(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191575
(43)【公開日】2022-12-28
(54)【発明の名称】摺動面間の低摩擦構造及びその付与方法
(51)【国際特許分類】
C10M 171/00 20060101AFI20221221BHJP
C10M 173/00 20060101ALI20221221BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20221221BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20221221BHJP
【FI】
C10M171/00
C10M173/00
C10N30:06
C10N40:02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099869
(22)【出願日】2021-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】真部 研吾
(72)【発明者】
【氏名】中野 美紀
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BB14A
4H104BH03A
4H104CJ02A
4H104DA02A
4H104DA06A
4H104LA03
4H104PA01
(57)【要約】
【課題】摺動面間の摩擦を低減させるための新たな低摩擦構造及びその付与方法の提供。
【解決手段】
基準部材の基準面にその移動面を対向させて相対的に摺動移動する移動部材において摺動面間での摩擦を低減させるための低摩擦構造及びその付与方法である。基準面の少なくとも一部を覆って第1潤滑液体の液膜を与えるとともに、移動面を覆うようにして第1潤滑液体と溶解し合わない第2潤滑液体の液膜を与えられて第1潤滑液体及び前記第2潤滑液体を間に介して移動部材を基準部材の上に位置させる。ここで、第2潤滑液体の液膜を第1潤滑液体の液膜に対して相対移動させながら移動部材の移動面を基準部材の基準面に対して摺動移動させるように、第1潤滑液体よりも第2潤滑液体において基準面に対する接触角及び表面張力を大とされている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準部材の基準面にその移動面を対向させて相対的に摺動移動する移動部材において摺動面間での摩擦を低減させるための低摩擦構造であって、
前記基準面の少なくとも一部を覆って第1潤滑液体の液膜を与えるとともに、前記移動面を覆うようにして前記第1潤滑液体と溶解し合わない第2潤滑液体の液膜を与えられて前記第1潤滑液体及び前記第2潤滑液体を間に介して前記移動部材を前記基準部材の上に位置させ、
前記第2潤滑液体の液膜を前記第1潤滑液体の液膜に対して相対移動させながら前記移動部材の前記移動面を前記基準部材の前記基準面に対して摺動移動させるように、前記第1潤滑液体よりも前記第2潤滑液体において前記基準面に対する接触角及び表面張力を大とされていることを特徴とする摺動面間の低摩擦構造。
【請求項2】
前記第1潤滑液体の前記基準面に対する前記接触角を40度以下とすることを特徴とする請求項1記載の摺動面間の低摩擦構造。
【請求項3】
前記基準面には、前記第1潤滑液体との前記接触角を調整する表面処理又は表面被膜を与えられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の摺動面間の低摩擦構造。
【請求項4】
前記第1潤滑液体及び前記第2潤滑液体は、それぞれ炭化水素及び水であることを特徴とする請求項1乃至3のうちの1つに記載の摺動面間の低摩擦構造。
【請求項5】
前記第1潤滑液体の液膜、及び前記第2潤滑液体の液膜の間には1つ又は複数の追加液膜を含み、前記追加液膜は、前記第1潤滑液体側から前記第2潤滑液体側に向けて順次、前記基準面に対する接触角及び表面張力を大とするように配列されることを特徴とする請求項1乃至4のうちの1つに記載の摺動面間の低摩擦構造。
【請求項6】
基準部材の基準面にその移動面を対向させて相対的に摺動移動する移動部材において摺動面間での摩擦を低減させるための低摩擦構造の付与方法であって、
前記基準面の少なくとも一部を覆って第1潤滑液体の液膜を与えるとともに、前記移動面を覆うようにして前記第1潤滑液体と溶解し合わない第2潤滑液体の液膜を与えられて前記第1潤滑液体及び前記第2潤滑液体を間に介して前記移動部材を前記基準部材の上に位置させ、
前記第2潤滑液体の液膜を前記第1潤滑液体の液膜に対して相対移動させながら前記移動部材の前記移動面を前記基準部材の前記基準面に対して摺動移動させるように、前記第1潤滑液体よりも前記第2潤滑液体において前記基準面に対する接触角及び表面張力を大とすることを特徴とする低摩擦構造の付与方法。
【請求項7】
前記第1潤滑液体の前記基準面に対する前記接触角を40度以下とすることを特徴とする請求項6記載の低摩擦構造の付与方法。
【請求項8】
前記基準面には、前記第1潤滑液体との前記接触角を調整する表面処理又は表面被膜を与えられていることを特徴とする請求項6又は7に記載の低摩擦構造の付与方法。
【請求項9】
前記第1潤滑液体及び前記第2潤滑液体は、それぞれ炭化水素及び水であることを特徴とする請求項6乃至8のうちの1つに記載の低摩擦構造の付与方法。
【請求項10】
前記第1潤滑液体の液膜、及び前記第2潤滑液体の液膜の間には1つ又は複数の追加液膜を含み、前記追加液膜は、前記第1潤滑液体側から前記第2潤滑液体側に向けて順次、前記基準面に対する接触角及び表面張力を大とするように配列されることを特徴とする請求項6乃至9のうちの1つに記載の低摩擦構造の付与方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動面間の摩擦を低減させる低摩擦構造及びその付与方法に関し、特に、基準部材の基準面にその移動面を対向させて相対的に摺動移動する移動部材において摺動面間での摩擦を低減させるための低摩擦構造及びその付与方法に関する。
【背景技術】
【0002】
摺動面間の摩擦を低減するための潤滑剤として、水やエタノールといった低環境負荷な材料を用いることが提案されている。特に、水系潤滑剤については、材料資源が豊富でコストも安いため、産業機器類での採用が期待されている。一方、これら潤滑剤については、鉱物油などの従来の潤滑剤と比較して、低粘度で摺動面間における保持が難しく、十分な膜厚の液膜が形成されづらく、低摩擦構造を長時間に亘って維持することが困難とされる。そこで、油と水を混合して乳化させてエマルジョンとし、油の潤滑性能を水に与えるようにした潤滑剤が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、コネクタ、スイッチ、又はチップ部品などの電子部品の金属表面における摩擦を低減する有機溶剤を使用しない潤滑剤として、水中でパラフィン系の炭化水素系物質を界面活性剤で乳化させた水溶性金属表面潤滑剤を開示している。ここでは、炭化水素系物質として、水又は土中で微生物により短期間で炭酸ガスと水に分解されるパラフィン、流動パラフィン、ワセリン、スクワランを例示している。かかる低摩擦構造の付与方法では、電子部品としての接触抵抗値を高めることなく、摩擦係数を従来の溶剤タイプの潤滑剤と較べて低くでき、環境に与える影響を抑えることも出来るとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したようなエマルジョンを用いた潤滑剤において、エマルジョンを安定化させるために界面活性剤を用いるが、かかる界面活性剤の環境負荷も大きい。また、エマルジョンを回収するには特殊な装置が必要であり、回収・廃棄コストが高く、結果として、環境負荷がかかる場合もある。そこで、界面活性剤を利用しない、新たな摺動面間の摩擦を低減させる低摩擦構造及びその付与方法が求められた。
【0006】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、摺動面間の摩擦を低減させるための新たな低摩擦構造及びその付与方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による低摩擦構造は、基準部材の基準面にその移動面を対向させて相対的に摺動移動する移動部材において摺動面間での摩擦を低減させるための低摩擦構造であって、前記基準面の少なくとも一部を覆って第1潤滑液体の液膜を与えるとともに、前記移動面を覆うようにして前記第1潤滑液体と溶解し合わない第2潤滑液体の液膜を与えられて前記第1潤滑液体及び前記第2潤滑液体を間に介して前記移動部材を前記基準部材の上に位置させ、前記第2潤滑液体の液膜を前記第1潤滑液体の液膜に対して相対移動させながら前記移動部材の前記移動面を前記基準部材の前記基準面に対して摺動移動させるように、前記第1潤滑液体よりも前記第2潤滑液体において前記基準面に対する接触角及び表面張力を大とされていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明による低摩擦構造の付与方法は、基準部材の基準面にその移動面を対向させて相対的に摺動移動する移動部材において摺動面間での摩擦を低減させるための低摩擦構造の付与方法であって、前記基準面の少なくとも一部を覆って第1潤滑液体の液膜を与えるとともに、前記移動面を覆うようにして前記第1潤滑液体と溶解し合わない第2潤滑液体の液膜を与えられて前記第1潤滑液体及び前記第2潤滑液体を間に介して前記移動部材を前記基準部材の上に位置させ、前記第2潤滑液体の液膜を前記第1潤滑液体の液膜に対して相対移動させながら前記移動部材の前記移動面を前記基準部材の前記基準面に対して摺動移動させるように、前記第1潤滑液体よりも前記第2潤滑液体において前記基準面に対する接触角及び表面張力を大とすることを特徴とする。
【0009】
かかる特徴によれば、複数の潤滑液体を摺動面間に保持し、相対的に摺動移動する部材間に潤滑液体が常に存在する流体潤滑状態を生み出すこと、及び液体によるラプラス圧を利用し荷重(加圧)方向に対し逆向きの力を働かせて、部材間の直接の接触を防ぎ、安定した低摩擦環境を得ることができる。
【0010】
上記した発明において、前記第1潤滑液体の前記基準面に対する前記接触角を40度以下とすることを特徴としてもよい。また、前記基準面には、前記第1潤滑液体との前記接触角を調整する表面処理又は表面被膜を与えられていることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、従来の潤滑油と同程度の摩擦係数0.1~0.01、又は、それ未満の低摩擦環境を得ることができるのである。
【0011】
上記した発明において、前記第1潤滑液体及び前記第2潤滑液体は、それぞれ炭化水素及び水であることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、潤滑液体の選択性が高く、廃棄コストが低く、エマルジョンのように白濁せず摺動面の観察が容易でメンテナンス性に優れるのである。
【0012】
上記した発明において、前記第1潤滑液体の液膜、及び前記第2潤滑液体の液膜の間には1つ又は複数の追加液膜を含み、前記追加液膜は、前記第1潤滑液体側から前記第2潤滑液体側に向けて順次、前記基準面に対する接触角及び表面張力を大とするように配列されることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、部材間の直接の接触を防ぎ、より安定した低摩擦環境を得ることができるのである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明による低摩擦構造を示す断面図である。
【
図2】本発明による低摩擦構造を示す断面図である。
【
図3】単一の潤滑液体の液膜に移動部材で荷重を掛けたときの断面図である。ここで、(b)は、(a)の要部の拡大図である。
【
図4】2種類の潤滑液体の液膜に移動部材で荷重を掛けたときの1の態様の断面図である。ここで、(b)は、(a)の要部の拡大図である。
【
図5】2種類の潤滑液体の液膜に移動部材で荷重を掛けたときの他の態様の断面図である。ここで、(b)は、(a)の要部の拡大図である。
【
図6】分子薄膜上におけるオレイン酸及び水の接触角及び表面張力を示すグラフである。
【
図7】分子薄膜上における第1潤滑液体(オレイン酸)及び第2潤滑液体(水)を与えたときの断面図である。
【
図9】摩擦試験の比較例における結果を示すグラフである。
【
図10】摩擦試験の実施例における結果を示すグラフである。
【
図11】摩擦試験における摺動面を3Dレーザー顕微鏡で観察したときの高さ分析結果(上段)及び表面観察写真(下段)である。
【
図12】摩擦速度を変化させた摩擦試験の比較例における結果を示すグラフである。
【
図13】摩擦速度を変化させた摩擦試験の実施例における結果を示すグラフである。
【
図14】摩擦試験の比較例における開始直後の時系列を示した断面図、及びこれに対応する移動部材(ガラスピン)下部の観察写真である。
【
図15】摩擦試験の実施例における開始直後の時系列を示した断面図、及びこれに対応する移動部材(ガラスピン)下部の観察写真である。
【
図16】摩擦試験の実施例における開始直後の時系列を示した断面図、及びこれに対応する移動部材(ガラスピン)下部の観察写真である。
【
図17】摩擦試験の結果をまとめて示したグラフである。
【
図18】摩擦試験の結果をまとめて示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、本発明による基準部材の基準面にその移動面を対向させて相対的に摺動移動する移動部材において摺動面間での摩擦を低減させるための低摩擦構造の原理について説明する。ここでは、複数の潤滑液体を効果的に摺動面間に保持し、相対的に摺動移動する部材間に潤滑液体の液膜が常に存在する流体潤滑状態を生み出すこと、及び液体によるラプラス圧を利用し、荷重(加圧)方向に対し逆向きの力を働かせることで、部材間の直接の接触を防ぎ、安定した低摩擦環境を維持しようとするものである。
【0015】
互いに摺動摩擦する部材間には、2種類以上の複数の潤滑液体の液膜を用いている。かかる複数の潤滑液体の隣り合うもの同士は、撹拌しても互いに溶解しない、性質の変化のない物質からなる。潤滑液体は、基準部材(基材、母材)に対する接触角、及びその流体自体の表面張力に基づいて選択される。
【0016】
図1に示すように、第1潤滑液体21と第2潤滑液体22の液膜で構成される潤滑表面において、基準部材10の摺動面である基準面10aに対する接触角は、その上に載置される第2潤滑液体22において第1潤滑液体21よりも大きい。また、表面張力も第2潤滑液体22の方が第1潤滑液体21よりも大きい。なお、図示しないが、3種類以上の潤滑液体からなる追加液膜を含む場合も、同様に上に載置される潤滑液体において、その下に位置する潤滑液体よりも、基準部材10の基準面10aに対する接触角が大きく、且つ、表面張力も上に載置される潤滑液体はその下に位置する潤滑液体よりも大きくなるように、順次、潤滑液体を配列される。
【0017】
第1潤滑液体21の基準面10aに対する接触角は、なるべく小さく、典型的には、40度以下、好ましくは20度以下、さらに好ましくは10度以下であると、互いに相対移動する基準部材10及び移動部材11の間での直接の接触を防ぎ、安定した低摩擦環境を得られる。また、第2潤滑液体22の基準部材10の基準面10aに対する接触角は、第1潤滑液体21の基準部材10に対する接触角よりも大きく、その接触角差が大きいほど、2つの部材10及び11の間での直接の接触を防ぎ、安定した低摩擦環境を得られる。
【0018】
上記した接触角の条件を満たすために、基準部材10の基準面10aに表面処理又は表面被膜を与えられてもよく、例えば、アルカリ処理やUV/O3等の表面処理を行ってもよい。
【0019】
第2潤滑液体22が第1潤滑液体21と接触する面積は、潤滑液体21が基準部材10と接触する面積以下となる。つまり、図示しないが、潤滑液体21が基準面10aの少なくとも一部を覆って与えられる面積が最も大きくなり、基準部材10から離れるにつれ、潤滑液体による被覆面積が小さくなる、もしくは、その隣接する基準部材10側の潤滑液体と同じ面積となる。
【0020】
第2潤滑液体22が液膜の一形態として液滴状になっている場合は、複数の潤滑液体22の液滴として潤滑液体21上に保持させることもでき、移動部材11の移動面11aの下部に液滴を配置することで液膜として低摩擦構造を与える。ここでも、上述したように、潤滑液体22の液滴の潤滑液体21への接触面積の合計面積は、潤滑液体21の基準部材10に対する接触面積を超えて保持するものではない。
【0021】
第1潤滑液体の量は、0.01μL/cm2以上、好ましくは0.1μL/cm2以上であることが好ましい。
【0022】
図2に示すように、基準部材10、もしくは、その上の被膜(図示せず)の基準面10aが潤滑液体21によって常に覆われているようにすべきである。つまり、摩擦・摩耗等による損傷や表面荒れによる凹凸部12及び凹部13が表面に存在していても、潤滑液体21で覆われているようにすべきである。ここで、低摩擦構造の基準部材10の表面である基準面10aにおいて、突出高さを有する凸部12aが存在する場合、潤滑液体21は凸部12aを覆っている必要がある。また、表面荒れ等による凹部12bや、摩擦・摩耗により損傷部凹部13が生じている場合、その内部を潤滑液体21で満たし潤滑液体21が覆っているべきである。すなわち、潤滑液体21の最大膜厚DA
maxは、凸部12aの高さと凹部13の深さを合わせた大きさよりも大きい必要がある。なお、凸部12aが潤滑液体21によって完全に覆われていない場合であっても、潤滑液体21を追加しその膜厚さを大きくすることにより、凸部12aを覆うようにし得る。
【0023】
図3乃至
図5に示すように、基準部材10の基準面10aへ移動部材15を垂直に上方から押しつけて荷重を負荷した様子を模式的に示した。
【0024】
図3に示すように、単一の潤滑液体21を基準部材10の基準面10aに与えた場合、表面張力により移動部材15の下部以外の荷重が負荷されていない箇所に潤滑液体21が移動し、移動部材15の先端が基準部材10に接触してしまう。
【0025】
一方、
図4に示すように、潤滑液体21とともに潤滑液体22が存在し、潤滑液体21の最大膜厚D
A・MAXよりも潤滑液体22の最大膜厚D
B・MAXが小さい場合、見かけ上、移動部材15の先端が基準部材10に接触しているようであっても、潤滑液体22が基準部材10及び移動部材15の間に介在する。つまり、移動部材15の先端部近傍の潤滑液体22を表面張力差により潤滑液体21が包囲し、潤滑液体22にはラプラス圧が生じて、移動部材15による荷重方向と逆方向に移動部材15を持ち上げるように力が働き、低摩擦環境を与えるのである。この逆方向の力F
dropletは、潤滑液体22の液滴を仮定することで、以下のような関係式で表すことが出来る。
F
droplet = πγ
AB r
2・(-cosθ
A-cosθ
B)/h - 2πrγ
AB sinθ
A
ここで、γ
ABは潤滑液体21及び22の界面張力、rは潤滑液体22の液滴の移動部材15との接触半径、θ
Aは潤滑液体22の液滴の移動部材15に対する接触角、θ
Bは潤滑液体22の液滴の基準部材10(もしくは、表面処理又は表面被膜を与えた表面)における接触角、hは液滴の高さである。なお、移動部材15の先端部が球状であっても、微視的に見た時に平面であると仮定している。
【0026】
また、
図5に示すように、潤滑液体21とともに潤滑液体22が存在し、潤滑液体22の最大膜厚D
B・MAXが潤滑液体21の最大膜厚D
A・MAX以上であって、移動部材15の先端直下に潤滑液体22が存在せず、ドーナツ状に移動部材15の先端部の周囲に沿って存在する場合も考慮できる。この場合も、荷重方向と逆方向に移動部材15を持ち上げるように力が働き低摩擦環境を与えるのである。ここでも、上記同様にF
dropletは、以下のような関係式で表すことが出来る。
F
droplet = πγ
AB r
2・(-cosθ
A-cosθ
B)/h - 2πrγ
AB sinθ
A・2πR
ここで、Rは、円環状(ドーナツ状)となる潤滑液体22の重心位置から輪切りにした円中心までの半径である。
【0027】
潤滑液体21は、基準部材10の表面(もしくは、表面処理又は表面被膜を与えた表面)と分子間相互作用を発揮するように選択することで、より長期間の安定した低摩擦構造とすることが可能である。この分子間相互作用は、各々の材料の官能基が化学的な引力を有していればよく、静電相互作用(ク-ロン相互作用、分極・双極子モ-メント相互作用、イオン・双極子相互作用、双極子間相互作用、誘起双極子相互作用含む)、ファンデルワ-ルス相互作用、水素結合、水素原子とπ電子との相互作用、π電子間の相互作用、配位結合を介した相互作用、電荷移動相互作用、疎水性相互作用のいずれか、もしくは2つ以上が材料同士の間に存在していることが好ましい。
【0028】
潤滑液体は、鉱物油、合成油、植物油、動物油、アルコール類、水溶液、水等を選択できる。
【0029】
具体的には、各種シリコーンオイル(デカメチルシクロテトラシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、メチルシリコーン、メチルフェニルシリコーン、メチルヒドロキシシリコーン、アミノ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、カルボキシ変性シリコーンオイル、カルビノール変性シリコーンオイル、メタクリル変性シリコーンオイル、メルカプト変性シリコーンオイル、フェノール変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、メチルスチリル変性シリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、脂肪酸エステル変性シリコーンオイル、部分フッ素変性シリコーンオイル)である。
【0030】
また、低級飽和脂肪酸、高級飽和脂肪酸、低級不飽和脂肪酸、高級不飽和脂肪酸、高級アルコール、脂肪酸化合物(ごま油、菜種油、アーモンドオイル、綿実油、サラダ油等)、フルオロアルキルエトキシシラン、フルオロアルキルメトキシシラン、アルキルエトキシシラン、アルキルメトキシシラン、DB2-EOS、EF-DB2、P3-EOS、CnHx(n>4以上)のアルカン、アルケン、アルキン、油脂(牛脂、ラ-ド、ヒマシ油、パ-ム油等)、ポリオキシアルキレン化油脂(ヒマシ油、硬化ヒマシ油)、塩素化油、硫化油(大豆油、ラ-ド)、重合油(大豆油、魚油)、その他脂肪酸誘導体(脂肪酸、セッケン、エステル、アミド、ポリオキシアルキレン付加体、塩素化/硫化/重合化脂肪酸アルキルエステル)を含む液体であってもよい。
【0031】
また、芳香環を有する潤滑液体として、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルクロロシラン、フェニルメチルクロロシラン、2-(4,6-ジフェニル1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(ヘキシル)オキシ]-フェノール、1-[2-{3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]-4-{3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4,4'-ビス(α,α-ジメチル-ベンジル)ジフェニルアミン、2,4-ジアミノ-フェニル-1,3,5-トリアジン、トリス(ノニルフェニル)フォスファイト、トリス(ミックスド,モノおよびジノニルフェニル)フォスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイト、4,4'-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル-ジ-トリデシルフォスファイト)、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ジ-トリデシルフォスファイト-5-t-ブチル-フェニル)ブタンとジフェニルフォスファイト混合物、4,4'ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4一ジ-t-ブチルフェニル)、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニルフォスファイト)、トリス(シクロヘキシルフェニル)フォスファイト、2-t-ブチル-α-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-P-クメニルビス(P-ノニルフェニル)フォスファイト、ビス-[2-メチル-4,6-ビス-(1,1-ジメチルエチル)フェニル]エチルフォスファイト、3,9-ビス{2,4-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノキシ}-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5,5]ウンデカン、6-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロポキシ-2,4,8,10-テトラ-t-ブチルベンズ[d, f] [1,3,2]ジオキサホスフェピン、n-オクタデシル-β-(4'-ヒドロキシ-3',5'-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオネート、4,4'-ブチリデンビス(6-t-ブチル-m-クレゾール)又は1,1-ビス(2'-メチル-4'-ヒドロキシ-5'-t-ブチル-フェニル)ブタン、トリエチレングリコールビス-3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート、2,2'-オキサミドビス〔エチル3- (3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン)、2-t-ブチル-6-(3-t-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェニルアクリレ-ト、テトラキス〔メチレン-3-(3',5)ジ-t-ブチル-4'-ヒドロキシフェニル〕プロピオネート〕メタン、ビス 〔3,3 -ビス(4'-ヒドロキシ-3'-t-ブチルフェニル)ブタン酸〕グリコールエステル、1,4-ベンゼンジカルボン酸ビス〔2-(1,1-ジメチルエチル)-6-〔〔3-(1,エジメチルエチル)-2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル〕メチル〕-4-メチルフェニル〕エステル、N,N,-ビス{3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニル}ヒドラジン、3,9-ビス[2-{3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチル フェニル)プロピオニルオキシ}-1,1-ジメチルエチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-t-ペンチルフェニルアクリレート、p-t-ブチルフェニルサリシレート、2,4-ジ-t-ブチルフェニル-3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエ一ト、2-(2'-ヒドロキシ-5'-メチルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(2'-ヒドロキシ-3'-t-ブチル-5'-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、サリチル酸フェニル又はフェニルサリシレート、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール、2-(2'ハイドロキシ-5'-メタクリルオキシエチルフェニル)-2H-べンゾトリアゾールとメチルメタクリレト共重合物、2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリル酸-2-エチルヘキシル、ポリ(オキシ-1,2-エタンジイル),α-[4-(3-ブトキシ-2-シアノ-3-オキソ-1-プロペン-1-イル)-2-メトキシフェニル]-ω-ヒドロキシ-2-(2'-ヒドロキシ-3'5'-ジ)-t-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、ポリオキシエチレン(4~50モル)アルキル(C7以上)フェニルエーテル、ポリオキシエチレン(4~50モル) アルキル(C7以上)フェニルエーテルサルフェート(Na,NH4)、ポリオキシエチレン(5~55モル) ノニルフェニルホスフェート、α(p-ノニルフェニル)-ω-ヒドロキシポリ(オキシエチレン)燐酸二水素エステル,燐酸一水素エステル混合物、メチルフェニルポリシロキサン、ポリオルガノ(C1~C32のアルキル基および/またはフェニル基)シロキサンとポリアルキレン(C2~C3)グリコール縮合物、ベンゼン-1,2-ジメチル-4,5-ビス(1-フェニルエチル)、ベンゼン-4-(1,3ジフェニルブチル)-1,2ジメチル、ベンゼン[1-(3,4-ジメチルフェニル)エチル](1-フェニルエチル)混合物、分岐ポリカ-ボネート、リン酸ビス(4-t-ブチルフェニル)ナトリウム、リン酸2,2'-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)ナトリウム、フェニルホスホン酸亜鉛(II)、7,8,9-トリデオキシ-3,5:4,6-O-ビス-(4-プロピルフェニル)メチレン=D-グリセロ-L-グローノニトール等が挙げられる。
【0032】
上記は、単独で用いても良いし、2種類以上を混合しても良い。但し、潤滑液体の液膜として積層するための上記した基準部材10に対する接触角と表面張力の条件を満たさなければならない。
【0033】
基準部材10の摺動面である基準面10aの製造方法、潤滑液体21及び22などの塗布方法は、公知の方法を採用できる。例えば、スピンコーティング法、ディップ(浸漬)法、ロール・ツー・ロール法、スキージ法、ドクターブレード法、塗布、キャスト法、交互積層法(交互吸着法)により付与することができる。なお、これらの方法は単独であっても良いし、2つ以上の方法を組み合わせても良い。例えば、ディップ法で潤滑液体21を基準部材10表面に塗布した後に、スプレー法で潤滑液体22を吹き付けてもよい。また、基材へのコーティングも同様に公知の方法を用いて形成できる。
【実施例0034】
基準部材10としてスライドガラス(26×76mm)を用い、この表面に分子薄膜を形成した。分子薄膜のための溶液として、フェニルトリエトキシシラン、エタノール、塩酸、水の混合溶液を調整し、当該溶液にスライドガラスを浸漬し、24時間静置、表面に分子薄膜を形成した。潤滑液体21及び22として、炭化水素としてのオレイン酸と水を選択した。なお、オレイン酸の表面張力は32.8mN/m、水の表面張力は72.8mN/mである。
【0035】
図6には、上記したように形成した分子薄膜上でのオレイン酸と水の接触角を示した。オレイン酸の接触角は7.96度、水の接触角は79.96度であった。
【0036】
図7には、摩擦試験の断面構成を示した。分子薄膜10bに対する潤滑液体の接触角と表面張力の関係から、基準部材10に最も近い潤滑液体21がオレイン酸となり、その上の潤滑液体22が水となる。なお、分子薄膜10bの厚さは7.5nm、オレイン酸は0.1μL/cm
2を分子薄膜10b上に滴下し、濡れ広がらせた。オレイン酸上では異なる量の水滴を保持させ、摩擦係数の差異を調べた。
【0037】
<実施例1>
図8に示すように、ガラスピンからなる移動部材15の先端をスライドガラスからなる基準部材(ガラス基板)10に押しつけて荷重Pを負荷し、ガラスピンを往復動させて往復摩擦試験を行った。ここで、荷重Pは50mNである。ガラスピンは、硼珪酸ガラスからなり、先端3R、φ3mm×20mmの棒状体を用いた。測定は、6mmの直線距離を平均摩擦速度0.5Hzで1000回往復させて行った。なお、ヘルツ接触角は、硼珪酸ガラスとガラス基板の組み合わせで1.8MPaであった。
【0038】
図9及び
図10に摩擦試験の結果を示した。まず、比較例として、
図9(a)に示すように、コーティングを施さず、ガラス基板のみ、つまり、潤滑液体21及び22を与えないガラス基板のみの測定したところ、摩擦係数は平均値0.64、中央値0.63であった。また、
図9(b)に示すように、ガラス基板に分子薄膜10bを成膜し、潤滑液体を与えないで測定したところ、摩擦係数の平均値0.89、中央値0.90であった。更に、
図9(c)に示すように、分子薄膜10bの上に潤滑液体21としてオレイン酸からなる単一の潤滑液体21を保持させて測定したところ、摩擦係数は平均値0.073、中央値0.058であった。
【0039】
図10では、複数の潤滑液体21及び22を分子薄膜10b上に配置した実施例として、オレイン酸を安定保持させた後に、オレイン酸上に水滴を1,10,30,100μLの各量を配置させたときの摩擦係数を測定した結果を示した。
図10(a)に示すように、水滴を1μL配置させて測定したところ、摩擦係数は平均値0.029、中央値0.020であった。
図10(b)に示すように、10μL配置させて測定したところ、摩擦係数は平均値0.024、中央値0.015であった。
図10(c)に示すように、30μL配置させて測定したところ、摩擦係数は平均値0.020、中央値0.015であった。また、
図10(d)に示すように、100μL配置させて測定したところ、摩擦係数は平均値0.019、中央値0.015であった。各水量においても、摩擦係数が一定値に達した後は同様の摩擦係数を示しているが、水量が少ないときはこの一定値に達するまでの時間が長くなっていた。これは水滴の中心部且つ真上から垂直に荷重が負荷されるが、これがずれ易く、摺動中に水滴が荷重を負荷している最適位置まで移動した後に低摩擦性を得られることによると考える。
【0040】
図11では、上記した摩擦試験後の表面観察結果を示した。
図11(a)は、
図9(a)に対応し、表面はガラスピンにより損傷を受けており、摩耗痕及び摩耗によるデブリの発生が観察された。
図11(b)は、
図9(b)に対応し、
図11(a)と同様に、表面に摩耗痕と摩耗によるデブリが観察された。
図11(c)は、
図9(c)に対応し、1μm以上、もしくは1μm~-1μmの範囲内で規定される高さ評価において、視認可能な大きな摩耗痕及びデブリは表面に形成されていないことが確認されたが、当該表面を顕微鏡観察した画像においては、摺動箇所における線(筋)が観察された。一方、
図11(d)は、
図10(c)の実施例に対応し、基準部材10及び移動部材15の接触が防止され、表面には摩耗痕及びデブリは観察されず、顕微鏡観察した画像によっても摺動痕は観察できなかった。
【0041】
図12及び
図13では、移動部材15の摩擦速度を変えて摩擦試験を行った測定結果を示している。
図12(a)は、
図9(a)に対応し、摩耗やデブリの発生により、摩擦速度に関わらず、摩擦係数がばらついていた。また、
図12(b)は、
図9(b)に対応し、摩擦速度が速いときには摩擦係数のバラツキは小さいが、摩擦速度が0mm/secに近づくとバラツキが大きくなり、最大で摩擦係数1.4となった。これは摩擦速度が限りなく0mm/secに近い条件においては、静止摩擦係数が優位になり、部材同士が接触しているためと考えられる。一方、
図13は、
図10(c)の実施例に対応し、摩擦係数のバラツキは最大で0.25となり、
図12(c)の場合と比較して、小さくなっていた。また、摩擦速度が遅い条件のときにも、比較的摩擦係数が高い場合があるものの、これは往復摺動する際に、水滴が摺動方向に合わせて慣性力が働き、摩擦速度が0mm/secとなる往復移動の端点で初動に逆方向の力が加わるためであると考える。
【0042】
図14乃至
図16では、上記した摩擦試験における開始直後について、基準部材10の裏面から移動部材15の先端近傍を観察した結果を示している。
図14は、
図9(c)に対応し、移動部材15を押圧させて試験開始してからその後も、基準部材10及び移動部材15の間に潤滑液体21及び22は観察されず、初期の接触画像と接触面の画像(
図14右側写真参照、なお、オレイン酸は観察のために染色している。)に差異が見られない。一方、
図15及び
図16は、それぞれ、
図10(a)及び(c)の実施例に対応するが、移動部材15を押圧させると、水滴が荷重方向に沿ってオレイン酸の液膜に潜降し、移動部材15が基準部材10に接触した時にあっても、この摺動面間に水滴が残る(
図15参照、なお、水は観察のために染色している。)、もしくは、移動部材(ガラスピン)15を囲むように環状に水を存在させ(
図15参照、なお、水は観察のために染色している。)ていた。つまり、基準部材10及び移動部材15の摺動面間に水滴が介在すること(移動部材15の周囲に環状に水が存在する場合を含む)で、その周囲のオレイン酸との表面張力差によってもたらされるラプラス圧により、移動部材15を上方に持ち上げる力が働くのである。
【0043】
<実施例2>
実施例1と同様に、ガラスピンからなる移動部材15の先端を円板状のスライドガラスからなる基準部材(ガラス基板)10に押しつけて荷重Pを負荷し、ガラスピンを連続して移動させて連続摩擦試験を行った。測定は、半径5mmの円板状のガラス基板を異なる摩擦速度となるようにして1000回回転させて行った。ここで、ヘルツ接触圧は、硼珪酸ガラスとガラス基板の組み合わせで1.8MPaであった。
【0044】
図17及び
図18では、摩擦速度に対する平均摩擦係数の測定結果を示した。
【0045】
図17において、分子薄膜10bを与えず、ガラス基板のみ、つまり、潤滑液体21及び22を与えないガラス基板のみで測定したところ、摩擦係数は平均値で0.40から0.56、中央値で0.40から0.57の間であった。また、ガラス基板に分子薄膜10bを与える一方で、潤滑液体21及び22を与えないで測定したところ、摩擦速度が30rpm以下の遅いときは、摩擦係数が平均値で0.10から0.18、中央値で0.10から0.18の間を示したが、摩擦速度が50rpm以上ではガラス基板のみの場合と同等の平均摩擦係数を示した。更に、分子薄膜10bの上に潤滑液体21としてオレイン酸のみを与えて測定したところ、摩擦係数は平均値で0.027から0.056、中央値で0.025から0.055の間を示した。また、分子薄膜10b上にオレイン酸を安定保持させた後に、オレイン酸上に水滴を30μLだけ配置させたときの摩擦係数を測定したところ、平均値で0.012から0.020、中央値で0.0098から0.019の間の値となり、低い摩擦係数を示し、特に、摩擦速度が30rpmの時に摩擦係数0.01以下の超潤滑性を示した。
【0046】
以上述べてきたように、複数の潤滑液体を表面張力及び基板に対する接触角を選択して組み合わせるだけで、低摩擦構造を得ることができる。従来のように、摩擦箇所を油に浸漬した状態とせずとも、0.01以下の超低摩擦係数(超潤滑性)が得られる。そして、潤滑液体として、水等の環境に配慮した液体を使用でき、複数の潤滑液体をエネルギー的に安定な条件で重ねて、従来のエマルジョンの様に回収が難しく、廃棄コストが高く、白濁するといった課題を解決できる。
【0047】
以上、本発明による実施例及びこれに基づく変形例を説明したが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、様々な代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。