(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022018998
(43)【公開日】2022-01-27
(54)【発明の名称】構造体
(51)【国際特許分類】
B32B 3/12 20060101AFI20220120BHJP
B29C 64/118 20170101ALI20220120BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20220120BHJP
【FI】
B32B3/12 Z
B29C64/118
B33Y80/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020122503
(22)【出願日】2020-07-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】安部 哲生
(72)【発明者】
【氏名】宇惠野 章
(72)【発明者】
【氏名】南舘 純
(72)【発明者】
【氏名】▲角▼田 純一
【テーマコード(参考)】
4F100
4F213
【Fターム(参考)】
4F100AB10A
4F100AD11B
4F100AD11C
4F100AK54B
4F100AK54C
4F100AK56B
4F100AK56C
4F100AT00A
4F100AT00C
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100DC01B
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4F100DH01C
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4F100EH46C
4F100EJ52B
4F100EJ52C
4F213AA32
4F213AB11
4F213AB18
4F213AB25
4F213AG18
4F213AG28
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高温下でも天板が多孔層から剥離しにくい構造体の提供。
【解決手段】底板4と、底板4に対向する天板2と、底板4と天板2との間に配置され、厚さ方向に貫通する複数の孔5が設けられた多孔層3と、を備え、天板2は多孔層3における天板2側の表面の一部のみに接触して固定されている構造体1。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
底板と、
前記底板に対向する天板と、
前記底板と前記天板との間に配置され、厚さ方向に貫通する複数の孔が設けられた多孔層と、を備え、
前記天板は、前記多孔層における前記天板側の表面の一部のみに接触して固定されている、構造体。
【請求項2】
前記多孔層は、前記天板側の表面の一部に凸面を有し、
前記天板は、前記凸面のみに接触して固定されている、請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
前記孔の形状が、多角形である、請求項1または2に記載の構造体。
【請求項4】
前記多角形が、四角形である、請求項3に記載の構造体。
【請求項5】
前記多孔層は、前記孔の形状を規定する平板状の壁体を有し、
前記壁体どうしが接合する位置に、前記凸面が配置されている、請求項3または4に記載の構造体。
【請求項6】
前記天板の材質と前記多孔層の材質とが異なる、請求項1~5のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項7】
前記底板の材質と前記多孔質との材質が同じである、請求項1~6のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項8】
前記多孔層は、前記底板と一体化している、請求項1~7のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項9】
前記多孔層の材質が、繊維強化複合材である、請求項1~8のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項10】
前記繊維強化複合材が、繊維によりマトリックス樹脂を強化した繊維強化樹脂であり、
前記繊維が、炭素繊維である、請求項9に記載の構造体。
【請求項11】
前記マトリックス樹脂が、ポリエーテルエーテルケトンである、請求項10に記載の複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の孔が厚さ方向に貫通した多孔層を有する構造体が知られている。このような構造体は、多孔層が底板と天板とで挟み込まれており、例えば、補強材として使用される(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、天板が多孔層よりも高熱膨張性である場合、高温下では、多孔層よりも天板が熱膨張する。このため、天板と多孔層との接着が剥がれて、天板が多孔層から剥離しやすい。
【0005】
そこで、本発明は、高温下でも天板が多孔層から剥離しにくい構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、下記構成を採用することにより、上記目的を達成できることを見出した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[11]を提供する。
[1]底板と、上記底板に対向する天板と、上記底板と上記天板との間に配置され、厚さ方向に貫通する複数の孔が設けられた多孔層と、を備え、上記天板は、上記多孔層における上記天板側の表面の一部のみに接触して固定されている、構造体。
[2]上記多孔層は、上記天板側の表面の一部に凸面を有し、上記天板は、上記凸面のみに接触して固定されている、上記[1]に記載の構造体。
[3]上記孔の形状が、多角形である、上記[1]または[2]に記載の構造体。
[4]上記多角形が、四角形である、上記[3]に記載の構造体。
[5]上記多孔層は、上記孔の形状を規定する平板状の壁体を有し、上記壁体どうしが接合する位置に、上記凸面が配置されている、上記[3]または[4]に記載の構造体。
[6]上記天板の材質と上記多孔層の材質とが異なる、上記[1]~[5]のいずれかに記載の構造体。
[7]上記底板の材質と上記多孔質との材質が同じである、上記[1]~[6]のいずれかに記載の構造体。
[8]上記多孔層は、上記底板と一体化している、上記[1]~[7]のいずれかに記載の構造体。
[9]上記多孔層の材質が、繊維強化複合材である、上記[1]~[8]のいずれかに記載の構造体。
[10]上記繊維強化複合材が、繊維によりマトリックス樹脂を強化した繊維強化樹脂であり、上記繊維が、炭素繊維である、上記[9]に記載の構造体。
[11]上記マトリックス樹脂が、ポリエーテルエーテルケトンである、上記[10]に記載の複合体。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高温下でも天板が多孔層から剥離しにくい構造体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】底板の上に複数の帯状層が交差して配置された状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について、
図1~
図3を参照して説明する。
ただし、本発明は、以下の実施形態に限定されない。本発明の範囲を逸脱しない範囲で、以下の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
【0010】
以下、「~」を用いて表される範囲は、その範囲の両端を含む。例えば、「A~B」と表される範囲は、AおよびBを含む。
【0011】
[構造体]
図1は、構造体1を示す分解斜視図である。
図1に示す構造体1は、上から順に、天板2、多孔層3および底板4を有する。天板2および底板4は、それぞれ、平板状の部材である。対向する天板2と底板4との間に、多孔層3が配置されている。
図1では、天板2が多孔層3から分離した状態を示している。
【0012】
多孔層3には、多孔層3の厚さ方向に貫通する複数の孔5が形成されている。
より詳細には、多孔層3は、平板状の壁体6により構成され、壁体6が孔5の形状を規定している。
図1には、孔5の形状が四角形である例を示している。
【0013】
多孔層3は、天板2側の表面7として、凸面8と凹面9とを有する。
より詳細には、壁体6の天板2側の端面が、凹面9である。凸面8は、壁体6どうしが接合する位置に配置されている。
図1では、凸面8は、面取りされている。
【0014】
多孔層3を構成する壁体6は、底板4と一体化している。
【0015】
図2は、
図1のA-A線断面図である。
図1では天板2が多孔層3から分離した状態を図示したが、
図2では天板2が多孔層3に接触した状態を図示している。
図2に示すように、天板2は、多孔層3の表面7の一部である凸面8のみに接触して固定されている。天板2と凸面8とは、例えば公知の接着剤を用いた接着層(図示せず)を介して固定される。
【0016】
ここで、構造体1とは別の構造体X(図示せず)を考える。
構造体Xは、多孔層3の表面7が凹凸面ではなく平面であり、かつ、この平面である表面7に全面的に天板2が接着している。それ以外は、構造体1と同じである。
【0017】
天板2の材質が多孔層3の材質よりも高熱膨張性である(具体的には、例えば、天板2の材質が金属であり、多孔層3の材質が繊維強化樹脂である)場合、構造体Xが高温下に置かれると、多孔層3よりも天板2が熱膨張する。これにより、天板2と平面である表面7との全面的な接着が剥がれて、天板2が多孔層3から剥離する。
【0018】
これに対して、構造体1の天板2は、多孔層3の凸面8のみに接着しており、凹面9に接着していない。このため、構造体1では、天板2が多孔層3より熱膨張しても、天板2の熱膨張した部分が凹面9に向かって垂れ下がり、凸面8との接着は維持される。すなわち、天板2が多孔層3から剥離することが抑制される。
【0019】
天板2と凸面8とを接合する技術としては、例えば、ネジなどを用いた機械締結;接着剤、樹脂などを用いた接着または粘着;等が挙げられる。
これらのうち、製作工数を削減する観点およびガルバニック腐食を抑制する観点から、接着剤を用いた接着が好ましい。
接着剤としては、例えば、ダウ・ケミカル社製のBetaforce、セメダイン社製のメタルロック等が挙げられる。
【0020】
以下、構造体1について、更に説明する。
【0021】
多孔層3の孔5の形状(多孔層3を天板2側または底板4側から見たときの孔5の形状)は、特に限定されず、例えば、三角形、四角形、五角形、六角形などの多角形;真円形、楕円形などの円形;等の形状が挙げられる。
孔5の大きさは、最長の対角線(円形の場合は最長の直径)の長さで、10mm以上500mm以下が好ましく、15mm以上300mm以下がより好ましい。
複数の孔5は、全て同じ形状でなくてもよく、それぞれ異なる形状であってもよい。
孔5の個数は、
図1では9個であるが、特に限定されない。
孔5の形状を規定する壁体6は、その孔5の形状および個数に応じて、枚数、位置、向き、長さ、形状などが適宜設定される。
【0022】
天板2、底板4および壁体6の面は、平坦面に限定されず、曲率を持った曲面であってもよい。天板2、底板4および壁体6の厚さは、均一であっても、均一でなくてもよく、0.5mm以上20mm以下が好ましい。
凸面8は、天板2が接着できれば、面取りされていない面であってもよい。
【0023】
底板4から凸面8までの高さに対する、底板4から凹面9の最下点までの高さの割合は、50%以上98%以下が好ましく、60%以上95%以下がより好ましく、70%以上90%以下が更に好ましい。これは、天板2が高熱膨張性である場合に、天板2が多孔層3の形状に追従し、構造体1としての強度を維持できるためである。
構造体1のサイズは、特に限定されず、用途等に応じて適宜設定される。
【0024】
天板2と多孔層3とは互いに材質が異なることが好ましく、天板2の材質が多孔層3の材質よりも高熱膨張性であることがより好ましい。
具体的には、天板2の材質としては、例えば、鉄、鋼、アルミニウムなどの金属が挙げられる。多孔層3の材質としては、例えば、繊維強化樹脂(繊維強化プラスチック)などの繊維強化複合材が挙げられる。この場合、天板2は多孔層3よりも高熱膨張性である。
繊維強化複合材は、繊維によりマトリックス材料を強化した材料である。繊維強化樹脂は、繊維によりマトリックス材料である樹脂を強化した材料である。
【0025】
繊維強化複合材の繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、シリカ繊維(石英繊維)、炭化ケイ素(SiC)繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、ボロン繊維などの無機系繊維;アラミド繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、PBO(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維などの有機系繊維;等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらのうち、耐熱性が優れるという理由から、無機系繊維が好ましく、炭素繊維がより好ましい。
【0026】
繊維強化複合材のマトリックス材料としては、例えば、金属;アルミナ、ジルコニア、シリカなどのセラミクス;樹脂;等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
マトリックス材料である樹脂(マトリックス樹脂)としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド(PA)、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリスチレン(PS)、ポリフタルアミド(PPA)、ポリフェニルスルホン(PPSU)、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリフェニルサルファイド(PPS)、芳香族ポリエーテルケトン(PAEK)などの熱可塑性樹脂;不飽和ポリエステル、エポキシ、ポリイミド(PI)などの熱硬化性樹脂;等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらのうち、融点、分解温度および機械強度が高く、耐熱性が優れるという理由から、熱可塑性樹脂が好ましく、PAEKがより好ましい。
【0027】
PAEKとしては、例えば、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)などが挙げられる。
これらのうち、融点、分解温度および機械強度がより高く、耐熱性がより優れ、耐薬品性にも優れるという理由から、PEEKが好ましい。
【0028】
繊維強化複合材は、機械的特性、熱的特性、電気的特性、加工性などを向上させる観点から、更に、フィラー(ただし、上述した繊維およびマトリックス樹脂を除く)を含有してもよい。
【0029】
底板4の材質は、多孔層3の材質と同じであることが好ましい。
この場合、多孔層3(より詳細には、多孔層3を構成する壁体6)を、底板4と一体化させやすい。
【0030】
天板2と多孔層3とが互いに同じ材質でもよい。すなわち、天板2と多孔層3とがほぼ同じ熱膨張係数を有していてもよい。
この場合、天板2が凹面9に垂れ下がらずに、天板2と凹面9との間に形成される空間が維持される。この空間により、多孔層3を構成する孔5どうしが連通するため、空気、液体等の流体を流しやすくなり、冷却が容易になる。
【0031】
[構造体の用途]
構造体1の用途は、特に限定されず、例えば、構造体1を各種部品の一部として使用できる。この場合、構造体1は、例えば、補強材として機能する。
構造体1を使用できる部品としては、特に限定されないが、例えば、モビリティ用部品(自動車、自転車、船舶、航空機、電動垂直離着陸機、宇宙機などに用いる部品);建築用部品;電子機器用部品;これらの部品の枠体、翼、骨組み、外装材、内装材;等が挙げられる。
【0032】
[構造体の製造方法]
次に、
図3に基づいて、構造体1を製造する方法の一例を説明する。
図3は、底板4の上に複数の帯状層10が交差して配置された状態を示す斜視図である。より詳細には、帯状層10aおよび帯状層10bと、帯状層10cおよび帯状層10dとが交差している。複数の帯状層10は、それぞれ、後述するように、更に厚さを増して、最終的に、上述した多孔層3の壁体6となる。
底板4および多孔層3の材質が、ともに、マトリックス樹脂(熱可塑性樹脂)中に炭素繊維を含む繊維強化樹脂である場合を例に説明する。
【0033】
まず、フィラメント(図示せず)を用いて、底板4を形成する。より詳細には、1本のフィラメントを溶融させたうえで押圧する。押圧後のフィラメントに隣接させて、別のフィラメントを並列配置し、同様に溶融させて押圧する。これを繰り返すことにより、1枚の底板4を形成する。
【0034】
ここで、フィラメントは、繊維強化樹脂により構成される円柱状の材料であり、より詳細には、円柱状のマトリックス樹脂(熱可塑性樹脂)中に、複数本の炭素繊維が内蔵されている。
使用するフィラメントの長さおよび直径などは、形成する底板4および帯状層10に応じて、適宜選択される。
【0035】
次に、底板4の上に、同様の手順で、複数の帯状層10を形成する。
より詳細には、まず、複数本のフィラメントを同方向に配置して、1つの帯状層10aを形成する。次いで、帯状層10aから離間した位置に、帯状層10aと並行する別の帯状層10bを形成する。このようにして、並列配置された複数の帯状層10(
図3では、帯状層10aおよび帯状層10b)を形成する。帯状層10aと帯状層10bとは、
図3に示すように平行でもよいが、平行でなくてもよい。
更に、フィラメントの向きを変えて、同様に、別の帯状層10(
図3では、帯状層10cおよび帯状層10d)を形成する。帯状層10aおよび帯状層10bの長手方向に対する、帯状層10cおよび帯状層10dの長手方向の角度(以下、「交差角度」ともいう)は、
図3では90°である。この場合、四角形の孔5が形成される。帯状層10cおよび帯状層10dは、帯状層10aおよび帯状層10bの上に重ねて形成されるため、この重なり部分が、
図3に示すように、盛り上がる。
その後、再びフィラメントの向きを戻して、帯状層10aおよび帯状層10bのそれぞれの上に、別の帯状層(図示せず)を積層する。続けて、フィラメントの向きを変えて、帯状層10cおよび帯状層10dのそれぞれの上に、別の帯状層(図示せず)を積層する。
このような積層を繰り返すことにより、帯状層10どうしの重なり部分の盛り上がりが維持されたまま、帯状層10の厚さが増す。こうして、凸面8および凹面9を有する壁体6(
図1参照)が底板4の上に形成される。すなわち、底板4と一体化した多孔層3が形成される。
【0036】
複数本の帯状層10を積層させるに際して、下層(底板4側)に位置する帯状層10を、天板2側から見たときに視認できないように隠して積層してもよく、天板2側から見たときに少し視認できるようにずらして積層してもよい。
【0037】
このような底板4および多孔層3の製造は、3次元(3D)プリンタを用いて、熱溶解積層法(FusedDeposition Modeling、FDM)または指向エネルギー堆積法(Directedenergy deposition、DED)に基づいて行なうことが好ましい。
帯状層10どうしの密着力(または、底板4と帯状層10との密着力)を向上できるという理由から、指向エネルギー堆積法に基づいて行なうことがより好ましい。
【0038】
具体的には、例えば、まず、スプール等に巻かれた長尺のフィラメントを、3Dプリンタのヘッドから、ビルドプレート等の上に排出して、レーザ光を照射する。レーザ光が照射されたフィラメントにおいては、レーザ光を吸収した炭素繊維からの熱伝導によって、マトリックス樹脂(熱可塑性樹脂)が溶融する。
次に、マトリックス樹脂が溶融したフィラメントを、3Dプリンタの圧縮ローラを用いて押圧する。その後、冷却されたフィラメントを切断して、3Dプリンタのヘッドから切り離す。
このようなフィラメントの排出、レーザ光の照射、圧縮ローラによる押圧、および、切断を繰り返すことにより、底板4を形成し、更に、複数の帯状層10を形成し、ひいては、複数の壁体6を有する多孔層3を形成する。
【0039】
形成した多孔層3において、凸面8は、例えば、公知の研磨器具などを用いて研磨することにより、面取りしてもよい。
その後、公知の接着剤などを用いて、天板2を凸面8に接着させる。こうして、天板2が多孔層3の凸面8のみに接触して固定された構造体1が得られる。
【実施例0040】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0041】
以下、例1は実施例である。
【0042】
〈例1〉
図1および
図2に基づいて説明した構造体を、
図3に基づいて説明した方法に基づいて作製した。以下、詳細に説明する。
【0043】
6軸多関節アームを有し、その先端にフィラメントを排出(印刷)するヘッドが設けられた3Dプリンタを用いて、一体化した底板および多孔層を作製した。
【0044】
使用したフィラメントは、複数本の長い炭素繊維を内蔵しており、その詳細は、以下のとおりである。
・フィラメントの直径:1.5mm
・フィラメント1本あたりの炭素繊維の本数:11000本
・炭素繊維の直径:8μm
・炭素繊維の含有量:56.5質量%
・マトリックス樹脂:PEEK(融点:343℃、MFR:36g/10分)
【0045】
なお、フィラメントは、使用する前に乾燥した。具体的には、スプールに巻かれたフィラメントを、オーブン(PVH-331M、エスペック社製)に入れて、空気雰囲気下、100℃で、8時間乾燥した。
乾燥後、フィラメントワインダ(UniSpooler、Showmark社製)を用いて、フィラメントを、金属製スプールに巻き替えた。
その後、フィラメントが巻かれた金属製スプールを、3Dプリンタに設置した。
【0046】
3Dプリンタを動作させる前に、作製する底板および多孔層のデータを作成した。底板のサイズは203mm×123mm×3mmとした。
このような底板の上に、等間隔に並列配置された複数の帯状層(厚さ:0.35mm、幅:3mm、長さ:117mm)を形成するようにした。より詳細には、4本の帯状層と3本の帯状層とが互い違い(交差角度:90°)に積層されて、多孔層の壁体を形成するようにした。
【0047】
作成したデータに基づいて、3Dプリンタを動作させて、ビルドプレート上で、底板および多孔層の作製を開始した。なお、ビルドプレートの表面には、熱拡散のために、ポリカーボネート製シートを、予め、真空引きにより密着させておいた。
【0048】
具体的には、まず、フィラメントを、3Dプリンタが備えるアキュムレータによって適切な張力でヘッドまで送り出し、30mm/秒の速度でヘッドから排出した。
この間、送り出し不良などの発生を直ちに検出するため、カメラを用いてフィラメントの状態をモニタリングした。
【0049】
次に、ヘッドから排出されたフィラメントに、3Dプリンタが備えるレーザから、レーザ光を照射した。レーザ光が照射されたフィラメントにおいては、炭素繊維がレーザ光を吸収し、炭素繊維からの熱伝導によって、熱可塑性樹脂であるPEEKが溶融した。
レーザ光の照射中、IRカメラ(Thermal viewer、FLIR社製)を用いて、フィラメントの温度をモニタリングした。IRカメラのモニタに表示される仮想温度を監視し、フィラメントの温度が400℃以上500℃以下の範囲となるように、レーザ光の出力を制御した。
レーザ光の照射中は、3Dプリンタが備えるチューブから窒素をフィラメントに噴射し、レーザ光の照射によるフィラメントの燃焼を阻害した。
【0050】
そして、レーザ光が照射されたフィラメントを、3Dプリンタが備える圧縮ローラを用いて押圧した。このとき、押圧後のフィラメントの高さが0.35mmになるよう、圧縮ローラを制御した。
【0051】
レーザ光の照射および圧縮ローラによる押圧の後は、チューブから空気をフィラメントに噴射し、フィラメントを冷却した。
冷却後、フィラメントを、ヘッドに設けられたカッターにより切断し、ヘッドから切り離した。
【0052】
このようなフィラメントの排出、レーザ光の照射、圧縮ローラによる押圧、および、切断を繰り返すことにより、一体化した底板および多孔層を作製した。
なお、一体化した底板および多孔層は、作製後にビルドプレートから剥がし、多孔層の凸面を、エンドミルおよび#80のサンドペーパーを用いて研磨して面取りした。
その後、底板と同じサイズである天板(材質:アルミニウム)を、多孔層の凸面に、ダウ・ケミカル社製の接着剤Betaforce(登録商標)を用いて、接着させた。
こうして、天板が多孔層の凸面のみに接触して固定された構造体を作製した。
作製した構造体を、85℃85%RHに設定した恒温恒湿環境下に、800時間放置した。放置後の構造体を観察したところ、天板の剥離は見られなかった。