(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190869
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】有価金属の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22B 23/02 20060101AFI20221220BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20221220BHJP
C22B 5/10 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
C22B23/02
C22B7/00 C
C22B5/10
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099359
(22)【出願日】2021-06-15
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】山下 雄
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA07
4K001AA09
4K001AA10
4K001AA19
4K001BA22
4K001CA01
4K001CA02
4K001CA04
4K001DA05
4K001HA01
4K001HA09
4K001KA06
(57)【要約】
【課題】処理対象の原料に含まれる不純物、特に鉄を効果的にかつ効率的に分離して、有価金属を高い回収率で回収することができる方法を提供すること。
【解決手段】コバルト(Co)を含む有価金属を製造する方法であって、以下の工程;少なくとも鉄(Fe)及び有価金属を含む原料を準備する準備工程と、原料を加熱熔融して熔体にした後にその熔体を合金とスラグとを含む熔融物にする熔融工程と、熔融物からスラグを分離して有価金属を含む合金を回収するスラグ分離工程と、を有し、準備工程では原料中のFe/Coの質量比を0.5以下に制御し、熔融工程では原料を加熱熔融して得られるスラグ中のCo品位を1質量%以下とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルト(Co)を含む有価金属を製造する方法であって、以下の工程;
少なくとも鉄(Fe)及び有価金属を含む原料を準備する準備工程と、
前記原料を加熱熔融して熔体にした後に、該熔体を合金とスラグとを含む熔融物にする熔融工程と、
前記熔融物からスラグを分離して、有価金属を含む合金を回収するスラグ分離工程と、
を有し、
前記準備工程では、原料中のFe/Coの質量比を0.5以下に制御し、
前記熔融工程では、前記原料を加熱熔融して得られるスラグ中のCo品位を1質量%以下とする、
有価金属の製造方法。
【請求項2】
前記原料を加熱熔融して得られる合金中のFe品位は5質量%以下である、
請求項1に記載の有価金属の製造方法。
【請求項3】
前記原料は、廃リチウムイオン電池を含む、
請求項1又は2に記載の有価金属の製造方法。
【請求項4】
前記廃リチウムイオン電池に用いられている外装缶が鉄を含有する、
請求項3に記載の有価金属の製造方法。
【請求項5】
前記熔融工程において、前記熔体に酸化剤及び/又は還元剤を添加することによって前記スラグ中のCo品位を調整する、
請求項1乃至4のいずれかに記載の有価金属の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃リチウムイオン電池等の原料から有価金属を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、軽量で大出力の電池としてリチウムイオン電池が普及している。よく知られているリチウムイオン電池は、外装缶内に負極材と正極材とセパレータと電解液とを封入した構造を有している。ここで、外装缶は、鉄(Fe)やアルミニウム(Al)等の金属からなる。負極材は、負極集電体(銅箔等)に固着させた負極活物質(黒鉛等)からなる。正極材は、正極集電体(アルミニウム箔等)に固着させた正極活物質(ニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム等)からなる。セパレータは、ポリプロピレンの多孔質樹脂フィルム等からなる。電解液は、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)等の電解質を含む。
【0003】
リチウムイオン電池の主要な用途の一つに、ハイブリッド自動車や電気自動車がある。そのため、自動車のライフサイクルにあわせて、搭載されたリチウムイオン電池が将来的に大量に廃棄される見込みとなっている。また、製造中に不良品として廃棄されるリチウムイオン電池もある。このような使用済み電池や製造中に生じた不良品の電池(以下、「廃リチウムイオン電池」という)を資源として再利用することが求められている。
【0004】
再利用の手法として、従来、廃リチウムイオン電池を高温炉(熔融炉)で全量熔解する乾式製錬プロセスが提案されている。乾式製錬プロセスは、破砕した廃リチウムイオン電池を熔融処理に付し、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、及び銅(Cu)に代表される回収対象である有価金属と、鉄やアルミニウムに代表される付加価値の低い金属とを、それらの間の酸素親和力の差を利用して分離回収する手法である。この手法では、付加価値の低い金属については極力酸化してスラグとする一方で、有価金属はその酸化を極力抑制して合金として回収する。
【0005】
このように、酸素親和力の差を利用して有価金属を分離回収する乾式製錬プロセスでは、熔融処理時の酸化還元度のコントロールが非常に重要となる。すなわち、酸化還元度のコントロールが不十分であると、有価金属として回収するはずの合金に不純物が混入する、または、不純物として回収するはずのスラグに酸化した有価金属が取り込まれるといった問題が生じ、これが有価金属の回収率を低下させる。そのため、乾式製錬プロセスでは、熔融炉に空気や酸素等の酸化剤や還元剤を導入して酸化還元度をコントロールすることが従来から行われている。
【0006】
例えば、特許文献1には、リチウムイオン電池又は電池スクラップを含むチャージ中に存在するリチウムからコバルトを分離するためのプロセスに関して、バスへの酸素入力を調節して10-18~10-14atmの目標酸素圧力とすることが好ましい旨、上限の酸素圧力(10-14atm)によってスラグ中におけるコバルト酸化物の形成及び損失が排除され、また下限の酸素圧力(10-18atm)によってアルミニウム及び炭素等の元素の酸化が保証される旨が記載されている(請求項1及び[0018]等)。
【0007】
また、特許文献2には、ニッケルとコバルトを含有するリチウムイオン廃電池から有価金属を回収する方法に関して、予備酸化工程での処理における酸素量、酸化時間及び温度の調整等により、厳密な酸化度の調整が可能である旨、酸化度を調整することによってスラグ分離工程において酸化アルミニウムのほぼ全量をスラグとして分離できる旨、熔融工程において微小時間の追加酸化処理を行う旨、追加酸化工程によって微細に適切な酸化度の調整が可能となる旨、が記載されている(請求項1、[0033]、[0036]等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第6542354号公報
【特許文献2】特許第5853585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、乾式製錬プロセスでの有価金属回収では、不純物の除去方法として熔融処理時に空気や酸素等を導入して酸化還元度をコントロールすることが提案されているものの、有価金属と不純物の分離性という点で課題が残されている。すなわち、熔融工程における処理で酸化還元度(酸素分圧)をコントロールするだけでなく、装入物の組成も適切にコントロールする必要がある。
【0010】
例えば、廃リチウムイオン電池は、炭素(C)、アルミニウム(Al)、フッ素(F)、リン(P)、及び鉄(Fe)等の不純物を多量に含む。このうち鉄は、比較的還元されやすいという性質を有する。そのため、有価金属回収のために還元度を上げすぎると、本来は有価金属として回収するはずの合金に鉄が混入するおそれがある。一方で、還元度が過度に低いと、鉄を酸化してスラグとして除去できるものの、有価金属、特にコバルトが酸化されてしまい、これを合金として回収することができなくなる。このように、熔融工程での処理において、鉄とコバルトとを完全に分離するのは難しく、合金の品質とコバルトの回収率のどちらかを犠牲にしなければならなかった。
【0011】
上述した特許文献1の技術では、還元度が高いためコバルトの回収率は高いものの、鉄も多量に合金中に残留することになる。熔融工程での処理に持ち込まれる鉄の量がコバルトに対して大きい場合、コバルトの回収率を高めようとすると合金中に残留する鉄の量も多くなり、後工程で鉄を除去するための処理が必要でその処理コストも高くなる。また、特許文献2の技術では、熔融工程及びスラグ分離工程の後にさらに脱リン工程を設けるもので、その脱リン工程にて合金からのリンの分離を図っている(請求項1、[0039]~[0046])。このような手法によればリンの除去は可能となり、鉄についてもある程度は除去できるものの、その除去量は十分ではなく多量に合金中に残ってしまい、やはり後工程での除去処理の必要が生じ、コストも高くなる。
【0012】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、処理対象の原料に含まれる不純物、特に鉄を効果的にかつ効率的に分離して、有価金属を高い回収率で回収することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、コバルト(Co)に次いで還元され易い鉄(Fe)について、熔融工程での処理に装入して処理する装入物中のFe/Coの質量比を制限し、かつ熔融処理により得られるスラグ中のコバルト品位を制御することで、高いコバルト回収率を維持しながらメタル中の鉄品位を低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
(1)本発明の第1の発明は、コバルト(Co)を含む有価金属を製造する方法であって、以下の工程;少なくとも鉄(Fe)及び有価金属を含む原料を準備する準備工程と、前記原料を加熱熔融して熔体にした後に、該熔体を合金とスラグとを含む熔融物にする熔融工程と、前記熔融物からスラグを分離して、有価金属を含む合金を回収するスラグ分離工程と、を有し、前記準備工程では、原料中のFe/Coの質量比を0.5以下に制御し、前記熔融工程では、前記原料を加熱熔融して得られるスラグ中のCo品位を1質量%以下とする、有価金属の製造方法である。
【0015】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記原料を加熱熔融して得られる合金中のFe品位は5質量%以下である、有価金属の製造方法である。
【0016】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記原料は、廃リチウムイオン電池を含む、有価金属の製造方法である。
【0017】
(4)本発明の第4の発明は、第3の発明において、前記廃リチウムイオン電池に用いられている外装缶が鉄を含有する、有価金属の製造方法である。
【0018】
(5)本発明の第5の発明は、第1乃至第4のいずれかの発明において、前記熔融工程において、前記熔体に酸化剤及び/又は還元剤を添加することによって前記スラグ中のCo品位を調整する、有価金属の製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、処理対象の原料に含まれる不純物、特に鉄を効果的にかつ効率的に分離して、有価金属を高い回収率で回収することができる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】廃リチウムイオン電池から有価金属を製造する流れを示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0022】
≪1.有価金属の製造方法≫
本実施の形態に係る有価金属を製造する方法は、コバルト(Co)を含む有価金属を含有する原料からその有価金属を分離回収する方法である。したがって、有価金属の回収方法とも言い換えることができる。本実施の形態に係る方法は、主として乾式製錬プロセスによる方法であるが、乾式製錬プロセスと湿式製錬プロセスとから構成されていてもよい。
【0023】
具体的に、本実施の形態に係る方法は、以下の工程;少なくとも鉄(Fe)及び有価金属を含む装入物を原料として準備する工程(準備工程)と、準備した原料を加熱熔融して熔体にした後に、この熔体を合金とスラグとを含む熔融物にする工程(熔融工程)と、得られた熔融物からスラグを分離して、有価金属を含む合金を回収する工程(スラグ分離工程)と、を有する。そして、この方法では、準備工程において原料中のFe/Coの質量比を制限し、かつ熔融工程において、その原料を加熱熔融して得られるスラグ中のCo品位を制御することを特徴としている。
【0024】
ここで、有価金属は回収対象となるものであり、上述のように少なくともコバルト(Co)を含む。より具体的には、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)及びこれらの組み合わせからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属又は合金である。
【0025】
[準備工程]
準備工程では、有価金属を含む装入物を原料として準備する。原料である装入物は、有価金属を回収する処理対象となるものであり、不純物として少なくとも鉄(Fe)を含むことに加え、コバルト(Co)を含む有価金属を含有する。装入物は、これらの成分を金属や元素の形態で含んでもよく、あるいは酸化物等の化合物の形態で含んでもよい。また、装入物はこれらの成分以外の他の無機成分や有機成分を含んでいてもよい。
【0026】
本実施の形態に係る方法では、準備工程において、原料中のコバルト(Co)に対する鉄(Fe)の質量比(Fe/Co)を特定の範囲に制御する。具体的には、原料中のFe/Coの質量比を0.5以下に制御する。
【0027】
原料中のFe/Coの質量比が0.5より大きいと、後述する熔融工程での処理にてコバルトと鉄の分離が困難となり、熔融処理により得られる合金に含まれる鉄品位が大きくなる。準備工程においてFe/Coの質量比を制限することで、得られる合金中の鉄品位を低減することができる。具体的に、原料中のFe/Coの質量比の調整方法としては、特に限定されず、例えば、原料に対して破砕及び磁力選別等の処理を施して鉄を含む部材を除去することにより調整することができる。
【0028】
原料としては、特に限定されない。一例として、廃リチウムイオン電池、誘電材料又は磁性材料を含む電子部品、電子機器が挙げられる。また、後続する工程での処理に適したものであれば、その形態も限定されない。また、原料に対しては、粉砕処理等の処理を施して適した形態に調整してもよい。さらに、原料に対して熱処理や分別処理等の処理を施して水分や有機物等の不要成分を除去してもよい。
【0029】
[熔融工程]
熔融工程では、準備した原料(装入物)を熔融炉に装入し、加熱熔融の処理を施して熔体にした後に、その熔体を合金(メタル)とスラグとを含む熔融物にする。
【0030】
熔体は、合金とスラグとを熔融した状態で含んでいる。また、熔融物は、合金とスラグとをそれぞれが熔融した状態で含んでいる。合金は主として有価金属を含んで構成され、スラグは不純物元素をはじめとするその他の成分を含んで構成される。そのため、有価金属とその他の成分のそれぞれを、合金及びスラグとして分離することが可能となる。これは、付加価値の低い金属(Al等)は酸素親和力が高いのに対し、有価金属は酸素親和力が低いからである。
【0031】
例えば、アルミニウム(Al)、リチウム(Li)、炭素(C)、マンガン(Mn)、リン(P)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、及び銅(Cu)は、一般的に、Al>Li>C>Mn>P>Fe>Co>Ni>Cuの順に酸化されていく。つまり、アルミニウム(Al)が最も酸化され易く、銅(Cu)が最も酸化されにくい。そのため、付加価値の低い金属(Al等)は容易に酸化されてスラグになり、有価金属(Cu、Ni、Co)は還元されて合金になる。このようにして、有価金属と付加価値の低い金属とを、合金とスラグとの形態でそれぞれ分離することができる。
【0032】
ここで、上述した酸素親和力の関係の説明からわかるように、鉄(Fe)は、付加価値の低い不純物元素のなかでは比較的酸化され難く、言い換えると還元され易いものであり、その性質は有価金属であるコバルト(Co)と近似する。したがって、熔融工程での一般的な酸化還元のコントロールでは、鉄とコバルトとを十分に効果的に分離することが難しい。
【0033】
そこで、本実施の形態に係る方法では、上述したように、準備工程にて原料中のFe/Coの質量比を0.5以下に制限し、その原料を熔融工程での処理に装入する。そして、熔融工程では、その原料に対する加熱熔融の処理により得られるスラグ中のCo品位を還元度の指標とし、具体的にはスラグ中のCo品位が1質量%以下となるように還元度を制御する。これにより、高いCo回収率を維持しながら、得られる合金中のFeを低減することができ、その結果、有価金属を効率的に回収することが可能となる。
【0034】
還元度の制御は、得られるスラグをサンプリングしてCo品位を分析し、そのCo品位が1質量%以下であるか否かを判断することで行う。例えば、スラグ中のCo品位が1質量%を超えていれば、還元剤を添加することで還元度を高めるように制御する。スラグ中のCo品位を確認する方法としては、特に限定されず、例えば、スラグをサンプリングして粉砕し、蛍光X線分析装置にて確認する方法が挙げられる。また、スラグ中のCo品位と熔体中の酸素濃度との関係を予め確認しておき、酸素センサーにて熔体中の酸素濃度を測定してCo品位を確認するようにしてもよい。
【0035】
スラグ中のCo品位を指標にした還元度の制御において、還元度を高める(還元側に振る)方法、あるいは還元度を低くする(酸化側に振る)方法は、公知の方法で行えばよい。例えば、加熱熔融の処理に供される原料やそれが熔解した熔体に還元剤や酸化剤を導入する方法が挙げられる。還元剤としては、炭素品位の高い材料(黒鉛粉、黒鉛粒、石炭、コークス等)や一酸化炭素などを用いることができる。加熱熔融の処理に供される原料のうち炭素品位の高い成分を還元剤として用いることもできる。また、酸化剤としては、酸化性ガス(空気、酸素等)や炭素品位の低い材料を用いることができる。加熱熔融の処理に供される原料のうち炭素品位の低い成分を酸化剤として用いることもできる。
【0036】
また、還元剤や酸化剤の導入方法についても、公知の方法で行えばよい。例えば、還元剤や酸化剤が固体状物質である場合には、これを原料や熔体に投入して導入すればよい。還元剤や酸化剤がガス状物質である場合には、熔融炉に設けられたランス等の導入口からこれを吹き込んで導入すればよい。また、還元剤や酸化剤の導入タイミングについても、特に限定されず、例えば、加熱熔融の処理に供される原料を熔融炉内に投入する際に還元剤や酸化剤も併せて導入してもよく、あるいは原料が熔融して熔体になった段階で還元剤や酸化剤を導入してもよい。
【0037】
加熱熔融の処理に際しては、原料にフラックスを添加してもよい。フラックスを添加することで、熔融処理温度を低温化することができ、また不純物元素のリン(P)の除去をより一層進めることができる。フラックスとしては、不純物元素を取り込んで融点の低い塩基性酸化物を形成する元素を含むものであることが好ましい。例えば、リンは酸化すると酸性酸化物になるため、加熱熔融により形成されるスラグが塩基性になるほどそのスラグにリンを取り込ませて除去し易くなる。その中でも、安価であり常温において安定なカルシウム化合物を含むものがより好ましい。カルシウム化合物としては、例えば、酸化カルシウム(CaO)や炭酸カルシウム(CaCO3)を挙げることができる。
【0038】
原料を加熱熔融する際の加熱温度は、特に限定されないが、1300℃以上1600℃以下とすることが好ましい。加熱温度を1300℃以上にすることで、有価金属(例えば、Cu、Co、Ni)が十分に熔融し、流動性が高められた状態で合金を形成する。それにより、後述するスラグ分離工程にて合金とスラグとの分離を効率的に行うことが可能となる。また、加熱温度は1350℃以上とすることがより好ましい。一方で、加熱温度が1600℃を超えると、熱エネルギーが無駄に消費されるとともに、坩堝や炉壁等の耐火物の消耗が激しくなり、生産性が低下するおそれがある。
【0039】
[予備加熱工程]
必要に応じて、熔融工程の前に、原料を予備加熱(酸化焙焼)して予備加熱物(酸化焙焼物)にする工程(予備加熱工程)を設けてもよい。
【0040】
予備加熱工程(酸化焙焼工程)では、熔融工程に供される原料を予備加熱することによってその原料に含まれる炭素量を減少させる。このような予備加熱工程を設けることで、熔融工程に供される原料が炭素を過剰に含む場合であっても、その炭素を有効に酸化除去することができ、後続する熔融工程での加熱熔融の処理において有価金属の合金一体化を促進させることができる。
【0041】
より具体的には、熔融工程における加熱熔融の処理では、有価金属は還元されて局所的な熔融微粒子になるが、このとき、原料中の炭素が、熔融微粒子(有価金属)が凝集する際の物理的な障害になることがある。熔融微粒子の凝集一体化が妨げられると、生成する合金とスラグの分離を妨げ、有価金属の回収率の低下をもたらすことがある。これに対して、加熱熔融の処理に先立ち予備加熱工程にて原料を予備加熱して炭素を除去しておくことで、熔融微粒子の凝集一体化を効率的に進行させ、有価金属の回収率をより一層に高めることが可能になる。また、リンは比較的還元されやすい不純物元素であるため、原料中に炭素が過剰に存在すると、リンが還元されて有価金属と共に合金に取り込まれるおそれがある。その点においても、予備加熱によって原料中の過剰な炭素を予め除去しておくことで、合金へのリンの混入を防ぐことができる。
【0042】
なお、予備加熱の処理を行って得られる予備加熱物(酸化焙焼物)の炭素量としては1質量%未満となるようにすることが好ましい。
【0043】
また、予備加熱工程を設けることで、酸化のばらつきを抑えることもできる。予備加熱工程での予備加熱の処理は、熔融工程に供される原料に含まれる付加価値の低い金属(Al等)を酸化することが可能な酸化度で処理(酸化焙焼)を行うことが望ましい。一方で、予備加熱の処理温度、時間及び/又は雰囲気を調整することで、酸化度を容易に制御することができる。そのため、予備加熱の処理において、酸化度をより厳密に調整することができ、酸化のばらつきを抑制することができる。
【0044】
なお、酸化度の調整は、次のようにして行う。上述したように、アルミニウム(Al)、リチウム(Li)、炭素(C)、マンガン(Mn)、リン(P)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)及び銅(Cu)は、一般的に、Al>Li>C>Mn>P>Fe>Co>Ni>Cuの順に酸化されていく。予備加熱工程では、原料中にアルミニウム(Al)が含まれる場合には、そのAlの全量が酸化されるまで酸化を進行させる。鉄(Fe)の一部が酸化されるまで酸化を促進させてもよいが、コバルト(Co)が酸化されてスラグへ分配されることがない程度に酸化度を留めることが好ましい。
【0045】
予備加熱の処理は、酸化剤の存在下で行うことが好ましい。これにより、不純物元素である炭素(C)の酸化除去を効率的に行うことができる。また、その酸化剤としては、特に限定されないが、取り扱いが容易であるという点で、酸素含有ガス(空気、純酸素、酸素富化ガス等)が好ましい。また、酸化剤の導入量としては、例えば、酸化処理の対象となる各物質の酸化に必要な化学当量の1.2倍程度が好ましい。
【0046】
予備加熱の加熱温度は、700℃以上1100℃以下が好ましい。700℃以上であれば、炭素の酸化効率をより一層に高めることができ、酸化時間を短縮することができる。また、1100℃以下とすることで、熱エネルギーコストを抑制することができ、予備加熱の効率を高めることができる。また、予備加熱温度は、800℃以上であってもよく、900℃以下であってもよい。
【0047】
予備加熱の処理は、公知の焙焼炉を用いて行うことができる。また、後続する熔融工程での処理で使用する熔融炉とは異なる炉(予備炉)を用い、その予備炉内で行うことが好ましい。予備加熱炉として、処理対象の原料を焙焼しながら酸化剤(酸素等)を供給してその内部で酸化処理を行うことが可能な炉である限り、あらゆる形式の炉を用いることができる。一例して、従来公知のロータリーキルン、トンネルキルン(ハースファーネス)が挙げられる。
【0048】
[スラグ分離工程]
スラグ分離工程では、熔融工程での加熱熔融により得られた熔融物からスラグを分離して、有価金属を含む合金を回収する。熔融物において、合金とスラグとはその比重が異なる。そのため、合金に比べ比重の小さいスラグは合金の上部に集まり、比重分離によって容易にスラグを分離回収することができる。また、合金とスラグとを含む熔融物を鋳型等に排出し、その鋳型内で合金とスラグとの比重差により分離させ固化させた後、上側のスラグを取り除き、固化した合金を回収してもよい。
【0049】
なお、スラグ分離工程にてスラグを分離した後に、得られた合金を硫化する硫化工程や、得られた硫化物あるいは合金を粉砕する粉砕工程を設けてもよい。さらに、このような乾式製錬プロセスを経て得られた有価金属の合金に湿式製錬プロセスを施してもよい。湿式製錬プロセスにより、不純物成分をさらに除去して有価金属(例えばCu、Ni、Co)を分離精製し、それぞれを回収することができる。湿式製錬プロセスにおける処理としては、中和処理や溶媒抽出処理等の公知の手法が挙げられる。
【0050】
以上のように、本実施の形態に係る有価金属の製造方法では、準備工程において加熱熔融の処理に供する原料中のFe/Coの質量比を制限し、かつ熔融工程において得られるスラグ中のCo品位を制御して加熱熔融の処理を施すようにする。このような方法によれば、高いコバルト回収率を維持しながら、合金(メタル)中のFe品位を低減でき、有価金属をより効率的に回収することができる。具体的には、例えば、コバルト回収率を90%以上に維持しながら、合金のFe品位を5質量%以下にすることができる。
【0051】
ここで、「コバルト回収率」とは、最終的に得られる合金と、スラグに含まれるコバルトの含有量を用いて、下記(1)式に従って算出されるものである。
【数1】
【0052】
本実施の形態に係る方法において、その原料(装入物)としては、少なくともコバルト(Co)を含む有価金属を含有する限り、特に限定されないが、廃リチウムイオン電池を含む原料であることが好ましい。廃リチウムイオン電池は、リチウム(Li)及び有価金属(Cu、Ni、Co)を含むとともに、付加価値の低い金属(Al、Fe等)や炭素成分を含んでいる。そのため、廃リチウムイオン電池を含む原料を用いることで、有価金属を効率的に分離回収できる。なお、「廃リチウムイオン電池」とは、使用済みのリチウムイオン電池のみならず、電池を構成する正極材等の製造工程で生じた不良品、製造工程内部の残留物、発生屑等のリチウムイオン電池の製造工程内における廃材を含む概念である。そのため、廃リチウムイオン電池をリチウムイオン電池廃材と言うこともできる。
【0053】
以下では、廃リチウムイオン電池から有価金属を製造する方法について説明する。
【0054】
≪2.廃リチウムイオン電池からの有価金属の製造方法≫
図1は、廃リチウムイオン電池から有価金属を製造する方法の流れの一例を示す工程図である。
図1に示すように、この方法は、廃リチウムイオン電池の電解液及び外装缶を除去して廃電池内容物を得る工程(廃電池前処理工程S1)と、廃電池内容物を粉砕して粉砕物とする工程(粉砕工程S2)と、粉砕物を予備加熱して予備加熱物にする工程(予備加熱工程S3)と、予備加熱物を熔融して熔融物にする工程(熔融工程S4)と、熔融物からスラグを分離して合金を回収する工程(スラグ分離工程S5)を有する。また、図示していないが、スラグ分離工程S5の後に、得られた合金を硫化する硫化工程や得られた硫化物あるいは合金を粉砕する粉砕工程(第2粉砕工程)を設けてもよい。
【0055】
廃リチウムイオン電池には、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、銅(Cu)等の有価金属が含まれる。また、廃リチウムイオン電池には、例えば後述する外装缶の構成材料として鉄(Fe)を含んでいる。
図1に示した各工程での処理を経ることで、鉄をはじめとする不純物元素を分離しながら、効果的にそれら有価金属を回収することができる。
【0056】
[廃電池前処理工程、粉砕工程]
(廃電池前処理工程)
廃電池前処理工程S1は、廃リチウムイオン電池の爆発防止及び無害化、並びに外装缶の除去を目的に行われる。リチウムイオン電池は密閉系であるため、内部に電解液等を有している。そのため、そのままの状態で粉砕処理を行うと爆発のおそれがあり危険である。何らかの手法で放電処理や電解液除去処理を施すことが好ましい。
【0057】
また、リチウムイオン電池を構成する外装缶は、金属であるアルミニウム(Al)や鉄(Fe)から構成されることが多く、こうした金属製の外装缶は、そのまま回収することが比較的容易なものである。
【0058】
このように、廃電池前処理工程S1にて電解液や外装缶を除去することで、安全性を高めるとともに、有価金属(Cu、Ni、Co)の回収率を高めることができる。
【0059】
廃電池前処理の具体的な方法は、特に限定されない。例えば、針状の刃先で廃リチウムイオン電池を物理的に開孔し、電解液を除去する手法が挙げられる。また、廃リチウムイオン電池を加熱して、電解液を燃焼させて無害化する手法が挙げられる。
【0060】
廃電池前処理工程S1において、外装缶に含まれるアルミニウムや鉄を回収する場合には、除去した外装缶を粉砕した後に、その粉砕物を篩振とう機を用いて篩分けしてもよい。アルミニウムは軽度の粉砕で容易に粉状になるため、これを効率的に回収することができる。また、磁力選別によって、外装缶に含まれる鉄を回収してもよい。
【0061】
(粉砕工程)
粉砕工程S2では、廃リチウムイオン電池の内容物を粉砕して粉砕物を得る。この工程は、乾式製錬プロセスでの反応効率を高めることを目的にしている。反応効率を高めることで、有価金属(Cu、Ni、Co)の回収率を高めることができる。
【0062】
具体的な粉砕方法については、特に限定されない。カッターミキサー等の従来公知の粉砕機を用いて粉砕することができる。
【0063】
ここで、廃電池前処理工程S1、あるいは廃電池前処理工程S1及び粉砕工程S2は、上述した準備工程に相当する。すなわち、本実施の形態に係る方法では、原料中のコバルト(Co)に対する鉄(Fe)の質量比(Fe/Co)を0.5以下に制御することを特徴としている。このようにFe/Coの質量比を制限することで、後述する熔融工程S4での加熱熔融の処理を経て得られる合金(メタル)中の鉄品位を低減することができる。
【0064】
[予備加熱工程]
予備加熱工程(酸化焙焼工程)S3では、粉砕工程S2で得られた粉砕物を予備加熱(酸化焙焼)して予備加熱物(酸化焙焼物)を得る。この工程の詳細は上述したとおりであり、予備加熱工程にて予備加熱を行うことで、熔融工程S4に供される原料が炭素を過剰に含む場合であっても、その炭素を有効に酸化除去することができ、加熱熔融の処理において有価金属の合金一体化を促進させることができる。
【0065】
[熔融工程]
熔融工程S4では、予備加熱工程S3で得られた予備加熱物を熔融して熔融物を得る。この工程の詳細は上述したとおりである。
【0066】
特に、本実施の形態に係る方法では、Fe/Coの質量比を0.5以下とした原料を熔融炉内に装入して加熱熔融の処理に付し、その加熱熔融の処理により得られるスラグ中のCo品位を還元度の指標として、具体的にはスラグ中のCo品位が1質量%以下となるように還元度を制御することを特徴としている。これにより、高いCo回収率を維持しながら、得られる合金中のFeを低減することができ、その結果、有価金属を効率的に回収することが可能となる。
【0067】
[スラグ分離工程]
スラグ分離工程S5では、熔融工程S4で得られた熔融物からスラグを分離して合金(メタル)を回収する。この工程の詳細は先述したとおりであり、メタルとスラグとをその比重差によって容易に分離して回収することができる。
【0068】
なお、上述したように、スラグ分離工程S5後に硫化工程や粉砕工程を設けてもよい。また、回収した有価金属を含む合金に対して湿式製錬プロセスを行うことによって、各有価金属を分離精製してもよい。
【実施例0069】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0070】
(1)有価金属の製造
廃リチウムイオン電池を原料(装入物)として用い、以下の工程を順次実行して有価金属を製造した。
【0071】
[廃電池前処理工程、粉砕工程(準備工程)]
原料の廃リチウムイオン電池として、使用済み電池及び電池製造工程で回収した不良品を準備した。この廃リチウムイオン電池をまとめて塩水中に浸漬して放電させた後、水分を除去し、大気中260℃で焙焼することにより電解液を除去して電池内容物を得た。
【0072】
得られた電池内容物を粉砕機(商品名:グッドカッター、株式会社氏家製作所製)により粉砕して粉砕物を得た。得られた粉砕物から篩及び磁石により鉄を除去し、原料中のFe/Coの質量比を下記表1に示す所定の値となるように調整した。
【0073】
[予備加熱工程]
得られた粉砕物をロータリーキルンに投入し、大気中800℃で180分間の条件で予備加熱を行い、予備加熱物(加熱熔融の処理原料)を得た。
【0074】
[熔融工程]
予備加熱した粉砕物(加熱熔融の処理原料)に、フラックスとして酸化カルシウム(CaO)を添加し、さらに還元剤として黒鉛粉を添加して、これらを混合した。得られた混合物を容量1Lのアルミナ製坩堝に装入し、これを抵抗加熱によって1400℃の温度で加熱熔融して熔体とした。その後、熔融合金とスラグとを含む熔融物を得た。
【0075】
加熱熔融の際には、生成したスラグをサンプリングしてCo品位を分析し、そのCo品位が1質量%を超えていれば、還元剤を追加して還元度を制御する操作を行い、スラグ中のCo品位が1質量%以下となるようにした。
【0076】
[スラグ分離工程]
得られた熔融物から、比重差を利用してスラグを分離し、合金(メタル)を回収した。
【0077】
(2)評価
回収した合金(メタル)について、ICP分析装置(Agilent5100SUDV,アジレントテクノロジー株式会社製)を用いて元素分析を行った。有価金属であるニッケル(Ni)、コバルト(Co)、及び銅(Cu)と、メタルからの除去が難しい不純物である鉄(Fe)をその分析対象の元素とした。また、合金中の鉄の含有量(質量%)を鉄品位(Fe品位)とした。
【0078】
また、コバルトの回収率を次のようにして求めた。すなわち、元素分析により求めた合金及びスラグ中のコバルトの含有量を用いて、下記(1)式に従って算出した。
【数2】
【0079】
(3)結果
下記表1に、合金中のFe品位とCo回収率の結果を示す。
【0080】
【0081】
表1の結果からわかるように、実施例1~7は、Co回収率が90%以上であり、かつ合金中のFe品位が5質量%以下となり、高いCo回収率と合金中Fe品位の低減を両立することができた。
【0082】
一方で、比較例1では、Co回収率は高くなったものの、合金中Fe品位が5質量%を超える結果となった。このことは、原料中のFe/Coが高いため、高いCo回収率を目的として還元度を上げるとFeも還元され、その結果合金中Fe品位が高くなったと考えられる。また、比較例2、3では、合金中Fe品位は低減されたものの、Co回収率が90%を下回った。比較例2では、原料中のFe/Coが高いため、合金中Fe品位の低減を目的として還元度を下げるとCoの還元も進行せず、その結果Co回収率が低くなったと考えられる。比較例3でも、合金中Fe品位の低減を目的として還元度を下げるとCoの還元も進行せず、その結果Co回収率が低くなったと考えられる。