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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190222
(43)【公開日】2022-12-26
(54)【発明の名称】研磨工具
(51)【国際特許分類】
   B24D 11/00 20060101AFI20221219BHJP
   B24B 7/04 20060101ALI20221219BHJP
   B24D 7/00 20060101ALI20221219BHJP
   B24D 3/02 20060101ALI20221219BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
B24D11/00 A
B24B7/04 A
B24D7/00 Z
B24D3/02 310E
H01L21/304 622F
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021098441
(22)【出願日】2021-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【弁理士】
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 貴之
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【弁理士】
【氏名又は名称】今藤 敏和
(72)【発明者】
【氏名】不破 徳人
(72)【発明者】
【氏名】介川 直哉
【テーマコード(参考)】
3C043
3C063
5F057
【Fターム(参考)】
3C043BA03
3C043BA11
3C043CC04
3C043DD02
3C043DD04
3C063AA02
3C063AB05
3C063AB07
3C063BA40
3C063BD01
3C063BG00
3C063FF30
5F057AA04
5F057BA11
5F057CA13
5F057DA03
5F057EA01
5F057EA07
5F057EB03
5F057EB13
(57)【要約】
【課題】ウェーハの研磨によって発生する静電気を確実に除去することが可能な研磨工具を提供する。
【解決手段】ウェーハを研磨する研磨工具であって、基台と、基台に固定された研磨層と、を含み、研磨層には、研磨層がウェーハに接触する際に発生する静電気を除電する導電性材料が分散されている。好ましくは、導電性材料は、炭素繊維であり、炭素繊維の含有率は、3wt%以上15wt%以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェーハを研磨する研磨工具であって、
基台と、該基台に固定された研磨層と、を含み、
該研磨層には、該研磨層が該ウェーハに接触する際に発生する静電気を除去するための導電性材料が分散されていることを特徴とする研磨工具。
【請求項2】
該導電性材料は、炭素繊維であり、
該炭素繊維の含有率は、3wt%以上15wt%以下であることを特徴とする請求項1に記載の研磨工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェーハを研磨する研磨工具に関する。
【背景技術】
【0002】
デバイスチップの製造プロセスでは、格子状に配列された複数のストリート(分割予定ライン)によって区画された複数の領域にそれぞれデバイスが形成されたウェーハが用いられる。このウェーハをストリートに沿って分割することにより、デバイスをそれぞれ備える複数のデバイスチップが得られる。デバイスチップは、携帯電話、パーソナルコンピュータ等の様々な電子機器に組み込まれる。
【0003】
近年では、電子機器の小型化に伴い、デバイスチップの薄型化が求められている。そこで、ウェーハの分割前に研削装置を用いてウェーハを薄化する処理が行われることがある。研削装置は、被加工物を保持するチャックテーブルと、被加工物を研削する研削ユニットとを備えており、研削ユニットには研削砥石を含む研削ホイールが装着される。チャックテーブルによってウェーハを保持し、チャックテーブル及び研削ホイールを回転させつつ研削砥石をウェーハに研削砥石を接触させることにより、ウェーハが研削、薄化される(特許文献1参照)。
【0004】
研削砥石によって研削されたウェーハの面(被研削面)には、研削砥石の経路に沿って形成された微細な傷(研削痕、ソーマーク)が残存する。この状態のウェーハを分割してデバイスチップを製造すると、デバイスチップに研削痕が残存してデバイスチップの抗折強度(曲げ強度)が低下する。そこで、研削後のウェーハには、研磨加工が施される。研磨加工には、被加工物に接触する研磨層を備えた円盤状の研磨工具(研磨パッド)が用いられる。研磨工具を回転させつつ研磨層をウェーハの被研削面に押し当てることにより、被研削面が平坦化され、被研削面に残存する研削痕が除去される。
【0005】
しかしながら、研磨工具でウェーハを研磨すると、互いに接触するウェーハと研磨層との間で静電気が発生し、研磨層によって研磨されるウェーハの面(被研磨面)側が帯電することがある。その結果、ウェーハに形成されているデバイスの破壊や動作不良が生じ、デバイスチップの品質が低下するおそれがある。
【0006】
上記の問題に対し、特許文献2には、円柱状の除電部が埋め込まれた研磨層を含む研磨工具を用いてウェーハを研磨する手法が開示されている。この研磨工具では、研磨層の下面で除電部が露出しており、ウェーハの研磨時に除電部がウェーハの被研磨面に接触する。これにより、ウェーハと研磨層との接触によって発生した静電気が除電部を介して除去され、静電気によるデバイスの破壊や動作不良が生じにくくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000-288881号公報
【特許文献2】特開2008-114350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述の通り、研磨層に除電部が埋め込まれた研磨工具を用いることにより、研磨加工の際に発生する静電気を除去することができる。しかしながら、除電部の材質は研磨層の母材の材質と異なるため、ウェーハの研磨時において、研磨層の除電部が設けられた領域が他の領域よりも摩耗しやすいことがある。この場合、研磨工具でウェーハを一定時間研磨すると、研磨層の除電部が設けられた領域が他の領域よりも薄くなり、除電部がウェーハに接触しにくくなる。その結果、静電気の除去効果が十分に発揮されず、デバイスの破壊や動作不良の発生が抑制されないおそれがある。
【0009】
本発明は、かかる問題に鑑みてなされたものであり、ウェーハの研磨によって発生する静電気を確実に除去することが可能な研磨工具の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によれば、ウェーハを研磨する研磨工具であって、基台と、該基台に固定された研磨層と、を含み、該研磨層には、該研磨層が該ウェーハに接触する際に発生する静電気を除去するための導電性材料が分散されている研磨工具が提供される。
【0011】
なお、好ましくは、該導電性材料は、炭素繊維であり、該炭素繊維の含有率は、3wt%以上15wt%以下である。
【0012】
本発明の一態様に係る研磨工具は、導電性材料が分散された研磨層を備える。これにより、研磨工具でウェーハを研磨する際、導電性材料がウェーハに接触した状態が維持され、ウェーハと研磨層との間で発生する静電気が確実に除去される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】研磨装置を示す斜視図である。
図2】ウェーハを示す斜視図である。
図3図3(A)は研磨工具の上面側を示す斜視図であり、図3(B)は研磨工具の底面側を示す斜視図である。
図4】研磨層の一部を示す拡大断面図である。
図5図5(A)は複数の研磨層を有する研磨工具の上面側を示す斜視図であり、図5(B)は複数の研磨層を有する研磨工具の底面側を示す斜視図である。
図6】ウェーハを研磨する研磨装置を示す断面図である。
図7図7(A)は評価用の基板を示す斜視図であり、図7(B)は炭素繊維の含有率と評価用の基板の抵抗値との関係を示すグラフである。
図8図8(A)はウェーハの研磨に用いた研磨工具を示す底面図であり、図8(B)はウェーハの研磨に用いた研磨工具を示す一部断面正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して本発明の一態様に係る実施形態を説明する。まず、本実施形態に係る研磨工具を用いて被加工物を研磨することが可能な研磨装置の構成例について説明する。図1は、研磨装置2を示す斜視図である。なお、図1において、X軸方向(第1水平方向、前後方向)とY軸方向(第2水平方向、左右方向)とは、互いに垂直な方向である。また、Z軸方向(鉛直方向、上下方向、高さ方向)は、X軸方向及びY軸方向と垂直な方向である。
【0015】
研磨装置2は、研磨装置2を構成する各構成要素を支持又は収容する直方体状の基台4を備える。基台4の前端部には、カセット8a,8bが載置されるカセット載置領域(カセット載置台)6a,6bが設けられている。カセット8a,8bは、複数のウェーハ11を収容可能な容器であり、カセット載置領域6a,6b上に配置される。例えば、カセット8aには研磨加工前のウェーハ11が収容され、カセット8bには研磨加工後のウェーハ11が収容される。
【0016】
図2は、ウェーハ11を示す斜視図である。例えばウェーハ11は、シリコン等の半導体材料でなる円盤状の単結晶ウェーハであり、互いに概ね平行な表面11a及び裏面11bを備える。
【0017】
ウェーハ11は、互いに交差するように格子状に配列された複数のストリート(分割予定ライン)13によって、複数の矩形状の領域に区画されている。また、ストリート13によって区画された複数の領域の表面11aにはそれぞれ、IC(Integrated Circuit)、LSI(Large Scale Integration)、LED(Light Emitting Diode)、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)デバイス等のデバイス15が形成されている。
【0018】
ただし、ウェーハ11の種類、材質、形状、構造、大きさ等に制限はない。例えばウェーハ11は、シリコン以外の半導体(GaAs、InP、GaN、SiC等)、サファイア、ガラス、セラミックス、樹脂、金属等でなるウェーハであってもよい。また、デバイス15の種類、数量、形状、構造、大きさ、配置等にも制限はない。
【0019】
ウェーハ11をストリート13に沿って分割することにより、デバイス15をそれぞれ備える複数のデバイスチップが製造される。また、ウェーハ11の分割前にウェーハ11の裏面11b側を研削砥石で研削してウェーハ11を薄化することにより、薄型化されたデバイスチップが得られる。
【0020】
なお、研削砥石によって研削されたウェーハ11の裏面11b(被研削面)には、研削砥石の経路に沿って形成された微細な傷(研削痕、ソーマーク)が残存する。この状態のウェーハ11を分割してデバイスチップを製造すると、デバイスチップに研削痕が残存してデバイスチップの抗折強度(曲げ強度)が低下する。そこで、研削後のウェーハ11の裏面11b側を、研磨装置2(図1参照)によって研磨する。これにより、ウェーハ11の裏面11b側が平坦化され、ウェーハ11の裏面11b側に残存する研削痕が除去される。
【0021】
研磨装置2でウェーハ11の裏面11b側を研磨する際には、ウェーハ11の表面11a側に保護部材17が貼付される。例えば保護部材17として、ウェーハ11と概ね同形のテープが用いられる。テープは、可撓性を有するフィルム状の基材と、基材上に設けられた粘着層(糊層)とを含む。基材はポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタラート等の樹脂でなり、粘着層はエポキシ系、アクリル系、又はゴム系の接着剤等でなる。なお、粘着層は、紫外線の照射によって硬化する紫外線硬化型の樹脂であってもよい。
【0022】
ウェーハ11は、保護部材17が貼付された状態で、図1に示すカセット8aに収容される。そして、複数のウェーハ11を収容したカセット8aがカセット載置領域6a上に載置される。
【0023】
基台4の上面側のうちカセット載置領域6a,6bの間に位置する領域には、開口4aが設けられている。そして、開口4aの内側には、ウェーハ11を搬送する第1搬送機構10が設けられている。また、開口4aの前方の領域には、研磨装置2に各種の情報(加工条件等)を入力するための操作パネル12が設けられている。
【0024】
第1搬送機構10の斜め後方には、ウェーハ11の位置を調節する位置調節機構14が設けられている。カセット8aに収容されたウェーハ11は、第1搬送機構10によって位置調節機構14上に搬送される。そして、位置調節機構14は、ウェーハ11を挟み込むことによってウェーハ11の位置を調節する。また、位置調節機構14の近傍には、ウェーハ11を保持して旋回する第2搬送機構(ローディングアーム)16が配置されている。
【0025】
基台4の上面側のうち第2搬送機構16の後方に位置する領域には、長手方向がX軸方向に沿うように形成された矩形状の開口4bが設けられている。そして、開口4bの内側には移動機構18が設けられている。例えば移動機構18は、ボールねじ式の移動機構であり、X軸方向に沿って配置されたボールねじ(不図示)、ボールねじを回転させるパルスモータ(不図示)等を含む。また、移動機構18は平板状の移動テーブル20を備え、移動テーブル20をX軸方向に沿って移動させる。さらに、移動テーブル20の前方及び後方には、移動機構18の構成要素(ボールねじ、パルスモータ等)を覆いX軸方向に沿って伸縮する蛇腹状の防塵防滴カバー22が設けられている。
【0026】
移動テーブル20上には、ウェーハ11を保持するチャックテーブル(保持テーブル)24が設けられている。チャックテーブル24の上面は、水平方向(XY平面方向)と概ね平行な平坦面であり、ウェーハ11を保持する保持面24aを構成している。保持面24aは、チャックテーブル24の内部に形成された吸引路24b(図6参照)、バルブ(不図示)等を介して、エジェクタ等の吸引源(不図示)に接続されている。位置調節機構14によって位置合わせが行われたウェーハ11は、第2搬送機構16によってチャックテーブル24の保持面24a上に搬送され、チャックテーブル24によって保持される。
【0027】
移動機構18によって移動テーブル20を移動させると、チャックテーブル24が移動テーブル20とともにX軸方向に沿って移動する。また、チャックテーブル24には、チャックテーブル24をZ軸方向と概ね平行な回転軸の周りで回転させるモータ等の回転駆動源(不図示)が連結されている。
【0028】
基台4の後端部には、直方体状の支持構造26が設けられている。支持構造26の前面側には、移動機構28が設けられている。移動機構28は、支持構造26の前面側にZ軸方向に沿って配置された一対のガイドレール30を備える。一対のガイドレール30には、移動プレート32がガイドレール30に沿ってスライド可能に装着されている。
【0029】
移動プレート32の後面側(裏面側)には、ナット部(不図示)が設けられている。このナット部には、一対のガイドレール30の間にZ軸方向に沿って配置されたボールねじ34が螺合されている。また、ボールねじ34の端部にはパルスモータ36が連結されている。パルスモータ36によってボールねじ34を回転させると、移動プレート32がガイドレール30に沿ってZ軸方向に移動する。
【0030】
移動プレート32の前面側(表面側)には、支持部材38が設けられている。支持部材38は、ウェーハ11に研磨加工を施す研磨ユニット40を支持している。
【0031】
研磨ユニット40は、支持部材38によって支持された中空の円柱状のハウジング42を備える。ハウジング42には、Z軸方向に沿って配置された円柱状のスピンドル44が回転可能な状態で収容されている。スピンドル44の先端部(下端部)はハウジング42の外部に露出しており、スピンドル44の基端部(上端部)にはモータ等の回転駆動源(不図示)が連結されている。
【0032】
スピンドル44の先端部には、円盤状のマウント46が固定されている。そして、マウント46の下面側に、ウェーハ11を研磨する円盤状の研磨工具(研磨パッド)48が装着される。例えば研磨工具48は、ボルト50等の固定具によってマウント46に固定される。研磨工具48は、回転駆動源からスピンドル44及びマウント46を介して伝達される動力により、Z軸方向と概ね平行な回転軸の周りを回転する。
【0033】
ウェーハ11を保持したチャックテーブル24は、移動機構18によって研磨ユニット40の下方に位置付けられる。そして、チャックテーブル24及びスピンドル44を回転させつつ研磨ユニット40を移動機構28によって所定の速度で下降させる。これにより、回転する研磨工具48がウェーハ11に接触し、ウェーハ11が研磨される。
【0034】
第2搬送機構16と隣接する位置には、ウェーハ11を保持して旋回する第3搬送機構(アンローディングアーム)52が配置されている。また、第3搬送機構52の前方側には、ウェーハ11を洗浄する洗浄機構54が配置されている。例えば洗浄機構54は、ウェーハ11を保持して回転するスピンナテーブルと、スピンナテーブルによって保持されたウェーハ11に純水等の洗浄液を供給するノズルとを備える。
【0035】
研磨ユニット40によって研磨されたウェーハ11は、第3搬送機構52によって洗浄機構54に搬送され、洗浄機構54によって洗浄される。そして、洗浄後のウェーハ11は、第1搬送機構10によって搬送され、カセット8bに収容される。
【0036】
研磨装置2でウェーハ11を研磨する際は、マウント46に研磨工具48が装着される。図3(A)は研磨工具48の上面側を示す斜視図であり、図3(B)は研磨工具48の底面側を示す斜視図である。研磨工具48は、円盤状の基台60と、基台60に固定された円盤状の研磨層62とを含む。
【0037】
基台60は、ステンレス、アルミニウム等の金属でなり、基台60の上面側で開口する複数のねじ穴60aを有する。ねじ穴60aは、基台60の周方向に沿って概ね等間隔に配列される。また、基台60の中心部には、基台60を厚さ方向に貫通する円柱状の貫通孔60bが設けられている。
【0038】
研磨層62は、基台60と概ね同径の円盤状に形成され、接着剤等によって基台60の下面側に接合されている。研磨層62の下面は、ウェーハ11と接触してウェーハ11を研磨する平坦な研磨面62aを構成している。また、研磨層62の中心部には、研磨層62を厚さ方向に貫通する円柱状の貫通孔62bが設けられている。
【0039】
基台60の上面をマウント46(図1参照)の下面に接触させた状態で、ボルト50(図1参照)をマウント46に設けられた貫通孔(不図示)を介してねじ穴60aに挿入してねじ込むことにより、研磨工具48がマウント46に装着される。
【0040】
図4は、研磨層62の一部を示す拡大断面図である。研磨層62は、研磨層62の母材である結合材(基材)64と、結合材64に含有された砥粒(固定砥粒)66及び導電性材料68とを含む。なお、図4では説明の便宜上、結合材64の厚さに対して砥粒66及び導電性材料68を拡大して図示している。
【0041】
結合材64は、砥粒66を固定するボンド材として機能する円盤状の部材であり、互いに概ね平行な上面64a及び下面64bを含む。なお、結合材64の下面64bは、研磨層62の研磨面62a(図3(A)及び図3(B)参照)に相当する。
【0042】
例えば、結合材64はフェルト、樹脂(発泡ウレタン、ゴム粒子等)等でなり、結合材64の厚さは5mm以上15mm以下に設定される。また、砥粒66としては、例えば平均粒径が1μm以上10μm以下のシリカ(SiO)が用いられる。ただし、結合材64の材質及び厚さと、砥粒66の材質及び粒径とは、研磨の対象物であるウェーハ11の材質等に応じて適宜変更できる。
【0043】
また、研磨層62(結合材64)には、導電性材料68が概ね均一に分散されている。一部の導電性材料68は結合材64の上面64aで露出しており、他の一部の導電性材料68は結合材64の下面64bで露出している。また、上面64aで露出する導電性材料68と下面64bで露出する導電性材料68とは、結合材64の内部に埋め込まれている導電性材料68を介して接続されている。これにより、結合材64の上面64aから下面64bに至る導電パスが形成され、研磨層62は研磨層62の厚さ方向(結合材64の厚さ方向)において導電性を有する。
【0044】
導電性材料68は、研磨層62がウェーハ11に接触する際に発生する静電気を除去するための導電性物質である。導電性材料68としては、炭素繊維を用いることができる。例えば、長さの平均値(平均繊維長)が1μm以上20μm以下、直径の平均値(平均繊維径)が0.1μm以上0.5μm以下の炭素繊維が用いられる。また、炭素繊維の含有量は、結合材64の上面64aから下面64bに至る導電パスが適切に形成されるように調節される。具体的には、炭素繊維の含有率は、3wt%以上15wt%以下であることが好ましい。この含有率は、砥粒66を含む研磨層62の質量(結合材64の質量と砥粒66の質量と炭素繊維の質量との総和)に対する炭素繊維の質量の比率に相当する。
【0045】
例えば、砥粒66及び炭素繊維を混入した液体をフェルトに含浸させる方法や、フェルトの製造過程においてフェルトの原料に砥粒66及び炭素繊維を混入する方法により、砥粒66及び炭素繊維が分散されたフェルトが得られる。そして、このフェルトに液状接着剤(エポキシ樹脂系接着剤、フェノール樹脂系接着剤等)を含浸させることにより、フェルトでなる結合材64に砥粒66及び炭素繊維が分散された研磨層62が形成される。また、樹脂材料、砥粒66及び炭素繊維を混合又は混練した後に圧縮成形及び焼成を行うことにより、樹脂でなる結合材64に砥粒66及び炭素繊維が分散された研磨層62が形成される。
【0046】
なお、基台60に固定される研磨層62の形状、数、サイズに制限はない。図5(A)は複数の研磨層70を有する研磨工具48の上面側を示す斜視図であり、図5(B)は複数の研磨層70を有する研磨工具48の底面側を示す斜視図である。
【0047】
図5(A)及び図5(B)に示すように、基台60には複数の研磨層70が固定されてもよい。例えば、涙滴状(花びら形状)に形成された4枚の研磨層70が、基台60の周方向に沿って概ね等間隔に配列される。研磨層70の下面はそれぞれ、ウェーハ11と接触してウェーハ11を研磨する平坦な研磨面70aを構成している。なお、研磨層70の構成は、研磨層62(図4参照)と同様である。
【0048】
次に、研磨工具48を用いたウェーハ11の研磨方法の具体例について説明する。図6は、ウェーハ11を研磨する研磨装置2を示す断面図である。
【0049】
研磨工具48でウェーハ11を研磨する際には、研磨工具48が研磨装置2の研磨ユニット40に装着される。また、ウェーハ11がチャックテーブル24によって保持される。具体的には、ウェーハ11は、表面11a側(保護部材17側)が保持面24aに対面し裏面11bが上方に露出するように、チャックテーブル24上に配置される。この状態で保持面24aに吸引源の吸引力(負圧)を作用させると、ウェーハ11が保護部材17を介してチャックテーブル24によって吸引保持される。
【0050】
ウェーハ11を保持したチャックテーブル24は、移動機構18(図1参照)によって研磨ユニット40の下方に位置付けられる。このときウェーハ11は、裏面11b(被研磨面)の全体が研磨層62の研磨面62aと重なるように配置される。
【0051】
次に、チャックテーブル24及びスピンドル44を回転させつつ、移動機構28(図1参照)によって研磨ユニット40を下降させる。これにより、回転する研磨層62がウェーハ11の裏面11b側に押し当てられ、ウェーハ11の裏面11b側が研磨面62aによって研磨される。例えばウェーハ11は、研磨中にウェーハ11及び研磨工具48に研磨液が供給されない乾式研磨によって加工される。
【0052】
研磨ユニット40が所定の位置まで下降すると、ウェーハ11の研磨量(研磨前後のウェーハ11の厚さの差)が所定の値に達し、ウェーハ11の研磨加工が完了する。その結果、ウェーハ11の裏面11b側が平坦化され、ウェーハ11の裏面11b側に残存していた研削痕が除去される。
【0053】
なお、研磨工具48でウェーハ11を研磨すると、互いに接触するウェーハ11と研磨層62との間で静電気が発生し、ウェーハ11の被研磨面側(裏面11b側)が帯電することがある。ウェーハ11の帯電は、ウェーハ11に形成されているデバイス15(図2参照)の破壊や動作不良の原因となる。
【0054】
ここで、本実施形態に係る研磨工具48は、導電性材料68が分散された研磨層62(図4参照)を備えている。そして、研磨工具48でウェーハ11を研磨する際、結合材64の下面64b(研磨面62a)で露出する導電性材料68がウェーハ11に接触する。その結果、ウェーハ11は、研磨層62に分散された導電性材料68と、導電性の金属でなる基台60、マウント46、スピンドル44とを介して、接地端子(不図示)に接続される。これにより、ウェーハ11と研磨層62との間で発生した静電気の放電経路が形成され、ウェーハ11から静電気が除去される。
【0055】
なお、導電性材料68は研磨層62の全域にわたって概ね均一に分散されており、研磨工具48でウェーハ11を研磨する際における研磨層62の摩耗量(研磨層62の厚さの減少量)は、研磨層62の全域で概ね均一になる。すなわち、研磨層62の研磨面62aが平坦に維持される。これにより、研磨層62の研磨面62aで露出する導電性材料68がウェーハ11に接触した状態が維持され、静電気の除去効果が持続する。
【0056】
以上の通り、本実施形態に係る研磨工具48は、導電性材料68が分散された研磨層62を備える。これにより、研磨工具48でウェーハ11を研磨する際、導電性材料68がウェーハ11に接触した状態が維持され、ウェーハ11と研磨層62との間で発生する静電気が確実に除去される。
【0057】
なお、上記実施形態ではウェーハ11を乾式研磨によって研磨する場合について説明したが、ウェーハ11を湿式研磨によって研磨することもできる。この場合には、研磨工具48によってウェーハ11を研磨する際に、研磨ユニット40の内部に形成された研磨液供給路72(図6参照)から貫通孔60b,62bを介してウェーハ11及び研磨工具48に研磨液が供給される。例えば研磨液として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を含むアルカリ溶液、過マンガン酸塩等を含む酸性液、純水等が用いられる。
【0058】
その他、上記実施形態に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。
【0059】
(実施例1)
次に、本発明に係る研磨工具の特性を評価した結果について説明する。本実施例では、研磨工具48の研磨層62(図4参照)に相当する基板を準備し、基板の抵抗値を測定した。
【0060】
図7(A)は、評価用の基板21を示す斜視図である。基板21は、研磨層62(図4参照)と同様に形成した。具体的には、結合材(ゴム粒子)に砥粒及び導電性材料を分散させることにより、円盤状の基板21を形成した。なお、砥粒としては平均粒径が5μmのシリカを用い、導電性材料としては平均繊維長が10μm、平均繊維径が0.2μmの炭素繊維を用いた。また、基板21の直径は150mm、基板21の厚さは10mmとした。
【0061】
本実施例では、炭素繊維の含有率が異なる9枚の基板21を準備した。各基板21における炭素繊維の含有率は、0wt%、1.0wt%、2.0wt%、3.0wt%、3.5wt%、4.0wt%、4.5wt%、5.0wt%、15.0wt%となるように調節した。この含有率は、砥粒を含む基板21の質量(結合材の質量と砥粒の質量と炭素繊維の質量との総和)に対する炭素繊維の質量の比率に相当する。
【0062】
そして、基板21の厚さ方向における抵抗値を測定した。抵抗値は、抵抗計(テスター)80のプローブを基板21の表面21aと裏面21bとに当てることによって測定した。
【0063】
図7(B)は、炭素繊維の含有率と評価用の基板21の抵抗値との関係を示すグラフである。炭素繊維の含有率が0wt%、1.0wt%、2.0wt%である基板21の抵抗値は、抵抗計80の測定上限値である3000kΩ以上であった。一方、炭素繊維の含有率が3.0wt%に達すると、基板21の抵抗値が236kΩに急減した。これは、基板21に含まれる炭素繊維が増加し、基板21の表面21aから裏面21bに至る導電パスが形成されやすくなったためと推察される。これにより、研磨層62(図4参照)に含有される炭素繊維の含有量は、3.0wt%以上であることが好ましいことが確認された。
【0064】
さらに、炭素繊維の含有率が3.5wt%、4.0wt%、4.5wt%、5.0wt%に達するごとに、基板21の抵抗値は94kΩ、24kΩ、11kΩ、8kΩと減少した。これにより、研磨層62(図4参照)に含有される炭素繊維の含有量は、3.5wt%以上、又は4.0wt%以上、又は4.5wt%以上、又は5.0wt%以上であることが好ましいことが確認された。そして、炭素繊維の含有量が5.0wt%、15.0wt%の場合に、基板21の抵抗値が最小値である8kΩとなった。
【0065】
ただし、炭素繊維の含有量が15.0wt%を超えると、基板21の抵抗値は低く維持されるものの、基板21が脆化して基板21の機械的強度が低下することが確認された。そのため、研磨層62(図4参照)を所望の形状に成形して研磨層62の形状を維持しつつウェーハ11を研磨するためには、炭素繊維の含有率が15.0wt%以下であることが好ましい。
【0066】
上記の結果より、研磨工具48の研磨層62(図4参照)に炭素繊維を含有させることにより、研磨層62の厚さ方向における抵抗値を下げ、静電気の除去に効果的な導電性を発現させることが可能であることが確認された。
【0067】
(実施例2)
次に、本発明に係る研磨工具でウェーハを研磨した結果について説明する。本実施例では、研磨工具48でウェーハを研磨しつつウェーハの表面の電圧を測定することにより、研磨加工中におけるウェーハの帯電をモニターした。
【0068】
図8(A)は、ウェーハの研磨に用いた研磨工具48を示す底面図である。図8(A)に示す研磨工具48は、研磨層70の数が5枚である点を除いて、図5(A)及び図5(B)に示す研磨工具48と同様の構成を有する。
【0069】
基台60の直径は450mmとし、5枚の涙滴状(花びら形状)の研磨層70の厚さは10mmとした。また、研磨層70は、結合材(ゴム粒子)に砥粒及び導電性材料を分散させることによって形成した。砥粒としては平均粒径が5μmのシリカを用い、導電性材料としては平均繊維長が10μm、平均繊維径が0.2μmの炭素繊維を用いた。なお、炭素繊維の含有率は5wt%に調節した。
【0070】
そして、上記の研磨工具48を研磨装置2の研磨ユニット40(図1参照)に装着し、研磨工具48でウェーハを研磨した。図8(B)は、ウェーハ23の研磨に用いた研磨工具48を示す一部断面正面図である。
【0071】
ウェーハ23としては、直径300mm、厚さ100μmのシリコンウェーハを用いた。そして、ウェーハ23の表面23a側をチャックテーブル24(図6参照)によって保持し、ウェーハ23の裏面23b側を研磨層70によって研磨した。なお、チャックテーブル24(図6参照)の回転速度は100rpm、スピンドル44(図6参照)の回転速度は1000rpmとし、ウェーハ23に200Nの荷重がかかるように研磨工具48の下降速度を調節した。
【0072】
上記の研磨条件で、48枚のウェーハ23を乾式研磨によってそれぞれ220秒間研磨した。そして、ウェーハ23の研磨中に、非接触式の電圧測定器82を用いてウェーハ23の裏面23bの電圧を測定した。なお、電圧測定器82は、研磨工具48の基台60の中心部に設置し、ウェーハ23の裏面23bのうち電圧測定器82の直下に位置付けられた領域の電圧を測定した。
【0073】
測定された電圧は、48枚全てのウェーハ23の研磨中において-50V以上50V以下の範囲内であり、概ね一定に保たれていた。すなわち、ウェーハ23の帯電による電圧の増減は確認されなかった。これは、研磨中にウェーハ23と研磨層70との間で発生した静電気が、研磨層70に含有された炭素繊維によって除去されたためと推察される。
【0074】
上記の結果より、研磨工具48の研磨層70に炭素繊維を含有させることにより、ウェーハ23の帯電が効果的に防止されることが確認された。
【符号の説明】
【0075】
11 ウェーハ
11a 表面(第1面)
11b 裏面(第2面)
13 ストリート(分割予定ライン)
15 デバイス
17 保護部材
21 基板
21a 表面
21b 裏面
23 ウェーハ
23a 表面
23b 裏面
2 研磨装置
4 基台
4a,4b 開口
6a,6b カセット載置領域(カセット載置台)
8a,8b カセット
10 第1搬送機構
12 操作パネル
14 位置調節機構
16 第2搬送機構(ローディングアーム)
18 移動機構
20 移動テーブル
22 防塵防滴カバー
24 チャックテーブル(保持テーブル)
24a 保持面
24b 吸引路
26 支持構造
28 移動機構
30 ガイドレール
32 移動プレート
34 ボールねじ
36 パルスモータ
38 支持部材
40 研磨ユニット
42 ハウジング
44 スピンドル
46 マウント
48 研磨工具(研磨パッド)
50 ボルト
52 第3搬送機構(アンローディングアーム)
54 洗浄機構
60 基台
60a ねじ穴
60b 貫通孔
62 研磨層
62a 研磨面
62b 貫通孔
64 結合材(基材)
64a 上面
64b 下面
66 砥粒(固定砥粒)
68 導電性材料
70 研磨層
70a 研磨面
72 研磨液供給路
80 抵抗計(テスター)
82 電圧測定器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8