(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190621
(43)【公開日】2022-12-26
(54)【発明の名称】有機エレクトロルミネッセンス素子、有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法、表示装置及び照明装置
(51)【国際特許分類】
H05B 33/12 20060101AFI20221219BHJP
H01L 27/32 20060101ALI20221219BHJP
H01L 51/50 20060101ALI20221219BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20221219BHJP
G09F 9/30 20060101ALI20221219BHJP
C07D 487/04 20060101ALI20221219BHJP
C07D 471/04 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
H05B33/12 C
H01L27/32
H05B33/14 A
H05B33/10
G09F9/30 365
C07D487/04 148
C07D471/04 112T
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099031
(22)【出願日】2021-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【弁理士】
【氏名又は名称】福尾 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 翼
(72)【発明者】
【氏名】深川 弘彦
(72)【発明者】
【氏名】大野 拓
(72)【発明者】
【氏名】清水 貴央
(72)【発明者】
【氏名】森井 克行
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 宗弘
(72)【発明者】
【氏名】▲桑▼田 健二
【テーマコード(参考)】
3K107
4C050
4C065
5C094
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107BB02
3K107CC12
3K107CC22
3K107DD52
3K107DD78
3K107DD86
3K107FF15
3K107GG28
4C050AA01
4C050BB08
4C050CC08
4C050EE03
4C050FF05
4C050GG01
4C050HH04
4C065AA04
4C065AA19
4C065BB09
4C065CC01
4C065DD02
4C065EE02
4C065HH01
4C065JJ08
4C065KK01
4C065LL08
4C065PP10
5C094FB01
5C094FB02
(57)【要約】
【課題】優れた電子・正孔注入性を有する電荷発生ユニットを含むタンデム構造の有機エレクトロルミネッセンス素子を提供する。
【解決手段】陽極3と、陰極6と、該陽極3と陰極6との間に位置する複数の発光ユニット4-1,4-2と、各発光ユニット4-1,4-2の間に位置する電荷発生ユニット5-1と、を具える有機エレクトロルミネッセンス素子1であって、前記発光ユニット4-1,4-2が、発光層9を有し、前記電荷発生ユニット5-1が、陽極3側から順に、有機材料層12と、金属層13と、を有し、前記有機材料層12が、配位結合可能な有機材料を含み、前記金属層13が、金属元素を含むことを特徴とする、有機エレクトロルミネッセンス素子1である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、陰極と、該陽極と陰極との間に位置する複数の発光ユニットと、各発光ユニットの間に位置する電荷発生ユニットと、を具える有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記発光ユニットが、発光層を有し、
前記電荷発生ユニットが、陽極側から順に、有機材料層と、金属層と、を有し、
前記有機材料層が、配位結合可能な有機材料を含み、
前記金属層が、金属元素を含むことを特徴とする、有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記金属層が、アルミニウムからなる、請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記金属層の厚さが、5nm以下である、請求項1又は2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記有機材料層が、下記一般式(1)で表される構造を有するヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化1】
(一般式(1)中、R
1は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、アリールアルキレン基、2~4価の鎖状または環状炭化水素基、又は、これらの基を2つ以上組み合わせてできる基、これらの基の1つ若しくは2つ以上と窒素原子とを組み合わせてできる基を表す。n
1は、1~4の整数である。)
【請求項5】
前記一般式(1)中のn1が、2又は3である、請求項4に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記有機材料層が、下記一般式(2)で表される構造を有する化合物を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化2】
(一般式(2)中、X
1、X
2は、同一又は異なって、置換基を有していてもよい窒素原子、酸素原子、硫黄原子又は2価の連結基を表す。Lは直接結合またはp価の連結基を表す。n
2は、0又は1の数を表し、pは、1~4の数を表す。qは、0又は1の数を表し、pが1のとき、qは0である。R
2~R
4は、同一又は異なって、1価の置換基を表す。m
1~m
3は、同一又は異なって、0~3の数を表す。)
【請求項7】
前記一般式(2)中のn2が、0である、請求項6に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を具えることを特徴とする、表示装置。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を具えることを特徴とする、照明装置。
【請求項10】
陽極と、陰極と、該陽極と陰極との間に位置する複数の発光ユニットと、各発光ユニットの間に位置する電荷発生ユニットと、を具え、
前記発光ユニットが、発光層を有し、
前記電荷発生ユニットが、陽極側から順に、有機材料層と、金属層と、を有する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、
配位結合可能な有機材料を用いて、前記有機材料層を形成する工程と、
金属元素を用いて、前記金属層を形成する工程と、
を含むことを特徴とする、有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス(以下、エレクトロルミネッセンス(電界発光)を「EL」と記す場合がある。)素子、有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法、表示装置及び照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、薄く、柔軟でフレキシブルである。また、有機EL素子を用いた表示装置は、現在主流となっている液晶表示装置及びプラズマ表示装置と比べて、高輝度、高精細な表示が可能である。また、有機EL素子を用いた表示装置は、液晶表示装置に比べて視野角が広い。このため、有機EL素子を用いた表示装置は、今後、テレビや携帯電話のディスプレイ等としての利用の拡大が期待されている。
また、有機EL素子は、照明装置としての利用も期待されている。
【0003】
近年、有機EL素子として、陰極と陽極との間に、複数の発光層(発光ユニット)を具える、タンデム構造の有機EL素子が検討されている(特許文献1、2、並びに、非特許文献1~5)。このタンデム構造の有機EL素子は、複数の発光ユニットが電荷発生ユニット(電荷発生層)により仕切られた構造になっている。これにより、同じ電流密度の電流を流した際に、発光ユニットが単層の有機EL素子に比べ、高輝度の発光を得ることができる。そのため、有機EL素子の電流効率の向上や長寿命化が可能である。
また、複数の発光ユニットに異なる色の発光層を設けることができ、赤色と緑色と青色とを組み合わせる構成や、青色と黄色とを組み合わせる構成とすることで、白色の発光が得られる。
【0004】
なお、本明細書における「発光ユニット」とは、少なくとも一層の発光層を含む層構造を有した、従来型の有機EL素子における陽極電極と陰極電極を除いた要素を指す。
また、本明細書における「電荷発生ユニット」は、「発光ユニット」と「発光ユニット」との間に形成される層構造であり、陽極側の発光ユニットに電子を、陰極側の発光ユニットに正孔を注入する役割を果たしている。つまり、「電荷発生ユニット」は、陽極側「発光ユニット」の発光層と陰極側「発光ユニット」の発光層との間や、陽極側「発光ユニット」の電子輸送層と陰極側「発光ユニット」の正孔輸送層との間に形成される。
【0005】
このタンデム構造の有機EL素子を低電圧で発光させるには、電荷発生ユニットから隣接する発光ユニットに電子や正孔を効率的に注入させる必要がある。
従来、良好な特性を得るために電荷発生ユニットとして、様々な材料や構成が報告されているが、特許文献1、2や非特許文献2~5に示すように、リチウムやセシウム等のアルカリ金属を含む化合物を含む構成が多く用いられている。また、より良好な特性を得るために、非特許文献2、4、5に示すように、アルカリ金属を含む化合物に隣接してアルミニウム等の金属層を積層した構成を含む電荷発生ユニットが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6488082号公報
【特許文献2】特許第6486624号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Applied Physics Letters 97,063303(2010).
【非特許文献2】Applied Physics Express 11,022101(2018).
【非特許文献3】Advanced Functional Materials,20,1797-1802(2010).
【非特許文献4】Journal of Materials ChemistryC 6,767-772(2018)
【非特許文献5】Organic Electronics 53,353-360(2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、アルカリ金属は、大気に反応し易く、劣化を引き起こし易い。また、アルカリ金属を発光ユニット間の電荷発生ユニットに用いた場合、電圧印加の際に、イオン化したアルカリ金属が陰極側の発光ユニットに拡散して、発光ユニットが劣化する懸念がある。
また、これらの電荷発生層では、更なるタンデム構造の低電圧化には電子・正孔の注入性は不十分である。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、優れた電子・正孔注入性を有する電荷発生ユニットを含むタンデム構造の有機EL素子及びその製造方法、かかる有機EL素子を具えた表示装置及び照明装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、電荷発生ユニットにおいて、電子供与性の窒素原子を複素環内に有する有機材料等、配位結合可能な部位を有する有機材料と、その配位先である金属元素との配位結合、及び配位結合の向きについて着目した。
【0011】
そして、タンデム構造の有機EL素子の発光ユニットの間に、電荷発生ユニットとして、陽極側に配位結合可能な部位を有する有機材料からなる有機層(有機材料層)を設け、その直上に、配位先である金属層を設けた積層膜を用いることで、有機EL素子の駆動電圧が低減され、上記課題を解決できることに想到し、本発明に到達したものである。
【0012】
詳細なメカニズムは必ずしも明らかではないが、有機材料層の有機材料と金属層の金属元素とで配位結合を形成した際、有機材料層側から金属層側に電子が移動し、有機材料層側がプラス、金属層側がマイナスの内部電界が生じ、これにより、陽極側の発光ユニットへの電子注入と、陰極側の発光ユニットへの正孔注入が向上したものと推定される。
【0013】
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、以下のとおりである。
【0014】
[1] 陽極と、陰極と、該陽極と陰極との間に位置する複数の発光ユニットと、各発光ユニットの間に位置する電荷発生ユニットと、を具える有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記発光ユニットが、発光層を有し、
前記電荷発生ユニットが、陽極側から順に、有機材料層と、金属層と、を有し、
前記有機材料層が、配位結合可能な有機材料を含み、
前記金属層が、金属元素を含むことを特徴とする、有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0015】
[2] 前記金属層が、アルミニウムからなる、[1]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0016】
[3] 前記金属層の厚さが、5nm以下である、[1]又は[2]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0017】
[4] 前記有機材料層が、下記一般式(1)で表される構造を有するヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化1】
(一般式(1)中、R
1は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、アリールアルキレン基、2~4価の鎖状または環状炭化水素基、又は、これらの基を2つ以上組み合わせてできる基、これらの基の1つ若しくは2つ以上と窒素原子とを組み合わせてできる基を表す。n
1は、1~4の整数である。)
【0018】
[5] 前記一般式(1)中のn1が、2又は3である、[4]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0019】
[6] 前記有機材料層が、下記一般式(2)で表される構造を有する化合物を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化2】
(一般式(2)中、X
1、X
2は、同一又は異なって、置換基を有していてもよい窒素原子、酸素原子、硫黄原子又は2価の連結基を表す。Lは直接結合またはp価の連結基を表す。n
2は、0又は1の数を表し、pは、1~4の数を表す。qは、0又は1の数を表し、pが1のとき、qは0である。R
2~R
4は、同一又は異なって、1価の置換基を表す。m
1~m
3は、同一又は異なって、0~3の数を表す。)
【0020】
[7] 前記一般式(2)中のn2が、0である、[6]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0021】
[8] [1]~[7]のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を具えることを特徴とする、表示装置。
【0022】
[9] [1]~[7]のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を具えることを特徴とする、照明装置。
【0023】
[10] 陽極と、陰極と、該陽極と陰極との間に位置する複数の発光ユニットと、各発光ユニットの間に位置する電荷発生ユニットと、を具え、
前記発光ユニットが、発光層を有し、
前記電荷発生ユニットが、陽極側から順に、有機材料層と、金属層と、を有する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、
配位結合可能な有機材料を用いて、前記有機材料層を形成する工程と、
金属元素を用いて、前記金属層を形成する工程と、
を含むことを特徴とする、有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明のタンデム構造の有機EL素子は、駆動電圧が低く、駆動寿命に優れる。
また、本発明の表示装置及び照明装置は、本発明のタンデム構造の有機EL素子を具えているため、駆動電圧が低く、駆動寿命に優れた特性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明のn個の発光ユニットを有するタンデム構造の有機EL素子を説明するための概略断面図である。
【
図2】本発明のタンデム構造の有機EL素子の一例を説明するための概略断面図である。
【
図3】実施例1~3及び比較例1で作製した有機EL素子の印加電圧と輝度の関係を示したグラフである。
【
図4】実施例1~3及び比較例1で作製した有機EL素子の駆動開始からの経過時間と輝度の関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明の有機EL素子、有機EL素子の製造方法、表示装置及び照明装置を、その実施形態に基づき、詳細に例示説明する。
【0027】
<有機EL素子>
本発明の有機EL素子は、陽極と、陰極と、該陽極と陰極との間に位置する複数の発光ユニットと、各発光ユニットの間に位置する電荷発生ユニットと、を具える。そして、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子においては、前記発光ユニットが、発光層を有し、前記電荷発生ユニットが、陽極側から順に、有機材料層と、金属層と、を有し、前記有機材料層が、配位結合可能な有機材料を含み、前記金属層が、金属元素を含むことを特徴とする。
本発明の有機EL素子は、基板上に陽極を配する順構造であっても、基板上に陰極を配する逆構造であってもよい。また、本発明の有機EL素子は、基板側から光を取り出すボトムエミッション型であっても、基板上部から光を取り出すトップエミッション型であってもよい。
【0028】
上述のように、詳細なメカニズムは必ずしも明らかではないが、本発明の有機EL素子においては、有機材料層の有機材料と金属層の金属元素とで配位結合を形成した際、有機材料層側から金属層側に電子が移動し、有機材料層側がプラス、金属層側がマイナスの内部電界が生じることにより、陽極側の発光ユニットへの電子注入と、陰極側の発光ユニットへの正孔注入が向上したものと推定される。
そして、本発明の有機EL素子は、優れた電子・正孔注入性を有する電荷発生ユニットを具えるため、駆動電圧が低く、駆動寿命に優れる。
【0029】
次に、本発明の有機EL素子について、例を挙げて詳細に説明する。
図1は、本発明のn個の発光ユニットを有するタンデム構造の有機EL素子を説明するための概略断面図である。
図1に示す本実施形態の有機EL素子は、陽極3と陰極6との間に複数(n個)の発光ユニット4-1,4-2,・・・,4-n、と電荷発生ユニット5-1,5-2,・・・,5-(n-1)を有する。
図1に示すように、基板2から順に、陽極3、発光ユニット4-1、電荷発生ユニット5-1、発光ユニット4-2、電荷発生ユニット5-2と積層していき、電荷発生ユニット5-(n-1)、発光ユニット4-n、陰極6と積層された構成である(ただし、nは2以上の整数を示す)。ユニットの数に限りはないが、駆動電圧が高くなり過ぎず且つ素子作製が複雑になり過ぎないよう、nの値が2又は3のタンデム構造の有機EL素子が好ましい。
図2は、本発明の有機EL素子の一例を説明するための概略断面図である。
図2に示す本実施形態の有機EL素子1は、基板2上に、陽極3と、正孔注入層7と、正孔輸送層8と、発光層9と、電子輸送層10と、有機材料層12と、金属層13と、正孔注入補助層14と、正孔輸送層8と、発光層9と、電子輸送層10と、電子注入層11と、陰極6とがこの順に形成された積層構造を有する。上述のように、本発明の構成要素である有機材料層12と金属層13との積層構造が、2つの発光層9の間に存在する。
【0030】
本実施形態においては、順構造の有機EL素子1を例に挙げて説明するが、本発明の有機EL素子は、基板と発光層との間に陰極が配置された逆構造のものであってもよい。本発明の有機EL素子が逆構造である場合も、順構造の場合と同様に、発光ユニットの間に上記有機材料層と金属層との積層構造(好ましくは、有機材料層と金属層を接した積層構造)として有する。以下に説明する有機EL素子1を構成する各層の材料や厚さ及び封止は、後述する陰極、陽極の材料を除き、逆構造の有機EL素子についても同様である。
【0031】
「基板」
基板2の材料としては、樹脂材料、ガラス材料等が挙げられる。
基板2に用いられる樹脂材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリアリレート等が挙げられる。基板2の材料として、樹脂材料を用いた場合、柔軟性に優れた有機EL素子1が得られるため好ましい。
基板2に用いられるガラス材料としては、石英ガラス、ソーダガラス等が挙げられる。
【0032】
有機EL素子1がボトムエミッション型のものである場合には、基板2の材料として、透明基板を用いる。
有機EL素子1がトップエミッション型のものである場合には、基板2の材料として、透明基板だけでなく、不透明基板を用いてもよい。不透明基板としては、例えば、アルミナのようなセラミックス材料からなる基板、ステンレス鋼のような金属板の表面に酸化膜(絶縁膜)を形成した基板、樹脂材料で構成された基板等が挙げられる。
【0033】
基板2の平均厚さは、基板2の材料等に応じて決定でき、0.1~30mmであることが好ましく、0.1~10mmであることがより好ましい。基板2の平均厚さは、デジタルマルチメーター、ノギスにより測定できる。
【0034】
「陽極」
陽極3は、基板2上に直接接触して形成されている。
陽極3の材料としては、ITO(インジウム酸化錫)、IZO(インジウム酸化亜鉛)、FTO(フッ素酸化錫)、In3O3、SnO2、Sb含有SnO2、Al含有ZnO等の酸化物や、Al、Au、Pt、Ag、Cu又はこれらを含む合金等の導電材料が挙げられる。この中でも、陽極3の材料として、ITO、IZO、FTOを用いることが好ましい。
陽極3の平均厚さは、特に制限されないが、10~500nmであることが好ましく、100~200nmであることがより好ましい。
陽極3の平均厚さは、触針式段差計、分光エリプソメトリー又は水晶振動子膜厚計により測定できる。
【0035】
「陰極」
陰極6に用いられる材料としては、ITO、IZO、Au、Pt、Ag、Cu、Alまたはこれらを含む合金等が挙げられる。この中でも、陰極6の材料として、ITO、IZO、Au、Ag、Alを用いることが好ましい。
陰極6の平均厚さは、特に限定されないが、10~1000nmであることが好ましく、30~150nmであることがより好ましい。また、陰極6の材料として不透過な材料を用いる場合でも、例えば、平均厚さを10~30nm程度にすることで、トップエミッション型の有機EL素子における透明な陰極として使用できる。
陰極6の平均厚さは、水晶振動子膜厚計により陰極6の成膜時に測定できる。
【0036】
(発光ユニット)
以下、発光ユニットを構成する層を説明する。
発光ユニットは、少なくとも発光層9を有し、更に、正孔注入層7、正孔輸送層8、電子輸送層10、電子注入層11等を有してもよい。なお、
図2においては、陽極側に位置する発光ユニット4-1は、陽極側から順に、正孔注入層7、正孔輸送層8、発光層9、電子輸送層10を有し、また、陰極側に位置する発光ユニット4-2は、陽極側から順に、正孔輸送層8、発光層9、電子輸送層10、電子注入層11を有している。
【0037】
「正孔注入層」
正孔注入層7は、無機材料からなるものであってもよいし、有機材料からなるものであってもよい。
無機材料としては、特に制限されないが、例えば、酸化バナジウム(V2O5)、酸化モリブテン(MoO3)、酸化ルテニウム(RuO2)等の金属酸化物を1種又は2種以上を用いることができる。
有機材料としては、ジピラジノ[2,3-f:2’,3’-h]キノキサリン-2,3,6,7,10,11-ヘキサカルボニトリル(HAT-CN)や2,3,5,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノ-キノジメタン(F4-TCNQ)等の低分子材料や、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホネート(PEDOT:PSS)等を用いることができる。
また、正孔注入層7として、陽極側から順に、配位結合可能な有機材料を含む有機材料層、金属元素を含む金属層の順に構成されている積層構造を用いても良い。
【0038】
正孔注入層7の平均厚さは、特に限定されないが、1~1000nmであることが好ましく、5~50nmであることがより好ましい。
正孔注入層7の平均厚さは、例えば、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定することができる。
【0039】
「正孔輸送層」
正孔輸送層8の材料としては、正孔輸送層8の材料として通常用いることができるいずれの材料も用いることができ、これらを混合して用いてもよい。
具体的には、正孔輸送層8の材料として、例えば、N4,N4’-ビス(ジベンゾ[b,d]チオフェン-4-イル)-N4,N4’-ジフェニルビフェニル-4,4’-ジアミン(DBTPB)、1,1-ビス(4-ジ-パラ-トリアミノフェニル)シクロへキサン、1,1'-ビス(4-ジ-パラ-トリルアミノフェニル)-4-フェニル-シクロヘキサンのようなアリールシクロアルカン系化合物、4,4',4''-トリメチルトリフェニルアミン、N,N,N',N'-テトラフェニル-1,1'-ビフェニル-4,4'-ジアミン、N,N'-ジフェニル-N,N'-ビス(3-メチルフェニル)-1,1'-ビフェニル-4,4'-ジアミン(TPD1)、N,N'-ジフェニル-N,N'-ビス(4-メトキシフェニル)-1,1'-ビフェニル-4,4'-ジアミン(TPD2)、N,N,N',N'-テトラキス(4-メトキシフェニル)-1,1'-ビフェニル-4,4'-ジアミン(TPD3)、N,N'-ジ(1-ナフチル)-N,N'-ジフェニル-1,1'-ビフェニル-4,4'-ジアミン(α-NPD)、TPTE、N3,N3'''-ビス(ジベンゾ[b,d]チオフェン-4-イル)-N3,N3'''-ジフェニル-[1,1':2',1'':2'',1'''-クアテルフェニル]-3,3'''-ジアミン(4DBTP3Q)、N-([1,1‘-ビフェニル]-4-イル)-9,9-ジメチル-N-[4-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)フェニル]-9H-フルオレン-2-アミン(HT-01)のようなアリールアミン系化合物、N,N,N’,N’-テトラ(メタ-トリル)-メタ-フェニレンジアミン(PDA)のようなフェニレンジアミン系化合物、カルバゾール、N-イソプロピルカルバゾール、N-フェニルカルバゾールのようなカルバゾール系化合物、スチルベン、4-ジ-パラ-トリルアミノスチルベンのようなスチルベン系化合物、OxZのようなオキサゾール系化合物、トリフェニルメタン、m-MTDATAのようなトリフェニルメタン系化合物、1-フェニル-3-(パラ-ジメチルアミノフェニル)ピラゾリンのようなピラゾリン系化合物、ベンジン(シクロヘキサジエン)系化合物、トリアゾールのようなトリアゾール系化合物、イミダゾールのようなイミダゾール系化合物、1,3,4-オキサジアゾール、2,5-ジ(4-ジメチルアミノフェニル)-1,3,4,-オキサジアゾールのようなオキサジアゾール系化合物、アントラセン、9-(4-ジエチルアミノスチリル)アントラセンのようなアントラセン系化合物、フルオレノン、2,4,7,-トリニトロ-9-フルオレノン、2,7-ビス(2-ヒドロキシ-3-(2-クロロフェニルカルバモイル)-1-ナフチルアゾ)フルオレノンのようなフルオレノン系化合物、ポリアニリンのようなアニリン系化合物、シラン系化合物、1,4-ジチオケト-3,6-ジフェニル-ピロロ-(3,4-c)ピロロピロールのようなピロール系化合物、フルオレンのようなフルオレン系化合物、ポルフィリン、金属テトラフェニルポルフィリンのようなポルフィリン系化合物、キナクリドンのようなキナクリドン系化合物、フタロシアニン、銅フタロシアニン、テトラ(t-ブチル)銅フタロシアニン、鉄フタロシアニンのような金属または無金属のフタロシアニン系化合物、銅ナフタロシアニン、バナジルナフタロシアニン、モノクロロガリウムナフタロシアニンのような金属または無金属のナフタロシアニン系化合物、N,N’-ジ(ナフタレン-1-イル)-N,N’-ジフェニル-ベンジジン、N,N,N’,N’-テトラフェニルベンジジンのようなベンジジン系化合物等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。これらの正孔輸送層8の材料は、他の化合物との混合物として用いることもできる。
【0040】
正孔輸送層8の平均厚さは、特に限定されないが、10~150nmであることが好ましく、20~100nmであることがより好ましい。
正孔輸送層8の平均厚さは、例えば、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定することができる。
【0041】
「発光層」
発光層9を形成する材料としては、発光層9の材料として通常用いることのできるいずれの材料を用いてもよく、これらを混合して用いてもよい。具体的には、例えば、発光層9として、ビス[2-(2-ベンゾチアゾリル)フェノラト]亜鉛(II)(Zn(BTZ)2)と、トリス[1-フェニルイソキノリン]イリジウム(III)(Ir(piq)3)とを含むものとすることができる。
また、発光層9を形成する材料は、低分子化合物であってもよいし、高分子化合物であってもよい。なお、本発明において低分子材料とは、高分子材料(重合体)ではない材料を意味し、分子量が低い有機化合物を必ずしも意味するものではない。
【0042】
発光層9を形成する高分子材料としては、例えば、トランス型ポリアセチレン、シス型ポリアセチレン、ポリ(ジ-フェニルアセチレン)(PDPA)、ポリ(アルキルフェニルアセチレン)(PAPA)のようなポリアセチレン系化合物;ポリ(パラ-フェニレンビニレン)(PPV)、ポリ(2,5-ジアルコキシ-パラ-フェニレンビニレン)(RO-PPV)、シアノ-置換-ポリ(パラ-フェニレンビニレン)(CN-PPV)、ポリ(2-ジメチルオクチルシリル-パラ-フェニレンビニレン)(DMOS-PPV)、ポリ(2-メトキシ,5-(2’-エチルヘキソキシ)-パラ-フェニレンビニレン)(MEH-PPV)のようなポリパラフェニレンビニレン系化合物;ポリ(3-アルキルチオフェン)(PAT)、ポリ(オキシプロピレン)トリオール(POPT)のようなポリチオフェン系化合物;ポリ(9,9-ジアルキルフルオレン)(PDAF)、ポリ(ジオクチルフルオレン-アルト-ベンゾチアジアゾール)(F8BT)、α,ω-ビス[N,N’-ジ(メチルフェニル)アミノフェニル]-ポリ[9,9-ビス(2-エチルヘキシル)フルオレン-2,7-ジイル](PF2/6am4)、ポリ(9,9-ジオクチル-2,7-ジビニレンフルオレニル-オルト-コ(アントラセン-9,10-ジイル))のようなポリフルオレン系化合物;ポリ(パラ-フェニレン)(PPP)、ポリ(1,5-ジアルコキシ-パラ-フェニレン)(RO-PPP)のようなポリパラフェニレン系化合物;ポリ(N-ビニルカルバゾール)(PVK)のようなポリカルバゾール系化合物;ポリ(メチルフェニルシラン)(PMPS)、ポリ(ナフチルフェニルシラン)(PNPS)、ポリ(ビフェニリルフェニルシラン)(PBPS)のようなポリシラン系化合物;更には特開2011-184430号公報、特開2012-151148号公報に記載のホウ素化合物系高分子材料等が挙げられる。
【0043】
発光層9を形成する低分子材料としては、例えば、配位子に2,2’-ビピリジン-4,4’-ジカルボン酸を持つ、3配位のイリジウム錯体、ファクトリス(2-フェニルピリジン)イリジウム(Ir(ppy)3)、fac-トリス(3-メチル-2-フェニルピリジナト-N,C2’-)イリジウム(III)(Ir(mppy)3)、8-ヒドロキシキノリンアルミニウム(Alq3)、トリス(4-メチル-8キノリノレート)アルミニウム(III)(Almq3)、8-ヒドロキシキノリン亜鉛(Znq2)、(1,10-フェナントロリン)-トリス-(4,4,4-トリフルオロ-1-(2-チエニル)-ブタン-1,3-ジオネート)ユーロピウム(III)(Eu(TTA)3(phen))、2,3,7,8,12,13,17,18-オクタエチル-21H,23H-ポルフィンプラチナム(II)のような各種金属錯体;ジスチリルベンゼン(DSB)、ジアミノジスチリルベンゼン(DADSB)のようなベンゼン系化合物;ナフタレン、ナイルレッドのようなナフタレン系化合物;フェナントレンのようなフェナントレン系化合物;クリセン、6-ニトロクリセンのようなクリセン系化合物;ペリレン、N,N’-ビス(2,5-ジ-t-ブチルフェニル)-3,4,9,10-ペリレン-ジ-カルボキシイミド(BPPC)のようなペリレン系化合物;コロネンのようなコロネン系化合物;アントラセン、ビススチリルアントラセン、(9,10-ビス(4-(9Hカルバゾール-9-イル)-2,6-ジメチルフェニル)-9,10-ジボラアントラセン(CzDBA)のようなアントラセン系化合物;ピレンのようなピレン系化合物;4-(ジ-シアノメチレン)-2-メチル-6-(パラ-ジメチルアミノスチリル)-4H-ピラン(DCM)のようなピラン系化合物;アクリジンのようなアクリジン系化合物;スチルベンのようなスチルベン系化合物;2,5-ジベンゾオキサゾールチオフェンのようなチオフェン系化合物;ベンゾオキサゾールのようなベンゾオキサゾール系化合物;ベンゾイミダゾールのようなベンゾイミダゾール系化合物;2,2’-(パラ-フェニレンジビニレン)-ビスベンゾチアゾールのようなベンゾチアゾール系化合物;ビスチリル(1,4-ジフェニル-1,3-ブタジエン)、テトラフェニルブタジエンのようなブタジエン系化合物;ナフタルイミドのようなナフタルイミド系化合物;クマリンのようなクマリン系化合物;ペリノンのようなペリノン系化合物;オキサジアゾールのようなオキサジアゾール系化合物;アルダジン系化合物;1,2,3,4,5-ペンタフェニル-1,3-シクロペンタジエン(PPCP)のようなシクロペンタジエン系化合物;キナクリドン、キナクリドンレッドのようなキナクリドン系化合物;ピロロピリジン、チアジアゾロピリジンのようなピリジン系化合物;2,4-ジフェニル-6-ビス(12-フェニルインドロ)[2,3-a]カルバゾール-11-イル)-1,3,5-トリアジン(DIC-TRZ)のようなトリアジン系化合物;2,2’,7,7’-テトラフェニル-9,9’-スピロビフルオレンのようなスピロ化合物;フタロシアニン(H2Pc)、銅フタロシアニンのような金属または無金属のフタロシアニン系化合物;更には特開2009-155325号公報、特開2011-184430号公報及び特開2012-151149号公報に記載のホウ素化合物材料等が挙げられる。
また、発光層のホスト材料として4,4’-ビス(9H-カルバゾール-9-イル)ビフェニル(CPB)のようなカルバゾール化合物;ケイ素化合物;フェナントロリン化合物;トリフェニレン化合物等が挙げられる。
【0044】
発光層9の平均厚さは、特に限定されないが、10~150nmであることが好ましく、20~100nmであることがより好ましい。
発光層9の平均厚さは、触針式段差計により測定してもよいし、水晶振動子膜厚計により発光層9の成膜時に測定してもよい。
【0045】
「電子輸送層」
電子輸送層10としては、電子輸送層の材料として通常用いることができるいずれの材料を用いてもよい。
具体的には、電子輸送層10の材料として、フェニル-ジピレニルホスフィンオキサイド(POPy2)のようなホスフィンオキサイド誘導体、トリス-1,3,5-(3’-(ピリジン-3’’-イル)フェニル)ベンゼン(TmPhPyB)のようなピリジン誘導体、2-(3-(9-カルバゾリル)フェニル)キノリン(mCQ)のようなキノリン誘導体、2-フェニル-4,6-ビス(3,5-ジピリジルフェニル)ピリミジン(BPyPPM)のようなピリミジン誘導体、ピラジン誘導体、バソフェナントロリン(BPhen)のようなフェナントロリン誘導体、2,4-ビス(4-ビフェニル)-6-(4’-(2-ピリジニル)-4-ビフェニル)-[1,3,5]トリアジン(MPT)のようなトリアジン誘導体、3-フェニル-4-(1’-ナフチル)-5-フェニル-1,2,4-トリアゾール(TAZ)のようなトリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、2-(4-ビフェニリル)-5-(4-tert-ブチルフェニル-1,3,4-オキサジアゾール)(PBD)のようなオキサジアゾール誘導体、2,2’,2’’-(1,3,5-ベントリイル)-トリス(1-フェニル-1-H-ベンズイミダゾール)(TPBI)のようなイミダゾール誘導体、ナフタレン、ペリレン等の芳香環テトラカルボン酸無水物、ビス[2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾラト]亜鉛(Zn(BTZ)2)、トリス(8-ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq3)等に代表される各種金属錯体、2,5-ビス(6’-(2’,2’’-ビピリジル))-1,1-ジメチル-3,4-ジフェニルシロール(PyPySPyPy)等のシロール誘導体に代表される有機シラン誘導体、特開2013-239691号公報、国際公開第2014/133141号、特開2016-172728号公報、特開2016-199507号公報及び特開2016-199508号公報に記載のホウ素含有化合物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
これらの電子輸送層10の材料の中でも、特に、POPy2のようなホスフィンオキサイド誘導体、Alq3のような金属錯体、TmPhPyBのようなピリジン誘導体を用いることが好ましい。
上記の材料に加えて、芳香環を有する種々の炭化水素化合物である芳香族炭化水素化合物、窒素-ホウ素結合を有する化合物、ピロール環、フラン環、チオフェン環等の芳香環を含むπ電子過剰系複素芳香族化合物、シロール環を含む化合物についても用いることができる。
【0046】
電子輸送層10の平均厚さは、特に限定されないが、10~150nmであることが好ましく、20~100nmであることが、より好ましい。
電子輸送層10の平均厚さは、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定できる。
【0047】
「電子注入層」
電子注入層11に用いられる材料は、有機化合物でも無機化合物でもよい。電子注入層11が、無機化合物からなるものである場合には、例えば、アルカリ金属や、アルカリ土類金属の他、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウム、炭酸セシウム等を用いることができる。また、電子注入層11が、有機化合物からなるものである場合には、例えば、8-キノリノラトリチウム(Liq)等を用いることができる。
電子注入層11には、上記一般式(1)で表される構造を有する化合物や上記一般式(2)で表される構造を有する化合物を用いることができ、上記一般式(1)で表される構造を有する化合物や上記一般式(2)で表される構造を有する化合物は、電子注入層11として好適な材料である。
【0048】
電子注入層11は、これらの材料1種を用いた単膜でも良く、電子輸送層10に用いられる材料等との混合膜でも良い。混合膜を電子輸送層10として用いた場合、電子注入層の役割を兼ねており、電子注入層11を形成する必要はない。
【0049】
電子注入層11の平均厚さは、0.5nmから数μm程度まで許容できるが、低電圧で駆動できる有機EL素子とする点から、0.5~10nmであることが好ましく、1~5nmであることが更に好ましい。電子注入層11の平均厚さは、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定することができる。
【0050】
(電荷発生ユニット)
以下に、電荷発生ユニットを構成する層を説明する。
電荷発生ユニットは、有機材料層と、金属層と、を有し、更に他の層を有してもよい。
図2においては、電荷発生ユニット5-1は、陽極側から順に、有機材料層12と、金属層13と、正孔注入補助層14と、を有している。
【0051】
「有機材料層」
有機材料層12は、金属層13と錯体形成を起こすことで正孔注入を改善するものである。有機材料層12は、配位結合可能な有機材料を含む。配位結合可能な有機材料の中でも、窒素原子を有する置換基を有する有機材料が好適であり、窒素原子を有する複素環の縮環構造を有する有機材料が更に好適である。
【0052】
例えば、有機材料層12は、配位結合可能な有機材料として、下記一般式(1)で表される構造を有するヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物を含むことが好ましい。
【0053】
【化3】
(一般式(1)中、R
1は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、アリールアルキレン基、2~4価の鎖状または環状炭化水素基、又は、これらの基を2つ以上組み合わせてできる基、これらの基の1つ若しくは2つ以上と窒素原子とを組み合わせてできる基を表す。n
1は、1~4の整数である。)
【0054】
上記一般式(1)におけるR1は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、アリールアルキレン基、2~4価の鎖状または環状炭化水素基、又は、これらの基を2つ以上組み合わせてできる基、これらの基の1つ若しくは2つ以上と窒素原子とを組み合わせてできる基を表す。
芳香族炭化水素基、芳香族複素環基としては、炭素数3~30のものが好ましく、炭素数4~24のものがより好ましく、炭素数5~20のものがさらに好ましい。
芳香族炭化水素基としては、ベンゼン等の1つの芳香環のみからなる化合物;ビフェニル、ジフェニルベンゼン等の複数の芳香環が1つの炭素原子同士で直接結合した化合物;ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン等の縮合環式芳香族炭化水素化合物のいずれかの芳香環から水素原子を1~4個除いてできる基が挙げられる。
芳香族複素環基としては、チオフェン、フラン、ピロール、オキサゾール、オキサジアゾール、チアゾール、チアジアゾール、イミダゾール、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン等の1つの芳香族複素環のみからなる化合物;これらの1つの芳香族複素環のみからなる化合物が1つの炭素原子同士で複数直接結合した化合物(ビピリジン等);キノリン、キノキサリン、ベンゾチオフェン、ベンゾチアゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾオキサゾール、インドール、カルバゾール、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、アクリジン、フェナントロリン等の縮合環式複素芳香族炭化水素化合物のいずれかの芳香族複素環から水素原子を1~4個除いてできる基が挙げられる。
アリールアルキレン基としては、上記芳香族炭化水素基と炭素数1~3のアルキレン基とを組み合わせた基が挙げられる。
2~4価の鎖状または環状炭化水素基としては、炭素数1~12のものが好ましく、炭素数1~6のものがより好ましく、炭素数1~4のものがさらに好ましい。鎖状炭化水素基は直鎖状のものであってもよく、分岐鎖状のものであってもよい。
また、R1は上記芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、アリールアルキレン基、2~4価の鎖状炭化水素基を2つ以上組み合わせてできる基でもよい。
更に、R1は上記芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、アリールアルキレン基、2~4価の鎖状炭化水素基の1つ若しくは2つ以上と窒素原子とを組み合わせてできる基であってもよい。そのような基としては、例えば、トリメチルアミン等のトリアルキルアミンやトリフェニルアミンから水素原子を1~4個除いてできる基等が挙げられる。
【0055】
上記芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、又は、アリールアルキレン基は1価の置換基を1つ又は2つ以上有していてもよい。
1価の置換基としては、フッ素原子;フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基等のハロアルキル基;メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等の炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の炭素数5~7の環状アルキル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基等の炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状アルコキシ基;ニトロ基;シアノ基;メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の炭素数1~10のアルキル基を有するアルキルアミノ基;ピロリジノ基、ピペリジノ基、モルホリノ基等の環状アミノ基;ジフェニルアミノ基、カルバゾリル基等のジアリールアミノ基;アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基等のアシル基;スチリル基等の炭素数2~30のアルケニル基;フッ素原子等のハロゲン原子や炭素数1~20のアルキル基、アルコキシ基、アミノ基等で置換されていてもよい炭素数5~20のアリール基(アリール基の具体例は、上記芳香族炭化水素基と同様);フッ素原子等のハロゲン原子や炭素数1~20のアルキル基、アルコキシ基、アミノ基等で置換されていてもよい炭素数4~40の窒素原子、硫黄原子、酸素原子のいずれか1つ以上を含む複素環基(複素環基は、1つの環のみからなるものであってもよく、1つの芳香族複素環のみからなる化合物が1つの炭素原子同士で複数直接結合した化合物であってもよく、縮合複素環基であってもよい。複素環基の具体例には、チオフェン環、フラン環、ピロール環、ベンゾチオフェン環、ベンゾフラン環、インドール環、ジベンゾチオフェン環、ジベンゾフラン環、カルバゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、オキサゾール環、ベンゾオキサゾール環、イミダゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピリダジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、ベンゾチアジアゾール環、フェナントリジン環等の芳香族複素環基の具体例が含まれる。);エステル基、チオエーテル基等が挙げられる。なお、これらの基は、ハロゲン原子やヘテロ元素、アルキル基、芳香環等で置換されていてもよい。
【0056】
上記一般式(1)におけるn1は、1~4の整数であるが、2又は3であることが好ましい。
【0057】
上記一般式(1)で表される構造を有するヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物の具体例としては、例えば、下記構造式(3-1)~(3-34)で表される化合物が挙げられる。
【化4-1】
【化4-2】
【化4-3】
【化4-4】
【化4-5】
【0058】
上記一般式(1)で表される化合物は、下記反応式(4)に示すように、ヨウ素、臭素、塩素、フッ素を有するハロゲン化合物と、ヘキサヒドロピリミドピリミジンとを原料とし、Ullmannカップリング反応、Buchwald-Hartwigアミノ化反応又は求核置換反応等により合成することができる。
【化5】
【0059】
また、前記有機材料層12は、配位結合可能な有機材料として、下記一般式(2)で表される構造を有する化合物を含むことも好ましい。
【0060】
【化6】
(一般式(2)中、X
1、X
2は、同一又は異なって、置換基を有していてもよい窒素原子、酸素原子、硫黄原子又は2価の連結基を表す。Lは直接結合またはp価の連結基を表す。n
2は、0又は1の数を表し、pは、1~4の数を表す。qは、0又は1の数を表し、pが1のとき、qは0である。R
2~R
4は、同一又は異なって、1価の置換基を表す。m
1~m
3は、同一又は異なって、0~3の数を表す。R
2~R
4は、X
1、X
2と結合して環構造を形成してもよい、R
2が複数ある場合、複数のR
2が結合して環構造を形成していてもよい。また、R
3が複数ある場合、複数のR
3が結合して環構造を形成していてもよい。また、R
4が複数ある場合、複数のR
4が結合して環構造を形成していてもよい。)
【0061】
上記一般式(2)におけるX1、X2は、同一又は異なって、置換基を有していてもよい窒素原子、酸素原子、硫黄原子又は2価の連結基を表す。
2価の連結基としては、2価の炭化水素基及び炭化水素基の炭素原子の一部が窒素原子、酸素原子、硫黄原子のいずれかのヘテロ原子で置換された基が挙げられる。
炭化水素基としては、炭素数1~6のものが好ましく、炭素数1、2、又は6のものがより好ましい。
炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状、環状及びこれらを組み合わせたもののいずれのものであってもよい。
2価の炭化水素基は、飽和炭化水素基であるアルキレン基でもよく、アルケニレン基、アルキニレン基等の不飽和炭化水素基でもよい。
2価の炭化水素基として、具体的には下記式(5-1)~(5-4)で表されるものが好ましい。下記式(5-1)~(5-4)におけるRは置換基を表す。下記式(5-1)~(5-4)におけるRも含め、X1、X2における置換基の具体例としては、後述するR2~R4の1価の置換基と同様の基が挙げられる。
【0062】
【0063】
上記一般式(2)におけるLは、直接結合またはp価の連結基を表す。なお、Lが直接結合となるのは、pが2の場合のみである。
p価の連結基としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、炭素原子の他、炭化水素基や炭化水素基の炭素原子の一部が窒素原子、酸素原子、硫黄原子のいずれかのヘテロ原子で置換された基から水素原子をp個除いてできる基が挙げられる。
p価の連結基が炭素原子を有するものである場合、炭素数1~30のものが好ましい。より好ましくは、炭素数1~20のものである。
炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状、環状及びこれらを組み合わせたもののいずれのものであってもよい。
炭化水素基としては、飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基のいずれのものであってもよい。
芳香族炭化水素基としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、テトラセン環、ペンタセン環、トリフェニレン環、ピレン環、フルオレン環、インデン環等の芳香族化合物から水素原子を除いてできる基が挙げられる。
【0064】
上記一般式(2)におけるR2~R4は、同一又は異なって、1価の置換基を表す。また、m1~m3は、同一又は異なって、0~3の数を表す。
1価の置換基としては、フッ素原子;フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基等のハロアルキル基;メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等の炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の炭素数5~7の環状アルキル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基等の炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状アルコキシ基;ニトロ基;シアノ基;メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の炭素数1~10のアルキル基を有するアルキルアミノ基;ピロリジノ基、ピペリジノ基、モルホリノ基等の環状アミノ基;ジフェニルアミノ基、カルバゾリル基等のジアリールアミノ基;アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基等のアシル基;スチリル基等の炭素数2~30のアルケニル基;フッ素原子等のハロゲン原子や炭素数1~20のアルキル基、アルコキシ基、アミノ基等で置換されていてもよい炭素数5~20のアリール基(アリール基の具体例は、上記芳香族炭化水素基と同様);フッ素原子等のハロゲン原子や炭素数1~20のアルキル基、アルコキシ基、アミノ基等で置換されていてもよい炭素数4~40の窒素原子、硫黄原子、酸素原子のいずれか1つ以上を含む複素環基(複素環基は、1つの環のみからなるものであってもよく、1つの芳香族複素環のみからなる化合物が1つの炭素原子同士で複数直接結合した化合物であってもよく、縮合複素環基であってもよい。複素環基の具体例には、チオフェン環、フラン環、ピロール環、ベンゾチオフェン環、ベンゾフラン環、インドール環、ジベンゾチオフェン環、ジベンゾフラン環、カルバゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、オキサゾール環、ベンゾオキサゾール環、イミダゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピリダジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、ベンゾチアジアゾール環、フェナントリジン環等の芳香族複素環基の具体例が含まれる。);エステル基、チオエーテル基等が挙げられる。なお、これらの基は、ハロゲン原子やヘテロ元素、アルキル基、芳香環等で置換されていてもよい。
【0065】
また、上記一般式(2)におけるpは、1~4の数を表すが、1~3の数であることが好ましい。一般式(2)のpが1である化合物の具体例としては、例えば、下記構造式(6-1)~(6-9)で表される化合物が挙げられる。
【化8】
【0066】
上記一般式(2)におけるn2は、0又は1の数を表すが、上記一般式(2)で表される化合物が、n2が0の化合物であることは本発明の好適な実施形態の1つである。一般式(2)のn2が0の化合物の具体例としては、例えば、上記構造式(6-1)~(6-6)で表される化合物が挙げられる。
【0067】
上記一般式(2)で表される化合物には、フェナントロリン骨格を一つだけ有する下記一般式(7)で表される構造を有する化合物が含まれ、この化合物も前記有機材料層12の材料として好適である。
【0068】
【0069】
(一般式(7)中、R5、R6は同一又は異なって、ジアルキルアミノ基又はアルコキシ基を表す。m4、m5は、同一又は異なって、1又は2の数を表す。R5が複数ある場合、複数のR5が結合して環構造を形成してもよい。また、R6が複数ある場合、複数のR6が結合して環構造を形成してもよい。)
【0070】
上記一般(7)におけるR5、R6は、同一又は異なって、ジアルキルアミノ基又はアルコキシ基を表す。
ジアルキルアミノ基としては、メチル基、エチル基等の炭素数1~20のアルキル基を有するものが好ましい。より好ましくは、炭素数1~10のアルキル基を有するものである。また、ジアルキルアミノ基が有する2つのアルキル基は、炭素数が同じであってもよく、異なっていてもよい。また、2つのアルキル基が連結したアミノ基、例えばピペリジノ基やピロリジノ基、モルホリノ基のような環状アミノ基も好ましい。
アルコキシ基としては、上記一般式(2)におけるR2~R4がアルコキシ基である場合と同様のものが挙げられる。
【0071】
フェナントロリン骨格を一つだけ有する化合物に加え、下記構造式(8-1)~(8-4)に示すようなフェナントロリン骨格を複数個有する化合物も好適であると考えられる。
【化10】
【0072】
また、上記一般式(2)に含まれ、上記に類似した構造の化合物である下記構造式(9-1)~(9-56)で表される化合物も好適である。
【化11-1】
【化11-2】
【化11-3】
【化11-4】
【化11-5】
【0073】
更に有機材料層12の材料としては配位結合可能な窒素原子を有する有機材料が好ましく、下記式(9-57)~(9-59)で表される構造を骨格構造として有する各種化合物も用いることができる。それらの化合物には、下記式(9-57)~(9-59)で表される構造の化合物の他、下記式(9-57)~(9-59)で表される構造に置換基を有する化合物が含まれる。置換基としては、上述した一般式(2)におけるR
2~R
4と同様のものが挙げられ、置換基の数は1つであってもよく、複数であってもよい。複数の場合、置換基同士が結合して環構造を形成していてもよい。
【化12】
【0074】
この他にも、有機材料層12に用いる有機材料は、配位子として用いることができれば良い(配位結合可能であればよい)ので、有機材料層12に用いる有機材料としては、窒素原子だけではなく、酸素原子が配位元素となるアセチルアセトナト誘導体等も挙げられる。
【0075】
有機材料層12には、配位能を有する有機材料が1種含まれていれば良く、2種以上の混合膜もしくは配位能を有しない有機材料との混合膜でも良い。
【0076】
有機材料層12の平均厚さは、0.5~10nmであることが好ましく、1~5nmであることがより好ましく、1~5nmであることがより好ましい。
有機材料層12の平均厚さは、例えば、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定できる。
【0077】
「金属層」
金属層13は、金属元素を含む。金属層13は、有機材料層12の材料を配位子とした場合、金属錯体の中心金属の位置づけになる金属元素から構成される層であるため、機能としては薄膜でもよく、ボトムエミッション型であれば、透明性が必要なため、0.1~5nmであることが好ましく、0.5~2nmであることがより好ましい。トップエミッション型であれば、透明性は必要なく、厚さに制限はない。金属層13の平均厚さは、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定できる。
【0078】
金属層13は、配位能がある金属であればよく、単体の金属層、二種類以上の金属を混合した層と単体の金属からなる層のいずれか一方または両方を積層した層、二種類以上の金属を混合した層のいずれであってもよい。
金属層13を形成する金属元素としては、特に限定はされないが、銅、ニッケル、パラジウム、白金、金、コバルト、亜鉛、アルミニウム、銀、クロム、マンガン、鉄、錫、インジウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、インジウム、ガリウム、カドミウム、リチウム、セシウム、イッテルビウム等が挙げられる。
金属フタロシアニン等の有機金属錯体として報告されているものの金属元素は、本発明の配位反応を引き起こすと考えられ、金属層13を形成する金属元素として好適である。
【0079】
金属層13が、二種類以上の金属元素を混合した層を含む場合、金属を構成する金属元素の少なくとも一つが、アルミニウム、銀、亜鉛、金からなる層であることが好ましい。
金属層13が、単体の金属からなる層である場合、アルミニウム、銀、亜鉛、金からなる群から選ばれる金属からなる層であることが好ましい。
【0080】
「正孔注入補助層」
正孔注入補助層14は、必要に応じて形成すれば良く、必ずしも必要とはしない。第2の正孔注入補助層14は、以下に記すような従来の正孔注入材料を用いることができ、上述の有機材料層12と金属層13の積層と併用することで、良好な正孔注入性が得られる。
正孔注入補助層14は、無機材料からなるものであってもよいし、有機材料からなるものであってもよい。無機材料は、有機材料と比較して安定であるため、有機材料を用いた場合と比較して、酸素や水に対する高い耐性が得られ易い。
無機材料としては、特に制限されないが、例えば、酸化バナジウム(V2O5)、酸化モリブテン(MoO3)、酸化ルテニウム(RuO2)等の金属酸化物を1種又は2種以上を用いることができる。
有機材料としては、ジピラジノ[2,3-f:2’,3’-h]キノキサリン-2,3,6,7,10,11-ヘキサカルボニトリル(HAT-CN)や2,3,5,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノ-キノジメタン(F4-TCNQ)、フラーレン等を用いることができる。
【0081】
正孔注入補助層14の平均厚さは、特に限定されないが、1~1000nmであることが好ましく、1~50nmであることがより好ましい。
正孔注入補助層14の平均厚さは、水晶振動子膜厚計又は触針式段差計により成膜時に測定することができる。
【0082】
「封止」
図1、
図2に示す有機EL素子1は、必要に応じて、封止されていてもよい。
例えば、
図1、
図2に示す有機EL素子1は、有機EL素子1を収容する凹状の空間を有する封止容器(不図示)と、封止容器の縁部と基板2とを接着する接着剤とによって封止されていてもよい。また、封止容器に有機EL素子1を収容し、紫外線(UV)硬化樹脂等からなるシール材を充填することにより封止してもよい。
また、例えば、
図1、
図2に示す有機EL素子1は、陰極6上に配置された板部材(不図示)と、板部材の陰極6と対向する側の縁部に沿って配置された枠部材(不図示)とからなる封止部材と、板部材と枠部材との間及び枠部材と基板2との間とを接着する接着剤とを用いて封止されていてもよい。
【0083】
封止容器又は封止部材を用いて有機EL素子1を封止する場合、封止容器内又は封止部材の内側に、水分を吸収する乾燥材を配置してもよい。また、封止容器又は封止部材として、水分を吸収する材料を用いてもよい。また、封止された封止容器内又は封止部材の内側には、空間が形成されていてもよい。
【0084】
図1、
図2に示す有機EL素子1を封止する場合に用いる封止容器又は封止部材の材料としては、樹脂材料、ガラス材料等を用いることができる。封止容器又は封止部材に用いられる樹脂材料及びガラス材料としては、基板2に用いる材料と同様のものが挙げられる。
【0085】
「有機EL素子の製造方法」
次に、本発明の有機EL素子の製造方法の一例として、
図2に示す順構造の有機EL素子1の製造方法を説明するが、逆構造でも良い。その場合、例えば、陰極、電子注入層と構成が逆転するように積層するだけでよく、特に製膜方法に制限されることはない。
【0086】
図2に示す有機EL素子1を製造するには、まず、基板2上に陽極3を形成する。
陽極3は、スパッタ法、真空蒸着法、ゾル・ゲル法、スプレー熱分解(SPD)法、原子層堆積(ALD)法、気相成膜法、液相成膜法等により形成することができる。陽極3の形成には、金属箔を接合する方法を用いてもよい。
【0087】
次に、陽極3上に、正孔注入層7と、正孔輸送層8と、発光層9と、電子輸送層10と、有機材料層12と、金属層13と、正孔注入補助層14と、正孔輸送層8と、発光層9と、電子輸送層10と、電子注入層11と、陰極6とをこの順で形成する。ここで、有機材料層12の形成には、上述した配位結合可能な有機材料を用いる。また、金属層13の形成には、上述した金属元素を用いる。
【0088】
正孔注入層7と、正孔輸送層8と、発光層9と、電子輸送層10と、有機材料層12と、金属層13と、正孔注入補助層14と、正孔輸送層8と、発光層9と、電子輸送層10と、電子注入層11と、陰極6の形成方法は、特に限定されず、各層に用いられる材料の特性に合わせて、従来公知の種々の形成方法を適宜用いて形成できる。各層を形成する方法としては、気相成膜法であるプラズマCVD、熱CVD、レーザーCVD等の化学蒸着法(CVD)、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の乾式メッキ法、溶射法、そして液相成膜法である電解メッキ、浸漬メッキ、無電解メッキ等の湿式メッキ法、ゾル・ゲル法、MOD法、スプレー熱分解法、微粒子分散液を用いたドクターブレード法、スピンコート法、インクジェット法、スクリーンプリンティング法等の印刷技術等を用いることができる。これらの方法は、各層の材料の特性に応じて選択するのが好ましく、層ごとに作製方法が異なっていてもよい。
以上の工程により、
図2に示す有機EL素子1が得られる。
【0089】
「封止方法」
図1、
図2に示す有機EL素子1を封止する場合には、有機EL素子の封止に用いられる通常の方法を使用して封止できる。
【0090】
<表示装置、照明装置>
本発明の有機EL素子は、発光層等の材料を適宜選択することによって発光色を変化させることができるし、カラーフィルター等を併用して所望の発光色を得ることもできる。そのため、本発明の有機EL素子は、表示装置の発光部位や照明装置として好適に用いることができる。
【0091】
本発明の表示装置は、各発光ユニット(発光層を含む)の間に有機材料層及び金属層を含む電荷発生ユニットを有し、生産性に優れ、駆動電圧が低い本発明の有機EL素子を具える。このため、表示装置として好ましいものである。
【0092】
また、本発明の照明装置は、生産性に優れ、駆動電圧が低い本発明の有機EL素子を具える。このため、照明装置として好ましいものである。
【実施例0093】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「モル%」を意味するものとする。
【0094】
(合成例1)
下記構造式(3-2)で表される化合物を、以下に示す方法により合成した。
【化13】
【0095】
200mLの三口フラスコに、rac-BINAP(747mg)、トルエン(67mL)を入れ、窒素雰囲気下90℃に加熱し溶解させた。室温まで放冷後、酢酸パラジウム(180mg)を入れ、室温で1時間撹拌した。これに2,6-ジブロモピリジン(4.74g)、1,3,4,6,7,8-ヘキサヒドロ-2H-ピリミド[1,2-a]ピリミジン(6.13g)、KOtBu(6.28g)を加え、90℃で終夜加熱撹拌した。室温まで放冷後、ジエチルエーテルを加え、析出する固体をろ別し、ろ液を濃縮した。得られた残渣にアセトンを加え、析出した固体をろ取し、構造式(3-2)で表される化合物(3.7g,52.5%)を得た。
【0096】
(合成例2)
下記構造式(9-5)で表される化合物を、以下に示す方法により合成した。
【化14】
【0097】
100mLなすフラスコ中、4,7-ジクロロ-1,10-フェナントロリン(3.00g)とピロリジン(19.5mL)の混合物をオイルバス100℃にて1時間加熱還流した。室温に戻した混合物を減圧濃縮し、水を加えてから超音波処理することで析出した固体を濾取した。得られた固体を減圧乾燥後、メタノール(100mL)に溶解させた。混合物に活性炭を加えて室温にて1時間撹拌後、不溶物を濾別した。濾液を減圧濃縮し、得られた固体をメタノール(9mL)にて再結晶した。得られた固体を少量のメタノールにて洗浄後、減圧乾燥することで、構造式(9-5)で表される化合物(1.69g,44%)を白色固体として得た。
【0098】
(実施例1)
以下に示す方法により、
図2に示す有機EL素子1を製造し、評価した。
【0099】
[工程1]
基板2として、厚さ100nmのITOからなる幅3mmにパターニングされた電極(陽極3)を有する平均厚さ0.7mmの市販の透明ガラス基板を用意した。
そして、陽極3を有する基板2を、アセトン中、イソプロパノール中でそれぞれ10分間ずつ超音波洗浄し、イソプロパノール中で5分間煮沸した。その後、陽極3を有する基板2を、イソプロパノール中から取り出し、窒素ブローにより乾燥させ、UVオゾン洗浄を20分間行った。
【0100】
[工程2]
[工程1]において洗浄した陽極3の形成されている基板2を真空装置に導入し、真空蒸着装置のチャンバー内を1×10-5Paの圧力となるまで減圧して、抵抗加熱による真空蒸着法により、上記構造式(3-2)の化合物を1nm形成した後、アルミニウムを2nm形成し、正孔注入層7を形成した。
【0101】
[工程3]
次に、正孔輸送層8として下記構造式(10)で示されるN-([1,1’-ビフェニル]-4-イル)-9,9-ジメチル-N-[4-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)フェニル]-9H-フルオレン-2-アミン(HT-01)を60nm、続いて、HT-01と下記構造式(11)で示される2,4-ジフェニル-6-ビス(12-フェニルインドロ)[2,3-a]カルバゾール-11-イル)-1,3,5-トリアジン(DIC-TRZ)の2種をホストとして、下記構造式(12)で示されるfac-トリス(3-メチル-2-フェニルピリジナト-N,C2’-)イリジウム(III)(Ir(mppy)3)をドーパントとして30nm共蒸着し、発光層9を形成した。この時、HT-01とDIC-TRZは3:7の質量比とし、ドーパントであるIr(mppy)3のドープ濃度が、発光層9全体に対して5質量%となるようにした。
その後、電子輸送層10としてDIC-TRZを40nm成膜した。
【0102】
[工程4]
電子輸送層10を形成後、真空蒸着法により有機材料層12として、上記構造式(3-2)で表される化合物を1nm形成した。
【0103】
[工程5]
次に、真空蒸着法により金属層13としてアルミニウムを2nm形成した。
【0104】
[工程6]
次に、正孔注入補助層14として下記構造式(13)で示されるジピラジノ[2,3-f:2’,3’-h]キノキサリン-2,3,6,7,10,11-ヘキサカルボニトリル(HAT-CN)を5nm真空蒸着法により形成した。
【0105】
[工程7]
次に、正孔輸送層8として下記構造式(10)で示されるN-([1,1’-ビフェニル]-4-イル)-9,9-ジメチル-N-[4-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)フェニル]-9H-フルオレン-2-アミン(HT-01)を60nm、続いて、HT-01と下記構造式(11)で示される2,4-ジフェニル-6-ビス(12-フェニルインドロ)[2,3-a]カルバゾール-11-イル)-1,3,5-トリアジン(DIC-TRZ)の2種をホストとして、下記構造式(12)で示されるfac-トリス(3-メチル-2-フェニルピリジナト-N,C2’-)イリジウム(III)(Ir(mppy)3)をドーパントとして30nm共蒸着し、発光層9を形成した。この時、HT-01とDIC-TRZは3:7の質量比とし、ドーパントであるIr(mppy)3のドープ濃度が、発光層9全体に対して5質量%となるようにした。
その後、電子輸送層10としてDIC-TRZを40nm成膜した。
【0106】
[工程8]
上記構造式(3-2)で表される化合物と下記構造式(14)で表される化合物の混合膜を質量比4:6で共蒸着により5nm成膜し、電子注入層11を形成した。
【0107】
[工程9]
次に、電子注入層11まで形成した基板2上に、真空蒸着法によりアルミニウムからなる膜厚100nmの陰極6を成膜した。
なお、陰極6は、ステンレス製の蒸着マスクを用いて蒸着面が幅3mmの帯状になるように形成し、作製した有機EL素子の発光面積を9mm2とした。
【0108】
[工程10]
次に、陰極6までの各層を形成した基板2を、凹状の空間を有するガラスキャップ(封止容器)に収容し、紫外線(UV)硬化樹脂からなるシール材を充填することにより封止し、実施例1の有機EL素子を得た。
【0109】
(実施例2)
実施例1の[工程4]を以下の[工程4-1]に置き換えること以外は実施例1と同様にして、実施例2の有機EL素子を得た。
【0110】
[工程4-1]
電子輸送層10を形成後、真空蒸着法により上記構造式(3-2)で表される化合物と下記構造式(14)で表される化合物の混合膜を質量比4:6で共蒸着により5nm成膜し、有機材料層12を形成した。
【0111】
(実施例3)
実施例1の[工程4]において、有機材料層12として、上記構造式(3-2)の化合物の代わりに、上記構造式(9-5)の化合物を使用したこと以外は実施例1と同様にして、実施例3の有機EL素子を得た。
【0112】
(比較例1)
実施例1の[工程4]において、有機材料層12として、上記構造式(3-2)の化合物の代わりに、下記構造式(15)で示される8-キノリノラトリチウム(Liq)を使用したこと以外は実施例1と同様にして、比較例1の有機EL素子を得た。
【0113】
【0114】
(有機EL素子の輝度電圧特性測定)
実施例1~3及び比較例1で作製した有機EL素子に対して、ケースレー社製の「2400型ソースメーター」を用いて電圧を印加し、コニカミノルタ社製の「LS-100」を用いて輝度を測定し、印加電圧と輝度の関係を調べた。結果を
図3に示す。
【0115】
図3に示されるように、本発明の配位可能な部位を有する有機材料を有機材料層12に用い、金属層13と積層した実施例1~3は、有機材料層12に従来材料となるアルカリ金属を含むLiqを用いた比較例1より低電圧で駆動している。この結果から、配位可能な部位を有する有機材料を含む有機材料層12と金属層13とが積層されることで、配位反応が起こり、電荷発生ユニットから陽極側の発光ユニットへの電子注入性と、陰極側の発光ユニットへの正孔注入性が優れており、本発明の効果は明確である。
また、実施例1と実施例2は同様に低電圧で駆動していることから、有機材料層12に配位可能な部位を有する有機材料を含んでいれば、単一層でも混合層でも良いことが分かる。また、実施例3も実施例1と実施例2と同様に比較例1より、大幅に低電圧で駆動していることから、ヘキサヒドロピリミドピリミジン化合物だけでなく、フェナントロリン化合物でも、本発明の効果を得られており、配位結合可能な有機材料であれば、同様の効果が得られることが分かる。
【0116】
(有機EL素子の寿命特性測定)
実施例1~3及び比較例1で作製した有機EL素子について、それぞれEHC社製の「有機EL寿命測定装置」により、一定電流での駆動を開始してからの経過時間と、相対輝度との関係を調べた。具体的には、有機EL素子に一定電流が流れるように電圧を自動的に調整し、一定電流での駆動を開始してからの経過時間に対する相対輝度の測定(コニカミノルタ社製の輝度計(LS-110)による)を行った。なお、電流値は、測定開始時の輝度が10000cd/m
2になるように、各有機EL素子ごとに設定した。その結果を
図4に示す。
【0117】
図4は、有機EL寿命測定装置を用い、一定電流での駆動を開始してからの経過時間と、輝度との関係を示したグラフである。
図4に示すように、実施例1~3、比較例1のいずれの有機EL素子においても、経過時間に伴って輝度が低下している。しかし、実施例1~3は、比較例1と比較して輝度の低下が抑制されている。例えば、経過時間1時間の時点で、比較例1では3500cd/m
2程度輝度が減少している。これに対し、実施例1では100cd/m
2程度、実施例2では95cd/m
2程度、実施例3では120cd/m
2程度しか減少していない。
この結果から本発明のタンデム構造の有機EL素子は、連続駆動による輝度の劣化が少なく、長寿命な有機EL素子であることが分かる。これは、本発明のタンデム構造の有機EL素子において、発光特性が良いことと、アルカリ金属の拡散による劣化が引き起こされないことによるものと考えられる。
1:有機EL素子、 2:基板、 3:陽極、 4-1,4-2,4-n:発光ユニット、 5-1,5-2,5-(n-1):電荷発生ユニット、 6:陰極、 7:正孔注入層、 8:正孔輸送層、 9:発光層、 10:電子輸送層、 11:電子注入層、 12:有機材料層、 13:金属層、 14正孔注入補助層