(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191703
(43)【公開日】2022-12-28
(54)【発明の名称】パック包装用揚げ物用ミックス
(51)【国際特許分類】
A23L 7/157 20160101AFI20221221BHJP
A23L 5/10 20160101ALI20221221BHJP
A23L 17/40 20160101ALN20221221BHJP
【FI】
A23L7/157
A23L5/10 E
A23L17/40 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021100086
(22)【出願日】2021-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小田原 駿介
(72)【発明者】
【氏名】篠原 大次郎
【テーマコード(参考)】
4B025
4B035
4B042
【Fターム(参考)】
4B025LB05
4B025LB06
4B025LG04
4B025LG28
4B025LG32
4B035LC03
4B035LC16
4B035LE17
4B035LG15
4B035LG21
4B035LG42
4B035LP07
4B035LP27
4B035LP46
4B042AC05
4B042AC10
4B042AD18
4B042AG72
4B042AH01
4B042AK07
4B042AK10
4B042AK12
4B042AP05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】パック包装される揚げ物の製造に用いられるパック包装用揚げ物用ミックスを提供する。
【解決手段】酸化澱粉及び小麦粉を含むパック包装用揚げ物用ミックスであって、酸化澱粉を5~30質量%を含有し、小麦由来蛋白含量が6.0質量%以上であることを特徴とする、パック包装用揚げ物用ミックス。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化澱粉及び小麦粉を含むパック包装用揚げ物用ミックスであって、
酸化澱粉を5~30質量%を含有し、小麦由来蛋白含量が6.0質量%以上であることを特徴とする、パック包装用揚げ物用ミックス。
【請求項2】
前記小麦粉は少なくとも薄力粉であり、
薄力粉に加えて、中力粉、強力粉、及び加熱処理小麦粉からなる群より選択される少なくとも1種が5~80質量%の割合で配合されているか、又は/及び
薄力粉に加えて、グルテンが0~5質量%の割合で配合されている
ことを特徴とする、請求項1に記載するパック包装用揚げ物用ミックス。
【請求項3】
請求項1又は2に記載するパック包装用揚げ物用ミックスから調製されたバッターをそのまま又は具材に付着させて、油ちょうする工程、及び
油ちょうした揚げ物をパック包装する工程を有する、
パック包装された揚げ物の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載するパック包装用揚げ物用ミックスから調製されたバッターをそのまま又は具材に付着させて油ちょうされた、揚げ物のパック包装物。
【請求項5】
パック包装された揚げ物の衣の食感又は/及び外観の経時的低下を抑制する方法であって、
揚げ物の衣の調製に使用する揚げ物用ミックスとして、請求項1又は2に記載するパック包装用揚げ物用ミックスを用いることを特徴とする、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パック包装される揚げ物の製造に用いられるパック包装用揚げ物用ミックスに関する。また本発明は、パック包装される揚げ物の製造方法、及びパック包装された揚げ物に関する。さらに本発明は、揚げ物のパック包装による衣の食感の経時的低下を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ウイルス感染予防の意識が高まっており、スーパーマーケット等において、揚げ物は、衛生面から、パック包装の必要性が高まっている。しかしながら、パック包装は工程が増え作業時間を要するため、油ちょう後、十分に粗熱がとれない状態でパック詰めされることが多く、そのため、揚げ物の衣がふやけたり、べたつくことで、食感や外観が劣化しやすいことが課題となっている。
【0003】
従来、揚げ物の食感の改良を目的として、種々の技術が開発されている。例えば、特許文献1には、製造後ある程度時間が経過した場合や電子レンジで再加熱した場合でも、衣がサクサクと軽い食感の揚げ物を製造するために、揚げ物用衣材として、小麦粉50~95質量%と、酸化処理又は酸処理され且つRVA最高粘度が1000mPa・s以下である加工澱粉5~50質量%とを含有する衣材を用いることが記載されている。また特許文献2には、油ちょうと、経時的に食感が低下すること、及び油っぽくなることが抑制された揚げ物を製造するために、カルボキシル基含量が0.1~1.1%である酸化サゴ澱粉、及び/又は酸処理サゴ澱粉を含有する揚げ物用ミックスを用いることが記載されている。さらに、特許文献3には、油ちょう直後の食感がクリスピーでサクサク感があり、この食感の経時的変化が少なく、電子レンジ又はオーブンレンジで冷えたフライ食品を再加熱してもこの食感の低下が少ないフライを製造するために、熱処理した小麦粉、酸化澱粉及びショ糖脂肪酸エステルを含有するフライ用衣組成物を用いることが記載されている。
【0004】
しかし、パック包装による食感や外観の低下を抑制するための方法は開示も示唆もされておらず、この課題を解決するためには、更なる検討が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際出願公開WO2018/143215号公報
【特許文献2】特開2019-41717号公報
【特許文献3】特開2000-125794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、パック包装される揚げ物の製造に用いられるパック包装用揚げ物用ミックスを提供することを目的とする。また本発明は、パック包装される揚げ物の製造方法、及びパック包装された揚げ物を提供することを目的とする。さらに本発明は、揚げ物のパック包装による衣の食感又は外観の経時的低下を抑制する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、揚げ物用ミックスの成分やその配合について、鋭意検討を重ねていたところ、小麦粉及び酸化澱粉を特定の割合で配合することで、粗熱が完全にとれない状態で揚げ物をパック詰めした場合でも、揚げ物の衣の食感や外観の経時的低下が抑制できることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて、さらに検討を重ねることで完成したものであり、下記の実施形態を包含するものである。
【0008】
(I)パック包装用揚げ物用ミックス
(I-1)酸化澱粉及び小麦粉を含むパック包装用揚げ物用ミックスであって、
酸化澱粉を5~30質量%を含有し、小麦由来蛋白含量が6.0質量%以上であることを特徴とする、パック包装用揚げ物用ミックス。
(I-2)前記小麦粉は少なくとも薄力粉であり、
薄力粉に加えて、中力粉、強力粉、及び加熱処理小麦粉からなる群より選択される少なくとも1種が5~80質量%の割合で配合されているか、又は/及び
薄力粉に加えて、グルテンが0~5質量%の割合で配合されている
ことを特徴とする、(I-1)に記載するパック包装用揚げ物用ミックス。
【0009】
(II)パック包装された揚げ物の製造方法
(II-1)(I-1)又は(I-2)に記載するパック包装用揚げ物用ミックスから調製されたバッターをそのまま又は具材に付着させて、油ちょうする工程、及び
油ちょうした揚げ物をパック包装する工程を有する、
パック包装された揚げ物の製造方法。
(II-2)前記パック包装工程が、揚げ物を油ちょう後15分以内にパック包装する工程である、(II-1)に記載する製造方法。
【0010】
(III)揚げ物のパック包装物
(III-1)(I-1)又は(I-2)に記載するパック包装用揚げ物用ミックスから調製されたバッターをそのまま又は具材に付着させて油ちょうされた揚げ物のパック包装物。
【0011】
(IV)パック包装された揚げ物の食感又は/及び外観の低下抑制方法
(IV-1)パック包装された揚げ物の衣の食感又は/及び外観の経時的低下を抑制する方法であって、
揚げ物の衣の調製に使用する揚げ物用ミックスとして、前記(I-1)又は(I-2)に記載するパック包装用揚げ物用ミックスを用いることを特徴とする、前記方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のパック包装用揚げ物用ミックス、及び揚げ物の製造方法を用いることにより、粗熱が完全にとりきれない状態でパック包装した場合でも、揚げ物の衣特有の食感(硬さ、歯切れ)の低下を抑制することができ、食感が良好な揚げ物を提供することができる。また、パック包装後、一定時間経過した後も、油ちょう直後の衣表面の凹凸感や適度な厚みが維持されており、外観が良好な揚げ物を提供することができる。
このため、揚げ物の製造現場において、油ちょう後、粗熱が完全にとれない状態でもパック包装することができ、効率的に揚げ物を製造し、速やかに店舗に陳列することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
用語の説明
「パック包装」は、本発明において、任意の容器内で、温度25±5℃、相対湿度90%以上の条件下で10分以上包装された状態にすることと定義する。
「揚げ物」には、魚介類及び水産加工品類、畜肉類及び畜肉加工品類、野菜類、山菜類、海草類、きのこ類等の具材に、バッター又はブレッダーを付着させたものを油ちょうしたものが含まれる。また「揚げ物」には、バッター又はブレッダーそのものを油ちょうしたものも含まれる。具体的には、好ましくはバッターを付着したもの、又はバッターそのものを油ちょうしたものであり、例えば、天ぷら、唐揚げ、フリッター、竜田揚げ、パン粉付けフライ、揚げ玉(天かす)、ドーナツ等を例示することができる。バッターは、小麦粉等の原料粉、及びその他の副資材(以上、バッター材料)を含む粉体又は粉粒体状の組成物に水等の溶液を加えて混ぜ合わせた流体物であり、ブレッダーは小麦粉等の原料粉、及びその他の副資材(以上、ブレッダー材料)を混合した粉体又は粉粒体状の組成物である。
「揚げ物用ミックス」は、前記揚げ物の調製に使用されるバッター材料を混合した、水等の溶液を添加するまえの粉体又は粉粒体状の組成物、又は、前記揚げ物の調製に使用されるブレッダー材料を混合した粉体又は粉粒体状の組成物である。
【0014】
(I)パック包装用揚げ物用ミックス
本発明のパック包装用揚げ物用ミックス(以下、単に「本発明ミックス」とも称する)は、酸化澱粉を5~30質量%を含有し、小麦由来蛋白含量が6.0質量%以上であることを特徴とする。
【0015】
(酸化澱粉)
酸化澱粉は酸化処理された澱粉を意味する。酸化処理は、処理対象の原料澱粉を常法に従って酸化剤で処理することによって行うことができる。酸化剤としては、制限されないものの、例えば次亜塩素酸ナトリウム、過酸化水素、及び硝酸等を例示することができる。例えば、一例として次亜塩素酸ナトリウムを用いる場合、酸化澱粉は、原料澱粉の水懸濁液に所定量の次亜塩素酸ナトリウムなどの還元剤を加えて残存する有効塩素を消去し、酸を加えて中和した後、副生成した塩や不純物を水でよく洗浄除去し、脱水乾燥することで調製することができる。酸化処理の程度は、原料澱粉の種類、揚げ物の種類などに応じて適宜調整すればよい。
【0016】
酸化処理する原料澱粉としては、通常食品に用いられるものを制限なく使用することができ、例えば馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、サツマイモ澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉、サゴ澱粉などが挙げられる。酸化澱粉の原料澱粉は、好ましくはコーンスターチ、サゴ澱粉である。
なお、こうした酸化澱粉は商業的に入手することができる。
【0017】
本発明ミックス中の酸化澱粉の含有量は、後述する小麦蛋白含量と組み合わせて、本発明の効果が得られる量であればよく、かかる含有量として、5~30質量%の範囲を挙げることができる。酸化澱粉を配合しないか、配合しても1質量%以下と少量であると、揚げ物を粗熱を十分とらずにパック包装して放置した場合に、揚げ物をパック包装せずそのまま室温で放置した場合と比較して、衣の硬さと歯切れが著しく低下し、食感の悪い揚げ物になる(実験例における比較例1及び2参照)。また酸化澱粉の含有量を多くするほど、揚げ物の衣が硬くなる傾向があるが、40質量%以上も配合すると、揚げ物の衣が硬くなりすぎて、却って歯切れが悪くなり、また具材に衣を付ける場合には、衣が付きにくく、外観が悪くなる(比較例3)。
一方、酸化澱粉の含有量が5~30質量%の範囲であると、揚げ物を粗熱を十分とらずにパック包装して放置した場合でも、揚げ物をパック包装せずそのまま室温で放置した場合と同様に、衣が適度に硬く、衣の歯切れと外観(衣の凹凸感)のいずれもが良好な揚げ物を得ることができる。衣の硬さ、歯切れ、及び外観の点から、好ましい酸化澱粉の含有量は10~30質量%、より好ましくは10~20質量%である。
【0018】
(小麦粉)
本発明ミックスには、その中に含まれる小麦由来蛋白含量が6.0質量%以上になるように小麦粉を配合することができる。
本発明ミックスの小麦由来蛋白含量は、好ましくは6.4質量%以上、より好ましくは7.0質量%以上である。小麦由来蛋白含量の上限は、本発明の効果を有することを限度に、特に制限されないものの、例えば11質量%以下を例示することができる。好ましくは10.0質量%以下、より好ましくは9.8質量%以下である。小麦由来蛋白量が6.0質量%を大きく下回って少なすぎると、パック包装された揚げ物の衣が柔らかくなり、好ましくない。また、小麦由来蛋白量が多くなると、パック包装された揚げ物の衣が硬くなる傾向がある。特に小麦由来蛋白量が11質量%を大きく超えて多くなると、揚げ物の衣が硬くなりすぎ、歯切れが悪くなる。ここで小麦由来蛋白含量は、食品表示法で定められた「食品表示基準について(平成27年3月30日消食第139号)」の「別添 栄養成分等の分析方法等」(以下、「食品表示基準における分析方法」)により測定されるものであり、全窒素を定量し、それに小麦粉の係数である5.70を乗じて得ることができる。その分析方法として、ケルダール法と燃焼法の2つが規定されているが、好ましくはケルダール法である。
【0019】
前記小麦粉としては、一般に食品に使用されるものを広く用いることができ、例えば、薄力粉、中力粉、準強力粉、強力粉、及びデュラム粉などが例示される。また小麦粉として、これらの小麦粉をそれぞれ熱処理した小麦粉(加熱処理小麦粉)を使用することもできる。たとえば、薄力粉の小麦由来蛋白含量は6.5~9.0質量%程度、中力粉の小麦由来蛋白含量は7.5~10.5質量%程度、準強力粉の小麦由来蛋白含量は10.5~12.5質量%程度、強力粉の小麦由来蛋白含量は11.5~13.0質量%程度である。これらの小麦粉は、小麦由来蛋白含量が総量で6.0質量%以上になることを限度として、一種単独で使用しても、また二種以上を任意に組み合わせて使用することもできる。小麦粉を一種単独で使用する場合、硬すぎずサクサクした軽い食感の衣が得られることから、好ましくは薄力粉である。また二種以上の小麦粉を任意に組み合わせて使用する場合も、前記のことから、少なくとも一つは薄力粉を用いることが好ましい。
【0020】
加熱処理小麦粉は、未加熱の小麦粉に加熱処理を施して得られるものであっても、また未加熱の原料小麦に加熱処理を施した後に該原料小麦を製粉して得られるもののいずれであってもよい。小麦粉又は原料小麦に施される加熱処理は、乾熱処理でもまた湿熱処理でもよい。乾熱処理は、処理対象とする小麦粉又は原料小麦を水分無添加の条件で加熱する処理であり、処理対象物中の水分を積極的に蒸発させる処理である。当該処理は、制限されないものの、例えば、オーブンでの加熱、焙焼窯での加熱、乾燥器を用いる加熱、熱風を吹き付ける熱風乾燥、高温低湿環境での放置などによって実施することができる。湿熱処理は、処理対象とする小麦粉又は原料小麦の水分を維持しながら、又は処理対象物に水分を加えながら、処理対象物を加熱する処理である。水分としては、水又は水蒸気を用いることができる。加熱方法は、制限されず、例えば、熱風等の熱媒体を処理対象物に直接接触させる方法、処理対象物を高湿度雰囲気下において間接的に加熱する方法が挙げられる。その実施装置としては、制限されないものの、例えば、オートクレーブ、スチームオーブン、一軸又は二軸型エクストルーダーなどを用いることができる。
【0021】
本発明ミックス中の小麦粉の含有割合は、前述するように小麦由来蛋白含量が6.0質量%以上、好ましくは6.0~10.0質量%になるように、適宜設定することができる。
制限されないが、例えば本発明ミックスが少なくとも小麦粉として薄力粉を含む場合、本発明ミックス中の薄力粉の配合割合として、10質量%以上95質量%以下の範囲を挙げることができる。好ましくは、20~90質量%、より好ましくは25~90質量%である。
【0022】
また本発明ミックスが、小麦粉として薄力粉に加えて、前述する中力粉、準強力粉、強力粉、デュラム粉、及び加熱処理小麦粉よりなる群から選択される少なくとも1種を含有する場合、本発明ミックス中の薄力粉以外のこれらの小麦粉の配合割合は、総量で5質量%以上であることが望ましい。好ましくは総量5~80質量%であり、より好ましくは10~70質量%、さらに好ましくは10~60質量%であり、さらにより好ましくは10~40質量%であり、特に好ましくは10~30質量%である。制限されないものの、例えば、中力粉の好ましい配合割合としては、1質量%以上、5~60質量%、より好ましくは10~40質量%;準強力粉の好ましい配合割合としては、1質量%以上、5~60質量%、より好ましくは10~40質量%;強力粉の好ましい配合割合としては、1質量%以上、5~60質量%、より好ましくは10~40質量%;加熱処理小麦粉の好ましい配合割合としては、1質量%以上、5~70質量%、より好ましくは10~60質量%を例示することができる。本発明ミックス中の中力粉、準強力粉、強力粉、及び加熱処理小麦粉の配合割合が総量80質量%を大きく超えて多すぎると、パック包装された揚げ物の衣が硬くなりすぎ、過度に衣が厚くなり、外観が悪くなる。
【0023】
(グルテン)
本発明ミックスには、別途、任意にグルテンを配合することもできる。特に、小麦粉として薄力粉だけを用いる場合、前述する小麦由来蛋白含量を補う材料として、別途、グルテンを配合することが好ましい。この場合、本発明ミックスに小麦粉とは別に添加するグルテンの量は、本発明の効果を奏するように本発明ミックス中の小麦由来蛋白含量が6.0質量%以上になるように適宜設定することができる。その限りで制限されないものの、本発明ミックス中に最終的に含まれる小麦由来蛋白含量が6.0~10.0質量%の範囲、好ましくは6.4~9.8質量%の範囲になるように、適宜設定することができる。
例えば、本発明ミックスに配合する小麦粉として薄力粉を用いる場合に別添するグルテンの量は、0より多く5質量%以下、好ましくは0.5~5質量%の範囲から選択することができる。より好ましくは、0.5~4質量%、さらに好ましくは0.5~2質量%である。
【0024】
(副資材)
本発明のミックスは、前述する酸化澱粉、小麦粉、必要に応じてグルテンを含有するが、本発明の効果を損なわないことを限度として、それ以外の材料(副資材)を配合することもできる。副資材としては、制限されないものの、例えば、重曹(炭酸水素ナトリウム)、炭酸アンモニウム、炭酸カルシウム等のガス発生剤、及び酒石酸、酒石酸水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム等の酸性剤を含むベーキングパウダー等の膨張剤;デキストリン、オリゴ糖、ぶどう糖、ショ糖、マルトース等の糖質類;植物性油脂、動物性油脂、加工油脂、粉末油脂等の油脂類;カードラン、キサンタンガム、グアガム、タマリンドガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、及びカラギーナン等の増粘剤;食塩、グルタミン酸ナトリウム、粉末醤油等の調味料;酵母エキス、畜肉又は魚介由来エキス等のエキス類;グリセリン脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤;その他、かぼちゃ粉、色素、香料、香辛料、酵素、種々の品質改良剤等が挙げられる。
好ましくは、膨張剤、調味料である。膨張剤の含有量は、制限されないものの、0.1~3質量%、好ましくは0.5~2質量%の範囲から適宜選択することができる。
【0025】
本発明ミックスは、常温常圧下で粉粒状(粉末状、粒状のいずれを含んでいてもよく、これを粉粒状という)である。これを用いて揚げ物を製造する際には、この粉粒状のまま具材表面に付着させて使用することもできるが、粉粒状のミックスに液体を添加混合してバッターを調製し、これを具材表面に付着させて使用することもできる。本発明の効果をより高く得ることができる点から、好ましい使用方法は後者の方法である。また、バッターそのものを油ちょうすることもできる(揚げ玉やドーナツなど)。バッターを調製する際に使用される液体としては、水が一般的である。本発明の効果を損なわないことを限度として、水道水や飲用水などの水に代えて、だし汁、煮汁、牛乳、液卵などを用いることもできる。本発明ミックスと混合する液体の量は、揚げ物や具材の種類に応じて、適宜選択調整することができる。制限されないものの、例えば、揚げ物が天ぷらであれば、ミックス100質量部に対して、80~200質量部、唐揚げであれば70~120質量部、パン粉付けフライであれば150~1000質量部、ドーナツであれば、20~60質量部を例示することができる。
【0026】
(II)パック包装された揚げ物の製造方法、及び揚げ物のパック包装物
前述する本発明ミックスを用いることで、本発明が対象とする揚げ物を製造することができ、これをパック詰めすることで、パック包装された揚げ物を得ることができる。
具体的には、油ちょう工程、及びパック包装工程により、パック包装された揚げ物を製造することができる。
【0027】
油ちょう工程は、前述する方法で本発明ミックスから調製したバッター又はブレッダーをそのまま又は具材に付着させて、油ちょうする工程である。具材としては、制限されず、例えば、前述する魚介類及び水産加工品類、畜肉類及び畜肉加工品類、野菜類、山菜類、海草類、きのこ類等を挙げることができる。これらの具材は、予め下味を付けておいてもよい。これらの具材にバッターを付着させる前に、必要に応じて具材に打ち粉をまぶしてもよく、またバッターを付着させた後にパン粉などを付着させてもよい。バッター又はブレッダーを付着させた揚げ種を、適切な温度のフライ油に投入し、適切な時間油ちょうする。バッター又はブレッダーを付着させた揚げ種を、フライ油に投入した後、揚げ種にバッターをかけても(追い種しても)よい。なお、揚げ玉(天かす)やドーナツは、前記バッターをそのままフライ油に投入して油ちょうすることで製造することができる。
【0028】
パック包装工程は、前の油ちょう工程で製造した揚げ物を容器にいれて、容器の開口部を閉じる工程である。
揚げ物をパック包装するために使用される容器は、少なくとも揚げ物を入れる本体部の材質が、揚げ物を入れても、油の染みだしがないか、あっても少なく、また、揚げ物を十分冷えないままで入れても溶融や変質しない、耐油性及び耐熱性の材質であることが好ましい。耐熱性の温度として、60℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上を例示することができる。制限されないが、かかる材質として、耐油性及び耐熱性のポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン及び紙などを例示することができる。その形状も特に制限されず、ボックス型やカップ型等の容器や袋型の容器を例示することができる。また、これらの容器は、衛生面や持ち運びの利便性から、蓋付きであるか、又は開口部を閉じることができるようになっていることが好ましい。閉じる様式は、制限されず、例えば外かん合式、熱融着、粘着シール、バッグクロージャ―、テープ止め、輪ゴム止め等を用いることができる。つまり、揚げ物の容器として、商業的に販売され入手できるものを広く用いることができる。市販品の例として、クラフト紙及びOPP製袋型容器「プラッターバッグ」(福助工業株式会社)、ポリエチレン製ボックス型容器「OSA」(株式会社エフピコ社製)、ポリスチレン製ボックス型容器「フードパック(SE)」(中央化学株式会社製)、ポリエチレン及びポリスチレン製ボックス型容器「MSDホットグラン」(株式会社エフピコ社製)等が挙げられる。
【0029】
本発明ミックスを用いて製造した揚げ物は、揚げてから粗熱が十分とりきれない状態で容器にいれて開口部を閉じた場合であっても、衣の食感又は/及び外観の経時的低下が抑制されていることを特徴とする。このため、本発明の製造方法において、油ちょう後のパック包装、特に揚げ物を入れた容器開口部を閉じる工程は、揚げ物の粗熱が完全にとれるまで放置した後に行う必要はなく、例えば油ちょう後、15分以内に行うことができる。
【0030】
通常、油ちょう後、揚げたての揚げ物を粗熱をとらないままにパック包装すると、衣が柔らかくなり、食感や外観が著しく低下するが、本発明の方法で製造されたパック包装された揚げ物(揚げ物のパック包装物)は、こうした衣の食感又は/及び外観の低下を有意に抑制することができ、例えば、揚げたての揚げ物をパック包装せず室温で同時間放置した場合の揚げ物と遜色がない食感又は/及び外観を有する揚げ物商品として提供することができる。
【0031】
(III)パック包装された揚げ物の衣の食感又は/及び外観の低下抑制方法
本発明は、パック包装された揚げ物の衣の食感又は/及び外観の経時的低下を抑制する方法を提供する。
当該方法は、揚げ物の衣の調製に使用する揚げ物用ミックスとして、前述する本発明ミックスを用いることで実施することができる。ここで揚げ物用ミックスの成分やその組成、揚げ物の製造方法、パック包装方法などは、前述する(I)及び(II)に記載されており、ここに援用することができる。
【0032】
本発明が対象とする揚げ物の衣の食感とは、衣の硬さ及び歯切れである。衣はカリッとしていて適度に硬く、サクサクと歯通りが軽く、噛み切りやすい歯切れであることが好ましい。逆に、衣がふやけて柔らかく、また歯通りが悪くて噛み切りにくい揚げ物は、食感が悪いと判断される。 また本発明が対象とする揚げ物の衣の外観とは、衣の見た目の状態であり、適度に衣が厚く、凹凸感が明確であることが好ましい。
【0033】
本発明の方法により、パック包装された揚げ物の衣の食感又は/及び外観の経時的低下を抑制できているかどうかの確認は、後述する実験例に記載する方法で実施することができる。
以上、本明細書において、「含む」及び「含有する」の用語には、「からなる」及び「から実質的になる」という意味が含まれる。
【実施例0034】
以下、本発明の構成及び効果について、その理解を助けるために、実験例を用いて本発明を説明する。但し、本発明はこれらの実験例によって何ら制限を受けるものではない。以下の実験は、特に言及しない限り、室温(25±5℃)、及び大気圧条件下で実施した。なお、特に言及しない限り、以下に記載する「%」は「質量%」、「部」は「質量部」を意味する。
【0035】
下記の実験例で使用した材料は下記の通りである。
(1)酸化澱粉:SF-400(昭和産業株式会社、コーンスターチ由来)
(2)薄力粉:月桂冠(昭和産業株式会社)
(3)中力粉:特初穂(昭和産業株式会社)
(4)強力粉:クオリテ(昭和産業株式会社)
(5)加熱粉(薄力粉):KN-1(昭和産業株式会社)
(6)加熱粉(中力粉):MK(昭和産業株式会社)
(7)加熱粉(強力粉):R&B(昭和産業株式会社)
(8)グルテン:A-グルG(グリコ栄養食品株式会社)
(9)ベーキングパウダー:アイコクベーキングパウダー赤(株式会社アイコク)
【0036】
実験例1 パック包装された揚げ物の製造とその評価(その1)
(1)パック包装された揚げ物(天ぷら)の製造
表1のA欄に示す割合で、各材料を混合して、粉体状の揚げ物用ミックス(天ぷら粉)を調製した。調製した揚げ物用ミックス100質量部に対して、表1のB欄に示す加水量の水道水を入れて、撹拌してバッターを調製した。表1には、粉体状の揚げ物用ミックス中の小麦由来蛋白質含量(乾燥質量%)を併せて記載する。当該小麦由来蛋白質含量は、表1に示す割合で、各材料を混合し、ケルダール法によって定量した窒素含量に、窒素-蛋白質換算係数(5.70)を乗じてたん白質含量を求め、別途、乾燥法によって測定した揚げ物用ミックス中の水分含量から、乾燥質量に基づく小麦由来蛋白質含量(質量%)を求めた量である。
次いで、2Lサイズのエビを、表面の水分をペーパータオルで拭き取った後、各バッターに浸漬し、エビの表面に均一に付着させた(揚げ種)。それを175℃のフライ油に投入した後、同バッター15mLを用いて追い種を行い、2分30秒間油ちょうして、エビの天ぷら(エビ天)を得た。
油ちょう後、揚げたエビ天を、網付き天ぷらバットの網の上において、油ちょう後15分以内に、ボックス型透明容器「OSA20-13(46)」(株式会社エフピコ社製、OPET(二軸延伸PET)素材、本体耐熱温度80℃、外かん合式、横20cm×縦13cm)に2本入れて、蓋を閉めて、パック包装された揚げ物(天ぷら)を製造した。
【0037】
(2)揚げ物(天ぷら)の食感と外観の評価
上記方法で製造したパック包装された揚げ物(天ぷら)について、食感と外観を評価した。評価は、パック包装された揚げ物(天ぷら)を室温で3時間保管した後に実施した。また、比較のため、前述する揚げ種をそれぞれ同条件で油ちょうした後、天ぷらバット上で、室温下15分間放冷した後、さらに、パック包装せずにそのままの状態で3時間保管した揚げ物(天ぷら)についても、同様に食感と外観を評価した。ちなみに、参考例の揚げ物について、パック包装容器内の温度及び相対湿度を「おんどとりTR-72nw」(株式会社ティアンドデイ)を用いて測定したところ、パック包装後10分後の温度は24.6℃、相対湿度は100%であった。また、包装後3時間後の温度は21.3℃、相対湿度は100%であった。
【0038】
食感と外観は、揚げ物の食感の官能評価について訓練した10名のパネルにより、下記の基準に従って評価した。なお、官能評価にあたり、パネル全体で討議して、評価する食感(硬さ、歯切れ)と外観の定義及びスコアの基準を明確にし、また各評価項目の特性と判断基準をすり合わせて、各パネルが共通認識を持つようにした。
【0039】
[食感:硬さ]
硬さの定義:揚げ物を覆った衣の硬さ。カリっとしていて硬い食感である場合に「良好」、ふやけていて柔らかい食感である場合に「悪い」と評価する。その程度に応じて、下記の基準でスコア化。
スコアと判断基準
5:非常に良好
4:良好
3:やや良い
2:悪い
1:非常に悪い
【0040】
[食感:歯切れ]
歯切れの定義:揚げ物を覆った衣の噛み切りやすさと歯切りの感覚。歯通りが軽く、噛み切りやすい場合に「良好」、歯通りが悪く、噛み切りにくい場合に「悪い」と評価する。その程度に応じて、硬さと同様の基準でスコア化。
【0041】
[外観]
外観の定義:揚げ物の外観を目視で評価した場合に、表面に凹凸があり、具材に対して衣が厚すぎず且つ薄すぎず適度な厚みがある場合を「良好」、表面に凹凸がなく、衣が厚すぎるか又は薄すぎる場合を「悪い」と評価する。その程度に応じて、下記の基準でスコア化。なお、エビ天の衣の厚みの適度の基準は、事前にパネル間で摺り合わせて決めた。
スコアと判断基準
5:非常に良好
4:良好
3:やや良い
2:悪い
1:非常に悪い(注:薄すぎても、厚すぎても非常に悪い)
【0042】
結果を表1に合わせて示す。
【0043】
【0044】
表1に示すように、薄力粉だけから調製した揚げ物用ミックスは、油ちょう後、パック包装せずに室温で保管した場合であっても、衣がふやけてしまい、硬さと歯切れのいずれもが低下した、食感の悪い揚げ物になった(参考例)。これに対して、薄力粉に強力粉等を併用したり、さらに酸化澱粉を1%配合したりすると、油ちょう後に、パック包装せずに室温で保管した場合には、衣のふやけが抑制され、硬さと歯切れの経時的低下を防止することができた。しかし、油ちょう後、粗熱がとりきれないうちにパック包装すると、その防止効果は十分ではなかった(比較襟1、比較例2)。一方、小麦粉に併用する酸化澱粉の含有量をミックス全体の5~30%に調整することで(実施例1~4)、油ちょう後、粗熱がとりきれないうちにパック包装した場合でも、食感の経時的低下が抑制され、所定時間経過した後でも良好な硬さと歯切れの衣を有する揚げ物を得ることができた。また、外観も良好であった。一方、小麦粉に併用する酸化澱粉の含有量がミックス全体の40%と多くなると、パック包装後3時間後の歯切れ、及び外観が低下する傾向が認められた。
【0045】
実験例2 パック包装された揚げ物の製造とその評価(その2)
(1)パック包装された揚げ物(天ぷら)の製造
表2のA欄に示す割合で、各材料を混合して、粉体状の揚げ物用ミックス(天ぷら粉)を調製した。調製した揚げ物用ミックス100質量部に対して、表2のB欄に示す加水量の水道水を入れて、撹拌してバッターを調製した。調製した各バッターを用いて、実験例1と同様にエビ天を油ちょうし、得られたエビ天を、同様に室温で15分間放置した後、ボックス型透明容器「OSA20-13(46)」(株式会社エフピコ社製、OPET(二軸延伸PET)素材、本体耐熱温度80℃、外かん合式、横20cm×縦13cm)に2本入れて、蓋を閉めて、パック包装された揚げ物(天ぷら)を製造した。
【0046】
(2)揚げ物(天ぷら)の食感と外観の評価
上記方法で製造したパック包装された揚げ物(天ぷら)を、実験例1と同様に10名のパネルにより、食感と外観を評価した。
結果を表2に合わせて示す。
【0047】
【0048】
表2に示すように、酸化澱粉に、小麦粉として薄力粉のみを併用した揚げ物用ミックス(実施例5)、酸化澱粉に薄力粉に加えて、中力粉、強力粉、又は加熱粉を併用した揚げ物用ミックス(実施例6~9、11~16)、及び、酸化澱粉に薄力粉に加えて、グルテンを併用した揚げ物用ミックス(実施例10)は、これを用いてバッターを調製し、油ちょう後、粗熱がとりきれないうちにパック包装した場合でも、食感の経時的低下が抑制され、所定時間経過した後でも良好な硬さと歯切れの衣を有する揚げ物を得ることができた。また、外観も良好であった。