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特開2022-191418非水系電解質二次電池用正極活物質の特性の評価方法
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  • 特開-非水系電解質二次電池用正極活物質の特性の評価方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191418
(43)【公開日】2022-12-27
(54)【発明の名称】非水系電解質二次電池用正極活物質の特性の評価方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20221220BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20221220BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022165689
(22)【出願日】2022-10-14
(62)【分割の表示】P 2019549857の分割
【原出願日】2018-07-31
(31)【優先権主張番号】P 2017210305
(32)【優先日】2017-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018086183
(32)【優先日】2018-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】大下 寛子
(72)【発明者】
【氏名】漁師 一臣
(72)【発明者】
【氏名】相田 平
(72)【発明者】
【氏名】山地 浩司
(72)【発明者】
【氏名】岡田 治朗
(57)【要約】      (修正有)
【課題】非水系電解質二次電池用正極活物質の特性の評価方法を提供する。
【解決手段】特性が正極活物質の内部空間量の尺度を表す空隙率であり、リチウム金属複合酸化物を樹脂に埋め込む第一工程と、クロスセクションポリッシャを用い、アルゴンスパッタリングによって、前記樹脂に埋め込んだ前記リチウム金属複合酸化物の粒子を切断し、該粒子の断面を露出させる第二工程と、露出した前記粒子の断面を、走査型電子顕微鏡を用いて観察する第三工程と、観察された前記粒子の断面の画像を、画像解析ソフトによって、前記画像の空隙部を黒とし、且つ緻密部を白として解析し、任意の20個以上の前記粒子の断面に対し、黒の部分/(黒の部分+白の部分)の面積を計算することで空隙率を求める第四工程からなる非水系電解質二次電池用正極活物質の特性の評価方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水系電解質二次電池用正極活物質の特性の評価方法であって、
前記特性が前記正極活物質の内部空間量の尺度を表す空隙率で、
リチウム金属複合酸化物を樹脂に埋め込む第一工程と、
クロスセクションポリッシャを用い、アルゴンスパッタリングによって、前記樹脂に埋め込んだ前記リチウム金属複合酸化物の粒子を切断し、該粒子の断面を露出させる第二工程と、
露出した前記粒子の断面を、走査型電子顕微鏡を用いて観察する第三工程と、
観察された前記粒子の断面の画像を、画像解析ソフトによって、前記画像の空隙部を黒とし、且つ緻密部を白として解析し、任意の20個以上の前記粒子の断面に対し、黒の部分/(黒の部分+白の部分)の面積を計算することで空隙率を求める第四工程と、
からなることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の特性の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解質二次電池用正極活物質の特性の評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンやタブレット端末及びノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する小型で軽量な非水系電解質二次電池をはじめ、ハイブリット自動車や電気自動車用の電池として、高出力の二次電池の開発ニーズが拡大している。
【0003】
これらのニーズに対応出来る二次電池として、リチウムイオン二次電池が挙げられる。リチウムイオン二次電池は、正極及び負極のほか、電解液などで構成され、正極及び負極の活物質は、リチウムを脱離・挿入することが可能な材料が用いられている。リチウムイオン二次電池は、現在も、研究や開発が盛んに行われているが、このうち、層状又はスピネル型のリチウム金属複合酸化物を正極材料に用いたリチウムイオン二次電池では、4V級の高電圧が得られるため、高いエネルギー密度を有する電池として実用化が進んでいる。
【0004】
これまで主に提案されている正極材料としては、合成が比較的に容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)や、コバルトより安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO)のほか、リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(LiNi1/3Mn1/3Co1/3)や、マンガンを用いたリチウム・マンガン複合酸化物(LiMn)などを挙げることが出来る。
この中でも、リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物に関しては、電池容量のサイクル特性が良好で、低抵抗で高出力が得られる材料として注目されており、近年では、搭載スペースに制約を受ける電気自動車用電源やハイブリッド車用電源にも好適であり、車載用電源として重要視されている。
【0005】
この様な、正極材料の更なる高出力化の技術としては、例えば、特許文献1に、リチウム金属複合酸化物を構成する一次粒子の表面に、タングステン及びリチウムを含んだ微粒子を形成させ、電池の正極抵抗を低減して出力特性を向上させることが提案されている。しかし、タングステンは希少価値が高く、レアメタルに属しているために、正極活物質のコスト高に繋がり易い。
【0006】
また、特許文献2には、リチウム金属複合酸化物に水洗処理を施すことが提案されており、金属複合水酸化物と未反応の余剰なリチウムが洗い流されるため、初期放電容量や熱安定性が向上している。ところが、水洗処理によって、リチウム金属複合酸化物の表面がダメージを受け、必要なリチウムまで溶け出し、出力特性が悪化する弱点を抱えている。
【0007】
更に、特許文献3には、平均粒径が0.05~1.0[μm]の粒子により構成され、タップ密度(TD)が、0.8~3.0[g/cm]の正極活物質を含み、正極活物質粉末100重量部に対して、導電剤5~20重量部、バインダー0.5~10重量部、及び溶剤10~120重量部を含む、非水系電解質二次電池用正極活物質が提案されている。この様な微粒を正極活物質粉末として用いることで、電解液との反応面積に相当する比表面積を大きくして出力特性を向上出来る。けれども、比表面積に比例して導電助剤を多く添加し、導電性を確保する必要があり、それだけエネルギー密度が低下するため、これを解決出来る技術開発を要する。
【0008】
他にも、比表面積を大きくし、出力特性を向上させた技術として、特許文献4には、正極活物質表面が多孔性構造を有し、比表面積が1800~2500[m/g]であり、温度を700[℃]以下で熱処理する正極活物質が提案されている。
しかしながら、熱処理温度が低いと、リチウム供給源と金属水酸化物の反応性も低下して、未反応の余剰なリチウムが増加すると共に、正極活物質の結晶性悪化などが起こって、正極活物質自体から必要なリチウムが溶出し易くなる。これにより、正極活物質のペースト調整時に、リチウムが溶剤に溶解することでゲル化が発生して、歩留まりの低下を招くことが懸念される。なお、ゲル化の原因は、リチウムが溶剤に溶解することによる、pHや塩濃度及び粘度の増加が深く関与しており、これらによって、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などの結着剤(バインダー)が、変質するために発生すると考えられている。
【0009】
以上の様な従来技術では、非水系電解質二次電池用正極活物質に求められる高い出力特性を満足することや、正極活物質のペースト調整時におけるゲル化を抑制するためには、未だ解決するべき問題が残されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2013-125732号公報
【特許文献2】特開2007-273106号公報
【特許文献3】特開2011-070994号公報
【特許文献4】特開2012-248826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、リチウム原料と金属複合水酸化物との反応性を向上させることで、水洗処理を行わなくても、リチウムイオン二次電池に組み込んだ際、低温での高い出力特性が得られる「正極活物質」に用いられる「リチウム金属複合酸化物」と、その製造方法を提供するものである。(なお、「正極活物質」として、「リチウム金属複合酸化物」が使用される。ここで、「正極活物質」のほうが広義で、「リチウム金属複合酸化物」のほうが狭義となる。)更には、未反応の余剰なリチウムの増加や、正極活物質の結晶性悪化などによる溶出し易いリチウムの増加、そして、これらが原因となり、正極活物質自体からリチウムが溶出し易くなるが、この溶解性リチウムの生成が抑制されて、ペースト調整時にゲル化の問題が発生しない、高性能の正極活物質を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の課題を解決するため、非水系電解質二次電池用正極活物質として用いられているリチウム金属複合酸化物の粉体特性や、電池に組み込んだ際の充放電特性への影響について、鋭意研究を行った。その結果、リチウム金属複合酸化物の製造工程において、混合及び焼成の前に、リチウム原料となるリチウム化合物粉末を、最適な粒径となるまで微粉砕処理する技術に辿り着いた。この微粉砕処理した、微粉末リチウム化合物を用いることで、焼成時の金属複合水酸化物粉末との反応性を保持しながら、異常な粒子成長をしない正極活物質を得ることを見出し、本発明を完成させるに至り、水洗処理を行わなくても、リチウムイオン二次電池に組み込んだ際に、低温での高い出力特性が得られ、且つ溶解性リチウムの生成を抑制した、ペースト調整時にゲル化が起こらない優れた正極活物質を提供する。
【0013】
上記の知見に基づいて成された本発明は、リチウム、ニッケル、マンガン、コバルトを含む一次粒子が凝集した二次粒子、又は前記一次粒子と前記二次粒子の両者からなるリチウム金属複合酸化物粉末であり、前記二次粒子の内部に中空構造を主として含有し、前記リチウム金属複合酸化物粉末をスラリー固体成分とする水との混合物である混合スラリーに含まれる前記リチウム金属複合酸化物の濃度を示すスラリー濃度が50[g/L]の時のスラリーpHが11.5以下であり、前記リチウム金属複合酸化物粉末に含まれる溶解性リチウム含有率が0.5[質量%]以下であり、前記リチウム金属複合酸化物粉末の比表面積が2.0~3.0[m/g]であり、前記二次粒子の空隙率が20~50[%]であることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質である。
【0014】
また、本発明は、前記発明に記載のリチウム金属複合酸化物粉末が、一般式:Li(Ni1-w-xMnCo1-y:(0.98≦a≦1.20、0.01≦w≦0.50、0.01≦x≦0.50、0.01≦y≦0.10、但し、Mは、Mg、Al、Ti、Fe、Cu、Si、Zn、Moのうち1種以上)で表されることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質である。
【0015】
また、本発明は、前記発明に記載のリチウム金属複合酸化物粉末の粒子強度が、150~180MPaであることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質である。
【0016】
また、本発明は、前記発明に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質を含む正極を備え、-20[℃]の電流休止法のΔV-20[℃]が0.55[V]以下であることを特徴とする非水系電解質二次電池である。
【0017】
また、本発明は、固形成分と溶剤からなる非水系電解質二次電池用正極合材ペーストであって、前記固形成分に、前記発明に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質を含み、前記固形成分と溶剤の質量比、固形成分[g]/溶剤[g]=1.875における前記正極合材ペーストの20[℃]での粘度が、5000[mPa・s]以下であることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極合材ペーストである。
【0018】
また、本発明は、スラリー濃度が50[g/L]の時のスラリーpHが11.5以下で、溶解性リチウムを0.5[質量%]含み、2.0~3.0[m/g]の比表面積を有する、リチウム、ニッケル、マンガン、コバルトを含む一次粒子が凝集した二次粒子、又は前記一次粒子と前記二次粒子の両者からなり、前記二次粒子の内部に中空構造を主として含有する空隙率が20~50[%]のリチウム金属複合酸化物粉末を、ニッケル、マンガン、コバルトを含む金属複合水酸化物と、最大粒径が10[μm]以下の微粉末リチウム化合物を原料に、下記(A)から(D)の工程を順に含む製造工程を用いて製造することを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
(記)
(A)前記金属複合水酸化物を、水洗浄、或いはアルカリ洗浄に次いで水洗浄した後、固液分離して前記金属複合水酸化物の濾過物を回収する濾過・洗浄工程、
(B)前記濾過物を乾燥して金属複合水酸化物の乾燥物を得る乾燥工程、
(C)前記乾燥物と、前記最大粒径が10[μm]以下の微粉末リチウム化合物との混合物を形成する混合工程、
(D)前記混合物を焼成処理して焼成体であるリチウム金属複合酸化物からなる非水系電解質二次電池用正極活物質を形成する焼成工程。
【0019】
また、本発明は、前記発明に記載の金属複合水酸化物が、下記(a)の製造工程により生成される粗密度は20~50[%]であることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
(記)
(a)水面が酸化性雰囲気下にある水温が40~60[℃]に維持された水を撹拌しながら、前記水にニッケル・マンガン・コバルト混合溶液、アンモニア水、及びアルカリ溶液を供給して反応溶液を形成し、前記反応溶液をpH11.0~12.5に維持した状態における晶析処理後に、前記反応溶液の液面が不活性雰囲気又は酸素濃度を0.2[容積%]以下に制御した非酸化性雰囲気下での晶析処理を行い、得られる金属複合水酸化物の粗密度を20~50[%]の範囲に制御した金属複合水酸化物を晶析させる金属複合水酸化物作製工程。
【0020】
また、本発明は、前記発明に記載の微粉末リチウム化合物において、微粉砕される前のリチウム原料が、最大粒径が100[μm]以上、且つ平均粒径が50[μm]以上のリチウム化合物粉末であることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
【0021】
また、本発明は、前記発明に記載の微粉末リチウム化合物が、最大粒径を10[μm]以下、且つ平均粒径5.0[μm]以下で、下記(p)微粉砕工程を用いて形成されることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
(記)
(p)最大粒径が100[μm]以上、平均粒径が50[μm]以上のリチウム原料であるリチウム化合物粉末を粉砕して、最大粒径が10[μm]以下、且つ平均粒径が5.0[μm]以下の微粉末リチウム化合物とする微粉砕工程。
【0022】
また、本発明は、前記発明に記載のリチウム原料が、炭酸リチウム、水酸化リチウム、又は前記炭酸リチウム及び水酸化リチウムの両者であることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
【0023】
また、本発明は、前記発明に記載のリチウム金属複合酸化物粉末が、一般式:Li(Ni1-w-xMnCo1-y:(0.98≦a≦1.20、0.01≦w≦0.50、0.01≦x≦0.50、0.01≦y≦0.10、但し、Mは、Mg、Al、Ti、Fe、Cu、Si、Zn、Moのうち1種以上)で表されることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
【0024】
また、本発明は、非水系電解質二次電池用正極活物質の特性の評価方法であって、前記特性が前記正極活物質を固体成分とする水とのスラリーにおける前記スラリーのpHを示す「スラリーpH」で、前記正極活物質の濃度が50[g/L]になる様に前記正極活物質を水に加え、30分間撹拌状態を維持した後、前記撹拌状態のまま「pH計」で前記スラリーのpHを測定することにより、前記スラリーpHを得ることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の特性の評価方法である。
【0025】
また、本発明は、非水系電解質二次電池用正極活物質の特性の評価方法であって、前記非水系電解質二次電池用正極活物質が、リチウムを含み、前記特性が前記正極活物質と水とのスラリーを形成した時に、前記スラリーの液体成分である水に溶解する前記正極活物質に含まれるリチウム量を表す「溶解性リチウム含有率」で、前記正極活物質の濃度が20[g/L]になる様に前記正極活物質を水に加え、10分間の撹拌状態を維持した後、前記スラリーを濾過し、得られた濾液に含まれるリチウムをICP発光分光分析装置で測定することにより、前記溶解性リチウム含有率を得ることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の特性の評価方法である。
【0026】
本発明の第1の発明は、非水系電解質二次電池用正極活物質の特性の評価方法であって、前記特性が前記正極活物質の内部空間量の尺度を表す空隙率で、リチウム金属複合酸化物を樹脂に埋め込む第一工程と、クロスセクションポリッシャを用い、アルゴンスパッタリングによって、前記樹脂に埋め込んだ前記リチウム金属複合酸化物の粒子を切断し、該粒子の断面を露出させる第二工程と、露出した前記粒子の断面を、走査型電子顕微鏡を用いて観察する第三工程と、観察された前記粒子の断面の画像を、画像解析ソフトによって、前記画像の空隙部を黒とし、且つ緻密部を白として解析し、任意の20個以上の前記粒子の断面に対し、黒の部分/(黒の部分+白の部分)の面積を計算することで空隙率を求める第四工程とからなることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の特性の評価方法である。
【発明の効果】
【0027】
本発明で得られる非水系電解質二次電池用正極活物質は、リチウム原料であるリチウム化合物粉末を、最大粒径が10[μm]以下、且つ平均粒径が5.0[μm]以下となる様に微粉砕処理した微粉末リチウム化合物を、金属複合水酸化物と混合・焼成する工程を経た後、水洗処理を行わなくても、リチウムイオン二次電池に組み込んだ際に、低温での高い出力特性が得られ、且つ溶解性リチウムの生成が抑制された、ペースト調整時にゲル化が起こらない、優れた正極活物質を提供することが出来る。このため、本発明の工業的意義は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本実施の形態に係る正極活物質の製造方法における工程フロー図である。
図2】本実施の形態に係る金属複合水酸化物の製造方法における工程フロー図である。
図3】本実施の形態に係る金属複合水酸化物粒子11の断面模式図である。
図4】実施例に係る低温出力特性の評価のために作製するラミネートセルの一例を示す図である。
図5】本実施の形態に係るリチウム金属複合酸化物粒子の内部構造が、中空構造であることを示す断面SEM画像の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明について、その一実施形態を説明する。
本実施の形態は、下記説明に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限り、実施形態を改変することが出来る。
図1は、本実施の形態に係る正極活物質の製造方法における工程フローを示す図である。以下の製造方法に関する説明は、図1に示す工程フローに沿って行う。
【0030】
<(a)の金属複合水酸化物の製造工程>
図2は、本実施の形態に係る金属複合水酸化物の製造方法における工程フロー図である。
まず、原料溶液として、ニッケル、マンガン、コバルトの各水溶液のほか、必要に応じてM元素などの金属化合物の水溶液(水溶液作製には、水和物を用いるのが望ましい)を混合して作製したニッケル・マンガン・コバルト混合溶液と、pH調整に用いるアルカリ溶液(水酸化ナトリウム水溶液など)と、アンモニア濃度(NH )調整に用いるアンモニア水を準備する。
【0031】
次いで、本実施の形態に係る金属複合水酸化物の製造においては、加熱によって、40~60[℃]の範囲となる様に制御された酸化性雰囲気下(酸素濃度が21[容積%]を超えるのが望ましく、通常は大気雰囲気下でよい)の反応槽内に、水(イオン交換水などの様な不純物が制御された純水が望ましい)を装入し、液温が40~60[℃]の範囲になる様に内部を撹拌機で撹拌すると共に、水のpH(25[℃]基準)が、11.0から12.5までの範囲となる様に、アルカリ溶液の給液量を制御しながら、原料溶液とアンモニア水を一定速度で給液し、反応溶液を形成して、晶析開始から0.5時間の範囲での処理を行い、金属複合水酸化物を生成させた。その際、晶析終了後に給液を停止した。
【0032】
その後、反応槽内の雰囲気を、酸化性雰囲気から、不活性雰囲気又は酸素濃度を0.2[容積%]以下に制御した非酸化性雰囲気へ切り換え、給液を再開して、0.5~3.5時間の範囲で、晶析処理を継続することにより、得られる金属複合水酸化物の粗密度を、20~50[%]に制御し、中空構造を有する、ニッケル・マンガン・コバルト複合水酸化物を製造する。
この様に、反応槽内の雰囲気を、酸化性雰囲気(大気雰囲気)、不活性雰囲気又は酸素濃度を0.2[容積%]以下に制御した非酸化性雰囲気とすることで、得られる金属複合水酸化物粉末の粗密度を制御する。
【0033】
ここで、反応槽内の温度が40[℃]よりも低いと、生成する金属複合水酸化物の粒径が大きくなり過ぎ、また、60[℃]より高い場合は、逆に金属複合水酸化物の粒子径が小さくなり過ぎ、その影響が、後工程で製造されるリチウム金属複合酸化物にも現われるため、好ましくない。更に、最初の反応槽内のpHが11.0よりも小さい場合は、正極活物質に残存する硫酸塩濃度が高くなり、電池に組み込んだ際の出力特性が悪化するため、好ましくない。一方、pHが12.5よりも大きい場合には、粒径が小さくなり過ぎるため、好ましくない。なお、アンモニア濃度(NH )は、5~30[g/L]の範囲、好ましくは10~20[g/L]の範囲に制御することで、晶析処理を安定させることが出来る。
その他、得られる金属複合水酸化物の粗密度が20[%]未満では、中空構造の粒子が得られず、50[%]を超えると、中空構造の粒子としての強度が維持出来ず、後の製造工程で解砕され易くなり、望みの正極活物質とはならない。
【0034】
なお、粗密度の測定は、得られた金属複合水酸化物の粒子の断面構造を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察することで行える。具体的には、粗密度の評価のために、画像解析ソフトを用いて、粒子断面積や、粒子内部の空隙面積を求め、「(粒子内部の空隙面積)/(粒子断面積)×100[%]」の式から粗密度を算出する。
本実施の形態の二次粒子に適用する場合、「粗密度」とは、得られた金属複合水酸化物の粒子の断面を、走査型電子顕微鏡及び画像解析ソフトを用いて画像解析した結果から得られ、「(二次粒子内部の空隙の面積/二次粒子の断面積)×100[%]」の式で表される値である。
【0035】
例えば、図3に示される、粒径dの複合水酸化物粒子11の断面において、粗密度は、「(空隙14の面積)/(一次粒子12の断面積と空隙14の面積との和)×100」で表される値である。つまり、粗密度が高いほど、二次粒子13内部は、粗な構造を有し、粗密度が低いほど、二次粒子13内部は、密な構造を有する。
具体的には、体積平均粒径(MV)の80[%]以上となる二次粒子13の断面を無作為に20個選択し、それら二次粒子13の断面の粗密度をそれぞれ計測して、平均値(平均粗密度)を算出する。
【0036】
<(A)濾過・洗浄工程・(B)乾燥工程>
(A)の濾過・洗浄工程では、晶析処理後の反応溶液を濾過し、晶析生成した金属複合水酸化物の濾過物と濾液を分離する。そして、得られた濾過物である金属複合水酸化物を、水酸化ナトリウム溶液などのアルカリ溶液を用いてアルカリ洗浄することで、金属複合水酸化物に含まれる硫酸イオン(SO 2-)や塩素イオン(Cl)などを除去し、次いでイオン交換水などの様な不純物が制御された純水で再度洗浄して、ナトリウムイオン(Na)などの不純物を取り除く水洗浄を経た洗浄処理済濾過物である金属複合水酸化物を得る工程である。
更に、その洗浄処理済濾過物である金属複合水酸化物を乾燥機に入れて、100~150[℃]の範囲の温度で乾燥させ、乾燥物である金属複合水酸化物の乾燥粉末を得る。
【0037】
<リチウム化合物粉末の(p)微粉砕工程>
この工程は、リチウム原料となる最大粒径が100[μm]以上のリチウム化合物粉末を、細かく微粉砕処理する工程である。なお、リチウム原料に、最大粒径が100[μm]以上のものを用いる理由は、微粉砕処理を行うことで、吸湿などによる表面劣化の影響が無い新生面を多く持つ粉末となることで、金属複合水酸化物に対する接触面や反応性が増した、微粉末リチウム化合物が得られるためである。また、混合・焼成工程を経て製造されたリチウム金属複合酸化物を、正極活物質として電池に組み込んだ際の低温出力特性を良好にするためである。
この微粉砕処理された微粉末リチウム化合物は、最大粒径が10.0[μm]以下であるのが好ましく、8.0[μm]以下がより好ましい。また、平均粒径は5.0[μm]以下であるのが好ましく、3.5[μm]以下がより好ましい。最大粒径が10.0[μm]を超えるか、若しくは、平均粒径が5.0[μm]を超える場合は、この微粉末リチウム化合物と混合した金属複合水酸化物との、焼成時の反応性が低下すると共に、製造されたリチウム金属複合酸化物を、正極活物質として電池に組み込んだ際の低温出力特性が悪化する。
【0038】
なお、微粉砕処理には、一般的な粉砕機を用いることが出来る。例えば、ジェットミルやボールミルなどを用いることができ、最大粒径が10.0[μm]以下になる様、粉砕条件を設定する。更に、微粉砕処理した後は、篩別処理によって粒径10.0[μm]を超える粉末を除去し、所定粒径の微粉末リチウム化合物を得てもよい。粒径の下限については、特に制限は無いものの、これら粉砕機の性能を考慮するならば、平均粒径で0.1[μm]程度となる。
その他、最大粒径や平均粒径の確認には、レーザー回折・散乱方式の粒度分布測定装置を用いることが出来る。この測定装置は、測定対象試料に液体を添加して得たスラリーを循環しながら、レーザー回折・散乱法によって粒径を測定するものであり、循環するスラリーには、超音波が当てられて二次粒子の解凝が行われるので、測定される粒子は、ほぼ一次粒子になる。
【0039】
更に、リチウム化合物粉末は、特に制限されないが、炭酸リチウム(LiCO:融点723[℃])や、水酸化リチウム(LiOH:融点462[℃])のほか、硝酸リチウム(LiNO:融点261[℃])や、塩化リチウム(LiCl:融点613[℃])、硫酸リチウム(LiSO:融点859[℃])などのリチウム化合物が使用出来る。特に、取り扱いの容易さや品質安定性を考慮すると、炭酸リチウム又は水酸化リチウムを用いることが好ましい。
【0040】
<(C)混合工程及び(D)焼成工程>
リチウム原料であるリチウム化合物粉末を、(p)の微粉砕工程で、微粉砕処理して得られた微粉末リチウム化合物を、(B)の乾燥工程を経て得られた金属複合水酸化物の乾燥粉末と共に、(C)混合工程で混合する。
この際に、微粉末リチウム化合物及び金属複合水酸化物粉末は、得られるリチウム金属複合酸化物中のニッケル、マンガン、コバルトの原子数の和と、リチウムの原子数との比が、1.00~1.20の範囲となる様に混合する。この比が1.00より小さい場合には、リチウムサイトである3aサイトにリチウム原子が取り込まれないため、製造されたリチウム金属複合酸化物を、正極活物質として電池に組み込んだ際に目標とする電池特性が得られない。
ところで、サイトとは結晶学的に等価な格子位置のことを言う。格子位置に、ある原子が存在する場合は、「サイトが占有される」と言い、そのサイトは占有サイトと呼ばれる。例えば、LiCoOには、3つの占有サイトが存在して、それぞれリチウムサイト、コバルトサイト、酸素サイトと呼ばれ、或いは、3aサイト、3bサイト、6cサイトなどとも呼ばれる。また、上記比が1.20より大きいと焼結が促進され、粒径や結晶子径が大きくなり過ぎ、サイクル特性の悪化を招くものである。
【0041】
次に、微粉末リチウム化合物と金属複合水酸化物粉末の混合物(以降、リチウム混合物とも称する)を、大気雰囲気中において、800~950[℃]の温度範囲で焼成する(D)の焼成工程に供する。
この焼成の焼成温度が800[℃]未満になると、反応性が低下して、得られたリチウム金属複合酸化物において、未反応の余剰なリチウムが増加したり、結晶構造が十分に整わず結晶性悪化などが起こり、正極活物質自体から必要なリチウムが溶出し易くなったりするため、満足出来る電池特性が得られない。特に、800[℃]未満で焼成されたリチウム金属複合酸化物粉末をスラリー固体成分とする、水との混合物である混合スラリーに含まれる前記リチウム金属複合酸化物粉末の濃度が50[g/L]の時の前記スラリーpHが11.5を超える場合は、その傾向が顕著となる。
しかも、先述した様に、未反応の余剰なリチウムが増加すると共に、正極活物質の結晶性悪化などによって、正極活物質自体からリチウムが溶出し易くなるために、後述する溶解性リチウムの問題が併発する。その反面、焼成温度が950[℃]より高くなると、リチウム金属複合酸化物の粒子間で激しく焼結が起こり、異常な粒子成長を生じる可能性がある。
【0042】
なお、リチウム混合物は、上記焼成を行う前に、600~780[℃]で仮焼してもよい。仮焼することで、焼成での反応がより穏やかに進み、得られたリチウム金属複合酸化物における、未反応の余剰なリチウムの低減や、結晶性向上に繋がる。この仮焼における温度の保持時間は、0.5~10時間とすることが好ましく、2~4時間とすることが、より好ましい。また、仮焼の雰囲気は、大気雰囲気のほか、酸化性雰囲気としてもよく、酸素濃度が18~100[容量%]の雰囲気とするのが好ましい。
更に、仮焼と、それに続く焼成(本焼とも称す)の間は、必ずしも室温まで冷却する必要は無く、仮焼温度から昇温させ、本焼を行ってもよい。
【0043】
<(E)解凝・解砕工程>
(D)の焼成工程により得られたリチウム金属複合酸化物粉末は、二次粒子の凝集又は軽度の焼結が生じている場合がある。
この様な場合、リチウム金属複合酸化物粉末の凝集体又は焼結体を解凝・解砕することが好ましい。これにより、得られるリチウム金属複合酸化物粉末の粒径及び粒度分布を、正極活物質として好適範囲に調整することが出来る。
このような解凝・解砕方法としては、公知手段を用いることができ、例えば、ピンミルや、ハンマーミルなどを用いることが出来る。なお、この際には、二次粒子を破壊しない程度で、解凝・解砕力を適切に調整することが好ましい。
又、最大粒径や平均粒径などの粒径や、粒度分布の測定は、先の(p)の微粉砕工程と同様に、レーザー回折・散乱方式の粒度分布測定装置を用いて行えばよい。
【0044】
<非水系電解質二次電池用正極活物質>
本実施の形態の非水系電解質二次電池用正極活物質は、リチウム、ニッケル、マンガン、コバルトを含む一次粒子が凝集した二次粒子、又は一次粒子と二次粒子の両者で構成されるリチウム金属複合酸化物粉末であって、上記リチウム金属複合酸化物粉末をスラリー固体成分とする、水との混合物である混合スラリーに含まれる前記リチウム金属複合酸化物粉末の濃度が50[g/L]の時のスラリーpHが11.5以下であり、前記リチウム金属複合酸化物粉末に含まれている溶解性リチウム含有率が0.5[質量%]以下であり、その比表面積が2.0~3.0[m/g]で、二次粒子の空隙率が20~50[%]であることを特徴とし、その成分組成は、一般式:Li(Ni1-w-xMnCo1-y:(0.98≦a≦1.20、0.01≦w≦0.50、0.01≦x≦0.50、0.01≦y≦0.10、但し、Mは、Mg、Al、Ti、Fe、Cu、Si、Zn、Moのうち1種以上)で表されることが好ましい。
また、上記本実施の形態における非水系電解質二次電池用正極活物質を含む正極を備えた、非水系電解質二次電池は、「-20[℃]の電流休止法のΔV-20[℃]」が0.55[V]以下であることを特徴とする。
【0045】
<リチウム金属複合酸化物粉末の内部構造>
本実施の形態におけるリチウム金属複合酸化物は、二次粒子の内部に中空構造を有する。中空構造を有するリチウム金属複合酸化物粉末から成る正極活物質は、電解液との接触面積が増加することによって出力特性に優れる。本実施の形態におけるリチウム金属複合酸化物は、中空構造であるにもかかわらず、良好な粒子強度を有する。
ところで、「二次粒子内部に中空構造を有する」とは、二次粒子中心部に存在する空間からなる中空部と、その外側の外殻部で構成される構造を言う。この中空構造は、図5に示す様に、リチウム金属複合酸化物粉末を走査型電子顕微鏡により断面を観察することで確認出来る。
【0046】
また、中空構造を有するリチウム金属複合酸化物は、粒子の断面観察で計測される空隙率が10~90[%]であることが好ましく、20~50[%]であることが、より好ましい。これにより、得られる正極活物質の嵩密度を低下させ過ぎることなく、粒子の強度を許容範囲内に保ちつつ、正極活物質の電解液との接触面積を、十分なものとすることが出来る。
【0047】
なお、本実施の形態では、二次粒子を、中空構造を有するものにするが、これに限定されるものではなく、中空構造を有するもののほか、中実構造を有するもの、多孔構造を有するものを、組み合わせて混在させることも可能である。例えば、混合及び焼成時に、ニッケル、マンガン、コバルトなどの遷移金属供給源となる金属水酸化物について、製造工程の晶析条件を調整することなどにより、中実構造を有するもの、中空構造を有するもの、多孔構造を有するもの、それぞれを、組み合わせや割合で混在させることも可能であり、この様にして、得られたリチウム金属複合酸化物は、中実品、中空品、多孔品を、ただ単に混合して作製されたものよりも、全体的な組成や粒子径を安定させられる利点がある。
【0048】
<正極活物質の評価方法>
[スラリーpH]
リチウム金属複合酸化物粉末をスラリー固体成分とする、水との混合物である混合スラリーに含まれる前記リチウム金属複合酸化物粉末の濃度が50[g/L]の時のスラリーのpHを指す。
そこで、上記の濃度となる様に、リチウム金属複合酸化物に水(イオン交換水などの様な不純物が制御された水が望ましい)を加えて30分間撹拌状態を維持し、その撹拌状態のまま、作製したスラリーのpHをpH計で測定する。ここで、撹拌時間が30分を超えると、大気中の二酸化炭素が、スラリー液面から活発に吸収される様になり、pHが変動し易くなるので、好ましくない。
また、pH計の校正には、試薬メーカーから販売されている、pH4、pH7、pH9の3種類のpH校正用標準緩衝液を使用し、校正操作の確認には、pH10のpH校正用標準緩衝液をチェック試料とする。
このスラリーpHを確認することにより、微粉末リチウム化合物と金属水酸化物粒子との反応性の良し悪しを、全体的に知ることが出来る。
【0049】
スラリーpHの上限は、11.5以下であることが好ましく、11.3以下がより好ましく、更に11.1以下が特に好ましい。一方スラリーpHの下限は、10.5以上であることが好ましく、10.7以上がより好ましく、更に10.9以上が特に好ましい。
このスラリーpHが11.5を超えると、(C)混合工程での混合不足や、(D)焼成工程での反応性低下などのため、未反応の余剰なリチウムが増加したと考えられ、スラリーpHが10.5未満なら、(C)混合工程において、金属水酸化物粉末の供給量に対し、微粉末リチウム化合物の供給量が不足していることが考えられる。
【0050】
[溶解性リチウム]
20[g/L]の濃度になる様に、リチウム金属複合酸化物に水(イオン交換水などの様な不純物が制御された純水が望ましい)を加えて、10分間撹拌した後に濾過し、その濾液に含まれるリチウムをICP発光分光分析装置で測定する。ここで、測定に使用する元素分析装置は、リチウムを直接測定可能なものであるなら、特に限定されない。ICP発光分光分析装置以外としては、例えば、原子吸光分析装置や、フレームレス原子吸光分析装置、マイクロ波プラズマ原子発光分光分析装置、イオンクロマト分析装置などが挙げられる。
【0051】
ところで、余剰なリチウムの評価方法としては、中和滴定法が一般的に行われている。この方法では、余剰なリチウムの存在形態を、水酸化リチウム(LiOH)及び炭酸リチウム(LiCO)としている。つまり、リチウムイオン(Li)に対応する陰イオンである、水酸化物イオン(OH)や炭酸イオン(CO 2-)を、塩酸標準液で滴定することにより、間接的にリチウムを分析するものである。
【0052】
一般に、焼成後のリチウム金属複合酸化物の表面(若しくは結晶の粒界)には、水酸化リチウム(LiOH)、炭酸リチウム(LiCO)、硫酸リチウム(LiSO)などの形態で余剰なリチウムが残存し、これら余剰リチウム化合物は、水洗処理を行うことで溶出する。また、リチウム化合物と金属複合水酸化物との反応が十分でない場合や、過剰な洗浄処理を行うことにより、結晶格子中からのリチウムの溶出も起こり易くなる。
従って、リチウム金属複合酸化物である正極活物質の結晶性悪化によって、正極活物質自体から溶出するリチウムなど、他の形態で存在しているものについては、中和滴定法を用いて検出することが出来ない。
【0053】
故に、正極活物質の表面に残存している余剰なリチウム化合物だけでなく、水や電解液などに溶解する全てのリチウム量である溶解性リチウムを正確に評価するには、リチウムを直接測定可能な元素分析装置を、使用しなければならない。しかも、溶解性リチウムの評価では、水酸化リチウム(LiOH)及び炭酸リチウム(LiCO)を分別定量する必要も無いため、分析の精度や正確さを向上させる上でも、間接分析法である中和滴定法の適用を避けるべきである。
【0054】
上記評価方法で測定される溶解性リチウム含有量は、「{(元素分析装置の測定値[g/L])×(スラリー容量[L])/(スラリー固体成分[g])}×100[質量%]」の式で表され、0.5[質量%]以下が好ましく、0.4[質量%]以下がより好ましく、更に0.3[質量%]以下が特に好ましい。溶解性リチウム含有量は、リチウムが検出されないことが特に好ましく、濾液作製条件や元素分析装置の検出限界などを考慮するならば、分析(定量)下限として0.0005[質量%]程度となる。
なお、仮に、溶解性リチウム含有量が、分析下限である0.0005[質量%]未満でも、スラリーpHが10.5未満であるなら、(C)混合工程において、金属水酸化物粉末の添加量に対し、微粉末リチウム化合物の添加量が不足していることが考えられる。
【0055】
[比表面積]
比表面積は、BET式に基づいた窒素ガス吸着法から求められる、BET比表面積によって評価することが出来る。
リチウム金属複合酸化物の比表面積は、2.0~3.0[m/g]とすることが好ましい。比表面積が2.0[m/g]未満では、リチウムとの反応面積を十分に確保することが出来ず、一方で3.0[m/g]を超えると、充填性が悪くなる。
【0056】
以上説明してきた様に、これら「スラリーpH」、「溶解性リチウム」、「比表面積」が、好ましい範囲であることが、得られる金属複合酸化物粉末から成る正極活物質を用いて、正極合材ペースト調整時にゲル化の問題が発生せず、且つ高性能である正極活物質を得るために必要となる。
【0057】
[空隙率]
空隙率は、リチウム金属複合酸化物粒子の任意断面を、走査型電子顕微鏡を用いて観察し、画像解析することで測定出来る。
その際には、以下に示す空隙率の評価方法で行う。
【0058】
-空隙率の評価方法-
リチウム金属複合酸化物を樹脂に埋め込む第一工程と、クロスセクションポリッシャを用い、アルゴンスパッタリングによって、前記樹脂に埋め込んだ前記リチウム金属複合酸化物の粒子を切断し、該粒子の断面を露出させる第二工程と、露出した前記粒子の断面を、走査型電子顕微鏡を用いて観察する第三工程と、観察された前記粒子の断面の画像を、画像解析ソフトによって前記画像の空隙部を黒とし、且つ緻密部を白として解析し、任意の20個以上の前記粒子の断面に対し、黒の部分/(黒の部分+白の部分)の面積を計算することで空隙率を求める第四工程を、順次実施することで、空隙率を求めることができる。
【0059】
[粒子強度]
粒子強度は、リチウム金属複合酸化物粉末の内部構造に係らず、80~250MPaであることが好ましく、130~240MPaであることがより好ましく、150~180MPaであることが特に好ましい。粒子強度が80MPa未満では、充放電後のリチウム金属複合酸化物粒子に多くの「割れ」が発生し、容量低下や電池の膨化が起こることがあり、その一方で、250Mpaを超えると、電池の正極膜を作成する際、充填性が悪くなり、正極膜を作製出来なくなることがある。また、充填性が悪い正極膜で、充放電サイクルを行うと、容量低下が大きくなり、サイクル特性が極端に悪くなる。
なお、粒子強度に関する評価方法には、特に限定は無く、例えば、微小圧縮試験装置を用いて1粒子毎に測定を行うことにより求めることが出来る。
【0060】
<非水系電解質二次電池>
[正極]
正極を形成する正極合材と、それを構成する各材料について説明する。
本実施の形態における粉末状の正極活物質のほか、導電材及び結着剤を混合し、必要に応じて、活性炭や、粘度調整などの目的で溶剤を添加し、これらを混練して正極合材ペーストを作製する。正極合材ペーストにおける各材料の混合比も、リチウム二次電池の性能を決定する重要な要素となる。
そこで、正極合材ペースト中の各材料の混合比は、特には限定されないが、一般的なリチウム二次電池の正極と同様、溶剤を除いた正極合材ペースト中の固形成分全体を100[質量%]とした時に、それぞれ、正極活物質を60~95[質量%]、導電材を1~20[質量%]、結着剤を1~20[質量%]含有することが好ましい。
【0061】
更に、正極合材ペーストの粘度は、振動式粘度計を用いて測定することが出来る。
使用する振動式粘度計は、流体中の振動子を一定の振幅及び周波数によって共振させた場合に、振動子が動くのに必要な加振力と、流体の粘性抵抗との間の相関関係を利用した装置で、10000[mPa・s]レベルの高い粘度測定も可能である。
【0062】
本実施の形態では、固形成分[g]/溶剤[g]=1.875となる様に混合した、粘度確認用の正極合材ペーストを、所定の容器に10g以上採取し、ウォーターバス中で流体温度を20[℃]に調整して、粘度測定を行った。また、振動式粘度計の校正には、JIS-Z-8809に規定された粘度計用校正用標準液である、JS-200(20[℃]での粘度:170[mPa・s])及びJS-2000(20[℃]での粘度:1800[mPa・s])を用いた2点校正が望ましい。なお、上記比「1.875」は、本実施の形態のような二次電池に良好な特性をもたらす正極を作製する正極合材ペーストの固液比を表している。
【0063】
得られた正極合材ペーストは、例えば、アルミニウム箔製の集電体表面に塗工し、乾燥して溶剤を飛散させる。必要に応じて、電極密度を高めるべく、ロールプレスなどで加圧する場合もある。この様にしてシート状の正極を作製することが出来る。また、作製したシート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断などを行い、電池の作製に供することが出来る。但し、正極の作製方法は、上記例示のものに限られることなく、他の方法に依ってもよい。
【0064】
上記の正極の作製にあたって、導電材としては、例えば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛など)や、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラック系材料などを用いることが出来る。
また、結着剤(バインダー)は、活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)のほか、ポリテトラフルオロエチレン、エチレンプロピレンジエンゴム、フッ素ゴムなどの含フッ素樹脂、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂、ポリアクリル酸、ポリプロピレン、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂を、用いることが出来る。必要に応じて、正極活物質、導電材、活性炭を分散させ、結着剤を溶解する溶剤を正極合材に添加する。
【0065】
更に、溶剤としては、具体的には、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの有機溶剤を用いることが出来る。
なお、正極合材には、電気二重層の容量を増加させるために、活性炭を添加することが出来る。
【0066】
[負極]
負極には、金属リチウムや、リチウム合金などのほか、リチウムイオンを吸蔵及び脱離出来る負極活物質に、結着剤を混合して、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材ペーストを、銅などの金属箔集電体の表面に塗工し、乾燥して、必要に応じて電極密度を高めるべく、圧縮・形成したものを用いる。
【0067】
負極活物質としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂などの有機化合物焼成体、コークスなどの炭素物質の粉状体を用いることが出来る。この場合、負極結着剤としては、正極同様に、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などの含フッ素樹脂を用いることができ、これらの活物質及び結着剤を分散させる溶剤として、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの有機溶剤を用いることが出来る。
【0068】
[セパレータ]
正極と負極の間に、セパレータを挟み込んで配置する。セパレータとは、正極と負極を分離して電解質を保持するものであり、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの薄い膜で、微少な穴を多数有する膜を用いることが出来る。
【0069】
[非水系電解液]
非水系電解液は、支持塩であるリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。有機溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)や、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、トリフルオロプロピレンカーボネート(TFPC)などの環状カーボネートや、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)などの鎖状カーボネートや、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチルテトラヒドロフラン(2-MeTHF)、ジメトキシエタン(DME)などのエーテル化合物のほか、エチルメチルスルホン、ブタンスルトンなどの硫黄化合物、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチルなどのリン化合物から選ばれる1種を、単独で、或いは、2種以上を混合して用いることが出来る。
支持塩としては、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、テトラフルオロホウ酸化リチウム(LiBF)、過塩素酸リチウム(LiClO)、ヘキサフルオロヒ酸リチウム(LiAsF)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(CFSO)など、及びそれらの複合塩を用いることが出来る。
更に、非水系電解液は、ラジカル補足剤、界面活性剤及び難燃剤などを、含んでいてもよい。
【0070】
[電池の形状及び構成]
これまで説明してきた、正極、負極、セパレータ、非水系電解液で構成される、本実施の形態に係るリチウムイオン二次電池の形状は、円筒型、積層型など、種々のものとすることが出来る。
いずれの形状を取る場合であっても、正極及び負極に、セパレータを介して積層させて電極体とし、この電極体に非水系電解液を含浸させる。正極集電体と、外部に通ずる正極端子との間、並びに負極集電体と、外部に通ずる負極端子との間に、集電用リードなどを用いて接続する。
以上の構成のものを電池ケースに密閉して、電池を完成させることが出来る。
【実施例0071】
以下、実施例及び比較例により、本発明について更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に、何ら限定されるものではない。
【実施例0072】
[金属複合水酸化物]
a)金属複合水酸化物粉末の製造
[(a)金属複合水酸化物の製造工程]
はじめに、硫酸ニッケル六水和物、硫酸コバルト七水和物、硫酸マンガン一水和物を、ニッケル、マンガン、コバルトのモル比が、Ni:Mn:Co=35:30:35となる様に、水に溶解すると共に、ニッケル、マンガン、コバルトの濃度が2[mol/L]となる様に、原料溶液を作製した。一方、オーバーフローまでの容量が6[L]である反応槽に水を900[ml]入れ、ウォーターバスを用いて槽内温度を40[℃]まで加温すると共に、この時の反応槽内は、大気雰囲気(酸素濃度:21[容積%])に調整した。
【0073】
次に、反応槽内の水を撹拌しながら、原料溶液と、25[質量%]のアンモニア水と、25[質量%]水酸化ナトリウム溶液を、連続的に供給することにより、反応溶液を形成した。この際に、反応溶液のpHが、25[℃]基準で11.7になる様に水酸化ナトリウム溶液を供給し、また、アンモニウムイオン濃度が10.0[g/L]に維持される様にアンモニア水で作製した。
この状態において、晶析処理を0.5時間行った後、原料溶液、アンモニア水、水酸化ナトリウム溶液の給液を一旦停止し、反応槽内の酸素濃度が0.2[容積%]以下となるまで、窒素ガスを流量5[L/分]で導入、置換させ、酸素濃度が0.2[容積%]以下の非酸化性雰囲気となってから給液を再開し、晶析処理を3.5時間継続した。
そして、晶析処理後のスラリーを固液分離して、中空構造のニッケル・マンガン・コバルト複合水酸化物であるNi0.35Mn0.30Co0.35(OH)を得た。
なお、反応溶液のpH及びアンモニウムイオン濃度は、予め反応槽に設置した、pH/アンモニア測定キット(pH計とアンモニウムイオンメータの複合機)であるOrion-Star-A214(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)により、それぞれ測定した。
【0074】
b)金属複合水酸化物粉末の洗浄
金属複合水酸化物粉末を、スラリー濃度が100[g/L]の割合となる様に、イオン交換水で再スラリー化し、水酸化ナトリウム溶液を添加すると共に、30分間撹拌して、金属複合水酸化物の「アルカリ洗浄」を行った。さらに、その水酸化ナトリウム溶液によるアルカリ洗浄後のスラリーを、吸引濾過器などで固液分離した後に、純水で「水洗浄」する「(A)濾過・洗浄工程」を行い、得られた洗浄済の濾過物を、大気乾燥機を用いて、120[℃]且つ24[時間]で乾燥し、金属複合水酸化物の乾燥粉末を得た。
【0075】
c)金属複合水酸化物粉末の評価
金属複合水酸化物粉末の組成を、マルチ型ICP発光分光分析装置である、ICPE-9000(株式会社島津製作所製)を用いて測定した結果、一般式:Ni0.35Mn0.30Co0.35Oで表されることが確認出来た。
【0076】
[微粉末リチウム化合物]
リチウム原料であるリチウム化合物粉末を、(p)微粉砕工程において、所定の大きさに粉砕する。具体的には、ジェットミル(例えば、株式会社セイシン企業製)を用いて、最大粒径100[μm]以上の炭酸リチウムを、最大粒径が10.0[μm]以下、且つ平均粒径が5.0[μm]以下となるまで、微粉砕処理を行い、所定の微粉末リチウム化合物を作製した。また、粒度分布の測定には、レーザー回折・散乱方式の粒度分布測定装置である、マイクロトラックMT3300EX2(マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いた。
粒度分布の測定結果を、表1に示す。
【0077】
[リチウム混合物]
a)(C)混合工程によるリチウム混合物の作製
金属複合水酸化物粉末に対し、Li/Me=1.02となる様に秤量した、微粉末リチウム化合物を混合して、リチウム混合物を得た。なお、混合には、シェーカミキサ装置である、TURBULA-TypeT2C(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製)を用いた。
【0078】
b)(D)焼成工程によるリチウム混合物の仮焼・焼成
そのリチウム混合物を、大気気流中において760[℃]で4時間仮焼した後、900[℃]で10時間焼成し、室温まで冷却することにより、リチウム金属複合酸化物の粒子を得た。更に、冷却後のリチウム金属複合酸化物の粒子には、二次粒子の凝集又は軽度の焼結が生じているため、これを解凝・解砕することで正極活物質を得た。
【0079】
[正極活物質]
製造した正極活物質の諸特性を、下記の評価方法により行った。その評価結果を表1に示す。
・スラリーpH
スラリーpHの測定には、pH・イオンメータである、HM-42X(東亜ディーケーケー株式会社製)を用いた。また、電極校正には、和光純薬株式会社製のpH測定用標準緩衝液である、フタル酸塩pH標準液(第2種:4.01)や、中性りん酸塩pH標準液(第2種:6.86)、ほう酸塩pH標準液(第2種:9.18)、炭酸塩pH標準液(第2種:10.01)を用いた。
・溶解性リチウム含有率
溶解性リチウム含有率の測定には、マルチ型ICP発光分光分析装置である、ICPE-9000(株式会社島津製作所製)を用いた。
・比表面積
流動方式窒素ガス吸着法を採用したBET比表面積測定装置である、マックソーブ1200シリーズ(株式会社マウンテック製)を用いて、BET式により算出される比表面積を測定した。
・空隙率
リチウム金属複合酸化物の粒子の切断には、断面試料の作製装置である、クロスセクションポリッシャIB-19530CP(日本電子株式会社製)を用い、また、その断面の観察には、ショットキー電界放出タイプの走査型電子顕微鏡SEM-EDSである、JSM-7001F(日本電子株式会社製)を用いた。更には、画像解析・計測ソフトウェアである、WinRoof6.1.1(三谷商事株式会社製)によって、粒子断面の空隙部を黒として測定し、粒子の緻密部を白として測定し、任意の20個以上の粒子に対して、黒部分/(黒部分+白部分)の面積を計算することで空隙率を求めた。
・粒子強度
粒子強度は、微小強度評価試験機MCT-500(株式会社島津製作所製)を用いて、1個のNMC粒子に圧子で荷重を加え、破壊された際の粒子強度を算出した。具体的には、シリコン板の上にNMC粒子を静止させ、圧子の中心部に合わせて位置を微調整し、圧子を、NMC粒子に大きな荷重が掛からない程度に接触させて、測定を行った。測定条件は、試験力を150mN、負荷速度を2.0mN/秒とし、10個の粒子の平均値を求めた。
【0080】
[正極]
正極は、正極活物質である先述のリチウム金属複合酸化物と、導電材であるアセチレンブラックと、結着剤であるPVDFを、質量比85:10:5となる様に混合した後、溶剤(NMP)に分散させ、ペースト化した。この正極合材ペーストを、厚み20[μm]のアルミニウム箔(正極集電体)に、アプリケーターを用いて、単位面積当たり7[mg/cm]となる様に塗工した。その後、送風乾燥機を用いて、120[℃]且つ30分乾燥後、ロールプレスで線圧180[kg/cm]の荷重で圧延し、正極シートを得た。
この正極シートを、一角に幅10[mm]の帯状部(端子)が突き出た、3×5[cm]の長方形に打ち抜き、帯状部から正極活物質層を除去し、アルミニウム箔を露出させて端子部を形成して、端子付き正極シートを得た。
【0081】
その他、先述の条件で作製した、粘度確認用の正極合材ペーストによる粘度測定には、振動式粘度計ビスコメイトVM-100A(株式会社セコニック製)を用い、JIS-Z-8809に規定された粘度計用校正用標準液(JS-200、JS-2000)には、日本グリース株式会社製のものを用いた。
【0082】
[負極]
負極は、負極活物質である天然黒鉛粉末(三菱化学株式会社製)と、結着剤であるPVDF(バインダー)が、質量比90:10となる様に混合した後、溶剤(NMP)に分散させ、ペースト化した。このペーストを、厚み15[μm]の銅製集電体(負極集電体)に、アプリケーターを用いて、3.1[mg/cm]の厚さで塗工した。その後、送風乾燥機を用いて、120[℃]且つ30分乾燥を行った。更に、乾燥後の電極を、ロールプレスを用いて、線圧390[kg/cm]で圧延して、負極シートを得た。
作製した負極シートを、一角に幅10[mm]の帯状部(端子)が突き出た、3.2×5.2[cm]の長方形に切り出し、その帯状部から負極活物質層を除去し、銅箔を露出させて端子部を形成し、端子付き負極シートを得た。
【0083】
[セパレータ]
セパレータは、リチウムイオン二次電池で一般的に使用されている、厚み20[μm]のポリプロピレン製の微多孔膜セパレータを、5.8×3.4[cm]にカットしたものを用いた。
【0084】
[電解液]
電解液は、支持電解質である六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を、1[mol/L]を含有する、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)を、容積比でEC/EMC=3:7の混合液を用いた。
【0085】
[組み立て]
これらの材料を80[℃]で8時間減圧乾燥した後、露点が-60[℃]未満のドライルームに持ち込み、図4に示す、外装サイズ80×60[mm]の単層ラミネートセル型電池に組み立てた。図4は、本実施例で用いた単層ラミネートセル型電池Cで、1は正極シート、2は負極シート、3はセパレータ、4はアルミラミネートシート、そしてHSは熱融着部である。
【0086】
[コンディショニング処理]
25[℃]に制御された恒温槽の中で、電極部に対して0.4[kgf/cm]の荷重を掛けた状態で拘束し、12時間保管した後、充放電試験装置であるHJ1001SD8(北斗電工社株式会社製)を用い、0.2[C]のレート(5時間で満充電となる電流値)で4.2[V]まで充電する操作と、0.2[C]のレートで3.0[V]まで放電させる操作を行い、充電及び放電後間の休止時間は10分とした。
【0087】
[リチウムイオン二次電池]
-低温出力特性の評価-
図4に示す評価用ラミネートセルを用いて、低温(-20[℃])時の電池内部抵抗ΔV-20[℃]を、電流休止法により測定することで低温出力特性を評価した。その評価方法を以下に示す。
評価用ラミネートセルは、下記に示す様に作製している。
正極活物質と、導電材(アセチレンブラック)と、結着剤(PVDF)を、質量比85:10:5となる様に混合した後、溶剤(NMP)を加えてペースト化したものを、外部と接続する導電部を残してアルミニウム製集電箔(厚さ0.02[mm])に塗工し、乾燥させ、正極活物質の目付が、7[mg/cm]の正極活物質層が形成された正極シート1を作製する。
また、負極活物質である天然黒鉛粉末と、結着剤(PVDF)を、質量比90:10となる様に混合した後、溶剤(NMP)に分散させ、ペースト化したものを、銅製集電箔(厚さ0.02[mm])に塗工し、負極活物質の目付が、5[mg/cm]の負極活物質層が形成された負極シート2を作製する。
【0088】
その作製した正極シート1と負極シート2の間に、ポリプロピレン製微多孔膜(厚さ20.7[μm]、空孔率密度43.9[%])から成る、セパレータ3を介挿し、積層シートを形成し、この積層シートを、2枚のアルミラミネートシート4(厚さ0.55[mm])で挟み、アルミラミネートシート4の3辺を熱融着し、熱融着部HSを形成することにより密封して、図4に示す様な構成のラミネートセルに組み立てた。
その後、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネートの混合溶媒(容量比3:3:4)に、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)1[mol/L]が溶解した宇部興産株式会社製の電解液を260[μl]注入した後、残りの一辺を熱融着して、図4に示すラミネートセルに組み立て作製する。
【0089】
その作製したラミネートセルを、-20[℃]の温度下で4.2[V]まで充電後、0.2[C]で2.5[V]まで放電し、開回路にして、600秒間電圧緩和させた前後の電圧変化(ΔV-20[℃])を算出した。放電時の電流を同じにして放電させた場合、得られた電圧変化(ΔV-20[℃])の差は、そのまま抵抗の差と解釈出来る。即ち、ΔV-20[℃]が小さい程、「電池抵抗」が低いと解釈出来るため、ΔV-20[℃]の値を低温条件での直流抵抗の指標として用い、本実施例の二次電池における「低温出力特性」の評価を行った。
その評価結果を、表1に示す。
【実施例0090】
炭酸リチウムを、粒度分布において、最大粒径が8.0[μm]以下、且つ平均粒径が4.0[μm]以下となるまで、ジェットミルを用いて微粉砕処理した以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得て評価を行った。
その評価結果を表1に示す。
【実施例0091】
炭酸リチウムを、粒度分布において、最大粒径が4.1[μm]以下、且つ平均粒径が2.5[μm]以下となるまで、ジェットミルを用いて微粉砕処理した以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得て評価を行った。
その評価結果を表1に示す。
【実施例0092】
炭酸リチウムを、粒度分布において、最大粒径が4.0[μm]以下、且つ平均粒径が2.0[μm]以下となるまで、ジェットミルを用いて微粉砕処理した以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得て評価を行った。
その評価結果を表1に示す。
【0093】
(比較例1)
炭酸リチウムを粉砕せず、粒度分布において、最大粒径が110[μm]、且つ平均粒径が53[μm]のものを用いた以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得て評価を行った。
その評価結果を表1に示す。
【0094】
(比較例2)
炭酸リチウムを粉砕せず、粒度分布において、最大粒径が120[μm]、且つ平均粒径が65[μm]のものを用いた以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得て評価を行った。
その評価結果を表1に示す。
【0095】
【表1】
【0096】
[総合評価]
実施例1から4の正極活物質では、リチウム原料となる最大粒径が100[μm]以上のリチウム化合物(炭酸リチウム)を微粉砕処理した微粉末リチウム化合物を用いたことによる、仮焼・本焼工程における反応性向上の効果が見られ、スラリーpH、溶解性リチウム含有量、比表面積、空隙率、粒子強度が、全て好ましい範囲であった。また、正極合材ペースト作製時にゲル化が起こらず、固形成分[g]/溶剤[g]=1.875における20[℃]での粘度が5000[mPa・s]以下であった。
更に、リチウムイオン二次電池に組み込んだ際、-20[℃]における電流休止法のΔV-20[℃]が低いことから、これらを用いることにより、優れた特性を有するリチウムイオン二次電池が得られることが確認出来た。
その他、リチウム化合物(炭酸リチウム)と金属複合水酸化物との反応時に、金属複合水酸化物の粒界部分に微粉末リチウム化合物が挟まり、正極活物質の粒成長が阻害されたことで、比表面積が高くなったと考えられる。そして、正極活物質の粒子表面の接触面積が大きくなったことから、リチウムの脱離挿入が容易となり、低温出力特性が向上したと推察される。
【0097】
一方、比較例1、2の正極活物質では、どちらも正極合材ペースト作製時に僅かながらゲル化が起こり、正極合材ペーストの粘度のほか、リチウムイオン二次電池に組み込んだ際の-20[℃]における電流休止法のΔVも満足出来るものではなかった。この原因は、リチウム化合物(炭酸リチウム)を微粉砕処理せずに仮焼・本焼を行ったため、反応性が低下し、未反応の余剰なリチウムが増加したと共に、正極活物質の結晶性悪化などが起こったことが影響していると考えられる。
【0098】
以上の結果から、本実施例の正極活物質を用いた非水系電解質二次電池は、低温出力特性などに優れているため、使用環境を問わず、大出力を取り出し可能な非水系二次電池を実現することが出来る。
本発明の非水系電解質二次電池は、電気自動車、ハイブリット自動車などの種々の使用環境が想定される機器の動力源として好適であるため、その産業上の利用可能性は極めて大きい。
【符号の説明】
【0099】
1 正極シート
2 負極シート
3 セパレータ
4 アルミラミネートシート
11 複合水酸化物粒子
12 一次粒子
13 二次粒子
14 空隙
C 単層ラミネートセル型電池
d 粒径
HS 熱融着部
図1
図2
図3
図4
図5