(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022190941
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池用正極、リチウム二次電池及びリチウム二次電池用正極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20221220BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20221220BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20221220BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/131
C01G53/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099484
(22)【出願日】2021-06-15
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】井上 将志
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AA04
4G048AB01
4G048AB02
4G048AC06
4G048AE05
5H050AA07
5H050AA08
5H050BA17
5H050CA08
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050GA02
5H050GA10
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA07
5H050HA10
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】初回充放電効率が大きく、高いサイクル維持率のリチウム二次電池を得ることができる正極活物質及び製造方法の提供。
【解決手段】リチウム二次電池用正極活物質の粒子表面のX線光電子分光法測定により得られるスペクトルにおいて、54.5±3.0eVにピークトップを有するLi元素に由来するピークを有し、前記Li元素に由来するピークを53.5±1.0eVにピークトップを有するピーク(A)と、55.5±1.0eVにピークトップを有するピーク(a)に波形分離したとき、前記ピーク(A)と、Ni元素に由来するピークと、元素Mに由来するピークとから算出される原子比率がLi(A)/(Ni+M)であり、窒素吸着法により測定されるリチウム二次電池用正極活物質のBET比表面積がPSであるとき、{Li(A)/(Ni+M)}/PSの値が0.4-2.6g/m
2である、リチウム二次電池用正極活物質。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ni元素及び元素Mを含有するリチウム金属複合酸化物と、リチウム化合物とを含むリチウム二次電池用正極活物質であって、
前記リチウム金属複合酸化物は、層状岩塩型構造を有し、
前記元素Mは、Co、Mn、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、B、Si、S及びPからなる群から選択される1種以上の元素を表し、
前記リチウム二次電池用正極活物質の粒子表面のX線光電子分光法測定により得られるスペクトルにおいて、54.5±3.0eVにピークトップを有するLi元素に由来するピークを有し、前記Li元素に由来するピークを53.5±1.0eVにピークトップを有するピーク(A)と、55.5±1.0eVにピークトップを有するピーク(a)に波形分離したとき、前記ピーク(A)と、前記Ni元素に由来するピークと、前記元素Mに由来するピークとから算出される原子比率がLi(A)/(Ni+M)であり、窒素吸着法により測定される前記リチウム二次電池用正極活物質のBET比表面積がPSであるとき、{Li(A)/(Ni+M)}/PSの値が0.4-2.6g/m2である、リチウム二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記リチウム二次電池用正極活物質5gと純水100gとを混合したスラリーをろ過して得られるろ液の中和滴定から求められるリチウム二次電池用正極活物質中の炭酸リチウムおよび水酸化リチウムに由来するLi元素の質量割合であるPT(Li)と、前記BET比表面積PSの比であるPT(Li)/PSの値が0.1-1.0質量%・g/m2であり、前記PT(Li)は、0.1Nの塩酸で前記ろ液のpHが4.5に至るまで滴定したときの0.1N塩酸の滴定量から求められる、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記PT(Li)の値が0.15-1質量%である、請求項2に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項4】
前記リチウム二次電池用正極活物質が組成式(I)で表される、請求項1~3の何れか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
Li[Lix(Ni(1-y-z)CoyXz)1-x]O2 (I)
(式(I)中、Xは、Mn、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、B、Si、S及びPからなる群から選択される1種以上の元素を表し、-0.1≦x≦0.2、0≦y≦0.2、0<z≦0.2、及びy+z≦0.3を満たす。)
【請求項5】
前記BET比表面積PSが0.3-2m2/gである、請求項1~4の何れか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項6】
前記Li元素に由来するピークと、前記Ni元素に由来するピークと、前記元素Mに由来するピークとから算出される原子比率Li/(Ni+M)が0.8-8である、請求項1~5の何れか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項7】
50%累積体積粒度が3-30μmである、請求項1~6の何れか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項8】
請求項1~7の何れか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質を含有するリチウム二次電池用正極。
【請求項9】
請求項8に記載のリチウム二次電池用正極を有するリチウム二次電池。
【請求項10】
Ni元素及び元素Mを含む金属複合化合物とリチウム化合物との第1の混合物を焼成して中間生成物を得る焼成工程と、
前記中間生成物と前記リチウム化合物を可溶な液体とを混合して第2の混合物を得る混合工程と、
前記第2の混合物から前記液体を蒸発させることによってリチウム二次電池用正極活物質を得る乾燥工程を有し、
前記元素Mは、Co、Mn、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、B、Si、S及びPからなる群から選択される1種以上の元素であり、
前記中間生成物のBET比表面積をIS、前記中間生成物に含まれる未反応のリチウム化合物の量をIT(Li)、前記乾燥工程後のリチウム二次電池用正極活物質のBET比表面積をPS、前記乾燥工程後のリチウム二次電池用正極活物質に含まれる未反応のリチウム化合物の量をPT(Li)としたとき、[PT(Li)/IT(Li)]/(PS/IS)の値が0.1-0.65である、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項11】
前記PT(Li)/IT(Li)の値が0.8-1.2である、請求項10に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項12】
前記液体が水及びアルコールの少なくとも一方を含む、請求項10または請求項11に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項13】
前記乾燥工程が、100-400℃で前記第2の混合物を加熱することを含む、請求項10~12の何れか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池用正極、リチウム二次電池及びリチウム二次電池用正極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム金属複合酸化物は、リチウム二次電池用正極活物質として用いられている。リチウム二次電池用正極活物質の製造方法は、前駆体である金属複合化合物とリチウム化合物との混合物を焼成する工程を含んでいる。焼成工程において金属複合化合物とリチウム化合物とが反応し、正極活物質が生成する。しかしながら、焼成工程において全てのリチウム化合物が反応せず、リチウム化合物の一部は未反応のまま残留することがある。
【0003】
特許文献1は、焼成によって得られたリチウムニッケル複合酸化物を水洗処理し、濾過及び乾燥してリチウムニッケル複合酸化物を得る方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示される洗浄方法では、リチウムニッケル複合酸化物に含まれる未反応のリチウム化合物が除去されるが、リチウムニッケル複合酸化物の結晶構造に含まれるリチウムも引き抜かれてしまう。よって、リチウムニッケル複合酸化物の結晶の表面部分でリチウムイオンの欠損が生じ、リチウム二次電池の正極活物質として使用した場合、電池の充放電の繰り返しによる容量劣化が進行しやすく、サイクル特性が低い傾向にある。
【0006】
一方、焼成工程後の正極活物質を洗浄しない場合、正極活物質の粒子内部及び粒子表面の何れにも未反応のリチウム化合物が残存する。このような正極活物質を使用したリチウム二次電池は、初回充放電効率が低い傾向にある。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、初回充放電効率が大きく、且つ高いサイクル維持率のリチウム二次電池を得ることができるリチウム二次電池用正極活物質及びこれを用いるリチウム二次電池用正極、リチウム二次電池及びリチウム二次電池用正極活物質の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]Ni元素及び元素Mを含有するリチウム金属複合酸化物と、リチウム化合物とを含むリチウム二次電池用正極活物質であって、前記リチウム金属複合酸化物は、層状岩塩型構造を有し、前記元素Mは、Co、Mn、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、B、Si、S及びPからなる群から選択される1種以上の元素を表し、前記リチウム二次電池用正極活物質の粒子表面のX線光電子分光法測定により得られるスペクトルにおいて、54.5±3.0eVにピークトップを有するLi元素に由来するピークを有し、前記Li元素に由来するピークを53.5±1.0eVにピークトップを有するピーク(A)と、55.5±1.0eVにピークトップを有するピーク(a)に波形分離したとき、前記ピーク(A)と、前記Ni元素に由来するピークと、前記元素Mに由来するピークとから算出される原子比率がLi(A)/(Ni+M)であり、窒素吸着法により測定される前記リチウム二次電池用正極活物質のBET比表面積がPSであるとき、{Li(A)/(Ni+M)}/PSの値が0.4-2.6g/m2である、リチウム二次電池用正極活物質。
[2]前記リチウム二次電池用正極活物質5gと純水100gとを混合したスラリーをろ過して得られるろ液の中和滴定から算出されるリチウム二次電池用正極活物質中の炭酸リチウムおよび水酸化リチウムに由来するLi元素の質量割合であるPT(Li)と、前記BET比表面積PSの比であるPT(Li)/PSの値が0.1-1.0質量%・g/m2であり、前記PT(Li)は、0.1Nの塩酸で前記ろ液のpHが4.5に至るまで滴定したときの0.1N塩酸の滴定量から求められる、[1]に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
[3]前記PT(Li)の値が0.15-1質量%である、[2]に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
[4]前記リチウム二次電池用正極活物質が組成式(I)で表される、[1]~[3]の何れか1つに記載のリチウム二次電池用正極活物質。
Li[Lix(Ni(1-y-z)CoyXz)1-x]O2 (I)
(式(I)中、Xは、Mn、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、B、Si、S及びPからなる群から選択される1種以上の元素を表し、-0.1≦x≦0.2、0≦y≦0.2、0<z≦0.2、及びy+z≦0.3を満たす。)
[5]前記BET比表面積PSが0.3-2m2/gである、[1]~[4]の何れか1つに記載のリチウム二次電池用正極活物質。
[6]前記Li元素に由来するピークと、前記Ni元素に由来するピークと、前記元素Mに由来するピークとから算出される原子比率Li/(Ni+M)が0.8-8である、[1]~[5]の何れか1つに記載のリチウム二次電池用正極活物質。
[7]50%累積体積粒度が3-30μmである、[1]~[6]の何れか1つに記載のリチウム二次電池用正極活物質。
[8][1]~[7]の何れか1つに記載のリチウム二次電池用正極活物質を含有するリチウム二次電池用正極。
[9][8]に記載のリチウム二次電池用正極を有するリチウム二次電池。
[10]Ni元素及び元素Mを含む金属複合化合物とリチウム化合物との第1の混合物を焼成して中間生成物を得る焼成工程と、前記中間生成物と前記リチウム化合物を可溶な液体とを混合して第2の混合物を得る混合工程と、前記第2の混合物から前記液体を蒸発させることによってリチウム二次電池用正極活物質を得る乾燥工程を有し、前記元素Mは、Co、Mn、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、B、Si、S及びPからなる群から選択される1種以上の元素であり、前記中間生成物のBET比表面積をIS、前記中間生成物に含まれる未反応のリチウム化合物の量をIT(Li)、前記乾燥工程後のリチウム二次電池用正極活物質のBET比表面積をPS、前記乾燥工程後のリチウム二次電池用正極活物質に含まれる未反応のリチウム化合物の量をPT(Li)としたとき、[PT(Li)/IT(Li)]/(PS/IS)の値が0.1-0.65である、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
[11]前記PT(Li)/IT(Li)の値が0.8-1.2である、[10]に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
[12]前記液体が水及びアルコールの少なくとも一方を含む、[10]または[11]に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
[13]前記乾燥工程が、100-400℃で前記第2の混合物を加熱することを含む、[10]~[12]の何れか1つに記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、初回充放電効率が大きく、且つ高いサイクル維持率のリチウム二次電池を得ることができるリチウム二次電池用正極活物質及びこれを用いるリチウム二次電池用正極、リチウム二次電池及びリチウム二次電池用正極活物質の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態の一態様における中間生成物の模式断面図である。
【
図2】本実施形態の一態様におけるリチウム二次電池用正極活物質の模式断面図である。
【
図3】本実施形態の一態様におけるリチウム二次電池の一例を示す概略構成図である。
【
図4】本実施形態の一態様における全固体リチウム二次電池の全体構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一態様におけるリチウム二次電池用正極活物質について説明する。以下の複数の実施形態では、好ましい例や条件を共有してもよい。また、本明細書において、各用語を以下に定義する。
【0012】
本願明細書において、金属複合化合物(Metal Composite Compound)を以下「MCC」と称し、リチウム金属複合酸化物(Lithium Metal composite Oxide)を以下「LiMO」と称し、リチウム二次電池用正極活物質(Cathode Active Material for lithium secondary batteries)を以下「CAM」と称す。
【0013】
「Ni」とは、ニッケル金属ではなく、ニッケル原子を指す。「Co」及び「Li」等も同様に、それぞれコバルト原子及びリチウム原子等を指す。
【0014】
数値範囲を例えば「1-10μm」又は「1~10μm」と記載した場合、1μmから10μmまでの範囲を意味し、下限値である1μmと上限値である10μmを含む数値範囲を意味する。
【0015】
「BET比表面積」は、BET(Brunauer,Emmett,Teller)法によって測定される値である。BET比表面積の測定では、吸着ガスとして窒素ガスを用いる。例えば、測定対象粉末1gを窒素雰囲気中、105℃で30分間乾燥させた後、BET比表面積計(例えば、マウンテック社製、Macsorb(登録商標))を用いて測定することができる(単位:m2/g)。
【0016】
「累積体積粒度」は、レーザー回折散乱法によって測定される値である。具体的には、測定対象、例えばCAMの粉末0.1gを、0.2質量%ヘキサメタりん酸ナトリウム水溶液50mlに投入し、前記粉末を分散させた分散液を得る。次に、得られた分散液についてレーザー回折散乱粒度分布測定装置(例えば、マイクロトラック・ベル株式会社製、マイクロトラックMT3300EXII)を用いて、粒度分布を測定し、体積基準の累積粒度分布曲線を得る。得られた累積粒度分布曲線において、微小粒子側から50%累積時の粒子径の値が50%累積体積粒度D50(μm)である。
【0017】
CAMの「組成」は、以下の方法で分析される。例えば、CAMを塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析装置(例えば、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、SPS3000)を用いて行うことができる。
【0018】
「初回充放電効率」とは、リチウム二次電池の1サイクル目の充放電における充電容量に対する放電容量の割合を意味する。
【0019】
「サイクル維持率」とは、特定の条件下でリチウム二次電池の充放電を所定の回数繰り返すサイクル試験を行った後の、リチウム二次電池の初期放電容量に対する、充放電を繰り返した後のリチウム二次電池の放電容量の割合を意味する。
本明細書においては、「サイクル維持率」を以下に示す条件で測定する。
<初回充放電>
対極(負極)にリチウム金属を用いたコインセルを作製し、以下の条件で充放電を行う。
処理温度:25℃
充電最大電圧4.3V、充電電流0.2CA、定電流定電圧充電
放電最小電圧2.5V、放電電流0.2CA、定電流放電
【0020】
<サイクル試験>
初回充放電試験の後、以下の条件で充放電を行うことを一回のサイクルとし、このサイクルを50回繰り返す試験を行う。
試験温度:25℃
充電最大電圧4.3V、充電電流0.5CA、定電流定電圧充電、0.05CA電流値にて終了
放電最小電圧2.5V、放電電流1CA、定電流放電
【0021】
50サイクル目の放電容量を1サイクル目の放電容量で割った値を算出し、この値をサイクル維持率(%)とする。
【0022】
<CAM>
本実施形態のCAMは、Ni元素及び元素Mを含有するLiMOと、リチウム化合物とを含むCAMであって、前記LiMOは、層状岩塩型構造を有し、前記元素Mは、Co、Mn、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、B、Si、S及びPからなる群から選択される1種以上の元素を表し、前記CAMの粒子表面のX線光電子分光法測定により得られるスペクトルにおいて、54.5±3.0eVにピークトップを有するLi元素に由来するピークを有し、前記Li元素に由来するピークを53.5±1.0eVにピークトップを有するピーク(A)と、55.5±1.0eVにピークトップを有するピーク(a)に波形分離したとき、前記前記ピーク(A)と、前記Ni元素に由来するピークと、前記元素Mに由来するピークとから算出される原子比率がLi(A)/(Ni+M)であり、窒素吸着法により測定される前記CAMのBET比表面積がPSであるとき、{Li(A)/(Ni+M)}/PSの値が0.4-2.6g/m2である。
【0023】
CAMは、Ni元素及び元素Mを含有するLiMOとリチウム化合物とを含む。元素Mは、Co、Mn、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、B、Si、S及びPからなる群から選択される1種以上の元素である。
【0024】
本実施形態におけるCAMは、複数の粒子の集合体である。言い換えれば、本実施形態におけるCAMは、粉末状である。本実施形態において、複数の粒子の集合体は、二次粒子のみを含んでいてもよく、一次粒子と二次粒子の混合物であってもよい。つまり、CAMは、LiMOの一次粒子と、リチウム化合物の一次粒子とが凝集している二次粒子を含んでいてもよい。
【0025】
本実施形態において、「一次粒子」とは、走査型電子顕微鏡などを用いて1000倍以上30000倍以下の視野にて観察した際に、外観上に粒界が存在しない粒子を意味する。
【0026】
本実施形態において、「二次粒子」とは、前記一次粒子が凝集している粒子である。即ち、二次粒子は一次粒子の凝集体である。
【0027】
CAMが含むLi元素としては、LiMOの結晶格子中に存在するLi元素と、未反応のリチウム化合物に由来するLi元素とが存在する。LiMOの結晶格子中に存在するLi元素と、未反応のリチウム化合物に由来するLi元素とは、X線光電子分光法(XPS)測定により分離して検出することができる。
【0028】
具体的には、X線光電子分光分析装置(例えば、ThermoFisher Scientific社製、K-Alpha)を用い、Li1sスペクトル、Ni2pスペクトル、及び元素Mの最外殻軌道のスペクトルを測定する。X線源には、AlKα線を用い、測定時には帯電中和のために中和銃(加速電圧0.3V、電流100μA)を使用してもよい。測定の条件としては、例えば、スポットサイズ=400μm、PassEnergy=50eV、Step=0.1eV、Dwelltime=500msとすることができる。
【0029】
本実施形態において、CAMの粒子表面をXPSにより測定したときに得られるLi1sスペクトルは、結合エネルギーが54.5±3eVの範囲にピークトップを有する。以下、54.5±3.0eVの範囲にピークトップを有するピークをピークXと記載することがある。本実施形態においては、ピークXを、53.5±1.0eVにピークトップを有し半値幅が1.0±0.2eVのピーク(A)と、55.5±1.0eVにピークトップを有し半値幅が1.5±0.3eVのピーク(a)とへ、波形分離する。
【0030】
ピーク(A)は、LiMOの結晶構造中に存在するLi元素に由来するピークであり、ピーク(a)は、CAMの粒子表面に存在するリチウム化合物に由来するピークであり、ピークXは、LiMOの結晶構造中に存在するLi元素及びCAMの粒子表面に存在するリチウム化合物に由来するピークである。リチウム化合物の例としては、炭酸リチウム及び水酸化リチウムが挙げられる。ここで、CAMの粒子表面とは、外部に露出した表面を意味する。
【0031】
本実施形態において、XPSの検出深さが検出対象の粒子表面から数nm~10nmであることより、ピーク(A)の大きさは、LiMOの二次粒子表面の結晶格子中に存在するLi元素の存在量に相当する。
【0032】
Ni元素に由来するピーク(以下、ピークYと記載することがある)とは、CAMの粒子表面をXPSにより測定したときに得られるNi2pスペクトルである。元素Mに由来するピーク(以下、ピークZと記載することがある)とは、CAMの粒子表面をXPSにより測定したときに得られる元素Mの最外殻軌道のスペクトルである。元素Mが複数である場合、ピークZは、その元素数と同数存在する。
【0033】
CAMの粒子表面のXPS測定により得られるスペクトルにおいて54.5±3.0eVにピークトップを有するLi元素に由来するピークXと、Ni元素に由来するピークYと、元素Mに由来するピークZは、以下の方法により算出することができる。
【0034】
Li元素の原子濃度は、ピークX~Zの各ピーク面積と各元素の感度係数を用いて、全元素中のLi元素の濃度を相対値として算出することで求められる。Ni元素の原子濃度は、ピークX~Zの各ピーク面積と各元素の感度係数を用いて、全元素中のNi元素の濃度を相対値として算出することで求められる。元素Mの原子濃度は、ピークX~Zの各ピーク面積と各元素の感度係数を用いて、全元素中の元素Mの濃度を相対値として算出することで求められる。
【0035】
本実施形態においてピークX~Zの面積は、下記の方法に求められる山状部分の面積をいう。
ピークXの面積:ピークXの左右両側の最下点を結ぶ線とピークXの曲線との間に形成される山状部分の面積
ピークYの面積:ピークYの左右両側の最下点を結ぶ線とピークYの曲線との間に形成される山状部分の面積
ピークZの面積:ピークZの左右両側の最下点を結ぶ線とピークZの曲線との間に形成される山状部分の面積
【0036】
XPSで測定されるLiMOの二次粒子表面の結晶格子中に存在するLi元素に由来するピーク(A)と、Ni元素に由来するピークYと、元素Mに由来するピークZとから算出される原子比率Li(A)/(Ni+M)とBET比表面積PSとの比である{Li(A)/(Ni+M)}/PSは、0.4-2.6g/m2であり、1.0-2.6g/m2であることが好ましく、1.5-2.5g/m2であることがより好ましい。{Li(A)/(Ni+M)}/PSが0.4-2.6g/m2であると、二次粒子表面のLiMOの結晶格子中のLiの欠損が少なく、かつBET比表面積の増加が生じていると考えられる。その結果、洗浄によるサイクル維持率の低下を抑制するとともに、初期容量の増加を達成することができる。
【0037】
{Li(A)/(Ni+M)}/PSが0.4-2.6g/m2であることで上述の効果が得られる理由について説明する。なお、以下に説明される内容は、あくまで推定によるものであり、本発明は、以下の説明に限定して解釈されない。
【0038】
詳細は後述するが、CAMの製造方法は、Ni元素及び元素Mを含むMCCとリチウム化合物とを混合して第1の混合物を得た後、第1の混合物を焼成して中間生成物とし、中間生成物を液体と混合するという工程を含む。焼成する工程においてNi元素及び元素Mを含むMCCとリチウム化合物とが反応し、LiMOが生成するが、焼成工程後の中間生成物は、未反応のリチウム化合物も含有している。
【0039】
図1は、本実施形態の一態様における中間生成物の模式断面図である。
図2は、本実施形態の一態様におけるCAMの模式断面図である。
図1に示す焼成工程後の中間生成物40は、リチウム化合物42を含んでいる。リチウム化合物42は、中間生成物40の粒子内部、具体的にはLiMOの一次粒子41同士の間、及び中間生成物40の粒子表面に存在する。破線は、中間生成物40のBET比表面積に寄与する領域を示している。
【0040】
中間生成物40と、リチウム化合物42を可溶な液体とを混合すると、中間生成物40の粒子内部に存在しているリチウム化合物42の一部が液体に溶解し、粒子表面側に移動すると考えられる。
図1には、リチウム化合物42が移動する様子を模式的に矢印で示す。その結果、二次粒子内部に空隙が生じ、
図2に示す通り、中間生成物40と比較してCAM50のBET比表面積が大きくなる。そのためリチウムイオンの挿入及び脱離反応面積が大きくなり、リチウム二次電池の初期容量が大きくなる。
【0041】
加えて、本実施形態のCAMは、液体との混合工程後に液体の濾過を行うことなく乾燥させられる。そのため、リチウム化合物とともにLiMOの結晶格子中に存在するLi元素が流出するのを抑制することができる。つまり、LiMOの結晶格子中に存在するLi元素の欠損が抑えられる。このようなCAMを用いたリチウム二次電池は、サイクル特性の低下が抑制される。
【0042】
CAMのBET比表面積PSは、0.3-2m2/gであることが好ましく、0.35-1m2/gであることがより好ましい。CAMのBET比表面積PSが0.3m2/g以上であると、リチウムイオンの挿入及び脱離反応面積が大きくなり、リチウム二次電池の初期容量が大きくなる。CAMのBET比表面積PSが2m2/g以下であると、一次粒子間の間隙が少ないために一次粒子間の接触により導電しやすく、初期容量を大きくできる。
【0043】
XPSにより測定されるLiMOの二次粒子表面の結晶格子中に存在するLi元素に由来するピーク(A)と、Ni元素に由来するピークYと、元素Mに由来するピークZとから算出される原子比率Li(A)/(Ni+M)の値は、0.5-2.0であることが好ましく、1.0-1.9であることがより好ましい。Li(A)/(Ni+M)が0.5以上であると、洗浄によって生じうる粒子表面のLiMOの結晶格子中のLi欠損が少ないと考えられる。その結果、洗浄によるサイクル維持率の低下を抑制することができる。Li(A)/(Ni+M)が2.0以下であると、粒子表面に充放電に利用できるLi元素が適度に存在するために初回充放電効率が向上する。
【0044】
LiMOの結晶構造中に存在するLi元素とCAMの粒子表面に存在するリチウム化合物に由来するLi元素と、Ni元素と、元素Mの原子比率であるLi/(Ni+M)は、XPSにより測定されるピークXと、ピークYと、ピークZとから算出される。Li/(Ni+M)は、0.8-8であることが好ましく、1.5-7.8であることがさらに好ましく、2.0-7.5であることが特に好ましい。Li/(Ni+M)が0.6以上であると、LiMOの粒子表面にLi元素が多く存在するために、充放電に伴うLi欠損が生じにくいと考えられる。その結果、サイクル維持率の低下を抑制することができる。Li/(Ni+M)が8以下であると、粒子表面に充放電に利用できるLi元素が適度に存在するために初回充放電効率が向上する。
【0045】
また、CAMに含まれる未反応のリチウム化合物に由来するLi元素の質量割合であるPT(Li)と、CAMのBET比表面積PSとの比であるPT(Li)/PSの値が0.1-1.0質量%・g/m2であることが好ましく、0.3-0.8質量%・g/m2であることが好ましい。PT(Li)/PSの値が0.1質量%・g/m2以上であると、CAMの粒子表面においてLiの欠損が生じていないといえる。PT(Li)/PSの値が1.0質量%・g/m2以下であると、リチウム二次電池使用時における未反応のリチウム化合物によるガスの発生を抑制することができる。
【0046】
PT(Li)の値は、0.15-1質量%が好ましく、0.18-0.9質量%がより好ましく、0.2-0.8質量%が特に好ましい。PT(Li)の値が前記範囲内であると、未反応のリチウム化合物によりCAM中のLiMO表面が被覆された状態となるため、LiMOの粒子表面のLi元素の欠損が抑制される。
【0047】
PT(Li)は、以下の中和滴定法により定量することができる。CAM5gと純水100gとを混合してスラリーを得る。スラリーをろ過して得られるろ液に対し、pH4.5となるまで、0.1N塩酸を滴下する。pH(測定温度:25℃)が8.3、及びpH4.5に至るまでに要した0.1N塩酸の滴定量を用い、塩酸と反応するリチウム化合物が水酸化リチウムおよび炭酸リチウムであると仮定し、ろ液中のリチウム量を算出することで、CAMに含まれる未反応リチウム化合物中のLi元素の質量割合であるPT(Li)を求める。
【0048】
CAMの50%累積体積粒度(以下D50と記載する場合がある)は、3-30μmであり、5-25μmであることが好ましく、7-23μmがより好ましく、8-20μmがさらに好ましい。CAMのD50が3-30μmであると、CAMのかさ密度を大きくすることができる。このようなCAMを用いると、CAMの充填密度が高くなる。そのため、正極に含まれるCAMと導電材粒子との接触面積の増大により導電性が向上し、リチウム二次電池の直流抵抗を低下させることができる。
【0049】
CAMは、Li元素及びNi元素と元素Mを含有するLiMOと、リチウム化合物とを含む。例えば、CAMは、以下の組成式(I)で表される。
Li[Lix(Ni(1-y-z)CoyXz)1-x]O2 (I)
(式(I)中、Xは、Mn、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、B、Si、S及びPからなる群から選択される1種以上の元素を表し、-0.1≦x≦0.2、0≦y≦0.2、0<z≦0.2、及びy+z≦0.3を満たす。)
【0050】
サイクル維持率が高いリチウム二次電池を得る観点から、前記式(I)におけるxは、-0.1以上であり、-0.05以上であることが好ましく、0を超えることがより好ましく、0.02以上であることがさらに好ましい。また、初回クーロン効率がより高いリチウム二次電池を得る観点から、前記式(I)におけるxは、0.2以下であり、0.08以下であることが好ましく、0.06以下であることがより好ましい。
【0051】
xの上限値と下限値は、任意に組み合わせることができる。組み合わせとしては、例えば、xが-0.1~0.2、0を超え0.2以下、-0.05~0.08、0を超え0.06以下等であることが挙げられる。
【0052】
電池の内部抵抗が低いリチウム二次電池を得る観点から、前記式(I)におけるyは、0以上であり、0.005以上であることが好ましく、0.01以上であることがより好ましく、0.05以上であることがさらに好ましい。前記式(I)におけるyは0.2以下であり、0.18以下であることが好ましく、0.15以下であることがより好ましい。
【0053】
yの上限値と下限値は、任意に組み合わせることができる。組み合わせとしては、例えば、yが0~0.2、0.005~0.18、0.01~0.18、0.05~0.15等であることが挙げられる。
【0054】
サイクル維持率が高いリチウム二次電池を得る観点から、前記式(I)におけるzは、0より大きく、0.01以上であることが好ましく、0.02以上であることがより好ましい。また、前記式(I)におけるzは、0.2以下であり、0.1以下であることが好ましく、0.05以下であることがより好ましい。
【0055】
zの上限値と下限値は、任意に組み合わせることができる。組み合わせとしては、例えば、zは、0より大きく0.2以下、0.01~0.1、0.02~0.05等であることが挙げられる。
【0056】
前記式(I)におけるy+zの値は、初期容量が高いリチウム二次電池を得る観点から、0.3以下が好ましく、0.25以下がより好ましく、0.2以下がさらに好ましい。y+zの値は、充放電サイクルを繰り返した後の電池の抵抗増加を抑制する観点から、0.01以上が好ましく、0.02以上がより好ましく、0.05以上がさらに好ましい。
【0057】
y+zの値の上限値と下限値は、任意に組み合わせることができる。組み合わせとしては、0.01~0.3、0.02~0.25、0.05~0.2等であることが挙げられる。
【0058】
サイクル維持率が高いリチウム二次電池を得る観点から、Xは、Mn、Ti、Mg、Al、W、B、Nb、及びZrからなる群より選択される1種以上の金属であることが好ましく、Mn、Al、W、B、Nb、及びZrからなる群より選択される1種以上の金属であることがより好ましい。
【0059】
LiMOの結晶構造は、層状岩塩型構造であり、六方晶型の結晶構造又は単斜晶型の結晶構造であることがより好ましい。
【0060】
六方晶型の結晶構造は、P3、P31、P32、R3、P-3、R-3、P312、P321、P3112、P3121、P3212、P3221、R32、P3m1、P31m、P3c1、P31c、R3m、R3c、P-31m、P-31c、P-3m1、P-3c1、R-3m、R-3c、P6、P61、P65、P62、P64、P63、P-6、P6/m、P63/m、P622、P6122、P6522、P6222、P6422、P6322、P6mm、P6cc、P63cm、P63mc、P-6m2、P-6c2、P-62m、P-62c、P6/mmm、P6/mcc、P63/mcm、及びP63/mmcからなる群から選ばれるいずれか一つの空間群に帰属される。
【0061】
また、単斜晶型の結晶構造は、P2、P21、C2、Pm、Pc、Cm、Cc、P2/m、P21/m、C2/m、P2/c、P21/c、及びC2/cからなる群から選ばれるいずれか一つの空間群に帰属される。
【0062】
これらのうち、放電容量が高いリチウム二次電池を得るため、結晶構造は、空間群R-3mに帰属される六方晶型の結晶構造、又はC2/mに帰属される単斜晶型の結晶構造であることが特に好ましい。
【0063】
以上の通り説明したCAMは、粒子表面におけるLiMOの結晶格子内のLi元素の欠損が抑えられ、且つBET比表面積が大きい。その結果、リチウムイオンの挿入及び脱離反応面積が大きくなり、初回充放電効率が大きいと共に、サイクル維持率の低下が抑制されたリチウム二次電池を達成することができる。
【0064】
<リチウム二次電池用正極活物質の製造方法>
本実施形態のCAMの製造方法は、Ni元素及び元素Mを含むMCCとリチウム化合物との第1の混合物を焼成して中間生成物を得る焼成工程と、前記中間生成物と前記リチウム化合物を可溶な液体とを混合して第2の混合物を得る混合工程と、前記第2の混合物から前記液体を蒸発させることによってCAMを得る乾燥工程を有し、元素Mは、Co、Mn、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、B、Si、S及びPからなる群から選択される1種以上の元素であり、前記中間生成物のBET比表面積をIS、前記中間生成物に含まれる未反応のリチウム化合物の量をIT(Li)、前記乾燥工程後のCAMのBET比表面積をPS、前記乾燥工程後のCAMに含まれる未反応のリチウム化合物の量をPT(Li)としたとき、[PT(Li)/IT(Li)]/(PS/IS)の値が0.1-0.65である。
【0065】
CAMの製造方法は、さらにMCCの製造工程及びMCCとリチウム化合物との混合工程を含んでいてもよい。
【0066】
本実施形態のCAMの製造法について、MCCの製造工程及びMCCとリチウム化合物との混合工程も含め、以下に説明する。
【0067】
(1)MCCの製造
MCCは、金属複合水酸化物、金属複合酸化物、及びこれらの混合物のいずれであってもよい。金属複合水酸化物及び金属複合酸化物は、一例として下記式(I’)で表されるモル比率で、Ni、Co、及びXを含む。
Ni:Co:X=(1-y-z):y:z (I’)
(式(I’)中、Xは、Mn、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、B、Si、S及びPからなる群から選択される1種以上の元素を表し、0≦y≦0.2、0<z≦0.2、及びy+z≦0.3を満たす。)
【0068】
以下、Ni、Co及びAlを含むMCCの製造方法を一例として説明する。まず、Ni、Co及びAlを含む金属複合水酸化物を調製する。金属複合水酸化物は、通常公知のバッチ式共沈殿法又は連続式共沈殿法により製造することが可能である。
【0069】
具体的には、JP-A-2002-201028に記載された連続式共沈殿法により、ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、アルミニウム塩溶液及び錯化剤を反応させ、Ni(1-y-z)CoyAlz(OH)2で表される金属複合水酸化物を製造する。
【0070】
ニッケル塩溶液の溶質であるニッケル塩としては、特に限定されないが、例えば硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、塩化ニッケル及び酢酸ニッケルのうちの少なくとも1種を使用することができる。
【0071】
コバルト塩溶液の溶質であるコバルト塩としては、例えば硫酸コバルト、硝酸コバルト、塩化コバルト及び酢酸コバルトのうちの少なくとも1種を使用することができる。
【0072】
アルミニウム塩溶液の溶質であるアルミニウム塩としては、例えば硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム及び酢酸アルミニウムのうちの少なくとも1種を使用することができる。
【0073】
以上の金属塩は、上記Ni(1-y-z)CoyAlz(OH)2の組成比に対応する割合で用いられる。すなわち、上記金属塩を含む混合溶液中におけるNi、Co及びAlのモル比が、CAMの組成式(I)の(1-y-z):y:zと対応するように各金属塩の量を規定する。また、溶媒として水が使用される。
【0074】
錯化剤としては、水溶液中で、ニッケルイオン、コバルトイオン及びアルミニウムイオンと錯体を形成可能なものであり、例えばアンモニウムイオン供給体(水酸化アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、又は弗化アンモニウム等)、ヒドラジン、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸及びウラシル二酢酸及びグリシンが挙げられる。
【0075】
金属複合水酸化物の製造工程において、錯化剤は、用いられてもよく、用いられなくてもよい。錯化剤が用いられる場合、ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、アルミニウム塩溶液及び錯化剤を含む混合液に含まれる錯化剤の量は、例えば金属塩(ニッケル塩、コバルト塩及びアルミニウム塩)のモル数の合計に対するモル比が0より大きく2.0以下である。
【0076】
共沈殿法に際しては、ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、アルミニウム塩溶液、及び錯化剤を含む混合液のpH値を調整するため、混合液のpHがアルカリ性から中性になる前に、混合液にアルカリ金属水酸化物を添加する。アルカリ金属水酸化物とは、例えば水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムである。
【0077】
なお、本明細書におけるpHの値は、混合液の温度が40℃の時に測定された値であると定義する。混合液のpHは、反応槽からサンプリングした混合液の温度が、40℃になったときに測定する。サンプリングした混合液が40℃未満である場合には、混合液を40℃まで加温してpHを測定する。サンプリングした混合液が40℃を超える場合には、混合液を40℃まで冷却してpHを測定する。
【0078】
上記ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、及びアルミニウム塩溶液のほか、錯化剤を反応槽に連続して供給すると、Ni、Co及びAlが反応し、Ni(1-y-z)CoyAlz(OH)2が生成する。
【0079】
反応に際しては、反応槽の温度を、例えば20-80℃、好ましくは30-70℃の範囲内で制御する。
【0080】
また、反応に際しては、反応槽内のpH値を、例えばpH9-13の範囲内で制御する。
【0081】
反応槽内で形成された反応沈殿物を攪拌しながら中和する。反応沈殿物の中和の時間は、例えば1-20時間である。
【0082】
連続式共沈殿法で用いる反応槽は、形成された反応沈殿物を分離するためオーバーフローさせるタイプの反応槽を用いることができる。
【0083】
バッチ式共沈殿法により金属複合水酸化物を製造する場合、反応槽としては、オーバーフローパイプを備えない反応槽、及びオーバーフローパイプに連結された濃縮槽を備え、オーバーフローした反応沈殿物を濃縮槽で濃縮し、再び反応槽へ循環させる機構を有する装置等が挙げられる。
【0084】
各種気体、例えば、窒素、アルゴン又は二酸化炭素等の不活性ガス、空気又は酸素等の酸化性ガス、又はそれらの混合ガスを反応槽内に供給してもよい。
【0085】
以上の反応後、中和された反応沈殿物を単離する。単離には、例えば反応沈殿物を含むスラリー(つまり、共沈物スラリー)を遠心分離や吸引ろ過などで脱水する方法が用いられる。
【0086】
単離された反応沈殿物を洗浄、脱水、乾燥及び篩別し、Ni、Co及びAlを含む金属複合水酸化物が得られる。
【0087】
反応沈殿物の洗浄は、水又はアルカリ性洗浄液で行うことが好ましい。本実施形態においては、アルカリ性洗浄液で洗浄することが好ましく、水酸化ナトリウム水溶液で洗浄することがより好ましい。また、硫黄元素を含有する洗浄液を用いて洗浄してもよい。硫黄元素を含有する洗浄液としては、カリウムやナトリウムの硫酸塩水溶液等が挙げられる。
【0088】
MCCが金属複合酸化物である場合、金属複合水酸化物を加熱して金属複合酸化物を製造する。具体的には、金属複合水酸化物を400-700℃で加熱する。必要ならば複数の加熱工程を実施してもよい。本明細書における加熱温度とは、加熱装置の設定温度を意味する。複数の加熱工程を有する場合、各加熱工程のうち、最高保持温度で加熱した際の温度を意味する。
【0089】
加熱温度は、400-700℃であることが好ましく、450-680℃であることがより好ましい。加熱温度が400-700℃であると、金属複合水酸化物が十分に酸化され、かつ適切な範囲のBET比表面積を有する金属複合酸化物が得られる。加熱温度が400℃未満であると、金属複合水酸化物が十分に酸化されないおそれがある。加熱温度が700℃を超えると、金属複合水酸化物が過剰に酸化され、金属複合酸化物のBET比表面積が小さくなり過ぎるおそれがある。
【0090】
前記加熱温度で保持する時間は、0.1-20時間が挙げられ、0.5-10時間が好ましい。前記加熱温度までの昇温速度は、例えば、50-400℃/時間である。また、加熱雰囲気としては、大気、酸素、窒素、アルゴン又はこれらの混合ガスを用いることができる。
【0091】
加熱装置内は、適度な酸素含有雰囲気であってもよい。酸素含有雰囲気は、不活性ガスと酸化性ガスとの混合ガス雰囲気であってもよく、不活性ガス雰囲気下で酸化剤を存在させた状態であってもよい。加熱装置内が適度な酸素含有雰囲気であることにより、金属複合水酸化物に含まれる遷移金属が適度に酸化され、金属複合酸化物の形態を制御しやすくなる。
【0092】
酸素含有雰囲気中の酸素や酸化剤は、遷移金属を酸化させるために十分な酸素原子が存在すればよい。
【0093】
酸素含有雰囲気が不活性ガスと酸化性ガスとの混合ガス雰囲気である場合、加熱装置内の雰囲気の制御は、加熱装置内に酸化性ガスを通気させる又は混合液に酸化性ガスをバブリングするなどの方法で行うことができる。
【0094】
酸化剤として、過酸化水素などの過酸化物、過マンガン酸塩などの過酸化物塩、過塩素酸塩、次亜塩素酸塩、硝酸、ハロゲン又はオゾンなどを使用できる。
【0095】
以上の工程により、MCCを製造することができる。
【0096】
(2)MCCとリチウム化合物との混合
本工程は、Ni元素及び元素Mを含む(この説明においてMはCo及びAlである)MCCとリチウム化合物とを混合し、第1の混合物を得る工程である。
【0097】
前記MCCを乾燥させた後、リチウム化合物と混合する。MCCの乾燥後に、適宜分級を行ってもよい。
【0098】
本実施形態に用いるリチウム化合物は、炭酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、水酸化リチウム、酸化リチウム、塩化リチウム及びフッ化リチウムの少なくとも何れか一つを使用することができる。これらの中では、水酸化リチウム及び炭酸リチウムのいずれか一方又はその混合物が好ましい。また、水酸化リチウムが炭酸リチウムを含む場合には、水酸化リチウム中の炭酸リチウムの含有量は、5質量%以下であることが好ましい。
【0099】
リチウム化合物とMCCとを、最終目的物の組成比を勘案して混合し、第1の混合物を得る。具体的には、リチウム化合物とMCCは、上記組成式(I)の組成比に対応する割合で混合する。MCCに含まれる金属原子の合計量1に対するLiの量(モル比)は、0.98以上が好ましく、1.04以上がより好ましく、1.05以上が特に好ましい。第1の混合物を、後に説明するように焼成することによって、焼成物が得られる。MCCに含まれる金属原子の合計量1に対するLiの量(モル比)の上限値としては、1.20以下が好ましく、1.10以下がより好ましい。
【0100】
(3)第1の混合物の焼成
本工程は、第1の混合物を焼成して中間生成物を得る焼成工程(以下、焼成工程と称することがある)である。
【0101】
焼成温度は、特に制限はないが、例えば650-900℃であることが好ましく、680-850℃であることがより好ましく、700℃-820℃であることが特に好ましい。焼成温度が650℃以上であると、強固な結晶構造を有するCAMを得ることができる。また、焼成温度が900℃以下であると、CAMの粒子表面のリチウムイオンの揮発を低減できる。
【0102】
本明細書における焼成温度とは、焼成炉内雰囲気の温度を意味し、かつ本焼成工程での保持温度の最高温度(以下、最高保持温度と呼ぶことがある)であり、複数の加熱工程を有する本焼成工程の場合、各加熱工程のうち、最高保持温度で加熱した際の温度を意味する。焼成温度の上記上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
【0103】
焼成における保持時間を調整することにより、得られるCAMの一次粒子径を本実施形態の好ましい範囲に制御できる。保持時間が長くなればなるほど、一次粒子径は大きくなり、BET比表面積は小さくなる傾向にある。焼成における保持時間は、用いる遷移金属元素の種類及び沈殿剤の種類及び量に応じて適宜調整すればよい。
【0104】
具体的には、焼成における保持時間は、3-50時間が好ましく、4-20時間がより好ましい。焼成における保持時間が50時間を超えると、リチウムイオンの揮発によって実質的に電池性能が悪くなる傾向となる。焼成における保持時間が3時間より少ないと、結晶の発達が悪く、電池性能が悪くなる傾向となる。なお、上記の焼成の前に、仮焼成を行うことも有効である。仮焼成の温度は、300-850℃の範囲で、1-10時間で行うことが好ましい。
【0105】
本実施形態において、最高保持温度に達する加熱工程の昇温速度は80℃/時間以上が好ましく、100℃/時間以上がより好ましく、150℃/時間以上が特に好ましい。最高保持温度に達する加熱工程の昇温速度は、焼成装置において、昇温を開始した時間から保持温度に到達するまでの時間から算出される。
【0106】
焼成工程は、焼成温度が異なる複数の焼成段階を有することが好ましい。例えば、第1の焼成段階と、第1の焼成段階よりも高温で焼成する第2の焼成段階を有することが好ましい。さらに焼成温度及び焼成時間が異なる焼成段階を有していてもよい。
【0107】
焼成雰囲気として、所望の組成に応じて大気、酸素、窒素、アルゴン又はこれらの混合ガス等が用いられ、必要ならば複数の焼成工程が実施される。
【0108】
MCCとリチウム化合物との混合物は、不活性溶融剤の存在下で焼成されてもよい。不活性溶融剤は、CAMを使用した電池の初期容量が損なわれない程度に添加され、焼成物に残留してもよい。不活性溶融剤としては、例えばWO2019/177032A1に記載のものを使用することができる。
【0109】
なお、第1の混合物は、焼成工程を行う前に仮焼成されてもよい。本実施形態において仮焼成とは、焼成工程における焼成温度よりも低い温度で焼成することである。仮焼成時の焼成温度は、例えば400℃以上700℃未満の範囲が挙げられる。仮焼成は、複数回行ってもよい。
【0110】
仮焼成時に用いる焼成装置は、特に限定されず、例えば、連続焼成炉又は流動式焼成炉の何れを用いて行ってもよい。連続焼成炉としては、トンネル炉又はローラーハースキルンが挙げられる。流動式焼成炉としては、ロータリーキルンを用いてもよい。
【0111】
以上のように第1の混合物を焼成することにより、中間生成物が得られる。
【0112】
(4)中間生成物と液体との混合
焼成工程後、中間生成物と液体とを混合する。この混合工程により、CAMの粒子内部に存在している未反応のリチウム化合物が粒子表面に移動すると考えられる。
【0113】
中間生成物と混合される液体は、水及びアルコールの少なくとも一方を含む。液体は、純水でもよく、アルカリ性の水溶液であってもよい。アルカリ性の水溶液としては、例えば、水酸化リチウム、炭酸リチウム及び炭酸アンモニウムからなる群より選ばれる1種以上の無水物並びにその水和物の水溶液を挙げることができる。また、アルカリ性の水溶液として、アンモニア水を使用することもできる。
【0114】
液体の温度は、30℃以下が好ましく、25℃以下がより好ましく、10℃以下がさらに好ましい。液体が凍結しない範囲で液体の温度を上記範囲に制御することで、LiMOの結晶格子中から液体中へのリチウムイオンの過度な溶出が抑制できる。
【0115】
液体と中間生成物とを接触させる方法としては、中間生成物に液体を添加し、混合する方法が挙げられる。
【0116】
液体と中間生成物は、適正な時間の範囲で接触させることが好ましい。「適正な時間」とは、CAMの二次粒子内部に存在している未反応のリチウム化合物を二次粒子表面に移動させる程度の時間を指し、中間生成物の凝集状態に応じて調整することが好ましい。液体と中間生成物を混合し接触させる時間は、例えば0.05時間以上1時間以内の範囲が特に好ましい。
【0117】
液体と中間生成物との混合物(以下、第2の混合物と記載することがある)の総質量に対する液体の割合は、3-20質量%であることが好ましく、5-18質量%であることがより好ましく、6-15質量%であることが特に好ましい。第2の混合物の総質量に対する液体の割合が3-20質量%であると、LiMOの結晶格子中から液体中へのリチウムイオンの過度な溶出が抑制できると共に、CAMの二次粒子内部に存在している未反応のリチウム化合物を二次粒子表面に移動させることができる。
【0118】
液体と中間生成物との混合工程において、第2の混合物は粘土状、又はペースト状の状態で撹拌されることが特に好ましい。第2の混合物が粘度状またはペースト状であると、中間生成物の粉末の隙間に液体が存在するため、中間生成物と液体との混合を効率的に行うことができる。混合物が粘度状であるとは、中間生成物の粒子間への液体の介在によって粉末が凝集し、1mm以上の凝集物を生じる状態を意味する。ペースト状であるとは、中間生成物の粒子間への液体の介在によって混合物が流動しうる状態を意味する。液体と中間生成物との混合物の総重量に対する液体の割合を3-20質量%とすることで、第2の混合物を粘土状、またはペースト状にしやすくなる。第2の混合物が粘土状、またはペースト状であると、混合物が凝集した状態であるために、雰囲気に触れる表面積が低下し、雰囲気中から二酸化炭素ガスを吸収しづらく、中間生成物のリチウム化合物量に対する正極活物質のリチウム化合物量の比であるPT(Li)/IT(Li)を好ましい範囲に制御することができる。
【0119】
PT(Li)/IT(Li)の値は、0.8-1.2が好ましく、0.85-1.15がより好ましく、0.9-1.1が特に好ましい。PT(Li)/IT(Li)の値が前記上限値より大きいと、リチウム化合物量が増大する際にLIMOの結晶構造からLi元素が脱離することを意味し、電池のサイクル特性が悪化しやすい。PT(Li)/IT(Li)の値が前記下限値より小さいと、Li元素が正極活物質全体から欠損することを意味し、初回充放電効率が悪化しやすい。
【0120】
上述のような適切な条件で中間生成物と液体との混合工程を行うことにより、前記中間生成物のBET比表面積をIS、前記中間生成物に含まれる未反応のリチウム化合物の量をIT(Li)、後述する乾燥工程後のCAMのBET比表面積をPS、乾燥工程後のCAMに付着している未反応のリチウム化合物の量をPT(Li)としたときの、[PT(Li)/IT(Li)]/(PS/IS)の値を0.1-0.65とすることができる。[PT(Li)/IT(Li)]/(PS/IS)の値は、0.2-0.63であることが好ましく、0.25-0.6であることがより好ましく、0.3-0.55が特に好ましい。[PT(Li)/IT(Li)]/(PS/IS)の値が0.1-0.65であると、二次粒子表面における結晶格子内のLi元素の欠損が抑えられ、且つBET比表面積が大きいCAMを製造することができる。
【0121】
ここで、中間生成物に含まれる未反応のリチウム化合物の量をIT(Li)は、先述のPT(Li)と同じ手順で定量することができる。
【0122】
(5)第2の混合物の乾燥
次いで、第2の混合物を乾燥させ、液体を蒸発させる。本実施形態のCAMの製造方法において、乾燥工程前に第2の混合物のろ過を行わない。第2の混合物に含まれる液体の割合が少ないため、ろ過を行わなくても効率よく液体を蒸発させることができる。
【0123】
乾燥させる方法として、減圧乾燥、真空乾燥、送風、加熱及びこれらの組み合わせ等が挙げられる。
【0124】
減圧乾燥の条件としては0.3気圧以下が挙げられる。減圧乾燥時又は真空乾燥時の温度は、100-200℃であることが好ましい。
【0125】
送風による乾燥は、熱風式乾燥機を用いることができる。送風による乾燥時の温度は、100-400℃であることが好ましい。
【0126】
加熱による乾燥時の温度は、残存水分による充電容量の低下を防止できる観点から、100℃以上であることが好ましく、110℃以上であることがより好ましく、120℃以上であることがさらに好ましい。また、特に制限はないが、粒界の再焼結を防止し、本実施形態の組成を有するCAMが得られる観点から、400℃以下であることが好ましく、350℃以下であることがより好ましく、300℃以下が特に好ましい。
【0127】
熱処理温度の上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。例えば、熱処理温度は、100-400℃であることが好ましく、110-350℃であることがより好ましく、120-300℃であることがさらに好ましい。
【0128】
乾燥処理中の雰囲気は、酸素雰囲気、窒素雰囲気、大気に対して水蒸気濃度と二酸化炭素濃度を1/100以下とした空気を用いた雰囲気、減圧雰囲気又は真空雰囲気が挙げられる。乾燥工程を上記雰囲気で行うことで、乾燥工程中にCAMと雰囲気中の水分又は二酸化炭素との反応が抑制され、不純物の少ないCAMが得られる。
【0129】
上述の製造方法によりCAMが得られる。
【0130】
<リチウム二次電池>
次いで、本実施形態のCAMを用いる場合の好適なリチウム二次電池の構成を説明する。
さらに、本実施形態のCAMを用いる場合に好適なリチウム二次電池用正極(以下、正極と称することがある。)について説明する。
さらに、正極の用途として好適なリチウム二次電池について説明する。
【0131】
本実施形態のCAMを用いる場合の好適なリチウム二次電池の一例は、正極及び負極、正極と負極との間に挟持されるセパレータ、正極と負極との間に配置される電解液を有する。
【0132】
リチウム二次電池の一例は、正極及び負極、正極と負極との間に挟持されるセパレータ、正極と負極との間に配置される電解液を有する。
【0133】
図3は、リチウム二次電池の一例を示す模式図である。本実施形態の円筒型のリチウム二次電池10は、次のようにして製造する。
【0134】
まず、
図3に示すように、帯状を呈する一対のセパレータ1、一端に正極リード21を有する帯状の正極2、及び一端に負極リード31を有する帯状の負極3を、セパレータ1、正極2、セパレータ1、負極3の順に積層し、巻回することにより電極群4とする。
【0135】
次いで、電池缶5に電極群4及び不図示のインシュレーターを収容した後、缶底を封止し、電極群4に電解液6を含浸させ、正極2と負極3との間に電解質を配置する。さらに、電池缶5の上部をトップインシュレーター7及び封口体8で封止することで、リチウム二次電池10を製造することができる。
【0136】
電極群4の形状としては、例えば、電極群4を巻回の軸に対して垂直方向に切断したときの断面形状が、円、楕円、長方形又は角を丸めた長方形となるような柱状の形状を挙げることができる。
【0137】
また、このような電極群4を有するリチウム二次電池の形状としては、国際電気標準会議(IEC)が定めた電池に対する規格であるIEC60086、又はJIS C 8500で定められる形状を採用することができる。例えば、円筒型又は角型などの形状を挙げることができる。
【0138】
さらに、リチウム二次電池は、上記巻回型の構成に限らず、正極、セパレータ、負極、セパレータの積層構造を繰り返し重ねた積層型の構成であってもよい。積層型のリチウム二次電池としては、いわゆるコイン型電池、ボタン型電池、又はペーパー型(又はシート型)電池を例示することができる。
【0139】
以下、各構成について順に説明する。
(正極)
正極は、まずCAM、導電材及びバインダーを含む正極合剤を調製し、正極合剤を正極集電体に担持させることで製造することができる。
【0140】
(導電材)
正極が有する導電材としては、炭素材料を用いることができる。炭素材料として黒鉛粉末、カーボンブラック(例えばアセチレンブラック)及び繊維状炭素材料などを挙げることができる。
【0141】
正極合剤中の導電材の割合は、CAM100質量部に対して5-20質量部であると好ましい。
【0142】
(バインダー)
正極が有するバインダーとしては、熱可塑性樹脂を用いることができる。この熱可塑性樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVdFということがある。)、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂;ポリエチレン及びポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂;WO2019/098384A1またはUS2020/0274158A1に記載の樹脂を挙げることができる。
【0143】
(正極集電体)
正極が有する正極集電体としては、Al、Ni又はステンレスなどの金属材料を形成材料とする帯状の部材を用いることができる。
【0144】
正極集電体に正極合剤を担持させる方法としては、有機溶媒を用いて正極合剤をペースト化し、得られる正極合剤のペーストを正極集電体の少なくとも一面側に塗布して乾燥させ、電極プレス工程を行って固着する方法が挙げられる。
【0145】
正極合剤をペースト化する場合、用いることができる有機溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPということがある。)などのアミド系溶媒;が挙げられる。
【0146】
正極合剤のペーストを正極集電体へ塗布する方法としては、例えば、スリットダイ塗工法、スクリーン塗工法、カーテン塗工法、ナイフ塗工法、グラビア塗工法及び静電スプレー法が挙げられる。
以上に挙げられた方法により、正極を製造することができる。
【0147】
(負極)
リチウム二次電池が有する負極は、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能であればよく、負極活物質を含む負極合剤が負極集電体に担持されてなる電極、及び負極活物質単独からなる電極を挙げることができる。
【0148】
(負極活物質)
負極が有する負極活物質としては、炭素材料、カルコゲン化合物(酸化物又は硫化物など)、窒化物、金属又は合金で、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能な材料が挙げられる。
【0149】
負極活物質として使用可能な炭素材料としては、天然黒鉛又は人造黒鉛などの黒鉛、コークス類、カーボンブラック、炭素繊維及び有機高分子化合物焼成体を挙げることができる。
【0150】
負極活物質として使用可能な酸化物としては、SiO2及びSiOなど式SiOx(ここで、xは正の実数)で表されるケイ素の酸化物;SnO2及びSnOなど式SnOx(ここで、xは正の実数)で表されるスズの酸化物;Li4Ti5O12及びLiVO2などのリチウムとチタン又はバナジウムとを含有する金属複合酸化物;を挙げることができる。
【0151】
また、負極活物質として使用可能な金属としては、リチウム金属、シリコン金属及びスズ金属などを挙げることができる。負極活物質として使用可能な材料として、WO2019/098384A1またはUS2020/0274158A1に記載の材料を用いてもよい。
【0152】
これらの金属や合金は、例えば箔状に加工された後、主に単独で電極として用いられる。
【0153】
上記負極活物質の中では、充電時に未充電状態から満充電状態にかけて負極の電位がほとんど変化しない(電位平坦性がよい)、平均放電電位が低い及び繰り返し充放電させたときの容量維持率が高い(サイクル特性がよい)などの理由から、天然黒鉛又は人造黒鉛などの黒鉛を主成分とする炭素材料が好ましく用いられる。炭素材料の形状としては、例えば天然黒鉛のような薄片状、メソカーボンマイクロビーズのような球状、黒鉛化炭素繊維のような繊維状、又は微粉末の凝集体などのいずれでもよい。
【0154】
前記の負極合剤は、必要に応じて、バインダーを含有してもよい。バインダーとしては、熱可塑性樹脂を挙げることができ、具体的には、PVdF、熱可塑性ポリイミド、カルボキシメチルセルロース(以下、CMCと記載することがある)、スチレンブタジエンゴム(以下、SBRと記載することがある)、ポリエチレン及びポリプロピレンを挙げることができる。
【0155】
(負極集電体)
負極が有する負極集電体としては、Cu、Ni又はステンレスなどの金属材料を形成材料とする帯状の部材を挙げることができる。
【0156】
このような負極集電体に負極合剤を担持させる方法としては、正極の場合と同様に、加圧成型による方法、溶媒などを用いてペースト化し負極集電体上に塗布又は乾燥後プレスし圧着する方法が挙げられる。
【0157】
(セパレータ)
リチウム二次電池が有するセパレータとしては、例えば、ポリエチレン及びポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂又は含窒素芳香族重合体などの材質からなる、多孔質膜、不織布又は織布などの形態を有する材料を用いることができる。また、これらの材質を2種以上用いてセパレータを形成してもよいし、これらの材料を積層してセパレータを形成してもよい。また、JP-A-2000-030686又はUS20090111025A1に記載のセパレータを用いてもよい。
【0158】
(電解液)
リチウム二次電池が有する電解液は、電解質及び有機溶媒を含有する。
【0159】
電解液に含まれる電解質としては、LiClO4、LiPF6などのリチウム塩が挙げられ、これらの2種以上の混合物を使用してもよい。
【0160】
また前記電解液に含まれる有機溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートなどのカーボネート類を用いることができる。
【0161】
有機溶媒としては、これらのうちの2種以上を混合して用いることが好ましい。中でもカーボネート類を含む混合溶媒が好ましく、環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒及び環状カーボネートとエーテル類との混合溶媒がさらに好ましい。
【0162】
また、電解液としては、得られるリチウム二次電池の安全性が高まるため、LiPF6などのフッ素を含むリチウム塩及びフッ素置換基を有する有機溶媒を含む電解液を用いることが好ましい。電解液に含まれる電解質および有機溶媒として、WO2019/098384A1またはUS2020/0274158A1に記載の電解質および有機溶媒を用いてもよい。
【0163】
<全固体リチウム二次電池>
次いで、全固体リチウム二次電池の構成を説明しながら、本発明の一態様に係るCAMを全固体リチウム二次電池のCAMとして用いた正極、及びこの正極を有する全固体リチウム二次電池について説明する。
【0164】
図4は、本実施形態の全固体リチウム二次電池の一例を示す模式図である。
図4に示す全固体リチウム二次電池1000は、正極110と、負極120と、固体電解質層130とを有する積層体100と、積層体100を収容する外装体200と、を有する。また、全固体リチウム二次電池1000は、集電体の両側にCAMと負極活物質とを配置したバイポーラ構造であってもよい。バイポーラ構造の具体例として、例えば、JP-A-2004-95400号公報に記載される構造が挙げられる。各部材を構成する材料については、後述する。
【0165】
積層体100は、正極集電体112に接続される外部端子113と、負極集電体122に接続される外部端子123と、を有していてもよい。その他、全固体リチウム二次電池1000は、正極110と負極120との間にセパレータを有していてもよい。
【0166】
全固体リチウム二次電池1000は、さらに積層体100と外装体200とを絶縁する不図示のインシュレーター及び外装体200の開口部200aを封止する不図示の封止体を有する。
【0167】
外装体200は、アルミニウム、ステンレス鋼又はニッケルメッキ鋼などの耐食性の高い金属材料を成形した容器を用いることができる。また、外装体200として、少なくとも一方の面に耐食加工を施したラミネートフィルムを袋状に加工した容器を用いることもできる。
【0168】
全固体リチウム二次電池1000の形状としては、例えば、コイン型、ボタン型、ペーパー型(またはシート型)、円筒型、角型、又はラミネート型(パウチ型)などの形状を挙げることができる。
【0169】
全固体リチウム二次電池1000は、一例として積層体100を1つ有する形態が図示されているが、本実施形態はこれに限らない。全固体リチウム二次電池1000は、積層体100を単位セルとし、外装体200の内部に複数の単位セル(積層体100)を封じた構成であってもよい。
【0170】
以下、各構成について順に説明する。
【0171】
(正極)
本実施形態の正極110は、正極活物質層111と正極集電体112とを有している。
【0172】
正極活物質層111は、上述した本発明の一態様であるCAM及び固体電解質を含む。また、正極活物質層111は、導電材及びバインダーを含んでいてもよい。
【0173】
(固体電解質)
本実施形態の正極活物質層111に含まれる固体電解質としては、リチウムイオン伝導性を有し、公知の全固体リチウム二次電池に用いられる固体電解質を採用することができる。このような固体電解質としては、無機電解質及び有機電解質を挙げることができる。無機電解質としては、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質及び水素化物系固体電解質を挙げることができる。有機電解質としては、ポリマー系固体電解質を挙げることができる。各電解質としては、WO2020/208872A1、US2016/0233510A1、US2012/0251871A1、US2018/0159169A1に記載の化合物が挙げられ、例えば、以下の化合物が挙げられる。
【0174】
(酸化物系固体電解質)
酸化物系固体電解質としては、例えば、ペロブスカイト型酸化物、NASICON型酸化物、LISICON型酸化物及びガーネット型酸化物などが挙げられる。各酸化物の具体例は、WO2020/208872A1、US2016/0233510A1、US2020/0259213A1に記載の化合物が挙げられ、例えば、以下の化合物が挙げられる。
【0175】
ペロブスカイト型酸化物としては、LiaLa1-aTiO3(0<a<1)などのLi-La-Ti系酸化物、LibLa1-bTaO3(0<b<1)などのLi-La-Ta系酸化物及びLicLa1-cNbO3(0<c<1)などのLi-La-Nb系酸化物などが挙げられる。
【0176】
NASICON型酸化物としては、Li1+dAldTi2-d(PO4)3(0≦d≦1)などが挙げられる。NASICON型酸化物とは、LimM1
nM2
oPpOq(式中、M1は、B、Al、Ga、In、C、Si、Ge、Sn、Sb及びSeからなる群から選ばれる1種以上の元素である。M2は、Ti、Zr、Ge、In、Ga、Sn及びAlからなる群から選ばれる1種以上の元素である。m、n、o、p及びqは、任意の正数である。)で表される酸化物である。
【0177】
LISICON型酸化物としては、Li4M3O4-Li3M4O4(M3は、Si、Ge、及びTiからなる群から選ばれる1種以上の元素である。M4は、P、As及びVからなる群から選ばれる1種以上の元素である。)で表される酸化物などが挙げられる。
【0178】
ガーネット型酸化物としては、Li7La3Zr2O12(LLZともいう)などのLi-La-Zr系酸化物などが挙げられる。
【0179】
酸化物系固体電解質は、結晶性材料であってもよく、非晶質材料であってもよい。
【0180】
(硫化物系固体電解質)
硫化物系固体電解質としては、Li2S-P2S5系化合物、Li2S-SiS2系化合物、Li2S-GeS2系化合物、Li2S-B2S3系化合物、LiI-Si2S-P2S5、LiI-Li3PO4-P2S5及びLi10GeP2S12などを挙げることができる。
【0181】
なお、本明細書において、硫化物系固体電解質を指す「系化合物」という表現は、「系化合物」の前に記載した「Li2S」「P2S5」などの原料を主として含む固体電解質の総称として用いる。例えば、Li2S-P2S5系化合物には、Li2SとP2S5とを主として含み、さらに他の原料を含む固体電解質が含まれる。Li2S-P2S5系化合物に含まれるLi2Sの割合は、例えばLi2S-P2S5系化合物全体に対して50~90質量%である。Li2S-P2S5系化合物に含まれるP2S5の割合は、例えばLi2S-P2S5系化合物全体に対して10~50質量%である。また、Li2S-P2S5系化合物に含まれる他の原料の割合は、例えばLi2S-P2S5系化合物全体に対して0~30質量%である。また、Li2S-P2S5系化合物には、Li2SとP2S5との混合比を異ならせた固体電解質も含まれる。
【0182】
Li2S-P2S5系化合物としては、Li2S-P2S5、Li2S-P2S5-LiI、Li2S-P2S5-LiCl、Li2S-P2S5-LiBr、Li2S-P2S5-LiI-LiBr、Li2S-P2S5-Li2O、Li2S-P2S5-Li2O-LiI及びLi2S-P2S5-ZmSn(m、nは正の数である。Zは、Ge、ZnまたはGaである。)などを挙げることができる。
【0183】
Li2S-SiS2系化合物としては、Li2S-SiS2、Li2S-SiS2-LiI、Li2S-SiS2-LiBr、Li2S-SiS2-LiCl、Li2S-SiS2-B2S3-LiI、Li2S-SiS2-P2S5-LiI、Li2S-SiS2-P2S5-LiCl、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li2S-SiS2-Li2SO4及びLi2S-SiS2-LixMOy(x、yは正の数である。Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga又はInである。)などを挙げることができる。
【0184】
Li2S-GeS2系化合物としては、Li2S-GeS2及びLi2S-GeS2-P2S5などを挙げることができる。
【0185】
硫化物系固体電解質は、結晶性材料であってもよく、非晶質材料であってもよい。
【0186】
(水素化物系固体電解質)
水素化物系固体電解質材料としては、LiBH4、LiBH4-3KI、LiBH4-PI2、LiBH4-P2S5、LiBH4-LiNH2、3LiBH4-LiI、LiNH2、Li2AlH6、Li(NH2)2I、Li2NH、LiGd(BH4)3Cl、Li2(BH4)(NH2)、Li3(NH2)I及びLi4(BH4)(NH2)3などを挙げることができる。
【0187】
(ポリマー系固体電解質)
ポリマー系固体電解質として、例えばポリエチレンオキサイド系の高分子化合物及びポリオルガノシロキサン鎖及びポリオキシアルキレン鎖からなる群から選ばれる1種以上を含む高分子化合物などの有機系高分子電解質を挙げることができる。また、高分子化合物に非水電解液を保持させた、いわゆるゲルタイプのものを用いることもできる。
【0188】
固体電解質は、発明の効果を損なわない範囲において、2種以上を併用することができる。
【0189】
(導電材及びバインダー)
正極活物質層111が有する導電材としては、上述の(導電材)で説明した材料を用いることができる。また、正極合剤中の導電材の割合についても同様に上述の(導電材)で説明した割合を適用することができる。また、正極が有するバインダーとしては、上述の(バインダー)で説明した材料を用いることができる。
【0190】
(正極集電体)
正極110が有する正極集電体112としては、上述の(正極集電体)で説明した材料を用いることができる。
【0191】
正極集電体112に正極活物質層111を担持させる方法としては、正極集電体112上で正極活物質層111を加圧成型する方法が挙げられる。加圧成型には、冷間プレスや熱間プレスを用いることができる。
【0192】
また、有機溶媒を用いてCAM、固体電解質、導電材及びバインダーの混合物をペースト化して正極合剤とし、得られる正極合剤を正極集電体112の少なくとも一面上に塗布して乾燥させ、プレスし固着することで、正極集電体112に正極活物質層111を担持させてもよい。
【0193】
また、有機溶媒を用いてCAM、固体電解質及び導電材の混合物をペースト化して正極合剤とし、得られる正極合剤を正極集電体112の少なくとも一面上に塗布して乾燥させ、焼結することで、正極集電体112に正極活物質層111を担持させてもよい。
【0194】
正極合剤に用いることができる有機溶媒としては、上述の(正極集電体)で説明した正極合剤をペースト化する場合に用いることができる有機溶媒と同じものを用いることができる。
【0195】
正極合剤を正極集電体112へ塗布する方法としては、上述の(正極集電体)で説明した方法が挙げられる。
【0196】
以上に挙げられた方法により、正極110を製造することができる。正極110に用いる具体的な材料の組み合わせとしては、本実施形態に記載のCAMと表1に記載する組み合わせが挙げられる。
【0197】
【0198】
【0199】
【0200】
(負極)
負極120は、負極活物質層121と負極集電体122とを有している。負極活物質層121は、負極活物質を含む。また、負極活物質層121は、固体電解質及び導電材を含んでいてもよい。負極活物質、負極集電体、固体電解質、導電材及びバインダーは、上述したものを用いることができる。
【0201】
負極集電体122に負極活物質層121を担持させる方法としては、正極110の場合と同様に、加圧成型による方法、負極活物質を含むペースト状の負極合剤を負極集電体122上に塗布、乾燥後プレスし圧着する方法、及び負極活物質を含むペースト状の負極合剤を負極集電体122上に塗布、乾燥後、焼結する方法が挙げられる。
【0202】
(固体電解質層)
固体電解質層130は、上述の固体電解質を有している。
【0203】
固体電解質層130は、上述の正極110が有する正極活物質層111の表面に、無機物の固体電解質をスパッタリング法により堆積させることで形成することができる。
【0204】
また、固体電解質層130は、上述の正極110が有する正極活物質層111の表面に、固体電解質を含むペースト状の合剤を塗布し、乾燥させることで形成することができる。乾燥後、プレス成型し、さらに冷間等方圧加圧法(CIP)により加圧して固体電解質層130を形成してもよい。
【0205】
積層体100は、上述のように正極110上に設けられた固体電解質層130に対し、公知の方法を用いて、固体電解質層130の表面に負極活物質層121が接するように負極120を積層させることで製造することができる。
【0206】
以上のような構成のリチウム二次電池において、CAMは、上述した本実施形態により製造されるCAMを用いているため、このCAMを用いたリチウム二次電池の初回充放電効率及びサイクル維持率を向上させることができる。
【0207】
また、以上のような構成の正極は、上述した構成のリチウム二次電池用CAMを有するため、リチウム二次電池の初回充放電効率及びサイクル維持率を向上させることができる。
【0208】
さらに、以上のような構成のリチウム二次電池は、上述した正極を有するため、初回充放電効率が大きく、且つサイクル維持率の高い二次電池となる。
【0209】
本発明のもう一つの側面は、以下の態様を包含する。
[13]Ni元素及び元素Mを含有するリチウム金属複合酸化物と、リチウム化合物とを含むリチウム二次電池用正極活物質であって、前記リチウム金属複合酸化物は、層状岩塩型構造を有し、前記元素Mは、Co、Mn、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、B、Si、S及びPからなる群から選択される1種以上の元素を表し、前記リチウム二次電池用正極活物質の粒子表面のX線光電子分光法測定により得られるスペクトルにおいて、54.5±3.0eVにピークトップを有するLi元素に由来するピークを有し、前記ピークを53.5±1.0eVにピークトップを有するピーク(A)と、55.5±1.0eVにピークトップを有するピーク(a)に波形分離したとき、前記リチウム金属複合酸化物中のLi元素に由来する前記ピーク(A)と、前記Ni元素に由来するピークと、前記元素Mに由来するピークとから算出される原子比率がLi(A)/(Ni+M)であり、窒素吸着法により測定される前記リチウム二次電池用正極活物質のBET比表面積がPSであるとき、{Li(A)/(Ni+M)}/PSの値が0.5-2.5g/m2である、リチウム二次電池用正極活物質。
[14]前記リチウム二次電池用正極活物質5gと純水100gとを混合したスラリーをろ過して得られるろ液の中和滴定から算出されるリチウム二次電池用正極活物質中の炭酸リチウムおよび水酸化リチウムに由来するLi元素の質量割合であるPT(Li)と、前記BET比表面積PSの比であるPT(Li)/PSの値が0.2-0.8質量%・g/m2であり、前記PT(Li)は、0.1Nの塩酸で前記ろ液のpHが4.5に至るまで滴定したときの0.1N塩酸の滴定量から求められる、[13]に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
[15]前記PT(Li)の値が0.2-0.8質量%である、[14]に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
[16]前記リチウム二次電池用正極活物質が組成式(I)で表される、[13]~[15]の何れか1つに記載のリチウム二次電池用正極活物質。
Li[Lix(Ni(1-y-z)CoyXz)1-x]O2 (I)
(式(I)中、Xは、Mn、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、B、Si、S及びPからなる群から選択される1種以上の元素を表し、-0.1≦x≦0.2、0≦y≦0.15、0<z≦0.1、及びy+z≦0.2を満たす。)
[17]前記BET比表面積PSが0.35-1.5m2/gである、[13]~[16]の何れか1つに記載のリチウム二次電池用正極活物質。
[18]前記54.5±3.0eVにピークトップを有するLi元素に由来するピークと、前記Ni元素に由来するピークと、前記元素Mに由来するピークとから算出される原子比率Li/(Ni+M)が1.5-7.6である、[13]~[17]の何れか1つに記載のリチウム二次電池用正極活物質。
[19]50%累積体積粒度が8-20μmである、[13]~[18]の何れか1つに記載のリチウム二次電池用正極活物質。
[20][13]~[19]のいずれか1つに記載のリチウム二次電池用正極活物質を含有するリチウム二次電池用正極。
[21][20]に記載のリチウム二次電池用正極を有するリチウム二次電池。
[22]Ni元素及び元素Mを含む金属複合化合物とリチウム化合物との第1の混合物を焼成して中間生成物を得る焼成工程と、前記中間生成物と前記リチウム化合物を可溶な液体とを混合して第2の混合物を得る混合工程と、前記第2の混合物から前記液体を蒸発させることによってリチウム二次電池用正極活物質を得る乾燥工程を有し、元素Mは、Co、Mn、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、B、Si、S及びPからなる群から選択される1種以上の元素であり、前記中間生成物のBET比表面積をIS、前記中間生成物に含まれる未反応のリチウム化合物の量をIT(Li)、前記乾燥工程後のリチウム二次電池用正極活物質のBET比表面積をPS、前記乾燥工程後のリチウム二次電池用正極活物質に含まれる未反応のリチウム化合物の量をPT(Li)としたとき、[PT(Li)/IT(Li)]/(PS/IS)の値が0.2-0.6である、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
[23]前記PT(Li)/IT(Li)の値が0.85-1.1である、[22]に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
[24]前記液体が水及びアルコールの少なくとも一方を含む、[22]又は[23]に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
[25]前記乾燥工程が、110-350℃で前記第2の混合物を加熱することを含む、[22]~[24]の何れか1つに記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【実施例0210】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によって限定されるものではない。
【0211】
<組成分析>
後述の方法で製造されるCAMの組成分析は、得られたCAMを塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、SPS3000)を用いて行った。
【0212】
<累積体積粒度>
後述の方法で製造されるCAMの粉末0.1gを、0.2質量%ヘキサメタりん酸ナトリウム水溶液50mlに投入し、前記粉末を分散させた分散液を得た。次に、得られた分散液についてレーザー回折散乱粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、マイクロトラックMT3300EXII)を用いて、粒度分布を測定し、体積基準の累積粒度分布曲線を得た。得られた累積粒度分布曲線において、微小粒子側から50%累積時の粒子径の値を50%累積体積粒度D50(μm)とした。
【0213】
<BET比表面積測定>
後述の方法で得られる中間生成物又はCAMの粉末1gを窒素雰囲気中、150℃で30分間乾燥させた後、BET比表面積計(マウンテック社製、Macsorb(登録商標))を用いて測定した(単位:m2/g)。中間生成物のBET比表面積をIS、CAMのBET比表面積をPSと表記する。
【0214】
<X線光電子分光分析(XPS)>
X線光電子分光分析装置(ThermoFisher Scientific社製、K-Alpha)を用い、リチウム1s、ニッケル2pのスペクトルと、元素Mのスペクトル(後述の実施例においてコバルト2p、アルミニウム2p、及びマンガン2p)を測定した。X線源にはAlKα線を用い、測定時には帯電中和のために中和銃(加速電圧0.3V、電流100μA)を使用した。測定の条件として、スポットサイズ=400μm、PassEnergy=50eV、Step=0.1eV、Dwelltime=500msとした。得られたXPSスペクトルについて、ThermoFisherScientific社製Avantageデータシステムを用い、後述のピーク面積や原子濃度を算出した。炭素1sスペクトルにおいて表面汚染炭化水素に帰属されるピークを284.6eVとして帯電補正した。
【0215】
・ピーク面積P(A)及びP(a)の測定
結合エネルギーが54.5±3eVのスペクトル、すなわちリチウム1sのスペクトルについて、53.5±1.0eVにピークトップを有するピークAの半値幅を1.0±0.2eV、55.5±1.0eVにピークトップを有するピークaの半値幅を1.5±0.3eVとして、波形分離を行った。得られたピークAとピークaについて、ピーク面積P(A)とP(a)を算出した。
【0216】
・原子比率Li/(Ni+M)、Li(A)/(Ni+M)及びLi(a)/(Ni+M)の測定
リチウム1s、ニッケル2pのスペクトルと、元素Mのスペクトル(後述の実施例においてコバルト2p、アルミニウム2p、及びマンガン2p)について、各元素のスペクトルのピーク面積と各元素の感度係数より全元素中の各元素の原子濃度(atm%)を算出し、さらに元素の比率としてLi/(Ni+M)を算出した。さらにリチウム1sスペクトルを波形分離して得たピークAとピークaの面積から、ピークAとピークaに由来するLi元素の原子濃度Li(A)とLi(a)を算出し、各Li元素成分とNi元素及び元素Mの比であるLi(a)/(Ni+M)及びLi(A)/(Ni+M)をそれぞれ算出した。
【0217】
<中和滴定およびPT(Li)の測定>
後述する製造方法で得られる中間生成物又はCAM5gと純水100gとを混合してスラリーを得た。スラリーを5分間撹拌した後、CAMを濾過し、残った濾液の60gに0.1mol/L塩酸を滴下し、pHメーターにて濾液のpHを測定した。pH=8.3±0.1時の塩酸の滴定量をAml、pH=4.5±0.1時の塩酸の滴定量をBmlとして、下記の計算式より、リチウム二次電池用CAM中に残存する炭酸リチウム及び水酸化リチウム濃度を算出した。下記の式中、炭酸リチウムの分子量を73.882、水酸化リチウムの分子量を23.941として算出した。
炭酸リチウム濃度(%)=
0.1×(B-A)/1000×73.882/(20×60/100)×100
水酸化リチウム濃度(%)=
0.1×(2A-B)/1000×23.941/(20×60/100)×100
【0218】
算出された炭酸リチウム濃度と水酸化リチウム濃度から、各リチウム化合物中のLi元素量の濃度の合算値として、PT(Li)を算出した。下記式中、リチウムの原子量を6.941として算出した。下記式において、炭酸リチウムの式量を73.882、水酸化リチウムの式量を23.941とした。
PT(Li)(%)=炭酸リチウム濃度(%)×(2×6.941/73.882)+水酸化リチウム濃度(%)×(6.941/23.941)
【0219】
<リチウム二次電池用正極の作製>
後述する製造方法で得られるCAMと導電材(アセチレンブラック)とバインダー(PVdF)とを、CAM:導電材:バインダー=92:5:3(質量比)の組成となるように加えて混練することにより、ペースト状の正極合剤を調製した。正極合剤の調製時には、N-メチル-2-ピロリドンを有機溶媒として用いた。
【0220】
得られた正極合剤を、集電体となる厚さ40μmのAl箔に塗布して150℃で8時間真空乾燥を行い、リチウム二次電池用正極を得た。このリチウム二次電池用正極の電極面積は1.65cm2とした。
【0221】
<リチウム二次電池(コイン型ハーフセル)の作製>
以下の操作を、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で行った。
上述のリチウム二次電池用正極を、コイン型電池R2032用のパーツ(宝泉株式会社製)の下蓋にアルミ箔面を下に向けて置き、その上にポリエチレン製多孔質フィルムの上に耐熱多孔層を積層した積層フィルムセパレータ(厚み16μm)を置いた。ここに電解液を300μl注入した。電解液は、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートを30:35:35(体積比)で混合した混合液にLiPF6を1mol/lとなるように溶解した液体を用いた。
次に、負極として金属リチウムを用いて、セパレータの上側に置き、ガスケットを介して上蓋をし、かしめ機でかしめてリチウム二次電池(コイン型ハーフセルR2032。以下、「コイン型ハーフセル」と称することがある。)を作製した。
【0222】
<初回充放電試験>
<リチウム二次電池(コイン型ハーフセル)の作製>で作製したハーフセルを用いて、上記<初回充放電>に記載の条件で初回充放電試験を実施した。
【0223】
<サイクル試験(サイクル維持率)>
上記<サイクル試験>に記載の手順でサイクル試験を実施し、サイクル維持率を算出した。
【0224】
(実施例1)
攪拌器及びオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持した。
【0225】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液とをNiとCoとのモル比が0.88:0.09となるように混合して、混合原料液1を調製した。さらにAlを含む原料液として硫酸アルミニウム水溶液を調製した。
【0226】
次に、反応槽内に、攪拌下、混合原料溶液1と硫酸アルミニウム水溶液とを、NiとCoとAlのモル比が0.88:0.09:0.03となるように連続的に添加し、硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加した。反応槽内の溶液のpHが11.7(測定温度:40℃)になるよう水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、反応沈殿物1を得た。
【0227】
反応沈殿物1を洗浄した後、脱水、乾燥及び篩別し、Ni、Co及びAlを含む金属複合水酸化物1が得られた。
【0228】
金属複合水酸化物1を大気雰囲気中650℃で5時間保持して加熱し、室温まで冷却して金属複合酸化物1を得た。
【0229】
金属複合酸化物1に含まれるNi、Co及びAlの合計量1に対するLiの量(モル比)が1.06となるように水酸化リチウムを秤量した。金属複合酸化物1と水酸化リチウムを混合して第1の混合物1を得た。
【0230】
次いで、得られた第1の混合物1を、アルミナ製の匣鉢に充填し、ローラーハースキルンに投入し、最高温度650℃、5時間で仮焼成し、仮焼成物1を得た。仮焼成物1をアルミナ製の匣鉢に充填し、ローラーハースキルンに投入し、最高温度760℃で5時間焼成し、中間生成物1を得た。
【0231】
中間生成物1と5℃に冷却した純水とを15分間混合して、第2の混合物1を形成した。第2の混合物1の総質量に対する純水の割合は、15質量%とした。第2の混合物1は、粘土状であった。第2の混合物1を150℃で8時間真空乾燥し、CAM-11を得た。CAM-1の組成比(モル比)は、Li/(Ni+Co+Al)=1.06であり、組成式(I)において、x=0.03、y=0.09、z=0.03であった。
【0232】
(比較例1)
実施例1の過程で得られた中間生成物1を、その後の混合および乾燥処理を行わずに、そのままCAM-C1とした。その組成比(モル比)は、Li/(Ni+Co+Al)=1.06であり、組成式(I)においてx=0.03、y=0.09、z=0.03であった。
【0233】
(実施例2)
実施例1の過程で得られた金属複合酸化物1を用い、金属複合酸化物1に含まれるNi、Co及びAlの合計量1に対するLiの量(モル比)が0.99となるように水酸化リチウムを秤量した。金属複合酸化物1と水酸化リチウムを混合して第1の混合物2を得た。
【0234】
次いで、得られた第1の混合物2を、実施例1と同様の条件で焼成し、中間生成物2を得た。
【0235】
中間生成物2と5℃に冷却した純水とを10分間混合して、第2の混合物2を形成した。第2の混合物2の総質量に対する純水の割合は、20質量%とした。第2の混合物2は、ペースト状であった。第2の混合物2を150℃で8時間真空乾燥し、CAM-2を得た。CAM-2の組成比(モル比)は、Li/(Ni+Co+Al)=0.99であり、組成式(I)において、x=-0.01、y=0.09、z=0.03であった。
【0236】
(比較例2)
実施例2の過程で得られた中間生成物2に、5℃に冷却した純水を加えて20分間攪拌し、第2の混合物C2を形成した。第2の混合物C2は、スラリー状であった。第2の混合物C2の総質量に対する純水の割合は、70質量%だった。洗浄後、第2の混合物C2をろ過し、ろ物を150℃で8時間真空乾燥し、CAM-C2を得た。CAM-C2の組成比(モル比)は、Li/(Ni+Co+Al)=0.97であり、組成式(I)においてx=-0.02、y=0.09、z=0.03であった。
【0237】
(実施例3)
攪拌器及びオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持した。
【0238】
次に硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液とを、NiとCoとMnとのモル比が0.83:0.12:0.05となるように混合して、混合原料液を調製した。
【0239】
次に、反応槽内に、攪拌下、この原料混合液と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加した。反応槽内の溶液のpHが12.2(水溶液の液温が40℃での測定値)になるよう水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、反応沈殿物を得た。得られた反応沈殿物を洗浄した後、脱水、乾燥及び篩別し、Ni、Co及びMnを含む金属複合水酸化物2を得た。
【0240】
金属複合水酸化物2に含まれるNi、Co及びMnの合計量1に対するLiの量(モル比)が1.04となるように水酸化リチウムを秤量した。金属複合水酸化物2と水酸化リチウムを混合して第1の混合物3を得た。
【0241】
次いで、得られた第1の混合物3を、アルミナ製の匣鉢に充填し、ローラーハースキルンに投入し、最高温度650℃で5時間仮焼成し、仮焼成物3を得た。仮焼成物3をアルミナ製の匣鉢に充填し、ローラーハースキルンに投入し、最高温度780℃で5時間焼成し、中間生成物3を得た。
【0242】
中間生成物3と常温の純水とを20分間混合して、第2の混合物3を形成した。第2の混合物3の総質量に対する純水の割合は15質量%とした。第2の混合物3は粘土状であった。第2の混合物3を150℃で8時間真空乾燥し、CAM-3を得た。CAM-3の組成比(モル比)は、Li/(Ni+Co+Mn)=1.04であり、組成式(I)において、x=0.02、y=0.12、z=0.05であった。
【0243】
(比較例3)
実施例3の過程で得られた中間生成物3を、その後の混合および乾燥処理を行わずに、そのままCAM-C3とした。CAM-C3の組成比(モル比)は、Li/(Ni+Co+Mn)=1.04であり、組成式(I)において、x=0.02、y=0.12、z=0.05であった。
【0244】
実施例1~3及び比較例1~3のCAM-1~CAM-3及びCAM-C1~CAM-C3のD50、中間生成物のBET比表面積IS、CAMのBET比表面積PS、CAMのXPS分析により得られた原子比率Li(A)/(Ni+M)、{Li(A)/(Ni+M)}/PSの値、Li/(Ni+M)、中和滴定により得られた中間生成物のIT(Li)及びCAMのPT(Li)、[PT(Li)/IT(Li)]/(PS/IS)の値及び各CAMを使用したコイン型ハーフセルの初回充放電効率及びサイクル維持率を表4に示す。
【0245】
【0246】
実施例1と比較例1、及び実施例3と比較例3との対比から、実施例1及び3のCAMのBET比表面積の方がそれぞれ比較例1及び3より大きいといえる。このことから、実施例1及び実施例3では第1の混合物と液体との混合により、CAMの二次粒子内部の未反応のリチウム化合物が二次粒子表面に移動し、二次粒子内部に空隙が生じたと考えられる。
【0247】
また、XPSにより測定されたCAMの二次粒子表面における原子比率Li(A)/(Ni+M)は、実施例1と比較例1との間に大きな差がないといえる。つまり実施例1で行われた第1の混合物と液体との混合では、CAMの二次表面における結晶格子中のLi元素を過度に欠損させることなく、BET比表面積を増大できたといえる。
【0248】
実施例2と比較例2との対比から、実施例2のCAMのBET比表面積が比較例2より小さいといえる。このことから、比較例2では第1の混合物と液体との混合により、CAMの二次粒子内部の未反応のリチウム化合物が二次粒子表面に移動し、さらにろ過によってリチウム化合物が除去されたことにより、BET比表面積がより大きくなったと考えられる。
【0249】
実施例1~3の各CAMを使用したコイン型ハーフセルの初回充放電効率は、86.3%以上であり、サイクル維持率は80.2%以上であった。
【0250】
一方で、{Li(A)/(Ni+M)}/PSが3.1g/m2以上である比較例1及び比較例3では、初回充放電効率が低い値となった。また、{Li/(Ni+M)}/PSが0.33g/m2である比較例2では、サイクル維持率が低い値となった。
本発明によれば、初回充放電効率が大きく、且つ高いサイクル維持率のリチウム二次電池を得ることができるCAM及びこれを用いるリチウム二次電池用正極、リチウム二次電池及びCAMの製造方法を提供することができる。
1…セパレータ、2…正極、3…負極、4…電極群、5…電池缶、6…電解液、7…トップインシュレーター、8…封口体、10…リチウム二次電池、21…正極リード、31…負極リード、40…中間生成物、41…一次粒子、42…リチウム化合物、50…CAM、100…積層体、110…正極、111…正極活物質層、112…正極集電体、113…外部端子、120…負極、121…負極活物質層、122…負極集電体、123…外部端子、130…固体電解質層、200…外装体、200a…開口部、1000…全固体リチウム二次電池