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特開2022-191594フラニル基含有オルガノポリシロキサン及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191594
(43)【公開日】2022-12-28
(54)【発明の名称】フラニル基含有オルガノポリシロキサン及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 77/14 20060101AFI20221221BHJP
【FI】
C08G77/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021099905
(22)【出願日】2021-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 将史
【テーマコード(参考)】
4J246
【Fターム(参考)】
4J246AA03
4J246AB01
4J246AB11
4J246BA020
4J246BA02X
4J246BA040
4J246BA04X
4J246BB020
4J246BB021
4J246BB02X
4J246CA010
4J246CA01E
4J246CA01U
4J246CA01X
4J246CA240
4J246CA24X
4J246CA660
4J246CA66E
4J246CA66M
4J246CA66X
4J246FA142
4J246FA222
4J246FA322
4J246FA462
4J246FC132
4J246FE02
4J246FE26
4J246GA01
4J246GB02
4J246GC02
4J246GC16
4J246HA56
(57)【要約】      (修正有)
【課題】(ポリ)シロキサンに起因する柔軟性及び光架橋性を有するフラニル基含有オルガノポリシロキサン、並びに該フラニル基含有オルガノポリシロキサン製造方法の提供。
【解決手段】下記平均組成式(1)で示される、数平均分子量が500~40,000のフラニル基含有オルガノポリシロキサン。

(式(1)中、R1は、炭素数1~10の1価炭化水素基等又は一般式(2)もしくは一般式(3)で表されるフラニル基であり、1分子中のR1のうち少なくとも1個は一般式(2)もしくは一般式(3)で表されるフラニル基である。aは2以上の数、bは0以上の数、cは0以上の数、dは0以上の数で、かつ、2≦a+b+c+d≦1,000である。式(2)及び(3)中、R2及びR3は水素原子又は炭素数1~10の1価炭化水素基等である。破線は結合手を示す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記平均組成式(1)で示される、数平均分子量が500~40,000のフラニル基含有オルガノポリシロキサン。
【化1】
(式(1)中、R1はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1~10の1価炭化水素基、炭素数1~4のアルコキシ基、水酸基及び下記一般式(2)又は一般式(3)で表されるフラニル基から選択される基であり、1分子中のR1のうち少なくとも1個は下記一般式(2)又は一般式(3)で表されるフラニル基である。aは2以上の数、bは0以上の数、cは0以上の数、dは0以上の数で、かつ、2≦a+b+c+d≦1,000である。)
【化2】
(式(2)及び(3)中、R2はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~10の1価炭化水素基、炭素数1~4のアルコキシ基及び水酸基から選択される基であり、R3はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~10の1価炭化水素基、炭素数1~4のアルコキシ基及び水酸基から選択される基である。破線は結合手を示す。)
【請求項2】
数平均分子量が1,000~20,000である、請求項1に記載のフラニル基含有オルガノポリシロキサン。
【請求項3】
式(1)のdが0である、請求項1又は2に記載のフラニル基含有オルガノポリシロキサン。
【請求項4】
さらに式(1)のcが0である、請求項3に記載のフラニル基含有オルガノポリシロキサン。
【請求項5】
(A)下記一般式(4)で表されるフラン化合物と、
(B)下記平均組成式(5)で示されるヒドロシリル基含有オルガノポリシロキサンとを
イリジウム錯体及び水素受容体の存在下で反応させる工程を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載のフラニル基含有オルガノポリシロキサンの製造方法。
【化3】
(式(4)中、R4はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~10の1価炭化水素基、炭素数1~4のアルコキシ基及び水酸基から選択される基であり、1分子中のR4のうち少なくとも1個は水素原子である。)
【化4】
(式(5)中、R5はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1~10の1価炭化水素基、炭素数1~4のアルコキシ基及び水酸基から選択される基であり、1分子中のR5のうち少なくとも1個は水素原子である。aは2以上の数、bは0以上の数、cは0以上の数、dは0以上の数で、かつ、2≦a+b+c+d≦1,000である。)
【請求項6】
イリジウム錯体が、炭素数6~30の芳香族炭化水素化合物、炭素数2~30のヘテロ環化合物、窒素含有官能基を有する炭素数1~30の炭化水素化合物、酸素含有官能基を有する炭素数1~30の炭化水素化合物、硫黄含有官能基を有する炭素数1~30の炭化水素化合物及びリン含有官能基を有する炭素数1~30の炭化水素化合物からなる群より選ばれる1つ以上の化合物を配位子とする錯体である、請求項5に記載のフラニル基含有オルガノポリシロキサンの製造方法。
【請求項7】
イリジウム錯体が、炭素数2~30のヘテロ環化合物又はリン含有官能基を有する炭素数1~30の炭化水素化合物を配位子とする錯体である、請求項5又は6に記載のフラニル基含有オルガノポリシロキサンの製造方法。
【請求項8】
水素受容体が、炭素-炭素不飽和結合を有する炭素数2~20の脂肪族炭化水素化合物である、請求項5~7のいずれか1項に記載のフラニル基含有オルガノポリシロキサンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラニル基含有オルガノポリシロキサン及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フラニル基含有オルガノポリシロキサンは、(ポリ)シロキサンに起因する柔軟性に加え、フラニル基に起因するカチオン重合性、Diels-Alder反応性を有するポリマーであるため、被覆剤、樹脂改質剤、自己修復性材料などの用途に使用することが期待される。
フラニル基とケイ素原子の間に、炭素原子及び/又は酸素原子を含むリンカーを介した、フラニル基含有オルガノポリシロキサンを製造する方法としては、不飽和結合を有するフラニル化合物と、ヒドロシリル基を有するオルガノポリシロキサンとを用いる方法(特許文献1)が開示されている。
フラン環の炭素原子がオルガノシロキサンのケイ素原子に直接結合した、フラニル基含有オルガノシロキサンを製造する方法としては、フラニルリチウムと、シクロトリシロキサンと、トリオルガノハロシランとを用いる方法(特許文献2)が開示されているが、非対称シロキサン構造に限定されている。加えて、危険性の高い有機リチウム種の使用及び反応後のハロゲン化リチウムの濾別工程が必須などの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8-67753号公報
【特許文献2】特開平8-119977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明はフラン環の炭素原子がオルガノポリシロキサンのケイ素原子に直接結合した、フラニル基含有オルガノポリシロキサンと、上記の問題を改善できるフラニル基含有オルガノポリシロキサンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、イリジウム錯体及び水素受容体を利用することにより、フラン化合物とヒドロシリル基含有オルガノポリシロキサンとの酸化的カップリング反応によって、直接的にフラニル基含有オルガノポリシロキサンを、金属塩を副生させることなく、安全に合成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
即ち、本発明は、下記のフラニル基含有オルガノポリシロキサン及びその製造方法を提供する。
【0007】
<1>
下記平均組成式(1)で示される、数平均分子量が500~40,000のフラニル基含有オルガノポリシロキサン。
【化1】
(式(1)中、R1はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1~10の1価炭化水素基、炭素数1~4のアルコキシ基、水酸基及び下記一般式(2)又は一般式(3)で表されるフラニル基から選択される基であり、1分子中のR1のうち少なくとも1個は下記一般式(2)又は一般式(3)で表されるフラニル基である。aは2以上の数、bは0以上の数、cは0以上の数、dは0以上の数で、かつ、2≦a+b+c+d≦1,000である。)
【化2】
(式(2)及び(3)中、R2はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~10の1価炭化水素基、炭素数1~4のアルコキシ基及び水酸基から選択される基であり、R3はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~10の1価炭化水素基、炭素数1~4のアルコキシ基及び水酸基から選択される基である。破線は結合手を示す。)
<2>
数平均分子量が1,000~20,000である、<1>に記載のフラニル基含有オルガノポリシロキサン。
<3>
式(1)のdが0である、<1>又は<2>に記載のフラニル基含有オルガノポリシロキサン。
<4>
さらに、式(1)のcが0である、<3>に記載のフラニル基含有オルガノポリシロキサン。
<5>
(A)下記一般式(4)で表されるフラン化合物と、
(B)下記平均組成式(5)で示されるヒドロシリル基含有オルガノポリシロキサンとを
イリジウム錯体及び水素受容体の存在下で反応させる工程を有する、<1>~<4>のいずれか1つに記載のフラニル基含有オルガノポリシロキサンの製造方法。
【化3】
(式(4)中、R4はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~10の1価炭化水素基、炭素数1~4のアルコキシ基及び水酸基から選択される基であり、1分子中のR4のうち少なくとも1個は水素原子である。)
【化4】
(式(5)中、R5はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1~10の1価炭化水素基、炭素数1~4のアルコキシ基及び水酸基から選択される基であり、1分子中のR5のうち少なくとも1個は水素原子である。aは2以上の数、bは0以上の数、cは0以上の数、dは0以上の数で、かつ、2≦a+b+c+d≦1,000である。)
<6>
イリジウム錯体が、炭素数6~30の芳香族炭化水素化合物、炭素数2~30のヘテロ環化合物、窒素含有官能基を有する炭素数1~30の炭化水素化合物、酸素含有官能基を有する炭素数1~30の炭化水素化合物、硫黄含有官能基を有する炭素数1~30の炭化水素化合物及びリン含有官能基を有する炭素数1~30の炭化水素化合物からなる群より選ばれる1つ以上の化合物を配位子とする錯体である、<5>に記載のフラニル基含有オルガノポリシロキサンの製造方法。
<7>
イリジウム錯体が、炭素数2~30のヘテロ環化合物又はリン含有官能基を有する炭素数1~30の炭化水素化合物を配位子とする錯体である、<5>又は<6>に記載のフラニル基含有オルガノポリシロキサンの製造方法。
<8>
水素受容体が、炭素-炭素不飽和結合を有する炭素数2~20の脂肪族炭化水素化合物である、<5>~<7>のいずれか1つに記載のフラニル基含有オルガノポリシロキサンの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のフラニル基含有オルガノポリシロキサンは、フランやヒドロシリル基含有オルガノポリシロキサンといった比較的単純で入手容易な原料を用いて製造することができ、さらに金属塩を副生せず、かつ安全にフラニル基含有オルガノポリシロキサンを製造することができる。
また、本発明のフラニル基含有オルガノポリシロキサンは(ポリ)シロキサンに起因する柔軟性に加え、フラニル基に起因するカチオン重合性、Diels-Alder反応性を有するポリマーであるので、被覆剤、樹脂改質剤、自己修復性材料などの用途に有用である。興味深いことに、本発明のフラニル基含有オルガノポリシロキサンは、酸触媒を用いるカチオン重合反応において、フラニル基とケイ素原子の間に、炭素原子及び/又は酸素原子を含むリンカーを介したフラニル基含有オルガノポリシロキサンに比べて、有意に高い反応性を示した。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0010】
[フラニル基含有オルガノポリシロキサン]
本発明のフラニル基含有オルガノポリシロキサンは、下記平均組成式(1)で示される。
【化5】
式(1)中、R1はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1~10の1価炭化水素基、炭素数1~4のアルコキシ基、水酸基及び下記一般式(2)又は一般式(3)で表されるフラニル基から選択される基であり、1分子中のR1のうち少なくとも1個は下記一般式(2)又は一般式(3)で表されるフラニル基である。aは2以上の数、bは0以上の数、cは0以上の数、dは0以上の数で、かつ、2≦a+b+c+d≦1,000である。
【化6】
式(2)及び(3)中、R2はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~10の1価炭化水素基、炭素数1~4のアルコキシ基及び水酸基から選択される基であり、R3はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~10の1価炭化水素基、炭素数1~4のアルコキシ基及び水酸基から選択される基である。破線は結合手を示す。
【0011】
上記式(1)中、R1は、水素原子、炭素数1~10の1価炭化水素基、炭素数1~4のアルコキシ基、水酸基又は下記一般式(2)もしくは一般式(3)で表されるフラニル基である。式(1)中、R1で表される炭素数1~10の1価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基及びブチル基等のアルキル基;シクロペンチル基及びシクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基及びトリル基等のアリール基等が挙げられ、炭素数1~4のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基及びブトキシ基等が挙げられる。
1の一般式(2)又は一般式(3)で表されるフラニル基以外の基としては、アルキル基、シクロアルキル基及びアリール基が好ましく、メチル基、フェニル基がより好ましい。
【0012】
上記一般式(2)及び一般式(3)中、R2及びR3は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~10の1価炭化水素基、炭素数1~4のアルコキシ基及び水酸基から選択される基である。一般式(2)又は一般式(3)中、R2又はR3で表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子などが挙げられ、炭素数1~10の1価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基及びブチル基等のアルキル基;シクロペンチル基及びシクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基及びトリル基等のアリール基等が挙げられ、炭素数1~4のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基及びブトキシ基等が挙げられる。中でもR2及びR3としては、水素原子及びアルキル基が好ましい。
【0013】
一般式(2)及び一般式(3)の具体的な構造を以下に示すが、これらに限定されるものではない。
【化7】
(上記式中、破線は結合手を示す)
【0014】
上記式(1)中、aは2以上、好ましくは2~12の数、bは0以上、好ましくは1~998、より好ましくは5~500の数、cは0以上、好ましくは0~10の数、dは0以上、好ましくは0~5の数で、かつ、2≦a+b+c+d≦1,000であり、2≦a+b+c+d≦800が好ましく、3≦a+b+c+d≦800がより好ましく、4≦a+b+c+d≦500が更に好ましい。a+b+c+dが1,000より大きいと、フラニル基含有オルガノポリシロキサンの粘度が高くなり、作業性が悪くなる場合がある。
【0015】
本発明のフラニル基含有オルガノポリシロキサンの分子量は、数平均分子量で500~40,000であり、1,000~20,000であることが好ましく、1,000~10,000であることがより好ましい。該分子量が500未満であると、(ポリ)シロキサンに由来する柔軟性などの特性が発現しない場合があり、40,000を超えると、フラニル基含有オルガノポリシロキサンの粘度が高くなり、作業性が悪くなる場合があるため、好ましくない。なお、数平均分子量は、下記条件によるポリスチレンを標準物質としたGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)分析による値である。
[測定条件]
展開溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
流速:0.6mL/min
検出器:示差屈折率検出器(RI)
カラム:TSK Guardcolumn SuperH-H
TSKgel SuperHM-N(6.0mmI.D.×15cm×1)
TSKgel SuperH2500(6.0mmI.D.×15cm×1)
(いずれも東ソー社製)
カラム温度:40℃
試料注入量:50μL(濃度0.3質量%のTHF溶液)
【0016】
[フラニル基含有オルガノポリシロキサンの製造方法]
本発明のフラニル基含有オルガノポリシロキサンの製造方法(以下、「本発明の製造方法」と略す場合がある。)は、「1つ以上のC-H結合を有するフラン化合物」と「ヒドロシリル基含有オルガノポリシロキサン」とを、「イリジウム錯体」及び「水素受容体」の存在下で反応させる工程を有する。
【0017】
本発明者は、金属塩が副生せず、かつ安全なフラニル基含有オルガノポリシロキサンの製造方法を求め研究を重ねた結果、イリジウム錯体及び水素受容体を利用する、フラン化合物とヒドロシリル基含有オルガノポリシロキサンとの酸化的カップリング反応によって、直接的にフラニル基含有オルガノポリシロキサンを合成できることを見出した。
【0018】
(1つ以上のC-H結合を有するフラン化合物)
C-H結合を1つ以上有するフラン化合物は、下記一般式(4)で示される。
【化8】
式(4)中、R4はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~10の1価炭化水素基、炭素数1~4のアルコキシ基及び水酸基から選択される基であり、1分子中のR4のうち少なくとも1個は水素原子である。
4で表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子などが挙げられ、炭素数1~10の1価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基及びブチル基等のアルキル基;シクロペンチル基及びシクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基及びトリル基等のアリール基等が挙げられ、炭素数1~4のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基及びブトキシ基等が挙げられる。中でもR4としては、水素原子及びアルキル基が好ましい。
【0019】
(ヒドロシリル基含有オルガノポリシロキサン)
ヒドロシリル基含有オルガノポリシロキサンとしては、下記平均組成式(5)で示されるものが使用できる。
【化9】
式(5)中、R5はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1~10の1価炭化水素基、炭素数1~4のアルコキシ基及び水酸基から選択される基であり、1分子中のR5のうち少なくとも1個は水素原子である。aは2以上の数、bは0以上の数、cは0以上の数、dは0以上の数であり、かつ、2≦a+b+c+d≦1,000である。
5で表される炭素数1~10の1価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基及びブチル基等のアルキル基;シクロペンチル基及びシクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基及びトリル基等のアリール基等が挙げられ、炭素数1~4のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基及びブトキシ基等が挙げられる。中でも、アルキル基、シクロアルキル基及びアリール基が好ましく、メチル基及びフェニル基がより好ましい。
【0020】
(イリジウム錯体)
本発明の製造方法で使用するイリジウム錯体の種類は特に限定されず、公知のイリジウム錯体を適宜利用することができる。例えばイリジウム原子に配位する配位子としては、ベンゼン、ナフタレン等の構造を有する芳香族炭化水素化合物;チオフェン、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、フェナントロリン、チアゾール、オキサゾール、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾール等の構造を有するヘテロ環化合物;アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、イミノ基等の窒素含有官能基を有する炭化水素化合物;アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、シリルオキシ基、カルボニル基、エーテル基等の酸素含有官能基を有する炭化水素化合物;アルキルチオ基、アリールチオ基、チオエーテル基等の硫黄含有官能基を有する炭化水素化合物;及びジアルキルホスフィノ基、ジアリールホスフィノ基、トリアルキルホスフィン、トリアリールホスフィン、ホスフィニン基等のリン含有官能基を有する炭化水素化合物等が挙げられる。
本発明の製造方法におけるイリジウム錯体の配位子としては、炭素数6~30、好ましくは炭素数6~26、より好ましくは炭素数10~24の芳香族炭化水素化合物;炭素数2~30、好ましくは炭素数2~16のヘテロ環化合物;窒素含有官能基を有する炭素数1~30、好ましくは炭素数3~16の炭化水素化合物;酸素含有官能基を有する炭素数1~30、好ましくは炭素数3~16の炭化水素化合物;硫黄含有官能基を有する炭素数1~30、好ましくは炭素数3~20の炭化水素化合物;及びリン含有官能基を有する炭素数1~30、好ましくは炭素数3~27の炭化水素化合物;からなる群より選ばれる少なくとも1つの化合物である。これらの配位子の中でも、炭素数2~30のヘテロ環化合物又はリン含有官能基を有する炭素数1~30の炭化水素化合物が好ましく、具体的には2-メチル-1,10-フェナントロリン、4,4’-ジ-tert-ブチルビピリジン(dtbpy)、2,2’-ビピリジル、1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン(dppp)がより好ましい。
【0021】
本発明の製造方法におけるイリジウム錯体の使用量(質量)は特に限定されず、目的に応じて適宜選択され、ヒドロシリル基含有オルガノポリシロキサンの使用量(質量)に対して、100~20,000ppmが好ましく、300~15,000ppmがより好ましく、500~10,000ppmが最も好ましい。上記範囲内であれば、効率よく反応を進めることができる。
【0022】
本発明の製造方法において、イリジウム錯体の調製方法は特に限定されず、別途イリジウムを含有する前駆体(以下、「イリジウム含有前駆体」と略す場合がある。)と配位子とを反応させて調製するほか、フラン化合物とヒドロシリル基含有オルガノポリシロキサンを反応させる反応容器に、イリジウム含有前駆体と配位子を入れ、その反応容器内でイリジウム錯体を形成してもよい。操作が簡便になることから、フラン化合物とヒドロシリル基含有オルガノポリシロキサンを反応させる反応容器内でイリジウム錯体を形成することが好ましい。なお、イリジウム含有前駆体の種類は特に限定されず、市販されている公知のものを適宜利用することができる。具体的には[Ir(OMe)(cod)]2、[Ir(OH)(cod)]2、[IrCl(cod)]2、[Ir(OAc)(cod)]2等が挙げられる(式中、codは1,5-シクロオクタジエンを指す)。また、イリジウム錯体を調製する際に使用する配位子の使用量(物質量[mol])はイリジウム含有前駆体の使用量(物質量[mol])に対して、1~25倍が好ましく、5~20倍がより好ましく、10~15倍が最も好ましい。
【0023】
(水素受容体)
本発明の製造方法で使用する水素受容体は化学的な反応によって水素原子を2つ以上取り込むことができる物質であれば、その種類は特に限定されない。具体的な水素受容体としては、付加反応によって水素原子を取り込むことができる炭素-炭素不飽和結合を有する炭素数2~20、好ましくは炭素数2~10の脂肪族炭化水素化合物が挙げられる。炭素-炭素不飽和結合を有する脂肪族炭化水素化合物の具体例としては、シクロヘキセン、ノルボルネン、1-オクテン、trans-スチルベン、1,5-シクロオクタジエン、フェニルアセチレン及びジフェニルアセチレン等が挙げられ、これらの脂肪族炭化水素化合物を1種又は2種以上用いることが好ましい。
【0024】
本発明の製造方法における水素受容体の使用量(物質量[mol])は特に限定されず、目的に応じて適宜選択されるべきである。水素受容体の使用量(物質量[mol])は、ヒドロシリル基含有オルガノポリシロキサンの使用量(物質量[mol])に対して、1~30倍が好ましく、2~7倍がより好ましく、3~6倍が最も好ましい。上記範囲内であれば、効率よく反応を進めることができる。
【0025】
(反応条件)
本発明の製造方法において、反応温度、反応時間、使用する溶媒等の反応条件は特に限定されない。
反応温度は、25~200℃が好ましく、70~150℃がより好ましく、80~100℃が最も好ましい。反応温度が上記範囲内であれば、フラニル基含有オルガノポリシロキサンを効率的に製造することができる。
反応時間は、1~60時間が好ましく、2~48時間がより好ましく、4~24時間が最も好ましい。
溶媒は使用してもしなくてもよいが、フラン化合物及びヒドロシリル基含有オルガノポリシロキサンが何れも反応温度において固体である場合には、溶媒を使用することが好ましい。使用する溶媒としては、フラン化合物及びヒドロシリル基含有オルガノポリシロキサンの両方が溶解するものであれば特に制限はないが、具体的には、テトラヒドロフラン、デカン、オクタン等が挙げられる。
【実施例0026】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されない。
【0027】
実施例で記載した1H-NMRは、AVANCE-III 400MHz(BRUKER社製)で、重クロロホルムを溶媒として用い、TMS(テトラメチルシラン)を基準物質として用いて測定した。括弧内の値は積分比である。
また、数平均分子量は、下記条件によるポリスチレンを標準物質としたGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)分析による値である。
[測定条件]
展開溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
流量:0.6mL/min
検出器:示差屈折率検出器(RI)
カラム:TSK Guardcolumn SuperH-H
TSKgel SuperHM-N(6.0mmI.D.×15cm×1)
TSKgel SuperH2500(6.0mmI.D.×15cm×1)
(いずれも東ソー社製)
カラム温度:40℃
試料注入量:50μL(濃度0.3質量%のTHF溶液)

なお、以下の実施例で記載した構造式において、Meはメチル基を示す。
【0028】
<実施例1>
温度計、撹拌装置、還流冷却器及び窒素ガス導入管を備えた100mLセパラブルフラスコに、2-メチル-1,10-フェナントロリン0.06g、2-ブチルフラン6.44g、シクロヘキセン3.41g、テトラヒドロフラン5.00g及び下記平均式(7)で表される両末端ヒドロシリル基含有オルガノポリシロキサン50.00gを仕込んだ後、窒素雰囲気下、25℃、撹拌状態で[Ir(OMe)(cod)]20.1gを投入し、80~100℃で8時間加熱還流を行った。その後、低沸点物質を内温80℃で減圧留去することで褐色透明液体を収率92%で得た。この生成物は、1H-NMRにより下記平均式(8)で表される化合物であることを確認し、数平均分子量は9,500であった。平均式(8)で表される化合物の1H-NMRデータを以下に示す。
0.07ppm(930H)、0.91ppm(6H)、1.34ppm(4H)、1.58ppm(4H)、2.63ppm(4H)、5.94ppm(2H)、6.57ppm(2H)
【化10】
【化11】
【0029】
<実施例2>
温度計、撹拌装置、還流冷却器及び窒素ガス導入管を備えた100mLセパラブルフラスコに、2-メチル-1,10-フェナントロリン0.06g、2,5-ジメチルフラン4.98g、シクロヘキセン3.41g、テトラヒドロフラン5.00g及び上記平均式(7)で表される両末端ヒドロシリル基含有オルガノポリシロキサン50.00gを仕込んだ後、窒素雰囲気下、25℃、撹拌状態で[Ir(OMe)(cod)]20.1gを投入し、80~100℃で8時間加熱還流を行った。その後、低沸点物質を内温80℃で減圧留去することで褐色透明液体を収率95%で得た。この生成物は、1H-NMRにより下記平均式(9)で表される化合物であることを確認し、数平均分子量は5,800であった。平均式(9)で表される化合物の1H-NMRデータを以下に示す。
0.07ppm(600H)、2.23ppm(6H)、2.31ppm(6H)、5.82ppm(2H)
【化12】
【0030】
<実施例3>
温度計、撹拌装置、還流冷却器及び窒素ガス導入管を備えた100mLセパラブルフラスコに、2-メチル-1,10-フェナントロリン0.03g、フラン3.34g、シクロヘキセン3.23g、テトラヒドロフラン2.50g及び下記平均式(10)で表される末端ヒドロシリル基含有分岐オルガノポリシロキサン25.00gを仕込んだ後、窒素雰囲気下、25℃、撹拌状態で[Ir(OMe)(cod)]20.05gを投入し、80~100℃で8時間加熱還流を行った。その後、低沸点物質を内温80℃で減圧留去することで褐色透明液体を収率90%で得た。この生成物は、1H-NMRにより下記平均式(11)で表される化合物であることを確認し、数平均分子量は3,500であった。平均式(11)で表される化合物の1H-NMRデータを以下に示す。
0.07ppm(481H)、6.37ppm(3H)、6.66ppm(3H)、7.62ppm(3H)
【化13】
【化14】
【0031】
<比較例1>リンカーを含むフラニル基含有オルガノポリシロキサンの合成
特許文献1に記載の実施例に従い、下記平均式(12)で表されるフラニル基含有オルガノポリシロキサンを合成した。
【化15】
【0032】
<比較例2>フラニル基含有非対称シロキサンの合成
特許文献2に記載の実施例に従い、下記式(13)で表されるフラニル基非対称ジシロキサンを合成した。
【化16】
【0033】
<カチオン重合性評価>
上記実施例又は比較例で得た式(8)、(9)、(11)、(12)及び(13)で示されるオルガノ(ポリ)シロキサン99部それぞれに対し、濃硫酸を1部添加して室温下、カチオン重合を行った。その結果を表1に示す。硬化性は、以下の基準により評価した。
〇:硬化する、ゲル状
△:部分的に硬化する
×:硬化しない、ペースト状
【0034】
【表1】
【0035】
表1に示される通り、本発明のフラニル基含有オルガノポリシロキサンは、優れたカチオン重合性を示した。