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特開2022-21220リチウムバナジウム酸化物の造粒体及び蓄電デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022021220
(43)【公開日】2022-02-02
(54)【発明の名称】リチウムバナジウム酸化物の造粒体及び蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
   C01G 31/00 20060101AFI20220126BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20220126BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220126BHJP
   H01G 11/30 20130101ALI20220126BHJP
   C01B 32/00 20170101ALI20220126BHJP
【FI】
C01G31/00
H01M4/485
H01M4/36 A
H01M4/36 C
H01G11/30
C01B32/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020124694
(22)【出願日】2020-07-21
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、「研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(71)【出願人】
【識別番号】504358517
【氏名又は名称】有限会社ケー・アンド・ダブル
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】直井 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】直井 和子
(72)【発明者】
【氏名】岩間 悦郎
(72)【発明者】
【氏名】松村 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】近藤 竜也
(72)【発明者】
【氏名】町田 健治
【テーマコード(参考)】
4G048
4G146
5E078
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD04
4G048AD06
4G048AE05
4G048AE08
4G146AA01
4G146AA02
4G146AB07
4G146AC27A
4G146AC27B
4G146AD23
4G146AD25
4G146BA11
4G146BC03
4G146BC04
4G146BC33B
4G146DA02
4G146DA04
5E078AA01
5E078AA14
5E078AB01
5E078BA26
5E078BA30
5E078BA31
5E078BA42
5H050AA02
5H050AA08
5H050AA12
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050BA18
5H050CA02
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB03
5H050EA10
5H050FA17
5H050FA18
5H050GA02
5H050GA16
5H050HA01
5H050HA04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】蓄電デバイスを高入出力化できるリチウムバナジウム酸化物の造粒体及びこの造粒体を用いた蓄電デバイスを提供する。
【解決手段】造粒体は、リチウムバナジウム酸化物とカーボンを含み、内層3と当該内層3を包み込む外層殻2の二重構造を有する。内層3は、リチウムバナジウム酸化物の複数のナノ粒子が粒界を保ちながら集まって成り、外層殻2は、リチウムバナジウム酸化物の粒子の少なくとも一部が粒界無く繋がって成る。内層のナノ粒子は凝集していないので蓄電デバイスの高入出力化に寄与する。外層はナノ粒子が凝集した外殻層であり、内層粒子の保形に寄与する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムバナジウム酸化物とカーボンを含み、
内層と当該内層を包み込む外層殻の二重構造を有し、
前記内層は、前記リチウムバナジウム酸化物の複数の粒子が粒界を保ちながら集まって成り、
前記外層殻は、前記リチウムバナジウム酸化物の粒子の少なくとも一部が粒界無く繋がって成ること、
を特徴とするリチウムバナジウム酸化物の造粒体。
【請求項2】
前記外層殻は、50nm以上150nm以下で開口し、前記内層と造粒体外部とを連通させる隙間部を有すること、
を特徴とする請求項1記載のリチウムバナジウム酸化物の造粒体。
【請求項3】
前記外層殻の前記リチウムバナジウム酸化物の粒子である外層粒子の少なくとも一部は、内部中空であること、
を特徴とする請求項1又は2記載のリチウムバナジウム酸化物の造粒体。
【請求項4】
前記カーボンの一部は、前記内層の前記リチウムバナジウム酸化物の粒子である内層粒子の間に介在すること、
を特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のリチウムバナジウム酸化物の造粒体。
【請求項5】
前記内層粒子の間に介在する前記カーボンは、アモルファスカーボンであり、
前記カーボンの他の一部は、前記内層粒子の表面にグラフィティックカーボンとして付着していること、
を特徴とする請求項4記載のリチウムバナジウム酸化物の造粒体。
【請求項6】
前記アモルファスカーボンは、造粒体全体に対して3.0以上8.0wt%以下の割合で含まれること、
を特徴とする請求項5記載のリチウムバナジウム酸化物の造粒体。
【請求項7】
前記カーボンの一部は、前記外層殻に含まれること、
を特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載のリチウムバナジウム酸化物の造粒体。
【請求項8】
前記カーボンは、炭化したスクロース又はグルコースであること、
を特徴とする請求項1乃至7の何れかに記載のリチウムバナジウム酸化物の造粒体。
【請求項9】
前記リチウムバナジウム酸化物は、4価の金属種がドープされたLiVOを含むこと、
を特徴とする請求項1乃至7の何れかに記載のリチウムバナジウム酸化物の造粒体。
【請求項10】
前記4価の金属種は、Siであること、
を特徴とする請求項9記載のリチウムバナジウム酸化物の造粒体。
【請求項11】
請求項1乃至10の何れかに記載のリチウムバナジウム酸化物の造粒体が正極又は負極に含まれること、
を特徴とする蓄電デバイス。
【請求項12】
前記外層殻の一部が崩れて前記内層の一部又は全部が露出した前記造粒体が含まれること、
を特徴とする請求項11記載の蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムバナジウム酸化物の造粒体及びこの造粒体を電極の活物質として正極又は負極に用いた蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラやスマートフォンや携帯型PCの急速な普及、燃料の高騰や環境負荷に対する意識の高まり、更には自動車の動力用又はスマートグリッドの蓄電用への応用の期待により、二次電池やハイブリッドキャパシタといった蓄電デバイスの開発が活発になっている。
【0003】
二次電池には、リチウムイオンを含む正極材料を集電体の表面に固着させた正極、及びリチウムイオンの脱挿入可能な負極材料を集電体の表面に固着させた負極が使用されている。また、ハイブリッドキャパシタには、活性炭等の電気二重層作用を奏する活物質を集電体表面に形成した正極、リチウムイオンを含む負極材料を集電体の表面に固着させた負極が使用されている。これら蓄電デバイスは、高い使用電圧、高いエネルギー密度、軽量、長耐用年数などの利点を有しており、最良の選択として活発な開発が続いている。
【0004】
リチウムイオンを含む電極材料は、一般的に導電性が要求水準に未達であることが多い。そこで、リチウムイオンを含む電極材料としては、リチウムを吸蔵及び放出可能な金属化合物を導電助剤としてのカーボン素材に担持させた複合体が用いられることが多い。金属化合物としては、コバルト酸リチウム、リン酸鉄リチウム、チタン酸リチウム、リン酸マンガンリチウム、バナジウム酸リチウム等が挙げられる。
【0005】
近年、電気自動車(EV)や駆動の一部を電気モーターで補助するハイブリッド電気自動車(HEV)の開発が各自動車メーカーで急進している。これら自動車に用いられる蓄電デバイスには高入出力であることが求められる。高入出力達成の一手段として、リチウムを吸蔵及び放出可能な金属化合物とカーボンの複合体をナノ粒子化することが挙げられる。ナノ粒子化により、金属化合物の粒子内部までの距離が短縮される。即ち、ナノ粒子化によりリチウムイオンの拡散係数が向上する。そのため、リチウムイオンの挿脱が高速化し、高入出力の二次電池が実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-39538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
但し、ナノ粒子を用いると、電極活物質層の成形性及び保形性が悪化する。そこで、結着剤や焼結等によって造粒体を形成し、造粒体を用いて電極形成の作業性が高める必要がある。
【0008】
造粒体を形成すると、ナノ粒子の多くが接触する密状態になったり、ナノ粒子の一部が粒界無く繋がる程度にまで微小粒子が凝集してしまう。そうすると、ナノ粒子化したとしても、造粒体の中心側に存在するナノ粒子へリチウムイオンが拡散し難くなってしまう。即ち、ナノ粒子化しても造粒によって蓄電デバイスの高入出力化の効果が減殺され、また容量も低下してしまう。
【0009】
本発明の目的は、上記課題を解決すべく、蓄電デバイスを高入出力化できるリチウムバナジウム酸化物の造粒体及びこの造粒体を用いた蓄電デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係るリチウムバナジウム酸化物の造粒体は、リチウムバナジウム酸化物とカーボンを含み、内層と当該内層を包み込む外層殻の二重構造を有し、前記内層は、前記リチウムバナジウム酸化物の複数の粒子が粒界を保ちながら集まって成り、前記外層殻は、前記リチウムバナジウム酸化物の粒子の少なくとも一部が粒界無く繋がって成ること、を特徴とする。
【0011】
即ち、造粒体は、外層殻で内層を包み込んだカプセル構造を有する。内層には、リチウムバナジウム酸化物の複数の粒子が凝集せずにナノ粒子を保って存在する。内層のナノ粒子は、凝集していないので蓄電デバイスの高入出力化に寄与する。一方、これら内層のナノ粒子は、リチウムバナジウム酸化物の複数の粒子が凝集した外層殻で包み込まれておりバラバラにならず、電極活物質層の成形性及び保形性は良好となる。内層において凝集していない状態とは、リチウムバナジウム酸化物の複数の粒子が粒界を保って存在する状態をいい、外層殻において凝集した状態とは、リチウムバナジウム酸化物の粒子の少なくとも一部が粒界無く繋がっている状態をいう。
【0012】
前記外層殻は、50nm以上150nm以下で開口し、前記内層と造粒体外部とを連通させる隙間部を有するようにしてもよい。50nm以上150nm以下で開口した隙間部は、電解液を内層へ浸透させることができる。即ち、外層殻によって造粒体がカプセル構造になっていても、内層のナノ粒子にリチウムイオンを届かせることができ、蓄電デバイスの高入出力化と電極活物質層の成形性及び保形性が更に高度に両立する。
【0013】
前記外層殻の前記リチウムバナジウム酸化物の粒子である外層粒子の少なくとも一部は、内部中空であるようにしてもよい。外層殻についても電極活物質で形成されているため、容量の発現に寄与する。外層殻の外層粒子は、内層の粒子と異なり表面が他の粒子と繋がって電解液に触れ難くなっているが、一方で電解液が貯留されるように内部中空になっているので、電解液に触れる表面積は大きく、また外層粒子の内部への距離も短く、リチウムイオンの挿脱が容易である。
【0014】
前記カーボンの一部は、前記内層の前記リチウムバナジウム酸化物の粒子である内層粒子の間に介在するようにしてもよい。内層粒子の間にカーボンが介在することにより、内層粒子同士の接触割合を低下させて凝集を抑止し、蓄電デバイスの更なる高入出力化が達成される。
【0015】
前記内層粒子の間に介在する前記カーボンは、アモルファスカーボンであり、前記カーボンの他の一部は、前記内層粒子の表面にグラフィティックカーボンとして付着しているようにしてもよい。
【0016】
アモルファスカーボンによって内層粒子間に電子パスを作り出すことができ、更に内層粒子の表面に付着するカーボンをグラフィティックカーボン、即ち黒鉛化度の高く電気伝導性が高いカーボンとすることにより、内層粒子に対して電子を受渡し易くなる。しかも、内層粒子の表面に形成されるグラフィティックカーボンによって内層粒子の接触割合を低下させたり、内層粒子間に電子パスを作りだしたりするものではないので、内層粒子とカーボンの複合体が巨大化せず、高いイオン拡散係数を実現できる。
【0017】
前記アモルファスカーボンは、造粒体全体に対して3.0以上8.0wt%以下の割合で含まれるようにしてもよい。この範囲であると、造粒体は良好な容量を発現し、また出力特性が良好となる。
【0018】
前記カーボンの更に一部は、前記外層殻に含まれるようにしてもよい。外層殻の粒子も電気伝導性を高めることができる。
【0019】
前記カーボンは、炭化したスクロース又はグルコースであるようにしてもよい。炭化したスクロース又はグルコースは、造粒体は良好な容量を発現し、また出力特性が良好となる。
【0020】
前記リチウムバナジウム酸化物は、4価の金属種がドープされたLiVOを含むようにしてもよい。また、前記4価の金属種は、Siであるようにしてもよい。
【0021】
このリチウムバナジウム酸化物の造粒体が正極又は負極に含まれる蓄電デバイスも本発明の態様の1つである。前記外層殻の一部が崩れて前記内層の一部又は全部が露出した前記造粒体が含まれるようにしてもよい。これにより、電極活物質層の保形成及び成形性を大きく損なうことなく、内層粒子を電解液により多く晒すことができ、蓄電デバイスの容量を向上させ、更なる高入出力化を実現できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、蓄電デバイスの高入出力化を達成しつつ、電極に形成される活物質層の成形性及び保形性を良好にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】リチウムバナジウム酸化物の造粒体の断面図である。
図2】外層殻の拡大図であり、外層粒子の一部は断面が描かれている。
図3】内層の拡大図であり、内層粒子は一部が破断されて内部構造が描かれている。
図4】リチウムバナジウム酸化物の造粒体の製法を示すフロチャートである。
図5】リチウムバナジウム酸化物の造粒体の表面SEM像を示す写真である。
図6】リチウムバナジウム酸化物の造粒体の断面SEM像を示す写真である。
図7】SEM-EDXに基づき造粒体における各元素の分布をマッピングした写真であり、(a)は炭素原子C、(b)は酸素原子O、(c)は珪素原子Si、(d)はバナジウム原子Vの分布を示す。
図8】造粒体の外層殻をSTEMで観察した写真であり、(a)は暗視野写真、(b)は明視野写真である。
図9】造粒体の外層殻のSTEM像である。
図10】造粒体の内層粒子のTEM像である。
図11】造粒体の内層のTEM像である。
図12】造粒体の内層粒子のTEM像である。
図13】造粒体の内層粒子の縁領域の制限視野ED図である。
図14】電極活物質層の断面を示すSEM写真である。
図15】実施例1と比較例1の出力特性を示すグラフである。
図16】実施例1乃至3及び比較例2の造粒体中のグラフィティックカーボンとアモルファスカーボンの量を示すグラフである。
図17】比較例2並びに実施例1乃至3のハーフセルの放電電流密度と放電容量との関係を示すグラフである。
図18】実施例1並びに実施例4乃至6のハーフセルの放電電流密度と放電容量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明を実施する形態について説明するが、本願発明は以下の実施形態に限定されるものでない。
【0025】
(リチウムバナジウム酸化物の造粒体)
本発明の造粒体はリチウムバナジウム酸化物の粒子の集合体である。リチウムバナジウム酸化物はカーボンと複合化されている。リチウムバナジウム酸化物は、代表的には化学式LiVOで表されるバナジン酸リチウムである。好ましくは、4価の金属種MがドープされたLiVOであり、化学式Li3+x1-xで表され、LiVOとLiMOの固溶体である。4価の金属種Mとしては、Si、Ti又はGe等が挙げられる。
【0026】
4価の金属種Mがドープされたリチウムバナジウム酸化物は、LiVOを母構造にして、V5+がM4+と部分置換して格子間Liが導入されている。化学式Li3+x1-x中、金属種Mの係数xは好ましくは0.2以上0.4以下である。金属種Mの係数xが0.2以上0.4以下であると、常温を含む少なくとも-40~60℃の温度範囲で、本リチウムバナジウム酸化物はγ相のみの単一結晶構造を有する。
【0027】
リチウムバナジウム酸化物におけるγ相の結晶構造とは、所謂LISICON(Lithium Super Ionic CONductor)型であり、Pnma結晶構造である。即ち、γ相の結晶構造を有しているリチウムバナジウム酸化物の結晶体は、四面体のLiO配位構造及び四面体のVO配位構造を基本骨格とし、八面体のLiO配位構造を有する。リチウムバナジウム酸化物結晶体がγ相の結晶構造を有することによって、リチウムイオンの拡散係数が向上する。即ち、拡散係数の対数グラフにおいて容量の増加に伴って拡散係数が急激に落ち込む範囲が無くなる。
【0028】
図1に示すように、この造粒体は真球体であり、外層殻2と内層3の二重構造になっている。内層3は、真球体の中心を含む球状の核である。外層殻2は内層3を包み込む殻である。即ち、この造粒体は、外層殻2で内層3を包み込んだカプセル構造を有する。外層殻2も内層3もリチウムバナジウム酸化物の粒子を含んで構成されている。
【0029】
内層3の中心から外層殻2の外表面までを造粒体の半径とし、造粒体の直径は好ましくは1μm以上10μm以下である。造粒体の直径が1μm以上であると、造粒体を含む電極活物質層の成形性及び保形性が良好となる。外層殻2の厚みは好ましくは100nm以上200nm以下である。200nm超の厚みがあると、蓄電デバイスの高入出力化と電極活物質層の成形性及び保形性を両立できるが、造粒体に対する外層殻2の割合が大きくなり、造粒体のイオン拡散係数がピークよりも落ち、蓄電デバイスの高入出力化が限定的になってしまう。
【0030】
外層殻2の厚みは100nm以上あれば、電極活物質層を形成する過程で外層殻2の少なくとも一部の形状が維持される程度に堅牢となり、電極活物質層を形成し易くなる。そして、外層殻2の厚みが200nm以下であると、電極活物質層の形成過程において加圧する等して、外層殻2の一部の崩しつつ、他の部分の形状を維持できる。外層殻2の一部の形状が維持されているので、電極活物質層の成形性及び保形性は極度に落ち込むことなく維持できる。一方、外層殻2の一部が崩れることにより、内層3を露出させることができる。内層3の露出により、内層3のリチウムバナジウム酸化物の粒子は容易に電解液に接することができ、イオン拡散係数が更に向上する。
【0031】
この外層殻2は、図2に示すように、リチウムバナジウム酸化物の一次粒子が凝集して構成されている。また、外層殻2にはカーボンが内層3と同量程度に含まれている。外層殻2を構成するリチウムバナジウム酸化物の一次粒子を外層粒子21という。凝集とは、外層粒子21の一部又は全部が結晶レベルで一体化し、粒界無く繋がっているように観察できる状態をいい、走査電子顕微鏡にて倍率10万倍で造粒体の表面を確認すればよい。
【0032】
但し、一部の外層粒子21間には隙間部22が残っている。隙間部22は、外層殻2を貫通する細孔であり、造粒体の外部と内層3とを連通させる。隙間部22は、最大開口幅が50nm以上150nm以下に拡がり、蓄電デバイスの電解液が外層殻2を通り抜け可能になっている。
【0033】
外層粒子21は内部に中空部23を有する。即ち、外層粒子21の内部は空洞である。蓄電デバイスにおいて外層粒子21の中空部23は電解液で満たされており、外層粒子21が電解液に接する表面積が大きくなるため、外層殻2に発現する容量は大きくなり、また外層粒子21が凝集していてもイオン拡散係数を向上させることができる。内部空間の直径は5nm以上30nm以下が好ましい。内部空間の直径がこの範囲であると、外層粒子21が崩れ難くなり、電極活物質層の成形性及び保形成が向上する。
【0034】
外層粒子21の粒径は、50nm以上100nm以下の範囲に分布することが好ましい。外層粒子21の粒径が50nm以上であると、50nm以上150nm以下の開口幅を有する隙間部22が外層粒子21間に発生し易くなる。50nm以上150nm以下の開口幅を有する隙間部22は、造粒体の堅牢性に影響が少ない一方、電解液が通り抜けさせ易い。一方、外層粒子21の粒径が100nm超になると、隙間部22が大きくなっていき、隙間部22の開口幅が150nm超になると、造粒体の堅牢性がピークから落ちていく。
【0035】
図1に戻り、内層3には、リチウムバナジウム酸化物の一次粒子が多数集まって成る。内層3を構成するリチウムバナジウム酸化物の一次粒子を内層粒子31という。この内層粒子31は凝集が抑えられつつ内層3に収容されている。凝集が抑えられている状態とは、内層粒子31同士が離間し、又は内層粒子31が接触していても結晶は結合しておらず粒界を保っている状態をいう。換言すれば内層粒子31の粒界は、外層殻2と異なり走査電子顕微鏡等によって観察可能である。
【0036】
内層粒子31の大きさに限定はないが、外層粒子21よりも小さく、粒径が10nm以上50nm以下の範囲に分布することが好ましい。図3に示すように、内層粒子31の表面にはグラフィティックカーボン32が付着する。また、内層粒子31間にはアモルファスカーボン33が存在する。即ち、内層3は、内層粒子31とカーボンとが複合化された粒子と、当該粒子を繋ぐカーボンとにより成り立っている。
【0037】
アモルファスカーボン33は、無定形炭素とも呼ばれ、非晶質の炭素材である。アモルファスカーボン33は、一般的に200℃以上の温度範囲で燃焼する。グラフィティックカーボン32は、黒鉛化度の高いカーボンであり、アモルファスカーボン33と比べて炭素原子が規則的に配列している。グラフィティックカーボン32は、一般的に600℃以上の温度範囲で燃焼する。
【0038】
グラフィティックカーボン32とアモルファスカーボン33は内層粒子31間の電子パスとなっており、電気伝導性を向上させている。また、アモルファスカーボン33は内層粒子31間に介在することにより、内層粒子31の凝集が抑えられた状態を維持している。
【0039】
グラフィティックカーボン32を厚く付着させて、内層粒子31をグラフィティックカーボン32のみによって電気的に接続してもよいが、グラフィティックカーボン32と内層粒子31とが複合化した粒子が巨大化してしまうし、当該粒子表面と内層粒子31の内部との距離が長くなってしまう。一方、アモルファスカーボン33によって内層粒子31間を接続すれば、グラフィティックカーボン32で覆われた内層粒子31の径が大きくならずに済み、高いイオン拡散係数を実現できる。
【0040】
尚、内層粒子31の間に存在するカーボンの全てがアモルファスカーボン33でなくともよく、一部が他の黒鉛化されたカーボンであっても、ガラス状のカーボンであってもよい。また、内層粒子31の表面は少なくとも一部がグラフィティックカーボン32で覆われていればよいが、全表面が覆われていることがより好ましい。
【0041】
アモルファスカーボン33は、造粒体に対して3.0wt%以上8.0wt%以下の範囲で造粒体に含まれるように調整することが好ましい。アモルファスカーボン33の含有量が造粒体に対して0.2wt%以下であると、電流密度を下げても容量が発現しにくい。アモルファスカーボン33の含有量が造粒体に対して16.2wt%以上であると、グラフィティックカーボン32と比べて電気抵抗が低いアモルファスカーボン33の割合が増加し、出力特性が低下する。
【0042】
即ち、アモルファスカーボン33が造粒体に対して3.0wt%以上8.0wt%以下の範囲で造粒体に含まれていることで、アモルファスカーボン33が造粒体に対して16.2wt%以上含まれている場合と比べて、同一電流密度に対して出力できる容量が高く、電流密度が高くなっても出力できる容量の低下が抑制される。
【0043】
更に、内層粒子31の表面の一部は、マグネリ相34に変質している。マグネリ相34は、一般式V2n-1(3≦n≦8)で表されるバナジウム酸化物である。このマグネリ相34は、例えばV若しくは一般式V2n-1(3≦n≦8)で表される化合物から選ばれる何れか単体又は2以上の混相である。このマグネリ相34は、電気伝導性が高く、アモルファスカーボン33とグラフィティックカーボン32を経た電子を内層粒子31に円滑に導入及び導出できる。例えば、Vは導電性カーボンブラックと比べて約10~100倍の電気伝導性を有する。
【0044】
このように、内層粒子31間は、非晶質で電気抵抗が比較的高いアモルファスカーボン33、炭素電子が規則的に配列して電気伝導性が比較的高いグラフィティックカーボン32、そして電気伝導性が高いマグネリ相34というように、内層粒子31に近づくにつれて電気伝導性が高くなるように接続されている。
【0045】
尚、カーボンは内層3のみならず、外層殻2にも含まれる。外層殻2についても外層粒子21とカーボンとの複合体を含んで構成される。外層殻2及び内層3のカーボンは、炭化した多価アルコール、ポリマー、糖類及びアミノ酸が挙げられる。多価アルコールとしてはエチレングリコール等が挙げられ、ポリマーとしてはポリビニルアルコール、ポリアルキレンオキシド、ポリビニルピロリドン又はポリアクリル酸等が挙げられ、糖類としてはガラクトース、マンノース若しくはフルクトース等の単糖類、ラクトース、スクロース若しくはマルトース等の小糖類、グリコーゲン、デンプン若しくはセルロースなどの多糖類、又はこれらの誘導体が挙げられ、アミノ酸としてはグルタミン酸等が挙げられる。
【0046】
好ましくは、外層殻2及び内層3のカーボンは炭化した糖類であり、なかでもスクロース、グルコース又はこれらの混合がより好ましい。スクロースやグルコース等の糖類を炭化させて成るカーボンを含む造粒体は、出力特性が良好となる。即ち、スクロースやグルコースを炭化させて成るカーボンを含む造粒体は、幅広い範囲の電流密度に対して出力できる容量が大きく、高い電流密度で出力しても大きな容量を引き出すことができる。
【0047】
(本リチウムバナジウム酸化物の造粒体の製法)
本リチウムバナジウム酸化物の造粒体は例えば次の通り作製すればよい。即ち、図4に示すように、リチウムバナジウム酸化物を合成し(ステップS01)、得られたリチウムバナジウム酸化物の粒子を必要に応じて粉砕してナノ粒子化し(ステップS02)、リチウムバナジウム酸化物のナノ粒子の表面にカーボン源を付着させ、またリチウムバナジウム酸化物とカーボン源の複合体を造粒し(ステップS03)、加熱によりカーボン源を炭化処理する(ステップS04)。
【0048】
ステップS01のリチウムバナジウム酸化物の合成では、まず、リチウム源、バナジウム源、又はこれに加えて4価の金属種M源を混合する。この混合工程では、各材料源を均一に分散させる。各材料源の混合方法としては、例えばミキサーを用いて固相法を用いることができる。ミキサーによる混合方法では、各材料源の混合物に対して、ビーズミル、ロッドミル、ローラミル、攪拌ミル、遊星ミル、振動ミル、ボールミル、ホモジナイザー、ホモミキサーなどにより、物理的な力を加えればよい。
【0049】
混合工程において、各材料源の混合割合は、リチウムバナジウム酸化物の化学量論比に従えばよい。例えば、Li3.20.80.2の場合、モル比でLi:V:M=3.2:0.8:0.2となるように、各材料源を混合すればよい。リチウム源としては、水酸化リチウム、水酸化リチウム水和物、酢酸リチウム、硝酸リチウム、炭酸リチウム、塩化リチウム、乳酸リチウム等のリチウム含有化合物を用いることができる。バナジウム源としては、メタバナジン酸塩(NHVO、NaVO3、KVO等)、酸化バナジウム(V、V、V、V)、バナジウム(III)アセチルアセトナート、バナジウム(IV)オキシアセチルアセトナート、オキシ三塩化バナジウム、四塩化バナジウム、三塩化バナジウム、ポリバナジン酸塩等を用いることができる。金属種M源としては、金属種MがSiである場合、SiO又はLiSiO等のケイ素の酸化物、粉末Si、又はアモルファスSi等を用いることができる。
【0050】
リチウムバナジウム酸化物の合成では混合工程の後に熱処理工程を経る。熱処理工程は、予備加熱工程と焼成工程とに分けることが好ましい。予備加熱工程によってβ相の結晶構造を有するリチウムバナジウム酸化物を合成し、焼成工程によって金属種Mを固溶させてγ相の結晶構造を有する本リチウムバナジウム酸化物に相転移させることができる。
【0051】
予備加熱工程では、β相からγ相へ構造相転移する温度よりも低い温度で、各材料源の混合物を加熱する。例えば、予備加熱工程では、600以上800℃以下及び空気中の雰囲気下で、5時間程度に亘って加熱する。焼成工程では、γ相へ構造相転移する温度以上の温度で、予備加熱工程により合成されたβ相のリチウムバナジウム酸化物の結晶体と4価の金属種Mの材料源との混合物を加熱する。焼成工程では、800以上1000℃以下及び空気中の雰囲気下で、8時間程度に亘って加熱する。これにより、γ相の結晶構造のみを有するリチウムバナジウム酸化物の結晶体が合成され、このリチウムバナジウム酸化物の結晶体は、自然冷却過程においてもγ相の結晶構造を維持する。
【0052】
ステップS02のナノ粒子化の工程では、例えばミキサーを用いて湿式で粉砕処理すればよい。ミキサーによる混合方法では、例えばエタノール等の有機溶媒にリチウムバナジウム酸化物を添加し、ビーズミル、ロッドミル、ローラミル、攪拌ミル、遊星ミル、振動ミル、ボールミル、ホモジナイザー、ホモミキサーなどにより、物理的な力を加えればよい。
【0053】
ステップS03のコーティング及び造粒の工程では、スプレードライ処理を用いることができる。スプレードライ処理では、カーボン源の溶液中にナノ粒子化したリチウムバナジウム酸化物を分散させ、分散液に対して熱風を接触させることで溶媒を蒸発させる。このスプレードライ処理により、リチウムバナジウム酸化物のナノ粒子の表面がカーボン源によってコーティングされ、カーボン源によって表面がコーティングされたリチウムバナジウム酸化物のナノ粒子による造粒体が生成される。
【0054】
カーボン源は、熱処理によってカーボンとなり得る材料であればよく、例えば多価アルコール、ポリマー、糖類及びアミノ酸が挙げられる。多価アルコールとしてはエチレングリコール等が挙げられ、ポリマーとしてはポリビニルアルコール、ポリアルキレンオキシド、ポリビニルピロリドン又はポリアクリル酸等が挙げられ、糖類としてはガラクトース、マンノース若しくはフルクトース等の単糖類、ラクトース、スクロース若しくはマルトース等の小糖類、グリコーゲン、デンプン若しくはセルロースなどの多糖類、又はこれらの誘導体が挙げられ、アミノ酸としてはグルタミン酸等が挙げられる。
【0055】
溶媒としては、反応に悪影響を及ぼさない液であれば特に限定なく使用することができ、例えば水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどを使用することができ、特に水を使用することが好ましい。2種以上の溶媒を混合して使用しても良い。溶媒に対するカーボン源とリチウムバナジウム酸化物のナノ粒子の分散手法としては、超遠心処理(溶液中で粉体にずり応力と遠心力を加える処理)、ビーズミル、ホモジナイザー等が挙げられる。スプレードライ処理では、0.1Mpa程度の圧力でカーボン源が焼失しない温度で処理すればよい。
【0056】
ステップS04の炭化処理では、リチウムバナジウム酸化物のナノ粒子をコーティングしたカーボン源を炭化させてカーボンを生成する。内層3において内層粒子31の表面にはグラフィティックカーボン32がカーボン源の炭化により生成され、内層粒子31間にはアモルファスカーボン33がカーボン源の炭化により生成される。更に、カーボン源の炭化の際に一部の酸素原子がリチウムバナジウム酸化物から引き抜かれ、内層粒子31の表面がマグネリ相34に変質すると考えられる。
【0057】
炭化処理では、カーボン源が燃焼しないように、造粒体を無酸素又は低酸素雰囲気下で加熱する。無酸素又は低酸素雰囲気下には、不活性雰囲気と飽和水蒸気雰囲気が含まれ、典型的には真空中、窒素もしくはアルゴン雰囲気である。炭化処理では、雰囲気中の温度を650以上750℃以下とし、この温度範囲で5時間保持されるのが好ましい。この範囲であると良好な外層殻2と内層3とを有する二重構造の造粒体が得られ、良好な入出力特性が得られる。尚、窒素雰囲気下であると、リチウムバナジウム酸化物に窒素がドープされて導電性が高まるので、更に好ましい。
【0058】
(蓄電デバイス)
以上のリチウムバナジウム酸化物の造粒体は、リチウムイオンが可逆的に挿入及び脱離可能な材料である。リチウムバナジウム酸化物は、充放電電位(vs Li/Li+)がチタン酸リチウム(LiTi12)及びB型酸化チタン(TiO(B))よりも低く、充放電電位(vs Li/Li+)がグラファイトよりも高い。従って、このリチウムバナジウム酸化物の造粒体は蓄電デバイスの電極材料としての用途に好適である。
【0059】
リチウムバナジウム酸化物を負極材料に用いた蓄電デバイスは、高いエネルギー密度と高い安全性を両立する。更に、リチウムバナジウム酸化物結晶体を負極材料として用いたキャパシタの理論容量は、チタン酸リチウムと比べても高く、サイクル特性においても、リチウムバナジウム酸化物を負極材料として用いたキャパシタは、高い容量維持率及び高い充放電効率を維持する。
【0060】
蓄電デバイスとしてはリチウムイオン二次電池やハイブリッドキャパシタが挙げられる。リチウムイオン二次電池において、正極はリチウム金属化合物を含む電極活物質層を有し、負極は本リチウムバナジウム酸化物の造粒体を含む電極活物質層を有する。ハイブリッドキャパシタにおいて、正極は例えば活性炭を有し、負極は本リチウムバナジウム酸化物の造粒体を含む電極活物質層を有する。
【0061】
本リチウムバナジウム酸化物の造粒体は、バインダーと共に混練されることで活物質スラリーに含まれる。活物質スラリーを所定形状に成型して乾燥した後、集電体に圧着し、圧延処理することで、負極に電極活物質層が作製される。または、活物質スラリーを集電体にドクターブレード法等によって塗布し、乾燥させた後に圧延処理を施してもよい。造粒体は、ナノ粒子で構成される内層3を外層殻2で包み込むカプセル構造を有し、粒径が1μm以上であるため、電極活物質層の成型時及び集電体への塗布時に良好な成形性及び保形成を発揮する。即ち、成型体が崩れにくく、塗布した活物質スラリーが垂れにくい。
【0062】
集電体としては、正極及び負極共に、アルミニウム、銅、鉄、ニッケル、チタン、鋼、カーボン等の導電材料が好ましい。特に、高い熱伝導性と電子伝導性とを有しているアルミニウム又は銅が好ましい。集電体の形状は、膜状、箔状、板状、網状、エキスパンドメタル状、円筒状等の任意の形状を採用することができる。バインダーとしては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ポリフッ化ビニル、カルボキシメチルセルロース、スピレンブタジエンゴム(SBR)などの公知のバインダーが使用される。バインダーの含有量は、電極材料の総量に対して1以上30質量%以下であるのが好ましい。
【0063】
圧延処理では、例えば、10~500MPaのプレス圧をかけて高密度の電極を得る。このとき、プレス圧によって造粒体の外層殻2の他の部分の形状を維持しつつ、造粒体の外層殻2の一部を崩す。外層殻2の形状の一部が残ることで電極の保形性を維持しつつ、内層粒子31を電解液に晒すことができ、イオン拡散係数が良好になる。
【0064】
二次電池の正極に用いられる活物質の例としては、まず、層状岩塩型LiMO、層状LiMnO-LiMO固溶体、及びスピネル型LiM(式中のMは、Mn、Fe、Co、Ni又はこれらの組み合わせを意味する)が挙げられる。これらの具体的な例としては、LiCoO、LiNiO、LiNi4/5Co1/5、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNi1/2Mn1/2、LiFeO、LiMnO、LiMnO-LiCoO、LiMnO-LiNiO、LiMnO-LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiMnO-LiNi1/2Mn1/2、LiMnO-LiNi1/2Mn1/2-LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiMn、LiMn3/2Ni1/2が挙げられる。また、イオウ及びLiS、TiS、MoS、FeS、VS、Cr1/21/2などの硫化物、NbSe、VSe、NbSeなどのセレン化物、Cr、Cr、VO、V、V、V13などの酸化物の他、LiNi0.8Co0.15Al0.05、LiVOPO、LiV、LiV、MoV、LiFeSiO、LiMnSiO、LiFePO、LiFe1/2Mn1/2PO、LiMnPO、Li(POなどの複合酸化物が挙げられる。
【0065】
正極の活物質層には導電助剤としてカーボンを添加してもよい。カーボンとしては、導電性を有するものであれば特に限定なく使用でき、例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ、無定形炭素、炭素繊維、天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化ケッチェンブラック、メソポーラス炭素、気相法炭素繊維等を挙げることができる。
【0066】
ハイブリッドキャパシタの正極の活物質層に用いられる活性炭は、やしがら等の天然植物組織、フェノール等の合成樹脂、石炭、コークス、ピッチ等の化石燃料由来のものを原料とする。また、この活物質層には活性炭の他、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャネルブラックなどのカーボンブラック、カーボンナノホーン、無定形炭素、天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化ケッチェンブラック、メソポーラス炭素、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバなどが用いられてもよい。これら炭素材料は、水蒸気賦活、アルカリ賦活、塩化亜鉛賦活又は電界賦活等の賦活処理並びに開口処理によって比表面積を向上させてもよい。
【0067】
蓄電デバイスにおいて正極と負極との間に配置される電解質は、セパレータに保持された電解液であっても良く、固体電解質であっても良く、ゲル状電解質であっても良く、従来の蓄電デバイスにおいて使用されている電解質を特に限定なく使用することができる。例えば、リチウムイオン二次電池のためには、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート等の溶媒に、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO等のリチウム塩を溶解させた電解液が、ポリオレフィン繊維不織布、ガラス繊維不織布などのセパレータに保持された状態で使用される。その他、LiLaNb12、Li1.5Al0.5Ti1.5(PO、LiLaZr12、Li11等の無機固体電解質、リチウム塩とポリエチレンオキサイド、ポリメタクリレート、ポリアクリレート等の高分子化合物との複合体からなる有機固体電解質、電解液をポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル等に吸収させたゲル状電解質も使用される。ハイブリッドキャパシタのためには、リチウム塩をプロピレンカーボネート等に溶解させた電解液や、第4級アンモニウム塩をプロピレンカーボネート等に溶解させた電解液が使用される。
【0068】
尚、蓄電デバイスは、固体電解質が正負の電極の接触を防止可能な程度の厚みを有し、また単独で形態保持可能な硬度を備えるようにすれば、所謂セパレータレスであってもよい。また、集電体と活物質層の間には、黒鉛等の導電剤を含むカーボンコート層を設けてもよい。集電体の表面に黒鉛等の導電剤、バインダー等を含むスラリーを塗布、乾燥することで、カーボンコート層を形成することができる。
【0069】
(作用効果)
この造粒体は粒径が例えば1μm以上のように大きくすることができ、造粒体を含む活物質スラリーの成形性及び保形性を向上させることができる。一方、内層3にはナノ粒子が多く含まれているため、蓄電デバイスの容量が向上し、また高入出力となる。
【0070】
内層粒子31は、粒界を保ちながら集まって成り、凝集していない。従って、内層粒子31の一粒一粒が電解液と全表面又は多くの表面で触れることができ、蓄電デバイスの容量は更に向上し、また更に高入出力となる。これに対し、外層粒子21は少なくとも一部が粒界無く繋がって堅牢な外層殻2を作出する。堅牢な外層殻2は、電極活物質層を形成する際に少なくとも一部の形状を維持でき、内層3のナノ粒子をバラバラにすることなく、電極活物質層の成形性及び保形性を維持できる。
【0071】
尚、外層殻2は、外層粒子21が粒界無く繋がって密になっていても、内層3と造粒体外部とを連通させる隙間部22を有するため、この隙間部22から内層3へ電解液をより効率的に供給することができる。
【0072】
しかも、外層殻2もリチウムバナジウム酸化物とカーボンの複合体粒子により構成されているから、電極活物質として寄与する。その上、外層粒子21は内部中空であり、内部に電解液を浸透させることができるため、外層粒子21も電解液と接する表面積が大きくなり、また外層粒子21の内部までの距離も短くなるから、外層殻2の部分の容量も大きく発現させることができ、外層殻2の部分もリチウムイオンの移動が高速化する。
【0073】
内層粒子31間にはカーボンを介在させている。このカーボンは、内層粒子31の凝集を防ぎ、蓄電デバイスの高容量及び高入出力を支持している。また、このカーボンは、内層粒子31間の電子パスとなり、電極活物質層の電気伝導性を向上させている。
【0074】
内層粒子31間に介在させたカーボンはアモルファスカーボン33とした。アモルファスカーボン33によって内層粒子31間を接続すれば、グラフィティックカーボン32で覆われた内層粒子31の径が大きくならずに済み、高いイオン拡散係数を実現できる。一方、内層粒子31の表面には、グラフィティックカーボン32を付着させたため、内層粒子31に対して電子をより受渡し易くなる。
【0075】
このアモルファスカーボン33は、造粒体に対して3.8wt%以上7.3wt%以下の範囲で造粒体に含まれるように調整されており、電流密度に対する出力できる容量が高く、電流密度が高くなっても出力できる容量の低下が抑制される。
【0076】
また、内層粒子31の表面の一部は、マグネリ相34に変質している。そのため、アモルファスカーボン33とグラフィティックカーボン32を経た電子を内層粒子31に更に円滑に導入及び導出することができる。
【実施例0077】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明は実施例に限定されるものではない。次の通りにして、Siの係数xが0.2となり、化学式Li3.20.8Si0.2で表されるリチウムバナジウム酸化物の造粒体を実施例1として作製した。
【0078】
リチウム源として炭酸リチウム(LiCO)の粉末(商品名:3N5,関東化学株式会社,24121-08)を用い、バナジウム源として五酸化バナジウム(V)の粉末(商品名:酸化バナジウム(V),関東化学株式会社、44017-00)を用い、金属種M源として二酸化ケイ素(SiO)の粉末(商品名:二酸化珪素、99.9%,和光純薬工業株式会社,192-09071)を用いた。リチウム源とバナジウム源と金属種M源は化学量論比に従って混合され、混合物は焼成された。
【0079】
乾式ボールミル(Fritsch, Premium line P-7 (PL-7))を用いて、これらリチウム源とバナジウム源と金属種M源は混合された。混合の際は、ミキサーを300rpmで2分間稼働させ、ミキサーを1分間停止させ、これを10回繰り返した。焼成工程では、混合物を600℃の空気環境下に5時間晒した。この加熱の後、更に混合物を900℃の空気環境下で8時間晒した。焼成により得られた粉末をエタノールに添加し、800rpmの回転数で2分間、ボールミル(Fritsch, Premium line P-7 (PL-7))により粉砕させ、ミキサーを3分間停止させ、これら回転と停止により成る1サイクルを5回繰り返すことでナノ粒子化した。ナノ粒子化した後は、80℃で一晩真空乾燥させた。
【0080】
乾燥させた収集物をスクロースと共に水に添加し、溶液を攪拌した。水には、収集物に対して33wt%のスクロースを添加した。そして、スプレードライヤ(BUCHI、ミニスプレードライヤー B-290(噴霧乾燥器))を用いてコーティング及び造粒を行った。入口温度は160℃、アスピレータ動作速度は最大値の100%、ポンプ出力は最大値の25%に設定し、窒素の圧縮ガスを用いて作成した溶液を噴霧した。スプレードライ法によるコーティング及び造粒の後、得られた造粒体を700℃の窒素環境下に5時間晒し、スクロースを炭化させた。
【0081】
得られたリチウムバナジウム酸化物の造粒体の表面を走査電子顕微鏡で観察した。図5の(a)及び(b)は、表面SEM像を示す写真であり、図5(a)は倍率2千倍、図5(b)は倍率2万倍で拡大した写真である。図5に示すように、0.51μm以上15μm以下の範囲に粒径が分布する真球体の造粒体が得られていることが確認できる。
【0082】
また、得られた造粒体の断面試料を作製し、走査電子顕微鏡で造粒体の断面を観察した。図6の(a)及び(b)は、断面SEM像を示す写真であり、(a)は造粒体全体を写す倍率7万倍の写真であり、(b)は外層殻2と内層3の境界付近を写す倍率10万倍の写真である。図6に示すように、造粒体は、断面SEM像で観察した場合に粒子の少なくとも一部が粒界無く繋がった外層殻2と、粒子の粒界が視認可能の状態で存在する内層3との二重構造になっていることが確認できる。外層殻2は、目視にて計測したところ、厚みが100nm以上300nm以下であり、内層粒子31は、目視にて計測したところ、粒径が30nm以上50nm以下であった。
【0083】
図6の(a)に示す断面試料をエネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)で解析し、各元素の分布をマッピングした写真を得た。図7の(a)は、炭素原子Cの分布を示すカラーマッピング画像であり、図7の(b)は、酸素原子Oの分布を示すカラーマッピング画像であり、図7の(c)は、珪素原子Siの分布を示すカラーマッピング画像であり、図7の(d)は、バナジウム原子Vの分布を示すカラーマッピング画像である。図7の(a)乃至(d)に示すように、造粒体の外層殻2及び内層3の区別なく全域に、炭素原子、酸素原子、珪素原子及びバナジウム原子が均一に分布していることが確認できる。即ち、外層殻2及び内層3は、カーボンで複合化されたリチウムバナジウム酸化物の粒子により構成されていることが確認できる。
【0084】
造粒体の外層殻2を走査型透過電子顕微鏡(STEM)で観察し、DF(暗視野)検出器及びBF(明視野)検出器で結像させ、暗視野像と明視野像の写真を得た。図8の(a)は倍率4万倍の暗視野写真であり、(b)は倍率4万倍の明視野写真である。図8の(a)及び(b)に示すように、暗視野写真では濃く写る隙間部22が確認でき、明視野では濃く写る重い元素の周りに、薄く写る隙間部22が確認できる。図8の(a)及び(b)の写真に基づき、隙間部22の大きさを目視で確認したところ、直径が50nm以上150nm以下であった。
【0085】
また、造粒体の外層殻2を走査型透過電子顕微鏡(STEM)で観察し、図9に示す倍率4万倍のSTEM像を得た。図9に示すように、外層粒子21は内部中空であり、内部空間は20nm幅を有することが確認された。
【0086】
造粒体の内層3を透過電子顕微鏡(TEM)で観察した。その結果得られたTEM像を図10及び図11に示す。図10は、造粒体の内層粒子31の倍率50万倍のTEM像である。図11は、造粒体の内層3の倍率40万倍のTEM像であり、内層粒子31の縁取りを加えてある。図10に示すように、内層粒子31の表面にはカーボンの結晶体が付着していることが確認できる。即ち、内層粒子31の表面にグラフィティックカーボン32が付着していることが確認できる。一方、図11に示すように、内層粒子31の間には、非晶質のカーボンが介在し、内層粒子31が凝集しないように、内層粒子31同士の距離を確保していることが確認できる。即ち、内層粒子31の間にはアモルファスカーボン33が介在していることが確認できる。
【0087】
更に、内層粒子31を透過電子顕微鏡(TEM)で観察した。その結果得られた倍率20万倍のTEM像を図12に示す。図12に示すように、内層粒子31の縁31aが濃く写っていることが確認できる。濃くなった部分は、リチウムバナジウム酸化物からリチウム原子や珪素原子が抜け落ちて、バナジウム原子と酸素原子によって構成される結晶領域となっていることが示唆される。
【0088】
そこで、この結晶領域について、制限視野電子回折法により確認した。図13は制限視野ED図を示す。この制限視野ED図に基づいて実測値を求め、実測値を原点から各回折点までの距離に基づく入射角2θに換算した結果、この結晶領域にはVが多く含有していることがわかる。即ち、内層粒子31の表面にマグネリ相34が確認された。尚、図13によると、原点から各回折点までの距離に基づく入射角2θは最内周の103面が21.14°、次に中心側の1-2-3面が26.76°、次に中心側の1-2-4面が30.01°、次に中心側の104面が32.29°、最外周の100面が36.24°であった。Vは入射角2θが21.19°、26.75°、30.06°、32.61°、36.99°にピークが現れる(ICDDカードNo. 01-0577)。
【0089】
以上より、実施例1の造粒体は、リチウムバナジウム酸化物とカーボンを含むこと、外層殻2と内層3の二重構造を有すること、内層3は、リチウムバナジウム酸化物の複数の粒子が粒界を保ちながら集まって成ること、外層殻2は、リチウムバナジウム酸化物の粒子の少なくとも一部が粒界無く繋がって成ること、外層殻2は、50nm以上150nm以下で開口し、内層3と造粒体外部とを連通させる隙間部22を有すること、外層粒子21の少なくとも一部は、内部中空であること、アモルファスカーボン33が内層粒子31の間に介在すること、グラフィティックカーボン32が内層粒子31の表面に付着していること、内層粒子31の表面の一部はマグネリ相34に変質していることが確認できた。
【0090】
この実施例1の造粒体に対応させて、比較例1の造粒体を作製した。比較例1の造粒体は、実施例1と同じく、Siの係数xが0.2となり、化学式Li3.20.8Si0.2で表されるリチウムバナジウム酸化物を用いているが、マルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNT)との複合体の粒子を造粒して成る点で異なる。また、造粒体の構造も実施例1と異なる。
【0091】
この比較例1の造粒体は、次の通り作製した。即ち、材料源及び混合比は実施例1と同一にし、実施例1と同一方法及び同一条件で混合及び焼成した。焼成後、80°で一晩真空乾燥させた収集物にマルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNT)を、収集物に対して20wt%の割合で添加した。そして、300rpmの回転数で12時間、乾式ボールミル(Fritsch, Premium line P-7 (PL-7))によって混合することで比較例1の造粒体を得た。
【0092】
即ち、この比較例1の造粒体は、実施例1の造粒体がスクロースの添加、スプレードライ法によるコーティング及び造粒、並びに加熱によるスクロースの炭化を経たのに対し、MWCNTの添加、乾式ボールミルによるコーティング及び造粒、並びに最後の加熱処理がない点で、実施例1の造粒体の製法と異なる。
【0093】
この比較例1の造粒体は、粒径が50以上500nm以下のLi3.20.8Si0.2で表されるリチウムバナジウム酸化物の表面にMWCNTが付着した構造を有する。表面にマグネリ相34はない。比較例1のリチウムバナジウム酸化物の粒子は各所で凝集して多くの二次粒子を構成し、二次粒子間にMWCNTが介在する。尚、実施例1では一次粒子である内層粒子31の多くは凝集せず、一次粒子である内層粒子31間にアモルファスカーボン33が介在する。また、比較例1のリチウムバナジウム酸化物の粒子はグラフィティックカーボン32に表面が覆われているわけではなく、比較例1のリチウムバナジウム酸化物の粒子の表面の多くが露出している。更に、比較例1の造粒体には、外層殻2はなく、二次粒子間にMWCNTが介在して成る構造物のみで形作られている。
【0094】
実施例1と比較例1の造粒体の熱重量測定(TG)を行った。即ち造粒体を1000℃を上限として温度変化する雰囲気に静置し、重量測定を行った。その結果、実施例1の造粒体は、造粒体全量に対して10.2wt%のカーボンが含まれていた。比較例1の造粒体は、造粒体全量に対して20wt%のカーボンが含まれていた。
【0095】
これら実施例1と比較例1の造粒体を用いてハーフセルを作製した。ハーフセルは2032型コインセルとした。具体的には、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を選択し、造粒体とバインダーとを共に攪拌してスラリー状にし、銅箔の集電体に塗布することで当該集電体上に電極活物質層を形成した後、圧延処理を行った。圧延処理では、30MPaのプレス圧をかけた。この電極を作用電極W.E.とした。
【0096】
対極はリチウム金属とし、2032型コインセルの下蓋に貼り付けた。対極C.Eの上にガラスファイバーセパレータ、ガスケット、作用電極W.E、スペーサー、スプリング、上蓋の順に載せ、加締めてセルを作製した。電解液は、炭酸エチレン(EC)と炭酸ジメチル(DEC)を溶媒とし、溶質として1.0M六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を添加して調整した。体積比率でEC:DEC=1:1とした。この電解液を浸透させてセルとした。
【0097】
図14は、実施例1の電極活物質層の断面を示すSEM写真である。図14に示すように、圧延処理によって一部の造粒体は外層殻2の一部が崩れ、内層3が露出していることが確認できる。そのため、外層殻2の一部が崩れた造粒体の内層3は、外層殻2の隙間部22を介さずに電解液に満たされている。
【0098】
これら実施例1及び比較例1のハーフセルについて、放電電流密度と放電容量との関係を測定した。図15は、測定の結果得られた実施例1と比較例1の出力特性を示すグラフである。
【0099】
図15に示すように、0.05以上15Ag-1以下までの放電電流密度の全範囲において、実施例1のハーフセルは比較例1のハーフセルを上回る容量が引き出されていることが確認できる。放電電流密度が限りなくゼロに近い場合の放電容量は、比較例1のハーフセルが134mAhg-1に対し、実施例1のハーフセルが154mAhg-1であり、実施例1は比較例1と比べて容量が15%向上している。また、放電電流密度が限りなくゼロに近い場合の放電容量に対する15Ag-1の放電電流密度の場合の放電容量の比率は、比較例1のハーフセルが50%に対し、実施例1のハーフセルが68%であり、実施例1は比較例1と比べて容量が18%向上している。
【0100】
しかも、実施例1のハーフセルは、比較例1のハーフセルと比べてカーボン量が49%削減された上で、比較例1よりも高入出力となっている。即ち、実施例1の造粒体は、内層3は外層殻2に包まれているにも関わらず、比較例1よりも容量が効率良く引き出され、高入出力となっていることが確認できた。
【0101】
更に、実施例2及び3の造粒体と比較例2の造粒体を作製した。実施例2及び3の造粒体と比較例2の造粒体は、実施例1と比べて、スプレードライ処理の際のスクロースの添加量が異なる。実施例1では、リチウムバナジウム酸化物に対して33wt%のスクロースを添加したのに対し、実施例2では、リチウムバナジウム酸化物に対して20wt%のスクロースを添加し、実施例3では、リチウムバナジウム酸化物に対して50wt%のスクロースを添加し、比較例2では、リチウムバナジウム酸化物に対して11wt%のスクロースを添加した。スクロースの添加量以外の製法及び条件については、実施例1乃至3及び比較例2で共通である。
【0102】
図16は、実施例1乃至3及び比較例2の造粒体において、造粒体中のグラフィティックカーボン32とアモルファスカーボン33の量を示すグラフである。グラフィティックカーボン32とアモルファスカーボン33の量は、熱重量測定(TG)に基づく。即ち、実施例1乃至3及び比較例1の造粒体を加熱し、雰囲気温度が200℃以上400℃以下の温度範囲で減少した重量分をアモルファスカーボン33の重量とし、雰囲気温度が600℃以上800℃以下の温度範囲で減少した重量分をグラフィティックカーボン32の重量とした。減少量は、カーボンを未添加とした以外は、実施例1と同一製法及び同一条件で作製された造粒体の熱重量測定の結果を基準とした。
【0103】
図16に示すように、グラフィティックカーボン32の付着量は、スクロースの添加量に関わらず殆ど一定であった。これに対し、比較例2の造粒体にはアモルファスカーボン33が0.2wt%含まれていた。カーボン全量としては、比較例1の造粒体にはグラフィティックカーボン32と合計して2.2wt%含まれていた。実施例2の造粒体にはアモルファスカーボン33が3.8wt%含まれていた。カーボン全量としては、実施例2の造粒体にはグラフィティックカーボン32と合計して7.0wt%含まれていた。実施例1の造粒体にはアモルファスカーボン33が7.3wt%含まれていた。カーボン全量としては、実施例1の造粒体にはグラフィティックカーボン32と合計して10.2wt%含まれていた。実施例3の造粒体にはアモルファスカーボン33が16.2wt%含まれていた。カーボン全量としては、実施例3の造粒体にはグラフィティックカーボン32と合計して18.3wt%含まれていた。
【0104】
これら比較例2並びに実施例1乃至3の造粒体を用いてハーフセルを作製した。ハーフセルは、実施例1及び比較例1と同一製法及び同一条件で作製された。これら比較例2並びに実施例1乃至3のハーフセルについて、放電電流密度と放電容量との関係を測定した。測定結果を図17に示す。図17に示すように、アモルファスカーボン33が造粒体全体に対して0.2wt%であった比較例2のハーフセルは、放電電流密度の全範囲において容量が発現しなかった。これに対し、アモルファスカーボン33が造粒体全体に対して3.8wt%以上であった実施例1乃至3のハーフセルは、放電電流密度の全範囲で容量が発現している。
【0105】
従って、内層粒子31間にアモルファスカーボン33が介在することで、内層粒子31の凝集を抑制し、また内層粒子31間の電子パスが構築されていれば、外層殻2によって内層3が包み込まれていても、造粒体を用いた蓄電デバイスの入出力特性は良好となることが確認された。
【0106】
実施例3のハーフセルは、グラフィティックカーボン32よりも電気抵抗が高いアモルファスカーボン33が造粒体全体に対して16.2wt%であったため、放電電流密度が高くなると、比例するように引き出される容量が減少した。これに対し、アモルファスカーボン33が造粒体全体に対して3.8wt%以上7.3wt%以下の実施例1及び2のハーフセルは、放電電流密度が10Ag-1程度までは、引き出される容量の減少量が抑制された。アモルファスカーボン33が造粒体全体に対して7.3wt%の実施例1のハーフセルは、放電電流密度が10Ag-1程度までは、引き出される容量の減少量が特に抑制されていた。
【0107】
これにより、アモルファスカーボン33が造粒体全体に対して3.8wt%以上7.3wt%以下であると、内層粒子31の凝集抑制と、内層粒子31間の電気抵抗のバランスが良好に成り、造粒体を用いた蓄電デバイスの入出力特性は更に良好となることが確認された。
【0108】
更に、実施例4乃至6の造粒体を作製した。実施例4の造粒体は、実施例1においてスプレードライ処理の際のスクロースを添加したのに対し、グルコースを実施例1と同一重量分添加した。実施例5の造粒体は、ポリビニルアルコール(PVA)を実施例1と同一重量分添加した。実施例6の造粒体は、ヒスチジンを実施例1と同一重量分添加した。カーボン源の種類以外の製法及び条件については、実施例1並びに実施例4乃至6で共通である。
【0109】
そして、実施例4乃至6の造粒体を用いてハーフセルを作製した。ハーフセルは、実施例1と同一製法及び同一条件で作製された。これら実施例4乃至6のハーフセルについて、放電電流密度と放電容量との関係を測定した。測定結果を実施例1の結果と共に図18に示す。図18に示すように、カーボン源の種類に依らずに低電流密度から高電流密度まで容量が発現することが確認でき、特に、糖類であるスクロースとグルコースをカーボン源とする実施例1及び実施例4のハーフセルは、実施例5及び6と比べて放電電流密度の全範囲で大きな容量が発現し、更に、スクロースをカーボン源とする実施例1のハーフセルは、放電電流密度の全範囲で大きな容量を維持していることが確認された。
【符号の説明】
【0110】
2 外層殻
21 外層粒子
22 隙間部
23 中空部
3 内層
31 内層粒子
32 グラフィティックカーボン
33 アモルファスカーボン
34 マグネリ相
図1
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