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特開2022-22721潤滑油組成物、緩衝器、及び潤滑油組成物の使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022022721
(43)【公開日】2022-02-07
(54)【発明の名称】潤滑油組成物、緩衝器、及び潤滑油組成物の使用方法
(51)【国際特許分類】
   C10M 137/10 20060101AFI20220131BHJP
   C10M 169/04 20060101ALI20220131BHJP
   C10M 135/10 20060101ALI20220131BHJP
   C10M 135/08 20060101ALI20220131BHJP
   F16F 9/32 20060101ALI20220131BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20220131BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20220131BHJP
   C10N 40/06 20060101ALN20220131BHJP
   C10N 30/08 20060101ALN20220131BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20220131BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20220131BHJP
   C10N 40/08 20060101ALN20220131BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20220131BHJP
   C10N 40/12 20060101ALN20220131BHJP
   C10N 40/30 20060101ALN20220131BHJP
   C10N 40/22 20060101ALN20220131BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20220131BHJP
【FI】
C10M137/10 A
C10M169/04
C10M135/10
C10M135/08
F16F9/32 R
C10N10:04
C10N20:00 Z
C10N40:06
C10N30:08
C10N30:00 Z
C10N30:06
C10N40:08
C10N40:04
C10N40:12
C10N40:30
C10N40:22
C10N40:02
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020115004
(22)【出願日】2020-07-02
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100114409
【弁理士】
【氏名又は名称】古橋 伸茂
(74)【代理人】
【識別番号】100128761
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100194423
【弁理士】
【氏名又は名称】植竹 友紀子
(72)【発明者】
【氏名】坂上 衆一
(72)【発明者】
【氏名】小林 兼士
【テーマコード(参考)】
3J069
4H104
【Fターム(参考)】
3J069AA50
3J069AA54
3J069DD06
4H104BA02A
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BA08A
4H104BB08A
4H104BB33A
4H104BB34A
4H104BB41A
4H104BG05C
4H104BG06C
4H104BH03A
4H104BH07C
4H104CB14A
4H104DA02A
4H104EA22C
4H104FA02
4H104LA03
4H104LA04
4H104LA20
4H104PA01
4H104PA02
4H104PA03
4H104PA04
4H104PA05
4H104PA07
4H104PA20
4H104PA22
(57)【要約】
【課題】例えば、緩衝器の潤滑により適合した新規な潤滑油組成物が求められている。
【解決手段】基油(A)、下記一般式(b-1)で表される化合物(B1)を含むジチオリン酸亜鉛(B)、カルシウムスルホネート(C)、及びシールスウェラー(D)を含有する、潤滑油組成物。
[上記式(b-1)中、R~Rは、それぞれ独立に、アルキル基である。ただし、R~Rのうち少なくとも一つは、所定の直鎖アルキル基であり、また、R~Rのうち少なくとも一つは所定の分岐鎖アルキル基である。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油(A)、下記一般式(b-1)で表される化合物(B1)を含むジチオリン酸亜鉛(B)、カルシウムスルホネート(C)、及びシールスウェラー(D)を含有する、潤滑油組成物。
【化1】
[上記式(b-1)中、R~Rは、それぞれ独立に、アルキル基である。ただし、R~Rのうち少なくとも一つは、下記一般式(i)で表される基(I)であり、また、R~Rのうち少なくとも一つは下記一般式(ii)で表される基(II)である。]
【化2】
[上記式(i)、(ii)中、R11~R13は、それぞれ独立に、アルキル基である。]
【請求項2】
前記一般式(ii)中のR12及びR13が、それぞれ独立に、炭素数1~3のアルキル基である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記一般式(i)中のR11が、炭素数1~15のアルキル基である、請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
化合物(B1)が、基(I)として、前記一般式(i)中のR11が炭素数1~3のアルキル基である基(I-1)、及び、前記一般式(i)中のR11が炭素数4~15のアルキル基である基(I-2)の双方を有する、請求項3に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
成分(B)が有する置換基の総量100モル%に対する、基(II)の含有割合が、5~70モル%である、請求項1~4のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
成分(B)が有する置換基の総量100モル%に対する、基(I-1)の含有割合が、5~80モル%である、請求項1~5のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
成分(B)が有する置換基の総量100モル%に対する、基(I-2)の含有割合が、5~70モル%である、請求項1~6のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
成分(B)の亜鉛原子換算での含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、300~1500質量ppmである、請求項1~7のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
成分(C)の塩基価が100mgKOH/g以上である、請求項1~8のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
成分(D)が、アルコキシスルホランを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項11】
緩衝器に用いられる、請求項1~10のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の潤滑油組成物を充填した、緩衝器。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか一項に記載の潤滑油組成物を緩衝器の潤滑に適用する、潤滑油組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物、及び当該潤滑油組成物を用いた緩衝器、並びに当該潤滑油組成物の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑油組成物は、様々な機器の2つの部材間において潤滑のために用いられている。例えば、ジチオリン酸亜鉛を含む潤滑油組成物は、車体に搭載される緩衝器(ショックアブソーバー)に充填され、緩衝器を構成する部材の潤滑に用いられている。緩衝器は、車体の振動を減衰する減衰力を生じさせること、摺動部の摩擦特性を最適化させて車体の乗心地を制御すること、及び摺動部の摩擦摩耗を抑制して耐久性を担保すること等を目的にして車体に搭載される機構である。
【0003】
このような緩衝器に好適に使用し得る緩衝器用潤滑油組成物は、様々な開発がなされている。
例えば、特許文献1には、長期にわたって沈殿物を発生させず、青銅製のブッシュ及びゴム製のオイルシールに対する摩擦係数を低減させることが可能な緩衝器用潤滑油組成物を得ることを目的として、基油と、特定の炭素数の脂肪族炭化水素基を有する第3級アミンと、ジチオリン酸亜鉛と、リン酸エステルアミン塩とを含む緩衝器用潤滑油組成物に関する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2015/025977号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に開示された緩衝器用潤滑油組成物は、耐熱性、油膜保持性、耐摩耗性等の点で改良の余地があることが分かった。そのため、このような状況下、例えば、緩衝器の潤滑により適合した新規な潤滑油組成物が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、基油、ジチオリン酸亜鉛、及びアルケニルコハク酸イミドを含有する潤滑油組成物を提供する。具体的には、本発明は、下記態様[1]~[13]を提供する。
[1]基油(A)、下記一般式(b-1)で表される化合物(B1)を含むジチオリン酸亜鉛(B)、カルシウムスルホネート(C)、及びシールスウェラー(D)を含有する、潤滑油組成物。
【化1】
[上記式(b-1)中、R~Rは、それぞれ独立に、アルキル基である。ただし、R~Rのうち少なくとも一つは、下記一般式(i)で表される基(I)であり、また、R~Rのうち少なくとも一つは下記一般式(ii)で表される基(II)である。]
【化2】
[上記式(i)、(ii)中、R11~R13は、それぞれ独立に、アルキル基である。]
[2]前記一般式(ii)中のR12及びR13が、それぞれ独立に、炭素数1~3のアルキル基である、上記[1]に記載の潤滑油組成物。
[3]前記一般式(i)中のR11が、炭素数1~15のアルキル基である、上記[1]又は[2]に記載の潤滑油組成物。
[4]化合物(B1)が、基(I)として、前記一般式(i)中のR11が炭素数1~3のアルキル基である基(I-1)、及び、前記一般式(i)中のR11が炭素数4~15のアルキル基である基(I-2)の双方を有する、上記[3]に記載の潤滑油組成物。
[5]成分(B)が有する置換基の総量100モル%に対する、基(II)の含有割合が、5~70モル%である、上記[1]~[4]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
[6]成分(B)が有する置換基の総量100モル%に対する、基(I-1)の含有割合が、5~80モル%である、上記[1]~[5]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
[7]成分(B)が有する置換基の総量100モル%に対する、基(I-2)の含有割合が、5~70モル%である、上記[1]~[6]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
[8]成分(B)の亜鉛原子換算での含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、300~1500質量ppmである、上記[1]~[7]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
[9]成分(C)の塩基価が100mgKOH/g以上である、上記[1]~[8]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
[10]成分(D)が、アルコキシスルホランを含む、上記[1]~[9]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
[11]緩衝器に用いられる、上記[1]~[10]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
[12]上記[1]~[11]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物を充填した、緩衝器。
[13]上記[1]~[11]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物を緩衝器の潤滑に適用する、潤滑油組成物の使用。
【発明の効果】
【0007】
本発明の好適な一態様の潤滑油組成物は、例えば、耐摩耗性や潤滑性等の特性に優れており、特に好適な一態様の潤滑油組成物は、高温環境下での使用に際しても、耐摩耗性に優れると共に、油膜保持性が高く、潤滑性にも優れている。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書に記載された数値範囲については、上限値及び下限値を任意に組み合わせることができる。例えば、数値範囲として「好ましくは30~100、より好ましくは40~80」と記載されている場合、「30~80」との範囲や「40~100」との範囲も、本明細書に記載された数値範囲に含まれる。また、例えば、数値範囲として「好ましくは30以上、より好ましくは40以上であり、また、好ましくは100以下、より好ましくは80以下である」と記載されている場合、「30~80」との範囲や「40~100」との範囲も、本明細書に記載された数値範囲に含まれる。
加えて、本明細書に記載された数値範囲として、例えば「60~100」との記載は、「60以上、100以下」という範囲であることを意味する。
【0009】
〔潤滑油組成物の構成〕
本発明の潤滑油組成物は、基油(A)、ジチオリン酸亜鉛(B)、カルシウムスルホネート(C)、及びシールスウェラー(D)を含有する。
なお、本発明の一態様の潤滑油組成物は、摩擦調整剤(E)及び粘度指数向上剤(F)の少なくとも一方をさらに含有することが好ましく、摩擦調整剤(E)及び粘度指数向上剤(F)の双方をさらに含有することがより好ましい。
また、本発明の一態様の潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、成分(B)~(F)以外の他の潤滑油用添加剤をさらに含有してもよい。
【0010】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(A)~(D)の合計含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、より更に好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。
【0011】
また、本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(A)~(F)の合計含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは55質量%以上、より好ましくは65質量%以上、更に好ましくは75質量%以上、より更に好ましくは85質量%以上、特に好ましくは95質量%以上である。
【0012】
以下、本発明の一態様の潤滑油組成物に含まれる各成分の詳細について説明する。
【0013】
<成分(A):基油>
本発明の一態様で用いる成分(A)である基油としては、鉱油及び合成油から選ばれる1種以上が挙げられる。
鉱油としては、例えば、パラフィン系原油、中間基系原油、ナフテン系原油等の原油を常圧蒸留して得られる常圧残油;これらの常圧残油を減圧蒸留して得られる留出油;当該留出油を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、及び水素化精製等の精製処理を1つ以上施して得られる精製油;等が挙げられる。
【0014】
合成油としては、例えば、α-オレフィン単独重合体、又はα-オレフィン共重合体(例えば、エチレン-α-オレフィン共重合体等の炭素数8~14のα-オレフィン共重合体)等のポリα-オレフィン;イソパラフィン;ポリアルキレングリコール;ポリオールエステル、二塩基酸エステル、リン酸エステル等のエステル系油;ポリフェニルエーテル等のエーテル系油;アルキルベンゼン;アルキルナフタレン;天然ガスからフィッシャー・トロプシュ法等により製造されるワックス(GTLワックス(Gas To Liquids WAX))を異性化することで得られる合成油(GTL)等が挙げられる。
【0015】
これらの中でも、本発明の一態様で用いる成分(A)は、API(米国石油協会)基油カテゴリーのグループ2及びグループ3に分類される鉱油、並びに合成油から選ばれる1種以上を含むことが好ましい。
【0016】
本発明の一態様で用いる成分(A)のアニリン点は、絶縁性に優れ、ゴム材への膨潤性が良好となる潤滑油組成物とする観点から、好ましくは70~150℃、より好ましくは80~140℃、更に好ましくは85~130℃、より更に好ましくは95~125℃、特に好ましくは100~120℃である。
なお、本明細書において、アニリン点は、JIS K2256:2013に準拠して測定された値を意味する。
【0017】
本発明の一態様で用いる成分(A)の40℃における動粘度は、好ましくは3.0~100mm/s、より好ましくは5.0~80mm/s、更に好ましくは6.0~60mm/s、より更に好ましくは7.0~40mm/s、特に好ましくは8.0~30mm/sである。
【0018】
また、本発明の一態様で用いる成分(A)の粘度指数は、潤滑油組成物の用途に応じて適宜設定されるが、好ましくは70以上、より好ましくは80以上、更に好ましくは90以上、より更に好ましくは100以上、特に好ましくは105以上である。
なお、本発明の一態様において、成分(A)として、2種以上の基油を組み合わせた混合油を用いる場合、当該混合油の動粘度及び粘度指数が上記範囲であることが好ましい。
また、本明細書において、動粘度及び粘度指数は、JIS K2283:2000に準拠して測定又は算出された値を意味する。
【0019】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(A)の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは60質量%以上、より更に好ましくは70質量%以上、特に好ましくは80質量%以上、であり、また、好ましくは99.5質量%以下、より好ましくは99.0質量%以下、更に好ましくは98.5質量%以下、より更に好ましくは98.0質量%以下、特に好ましくは97.0質量%以下である。
【0020】
<成分(B):ジチオリン酸亜鉛>
本発明の潤滑油組成物は、下記一般式(b-1)で表される化合物(B1)を含むジチオリン酸亜鉛(B)を含有する。
なお、成分(B)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【化3】
[上記式(b-1)中、R~Rは、それぞれ独立に、アルキル基である。ただし、R~Rのうち少なくとも一つは、下記一般式(i)で表される基(I)であり、また、R~Rのうち少なくとも一つは下記一般式(ii)で表される基(II)である。]
【化4】
[上記式(i)、(ii)中、R11~R13は、それぞれ独立に、アルキル基である。]
【0021】
ジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)を含有することで、潤滑油組成物の耐摩耗性や油膜保持性の向上が期待できる。ただし、本発明者らの検討によると、100℃程度の高温環境下でZnDTPを含む潤滑油組成物を使用した場合、高温環境下の熱によってZnDTPが分解してしまい、耐摩耗性の低下の要因となり得ることが分かった。このような高温環境下で分解し易いZnDTPを用いた潤滑油組成物は、油膜保持性が劣ることも判明した。一方で、高温環境下で分解し難いZnDTPであっても、そもそも耐摩耗性が十分に発現されない場合もあった。
これらの事項を踏まえて本発明者らは鋭意検討した結果、ZnDTPが有する置換基の種類によって、ZnDTPの分解温度や分解速度に違いが生じること、及び、その違いによって発現される耐摩耗性や油膜保持性に影響があることを見出した。つまり、第1級アルキル基及び第2級アルキル基を置換基として有するZnDTPは、分解温度が高く、且つ、分解速度も遅く、耐熱性が良好となりつつ、さらに優れた耐摩耗性や油膜保持性を発現し得るという知見を得た。本発明は、当該知見に基づき完成されたものである。
【0022】
つまり、本発明で用いる成分(B)は、化合物(B1)を含む。
化合物(B1)において、前記一般式(b-1)中のR~Rのうち少なくとも一つは、下記一般式(i)で表される基(I)であり、また、R~Rのうち少なくとも一つは下記一般式(ii)で表される基(II)である。つまり、化合物(B1)は、置換基として、第1級アルキル基である基(I)と、第2級アルキル基である基(II)とを有するZnDTPである。
化合物(B1)のような、基(I)及び(II)を有するZnDTPは、分解温度が高く、且つ、分解速度が遅く、優れた耐熱性を有する。そして、この優れた耐摩耗性を有するために、さらに耐摩耗性や油膜保持性にも優れているという特性を有することが分かった。
そのため、本発明の潤滑油組成物は、成分(B)として、化合物(B1)を含むため、高温環境下での使用に際しても、耐摩耗性に優れると共に、油膜保持性が高く、潤滑性にも優れたものとなり得る。
【0023】
本発明の一態様で用いる成分(B)を示差熱分析装置により測定した50%質量減温度は、好ましくは220℃以上、より好ましくは225℃以上、更に好ましくは230℃以上である。
本発明の一態様で用いる成分(B)を示差熱分析装置により測定した50%質量減温度と5%質量減温度との差は、好まし40℃以上、より好ましくは45℃以上、更に好ましくは50℃以上である。
【0024】
なお、上記「50%質量減温度」は、ZnDTPの分解温度の指標となり、上記「50%質量減温度と5%質量減温度との差」は、ZnDTPの分解速度の指標となる。
また、本明細書において、「50%質量減温度」とは、対象となるZnDTPの初期の質量から50質量%減少した際の温度である。また、「5%質量減温度」とは、対象となるZnDTPの初期の質量から5質量%減少した際の温度である。具体的には、実施例の記載の方法で測定した値を意味する。
【0025】
前記一般式(b-1)において、R~Rとして選択し得る前記アルキル基としては、直鎖アルキル基であってもよく、分岐鎖アルキル基であってもよい。
具体的な前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基(n-プロピル基、イソプロピル基)、ブチル基、(n-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、イソブチル基)ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等が挙げられる。
また、前記アルキル基の炭素数は、耐熱性をより向上させつつ、耐摩耗性及び油膜保持性をより向上させた潤滑油組成物とする観点から、好ましくは1~30、より好ましくは1~20、更に好ましくは1~16、より更に好ましくは1~12、特に好ましくは3~10である。
【0026】
前記一般式(i)又は(ii)中のR11~R13として選択し得る前記アルキル基としては、前記一般式(b-1)中のR~Rとして選択し得るアルキル基と同じものが挙げられ、直鎖アルキル基であってもよく、分岐鎖アルキル基であってもよい。
【0027】
耐熱性をより向上させつつ、耐摩耗性及び油膜保持性をより向上させた潤滑油組成物とする観点から、基(I)において、前記一般式(i)中のR11が、炭素数1~15のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~15の直鎖アルキル基であることがより好ましい。
なお、R11として選択し得る前記アルキル基の炭素数は、好ましくは1~15であるが、より好ましくは1~11、更に好ましくは1~9、より更に好ましくは1~7である。
【0028】
本発明の一態様で用いる化合物(B1)が、基(I)として、前記一般式(i)中のR11が炭素数1~3のアルキル基である基(I-1)、及び、前記一般式(i)中のR11が炭素数4~15のアルキル基である基(I-2)の双方を有する化合物であることが好ましい。炭素数の異なる第1級アルキル基を有することで、分解温度が高く、分解速度が遅いZnDTPとなり得る。
【0029】
なお、基(I-2)の炭素数は、好ましくは4~15であるが、耐熱性をより向上させつつ、耐摩耗性及び油膜保持性をより向上させた潤滑油組成物とする観点から、より好ましくは4~11、更に好ましくは4~9、より更に好ましくは4~7である。また、基(I-2)は、直鎖アルキル基であってもよく、分岐鎖アルキル基であってもよいが、直鎖アルキル基であることが好ましい。
【0030】
また、潤滑油組成物の耐摩耗性及び油膜保持性を向上させ得る化合物(B1)とする観点から、基(II)において、前記一般式(ii)中のR12及びR13は、それぞれ独立に、炭素数1~3のアルキル基であることが好ましく、双方ともメチル基であることがより好ましい。
【0031】
なお、本明細書において、成分(B)は、下記一般式(b)で表されるジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)に該当する化合物をすべて包含する。
【化5】
[上記式(b)中、Rは置換基を示す。当該置換基としては、上述のアルキル基の他に、アルケニル基、シクロアルキル基、アルキルシクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基等が挙げられる。]
【0032】
前記一般式(b)で表されるZnDTPのうち、前記一般式(b)中のRで表される置換基がアルキル基であり、そのうち基(I)及び基(II)をそれぞれ少なくとも一つ有するZnDTPが化合物(B1)である。そのため、本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(B)として、化合物(B1)には該当しないZnDTPを含有してもよい。
【0033】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(B)が有する置換基の総量100モル%に対する、基(I)及び基(II)の合計含有割合は、好ましくは70~100モル%、より好ましくは80~100モル%、更に好ましくは90~100モル%、より更に好ましくは95~100モル%である。
【0034】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、耐摩耗性をより向上させつつ、耐摩耗性及び油膜保持性をより向上させた潤滑油組成物とする観点から、成分(B)が有する置換基の総量100モル%に対する、基(II)の含有割合は、好ましくは5~70モル%、より好ましくは10~60モル%、更に好ましくは15~55モル%、より更に好ましくは20~50モル%、特に好ましくは25~45モル%である。
【0035】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、耐摩耗性をより向上させつつ、耐摩耗性及び油膜保持性をより向上させた潤滑油組成物とする観点から、成分(B)が有する置換基の総量100モル%に対する、基(I)の含有割合は、好ましくは30~95モル%、より好ましくは40~90モル%、更に好ましくは50~85モル%、より更に好ましくは60~80モル%、特に好ましくは65~75モル%である。
【0036】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、耐熱性をより向上させつつ、耐摩耗性及び油膜保持性をより向上させた潤滑油組成物とする観点から、成分(B)が有する置換基の総量100モル%に対する、基(I-1)の含有割合は、好ましくは5~80モル%、より好ましくは15~70モル%、更に好ましくは20~65モル%、より更に好ましくは25~60モル%、特に好ましくは30~55モル%である。
【0037】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、耐熱性をより向上させつつ、耐摩耗性及び油膜保持性をより向上させた潤滑油組成物とする観点から、成分(B)が有する置換基の総量100モル%に対する、基(I-2)の含有割合は、好ましくは5~70モル%、より好ましくは10~60モル%、更に好ましくは15~55モル%、より更に好ましくは20~50モル%、特に好ましくは23~45モル%である。
【0038】
なお、上記「成分(B)が有する置換基の総量100モル%に対する、基の含有割合」とは、本発明の一態様の潤滑油組成物に含まれる成分(B)のZnDTPが有する置換基(前記一般式(b)中のR)の総量を100モル%とした際の、対象となる基のモル比率を意味する。
また、上述の各基の含有割合は、対象となる成分(B)を13C-NMR定量スペクトルにて解析して、成分(B)が有する置換基の種類を特定した上で、13C-NMR定量スペクトルの解析に基づき算出した値を意味し、具体的には実施例の記載の方法で測定及び算出した値を意味する。
【0039】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、耐焼き付き性及び耐摩耗性を共により向上させた潤滑油組成物とする観点から、成分(B)の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.10~3質量%、より好ましくは0.20~2.5質量%、更に好ましくは0.30~2.0質量%、より更に好ましくは0.40~1.5質量%、特に好ましくは0.50~1.0質量%である。
【0040】
また、本発明の一態様の潤滑油組成物において、上記と同様の観点から、成分(B)の亜鉛原子換算での含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは300~1500質量ppm、より好ましくは350~1350質量ppm、更に好ましくは400~1200質量ppm、より更に好ましくは450~1100質量ppm、特に好ましくは500~1000質量ppmである。
なお、本明細書において、亜鉛原子の含有量は、JPI-5S-38-92に準拠して測定された値を意味する。
【0041】
<成分(C):カルシウムスルホネート>
本発明の潤滑油組成物は、成分(C)として、カルシウムスルホネートを含有する。成分(C)を含有することで、潤滑性及びスラッジ分散性をより向上させた潤滑油組成物とすることができる。
【0042】
本発明の一態様で用いる成分(C)としては、塩基価0~800mgKOH/gのカルシウムスルホネートを用いることができる。
ただし、潤滑性及びスラッジ分散性をより向上させた潤滑油組成物とする観点から、本発明の一態様で用いる成分(C)の塩基価は、好ましくは100mgKOH/g以上、より好ましくは200mgKOH/g以上、更に好ましくは300mgKOH/g以上、より更に好ましくは350mgKOH/g以上、特に好ましくは400mgKOH/g以上である。
一方で、成分(C)の塩基価は、800mgKOH/g以下、750mgKOH/g以下、5700mgKOH/g以下、650mgKOH/g以下、600mgKOH/g以下、又は550mgKOH/g以下であってもよい。
なお、本明細書において、「塩基価」とは、JIS K2501:2003「石油製品および潤滑油-中和価試験方法」の7.に準拠して測定される過塩素酸法による塩基価を意味する。
【0043】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、潤滑性及びスラッジ分散性をより向上させた潤滑油組成物とする観点から、成分(C)の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.001~5.0質量%、より好ましくは0.005~3.0質量%、更に好ましくは0.01~2.0質量%、より更に好ましくは0.02~1.0質量%である。
【0044】
<成分(C)以外の金属スルホネート、金属サリシレート、金属フェネート>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、成分(C)以外の金属スルホネート、金属サリシレート、及び金属フェネートから選ばれる金属系化合物を含有してもよい。
なお、これらの金属系化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、これらの金属系化合物は、中性、塩基性、及び過塩基性のいずれであってもよく、例えば、塩基価0~800mgKOH/gの金属系化合物を用いることができる。
【0045】
具体的な前記金属系化合物としては、例えば、ナトリウムスルホネート、マグネシウムスルホネート、バリウムスルホネート、カルシウムサリシレート、ナトリウムサリシレート、マグネシウムサリシレート、バリウムサリシレート、カルシウムフェネート、ナトリウムフェネート、マグネシウムフェネート、バリウムフェネート等が挙げられる。
【0046】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、前記金属系化合物の含有量は、当該潤滑油組成物に含まれる成分(C)の全量100質量部に対して、0~200質量部、0~150質量部、0~100質量部、0~50質量部、0~10質量部、0~1質量部、又は0~0.1質量部としてもよい。
【0047】
<成分(D):シールスウェラー>
本発明の潤滑油組成物は、成分(D)として、シールスウェラーを含有する。成分(D)を含有することで、シール硬化を防止し、油漏れを抑制し得る潤滑油組成物とすることができる。
本発明の一態様で用いる成分(D)としては、例えば、トリデシルアルコール等の炭素数8~13の脂肪族アルコール;ジヘキシルフタレート等の脂肪族炭化水素エステル又は芳香族炭化水素エステル;3-イソデシルオキシ-スルホラン等のアルコキシスルホラン;等が挙げられる。
これらの成分(D)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
本発明の一態様で用いる成分(D)は、アルコキシスルホランを含むことが好ましく、3-イソデシルオキシ-スルホランを含むことがより好ましい。
本発明の一態様の潤滑油組成物において、アルコキシスルホラン(もしくは3-イソデシルオキシ-スルホラン)の含有量は、当該潤滑油組成物に含まれる成分(D)の全量(100質量%)に対して、好ましくは50~100質量%、より好ましくは70~100質量%、更に好ましくは80~100質量%、より更に好ましくは90~100質量%、特に好ましくは95~100質量%である。
【0049】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(D)の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.001~1.5質量%、より好ましくは0.005~1.2質量%、更に好ましくは0.01~1.0質量%、より更に好ましくは0.05~1.0質量%、特に好ましくは0.10~0.8質量%である。
【0050】
<成分(E):摩擦調整剤>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、成分(E)として、摩擦調整剤を含有してもよい。
成分(E)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の一態様で用いる成分(E)としては、例えば、脂肪族アミン、脂肪酸エステル、脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル等の無灰摩擦調整剤;等が挙げられる。
【0051】
これらの中でも、本発明の一態様で用いる成分(E)は、脂肪酸エステルを含むことが好ましい。
脂肪酸エステルとしては、脂肪酸と脂肪族多価アルコールとの反応により得られる部分エステル化合物等の水酸基を1つ以上有する部分エステル化合物が挙げられる。
脂肪酸エステルを構成する前記脂肪酸としては、例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、及びリグノセリン酸等の飽和脂肪酸;ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、及びリノレン酸等の不飽和脂肪酸;が挙げられる。
また、脂肪酸エステルを構成する前記脂肪族多価アルコールとしては、2~6価の多価アルコールが好ましく、具体的には、エチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が挙げられる。
【0052】
本発明の一態様で用いる成分(E)は、ペンタエリスリトールモノオレート及びグリセリンモノオレートの少なくとも一方を含むことが好ましく、ペンタエリスリトールモノオレート及びグリセリンモノオレートの双方を含むことがより好ましい。
成分(E)として、ペンタエリスリトールモノオレート及びグリセリンモノオレートを併用する場合、ペンタエリスリトールモノオレート100質量部に対する、グリセリンモノオレートの含有割合は、好ましくは0.1~200質量部、より好ましくは0.5~100質量部、更に好ましくは1~50質量部、より更に好ましくは2~30質量部、特に好ましくは3~20質量部である。
【0053】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(E)の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.01~10質量%、より好ましくは0.05~8.0質量%、更に好ましくは0.1~6.0質量%、より更に好ましくは0.5~4.5質量%である。
【0054】
なお、本発明の一態様の潤滑油組成物は、ジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)、ジチオリン酸モリブデン(MoDTP)等のモリブデン系摩擦調整剤を実質的に含有しない潤滑油組成物としてもよい。
このような潤滑油組成物において、モリブデン原子の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、100質量ppm未満、50質量ppm未満、10質量ppm未満、5質量ppm未満、1質量ppm未満、0.1質量ppm未満、0.01質量ppm未満、又は0質量ppm(検出されない)としてもよい。
なお、本明細書において、モリブデン原子の含有量は、JPI-5S-38-92に準拠して測定された値を意味する。
【0055】
<成分(F):粘度指数向上剤>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、成分(F)として、粘度指数向上剤を含有してもよい。
成分(F)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の一態様で用いる成分(F)としては、例えば、エチレン-α-オレフィン共重合体等のオレフィン系共重合体や、アルキルアクリレート又はアルキルメタクリレートに由来する構成単位を少なくとも有するポリメタクリレート等が挙げられる。
【0056】
本発明の一態様で用いる成分(F)の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは5,000~1,000,000、より好ましくは10,000~800,000、更に好ましくは30,000~700,000、より更に好ましくは50,000~600,000である。
なお、本明細書において、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定される標準ポリスチレン換算の値であり、具体的には実施例に記載の方法により測定された値を意味する。
【0057】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(F)の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.01~15質量%、より好ましくは0.1~10質量%、更に好ましくは0.5~5.0質量%、より更に好ましくは1.0~3.0質量%である。
【0058】
なお、ハンドリング性や基油(A)との溶解性を考慮し、粘度指数向上剤や後述の消泡剤等の樹脂成分は、希釈油に溶解された溶液の形態で市販されていることが多い。
ただし、本明細書において、粘度指数向上剤や消泡剤等の樹脂成分の含有量は、希釈油で希釈された溶液においては、希釈油の質量を除外した、樹脂成分(固形分)に換算した含有量である。
【0059】
<潤滑油用添加剤>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、更に成分(B)~(G)以外の潤滑油用添加剤を含有してもよい。
このような潤滑油用添加剤としては、例えば、酸化防止剤、流動点降下剤、極圧剤、無灰系分散剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、防錆剤、消泡剤、着色剤等が挙げられる。
これらの潤滑油用添加剤は、それぞれ、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0060】
これらの潤滑油用添加剤のそれぞれの含有量は、本発明の効果を損なわない範囲内で、適宜調整することができるが、潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、それぞれの添加剤ごとに独立して、好ましくは0.0001~15質量%、より好ましくは0.0005~10質量%、更に好ましくは0.001~5質量%である。
【0061】
<潤滑油組成物の製造方法>
本発明の一態様の潤滑油組成物の製造方法としては、特に制限はないが、生産性の観点から、成分(A)に、成分(B)~(D)、及び、必要に応じて、成分(E)~(F)や他の潤滑油用添加剤を配合する工程を有する、方法であることが好ましい。
なお、成分(F)等の樹脂成分は、成分(A)との相溶性の観点から、希釈油に溶解された溶液の形態とし、当該溶液を成分(A)に配合することが好ましい。
【0062】
〔潤滑油組成物の性状〕
本発明の一態様の潤滑油組成物の40℃における動粘度は、好ましくは5.0~130mm/s、より好ましくは6.5~100mm/s、更に好ましくは8.0~70mm/s、より更に好ましくは10.0~50mm/s、特に好ましくは11.5~40mm/sである。
【0063】
本発明の一態様の潤滑油組成物の粘度指数は、好ましくは90以上、より好ましくは100以上、更に好ましくは110以上、より更に好ましくは130以上、特に好ましくは150以上である。
【0064】
本発明の一態様の潤滑油組成物の亜鉛原子の含有量が、前記潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは300~1500質量ppm、より好ましくは350~1350質量ppm、更に好ましくは400~1200質量ppm、より更に好ましくは450~1100質量ppm、特に好ましくは500~1000質量ppmである。
【0065】
〔潤滑油組成物の特性、用途〕
本発明の一態様の潤滑油組成物は、高温環境下での使用に際しても、耐摩耗性に優れると共に、油膜保持性が高く、潤滑性にも優れている。
これらの特性の具体的な指標として、本発明の一態様の潤滑油組成物に対して、後述の実施例の記載に準拠した往復動摩擦試験を実施した際に測定された摩耗幅が、好ましくは0.65mm以下、より好ましくは0.60mm以下、更に好ましくは0.55mm以下、より更に好ましくは0.50mm以下、特に好ましくは0.45mm以下である。
当該摩耗幅の値が小さいほど、高温環境下での使用に際しても耐摩耗性に優れた潤滑油組成物であるといえる。
【0066】
本発明の一態様の潤滑油組成物に対して、後述の実施例の記載に準拠した通電式往復動摩擦試験を実施した際に測定された絶縁率ゼロ荷重が、好ましくは1.3kgf以上、より好ましくは1.4kgf以上、更に好ましくは1.5kgf以上である。
上記「絶縁率ゼロ荷重」は、2つの試験片の間に形成された油膜に、徐々に荷重を加えていく過程で、油膜が保持されずに2つの試験片が接触して絶縁率が0%となった際の荷重である。そのため、当該絶縁率ゼロ荷重の値が大きいほど、油膜保持性が高く、潤滑性に優れた潤滑油組成物であるといえる。
【0067】
また、本発明の一態様の潤滑油組成物に対して、後述の実施例の記載に準拠した通電式往復動摩擦試験を実施した際に測定された0.3kgf絶縁率が、好ましくは13%以上、より好ましくは14%以上、更に好ましくは15%以上である。
上記「0.3kgf絶縁率」は、2つの試験片の間に形成された油膜に、徐々に荷重を加えていく過程で、荷重が0.3kgfである際の絶縁率である。そのため、当該0.3kgf絶縁率の値が大きいほど、油膜厚さが担保されているため油膜保持性が高く、潤滑性に優れた潤滑油組成物であるといえる。
【0068】
本発明の一態様の潤滑油組成物は、以上のような特性を有するため、様々な機器の潤滑に好適に適用でき、例えば、緩衝器用潤滑油、油圧作動油、建機用動作油、パワーステアリングオイル、タービン油、圧縮機油、工作機械用潤滑油、切削油、歯車油、流体軸受油、転がり軸受油等に適用し得る。これらの中でも、本発明の一態様の潤滑油組成物は、緩衝器に好適に適用し得る。より具体的には、本発明の一態様の潤滑油組成物は、複筒型ショックアブソーバー及び単筒型ショックアブソーバーの何れにも使用可能であり、二輪用及び四輪用のいずれのショックアブソーバーにも好適に使用し得る。
【0069】
また、本発明の一態様の潤滑油組成物のこれらの特性を考慮すると、本発明は、以下の[1]及び[2]も提供し得る。
[1]上述の本発明の一態様の潤滑油組成物を充填した、緩衝器。
[2]上述の本発明の一態様の潤滑油組成物を緩衝器の潤滑に適用する、潤滑油組成物の使用。
【実施例0070】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。なお、各種物性の測定法又は評価法は、下記のとおりである。
【0071】
(1)動粘度、粘度指数
JIS K2283:2000に準拠して測定及び算出した。
(2)アニリン点
JIS K2256:2013に準拠して測定した。
(3)ジチオリン酸亜鉛が有する基の含有割合
対象となるジチオリン酸亜鉛の13C-NMR定量スペクトルを解析して、当該ジチオリン酸亜鉛が有する置換基の種類を特定した。その上で、13C-NMR定量スペクトルの解析に基づき、当該チオリン酸亜鉛の置換基(前記一般式(b)中のR)の総量100モル%に対する、各置換基の含有割合を算出した。
(4)50%質量減温度、50%質量減温度と5%質量減温度との差
対象となるジチオリン酸亜鉛を示差熱分析装置に入れて、10℃/分の速度で昇温し、初期の質量から5質量%減少した際の温度(5%質量減温度)及び50質量%減少した際の温度(50%質量減温度)を測定した。
(5)亜鉛原子の含有量
JPI-5S-38-2003に準拠して測定した。
(6)塩基価
JIS K2501:2003(過塩素酸法)に準拠して測定した。
(7)重量平均分子量(Mw)
ゲル浸透クロマトグラフ装置(アジレント社製、「1260型HPLC」)を用いて、下記の条件下で測定し、標準ポリスチレン換算にて測定した値を用いた。
(測定条件)
・カラム:「Shodex LF404」を2本、順次連結したもの。
・カラム温度:35℃
・展開溶媒:クロロホルム
・流速:0.3mL/min
【0072】
置換基が異なる各種ZnDTP(1)~(8)について、上述の測定方法に準拠して、「50%質量減温度」及び「50%質量減温度と5%質量減温度との差」を測定及び算出した。その結果を表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
上記表1中の置換基の種類の略称は以下のとおりである。
<基(I)>
・「Pri C4」:式(i)中のR11がn-プロピル基である基(I)。
・「Pri C8」:式(i)中のR11がn-ヘプチル基である基(I)。
・「Pri C6(iso)」:式(i)中のR11がイソペンチル基である基(I)。
・「Pri C6(n)」:式(i)中のR11がn-ペンチル基である基(I)。
・「Pri C12」:式(i)中のR11がC11アルキル基である基(I)。
<基(II)>
・「Sec C3」:式(ii)中のR12及びR13がメチル基である基(II)。
・「Sec C6」:式(ii)で表される炭素数6の第2級アルキル基(II)。
・「Sec C4-C6」:式(ii)で表される炭素数4~6のいずれかである第2級アルキル基(II)。
・「Sec C3-C6」:式(ii)で表される炭素数3~6のいずれかである第2級アルキル基(II)。
【0075】
表1から、基(I)及び基(II)を共に有するZnDTP(1)は、「50%質量減温度」が高く、「50%質量減温度と5%質量減温度との差」も大きいことが分かる。そのため、ZnDTP(1)は、分解温度が高く、且つ、分解速度は遅いため、耐熱性に優れているといえる。
一方で、基(I)及び基(II)のいずれか一方のみを有するZnDTP(2)~(8)は、分解温度及び分解速度の少なくとも一方において問題を有することが分かる。
【0076】
実施例1、比較例1~3
表2に示す種類及び配合量にて、基油に、各種添加剤を配合し、潤滑油組成物をそれぞれ調製した。なお、表1に記載されたPMA及び消泡剤は希釈油で溶解された状態で配合しており、これらの配合量は、PMA又は消泡剤を溶解している希釈油の質量も含めた配合量である。
また、それぞれの潤滑油組成物の調製に使用した、基油及び各種添加剤の詳細は以下のとおりである。
【0077】
<成分(A):基油>
・「パラフィン系鉱油」:40℃動粘度=9.07mm/s、100℃動粘度=2.54mm/s、粘度指数=109、アニリン点=104℃のパラフィン系鉱油。
<成分(B):ジチオリン酸亜鉛>
上記表1に示すZnDTP(1)~(4)のいずれかを用いた。
<成分(C):カルシウムスルホネート>
・「Caスルホネート」:塩基価405mgKOH/gのカルシウムスルホネート。
<成分(D):シールスウェラー>
・「アルコキシスルホラン」:3-イソデシルオキシ-スルホラン。
<成分(E):摩擦調整剤>
・「脂肪酸エステル(1)」:ペンタエリスリトールモノオレート。
・「脂肪酸エステル(2)」:グリセリンモノオレート
<成分(F):粘度指数向上剤>
・「PMA」:Mw=55万のポリメタクリレート。
<他の成分>
・「消泡剤」:フッ素含有オルガノポリシロキサン。
・「着色剤」
【0078】
調製した潤滑油組成物について、上述の方法に準拠して、40℃動粘度、粘度指数、並びに、各原子の含有量を測定又は算出すると共に、以下の評価を行った。これらの結果を表2に示す。
【0079】
(1)往復動摩擦試験による摩耗幅の測定
バウデン式往復動摩擦試験機を用いて、以下の試験条件にて試験を実施し、下側試験片の鋼板上に生じた摩耗痕の中央部における摩耗幅を測定した。摩耗幅が小さいほど、高温環境下での使用に際しても耐摩耗性に優れた潤滑油組成物であるといえる。本実施例においては、当該摩耗幅が0.65mm以下である場合を合格と判断した。なお、当該摩耗幅が0.70mm以上である場合には、下記(2)の通電式往復動摩擦試験を行わずに終了した。
(試験条件)
・油温:100℃
・振幅:10mm
・速度:50mm/s
・荷重:3kgf
・試験時間:30分間
・摩擦材 上側試験片:1/2インチガラス球、下側試験片:鋼板
【0080】
(2)通電式往復動摩擦試験
バウデン式往復動摩擦試験機を用いて、通電しながら、以下の試験条件にて、荷重を0.1kgfから5kgfまでステップで上げていく過程で、油膜が保持されず、2つの試験片が接触して絶縁率が0%となった際の荷重(以下「絶縁率ゼロ荷重」ともいう)を測定した。また、荷重が0.3kgfである際の絶縁率(以下「0.3kgf絶縁率」ともいう)も測定した。絶縁率ゼロ荷重は大きいほど、及び、0.3kgf絶縁率も大きいほど、油膜保持性が高く、潤滑性に優れた潤滑油組成物であるといえる。本実施例においては、前記絶縁率ゼロ荷重が1.3kgf以上であり、前記0.3kgf絶縁率が13%以上である場合を合格と判断した。
(試験条件)
・油温:室温(25℃)
・振幅:2mm
・加振数:1Hz
・荷重:0.1kgfから5kgfまでステップで荷重を上げていく。
・摩擦材 上側試験片:1/2インチSUJ2鋼球、下側試験片:Crメッキ板
【0081】
【表2】
【0082】
表2より、実施例1で調製した潤滑油組成物は、比較例1~3の潤滑油組成物に比べて、耐摩耗性、潤滑性等において優れている結果となった。