併せて考慮すると、生地に配合する澱粉のブレイクダウン値が小さいほど、湯戻し後の食感の評点が高い傾向にあった。このような加熱による粘度変化の少ない澱粉が、即席油揚げ麺の油揚げ時の組織の膨化安定性を向上し、火膨れの抑制に寄与していると考えられた。
【0031】
以上より、小麦強力粉及び上記特定の澱粉と、前記小麦強力粉及び前記澱粉の配合量の合計に対して31.0質量%以下の水とを混合して調製した生地を用いることにより、製造される即席油揚げ麺において硬い食感を実現しつつ火膨れを抑制できることが分かった。したがって、硬い食感及び良好な外観を有する即席油揚げ麺を提供することができる。