(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022189910
(43)【公開日】2022-12-22
(54)【発明の名称】バイオマス燃焼灰の洗浄方法
(51)【国際特許分類】
B09B 3/70 20220101AFI20221215BHJP
C04B 7/38 20060101ALI20221215BHJP
B09B 5/00 20060101ALI20221215BHJP
B09B 101/30 20220101ALN20221215BHJP
【FI】
B09B3/70 ZAB
C04B7/38
B09B5/00 N
B09B101:30
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168893
(22)【出願日】2022-10-21
(62)【分割の表示】P 2019056854の分割
【原出願日】2019-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】門野 壮
(72)【発明者】
【氏名】岡田 豊
(57)【要約】
【課題】本発明は、燃焼灰中のアルカリ成分を効率よく低減し得る、バイオマス燃焼灰の洗浄方法を提供することを目的とする。
【解決手段】アルカリ含有鉱物を含むバイオマス燃焼灰を、二酸化炭素を含む水で水洗処理する、水洗工程(A)を有する、バイオマス燃焼灰の洗浄方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ含有鉱物を含むバイオマス燃焼灰を、二酸化炭素を含む水で水洗処理する、水洗工程(A)を有する、バイオマス燃焼灰の洗浄方法。
【請求項2】
前記水洗工程(A)が、
前記燃焼灰と水とを混合して、燃焼灰分散液を得る、燃焼灰分散液作製工程(A-I-1)と、
前記燃焼灰分散液に、二酸化炭素を含有するガスを供給して攪拌する、二酸化炭素供給・攪拌工程(A-I-2)と、
を含む、請求項1に記載のバイオマス燃焼灰の洗浄方法。
【請求項3】
前記ガスが、二酸化炭素を5体積%以上含有するガスである、請求項2に記載のバイオマス燃焼灰の洗浄方法。
【請求項4】
前記水洗工程(A)を少なくとも1回経た燃焼灰分散液の固形分及び液分の少なくとも一方に対し、組成分析を行う、分析工程(B)と、
前記分析工程(B)により得られた分析結果に基づき、固形分又は液分の洗浄目標組成値との関係で、前記水洗工程(A)を継続又は終了することを判断する、水洗継続・終了判断工程(C)と、
を更に有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のバイオマス燃焼灰の洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス燃焼灰の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般ごみや、木質チップ等を燃焼した際に発生する燃焼灰(主灰、飛灰、混合灰等、以下単に「燃焼灰」という。)は、近年、セメント原料として有効利用されている。
【0003】
しかし、燃焼灰をセメント原料として用いる場合、燃焼灰中に塩素や硫黄(硫酸)分、アルカリ成分が多量に含まれると、セメント焼成又はセメント品質に悪影響を及ぼす可能性がある。
そのため、燃焼灰をセメント原料として用いるに際しては、燃焼灰中に含まれる塩素等の各種障害成分を、水洗処理等により予め除去しておくことが一般的である。
【0004】
例えば、特許文献1では、より多量の焼却灰をセメント原料として使用可能とするために、焼却灰中の塩素を効率よく除去又は低滅することを可能とする技術が提案されている。具体的には、焼却灰を水洗浄処理する際に、酸を添加することにより、洗浄時の液pHを6~10に制御することで、焼却灰中の塩素を効率よく除去又は低滅する方法が開示されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1では、アルカリ成分の低減については、検討されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたもので、特に、燃焼灰中のアルカリ成分を効率よく低減し得る、バイオマス燃焼灰の洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究した結果、燃焼灰の中には、難水溶性のアルカリ含有鉱物を含むものがあり、このような燃焼灰の場合、従来の水洗処理だけでは、アルカリ含有鉱物を分解することができず、水洗処理後の燃焼灰にアルカリ成分が残ってしまうことがわかった。
本発明者らは、上記知見に基づき、更に検討を進めた結果、アルカリ含有鉱物を含む燃焼灰については、二酸化炭素を含む水で水洗処理することにより、難水溶性のアルカリ含有鉱物を分解でき、燃焼灰中のアルカリ成分を効率よく低減し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
[1] アルカリ含有鉱物を含む燃焼灰を、二酸化炭素を含む水で水洗処理する、水洗工程(A)を有する、セメント原料の製造方法。
[2] 前記燃焼灰が、バイオマス燃焼灰である、上記[1]に記載のセメント原料の製造方法。
[3] 前記水洗処理工程(A)が、
前記燃焼灰と水とを混合して、燃焼灰分散液を得る、燃焼灰分散液作製工程(A-I-1)と、
前記燃焼灰分散液に、二酸化炭素を含有するガスを供給して攪拌する、二酸化炭素供給・攪拌工程(A-I-2)と、
を含む、上記[1]又は[2]に記載のセメント原料の製造方法。
[4] 前記ガスが、二酸化炭素を5体積%以上含有するガスである、上記[3]に記載のセメント原料の製造方法。
[5] 前記水洗工程(A)を少なくとも1回経た燃焼灰分散液の固形分及び液分の少なくとも一方に対し、組成分析を行う、分析工程(B)と、
前記分析工程(B)により得られた分析結果に基づき、固形分又は液分の洗浄目標組成値との関係で、前記水洗工程(A)を継続又は終了することを判断する、水洗継続・終了判断工程(C)と、
を更に有する、上記[1]~[4]のいずれかに記載のセメント原料の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、特に、燃焼灰中のアルカリ成分を効率よく低減し得る、バイオマス燃焼灰の洗浄方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、燃焼灰(水洗処理前の燃焼灰、実施例1及び比較例1で得られた水洗処理後の燃焼灰)のX線回折ピークを示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に従うセメント原料の製造方法の実施形態について、以下で詳細に説明する。
【0013】
本発明のセメント原料の製造方法は、アルカリ含有鉱物を含む燃焼灰を、二酸化炭素を含む水で水洗処理する、水洗工程(A)を有することを特徴とする。
このような本発明のセメント原料の製造方法によれば、用いる燃焼灰がアルカリ含有鉱物を含有する場合であっても、二酸化炭素を含む水で水洗処理することにより、燃焼灰中に含まれるアルカリ含有鉱物を分解でき、アルカリ成分を洗浄液(水)中に溶出させることができ、燃焼灰中のアルカリ成分を効率よく低減し得る。
【0014】
<アルカリ含有鉱物>
本願明細書において「アルカリ含有鉱物」とは、主に土壌に由来する鉱物で、アルカリ金属を含有する鉱物を指す。特に、アルカリ含有鉱物中においてアルカリ金属が鉱物に固溶していると、該鉱物を含有する燃焼灰は、水洗処理だけでは、アルカリ成分の低減が困難となる。
【0015】
このようなアルカリ含有鉱物としては、例えば、アルカリ長石(正長石や微斜長石)、斜長石(曹長石や灰長石)、準長石等が挙げられる。
【0016】
図1に、燃焼灰に含まれるアルカリ含有鉱物を同定したX線回折分析の結果を示す。なお、
図1で示される、燃焼灰のX線回折ピークは、水洗処理前の燃焼灰、実施例1及び比較例1で得られた水洗処理後の燃焼灰の各X線回折ピークを、並べてグラフ化したものである。測定方法については、実施例の欄で詳しく説明する。
【0017】
図1の水洗処理前の燃焼灰のX線回折ピークに示されるように、2θ≒28°において、アルカリ成分としてNaを含む鉱物、特に斜長石である、Labradrite(曹灰長石)やAlbite(曹長石)の回折ピークが確認される。すなわち、水洗処理前の燃焼灰中には、上記のようなアルカリ含有鉱物が含まれているといえる。
【0018】
<燃焼灰>
本発明で用いられる燃焼灰は、アルカリ含有鉱物を含有するものであれば、特に限定されないが、例えば、一般ごみを焼却して得られる燃焼灰(焼却灰)や、木質チップ等を主燃料とするバイオマス発電所から排出されるバイオマス燃焼灰等が挙げられる。
【0019】
上述のアルカリ含有鉱物は、一般に、土壌に含まれる成分として知られている。そのため、焼却灰等に比べて、製造過程で土壌が混入し易いバイオマス燃焼灰を用いる際には、上述のようなアルカリ成分の低減の問題がより顕著となる。そのため、本発明は、特に燃焼灰としてバイオマス燃焼灰を用いる際に好適である。
【0020】
また、燃焼灰は、アルカリ含有鉱物以外にも、例えば塩素、硫黄(硫酸)分、アルカリ土類等の各種成分を含有していてもよい。これらのうち、塩素や硫黄(硫酸)分についても、本発明の水洗処理で十分に除去できる。
【0021】
<水洗工程(A)>
水洗工程(A)は、アルカリ含有鉱物を含む燃焼灰を、二酸化炭素を含む水で水洗処理する工程である。
本発明の製造方法では、水洗工程(A)を行うことで、燃焼灰中に含まれるアルカリ含有鉱物を分解でき、アルカリ成分を洗浄液(水)中に溶出させることができ、燃焼灰中のアルカリ成分を効率よく低減し得る。
【0022】
二酸化炭素を含む水で燃焼灰を水洗処理することにより、燃焼灰中に含まれるアルカリ含有鉱物を分解及び溶解できる理由は、必ずしも明らかではないが、発明者らは以下のように推察している。
【0023】
例えば、Albite(NaAlSi3O8)については、下記のような風化反応として知られている反応が、二酸化炭素を含む水による分解反応として起こっているものと推察される。
2NaAlSi3O8+2H2CO3+9H2O
→2Na++2HCO3
-+Al2Si2O5(OH)4+4H4SiO4
すなわち、燃焼灰が例えばAlbiteのようなアルカリ含有鉱物を含む場合には、二酸化炭素を含む水による水洗処理により、上記のような反応が生じ、Albiteのようなアルカリ含有鉱物は分解されることが想定される。
【0024】
このことは、
図1に示される二酸化炭素を含む水を用いた水洗処理後の燃焼灰(実施例1)のX線回折ピークの結果とも一致する。すなわち、
図1に示されるように、水洗処理前の燃焼灰で観察されていたLabradrite(曹灰長石)、Albite(曹長石)(2θ≒28°)の回折ピークが、二酸化炭素を含む水を用いた水洗処理後の燃焼灰(実施例1)では小さくなっていることが確認された。これは、上記のような反応により、アルカリ含有鉱物が分解されたことによるものと推察される。
【0025】
水洗処理工程(A)は、二酸化炭素を含む水で、燃焼灰を水洗処理することができる方法であれば、特に限定されることはないが、例えば、以下の方法I~IIIにより行うことができる。中でも、方法Iがより好ましい。
【0026】
(方法I)
方法Iは、燃焼灰と水とを混合して、燃焼灰分散液を得る、燃焼灰分散液作製工程(A-I-1)と、燃焼灰分散液に、二酸化炭素を含有するガスを供給して攪拌する、二酸化炭素供給・攪拌工程(A-I-2)と、を含む水洗処理工程(A-I)により行う方法である。
【0027】
燃焼灰と水との混合比は、質量比(燃焼灰:水)で、好ましくは1:2~1:15、より好ましくは1:2~1:10、更に好ましくは1:4~1:10である。上記範囲とすることにより、後述の攪拌工程や排水処理工程が効率的、効果的な処理となる。なお、水に対して燃焼灰が少なすぎると、固液分離工程にて排水として排出される液分が過大となり、排水処理工程に負荷がかかる傾向にあり、多すぎると燃焼灰分散液の粘度が高くなることで攪拌が困難となる傾向がある。
【0028】
二酸化炭素を含有するガスは、二酸化炭素を5体積%以上含有するガスであることが好ましく、より好ましくは10体積%以上含有するガスであり、更に好ましくは15体積%以上、より更に好ましくは18体積%以上含有するガスである。上記範囲とすることにより、効率的に水中に二酸化炭素が溶解することとなる。二酸化炭素の濃度が薄すぎると、水に溶ける二酸化炭素の量が少なくなり燃焼灰と反応し難くなる傾向にある。
なお、二酸化炭素濃度の上限は、特に限定されず、例えば100体積%であってもよい。二酸化炭素の濃度は、高い方が水に溶ける二酸化炭素の量も増える傾向にあるが、水に溶けずに排出される二酸化炭素の量も多くなるため、環境に与える影響が大きくなる傾向がある。
上記のような二酸化炭素を含有するガスとしては、窒素及び酸素と、二酸化炭素との混合ガスが挙げられる。特に工業的な経済性の観点からは、排ガス等を用いることも好適である。
【0029】
ガスの供給方法は、攪拌容器の下部より燃焼灰分散溶液中に供給され、また微細な気泡として供給されるのが好ましい。
通気量は、特に限定されず、二酸化炭素の濃度や攪拌条件等に応じて適宜調整すればよく、例えば50~1000ml/分で供給することが好ましい。上記範囲とすることにより、効率的に水中に二酸化炭素が溶解する。
また、ガスの供給は、本工程中、連続で行ってもよいし、不連続であってもよい。連続でガスを供給することにより、より効率的に燃焼灰との反応が進む。
【0030】
攪拌方法は、攪拌翼による攪拌が好ましい。また、攪拌翼の形状や大きさは、特に限定されず、従来の燃焼灰の洗浄に用いられていたような攪拌翼を適宜用いることができる。
【0031】
攪拌条件は、特に限定されないが、例えば次のように制御することが好ましい。
処理温度は、好ましくは10~50℃であり、より好ましくは15~40℃であり、更に好ましくは15~25℃である。上記範囲とすることにより、効率的な処理が可能となる。なお、処理温度が低すぎると水中の二酸化炭素と燃焼灰との反応率が低下する傾向があり、高すぎると水に溶ける二酸化炭素の量が低下する傾向がある。
攪拌時間は、好ましくは2~48時間であり、より好ましくは5~36時間であり、更に好ましくは5~24時間である。上記範囲とすることにより、効果的な処理が可能となる。なお、攪拌時間が短すぎると燃焼灰中に含まれるアルカリ含有鉱物と水中の二酸化炭素との反応が不十分となる傾向があり、長すぎると経済的でなく、また使用する二酸化炭素量が増大し、排気量が増えることによって、環境に与える影響が大きくなる傾向がある。
【0032】
攪拌容器は、特に限定されず、実施のスケール等に応じて適宜調整することができ、公知の攪拌容器を用いることができる。
【0033】
(方法II)
方法IIは、水に、二酸化炭素を含有するガスを供給して攪拌する、二酸化炭素供給・攪拌工程(A-II-1)と、二酸化炭素を供給した水に、燃焼灰を投入し更に攪拌する、燃焼灰分散液攪拌工程(A-II-2)と、を含む水洗処理工程(A-II)により行う方法である。
【0034】
以下の条件以外は、方法Iと同じ条件とすることができる。
二酸化炭素供給・攪拌工程(A-II-1)において、水を攪拌する時間は、好ましくは0.5~5時間であり、より好ましくは1~3時間である。上記範囲とすることにより、水中に十分な二酸化炭素が溶解することとなる。
【0035】
燃焼灰分散液攪拌工程(A-II-2)において、燃焼灰分散液を攪拌する時間は、好ましくは2~36時間であり、より好ましくは5~24時間である。上記範囲とすることにより、水中の二酸化炭素と燃焼灰とを効率的に反応させることができる。
【0036】
なお、本方法では、燃焼灰分散液攪拌工程(A-II-2)において、燃焼灰分散液に対して更に二酸化炭素を含むガスを供給しながら攪拌してもよい。この場合、二酸化炭素と燃焼灰とを効率的に反応させることができる。
【0037】
(方法III)
方法IIIは、二酸化炭素を含む水を得る、二酸化炭素含有水作製工程(A-III-1)と、燃焼灰と前記二酸化炭素含有水とを混合して攪拌する、燃焼灰分散液攪拌工程(A-III-2)と、を含む水洗処理工程(A-III)により行う方法である。
【0038】
以下の条件以外は、方法I又はIIと同じ条件とすることができる。
二酸化炭素を含む水を得る方法は、特に限定されないが、例えば、上記方法IIのように水に二酸化炭素を含有するガスを供給して攪拌する方法や、高圧の二酸化炭素を使用して水に二酸化炭素を充填させる方法や、市販品の二酸化炭素を含有する水を入手する方法等がある。
【0039】
燃焼灰と二酸化炭素含有水との混合方法は、特に限定されず、二酸化炭素含有水に対して燃焼灰を加えて攪拌してもよく、燃焼灰に対して二酸化炭素含有水を供給して攪拌してもよい。特に、燃焼灰に対して二酸化炭素含有水を供給する場合、所定量の二酸化炭素含有水を燃焼灰に対して一括で供給してもよいし、少量ずつ連続的に供給してもよい。特に、攪拌しながら少量ずつ連続的に供給する場合は、燃焼灰分散液中の二酸化炭素濃度を連続的に高く維持できる点で好ましい。
【0040】
本方法の場合も、燃焼灰分散液攪拌工程(A-III-2)において、燃焼灰分散液に対して更に二酸化炭素を含むガスを供給しながら攪拌してもよい。この場合、二酸化炭素と燃焼灰とを効率的に反応させることができる。
【0041】
本発明の製造方法は、少なくとも1回の水洗工程(A)を経た後に、分析工程(B)及び水洗継続・終了判断工程(C)を更に有することが好ましい。このような分析工程を経ることで、確実に目標とする値まで、燃焼灰中のアルカリ成分を低減することができる。
【0042】
<分析工程(B)>
水洗工程(A)を少なくとも1回経た燃焼灰分散液の固形分及び液分の少なくとも一方に対し、組成分析を行う工程である。
分析方法としては、公知の分析方法により行うことができるが、例えば以下の方法が挙げられる。
【0043】
(固形分)
分析対象が固形分である場合、該固形分中のアルカリ成分等の障害成分の含有量は、例えば蛍光X線分析装置で測定することができる。
(液分)
分析対象が液分である場合、該液分中のアルカリ成分等の障害成分の含有量は、例えばイオンクロマトグラフや高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置で測定することができる。
なお、セメント原料中のアルカリ成分等の障害成分の含有量を直接把握できる観点から、分析対象としては、固形分を用いることがより好ましい。
【0044】
<水洗継続・終了判断工程(C)>
分析工程(B)により得られた分析結果に基づき、固形分又は液分の洗浄目標組成値との関係で、前記水洗工程(A)を継続又は終了することを判断する工程である。
水洗工程(A)の継続又は終了は、固形分を対象とした場合には、該固形分中の障害成分の含有量が、予め定めた洗浄目標組成値に達したか、否かを確認することにより判断する。また、液分を対象とした場合には、液分に含まれる障害成分の含有量が、洗浄前の燃焼灰中の障害成分の含有量と予め定めた洗浄目標組成値との差(除去目標量)に達したか、否かを確認することにより判断する。
なお、洗浄目標組成値としては、固形分の場合、例えば、洗浄前の燃焼灰中に含まれる各障害成分の含有量(質量)を100としたときに、酸化物(Na2O)換算で90以下、Kの含有量を酸化物(K2O)換算で80以下、Sの含有量を酸化物(SO3)換算で38以下、Clの含有量を原子(Cl)換算で8以下に設定することができる。
【0045】
本発明の製造方法は、水洗工程(A)の後に、固液分離工程(D)を更に有することが好ましい。これにより、セメント原料を固形分として回収することができる。
<固液分離工程(D)>
水洗工程(A)の後の燃焼灰分散液から、固形分と液分を分離して、固形分をセメント原料として回収する工程である。
【0046】
(ろ過処理)
固形分と液分を分離する方法としては、ろ過処理が挙げられる。ろ過処理は、公知の方法により行うことができ、例えば、吸引ろ過、フィルタープレス、遠心分離等により行うことができる。
また、必要に応じて、ろ過の仕上げ処理として、固形分に対して、イオン交換水、工業用水、水道水、地下水等の清水をかけて水洗浄してもよい。清水の量は、適宜調整すればよいが、例えば固形分の10倍量程度とすることが好ましい。
【0047】
分離した固形分は、そのままセメント原料としてもよいが、必要に応じて乾燥処理等を更に施してもよい。
【0048】
(乾燥処理)
乾燥処理は、公知の方法により行うことができるが、例えば、排熱利用を目的にキルン排ガスを用いた乾燥処理等を行うことが好ましい。
【0049】
本発明の製造方法は、固液分離工程(D)の後に、排水処理工程(E)を更に有することが好ましい。これにより、固液分離工程(D)で分離した液分を再利用したり、又は廃棄したりし易くなる。
【0050】
<排水処理工程(E)>
固液分離工程(D)で分離した液分を回収し、循環利用及び系外排出の少なくとも一方を行う工程である。
【0051】
(循環利用)
循環利用は、回収した液分を、本発明の製造方法の他の工程で使用される水として再利用することである。ここで、他の工程で使用される水としては、水洗工程(A)で使用される水や、固液分離工程(D)でろ過の仕上げ処理に使用される水がある。
回収した液分は、本発明の製造方法の他の工程で使用される水としてそのまま利用することもできるが、好ましくは、回収した液分を水処理し、これを本発明の製造方法の他の工程で使用される水として利用する。
【0052】
回収した液分の水処理は、公知の方法により行うことができるが、例えば、凝集沈殿法等が挙げられる。
【0053】
(系外排出)
系外排出は、回収した液分を、本発明の製造方法の他の工程に再利用せずに、排出することである。
回収した液分は、そのまま系外に排出しても良いが、必要に応じて水処理を施してから系外に排出してもよい。
また、系外排出された水は、そのまま廃液として廃棄してもよいし、本発明の製造方法以外で再利用してもよい。
【0054】
なお、循環利用及び系外排出は、必要に応じて組み合わせて行ってもよく、その場合は、回収した液分の一部を循環利用して、残りの一部は系外排出すればよい。
【0055】
<セメント原料>
本発明のセメント原料の製造方法によれば、水溶性のアルカリ成分に加え、従来の水洗処理では低減が困難であった難水溶性のアルカリ含有鉱物に由来するアルカリ成分も十分に低減できるため、得られる燃焼灰は、セメント原料として好適に用いることができる。
従来の水洗後の燃焼灰は、アルカリ成分の低減が不十分であったため、燃焼灰に含まれるアルカリ成分によるセメントへの悪影響を避けるため、セメント原料として使用する際にはその使用量を低く調整する必要があった。
これに対し、本発明のセメント原料としての燃焼灰は、アルカリ成分が十分に低減されているため、セメント原料として使用する際の使用量を従来よりも多く設定することができる。
【0056】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の概念及び特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例0057】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0058】
(実施例1)
半密閉容器(小型セパラブルフラスコ(容積100mL、硼珪酸ガラス製)のカバーとベッセル部をクランプにて接続、不要な管はシリコン栓で塞ぎ、容器中の空間が後述するガスで満たされるように装置組みしたもの)に、燃焼灰(バイオマス燃焼灰)5gと、水50gとを投入し、上記容器のカバーの中管から挿入した攪拌翼にて燃焼灰と水とを混合し、燃焼灰分散液を得た。次に、該燃焼灰分散液に対して、上記容器のカバーの側管から挿入したノズルより、二酸化炭素含有ガスとして二酸化炭素濃度20%のガス(二酸化炭素20体積%、酸素5体積%、窒素75体積%)を供給し、通気量50ml/分にてフラスコの底部より燃焼灰分散液に対してバブリングしながら、20℃で、20時間、燃焼灰分散液を攪拌した。
【0059】
上記20時間攪拌後の燃焼灰分散液を、吸引ろ過して、固形分と液分に分離した。吸引ろ過は、吸引鐘とロート(有限会社桐山製作所製)とを用い、ろ紙(定量ろ紙No.5B、アドバンテック製)を用いて行った。また、ろ紙上の固形分に、更にイオン交換水(50mL)をかけて水洗浄を行った。
その後、ろ過分離した固形分は、定温乾燥器(東京理化器械株式会社製)を用いて、105℃、20時間乾燥して、セメント原料を得た。
【0060】
(実施例2)
実施例2は、燃焼灰分散液にバブリングする際の二酸化炭素含有ガスを、二酸化炭素濃度20%のガスに替えて、二酸化炭素5%のガス(二酸化炭素5体積%、酸素5体積%、窒素90体積%)に変更した以外は、実施例1と同じ方法でセメント原料を得た。
【0061】
(実施例3)
実施例3は、燃焼灰分散液にバブリングする際の二酸化炭素含有ガスを、二酸化炭素濃度20%のガスに替えて、二酸化炭素10%のガス(二酸化炭素10体積%、酸素5体積%、窒素85体積%)に変更した以外は、実施例1と同じ方法でセメント原料を得た。
【0062】
(比較例1)
比較例1は、燃焼灰分散液に対して、二酸化炭素含有ガスを供給しなかった以外は、実施例1と同じ方法でセメント原料を得た。
【0063】
(評価)
水洗処理前の燃焼灰と、実施例及び比較例で作製したセメント原料(水洗処理後の燃焼灰)に対して、以下の評価を行った。結果を
図1及び表1に示す。
【0064】
<X線回折測定>
X線回折測定は、粉末X線回析装置(X’Pert Pro、パナリティカル社製)を用いて行った。測定条件は、X線源はCuKα、管電圧45kV、管電流40mA、ステップ幅0.0167°、走査速度4.456°/minと設定した。なお、測定試料は、粉砕機(モルターグラインダRM200、ヴァーダー・サイエンティフィック社製)を用いて、予め微粉砕したものを用いた。
得られたX線回析プロファイルについて、上記粉末X線回析装置に備えられた結晶構造解析用ソフトウエア(X’Part High Score Plus version 2.1b、パナリティカル社製)を用い、各燃焼灰の同定を行った。同定された燃焼灰に含まれる各鉱物は、回折線の位置と強度をもとに定性した。結果を
図1に示す。
【0065】
<成分分析>
成分分析は、エネルギー分散型X線蛍光分光法(ED-XRF)により行った。装置として、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(Epsilon3、パナリティカル社製)を使用した。測定は、本装置のOmnianプログラムにて行った。なお、測定試料は、粉砕機で予め微粉砕したものを用いた。結果を表1に示す。なお、表1において、Na、KおよびSは、分析された各元素の原子量に基づいて、それぞれ酸化物に換算した値を示す。
【0066】
【0067】
表1に示されるように、水洗処理前の燃焼灰がアルカリ含有鉱物を含む場合、水洗処理だけでは、燃焼灰中の塩素や硫黄分は低減されても、アルカリ成分はほとんど低減されないことが確認された(比較例1)。
【0068】
これに対し、二酸化炭素を含む水で燃焼灰を水洗処理することにより、処理前の燃焼灰がアルカリ含有鉱物を含む場合であっても、アルカリ成分を低減し得ることが確認された(実施例1、2及び3)。特に、供給した二酸化炭素のガス濃度が10体積%以上である場合には、より効率よくアルカリ分を低減できることが確認された(実施例1及び3)。
【0069】
また、
図1に示されるように、二酸化炭素を含む水で燃焼灰を水洗処理することにより、Labradrite(曹灰長石)、Albite(曹長石)(2θ≒28°)の回折ピークが小さくなっていることから、上記のようなアルカリ含有鉱物が分解され、燃焼灰中のアルカリ成分が低減していることが確認された。