(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022021115
(43)【公開日】2022-02-02
(54)【発明の名称】水素生成システム
(51)【国際特許分類】
C01B 3/04 20060101AFI20220126BHJP
B01J 35/02 20060101ALI20220126BHJP
B01J 23/652 20060101ALI20220126BHJP
【FI】
C01B3/04 A
B01J35/02 J
B01J23/652 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020124519
(22)【出願日】2020-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000221834
【氏名又は名称】東邦瓦斯株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】特許業務法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】水野 志穂
(72)【発明者】
【氏名】青木 修一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 大吾
(72)【発明者】
【氏名】天尾 豊
(72)【発明者】
【氏名】東 正信
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA01B
4G169BA48A
4G169BB06B
4G169BC12B
4G169BC16B
4G169BC50B
4G169BC58B
4G169BC71B
4G169CC33
4G169DA03
4G169EA01Y
4G169FA02
4G169FB07
4G169FB15
4G169FB27
4G169FB30
4G169HA01
4G169HB06
4G169HC02
4G169HD04
4G169HD22
4G169HE09
4G169HF05
(57)【要約】
【課題】
効率良く水素を生成することができるとともに、省エネルギー化に配慮した水素生成システムを提供すること。
【解決手段】
分解対象水Wが供給される分解槽11と、分解槽11の内部で分解対象水Wと接触する光触媒シート12と、光触媒シート12に光131を照射する光源13と、を備え、分解対象水Wを分解して水素を発生させる水素生成システム1において、排熱を利用して分解対象水Wを加熱するコージェネレーションシステム14を備えること。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分解対象の水が供給される分解槽と、前記分解槽の内部で前記水と接触する光触媒と、前記光触媒に光を照射する光源と、を備え、前記水を分解して水素を発生させる水素生成システムにおいて、
排熱を利用して前記水を加熱する加熱装置を備えること、
を特徴とする水素生成システム。
【請求項2】
請求項1に記載の水素生成システムにおいて、
前記加熱装置は、前記水を、常温超え、摂氏100度未満に加熱すること、
を特徴とする水素生成システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の水素生成システムにおいて、
前記加熱装置は、前記排熱を回収するコージェネレーションシステムであること、
前記分解槽には、熱交換器が接続されていること、
前記コージェネレーションシステムは、回収した前記排熱により、前記熱交換器を介して、前記水を加熱すること、
を特徴とする水素生成システム。
【請求項4】
請求項1または2に記載の水素生成システムにおいて、
前記加熱装置は、前記排熱を、温水として回収するコージェネレーションシステムであること、
前記水は、前記温水であること、
を特徴とする水素生成システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分解対象の水が供給される分解槽と、分解槽の内部で水と接触する光触媒と、光触媒に光を照射する光源と、を備え、水を分解して水素を発生させる水素生成システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
我が国では、水素ステーションの普及が進んでいることや、水素と二酸化炭素を反応させることで都市ガス等に利用するメタンを生成可能であること等を背景として、水素の需要が増大しつつある。
【0003】
水素を生成する方法として、天然ガスから水素を取り出す方法が考えられる。しかし、昨今、環境問題への対応のために低炭素社会が目標とされており、さらに究極的には脱炭素社会が目標とされていることを考慮すると、天然ガスから水素を取り出す方法は、天然ガスから水素を取り出す際に二酸化炭素の排出がなされる点が好ましくない。したがって、二酸化炭素を可能な限り排出せずに水素を生成する方法が望まれている。
【0004】
二酸化炭素を排出せずに水素を生成する方法としては、水を分解して水素を生成する方法が考えられる。例えば、水を電気分解することで水素を生成する方法や、光触媒を利用して水を分解する方法が挙げられる。水を電気分解することで水素を生成する方法は、水を電気分解するために、電力や電気分解装置が必要である。一方で、光触媒を利用する方法は、水と光触媒があれば水を分解することができるため、電力や電気分解装置が不要である。よって、光触媒を利用して水を分解する方法は、より低コストで簡便に水素を生成することができる方法として、注目を集めており、水素の発生効率を可能な限り増大させるための研究開発が続けられている。光触媒を用いて水素を生成する方法としては、例えば、特許文献1に開示される方法が知られている。
【0005】
他方、エネルギー資源に乏しい我が国においては、エネルギーを安定的に供給することができる方策が必要である。そのような中、エネルギー効率を向上させ、省エネルギー化を達成するため、産業機器の排熱等の未利用エネルギーの活用が注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、光触媒により水を分解して得られる水素の量は微量であるという課題があった。例えば、アルミニウム(Al)をドープしたチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)に、助触媒としてロジウムクロム複合酸化物(RhCrOx)を担持させたもの(RhCrOx/SrTiO3:Al)を光触媒とし、当該光触媒を水に分散させる。そして、光触媒を分散させた水に対し、当該水を常温(摂氏20度)とした状態で、キセノンランプによる光(波長λ>300nm)の照射を行う。このような条件下で得られる水素の量は、水を100mlとすれば、60分間で230μmolと微量である。よって、より効率的に水素を生成することができるシステムが望まれている。
【0008】
また、省エネルギー化の観点からは、ガスエンジン、ディーゼルエンジン等の発電機から排出される摂氏90度から150度程度の中低温排熱は、多くが廃棄されているのが現状である。省エネルギー化を達成のため、中低温排熱の利用が期待されている。
【0009】
本発明は、上記問題点を解決するためのものであり、効率良く水素を生成することができるとともに、省エネルギー化に配慮した水素生成システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の水素生成システムは、次のような構成を有している。
(1)分解対象の水が供給される分解槽と、分解槽の内部で水と接触する光触媒と、光触媒に光を照射する光源と、を備え、水を分解して水素を発生させる水素生成システムにおいて、排熱を利用して水を加熱する加熱装置を備えること、を特徴とする。
【0011】
(1)に記載の水素生成システムによれば、効率良く水素を生成することができるとともに、省エネルギー化に配慮した水素生成システムとすることができる。
【0012】
出願人は、分解対象となる水を加熱した状態で光触媒による分解を行うと、常温で分解を行う場合に比べて、水分解活性が向上し、水素の生成速度が上昇することを実験により確認した。よって、水素生成システムにおいて、加熱装置によって分解対象の水を加熱することで、より効率的に水素を生成することができる。
【0013】
また、加熱装置は、排熱を利用して分解対象の水を加熱するものである。排熱とは、例えば、発電機の排熱等の未利用エネルギーであり、未利用エネルギーを活用することで、省エネルギー化に配慮した水素生成システムとすることが可能である。
【0014】
(2)(1)に記載の水素生成システムにおいて、加熱装置は、水を、常温超え、摂氏100度未満に加熱すること、を特徴とする。
【0015】
(2)に記載の水素生成システムによれば、効率良く水素を生成することができるとともに、省エネルギー化に配慮した水素生成システムとすることができる。
【0016】
出願人は、分解対象の水の温度が常温を超えると、水分解活性が向上していき、摂氏60度における水素の生成速度が、常温下における水素の生成速度の約2倍となり、摂氏90度における水素の生成速度が、常温下における水素の生成速度の約3倍となることを実験により確認した。さらに、出願人は、分解対象の水は、温度が摂氏100度以上になると蒸発が著しく進み、水素を生成する効率が却って低下するおそれがあることを実験により確認した。よって、加熱装置により、分解対象となる水を、常温超え、摂氏100度未満に加熱することが望ましい。
【0017】
また、分解対象の水を常温超え、摂氏100度未満に加熱するために用いられる排熱には、摂氏90度から150度程度の中低温排熱が適切である。多くが廃棄されている中低温排熱を利用することができるため、未利用エネルギーを有効に活用することができるという点で、省エネルギー化に配慮した水素生成システムとすることができる。
【0018】
(3)(1)または(2)に記載の水素生成システムにおいて、加熱装置は、排熱を回収するコージェネレーションシステムであること、分解槽には、熱交換器が接続されていること、コージェネレーションシステムは、回収した排熱により、熱交換器を介して、水を加熱すること、を特徴とする。
【0019】
(3)に記載の水素生成システムによれば、省エネルギー化に配慮した水素生成システムとすることができる。例えば、内燃機関としてガスエンジンを用いたコージェネレーションシステムであれば、ガスエンジンの排熱を蒸気や温水として回収することができる。コージェネレーションシステムにより回収した排熱を用い、熱交換器を介して分解対象の水を加熱することとすれば、未利用エネルギーの有効活用することができ、省エネルギー化に配慮した水素生成システムとすることができる。
【0020】
(4)(1)または(2)に記載の水素生成システムにおいて、加熱装置は、排熱を、温水として回収するコージェネレーションシステムであること、水は、温水であること、を特徴とする。
【0021】
(4)に記載の水素生成システムによれば、省エネルギー化に配慮した水素生成システムとすることができる。例えば、内燃機関としてガスエンジンを用いたコージェネレーションシステムであれば、ガスエンジンの排熱により加熱された温水を回収することができる。当該温水を分解対象の水として活用すれば、未利用エネルギーを有効活用することができ、省エネルギー化に配慮した水素生成システムとすることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の水素生成システムによれば、効率良く水素を生成することができるとともに、省エネルギー化に配慮した水素生成システムとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】第1の実施形態に係る水素生成システム1の構成を表す図である。
【
図2】第2の実施形態に係る水素生成システム1の構成を表す図である。
【
図3】光触媒による水の分解実験をするための実験装置の構成を表す図である。
【
図4】懸濁液が加熱された場合と、懸濁液が常温の場合の水素の発生量を比較したグラフである。
【
図5】懸濁液が加熱された場合と、懸濁液が常温の場合の水素の生成速度を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(第1の実施形態)
本発明の水素生成システムの第1の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0025】
図1は、第1の実施形態に係る水素生成システム1の構成を表す図である。水素生成システム1は、光触媒シート(光触媒の一例)12を内部に有する分解槽11と、光源13と、コージェネレーションシステム(加熱装置の一例)14と、熱交換器15と、からなり、光触媒シート12により水(H
2O)を分解して水素(H
2)を生成するためのシステムである。
【0026】
分解槽11は、密閉されており、内部空間112は外気と遮断されている。そして、内部空間112に分解対象の水(以下、分解対象水W)を貯水可能に形成されている。分解槽11は、少なくとも、後述する光源13が配置される側の端面111が、透明な樹脂やガラスにより構成されている。これにより、光源13から照射される光131は、端面111を透過し、内部空間112に達するようにされている。
【0027】
また、分解槽11には、給水源(不図示)から分解対象水Wを供給するための供給路16が接続されており、分解槽11に注水することができる。分解槽11内に貯水される分解対象水Wは、分解が進むにつれて、その量が減少していくため、給水源からは、連続的に分解対象水Wが供給される。そして、この分解対象水Wが連続的に供給される量は、分解対象水Wが分解される速度に応じて適宜調整される。なお、分解対象水Wとしては、上水や中水等、様々な水源から得られる水が考えられる他、下水から汚泥を取り除いた処理水を用いるものとしても良い。
【0028】
さらに、分解槽11には、貯水されている分解対象水Wを循環するための加熱回路17が接続されている。つまり、分解槽11の出力ポート113から加熱回路17に排出された分解対象水Wは、後述する熱交換器15を通り、分解槽11の入力ポート114から分解槽11の内部空間112に戻ることができるようになっている。また、分解対象水Wを分解して生成される水素を回収するための排出孔19を備えている。排出孔19から回収された水素は、例えば貯蔵タンク(不図示)に一時的に貯蔵された後、パイプラインや輸送車両により水素ステーション等に輸送され、エネルギーとして活用される。
【0029】
なお、分解対象水Wを分解する際には、水素とともに、酸素(O2)も生成されるため、排出孔19からは水素および酸素が排出される。よって、排出孔19に、例えば分離膜等を備える分離装置(不図示)を接続し、該分離装置によって水素と酸素を分離した上で、分離した水素を、上記のように、貯蔵タンクに一時的に貯蔵し、エネルギーとして利用することが考えられる。
【0030】
光触媒シート12は、例えば、ガラス基板の表面に粉末状の光触媒を固定化し、シート状に形成したものである。光触媒シート12は、光触媒が固定化された上端面121が、光131が透過してくる分解槽11の端面111に向いた状態で分解槽11の内部空間112に固定されている。そして、光触媒シート12は、少なくとも光触媒が固定化された上端面121が、分解槽11に注水される分解対象水Wと接触する。なお、光触媒としては、例えば、アルミニウム(Al)をドープしたチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)に、助触媒としてロジウムクロム複合酸化物(RhCrOx)を、含浸法により担持させたもの(RhCrOx/SrTiO3:Al)が用いられる。
【0031】
なお、光触媒は上記したものに限定されない。光触媒としては、例えば、TiO2,CaTiO3,SrTiO3,Sr3Ti2O7,Sr4Ti3O10,K2La2Ti3O10,Rb2La2Ti3O10,Cs2La2Ti3O10,CsLa2Ti2NbO10,La2TiO5,La2Ti3O9,La2Ti2O7,La2Ti2O7:Ba,KaLaZr0.3Ti0.7O4,La4CaTi5O17,KTiNbO5,Na2Ti6O13,BaTi4O9,Gd2Ti2O7,Y2Ti2O7等のチタン含有酸化物や、ジルコニア(ZrO2)や、K4Nb6O17,Rb4Nb6O17,Ca2Nb2O7,Sr2Nb2O7,Ba5Nb4O15,NaCa2Nb3O10,ZnNb2O6,Cs2Nb4O11,La3NbO7等のニオブ含有酸化物や、Ta2O5,K2PrTa5O15,K3Ta3Si2O13,K3Ta3B2O12,LiTaO3,NaTaO3,KTaO3,AgTaO3,KTaO3:Zr,NaTaO3:La,NaTaO3:Sr,Na2Ta2O6,K2Ta2O6,CaTa2O6,SrTa2O6,BaTa2O6,NiTa2O6,Rb4Ta6O17,Ca2Ta2O7,Sr2Ta2O7,K2SrTa2O7,RbNdTa2O7,H2La2/3Ta2O7,K2Sr1.5Ta3O10,LiCa2Ta3O10,KBa2Ta3O10,Sr5Ta4O15,Ba5Ta4O15,H1.8Sr0.81Bi0.19Ta2O7
,LaTaO4,La3TaO7等のタンタル含有酸化物や、CeO2:Sr,BaCeO3等のセリウム含有酸化物や、PbWO4,RbWNbO6,RbWTaO6等のタングステン含有酸化物や、(Ga1-xZnx)(N1-xOx),(Zn1+xGe)(N2Ox),LaMg1/3Ta2/3O2N,TaON等の酸窒化物等を用いることが考えられる。
【0032】
光源13は、例えば、キセノンランプが用いられ、光131として短波長の紫外線(例えば、波長λ>300nm)を発する。光源13から発せられた光131は、透明な分解槽11の端面111を透過し、光触媒シート12の光触媒が固定化された上端面121に照射される。
【0033】
光触媒シート12に固定化された光触媒は、分解対象水Wと接触しつつ、光131に照射されることで、分解対象水Wから水素と酸素(O2)を生成する。そして、生成された水素と酸素は、排出孔19から回収される。光触媒は、分解対象水Wと光131さえあれば半永久的に水素を生成することができるため、水を電気分解して水素を生成する方法と異なり、電力が必要ない。そのため、コストを抑えて簡便に水素を生成することができる。なお、光源13は、キセノンランプに限定されるものでなく、水銀ランプ、ハロゲンランプ、レーザ、太陽光等、使用する光触媒に応じて好適なものを選択しても良いし、これらの光源を組み合わせて用いることとしても良い。また、光触媒シート12に照射する光131としては、紫外線に限定されるものではなく、可視光線や赤外線の中・長波長の光を、使用する光触媒に応じて選択するものとしても良い。
【0034】
コージェネレーションシステム14は、例えば、発電機であるガスタービンやガスエンジン等の内燃機関141の排熱を、温水として回収するものである。温水は、例えば、ジャケット水循環路143を循環することで内燃機関141を冷却するジャケット水Jを熱源として、熱交換器142により加熱されたものである。温水の温度は、加熱により、摂氏約90度とされる。この摂氏約90度の温水は、いわゆる中低温排熱に該当する。また、コージェネレーションシステム14には、回収された排熱としての温水を熱媒Hとする熱媒回路18が接続されている。
【0035】
熱交換器15は、加熱回路17と熱媒回路18とが接続されており、加熱回路17を流れる分解対象水Wと熱媒回路18を流れる熱媒(温水)Hとの熱交換を行うものである。
【0036】
分解槽11の出力ポート113から加熱回路17に排出された分解対象水Wは、熱交換器15において、熱媒(温水)Hとの熱交換により、例えば摂氏90度に加熱される。そして、加熱された分解対象水Wは、入力ポート114から分解槽11に戻される。また、コージェネレーションシステム14から熱媒回路18に排出された熱媒(温水)Hは、熱交換器15において、熱媒(温水)Hとの熱交換により冷却される。そして、冷却された熱媒(温水)Hは、コージェネレーションシステム14に戻される。この冷却された熱媒Hとしての温水は、再度、コージェネレーションシステム14の内燃機関141のジャケット水Jを冷却するために用いることができる。
【0037】
熱交換器15において加熱された分解対象水Wにより、分解槽11内の分解対象水Wは、摂氏90度に保たれている。よって、光触媒シート12による分解対象水Wの分解は、分解対象水Wが摂氏90度の状態で行われる。分解対象水Wが摂氏90度の状態で分解を行うと、水素の生成速度が、常温下における水素の生成速度の約3倍となるため、効率良く水素を生成することができる。
【0038】
なお、分解槽11内の分解対象水Wの温度は、摂氏90度に限定されるものではなく、常温超え、摂氏100度未満の温度範囲のうちの任意の温度としても良い。当該温度範囲においては、分解対象水Wが常温である場合に比べて水素の生成速度が向上されるからである。分解対象水Wの温度が、常温超え、摂氏100度未満の温度範囲にある場合に、水素の生成速度が向上されることは、出願人が実験により確認した。
【0039】
以下に、出願人が行った実験について説明する。
図3は、光触媒による水の分解実験をするための実験装置7の構成を表す図である。実験装置7は、水槽71と、ホットスターラー72と、反応容器73と、光源74と、トラップ75とから構成される。
【0040】
反応容器73には、光が透過可能な容器であり、内部には懸濁液Sが入っている。当該懸濁液Sは、分解対象となる水100mLに対し、粉末状の光触媒(RhCrOx/SrTiO3:Al)を20mg加えた上、当該粉末状の光触媒を、超音波処理を1分間行うことで分散させたものである。光触媒が分散されているため、懸濁液Sは後述する光741の照射を受けることで、分解対象となる水を分解し、水素を発生する。
【0041】
なお、粉末状の光触媒は、以下のように生成した。まず、SrTiO3:Alを以下のように合成する。チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)を10mmol(1.8349g)、酸化アルミニウム(Al2O3)を0.2mmol(0.0204g)を測り取り、メノウ乳鉢で15分間よく混合し、さらにブロック状の塩化ストロンチウム(SrCl2) を100mmol(15.85g)加えて粉砕しながら15分間混合した粉末試料を作る。その後、当該粉末試料をアルミナるつぼに移し、蓋をしてから電気炉で摂氏1150度まで10℃/minで昇温し、10時間焼成した。焼成した後、室温まで冷ましてから、電気炉からアルミナるつぼを取り出し、洗液が中性付近になるまで粉末試料を水で洗浄した。その後、60 ℃で一晩乾燥させることで、SrTiO3:Alの合成が完了される。次に、合成したSrTiO3:Alに助触媒であるロジウムクロム複合酸化物(RhCrOx)を、以下のように、含侵法により担持させる。まず、Rh源にヘキサクロロロジウム酸ナトリウム(III) n 水和物(Na3RhCl6・nH2O)、Cr源に硝酸クロム九水和物(Cr(NO3)3・9H2O)を用い、Rh、Crともにメタルとして0.1 wt%となるように測りとる。そして、蒸発皿にチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、少量の水とともに加え、湯浴上で水が蒸発しきるまでガラス棒で撹拌した。その後、電気炉により350 ℃で1時間焼成した。こうして得られた試料が上記した粉末状の光触媒(RhCrOx/SrTiO3:Al)である。
【0042】
また、反応容器73内には、攪拌子761が投入されている。当該攪拌子761は、スターラー76によって回転され、懸濁液S中の光触媒の粉末を均等に分散させる。
【0043】
さらにまた、反応容器73は、入力孔731および出力孔732を備えている。入力孔731からは懸濁液Sをバブリングするためのアルゴンガスが、反応容器73内に流入される。出力孔732からは、水を分解して発生する水素および酸素等のガスが排出される。出力孔732には、トラップ75が接続されており、トラップから排出されるガスを、ガスクロマトグラフによって定量を行う。
【0044】
反応容器73は、水槽71内に設置されている。水槽71内には、水がはられており、当該水の温度(以下、単に水温という)は、温度センサ721付きのホットスターラー72によって制御される。また、水槽71内には、攪拌子722が投入されている。当該攪拌子722は、ホットスターラー72によって回転され、水槽71内の水の温度を均等に保つ。
【0045】
光源74は、例えばキセノンランプであり、反応容器73から約3cmの位置に設置されている。そして、光源74は光741(波長λ>300nm)を、反応容器73内の懸濁液Sに照射することができる。
【0046】
以上のような構成を持った実験装置7を用いて、以下のようにして実験を行った。
【0047】
まず、懸濁液Sが入った反応容器73を、水がはられた水槽71内に設置した状態で、懸濁液Sをアルゴンガスにより1時間バブリングし、反応容器73内の空気を取り除く。そして、ホットスターラー72により、水温を、摂氏30度、または、摂氏50度、または、摂氏60度、または、摂氏70度、または、摂氏80度、または摂氏90度に制御し、懸濁液Sを加熱する。そして、懸濁液Sが加熱された状態で、光源74により光741を、懸濁液Sに照射し、摂氏30度、摂氏50度、摂氏60度、摂氏70度、摂氏80度、摂氏90度の各温度(以下、単に各温度という)における水素の発生量を、ガスクロマトグラフによって定量した。そして、各温度における水素の発生量を、常温における水素の発生量と比較した。なお、懸濁液Sが常温の場合とは、懸濁液Sが入った反応容器73が、水温を摂氏20度とされた水槽71に設置されている場合を指す。
【0048】
この実験の結果を、
図4および
図5を用いて説明する。
図4は、懸濁液Sが加熱された場合と、懸濁液Sが常温の場合の水素の発生量を比較したグラフである。
図5は、懸濁液Sが加熱された場合と、懸濁液Sが常温の場合の水素の生成速度を比較したグラフである。
【0049】
図4に示すグラフの横軸は、懸濁液Sに光741を照射した時間を表しており、縦軸は水素の発生量を表している。各温度において時間と水素の発生量とが比例関係にあるとともに、温度が上がるほど発生量が増大することが分かる。ここで、各温度における時間と水素の発生量の関係から求まる傾きを、水素の生成速度(μmol/h)とする。
【0050】
図5に示すグラフの横軸は、水槽71の水温を表しており、縦軸は、水素の生成速度を表している。各温度における水素の生成速度を比較すると、温度が上がるにつれて生成速度は明確に上昇していき、摂氏60度の生成速度は、摂氏20度の生成速度の約2倍となり、摂氏90度の生成速度は、摂氏20度の生成速度の約3倍となる。一方で、水温が100度以上となると、懸濁液Sの蒸発が著しく進み、水素を生成する効率が却って低下するおそれがあることを確認した。
【0051】
以上の実験結果から、水素生成システム1において、効率良く水素を生成するためには、分解槽11内の分解対象水Wの温度を、常温超え、摂氏100度未満とするのが好ましいのである。なお、常温とは、上記の出願人が行った実験においては摂氏20度としているが、JIS Z 8703によれば、摂氏5度以上35度以下の範囲を言う。よって、現実的には、分解対象水Wの温度は、摂氏35度越えに加熱される。
【0052】
また、分解対象水Wは、先述の通り、コージェネレーションシステム14の回収された排熱を利用した熱媒Hによって、常温超え、摂氏100度未満に加熱される。このため、未利用エネルギーの有効活用することができるという点で、省エネルギー化に配慮した水素生成システム1とすることができる。
【0053】
なお、蒸気したコージェネレーションシステム14は、排熱である温水によって、分解対象水Wを加熱するものとしているが、内燃機関141の排熱を蒸気として回収し、当該蒸気を熱媒Hとして熱媒回路18に流し、分解対象水Wを加熱するものとしても良い。排熱としての蒸気は、内燃機関141の排ガスを利用して排ガス蒸気ボイラから得られるものであり、その温度は摂氏約150度である。この摂氏約150度の蒸気は、いわゆる中低温排熱に該当する。
【0054】
以上説明したように、第1の実施形態に係る水素生成システム1によれば、
(1)分解対象の水(分解対象水W)が供給される分解槽11と、分解槽11の内部で分解対象水Wと接触する光触媒(例えば、光触媒シート12)と、光触媒(光触媒シート12)に光131を照射する光源13と、を備え、分解対象水Wを分解して水素を発生させる水素生成システム1において、排熱を利用して分解対象水Wを加熱する加熱装置(例えば、コージェネレーションシステム14)を備えること、を特徴とする。
【0055】
(1)に記載の水素生成システム1によれば、効率良く水素を生成することができるとともに、省エネルギー化に配慮した水素生成システム1とすることができる。
【0056】
出願人は、分解対象の水を加熱した状態で光触媒による分解を行うと、常温で分解を行う場合に比べて、水分解活性が向上し、水素の生成速度が上昇することを実験により確認した。よって、水素生成システム1において、加熱装置(コージェネレーションシステム14)によって分解対象の水(分解対象水W)を加熱することで、より効率的に水素を生成することができる。
【0057】
また、加熱装置(例えば、コージェネレーションシステム14)は、排熱を利用して分解対象の水(分解対象水W)を加熱するものである。排熱とは、例えば、発電機(例えば、内燃機関141)の排熱等の未利用エネルギーであり、未利用エネルギーを活用することで、省エネルギー化に配慮した水素生成システム1とすることが可能である。
【0058】
(2)(1)に記載の水素生成システム1において、加熱装置(コージェネレーションシステム14)は、水(分解対象水W)を、常温超え、摂氏100度未満に加熱すること、を特徴とする。
【0059】
(2)に記載の水素生成システム1によれば、効率良く水素を生成することができるとともに、省エネルギー化に配慮した水素生成システム1とすることができる。
【0060】
出願人は、分解対象の水の温度が常温を超えると、水分解活性が向上していき、摂氏60度における水素の生成速度が、常温下における水素の生成速度の約2倍となり、摂氏90度における水素の生成速度が、常温下における水素の生成速度の約3倍となることを実験により確認した。さらに、出願人は、分解対象の水は、温度が摂氏100度以上になると蒸発が進み、水素を生成する効率が却って低下するおそれがあることを実験により確認した。よって、加熱装置(コージェネレーションシステム14)により、分解対象となる水(分解対象水W)を、常温超え、摂氏100度未満に加熱することが望ましい。
【0061】
また、分解対象の水(分解対象水W)を常温超え、摂氏100度未満に加熱するために用いられる排熱には、摂氏90度から150度程度の中低温排熱が適切である。多くが廃棄されている中低温排熱を利用することができるため、未利用エネルギーを有効に活用することができるという点で、省エネルギー化に配慮した水素生成システム1とすることができる。
【0062】
(3)(1)または(2)に記載の水素生成システム1において、加熱装置は、排熱を回収するコージェネレーションシステム14であること、分解槽11には、熱交換器15が接続されていること、コージェネレーションシステム14は、回収した排熱(例えば、温水または蒸気)により、熱交換器15を介して、水(分解対象水W)を加熱すること、を特徴とする。
【0063】
(3)に記載の水素生成システム1によれば、省エネルギー化に配慮した水素生成システム1とすることができる。例えば、内燃機関141としてガスエンジンを用いたコージェネレーションシステム14であれば、ガスエンジンの排熱を蒸気や温水として回収することができる。コージェネレーションシステム14により回収した排熱を用い、熱交換器15を介して分解対象の水(分解対象水W)を加熱することとすれば、未利用エネルギーの有効活用することができ、省エネルギー化に配慮した水素生成システム1とすることができる。
【0064】
(第2の実施形態)
次に、本発明の水素生成システムの第2の実施形態について、図面を参照しながら、第1の実施形態と異なる点を説明する。
【0065】
図2は、第2の実施形態に係る水素生成システム5の構成を表す図である。水素生成システム5は、光触媒シート52を内部に有する分解槽51と、光源53と、コージェネレーションシステム(加熱装置の一例)54と、温調器55と、からなり、光触媒シート52により水(H
2O)を分解して水素を生成するためのシステムである。
【0066】
分解槽51は密閉されており、内部空間512は外気と遮断されている。そして、内部空間512に分解対象水Wを貯水可能に形成されている。分解槽51は、少なくとも、後述する光源53が配置される側の端面511が、透明な樹脂やガラスにより構成されている。これにより、光源53から照射される光531は、端面511を透過し、内部空間512に達するようにされている。
【0067】
また、分解槽51は、供給路56が接続された供給孔513を有しており、供給路56から供給される分解対象水Wが、供給孔513から内部空間512に注水される。さらにまた、分解槽51は排水孔515を有している。
【0068】
また、分解槽51は、分解対象水Wを分解して生成される水素を回収するための排出孔514を備えている。排出孔514から回収された水素は、例えば貯蔵タンク(不図示)に一時的に貯蔵された後、パイプラインや輸送車両により水素ステーション等に輸送され、エネルギーとして活用される。
【0069】
光触媒シート(光触媒の一例)52は、第1の実施形態に係る光触媒シート12と同一のものである。光触媒シート52は、光触媒が固定化された上端面521が、光531が透過してくる分解槽51の端面511に向いた状態で分解槽51の内部空間512に固定されている。そして、光触媒シート52は、少なくとも光触媒が固定化された上端面521が、分解槽51に注水される分解対象水Wと接触する。なお、光触媒をシート状に形成せず、光触媒の粉末を分解槽51内の分解対象水Wに分散させ、分解槽51内に懸濁液を形成することとしても良いのは、第1の実施形態と同様である。
【0070】
光源53および光源53から発せられる光531のそれぞれは、第1の実施形態に係る光源13および光131と同一のものである。光531は、透明な分解槽51の端面511を透過し、光触媒シート52の光触媒が固定化された上端面521に照射される。光触媒シート52に固定化された光触媒は、分解対象水Wと接触しつつ、光531に照射されることで、分解対象水Wから水素と酸素を生成する。そして、生成された水素と酸素は、排出孔19から排出される。
【0071】
コージェネレーションシステム54は、例えば、発電機であるガスタービンやガスエンジン等の内燃機関541の排熱を、温水HWとして回収するものである。温水HWは、例えば、ジャケット水循環路543を循環することで内燃機関541を冷却するジャケット水Jを熱源として、熱交換器542により加熱されたものである。温水HWの温度は、加熱により、摂氏約90度とされる。この摂氏約90度の温水HWは、いわゆる中低温排熱に該当する。コージェネレーションシステム54には、出湯路57が接続されており、温水HWは、出湯路57を通り、コージェネレーションシステム54から排出される。
【0072】
温調器55は、出湯路57と供給路56とが接続されており、出湯路57から温調器55に導入された温水HWは、温調器55により、常温越え、摂氏100度未満の任意の温度に調温される。調温された温水HWは、分解対象水Wとして、供給路56に排出される。そして、供給路56に排出された分解対象水Wは、供給孔513から、分解槽51の内部空間512に注水される。このように、排熱としての温水HWを分解対象水Wとして利用するものであるため、内燃機関141の稼働中は、分解槽51に連続して分解対象水Wが供給されることとなる。分解槽51内で、分解されずに余剰した分解対象水Wは、分解槽51の排水孔515から排出される。
【0073】
温調器55によって調温された分解対象水Wにより、分解槽51内の分解対象水Wは、常温越え、摂氏100度未満の任意の温度に保たれている。よって、光触媒シート52による分解対象水Wの分解は、分解対象水Wの温度が、常温度越え、摂氏100度未満の任意の温度となった状態で行われる。
【0074】
分解対象水Wの温度が、常温を超えると、生成速度が上昇していき、摂氏60度の生成速度は、摂氏30度の生成速度の約2倍となり、摂氏90度の生成速度は、摂氏30度の生成速度の約3倍となることを、出願人が実験により確認したことは先述の通りである。また、水温が100度以上となると、懸濁液Sの蒸発が進み、水素を生成する効率が却って低下するおそれがあることを、出願人が実験により確認したことは先述の通りである。よって、水素生成システム5においては、分解対象水Wの温度が、常温越え、摂氏100度未満の任意の温度となった状態で、分解対象水Wの分解が行われるため、効率良く水素を生成することができる。
【0075】
以上説明したように、第2の実施形態に係る水素生成システム5によれば、
(4)(1)または(2)に記載の水素生成システム5において、加熱装置(例えば、コージェネレーションシステム54)は、排熱を、温水HWとして回収するコージェネレーションシステムであること、水(分解対象水W)は、温水HWであること、を特徴とする。
【0076】
(4)に記載の水素生成システム5によれば、省エネルギー化に配慮した水素生成システム5とすることができる。例えば、内燃機関541としてガスエンジンを用いたコージェネレーションシステム54であれば、ガスエンジンの排熱により加熱された温水HWを回収することができる。当該温水HWを分解対象の水(分解対象水W)として活用すれば、未利用エネルギーを有効活用することができ、省エネルギー化に配慮した水素生成システム5とすることができる。
【0077】
なお、上記第1の実施形態および第2の実施形態は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に、その要旨を逸脱しない範囲内で様々な改良、変形が可能である。例えば、光触媒の一例として、光触媒シート12,52を用いているが、必ずしも光触媒をシート状に形成する必要はない。例えば、光触媒の粉末を分解槽11,51内の分解対象水Wに分散させ、分解槽11,51内に懸濁液を形成することで、分解対象水Wと光触媒とが接触するものとしても良い。この場合、懸濁液中の光触媒の濃度が保たれるよう、連続的に分解対象水Wが分解槽11,51に供給されることとなる。また、懸濁液中に光触媒の粉末が均等に分散するよう、攪拌装置を要する。
【符号の説明】
【0078】
1 水素生成システム
11 分解槽
12 光触媒シート(光触媒の一例)
13 光源
14 コージェネレーションシステム(加熱装置の一例)
131 光
W 分解対象水