(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191115
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】硫酸コバルトの製造方法
(51)【国際特許分類】
C22B 23/00 20060101AFI20221220BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20221220BHJP
C22B 3/38 20060101ALI20221220BHJP
C22B 3/32 20060101ALI20221220BHJP
C01G 51/10 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
C22B23/00 102
C22B3/44 101B
C22B3/38
C22B3/32
C01G51/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021113269
(22)【出願日】2021-07-08
(31)【優先権主張番号】P 2021099652
(32)【優先日】2021-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大原 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 寛人
(72)【発明者】
【氏名】金子 高志
(72)【発明者】
【氏名】工藤 敬司
(72)【発明者】
【氏名】近藤 菜月
(72)【発明者】
【氏名】平郡 伸一
(72)【発明者】
【氏名】檜垣 達也
【テーマコード(参考)】
4G048
4K001
【Fターム(参考)】
4G048AA07
4G048AB02
4G048AB08
4G048AD03
4G048AE03
4K001AA07
4K001AA10
4K001AA16
4K001BA24
4K001DB24
4K001DB30
4K001DB31
4K001DB34
4K001HA12
(57)【要約】
【課題】不純物を含む塩化コバルト溶液から、電解工程を用いることなく不純物とコバルトを分離し、純度の高い硫酸コバルトを製造する方法を提供する。
【解決手段】不純物を含む塩化コバルト溶液に硫化剤を添加し、銅の硫化物の沈殿を生成させて分離除去する脱銅工程S1、塩化コバルト溶液にアルキルリン酸系抽出剤を含む有機溶媒を接触させ、有機溶媒に亜鉛、マンガンおよびカルシウムを抽出して分離除去する第1溶媒抽出工程S2、有機溶媒にコバルトを抽出させた後、硫酸でコバルトを逆抽出して硫酸コバルト溶液を得る第2溶媒抽出工程S3、第2溶媒抽出工程S3を経た有機溶媒から金属イオンを逆抽出する還元逆抽出工程S4、第2溶媒抽出工程S3を経て得た硫酸コバルト溶液を晶析工程S5、を順に実行する。高純度の硫酸コバルトを製造することができ、コバルトの回収ロスを防いだりマンガンや鉄などの不純物を系外に払い出すことができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅、亜鉛、マンガン、カルシウムおよびマグネシウムのうち1種類以上の不純物を含む塩化コバルト溶液に硫化剤を添加し銅の硫化物の沈殿を生成させて分離除去する脱銅工程、
前記脱銅工程を経た塩化コバルト溶液にアルキルリン酸系抽出剤を含む有機溶媒を接触させ、該有機溶媒に亜鉛、マンガンおよびカルシウムを抽出して分離除去する第1溶媒抽出工程、
前記第1溶媒抽出工程を経た塩化コバルト溶液にカルボン酸抽出剤を含む有機溶媒を接触させ、該有機溶媒にコバルトを抽出させた後、硫酸でコバルトを逆抽出して硫酸コバルト溶液を得る第2溶媒抽出工程、
前記第2溶媒抽出工程経たコバルトを硫酸溶液に逆抽出する逆抽出工程を実行した後の有機溶媒に、酸と還元剤を接触させて、有機溶媒中のコバルト、マンガン、鉄イオンを還元し、逆抽出して還元逆抽出液を得る還元逆抽出工程、
を順に実行する
ことを特徴とする硫酸コバルトの製造方法。
【請求項2】
前記還元逆抽出工程において、コバルトを硫酸溶液に逆抽出する逆抽出工程を実行した有機溶媒に、酸と還元剤を接触させて、pHを4.5以下、酸化還元電位を500mV vs. Ag/AgCl以下に調整し、有機溶媒中のコバルト、マンガン、鉄イオンを還元し、逆抽出して還元逆抽出液を得る
ことを特徴とする請求項1記載の硫酸コバルトの製造方法。
【請求項3】
前記第2溶媒抽出工程における請求項1および8に記載の前記還元逆抽出工程で得られる還元逆抽出液を前記第2溶媒抽出工程およびまたは第1溶媒抽出工程における抽出工程に添加する
ことを特徴とする請求項1記載の硫酸コバルトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫酸コバルトの製造方法に関する。さらに詳しくは、塩化コバルト溶液中に含まれる不純物元素を除去して、純度の高い硫酸コバルトを得る製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コバルトは、特殊合金の添加元素としての用途以外に、磁性材料やリチウムイオン二次電池の原料としての工業的用途に広く使用されている有価金属である。とくに最近では、リチウムイオン二次電池がモバイル機器や電気自動車のバッテリーとして多く用いられ、これに伴ってコバルトの需要も急速に拡大している。しかしながらコバルトはニッケル製錬や銅製錬の副産物として産出されるものが大半を占めているため、コバルトの製造においてはニッケルや銅を始めとする不純物との分離が重要な要素技術となっている。
【0003】
たとえば、ニッケルの湿式製錬において副産物としてのコバルトを回収する場合、まずニッケルとコバルトを含む溶液を得るため、原料を鉱酸や酸化剤等を用いて溶液に浸出または抽出するかもしくは溶解処理に付される。さらに、得られた酸性溶液中に含まれるニッケルとコバルトは、従来から公知の方法により各種の有機抽出剤を用いた溶媒抽出法によって分離回収されることが多い。
しかし、得られたコバルト溶液には処理原料に由来する各種不純物が、なお含有されることが多い。
【0004】
そこで、上記溶媒抽出法によってニッケルが分離回収された後で、さらにコバルト溶液からマンガン、銅、亜鉛、カルシウムおよびマグネシウム等の不純物元素を除去することが必要になる。
しかも、不純物含有量の少ない高純度コバルト製品を製造するためには、予めコバルトを含有するニッケル溶液から分離回収されたコバルト溶液中の不純物元素を除去した後に、電解工程あるいは晶析等によってコバルトを製品化する必要があった。
【0005】
コバルト溶液中の不純物元素の除去方法としては、特許文献1、2に記載の従来技術がある。
特許文献1には、(1)コバルト溶液に硫化剤を添加し、酸化還元電位(ORP)(Ag/AgCl電極基準)を50mV以下かつpHを0.3~2.4に調整して、硫化銅沈殿と脱銅精製液とを得る脱銅工程、(2)該脱銅精製液に酸化剤と中和剤を添加し、酸化還元電位(Ag/AgCl電極基準)を950~1050mV且つpHを2.4~3.0に調整して、マンガン沈殿と脱マンガン精製液とを得る脱マンガン工程、(3)該脱マンガン精製液に抽出剤としてアルキルリン酸を用い、脱マンガン精製液中の亜鉛、カルシウム及び微量不純物を抽出分離する溶媒抽出工程、を含むコバルト溶液の精製方法が開示されている。
特許文献2には、塩酸濃度2~6mol/Lの塩化コバルト溶液を陰イオン交換樹脂に接触させ、陰イオン交換樹脂に対する分配係数がコバルト塩化物錯体のそれよりも大きい錯体を形成する鉄、亜鉛、スズ等の金属不純物を吸着させて分離する技術が記載されている。
【0006】
上記特許文献1に記載された抽出剤としてアルキルリン酸を用いる溶媒抽出方法は、亜鉛やカルシウムに対して高い分離性能を有している。しかし、塩酸濃度2~6mol/Lの塩化コバルト溶液の場合には、陰イオン交換樹脂によるイオン交換法やアミン系抽出剤による溶媒抽出法の方が、上記アルキルリン酸を用いる溶媒抽出法に比べてより高い亜鉛とコバルトの分離性能を有している。
また、塩化コバルト溶液中のごく微量の亜鉛を除去する場合は、イオン交換法による方が工程および操作が簡単であるため、効率的かつ経済的である。
【0007】
このような観点から、マンガン、銅、亜鉛を含有する塩化コバルト溶液から、これら不純物元素を除去する方法として、上記特許文献1の精製方法と特許文献2の分離技術を組み合わせた方法が提案されている(たとえば特許文献3)。
特許文献3の段落0022に記載する高純度塩化コバルト製造方法は、ニッケルとコバルトを分離する溶媒抽出工程、マンガンを除去する脱マンガン工程、銅を除去する脱銅工程、亜鉛を除去する脱亜鉛工程および電解工程を含んでいる。
脱亜鉛工程では、脱銅工程で得られた塩化コバルト水溶液を陰イオン交換樹脂に接触させて亜鉛を吸着除去する。電解工程では脱亜鉛工程で得た高純度塩化コバルト水溶液を電解給液として用い、金属コバルト(電気コバルトともいわれる)を製造するものである。
【0008】
一方、前述したように、最近ではリチウムイオン二次電池の原料用としてコバルトの需要が拡大し、硫酸コバルト溶液あるいは硫酸コバルト結晶の形態が望まれる。
特許文献3の従来技術で得られた金属コバルトから硫酸コバルト結晶を得ようとすれば、金属コバルトを硫酸で溶解して硫酸コバルト溶液を得、さらにこの溶液を晶析して、硫酸コバルト結晶を得ることができる。しかしながら、この製法を用いると、工程の増加や薬剤費の増加により製造コストが高くなる。また、板状の金属コバルトは、耐蝕合金に用いられるように硫酸への溶解速度が遅く、短時間で溶解するためには、板状の金属コバルトをアトマイズ処理等によって粉末状にする必要がある。
このため、金属コバルトを経由することなく、直接的に塩化コバルト溶液から硫酸コバルト溶液を得る方法が望まれてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004-285368号公報
【特許文献2】特開2001-020021号公報
【特許文献3】特開2020-019664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みて提案されたものであり、不純物を含む塩化コバルト溶液から、電解工程を用いることなく不純物とコバルトを分離し、純度の高い硫酸コバルトを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1発明の硫酸コバルトの製造方法は、銅、亜鉛、マンガン、カルシウムおよびマグネシウムのうち1種類以上の不純物を含む塩化コバルト溶液に硫化剤を添加し銅の硫化物の沈殿を生成させて分離除去する脱銅工程、前記脱銅工程を経た塩化コバルト溶液にアルキルリン酸系抽出剤を含む有機溶媒を接触させ、該有機溶媒に亜鉛、マンガンおよびカルシウムを抽出して分離除去する第1溶媒抽出工程、前記第1溶媒抽出工程を経た塩化コバルト溶液にカルボン酸抽出剤を含む有機溶媒を接触させ、該有機溶媒にコバルトを抽出させた後、硫酸でコバルトを逆抽出して硫酸コバルト溶液を得る第2溶媒抽出工程、前記第2溶媒抽出工程経たコバルトを硫酸溶液に逆抽出する逆抽出工程を実行した後の有機溶媒に、酸と還元剤を接触させて、有機溶媒中のコバルト、マンガン、鉄イオンを還元し、逆抽出して還元逆抽出液を得る還元逆抽出工程、を順に実行することを特徴とする。
第2発明の硫酸コバルトの製造方法は、第1発明において、前記還元逆抽出工程において、コバルトを硫酸溶液に逆抽出する逆抽出工程を実行した有機溶媒に、酸と還元剤を接触させて、pHを4.5以下、酸化還元電位を500mV vs. Ag/AgCl以下に調整し、有機溶媒中のコバルト、マンガン、鉄イオンを還元し、逆抽出して還元逆抽出液を得ることを特徴とする。
第3発明の#は、第1発明において、前記第2溶媒抽出工程における請求項1および8に記載の前記還元逆抽出工程で得られる還元逆抽出液を前記第2溶媒抽出工程およびまたは第1溶媒抽出工程における抽出工程に添加することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
第1発明によれば、脱銅工程で銅を除去し、第1溶媒抽出工程で亜鉛、マンガンおよびカルシウムを除去し、第2溶媒抽出工程でマグネシウムを除去するので、上記各不純物の全てが除去された高純度の硫酸コバルト溶液が得られる。したがって、電解工程を用いることなく不純物とコバルトを分離して直接に高純度の硫酸コバルトを製造することができる。さらに、還元逆抽出工程によって第2溶媒抽出工程で得られた有機相から金属イオンを逆抽出して有機溶媒を再生できる。この有機溶媒は第1溶媒抽出工程および第2溶媒抽出工程で再利用することができる。
第2発明によれば、コバルトを硫酸溶液に逆抽出した有機溶媒に、酸と還元剤を接触させることで、有機溶媒中蓄積したコバルト、マンガン、鉄などの金属イオンを還元し、逆抽出することができる。
第3発明によれば、還元と逆抽出によりコバルトを含んだ還元逆抽液を第2溶媒抽出工程およびまたは第1溶媒抽出工程の抽出工程に添加することにより、コバルトを回収し系外へのロスを減少することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る硫酸コバルトの製造方法を示す工程図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る硫酸コバルトの製造方法を示す工程図である。
【
図3】
図2に示す第1溶媒抽出工程S2の詳細工程図である。
【
図4】
図2に示す第2溶媒抽出工程S3および還元逆抽出工程S4の詳細工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0015】
(本発明の基本原理)
本発明に係る硫酸コバルトの製造方法を
図1に基づき説明する。
この製造方法は以下の工程を順に実行することを特徴とする。
(1)銅、亜鉛、マンガン、カルシウムおよびマグネシウムの1種類以上の不純物を含む塩化コバルト溶液に、硫化剤を添加し銅の硫化物の沈殿を生成させて分離除去する脱銅工程S1、
(2)脱銅工程S1により銅が除去された塩化コバルト溶液にアルキルリン酸系抽出剤を含む有機溶媒を接触させ、この有機溶媒に亜鉛、マンガンおよびカルシウムを抽出して分離除去する第1溶媒抽出工程S2、
(3)第1溶媒抽出工程S2により銅、亜鉛、マンガンおよびカルシウムが除去された塩化コバルト溶液にカルボン酸を含む有機溶媒を接触させ、その有機溶媒にコバルトを抽出させた後、硫酸でコバルトを逆抽出して硫酸コバルト溶液を得る第2溶媒抽出工程S3、
(4)第2溶媒抽出工程S3でコバルトを逆抽出した後の抽出剤(有機溶媒)に、酸と還元剤を接触させて、有機中に蓄積したコバルト、マンガン、鉄イオンを還元し逆抽出する還元逆抽出工程S4。
【0016】
上記各工程S1~S4を順に実行することで、硫酸コバルト溶液が得られる。
また、前記各工程S1~S4の後で、必要に応じて硫酸コバルト溶液から結晶を析出させる晶析工程S5を実行すると、硫酸コバルト結晶が得られる。
【0017】
本発明では、
図1には図示していないが、第1溶媒抽出工程S2の後、および(または)第2溶媒抽出工程S3の後で、液中に混入した有機成分を分離除するために活性炭カラム等の油水分離装置に供する工程を追加してもよい。
また、第2溶媒抽出工程S3には溶媒回収処理S32(
図4参照)が含まれていてもよい。
【0018】
本発明において出発原料とする塩化コバルト溶液は、不純物元素として銅、亜鉛、マンガン、カルシウムおよびマグネシウムのうち1種類以上を含んでいる。このような不純物を含む塩化コバルト溶液であれば本発明の適用に何ら限定されるものではないが、とくにニッケル製錬の溶媒抽出工程において、コバルトを含有したニッケル溶液からアルキルリン酸系抽出剤やアミン系抽出剤によってニッケルが分離回収された後の塩化コバルト溶液に好適に適用される。
【0019】
本発明によれば、
図2に示すように、塩化コバルト溶液から、脱銅工程S1により銅の硫化物沈殿を生成させて銅を除去し、第1溶媒抽出工程S2により亜鉛、マンガンおよびカルシウムを分離除去し、第2溶媒抽出工程S3によりマグネシウムを分離除去して、高純度の硫酸コバルト溶液を得ることができる。したがって、電解工程を用いることなく不純物とコバルトを分離して直接に高純度の硫酸コバルト溶液を製造することができる。
【0020】
そして、第2溶媒抽出工程S3に続けて、還元逆抽出工程S4を実行する。還元逆抽出工程S4は、第2溶媒抽出工程S3において、コバルトを硫酸溶液に逆抽出するコバルト逆抽出工程S33を実行した有機溶媒に、酸と還元剤を接触させて、有機溶媒中のコバルト、マンガン、鉄などの金属イオンを還元し逆抽出する工程である。
【0021】
この還元逆抽出工程S4で得られるコバルト、マンガン、鉄を含んだ還元逆抽出液は、第2溶媒抽出工程S3および/または第1溶媒抽出工程S2におけるそれぞれの抽出工程に添加され、再利用される。
【0022】
本発明によれば、前記各工程S1~S4を経た後の硫酸コバルト溶液を晶析工程S5に付すことで、溶液から結晶を析出させて硫酸コバルト結晶を得ることができる。
【0023】
(実施形態)
以下、硫酸コバルトの製造方法の実施形態について
図2~
図5に基づき説明する。
図2は、
図1に示す工程S1~S4の詳細をまとめて示したものである。
【0024】
(脱銅工程S1)
脱銅工程S1を
図2に基づき説明する。
脱銅工程S1は、出発原料である銅、亜鉛、マンガン、カルシウムおよびマグネシウムのうち1種類以上の不純物を含む塩化コバルト溶液に硫化剤を添加することにより行う。また、硫化剤の添加量を調整し、必要に応じて中和剤を添加して、塩化コバルト溶液の酸化還元電位を-100~200mV(Ag/AgCl電極基準)に、かつpHを1.3~3.0に調整する。
本工程S1により、塩化コバルト溶液から銅の硫化物の沈殿を生成させて分離し、銅が除去された塩化コバルト溶液を得ることができる。
【0025】
塩化コバルト溶液中の銅は、下記式1、式2あるいは式3に従って硫化銅の沈殿物を生成して、溶液中から除去される。
CuCl2+H2S→CuS↓+2HCl・・・(式1)
CuCl2+Na2S→CuS↓+2NaCl・・・(式2)
CuCl2+NaHS→CuS↓+NaCl+HCl・・・(式3)
【0026】
上記脱銅工程S1では、塩化コバルト溶液の酸化還元電位を-100~200mV(Ag/AgCl電極基準、以下同じ)に、かつpHを1.3~3.0に調整しておくと、硫化物として銅を充分に除去することができ、しかもコバルトの共沈殿を抑制することができる。
仮に、酸化還元電位が200mVを超えると溶液中の銅の除去が不十分となり、酸化還元電位が-100mV未満ではコバルトの共沈殿量が増加するため好ましくない。また、pHが1.3未満では、溶液中の銅の除去が不十分となると共に、生成する硫化物沈殿のろ過性が悪化する。pHが3.0を超えると、銅の除去に伴うコバルト共沈殿量が増加するため好ましくない。
【0027】
上記酸化還元電位の調整は、硫化剤の添加量を調整することにより行うことができる。硫化剤の投入により、酸化還元電位が所望した値より低くなった場合、酸化剤の添加により調整できる。たとえば、溶液中に空気を導入して撹拌する、あるいは過酸化水素溶液を添加することで調整できる。硫化剤としては、とくに限定されるものではないが、硫化水素ガス、硫化ナトリウムや水硫化ナトリウムの結晶や水溶液等を用いることができる。
また、上記pHの調整は、硫化剤として硫化水素や水硫化ナトリウムを用いる場合は、硫化剤の添加量調整と中和剤の添加によって行われる。中和剤としては、とくに限定されるものではなく、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸コバルト等のアルカリ塩を用いることができる。
【0028】
(第1溶媒抽出工程S2)
第1溶媒抽出工程S2を
図2および
図3に基づき説明する。
第1溶媒抽出工程S2は、前記脱銅工程を経た塩化コバルト溶液にアルキルリン酸系抽出剤を含む有機溶媒を接触させ、この有機溶媒に亜鉛、マンガンおよびカルシウムを抽出して分離除去する工程である。このように不純物除去が主目的であるため、「第1溶媒抽出工程」は「浄液溶媒抽出工程」とも称することができる。
【0029】
有機溶媒としては、アルキルリン酸系抽出剤を希釈剤で希釈したものが用いられる。アルキルリン酸系抽出剤として、リン酸水素ビス(2-エチルヘキシル)(商品名D2EHPA)、(2-エチルヘキシル)ホスホン酸2-エチルヘキシル(商品名PC-88A)、ジ(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸(商品名CYANEX272)が挙げられる。これらの中でも、銅が除去された塩化コバルト溶液から、亜鉛、マンガンおよびカルシウムを分離する場合、アルキルリン酸系抽出剤としてコバルトとの分離性が高いリン酸水素ビス(2-エチルヘキシル)を抽出剤として用いることが好ましい。リン酸水素ビス(2-エチルヘキシル)は、コバルト溶液から、不純物である亜鉛、マンガンおよびカルシウムを分離する特性が良いためである。
【0030】
希釈剤は抽出剤を溶解可能なものであれば特に限定されない。希釈剤として、たとえば、ナフテン系溶剤、芳香族系溶剤を用いることができる。抽出剤の濃度は、10~60体積%に調整することが好ましく、20~50%体積%に調整することがより望ましい。抽出剤の濃度がこの範囲であると、濃度の高い不純物元素も分配比(有機中の元素濃度/溶液中の元素濃度)が低い不純物元素も充分に抽出できる。一方、抽出剤の濃度が10%未満では、濃度の高い不純物元素や分配比が低い不純物元素を十分に抽出できず、塩化コバルト溶液に残留しやすくなる。また、抽出剤の濃度が60%を超えると有機溶媒の粘度が高くなり、有機溶媒(有機相)と塩化コバルト溶液(水相)の抽出操作後の相分離性が悪化する。
【0031】
アルキルリン酸系抽出剤のような酸性抽出剤は、式4に示すように、その抽出剤の持つ-Hが水相中の陽イオンと置換して金属塩を形成することによって金属イオンを抽出する抽出剤である。一般的に、pHが高くなると金属イオンが有機相に抽出されやすくなり、pHを低くすると式4の反応が逆方向に進み、有機相に抽出された金属イオンが水相に逆抽出されやすくなる。
金属イオンの種類によって、抽出されるpHが異なため、酸性抽出剤を用いた溶媒抽出工程ではpHを制御することで目的の元素と不純物元素の分離を行う。
nRHorg + Mn+
aq → MRnorg + nH+
aq・・・(式4)
ここで、式中のRHは酸性抽出剤、Mn+はn価の金属イオン、orgは有機相、aqは水相を示す。
【0032】
そこで、第1溶媒抽出工程S2では、銅が除去された塩化コバルト溶液のpHを1.5~3.0に調整することが望ましい。このpH領域では、亜鉛、マンガンおよびカルシウムの抽出率は、コバルトの抽出率より高い傾向を示し、コバルトを水相に残し、これらの不純物元素を有機相に抽出することでコバルトと分離することが可能である。
【0033】
pHが1.5未満では、これらの不純物の抽出率が低く、コバルトとの分離が困難となり、pHが3.0を超えると、コバルトの抽出率も大きくなり、不純物との分離性が低下する。pHが1.5~3.0に調整した場合、コバルトの一部が抽出される場合もあるが、抽出後の有機相を抽出時より低いpHの塩酸溶液と接触させ、コバルトを逆抽出して回収し、コバルトのロスを低減することもできる。
さらに、この有機相とpH1以下の酸性溶液を接触させると、抽出されたほとんどの金属イオンを水相に逆抽出することができ、逆抽出後の有機相を再利用できる。
【0034】
(第2溶媒抽出工程S3)
第2溶媒抽出工程S3を
図2および
図4に基づき説明する。
第2溶媒抽出工程S3は、第1溶媒抽出工程S2を経た塩化コバルト溶液にカルボン酸系抽出剤を含む有機溶媒を接触させコバルトを抽出するコバルト抽出工程S31を実行し、ついで硫酸でコバルトを逆抽出するコバルト逆抽出工程S33、を実行して硫酸コバルト溶液を得る工程である。このように塩化コバルト溶液を硫酸コバルト溶液に変えることが主目的であるため、「第2溶媒抽出工程」は「浴変換溶媒抽出工程」とも称することができる。
【0035】
第2溶媒抽出工程S3で用いる有機溶媒としては、カルボン酸系抽出剤を希釈剤で希釈したものが用いられる。カルボン酸系抽出剤として、バーサチック酸やナフテン酸が挙げられる。これらは、COOH其を有する酸性抽出剤である。
【0036】
カルボン酸系抽出剤は、金属イオンを抽出さる際、金属の価数に応じたプロトンを水相に放出し、金属イオンはカルボニル酸素に配位する。多くのカルボン酸は、無極性溶媒中でお互いに水素結合によって2量体、3量体を形成している。また、金属イオンを抽出する際、金属イオンに配位している水和水を除去するように酸解離していないカルボン酸が配位することがある。たとえば、6配位の2価の金属イオンM2+が2量体のカルボン酸抽出剤R2H2により抽出される反応は、式5のように表される。
[M(H2O)6]2+
aq+3(R2H2)org
→ (MR2・4RH)org+2H+
aq+6H2Oaq・・・(式5)
ここで、式中のorgは有機相、aqは水相を示す。
【0037】
(コバルト抽出工程S31)
コバルト抽出工程S31では、銅、亜鉛、マンガン、カルシウムが除去された塩化コバルト溶液に中和剤としてアルカリ溶液を添加して、pHを5.0~7.0に調整する。pHがこの範囲であると、カルボン酸系抽出剤を含む有機溶媒に接触させて、コバルトを有機相に抽出することができる。このときマグネシウムは抽出されず水相に残留する。pHが5未満では、コバルトの抽出が困難であり、一方pHが7を超えると、コバルトの溶解度が低下し、沈殿が発生することがある。
【0038】
中和剤としてのアルカリ溶液には、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムの溶液を用いることができる。
抽出中のコバルトの酸化を防ぐために、窒素ガスやアルゴンガスや炭酸ガスなどの不活性ガスを用いてバブリングを行っても良い。
マグネシウムが残留する残液は、後述する溶媒回収処理S32を終えた後の残液と共に捨てられる。なお、マグネシウムは排水しても環境上の問題は生じない。
【0039】
(溶媒回収処理S32とコバルト逆抽出工程S33)
図2に示すように、コバルト抽出工程S31の後で、コバルト逆抽出工程S33が実行される。また
図4に示すように、コバルト逆抽出工程S33に並行して溶媒回収処理S32を実行しても良い。
【0040】
(溶媒回収処理S32)
コバルト抽出工程S31でコバルトを抽出後の塩化コバルト溶液(水相)には、カルボン酸系抽出剤が一部溶解することがある。これは抽出剤のロスになるとともに、水相を排水処理に付して海域等に放流する際に、抽出剤に起因するTOC(全有機体炭素)による環境等への影響も生じ、好ましくない。このためには、
図4に示す溶媒回収処理S32を行うとよい。
【0041】
(コバルト逆抽出工程S33)
図4に示すように、コバルト逆抽出工程S33では、コバルト抽出工程S31で得られたカルボン酸系抽出剤に抽出されているコバルトと硫酸溶液を接触させて、pHを2.0~4.5に調整する。これによりコバルトを硫酸溶液に逆抽出することができる。こうして高純度の硫酸コバルト溶液が得られる。
pHが2未満でも逆抽出可能であるが、pHをあまり下げても回収量はあまり変わらず得られる効果が少ない。一方で、コバルトより低いpHで抽出された微量の不純物の逆抽出量が増加するため好ましくない。さらに薬剤コストがかかるなどの課題もあるので、pHは2.0以上とすることが良い。一方、pHが4.5を超えるとコバルトを逆抽出率が低下し、コバルトの回収量が減少するので好ましくない。
【0042】
コバルト抽出工程S31で得られた抽出後の有機相には、分相後も微細な水相が混入しているため、逆抽出の前にこの水相を除去するための洗浄工程を追加してもよい。洗浄工程の水相には、たとえば硫酸コバルト溶液を用いることができる。また、コバルト逆抽出工程S33で得られた逆抽出後の有機相は、溶媒回収処理S32で用いる有機相として再利用できる。
【0043】
(還元逆抽出工程S4)
上記のコバルト逆抽出工程S33における逆抽出後の有機相は、抽出工程の有機相(有機溶媒)として再利用できるが、一部の金属イオンは逆抽出されず、有機相に抽出されたままの状態となる。この抽出されたままの金属イオンが増加すると、新たに金属イオンを抽出可能な有機分子が相対的に減少するため、抽出工程の有機相として再利用することが次第に困難になる場合がある。
【0044】
そこで、本発明では、金属イオンを逆抽出する還元逆抽出S4を設けている。この還元逆抽出工程S4では、一部の金属イオンが逆抽出されず抽出したままの有機相に、酸と還元剤を添加し、pHを4.5以下、酸化還元電位を500mV vs. Ag/AgCl以下に調整して金属イオンを逆抽出する。
この還元逆抽出工程S4により、有機中に蓄積したコバルト、マンガン、鉄などの金属イオンを高い逆抽出率で逆抽出できる。
このようにして有機相を、抽出工程での再利用により適した有機溶媒に再生することができる。再生された有機溶媒は、
図4に示すように第2溶媒抽出工程S3におけるカルボン酸系抽出剤として再利用できる。
【0045】
この還元逆抽出工程S4に付する有機相は、コバルトを逆抽出した後の有機相全量を常時処理する必要はなく、例えば蓄積状況を確認しつつ一定のレベルに達してから、還元逆抽出工程に付することもできる。
【0046】
また還元逆抽出工程S4では、還元と逆抽出によりコバルトを含んだ還元逆抽出液が得られるが、これを第2溶媒抽出工程S3のコバルト抽出工程S31に添加することにより、逆抽出によって硫酸コバルトとして回収され、系外へのコバルトロスを減少させることもできる。
【0047】
さらに、還元逆抽出液を、第1溶媒抽出工程S2に添加することによっても、コバルトを回収し系外へのコバルトロスを減少することができる。なお、第1溶媒抽出工程S2に添加する方法を用いると、マンガンや鉄などの不純物は、第1溶媒抽出工程S2の溶媒で抽出されるので、系外に排出することができ不純物の系内への蓄積を防止することができる。
【0048】
上述するように、還元逆抽出工程S4で得られるコバルトなどを含んだ溶液は、第1溶媒抽出工程S2か第2溶媒抽出工程S3のいずれかあるいは両方の抽出工程に添加することができる。両方に添加する場合、含有する不純物の量などによりそれぞれの添加量を調整することもできる。
さらに還元逆抽出液を中和等の処理によってコバルトやマンガンや鉄などを中和澱物として回収することもできる。
【0049】
上記の方法で、不純物の少ない高純度の硫酸コバルト溶液を製造することができる。
【0050】
(晶析工程S5)
晶析工程S5を
図1に基づき説明する。
晶析工程S5では、上記各工程を経て得られた硫酸コバルト溶液から硫酸コバルトの結晶を析出させる。晶析方法はとくに限定されるものではなく、一般的な結晶化方法を用いて行うことができる。
【0051】
たとえば、硫酸コバルト溶液を晶析缶に収容し、その晶析缶内で晶析することにより結晶を得る方法が挙げられる。晶析缶は、所定圧力下で硫酸コバルト溶液中の水分を蒸発させることにより結晶を析出させるものであり、たとえばロータリーエバポレーターやダブルプロペラ型の晶析缶が用いられる。真空ポンプ等により内部の圧力を減圧し、ロータリーエバポレーターではフラスコを回転しながら、ダブルプロペラで撹拌しながら晶析が進行する。なお、晶析缶内では、硫酸コバルト溶液に硫酸コバルトの結晶が混合したスラリーとなっている。
【0052】
晶析缶から排出されたスラリーは、濾過器や遠心分離機等により硫酸コバルトの結晶と母液とに固液分離される。その後、硫酸コバルトの結晶を乾燥機で乾燥し、水分を除去する。
上記の方法で、硫酸コバルト溶液から硫酸コバルト結晶を製造することができる。もちろん、硫酸コバルト溶液は不純物の小なり高純度なものなので、得られる硫酸コバルト結晶も不純物の少ない高純度なものとなっている。
【実施例0053】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0054】
[実施例1]
(脱銅工程S1)
pH2.5に調整した表1の元液Aに示す組成からなる塩化コバルト溶液2Lに硫化剤として水硫化ナトリウム溶液を添加して、酸化還元電位を-50mV(Ag/AgCl電極基準)に調整して、銅の硫化物の沈殿を生成させた。濾過器で沈殿物を分離除去し、表1の硫化後Bに示す組成の濾液を得た。銅の濃度は0.001g/L未満であり、銅を分離除去することができた。
【0055】
(第1溶媒抽出工程S2)
アルキルリン酸系抽出剤(商品名D2EHPA、大八化学工業株式会社製)の濃度が40体積%となるように希釈剤(商品名テクリーンN20、JX日鉱日石エネルギー株式会社製)で希釈した有機相を準備した。脱銅工程S1で得られた塩化コバルト溶液からなる水相0.9Lと有機相1.8Lを混合し、pHが1.7になるように水酸化ナトリウム溶液を添加して調整し、不純物を抽出した。抽出後の水相0.9Lと新たな有機相1.8Lで同様の抽出操作を繰り返し、合計3回の抽出操作を行なった。その結果、表1の第1SX後Cに示す組成の塩化コバルト溶液を得た。亜鉛、マンガンおよびカルシウムの濃度は、いずれも0.001g/L未満であり、これらの不純物を分離除去することができた。
【0056】
(第2溶媒抽出工程S3)
カルボン酸系抽出剤(商品名Versatic Acid 10、オクサリスケミカルズ社製)の濃度が30体積%となるように希釈剤(テクリーンN20)で希釈した有機相を準備した。第1溶媒抽出工程S2で得られた塩化コバルト溶液からなる水相0.44Lと有機相1Lを混合し、pHが6.5になるように水酸化ナトリウム溶液を添加して調整し、コバルトを有機相に抽出した(コバルト抽出工程S31)。
抽出した有機相0.6Lとコバルト濃度10g/Lの塩化コバルト溶液0.6Lを混合し、抽出後の有機相に混入していた水相を洗浄した。続いて、この有機相と純水0.09Lの純水を混合し、硫酸を添加してpH4に調整し、コバルトを逆抽出した(コバルト逆抽出工程S33)。その結果、表1の第2SX後Dに示す組成の硫酸コバルト溶液を得た。硫酸コバルト溶液中のマグネシウム濃度は0.001g/L未満となっており、充分にマグネシウムを分離除去することができた。
以上の方法により高純度の硫酸コバルト溶液を得た。
【0057】
【0058】
(還元逆抽出工程S4)
続いて、コバルトの大部分を逆抽出した有機溶媒0.1Lに、純水0.1Lを混合し、さらに35wt%塩酸と100g/Lの亜硫酸ナトリウム水溶液を使用してpHを1.0に調整しながら、酸化還元電位を段階的に低下させた。その結果、各酸化還元電位において、次のコバルト逆抽出率が得られ、有機溶媒を再度コバルトの抽出に使用可能な状態に再生できた。表2に酸化還元電位(mV vs. Ag/AgCl)とコバルトの逆抽出率(%)との関係を示す。
【0059】
【0060】
表2に示したように、酸化還元電位を500mV vs. Ag/AgCl以下の還元雰囲気に調整することで、コバルトを90%以上の高い逆抽出率で回収することができ、その分のコバルトロスを防止するとともに、同時に抽出工程での再利用に適したコバルトの蓄積が少ない有機溶媒が得られた。
【0061】
(晶析工程S5)
ロータリーエバポレーターに硫酸コバルト溶液を挿入し、内部を真空ポンプで減圧にするとともに、温度40℃に維持してフラスコ部を回転しながら水分を蒸発させ、硫酸コバルトの結晶を析出させた。固液分離後、得た硫酸コバルトの結晶を乾燥機で乾燥した。その結果、表3に示すような高純度の硫酸コバルト結晶を得た。
【表3】
【0062】
[実施例2]
脱銅工程S1において酸化還元電位を150mV(Ag/AgCl電極基準)に調整したこと、第2溶媒抽出工程S3において第1溶媒抽出工程S2において得られた塩化コバルト溶液を純水で2倍希釈した水相0.44Lと有機相を混合したこと(コバルト抽出工程S31)、抽出した有機相0.6Lとコバルト濃度10g/Lの塩化コバルト溶液0.6Lを混合し抽出後の有機相に混入していた水相を洗浄したこと、およびこの有機相と0.08Lの純水とを混合し硫酸を添加してpH4に調整してコバルトを逆抽出したこと(コバルト逆抽出工程S33)以外は、実施例1と同様の方法で硫酸コバルト溶液を得た。
この場合の組成を表4に示す。表4の第2SX後Dに示すように、高純度の硫酸コバルト溶液を得ることができた。
【表4】
【0063】
続いて実施例1と同様の方法で晶析を行なったところ、表5に示すような高純度の硫酸コバルト結晶を得た。
【表5】
【0064】
[実施例3]
実施例1の脱銅工程S1と第1溶媒抽出工程S2と同様の操作をし、第1SX後液Cを24リットル準備した。その液を用いて、第2溶媒抽出工程S3と還元逆抽出工程S4を実施し、還元逆抽出後液を5リットル準備した。
再度、実施例1の脱銅工程S1と第1溶媒抽出工程S2と同様の操作をし、第1SX後液Cを24リットル準備し、そこに予め準備しておいた還元逆抽出後液5リットルを加え、良く撹拌した。その液を用いて、第2溶媒抽出工程S3を実施した。
【0065】
脱銅工程S1では、硫化澱物に含まれるコバルトが系外へのロスとなり、第1溶媒抽出工程S2では、逆抽出液に含まれるコバルトが系外へのロスとなり、第2溶媒抽出工程S3では、抽残液に含まれるコバルトが系外へのロスとなる。還元逆抽出工程S4でも還元逆抽出後液が発生し、ここに含まれるコバルトが系外へのロスとなる可能性があったが、第2溶媒抽出工程S3に繰り返すことで、系内に回収することができた。表6に脱銅工程S1前の液に含まれるコバルト量を100%とした場合の各工程でのコバルトロスを示す。繰り返さない場合に2.7%のコバルトをロスしていたが、繰り返すことで0.7%に抑制できた。
【表6】
【0066】
[実施例4]
実施例1の脱銅工程S1と第1溶媒抽出工程S2と同様の操作をし、第1SX後液を720リットル準備した。その液を用いて、第2溶媒抽出工程S3と還元逆抽出工程S4を実施し、還元逆抽出後液として発生する150リットルのうち、前半からの145リットルは使用せず、終点付近で発生する5リットルだけを準備した。
再度、実施例1の脱銅工程S1と同様の操作をし、硫化後液35リットルを準備し、そこに予め準備しておいた還元逆抽出後液5リットルを加え、撹拌した。その液を用いて、第1溶媒抽出工程S2を実施し、第1SX後液と第1SX逆抽出後液を得た。
【0067】
第1溶媒抽出工程S2の始液となる硫化後液と還元逆抽出後液、第1溶媒抽出工程S2の終液となる第1SX後液と第1SX逆抽出後液をそれぞれICP発光分光装置で分析し、濃度を算出した。表7に各液のコバルト、マンガン、鉄濃度を示す。
硫化後液および還元逆抽出後液に含まれるマンガンおよび鉄は、第1SX逆抽出後液に分配しており、系外に排出できることが分かった。
【表7】
【0068】
以上の実施例1~4の結果から、本発明によれば、不純物を充分に除去できた純度の高い硫酸コバルトを得ることが分かる。