(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022021190
(43)【公開日】2022-02-02
(54)【発明の名称】ルテニウムの回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 11/00 20060101AFI20220126BHJP
C22B 3/46 20060101ALI20220126BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20220126BHJP
C02F 1/62 20060101ALI20220126BHJP
【FI】
C22B11/00 101
C22B3/46
C22B3/44
C02F1/62 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020124649
(22)【出願日】2020-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 学
【テーマコード(参考)】
4D038
4K001
【Fターム(参考)】
4D038AA10
4D038AB70
4D038AB72
4D038AB76
4D038AB78
4D038BB01
4D038BB17
4K001AA41
4K001BA17
4K001BA19
4K001DB03
4K001DB04
4K001DB17
4K001DB18
4K001DB22
4K001DB26
4K001HA04
4K001HA12
4K001JA03
(57)【要約】
【課題】ルテニウム及びヒ素を含む酸性溶液からルテニウムを選択的に回収する方法を提供する。
【解決手段】ルテニウム及びヒ素を含む酸性溶液からルテニウムを回収する方法であって、酸性溶液の銅濃度を0.06g/L以上に調整し、液温20℃以上で鉄を接触させて、セメンテーションによってルテニウムを回収するルテニウムの回収方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルテニウム及びヒ素を含む酸性溶液からルテニウムを回収する方法であって、
前記酸性溶液の銅濃度を0.06g/L以上に調整し、液温20℃以上で鉄を接触させて、セメンテーションによってルテニウムを回収することを特徴とするルテニウムの回収方法。
【請求項2】
前記鉄はルテニウムに対して5質量倍以上であることを特徴とする請求項1に記載のルテニウムの回収方法。
【請求項3】
銅の水溶性塩、または、銅電解液を添加することで、前記酸性溶液の銅濃度を調整し、
前記セメンテーション終了時まで、前記酸性溶液の液温を75℃以下かつ前記酸性溶液の銅濃度を0.03g/L以上に維持することを特徴とする請求項1または2に記載のルテニウムの回収方法。
【請求項4】
前記酸性溶液に鉄を添加する前に、銅濃度を1.5g/L以上に調整しておくことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のルテニウムの回収方法。
【請求項5】
前記鉄の平均粒径が1mm以下であり、前記鉄の添加量は前記酸性溶液に含まれるルテニウムの30~300質量倍として前記酸性溶液に添加し、銅の濃度を前記鉄の1.2質量倍以下に調整することを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のルテニウムの回収方法。
【請求項6】
前記鉄は鉄粉であり、前記酸性溶液中の銅に対して銅/鉄の質量比が0.5~2になるよう添加することを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のルテニウムの回収方法。
【請求項7】
前記酸性溶液に鉄を添加する前に、前記酸性溶液に二酸化硫黄、亜硫酸または亜硫酸塩を添加して、金、白金、パラジウム、セレン及びテルルの濃度の合計を300mg/L以下に調整しておくことを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載のルテニウムの回収方法。
【請求項8】
前記酸性溶液が、更に、銅及びテルルを含み、
前記酸性溶液に液温20℃以上60℃未満で前記鉄を接触させて前記鉄の表面に銅を析出させた後に70℃以上に加温してルテニウムとテルルを析出させることを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載のルテニウムの回収方法。
【請求項9】
前記酸性溶液の銅濃度を0.3g/L以上に調整して前記セメンテーションを開始し、前記セメンテーション終了時まで前記酸性溶液の銅濃度を0.3g/L以上に維持することを特徴とする請求項8に記載のルテニウムの回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルテニウム及びヒ素を含む酸性溶液からルテニウムを回収する方法に関する。特に銅製錬の電解精製工程で発生するスライム処理工程に用いると好適である。
【背景技術】
【0002】
銅乾式製錬では、銅精鉱を熔解し、転炉、精製炉で純度99%以上の粗銅とした後に、電解精製工程において、例えば純度99.99%以上の電気銅を生産する。近年では、転炉においてリサイクル原料として電子部品由来の貴金属を含む金属屑が投入されており、銅以外の有価物は電解精製時にスライムとして沈殿する。
【0003】
このスライムには貴金族類、希少金属、銅精鉱に含まれているセレンやテルルも同時に濃縮される。銅製錬副産物としてこれらの元素は個別に分離・回収される。
【0004】
このスライムの処理には、湿式製錬法が適用される場合が多い。例えば、特許文献1においては、塩酸-過酸化水素によりスライムから銀を回収し、溶解した金は溶媒抽出により回収した後に、その他の有価物を二酸化硫黄で順次還元回収する方法が開示されている。特許文献2には同様の方法で金銀を回収した後、二酸化硫黄で有価物を還元して沈殿せしめ、セレンのみを蒸留して除去して貴金属類を濃縮する方法が開示されている。
【0005】
貴金属を回収した後の溶液には、希少金属イオン、テルル、セレンが含まれており、さらにこれら有価物を回収することが必要である。回収方法としては還元剤により生じた沈殿を回収する方法、溶液ごと銅精鉱に混合しドライヤーで乾燥させて製錬炉に繰り返す方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開第2001-316735号公報
【特許文献2】特開第2016-160479号公報
【特許文献3】特開第2019-147990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に示されている、二酸化硫黄により生じた沈殿を回収する方法はコストや製造規模の面で利点が多い。加えて各元素が順次沈殿することから分離精製にも効果がある。
【0008】
二酸化硫黄を用いて有価物を回収する方法では溶解後に順次有価物を還元して回収することができる。初めに白金、パラジウムが沈殿する。次にセレンが還元を受ける。イリジウム、ルテニウム、ロジウムは酸化還元電位が比較的低く還元を受け難く、最後まで溶液に残留する。溶液中のルテニウムは臭素酸等の強力な酸化剤により酸化後に蒸留して二酸化ルテニウムとして回収する方法が一般的である。
【0009】
特許文献3には、最後まで溶液に残ったルテニウムは金属銅によってセメンテーションする方法が開示されている。セメンテーションに用いる金属に銅を使用することにより、共存しているヒ素がアルシンガスとして発生することを回避することができる。
【0010】
ルテニウムを蒸留する方法では蒸留時に使用する酸化剤として、例えば臭素酸が考えられるが、その価格は高い。また、製錬澱物工程由来の溶液に含まれるルテニウムは通常100~300mg/L程度であり、他の共存物質と酸化剤が反応してしまうことで酸化効率は低い。
【0011】
また、蒸留される酸化ルテニウムは有毒な化合物であることが知られる。毒物を高濃度で扱うこととなり安全上問題があるので多段蒸留は好ましくない。さらに、蒸留時に不純物が混入すると再度精製操作が必要となるが蒸留は共沸留分が不純物として混入しやすい。そのため、蒸留に供するには原料のルテニウム(粗ルテニウム)の純度を高めておく必要がある。
【0012】
粗ルテニウムの純度を高めるには一度ルテニウム類を無害な形で粗分離し濃縮することが必要になる。濃縮操作において溶液中の有価物を還元して沈殿物としてルテニウムとその他元素を回収する。その他元素としてはセレン、テルル、ロジウムが一般的である。
【0013】
特許文献3に開示してあるように銅によるセメンテーションでルテニウムは回収できる。しかしながら、回収したルテニウム含有沈殿物から銅を除去する必要があり、硫酸で溶解しなければならない。銅は硫酸に溶解するには加熱することが必要であり、未反応の銅はその表面がセメンテーションにより析出したセレンやテルル等の物質に被覆されるため、酸溶解反応は効率的であるとは言えない。
【0014】
さらに、銅は比較的価格の高い金属である。セメンテーションに使用する場合はコストが無視できない。とはいえ代表的な卑金属である鉄や亜鉛、アルミニウムは酸性条件下では共存するヒ素と反応してアルシンガスを発生する恐れがある。
【0015】
本発明はこのような従来の事情を鑑み、ルテニウム及びヒ素を含む酸性溶液からルテニウムを選択的に回収する方法を提供する。特に銅製錬における電解精製工程で発生する電解澱物を溶解した液に好適である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ルテニウム及びヒ素を含む酸性溶液を鉄でセメンテーションしてルテニウムを回収可能とする方法を見出した。本発明の実施形態は、以下のように特定される。
(1)ルテニウム及びヒ素を含む酸性溶液からルテニウムを回収する方法であって、
前記酸性溶液の銅濃度を0.06g/L以上に調整し、液温20℃以上で鉄を接触させて、セメンテーションによってルテニウムを回収することを特徴とするルテニウムの回収方法。
(2)前記鉄はルテニウムに対して5質量倍以上であることを特徴とする(1)に記載のルテニウムの回収方法。
(3)銅の水溶性塩、または、銅電解液を添加することで、前記酸性溶液の銅濃度を調整し、
前記セメンテーション終了時まで、前記酸性溶液の液温を75℃以下かつ前記酸性溶液の銅濃度を0.03g/L以上に維持することを特徴とする(1)または(2)に記載のルテニウムの回収方法。
(4)前記酸性溶液に鉄を添加する前に、銅濃度を1.5g/L以上に調整しておくことを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載のルテニウムの回収方法。
(5)前記鉄の平均粒径が1mm以下であり、前記鉄の添加量は前記酸性溶液に含まれるルテニウムの30~300質量倍として前記酸性溶液に添加し、銅の濃度を前記鉄の1.2質量倍以下に調整することを特徴とする(1)~(4)のいずれかに記載のルテニウムの回収方法。
(6)前記鉄は鉄粉であり、前記酸性溶液中の銅に対して銅/鉄の質量比が0.5~2になるよう添加することを特徴とする(1)~(5)のいずれかに記載のルテニウムの回収方法。
(7)前記酸性溶液に鉄を添加する前に、前記酸性溶液に二酸化硫黄、亜硫酸または亜硫酸塩を添加して、金、白金、パラジウム、セレン及びテルルの濃度の合計を300mg/L以下に調整しておくことを特徴とする(1)~(6)のいずれかに記載のルテニウムの回収方法。
(8)前記酸性溶液が、更に、銅及びテルルを含み、
前記酸性溶液に液温20℃以上60℃未満で前記鉄を接触させて前記鉄の表面に銅を析出させた後に70℃以上に加温してルテニウムとテルルを析出させることを特徴とする(1)~(7)のいずれかに記載のルテニウムの回収方法。
(9)前記酸性溶液の銅濃度を0.3g/L以上に調整して前記セメンテーションを開始し、前記セメンテーション終了時まで前記酸性溶液の銅濃度を0.3g/L以上に維持することを特徴とする(8)に記載のルテニウムの回収方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の実施形態によれば、ルテニウム及びヒ素を含む酸性溶液からルテニウムを選択的に回収する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実験例に係る、液中の銅と鉄の質量比と沈殿したルテニウム量の関係を示すグラフである。
【
図2】実験例に係る、液中の銅と鉄の質量比と沈殿したヒ素量の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態に係るルテニウムの回収方法は、ルテニウム及びヒ素を含む酸性溶液からルテニウムを回収する方法であって、酸性溶液の銅濃度を0.06g/L以上に調整し、液温20℃以上で鉄を接触させて、セメンテーションによってルテニウムを回収する。
【0020】
非鉄金属製錬、とりわけ銅製錬の電解精製工程で生じる電解澱物は白金族元素と重金属、有毒元素が濃縮される。白金族元素ならびに有毒元素は単独で製錬されることはなく、他金属の副産物として回収されるか廃触媒等のリサイクル原料から分離される。したがって、本方法は廃棄物からのリサイクルにも適用できる。
【0021】
塩酸と過酸化水素を添加して電解澱物を溶解することができるが、銀は溶解直後に塩化物イオンと不溶性の塩化銀沈殿を形成する。酸化剤と塩素を含む溶液、例えば王水や塩素水であれば貴金属類は溶解して銀を塩化銀として分離できる。塩化物浴であるため浸出貴液(PLS)には白金族元素、希少金属元素、カルコゲン元素、ヒ素、アンチモン等が分配する。
【0022】
浸出貴液(PLS)は一度冷却され、鉛やアンチモンといった卑金属類の塩化物を沈殿分離する。その後に溶媒抽出により金を有機相に分離する。金の抽出剤はジブチルカルビトール(DBC)が広く使用されている。
【0023】
金を抽出した後のPLSを還元すれば有価物は沈殿・回収できるが、元素により酸化還元電位が異なるために自ずと沈殿の順序が決まっている。初めに金、白金、パラジウム、次にセレンやテルルといったカルコゲン、さらにルテニウムやイリジウムといった不活性貴金属類が沈殿する。
【0024】
還元剤は還元性硫黄が価格と効率の面から利用され、なかでも二酸化硫黄は転炉ガスや硫化鉱の焙焼により大量にしかも安価に供給できるため最適である。不活性貴金属類は二酸化硫黄や亜硫酸塩では還元速度が極めて遅い。そもそも含有量も多くはなく、例えば銅電解澱物溶解液中のルテニウムは150~300mg/L程度である。現状の二酸化硫黄によるルテニウム回収率は6~8時間の反応時間で30~50%程度であるが、完全に沈殿せしめるならば10時間以上必要であると予想される。これはあまりに長く現実的な反応時間ではない。
【0025】
そこで、ルテニウムをより効率的に回収するには金属によるセメンテーションが最も効率が良い。ルテニウムは亜鉛、マグネシウム、アルミニウムなど鉱酸で水素を発生する金属により金属ルテニウムまで還元されることは知られている。
【0026】
ところがヒ素を含む酸性溶液では上記の金属とヒ素が反応してアルシンガスが発生する恐れがある。そのため、卑金属によるセメンテーションは現実的ではない。しかしながら鉄によるセメンテーションは反応速度が速くないのでアルシンの発生量を極少量に抑えることが可能である。本発明の実施形態では、酸性溶液の液温を20℃以上として鉄を接触させて、セメンテーションによってルテニウムを回収する。酸性溶液の液温が20℃以上であると、セメンテーションが良好となる。また、セメンテーション終了時まで、当該酸性溶液の液温を75℃以下に維持するとアルシンの発生量を抑えることができる。さらに好ましくは60℃以下である。
【0027】
鉄の添加量はルテニウムの5質量倍以上が好ましい。少なすぎるとルテニウムの回収が不十分となる。セメンテーションに鉄粉を用いる場合では添加量が多すぎるとアルシンの発生量が増えるのでルテニウムの1000質量倍以下が好ましい。鉄の添加量はルテニウムの300~1000質量倍がより好ましく、500~800質量倍が更により好ましい。
【0028】
それでも幾らかのアルシンが発生するので、酸性溶液に鉄を添加する前に、予め処理対象の酸性溶液に銅イオンが少しでも存在する状態であれば、本発明の効果は得られるが、具体的な濃度として0.06g/L以上であればよい。アルシンが発生しても銅イオンと反応してヒ化銅としてトラップできる。酸性溶液に鉄を添加する前の、さらに好ましい酸性溶液の銅濃度は1.5g/L以上である。
【0029】
セメンテーション終了時まで、酸性溶液中の銅イオンが少しでも維持されていればよく、具体的な銅濃度としては0.03g/L以上であればよい。このような構成によれば、過剰の水素の発生を抑制することができる。発生期の水素は還元力が強く、多量の水素が溶液と接触するとアルシンが発生する可能性を排除できなくなる。
【0030】
酸性溶液の銅濃度は硫酸銅(II)、塩化銅(II)等の銅の水溶性塩で調整することができる。または、銅電解液を添加することで調整してもよい。一部、鉄と反応して銅が析出するが、酸性溶液の液温が75℃以下であればその影響は少ない。
【0031】
鉄を添加した時、最初に銅イオンと反応して鉄の表面は銅で覆われる。銅イオンと競争してルテニウムもセメンテーションされる。鉄表面に析出した銅は徐々に溶解し、再度銅、ルテニウムと反応する。温度によってはヒ素とも反応する。そのためセメンテーションの効率は銅濃度と添加する鉄の比により影響を受ける。酸性溶液中の銅に対して銅/鉄の質量比が0.5~2になるよう添加するのが好ましく、0.5~1.5になるよう添加するのがより好ましい。
【0032】
回収されるルテニウムは金属ルテニウムであり既存のルテニウム精製工程で処理することができる。一般にセメンテーションでは過剰に置換金属を添加するが、未反応の鉄は酸性条件下では加熱すれば溶解する。もしくは磁力により分別することも可能である。
【0033】
セメンテーションに際しては予め還元剤により鉄と反応するイオン化傾向が高い金属類やセレンやテルルを除いておくと鉄使用量が抑制できる。具体的には、セメンテーションに際しては酸性溶液に鉄を添加する前に、酸性溶液中の金、白金、パラジウム、セレン及びテルルの濃度の合計を300mg/L以下に調整しておくことが好ましい。この時の還元剤としては安価な二酸化硫黄が好ましい。また、亜硫酸または亜硫酸塩を用いてもよい。
【0034】
セメンテーションで投入する鉄の形状は、板状、棒状、ショットや鉄粉でもよい。タンク式反応槽ではなく、充填塔や循環槽に鉄を装入して処理対象液を通液させてもよい。接触方式は回収物中銅含有量の許容量や反応効率、設備上の制約により決定される。セメンテーションに使用される鉄の品位は高い方が好ましいが鉄屑等の比較的純度の低い鉄も利用される。もちろん鉄粉等の比表面積の大きい鉄がより好ましい。鉄の平均粒径が1mm以下であってもよい。
【0035】
タンク式反応槽に鉄を投入する場合は、鉄粉を投入することが好ましい。鉄粉とはここでは平均粒径P80が0.2mm以下の鉄粒子を指す。ここで、「P80」とは、篩にかけた時に80%が通過する粒度を示す。溶液中にカルコゲン類が共存する場合はより多くの鉄粉を投入することが好ましい。
【0036】
鉄粉の添加量は、酸性溶液に含まれるルテニウムの30~300質量倍として酸性溶液に添加し、銅の濃度を鉄粉の1.2質量倍以下に調整することが好ましい。このような構成によれば、過剰な鉄粉の添加が不要となる。過剰に鉄粉を添加すると水素の過発生、コストの上昇、目的外元素の混入等の問題が生じる。
【0037】
本発明の実施形態に係るルテニウムの回収方法は、酸性溶液が、更に、銅及びテルルを含み、酸性溶液に液温20℃以上60℃未満で鉄を接触させて鉄の表面に銅を析出させた後に70℃以上に加温してルテニウムとテルルを析出させてもよい。鉄によるセメンテーションでは、酸性溶液に銅イオンを共存させ、温度を60℃未満に調整すると、アルシンの発生量を抑えることができる。さらに好ましくは50℃以下である。
【0038】
ルテニウムと銅、ヒ素が鉄によりセメンテーションを受けるのは投入直後である。ルテニウムの方が反応しやすいが銅濃度が高いので鉄表面は銅に覆われたように赤銅色を示す。この時の温度を制御することでヒ素の還元を抑制している。表面を覆った銅やルテニウムはヒ素と反応しない。
【0039】
表面を覆った銅は徐々に加熱すれば徐々に溶解する。50℃では非常に反応が遅く70℃以上に加熱することが好ましい。銅が溶解して鉄表面が現れるとルテニウムのセメンテーションや再度銅の析出が生じる。銅の溶解には酸化性物質が必要であるが、コストやほかの元素との反応性から硫酸イオンが液中に含まれていることが好ましい。
【0040】
この液温70℃以上では一部のヒ素がアルシンとなるので予め溶液の銅濃度を0.3g/L以上に調整しておく。アルシンが発生しても銅イオンと反応してヒ化銅としてトラップできる。さらに好ましい銅濃度は1g/L以上である。また、セメンテーション終了時まで酸性溶液の銅濃度を0.3g/L以上に維持することが好ましい。
【0041】
液温が高いと鉄表面に析出した銅が直接ルテニウムをセメンテーションすることもできる。ルテニウムの銅によるセメンテーションは液温を70℃以上とすることが必要である。よって鉄添加時の温度を50℃以下とし、鉄表面に銅が析出したことを確認後に温度を70℃以上に加熱すればよい。
【実施例0042】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0043】
(実験例1)
銅製錬の銅電解精製工程から回収された電解澱物に硫酸を添加して銅を除いた。次に、濃塩酸と60%過酸化水素水を添加して溶解し、固液分離してPLS(浸出貴液)を得た。PLSを6℃まで冷却して卑金属分を沈殿除去した。続いて、酸濃度を2N以上に調整しDBC(ジブチルカルビトール)とPLSを混合して金を抽出した。金抽出後のPLSを70℃に加温し、二酸化硫黄と空気の混合ガス(二酸化硫黄濃度5~20%)を吹き込んで貴金属とセレンを還元し固液分離した。セレン分離後液のセレン濃度は110mg/L、テルル濃度85mg/L、ルテニウム濃度は82mg/L、銅濃度は2.3g/L、ヒ素濃度は1.4g/Lであった。
【0044】
セレン分離後液(ルテニウムの回収対象となるルテニウム及びヒ素を含む酸性溶液)を200mL量り取り、硫酸銅5水和物を3g添加した。加温して平均粒径P80が150μmである鉄粉を1g添加した。当該加温は、表1に示す温度とし、20~25℃で実施したサンプル、40~45℃で実施したサンプル、50~55℃で実施したサンプル、60~65℃で実施したサンプル、70~75℃で実施したサンプルの、合計5サンプルとした。これらのサンプルについて、それぞれ30分後と60分後に分析用サンプルを採取した。また、120分間で反応を終了した。反応終了後は濾別し残渣は水洗してエチルアルコールでリンスした。50℃で乾燥して質量を測定した。
【0045】
試験サンプルは2mLを分取して希塩酸で50mLに規正した。ICP-OES(セイコー社製SPS3100)により溶液中のルテニウム、ヒ素及び銅それぞれの濃度を定量した。残渣の分析は0.1g程度を測り取り王水に溶解後、ICP-OESで濃度を測定してヒ素含有率を算出した。結果を表1に示す。
【0046】
【0047】
鉄セメンテーションによりルテニウムが沈殿したことがわかる。さらにヒ素の濃度は60℃未満ではほとんど変化しておらずアルシンの発生が抑制されたことを示す。さらに60℃未満ではヒ素は沈殿物中の含有量も低く、鉄と反応せず液中に留まったことがわかる。
【0048】
鉄を添加すると液中は銅褐色のスラリーが生成したことが目視で確認された。これは鉄の表面に銅が析出したことを示す。銅の析出により鉄の表面が保護され、その結果酸やヒ素との反応が抑制されたと考えられる。ルテニウムは鉄と直接もしくは鉄表面に析出した銅によりセメンテーションを受けた。
【0049】
鉄セメンテーション沈殿物のその他組成は、銅、セレン、テルルであった。セレン分離後液にこれらの元素が含まれると鉄の表面に析出して反応を阻害する恐れがある。銅はルテニウムイオンとさらに反応するので大きな支障はないがセレンとテルルは合計濃度が300mg/L以下に調整しておくことが好ましい。さらに好ましくは200mg/L以下である。
【0050】
(実験例2)
実験例1と同じセレン分離後液を200mL分取した。50℃に加温し表2に示す量の硫酸銅5水和物と鉄粉を添加して攪拌した。セレン分離後液には銅が2.3g/L程度含まれていたので表2中の「硫酸銅」の項で「低下」の実験例では初期銅濃度の低下のためにチオ硫酸ナトリウム5水和物を4g添加して銅を硫化銅として沈殿させた後、濾別することなく鉄粉を添加した。0.5g×2回では鉄粉を0.5gずつ反応開始時と60分後のサンプル採取後に添加した。30分後と60分後に分析用サンプルを採取した。120分間で反応を終了した。
試験サンプルの分析は実験例1に準ずる。結果を表2に示す。
【0051】
【0052】
銅濃度が高い場合はルテニウムのセメンテーションの効率が低い。これは銅が鉄表面に析出して被覆することで反応活性面が失われることが原因であると考えられる。よって銅濃度は鉄を鉄粉とした時では表2における6g/L以下が好ましい。鉄が金属塊や金属板となったときはこの濃度比の限りではない。
【0053】
また銅濃度が低い場合はヒ素濃度の低下もみられ、ヒ素は沈殿物に混入する。ヒ素の初期濃度は1.4g/L程度であるので200ml中には280mg程度のヒ素が含まれている。表2においてもっともヒ素が沈殿した「低下」の場合では最終ヒ素濃度から液中にヒ素は40mg、沈殿には210mg分配しており猛毒のアルシンガスとして系外にはほとんど漏出していない。よって銅濃度は0.06g/L以上必要である。また表2の結果からは大部分のヒ素を液中に残すためには銅濃度が1.5g/L以上であることが必要である。
【0054】
銅の濃度にもよるが、鉄の添加量は鉄粉を添加する場合はルテニウムの30~300質量倍添加すればよい。原液のルテニウム濃度は8mg/Lであったので効果は0.5g添加でもみられ、1g以上の鉄粉で顕著であった。
【0055】
(実験例3)
実験例1と同じセレン分離後液を200mL分取した。50℃~70℃に加温し各種量の硫酸銅5水和物と鉄粉を添加して攪拌した。セレン分離後液には銅が2.3g/L程度含まれていたので一部の実験例では初期銅濃度の低下のためにチオ硫酸ナトリウム5水和物を添加して銅を硫化銅として沈殿させた後、濾別することなく鉄粉を添加した。120分間で反応を終了した。
試験サンプルの分析は実験例1に準ずる。液中の銅と添加鉄粉の質量比を横軸にして沈殿したルテニウム量とヒ素量を
図1と
図2に示す。
【0056】
図1によれば、ルテニウムを効果的に沈殿させるには液中の銅/鉄の質量比が2以下であることが好ましい。
図2によれば、ヒ素の沈殿を抑えるには液中の銅/鉄の質量比が0.5以上であることが好ましい。
【0057】
(実験例4)
実験例1と同じセレン分離後液を200mL分取した。特に指定がない限りは50℃に加温し硫酸銅5水和物3gと鉄粉を添加して攪拌した。30分後と60分後に分析用サンプルを採取した。60分後にサンプルの分取後液温を70~75℃に加温した。120分間で反応を終了した。比較として実験例1の50~55℃、70~75℃の結果も示す。
試験サンプルは2mLを分取して、実験例1と同様の手順で50mLに規正した。ICP-OES(セイコー社製SPS3100)により溶液中のルテニウム、ヒ素及び銅それぞれの濃度を定量した。結果を表3に示す。
【0058】
【0059】
反応温度を二段階調整することでルテニウムのセメンテーションが悪化することはなかった。必要とされる鉄添加量は二段階温度反応でも変わらなかった。
【0060】
70℃で終始反応させたときと比べると最終ルテニウム濃度ならびにテルル濃度はいくらか高いが70℃での反応時間が違う。50℃と比べると効率的である。この二つの有価元素については50℃で反応させるより効率的であり、70℃で反応させるよりは効果が低くなった。
【0061】
ヒ素についても二段階温度反応では問題にはならず傾向はルテニウムと同じであるが、ヒ素は沈殿させずに液中に残したい。そのため70℃で反応させるよりはヒ素分離がよく、50℃の反応よりは選択性が落ちる。温度二段階の反応では高温、中温両者の中間的な性質を持つため液のヒ素含有量やルテニウム含有量により反応時間を設定すればよい。