(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191204
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】樹脂微粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/14 20060101AFI20221220BHJP
【FI】
C08J3/14 CEQ
C08J3/14 CFD
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096510
(22)【出願日】2022-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2021099706
(32)【優先日】2021-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】藪 浩
(72)【発明者】
【氏名】木村 明日香
【テーマコード(参考)】
4F070
【Fターム(参考)】
4F070AA06
4F070AA47
4F070AB09
4F070AB19
4F070AB23
4F070AC38
4F070AC43
4F070AC66
4F070AE28
4F070AE30
4F070DA24
4F070DA33
4F070DC11
(57)【要約】
【課題】
比表面積を必要とする用途にも効果的に使用し得る樹脂微粒子を提供すること。
【解決手段】
表面が凹凸部を有していることを特徴とする樹脂微粒子である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が凹凸部を有していることを特徴とする、樹脂微粒子。
【請求項2】
前記凹凸部の突起のサイズは、1nm以上、平均粒子径の1/2以下の大きさである、請求項1に記載の樹脂微粒子。
【請求項3】
樹脂微粒子を構成するポリマーのTgが100℃以下である、請求項1に記載の樹脂微粒子。
【請求項4】
樹脂微粒子を構成するポリマーが、結晶性ポリマーである請求項1に記載の樹脂微粒子。
【請求項5】
樹脂微粒子を構成するポリマーが、少なくとも疎水性ポリマーを含有する、請求項1に記載の樹脂微粒子。
【請求項6】
前記疎水性ポリマーが、ポリブタジエンを含有する、請求項5に記載の樹脂微粒子。
【請求項7】
平均粒子径が1~10000nmである、請求項1に記載の樹脂微粒子。
【請求項8】
ポリマーを析出させる過程で結晶化と凹凸形成を同時に行うことを特徴とする、樹脂微粒子の製造方法。
【請求項9】
前記結晶化を、ポリマーを含む良溶媒と貧溶媒の混合液中で行い、良溶媒を蒸発除去し、貧溶媒中にポリマーを析出させる、請求項8に記載の樹脂微粒子の製造方法。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか1項に記載の樹脂微粒子を含む膜であって、表面の水接触角が80°以上、膜厚が100μm以下の膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂微粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂微粒子を製造する方法としては、粉砕による方法と重合による方法とがあるが、粉砕法では樹脂を機械的に粉砕するため粒径分布が幅広くなり、所望の粒径の微粒子の収率は低くなる。特に、数μm以下の樹脂微粒子を収率よく製造することは困難である。
また、微小な微粒子を作製する方法としては、乳化重合やミニエマルジョン重合などが知られており、量産性に優れ、その粒径は数十nmにも及ぶ。しかしながら、乳化剤の混入が避けられず、良質の微粒子を得ることは難しい。
【0003】
一方、簡便に高分子微粒子を製造する手法として、良溶媒中にポリマーを溶解させ、貧溶媒を加えた後に良溶媒を蒸発させる手法が報告されている(特許文献1)。この手法では、良溶媒が蒸発により系外に除去され、ポリマーの溶解度が低下するため、ポリマーが微粒子として析出する。この手法は、比較的サイズのそろった均一な粒子を、界面活性剤などの混和なしに製造できる手法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の高分子微粒子は、粒子径の揃った球状の微粒子であり、種々の用途に適用が可能である。一方、微粒子が球状であり、粒子径が揃っていることから、比表面積が必ずしも大きくなく、比表面積を必要とする用途には使用し辛いという面があった。
本発明で解決しようとする課題は、上記の問題点を解決し、比表面積を必要とする用途にも効果的に使用し得る樹脂微粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。本発明は、以下の[1]~[10]を要旨とする。
[1]表面が凹凸部を有していることを特徴とする、樹脂微粒子。
[2]前記凹凸部の突起のサイズは、1nm以上、平均粒子径の1/2以下の大きさである、上記[1]に記載の樹脂微粒子。
[3]樹脂微粒子を構成するポリマーのTgが100℃以下である、上記[1]又は[2]に記載の樹脂微粒子。
[4]樹脂微粒子を構成するポリマーが、結晶性ポリマーである上記[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂微粒子。
[5]樹脂微粒子を構成するポリマーが、少なくとも疎水性ポリマーを含有する、上記[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂微粒子。
[6]前記疎水性ポリマーが、ポリブタジエンを含有する、上記[5]に記載の樹脂微粒子。
[7]平均粒子径が1~10000nmである、上記[1]~[6]のいずれかに記載の樹脂微粒子。
[8]ポリマーを析出させる過程で結晶化と凹凸形成を同時に行うことを特徴とする、樹脂微粒子の製造方法。
[9]前記結晶化を、ポリマーを含む良溶媒と貧溶媒の混合液中で行い、良溶媒を蒸発除去し、貧溶媒中にポリマーを析出させる、上記[8]に記載の樹脂微粒子の製造方法。
[10]上記[1]~[7]のいずれかに記載の樹脂微粒子を含む膜であって、表面の水接触角が80°以上、膜厚が100μm以下の膜。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、比表面積を必要とする用途にも効果的に使用し得る樹脂微粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例1で製造した樹脂微粒子のSEM写真である。
【
図2】実施例1で製造した樹脂微粒子のSEM写真である。
【
図3】実施例2で製造した樹脂微粒子のSEM写真である。
【
図4】実施例3で製造した樹脂微粒子のSEM写真である。
【
図5】比較例1で製造した樹脂微粒子のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[樹脂微粒子]
本発明の樹脂微粒子は、表面が凹凸部を有していることを特徴とする。このような表面に凹凸部を有する樹脂微粒子は、凹凸部を有さない一般的な樹脂微粒子に比べて比表面積が増大する。該樹脂微粒子は、後に詳述する製造方法によって、合成されたものであり、これまでにない構造を有するものである。
図1~
図4に走査型電子顕微鏡(以下「SEM」と記載する。)写真を示す。
図1~4に示されるように、本発明の樹脂微粒子は、表面が凹凸部を有しており、従来の樹脂微粒子のSEM像(
図5)との比較から、その違いは明らかである。
【0010】
<樹脂微粒子の物性>
本発明の樹脂微粒子は、表面に突起があることで、凹凸部が形成される。突起は、微粒子の表面において外側に突出した部分であり、通常は各微粒子に対して複数ある。
本発明の樹脂微粒子における凹凸部の突起のサイズ(以下、「突起サイズ」と記載する。)は、1nm以上、平均粒子径の1/2以下の大きさであることが好ましい。突起サイズが1nm以上であると、表面の凹凸に起因した効果を十分に発揮することができる。一方、突起サイズの上限については、特に制限はないが、通常、樹脂微粒子の平均粒子径の1/2程度となる。
以上の観点から、本発明の樹脂微粒子における突起サイズは、1nm~5000nmの範囲であることがより好ましく、5nm~500nmの範囲であることがさらに好ましい。突起サイズがこの範囲内であると、微粒子表面に階層的な構造を形成し、撥水性の向上や光散乱の点で有利である。
また、突起サイズは樹脂微粒子の平均粒子径との関係においては、平均粒子径の1/1000~1/2の範囲であることが好ましく、平均粒子径の1/100~1/10の範囲であることがさらに好ましい。突起サイズ/平均粒子径の値が上記範囲内であると突起サイズと同様、微粒子表面に階層的な構造を形成し、撥水性の向上や光散乱の点で有利である。
本発明の樹脂微粒子における突起は、概ね全ての突起部が上記好適な範囲の突起サイズを有するが、本発明の効果を損なわない範囲であれば、全ての突起が上記好適な範囲の突起サイズを有する必要はなく、一部の突起(例えば、全体の突起の50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上)が、上記各好適な範囲内の突起サイズを有すればよい。
【0011】
本発明の樹脂微粒子の平均粒子径は、1~10000nmの範囲であることが好ましい。平均粒子径が1nm以上であると、表面に突起構造を形成する点で有利であり、一方、平均粒子径が10000nm以下であると、階層構造を形成する点で有利である。以上の観点から、本発明の樹脂微粒子の平均粒子径は、50~5000nmの範囲であることがより好ましく、100~1500nmの範囲であることがさらに好ましく、200~1000nmの範囲であることが特に好ましい。
なお、本発明において、樹脂微粒子の平均粒子径は、動的光散乱(DLS)法で測定することができる。DLS法による場合は、平均粒子径は突起部分も含めた平均粒子径である。樹脂微粒子の平均粒子径がnmオーダーの場合には、DLS法が簡便であり有効である。また、樹脂微粒子の平均粒子径は、SEM像により測定することも可能である。SEM像に基づき測定する場合には、例えば、無作為に10個の粒子を選定し、該粒子の粒子径を測り、平均値をとることで算定することができる。SEMで平均粒子径を測定する場合には、SEM画像において突起部も含めた粒子の径のうち最も長い部分を粒子径とする。SEM像に基づき、平均粒子径を測定する場合は、微粒子の平均粒子径がμmオーダーの場合に有効である。
【0012】
<樹脂微粒子を構成するポリマー>
本発明の微粒子を構成するポリマーとしては、本発明の効果を奏するものであれば、特に限定されないが、ガラス転移温度(Tg)が100℃以下であるポリマーであることが好ましい。Tgが100℃以下であると、本発明の微粒子を容易に作製することができる。以上の観点から、ポリマーのTgは80℃以下であることがより好ましく、70℃以下であることがさらに好ましい。
Tgの下限値については、特に限定されないが、通常-100℃以上であり、-80℃以上であることがより好ましく、-70℃以上であることがさらに好ましい。
なお、Tgは示差走査熱量分析(DSC)により測定した値である。
【0013】
また、本発明の微粒子を構成するポリマーとしては、溶媒に溶解し得る結晶性ポリマーであることが好ましい。結晶性ポリマーであることで、本発明の樹脂微粒子の製造が容易になる。前記結晶性ポリマーの結晶化度としては、10%以上が好ましく、15%以上がより好ましく、20%以上がさらに好ましい。また、通常100%以下である。
結晶性ポリマーは、固体状態で結晶になる性質をもった高分子化合物であって、融点(Tm)を示すポリマーであればよい。なお、融点(Tm)を示すか否かは、示差走査熱量分析(DSC)において、融点(Tm)を示すピークが生じるか否かにより判定することができる。
【0014】
結晶性ポリマーの結晶化度の測定方法は、X線回折法、NMR法、赤外吸収スペクトル法(FT-IR法)、示差走査熱量分析法(DSC法)、密度法など挙げられる。例えば、示差走査熱量分析法(DSC法)では、試料の融解熱量を測定し、既知の完全結晶体融解熱量に対する比から結晶化度を算出できる。
【0015】
また、本発明の微粒子を構成するポリマーとしては、疎水性ポリマーを含有することが好ましい。疎水性ポリマーを含有することで、本発明の樹脂微粒子を作製しやすい。前記疎水性ポリマーの表面張力としては、46mN/m以下が好ましく、40mN/m以下がより好ましい。また、通常0.1mN/m以上である。
【0016】
ポリマーの表面張力は、表面張力が既知である液体を用いて測定したポリマーと該液体との接触角を求めることで算出することができる。具体的には、接触角測定装置で、ポリマーと2種類或いは3種類の液体を用いて接触角測定を行って接触角を求め、接触角測定装置に導入されている解析ソフトを用いてポリマーの表面張力を算出できる。
【0017】
本発明において、好適なポリマーとしては、上記物性を有するポリマーが好ましく、例えば、結晶化度が10%以上、表面張力が46mN/m以下のポリマーが挙げられる。具体的には、ポリブタジエン、ポリ乳酸、ポリカプロラクタム、ポリイソプレン、アイソタクチックポリスチレン、ポリエチレンオキシド等、またはこれらを含む共重合体が挙げられ、特に結晶性と結晶構造の点から、ポリブタジエンを含有することが好ましい。
【0018】
[樹脂微粒子の製造方法]
本発明における樹脂微粒子の製造方法は、ポリマーを析出させる過程で結晶化と凹凸形成を同時に行うことが特徴である。このような製造方法をとることで、表面が凹凸部を有する樹脂微粒子を得ることができる。
より具体的には、ポリマーを含有する溶液に、該ポリマーの溶解度の低い貧溶媒を加え、良溶媒を蒸発により除去させる方法がある。当該方法によれば、簡便な方法で本発明の樹脂微粒子を効率的に製造することができる。
具体的には、以下のような手法である。すなわち、良溶媒にポリマーを溶解したポリマー溶液中に、該良溶媒と相溶性のある貧溶媒を添加することによって、溶液が希釈され、全体的に過飽和状態になる。過飽和状態では、溶液濃度の揺らぎにより局所的に濃度が高くなり、核となる粒子が形成される。その後、核となる粒子に溶質であるポリマーが吸着することで粒子が成長し、一定の大きさを持った粒子が形成される。その間に良溶媒が蒸発除去され、貧溶媒中に樹脂微粒子が分散した分散液として得られる。
また、本発明の製造方法では、このポリマーを良溶媒と貧溶媒の混合溶媒中で析出させる過程で、結晶化と凹凸形成が同時に起こるために、突起部が形成され、表面に凹凸を有する微粒子樹脂が生成する。
なお、ここで、良溶媒とは、ポリマーを十分に溶解することができる溶媒であり、その種類は、用いるポリマーに応じて適宜選択することができる。また、貧溶媒とは、該ポリマーの溶解度が低い溶媒をいい、上記の良溶媒と相溶する溶媒であって、かつ用いるポリマーの溶解性がなるべく低い溶媒を使用することが好ましい。
【0019】
より詳細には、以下の(1)及び(2)の工程を経ることが好ましい。
(1)樹脂微粒子を構成するポリマーを溶媒(良溶媒)に溶解してポリマー溶液を得る。ここで用いる溶媒としては、ポリマーの種類に応じて、当該ポリマーを溶解する溶媒から選択されるが、後の工程で蒸発除去が容易なように、沸点が相対的に低い溶媒を選択することが好ましい。具体的には、後に加えられる貧溶媒よりも沸点が低いことが好ましく、良溶媒と貧溶媒の沸点の差は大きいことがさらに好ましい。特に、沸点の差が5℃以上であることが好ましく、10~100℃の範囲であることがさらに好ましい。
良溶媒の沸点としては、貧溶媒よりも低ければ特に限定されず、例えば25~100℃の範囲であることが好ましく、30~75℃の範囲であることがさらに好ましい。
また、粒子径分布の狭い微粒子を作製する場合には、核の生成速度が重要であり、核の生成速度を速めるためには、溶液の希釈が短い時間に均等に行われることが好ましい。そのため、良溶媒と貧溶媒はよく混和するものを選択することが好ましく、蒸発速度を上げるために、減圧にする又は加熱する等の方法をとってもよい。なお、蒸発速度を増大させることで、樹脂微粒子の平均粒子径は小さくなる傾向にある。
【0020】
ポリマー溶液の濃度としては、飽和濃度以下であれば、特に限定されないが、本発明の効果を十分に奏するという観点から、0.01~10.0mg/mLの範囲であることが好ましい。この範囲であると、所望の粒子径の樹脂微粒子が得られやすい。以上の観点から、ポリマー溶液の濃度としては、0.03~5.0mg/mLの範囲であることがより好ましく、0.05~2.0mg/mLの範囲であることがさらに好ましい。
好ましい良溶媒の具体例としては、テトラヒドロフラン(THF、沸点:66℃)、クロロホルム(沸点:61℃)、アセトン(沸点:56℃)、ジクロロメタン(沸点:40℃)等が挙げられる。
【0021】
(2)次に、上記ポリマー溶液に、貧溶媒を加え、良溶媒を蒸発除去する。この過程で、樹脂微粒子を構成するポリマーの結晶化と凹凸形成が同時に行われる。すなわち、ポリマーを含む良溶媒と貧溶媒の混合液中でポリマーの結晶化が起こるとともに、凹凸が形成され、貧溶媒中にポリマーが析出される。
貧溶媒としては、上記ポリマーを溶解しない溶媒であることが好ましく、用いるポリマーに応じて種々の溶媒を用いることができるが、本発明の微粒子を作製しやすいという点から、表面張力が小さく、ポリマーの表面張力に近い溶媒が好ましい。具体的には、表面張力差が30mN/m以下であることが好ましく、10mN/m以下の範囲であることがより好ましい。
【0022】
また、貧溶媒は良溶媒の蒸発除去に際し、蒸発しないことが好ましく、上述のように、良溶媒よりも沸点が高いことが好ましい。貧溶媒と良溶媒の沸点の差については上述の通りである。貧溶媒の沸点については、80℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがさらに好ましい。
貧溶媒としては有機溶媒を適宜使用でき、好ましい貧溶媒の具体例としては、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA、表面張力:26.7mN/m、沸点:146℃)、ジメチルスルホキシド(DMSO、表面張力:43mN/m、沸点:189℃)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF、表面張力:36.4mN/m、沸点:153℃)等が挙げられる。
【0023】
貧溶媒の添加量としては、ポリマーの種類、良溶媒及び貧溶媒の種類、製造される微粒子の粒子径等を考慮して、適宜選択することができるが、一般的には、ポリマー溶液の量に対して、0.5~10倍量の貧溶媒を添加することが好ましい。
また、貧溶媒の添加速度としても特に制限はなく、例えば0.1~2.0mL/分程度の速度で添加すればよい。
【0024】
本発明の微粒子の製造における温度は、特に限定されず、良溶媒へのポリマーの溶解、貧溶媒の添加等に際して、例えば0~90℃の範囲で製造することができ、好ましくは室温で製造することができる。
また、良溶媒を蒸発除去する方法としては、特に限定されず、上述の通り、室温で常圧又は減圧下、静置してもよいし、加熱により蒸発除去させてもよい。
【0025】
本発明においては、製造される微粒子の粒子径、突起部の突起サイズは、種々、製造条件の変更によって、制御することができる。例えば、ポリマー溶液の濃度は高いほど、微粒子の粒子径は大きくなり、濃度を低くすることで、微粒子の粒子径を小さくすることができる。また、添加する貧溶媒の添加量が多くなれば、微粒子の粒子径は小さくなり、貧溶媒の添加量が少なければ、微粒子の粒子径は大きくなる。また、良溶媒と貧溶媒の相溶性が高いほど、溶液の希釈が短時間で均等に行うことができることから、粒子径分布の狭い微粒子を製造することができる。
なお、ポリマーの種類、ポリマーのTg、分子量等によっても製造される微粒子の粒子径、突起部の突起サイズは変化する。したがって、ポリマーの種類に応じて、上記条件は所望の微粒子が得られるように、適宜調整することが肝要である。
【0026】
<用途>
本発明の樹脂微粒子は、表面が凹凸部を有していることから、比表面積が大きく、種々の用途に適用が可能である。例えば、撥液性材料として有用である。従来、撥液性材料としては、フッ素樹脂を用いるなど、材料として特定のものを用いるか、又は粒子サイズの異なる微粒子を多く並べる必要があったが、本発明の樹脂微粒子を用いれば、ほぼ揃った粒子サイズでありながら、表面に種々の凹凸を形成することで撥液性を得ることができる。したがって、本発明の樹脂微粒子を基材等に塗布するだけで、優れた撥液膜とすることができる。
また、比表面積が大きいことから、触媒の担体としても有用であり、また防汚剤や抗菌剤を塗布することで、有効な防汚膜や抗菌膜を形成することができる。
さらに、表面に凹凸を有することから、光散乱が起きやすく、視覚的により白色に見える等、光学材料としても有用である。
【0027】
<樹脂微粒子を含む膜>
本発明の膜は、本発明の樹脂微粒子を含む膜であって、表面の水接触角が80°以上、膜厚が100μm以下の膜である。膜厚が100μm以下であるにも関わらず、表面の水接触角が80°以上である。すなわち、本発明の樹脂微粒子を含むことで、100μm以下という薄い膜厚であっても、撥水性に優れる膜が得られる。
本発明の膜の膜厚は100μm以下であれば、特に限定されないが、50μm以下が好ましく、30μm以下がより好ましい。下限は特に限定されないが、通常0.1μm以上である。なお、膜厚は実施例に記載の方法により測定したものである。
【0028】
<<語句の説明など>>
本発明において、「X~Y」(X,Yは任意の数字)と記載した場合、特に断らない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
また、「X以上」(Xは任意の数字)と記載した場合、特に断らない限り「好ましくはXより大きい」の意を包含し、「Y以下」(Yは任意の数字)と記載した場合、特に断らない限り「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
【実施例0029】
次に、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0030】
<評価方法>
(1)樹脂微粒子の形状
各実施例及び比較例で得られた微粒子分散液をOsO4により固定化した後、粒子の形状を走査型電子顕微鏡(SEM、S-5200、日立ハイテク社製)を用いて観察した。
(2)平均粒子径
各実施例で得られた微粒子分散液の平均粒子径を動的光散乱(DLS、Zetasizer ZS、Malvern社製)により測定した。なお、実施例3及び比較例1については、上記(1)で得られたSEM像から、樹脂微粒子の平均粒子径を測定した。
(3)突起サイズ
各実施例で得られた樹脂微粒子について、上記(1)で得られたSEM像から、樹脂微粒子の突起部の突起サイズを測定した。
(4)水接触角
各実施例及び比較例で得られた樹脂微粒子分散液をSi基板上に塗布し、乾燥して膜を得た後、該膜上での水滴接触角を測定した。水滴接触角は、マイクロシリンジを用いて、液滴直径1.0mmのイオン交換水を滴下し、測定装置として接触角計(Dropmaster、協和界面科学社製)を用いて行った。
なお、参考例においては、ポリブタジエン溶液をスピンコート法にてSi基板上に塗布し、乾燥してポリブタジエンの平滑膜を得、該平滑膜上での水滴接触角を測定した。
(5)膜厚
水接触角の測定に用いた膜の膜厚は、該膜の断面を走査型電子顕微鏡(S-5200、日立ハイテク社製)で観察して測定した。
【0031】
実施例1
ポリブタジエン(JSR社製、商品名「JSR RB820」、Tg:-37℃)をテトラヒドロフラン(THF、WAKO/EP)に溶かして0.1mg/mLの溶液を調製し、該溶液1mLにPGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)を1mL加え、コンビニエバポ(バイオクロマト社製)でTHFを蒸発除去することで、樹脂微粒子を得た。該樹脂微粒子のSEM像を
図1(11000倍)および
図2(15000倍)に示す。また、上記方法にて評価した結果、平均粒子径が330nmであり、表面に10~100nm程度の突起構造が形成されていることが確認できた。また、得られた樹脂微粒子分散液をSi基板上に塗布し、乾燥して膜厚8~10μm程度の膜を形成し、該膜の水接触角を測定したところ、水の接触角は116°であった。表1に結果をまとめた。
【0032】
実施例2
溶液濃度を1.0mg/mLに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で樹脂微粒子を作製した。該樹脂微粒子のSEM像を
図3(11000倍)に示す。また、上記方法にて評価した結果、平均粒子径が1100nmであり、濃度に依存して粒子径が上昇した。また、表面に実施例1と同様に10~100nm程度の突起構造が形成されていた。また、得られた樹脂微粒子分散液をSi基板上に塗布し、乾燥して膜厚8~10μm程度の膜を形成し、該膜の水接触角を測定したところ、水の接触角は86.9°であった。結果を表1に示す。
【0033】
実施例3
ポリ乳酸(PLA、エステル末端、Aldrich社製、Tg:60℃)をクロロホルム(CHCl
3、WAKO/EP)に溶かして0.1mg/mLの溶液を調製し、該溶液1mLにPGMEAを1mL加え、コンビニエバポ(バイオクロマト社製)でCHCl
3を蒸発除去した。該樹脂微粒子のSEM像を
図4(11000倍)に示す。SEM像から、樹脂微粒子の粒子径が4~5μmであり、2μm程度の突起構造が形成されていることがわかる。また、得られた樹脂微粒子分散液をSi基板上に塗布し、乾燥して膜厚15~20μm程度の膜を形成し、該膜の水接触角を測定したところ、水の接触角は91.6°であった。結果を表1に示す。
【0034】
比較例1
実施例2において、貧溶媒を水に変更したこと以外は、実施例2と同様の方法で樹脂微粒子を作製した。該樹脂微粒子のSEM像を
図5(11000倍)に示す。SEM像に基づいて測定した平均粒子径は630nmであり、表面に突起構造の無い球状微粒子が得られた。また、得られた樹脂微粒子分散液をSi基板上に塗布し、乾燥して膜厚8~10μm程度の膜を形成し、該膜の水接触角を測定したところ、水の接触角は48.6°であった。結果を表1に示す。
【0035】
参考例1
ポリブタジエン(JSR社製、商品名「JSR RB820」)をテトラヒドロフラン(THF、WAKO/EP)に溶かして1.0mg/mLの溶液を調製した。該溶液について、上記方法にて、水接触角について評価した結果、水の接触角は99.8°であった。結果を表1に示す。
【0036】
【0037】
実施例1~3により作製された本発明の樹脂微粒子は、
図1~4に示されるSEM写真から明らかなように、表面に凹凸構造を有することが確認された(
図1~4参照)。比較例1により作製された表面に突起構造のない樹脂微粒子との比較から、その違いは明らかである。なお、比較例1では貧溶媒として表面張力が高い水を用いているために、本発明の粒子は得られないと考えられる。
また、実施例1と実施例2の結果から、ポリマー溶液の濃度を制御することによって、樹脂微粒子の平均粒子径を制御し得ることが確認された。
さらに、実施例1~3と比較例1の結果から、本発明の樹脂微粒子は、その分散液を基材に塗布して塗膜とした結果、樹脂微粒子の表面の突起構造によって、水接触角を高くすることができ、優れた撥液性を示すことが確認された。
本発明の樹脂微粒子は、表面の突起構造よって、平均粒子径の分布が狭い微粒子でありながら、高い比表面積を有することから、撥液性材料、触媒担体、防汚膜、抗菌膜、光散乱を利用した光学材料等、種々の用途に好適に用いることができる。