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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022192035
(43)【公開日】2022-12-28
(54)【発明の名称】皮膚に導電性物質を貼り付ける方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/257 20210101AFI20221221BHJP
【FI】
A61B5/257
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022096245
(22)【出願日】2022-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2021100397
(32)【優先日】2021-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】二宮 直哉
(72)【発明者】
【氏名】高田 信暁
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127LL01
4C127LL15
4C127LL30
(57)【要約】
【課題】皮膚に導電性物質を貼り付ける際に、より簡単に、より再現性良く貼り付けることのできる方法を提供する。
【解決手段】皮膚に導電性物質を貼り付ける方法であって、前記導電性物質と多孔質シートとの積層体を、前記皮膚と前記導電性物質とが当接するように、前記皮膚上に配置する配置ステップと、前記皮膚上に配置された前記積層体の前記皮膚と非接触の面側から、前記積層体へ水又はアルコール水溶液を供給する供給ステップと、を含み、前記供給ステップは前記積層体の前記皮膚と非接触の面側に着脱可能に備えられた供給部材により供給される、方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚に導電性物質を貼り付ける方法であって、
前記導電性物質と多孔質シートとの積層体を、前記皮膚と前記導電性物質とが当接するように、前記皮膚上に配置する配置ステップと、
前記皮膚上に配置された前記積層体の前記皮膚と非接触の面側から、前記積層体へ水又はアルコール水溶液を供給する供給ステップと、を含み、前記供給ステップは前記積層体の前記皮膚と非接触の面側に着脱可能に備えられた供給部材により供給される、方法。
【請求項2】
前記多孔質シートが、水溶性樹脂メッシュ層を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記多孔質シートが、水溶性樹脂ナノメッシュ層を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記多孔質シートが、網状基材を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記供給部材が、水又はアルコール水溶液を蓄えるための容器を備える、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記供給部材が、水又はアルコール水溶液を担持させた担持体を備える、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記供給部材が、噴霧装置を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は皮膚に導電性物質を貼り付ける方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブルな基材上にエレクトロニクスデバイスを形成する、フレキシブルエレクトロニクスが研究されており、生体への適用についても研究が進んでいる。
例えば、網状基材とポリビニルアルコール(PVA)系樹脂を主成分とするナノメッシュ層とが隣接して積層されたナノメッシュ積層体が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に開示されたナノメッシュ積層体は、エレクトロスピニング法により網状基材上に作成されたPVAナノファイバーのメッシュの一方の面に、導電性の金属等をコートしたものである。このナノメッシュ積層体を、所望の場所に戴置した後に水などを用いて貼り付けることで、導電性物質層が固定される。
固定された導電性物質層は、皮膚の変形等に追随し、関節等への適用が可能で、皮膚の電気信号をセンシングしたり、皮膚に電極からの刺激を与える電極や各種センサーへの配線等に使用することができる。
【0004】
更に、高分子化合物のナノファイバーから形成されるナノファイバー層と、該ナノファイバー層の一方の面側に配された基材層とを備えたナノファイバーシートを、対象物の表面に付着させるナノファイバーシートの付着方法が提案されている(特許文献2参照)。
特許文献2に開示された付着方法は、ナノファイバー層表面又は対象物表面を湿潤させた状態下で、ナノファイバーシートにおけるナノファイバー層側の面を対象物表面に当接させるという特徴を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2020/241685号
【特許文献2】特開2010-167780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
皮膚に導電性物質を貼り付ける方法の一例として、特許文献1に開示された方法が挙げられる。すなわち、ナノメッシュ積層体を所望の場所に載置した後に、水などを用いてPVAナノファイバーのような水溶性樹脂を溶解させることで皮膚表面に導電性物質を貼り付けるという方法である。
しかしながら、本手法を用いて皮膚表面に導電性物質を貼り付ける場合、ナノメッシュ積層体を所望の場所に載置するステップ、該ナノメッシュ積層体と水又はアルコール水溶液とを接触させるステップを含む必要がある。このように、貼り付けステップが多いため、より簡単に貼り付けられる方法が求められていた。
【0007】
皮膚に導電性物質を貼り付ける方法の他の例として、特許文献2に開示された方法を使用することも考えられる。
しかしながら、皮膚表面への導電性物質の貼り付けに本手法を適用すると、次のような問題が生じる。ナノメッシュ積層体を所望の場所に載置する前にナノメッシュ積層体表面を湿潤させる場合、ナノメッシュ積層体に含まれる水溶性樹脂が溶解し、ナノメッシュ積層体が壊れてしまい取り扱いが出来なくなるため、皮膚に貼り付けることが困難になってしまう。また、皮膚をあらかじめ湿潤させる場合も、ナノメッシュ積層体を皮膚に接触し
た際にナノメッシュ積層体に含まれる水溶性樹脂が溶解し、所望の場所に載置する際にずれが発生しやすくなるため、所望の場所に貼り付けることが困難になってしまう。
【0008】
本発明は、導電性物質を皮膚に貼り付ける際に初めて生じる、上記課題を解決するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく改良を重ね、導電性物質を皮膚に貼り付ける際に、供給部材を用いることで上記課題を解決できることを見出した。
【0010】
すなわち本発明は、以下のものを含む。
[1] 皮膚に導電性物質を貼り付ける方法であって、
前記導電性物質と多孔質シートとの積層体を、前記皮膚と前記導電性物質とが当接するように、前記皮膚上に配置する配置ステップと、
前記皮膚上に配置された前記積層体の前記皮膚と非接触の面側から、前記積層体へ水又はアルコール水溶液を供給する供給ステップと、を含み、前記供給ステップは前記積層体の前記皮膚と非接触の面側に着脱可能に備えられた供給部材により供給される、方法。
[2] 前記多孔質シートが、水溶性樹脂メッシュ層を含む、[1]に記載の方法。
[3] 前記多孔質シートが、水溶性樹脂ナノメッシュ層を含む、[2]に記載の方法。[4] 前記多孔質シートが、網状基材を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5] 前記供給部材が、水又はアルコール水溶液を蓄えるための容器を備える、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6] 前記供給部材が、水又はアルコール水溶液を担持させた担持体を備える、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7] 前記供給部材が、噴霧装置を有する、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、皮膚に導電性物質を従来の方法よりも簡単に貼り付けることができるようになり、更に所望の場所に容易に貼り付けられるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施形態の積層体を示す断面模式図である。
図2】一実施形態の供給部材を示す断面模式図である。
図3】一実施形態の供給部材に積層体を据付けた状態を示す断面模式図である。
図4】一実施形態を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0014】
本発明の一実施形態は、
皮膚に導電性物質を貼り付ける方法であって、
前記導電性物質と多孔質シートとの積層体を、前記皮膚と前記導電性物質とが当接するように、前記皮膚上に配置する配置ステップと、
前記皮膚上に配置された前記積層体の前記皮膚と非接触の面側から、前記積層体へ水又はアルコール水溶液を供給する供給ステップと、を含み、前記供給ステップは前記積層体の前記皮膚と非接触の面側に着脱可能に備えられた供給部材により供給される、方法である。
【0015】
図を用いて本実施形態を説明する。
図1~4に、本実施形態に係る断面模式図を示す。
【0016】
図1は、一実施形態の積層体を示す断面模式図である。
積層体100は、多孔質シート10上に、導電性物質層11が積層された構成を有する。また、多孔質シート10は、導電性物質層11に面する側に水溶性樹脂メッシュ層を有していてもよい。
【0017】
多孔質シート10は、液体や蒸気を透過できればその開孔率は特に限定されないが、短時間での貼付けのためには水、アルコール水溶液、水蒸気、アルコール蒸気などの透過率を高くするため、開孔率が55%~80%が好ましい。
一方、転写する導電性物質層のパターンに正確さを求められる場合、例えば抵抗値を測定するような場合や、転写されるパターンに細かい部分がある場合、例えば転写されるパターンの一部に太さが2mm以下、特に1mm以下の幅しかないような部分がある場合には、パターンを正確に転写するため、貼り付け時に積層体、特に導電性物質層にかかる圧力が分散し、積層体、特に導電性物質層へのダメージを抑制するため、基体の多孔質シートの開孔率は10%以上45%以下が好ましく、40%以下がより好ましく、35%以下がさらに好ましい。
【0018】
多孔質シート10の材質は特に限定されないが、一般的に用いられる熱可塑性樹脂が挙げられ、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエステルなどの熱可塑性樹脂が挙げられる。好ましくはポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂である。また、多孔質シートにポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリルアミド、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリデン(PVP)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)のような水溶性樹脂を含ませることで、接着性を付与することができる。
【0019】
多孔質シート10は、水溶性樹脂メッシュ層を有していてもよい。すなわち、多孔質シートは、水溶性樹脂メッシュ層を含んでもよい。積層体100において、多孔質シート10と導電性物質層11との間に水溶性樹脂メッシュ層を有していることが好ましい。水溶性樹脂メッシュ層を設けることによって、皮膚に導電性物質を貼り付けた際の接着硬度が高まる。
水溶性樹脂メッシュ層に用いられる水溶性樹脂としては、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリルアミド、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリデン(PVP)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)などがあげられ、PVAが好ましい。PVAは水酸基、酢酸基、アセトアセチル基などを導入した、変性PVAであってもよい。
【0020】
水溶性樹脂メッシュ層は、特許文献1に記載されているような、ナノメッシュ層であることが好ましい。すなわち、多孔質シートは、水溶性樹脂ナノメッシュ層を含むことが好ましい。水溶性樹脂メッシュ層がナノメッシュ層であることによって、水やアルコール水溶液等が水溶性樹脂ナノメッシュ層に接触する際に、層の表面だけでなく内部までより速やかに浸透するため、水溶性樹脂ナノメッシュ層の溶解速度が高まるためである。その結果、皮膚に導電性物質が速やかに貼り付くという効果が得られる。
【0021】
また、多孔質シート10は、引用文献1に記載されているような網状基材を含むことが好ましい。多孔質シートが網状基材を含むことによって、供給部材に積層体を据付けやすくなる上、据付後の積層体が歪みを生じにくくなる。その結果、所望の場所に貼り付けることが容易であり、且つ貼り付けの際に歪みを生じにくくなる。
網状基材の材質は特に限定されないが、一般的に用いられる熱可塑性樹脂が挙げられ、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエステルなどの熱可塑性樹脂が挙げられる。好ましくはポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂である。
網状の形状としては、格子形状であってよく、網状の格子形状としては、例えば60°千鳥型、各千鳥型、並列型、長丸穴千鳥型、長丸穴並列型、角穴千鳥型、角穴並列型、六角形60°千鳥型、長角穴千鳥型、長角穴並列型などが挙げられる。なかでも、水やアルコール水溶液等の浸透性の点で、角穴並列型が好ましい。
【0022】
導電性物質層11は、導電性材料からなる。導電性材料は、導電性を有する限り特段限定されないが、電気信号の伝達の妨げにならない程度に体積抵抗率が低いことが望まれる。また、導電性材料の体積抵抗率が低いと、導電性物質層を厚くしても抵抗値が所望の範囲に収まりやすいことから、導電性物質層の抵抗値を所望の範囲に保ちつつ耐久性を向上させることができる。導電性材料の体積抵抗率は、通常は1×1012Ωcm以下であり、より好ましくは1×10Ωcm以下であり、特に好ましくは1×10-1Ωcm以下である。また、通常は1×10-6Ωcm以上である。
【0023】
具体的には金、白金、銀、塩化銀、銅、チタン、パラジウム、クロム又はコバルト等の金属あるいはその合金、カーボン(炭素)等を用いることができ、導電性材料を透明にしたい場合にはITO(酸化インジウムスズ)を使用してもよい。これ以外の、酸化ニッケル、酸化スズ、酸化インジウム、インジウム-ジルコニウム酸化物(IZO)、酸化チタン、又は酸化亜鉛等の導電性金属酸化物を使用してもよい。ポリチオフェン誘導体にポリスチレンスルホン酸をドーピングしたPEDOT:PSSや、ポリチオフェン誘導体にパラトルエンスルホン酸をドーピングしたPEDOT:PTS、ポリピロール又はポリアニリン等にヨウ素等をドーピングした導電性高分子材料を用いてもよい。これらのうち、生体への適用を考慮すると、金、カーボン、チタン、PEDOT:PSS、およびPEDOT:PTSが好ましく、特に好ましくは金である。
【0024】
多孔質シート10上への導電性物質層11の形成方法は特に限定されない。例えば、蒸着法や、スパッタリング法などにより導電性物質層11を形成することで、製造され得る。
【0025】
導電性物質層11の厚さは目的に応じて適宜設定すればよく、特段限定されないが、通常5nm以上であり、10nm以上であってよく、また通常2μm以下であり、1μm以下であってよく、500nm以下であってよい。また、膜厚方向の抵抗値は電気信号の伝達の妨げにならない程度に低い事が望まれ、通常は1000Ω以下であり、より好ましくは500Ω以下であり、特に好ましくは200Ω以下である。また、面内方向の抵抗も低いほうが望ましく、シート抵抗は通常は10000Ω/以下、好ましくは1000Ω/以下、特に好ましくは、1000Ω/以下である。
【0026】
導電性物質層11は、好ましくは網目状の導電性物質層である。導電性物質層11が網目状であることで、生体皮膚上に導電性物質を貼り付けた際に、通気性が向上するという効果が得られる。更に、網目状であることによって導電パスが増加するため、完全に断線するリスクを低減できるという効果が得られる。網目状の導電性物質層の面方向断面における空隙率は特に限定されないが、通常90%以下であり、70%以下であってよく、50%以下であってよい。
【0027】
なお、本形態は多孔質シートと導電性物質層との積層体であるが、多孔質シートと導電性物質が一体化された形態であってもよい。例えば、導電性物質層を構成する網目構造に水溶性樹脂の繊維を含ませることで、多孔質シートと導電性物質が一体化された導電性物
質/水溶性樹脂シートとしてもよい。
【0028】
図2は、一実施形態の供給部材を示す断面模式図である。
供給部材200は、積層体の据付部20を有する。更に、容器21や、担持体22を有していてもよい。
据付部20は、導電性物質と多孔質シートの積層体の多孔質シート側に、着脱可能に据付部を据付ける据付機構と、皮膚への導電性物質の貼付時に、積層体に対し水又はアルコール水溶液を供給することができる供給機構を有する。供給部材がこのような据付部を有することによって、従前は皮膚に導電性物質を貼り付ける際に積層体を所望の場所に載置するステップ、該積層体と水又はアルコール水溶液とを接触させるステップを含む必要があったところ、この二つのステップを一つの動作で行うことができる。その結果、導電性物質を多数貼り付ける際に必要な時間が大幅に短縮される。
【0029】
水又はアルコール水溶液の供給機構は特に限定されないが、例えば供給部材に水又はアルコールを担持することのできる担持体を備え、該担持体に積層体を接触させて水又はアルコールを供給する機構や、供給部材に噴霧装置を備え、水又はアルコールを噴霧する機構などが挙げられる。
【0030】
担持体22は、水又はアルコール水溶液を担持するための部材である。例としては、布やスポンジといったものが挙げられる。担持体の単位体積あたりの担持可能な水又はアルコール水溶液の質量が大きい点で、スポンジが好ましい。スポンジは天然スポンジであっても、ウレタンスポンジやゴムスポンジのような合成スポンジであってもよい。
【0031】
噴霧装置は、水又はアルコール水溶液を噴霧するための部材である。水又はアルコール水溶液の供給手段として噴霧装置を用いることによって、積層体全体を少量の水又はアルコール水溶液によって湿潤させることができる。
【0032】
皮膚上に配置された積層体の単位面積(1cm)あたりに供給される、水又はアルコール水溶液の供給量は、積層体を皮膚に貼り付けるために十分な量であれば特段限定されないが、通常1mg以上、好ましくは2mg、より好ましくは3mg以上であり、通常15mg以下、好ましくは12mg以下、より好ましくは10mg以下である。水又はアルコール水溶液の供給量をこの範囲にすることで、積層体に含まれる水溶性樹脂が水又はアルコール水溶液に溶解し、皮膚に接着することができる。また、水又はアルコール水溶液の供給量を10mg以下とすることで、貼り付け後の乾燥が早まるため、装着者の負担が軽減されるという効果が得られる。
【0033】
据付部の材質や構造は、据付機構により積層体と供給部材とを着脱可能に備えられる限り特に限定されない。据付機構としては、積層体と供給部材とを、ネジ機構により嵌合することで着脱可能としてもよく、一方の部材に設けられたリブを他方の部材に引っかけて嵌合することで着脱可能としてもよい。据付部は据付面に対して垂直な方向に、クッション性を有することが好ましい。据付部が該クッション性を有することで、皮膚に導電性物質を貼り付ける際に、積層体に加わる力が適切な大きさになるため、貼り付けの再現性が高まるという効果が得られる。更に、据付部が該クッション性を有することによって、担持体と据付部に据付けられた積層体を接触させることが容易になる。据付部にエラストマーや発泡体を用いたり、据付部の部品の一部に弾性体を用いることによって、据付部にクッション性を付与することができる。
【0034】
容器21は、水やアルコール水溶液等を蓄えるための部材である。容器の材質は特に限定されないが、一般的に用いられる熱可塑性樹脂が挙げられ、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエステルなどが挙げられる。容器を
有することによって、導電性物質を連続して皮膚に貼り付ける際の作業性が増す。
【0035】
図3は、本発明の一実施形態を示す断面模式図である。
供給部材に積層体を据付けた状態300においては、据付部32に、導電性物質層31と多孔質シート30の積層体が、積層体の多孔質シート側が据付部に当接するように据付部の据付機構によって据付けられる。また、据付部は、積層体に対し水又はアルコール水溶液を供給することができる供給機構として、担持体34を有する。更に、容器33から、担持体に水又はアルコール水溶液が供給される。
【0036】
図4は、本発明の別の実施形態を示す断面模式図である。
供給部材に噴霧装置を備えた一実施形態400においては、据付部42に、導電性物質層41と多孔質シート40の積層体が、積層体の多孔質シート側が据付部に当接するように据付部の据付機構によって据付けられる。また、据付部は、積層体に対し水又はアルコール水溶液を供給することができる供給機構として、噴霧装置44を有する。更に、容器43から、噴霧装置に水又はアルコール水溶液が供給される。
本実施形態においては、皮膚46と導電性物質とが当接するように導電性物質と多孔質シートの積層体が皮膚上に配置され、積層体が皮膚に押し当てられた状態で噴霧装置によって水又はアルコール水溶液が積層体に供給される。噴霧された水又はアルコール水溶液45が積層体の皮膚と非接触の面に接触し、積層体の内部に浸透することで積層体全体が湿潤する。
【実施例0037】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の範囲が実施例の記載により限定されないことはいうまでもない。
【0038】
(実施例1)
〔多孔質シートの作成〕
網状基材(開孔率26%、角穴並列型網、ポリプロピレン製、厚さ240μm)をカトーテック社製ドラム型エレクトロスピニング装置のナノメッシュ形成部(ドラム上)に装着した。
【0039】
水溶性樹脂としてPVA(未変性、ケン化度88モル%、10重量%水溶液粘度860mPa・s)を用いた。かかるPVAを純水に溶解させ、10重量%のPVA水溶液を作製し、紡糸液とした。
上記で準備した網状基材を設置したエレクトロスピニング装置に、かかる紡糸液を4mL、シリンジ中に投入し、シリンジ先端のノンベベル針18G(テルモ社製)に電極を取り付けて、エレクトロスピニングにより繊維径260nm、目付量1.1g/mの水溶性樹脂ナノメッシュ層を製膜し、多孔質シートを得た。エレクトロスピニング装置の設定は以下の通りである。
【0040】
<ナノメッシュ層の製膜条件>
Target speed:5m/min
Traverse speed:10cm/min
シリンジ speed:0.10~0.15mm/min
電圧:15~20kV
成膜時間:30min
【0041】
上記で製造した多孔質シートの水溶性樹脂ナノメッシュ層側に、4mm×30mmの開口部を2.5mm間隔で3箇所設けたメタルマスクを載置した状態で、ULVAC社真空蒸着機EX-400により、前記開口部に厚さ100nmとなるように蒸着時間を調整し
、金薄膜(導電性物質層)を形成し、3.5×3cmの導電性物質付きの積層体を得た。
【0042】
〔皮膚への貼付け性評価〕
図1で示したシートが着脱可能な据付け部、供給液を保有できる容器、および、供給液を担持することが可能な担持体で構成された供給部材を用意した。該供給部材に上記で得られた積層体を網状基材が据え付け部側となるようにセットした。また、該供給部材の供給液としてエチルアルコール80重量%、水20重量%で構成されたアルコール水溶液を使用した。また、該供給部材の担持体は多孔質シートを覆う面積(16cm)を有するスポンジで形成されている。
上記の供給部材にセットした積層体の導電性物質層側が、体温約36℃の被験者の前腕内側の比較的平らな位置のあらかじめ湿潤させていない皮膚に当接するように、積層体を皮膚上に配置し、約23℃の屋内環境において皮膚と非接触の面側から供給部材を通じてアルコール水溶液を100mg供給し、1分間押し付けた。その後、供給部材を皮膚からゆっくり離したところ、貼付け前後で導電性物質の形状が維持されており、良好な皮膚への密着状態が確認できた。
【0043】
(実施例2)
供給液を水100重量%、供給量を80mgとしたこと以外は実施例1と同様の方法により皮膚への貼付け性評価を行なった。実施例1と比較して乾燥速度が遅いためか局所的に導電性物質の剥離が見られたが、貼り付け前後で導電性物質の形状が維持されており、問題のない皮膚への密着状が確認できた。
【0044】
(比較例1)
あらかじめ水で湿潤させた被験者の皮膚であること以外は実施例1と同様の方法により皮膚への貼付け性評価を行なった。被験者の皮膚が湿潤した状態で皮膚上に積層体を配置したため、導電性物質が皮膚に固着する前に導電性物質の位置がずれてしまい、導電性物質の形状を維持して皮膚上に導電性物質を貼り付けることが出来なかった。
【符号の説明】
【0045】
100 積層体
10、30、40 多孔質シート
11、31、41 導電性物質層
200 供給部材
20、32、42 据付部
21、33、43 容器
22、34 担持体
300 供給部材に積層体を据付けた状態
400 供給部材に噴霧装置を備えた一実施形態
44 噴霧装置
45 噴霧された水又はアルコール水溶液
46 皮膚
図1
図2
図3
図4