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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022022359
(43)【公開日】2022-02-03
(54)【発明の名称】バイオサーファクタントの利用
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20220127BHJP
   A61P 15/14 20060101ALI20220127BHJP
   A61K 31/7032 20060101ALN20220127BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P15/14 173
A61P15/14 171
A61K31/7032
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021199034
(22)【出願日】2021-12-08
(62)【分割の表示】P 2018559067の分割
【原出願日】2017-12-18
(31)【優先権主張番号】P 2016252947
(32)【優先日】2016-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016252952
(32)【優先日】2016-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 周平
(72)【発明者】
【氏名】北林 雅夫
(72)【発明者】
【氏名】久枝 啓一
(72)【発明者】
【氏名】磯部 直樹
(57)【要約】
【課題】乳房炎又は乳生産を改善するための新たな手段を提供すること。
【解決手段】バイオサーファクタントを含有する乳房炎改善又は治療剤或いは乳生産促進剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオサーファクタントを含有する乳生産促進剤。
【請求項2】
反芻動物用である、請求項1に記載の乳生産促進剤。
【請求項3】
乳房に局所適用されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の乳生産促進剤。
【請求項4】
局所適用が1日1回以上の頻度で3日以上継続されることを特徴とする、請求項3に記載の剤。
【請求項5】
バイオサーファクタントを反芻動物の乳房に局所適用することを含む、乳生産促進方法。
【請求項6】
局所適用の頻度が1日1回以上である、請求項5に記載の乳生産促進方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
乳房炎の改善又は治療、及び乳生産促進に関する技術が開示される。
【背景技術】
【0002】
乳房炎は乳牛における疾病の中で、乳の生産性に直接関わる乳腺に起きる疾病であるため、経済的影響が非常に大きい。乳房炎の治療としては、抗生物質の投与が一般的に行われている。しかし、抗生物質を用いると体内残留等の問題があり、一定期間は生乳の出荷が制限されるため、経済的損失が大きい。その為、できる限り抗生物質の使用は避けることが望ましい。
【0003】
このような背景の下、抗生物質以外の成分(例えば、天然物由来成分)を乳牛に摂取させることによって乳房炎を予防又は治療する試みが報告されている。例えば、特許文献1には、アウレオバシジウム属に属する微生物の培養物から得られる培養組成物を有効成分として含有する乳房炎の予防・治療用組成物が提案されている。また、特許文献2には、パン酵母生菌を有効成分として含有する家畜乳房炎予防治療組成物が提案されている。これらの組成物は、例えば、飼料に添加して家畜に投与することが想定されている。
【0004】
他方、哺乳動物は、その種を問わず状況に応じて乳の分泌ないし生産が必要とされる。特に、反芻動物の乳は、そのまま又は加工されて食品として広く利用されているため、その生産性の向上が求められている。従来、乳生産の改良は、主に乳生産量が多い種を利用した交配、生育環境の改良、及び飼料の改良によって行われてきた。
【0005】
一方、バイオサーファクタントとは、微生物によって生産される界面活性作用及び乳化作用を有する物質の総称であり、高い生分解性及び種々の生理作用を有することが報告されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-126657号公報
【特許文献2】特開2001-224317号公報
【特許文献3】特開2016-94398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
乳房炎を改善又は治療するための新たな手段を提供することが1つの課題である。また、乳生産を向上させるための新たな手段を提供することが1つの課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
斯かる課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、(1)バイオサーファクタントに乳房炎の改善又は治療作用があること、及び(2)バイオサーファクタントに乳生産ないし分泌を促進する作用があること、を見出した。斯かる知見に基づき、更なる検討を重ね、下記に代表される発明が提供される。
【0009】
項1
バイオサーファクタントを含有する乳房炎改善又は治療剤。
項2
反芻動物用である、項1に記載の乳房炎改善又は治療剤。
項3
乳房に局所適用されることを特徴とする、項1又は2に記載の乳房炎改善又は治療剤。
項4
局所適用が1日1回以上の頻度で3日以上継続されることを特徴とする、項3に記載の乳房炎改善又は治療剤。
項5
バイオサーファクタントを反芻動物の乳房に局所適用することを含む、乳房炎改善又は治療方法。
項A
バイオサーファクタントを含有する乳生産促進剤。
項B
反芻動物用である、項Aに記載の乳生産促進剤。
項C
乳房に局所適用されることを特徴とする、項A又はBに記載の乳産生促進剤。
項D
局所適用が1日1回以上の頻度で3日以上継続されることを特徴とする、項Cに記載の乳生産促進剤。
項E
バイオサーファクタントを反芻動物の乳房に局所適用することを含む、乳生産促進方法。
項F
局所適用の頻度が1日1回以上である、項Eに記載の乳生産促進方法。
【発明の効果】
【0010】
乳房炎を改善又は治療する手段が提供される。乳の生産ないし分泌を促進する手段が提供される。よって、乳のより効率的な生産が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】バイオサーファクタントの塗布による乳房炎を伴う乳牛の乳頭スコアの変化を示す。
図2】バイオサーファクタントの塗布による乳房炎を伴う乳牛の乳頭の硬さの変化を示す。
図3】バイオサーファクタントの塗布による罹患乳房の乳中体細胞数の推移
図4】バイオサーファクタントの塗布による乳牛の乳生産量の変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
バイオサーファクタントの種類は特に制限されず任意である。バイオサーファクタントには、例えば、マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)、マンノシルマンニトールリピッド(MML)、マンノシルソルビトールリピッド(MSL)、マンノシルアラビトールリピッド(MAraL)、マンノシルリビトールリピッド(MRL)、セロビオースリピッド、ラムノリピッド、トレハロースリピッド、ソホロリピッド、及びサーファクチンなどが含まれる。MEL、MML、MSL、MAraL、及びMRL等は、マンノシルアルジトールリピッド(MAL)とも総称される。一実施形態において、バイオサーファクタントは、ラメラ構及び/又はベシクルを形成する作用を有することが好ましく、例えば、MELが好ましい。
【0013】
MELは、下記の一般式(1)で示される構造を有する。
【0014】
【0015】
(式中、RおよびRは、各々独立して炭素数2~24の脂肪族アシル基を表す。R及びRは各々独立して水素原子又はアセチル基を表す。)
【0016】
MELは、一般式(1)のR及びRの種類に応じて4種類(MEL-A、MEL-B、MEL-C、及びMEL-D)に分類される。MEL-Aは、R及びRのいずれもがアセチル基である。MEL-Bは、Rが水素原子であり、Rはアセチル基である。MEL-Cは、Rがアセチル基であり、Rは水素原子である。MEL-Dは、R及びR共に水素原子である。一実施形態において好ましいMELは、MEL-Bであることが好ましい。
【0017】
一実施形態において、MELの種類に関係なく、式(1)のR及びR2は、脂肪族アシル基の炭素数が4~24であることが好ましく、より好ましくは8~14である。
【0018】
MELには、エリスリトール部分の構造に関して、2種類の光学異性体(4-O-β-D-マンノピラノシル-meso-エリスリトール(「4-O-β-MEL」と略す)、及び1-O-β-D-マンノピラノシル-meso-エリスリトール(「1-O-β-MEL」と略す))が存在する。一実施形態において、MELは、1-O-β-MELであることが好ましく、他の実施形態においてMELは、4-O-β-MELであることが好ましい。好適な一実施形態において、MELは、下記式(2)の構造を有することが好ましい。
【0019】
【0020】
式(2)のMELにおいて、RおよびRは、炭素数4~24の脂肪族アシル基であることが好ましく、炭素数8~14の脂肪族アシル基であることが好ましい。一実施形態において、式(1)MELは、Rが水素原子であることが好ましい。一実施形態において、式(1)のMELは、Rがアセチル基であることが好ましい。
【0021】
バイオサーファクタントは商業的に入手可能であり、化学合成又は微生物の培養によって取得することも可能である。一実施形態において、微生物の培養によって製造されることが好ましい。
【0022】
MELを生産する微生物には、例えば、シュードザイマ属、モイジオマイセス属、ウスチラゴ属、スポリソリウムニ属、Melanopsichium属、及びクルツマノマイセス属に属する微生物等が含まれる。好ましいシュードザイマ属微生物には、Pseudozyma antarctica、Pseudozyma parantarctica、Pseudozyma rugulosa、Pseudozyma siamensis、Pseudozyma shanxiensis、Pseudozyma crassa、Pseudozyma churashimaensis、Pseudozyma aphidis、Pseudozyma hubeiensis、及びPseudozyma tsukubaensis等が含まれる。好ましいモイジオマイセス属微生物には、Moesziomyces antarcticus、及びMoesziomyces aphidis等が含まれる。好ましいウスチラゴ属微生物には、Ustilago hordei及びUstilago maydis等が含まれる。好ましいSporisorium属微生物には、Sporisorium reilianum及びSporisorium scitamineum等が含まれる好ましいMelanopsichium属微生物には、Melanopsichium pennsylvanicum等が含まれる。好ましいクルツマノマイセス属微生物には、Kurtzmanomyces sp. I-11等が含まれる。好適な一実施形態において、MEL産生微生物は、シュードザイマ属微生物であり、より好ましくはPseudozyma tsukubaensisに属する微生物であり、更に具体的には、Pseudozyma tsukubaensis 1E5(JCM16987株)、NBRC1940(ATCC24555、CBS422.96、CBS6389、DBVPG6988、PYCC4855、JCM10324、MUCL29894、NCYC1510、NRRLY-7792)である。これらの微生物は一種のみを用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。Pseudozyma tsukubaensisに属する微生物は、1-O-β-MEL-Bを選択的に生産する。
【0023】
微生物を用いたMELの生産は任意の方法及び条件で行うことができる。例えば、微生物を培養することによってMELを生産することができる。使用する培地としては、特に制限されないが、例えば、炭素原料にグルコース、ショ糖、廃糖蜜などの糖質を用いることが望ましい。糖質に加えて、もしくは置き換えて、油脂類などを炭素源として用いることもできる。油脂類の種類は特に制限されず、例えば、植物油脂、脂肪酸又はそのエステル類を添加することができる。
【0024】
一実施形態において、培地に植物油脂を添加することが好ましい。植物油脂の種類は特に制限されず、目的とするMELの種類等に応じて適宜選択することができる。植物油脂には、例えば、大豆油、オリーブ油、ナタネ油、紅花油、ゴマ油、パームオイル、ひまわり油、ココナッツ油、カカオバター、及びひまし油等が含まれる。脂肪酸には、例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ベヘン酸、及びネルボン酸等が含まれる。これらの脂肪酸は一種のみを用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。一実施形態において、好ましい脂肪酸は、オレイン酸である。
【0025】
一実施形態において、炭素源としてグルコースのみを含む培地でMELを生産する微生物を培養することができる。窒素源としては、有機窒素源と無機窒素源を組み合わせて用いることができる。例えば、有機窒素源として、酵母エキス、麦芽エキス、ペプトン、ポリペプトン、コーンスティープリカー、カザミノ酸、及び尿素から成る群より選択される一種類もしくは二種類以上を組み合わせて用いることができる。無機窒素源としては、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、及びアンモニアから成る群より選択される一種類もしくは二種類以上を組み合わせて用いることができる。別の実施形態において、脂肪酸及びグリセリンを添加した培地でマンノシルエリスリトールリピッド産生能を有する微生物を培養することを含む、マンノシルエリスリトールリピッドを製造する方法が提供される。
【0026】
脂肪酸及び油脂類の量は、特に制限されないが、例えば、各々培地中の濃度が0.1~30容量%となるように添加することができる。
【0027】
微生物の培養条件は特に制限されない。例えば、pH4~8、好ましくはpH5~6、温度20~35℃、好ましくは22~28℃の条件で3~7日間培養することができる。MELは、常法に従って培養液中から回収することができる。
【0028】
乳房炎改善又は治療剤、或いは、乳生産促進剤は、その乳房炎の改善又は治療作用、或いは乳産生促進作用を阻害しない限り、任意の他の成分を含み得る。他の成分としては、例えば、次を挙げることができる:水;エタノール等のアルコール類、タール系色素、酸化鉄などの着色顔料;パラベン、フェノキシエタノールなどの防腐剤;オリーブスクワラン、米スクワラン、サメスクワランなどのスクワラン;ジメチルポリシロキサン、環状シリコーン等のシリコーン油;パラフィン、流動パラフィン、ワセリン、オレフィンオリゴマー、スクワラン等の炭化水素類;ホホバ油、オリーブ油、マカデミアナッツ油、ヒマシ油、紅花油、ヒマワリ油、アボカド油、キャノーラ油、キョウニン油、米胚芽油、米糠油などの植物油;トリアセチルヒドロキシステアリン酸グリセリル、トリアセチルリシノール酸グリセリル、トリイソパルミチン酸グリセリド、トリイソステアリン酸グリセリル、トリウンデカン酸グリセリル、トリヒドロキシステアリン酸グリセリル、トリオレイン酸グリセリル、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリル、トリ(カプリル・カプリン・ミリスチン・ステアリン酸)グリセリル、トリ(カプリル・カプリン・ラウリン酸)グリセリル、トリ(カプリル・カプリン・リノール酸)グリセリル、トリカプリン酸グリセリル、トリ牛脂脂肪酸グリセリル、トリミリスチン酸グリセリド、トリステアリン酸グリセリル、トリパルミチン酸グリセリル、トリ2-ヘプチルウンデカン酸グリセリル、トリベヘン酸グリセリル、トリミリスチン酸グリセリル、トリヤシ油脂肪酸グリセリル、トリラウリン酸グリセリル、トリラノリン脂肪酸グリセリル、2-エチルヘキサン酸グリセリル、トリリノール酸グリセリル等の合成グリセリドなどのトリグリセリド;ミツロウ、モクロウ、カルナバロウ等のロウ類;ミリスチン酸オクチルドデシル、パルミチン酸セチル、イソステアリン酸イソステアリル、ミリスチン酸イソプロピル等のエステル油;セタノール、ベヘニルアルコール、イソステアリルアルコール、ホホバアルコール、オレイルアルコール、ステアリルアルコール、長鎖分岐脂肪族アルコール等の高級アルコール類;コレステロール、フィトステロール、分岐脂肪酸コレステロールエステル、マカデミアナッツ脂肪酸フィトステリルエステル等のステロール類及びその誘導体;硬化油等の加工油類;ステアリン酸、ミリスチン酸、イソ型長鎖脂肪酸、アンテイソ型長鎖脂肪酸などの高級脂肪酸;ジカプリルエーテル等のエーテル;リモネン、水素添加ビサボロール等のテルペン類等、セチル硫酸ナトリウム、N-ステアロイル-L-グルタミン酸塩などの陰イオン界面活性剤;多価アルコール脂肪酸エステル(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油は除く)、変性シリコーン、蔗糖エステルなどの非イオン界面活性剤;テトラアルキルアンモニウム塩などの陽イオン界面活性剤;ベタイン型、スルホベタイン型、スルホアミノ酸型などの両性界面活性剤;レシチン、リゾフォスファチジルコリン、セラミド、セレブロシドなどの天然系界面活性剤;酸化チタン、酸化亜鉛などの顔料;ジブチルヒドロキシトルエンなどの抗酸化剤;塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、硫酸ナトリウム、硝酸カリウム等の無機塩類;クエン酸ナトリウム、酢酸カリウム、琥珀酸ナトリウム、アスパラギン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、ガンマアミノ酪酸、リポ酸等の有機酸塩類;塩酸エタノールアミン、硝酸アンモニウム、塩酸アルギニン等の塩類、エデト酸等のキレート剤;水酸化カリウム、ジイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン等の中和剤;ヒアルロン酸、コラーゲン等の生体高分子;胎盤抽出物;ヒドロキシメトキシベンゾフェノンスルフォン酸塩等の紫外線吸収剤;レチノール、レチノールアセテート、レチノールパルミテートなどのビタミンA及びその誘導体;αトコフェロール、γトコフェロール、δトコフェロール、ニコチン酸トコフェロール、酢酸トコフェロールなどのビタミンE及びその誘導体;パルミチン酸アスコルビル、ステアリン酸アスコルビル、テトライソステアリン酸アスコルビルなどの油溶性ビタミンC誘導体;キサンタンガム、ベータグルカン、オーツ麦、白きくらげ等から抽出される多糖類、カラギーナンやアルギン酸、寒天などのような海藻抽出物、カルボキシビニルポリマー、ペクチン、アルキル変性カルボキシビニルポリマーなどの水溶性高分子;ジプロピレングリコール、1,3ブチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マルビトール、ジグリセリン、ラフィノース、ヘキシレングリコールなどの多価アルコール等。
【0029】
乳房炎改善又は治療剤、或いは、乳生産促進剤は、乳房炎を改善又は治療できる限り、、或いは、乳生産を促進できる限り、任意の形態であり得る。乳房炎改善又は治療剤、或いは、乳生産促進剤は、バイオサーファクタントだけを含んでもよいが、乳房炎の改善又は治療作用、或いは、乳生産促進作用を妨げない任意の賦形剤と組み合わせて、非経口投与、経口投与または外部投与に適した、任意の形態(例えば、医薬品、医薬部外品、食品、化粧品、動物用医薬品、動物用食品、動物用化粧料)であり得る。一実施形態において、乳房炎改善又は治療剤、或いは、乳生産促進剤は、局所投与に適した形態(例えば、外用剤)であることが好ましく、例えば、ローション、乳液、ジェル、クリーム、軟膏、スプレー剤、パウダー剤等から成る群より選択される一種の形態であり得る。一実施形態において、乳房炎改善又は治療剤、或いは、乳生産促進剤は、非局所投与に適した形態であり得、例えば、液剤、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤等であり得る。他の実施形態において、乳房炎改善又は治療剤は、注射剤であってもよい。
【0030】
乳房炎改善又は治療剤、或いは、乳生産促進剤が含有するバイオサーファクタントの量は、乳房炎改善又は治療作用が奏される限り特に制限されず、任意である。例えば、乳房炎改善又は治療剤、或いは、乳生産促進剤は、バイオサーファクタントを0.1~30質量%、好ましくは0.5~20質量%含有することができる。
【0031】
乳房炎改善又は治療剤、或いは、乳生産促進剤が適用される対象は、乳房炎改善又は治療作用、或いは、乳生産促進作用が奏される限り特に制限されない。例えば、対象は哺乳類動物である。対象は乳生産能を有する雌の哺乳類であることが好ましい。一実施形態において、対象は、ヒト以外の哺乳動物であり、反芻動物であることが好ましい。反芻動物としては、例えば、ウシ、ヤギ、ヒツジ、シカ、ラクダ、及びバイソン等を挙げることができる。広く家畜使用されているという観点から、対象は、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、及びブタから成る群から選択されることが好ましく、ウシが好ましく、乳牛がより好ましい。他の実施形態において、対象は、イヌ及びネコ等のペット類であり得る。
【0032】
一実施形態において、乳房炎改善又は治療剤、或いは、乳生産促進剤は、対象の乳房及び/又は乳頭に直接塗布することによって使用されることが好ましい。塗布量、塗布期間、塗布頻度等の条件は、特に限定されず、対象(例えば、家畜)の種類、年齢、体重、時期等に応じて適宜設定することができる。例えば乳牛であれば、期間(周産期、乳期など)、ストレスの状態、栄養状態、及び年齢等を考慮して設定することが好ましい。
【0033】
乳房炎改善又は治療剤、或いは、乳生産促進剤は、数日から数週間にわたって継続的に塗布することが好ましい。例えば、1日あたり一乳房に対して0.01~5g、好ましくは0.1~1gを3日間以上、好ましくは5日間以上、より好ましくは8日間以上、さらに好ましくは10日間以上にわたって、継続的に塗布することができる。
【0034】
一実施形態において、乳房炎改善又は治療剤、或いは、乳生産促進剤を塗布するタイミングは、例えば、清拭作業又は搾乳の前後に設定することができる。
【実施例0035】
以下、実施例により本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0036】
製造例1
Pseudozyma tsukubaensis(NBRC 1940)を、500ml容量坂口フラスコを用いて、YM培地にて培養温度26℃で48時間しんとう培養した。得られた溶液を種培養液とし、10L容量ジャーファーメンターを用いて、YM培地(5% オリーブ油を含む)にて、培養温度26℃で7日間通気攪拌培養した。培養液に等量の酢酸エチルを加え攪拌し分配を行った。酢酸エチル層に無水硫酸ナトリウムを適量加え30分間静置させた後、減圧・加温条件下で濃縮し、粗MEL-Bを得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィーに供した。溶離液はクロロホルム:アセトン=1:0、クロロホルム:アセトン=9:1、クロロホルム:アセトン1:1、クロロホルム:アセトン=3:7、クロロホルム:アセトン=0:1を用い溶出した。MEL-B画分を分取・濃縮し、精製MEL-Bを得た。これを1,3v-ブチレングリコール溶液(50v/v%)に終濃度10w/v%となるように添加し、溶解させ、試験液を得た。
【0037】
試験例1
乳房に炎症のある乳牛7頭に対し、午後の搾乳後、乳房および乳頭に試験液を一房当たり5~6mL均一に塗布した。搾乳は1日2回(午前と午後)行った。この作業を7日間継続した。この間及びその後、乳頭口スコア(Meinらの方法)および乳房の硬結を筋硬度計(PPLS デジタル硬度計C型 株式会社ペパレス製作所型番TR-DHNC)を用いて測定した。その結果、図1に示すようにMEL塗布により乳頭口スコアの平均が2.4から1.0(健常状態)まで改善した。また、図2に示すとおり、筋硬度計で測定した乳房の硬結程度も1.13から0.06(健常な乳牛の乳房の硬さ)まで低下した。更に、体細胞数を蛍光光学式体細胞測定法により測定したところ、図3に示すようにMEL塗布により体細胞数は21日後に有意に低下した。このように、MELに代表されるバイオサーファクタントによって、乳房炎が有意に改善されることが確認された。
【0038】
試験例2
乳牛4頭に対し、午後の搾乳後、乳房および乳頭に試験液を一乳房当たり5~6mL均一に塗布した。搾乳は1日2回(午前と午後)行った。この作業を7日間継続し、1頭当たりの乳量/1日を測定した。測定された乳量の平均値の変化を図4に示す。図4に示されるとおり、MELを塗布することにより乳牛が生産する乳量が増加すること、及び、MELの塗布を停止した後も、MELによる乳量増加作用は維持されることが確認された。
図1
図2
図3
図4