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特開2022-190856測定治具、動作精度測定システム、及び動作精度測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190856
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】測定治具、動作精度測定システム、及び動作精度測定方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 49/12 20060101AFI20221220BHJP
   B24B 27/06 20060101ALI20221220BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20221220BHJP
   G01B 11/00 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
B24B49/12
B24B27/06 M
H01L21/78 F
G01B11/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099330
(22)【出願日】2021-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【弁理士】
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 貴之
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【弁理士】
【氏名又は名称】今藤 敏和
(72)【発明者】
【氏名】小田 敦
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 良信
(72)【発明者】
【氏名】矢野 紘英
【テーマコード(参考)】
2F065
3C034
3C158
5F063
【Fターム(参考)】
2F065AA04
2F065AA65
2F065FF51
2F065GG02
2F065GG24
2F065JJ03
2F065JJ09
2F065JJ26
3C034AA13
3C034AA19
3C034BB73
3C034BB93
3C034CA12
3C034CA22
3C034CA30
3C034CB01
3C034CB08
3C034DD10
3C034DD20
3C158AA03
3C158AC02
3C158BA07
3C158BB02
3C158BB06
3C158BB08
3C158BB09
3C158BC02
3C158CB01
3C158CB10
3C158DA17
5F063AA48
5F063DE23
5F063DE33
5F063DE36
(57)【要約】
【課題】直線移動機構の動作精度を短時間で高精度に測定する。
【解決手段】支持テーブルと、作業ユニットと、該作業ユニット及び該支持テーブルを相対的に送り方向に沿って直線移動させる直線移動機構と、を備える装置における該直線移動機構の動作精度を測定する動作精度測定方法であって、平面状の底面と、該底面と対向し該底面と平行な平行面と、直線状の境界線を介して該平行面と接続し該平行面に対して傾斜した傾斜面と、を有した測定治具を該支持テーブルに載置し、該境界線が該送り方向と平行となるように該測定治具の向きを調整するとともに白色干渉計で該平行面と該傾斜面とを同時に観測できるように該測定治具及び該白色干渉計の位置を調整し、該支持テーブル及び該作業ユニットを相対的に該送り方向に直線移動させながら該白色干渉計で該平行面及び該傾斜面を観測し干渉縞の変化を観測し、観測された該干渉縞の変化から該直線移動機構の動作精度を割り出す。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面状の底面と、
該底面と対向し該底面と平行な平行面と、
直線状の境界線を介して該平行面と接続し該平行面に対して傾斜した傾斜面と、を有することを特徴とする測定治具。
【請求項2】
支持面を有し物体を支持する支持テーブルと、該支持テーブルで支持された物体に加工又は測定のいずれかの作業を実施する作業ユニットと、該作業ユニット及び該支持テーブルを相対的に送り方向に沿って直線移動させる直線移動機構と、を備える装置における該直線移動機構の動作精度を測定する動作精度測定システムであって、
該作業ユニットによる物体に対する作業が実施される該支持テーブル上の作業点を観測可能であり、該送り方向に垂直な方向に移動可能に該作業ユニットに接続された白色干渉計と、
平面状の底面と、該底面と対向し該底面と平行な平行面と、直線状の境界線を介して該平行面と接続し該平行面に対して傾斜した傾斜面と、を有した測定治具と、を含み、
該境界線を該送り方向に平行な方向に向けるとともに該白色干渉計の観測範囲に該平行面と該傾斜面とを同時に観測し得る位置に位置付けて該測定治具を該支持テーブル上または該支持テーブルを支持できるテーブルベース上に載置し、該直線移動機構を作動させて該送り方向に該作業ユニット及び該測定治具を相対的に直線移動させながら該白色干渉計で該測定治具の該平行面及び該傾斜面の干渉縞の変化を観測し、該干渉縞の変化に基づいて該直線移動機構の動作精度を割り出すことを特徴とする動作精度測定システム。
【請求項3】
支持面を有し物体を支持する支持テーブルと、該支持テーブルで支持された物体に加工又は測定のいずれかの作業を実施する作業ユニットと、該作業ユニット及び該支持テーブルを相対的に送り方向に沿って直線移動させる直線移動機構と、を備える装置における該直線移動機構の動作精度を測定する動作精度測定方法であって、
平面状の底面と、該底面と対向し該底面と平行な平行面と、直線状の境界線を介して該平行面と接続し該平行面に対して傾斜した傾斜面と、を有した測定治具を該支持テーブル上または該支持テーブルを支持できるテーブルベース上に載置する載置ステップと、
該測定治具の該境界線が該送り方向と平行となるように該測定治具の向きを調整するとともに該作業ユニットに接続された白色干渉計で該平行面と該傾斜面とを同時に観測できるように該測定治具及び該白色干渉計の位置を調整する調整ステップと、
該直線移動機構により該作業ユニット及び該測定治具を相対的に該送り方向に直線移動させながら該白色干渉計で該平行面及び該傾斜面を観測し干渉縞の変化を観測する干渉縞観測ステップと、
観測された該干渉縞の変化から該直線移動機構の動作精度を割り出す動作精度割り出しステップと、
を含むことを特徴とする動作精度測定方法。
【請求項4】
該動作精度割り出しステップでは、
該作業ユニット及び該測定治具が相対的に移動する間に観測される該傾斜面の該干渉縞の傾きの最大変化量に基づいて該動作精度のヨーイング精度を割り出し、
該作業ユニット及び該測定治具が相対的に移動する間に観測される該干渉縞の明度の最大変化量に基づいて該動作精度のピッチング精度を割り出し、
該作業ユニット及び該測定治具が相対的に移動する間に観測される該平行面での干渉縞の発生の有無、または、該傾斜面の該干渉縞の縞間隔の変化を観測することで該動作精度のローリング精度を割り出す
ことを特徴とする請求項3に記載の動作精度測定方法。
【請求項5】
該測定治具の該傾斜面の該平行面に対する勾配は、1/15000以上1/5000以下であることを特徴とする請求項3に記載の動作精度測定方法。
【請求項6】
該測定治具の該傾斜面の該平行面に対する勾配は、1/15000以上1/5000以下であることを特徴とする請求項2に記載の動作精度測定システム。
【請求項7】
該傾斜面の該平行面に対する勾配は、1/15000以上1/5000以下であることを特徴とする請求項1に記載の測定治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部品を直線移動させる直線移動機構の動作精度を測定するための測定治具、動作精度測定システム、及び動作精度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスを搭載したデバイスチップは、半導体ウェーハやパッケージ基板、セラミックス基板、ガラス基板等から形成される。交差する複数の分割予定ラインを半導体ウェーハ等の表面に設定し、該分割予定ラインにより区画された各領域に半導体デバイスを形成し、その後、該半導体ウェーハ等を分割予定ラインに沿って分割すると個々のデバイスチップを形成できる。
【0003】
半導体ウェーハ等の分割には、例えば、切削装置が使用される。切削装置は、半導体ウェーハ等の被加工物を吸引保持するチャックテーブル(支持テーブル)と、該チャックテーブルに保持された被加工物を切削する切削ユニットと、を備える。チャックテーブルは、テーブルベースに支持されている。切削ユニットは、円環状の切削ブレードを有する。
【0004】
被加工物を切削する際、切削装置は、被加工物の表面に対して垂直な面内において切削ブレードを回転させ、切削ユニット及びチャックテーブルを加工送り方向に沿って相対的に移動させることで切削ブレードを分割予定ラインに沿って被加工物に切り込ませる。その後、他の分割予定ラインに沿って被加工物を切削するために、加工送り方向に垂直な割り出し送り方向に切削ユニット及びチャックテーブルを相対的に移動させる。
【0005】
切削装置は、切削ユニット及びチャックテーブルを相対的に移動させるための各種の移動機構を備える。より詳細には、チャックテーブル等を加工送り方向に移動させる加工送りユニットやチャックテーブル等を割り出し送り方向に移動させる割り出し送りユニット等の直線移動機構を備える。
【0006】
切削装置では、これらの直線移動機構が適切に動作しなければ被加工物に所定の切削加工を実施できないため、各直線移動機構の動作精度、つまりピッチング及びヨーイングの測定が望まれる。そして、直線移動機構の動作精度を測定する際には、切削時に切削ブレードと被加工物が接触する加工点の近傍においてピッチング及びヨーイングを測定するための測定治具が使用される(特許文献1参照)。この測定治具は、切削ユニットに取り付けられて使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2017-199777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この測定治具を使用する場合、ピッチング及びヨーイング等の測定項目を変更する度に該測定治具の取り付け位置等を変更しなければならない。この取り付け位置の変更作業は作業者が実施するため、直線移動機構の動作精度の測定に時間がかかる要因となっていた。また、測定が望まれる動作精度の測定項目にはピッチング及びヨーイングの他にローリングも存在するが、この測定治具はローリングの測定には使用できない。
【0009】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、直線移動機構の動作精度を短時間で高精度に測定するための測定治具、動作精度測定システム、動作精度測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によると、平面状の底面と、該底面と対向し該底面と平行な平行面と、直線状の境界線を介して該平行面と接続し該平行面に対して傾斜した傾斜面と、を有することを特徴とする測定治具が提供される。
【0011】
好ましくは、該傾斜面の該平行面に対する勾配は、1/15000以上1/5000以下である。
【0012】
また、本発明の他の一態様によると、支持面を有し物体を支持する支持テーブルと、該支持テーブルで支持された物体に加工又は測定のいずれかの作業を実施する作業ユニットと、該作業ユニット及び該支持テーブルを相対的に送り方向に沿って直線移動させる直線移動機構と、を備える装置における該直線移動機構の動作精度を測定する動作精度測定システムであって、該作業ユニットによる物体に対する作業が実施される該支持テーブル上の作業点を観測可能であり、該送り方向に垂直な方向に移動可能に該作業ユニットに接続された白色干渉計と、平面状の底面と、該底面と対向し該底面と平行な平行面と、直線状の境界線を介して該平行面と接続し該平行面に対して傾斜した傾斜面と、を有した測定治具と、を含み、該境界線を該送り方向に平行な方向に向けるとともに該白色干渉計の観測範囲に該平行面と該傾斜面とを同時に観測し得る位置に位置付けて該測定治具を該支持テーブル上または該支持テーブルを支持できるテーブルベース上に載置し、該直線移動機構を作動させて該送り方向に該作業ユニット及び該測定治具を相対的に直線移動させながら該白色干渉計で該測定治具の該平行面及び該傾斜面の干渉縞の変化を観測し、該干渉縞の変化に基づいて該直線移動機構の動作精度を割り出すことを特徴とする動作精度測定システムが提供される。
【0013】
好ましくは、該測定治具の該傾斜面の該平行面に対する勾配は、1/15000以上1/5000以下である。
【0014】
本発明のさらに他の一態様によると、支持面を有し物体を支持する支持テーブルと、該支持テーブルで支持された物体に加工又は測定のいずれかの作業を実施する作業ユニットと、該作業ユニット及び該支持テーブルを相対的に送り方向に沿って直線移動させる直線移動機構と、を備える装置における該直線移動機構の動作精度を測定する動作精度測定方法であって、平面状の底面と、該底面と対向し該底面と平行な平行面と、直線状の境界線を介して該平行面と接続し該平行面に対して傾斜した傾斜面と、を有した測定治具を該支持テーブル上または該支持テーブルを支持できるテーブルベース上に載置する載置ステップと、該測定治具の該境界線が該送り方向と平行となるように該測定治具の向きを調整するとともに該作業ユニットに接続された白色干渉計で該平行面と該傾斜面とを同時に観測できるように該測定治具及び該白色干渉計の位置を調整する調整ステップと、該直線移動機構により該作業ユニット及び該測定治具を相対的に該送り方向に直線移動させながら該白色干渉計で該平行面及び該傾斜面を観測し干渉縞の変化を観測する干渉縞観測ステップと、観測された該干渉縞の変化から該直線移動機構の動作精度を割り出す動作精度割り出しステップと、を含むことを特徴とする動作精度測定方法が提供される。
【0015】
好ましくは、該動作精度割り出しステップでは、該作業ユニット及び該測定治具が相対的に移動する間に観測される該傾斜面の該干渉縞の傾きの最大変化量に基づいて該動作精度のヨーイング精度を割り出し、該作業ユニット及び該測定治具が相対的に移動する間に観測される該干渉縞の明度の最大変化量に基づいて該動作精度のピッチング精度を割り出し、該作業ユニット及び該測定治具が相対的に移動する間に観測される該平行面での干渉縞の発生の有無、または、該傾斜面の該干渉縞の縞間隔の変化を観測することで該動作精度のローリング精度を割り出す。
【0016】
また、好ましくは、該測定治具の該傾斜面の該平行面に対する勾配は、1/15000以上1/5000以下である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様に係る測定治具、動作精度測定システム、及び動作精度測定方法において、該測定治具は、平面状の底面と、該底面と対向し該底面と平行な平行面と、直線状の境界線を介して該平行面と接続し該平行面に対して傾斜した傾斜面と、を有する。支持テーブルと、作業ユニットと、を相対的に直線移動させる直線移動機構の動作精度を割り出す際には、支持テーブル上または該支持テーブルを支持できるテーブルベース上に該測定治具を載せる。そして、作業ユニットに接続された白色干渉計により測定治具の上面を観測しつつ直線移動機構を作動させる。
【0018】
このとき白色干渉計により観測される該平行面及び該傾斜面における干渉縞の変化に基づいて、直線移動機構の動作精度を高精度に測定できる。例えば、ヨーイングやピッチングだけでなく、ローリングについて評価も可能となる。ここで、この測定治具は、動作精度の測定項目を変更する際に支持テーブルに置きなおす必要がなく、直線移動機構を一度作動させるだけで動作精度の各測定項目を同時に評価できる。すなわち、測定治具を白色干渉計とともに使用すると、直線移動機構の動作精度を迅速に測定できる。
【0019】
したがって、本発明の一態様によると、直線移動機構の動作精度を短時間で高精度に測定するための測定治具、動作精度測定システム、動作精度測定方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】切削装置を模式的に示す斜視図である。
図2】測定治具を模式的に示す斜視図である。
図3】切削ユニット(作業ユニット)と、測定治具と、を模式的に示す斜視図である。
図4】白色干渉計の光学系を模式的に示す側面図である。
図5図5(A)は、干渉縞の一例を模した写真であり、図5(B)は、干渉縞の他の一例を模した写真であり、図5(C)は、干渉縞のさらに他の一例を模した写真であり、図5(D)は、干渉縞のさらに他の一例を模した写真である。
図6】直線移動機構の動作精度測定方法の各ステップの流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
添付図面を参照して、本発明の一態様に係る実施形態について説明する。まず、本実施形態に係る測定治具が使用される装置について説明する。測定治具が使用される装置は、例えば、被加工物に所定の加工を実施する加工装置や、試料の特性を所定の方法で測定する測定装置である。以下、該装置が被加工物を切削する切削装置である場合を例に説明するが、該装置は切削装置に限定されない。
【0022】
図1は、シリコン、シリコンカーバイド(SiC)、ヒ化ガリウム(GaAs)若しくは、その他の半導体等の材料、または、サファイア、ガラス、石英等の材料からなる略円板状の基板等の被加工物を切削する切削装置(装置)2である。
【0023】
被加工物の表面にはIC(Integrated Circuit)等の複数のデバイスが形成されている。最終的に、被加工物がデバイス毎に分割されることで、個々のデバイスチップが形成される。例えば、被加工物は、環状のフレームに張られたテープに貼着された状態で切削加工される。
【0024】
図1に示す通り、切削装置2は、各構成要素を支持する装置基台4を備えている。装置基台4の中央上部には、X軸移動テーブル6と、X軸移動テーブル6をX軸方向(加工送り方向)に移動させる加工送りユニットと、該加工送りユニットを覆う排水路20と、が設けられている。該加工送りユニットは、X軸方向に平行な一対のX軸ガイドレール12を備えており、X軸ガイドレール12には、X軸移動テーブル6がスライド可能に取り付けられている。
【0025】
X軸移動テーブル6の下面側には、ナット部(不図示)が設けられており、このナット部には、X軸ガイドレール12に平行なX軸ボールねじ14が螺合されている。X軸ボールねじ14の一端部には、X軸パルスモータ16が連結されている。X軸パルスモータ16でX軸ボールねじ14を回転させると、X軸移動テーブル6はX軸ガイドレール12に沿ってX軸方向に移動する。
【0026】
例えば、X軸移動テーブル6上にはテーブルベース8bが設けられており、テーブルベース8bの上には被加工物を吸引、保持するためのチャックテーブル(支持テーブル)8が設けられている。ただし、チャックテーブル8が、X軸移動テーブル6上に直に設けられていてもよい。チャックテーブル8(テーブルベース8b)は、モータ等の回転駆動源(不図示)に連結されており、チャックテーブル8の上面に垂直な回転軸の周りに回転可能である。また、チャックテーブル8(テーブルベース8b)は、上述した加工送りユニットによりX軸方向に送られる。
【0027】
チャックテーブル8の表面(上面)は、被加工物を吸引、保持する保持面8aとなる。この保持面8aは、チャックテーブル8の内部に形成された流路(不図示)を介して吸引源(不図示)に接続されている。該保持面8aの周囲には、テープを介して被加工物を保持する環状のフレームを固定するためのクランプ10が配設されている。
【0028】
装置基台4の上面には、被加工物を切削する2つの切削ユニット(作業ユニット)18を支持する支持構造22が、加工送りユニットを跨ぐように配置されている。支持構造22の前面上部には、2つの切削ユニット18をY軸方向(割り出し送り方向)に移動させる割り出し送りユニットと、Z軸方向(切り込み送り方向)に移動させる切り込み送りユニットと、が設けられている。
【0029】
支持構造22の前面には、Y軸方向に平行な一対のY軸ガイドレール24が設けられている。Y軸ガイドレール24には、切削ユニット18のそれぞれに対応する2つのY軸移動プレート26がスライド可能に取り付けられている。それぞれのY軸移動プレート26の裏面側(後面側)には、ナット部(不図示)が設けられており、このナット部には、Y軸ガイドレール24に平行なY軸ボールねじ28が螺合されている。
【0030】
Y軸ボールねじ28の一端部には、Y軸パルスモータ28aが連結されている。Y軸パルスモータ28aでY軸ボールねじ28を回転させると、対応するY軸移動プレート26がY軸ガイドレール24に沿ってY軸方向に移動する。すなわち、Y軸ガイドレール24、Y軸移動プレート26、Y軸ボールねじ28、及びY軸パルスモータ28aは、割り出し送りユニットを構成する。
【0031】
また、それぞれのY軸移動プレート26の表面(前面)には、Z軸方向に平行な一対のZ軸ガイドレール30が設けられている。それぞれのZ軸ガイドレール30には、Z軸移動プレート32がスライド可能に取り付けられている。Z軸移動プレート32の裏面側(後面側)には、ナット部(不図示)が設けられており、このナット部には、Z軸ガイドレール30に平行なZ軸ボールねじ34が螺合されている。Z軸ボールねじ34の一端部には、Z軸パルスモータ36が連結されている。
【0032】
Z軸パルスモータ36でZ軸ボールねじ34を回転させれば、Z軸移動プレート32は、Z軸ガイドレール30に沿ってZ軸方向(切り込み送り方向)に移動する。すなわち、Z軸ガイドレール30、Z軸移動プレート32、Z軸ボールねじ34、及びZ軸パルスモータ36は、切り込み送りユニットを構成する。
【0033】
2つのZ軸移動プレート32のそれぞれの下部には、被加工物を加工する切削ユニット(作業ユニット)18と、チャックテーブル8に保持された被加工物を撮像できる撮像ユニット38と、が固定されている。Y軸移動プレート26をY軸方向に移動させれば、切削ユニット18及び撮像ユニット38はY軸方向(割り出し送り方向)に移動する。Z軸移動プレート32をZ軸方向に移動させれば、切削ユニット18及び撮像ユニット38はZ軸方向(切り込み送り方向)に移動する。
【0034】
図3には、切削ユニット18を模式的に示す斜視図が含まれている。切削ユニット18は、チャックテーブル8の保持面8aに平行な方向であるY軸方向に沿ったスピンドル18cと、スピンドル18cの先端に装着された円環状の切削ブレード18aと、を有する。スピンドル18cの他端側はスピンドルハウジング18bに回転可能に収容されており、スピンドルハウジング18bの内部にはスピンドル18cを回転させるモータ等の回転駆動源(不図示)が収容されている。
【0035】
切削ブレード18aは、例えば、円盤状の基台を有している。基台の中央部には、この基台を貫通する略円形の装着穴が設けられており、切削ブレード18aが切削ユニット18に装着されるとき、該装着穴にスピンドル18cの先端が通される。基台の外周部には、チャックテーブル8に保持された被加工物に切り込ませるための環状の刃先が固定されている。刃先は、砥石部とも呼ばれる。刃先は、ダイヤモンド等の砥粒と、該砥粒を分散固定する結合材と、を有する。該結合材は、例えば、金属または樹脂等で形成される。
【0036】
図1に戻り切削装置2の説明を続ける。被加工物を切削する際には、予め撮像ユニット38により被加工物の表面に形成されたデバイス、パターン等が検出されることで被加工物の表面に設定された分割予定ラインの位置が認識される。そして、分割予定ラインの伸長方向が切削装置2の加工送り方向に合うように、チャックテーブル8を回転させる。そして、加工送りユニット及び割り出し送りユニットを作動させて、被加工物の分割予定ラインの延長線の上方に切削ブレード18aを位置付ける。
【0037】
そして、スピンドル18cを回転させることで切削ブレード18aを回転させ、切削ブレード18aの刃先の下端が被加工物の裏面(下面)よりも下方の高さ位置となるように切削ユニット18の高さが調整される。Z軸パルスモータ36を含む切り込み送りユニットは、切削ユニット18を所定の高さ位置に位置付ける。
【0038】
加工送りユニットを作動させてチャックテーブル8を加工送り方向に移動させて加工送りし、切削ブレード18aを被加工物に切り込ませて該被加工物を切削する。被加工物を一つの分割予定ラインに沿って切削した後、割り出し送りユニットを作動させて切削ユニット18を割り出し送りし、その後、再びチャックテーブル8を加工送りして他の分割予定ラインに沿って被加工物を切削する。切削装置2は、このように、被加工物を次々に切削する。
【0039】
切削装置2は、さらに、制御ユニット42を備えている。制御ユニット42は、切削ユニット18、チャックテーブル8、各移動機構、撮像ユニット38、白色干渉計40(後述)等の切削装置2の各構成要素を制御する機能を有する。制御ユニット42の機能は、例えば、装置制御用コンピュータのソフトウェアとして実現される。
【0040】
すなわち、制御ユニット42は、CPU等の処理装置や、フラッシュメモリ等の記憶装置を含むコンピュータによって構成される。記憶装置に記憶されるプログラム等のソフトウェアに従い処理装置を動作させることによって、制御ユニット42は、ソフトウェアと処理装置(ハードウェア資源)とが協働した具体的手段として機能する。
【0041】
上述のように切削装置(装置)2は、加工送りユニット、割り出し送りユニット、及び切り込み送りユニット等の複数の直線移動機構を備える。これらの直線移動機構は、それぞれ、チャックテーブル(支持テーブル)8と、切削ユニット(作業ユニット)18と、を特定の送り方向に沿って相対的に直線移動させる。切削装置2では、これらの直線移動機構が高精度に作動することにより、被加工物を高精度に加工できる。
【0042】
逆に言えば、切削装置2では、これらの直線移動機構が適切に動作しなければ被加工物に所定の切削加工を実施できない。そのため、各直線移動機構の動作精度の測定が望まれる。ここで、直線移動機構の動作精度の評価項目について、加工送りユニットの動作を例に説明する。加工送りユニットは、チャックテーブル(支持テーブル)8をX軸方向(送り方向)に直線移動させる機能を有する。
【0043】
加工送りユニットの動作精度に問題がある場合、該チャックテーブル8にZ軸方向(送り方向に垂直な方向)を軸とした回転が生じることがある。この現象は、ヨーイングと呼ばれる。また、チャックテーブル8にY軸方向(送り方向に垂直な方向)を軸とした回転が生じることがある。この現象は、ピッチングと呼ばれる。さらに、チャックテーブル8にX軸方向(送り方向)を軸とした回転が生じることがある。この現象は、ローリングと呼ばれる。
【0044】
直線移動機構の動作精度を測定する際には、例えば、特開2017-199777号公報に記載された測定治具が使用される。当該測定治具によると、切削ブレード18aが被加工物に接触する際の加工点において直線移動機構の動作精度を測定できる。この測定治具は、切削ユニット18に取り付けられて使用される。
【0045】
しかしながら、この測定治具を使用する場合、ピッチング及びヨーイング等の測定項目を変更する度に切削ユニット18への該測定治具の取り付け位置を変更しなければならない。この取り付け位置の変更作業は作業者が実施するため、直線移動機構の動作精度の測定に時間がかかる要因となっていた。また、この測定治具を使用してもローリングの測定はできない。
【0046】
そこで、直線移動機構の動作精度の測定に本実施形態に係る測定治具が使用される。図2は、本実施形態に係る測定治具1を模式的に示す斜視図である。次に、測定治具1について説明する。測定治具1は、動作精度の測定対象となる直線移動機構にチャックテーブル8(テーブルベース8b)等を介して接触させた状態で、後述の白色干渉計とともに使用される。
【0047】
測定治具1は、例えば、ステンレス鋼等の硬質な金属材料で形成される。測定治具1は、平面状の底面3と、底面3と対向し底面3と平行な平行面5と、直線状の境界線7を介して平行面5と接続し平行面5に対して傾斜した傾斜面9と、を有する。なお、各図においては、説明の便宜のために測定治具1の傾斜面9の勾配が大きく強調されている。
【0048】
傾斜面9の平行面5に対する勾配は、1/15000以上1/5000以下であることが好ましい。該勾配は、1/12500以上1/7500以下であることがさらに好ましく、1/11000以上1/9000であることが特に好ましい。そして、該勾配は、1/10000であることが最も好ましい。
【0049】
測定治具1の境界線7に沿った長さは、例えば、チャックテーブル(支持テーブル)8において加工点となりうる領域の長さよりも大きいことが好ましい。すなわち、保持面(支持面)8aの径よりも大きいことが好ましい。例えば、保持面8aの径が300mmである場合、測定治具1の長さは350mm程度であることが好ましい。
【0050】
また、測定治具1の高さは、チャックテーブル8と同等であることが好ましく、例えば、20mm程度あることが好ましい。後述の通り、測定治具1は、チャックテーブル8を支持するテーブルベース8bに載せられて使用されることがある。測定治具1がチャックテーブル8と同等の厚みであると、テーブルベース8bに載る測定治具1の上面が加工点の高さ位置と同等となる。そして、測定治具1の高さと長さに直交する幅は、80mm程度であることが好ましい。境界線7は、幅方向の中心付近に設けられていることが好ましい。ただし、測定治具1の各部の寸法はこれに限定されず、後述の白色干渉計40により、平行面5及び傾斜面9を同時に十分に広い領域で観測領域40aに収めうる範囲で適宜決定されるとよい。
【0051】
測定治具1がその機能を発揮する上で特に重要なことは、底面3、平行面5及び傾斜面9がそれぞれ高い平坦性を有すること、底面3と平行面5が高い精度で平行であること、そして、傾斜面9の平行面5に対する勾配が上述の範囲にあることである。ただし、平行面5が底面3に対して高い精度で平行でない場合においても測定治具1は機能し得る場合がある。そのため、平行面5の底面3に対する勾配が傾斜面9の平行面5に対する勾配よりも小さければ、底面3と平行面5が高い精度で平行でなくともよく、底面3と平行面5が平行でなくてもよい場合がある。なお、測定治具1の機能及び使用方法について、詳細は後述する。
【0052】
次に、測定治具1とともに使用される白色干渉計について説明する。白色干渉計は、例えば、切削ユニット(作業ユニット)18に接続されて使用される。図3には、切削ユニット18に接続された白色干渉計40が模式的に示されている。白色干渉計40は、チャックテーブル8に載置された測定治具1を観測する機能を有する。
【0053】
白色干渉計40は、例えば、ボールねじ式の昇降機構(不図示)を介して切削ユニット18に接続されており、Z軸方向(送り方向に垂直な方向)に沿って移動可能である。ただし、昇降機構はボールねじ式であることに限定されない。白色干渉計40は、切削ユニット(作業ユニット)18に常時固定されていてもよく、必要に応じて着脱されてもよい。そして、この昇降機構により白色干渉計40の測定治具1に対する距離を調整可能であり、光路の長さを調整可能である。
【0054】
次に白色干渉計40の構成について説明する。図4は、白色干渉計40の光学系の最も簡単な構成例を模式的に示す側面図である。白色干渉計40の光学系は、白色干渉計40が所定の機能を発揮できる態様において、適宜構成を変更可能である。図4に示す白色干渉計40は、白色光源44と、第1レンズ46と、ビームスプリッター48と、干渉対物レンズ50と、第2レンズ52と、アレイセンサー54と、により構成される。
【0055】
白色光源44には、例えば、白色LED(Light Emitting Diode)やハロゲンランプ等が使用される。白色光源44は、可視光領域に幅広く強度を有する白色光を発する機能を有する。白色光源44から出射した白色光56は、第1レンズ46に到達する。第1レンズ46は、白色光56を平行光に変換する機能を有する。第1レンズ46で平行光に変換された白色光56は、ビームスプリッター48で反射されて干渉対物レンズ50に進む。
【0056】
干渉対物レンズ50は、白色光56を2つに分け、その一方を反射して戻し、他方を測定治具1に照射する機能を有する。干渉対物レンズ50は、例えば、白色光56の一部を反射して戻すリファレンスミラー50aを内部に備える。ただし、干渉対物レンズ50は、これに限定されない。
【0057】
測定治具1に照射された白色光56の該他方は、測定治具1で反射されて干渉対物レンズ50に進み、白色光56の該一方と同一の光路に戻される。統合された白色光56は、ビームスプリッター48を透過して第2レンズ52によりアレイセンサー54に集光される。アレイセンサー54は、CMOSセンサーまたはCCDセンサー等の受光素子を含み、白色光56を撮像する。
【0058】
アレイセンサー54で白色光56を撮像すると、分けられ統合された白色光56の2つの成分の光路差を反映した干渉縞(空間干渉パターン)が得られる。すなわち、白色光56の2つの成分の位相が一致している箇所ではパターンが明るくなり、2つの成分の位相が半波長ずれる箇所ではパターンが暗くなる。したがって、アレイセンサー54で得られた干渉縞によると、測定治具1の上面の高さ分布に関する情報が得られる。
【0059】
なお、白色光56は、ブロードな波長域に強度を有する低コヒーレンス光であり、可干渉距離(コヒーレンス長)が非常に短い光である。そのため、アレイセンサー54で観測される干渉縞には、焦点高さ付近に位置付けられる測定治具1の上面以外の要素が含まれず、低ノイズで高い垂直方向分解能が得られる。
【0060】
図5(A)は、白色干渉計40により測定治具1の境界線7付近を観察して得られる干渉縞(空間干渉パターン)を想定して作成された写真56aである。なお、この写真56aは、白色干渉計40で実際に測定治具1を観察して得られた観察像ではなく、以下の説明のために作成された観察像である。したがって、説明以外の目的のために写真56aを使用できず、写真56aは他の意味を持たない。
【0061】
写真56aの左半分では明るさが概ね一様であり、写真56aの右半分では縦方向に沿った一定間隔の複数の縞が観測される。これは、白色干渉計40の観測領域の左半分において測定治具1の上面が白色干渉計40に対して一様な高さであるとともに、該観測領域の右半分において測定治具1の上面が一定の勾配で傾斜していることを意味する。すなわち、該観測領域の左半分が平行面5あり、右半分が傾斜面9であり、その間が境界線7であることを意味する。
【0062】
ここで、傾斜面9に基づいて生じる複数の縞の間隔や数は、傾斜面9の勾配の大きさにより決まる。傾斜面9の勾配が小さすぎると、観察像に現れる縞の数が少なくなり後述のように干渉縞の変化を検出しにくくなる。その一方で、傾斜面9の勾配が大きすぎると、各縞の間隔が小さくなりすぎ、互いに隣接する2つの縞の切り分けが難しくなる。そこで、傾斜面9の勾配は上述の大きさとされるのが好ましい。
【0063】
チャックテーブル(支持テーブル)8上に、または、チャックテーブル8を支持できるテーブルベース8b上に測定治具1を載せる。そして、測定治具1の上面を白色干渉計40で観察しながら加工送りユニット(直線移動機構)を作動させる。このとき、得られた干渉縞の変化から該加工送りユニットの動作精度を割り出せる。次に、測定治具1と白色干渉計40を使用した直線移動機構の動作精度測定方法について説明する。図6は、該動作精度測定方法の各ステップの流れを示すフローチャートである。
【0064】
直線移動機構の動作精度測定方法では、まず、測定治具1をチャックテーブル(支持テーブル)8または該チャックテーブル8を支持できるテーブルベース8bに載置する載置ステップS10を実施する。より詳細には、載置ステップS10では、測定治具1の底面3をチャックテーブル8の保持面8aに向け、この底面3をチャックテーブル8に接触させ、測定治具1の上面(平行面5及び傾斜面9)を上方に露出させる。
【0065】
または、載置ステップS10では、測定治具1の底面3をチャックテーブル8が取り外されたテーブルベース8bの上面に向け、底面3をテーブルベース8bに接触させ、測定治具1の上面を上方に露出させる。以下、チャックテーブル8が取り外されたテーブルベース8bに測定治具1が載せられる場合を例に説明する。
【0066】
次に、測定治具1の向き及び位置と、白色干渉計40の位置と、を調整する調整ステップS20を実施する。図3には、テーブルベース8b上で向き及び位置が調整された測定治具1を模式的に示す斜視図が含まれている。調整ステップS20では、測定治具1の境界線7が送り方向(加工送り方向、X軸方向)と平行となるように測定治具1の向きを調整する。すなわち、動作精度を測定したい直線移動機構を作動させることで直線移動する要素の移動方向と、測定治具1の境界線7の伸長方向と、を合わせる。
【0067】
そして、調整ステップS20では、切削ユニット(作業ユニット)18に接続された白色干渉計40で測定治具1の平行面5と傾斜面9とを同時に観測できるように測定治具1及び白色干渉計40の位置を調整する。特に、図3に示すように、白色干渉計40の観測領域40aが境界線7の一つの端部付近に位置付けられることが好ましい。
【0068】
例えば、作業者は、白色干渉計40の観測領域40aに境界線7が入るように、測定治具1の向きを維持しつつテーブルベース8b上で測定治具1の位置を調整する。または、作業者は、白色干渉計40で測定治具1の上面を観測しつつ加工送りユニット及び割り出し送りユニットを操作して、観測領域40aに境界線7が入るように切削ユニット18及び測定治具1の位置を調整する。
【0069】
調整ステップS20を実施した後、白色干渉計40の高さを調節しつつ白色干渉計40で測定治具1の上面を観察するとよい。このとき、図5(A)の写真56aに示すような干渉縞が確認された場合、白色干渉計40が適切な向きに向けられていることが確認される。すなわち、観察像の平行面5に対応する領域に干渉縞が現れず概略一様な明るさであり、観察像の傾斜面9に対応する領域に境界線7に平行な複数の縞が現れている場合、白色干渉計40の向きに問題がないことが確認される。
【0070】
その一方で、白色干渉計40を作動させ測定治具1の上面を観測したとき、写真56aに示すような干渉縞の観察像が得られない場合、白色干渉計40の切削ユニット18への接続状態を確認して白色干渉計40の向きを調整する必要がある。例えば、白色干渉計40は、向きを調整するための2軸のゴニオステージを介して切削ユニット18に接続されてもよく、このゴニオステージで白色干渉計40の向きが調整されてもよい。
【0071】
白色干渉計40の向きが適切であることが確認された後、白色干渉計40で観測される干渉縞の変化を観測する干渉縞観測ステップS30を実施する。干渉縞観測ステップS30では、加工送りユニット(直線移動機構)により切削ユニット(作業ユニット)18と測定治具1を相対的にX軸方向(送り方向)に直線移動させながら境界線7に沿って白色干渉計40で平行面5及び傾斜面9を観測する。このときの干渉縞の変化を観測する。
【0072】
ここで、加工送りユニットは、白色干渉計40で測定治具1の上面を観測するたびに一時的に停止してもよい。この場合、測定治具1の上面の各所で精密に干渉縞を観測できる。または、干渉縞観測ステップS30を実施している間、加工送りユニットを停止させず、定期的に白色干渉計40を作動させて測定治具1の上面を観測してもよい。この場合、干渉縞の観測に要する時間を短縮できる。
【0073】
白色干渉計40は、例えば、切削装置(装置)2の制御ユニット42に接続されており、観測により得られた干渉縞が写る観察像を制御ユニット42に送信する。制御ユニット42は、白色干渉計40から送信されてきた観察像に写る干渉縞を評価して評価結果を蓄積し、干渉縞の変化に関する情報を作成する。
【0074】
干渉縞観測ステップS30の次に、観測された干渉縞の変化から加工送りユニット(直線移動機構)の動作精度を割り出す動作精度割り出しステップS40を実施する。次に、加工送りユニットの動作精度を割り出す手法について説明する。動作精度割り出しステップS40では、例えば、加工送りユニット(直線移動機構)の動作精度のヨーイング精度と、ピッチング精度と、ローリング精度と、を割り出す。
【0075】
加工送りユニットのヨーイング精度が低い場合、切削ユニット18及びテーブルベース8bをX軸方向(送り方向)に相対的に移動させる間、Z軸方向(送り方向に垂直な方向)を軸とした回転がテーブルベース8bに生じる。そのため、干渉縞観測ステップS30では、測定治具1の上面を白色干渉計40で観測して得られる観察像に変化が生じる。
【0076】
図5(B)は、ヨーイングが生じているときに白色干渉計40により測定治具1の境界線7付近を観察して得られる干渉縞(空間干渉パターン)を想定して作成された写真56bである。なお、この写真56bも写真56aと同様に、白色干渉計40で実際に測定治具1を観察して得られた観察像ではなく、以下の説明のために作成された観察像である。
【0077】
ヨーイングが生じると、干渉縞が写る観察像に全体的な傾きが生じる。より詳細には、測定治具1の境界線7と、傾斜面9の領域に現れる干渉縞と、が同じ角度でX軸方向(送り方向)から傾く。そして、この傾き角の大きさがヨーイング精度の低さに相当する。そこで、切削ユニット(作業ユニット)18及び測定治具1が相対的に直線移動する間に白色干渉計40で測定治具1の境界線7の一端から他端にかけて観測を行い、得られた各観察像から傾斜面9等の干渉縞の傾き角を測定する。
【0078】
すると、傾き角の変化の傾向からヨーイングの傾向を評価でき、傾き角の最大変化量に基づいて加工送りユニット(直線移動機構)の動作精度のうちヨーイング精度を割り出せる。例えば、得られた一連の観察像において、傾斜面9等の干渉縞の傾き角の変化が十分に小さく、境界線7等が終始X軸方向(送り方向)に沿っている場合、ヨーイング精度が良好であるといえる。
【0079】
また、加工送りユニットのピッチング精度が低い場合、切削ユニット18及びテーブルベース8bをX軸方向(送り方向)に相対的に移動させる間、テーブルベース8bにY軸方向(送り方向に垂直な方向)を軸とした回転が生じる。このとき、測定治具1の上面を白色干渉計40で観測して得られる観察像に変化が生じる。
【0080】
図5(C)は、ピッチングが生じているときに白色干渉計40により測定治具1の境界線7付近を観察して得られる干渉縞を想定して作成された写真56cである。なお、この写真56cも写真56aと同様に、白色干渉計40で実際に測定治具1を観察して得られた観察像ではなく、以下の説明のために作成された観察像である。
【0081】
ピッチングが生じると、測定治具1の上面と、白色干渉計40と、の距離が変化して、干渉縞が写る観察像にピントのずれや干渉縞の明度の変化、各縞のY軸方向に沿った平行移動等の現象が生じる。これらの観察像のピントのずれ量や干渉縞の明度の変化量、各縞の移動量がピッチング精度の低さに相当する。そこで、切削ユニット18及び測定治具1が相対的に移動する間に観測される該干渉縞の明度の変化等を測定する。
【0082】
すると、明度の変化の傾向からピッチングの傾向を評価でき、明度の最大変化量に基づいて加工送りユニット(直線移動機構)の動作精度のうちピッチング精度を割り出せる。例えば、得られた一連の観察像において、干渉縞の明度の変化が十分に小さく、干渉縞の明度が一定の場合、ピッチング精度が良好であるといえる。
【0083】
また、ピッチングの傾向を観察像のピントのずれから評価する場合、例えば、観察像にピントのずれが確認された際に、加工送りユニットの動作を停止し、白色干渉計40を昇降させる。このとき、観察像のピントが再び合うまでの白色干渉計40の昇降量からピッチング量を評価できる。そして、チャックテーブル8等の移動と、白色干渉計40の昇降と、を繰り返してピッチングの傾向を評価し、白色干渉計40が最も高いときの高さと、最も低い時の高さと、の差をピッチング精度として割り出すとよい。
【0084】
また、加工送りユニット(直線移動機構)のローリング精度が低い場合、切削ユニット18及びテーブルベース8bをX軸方向(送り方向)に相対的に移動させる間、テーブルベース8bにX軸方向(送り方向)を軸とした回転が生じる。このとき、測定治具1の上面を白色干渉計40で観測して得られる観察像に変化が生じる。
【0085】
図5(D)は、ローリングが生じているときに白色干渉計40により測定治具1の境界線7付近を観察して得られる干渉縞を想定して作成された写真56dである。なお、この写真56dも写真56aと同様に、白色干渉計40で実際に測定治具1を観察して得られた観察像ではなく、以下の説明のために作成された観察像である。
【0086】
ローリングが生じると測定治具1の平行面5が傾き、平行面5の各所の高さが一様ではなくなるため、平行面5に干渉縞が確認されるようになる。また、傾斜面9の各所の高さも変化するため、ローリングの大きさに応じて傾斜面9で生じる干渉縞の縞間隔が変化する。そのため、切削ユニット18及び測定治具1が相対的に移動する間に観測される平行面5での干渉縞の発生の有無、または、傾斜面9の干渉縞の縞間隔の変化を観測すると、ローリングの傾向を評価できる。
【0087】
例えば、縞間隔の変化の最大変化量に基づいて加工送りユニット(直線移動機構)の動作精度のうちローリング精度を割り出せる。また、得られた一連の観察像において、縞間隔の変化が十分に小さく平行面5に縞が現れない場合、ローリング精度が良好であるといえる。
【0088】
測定治具1を使用して加工送りユニット(直線移動機構)の動作精度を割り出した結果、該動作精度が所定の水準を満たさないことが確認された場合、加工送りユニットの整備や交換をするとよい。その後、加工送りユニット(直線移動機構)の動作精度を同様に割り出すとよい。該動作精度が所定の水準を満たすことが確認された場合、切削装置2で被加工物を適切に加工するための条件の一つを達成したことが確認される。
【0089】
切削装置2における各直線移動機構の動作精度の割り出しは、例えば、工場等に切削装置2を設置した際に実施されるとよい。または、切削装置2を運用して所定の期間が経過した後に実施されるとよい。これにより、切削装置2は、被加工物を高精度に加工できる状態に維持される。そして、本実施形態に係る測定治具1によると、該動作精度の割り出しを迅速に実施できるため、切削装置2の稼働時間を多く確保できる。
【0090】
以上に説明するように、測定治具1は、底面3と平行な平行面5と、平行面5に対して僅かに傾斜した傾斜面9と、を有するため、白色干渉計40と組み合わせて使用することで直線移動機構の動作精度を高精度に割り出せる。このとき、動作精度の項目毎に測定治具1の置き直し等が不要である。すなわち、直線移動機構を一度作動させるだけで動作精度を極めて短時間で多角的にかつ高精度に割り出せる。
【0091】
なお、上記の説明では、直線移動機構が切削装置2の加工送りユニットであり、加工送りユニットの動作精度を測定治具1及び白色干渉計40を使用して割り出す場合について説明したが、動作精度の測定対象となる直線移動機構はこれに限定されない。すなわち、測定治具1及び白色干渉計40を使用して同様の手法により割り出し送りユニットの動作精度が割り出されてもよい。
【0092】
さらに、測定治具1及び白色干渉計40を使用して切削装置2の切り込み送りユニットの動作精度が割り出されもよい。切り込み送りユニットは、切削ユニット18をチャックテーブル8に対して昇降させる直線移動機構である。
【0093】
そこで、例えば、チャックテーブル8の保持面8aまたはテーブルベース8bの上面に測定治具1を直立させて固定する。このとき、測定治具1の上面をY軸方向の切削ユニット18側に向ける。そして、白色干渉計40を測定治具1に向けて切削ユニット18に固定する。その後、切り込み送りユニットを作動させて切削ユニット18を昇降させつつ白色干渉計40で境界線7に沿って測定治具1の平行面5及び傾斜面9を観測する。すると、得られる干渉縞の変化に基づいて切り込み送りユニットの動作精度を割り出せる。
【0094】
また、上記の説明では、テーブルベース8b(チャックテーブル8)に測定治具1を載置し、切削ユニット18に白色干渉計40を接続する場合について説明したが、測定治具1及び白色干渉計40は、互いに入れ替えられて使用されてもよい。すなわち、測定治具1を切削ユニット18に固定し、白色干渉計40をテーブルベース8b(チャックテーブル8)に載置し、白色干渉計40で測定治具1の上面を観測してもよい。重要なことは、直線移動機構により移動する要素としない要素の一方に測定治具1を接触させ、他方に白色干渉計40を接触させることである。
【0095】
さらに、上記の説明では、測定治具1及び白色干渉計40を使用して切削ユニット18を有する切削装置2において加工送りユニット等の直線移動機構の動作精度を割り出す場合について説明したが、測定治具1及び白色干渉計40の用途はこれに限定されない。例えば、顕微鏡を走査して移動テーブルに支持された試料を検査する検査装置において、移動テーブル及び顕微鏡を相対的に直線移動させる直線移動機構の動作精度が測定治具1及び白色干渉計40により割り出されても良い。
【0096】
測定治具1及び白色干渉計40を使用すると、支持テーブルと、作業ユニットと、を相対的に直線移動させる直線移動機構が組み込まれたあらゆる装置において、該直線移動機構の動作精度を割り出せる。そして、測定治具1及び白色干渉計40は、特定の装置に専属的に使用される必要はなく、直線移動機構の動作精度測定システムとして広く使用されてもよい。すなわち、本実施形態に係る測定治具1は、白色干渉計40ととともに動作精度測定システムを構成してもよい。
【0097】
この動作精度測定システムは、支持面を有し物体を支持する支持テーブルと、該支持テーブルで支持された物体に加工又は測定のいずれかの作業を実施する作業ユニットと、該作業ユニット及び該支持テーブルを相対的に送り方向に沿って直線移動させる直線移動機構と、を備える装置における該直線移動機構の動作精度を測定する。動作精度測定システムは、白色干渉計40と、測定治具1と、を含む。
【0098】
白色干渉計40は、該作業ユニットによる物体に対する作業が実施される該支持テーブル上の作業点を観測可能であり、該送り方向に垂直な方向に移動可能に該作業ユニットに接続される。測定治具1は、平面状の底面3と、底面3と対向し底面3と平行な平行面5と、直線状の境界線7を介して平行面5と接続し平行面5に対して傾斜した傾斜面9と、を有する。
【0099】
そして、境界線7を該送り方向に平行な方向に向けるとともに白色干渉計40の観測範囲に平行面5と傾斜面9とを同時に観測し得る位置に位置付けて測定治具1を該支持面に載置する。次に、該直線移動機構を作動させて該送り方向に該作業ユニット及び該支持テーブルを相対的に直線移動させながら白色干渉計40で測定治具1の平行面5及び傾斜面9の干渉縞の変化を観測する。そして、該干渉縞の変化に基づいて該直線移動機構の動作精度を割り出す。
【0100】
なお、上記実施形態では、白色干渉計40が広い波長領域に強度を有する白色光を測定治具1に照射して干渉縞を観測する場合について説明したが、白色干渉計40が測定治具1に照射する光は白色光に限定されない。例えば、単色光を用いた位相クロス法により、平行面5及び傾斜面9の各所の高さ、すなわち、各面の傾斜が検出されてもよい。
【0101】
また、干渉縞を観測するために白色干渉計40を用いる場合について説明したが、本発明の一態様はこれに限定されない。すなわち、白色干渉計40に代えてレーザ干渉計が使用されて干渉縞が観測されてもよい。
【0102】
さらに、上記実施形態では、測定治具1をテーブルベース8bに載せて測定治具1の上面を白色干渉計40で観測した際、傾斜面9だけでなく平行面5にも干渉縞が現れている場合に、白色干渉計40の向きを調整することについて説明した。しかしながら、この場合においても白色干渉計40の向きは必ずしも調整されなくてもよい。
【0103】
直線移動機構の動作精度を割り出しに重要な要素は、直線移動機構を作動させた際の白色干渉計40で観測される干渉縞の変化である。すなわち、白色干渉計40の向きが最初に調整されていなくても、直線移動機構の作動時の干渉縞の変化を適切に検出できるのであれば、直線移動機構の動作精度を適切に割り出せる。例えば、直線移動機構を作動させている間に平行面5で観測される干渉縞に変化がなければ、直線移動機構の動作精度が高いということが理解される。
【0104】
また、上記実施形態では、測定治具1の底面3と平行面5が高精度に平行である場合を例に説明したが、平行面5が底面3に対して傾いていてもよい。この場合においても、白色干渉計40で測定治具1の上面を観測した際に、平行面5が一様な明度とならず、傾斜面9のみならず平行面5にも干渉縞が現れる。しかしながら、直線移動機構を作動させる間における平行面5の干渉縞の変化に基づいて、直線移動機構の動作精度を割り出すこともできる。したがって、平行面5は、底面3に対して高精度に平行でなくてもよい。
【0105】
さらに、上記実施形態では、チャックテーブル8が取り外されたテーブルベース8bに載置されて測定治具1が使用される場合を例に説明したが、測定治具1はチャックテーブル8に載置されて使用されてもよい。例えば、テーブルベース8bを備えずチャックテーブル8が直線移動機構に直接的に接続された装置においては、チャックテーブル8の取り外しが容易でない場合がある。この場合、測定治具1は、チャックテーブル8の保持面8a上に載せられて使用される。
【0106】
また、テーブルベース8bを有する装置においても、測定治具1は、チャックテーブル8の保持面8a上に載せられて使用されてもよい。この場合、チャックテーブル8をテーブルベース8bから取り外すことなく測定治具1を使用できる上、直線移動機構の動作精度を割り出した後、測定治具1をチャックテーブル8から移動させるだけですぐに装置を使用できる。したがって、直線移動機構の動作精度の測定効率が高くなり、装置の稼働効率も高くなる。
【0107】
しかしながら、チャックテーブル(支持テーブル)8は、基本的に底面と保持面8aが平行となるように製造されているが、底面と保持面8aの傾きの精度やチャックテーブル8の厚み分布に一定のばらつきが存在する。そのため、チャックテーブル8の保持面8a上に測定治具1を載せたとき、チャックテーブル8の形状に起因して測定治具1の上面が傾く場合がある。そこで、上記実施形態の通り測定治具1をテーブルベース8bに載せて使用する場合、チャックテーブル8の形状に左右されることなく直線移動機構の動作精度を割り出せる。
【0108】
その他、上記実施形態に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0109】
1 測定治具
3 底面
5 平行面
7 境界線
9 傾斜面
2 切削装置(装置)
4 装置基台
6 X軸移動テーブル
8 チャックテーブル
8a 保持面
8b テーブルベース
10 クランプ
12 X軸ガイドレール
14 X軸ボールねじ
16 X軸パルスモータ
18 切削ユニット(作業ユニット)
18a 切削ブレード
18b スピンドルハウジング
18c スピンドル
20 排水路
22 支持構造
24 Y軸ガイドレール
26 Y軸移動プレート
28 Y軸ボールねじ
28a Y軸パルスモータ
30 Z軸ガイドレール
32 Z軸移動プレート
34 Z軸ボールねじ
36 Z軸パルスモータ
38 撮像ユニット
40 白色干渉計
40a 観測領域
42 制御ユニット
44 白色光源
46 第1レンズ
48 ビームスプリッター
50 干渉対物レンズ
50a リファレンスミラー
52 第2レンズ
54 アレイセンサー
56 白色光
56a,56b,56c,56d 写真
図1
図2
図3
図4
図5
図6