(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191942
(43)【公開日】2022-12-28
(54)【発明の名称】撮像装置及び撮像方法
(51)【国際特許分類】
H04N 5/232 20060101AFI20221221BHJP
H04N 5/225 20060101ALI20221221BHJP
H04N 5/335 20110101ALI20221221BHJP
【FI】
H04N5/232 290
H04N5/225 400
H04N5/225 800
H04N5/335
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021100479
(22)【出願日】2021-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【弁理士】
【氏名又は名称】福尾 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100185225
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 恭一
(72)【発明者】
【氏名】片野 祐太郎
(72)【発明者】
【氏名】信川 輝吉
(72)【発明者】
【氏名】室井 哲彦
(72)【発明者】
【氏名】石井 紀彦
【テーマコード(参考)】
5C024
5C122
【Fターム(参考)】
5C024CY45
5C024EX41
5C122DA30
5C122EA06
5C122EA37
5C122EA61
5C122EA68
5C122FB02
5C122FB17
5C122FC04
5C122FH18
5C122HB05
5C122HB09
5C122HB10
(57)【要約】
【課題】任意のパターンで被写体像を光学的に符号化することができ、高速に低解像度の符号化画像を取得し、高解像度画像を生成できる、撮像装置及び撮像方法を提供する。
【解決手段】低解像度画像を取得し、高解像度画像を生成する撮像装置であって、撮像対象物の像を符号化パターンに基づいて空間的に強度変調する光変調器と、前記符号化パターンで符号化された前記撮像対象物の像を前記符号化パターンより解像度が低い低解像度画像として取得する第1撮像部と、前記符号化パターンを反転したパターンで符号化された前記撮像対象物の像を前記符号化パターンより解像度が低い低解像度画像として取得する第2撮像部と、圧縮センシングにより前記低解像度画像よりも高解像度の前記撮像対象物の像を生成する画像生成部と、を備えることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低解像度画像を取得し、高解像度画像を生成する撮像装置であって、
撮像対象物の像を符号化パターンに基づいて空間的に強度変調する光変調器と、
前記符号化パターンで符号化された前記撮像対象物の像を前記符号化パターンより解像度が低い低解像度画像として取得する第1撮像部と、
前記符号化パターンを反転したパターンで符号化された前記撮像対象物の像を前記符号化パターンより解像度が低い低解像度画像として取得する第2撮像部と、
少なくとも、前記低解像度画像、前記第1撮像部及び前記第2撮像部のリサンプリングの情報、及び前記符号化パターンに基づいて、圧縮センシングにより前記低解像度画像よりも高解像度の前記撮像対象物の像を生成する画像生成部と、
を備えることを特徴とする、撮像装置。
【請求項2】
請求項1に記載の撮像装置において、
前記第1撮像部と前記第2撮像部は、符号化された前記撮像対象物の像と撮像部の画素の相対的な位置関係が互いに異なる状態で、それぞれ前記低解像度画像を取得することを特徴とする、撮像装置。
【請求項3】
請求項2に記載の撮像装置において、
前記第1撮像部と前記第2撮像部の一方は、符号化された前記撮像対象物の像と撮像部の画素の相対的な位置関係を、前記符号化パターンのピッチよりも小さい単位でシフトさせることを特徴とする、撮像装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の撮像装置において、
前記第1撮像部及び前記第2撮像部の少なくとも一方に取り付けたステージにより、符号化された前記撮像対象物の像と撮像部の画素の相対的な位置関係を制御することを特徴とする、撮像装置。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の撮像装置において、
前記光変調器に取り付けたステージにより、符号化された前記撮像対象物の像と撮像部の画素の相対的な位置関係を制御することを特徴とする、撮像装置。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の撮像装置において、
前記第1撮像部及び前記第2撮像部の少なくとも一方と前記光変調器との間に配置した光路変調素子により、符号化された前記撮像対象物の像と撮像部の画素の相対的な位置関係を制御することを特徴とする、撮像装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の撮像装置において、
前記高解像度画像は、離散コサイン変換、離散ウェーブレット変換、又は離散フーリエ変換の二次元基底関数により画素成分に変換され、
前記画像生成部は、前記低解像度画像から前記高解像度画像の画素成分を推定する線形方程式を最適化問題により解を求めることで、高解像度の前記撮像対象物の像を生成することを特徴とする、撮像装置。
【請求項8】
撮像対象物の像を符号化パターンに基づいて空間的に強度変調する符号化ステップと、
前記符号化パターンで符号化された前記撮像対象物の像を前記符号化パターンより解像度が低い低解像度画像として取得する第1の低解像度画像取得ステップと、
前記符号化パターンを反転したパターンで符号化された前記撮像対象物の像を前記符号化パターンより解像度が低い低解像度画像として取得する第2の低解像度画像取得ステップと、
少なくとも、前記低解像度画像、前記第1及び第2の低解像度画像取得ステップにおけるリサンプリングの情報、及び前記符号化パターンから、圧縮センシングにより前記低解像度画像よりも高解像度の前記撮像対象物の像を生成する画像生成ステップと、
を備えることを特徴とする、撮像方法。
【請求項9】
請求項8に記載の撮像方法において、
前記第1の低解像度画像取得ステップと前記第2の低解像度画像取得ステップは、符号化された前記撮像対象物の像と撮像部の画素の相対的な位置関係が互いに異なる状態で、それぞれ前記低解像度画像を取得することを特徴とする、撮像方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像装置及び撮像方法に関し、特に、圧縮センシングを利用した超解像を行う撮像装置及び撮像方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超解像技術は、低画素の画像から高画素の画像を作り出す技術であり、4Kや8K技術の発展に伴い、高解像度化に対応するためにさまざまなデジタルデバイスで利用される技術である。その手法も多様であるが、一般的なものとして、低解像度の画像を複数用意し、サブピクセルレベルで位置合わせをすることで高解像度の画像データを作る手法が挙げられる。例えば32×32画素の画像を縦横に半画素ずつずらしてサンプリングした4枚の画像があれば、64×64画素の画像を生み出すことができる。多画素化に伴いカメラ(撮像素子)の画素サイズの微細化が光の回折限界によって制限されるほど進んでいるため、撮像においても超解像技術が近年発達している。
【0003】
前述のように、超解像では高解像度化の程度によって低解像度画像を複数枚必要とするため、撮像においてはフレームレートの低下が問題となる。そのため、少ない低解像度画像から圧縮センシング(Compressive Sensing)によって超解像された高解像度画像を生成する手法が提案されている。画像の場合には、DCT(Discrete Cosine Transform,離散コサイン変換)やDWT(Discrete Wavelet Transform,離散ウェーブレット変換)といった処理をすることで情報を圧縮できることが知られているように、何らかの基底によりスパース(疎)な空間に変換することができるため、圧縮センシングを適用することが可能である。一般に連立方程式は、未知数以上の条件式が無ければ解を求めることができないのに対し、圧縮センシングにおいては、条件式数が少ない場合であっても、スパースであるという仮定の下であれば解を推定できる。画像の超解像においては、画像を1次元の信号として取り扱えば、未知数は「高解像度画像の画素数」であり、条件式数は「低解像度画像の画素数」と「異なる条件下で符号化した低解像度画像の枚数」の積とおける。解は「高解像度画像の画素値」であるが、前述したDCTやDWTによってスパースな値である「DCT成分」や「DWT成分」に変換できるため、圧縮センシングによって解を求めることができる。最後に推定解を逆DCTや逆DWTすれば、高解像度画像が再構成できる。
【0004】
従来から、超解像処理を高性能化するために様々な提案がなされており、例えば、画素の受光感度分布をランダムにする手法が提案されている(非特許文献1)。非特許文献1では、超解像における解像度がカメラの画素形状に依存することに着目し、被写体を符号化するために画素サイズよりも細かいトナー粉をセンサー上にランダムに振りまき、被写体とカメラの相対的な位置関係を変えながら20枚の低解像度画像(120×100)を撮影し、DWTによるスパース性を使った圧縮センシングによって、高解像度画像(1600×1200)を生成している。本手法では、トナー粉のサイズと、カメラの位置シフト量が再構成される高解像度画像の画素数を決定している。
【0005】
DMD(デジタルマイクロミラー)にランダムなパターンを表示させることで、DMDに入射する画像を符号化し、超解像を行うことも提案されている(非特許文献2、非特許文献3)。非特許文献2では、縦横各64倍の超解像をしている。圧縮センシングにより、4096枚のパターン数(撮影枚数)が本来必要なのに対し、1600枚や2700枚で画像を再構成させている。また、非特許文献3では、縦横各4倍超解像を行い、パターン数が1枚から16枚までの場合についてそれぞれの再構成画像を比較している。これらの手法では、DMDの画素数(符号化パターンの解像度)が高解像度画像の画素数を決定している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】笹尾朋貴、日浦慎作、佐藤宏介、“画素形状のランダム符号化に基づく超解像”、電子情報通信学会論文誌 D、Vol.J96-D No.8、(2013)、pp.1778-1789
【非特許文献2】D. Takhar et al. “A New Compressive Imaging Camera Architecture using Optical-Domain Compression,” Electronic Imaging, (2006)
【非特許文献3】J. Flake et al. “Experimental study of super-resolution using a compressive sensing architecture,” Proceedings of SPIE, (2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1の手法では、微細なトナー粉を画素上の任意位置に配置させることが難しいことに加え、事前にカメラ画素に対してどのようにトナー粉が配置されているかを調べる必要がある。ランダムにふりかけて符号化パターンを作っているため、トナー粉で全て覆われてしまう画素が発生したり、ある箇所にトナー粉が集中してしたりする場合もあるため、カメラの位置を変えて複数枚の画像を取得しても、被写体のある一部の光が全ての画像で受光できなくなり、超解像により得られた高解像画像の画質が低下したり、情報が欠損する可能性がある。また、トナー粉による符号化であり、符号化パターンが固定されており変調できないため、符号化条件を変えるためにカメラの位置を物理的に複数回移動させる必要がある。このため符号化像の取得に時間がかかり、高速化のボトルネックとなる。加えて、トナー粉により光が遮光される形での符号化であり、光の利用効率がトナー粉の量に応じて低下するという課題がある。
【0008】
非特許文献2及び非特許文献3の手法では、DMDを用いることで任意のパターンによる符号化が可能となっている。DMDはマイクロミラーが二次元に並べられたものであり、各ミラーをそれぞれON状態かOFF状態のいずれかに高速に制御できるが、符号化された光のうち、ON画素(あるいはOFF画素)の光のみをカメラで取得する。片方の光を取得するため光の利用効率はトナー粉を利用した場合と同等であり、DMDの1パターンごとに1枚の低解像度画像を取得することから、低解像度画像の取得に長時間かかってしまう。また、非特許文献1では、超解像にあたって使用される高解像度情報が、[1]画素サイズよりも細かいトナー粉(符号化パターン)及び[2]カメラの位置シフト量、と2つあったのに対し、非特許文献2及び非特許文献3ではDMDの符号化パターンのみであるという課題がある。
【0009】
さらに、非特許文献2又は非特許文献3のようにDMDを用いた場合であっても、各符号化パターンをランダムなパターンとした場合には、非特許文献1のトナー粉で全て覆われた画素と同様に、特定のミラーのOFF状態が複数のパターンで重なる可能性がある。このとき、撮像対象物の情報をすべての低解像度画像で取得できず、
図19に示すように画像の再構成でエラー(復元できない画素)が生じるという問題もある。
【0010】
したがって、上記のような問題点に鑑みてなされた本発明の目的は、任意のパターンで被写体像を光学的に符号化することができ、高速に低解像度の符号化画像を取得し、画像の再構成でエラーが生じることなく、高解像度画像を生成できる、撮像装置及び撮像方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本発明に係る撮像装置は、低解像度画像を取得し、高解像度画像を生成する撮像装置であって、撮像対象物の像を符号化パターンに基づいて空間的に強度変調する光変調器と、前記符号化パターンで符号化された前記撮像対象物の像を前記符号化パターンより解像度が低い低解像度画像として取得する第1撮像部と、前記符号化パターンを反転したパターンで符号化された前記撮像対象物の像を前記符号化パターンより解像度が低い低解像度画像として取得する第2撮像部と、少なくとも、前記低解像度画像、前記第1撮像部及び前記第2撮像部のリサンプリングの情報、及び前記符号化パターンに基づいて、圧縮センシングにより前記低解像度画像よりも高解像度の前記撮像対象物の像を生成する画像生成部と、を備えることを特徴とする。
【0012】
また、前記撮像装置は、前記第1撮像部と前記第2撮像部が、符号化された前記撮像対象物の像と撮像部の画素の相対的な位置関係が互いに異なる状態で、それぞれ前記低解像度画像を取得することが望ましい。
【0013】
また、前記撮像装置は、前記第1撮像部と前記第2撮像部の一方が、符号化された前記撮像対象物の像と撮像部の画素の相対的な位置関係を、前記符号化パターンのピッチよりも小さい単位でシフトさせることが望ましい。
【0014】
また、前記撮像装置は、前記第1撮像部及び前記第2撮像部の少なくとも一方に取り付けたステージにより、符号化された前記撮像対象物の像と撮像部の画素の相対的な位置関係を制御することが望ましい。
【0015】
また、前記撮像装置は、前記光変調器に取り付けたステージにより、符号化された前記撮像対象物の像と撮像部の画素の相対的な位置関係を制御することが望ましい。
【0016】
また、前記撮像装置は、前記第1撮像部及び前記第2撮像部の少なくとも一方と前記光変調器との間に配置した光路変調素子により、符号化された前記撮像対象物の像と撮像部の画素の相対的な位置関係を制御することが望ましい。
【0017】
また、前記撮像装置は、前記高解像度画像が、離散コサイン変換、離散ウェーブレット変換、又は離散フーリエ変換の二次元基底関数により画素成分に変換され、前記画像生成部は、前記低解像度画像から前記高解像度画像の画素成分を推定する線形方程式を最適化問題により解を求めることで、高解像度の前記撮像対象物の像を生成することが望ましい。
【0018】
上記課題を解決するために本発明に係る撮像方法は、撮像対象物の像を符号化パターンに基づいて空間的に強度変調する符号化ステップと、前記符号化パターンで符号化された前記撮像対象物の像を前記符号化パターンより解像度が低い低解像度画像として取得する第1の低解像度画像取得ステップと、前記符号化パターンを反転したパターンで符号化された前記撮像対象物の像を前記符号化パターンより解像度が低い低解像度画像として取得する第2の低解像度画像取得ステップと、少なくとも、前記低解像度画像、前記第1及び第2の低解像度画像取得ステップにおけるリサンプリングの情報、及び前記符号化パターンから、圧縮センシングにより前記低解像度画像よりも高解像度の前記撮像対象物の像を生成する画像生成ステップと、を備えることを特徴とする。
【0019】
また、前記撮像方法は、前記第1の低解像度画像取得ステップと前記第2の低解像度画像取得ステップが、符号化された前記撮像対象物の像と撮像部の画素の相対的な位置関係が互いに異なる状態で、それぞれ前記低解像度画像を取得することが望ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明における撮像装置及び撮像方法によれば、任意のパターンで被写体像を光学的に符号化することができ、高速に低解像度の符号化画像を取得し、画像の再構成でエラーが生じることなく、高解像度画像を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】第1の実施形態における、撮像装置の光学系の概念図である。
【
図2】第1の実施形態における、DMDによる光変調の原理図である。
【
図3】DMD表示パターンと各カメラの投影画像及び取得画像の例を示す図である。
【
図4】第1の実施形態の変形例における、撮像装置の光学系の概念図である。
【
図5】第1の実施形態の変形例における、DMDによる光変調の原理図である。
【
図6】低解像度画像から高解像度画像を推定する線型方程式を表す図である。
【
図7】低解像度画像から高解像度画像を推定する線型方程式を逆問題としてまとめた図である。
【
図8】第2の実施形態における、撮像装置の光学系の概念図である。
【
図9】第2の実施形態における、撮像装置の別の光学系の概念図である。
【
図10】符号化像に対して2台のカメラ間で相対的な位置ずれをさせた例を示す図である。
【
図11】位置シフトベクトルについて説明する図である。
【
図12】第3の実施形態における、撮像装置の光学系の概念図である。
【
図13】第3の実施形態における、撮像装置の別の光学系の概念図である。
【
図14】第3の実施形態における、撮像装置の更に別の光学系の概念図である。
【
図15】符号化像に対して2台のカメラ間で相対的な位置ずれをさせながら、符号化パターンごとにカメラと符号化像の位置関係を変える例を示す図である。
【
図16】第4の実施形態における、符号化パターンよりも狭ピッチの相対的な位置ずれを与えた低解像度画像から高解像度画像を得ることを示す図である。
【
図17】符号化パターンよりも狭ピッチの相対的な位置ずれに基づいて再構成した画像の例を示す図である。
【
図18】第5の実施形態における、撮像装置の光学系の概念図である。
【
図19】符号化パターンによって撮像対象物の情報を完全に取得できない例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
【0023】
(第1の実施形態)
図1に、第1の実施形態の撮像装置の光学系の概念図を示す。撮像装置は、第1及び第2カメラ(撮像素子)11,12と、第1~第3レンズ21~23と、DMD30と、制御演算処理装置40とを備えている。
【0024】
第1レンズ21は、撮像対象物の像をDMD30に結像する。
【0025】
DMD30は、制御演算処理装置40によって制御され、任意の符号化パターンを表示することができ、これによって撮像対象物の像が符号化される。すなわち、DMD30は、撮像対象物の像を空間的に強度変調する光変調器として機能する。
図2は、DMD30による光変調の原理図である。DMD30に符号化パターンを表示すると、ON状態の画素(ミラー)31で反射された光は第1カメラ11に、OFF状態の画素(ミラー)32で反射された光は第2カメラ12に、それぞれ結像される。
【0026】
図3に、DMD表示パターンと各カメラの投影画像及び取得画像の例を示す。DMD30の各ピクセル(ミラー)はONとOFFのいずれかであり、ON/OFFによって第1/第2カメラに像が分配されるから、
図3に示すように、第1カメラ11に投影される符号化された撮像対象物(符号化像)と、第2カメラ12に投影される符号化像は、反転したパターン(ネガポジ反転)で符号化される。したがって、DMD30に結像した光は、第1カメラ11と第2カメラ12のどちらかに投影され、欠落する画素が生じることはない。なお、本実施形態では、DMDのON,OFF制御にランダムパターンを用いているが、アダマールパターンなどの直交規定も含め、任意のパターンを用いてよい。
【0027】
第2レンズ22は、DMD30のポジパターンで符号化された画像を、第1カメラ11に投影・結像する。また、第3レンズ23は、DMD30のネガパターンで符号化された画像を、第2カメラ12に投影・結像する。本発明においては、カメラ11,12で取得した画像から超解像で元の画像を得るものであり、レンズ22,23は、DMD30に表示した符号化パターンの画素サイズがカメラの画素サイズ以下になるように、符号化された撮像対象物の像を転送する。本実施形態では、符号化された撮像対象物の像を転送する画像転送手段としてレンズを用いたが、カメラに符号化像を転送し結像する手段として、他の光学素子を用いてもよい。
【0028】
第1カメラ(第1撮像部)11は、第2レンズ22で転送された、DMD30のポジパターンで符号化された画像を撮像する。また、第2カメラ(第2撮像部)12は、第3レンズ23で転送された、DMD30のネガパターンで符号化された画像を撮像する。なお、第1カメラ11と第2カメラ12のどちらがポジパターン、ネガパターンをそれぞれ撮像するかは、適宜設定することができる。
【0029】
ここで、
図3に示すように、カメラの画素サイズがDMD30の画素に対して縦横2倍(面積では4倍)の大きさを持っており、DMD30に対する第1カメラ11の位置関係と、DMD30に対する第2カメラ12の位置関係が相対的に同じであるとすれば、DMD30で符号化された像の4画素分の輝度和がカメラの各画素に入力され、低解像度画像が第1及び第2カメラ11,12でそれぞれ取得できる。これを複数回繰り返し、DMD30に表示するパターンを変えながら符号化画像を複数枚取得する。すなわち、第1カメラ(第1撮像部)11及び第2カメラ(第2撮像部)12は、符号化パターンで符号化された撮像対象物の像を、符号化パターンより解像度が低い低解像度画像として取得する。そして、第1及び第2カメラ11,12は、取得した低解像度画像の信号をそれぞれ制御演算処理装置40へ出力する。
【0030】
制御演算処理装置40は、撮像装置全体の制御を行うとともに、超解像のための演算処理を行う。具体的には、制御演算処理装置40は、DMD30の画素(ミラー)のパターンを制御する。また、制御演算処理装置40は、第1及び第2カメラ11,12で得られた低解像度画像(符号化画像)の画像データに基づいて、後述のとおり、高解像度画像の再構成のための演算処理を行い、高解像度の撮像対象物の像を生成する画像生成部として機能する。
【0031】
このように、本発明は、第1カメラ11のみでは符号化によって撮像対象物の情報を取得できない領域(OFF状態の画素)があっても、かならず第2カメラ12では当該領域の撮像対象物の情報が取得できる。これによって、圧縮センシングによって符号化パターンの枚数(あるいは撮影回数)を削減した際に、撮像対象物の情報をすべての低解像度画像で取得できずに再構成でエラーが生じる問題(
図19参照)が発生しない。また、一つのDMD符号化パターンで同時に2つ(ポジとネガ)の符号化画像を取得することができ、低解像度画像の取得を従来より高速に行うことができる。
【0032】
なお、
図1の撮像対象物は実像を図示しているが、撮像対象物としてはカメラで撮像できるものであればよく、実像体のみならず、干渉縞などの変調光でも良い。また、カメラ11,12やDMD30は紫外から近赤外までの幅広い波長に対応することができるため、可視光以外の領域でも適応可能である。
【0033】
図4は、第1の実施形態の変形例の撮像装置の光学系の概念図である。撮像装置は、
図1と同様に、第1及び第2カメラ(撮像素子)11,12と、第1~第3レンズ21~23と、DMD30と、制御演算処理装置40とを備えているが、カメラ11,12とDMD30の配置が
図1と異なっている。
【0034】
DMD30がマイクロミラーで構成されることから、撮像対象物に対して、第1カメラ11、第2カメラ12を、
図4のように同じ側(図では下側)に配置した光学系でもよい。このとき、DMD30では
図5のように画素(ミラー)のON,OFF動作が制御され、撮像対象物の像の符号化がされる。この場合も、DMD30に結像した光は、第1カメラ11と第2カメラ12のどちらかに投影され、欠落する画素が生じることはない。
【0035】
次に、高解像度画像の再構成について説明する。取得した符号化画像を、制御演算処理装置40で再構成計算することで、超解像された画像が再構成される。ここで、カメラ11,12で取得した低解像度画像を2次元画像(m, n)[画素数m×n]、DMD30に表示したパターン数をp、超解像された高解像度画像を2次元画像(M, N)[画素数M×N,M>m,N>n]とする。
【0036】
再構成計算においては、光学系を数式に当てはめると、
(低解像度符号化画像Y)=(カメラによるリサンプリングR)×(符号化パターンD)×(超解像された高解像度画像O)
が成り立つ。加えてDCTにより、
(取得した低解像度符号化画像Y)=(カメラによるリサンプリングR)×(符号化パターンD)×(DCT基底B)×(超解像された画像のDCT成分X)
と変換することができる。
【0037】
図6は、低解像度符号化画像から高解像度画像を推定する線型方程式を表す図である。画像を一次元信号にする(2次元画像の成分a
0,0~a
m-1,n-1を一列に配列する)と、低解像度符号化画像Yは、m×n行1列の行列{Y
1,…,Y
m×n}となる。また、超解像された高解像度画像Oは、M×N行M×N列のDCT基底Bと、M×N行1列の超解像された画像のDCT成分X={X
1, …,X
M×N}との積で表される。符号化パターンDは、DMDに表示する各画素のうち有効画素(反射ミラー)を1、無効画素(非反射ミラー)を0として、全画素を一次元信号にしたものをM×N行M×N列の行列の対角上に配列したものである。符号化された高解像度画像(M×N)がカメラの粗い画素により低解像度画像(m×n)として取得される過程は、カメラによるリサンプリングRとしてm×n行M×N列の行列(例えば、符号化画像2×2画素がカメラの1画素に対応する場合は、m×n行の各行に要素0.25が4つ配列される)として表される。したがって、低解像度画像と高解像度画像(画像のDCT成分)の変換は、
図6に示す線形な行列の積で表現できる。
【0038】
これを符号化パターンp枚分繰り返し、連立方程式にする。なお、1枚の符号化パターンで第1及び第2カメラがそれぞれ1枚ずつ低解像度画像を取得することができるので、低解像度符号化画像Yは合計2p枚取得できる。同様に、符号化パターンDもネガp枚+ポジp枚の合計2p枚を使用することになる。よって、符号化パターンD={D
1,…,D
2p}ごとに、第1及び第2カメラ11,12のそれぞれで取得した低解像度符号化画像Y={Y
1,…,Y
m×n×2p}を連立させることとなる。加えて、3つの2次元ベクトルR,D,Bをひとまとめにした超解像ベクトルA(=RDB)とすれば、光学系をY=AXと線形方程式で表現でき、Y及びAが既知であり、その2要素からX={X
1, …,X
M×N}を求める逆問題となる(
図7)。一般にM×N元連立方程式(すなわち未知数がM×Nの連立方程式)においては、条件式がM×N以上必要である。しかしながら、圧縮センシングを用いれば、解Xが疎(成分の多くがほぼ0に近い)である場合には条件式数が未知数未満でも求めることができる。本実施形態では、DCTにより画像を疎な解Xとしているため、これを適用した。なお、本実施形態では、画像をスパースな値である画素成分に変換する画像変換基底としてDCT基底(離散コサイン変換の二次元基底関数)を利用したが、これ以外にも、DWT基底(離散ウェーブレット変換の二次元基底関数)やDFT基底(離散フーリエ変換の二次元基底関数)などの画像変換基底を用いてもよい。
【0039】
圧縮センシングは、具体的には、LASSO(Least absolute shrinkage and selection operator)回帰と呼ばれる下記(1)式の最適化問題をADMM(Alternating Direction Method of Multipliers)法で解くことで解Xが得られる。最適化問題の解法アルゴリズムはいくつか存在し、ニュートン法や準ニュートン法、座標降下法やISTA(Iterative shrinkage - thresholding algorithm)、FISTA(Fast iterative shrinkage - thresholding algorithm)など、ADMM以外の手法を用いてもよい。
【0040】
【0041】
これを解き、最後に推定解Xを逆DCTすれば、超解像された高解像度画像が再構成できる。
【0042】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、DMD30の各画素(符号化像)と第1及び第2のカメラの各画素との位置関係は一定のままで、画像データを取得したが、第2の実施形態では、一方のカメラの位置をシフトして符号化像を撮像する。本実施形態では、符号化パターンの解像度に加えて、位置ずれ量を空間的な高解像度情報として利用することができる。
【0043】
図8は、第2の実施形態における、撮像装置の光学系の概念図である。撮像装置は、第1及び第2カメラ(撮像素子)11,12と、第1~第3レンズ21~23と、DMD30と、ステージ52と、制御演算処理装置40とを備えている。
図1に示す第1の実施形態と比較して、第2カメラ12にステージ52が取り付けられており、ステージ52が制御演算処理装置40で制御されることが異なっている。他の構成は第1の実施形態と同じであるので、説明を省略する。
【0044】
ステージ52は第2カメラ12に取り付けられ、第2カメラ12に入射する符号化像の位置を制御演算処理装置40からの命令により指定量分だけ空間的にシフトさせる。なお、
図8ではステージを第2カメラ12に取り付けているが、ステージを第1カメラ11に取り付けて、第1カメラ11をシフトさせてもよい。
【0045】
また、
図9は、第2の実施形態の撮像装置の別の光学系の概念図である。撮像装置は、第1及び第2カメラ(撮像素子)11,12と、第1~第3レンズ21~23と、DMD30と、光路変調素子62と、制御演算処理装置40とを備えている。
【0046】
図9のように、DMD30と第2カメラ12の間に光路変調素子62を挿入して、パターンごとに制御演算処理装置40からの命令に基づいて光路を変調して符号化像をシフトさせることで、異なる空間解像度で符号化像を撮像できる装置でもよい。ここで、光路変調素子62としては、ガラス等の透過物をアクチュエーターによって傾けることで光路をシフトさせるものや、電界によって屈折率変化が生じる透過型の液晶変調素子を用いることで実現できる。あるいは、制御演算処理装置40を用いずに、マイクロメーターなどが付いた手動ステージを用いてもよい。
【0047】
図10は、符号化像に対して2台のカメラ間で相対的な位置ずれをさせた例を示す図である。左側が第1カメラ11の画素と符号化像の位置関係を示しており、右側が第2カメラ12の画素と符号化像の位置関係を示している。
【0048】
第1カメラ11においては、第1カメラ11の画素内に符号化パターン(符号化像)16×16画素がおさまるような位置関係に調整されている。一方、第2カメラ12においては、同様に第2カメラ12の1画素と符号化パターン16×16画素が対応するが、第1カメラ11と符号化像の位置関係に対して、縦と横の各方向に符号化パターンの1,2,4,8画素ずつ位置をシフトして符号化像を撮像する場合がそれぞれ例示されている。
【0049】
このような位置シフトを含んだ光学系においては、再構成計算に用いる光学系の線形表現は、
(低解像度符号化画像Y)=(カメラによるリサンプリングR)×(位置シフト量S)×(符号化パターンD)×(超解像された高解像度画像O)
となる。加えてDCTにより、
(取得した低解像度符号化画像Y)=(カメラによるリサンプリングR)×(位置シフト量S)×(符号化パターンD)×(DCT基底B)×(超解像された画像のDCT成分X)
と変換することができる。
【0050】
位置シフト量を示すベクトルSについて、
図11を用いて簡単に説明する。例えば、符号化パターン(符号化像)を、X,Y方向にそれぞれ1画素ずつ(右下方向に)シフトした場合を想定する。符号化像の各画素(a1,a2,a3,…,c1,c2,c3,…)は、2次元では移動後にX,Y方向にそれぞれ1画素ずつずれるが、これを1次元信号で表現すると移動後に各画素は1列の中で行の位置がシフトする(
図11の左図参照)。このシフトを実現する位置シフトベクトルSは、移動後の画素位置の行に対応する行において移動前の画素位置に対応する列の要素が1(同行の他の要素は0)である行列となる(
図11の右図参照)。このような位置シフトベクトルSを、上式の位置シフト量Sとして用いればよい。
【0051】
位置ずらしが無い場合と同様に、上式において各ベクトルR,S,D,Bをひとまとめにした超解像ベクトルA(=RSDB)を用いれば、光学系をY=AXと線形方程式で表現でき、YとAからXを推定する逆問題となり、推定したXを逆DCTすれば、超解像された高解像度画像が再構成できる。
【0052】
(第1及び第2の実施形態の検証)
第1の実施形態及び第2の実施形態における超解像の検証を、実際に画像を用いて行った。(M, N)=(96, 96)の画像を原画像(=超解像で復元する画像)として用意し、(m, n)=(6, 6)としてダウンサンプリングした。すなわち縦横各16倍の超解像となり、一般的な画素ずらしなどによる超解像においては、16×16=256枚の低解像度画像が必要となる。本実施形態においては、すべてパターン数p=128枚での条件で超解像のシミュレーションをした。
【0053】
画質はPSNR(Peak Signal To Noise Ratio)にて評価した。PSNRは、MSE(Mean Squared Error)を用いた下記の式(2),(3)からなり、高い値をとるほどより原画像に近い画像が再構成されていることがわかる。なお、下記式において、MAXは原画像Iの中で最大の画素値、uとvはそれぞれ原画像I及び超解像画像I’の縦と横の画素数で、iとjは画像内の任意の画素位置を示す。
【0054】
【0055】
【0056】
画素数96×96のランダムな符号化パターンを用意し、128種類のパターンで取得した低解像度画像から画像を生成した。まず、第1カメラ11のみを用いて128枚の低解像度画像から再構成した結果、PSNRは25.8dBであった。
【0057】
次に、第1カメラ11と第2カメラ12で取得した合計256枚の低解像度画像から超解像をした。その際、第1カメラ11においては、第1カメラ11の画素内に符号化パターン16×16画素がおさまるような位置関係に調整されているのに対し、第2カメラ12においては縦と横の各方向に符号化パターンの0,1,2,4,8画素ずつ位置をシフトして符号化像を撮像していく場合について検証した(
図10参照)。
結果は、表1のとおりである。
【0058】
【0059】
シフト量が大きくなるにしたがって、画質が向上した。第2カメラ12におけるずれ量がない(0画素)場合には、取得できる符号化画像が256枚と倍になることで画質が若干改善するが、それに加えて第2カメラ12のずれを加えることで画質が大幅に改善した。これは、相対的な位置をずらした配置をすることで、符号化パターンの解像度に加えて、位置ずれ量を空間的な高解像度情報として光学系でエンコードできるためである。特に、第1カメラ11と第2カメラ12間のずれ量を、カメラ画素の半分の値である符号化パターンの8画素分にすると最も画質が高くなる。位置ずれ量が1画素の場合には、位置ずれによる高解像度情報がカメラ画素の周辺部のみにしか寄与しないが、8画素になるとカメラ画素全域に位置ずれによる高解像度情報をエンコードできるためである。
【0060】
(第3の実施形態)
第3の実施形態は、符号化時の高解像度情報として、符号化像・カメラ間におけるパターンごとの位置シフトをエンコードに加えた場合である。
【0061】
図12は、第3の実施形態における、撮像装置の光学系の概念図である。撮像装置は、第1及び第2カメラ(撮像素子)11,12と、第1~第3レンズ21~23と、DMD30と、ステージ51,52と、制御演算処理装置40とを備えている。
図1に示す第1の実施形態と比較して、第1カメラ11にステージ51が、また、第2カメラ12にステージ52が取り付けられており、ステージ51,52が制御演算処理装置40で制御されることが異なっている。他の構成は第1の実施形態と同じであるので、説明を省略する。
【0062】
図12に示すように、ステージ51,52により、カメラ画素の縦及び横方向に任意のシフトをできるようにし、パターンごとにカメラの位置を変えることで符号化像を異なる空間解像度(異なる相対的な位置関係)で撮像できる装置とする。
【0063】
また、
図13は、第3の実施形態における、撮像装置の別の光学系の概念図である。撮像装置は、第1及び第2カメラ(撮像素子)11,12と、第1~第3レンズ21~23と、DMD30と、ステージ53と、制御演算処理装置40とを備えている。
図1に示す第1の実施形態と比較して、DMD30にステージ53が取り付けられており、ステージ53が制御演算処理装置40で制御されることが異なっている。他の構成は第1の実施形態と同じであるので、説明を省略する。
【0064】
図13に示すように、ステージ53により、DMD(光変調器)を任意の位置にシフトできるようにし、パターンごとにDMD30の位置を変えることで、各カメラで撮像する符号化像を異なる空間解像度で撮像できるようにする。
【0065】
また、
図14は、第3の実施形態における、撮像装置の更に別の光学系の概念図である。撮像装置は、第1及び第2カメラ(撮像素子)11,12と、第1~第3レンズ21~23と、DMD30と、光路変調素子61,62と、制御演算処理装置40とを備えている。
図1に示す第1の実施形態と比較して、DMD30と第1カメラ11の間に光路変調素子61を配置し、DMD30と第2カメラ12の間に光路変調素子62を配置して、光路変調素子61,62を制御演算処理装置40で制御することが異なっている。他の構成は第1の実施形態と同じであるので、説明を省略する。
【0066】
図14に示すように、光路変調素子61,62を挿入して、パターンごとにDMD30からカメラ11,12に至る光路を変調して符号化像をシフトさせることで、異なる空間解像度で符号化像を撮像できる装置としてもよい。
【0067】
制御演算処理装置40からの命令により、各ステージ51~53又は光路変調素子61,62を指定量分だけ位置シフトさせる。この位置シフト量を用いて光学系を線形表現した最適化問題を第2の実施形態と同様に設定し、逆問題を解く。そして推定解を逆DCTすることにより、高解像度画像が再構成できる。
【0068】
なお、本実施形態では制御演算処理装置40によるステージ等の制御を行ったが、制御演算処理装置40を用いずに、マイクロメーターなどが付いた手動ステージを用いてもよい。
【0069】
(第3の実施形態の検証)
光路変調素子を利用して、符号化パターンごとに位置をシフトさせた第3の実施形態について、第1、第2の実施形態と同様にシミュレーションで検証した。第1、第2の実施形態と同様に縦横各16倍の超解像を行った。128枚の符号化パターンを使って低解像度画像を取得する際に、第1カメラ11及び第2カメラ12を1パターンごとに異なる位置にシフトさせて撮像する。位置シフトのピッチによって取得できる符号化画像の空間解像度が変わる。
【0070】
図15は、符号化像に対して2台のカメラ間で一定の相対的な位置ずれをさせながら、符号化パターンごとにカメラと符号化像の位置関係を変える例を示す図である。
図15に示すように、位置シフトさせる前の状態(すなわち、最初の符号化パターン)として、第1カメラ11では符号化パターン16×16画素がカメラ画素1×1と同位置になるように配置したのに対し、第2カメラ12では符号化パターンが縦横にそれぞれ1画素ずれているように配置した。また、符号化パターンごとにカメラと符号化像の位置関係を変えて低解像度画像を取得する際に、符号化像に対する第1カメラ11及び第2カメラ12の相対的な位置ずれ量が常に同量(
図15では、常に縦横1画素のずれ)となるようにした。
【0071】
画素数96×96のランダムな符号化パターンを用意し、128種類のパターンで取得した低解像度画像から画像を生成した。まず、第1カメラ11のみを用いて128枚の低解像度画像から再構成した結果、PSNRは25.0dBであった。
【0072】
これに対し、シフトピッチ(第1及び第2カメラの相対的な位置ずれ量)を符号化パターンの0,1,2,4,8画素分として符号化パターンごとにランダムに位置移動させながら第1カメラ11と第2カメラ12を同時に使用して合計256枚の符号化像を取得していく場合について検証した。
結果は、表2のとおりである。
【0073】
【0074】
表2のとおり、第1及び第2カメラの相対的な位置ずれ量が大きいほど、再構成画像の画質が向上した。
【0075】
なお、本実施形態においてはトナー粉を用いた非特許文献1のように符号化パターンが固定された状態で(DMD30のパターンを固定して)、位置シフトさせて128枚の低解像度画像を取得してもよい。位置シフト量による情報を用いて、低解像度画像から高解像度画像を再構成することができる。
【0076】
(第4の実施形態)
第1~第3の実施形態においては、符号化パターンの画素単位での想定的な位置ずれをさせているため、再構成画像の解像度は符号化パターンの解像度と同等になる。しかしながら、2つのカメラの相対的な位置ずれ量を符号化パターンより細かくすると、符号化パターンより高い周波数の解像度情報をエンコードすることになり、符号化パターン以上の高解像度化ができる。第4の実施形態は、第1カメラ11と第2カメラ12における相対的な位置ずれ量を、符号化パターンの画素ピッチより小さく(狭く)するものである。
【0077】
符号化パターン以上の高解像度化ができることを確認するために、以下のシミュレーションをした。画素数96×96のランダムな符号化パターンの解像度を落とし、2×2画素を1シンボル(同じ表示状態)として解像度を48×48シンボルとした。まず、この符号化画像に対して、第1カメラ11のみで符号化画像を取得し再構成した場合には、再構成画像の画素数は96×96であるものの、実質的な画像の解像度は48×48(2×2画素単位で同じ画素値)となる。
【0078】
次に、カメラを2台使用し、
図16に示すように、第1カメラ11と符号化像の位置関係に対して、第2カメラ12では符号化像に符号化パターンのピッチより小さい単位でシフト量(相対的な位置ずれ)を与えて位置シフトさせ、低解像度画像を取得した。
【0079】
本実施形態においては、DMDの2×2画素を1シンボルとして解像度を48×48シンボルとした符号化パターンを用いたうえで、第1カメラ11ではカメラの1画素内に符号化パターン8×8シンボルがおさまるような位置関係にし、第2カメラ12では符号化パターンがカメラに対してDMD1画素分(符号化パターンの1/2ピッチ)ずれたように配置し、128枚の符号化パターンで検証した。
【0080】
図17に、符号化パターンよりも狭ピッチの相対的な位置ずれに基づいて再構成した画像の例を示す。(a)は、低解像度の符号化パターンを用い、第1カメラ11と第2カメラ12で符号化像に対する相対的な位置シフトなしで再構成した場合であり、(b)は、低解像度の符号化パターンを用い、第2カメラ12では符号化像に対して符号化パターンの1/2ピッチ分相対的な位置シフトをさせて再構成した場合である。再構成画像は、どちらも96×96画素の解像度で再構成している。
図17(a)に示すように、第1カメラ11と第2カメラ12で符号化像に対する位置ずれがない場合には、再構成画像は符号化画像に含まれる解像度(48×48シンボル)以上の解像度は得られず、画素数(96×96)で再構成をしても、実質的な解像度が低下していることがわかる。一方、
図17(b)を参照すると、第1カメラ11及び第2カメラ12で相対的に符号化パターンの画素ピッチより小さい単位で位置シフトをさせることで、符号化パターン以上の解像度の画像が再構成できることがわかる。
【0081】
なお、本実施形態では、符号化パターンより細かい相対的な位置ずれを第2の実施形態に適用した例であるが、第3の実施形態のような符号化パターンごとにカメラの位置シフトを行うシステムにも適用してもよい。
【0082】
(第5の実施形態)
図18に、第5の実施形態の撮像装置の光学系の概念図を示す。第1~第4の実施形態では、DMDを光変調器として使用しているが、本実施形態では、反射型の液晶光変調器を使用している。撮像装置は、第1及び第2カメラ(撮像素子)11,12と、第1~第3レンズ21~23と、PBS(Polarizing Beam Splitter:偏光ビームスプリッター)81と、BS(Beam Splitter:ビームスプリッター)82と、反射型液晶光変調器90と、制御演算処理装置40とを備えている。
【0083】
第1レンズ21は、撮像対象物から反射(又は放射)された光(像)を透過させる。半分の光はBS82によって図の下方向に反射されてしまうが、残りの半分の光はPBS81へ向かう。その光のうち、S偏光の光はPBS81によって図の下方向へ反射され、P偏光の光のみがPBS81を透過し、反射型液晶光変調器90に結像する。
【0084】
反射型液晶光変調器90は、制御演算処理装置40により制御され、任意の符号化パターンを表示する。P偏向の入射光は、符号化パターンのON部に照射された光はS偏光に変調され、一方、符号化パターンのOFF部に照射された光はP偏光のまま反射される。すなわち、反射型液晶光変調器90は、撮像対象物の像を空間的に強度変調する光変調器である。
【0085】
PBS81はP偏光を透過させ、反射型液晶光変調器90からのS偏光を図の上方向に反射し、第2レンズ22を通過して第1カメラ11方向に向かわせる。すなわち、P偏光の入射光のうち、反射型液晶光変調器90の符号化パターンのON部に照射された光はS偏光に変調され、PBS81で反射される。
【0086】
反射型液晶光変調器90で反射されたP偏光はPBS81を通過し、BS82によって2つに分離される。一方の光はBS82を透過するが、他方の光はBS82で図の上方向に反射し、第3レンズ23を通過して第2カメラ12方向に向かう。すなわち、P偏光の入射光のうち、反射型液晶光変調器90の符号化パターンのOFF部に照射された光はP偏向のまま反射されるため、PBS81を透過し、BS82で反射される。
【0087】
第1カメラ11は、PBS81で反射された像を撮像する。すなわち、第1カメラ11は、符号化パターンのON部に照射されて反射された符号化像(ポジ画像)を撮像できる。また、第2カメラ12は、BS82で反射された像を撮像する。すなわち、第2カメラ12は、符号化パターンのOFF部に照射されて反射された符号化像(ネガ画像)を撮像できる。第1及び第2カメラ11,12は、取得した低解像度画像の信号をそれぞれ制御演算処理装置40へ出力する。
【0088】
制御演算処理装置40は、撮像装置全体の制御を行うとともに、超解像のための演算処理を行う。具体的には、制御演算処理装置40は、反射型液晶光変調器90の画素のパターンを制御する。また、第1及び第2カメラ11,12で得られた低解像度画像(符号化画像)の画像データに基づいて、高解像度画像の再構成を行う演算処理を行う。
【0089】
本実施形態において、符号化パターンのシフトを行う場合には、第2~第4の実施形態と同様に、第1カメラ11、第2カメラ12、又は反射型液晶光変調器90、にステージを取り付ければよい。
【0090】
上記の各実施形態では、撮像装置の構成と動作について説明したが、本発明はこれに限らず、高解像度画像を生成する撮像方法として構成されてもよい。すなわち、撮像対象物の像を符号化パターンに基づいて空間的に強度変調する符号化ステップと、符号化パターンのポジパターンとネガパターンで符号化された撮像対象物の像を符号化パターンより解像度が低い低解像度画像として取得する低解像度画像取得ステップと、圧縮センシングにより低解像度画像よりも高解像度の撮像対象物の像を生成する画像生成ステップを備える撮像方法として構成されてもよい。
【0091】
上述の実施形態は代表的な例として説明したが、本発明の趣旨及び範囲内で、多くの変更及び置換ができることは当業者に明らかである。したがって、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形又は変更が可能である。例えば、実施形態に記載の各ブロック、各ステップ等に含まれる機能等は論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成ブロック、ステップ等を1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0092】
11 第1カメラ
12 第2カメラ
21 第1レンズ
22 第2レンズ
23 第3レンズ
30 DMD
40 制御演算処理装置
51~53 ステージ
61,62 光路変調素子
81 PBS
82 BS
90 反射型液晶光変調器