(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189624
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】植物バイオマスからのアルカリ可溶性セルロース材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08B 5/02 20060101AFI20221215BHJP
C08B 15/02 20060101ALI20221215BHJP
C08B 16/00 20060101ALI20221215BHJP
D01F 2/02 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
C08B5/02
C08B15/02
C08B16/00
D01F2/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098297
(22)【出願日】2021-06-11
(71)【出願人】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】515261446
【氏名又は名称】株式会社三和綜合土木
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100191204
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 春彦
(72)【発明者】
【氏名】安藤 義人
(72)【発明者】
【氏名】イズディン イブラヒム
【テーマコード(参考)】
4C090
4L035
【Fターム(参考)】
4C090AA03
4C090AA04
4C090BA27
4C090BA33
4C090BB62
4C090BC01
4C090BD02
4C090CA04
4C090CA32
4L035BB03
4L035BB08
4L035BB16
(57)【要約】
【課題】アルカリ水溶液に可溶な新規なセルロース材料を製造する方法を提供すること。
【解決手段】植物バイオマスを、高温高圧の硝酸水溶液中で処理した後に、過熱水蒸気処理することにより製造されるアルカリ水溶液に可溶なセルロース材料である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物バイオマスを、高温高圧の硝酸水溶液中で処理する水熱処理工程と、
前記水熱処理工程を経た前記植物バイオマスを過熱水蒸気処理する過熱水蒸気処理工程と、
を有することを特徴とするアルカリ可溶性セルロース材料の製造方法。
【請求項2】
製造されるアルカリ可溶性セルロース材料が、透明性を有するセルロースファイバーであることを特徴とする請求項1記載のアルカリ可溶性セルロース材料の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の製造方法により得られるアルカリ可溶性セルロース材料を、アルカリ水溶液に溶解するアルカリ溶解工程を有することを特徴とするセルロース水溶液の製造方法。
【請求項4】
前記アルカリ水溶液のアルカリ濃度が、1~30w/v%であることを特徴とする請求項3記載のセルロース水溶液の製造方法。
【請求項5】
前記3又は4記載の製造方法により得られるセルロース水溶液からセルロースを析出させるセルロース析出工程を有することを特徴とするセルロース材料の製造方法。
【請求項6】
前記セルロース析出工程における処理が、前記セルロース水溶液を酸により中和してセルロースを析出させる処理であることを特徴とする請求項5記載のセルロース材料の製造方法。
【請求項7】
前記セルロース析出工程における処理が、前記セルロース水溶液を貧溶媒と混合してセルロースを析出させる処理であることを特徴とする請求項5記載のセルロース材料の製造方法。
【請求項8】
析出するセルロースが、II型の結晶性セルロースであることを特徴とする請求項5~7のいずれか記載のセルロース材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物バイオマスからアルカリ可溶性セルロース材料を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースは、最も豊富な再生可能な物質であり、古い時代から近代技術社会に至るまで継続して使用されている。植物由来の繊維であるセルロースは、環境負荷が小さく、かつ持続型資源であるとともに、高弾性率、高強度、低線膨張係数などの優れた特性を有する。そのため、幅広い用途、例えば、紙、フィルムやシートなどの材料、樹脂の複合材料(例えば、樹脂の補強剤)などとして利用されている。
【0003】
特に、微細化したナノセルロース(ナノファイバーなど)は、多くの分野での活用が求められており、国家プロジェクトとして推進されている。このようなナノセルロースの製造方法としては、例えば、セルロース表面をTEMPOなどの酸化剤を使って水酸基からカルボン酸塩に変換し、静電反発を利用する方法(特許文献1)や、強力な圧力で物理的に解繊する方法が提案されている。
【0004】
このように、セルロース材料に関する様々な研究がなされており、セルロース材料の機能性に関する追及が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、アルカリ水溶液に可溶な新規なセルロース材料を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、植物バイオマスを、高温高圧の硝酸水溶液中で処理した後に、過熱水蒸気処理することにより、アルカリ水溶液に可溶なセルロース材料を得ることができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の通りのものである。
[1]植物バイオマスを、高温高圧の硝酸水溶液中で処理する水熱処理工程と、
前記水熱処理工程を経た前記植物バイオマスを過熱水蒸気処理する過熱水蒸気処理工程と、
を有することを特徴とするアルカリ可溶性セルロース材料の製造方法。
[2]製造されるアルカリ可溶性セルロース材料が、透明性を有するセルロースファイバーであることを特徴とする上記[1]記載のアルカリ可溶性セルロース材料の製造方法。
[3]上記[1]又は[2]記載の製造方法により得られるアルカリ可溶性セルロース材料を、アルカリ水溶液に溶解するアルカリ溶解工程を有することを特徴とするセルロース水溶液の製造方法。
[4]前記アルカリ水溶液のアルカリ濃度が、1~30w/v%であることを特徴とする上記[3]記載のセルロース水溶液の製造方法。
【0009】
[5]上記[3]又は[4]記載の製造方法により得られるセルロース水溶液からセルロースを析出させるセルロース析出工程を有することを特徴とするセルロース材料の製造方法。
[6]前記セルロース析出工程における処理が、前記セルロース水溶液を酸により中和してセルロースを析出させる処理であることを特徴とする上記[5]記載のセルロース材料の製造方法。
[7]前記セルロース析出工程における処理が、前記セルロース水溶液を貧溶媒と混合してセルロースを析出させる処理であることを特徴とする上記[5]記載のセルロース材料の製造方法。
[8]析出するセルロースが、II型の結晶性セルロースであることを特徴とする上記[5]~[7]のいずれか記載のセルロース材料の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アルカリ水溶液に可溶な新規なセルロース材料を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例の製造フロー及び各工程で得られた生成物の収率を示す図である。
【
図2】実施例の各工程で得られた生成物の写真を示す図である。上から、孟宗竹(Moso)由来の生成物、真竹(Matake)由来の生成物、アブラヤシ葉茎(OPF)由来の生成物を示す。
【
図3】実施例に係る孟宗竹粉砕バイオマス、真竹粉砕バイオマスの粉末サイズの測定結果を示す図である。
【
図4】実施例に係る漂白処理2で得られた漂白セルロース材料の写真を示す図である。上から、孟宗竹由来の漂白セルロース材料(Moso-NSblc2)、真竹由来の漂白セルロース材料(Matake-NSblc2)を示す。
【
図5】実施例に係るセルロース材料の熱重量/示差熱量分析の結果を示す図であり、孟宗竹粉砕バイオマスから得られたセルロース材料(Moso-NS、Moso-NSblc1、Moso-NSblc2)の結果を示す。
【
図6】実施例に係るセルロース材料の熱重量/示差熱量分析の結果を示す図であり、真竹粉砕バイオマスから得られたセルロース材料(Matake-NS、Matake-NSblc1、Matake-NSblc2)の結果を示す。
【
図7】実施例に係るセルロース材料のIRスペクトルの結果を示す図であり、孟宗竹粉砕バイオマスから得られたセルロース材料(Moso-NS、Moso-NSblc1、Moso-NSblc2)の結果を示す。
【
図8】実施例に係るセルロース材料のIRスペクトルの結果を示す図であり、真竹粉砕バイオマスから得られたセルロース材料(Matake-NS、Matake-NSblc1、Matake-NSblc2)の結果を示す。
【
図9】実施例に係るセルロース材料のX線回折の結果を示す図であり、真竹粉砕バイオマスから得られたセルロース材料(Matake-NS、Matake-NSblc1)の結果を示す。
【
図10】実施例に係るセルロース材料のX線回折の結果を示す図であり、アブラヤシ葉茎粉砕バイオマスから得られたセルロース材料(OPF-NS、OPF-NSblc1)の結果を示す。
【
図11】実施例に係る漂白処理2で得られた漂白セルロース材料を水酸化ナトリウム水溶液に溶解して得られたセルロース水溶液(Dissolved Moso-NSblc2、Dissolved Matake-NSblc2)の写真を示す図である。
【
図12】実施例に係る未漂白のセルロース材料のアルカリ水溶液(水酸化ナトリウム水溶液)への溶解性を示す図であり、孟宗竹由来のセルロース材料(Moso-NS)の結果(写真)を示す。
【
図13】実施例に係る未漂白のセルロース材料のアルカリ水溶液(水酸化ナトリウム水溶液)への溶解性を示す図であり、真竹由来のセルロース材料(Matake-NS)の結果(写真)を示す。
【
図14】比較例に係る硝酸オートクレーブ処理バイオマス(Moso-NAAC)のアルカリ水溶液(水酸化ナトリウム水溶液)への溶解性を示す図(写真)である。
【
図15】実施例の各工程で得られたアブラヤシ葉茎由来バイオマスのアルカリ水溶液(水酸化ナトリウム水溶液)への溶解性を示す図であり、a)が未処理の粉砕バイオマス(Raw OPF)を示し、b)が硝酸オートクレーブ処理バイオマス(OPF-NAAC)を示し、c)が実施例に係る未漂白のセルロース材料(OPF-NS)を示し、d)が実施例に係る漂白セルロース材料(OPF-NSblc1)を示す。
【
図16】
図15における各溶液の顕微鏡写真であり、a)が未処理の粉砕バイオマス(Raw OPF)を示し、b)が硝酸オートクレーブ処理バイオマス(OPF-NAAC)を示し、c)が実施例に係る未漂白のセルロース材料(OPF-NS)を示し、d)が実施例に係る漂白セルロース材料(OPF-NSblc1)を示す。
【
図17】実施例に係る析出したセルロース材料(Regenerated Cellulose)のIRスペクトルの結果を示す図であり、酢酸を用いた酸性中和により析出したセルロース材料(Moso-NSblc1-AA、Matake-NSblc1-AA)の結果を示す。
【
図18】実施例に係る析出したセルロース材料(Regenerated Cellulose)のIRスペクトルの結果を示す図であり、エタノールを用いた溶剤沈殿により析出したセルロース材料(Moso-NSblc1-EtOH、Matake-NSblc1-EtOH)の結果を示す。
【
図19】実施例に係る析出したセルロース材料(Regenerated Cellulose)のX線回折の結果を示す図であり、酢酸を用いた酸性中和により析出したセルロース材料(OPF-NSblc1-AA、Matake-NSblc1-AA)の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<アルカリ可溶性セルロース材料の製造方法>
本発明のアルカリ可溶性セルロース材料の製造方法は、植物バイオマスを、高温高圧の硝酸水溶液中で処理する水熱処理工程と、水熱処理工程を経た植物バイオマスを過熱水蒸気処理する過熱水蒸気処理工程とを有することを特徴とする。
【0013】
本発明の製造方法によれば、植物バイオマスからアルカリ水溶液に可溶なセルロース材料を得ることができる。植物バイオマスや、植物バイオマスから通常の方法によって得られるセルロース材料は、アルカリ水溶液に不溶であるが、本発明の製法によれば、理由は不明であるが、アルカリ水溶液に可溶なセルロース材料を得ることができる。なお、本発明の水熱処理と過熱水蒸気処理の順序を逆にした場合には、アルカリ水溶液に可溶なセルロース材料は得られない。
また、本発明の製造方法は、高圧、高温の水蒸気を主に利用するものであり、また、用いる薬剤類も少ないことから、環境負荷が小さく、大量合成に適している。
【0014】
本発明の製造方法において用いられる植物バイオマスとしては、木質系バイオマス、草本系バイオマス等の植物由来のバイオマスを挙げることができ、木質系バイオマスが好ましい。木質系バイオマスは、木材に由来する再生可能な有機性資源であり、起源となる木材としては、例えば、広葉樹、針葉樹、竹、アブラヤシ等を挙げることができる。これらの木材は、単独で用いてもよいし、複数種組み合わせて用いてもよい。また、木材の部位としては、例えば、幹(茎)、枝、根、葉を挙げることができ、これらの部位を組み合わせて用いることができる。また、植物バイオマスの形状としては、薪状、チップ状、ペレット状、粒子状等、各種形状のものを用いることができる。
【0015】
本発明の製造方法により得られるアルカリ可溶性セルロース材料は、植物バイオマスからリグニンやヘミセルロースが実質的に除去されたセルロース繊維であり、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ水溶液に可溶なものである。このアルカリ可溶性セルロース材料は、セルロースミクロフィブリル、セルロースナノファイバーであることが好ましく、また、透明性を有することが好ましい。
【0016】
以下、各工程について説明する。
[水熱処理工程]
水熱処理工程は、植物バイオマスを、高温高圧の硝酸水溶液中で処理する工程である。本工程においては、例えば、オートクレーブ等の高圧反応器内に、硝酸水溶液に植物バイオマスを浸漬した容器を配置し、加熱して、高温高圧水蒸気存在下で反応を行う。本工程の水熱処理により、植物バイオマスの十分な脱リグニン化を図ることができ、このような本工程での十分な脱リグニン化が、アルカリ水溶液に可溶なセルロース材料を得ることができる一つの要因となっていると考えられる。
【0017】
処理温度としては、例えば、100超~200℃であり、効率的に処理を行う点から、110~180℃が好ましく、120~150℃がより好ましい。圧力は、飽和水蒸気圧である。また、処理時間としては、温度や圧力にもよるが、例えば、1~360分程度であり、1~60分程度が好ましい。
【0018】
また、硝酸水溶液の硝酸濃度としては、例えば、0.05~5.0Mであり、より効果的に脱リグニン化を図る点から、0.1~3.0Mが好ましく、0.2~2.0Mがより好ましい。
【0019】
[過熱水蒸気処理工程]
過熱水蒸気処理工程は、水熱処理工程を経た植物バイオマスを過熱水蒸気処理する工程である。かかる処理は、例えば、過熱水蒸気オーブン等の加熱水蒸気発生装置を用いて行うことができる。過熱水蒸気処理により、植物バイオマスを熱分解し、植物バイオマスに含まれるヘミセルロース等の低温分解物質の構造を破壊することができる。本工程により、アルカリ可溶性のセルロース材料が得られる。このセルロース材料は、例えばI型の結晶構造(I型の結晶性セルロース)である。
【0020】
処理温度(SHS温度)としては、通常120~500℃であり、効率的に処理を行う点から、150~400℃が好ましく、200~300℃がより好ましい。また、処理時間としては、処理温度にもよるが、例えば、1~360分程度であり、1~30分程度が好ましい。
【0021】
[漂白処理工程]
本発明のアルカリ可溶性セルロース材料の製造方法は、過熱水蒸気処理により得られたセルロース材料を漂白する漂白処理工程を有していてもよい。かかる漂白処理は、例えば、亜塩素酸ナトリウム等の塩素系漂白剤を用いて行うことができる。
本工程における処理によりセルロース材料をアルカリ水溶液により溶解させることが可能となる。また、セルロース材料を漂白することができ、かかるセルロース材料を溶解したセルロース水溶液はより無色透明に近いものとなる。また、セルロース水溶液から析出するセルロース材料も透明性の高いものとなる。
【0022】
<セルロース水溶液の製造方法(セルロース材料の溶解)>
本発明のセルロース水溶液の製造方法は、上述した製造方法により得られるアルカリ可溶性セルロース材料をアルカリ水溶液に溶解するアルカリ溶解工程を有することを特徴とする。
【0023】
本発明の製造方法によれば、セルロース材料が溶解したセルロース水溶液を得ることができることから、セルロース材料の応用範囲を拡大することができる。すなわち、セルロース材料を可溶化して均一系にすることで、水溶液中での反応や、他の材料との混合が可能となる。例えば、触媒反応で効率よく分解することや、セルロースの側鎖の修飾反応も可能となる。また、セルロース水溶液を塗布して溶媒を揮発させることによりセルロースの塗膜形成が可能となる。
【0024】
アルカリ水溶液としては、特に制限されるものではなく、例えば、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、アンモニア水等の各種アルカリの水溶液を挙げることができる。
【0025】
アルカリ水溶液のアルカリ濃度としては、セルロース材料が溶解する濃度であれば特に制限されるものではなく、例えば、1~30w/v%であり、3~20w/v%が好ましく、5~15w/v%がより好ましい。
【0026】
<セルロース材料の製造方法(セルロース材料の析出)>
本発明のセルロース材料の製造方法は、上述したセルロース水溶液の製造方法により得られるセルロース水溶液からセルロースを析出させるセルロース析出工程を有することを特徴とする。
【0027】
本発明のセルロース材料の製造方法のセルロース析出工程において析出されるセルロースは、例えばII型の結晶構造(II型の結晶性セルロース)である。
【0028】
本工程における処理としては、例えば、セルロース水溶液を酸により中和してセルロースを析出する方法(酸性中和)や、セルロース水溶液を貧溶媒と混合してセルロースを析出する方法(溶剤沈殿)を挙げることができる。
【0029】
セルロース水溶液を酸により中和してセルロースを析出する方法の場合、酸として、例えば、塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸や、酢酸、クエン酸等の有機酸を用いることができる。
【0030】
セルロース水溶液を溶媒と混合してセルロースを析出する方法の場合、混合させる溶媒として、例えば、メタノール、エタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、トルエン、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の有機溶媒を挙げることができる。
【実施例0031】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0032】
<アルカリ可溶性セルロース材料の製造>
植物バイオマスを用いてアルカリ可溶性セルロース材料を製造した。その概要を
図1に示す。また、
図2に、各工程で得られた生成物の写真を示す。
【0033】
[粉砕植物バイオマスの調製]
植物バイオマスとして孟宗竹(Moso)、真竹(Matake)、アブラヤシ葉茎(OPF)のチップを準備した。すべての植物バイオマスはオーブンで48時間乾燥し、初期水分含有量を減少させた後、粉砕機(DC-HOUSE 15KG/H 110V 電動粉砕機)を使って0.25~1mmの粒子サイズに粉砕し、粉砕バイオマス(Raw Biomass)を得た。なお、得られた粉砕バイオマスは、密封されたビニール袋に室温で保管した。
図3に、孟宗竹粉砕バイオマス、真竹粉砕バイオマスの粉末サイズを示す。
【0034】
[硝酸による水熱処理]
秤量した粉砕バイオマス(Moso、Matake、OPF)12.5gを500mLの三角フラスコに加え、粉砕バイオマスの質量と硝酸の体積の比率が1:20になるように、0.5M硝酸溶液250mLと混合した。続けて、アルミホイルで三角フラスコの口を閉じ、バイオマス混合物を、オートクレーブ(アズワン サイエンスオートクレーブNCC-1701)を用いて、132℃で30分間高圧水蒸気下で処理を行った。その後、処理した粉砕バイオマスをろ過し、蒸留水ですすいで、溶液が無色になるまで過剰の硝酸を除去した。洗浄後、80℃のオーブンで一晩乾燥させ、硝酸オートクレーブ処理バイオマス(Moso-NAAC、Matake-NAAC、OPF-NAAC)を得た。
【0035】
[過熱水蒸気処理]
水熱処理で得られた5gの硝酸オートクレーブ処理バイオマス(Moso-NAAC、Matake-NAAC、OPF-NAAC)をアルミパンに薄く広げ、過熱水蒸気オーブン(直本工業株式会社、小型卓上DCオーブン QF-5200C)に入れ、オーブン温度230℃、処理温度(SHS温度)265℃、処理時間5分で処理した。処理完了後、過熱水蒸気オーブンからアルミパンを取り出して放冷し、セルロース材料(Moso-NS、Matake-NS、OPF-NS)を得た。なお、アルミパンにおける硝酸処理バイオマスの層の厚さは約1mmとした。
【0036】
[漂白処理1]
過熱水蒸気処理で得られたセルロース材料(Moso-NS、Matake-NS、OPF-NS)から色を取り除くために、亜塩素酸ナトリウムを用いて漂白処理を行った。具体的に、漂白処理は、5gのセルロース材料をビーカーに入れ、4gの亜塩素酸ナトリウム、0.4mL氷酢酸、300mLの熱水と混合し、70℃で1時間撹拌した。続けて、4gの亜塩素酸ナトリウム、0.8mL氷酢酸を混合し、70℃で1時間撹拌した。さらに、2gの亜塩素酸ナトリウム、0.4mL氷酢酸を混合し、70℃で1時間撹拌した。続けて、溶液を濾過し、蒸留水ですすいで過剰の亜塩素酸ナトリウムと酢酸を除去し、蒸留水でリンスした後、少量のアセトンですすいで水分を除去した。自然乾燥させた後、80℃のオーブンで一晩乾燥させて、漂白セルロース材料(Moso-NSblc1、Matake-NSblc1、OPF-NSblc1)を得た(
図2参照)。
【0037】
[漂白処理2]
上記孟宗竹及び真竹粉砕バイオマスから製造したセルロース材料(Moso-NS、Matake-NS)について、漂白条件を変更して漂白処理を行った。
【0038】
具体的に、4gのセルロース材料に、3.2gの亜塩素酸ナトリウム、0.32mL氷酢酸、240mLの熱水を混合し、70℃で1時間撹拌した。続けて、濾過し、蒸留水ですすいで過剰の亜塩素酸ナトリウムと酢酸を除去し、蒸留水でリンスした後、少量のアセトンですすいで水分を除去し、自然乾燥させた後、80℃のオーブンで一晩乾燥させて、漂白セルロース材料(Moso-NSblc2、Matake-NSblc2)を得た(
図4参照)。
【0039】
(アルカリ可溶性セルロース材料の分析)
上記宗竹及び真竹粉砕バイオマスから製造したセルロース材料(Moso/Matake-NS、Moso/Matake-NSblc1(漂白処理1)、Moso/Matake-NSblc2(漂白処理2))について、熱重量/示差熱量分析法(TG/DTG)、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)、X線回折(XRD)により分析を行った。その結果を
図5~10に示す。
【0040】
図5及び
図6は、セルロース材料の熱重量/示差熱量分析の結果を示す図であり、
図5のグラフは、孟宗竹粉砕バイオマスから得られたセルロース材料(Moso-NS、Moso-NSblc1、Moso-NSblc2)を示し、
図6のグラフは、真竹粉砕バイオマスから得られたセルロース材料(Matake-NS、Matake-NSblc1、Matake-NSblc2)を示す。比較として、過熱水蒸気処理を施す前の硝酸オートクレーブ処理バイオマス(Moso-NAAC、Matake-NAAC)をあわせて示す。
図5及び6に示すように、ヘミセルロース由来の分解ピークがなくなっていることが確認された。
【0041】
図7及び
図8は、セルロース材料のIRスペクトルの結果を示す図であり、
図7のグラフは、孟宗竹粉砕バイオマスから得られたセルロース材料(Moso-NS、Moso-NSblc1、Moso-NSblc2)を示し、
図8のグラフは、真竹粉砕バイオマスから得られたセルロース材料(Matake-NS、Matake-NSblc1、Matake-NSblc2)を示す。比較として、シグマ‐アルドリッチ製の微結晶性セルロース(Cellulose)、硝酸オートクレーブ処理バイオマス(Moso-NAAC、Matake-NAAC)をあわせて示す。
なお、測定は、臭化カリウム錠剤法(KBrメソッド)により行い、試料とKBrの比率は1%とした。
【0042】
図7及び
図8に示すように、本実施例で得られたセルロース材料は、表面官能基に有意差がない。また、微結晶性セルロースと同様の約1000cm
-1のセルロースピークを示すことが確認された。
【0043】
図9及び
図10は、セルロース材料のX線回折の結果を示す図であり、
図9のグラフは、真竹粉砕バイオマスから得られたセルロース材料(Matake-NS、Matake-NSblc1)を示し、
図10のグラフは、アブラヤシ葉茎粉砕バイオマスから得られたセルロース材料(OPF-NS、OPF-NSblc1)を示す。比較として、過熱水蒸気処理を施す前の硝酸オートクレーブ処理バイオマス(Matake-NAAC、OPF-NAAC)、シグマ‐アルドリッチ製の微結晶セルロース(MCC-Sigma)をあわせて示す。
図9及び
図10に示すように、本実施例で得られたセルロース材料は、セルロースI型の結晶構造であることが確認された。
【0044】
<セルロース材料の溶解試験(セルロース水溶液の製造)>
漂白処理1で得られた4gの漂白セルロース材料(Moso-NSblc1、Matake-NSblc1、OPF-NSblc1)を8.3w/v%の水酸化ナトリウム水溶液2.5mLに対して0.1gの割合で添加し、室温(20℃)で40分間混合した。
図2に示すように、セルロース材料がアルカリ水溶液に溶解した4w/v%のセルロース水溶液(Dissolved Moso-NSblc1、Dissolved Matake-NSblc1、Dissolved OPF-NSblc1)が得られた。
【0045】
また、漂白処理2で得られた漂白セルロース材料(Moso-NSblc2、Matake-NSblc2)を10w/v%の水酸化ナトリウム水溶液に混合して、セルロース水溶液(Dissolved Moso-NSblc2、Dissolved Matake-NSblc2)を得た。
図11に示すように、漂白処理の漂白条件を変更した漂白セルロース材料についても、アルカリ水溶液に問題なく溶解した。
【0046】
さらに、未漂白のセルロース材料(Moso-NS、Matake-NS)のアルカリ水溶液(水酸化ナトリウム水溶液)への溶解性を確認した。具体的には、試料を8.3w/v%水酸化ナトリウム水溶液に混合させた1w/v%混合溶液として、その溶解性を確認した。なお、比較として、過熱水蒸気処理を施す前の硝酸オートクレーブ処理バイオマス(Moso-NAAC)についてもその溶解性について確認した。
【0047】
図12に、孟宗竹由来のセルロース材料(Moso-NS)の結果(写真)を示し、
図13に、真竹由来のセルロース材料(Matake-NS)の結果(写真)を示し、
図14に、硝酸オートクレーブ処理バイオマス(Moso-NAAC)の結果(写真)を示す。なお、比較として、右側に漂白処理したセルロース材料を(Moso-NSblc1、Matake-NSblc1)を並べた。
【0048】
図12及び
図13に示すように、未漂白のセルロース材料もアルカリ水溶液に溶解した。
【0049】
一方、
図14に示すように、硝酸オートクレーブ処理バイオマス(Moso-NAAC)は、液が曇っており、セルロース材料が溶解しないことが確認された。
【0050】
また、各工程で得られたアブラヤシ葉茎由来バイオマスを10w/v%の水酸化ナトリウム水溶液に1w/v%で溶解し、その溶解性を確認した。
図15に示すように、未処理の粉砕バイオマス(Raw OPF)及び硝酸オートクレーブ処理バイオマス(OPF-NAAC)は、沈殿物が見られ、水酸化ナトリウム水溶液に溶解しないのに対して、実施例に係る未漂白のセルロース材料(OPF-NS)及び漂白セルロース材料(OPF-NSblc1)は、沈殿物が見られず、セルロース材料が水酸化ナトリウム水溶液に溶解されることが確認された。
【0051】
また、得られた各溶液を顕微鏡で確認した。
図16にその結果を示す。
図16に示すように、未処理の粉砕バイオマス(Raw OPF)及び硝酸オートクレーブ処理バイオマス(OPF-NAAC)は、セルロース繊維の凝集が見られたが、実施例に係る未漂白のセルロース材料(OPF-NS)及び漂白セルロース材料(OPF-NSblc1)は、セルロース繊維がばらばらとなり、溶解していることが確認された。特に、漂白セルロース材料は、より溶解していることが確認された。
【0052】
<セルロースの析出>
(酢酸を用いた酸性中和)
上記セルロース水溶液の製造で得られた2mLセルロース水溶液(Dissolved Moso-NSblc1、Dissolved Matake-NSblc1、Dissolved OPF-NSblc1)を10mLの10w/v%の酢酸溶液に添加して酸性中和を行い、振とうし、遠心分離した。続いて、20mLの蒸留水と、20mLのアセトンですすぎ、沈殿物を集めて、乾燥させ、セルロース材料(Moso-NSblc1-AA、Matake-NSblc1-AA、OPF-NSblc1-AA)を得た。
【0053】
(エタノールを用いた溶剤沈殿)
また、上記中和によるセルロースの析出方法とは別の析出方法として、エタノール(貧溶媒)を用いた溶剤沈殿を行った。具体的に、上記セルロース水溶液の製造で得られた2mLセルロース水溶液(Dissolved Moso-NSblc1、Dissolved Matake-NSblc1、Dissolved OPF-NSblc1)を10mLの95%のエタノールに添加し、振とうし、遠心分離した。これを2回繰り返した後、沈殿物を集めて、乾燥させ、セルロース材料(Moso-NSblc1-EtOH、Matake-NSblc1-EtOH、OPF-NSblc1-EtOH)を得た。
【0054】
(析出したセルロース材料の分析)
析出したセルロース材料(Regenerated Cellulose)について、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)、X線回折(XRD)により分析した。その結果を
図17~19に示す。
【0055】
図17のグラフが酢酸を用いた酸性中和により析出したセルロース材料(Moso-NSblc1-AA、Matake-NSblc1-AA)を示し、
図18のグラフがエタノールを用いた溶剤沈殿により析出したセルロース材料(Moso-NSblc1-EtOH、Matake-NSblc1-EtOH)を示す。比較として、シグマ‐アルドリッチ製の微結晶性セルロース(MCC-Cellulose)の分析結果をあわせて示す。
【0056】
図17及び
図18に示すように、本発明のセルロース材料は、それぞれ微結晶性セルロース(MCC-Cellulose)と同様の約1000cm
-1のセルロースピークを示すことが確認された。
【0057】
図19は、酢酸を用いた酸性中和により析出したセルロース材料(OPF-NSblc1-AA、Matake-NSblc1-AA)のX線回折の結果を示す図を示す。比較として、シグマ‐アルドリッチ製の微結晶性セルロース(MCC-Sigma)の分析結果をあわせて示す。
図19に示すように、本発明のセルロース材料は、X線回折により、セルロースII型の結晶構造であることが確認された。