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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191342
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】負極及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/48 20100101AFI20221220BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20221220BHJP
   C01B 33/32 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
H01M4/48
H01M4/36 C
H01M4/36 A
C01B33/32
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161449
(22)【出願日】2022-10-06
(62)【分割の表示】P 2018222880の分割
【原出願日】2018-11-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 貴一
(72)【発明者】
【氏名】酒井 玲子
(72)【発明者】
【氏名】大沢 祐介
(72)【発明者】
【氏名】高橋 広太
(72)【発明者】
【氏名】松野 拓史
(57)【要約】
【課題】 二次電池の負極活物質として用いた際に、スラリーを安定化しつつ、初期効率改善に伴う電池容量の増加可能な負極活物質を提供する。
【解決手段】 負極活物質粒子を含む負極活物質であって、前記負極活物質粒子は、酸素が含まれるケイ素化合物を含むケイ素化合物粒子を含有し、前記ケイ素化合物粒子は、LiSiO及びLiSiの少なくとも1種を含有し、前記ケイ素化合物粒子は、XANESスペクトルから得られるSi K-edgeスペクトルにおいて、1847eV近傍に存在するLiシリケートに由来するピークPを有し、1851~1852eV近傍に、前記ピークPよりも緩やかなピークQを有するものであることを特徴とする負極活物質。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質を含む負極であって、
前記負極活物質は、負極活物質粒子を含み、
前記負極活物質粒子は、酸素が含まれるケイ素化合物であって、SiO:0.5≦x≦1.6であるものを含むケイ素化合物粒子を含有し、
前記ケイ素化合物粒子は、LiSiO及びLiSiの少なくとも1種を含有し、
前記ケイ素化合物粒子は、XANESスペクトルから得られるSi K-edgeスペクトルにおいて、1846eV以上1848eV以下の範囲に存在するLiシリケートに由来するピークPを有し、1850.5eV以上1852.5eV未満の範囲に、前記ピークPよりも緩やかなピークQを有するものであり、
前記負極活物質粒子は、表層部に炭素材が被覆されているものであることを特徴とする負極。
【請求項2】
前記負極活物質をラマン分光法により測定したときに、ラマンスペクトルから得られる455~479cm-1の範囲に存在する非晶質Siのピーク最大値Aと、480~520cm-1の範囲に存在する結晶質Siのピーク最大値Bの強度比が下記式1を満たすことを特徴とする請求項1に記載の負極。
1.1A≧B (式1)
【請求項3】
前記A及び前記Bが、下記式2を満たすことを特徴とする請求項2に記載の負極。
0.95A≧B (式2)
【請求項4】
前記A及び前記Bが、下記式3を満たすことを特徴とする請求項3に記載の負極。
0.1A≧B (式3)
【請求項5】
前記負極活物質を29Si-MAS-NMR測定したときに得られるピークのうち-75ppmに存在するLiSiOの最大ピーク値Cと、-93ppmに存在するLiSiの最大ピーク値Dが、下記式4を満たすことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の負極。
0.2C≧D (式4)
【請求項6】
前記負極活物質粒子は、メジアン径が2.0μm以上12μm以下であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の負極。
【請求項7】
前記炭素材の平均厚さは5nm以上500nm以下であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の負極。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の負極を含むことを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項9】
負極活物質粒子を含む負極活物質を製造し、該製造した負極活物質を用いて、負極を製造する方法であって、
酸素が含まれるケイ素化合物であって、SiO:0.5≦x≦1.6であるものを含むケイ素化合物粒子を作製する工程と、
前記ケイ素化合物粒子の表面に炭素材を被覆する工程と、
前記ケイ素化合物粒子にLiを挿入し、該ケイ素化合物粒子にLiSiO及びLiSiの少なくとも1種を含有させる工程と
を含み、これにより前記負極活物質粒子を作製し、
該作製した負極活物質粒子から、前記負極活物質粒子をXANES測定したときに、該XANESスペクトルから得られるSi K-edgeスペクトルにおいて、1846eV以上1848eV以下の範囲に存在するLiシリケートに由来するピークPを有し、1850.5eV以上1852.5eV未満の範囲に、前記ピークPよりも緩やかなピークQを有するものを選別する工程をさらに有し、
該選別した負極活物質粒子を用いて、負極活物質を製造し、
該製造した負極活物質を用いて、負極を製造することを特徴とする負極の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の負極の製造方法により製造した負極を用いて、該負極と、正極と、非水電解質と、セパレータとを有する非水電解質二次電池を製造することを特徴とする非水電解質二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極活物質及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モバイル端末などに代表される小型の電子機器が広く普及しており、さらなる小型化、軽量化及び長寿命化が強く求められている。このような市場要求に対し、特に小型かつ軽量で高エネルギー密度を得ることが可能な二次電池の開発が進められている。この二次電池は、小型の電子機器に限らず、自動車などに代表される大型の電子機器、家屋などに代表される電力貯蔵システムへの適用も検討されている。
【0003】
その中でも、リチウムイオン二次電池は小型かつ高容量化が行いやすく、また、鉛電池、ニッケルカドミウム電池よりも高いエネルギー密度が得られるため、大いに期待されている。
【0004】
上記のリチウムイオン二次電池は、正極及び負極、セパレータと共に電解液を備えており、負極は充放電反応に関わる負極活物質を含んでいる。
【0005】
この負極活物質としては、炭素系活物質が広く使用されている一方で、最近の市場要求から電池容量のさらなる向上が求められている。電池容量向上のために、負極活物質材としてケイ素を用いることが検討されている。なぜならば、ケイ素の理論容量(4199mAh/g)は黒鉛の理論容量(372mAh/g)よりも10倍以上大きいため、電池容量の大幅な向上を期待できるからである。負極活物質材としてのケイ素材の開発はケイ素単体だけではなく、合金、酸化物に代表される化合物などについても検討されている。また、活物質形状は、炭素系活物質では標準的な塗布型から、集電体に直接堆積する一体型まで検討されている。
【0006】
しかしながら、負極活物質としてケイ素を主原料として用いると、充放電時に負極活物質が膨張収縮するため、主に負極活物質表層近傍で割れやすくなる。また、活物質内部にイオン性物質が生成し、負極活物質が割れやすい物質となる。負極活物質表層が割れると、それによって新表面が生じ、活物質の反応面積が増加する。この時、新表面において電解液の分解反応が生じるとともに、新表面に電解液の分解物である被膜が形成されるため電解液が消費される。このためサイクル特性が低下しやすくなる。
【0007】
これまでに、電池初期効率やサイクル特性を向上させるために、ケイ素材を主材としたリチウムイオン二次電池用負極材料、電極構成についてさまざまな検討がなされている。
【0008】
具体的には、良好なサイクル特性や高い安全性を得る目的で、気相法を用いケイ素及びアモルファス二酸化ケイ素を同時に堆積させている(例えば特許文献1参照)。また、高い電池容量や安全性を得るために、ケイ素酸化物粒子の表層に炭素材(電子伝導材)を設けている(例えば特許文献2参照)。さらに、サイクル特性を改善するとともに高入出力特性を得るために、ケイ素及び酸素を含有する活物質を作製し、かつ、集電体近傍での酸素比率が高い活物質層を形成している(例えば特許文献3参照)。また、サイクル特性を向上させるために、ケイ素活物質中に酸素を含有させ、平均酸素含有量が40at%以下であり、かつ集電体に近い場所で酸素含有量が多くなるように形成している(例えば特許文献4参照)。
【0009】
また、初回充放電効率を改善するためにSi相、SiO、MO金属酸化物を含有するナノ複合体を用いている(例えば特許文献5参照)。また、サイクル特性改善のため、SiO(0.8≦x≦1.5、粒径範囲=1μm~50μm)と炭素材を混合して高温焼成している(例えば特許文献6参照)。また、サイクル特性改善のために、負極活物質中におけるケイ素に対する酸素のモル比を0.1~1.2とし、活物質、集電体界面近傍におけるモル比の最大値、最小値との差が0.4以下となる範囲で活物質の制御を行っている(例えば特許文献7参照)。また、電池負荷特性を向上させるため、リチウムを含有した金属酸化物を用いている(例えば特許文献8参照)。また、サイクル特性を改善させるために、ケイ素材表層にシラン化合物などの疎水層を形成している(例えば特許文献9参照)。また、サイクル特性改善のため、酸化ケイ素を用い、その表層に黒鉛被膜を形成することで導電性を付与している(例えば特許文献10参照)。特許文献10において、黒鉛被膜に関するRAMANスペクトルから得られるシフト値に関して、1330cm-1及び1580cm-1にブロードなピークが現れるとともに、それらの強度比I1330/I1580が1.5<I1330/I1580<3となっている。また、高い電池容量、サイクル特性の改善のため、二酸化ケイ素中に分散されたケイ素微結晶相を有する粒子を用いている(例えば、特許文献11参照)。また、過充電、過放電特性を向上させるために、ケイ素と酸素の原子数比を1:y(0<y<2)に制御したケイ素酸化物を用いている(例えば特許文献12参照)。
【0010】
また、ケイ素酸化物を用いたリチウムイオン二次電池は、日立マクセルが2010年6月にナノシリコン複合体を採用したスマートフォン用の角形の二次電池の出荷を開始した(例えば非特許文献1参照)。Hohlより提案されたケイ素酸化物はSi0+~Si4+の複合材であり様々な酸化状態を有する(非特許文献2)。またKapaklisはケイ素酸化物に熱負荷を与えることでSiとSiOにわかれる、不均化構造を提案している(非特許文献3)。
【0011】
Miyachiらは不均化構造を有するケイ素酸化物のうち充放電に寄与するSiとSiOに注目しており(非特許文献4)、Yamadaらはケイ素酸化物とLiの反応式を次のように提案している(非特許文献5)。
2SiO(Si+SiO) + 6.85Li+ + 6.85e
→ 1.4Li3.75Si + 0.4LiSiO + 0.2SiO
反応式ではケイ素酸化物を構成するSiとSiOがLiと反応し、LiシリサイドとLiシリケート、一部未反応であるSiOにわかれる。
【0012】
ここで生成したLiシリケートは不可逆で、1度形成した後はLiを放出せず安定した物質である。この反応式から計算される質量当たりの容量は、実験値とも近い値を有しており、ケイ素酸化物の反応メカニズムとして認知されている。Kimらはケイ素酸化物の充放電に伴う不可逆成分、LiシリケートをLiSiOとして、Li-MAS-NMRや29Si-MAS-NMRを用いて同定している(非特許文献6)。この不可逆容量はケイ素酸化物の最も不得意とするところであり、改善が求められている。そこでKimらは予めLiシリケートを形成させるLiプレドープ法を用いて、電池として初回効率を大幅に改善し、実使用に耐えうる負極電極を作成している(非特許文献7)。
【0013】
また電極にLiドープを行う手法ではなく、粉末に処理を行う方法も提案し、不可逆容量の改善を実現している(特許文献13)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2001-185127号公報
【特許文献2】特開2002-042806号公報
【特許文献3】特開2006-164954号公報
【特許文献4】特開2006-114454号公報
【特許文献5】特開2009-070825号公報
【特許文献6】特開2008-282819号公報
【特許文献7】特開2008-251369号公報
【特許文献8】特開2008-177346号公報
【特許文献9】特開2007-234255号公報
【特許文献10】特開2009-212074号公報
【特許文献11】特開2009-205950号公報
【特許文献12】特開平06-325765号公報
【特許文献13】特開2015-156355号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】社団法人電池工業会機関紙「でんち」平成22年5月1日号、第10頁
【非特許文献2】A. Hohl, T. Wieder, P. A. van Aken, T. E. Weirich, G. Denninger, M. Vidal, S. Oswald, C. Deneke, J. Mayer, and H. Fuess : J. Non-Cryst. Solids, 320, (2003 ), 255.
【非特許文献3】V. Kapaklis, J. Non-Crystalline Solids, 354 (2008) 612
【非特許文献4】Mariko Miyachi, Hironori Yamamoto, and Hidemasa Kawai, J. Electrochem. Soc. 2007 volume 154, issue 4, A376-A380
【非特許文献5】M. Yamada, A. Inaba, A. Ueda, K. Matsumoto, T. Iwasaki, T. Ohzuku, J.Electrochem. Soc., 159, A1630 (2012)
【非特許文献6】Taeahn Kim, Sangjin Park, and Seung M. Oh, J. Electrochem. Soc. volume 154,(2007), A1112-A1117.
【非特許文献7】Hye Jin Kim, Sunghun Choi, Seung Jong Lee, Myung Won Seo, Jae Goo Lee, Erhan Deniz, Yong Ju Lee, Eun Kyung Kim, and Jang Wook Choi,. Nano Lett. 2016, 16, 282-288.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上述したように、近年、モバイル端末などに代表される小型の電子機器は高性能化、多機能化がすすめられており、その主電源であるリチウムイオン二次電池は電池容量の増加が求められている。この問題を解決する1つの手法として、ケイ素材を主材として用いた負極からなるリチウムイオン二次電池の開発が望まれている。また、ケイ素材を用いたリチウムイオン二次電池は、炭素系活物質を用いたリチウムイオン二次電池と同等に近い初期充放電特性及びサイクル特性が望まれている。そこで、Liの挿入、一部脱離により改質されたケイ素酸化物を負極活物質として使用することで、サイクル特性、及び初期充放電特性を改善してきた。しかしながら、改質後のケイ素酸化物はLiを用いて改質されたため、比較的耐水性が低い。これにより、負極の製造時に作製する、上記改質後のケイ素酸化物を含むスラリーの安定化が不十分となりスラリーの経時変化によってガスが発生することがあった。そのため、リチウムイオン二次電池の負極活物質として使用した際に、炭素系活物質と同等の初期充放電特性を与え、かつ、炭素系活物質と同等のスラリー安定性を示す負極活物質を提案するには至っていなかった。
【0017】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、二次電池の負極活物質として用いた際に、スラリーを安定化しつつ、初期効率改善に伴う電池容量の増加可能な負極活物質を提供することを目的とする。また、二次電池の負極活物質として使用した際に、スラリーを安定化しつつ、電池容量を増加させることが可能な負極活物質の製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために、本発明では、負極活物質粒子を含む負極活物質であって、前記負極活物質粒子は、酸素が含まれるケイ素化合物を含むケイ素化合物粒子を含有し、前記ケイ素化合物粒子は、LiSiO及びLiSiの少なくとも1種を含有し、前記ケイ素化合物粒子は、XANESスペクトルから得られるSi K-edgeスペクトルにおいて、1847eV近傍に存在するLiシリケートに由来するピークPを有し、1851~1852eV近傍に、前記ピークPよりも緩やかなピークQを有するものであることを特徴とする負極活物質を提供する。
【0019】
本発明の負極活物質(以下、ケイ素系負極活物質とも呼称する)は、ケイ素化合物粒子を含む負極活物質粒子(以下、ケイ素系負極活物質粒子とも呼称する)を含むため、電池容量を向上できる。また、ケイ素化合物粒子がLi化合物としてLiSiO及びLiSiの少なくとも1種を含むことで、充電時に発生する不可逆容量を低減することができる。また、本発明の負極活物質は、XANES(X-ray Absorption Near Edge Structure、X線吸収端近傍構造)で測定される1851~1852eV近傍のピークを有している。このようなピークを有することで、本発明の負極活物質を用いて作成した水系スラリーの安定性が良好となり、ガス発生が抑制または遅延される。ここで記載されるLi化合物はLiSiOとLiSiであり、一般的に充放電または短絡により、すなわち電気化学的に、得られるLiSiOに比べ、水との反応性が大幅に抑制される構造を有する。
【0020】
このとき、前記ピークQは、SiOのクリストバライト型の構造に由来するピークであることが好ましい。
【0021】
このように、1851~1852eV近傍のピークQは、クリストバライト構造(American Mineralogist、 Volume 79, pages 622-632, 1994参照)に類似している構造に由来すると考えられている。このような構造を有することで、本発明の負極活物質を用いて作成した水系スラリーの安定性が良好となり、ガス発生が抑制または遅延されるので好ましい。
【0022】
また、前記負極活物質をラマン分光法により測定したときに、ラマンスペクトルから得られる466cm-1近傍に存在する非晶質Siのピーク最大値Aと、500cm-1近傍に存在する結晶質Siのピーク最大値Bの強度比が下記式1を満たすことが好ましい。
1.1A≧B (式1)
【0023】
このとき、特に、前記A及び前記Bが、下記式2を満たすことが好ましい。
0.95A≧B (式2)
【0024】
このような式1、特に式2を満たす場合、結晶性Si部が比較的少なく非晶質Si部が比較的多いことになる。Liシリサイドが水と反応して発生するガスは、水素であり、Liドープによってアルカリ性を帯びたスラリー中のOHとSi部の反応であることから、結晶性Si部の存在割合を抑制することでスラリーの安定性を向上させることができる。
【0025】
また、本発明の負極活物質では、前記A及び前記Bが、下記式3を満たし、前記負極活物質に含まれる単体としてのSi成分が実質的に非晶質Siからなるものであることが好ましい。
0.1A≧B (式3)
【0026】
前記反応から考えて、負極活物質に含まれる単体としてのSi成分が実質的に非晶質Siであることが望ましい。スラリー中で水分と触れる面積が実質的に小さくなるからである。
【0027】
また、前記負極活物質を29Si-MAS-NMR測定したときに得られるピークのうち-75ppm近傍に存在するLiSiOの最大ピーク値Cと、-93ppm近傍に存在するLiSiの最大ピーク値Dが、下記式4を満たすことが好ましい。
0.2C≧D (式4)
【0028】
このような式4を満たすことにより、LiSiOの存在割合が多くなり、よりスラリーの安定化が望める。
【0029】
また、前記負極活物質粒子は、メジアン径が2.0μm以上12μm以下であること
が好ましい。
【0030】
負極活物質粒子のメジアン径が2.0μm以上あれば、水系スラリー中において、水分との反応面積が大きすぎないため、スラリーが安定しやすい。また、12μm以下であれば、反応面積が低減し、ガス発生は抑制できるとともに、スラリー内において、活物質の沈降も抑制できる。
【0031】
また、前記負極活物質粒子は、表層部に炭素材を含むことが好ましい。このとき、前記炭素材の平均厚さは5nm以上500nm以下であることが好ましい。
【0032】
炭素材の存在により、導電性が得られやすく電池材として取り扱いしやすいだけでなく、また、スラリーの安定性が向上する。炭素材の平均厚が500nm以下であれば、安定性が向上し、電池容量を向上させるケイ素酸化物のメリットを享受することができる。
【0033】
また、本発明は、負極活物質粒子を含む負極活物質を製造する方法であって、酸素が含まれるケイ素化合物を含むケイ素化合物粒子を作製する工程と、前記ケイ素化合物粒子にLiを挿入し、該ケイ素化合物粒子にLiSiO及びLiSiの少なくとも1種を含有させる工程とを含み、これにより前記負極活物質粒子を作製し、該作製した負極活物質粒子から、前記負極活物質粒子をXANES測定したときに、該XANESスペクトルから得られるSi K-edgeスペクトルにおいて、1847eV近傍に存在するLiシリケートに由来するピークPを有し、1851~1852eV近傍に、前記ピークPよりも緩やかなピークQを有するものを選別する工程をさらに有し、該選別した負極活物質粒子を用いて、負極活物質を製造することを特徴とする負極活物質の製造方法を提供する。
【0034】
このような負極活物質の製造方法であれば、製造した負極活物質を二次電池の負極活物質として使用した際に、確実にスラリーを安定化しつつ、電池容量を増加させることができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明の負極活物質は、二次電池の負極活物質として用いた際に、初回効率が高く、高容量で、製造に適したスラリー安定性を得ることができる。また、この負極活物質を含む本発明の二次電池は、工業的に優位に生産可能であり、電池容量及び初回充放電特性が良好なものとなる。また、本発明の二次電池を用いた電子機器、電動工具、電気自動車及び電力貯蔵システム等でも同様の効果を得ることができる。
【0036】
また、本発明の負極活物質の製造方法であれば、電極作製時にスラリーを安定化しつつ、二次電池の負極活物質として用いた際に、高容量で良好な初期充放電特性を有する負極活物質を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】実施例1-1~1-3、比較例4の負極活物質から得られるXANESスペクトルである。
図2】Liドープ法による改質前の材料で、熱処理を行った場合(比較例1~3)のXANESスペクトルの一例である。
図3】本発明の負極活物質から得られるラマンスペクトルの一例である(実施例1-3、2-1~2-3)。
図4】本発明の負極活物質から得られるラマンスペクトルの一例である(実施例2-4)。
図5】実施例1-1~1-3、比較例4の負極活物質から得られる29Si-MAS-NMRスペクトルである。
図6】本発明の負極活物質を含む非水電解質二次電池用負極の構成の一例を示す断面図である。
図7】本発明の負極活物質を含むリチウムイオン二次電池の構成例(ラミネートフィルム型)を表す分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0039】
前述のように、リチウムイオン二次電池の電池容量を増加させる1つの手法として、ケイ素酸化物を主材として用いた負極をリチウムイオン二次電池の負極として用いることが検討されている。このケイ素酸化物を用いたリチウムイオン二次電池は、炭素系活物質を用いたリチウムイオン二次電池と同等に近い初期充放電特性が望まれている。また初期充放電特性を改善可能なLiドープSiOにおいて、炭素系活物質と同等に近いスラリー安定性が望まれている。しかしながら、リチウムイオン二次電池の負極活物質として使用した際に、炭素系活物質と同等の初期充放電特性を与え、また炭素系活物質と同等のスラリー安定性を示す負極活物質を提案するには至っていなかった。
【0040】
そこで、本発明者らは、二次電池の負極活物質として用いた際に、スラリーを安定化しつつ、初期充放電特性を向上させ、結果電池容量を増加させることが可能な負極活物質を得るために鋭意検討を重ね、本発明に至った。
【0041】
[本発明の負極活物質]
本発明の負極活物質は、負極活物質粒子を含む。また、負極活物質粒子は、酸素が含まれるケイ素化合物を含むケイ素化合物粒子を含有する。また、このケイ素化合物粒子は、LiSiO及びLiSiの少なくとも1種を含有する。また、このケイ素化合物粒子は、XANESスペクトルから得られるSi K-edgeスペクトルにおいて、1847eV近傍に存在するLiシリケートに由来するピークPを有し、1851~1852eV近傍にピークPよりも緩やかなピークQを有する。また、「1847eV近傍」に存在するピークとは、ピークの極大位置が概ね1846eV以上1848eV以下の範囲に位置する。「1851~1852eV近傍」に存在するピークとは、ピークの極大位置が概ね1850.5eV以上1852.5eV未満の範囲に位置する。ピークQは緩やかなピークとして現れる。緩やかなピークであるピークQは、スペクトルからフィッティングソフトウェアなどでピーク分離ができてピークが確認できればよい。また、ピークQはショルダーピークとして現れることもある。ここでの「ピークPよりも緩やかなピークQ」とは、ピークQの「ピーク強度/半値幅」がピークPの「ピーク強度/半値幅」より小さいことを意味する。
【0042】
本発明の負極活物質は、ケイ素化合物粒子を含む負極活物質粒子を含むため、電池容量を向上できる。また、ケイ素化合物粒子がLi化合物(LiSiO及びLiSiの少なくとも1種)を含むことで、充電時に発生する不可逆容量を低減することができる。
【0043】
本発明の負極活物質に含まれるケイ素化合物粒子について、XANES測定により得られるピークQは、SiOのクリストバライト型の構造に由来するピークであると考えられる。このように、本発明の負極活物質は、SiOの構造として、(クオーツ構造等よりも)より安定的なクリストバライト型構造(クリストバライト構造に類似した構造)を含むものであるため、スラリー安定性が高い。よって負極製造時に作製する、この負極活物質を混合した水系スラリーの安定性が向上し、ガスの発生を抑制できる。
【0044】
また、本発明の負極活物質は、ラマン分光法により測定したときに、ラマンスペクトルから得られる466cm-1近傍に存在する非晶質Siのピーク最大値Aと、500cm-1近傍に存在する結晶質Siのピーク最大値Bの強度比が下記式1を満たすことが好ましい。
1.1A≧B (式1)
【0045】
なお、「466cm-1近傍」とは、概ね455~479cm-1の範囲を意味し、「500cm-1近傍」とは、概ね480~520cm-1の範囲を意味する。
【0046】
式1を満たすことが意味することは、本発明の負極活物質において、負極活物質粒子が、結晶質Siの存在量を基準として、非晶質Siの存在量が所定割合以上多いことである。ラマンスペクトルから得られる結晶質Siの検出は、結晶質Siの肥大化と関連している。Li化合物は水系スラリー中でアルカリを示す。肥大化したSiはアルカリ中のOHと反応し、水素ガスを発生させる。そのため、Siの肥大化を抑制した状態、すなわち非晶質に近いSi状態を維持することでスラリーの安定化をさらに高めることが可能となる。
【0047】
この場合、特に、上記A及び上記Bが、下記式2を満たすことが好ましい。
0.95A≧B (式2)
【0048】
式2で示されるように、結晶質Siに対する非晶質Siの存在比がより大きいこと、すなわち、より非晶質に近いSi状態であることが好ましい。
【0049】
スラリー作製から、塗布工程まで2日以上安定することが望ましい。製造の視点からとらえ、スラリーの輸送や、次工程までの保存が存在するからである。
【0050】
さらに、上記A及び上記Bが、下記式3を満たすことが好ましい。
0.1A≧B (式3)
【0051】
式3を満たすとき、負極活物質に含まれる単体としてのSi成分が実質的に非晶質Siからなるものであると言える。この中でも、ラマンスペクトルにおいて500cm-1近傍にピークが検出されないことが特に好ましい。
【0052】
さらに、本発明の負極活物質では、負極活物質を29Si-MAS-NMR測定したときに得られるピークのうち-75ppm近傍に存在するLiSiOの最大ピーク値Cと、-93ppm近傍に存在するLiSiの最大ピーク値Dが、下記式4を満たすことが好ましい。
0.2C≧D (式4)
【0053】
式4が意味することは、Li化合物を形成するLiシリケートとしてLiSiOがLiSiに対して多く存在することである。LiSiはLiSiOに対してより水に不溶であるため安定的ではあるが、LiSiが生成する際にSiの肥大化が起こりやすくなる。そのため、LiSiOをより多く存在させれば、肥大化したSiの影響を抑制し、スラリーの安定性を高くすることができる。
【0054】
また、本発明の負極活物質粒子は、メジアン径が2.0μm以上12μm以下であることが好ましい。ここで、粒子径を小さくすることで、Si粒子表面積の増加につながる。
本発明の負極活物質粒子は、非晶質状態のSiを有しており、かつ、負極活物質粒子の表面積は適度であることが好ましい。表面積が適度であれば、反応面積が適度となり、スラリーをより安定化させることができる。負極活物質粒子のメジアン径が2.0μm以上12μm以下であれば、負極活物質粒子の表面積を適度とすることができる。粒子径を大きくすることで反応面積を低減し、ガス発生を抑制することができるが、大きすぎると粉末部、固形分が沈降しやすくなるため、メジアン径は12μm以下であることが好ましい。
【0055】
また、負極活物質粒子は、表層部に炭素材を含むことが好ましい。この炭素材の平均厚さは5nm以上500nm以下であることが好ましい。炭素被覆は導電性を与えるとともに、耐水性に一定の効果がある。また、平均厚さが500nm以下であれば、電池容量に影響を及ぼさないので好ましい。
【0056】
[負極の構成]
続いて、このような本発明の負極活物質を含む二次電池の負極の構成について説明する。
【0057】
図6は、本発明の負極活物質を含む負極の断面図を表している。図6に示すように、負極10は、負極集電体11の上に負極活物質層12を有する構成になっている。この負極活物質層12は負極集電体11の両面、又は、片面だけに設けられていてもよい。さらに、本発明の負極活物質が用いられたものであれば、負極集電体11はなくてもよい。
【0058】
[負極集電体]
負極集電体11は、優れた導電性材料であり、かつ、機械的な強度に長けた物で構成される。負極集電体11に用いることができる導電性材料として、例えば銅(Cu)やニッケル(Ni)が挙げられる。この導電性材料は、リチウム(Li)と金属間化合物を形成しない材料であることが好ましい。
【0059】
負極集電体11は、主元素以外に炭素(C)や硫黄(S)を含んでいることが好ましい。負極集電体の物理的強度が向上するためである。特に、充電時に膨張する活物質層を有する場合、集電体が上記の元素を含んでいれば、集電体を含む電極変形を抑制する効果があるからである。上記の含有元素の含有量は、特に限定されないが、中でも、それぞれ100質量ppm以下であることが好ましい。より高い変形抑制効果が得られるからである。このような変形抑制効果によりサイクル特性をより向上できる。
【0060】
また、負極集電体11の表面は粗化されていてもよいし、粗化されていなくてもよい。粗化されている負極集電体は、例えば、電解処理、エンボス処理、又は、化学エッチング処理された金属箔などである。粗化されていない負極集電体は、例えば、圧延金属箔などである。
【0061】
[負極活物質層]
負極活物質層12は、本発明の負極活物質(ケイ素系活物質粒子)の他に炭素系活物質などの複数の種類の負極活物質を含んでいてよい。さらに、電池設計上、増粘剤(「結着剤」、「バインダー」とも呼称する)や導電助剤等の他の材料を含んでいてもよい。上記のように、負極活物質は負極活物質粒子を含み、負極活物質粒子は酸素が含まれるケイ素化合物を含有するケイ素化合物粒子を含む。
【0062】
上記のように、負極活物質層12は、本発明の負極活物質(ケイ素系負極活物質)と炭素系活物質とを含む混合負極活物質材料を含んでいても良い。これにより、負極活物質層の電気抵抗が低下するとともに、充電に伴う膨張応力を緩和することが可能となる。炭素系活物質としては、例えば、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素繊維、有機高分子化合物焼成体、カーボンブラック類などを使用できる。
【0063】
また、負極活物質層に含まれる負極結着剤としては、例えば、高分子材料、合成ゴムなどのいずれか1種類以上を用いることができる。高分子材料は、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、ポリアミドイミド、アラミド、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸リチウム、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースなどである。合成ゴムは、例えば、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴム、エチレンプロピレンジエンなどである。
【0064】
負極導電助剤としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛、ケチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどの炭素材料のいずれか1種以上を用いることができる。
【0065】
負極活物質層は、例えば、塗布法で形成される。塗布法とは、ケイ素系負極活物質と上記の結着剤など、また、必要に応じて導電助剤、炭素系活物質を混合した後に、有機溶剤や水などに分散させ塗布する方法である。
【0066】
また、上記のように本発明の負極活物質は、ケイ素化合物粒子を含み、ケイ素化合物粒子は酸素が含まれるケイ素化合物を含有する酸化ケイ素材である。このケイ素化合物を構成するケイ素と酸素の比は、SiO:0.5≦x≦1.6の範囲であることが好ましい。xが0.5以上であれば、ケイ素単体よりも酸素比が高められたものであるためサイクル特性が良好となる。xが1.6以下であれば、ケイ素酸化物の抵抗が高くなりすぎないため好ましい。中でも、SiOの組成はxが1に近い方が好ましい。なぜならば、高いサイクル特性が得られるからである。なお、本発明におけるケイ素化合物の組成は必ずしも純度100%を意味しているわけではなく、微量の不純物元素を含んでいてもよい。
【0067】
また、本発明の負極活物質において、ケイ素化合物粒子は、LiSiO及びLiSiの少なくとも1種を含有している。これらのLiシリケートは、他のLi化合物よりも比較的安定しているため、これらのLi化合物を含むケイ素系活物質は、より安定した電池特性を得ることができる。これらのLi化合物は、ケイ素化合物の内部に生成するSiO成分の一部をLi化合物へ選択的に変更し、ケイ素化合物を改質することにより得ることができる。また、このようなものは、ケイ素化合物中の、電池の充放電時のリチウムの挿入、脱離時に不安定化するSiO成分部を予め別のリチウムシリケートに改質させたものであるので、充電時に発生する不可逆容量を低減することができる。
【0068】
また、ケイ素化合物粒子のバルク内部にLiSiO、LiSiは少なくとも1種以上存在することで電池特性が向上するが、特にLiSiOを多く存在させる場合に特性がより向上する。これは上記の式4で表された通りである。
【0069】
なお、これらのリチウムシリケートは、NMR(Nuclear Magnetic Resonance:核磁気共鳴)で定量可能である。NMRの測定は、例えば、以下の条件により行うことができる。
29Si MAS NMR(マジック角回転核磁気共鳴)
・装置: Bruker社製700NMR分光器、
・プローブ: 4mmHR-MASローター 50μL、
・試料回転速度: 10kHz、
・測定環境温度: 25℃。
【0070】
また、ケイ素化合物内における、クリストバライト型構造(クリストバライトに類似した構造)は、XAFS(X-ray absorption fine structure、X線吸収微細構造)測定のXANES領域で確認することができる。例えば、以下の条件により行うことができる。
・XAFS
・Si K-edge
・測定場所:あいちシンクロトロン光センター BL6N1
・加速エネルギー 1.2 GeV,
・蓄積電流値 300 mA
・単色化条件:ベンディングマグネットからの白色X線を二結晶分光器により単色化、測定に利用
・集光条件:Niコートしたベンドシリンドリカルミラーによる縦横方向の集光
・上流スリット開口:水平方向 7.0mm × 垂直方向 3.0mm、
・ビームサイズ:水平方向 2.0mm × 垂直 1.0mm
・試料への入射角:直入射(入射角0°)
・エネルギー較正:KSOのS-K端でのピーク位置を2481.70eV較正
・測定方法:試料電流を計測することによる全電子収量法
・I測定方法:XANES測定時 Au-メッシュ
・試料環境:輸送にトランスファーベッセルを用いて大気非暴露での輸送
測定槽の基本真空度5×10-7Pa
【0071】
[負極の製造方法]
続いて、本発明の負極活物質を製造する方法の一例を説明する。
【0072】
最初に負極に含まれる負極材の製造方法を説明する。まず、酸素が含まれるケイ素化合物を含むケイ素化合物粒子を作製する。このケイ素化合物は、SiO:0.5≦x≦1.6であることが好ましい。次に、このケイ素化合物粒子にLiを挿入し、該ケイ素化合物粒子にLiSiO及びLiSiの少なくとも1種を含有させる。これにより負極活物質粒子を作製する。次に、該作製した該負極活物質粒子をXANES測定したときに、該XANESスペクトルから得られるSi K-edgeスペクトルにおいて、1847eV近傍に存在するLiシリケートに由来するピークPを有し、1851~1852eV近傍に、前記ピークPよりも緩やかなピークQを有するものを選別する。このように選別した負極活物質粒子を用いて、負極活物質を製造する。
【0073】
より具体的には、負極材は、例えば、以下の手順により製造される。
【0074】
まず、酸素が含まれるケイ素化合物を含むケイ素化合物粒子を作製する。以下では、酸素が含まれるケイ素化合物として、SiO(0.5≦x≦1.6)で表される酸化珪素を使用した場合を説明する。まず、酸化珪素ガスを発生する原料を不活性ガスの存在下、減圧下で900℃~1600℃の温度範囲で加熱し、酸化珪素ガスを発生させる。このとき、原料は金属珪素粉末と二酸化珪素粉末の混合物を用いることができる。金属珪素粉末の表面酸素及び反応炉中の微量酸素の存在を考慮すると、混合モル比が、0.8<金属珪素粉末/二酸化珪素粉末<1.3の範囲であることが望ましい。
【0075】
発生した酸化珪素ガスは吸着板上で固体化され堆積される。次に、反応炉内温度を100℃以下に下げた状態で酸化珪素の堆積物を取出し、ボールミル、ジェットミルなどを用いて粉砕し、粉末化を行う。以上のようにして、ケイ素化合物粒子を作製することができる。なお、ケイ素化合物粒子中のSi結晶子は、酸化珪素ガスを発生する原料の気化温度の変更、又は、ケイ素化合物粒子生成後の熱処理で制御できる。
【0076】
ここで、ケイ素化合物粒子の表層に炭素材の層を生成しても良い。炭素材の層を生成する方法としては、熱分解CVD法が望ましい。熱分解CVD法で炭素材の層を生成する方法の一例について以下に説明する。
【0077】
まず、ケイ素化合物粒子を炉内にセットする。次に、炉内に炭化水素ガスを導入し、炉内温度を昇温させる。分解温度は特に限定しないが、1200℃以下が望ましく、より望ましいのは900℃以下である。分解温度を1200℃以下にすることで、活物質粒子の意図しない不均化を抑制することができる。所定の温度まで炉内温度を昇温させた後に、ケイ素化合物粒子の表面に炭素層を生成する。また、炭素材の原料となる炭化水素ガスは、特に限定しないが、C組成においてn≦3であることが望ましい。n≦3であれば、製造コストを低くでき、また、分解生成物の物性を良好にすることができる。
【0078】
次に、上記のように作製したケイ素化合物粒子に、Liを挿入する。これにより、リチウムが挿入されたケイ素化合物粒子を含む負極活物質粒子を作製する。すなわち、これにより、ケイ素化合物粒子が改質され、ケイ素化合物粒子内部にLi化合物(LiSiO及びLiSiの少なくとも1種)が生成する。Liの挿入は、酸化還元法により行うことが好ましい。
【0079】
酸化還元法による改質では、例えば、まず、エーテル系溶媒にリチウムを溶解した溶液Aにケイ素活物質粒子を浸漬することで、リチウムを挿入できる。この溶液Aに更に多環芳香族化合物又は直鎖ポリフェニレン化合物を含ませてもよい。リチウムの挿入後、多環芳香族化合物やその誘導体を含む溶液Bにケイ素活物質粒子を浸漬することで、ケイ素活物質粒子から活性なリチウムを脱離できる。この溶液Bの溶媒は例えば、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、アルコール系溶媒、アミン系溶媒、又はこれらの混合溶媒を使用できる。または溶液Aに浸漬させた後、得られたケイ素活物質粒子を不活性ガス下で熱処理しても良い。熱処理することにLi化合物を安定化することができる。その後、アルコール、炭酸リチウムを溶解したアルカリ水、弱酸、又は純水などで洗浄する方法などで洗浄してもよい。
【0080】
溶液Aに用いるエーテル系溶媒としては、ジエチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、又はこれらの混合溶媒等を用いることができる。この中でも特にテトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタンを用いることが好ましい。これらの溶媒は、脱水されていることが好ましく、脱酸素されていることが好ましい。
【0081】
また、溶液Aに含まれる多環芳香族化合物としては、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ナフタセン、ペンタセン、ピレン、ピセン、トリフェニレン、コロネン、クリセン及びこれらの誘導体のうち1種類以上を用いることができ、直鎖ポリフェニレン化合物としては、ビフェニル、ターフェニル、及びこれらの誘導体のうち1種類以上を用いることができる。
【0082】
溶液Bに含まれる多環芳香族化合物としては、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ナフタセン、ペンタセン、ピレン、ピセン、トリフェニレン、コロネン、クリセン及びこれらの誘導体のうち1種類以上を用いることができる。
【0083】
また、溶液Bのエーテル系溶媒としては、ジエチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、及びテトラエチレングリコールジメチルエーテル等のうち1種類以上並びにこれらの混合溶媒を用いることができる。
【0084】
ケトン系溶媒としては、アセトン、アセトフェノン等を用いることができる。
【0085】
エステル系溶媒としては、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、及び酢酸イソプロピル等を用いることができる。
【0086】
アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、及びイソプロピルアルコール等を用いることができる。
【0087】
アミン系溶媒としては、メチルアミン、エチルアミン、及びエチレンジアミン等を用いることができる。
【0088】
酸化還元法によりLiドープ処理を行った材料は、ろ過後500℃以上650℃以下の熱処理を行うことでLiシリケートの種類や量(存在割合)等を制御することができる。このような制御を行うとき、真空状態、または不活性ガス下で熱処理を行うことが重要である。また熱処理装置、ここでは装置に限定はしないが、ロータリーキルンのような均一熱処理を用いることが望ましい。このとき、真空状態、不活性ガス流量(内圧)、レトルト厚み、回転数をファクターとし、様々なLiシリケート状態を作り出すことができる。どのような条件でどのようなLiシリケート状態とするかは、当業者であれば実験的に容易に求めることができる。同様に、シリコンの肥大化、またはシリコンの非晶質化の制御を行うことができる。これらの制御をどのような条件で行うかについても、当業者であれば実験的に容易に求めることができる。
【0089】
また上記のろ過後の材料表面に微量であるが、有機溶媒が残っていることがある。そのため、一部、炭化水素由来の炭素層とは異なる、有機溶媒の分解物が残ることがある。そのため、比表面積を適切に制御するため、有機溶媒に起因する炭素部は、低減した方が望ましい。
【0090】
以上のようにして作製した負極活物質を、負極結着剤、導電助剤などの他の材料と混合して、負極合剤とした後に、有機溶剤又は水などを加えてスラリーとする。次に、負極集電体の表面に、上記のスラリーを塗布し、乾燥させて、負極活物質層を形成する。この時、必要に応じて加熱プレスなどを行ってもよい。以上のようにして、負極を作製できる。
【0091】
<リチウムイオン二次電池>
次に、上記した本発明の非水電解質二次電池の具体例として、ラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池について説明する。
【0092】
[ラミネートフィルム型二次電池の構成]
図7に示すラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池30は、主にシート状の外装部材35の内部に巻回電極体31が収納されたものである。この巻回電極体31は正極、負極間にセパレータを有し、巻回されたものである。また、巻回をせず、正極、負極間にセパレータを有した積層体を収納した場合も存在する。どちらの電極体においても、正極に正極リード32が取り付けられ、負極に負極リード33が取り付けられている。電極体の最外周部は保護テープにより保護されている。
【0093】
正負極リード32、33は、例えば、外装部材35の内部から外部に向かって一方向で導出されている。正極リード32は、例えば、アルミニウムなどの導電性材料により形成され、負極リード33は、例えば、ニッケル、銅などの導電性材料により形成される。
【0094】
外装部材35は、例えば、融着層、金属層、表面保護層がこの順に積層されたラミネートフィルムであり、このラミネートフィルムは融着層が電極体31と対向するように、2枚のフィルムの融着層における外周縁部同士が融着、又は、接着剤などで張り合わされている。融着部は、例えばポリエチレンやポリプロピレンなどのフィルムであり、金属部はアルミ箔などである。保護層は例えば、ナイロンなどである。
【0095】
外装部材35と正負極リードとの間には、外気侵入防止のため密着フィルム34が挿入されている。この材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオレフィン樹脂である。
【0096】
正極は、例えば、図6の負極10と同様に、正極集電体の両面又は片面に正極活物質層を有している。
【0097】
正極集電体は、例えば、アルミニウムなどの導電性材により形成されている。
【0098】
正極活物質層は、リチウムイオンの吸蔵放出可能な正極材のいずれか1種又は2種以上を含んでおり、設計に応じて正極結着剤、正極導電助剤、分散剤などの他の材料を含んでいても良い。この場合、正極結着剤、正極導電助剤に関する詳細は、例えば既に記述した負極結着剤、負極導電助剤と同様である。
【0099】
正極材料としては、リチウム含有化合物が望ましい。このリチウム含有化合物は、例えばリチウムと遷移金属元素からなる複合酸化物、又はリチウムと遷移金属元素を有するリン酸化合物があげられる。これらの正極材の中でもニッケル、鉄、マンガン、コバルトの少なくとも1種以上を有する化合物が好ましい。これらの化学式として、例えば、LiあるいはLiPOで表される。式中、M、Mは少なくとも1種以上の遷移金属元素を示す。x、yの値は電池充放電状態によって異なる値を示すが、一般的に0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10で示される。
【0100】
リチウムと遷移金属元素とを有する複合酸化物としては、例えば、リチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)、リチウムニッケル複合酸化物(LiNiO)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物などが挙げられる。リチウムニッケルコバルト複合酸化物としては、例えばリチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物(NCA)やリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(NCM)などが挙げられる。
【0101】
リチウムと遷移金属元素とを有するリン酸化合物としては、例えば、リチウム鉄リン酸化合物(LiFePO)あるいはリチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFe1-uMnPO(0<u<1))などが挙げられる。これらの正極材を用いれば、高い電池容量を得ることができるとともに、優れたサイクル特性も得ることができる。
【0102】
[負極]
負極は、上記した図6のリチウムイオン二次電池用負極10と同様の構成を有し、例えば、集電体の両面に負極活物質層を有している。この負極は、正極活物質剤から得られる電気容量(電池としての充電容量)に対して、負極充電容量が大きくなることが好ましい。これにより、負極上でのリチウム金属の析出を抑制することができる。
【0103】
正極活物質層は、正極集電体の両面の一部に設けられており、同様に負極活物質層も負極集電体の両面の一部に設けられている。この場合、例えば、負極集電体上に設けられた負極活物質層は対向する正極活物質層が存在しない領域が設けられている。これは、安定した電池設計を行うためである。
【0104】
上記の負極活物質層と正極活物質層とが対向しない領域では、充放電の影響をほとんど受けることが無い。そのため、負極活物質層の状態が形成直後のまま維持され、これによって負極活物質の組成などを、充放電の有無に依存せずに再現性良く正確に調べることができる。
【0105】
[セパレータ]
セパレータは正極と負極を隔離し、両極接触に伴う電流短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。このセパレータは、例えば合成樹脂、あるいはセラミックからなる多孔質膜により形成されており、2種以上の多孔質膜が積層された積層構造を有しても良い。合成樹脂として例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。
【0106】
[電解液]
活物質層の少なくとも一部、又は、セパレータには、液状の電解質(電解液)が含浸されている。この電解液は、溶媒中に電解質塩が溶解されており、添加剤など他の材料を含んでいても良い。
【0107】
溶媒は、例えば、非水溶媒を用いることができる。非水溶媒としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、1,2-ジメトキシエタン又はテトラヒドロフランなどが挙げられる。この中でも、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチルのうちの少なくとも1種以上を用いることが望ましい。より良い特性が得られるからである。またこの場合、炭酸エチレン、炭酸プロピレンなどの高粘度溶媒と、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒を組み合わせることにより、より優位な特性を得ることができる。電解質塩の解離性やイオン移動度が向上するためである。
【0108】
合金系負極を用いる場合、特に溶媒として、ハロゲン化鎖状炭酸エステル、又は、ハロゲン化環状炭酸エステルのうち少なくとも1種を含んでいることが望ましい。これにより、充放電時、特に充電時において、負極活物質表面に安定な被膜が形成される。ここで、ハロゲン化鎖状炭酸エステルとは、ハロゲンを構成元素として有する(少なくとも1つの水素がハロゲンにより置換された)鎖状炭酸エステルである。また、ハロゲン化環状炭酸エステルとは、ハロゲンを構成元素として有する(すなわち、少なくとも1つの水素がハロゲンにより置換された)環状炭酸エステルである。
【0109】
ハロゲンの種類は特に限定されないが、フッ素が好ましい。これは、他のハロゲンよりも良質な被膜を形成するからである。また、ハロゲン数は多いほど望ましい。これは、得られる被膜がより安定的であり、電解液の分解反応が低減されるからである。
【0110】
ハロゲン化鎖状炭酸エステルは、例えば、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ジフルオロメチルメチルなどが挙げられる。ハロゲン化環状炭酸エステルとしては、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オンなどが挙げられる。
【0111】
溶媒添加物として、不飽和炭素結合環状炭酸エステルを含んでいることが好ましい。充放電時に負極表面に安定な被膜が形成され、電解液の分解反応が抑制できるからである。不飽和炭素結合環状炭酸エステルとして、例えば炭酸ビニレン又は炭酸ビニルエチレンなどが挙げられる。
【0112】
また溶媒添加物として、スルトン(環状スルホン酸エステル)を含んでいることが好ましい。電池の化学的安定性が向上するからである。スルトンとしては、例えばプロパンスルトン、プロペンスルトンが挙げられる。
【0113】
さらに、溶媒は、酸無水物を含んでいることが好ましい。電解液の化学的安定性が向上するからである。酸無水物としては、例えば、プロパンジスルホン酸無水物が挙げられる。
【0114】
電解質塩は、例えば、リチウム塩などの軽金属塩のいずれか1種類以上含むことができる。リチウム塩として、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)などが挙げられる。
【0115】
電解質塩の含有量は、溶媒に対して0.5mol/kg以上2.5mol/kg以下であることが好ましい。これは、高いイオン伝導性が得られるからである。
【0116】
[ラミネートフィルム型二次電池の製造方法]
最初に上記した正極材を用い正極電極を作製する。まず、正極活物質と、必要に応じて正極結着剤、正極導電助剤などを混合し正極合剤としたのち、有機溶剤に分散させ正極合剤スラリーとする。続いて、ナイフロール又はダイヘッドを有するダイコーターなどのコーティング装置で正極集電体に合剤スラリーを塗布し、熱風乾燥させて正極活物質層を得る。最後に、ロールプレス機などで正極活物質層を圧縮成型する。この時、加熱しても良く、また圧縮を複数回繰り返しても良い。
【0117】
次に、上記したリチウムイオン二次電池用負極10の作製と同様の作業手順を用い、負極集電体に負極活物質層を形成し負極を作製する。
【0118】
正極及び負極を作製する際に、正極及び負極集電体の両面にそれぞれの活物質層を形成する。この時、どちらの電極においても両面部の活物質塗布長がずれていても良い(図6を参照)。
【0119】
続いて、電解液を調整する。続いて、超音波溶接などにより、正極集電体に正極リード32を取り付けると共に、負極集電体に負極リード33を取り付ける。続いて、正極と負極とをセパレータを介して積層、又は巻回させて巻回電極体31を作製し、その最外周部に保護テープを接着させる。次に、扁平な形状となるように巻回体を成型する。続いて、折りたたんだフィルム状の外装部材35の間に巻回電極体を挟み込んだ後、熱融着法により外装部材の絶縁部同士を接着させ、一方向のみ解放状態にて、巻回電極体を封入する。続いて、正極リード、及び負極リードと外装部材の間に密着フィルムを挿入する。続いて、解放部から上記調整した電解液を所定量投入し、真空含浸を行う。含浸後、解放部を真空熱融着法により接着させる。以上のようにして、ラミネートフィルム型二次電池30を製造することができる。
【実施例0120】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0121】
(実施例1-1)
まず、負極活物質を以下のようにして作製した。金属ケイ素と二酸化ケイ素を混合した原料を反応炉に導入し、10Paの真空度の雰囲気中で気化させたものを吸着板上に堆積させ、十分に冷却した後、堆積物を取出しボールミルで粉砕した。このようにして得たケイ素化合物粒子のSiOのxの値は1.0であった。続いて、ケイ素化合物粒子の粒径を分級により調整した。その後、熱分解CVDを行うことで、ケイ素化合物粒子の表面に炭素材を被覆した。
【0122】
続いて、酸化還元法によりケイ素化合物粒子にリチウムを挿入し改質した。その後、450℃~750℃の範囲で加熱し改質を行った。
【0123】
得られた負極活物質粒子の粒径、及び、炭素被膜の厚さを測定した。また、29Si-MAS-NMRにてLiSiO及びLiSiの存在の有無、及び各ピーク強度を測定した。また、XANESスペクトルから得られるSi K-edgeスペクトルを測定した。測定条件は上記の通りである。このスペクトルから、1847eV近傍のピークP及び1851~1852eV近傍のピークQ(結晶質Siの存在を示すことから、後述の表中で「c-Siピーク」と表記する)の存在の有無を測定した。また、ラマン分光法により測定し、466cm-1近傍のピークと、500cm-1近傍のピーク、及びそれらの強度を測定した。
【0124】
次に、作製した負極活物質、導電助剤1(カーボンナノチューブ、CNT)、導電助剤2(メジアン径が約50nmの炭素微粒子)、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース(以下、CMCと称する)93:1:1:4:1の乾燥質量比で混合した後、純水で希釈し負極合剤スラリーとした。スラリーの安定性は本状態の一部をアルミニウムラミネートパックし、アルキメデス法でガス発生の有無を判断した。スラリーの沈降は、できたスラリーを別容器に移し、経時変化を確認した。
【0125】
また、負極集電体としては、厚さ15μmの電解銅箔を用いた。この電解銅箔には、炭素及び硫黄がそれぞれ70質量ppmの濃度で含まれていた。最後に、負極合剤スラリーを負極集電体に塗布し真空雰囲気中で100℃×1時間の乾燥を行った。乾燥後の、負極の片面における単位面積あたりの負極活物質層の堆積量(面積密度とも称する)は2.5mg/cmであった。
【0126】
次に、溶媒エチレンカーボネート(EC)及びジメチルカーボネート(DMC))を混合した後、電解質塩(六フッ化リン酸リチウム:LiPF)を溶解させて電解液を調製した。この場合には、溶媒の組成を体積比でEC:DMC=30:70とし、電解質塩の含有量を溶媒に対して1mol/kgとした。
【0127】
次に、以下のようにしてコイン電池を組み立てた。最初に厚さ1mmのLi箔を直径16mmに打ち抜き、アルミクラッドに張り付けた。得られた負極電極を直径15mmに打ち抜き、セパレータを介してLi箔と向い合せ電解液注液後、2032コイン電池を作製した。
【0128】
初回効率は以下の条件で測定した。
・まず充電レートを0.03C相当で行った。このとき、CCCVモードで充電を行った。CVは0Vで終止電流は0.04mAとした。
・放電レートは同様に0.03C、放電電圧は1.2V、CC放電を行った。
【0129】
初期充放電特性を調べる場合には、初回効率(以下では初期効率と呼ぶ場合もある)を算出した。初回効率は、初回効率(%)=(初回放電容量/初回充電容量)×100で表される式から算出した。
【0130】
(実施例1-2、1-3)
実施例1-1とは熱処理温度や処理雰囲気条件を変化させ、その他は同様に負極活物質の製造を行った。また、実施例1-1と同様に、各測定を行った。
【0131】
(比較例1~3)
Liドープを行わなかったこと以外は実施例1-1と同様に負極活物質の製造を行った。また、CVD後の炭素被覆されたケイ素化合物粒子(SiO-C材)の熱処理を行った。比較例1は900度、比較例2は1000度、比較例3は1100度で熱処理を行った。また、実施例1-1と同様に、各測定を行った。
【0132】
(比較例4)
実施例1-1とは熱処理温度や処理雰囲気条件を変化させ、その他は同様に負極活物質の製造を行った。ただし、1851~1852eVのピークは確認できない条件で熱処理を行った。また、実施例1-1と同様に、各測定を行った。
【0133】
実施例1-1~1-3、比較例1~4の評価結果を表1に示す。また、実施例1-1~1-3、比較例4の負極活物質から得られたXANESスペクトルを図1に示した。また、比較例1~1-3の負極活物質から得られたXANESスペクトルを図2に示した。また、実施例1-1~1-3、比較例4の負極活物質から得られた29Si-MAS-NMRスペクトルを図5に示した。
【0134】
【表1】
【0135】
実施例1-1~1-3では、上記のように熱処理温度や処理雰囲気条件を変化させたが、いずれも、XANES測定により1847eV付近にピークを有し、クリストバライトに類似した構造を得ている。特に、この構造と思われる、XANESピークが強くなることで、より安定したスラリー耐性を維持することができ、かつ初期効率も高い数値となった。
【0136】
比較例4では、1851~1852eVのピークは確認できておらず、スラリー安定性も10時間程度と、芳しくない結果となった。
【0137】
比較例1~3により、Liドープを行う前に、CVD後のSiO-C材を熱処理することで、初期効率の改善の状況を確認した。上記のように、比較例1は900度、比較例2は1000度、比較例3は1100度で熱処理を行った。結果、初期効率は温度と共にやや改善することを確認した。この理由は、熱をかけることで不均化し、結果として効率がやや改善されたと考えられる。この結果から特に留意すべき点として、1851~1852eV近傍にピークが得られず、比較例2以降で1853eV近傍のピークが発現している。これはクオーツ構造(American Mineralogist, Volume 79, pages 622-632, 1994)と考えられ、実施例で記載するクリストバライトとは異なる構造である。
【0138】
(実施例2-1~実施例2-4)
また、Liドープ時の浴槽温度や、その後の熱処理条件を変化させることで、Siの結晶度を制御したことを除き、実施例1-1と同様に、負極活物質の製造を行った。また、実施例1-1と同様に、各測定を行った。
【0139】
実施例2-1~実施例2-4の評価結果を表2に示す。また、実施例1-3、2-1~2-3の負極活物質から得られたラマンスペクトルを図3に、実施例2-4の負極活物質から得られたラマンスペクトルを図4に示した。
【0140】
【表2】
【0141】
表2に示すように、よりSiの結晶度が高いほうが早くガス発生になる。リチウムイオン二次電池の製造工程を考慮すると、より望ましい48時間以上の安定を実現できる1.1A≧B(実施例2-3)より結晶Siのピークが小さいほうが良い結果となった。
【0142】
(実施例3-1~実施例3-7)
負極活物質粒子の粒径を変化させたことを除き、実施例1-1と同様に、負極活物質の製造を行った。また、実施例1-1と同様に、各測定を行った。実施例3-1~実施例3-7の評価結果を表3に示す。
【0143】
【表3】
【0144】
表3より小粒径でガス発生が顕著となることがわかった。これは反応面積の増加によるものと考えられる。また粒径が大きくなるにつれてガス発生は安定するが、15μm程度になると、やや沈降する傾向がみられた。従って、負極活物質粒子は、メジアン径が2.0μm以上12μm以下であることが好ましい。
【0145】
(実施例4-1~実施例4-4)
炭素被覆層の膜厚を変化させたことを除き、実施例1-1と同様に、負極活物質の製造を行った。実施例4-1では炭素被覆を行わなかった。また、実施例1-1と同様に、各測定を行った。実施例4-1~実施例4-4の評価結果を表4に示す。
【0146】
【表4】
【0147】
炭素層は導電性を与えるだけでなく、スラリー安定性にも影響を及ぼす。炭素層がある場合、水分と直接触れないため、ガス発生しにくくなるので好ましい。一方、炭素層厚み増加と共にガス発生は安定するが、あまり厚いと活物質の容量低下につながるので、炭素被覆層厚は500nmを上限とするのが好ましい。
【0148】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0149】
10…負極、 11…負極集電体、 12…負極活物質層、
30…リチウム二次電池(ラミネートフィルム型)、 31…電極体、
32…正極リード(正極アルミリード)、
33…負極リード(負極ニッケルリード)、
34…密着フィルム、 35…外装部材。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7