(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189786
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】アンモニアの回収方法及びアンモニアの回収装置
(51)【国際特許分類】
C01C 1/12 20060101AFI20221215BHJP
B01D 53/14 20060101ALI20221215BHJP
B01D 53/18 20060101ALI20221215BHJP
B01D 53/58 20060101ALI20221215BHJP
B01D 53/81 20060101ALI20221215BHJP
B01D 53/96 20060101ALI20221215BHJP
B01J 20/02 20060101ALI20221215BHJP
B01J 20/34 20060101ALI20221215BHJP
C01C 1/02 20060101ALI20221215BHJP
C01C 3/11 20060101ALI20221215BHJP
C01C 3/12 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
C01C1/12 A
B01D53/14 100
B01D53/18 ZAB
B01D53/58
B01D53/81
B01D53/96
B01J20/02 A
B01J20/34 G
C01C1/02 E
C01C3/11
C01C3/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093581
(22)【出願日】2022-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2021098117
(32)【優先日】2021-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ムーンショット型研究開発事業/地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現/産業活動由来の希薄な窒素化合物の循環技術創出―プラネタリーバウンダリー問題の解決に向けて」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100140198
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 保子
(74)【代理人】
【識別番号】100199691
【弁理士】
【氏名又は名称】吉水 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100158665
【弁理士】
【氏名又は名称】奥井 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100145089
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 恭子
(72)【発明者】
【氏名】臼田 初穂
(72)【発明者】
【氏名】桜井 孝二
(72)【発明者】
【氏名】南 公隆
(72)【発明者】
【氏名】川本 徹
【テーマコード(参考)】
4D002
4D020
4G066
【Fターム(参考)】
4D002AA13
4D002AC07
4D002AC10
4D002BA03
4D002CA07
4D002DA70
4D002EA07
4D002EA13
4D002FA06
4D002GA01
4D002GB20
4D020AA10
4D020BA30
4D020BB01
4D020BC06
4D020BC10
4D020CA05
4D020CC21
4D020DA03
4D020DB20
4G066AA14D
4G066AA41B
4G066AA43D
4G066AA51B
4G066AA52D
4G066BA36
4G066CA29
4G066DA02
4G066DA03
4G066GA11
4G066GA25
4G066GA37
4G066GA39
(57)【要約】
【課題】排ガス中のアンモニアを、温度や圧力を制御する場合よりも簡便、安価、穏和な条件で、固体として回収する方法及び装置を提供する。
【解決手段】アンモニアが吸着した下記一般式(1)で表されるPB誘導体に、炭酸水素アンモニア水溶液を接触させ、アンモニアを脱離した後、二酸化炭素を導入して、液中に析出したアンモニウムの炭酸塩を固体として回収する。
A
xM[M’(CN)
6]
y・zH
2O・・・(1)
[式(1)中、xは0~3の数であり、yは0.1~1.5の数であり、zは0~6の数であり、Aは水素、アンモニウムカチオン、アルカリ金属イオンなどであり、M、M’は所定の陽イオンである。]
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるプルシアンブルー誘導体に吸着したアンモニアを、炭酸水素アンモニウム水溶液と接触させて液中に脱離させる工程、
脱離したアンモニアを含有する液に二酸化炭素を接触させて固体のアンモニアの炭酸塩を析出させる工程、及び
前記析出したアンモニアの炭酸塩と炭酸水素アンモニウム水溶液を分離する工程
を含む、アンモニアの回収方法。
AxM[M’(CN)6]y・zH2O・・・(1)
[式(1)中、xは0~3の数であり、yは0.1~1.5の数であり、zは0~6の数であり、Aは水素、アンモニウムカチオン、アルカリ金属イオン及びアルカリ土類金属イオンからなる群から選択される少なくとも1種、もしくは2種以上の組み合わせを表す陽イオンであり、M、及びM’はそれぞれ独立に選択され、Mは、原子番号3~83の原子からなる群から選択される少なくとも1種、もしくは2種以上の組み合わせを表す陽イオン(ただし、水素、アンモニウムカチオン、アルカリ金属イオン及びアルカリ土類金属イオンを除く。)であり、M’は、原子番号3~83の原子からなる群から選択される少なくとも1種の陽イオン(ただし、水素、アンモニウムカチオン、アルカリ金属イオン及びアルカリ土類金属イオンを除く。)である。]
【請求項2】
前記脱離させる工程において、アンモニアガスを前記一般式(1)で表されるプルシアンブルー誘導体に接触させて吸着させる、請求項1に記載のアンモニアの回収方法。
【請求項3】
該アンモニアの炭酸塩が分離された後の液を、前記一般式(1)で表されるプルシアンブルー誘導体に吸着したアンモニアを脱離させる液として使用する工程を含む、請求項1に記載のアンモニアの回収方法。
【請求項4】
前記脱離させる工程において、アンモニアガスを前記一般式(1)で表されるプルシアンブルー誘導体に接触させて吸着させる、請求項3に記載のアンモニアの回収方法。
【請求項5】
前記炭酸水素アンモニウム水溶液が、飽和炭酸水素アンモニウム水溶液である、請求項1から4のいずれか1項に記載のアンモニアの回収方法。
【請求項6】
前記炭酸水素アンモニウム水溶液と接触させて液中に前記アンモニアを脱離させる工程において、該炭酸水素アンモニウム水溶液に水溶性有機溶媒を添加する、請求項1から4のいずれか1項に記載のアンモニアの回収方法。
【請求項7】
前記固体のアンモニアの炭酸塩が、炭酸水素アンモニウムである、請求項1から4のいずれか1項に記載のアンモニアの回収方法。
【請求項8】
下記一般式(1)で表されるプルシアンブルー誘導体からなる吸着材を設置する吸着材設置部を備え、アンモニアを吸着させた前記吸着材に炭酸水素アンモニウム水溶液を接触させて、吸着したアンモニアを液中に脱離させるアンモニアの吸脱着部と、
前記吸脱着部から排出された脱離液に二酸化炭素を導入してアンモニアの炭酸塩を析出させる固体析出部と、
前記固体析出部から排出された固体状のアンモニアの炭酸塩を含む脱離液を固体と液体に分離する固液分離部、
を備えるアンモニアの回収装置。
AxM[M’(CN)6]y・zH2O・・・(1)
[式(1)中、xは0~3の数であり、yは0.1~1.5の数であり、zは0~6の数であり、Aは水素、アンモニウムカチオン、アルカリ金属イオン及びアルカリ土類金属イオンからなる群から選択される少なくとも1種、もしくは2種以上の組み合わせを表す陽イオンであり、M、及びM’はそれぞれ独立に選択され、Mは、原子番号3~83の原子からなる群から選択される少なくとも1種、もしくは2種以上の組み合わせを表す陽イオン(ただし、水素、アンモニウムカチオン、アルカリ金属イオン及びアルカリ土類金属イオンを除く。)であり、M’は、原子番号3~83の原子からなる群から選択される少なくとも1種の陽イオン(ただし、水素、アンモニウムカチオン、アルカリ金属イオン及びアルカリ土類金属イオンを除く。)である。]
【請求項9】
前記固体状のアンモニアの炭酸塩が分離された後の液を、前記吸脱着部に導入する手段を備える、請求項8に記載のアンモニアの回収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニアの回収方法及びアンモニアの回収装置に関し、特に気相中のアンモニアを吸着した吸着材からアンモニアを脱離した後、脱離したアンモニアを固体として回収する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アンモニアはハーバーボッシュ法により空気中の窒素から、水素とエネルギーを用いて大量に化学生産されている。その大半は、化学肥料や化学繊維に利用される。それらの利用により、最終的に生産物が廃棄された後、分解で環境中にアンモニアが拡散し、様々な問題の原因となっている。PM2.5の多くは、農業から排出されるアンモニアが原因であり、富栄養化も排水中に含まれるアンモニア性窒素によるものである。
【0003】
また、アンモニアは、畜産からの悪臭の原因物質の一つであり、畜舎からだけでなく、堆肥化施設から糞尿の分解により発生する。工場や下水処理場からもアンモニアは発生するが、例えば生物を利用することで硝化・脱窒工程により窒素に変換する処理工程を必要とする。ただし、その処理工程には多くの電力やエネルギーを要する。
【0004】
これらのことから、環境中に拡散しうるアンモニアを回収することで、処理エネルギーの低減と、排ガスの資源化の両方を実現することが求められる。アンモニア由来の資源として、その多くは尿素やアンモニウム塩があげられる。中でも炭酸水素アンモニウム、カルバミン酸アンモニウム、セスキ炭酸アンモニウム、炭酸アンモニウムは、製菓、ゴムの配合剤、製薬、医薬品の用途があり、また構成するアンモニアと二酸化炭素は尿素の原料にもなる。近年では、アンモニアは燃料としても期待されている。
【0005】
排ガス中のアンモニアを回収する手法は、冷却によるアンモニアの液化や固化で回収する手法(特許文献1、特許文献2)があるが、液化温度(-77.7℃)まで冷却することや圧力を高める必要がある。
【0006】
こうした液化や固化で回収する手法に代えて、吸着材を用いてアンモニアを回収することも、産業界において幅広く使用されている。アンモニアの吸着には、主に、活性炭(特許文献3)、モレキュラーシーブ、ゼオライト(特許文献4)、Amberlyst(登録商標)とも呼ばれるスルホン酸を有する高分子(非特許文献1)等の材料が利用されているが、それらの吸着材は選択性と吸着容量が比較的低い。これに対し、プルシアンブルー(以下、「PB」と略す場合がある。)誘導体は、アンモニアへの選択性が高く、吸着容量が非常に大きいことから、好ましい吸着材として知られている。
【0007】
アンモニアを吸着した吸着材から、吸着したアンモニアを脱離する方法についても種々の方法が検討されている。
例えば、特許文献5、非特許文献2には、アンモニアを吸着したPB誘導体から、塩や強酸を溶かした水溶液又は超純水によりアンモニアを脱離させることが提案されている。
また、特許文献6には、アンモニアを吸着したPB誘導体に二酸化炭素および水を接触させて、アンモニアを脱離させることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011-207672号公報
【特許文献2】特開2017-77555号公報
【特許文献3】特開2016-160170号公報
【特許文献4】特開2000-317246号公報
【特許文献5】国際公開第2015-186819号
【特許文献6】国際公開第2020-080302号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J. Helminen et al, J. Chem. Eng.Data 2001, 46 (2), 391.
【非特許文献2】A. Takahashi et al, J. Am. Chem. Soc, 2016, 138, 6376.
【非特許文献3】D. Sutter et al, Chem.Eng. Sci. 2015, 133, 170-180.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献5,6及び非特許文献2の方法では、脱離したアンモニアは溶液状態で得られるため、その濃度によっては資源として利用する際に問題がある。例えば、低濃度のアンモニア水溶液を資源として使用する場合、液肥としての利用が考えられるが、この場合、農地への輸送が必要となり、特に近隣に利用先の農場が存在しなければ、輸送費が過大となり、活用は難しい。濃度を上げるためにはアンモニアストリッピングなどの方法による濃縮も可能ではあるが、それらの濃縮の実施にも相応のエネルギーを要する。
また、特許文献6では、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、および炭酸イオンアンモニウムの一種以上を液体または固体として回収することが記載されているが、固体とするには加熱等の処理が必要となり、エネルギーを要する。液体で回収した場合、その液体が再利用できない場合、排水処理などにエネルギーを要する。
【0011】
本発明は、こうした現状を鑑みてなされたものであって、簡便で安価な方法により、PB誘導体に吸着したアンモニアを脱離させたあと、脱離したアンモニアを固体状で回収しうる方法及び装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意検討の結果、前記の特許文献5,6及び非特許文献2に記載された脱離液に代えて、炭酸水素アンモニウム水溶液を用いることにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、前記課題を解決するための本発明の一側面は、
下記一般式(1)で表されるプルシアンブルー誘導体に吸着したアンモニアを、炭酸水素アンモニウム水溶液と接触させて液中に脱離させる工程、
脱離したアンモニアを含有する液に二酸化炭素を接触させて固体のアンモニアの炭酸塩を析出させる工程、及び
前記析出したアンモニアの炭酸塩と炭酸水素アンモニウム水溶液を分離する工程、
を含むアンモニアの回収方法である。
AxM[M’(CN)6]y・zH2O・・・(1)
[式(1)中、xは0~3の数であり、yは0.1~1.5の数であり、zは0~6の数であり、Aは水素、アンモニウムカチオン、アルカリ金属イオン及びアルカリ土類金属イオンからなる群から選択される少なくとも1種、もしくは2種以上の組み合わせを表す陽イオンであり、M、及びM’はそれぞれ独立に選択され、Mは、原子番号3~83の原子からなる群から選択される少なくとも1種、もしくは2種以上の組み合わせを表す陽イオン(ただし、水素、アンモニウムカチオン、アルカリ金属イオン及びアルカリ土類金属イオンを除く。)であり、M’は、原子番号3~83の原子からなる群から選択される少なくとも1種の陽イオン(ただし、水素、アンモニウムカチオン、アルカリ金属イオン及びアルカリ土類金属イオンを除く。)である。]
【0014】
本発明のアンモニアの回収方法においては、前記脱着工程において、アンモニアガスを前記一般式(1)で表されるプルシアンブルー誘導体に接触させて吸着させることで、アンモニアを吸着させる工程と吸着したアンモニアを脱離させる工程とを同時ないし交互に行うことができる。
【0015】
また、本発明のアンモニアの回収方法において、前記アンモニアの炭酸塩が分離された後の液を、前記一般式(1)で表されるプルシアンブルー誘導体に吸着したアンモニアを脱離させる液として使用する工程を含むことが好ましい。
【0016】
また、本発明のアンモニアの回収方法において、前記炭酸水素アンモニウム水溶液が飽和炭酸水素アンモニウム水溶液であることが好ましく、また、前記炭酸水素アンモニウム水溶液に水溶性有機溶媒を添加することが好ましい。
【0017】
本発明の他の一側面は、
下記一般式(1)で表されるプルシアンブルー誘導体からなる吸着材を設置する吸着材設置部を備え、アンモニアを吸着させた前記吸着材に炭酸水素アンモニウム水溶液を接触させて、吸着したアンモニアを液中に脱離させるアンモニアの吸脱着部と、
前記吸脱着部から排出された脱離液に二酸化炭素を導入してアンモニアの炭酸塩を析出させる固体析出部と、
前記固体析出部から排出された固体状のアンモニアの炭酸塩を含む脱離液を固体と液体に分離する固液分離部、
を有するアンモニアの回収装置である。
AxM[M’(CN)6]y・zH2O・・・(1)
[式(1)中、xは0~3の数であり、yは0.1~1.5の数であり、zは0~6の数であり、Aは水素、アンモニウムカチオン、アルカリ金属イオン及びアルカリ土類金属イオンからなる群から選択される少なくとも1種、もしくは2種以上の組み合わせを表す陽イオンであり、M、及びM’はそれぞれ独立に選択され、Mは、原子番号3~83の原子からなる群から選択される少なくとも1種、もしくは2種以上の組み合わせを表す陽イオン(ただし、水素、アンモニウムカチオン、アルカリ金属イオン及びアルカリ土類金属イオンを除く。)であり、M’は、原子番号3~83の原子からなる群から選択される少なくとも1種の陽イオン(ただし、水素、アンモニウムカチオン、アルカリ金属イオン及びアルカリ土類金属イオンを除く。)である。]
【0018】
本発明のアンモニア回収装置において、前記固体状のアンモニアの炭酸塩が分離された後の液を、前記吸脱着部に導入する手段を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、排ガス等の気相中のアンモニアを吸着した吸着材から、吸着したアンモニアを固体状アンモニアの炭酸塩として安価に効率よく回収することができる。また、本発明によれば、アンモニアを回収した後の炭酸水素ナトリウム水溶液は、再びPB誘導体に吸着したアンモニアの脱離液として再利用でき、さらに、アンモニアの脱離工程において、脱離液に用いる炭酸水素アンモニウム水溶液にアルコール等の水溶性有機溶媒を混合することにより、固体析出が促進され、吸着ガスのアンモニア濃度が低い場合でも固体としてアンモニアを回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明のアンモニア回収方法の原理を説明する図
【
図2】本発明のアンモニア回収方法の、一実施形態の工程を示す図
【
図3】本発明のアンモニア回収方法において、PB誘導体にアンモニアを吸脱着させるのに適したカラムの一例を模式的に示す図
【
図4】本発明のアンモニア回収装置の、一実施形態の概要を示す図
【
図6】実施例1の、二酸化炭素吹込み後に生じた析出物の写真
【
図7】実施例1で得られた析出物と市販の炭酸水素アンモニウム(NH
4HCO
3)のFTIRスペクトルを示す図
【
図8】実施例1における、脱離前後のアンモニア(NH
3)の収支を示す図
【
図9】実施例1における、二酸化炭素吹込み前後の水溶液中のアンモニア(NH
3)の収支を示す図
【
図10】実施例4における、カラムに吸着したNH
3量及び脱離液中のNH
4
+濃度の変化を示す図
【
図11】実施例5における、カラムに吸着したNH
3量及び脱離液中のNH
4
+濃度の変化を示す図
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のアンモニア回収方法及びアンモニア回収装置は、上記一般式(1)で表されるPB誘導体に吸着したアンモニアを、炭酸水素アンモニウム水溶液と接触させて液中に脱離させた後、脱離したアンモニアを含有する液に二酸化炭素を接触させて、固体状のアンモニアの炭酸塩を析出させることを特徴とするものである。
【0022】
以下、本発明のアンモニア回収方法の原理について、
図1を用いて説明する。
アンモニアが飽和炭酸水素アンモニウム水溶液に溶けることは知られている(非特許文献3参照)。
図1は、非特許文献3に掲載されている、10℃におけるアンモニア、二酸化炭素、水の三成分相図であり、図中、組成は質量比で表されており、Sは固相、Lは液相、Vは気相を表し、BCは炭酸水素アンモニウム、SCはセスキ炭酸アンモニウム、CBは炭酸アンモニウム、CMはカルバミン酸アンモニウムを表している。なお、図中の矢印と日本語の説明は発明者らが加えたものである。
【0023】
たとえば、飽和炭酸水素アンモニウム水溶液を用いて、PB誘導体に吸着したアンモニアを脱離させた場合について説明すると、飽和炭酸水素アンモニウム水溶液の組成は、図中の「脱離」で表した矢印に沿って変化する。つぎに、アンモニアが脱離した後の飽和炭酸水素アンモニウム水溶液に二酸化炭素を導入すると、「CO
2導入」で表した矢印に沿って系の組成が変化し、固相と液相の相分離領域で二本の矢印で表されているように相分離して、炭酸水素アンモニウムと飽和炭酸水素アンモニウム水溶液の二相に相分離し、固体が析出する。脱離液として用いることができる組成は、
図1のS+Lで表される領域よりも右側にあるLの領域に該当する組成である。
【0024】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」という。)について説明するが、これらは、この発明を説明するためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
なお、本明細書において数値範囲を示す「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味として使用される。
【0025】
《アンモニアの回収方法》
本実施形態のアンモニアの回収方法は、PB誘導体に吸着したアンモニアを、炭酸水素アンモニウム水溶液と接触させて脱離させる工程(以下、「脱離工程」ということもある)と、該脱離したアンモニアを含む液に二酸化炭素を接触させて固体のアンモニアの炭酸塩を析出させる工程(以下、「析出工程」ということもある)と、前記析出したアンモニアの炭酸塩と炭酸水素アンモニム水溶液を分離する工程とを備えている。
【0026】
図2は、本実施形態のアンモニアの回収方法の一例を説明する工程図であり、PB誘導体に吸着したアンモニアに、脱離液(炭酸水素アンモニウム水溶液)を接触させて液中にアンモニアを脱離させる工程、PB誘導体と脱離液を分離する工程、PB誘導体を分離した後の脱離液に二酸化炭素を接触させて炭酸水素アンモニウムを固体析出させる工程、及びその固体が析出した脱離液を固液分離して析出物を回収する工程を表している。該図に示すように、PB誘導体と脱離液は再利用することができる。
本実施形態におけるこれらの工程は、全工程又は一部の工程において、バッチ方式であっても、或いはフロー方式であっても良い。
以下、順に、詳しく説明する。
【0027】
[アンモニアの吸着材]
本実施形態においてアンモニアの吸着材として用いるものは、PB誘導体と呼ばれるものである。その構成物は、金属イオン(プラスチャージを有するカチオン)と、配位子の一種であるそれらの金属イオンを架橋するシアノ基(マイナスチャージを有するアニオン、CN-)からなり、構造的にヘキサシアノ金属イオンを有する金属シアノ錯体と呼ばれる一連の化合物である。PB誘導体は、一般式:AxM[M’(CN)6]y・zH2O(A、M、M’=金属イオン)で表され、その内部に対象ガスを取り込むことができるナノ空隙構造を有する。このナノ空隙構造、すなわち空孔サイズの大きさは0.3~0.6nmの範囲にあり、それらが規則的に繰り返されて組み上がっているため、非常に大きな表面積を有し、かつ高い選択性で、臭気ガスの一種であるアンモニアを、効率よく吸着、脱臭できる。
【0028】
金属イオンM、M’には、原子番号3から83までの金属元素から独立して選ばれる。尚、金属イオンM、M’においては、前記一般式中のAである水素、アンモニウムカチオン、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムのアルカリ金属、及び、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウムのアルカリ土類金属からなる群より選ばれる陽イオンは除かれる。例えば、前記一般式中、Mにおいては、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、インジウム、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウムからなる群より選ばれる一種又は二種以上の陽(プラス、+)イオンである金属イオンが挙げられる。Mには、二種類以上の陽イオンが混合する場合があり、全体のチャージバランスを保つようPB誘導体中に存在する。M’においては、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金、及び銅からなる群より選ばれる一種又は二種以上の金属イオンが挙げられる。選択されるM’においては、特に、鉄、コバルトがシアン化物の安定性の視点から好ましい。
【0029】
金属イオンM、M’の組み合わせにより、アンモニアの吸着容量、吸着速度、選択性の能力、性能を変化、制御させ、アンモニアの吸着を行うことができる。Mがインジウム、M’が鉄(II)や、Mがコバルト(III)、M’がコバルト(II)のPB誘導体の場合、アンモニアを低濃度から高濃度まで定量的、安定的に吸着できるため、吸着と脱離のための誘導体として好ましい。また、それ以外の様々な組み合わせも可能であり、例えば、M=Fe3+、M’=Fe2+ やM=Cu2+、M’=Fe2+やM=Co2+、M’=Co3+やM=Cu3+、M’=Co2+などの組み合わせが挙げられる。
【0030】
Aは、水素、アンモニウムカチオン、及び、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムのアルカリ金属、及び、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウムのアルカリ土類金属からなる群より選ばれる1種又は2種以上の組み合わせを表す陽イオンである。Aには、二種類以上の前記Aの陽イオンが混合する場合があり、全体のチャージバランスを保つようxの値が存在する。
前記式中において、xは0~3、yは0.1~1.5、zは0~6の数値を表す。
【0031】
前記一般式中で表されるPB誘導体のナノ空隙構造は、上述のとおりのものであり、また、金属イオンA、M、M’として上記で挙げた様々な金属元素を採用した場合でも、その空孔は、Csイオン(Cs+、イオン半径
= 0.183nm)を高い選択性で効率よく吸着することも知られており、PB誘導体の骨格のひとつでマイナスチャージを帯びたCNに囲まれたナノ空隙構造、すなわち空孔が、プラスチャージを帯びたCsイオンと電荷的に且つ空間的に良いマッチングを示し、A、M、M’が様々な金属元素である場合でも効率的な吸着を実現すると考えられる。本発明のアンモニア化学種の1つであるアンモニウムイオン(NH4
+、イオン半径=0.175nm)は、そのプラスチャージ且つその大きさが、Csイオンと酷似しており、A、M、M’が様々な金属元素である場合でもPB誘導体が、アンモニア化学種を効率よく吸着する要因と考えられる。上記一般式中のA、M、M’を上記で挙げたような様々な金属元素に変更した場合でも、同様のアンモニア吸着効果が得られると考えられる。
【0032】
前述のPB誘導体の前記一般式中における金属イオンのうち、金属MとM’を、原子番号3から83までの原子から選ばれる同一もしくは異種の組み合わせを選択し、具体的な組成を有する素材(主に粉状)として合成し、その素材を得る。A、M、M’の組み合わせを変えることで、アンモニアの吸着、脱離における、速度や容量、吸着したアンモニア化学種の吸着の強さ、圧力、温度、湿度に係る性質、能力を変化、調整することができる。
【0033】
また、本実施形態のPB誘導体は、それを含有する態様であれば、あらゆるものを含み、例えば、高分子化合物との混合物、化学結合を有する結合体の形態、ガラスウール、ゼオライトやモレキュラーシーブ等の他の無機物との混合物、有機物ポリマーまたは金属もしくは酸化物の無機物から成るフィルターや板材に固定された形態、それらを粒状、柱状、またはペレット状にした形態等、あらゆる態様を含む。さらに、実施形態のPB誘導体を、多孔性容器もしくはガスを通すことができる二次元状のシートに詰めて、または包んで使用する態様、あるいは、ジェル、インク、フィルム、樹脂、粉、砂、または水、アルコール、油、有機物、イオン液体等の液体に混ぜて使用する態様も含む。
【0034】
[PB誘導体へのアンモニアの吸着]
PB誘導体にアンモニアを吸着させる方法としては、アンモニアを含む気体もしくは液体にPB誘導体を接触させればよく、そのような接触によりアンモニアが吸着したPB誘導体が形成される。
吸着に好適な条件は、温度、圧力、湿度、アンモニアの混合状態、pH、濃度や液固比を調整することで実現できる。温度は比較的低い方(例えば、150℃以下)が、圧力は比較的高い方(例えば、1気圧(100kPa)以上)が望ましいが、湿度、アンモニアの混合状態、pH、濃度は、PB誘導体の種類によって調整することが望ましい。PB誘導体によって吸着させる温度、圧力、湿度の範囲は変わるが、例えば、温度は150℃以下から選ばれる比較的低い温度が好ましい。圧力は1気圧(100kPa)以上から選ばれる圧力が好ましく、湿度は1%RH以上から選ばれる湿度が好ましい。
【0035】
[脱離工程]
(PB誘導体に吸着したアンモニアを脱離するための液)
本実施形態においてPB誘導体に吸着したアンモニアを脱離するための液(脱離液)として、炭酸水素アンモニウム水溶液が用いられる。
なお、炭酸水素アンモニウム水溶液は、アンモニアと二酸化炭素がモル比1:1で水に溶解した液と考えることができ、20℃において100mLの水に21.6gの炭酸水素アンモニウムが溶解したとき、飽和炭酸水素アンモニウム水溶液となる。
【0036】
本実施形態において、脱離液には以下のものが含まれる。
・炭酸水素アンモニウム(NH4HCO3)を溶解しなくなるまで溶かした飽和炭酸水素アンモニウム水溶液
・揮発でアンモニア及び/又は二酸化炭素濃度が減少した炭酸水素アンモニウム水溶液
・脱離したアンモニアを含みアンモニウムイオン濃度が増加した炭酸水素アンモニウム水溶液
・水溶性有機溶媒を混合することで飽和濃度の変化した飽和炭酸水素アンモニウム水溶液
・固体状に析出したアンモニアの炭酸塩を分離した後の炭酸水素アンモニウム水溶液
【0037】
本実施形態において、脱離液の組成は、前述の通り、前記
図1のS+Lで表される領域よりも右側にあるLの領域に該当する組成であればよいが、脱離液中のアンモニア濃度は、脱離を行う視点からは低い方が好ましく、析出を行う視点からは飽和濃度に近い方が好ましい。意図しない装置内での固体析出を防ぐには、飽和濃度より低い方が好ましい。
以上からアンモニアモル濃度は、脱離の視点からは、炭酸水素アンモニウムの飽和モル濃度の80%以上にするのが好ましく、析出の効率を考えると炭酸水素アンモニウムの飽和モル濃度の90%~100%にすることが好ましく、装置内の析出を考えると炭酸水素アンモニウムの飽和モル濃度の90%~95%にすることが好ましい。
【0038】
また、二酸化炭素のモル濃度は、脱離の視点からは、炭酸水素アンモニウムの飽和モル濃度の80%以上にするのが好ましく、析出の効率を考えると炭酸水素アンモニウムの飽和モル濃度の90%~100%にすることが好ましく、装置内の析出を考えると炭酸水素アンモニウムの飽和モル濃度の90%~95%にすることが好ましい。
【0039】
前記飽和濃度は、温度または水溶性有機溶媒の混合によって変化するが、脱離、析出ともに飽和濃度が低くなる方が好ましい。
本実施形態における脱離液の温度は、脱離の視点からは、0℃~40℃が好ましく、析出の視点からは、0℃~25℃がより好ましい。
水溶性有機溶媒としては、飽和濃度を下げる溶媒であればよいが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールの水溶性のアルコールや、アセトンのような水に溶解するがアンモニアの炭酸塩を溶解しない溶媒があげられる。
【0040】
本実施形態において、PB誘導体に吸着したアンモニアは、炭酸水素アンモニウム水溶液に接触させることにより液中に脱離し、液中に脱離したアンモニムは、後述する[析出工程]において、脱離したアンモニアを含有する液に二酸化炭素を接触させることにより液中に析出する。
これらの工程における処理の順序や条件、態様は、あらゆる場合を含む。
例えば、例を挙げると、
(A)アンモニアが吸着したPB誘導体を炭酸水素アンモニウム水溶液と接触させた後、すなわち液中に浸漬もしくは液を流通させた後、該PB誘導体を分離したのちの液に二酸化炭素をバブリングにより導入する態様、
(B)アンモニアが吸着したPB誘導体を炭酸水素アンモニウム水溶液と接触させながら、二酸化炭素をバブリングにより液に導入する態様、
(C)アンモニアが吸着したPB誘導体を炭酸水素アンモニウム水溶液に接触させた後、該PB誘導体を分離したのちの液を、二酸化炭素が存在する容器内に噴霧する態様、
(D)アンモニアが吸着したPB誘導体を炭酸水素アンモニウム水溶液に接触させ、二酸化炭素導入でアンモニアの炭酸塩を析出・回収した後、液を再び該PB誘導体に接触させ、繰り返し使用する態様、
等があげられる。
また、本実施形態におけるこれらの工程は、バッチ方式であっても、或いはフロー方式であっても良い。
なお、上記(A)~(D)は、それぞれの態様に応じて、温度、圧力、環境条件が適切に選択される。
【0041】
(PB誘導体と脱離液の分離)
上記のとおり、本実施形態では、二酸化炭素を導入する前にPB誘導体と脱離液を分離するか(
図2参照)、或いは脱離液にPB誘導体を接触させながら二酸化炭素を導入することができるが、二酸化炭素を導入する前にPB誘導体と脱離液を分離する場合、その方法は特に限定されない。
【0042】
(脱離工程におけるアンモニアの吸着)
本実施形態においては、前記の脱離工程において、PB誘導体にアンモニア(NH3)を接触させてPB誘導体へのアンモニアの吸着を行うことで、PB誘導体へのアンモニアの吸着と前記脱離工程と同時に行うこと、或いはPB誘導体へのアンモニアの吸着と前記脱離工程とを交互に行うことができる。
【0043】
図3は、PB誘導体にアンモニアを吸脱着させるのに適したカラムの一例を模式的に示す図である。
PB誘導体の造粒体が充填されるカラム本体には、一方向からNH
3ガスを導入してPB誘導体にNH
3ガスを接触させるとともに、該方向と直行する別方向から脱離液である炭酸水素アンモニウム水溶液を導入して、PB誘導体に吸着したNH
3に接触させるように構成されている。
該カラムを用いることで、NH
3ガスを導入した後に脱離液を導入すること、NH
3ガスと脱離液を同時に導入すること、或いは、NH
3ガスと脱離液を交互に導入することが可能となる。
また、該カラムを用いた場合、PB誘導体の造粒体はメッシュがセットされたカラム本体内に充填されているので、カラム本体から排出されるアンモニアを含む脱離液とPB誘導体との分離も可能となる。
【0044】
[析出工程]
(二酸化炭素)
本実施形態において、固体状のアンモニアの炭酸塩を析出させるために、脱離したアンモニアを含有する液に接触させる二酸化炭素は、物質状態として、気体、及び/又は、溶媒に溶けた溶液もしくは圧力を50気圧以上にした液体を含む状態がある。二酸化炭素が固体のみで存在する状態、すなわちドライアイスのみの場合は除かれる。例えば、気体状の二酸化炭素には、純粋な二酸化炭素や、二酸化炭素を含む混合気体、排ガス中の二酸化炭素も含まれる。また、二酸化炭素の気体と固体が共存する場合、二酸化炭素の気体と前記の液体が共存する場合、もしくは二酸化炭素の気体と液体と固体が共存する場合が含まれる。
【0045】
二酸化炭素を接触させる方法としては、脱離液中に、二酸化炭素をバブリング等の方法により導入するか、或いは二酸化炭素が存在する容器内に、脱離液を噴霧する方法がある。二酸化炭素が液体の時は、ポンプにより脱離液と二酸化炭素を配管内で混合する方法がある。
本実施形態においては、前述のとおり、脱離液にPB誘導体を接触させながら二酸化炭素を接触させることもできる。
【0046】
(アンモニアの炭酸塩の析出)
本実施形態において、二酸化炭素との接触により液中に析出するアンモニアの炭酸塩とは、炭酸水素アンモニウム、カルバミン酸アンモニウム、セスキ炭酸アンモニウム、炭酸アンモニウム及びそれらの混合物を示し、PB誘導体に含まれる成分の溶出により不純物として炭酸カリウムアンモニウム、炭酸ナトリウムアンモニウムなどが混ざったものを表す。
本実施形態において、アンモニアの炭酸塩の析出は、常温下に限られず、例えば、脱離したアンモニウムを含む液に二酸化炭素を接触させた後、低温に保持する、或いは低温に保持した後に衝撃を与える等の方法で析出させることもできる。
【0047】
[分離・回収工程]
本実施形態において、二酸化炭素との接触によって脱離液中に析出するアンモニアの炭酸塩を分離、回収する方法は、特に限定されないが、沈降法、浮上法、ろ過法、遠心法およびそれらの組み合わせにより容易に回収できる。
また、前項に記述したように、脱離液にPB誘導体を接触させながら二酸化炭素を導入した場合には、液中に析出したアンモニアの炭酸塩とPB誘導体が共存することになるが、PB誘導体の造粒体を使用し脱離液を流動させることで、大きさの違いでろ紙やメッシュにより析出物と分離することや、浮力の違いで沈降速度や浮上速度により析出物と分離することができる。
【0048】
分離後の炭酸塩は、化学工業における化学原料、もしくは、肥料や中和剤として利用でき、さらには、固体状の炭酸塩をアンモニアに化学変換することにより、発電用のエネルギー源として、また、水素キャリヤーとして利用でき、もしくは、アンモニアを原料として派生する有用物質、例えば、医薬品、農薬、表面処理剤、食料用のアミノ酸やタンパク質合成、工業用の高分子合成に利用できる。
【0049】
[分離後の液の再使用]
本実施形態においては、二酸化炭素の導入で液中に析出した炭酸塩を分離した後、その脱離液を再び該PB誘導体に接触させて、繰り返し使用することができる。
【0050】
[PB誘導体のリサイクル使用]
本実施形態の脱離工程において、吸着したアンモニアを脱離したPB誘導体は、吸着できる空孔や場所が空くので、再度、アンモニアを吸着させ、再度、アンモニアを脱離してゆくリサイクル使用ができる。
【0051】
《アンモニアの回収装置》
本実施形態のアンモニアの回収装置は、
PB誘導体からなる吸着材を設置する吸着材設置部を備え、アンモニアを吸着させた前記吸着材に炭酸水素アンモニウム水溶液を接触させて、吸着したアンモニアを液中に脱離させるアンモニアの吸脱着部と、
前記吸脱着部から排出された脱離液に二酸化炭素を導入することでアンモニアの炭酸塩を析出させる固体析出部と、
前記固体析出部から排出された固体のアンモニアの炭酸塩を含む脱離液を固体と液体に分離する固液分離部と、
を有する。
【0052】
また、本実施形態のアンモニアの回収装置は、前記析出アンモニアの炭酸塩が分離された後の液を前記吸脱着部に導入する手段を備えることで、脱離液を再利用できるようにされていることが好ましい。
【0053】
本実施形態のアンモニア回収装置は、バッチ方式であっても、或いはフロー方式であっても良い。
【0054】
図4は、本実施形態のアンモニア回収装置の一例を説明する図であり、図中、1は、吸着材設置部、2は、アンモニアの吸脱着部、3は、固体析出部、4は、固液分離部、5は、二酸化炭素ボンベ、6は送液ポンプを表している。
【0055】
該図に示すように、アンモニアの吸脱着部2には、PB誘導体からなる吸着材を設置する吸着材設置部1と、アンモニアガス導入口と、炭酸水素アンモニウム水溶液又は炭酸水素アンモニウム水溶液と水溶性有機溶媒の混合液からなる脱離液の導入口と、前記吸着材から脱離したアンモニアを含む脱離液の排出口とが備えられており、アンモニアガスの導入により吸着材に吸着されたアンモニアは、前記脱離液の導入により脱離液中に脱離し、吸着材から脱離したアンモニアを含む脱離液は、前記排出口より排出される。
【0056】
固体析出部3は、前記吸脱着部2から排出された脱離液を導入するための脱離液導入口と、二酸化炭素導入口と、二酸化炭素の導入により析出したアンモニアの炭酸塩を含む脱離液の排出口とを備えており、前記吸脱着部2から排出された、吸着材から脱離したアンモニアを含む脱離液は、送液ポンプ6を介して、脱離液導入口から導入される。同時に、該脱離液中に、二酸化炭素ボンベ5内の二酸化炭素が導入口より導入され、固体状の炭酸アンモニウム塩が析出する。
【0057】
固液分離部4は、固体のアンモニアの炭酸塩を含む脱離液の導入口と、前記固体状のアンモニアの炭酸塩が分離された後の脱離液の排出口とを備えている。前記固体析出部3において析出した固体状のアンモニアの炭酸塩を含む脱離液が、送液ポンプ6を介して導入され、固液分離された後、固体状のアンモニアの炭酸塩が分離された脱離液は、排出口から排出される。
【0058】
前記固液分離部4から排出された脱離液は、前記脱着部に備えられた導入口から、吸脱着器内に導入され、吸着材に吸着されたアンモニアを脱離するのに、再利用される。
【0059】
本実施形態の装置において、二酸化炭素の溶解量を大きくし、析出量を増やすために、送液ポンプ6間を加圧することも考えられる。
また、本実施形態の装置において、フロー方式のための装置として用いる場合は、前記吸着材設置部1に、
図3に図示したカラムを用い、該カラムに脱離液を循環させることで、吸着材へのアンモニアの吸着、吸着材からのアンモニアの脱離、脱離液からのアンモニアの炭酸塩の固体析出、及び析出した固体状のアンモニアの炭酸塩の固液分離、及び分離された液のアンモニアを脱離する液としての使用を連続して行うことができる。
【実施例0060】
以下、実施例によって、本発明を説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。本発明の技術思想の範囲内での吸着材を用いた態様や、材料、処理条件等の変更なども全て本発明に含まれる。
【0061】
[実施例1:PB誘導体CuHCFを用いたアンモニア(NH3)の吸着・脱離試験]
<Cu2[FeII(CN)6]の調製>
室温において、筒状の遠心分離用のプラスティックチューブ中で、室温においてK4[Fe(CN)6]の水溶液へ、硝酸銅(II)(CuSO4)の水溶液を一気に混合し、攪拌器で攪拌した。遠心分離機で、得られた化合物と上澄み液に分離し、上澄み液を除去し、超純水を加えて振盪および洗浄を行った。これを3回繰り返し、PB誘導体の一種である銅置換型のCu2[FeII(CN)6](以下、「CuHCF」とする。)析出物を得た。得られた析出物を成形、乾燥してCuHCF造粒体(径5mm、長さ1cmの円筒形)を得た。
【0062】
<CuHCFの分析>
得られたCuHCFをX線回折装置で評価したところ、このCuHCFのピーク位置は、データベース中のFe[Fe(CN)6]0.75のピーク位置と一致した。これより、得られたCuHCFは、PBの結晶構造と同一の結晶構造を有することが確認された。さらに、塩酸4mLと硝酸2mLの混合液にCuHCF粉末約50mgを添加し、マイクロ波分解装置によってCuHCF粉末を分解した。
その後、誘導結合プラズマ質量分析計または原子発光分光分析装置によって、CuHCFに含有される各元素を定量した。なお、CおよびNは軽元素分析法により定量した。その結果、生成物は、Cu2[FeII(CN)6]であった。
【0063】
<アンモニアの吸着/脱離と固体NH
4HCO
3の回収>
前記CuHCF造粒体へのアンモニア(NH
3)の吸着と脱離、および固体NH
4HCO
3の回収の工程を
図5に示す。各々の工程は室温常圧下で行った。
【0064】
(NH
3吸着)
NH
3吸着は、
図5に示すように、粒状CuHCF約1gを入れた15mL遠心分離管と、40mLの28%NH
3溶液を入れた50mL遠心分離管とを、500mLボトル内に48時間以上静置した。
ボトル内のNH
3濃度は、ガスを10000倍に希釈して検知管で測定したところ60vol%だった。
【0065】
(脱離及びCuHCFの分離)
20℃において100mLの水に21.6gの炭酸水素アンモニウム(NH4HCO3)を溶解して、飽和NH4HCO3水溶液とした。
脱離のために、吸着後のCuHCF造粒体約1gと飽和NH4HCO3水溶液を液体/固体比10で15mLの遠心分離管に入れ、シェーカーを使用して300rpmで48時間振とうした。
脱離後、遠心分離機を用いて3000Gで10分間遠心分離することにより、粒状のCuHCFと上澄みを分離した。
脱離後の上澄みは青色に着色しており、銅アンミン錯体が存在していることがわかった。
【0066】
(析出・回収)
固体のNH
4HCO
3を回収するために、マスフローコントローラーを使用して、二酸化炭素(CO
2)を4mLの上澄み液に0.2mL/minの流量で30分間吹き込み、NH
4HCO
3と予想される固体を得た。
図6に、CO
2吹込み後に生じた析出物を撮影した写真を示す。
上澄みを除去して析出した固体を回収した。
回収した固体の同定を、フーリエ変換赤外分光測定(FTIR)を用いて行った。
図7は、実施例1で得られた析出物と市販の炭酸水素アンモニウム(NH
4HCO
3)のFTIRスペクトルを示す図である。
該図に示すとおり、市販のNH
4HCO
3と同様のスペクトルが得られ、NH
3をNH
4HCO
3固体として回収できることが確かめられた。
【0067】
<物質収支の評価>
NH
3の物質収支は、NH
3を水溶液に溶出させ、液中のNH
4
+濃度をイオンクロマトグラフィー(IC)の結果から計算した。
まず、CuHCF造粒体に吸着したNH
3の量(
図5のA、NH
3吸着量)を、液体/固体比400の1M NaHSO
4溶液で、NH
3が吸着したCuHCF造粒体を3回洗浄することによって決定した。
また、NH
4HCO
3水溶液中に脱離したNH
3の量(
図5のB、NH
3脱離量)は、飽和NH
4HCO
3水溶液のNH
4
+濃度と脱離に用いた後の脱離液のNH
4
+濃度の差から定量した。
脱離後にCuHCF造粒体に残っているNH
3の量(
図5のC、吸着材中NH
3量)を決定するには、いくつかの段階に分けて定量した。
まず、乾燥吸着材剤の質量を測定するために、脱離後のCuHCF造粒体を、100mL/minの流量で24時間乾燥空気を吹き付けて乾燥した。排出された空気は、NH
3をトラップするために20mLの10g/Lボリック溶液で満たされた4つのインピンジャーに導入した。トラップされたNH
3の量は、イオンクロマトグラフィーを使用して測定した。次に、乾燥したCuHCF造粒体を
図5のAを求めた時と同様に処理し吸着量を求めた。Cは、乾燥中にボリック溶液によってトラップされたNH
3量と、乾燥後にNaHSO
4水溶液で洗浄することによって脱離したNH
3量の合計として計算した。
これらの結果を
図8に示す。なお、
図8において、BとCの和がAにならないのは、実験作業中に揮発したためである。
物質収支A、B、Cを示した
図8からわかるように、CuHCF造粒体に吸着したNH
3の約半分がNH
4HCO
3水溶液を用いて脱離できた。
【0068】
図5のCO
2を吹き込んだ後の析出物の量(D)を決定するために、ピペットを使用して上澄みを除去し、4mLの超純水(milliQ(登録商標)水)に溶解した。析出物は昇華性があるNH
4HCO
3であると予想されたため乾燥させなかった。
図9は、CO
2吹込み前後の水溶液中のNH
3の収支を図であり、図中、点線は脱離液の初期濃度を示している。
図9において、BよりもDが多いのは、CO
2を吹き込んだ際に水分が蒸発したためである。
図9からわかるように、NH
4HCO
3水溶液で脱離したNH
3をCO
2吹込みによりNH
4HCO
3固体として回収できた。
【0069】
[実施例2]
前記実施例1において、アンモニアを吸着させるためのアンモニア水の濃度を変えて、吸着材に吸着させるアンモニアガスの濃度を、1.6vol%及び0.096vol%に変更した。ついで、これらのアンモニアガスを用いて、実施例1と同様にして、PB誘導体CuHCFを用いたアンモニア(NH3)の吸着・脱離試験を行った。
その結果、以下の表に示すように、吸着ガス中のアンモニア濃度が0.096vol%の場合、固体析出が見られなかった。なお、該表には、前記実施例1(60vol%)の結果も併記した。
【0070】
水にエタノールを加えてエタノール濃度30vol%、50vol%、70vol%の水溶液を調製し、これらの溶液30mLに炭酸水素アンモニウムをそれぞれ3.27g、2.37g、1.79gを溶解した。得られた溶液中に含まれるNH4
+濃度をICで測定したところ、それぞれ1.35mol/L、0.80mol/L、0.39mol/Lだった。
これらの溶液を脱離液に用いて、実施例1と同様にして、PB誘導体CuHCFを用いたアンモニア(NH3)の吸着・脱離試験を行った。
その結果、エタノール濃度が30vol%、50vol%、70vol%の混合液に代えても、固体析出が見られることを確認した。
【0071】
また、脱離液中のエタノール濃度が70vol%である場合、以下の表に示すとおり、エタノールを混合しない場合(エタノール濃度0vol%)には吸着ガス中のアンモニア濃度が約0.096vol%であると固体析出が見られなかったのに対して、吸着ガス中のアンモニア濃度がさらに低い0.092vol%の場合でも固体析出が見られることを確認した。
このことから、エタノールの混合により炭酸水素アンモニウムの溶解度が下がり固体析出が促進されることがわかった。
【0072】
【0073】
[実施例3]
<吸着剤の調製>
本実施例においては、CuHCF以外のPB誘導体を用いて、より低いNH3濃度でも飽和炭酸水素アンモニウム水溶液によりNH3が脱離できることを確かめるため、実施例1における、CuHCFの調製例と同様にして、表2に記載の7種のPB誘導体を調製した。
【0074】
【0075】
(NH3吸着及びNH3吸着量の定量)
得られたそれぞれのPB誘導体の粉体(以下、「サンプル」とする)を用い、吸着時のNH3濃度を実施例1における60vol%から1.6vol%に変更して、以下のとおりNH3吸着を行った。
得られた各サンプル約300mgを入れたシャーレと、2.8%アンモニア水100mlを入れた100mlビーカーとを、デシケータ内に88時間、大気圧下、室温で静置して、NH3吸着を行った。デシケータ内のNH3濃度は、検知管で測定したところ1.6vol%だった。
各サンプルへのNH3吸着量を定量するために、前記デシケータ内に静置した各サンプル約20mgを取り出して、30mmol/LのNaHSO4水溶液10ml中を用いて3回洗浄することによって決定した。結果を表3に記載する。
【0076】
(NH4HCO3溶液による脱離及び脱離したNH3の定量)
各サンプル約300mgを、液体/固体比5となる量の飽和NH4HCO3溶液中で、実施例1と同様に振とうした後、静置して固液を分離した。
静置分離後、各上澄み液中のアンモニア量をICで定量し、実施例1と同様に、飽和NH4HCO3水溶液のNH4
+濃度との差から計算した。
結果を表3に記載する。表3記載の7種についてはNH3濃度が1.6vol%と実施例1と比べて低くても炭酸水素アンモニウム水溶液で吸着したアンモニアを脱離できることが示された。
【0077】
【0078】
(脱離液へのCO2導入)
最も脱離量が多かった、InIII[FeIII(CN)6]について上澄み液へのCO2導入を行った。InIII[FeIII(CN)6]を、飽和NH4HCO3溶液中で振とうし、静置分離後の上澄み液4mLに、二酸化炭素(CO2)を0.2mL/minの流量で60分間吹き込むと、実施例1の場合と同様に、NH4HCO3が析出した。
表3記載のInIII[FeIII(CN)6]以外のPB誘導体についても、脱離後の脱離液中のNH4
+濃度がNH4HCO3水溶液の飽和濃度中よりも高くなるため、二酸化炭素と脱離後の脱離液を接触させればNH4HCO3が析出すると予想される。
【0079】
[実施例4]
本実施例においては、吸着と脱離のプロセスを連続的に行い、脱離液中のアンモニウムイオン濃度を増加させることにより固体析出しやすくなると考え、吸着と脱離のプロセスを同時・連続的に行い、脱離液中のアンモニア量を増加させた後に、固体析出できることを確かめた。
【0080】
(吸着と脱離)
実施例1と同様にCuHCFを合成し、造粒体を作成した。得られた造粒体(74.42g)を、
図3に図示したカラム本体(5cm×5cm×5cm)内に充填した。
図4に図示する装置の吸着材設置部1に、前記CuHCF造粒体を充填したカラムを用いて、以下の条件で、PB誘導体(造粒体)へのNH
3吸着と、吸着されたNH
3の脱離工程とを同時に行った。
NH
3の導入は、50℃の水を通過させたAirを980mL/min、NH
3を20mL/min(NH
3濃度は2vol%)で流すことにより行った。脱離液は、7℃での飽和濃度の炭酸水素アンモニウム水溶液を使用した。この炭酸水素アンモニウム水溶液250mLを130mL/minで循環させ、カラムの上から垂らすことにより行った。吸着と脱離を同時・連続的に実施し、脱離液に二酸化炭素を0.3MPaで接触させた。
【0081】
(カラムに吸着したNH
3量の測定)
カラム本体の前後の気体を1時間ごとに採取し、Airを用いて100倍希釈してガス検知管で測定し、その前後の濃度の差から、カラムに吸着したNH
3量を算出した。
結果を、
図10中に■で示す。
【0082】
(脱離液中のNH
4
+濃度の測定)
カラムから排出される脱離液を1時間ごとに1mL採取し、イオンクロマトラフィー(IC)でNH
4
+濃度を測定した。
結果を、
図10中に▲で示す。
図10から、脱離液中のNH
4
+濃度は、吸着材中に脱離液中のアンモニアが取り込まれて一旦減少するものの、吸着と脱離を連続的に行うことで、徐々に増加することがわかる。
【0083】
(炭酸水素アンモニウムの析出)
脱離液を30時間経過循環させた後、固体析出部3で採集された脱離液を容器に入れ、冷蔵庫(保管した溶液中の液温度は7℃)内に静置した。1晩経過静置後、容器を降って衝撃を与えると、NH
4HCO
3が析出した。析出が見られたのは、
図10からわかるように、液中のNH
4
+濃度が7℃の飽和濃度よりも高くなっていたためである。
【0084】
[実施例5]
実施例3で用いたPB誘導体は、NH
3濃度が低くてもNH
3を吸着できるものの、NH
3濃度が低いためにNH
3脱離量が少なかったが、実施例4と同様に、吸着と脱離を連続的に行うことで固体析出しやすくなると考え、本実施例を行った。
実施例4に用いたCuHCF造粒体に代えて、実施例3で用いたPB誘導体の1つであるCo
II[Fe
III(CN)
6]
2/3造粒体を用い、脱離液に、5℃での飽和濃度に調製した炭酸水素アンモニウム水溶液を用いた。
造粒体と脱離液を前記のとおり変更した以外は実施例4と同様にして、造粒体へのNH
3吸着と、吸着されたNH
3の脱離工程とを同時・連続的に行い、カラムに吸着したNH
3量及び脱離液中のNH
4
+濃度を測定した。
結果を、
図11に示す。図中の▲で示すように、時間の経過にともない脱離液中のNH
4
+濃度が増加した。また、脱離工程を始めてから18時間後に、固体析出部3にNH
4HCO
3が析出した。析出が見られたのは、液中NH
4
+濃度が炭酸水素アンモニウムの室温での飽和濃度(
図11に示す例では液中アンモニア量715mmol)よりも高くなっていたためである。
本実施例においては、冷蔵庫で冷やす、衝撃を与えるなどといった操作をしなくても、同時・連続的な脱離により固体として回収することが可能であることが示された。
本発明によれば、吸着材に吸着したアンモニアを、固体状の炭酸塩として安価に効率よく回収することができるため、本発明を、化学工業における化学原料、もしくは、肥料や中和剤として利用できる。さらには、本発明により得られた固体状の炭酸塩をアンモニアに化学変換することにより、発電用のエネルギー源として、また、水素キャリヤーとして利用でき、もしくは、アンモニアを原料として派生する有用物質、例えば、医薬品、農薬、表面処理剤、食料用のアミノ酸やタンパク質合成、工業用の高分子合成に利用できる。