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特開2022-23728マンガンを担持したリン酸八カルシウム結晶、及び、これの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022023728
(43)【公開日】2022-02-08
(54)【発明の名称】マンガンを担持したリン酸八カルシウム結晶、及び、これの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/32 20060101AFI20220201BHJP
【FI】
C01B25/32 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020126865
(22)【出願日】2020-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 悠紀
(72)【発明者】
【氏名】槇田 洋二
(57)【要約】
【課題】リン酸八カルシウムをベースとした骨補填に有用な材料を製造する技術の提供。
【解決手段】リン酸八カルシウムの結晶構造に含まれるカルシウムイオン(Ca2+)の一部がマンガンイオン(Mn2+)に置換されている、リン酸八カルシウム結晶。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸八カルシウムの結晶構造に含まれるカルシウムイオン(Ca2+)の一部がマンガンイオン(Mn2+)に置換されている、リン酸八カルシウム結晶。
【請求項2】
Ca/P比が0.1以上、5.0以下であり、Mn2+の含有量が0.1原子%以上、50原子%未満であり、Ca2+の原子比率がMn2+の原子比率より大きいことを特徴とする、請求項1に記載の結晶。
【請求項3】
前記Ca2+の他の一部がMn2+以外の1つ以上のカチオンに置換されている、請求
項1又は2に記載の結晶。
【請求項4】
前記Mn2+以外の1つ以上のカチオンの含有量が0.1原子%以上、20原子%以下
であり、Ca2+の原子比率は、Mn2+の原子比率よりも大きく、かつ前記Mn2+以外のカチオンのいずれの原子比率よりも大きいことを特徴とする、請求項3に記載の結晶。
【請求項5】
前記Mn2+以外のカチオンがナトリウムイオン(Na)である、請求項3または4に記載の結晶。
【請求項6】
前記Ca2+のさらなる他の一部、リン酸イオンの一部、リン酸水素イオンの一部、及び水の一部からなる群から選択される一又はそれ以上が、有機分子に置換されている、請求項1~5のいずれか一項に記載の結晶。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の結晶を含む、粉末状組成物。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載の結晶を含む、ブロック材。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか一項に記載の結晶を含む、多孔体。
【請求項10】
カルシウム、リン酸のうち少なくとも1つを含むセラミックを、マンガンイオン(Mn2+)を含み、カルシウム、リン酸のうち、前記セラミックが含有しない組成を全て含む溶液に、浸漬する工程を含む、
リン酸八カルシウムの結晶構造に含まれるカルシウムイオン(Ca2+)の一部がマンガンイオン(Mn2+)に置換されている、リン酸八カルシウム結晶の製造方法。
【請求項11】
前記溶液が、Mn2+及びCa2+以外のカチオンを含み、
前記Ca2+の他の一部がMn2+以外のカチオンに置換されている、
請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記Mn2+以外のカチオンがナトリウムイオン(Na)である、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記溶液が、リン酸イオンを含む、請求項10~12のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記溶液が有機分子を含み、
前記Ca2+のさらなる他の一部、リン酸イオンの一部、リン酸水素イオンの一部、水酸化物イオンの一部及び水の一部からなる群から選択される一又はそれ以上が、有機分子に置換されている、
請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
(I):カルシウム及びリン酸、水酸化物の少なくとも一つを含有するセラミックスを、(a)カルシウムイオン(Ca2+)、リン酸イオン、及び水酸化物のうち、セラミックスが含有しないすべての組成、並びに、(b)マンガンイオン(Mn2+)又はマンガンイオン(Mn2+)の錯イオンを含有する溶液に浸漬する工程、又は、
(II):カルシウム、リン酸、水酸化物の少なくとも一つを含有するセラミックスを、(a)カルシウムイオン(Ca2+)、リン酸イオン及び水酸化物のうち、セラミックスが含有しないすべての組成、並びに、(b)易溶性のマンガン化合物を含む懸濁液に浸漬する工程
を含む、
無機成分の化学結合又は前記無機成分の結晶同士の絡み合い若しくは融合により硬化され、リン酸八カルシウムの結晶構造に含まれるカルシウムイオン(Ca2+)の一部がマンガンイオン(Mn2+)に置換されたブロック材の製造方法。
【請求項16】
前記溶液が、Ca2+及びMn2+に加え、さらに1種類以上のカチオンを含み、
前記Ca2+の他の一部が、Mn2+以外の1種類以上のカチオンに置換されている、
請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
前記溶液が、Ca2+及びMn2+に加え、さらに1種類以上のカチオン及びリン酸イ
オンを含み、又は、リン酸イオンに加え、さらに1種類以上のアニオンを含み、
前記Ca2+の他の一部が前記Mn2+以外のカチオンに置換され、及び
前記リン酸八カルシウム系の結晶構造に含まれるリン酸イオンの一部がリン酸イオン及びリン酸水素イオン以外のアニオンに置換され、又は、前記リン酸八カルシウムの結晶構造に含まれるリン酸水素イオンの一部がリン酸イオン及びリン酸水素イオン以外のアニオンに置換されている、請求項15に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンガンを担持したリン酸八カルシウム結晶、及び、これの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リン酸八カルシウム(Ca(HPO(PO・5HO;OCP)は、優れた生体適合性を有し、生体に広く存在するカルシウムとリン酸塩からなるものである。そのため、未成熟骨の主成分だけでなく、新たなバイオマテリアルの中心となる魅力的な素材でもある。特に、その優れた骨置換能は骨補填材に有用である(例えば、非特許文献1)。
【0003】
骨の新陳代謝である骨リモデリングプロセスは、骨補填材の骨置換の割合を制御する。骨細胞と免疫細胞は骨リモデリングプロセスに必須的及び中心的な役割を果たす。これらの細胞を制御することで、骨リモデリングプロセスを制御することができる(例えば、非特許文献2)。
【0004】
これまで、高い生体適合性及び高い割合の骨置換能を有する骨補填材により健常人への骨補填がなされてきたが、新たな骨補填材の開発により、従来の骨補填材では修復ができなかった骨疾患への適用が可能となる。例えば、世界的規模における高齢者化のため、リウマチ性関節炎や骨粗しょう症の罹患者のほか高齢者向けの新たな骨補填材の開発は非常に有用である。これらの疾患は、骨リモデリングプロセスの欠陥が原因であることが明らかとなっている(例えば、非特許文献3)。
【0005】
骨リモデリングプロセスに関与するこのような細胞の活性及び分化は、ストロンチウム、マグネシウム、マンガン、及び亜鉛などの、生体適合性のある微量元素によって制御されている。したがって、そのような細胞の活性及び分化を制御するために、生体材料にこのような生体適合性のある微量元素を添加し、または、当該微量元素を生体材料の表面に固定するための様々な研究がされている(例えば、非特許文献4)。
【0006】
リン酸カルシウムを用いた骨補填材のために、リン酸カルシウム結晶のイオン置換プロセスは、前記微量元素の取得に有用である。実際に、in vitro研究及びin vivo研究にお
いて、リン酸カルシウムにストロンチウム、マグネシウム、及び亜鉛などの微量元素を添加することで、骨リモデリングプロセスが制御可能となる。(例えば、非特許文献5)。
【0007】
生体適合性のある微量元素のリン酸カルシウムへの添加は、新たな骨補填材の開発において非常に重要である。しかし、OCPに置換できなかった微量元素の有用性はほとんど評
価されていない。そのような微量元素としてマンガンがある。マンガンは骨リモデリングの制御に影響を与える。また、細胞外マトリックスとの間で細胞間相互作用を仲介し細胞接着を活性化するインテグリンとリガンドとの結合親和性を増加させることから、重要な候補の一つである。しかし、マンガンはOCP形成を強く阻害し、他のリン酸カルシウム相
を誘導するため、どのようにしてマンガンにOCPを置換させるかについての研究はされて
いない(例えば、非特許文献6)。
【0008】
本発明者はこれまで、どのようにしてカチオンがOCP形成に影響を及ぼすかについて研
究してきた。その中で、本発明者は、カチオン結合プロセスが、特定のカチオンによるOCPの単位格子の置換を進めることを見出した。例えば、リチウムは、イオン半径の大きい
イオンが共存する場合を除いて、それのみではOCPの単位格子をほとんど置換しないが、L
i-NH4及び/又はLi-Kの場合には容易に置換することを見出した(例えば、非特許文献7
)。また、ナトリウムはOCPの含水層構造を発達させ、OCP形成を誘導することを見出している(例えば、非特許文献8)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J. Biomed. Mater. Res., 59, 29-34 (2002)
【非特許文献2】BMC Med.,9, 66-75 (2011)
【非特許文献3】Bone, 86, 119-130 (2016)
【非特許文献4】Surf. Coat. Tech., 205, 2538-2541 (2010)
【非特許文献5】J. Inorg. Biochem., 103, 1666-1674 (2009)
【非特許文献6】Nutrit. Res. Rev., 5, 167-188 (1992)
【非特許文献7】Cryst. Growth Des., 19, 4162-4171 (2019)
【非特許文献8】Cryst. Growth Des., 18, 6165-6171 (2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、リン酸八カルシウムをベースとした骨補填に有用な材料を製造する技術の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、マンガンイオンを含む所定条件の溶液に炭酸カルシウム等の易溶性セラミックを所定条件で浸漬することにより、リン酸八カルシウムの結晶構造に含まれるカルシウムイオンの一部がマンガンイオンに置換されている、リン酸八カルシウム結晶が得られることを見出し、本発明を完成させた。本発明は下記の通りである。
【0012】
[1]リン酸八カルシウムの結晶構造に含まれるカルシウムイオン(Ca2+)の一部がマンガンイオン(Mn2+)に置換されている、リン酸八カルシウム結晶。
[2]Ca/P比が0.1以上、5.0以下であり、Mn2+の含有量が0.1原子%以上、50原子%未満であり、Ca2+の原子比率がMn2+の原子比率より大きいことを特徴とする、[1]に記載の結晶。
[3]前記Ca2+の他の一部がMn2+以外の1つ以上のカチオンに置換されている、
[1]又は[2]に記載の結晶。
[4]前記Mn2+以外の1つ以上のカチオンの含有量が0.1原子%以上、20原子%
以下であり、Ca2+の原子比率は、Mn2+の原子比率よりも大きく、かつ前記Mn2+以外のカチオンのいずれの原子比率よりも大きいことを特徴とする、[3]に記載の結晶。
[5]前記Mn2+以外のカチオンがナトリウムイオン(Na)である、[3]または[4]に記載の結晶。
[6]前記Ca2+のさらなる他の一部、リン酸イオンの一部、リン酸水素イオンの一部、及び水の一部からなる群から選択される一又はそれ以上が、有機分子に置換されている、[1]~[5]のいずれかに記載の結晶。
[7][1]~[6]のいずれかに記載の結晶を含む、粉末状組成物。
[8][1]~[6]のいずれかに記載の結晶を含む、ブロック材。
[9][1]~[6]のいずれかに記載の結晶を含む、多孔体。
[10]カルシウム、リン酸のうち少なくとも1つを含むセラミックを、マンガンイオン(Mn2+)を含み、カルシウム、リン酸のうち、前記セラミックが含有しない組成を全て含む溶液に、浸漬する工程を含む、
リン酸八カルシウムの結晶構造に含まれるカルシウムイオン(Ca2+)の一部がマンガンイオン(Mn2+)に置換されている、リン酸八カルシウム結晶の製造方法。
[11]前記溶液が、Mn2+及びCa2+以外のカチオンを含み、
前記Ca2+の他の一部がMn2+以外のカチオンに置換されている、
[10]に記載の製造方法。
[12]前記Mn2+以外のカチオンがナトリウムイオン(Na)である、[11]に記載の製造方法。
[13]前記溶液が、リン酸イオンを含む、[10]~[12]のいずれかに記載の製造方法。
[14]前記溶液が有機分子を含み、
前記Ca2+のさらなる他の一部、リン酸イオンの一部、リン酸水素イオンの一部、水酸化物イオンの一部及び水の一部からなる群から選択される一又はそれ以上が、有機分子に置換されている、
[13]に記載の製造方法。
[15](I):カルシウム及びリン酸、水酸化物の少なくとも一つを含有するセラミックスを、(a)カルシウムイオン(Ca2+)、リン酸イオン、及び水酸化物のうち、セラミックスが含有しないすべての組成、並びに、(b)マンガンイオン(Mn2+)又はマンガンイオン(Mn2+)の錯イオンを含有する溶液に浸漬する工程、又は、
(II):カルシウム、リン酸、水酸化物の少なくとも一つを含有するセラミックスを、(a)カルシウムイオン(Ca2+)、リン酸イオン及び水酸化物のうち、セラミックスが含有しないすべての組成、並びに、(b)易溶性のマンガン化合物を含む懸濁液に浸漬する工程
を含む、
無機成分の化学結合又は前記無機成分の結晶同士の絡み合い若しくは融合により硬化され、リン酸八カルシウムの結晶構造に含まれるカルシウムイオン(Ca2+)の一部がマンガンイオン(Mn2+)に置換されたブロック材の製造方法。
[16]前記溶液が、Ca2+及びMn2+に加え、さらに1種類以上のカチオンを含み

前記Ca2+の他の一部が、Mn2+以外の1種類以上のカチオンに置換されている、
[15]に記載の製造方法。
[17]前記溶液が、Ca2+及びMn2+に加え、さらに1種類以上のカチオン及びリ
ン酸イオンを含み、又は、リン酸イオンに加え、さらに1種類以上のアニオンを含み、
前記Ca2+の他の一部が前記Mn2+以外のカチオンに置換され、及び
前記リン酸八カルシウム系の結晶構造に含まれるリン酸イオンの一部がリン酸イオン及びリン酸水素イオン以外のアニオンに置換され、又は、前記リン酸八カルシウムの結晶構造に含まれるリン酸水素イオンの一部がリン酸イオン及びリン酸水素イオン以外のアニオンに置換されている、[15]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、リン酸八カルシウムの結晶構造に含まれるカルシウムイオンの一部がマンガンイオンに置換されたリン酸八カルシウム結晶を製造する技術の提供ができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】Na濃度の関数としての1日(塗りつぶしあり)又は3日(塗りつぶしなし)の処理をした溶液のpH値。●、○:0mmol/L Mn、◆、◇:10mmol/L Mn、■、□:20mmol/L Mn、▲、△:50mmol/L Mn、及び▼、▽:100mmol/L Mn。
図2】1日の処理をしたサンプルの広範囲XRDパターン。(a)0mmol/L Mn、(b)10mmol/L Mn、(c)20mmol/L Mn、(d)50mmol/L Mn、及び(e)100mmol/L Mn。★:MnOOH、▼:HAp、及び●:OCP-Na,Mn。
図3】1日の処理をしたサンプルの小角XRDパターン。(a)0mmol/L Mn、(b)10mmol/L Mn、(c)20mmol/L Mn、(d)50mmol/L Mn、及び(e)100mmol/L Mn。★:MnOOH、▼:HAp、及び●:OCP-Na,Mn。
図4】3日の処理をしたサンプルの広範囲XRDパターン。(a)0mmol/L Mn、(b)10mmol/L Mn、(c)20mmol/L Mn、(d)50mmol/L Mn、及び(e)100mmol/L Mn。★:MnOOH、▼:HAp、及び●:OCP-Na,Mn。
図5】3日の処理をしたサンプルの小角XRDパターン。(a)0mmol/L Mn、(b)10mmol/L Mn、(c)20mmol/L Mn、(d)50mmol/L Mn、及び(e)100mmol/L Mn。★:MnOOH、▼:HAp、及び●:OCP-Na,Mn。
図6】1日(a)又は3日(b)の処理をした、Na-Mnを含む溶液系におけるサンプルの相図。●:OCP、○:OCPを有するHAp、◇:DCPD、▽:マンガナイトを有するOCP、★:カルサイトを有するOCP-Na,Mn、◆:DCPD及びOCP、:OCP-Na,Mn、DCPD、及びカルサイト、×:OCP、カルサイト、及びマンガナイト、+:OCP-Na,Mn、マンガナイト、及びカルサイト。
図7】CaCOの最適化実験のXRDパターン。(a)広範囲、(b)小角。
図8】(a、b)0mmol/LのMn及び0mol/LのNa、(c、d)100mmol/LのMn及び0mol/LのNa、及び(e、f)100mmol/LのMn及び5mol/LのNa(OCP-Na,Mn)のSEM顕微鏡写真(図面代用写真)。
図9】サンプルのFT-IRスペクトル。(a)広範囲、(b)主バンド(PO吸着領域)、(c)P5 PO振動。(b)中の3本の破線1はPO振動に相当する。(b)中の破線2はP3 PO振動に相当する。(c)中の黒丸はP5 PO振動に相当する。
図10】サンプルの(a)TG及びDTA(b)曲線。(a)中の矢印1と破線矢印2はDTAピークに反映した著しい重量の減少に相当する。
図11】OCP(横軸の各数値における左のバー)及びOCP-Na,Mn(横軸の各数値における右のバー)のドーズ量の関数としての2日でのMC3T3-E1細胞から誘導された骨芽細胞の細胞生存性。:PCに対してp<0.05、***:OCPに対してp<0.05。
図12】OCP(横軸の各数値における左のバー)及びOCP-Na,Mn(横軸の各数値における右のバー)のドーズ量の関数としての3日でのMC3T3-E1細胞から誘導された骨芽細胞のALP産生活性。:PCに対してp<0.05、***:OCPに対してp<0.05。
図13】5mol/Lの各金属塩化物及び100mmol/LのMnで処理したサンプルのXRDパターン。(a)広範囲、(b)小角。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一態様は、0.001mol/L~1.0mol/Lであるマンガンイオン(Mn2+)を含む溶液に、炭酸カルシウムを浸漬する工程を含む、
リン酸八カルシウムの結晶構造に含まれるカルシウムイオン(Ca2+)の一部がマンガンイオン(Mn2+)に置換されていることを特徴とする、リン酸八カルシウム結晶の製造方法である。
【0016】
マンガンイオンの濃度は、好ましくは0.005mol/L以上、より好ましくは0.01mol/L以上、さらに好ましくは0.05mol/Lである。一方で、OCP形成が阻害されることから、好ましくは0.7mol/L以下、より好ましくは0.5mol/L以下、さらに好ましくは0.2mol/L以下である。
【0017】
リン酸八カルシウム相が良好に形成されることから、反応終了時のpHは好ましくは2.0以上、より好ましくは4.0以上、さらに好ましくは4.5以上、よりさらに好ましくは8.0以上となるように調整し、一方で、好ましくは11.0以下、より好ましくは10.0以下、さらに好ましくは9.0以下となるように調整する。
【0018】
炭酸カルシウムを前記溶液に浸漬する際の温度は、リン酸カルシウム相が良好に形成されることから、好ましくは4℃以上、より好ましくは15℃以上、さらに好ましくは37℃以上、よりさらに好ましくは50℃以上である。一方で、好ましくは90℃以下、より好ましくは80℃以下、さらに好ましくは75℃以下である。
【0019】
炭酸カルシウムを前記溶液に浸漬する時間は、OCPが良好に形成されることから、好ましくは2時間以上、より好ましくは12時間以上、さらに好ましくは24時間(1日間)以上、よりさらに好ましくは48時間(2日間)以上である。一方で、生成した結晶がマンガナイトに分解することから、好ましくは7日間以下、より好ましくは5日間以下、さらに好ましくは3日間以下である。
【0020】
前記溶液は、Mn2+以外のカチオンを含むことが好ましい。前記溶液がMn2+以外のカチオンを含む場合、製造されるリン酸八カルシウム結晶は、Ca2+の他の一部がMn2+以外のカチオンに置換されている、結晶となる。
詳細には、Ca2+の他の一部がMn2+以外のカチオンに置換されることによって、前記結晶の水和層の層間距離を制御することが可能となる。また、後述するように前記溶液が有機分子を含む場合には、大きさの異なる有機分子を水和層に挿入することができるようになる。
【0021】
Mn2+以外のカチオンとしては、OCP単位格子に置換されるものであれば特に制限されないが、好ましくは、ナトリウムイオン(Na)、亜鉛イオン(Zn2+)、バリウムイオン(Ba2+)、白金イオン(Pt2+)、銅イオン(Cu2+)、鉄イオン(Fe2+)、ストロンチウムイオン(Sr2+)である。
【0022】
Mn2+以外のカチオンの濃度は、OCP単位格子に十分に置換されることから、好ましくは0.5mol/L以上、より好ましくは1.0mol/L以上、さらに好ましくは2.0mol/Lである。一方で、好ましくは溶解度以下であり、例えば10mol/L以下である。
【0023】
前記溶液はまた、リン酸カルシウム相が良好に形成されることから、リン酸イオンを含むことが好ましい。リン酸イオンの濃度は、好ましくは0.001mol/L以上、より好ましくは0.01mol/L以上、さらに好ましくは0.05mol/Lである。一方で、好ましくは5mol/L以下、より好ましくは3mol/L以下、さらに好ましくは2mol/L以下である。
【0024】
前記溶液はまた、有機分子を含むことが好ましい。前記溶液が有機分子、リン酸イオン、水酸化物イオンを含む場合、製造されるリン酸八カルシウム結晶は、カルシウムイオンのさらなる他の一部、リン酸イオンの一部、水酸化物イオンの一部、及び水の一部からなる群から選択される一又はそれ以上が、有機分子に置換されている、結晶となる。有機分子は、構造的には前記結晶の水和層に挿入されることが好ましい。
【0025】
有機分子としては特に制限されないが、生体内において生理活性機能を示すことのできるものが好ましい。例えば、慢性疾患や局所での疾患に対して薬効を示す有機分子が挙げられる。具体例としては、タンパク質、ペプチド、核酸(例えば、DNA、RNA)、低分子化合物が挙げられる。
【0026】
有機分子の濃度は、カルシウムイオンのさらなる他の一部、リン酸イオンの一部、水酸化物イオンの一部、及び水の一部からなる群から選択される一又はそれ以上が有機分子に置換されやすいことから、好ましくは0.001mol/L以上、より好ましくは0.005mol/L以上、さらに好ましくは0.01mol/Lである。一方で、キレート結合などにより、リン酸八カルシウム結晶形成を阻害する作用を及ぼすことがあることから、好ましくは1mol/L以下、より好ましくは0.7mol/L以下、さらに好ましくは0.5mol/L以下である。
【0027】
本態様により製造される結晶の好ましい態様は、次の態様に係るリン酸八カルシウム結晶の説明を援用する。
【0028】
本発明の他の一態様は、リン酸八カルシウムの結晶構造に含まれるカルシウムイオン(Ca2+)の一部がマンガンイオン(Mn2+)に置換されている、リン酸八カルシウム結晶である。リン酸八カルシウム結晶において、Ca2+の原子比率がMn2+の原子比率より大きいことが好ましい。
【0029】
前記結晶は、前記Ca2+の他の一部がMn2+以外の1つ以上のカチオンに置換され
ていることが好ましい。Mn2+以外のカチオンの態様は、前記態様に記載した通りである。
【0030】
前記結晶はまた、Ca/P比(カルシウム/リン酸モル比)が、新骨形成を促進することから、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上、さらに好ましくは0.3以上、よりさらに好ましくは0.5以上である。一方で、Ca2+のカチオンによる置換により、一般的にCa/P比は低下することから、好ましくは5.0以下、より好ましくは3.0以下、さらに好ましくは2.0以下、よりさらに好ましくは1.7以下である。よりさらに好ましくは、0.67±0.05である。
【0031】
前記結晶はまた、Mn2+の含有量が、骨リモデリングプロセスに関与する細胞の活性及び分化を制御できることから、好ましくは0.1原子%以上、より好ましくは0.5原子%以上、さらに好ましくは2.0原子%以上、よりさらに好ましくは5.0原子%以上である。一方で、Mn2+が50原子%以上置換する場合、別の物質と定義されることから、好ましくは50原子%未満、より好ましくは40.0原子%以下、さらに好ましくは35.0原子%以下である。よりさらに好ましくは、30.7±2.8原子%である。
【0032】
前記結晶はまた、Ca2+の他の一部がMn2+以外のカチオンに置換されることによって、前記結晶の水和層の層間距離を制御することが可能となること、及び、後述するように前記溶液が有機分子を含む場合には、大きさの異なる有機分子を水和層に挿入することができるようになることから、Mn2+以外のカチオンの含有量が、好ましくは0.1原子%以上、より好ましくは1.0原子%以上、さらに好ましくは3.0原子%以上、よりさらに好ましくは5.0原子%である。また、好ましくは20原子%以下、より好ましくは15原子%以下、さらに好ましくは10原子%以下である。よりさらに好ましくは、8.2±0.4原子%である。リン酸八カルシウム結晶において、Ca2+の原子比率は、Mn2+以外のカチオンのいずれの原子比率よりも大きいことが好ましい。
【0033】
ここでいう結晶とは、粉末試料のXRDパターンにおいて明確な回折ピークが得られ、ま
た、結晶成長を阻害しない自由空間で成長した場合、結晶構造に起因する固有の外形を示す粒子のことを指す。
前記結晶はまた、前記結晶の水和層の層間距離を制御することが可能となること、及び、後述するように前記溶液が有機分子を含む場合には、大きさの異なる有機分子を水和層
に挿入することができることから、前記Mn2+以外のカチオンが水和層に含まれることが好ましい。
【0034】
前記結晶はまた、リン酸イオンを含む場合にあっては、カルシウムイオンのさらなる他の一部、リン酸イオンの一部、水酸化物イオン、及び水の一部の一部からなる群から選択される一又はそれ以上が、有機分子に置換されていることが好ましい。有機分子の態様は、前記態様に記載した通りである。
【0035】
前記結晶の結晶学的情報は、例えば、X線回折法(XRD)により常法に従い得ることができる。装置としては、例えば、MiniFlex600(株式会社リガク、日本)が挙げられる。
前記結晶のXRDパターンでは、OCPの回折パターンにおける、4.7°のピーク強度と、9.4°のピーク比を取ることで評価可能である。この2つのピークの相対比が大きい方が、層構造が大きく発達したことを示し、好ましい。
【0036】
また、前記結晶の化学振動スキームは、例えば、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)により常法に従い評価することができる。装置としては、例えば、Nicolet NEXUS670(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社、米国)が挙げられる。
前記結晶のFT-IRスペクトルでは、前記Ca2+の他の一部がMn2+に置換され、さらに、それ以外のカチオン、例えばNaがOCP結晶中の別のCa2+イオンを置換している場合、P3 POバンド(水酸アパタイト(HAp)層)が減衰するとともに、HPO-OH層構造に相当するP5 POバンドが大幅にシフトする。
【0037】
また、前記結晶の微細構造は、例えば、電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)により常法に従い評価することができる。装置としては、例えば、JSM-6700F(日本電子株式会社、日本)が挙げられる。前記結晶の表面の電荷蓄積を防止するために、前記結晶にOsなどを用いてスパッタコーティングをしてもよい。
【0038】
また、前記結晶が含む元素、例えば、Ca、P(PO)、Na、及びMnの含有量は、例えば、誘導結合プラズマ原子発光分光法(ICP-AES)により常法に従い測定することができる。装置としては、例えば、5110VDV(アジレント・テクノロジー株式会社、日本)が挙げられる。測定の際には、前記結晶を2%HNO溶液などに溶解した後に測定することができる。
【0039】
また、前記結晶の熱挙動は、例えば、熱重量示差熱分析(TG-DTA)により常法に従い評価することができる。装置としては、例えば、Thermo-Plus、TG8110(株式会社リガク、日本)が挙げられる。
【0040】
前記結晶のTG-DTA曲線では、前記Ca2+の他の一部がMn2+以外のカチオンに置換されている場合、HPO-OH層構造が好ましくは90℃以下、より好ましくは80℃以下、さらに好ましくは70℃以下で分解する。すなわち、前記結晶は、前記Ca2+の他の一部がMn2+以外のカチオンに置換されている場合、従来のOCPのそれよりも著しく熱安定性が低いことが好ましい。
【0041】
本発明の他の一態様は、前記結晶を含む、粉末状組成物である。
前記粉末状組成物は、前記結晶を含む限りその態様は制限されない。前記粉末状組成物は、前記結晶からなる粉末(すなわち、前記粉末状組成物における前記結晶の含有率が100%)であってよいが、他の成分を含んでもよい。前記粉末状組成物における前記結晶の含有率は、好ましくは1%以上、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは30%
以上である。尚、前記含有率は、XRDにおけるピーク強度を測定することにより算出でき
る。
【0042】
前記粉末状組成物は、骨芽細胞の生存性を減少させるために用いることができる。また、前記粉末状組成物は、骨芽細胞のアルカリホスファターゼ(ALP)の発生能を減少させるために用いることができる。
【0043】
前記粉末状組成物を骨芽細胞の生存性を減少させるために用いる場合、骨芽細胞が含まれる培養液中の前記粉末状組成物の濃度は、好ましくは0.1mg/L以上、より好ましくは1mg/L以上、さらに好ましくは10mg/L以上であり、一方で、好ましくは1g/L以下、より好ましくは500mg/L以下、さらに好ましくは100mg/L以下である。
【0044】
前記粉末状組成物を骨芽細胞のALPの発生能を減少させるために用いる場合、骨芽細胞が含まれる培養液中の前記粉末状組成物の濃度は、好ましくは0.1mg/L以上、より好ましくは1mg/L以上、さらに好ましくは10mg/L以上であり、一方で、好ましくは1g/L以下、より好ましくは500mg/L以下、さらに好ましくは100mg/L以下である。
【0045】
本発明の他の一態様は、前記結晶を含む、ブロック材である。
前記ブロック材は、前記結晶を含む限りその態様は制限されない。前記ブロック材は、前記結晶からなるブロック材(すなわち、前記ブロック材における前記結晶の含有率が100%)であってよいが、他の成分を含んでもよい。前記ブロック材における前記結晶の含有率は、好ましくは1%以上、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは30%以上である。前記含有率は、例えば、XRDを用いて測定することができる。
【0046】
本発明の他の一態様は、前記結晶を含む、多孔体である。
孔の形状は特に限定されない。通常は、連通多孔体、孤立気孔体、ハニカム構造体などがあげられる。また、気孔率は特に限定されない。好ましくは、30%以上、さらに好ましくは、50%以上、特に好ましくは70%以上である。気孔サイズは特に限定されない、好ましくは10μm以上、1000μm以下、特に好ましくは100μm以上、700μm以下、さらに好ましくは、200μm以上、500μm以下である。
【0047】
本発明の他の一態様は、
(I):カルシウム及びリン酸、水酸化物の少なくとも一つを含有するセラミックスを、(a)カルシウムイオン(Ca2+)、リン酸イオン、及び水酸化物のうち、セラミックスが含有しないすべての組成、並びに、(b)マンガンイオン(Mn2+)又はマンガンイオン(Mn2+)の錯イオンを含有する溶液に浸漬する工程(工程1)、又は、
(II):カルシウム、リン酸、水酸化物の少なくとも一つを含有するセラミックスを、(a)カルシウムイオン(Ca2+)、リン酸イオン及び水酸化物のうち、セラミックスが含有しないすべての組成、並びに、(b)易溶性のマンガン化合物を含む懸濁液に浸漬する工程(工程2)を含む、
無機成分の化学結合又は前記無機成分の結晶同士の絡み合い若しくは融合により硬化され、リン酸八カルシウムの結晶構造に含まれるカルシウムイオン(Ca2+)の一部がマンガンイオン(Mn2+)に置換されたブロック材の製造方法である。
【0048】
まず、(I):カルシウム及びリン酸、水酸化物の少なくとも一つを含有するセラミックスを、(a)カルシウムイオン(Ca2+)、リン酸イオン、及び水酸化物のうち、セラミックスが含有しないすべての組成、並びに、(b)マンガンイオン(Mn2+)又はマンガンイオン(Mn2+)の錯イオンを含有する溶液に浸漬する工程(工程1)につい
て説明する。
【0049】
セラミックスとしては、カルシウム、及びリン酸の少なくとも一方が含有されている化学組成であれば特に制限されないが、好ましくは、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム二水和物、硫酸カルシウム半水和物、硫酸カルシウム無水和物、水酸化カルシウム、リン酸水素カルシウム二水和物、リン酸水素カルシウム無水和物、リン酸二水素カルシウム水和物、リン酸二水素カルシウム無水和物、リン酸三カルシウムα相、リン酸三カルシウムβ相、水酸化アパタイト、炭酸アパタイト、リン酸水素マグネシウム、リン酸マグネシウム、リン酸マグネシウムアンモニウム、リン酸マンガン、リン酸マンガンカルシウム、リン酸亜鉛、氷、水酸化ランタン、水酸化バリウム、水酸化ストロンチウム、水酸化マグネシウム、水酸化ナトリウムなどである。
ここでいうセラミックとは、無機物に該当する物質のうち、主にイオン結合、共有結合によって結晶をなしている化合物のことを指す。また、組成中に水や、有機分子などを含んでいても差し支えないが、有機分子の含有量は50原子%以下である必要がある。
【0050】
溶液に浸漬するブロック材の製造方法としては特に限定されない。例えば、圧粉法、溶解析出法、セメンテーション、析出法などの常法に従って製造してもよい。いずれの方法を用いて前記結晶を含むブロック材製造する場合も、製造されたブロック材を溶液に浸漬し、組成変換反応を惹起しても崩壊しないように製造する必要がある。
【0051】
前記(a)において、前記セラミックスを浸漬する溶液におけるカルシウムイオン(Ca2+)の濃度は、好ましくは0.01mol/L以上、より好ましくは0.05mol/L以上、さらに好ましくは0.1mol/Lである。一方で、好ましくは1.0mol/L以下、より好ましくは0.5mol/L以下、さらに好ましくは0.3mol/L以下である。
【0052】
また、前記(a)において、リン酸イオンの濃度は、好ましくは0.01mol/L以上、より好ましくは0.05mol/L以上、さらに好ましくは0.1mol/Lである。一方で、好ましくは1.0mol/L以下、より好ましくは0.5mol/L以下、さらに好ましくは0.3mol/L以下である。Ca2+濃度が高い場合は、必然的にリン酸濃度は低く設定する必要がある。
【0053】
また、前記(b)において、マンガンイオン(Mn2+)の濃度は、好ましくは0.001mol/L以上、より好ましくは0.01mol/L以上、さらに好ましくは0.05mol/Lである。一方で、濃度が大きいと別のマンガン化合物が形成することから、好ましくは1.0mol/L以下、より好ましくは0.7mol/L以下、さらに好ましくは0.5mol/L以下である。
【0054】
前記(a)において、水酸化物イオンの濃度は、好ましくは1.0×10-14mol/L以上、より好ましくは1.0×10-12mol/L以上、さらに好ましくは1.0×10-10mol/Lである。一方で、好ましくは1.0×10-1mol/L以下、より好ましくは1.0×10-3mol/L以下、さらに好ましくは1.0×10-5mol/L以下である。
【0055】
また、前記(b)において、マンガンイオン(Mn2+)の錯イオンとしては、テトラフェニルポルフィリン(TPP)錯体(Mn(TPP)2+)が挙げられ、その濃度の好ましい範囲は、上記のマンガンイオン(Mn2+)の濃度の好ましい範囲と同様である。
【0056】
浸漬時間は特に限定されない。好ましくは10分間以上、より好ましくは2時間以上、さらに好ましくは6時間以上、よりさらに好ましくは12時間以上であり、一方で、好ま
しくは14日間以下、より好ましくは7日間以下、さらに好ましくは3日間以下、よりさらに好ましくは2日間以下である。
反応温度は特に限定されない。好ましくは0℃以上、より好ましくは4℃以上、さらに好ましくは25℃以上、よりさらに好ましくは37℃以上であり、一方で、好ましくは99℃以下、より好ましくは90℃以下、さらに好ましくは80℃以下、よりさらに好ましくは70℃以下である。
反応終了時のpHは好ましくは2.0以上、より好ましくは4.0以上、さらに好ましくは4.5以上、よりさらに好ましくは8.0以上となるように調整し、一方で、好ましくは11.0以下、より好ましくは10.0以下、さらに好ましくは9.0以下となるように調整する。
いずれの場合においても、反応時間や反応速度によっては安定相の形成が見られることから、その前に反応を終了させる必要がある。
【0057】
本工程1はまた、前記溶液が、Ca2+及びMn2+以外のカチオンを含むことが好ましい。その場合、前記Ca2+の他の一部がCa2+及びMn2+以外のカチオンに置換されている、ブロック材が製造される。
Ca2+及びMn2+以外のカチオンとしては、好ましくは、アルカリ金属イオン(例えば、リチウムイオン(Li)、ナトリウムイオン(Na)、カリウムイオン(K)、ルビジウムイオン(Rb)、セシウムイオン(Cs)など)、ベリリウムイオン(Be2+)、マグネシウムイオン(Mg2+)、アルカリ土類金属イオン(例えば、ストロンチウムイオン(Sr2+)、バリウムイオン(Ba2+)など)、遷移金属イオン、貴金属イオン(例えば、鉄イオン、銅イオン、銀イオン、金イオン、白金イオン、ニッケルイオン、コバルトイオン、タングステンイオン、クロムイオン、ジルコニウムイオン、チタンイオン、バナジウムイオン、亜鉛イオン、ガリウムイオン、ニオブイオン、ハフニウムイオン、鉛イオン、ロジウムイオン、インジウムイオン、オスミウムイオン、レニウムイオン、ルテニウムイオン、パラジウムイオン、水銀イオンなど)、ゲルマニウムイオン、ランタノイドイオン(例えば、ランタンイオン、ユウロピウムイオン、セリウムイオン、ルテチウムイオン、プラセオジムイオン、ネオジムイオン、サマリウムイオン、ガドリニウムイオン、テルビウムイオン、ジスプロジウムイオン、ホルミウムイオン、エルビウムイオン、ツリウムイオン、イッテルビウムイオン、イットリウムイオン、スカンジウムイオンなど)、アンモニウムイオン、ホスホニウムイオンなどの水素化物イオン、トロピリウムイオン、ピリリウムイオンなどのカチオン性有機化学種などである。これらのイオンは、単体でも良いし、錯イオンとして担持しても構わない。
【0058】
上記における錯イオンのカウンターイオンとしては、アンモニア、ホスホニウムイオンなどの水素化物、トロピリウムイオン、ピリリウムイオンなどのカチオン性有機化学種、クエン酸、コハク酸、プロピオン酸、酢酸、チオリンゴ酸、安息香酸、リンゴ酸、シュウ酸、ギ酸などのカルボン酸、グリシン、メチオニン、アスパラギン酸、カルボシステイン、システイン、アルギニン、ヒスチジンなどのアミノ酸及び、これらが重合したポリペプチド、メタノール、エタノール、プロパノール、チオメタノール、チオエタノール、オクタノールなどのアルコール、エチレンジアミン、テトラアミンなどのアミン、ポルフィリンなどの環状有機物などがあげられる。
【0059】
Ca2+及びMn2+以外のカチオンの濃度は、Mn2+イオンの担持に共役イオンとして重要であることから、好ましくは0.1mol/L以上、より好ましくは0.5mol/L以上、さらに好ましくは1.0mol/Lである。一方で、例えば、10mol/L以下である。
【0060】
本工程1はまた、前記溶液が、Mn2+以外のカチオン及びリン酸イオンを含む(工程1-1)、又は、リン酸イオン及びリン酸イオン以外のアニオンを含む(工程1-2)こ
とが好ましい。
前記溶液が、Mn2+以外のカチオン及びリン酸イオンを含む(工程1-1)場合、同様のブロック材が製造される。
また、前記溶液が、リン酸イオン及びリン酸イオン以外のアニオンを含む(工程1-2)場合、これらのアニオンを含む同様のブロック材が製造される。
リン酸イオン及びリン酸イオン以外のアニオンとしては硫酸イオン、ケイ酸イオン、硝酸イオン、塩化物イオン、ヨウ素イオン、フッ素イオン、臭素イオン、酢酸イオン、コハク酸イオン、クエン酸イオンなどが挙げられる。
これにより、リン酸イオンの一部がリン酸イオン及びリン酸水素イオン以外のアニオンに置換され、および/又は、リン酸水素イオンの一部がリン酸イオン及びリン酸水素イオン以外のアニオンに置換された、リン酸八カルシウム結晶が得られる。
【0061】
次に、カルシウム、リン酸水酸化物の少なくとも一つを含有するセラミックスを、(a)カルシウムイオン(Ca2+)、リン酸イオン及び水酸化物のうち、セラミックスが含有しないすべての組成、並びに、(b)易溶性のマンガン化合物を含む懸濁液に浸漬する工程(工程2)について説明する。
【0062】
カルシウム、リン酸、セラミックス、カルシウムイオン(Ca2+)、及びリン酸イオンについては、先に記載した、工程1の説明と同一である。
【0063】
前記セラミックスを浸漬する懸濁液における易溶性のマンガン化合物としては、反応に伴い溶解するのであれば特に制限されないが、好ましくは、水酸化マンガン、硫化マンガン、硫酸マンガンなどである。
前記セラミックスを浸漬する懸濁液における易溶性のマンガン化合物の粒径は、反応性に直結することから、好ましくは100μm以上であり、好ましくは2cm以下である。
【0064】
浸漬時間は特に限定されない。好ましくは10分間以上、より好ましくは2時間以上、さらに好ましくは6時間以上、よりさらに好ましくは12時間以上であり、一方で、好ましくは14日間以下、より好ましくは7日間以下、さらに好ましくは3日間以下、よりさらに好ましく2日間以下である。
反応温度は特に限定されない。好ましくは0℃以上、より好ましくは4℃以上、さらに好ましくは25℃以上、よりさらに好ましくは37℃以上であり、一方で、好ましくは99℃以下、より好ましくは90℃以下、さらに好ましくは80℃以下、さらにより好ましくは70℃以下である。
反応終了時のpHは好ましくは2.0以上、より好ましくは4.0以上、さらに好ましくは4.5以上、よりさらに好ましくは8.0以上となるように調整し、一方で、好ましくは11.0以下、より好ましくは10.0以下、さらに好ましくは9.0以下となるように調整する。
いずれの場合においても、反応時間や反応速度によっては安定相の形成が見られることから、その前に反応を終了させる必要がある。
【0065】
前記工程1又は工程2により、無機成分の化学結合又は前記無機成分の結晶同士の絡み合い若しくは融合により硬化され、リン酸八カルシウムの結晶構造に含まれるカルシウムイオン(Ca2+)の一部がマンガンイオン(Mn2+)に置換されたブロック材が製造される。
【実施例0066】
以下に実施例を記載するが、いずれの実施例も、限定的な意味として解釈される実施例ではない。尚、以下の実施例におけるX線回折(XRD:MiniFlex600、株式会社リガク、日本)パターンは、ターゲット:Cu、波長:0.15406 nmを用いて測定された
ものである。
【0067】
〔実施例1〕
(Mnを用いたOCP形成におけるNaの効果の評価)
全ての試薬(試薬グレード)は、富士フイルム和光純薬株式会社(日本)から購入した。蒸留水を用いて2.0mol/LのHPOを調製した。NaCl及びMnCl・4HOを蒸留水に溶解させ、100mmol/LのHPO、0~100mmol/LのMnCl、及び0~5mol/LのNaClを含有する一連のカクテル溶液20mLを用意した。溶液の初期pHは<2.0であった。
Na及びMnを含有する100mmol/LのHPOの様々な濃度の種々の溶液20mLにCaCOパウダー(0.50g)を浸した。初期に発生したCOの放出後、混合物を密閉し、その後、60℃で、1日間又は3日間インキュベートした。pHメータに接続したpH電極(LAQUA ToupH9615S-10D)(株式会社堀場製作所、D-72、京都、日本)を用いて反応溶液の最終pHの値を測定した。処理したサンプルは蒸留水及び99.5%エタノールを用いて数回洗浄し、残った浸漬溶液を除去し、続いてオーブン(40℃)内で一晩乾燥した。
【0068】
〔実施例2〕
(100mmol/LのMnを用いたOCP形成における、Na以外の金属イオンの効果の評価)
サンプルの調製法は実施例1と同様にした。手短に言うと、NaClの代わりに、LiCl、KCl、RbCl、CsCl、MgCl、又はSrClを、100mmol/LのMnCl及びHPO溶液に5mol/Lとなるよう溶解したものを用いた。
【0069】
〔実施例3〕
(特性評価)
加速電圧及び振幅をそれぞれ40kV、15mAとし、X線回折(XRD:MiniFlex600、株式会社リガク、日本)により、サンプルの結晶学的情報を得た。特性評価については5°/分の操作速度で3°から70°にわたり、結晶学的パラメータ解析については1°/分の操作速度で2°から12°にわたり2θの値で回折角を連続的にスキャンした。
また、フーリエ変換赤外分光(FT-IR:Nicolet NEXUS670、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社、米国)により、GeSeで作られた減衰全反射プリズムを有する硫酸トリグリシン検出器(32スキャン、解像度2cm-1)を用いて、サンプルの化学振動スキームの特性を評価した。測定を行うためのバックグラウンドとして雰囲気を考慮した。
また、加速電圧を5kVとし、電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM:JSM-6700F、日本電子株式会社、日本)により、サンプルの微細構造を評価した。表面の電荷蓄積を防止するため、サンプルにOsを用いてスパッタコーティングをした。
また、サンプルを2%HNO溶液に溶解した後、誘導結合プラズマ原子発光分光法(ICP-AES:5110VDV、アジレント・テクノロジー株式会社、日本)により、サンプルのCa、P(PO)、Na、及びMnの含有量を測定した。尚、Naをはじめとするカチオンの濃度に対する結果は公知である。
また、加熱速度を10℃/分とし、熱重量示差熱分析(TG-DTA;Thermo-Plus、TG8110、株式会社リガク、日本)により、サンプルの熱挙動を判定した。
【0070】
〔実施例4〕
(生体外での細胞評価のためのサンプル調整)
自転するめのうのすり鉢とすりこぎにより、細胞評価のためのリン酸八カルシウムサン
プル(OCP-Na,Mn(本明細書では、Na及びMnで置換されたリン酸八カルシウムをこのように称することがある。)、及び従来のリン酸八カルシウム(OCPと定義する))を、潤滑剤としてのジメチルスルホキシド[DMSO:(CHS(=O)]の存在下で、150rpmで撹拌をしながら12時間粉砕した。粉砕したOCPサンプルは蒸留水で数回洗浄し、その後、40℃で乾燥した。OCPサンプルの粒径は、通常の操作と同様にFE-SEMにより判定した。粉砕したOCPサンプルは、70%エタノールへの浸漬により滅菌し、滅菌した蒸留水で数回洗浄し、その後、評価のために10mg/mLとなるようダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)に分散した。粉砕した従来のOCP及びOCP-Na,Mn(0~100μg/mL)を様々な濃度とし、評価に使用した。
【0071】
〔実施例5〕
(細胞培養、及び骨芽細胞への分化)
10vol%の不活化ウシ胎仔血清(FBS)、100U/mLのペニシリン、及び0.1mg/mLのストレプトマイシンが添加されたDMEMにて、37℃、5%COでマウスの繊維芽細胞(MC3T3-E1細胞)を培養した。70~80%コンフルエントに達したら、0.1%のトリプシン-1mmol/LのEDTAを含み、Ca2+-Mg
2+を含まないリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いて細胞を継代培養した。実験では
、細胞条件を安定させるため、継代数5~15の間の細胞は少なくとも2回の継代を経験させたものとした。
骨芽細胞への分化を誘導するため、50mg/mlのアスコルビン酸(タカラバイオ株式会社、日本)及び4mmol/Lのb-グリセロリン酸(タカラバイオ株式会社、日本)を含有する骨芽細胞分化誘導用培地を用いて、37℃で48時間、COインキュベーター内で上記細胞をインキュベートした後、コーティングされていないポリスチレン(PS)96-ウェルプレート上に2×10細胞/mlの細胞を播種した。
【0072】
〔実施例6〕
(繊維芽細胞の生存性評価)
48時間後における、MC3T3-E1細胞の生存性をWST-1(タカラバイオ株式会社、日本)比色試薬試験により判定した。細胞培地を除去した後、PBSで数回洗浄し、150μLのWST-1希釈培地(最終希釈1:10)を加え、37℃でさらに1時間インキュベートした。マイクロプレートリーダー(Infinite200、テカンジャパン株式会社、日本)を用いて、参照波長を640nmとして、450nmで上清の吸光度を測定した。WST1の結果は光学密度(OD)として報告され、細胞数と直接相関している。
【0073】
〔実施例7〕
(アルカリホスファターゼ(ALP)分析)
72時間後の骨芽細胞のアルカリホスファターゼ(ALP)活性を測定した。骨芽細胞の一部を用いて分析した(ALP分析、タカラバイオ株式会社、日本)。細胞増殖における差異を考慮するため、測定した濃度と活性は全て総タンパク量により正規化した。
【0074】
〔結果及び考察〕
この研究において、カチオンの効果を簡単に評価するため、我々はCaCOとHPO(+MnCl及びNaCl)の簡易な反応過程を用いた。リン酸カルシウム相が溶液のpHにより制御されるため、反応溶液のpHはOCP形成にとって重要な要素である。図1に1日及び3日経過した反応溶液のpH値を示した。1日経過時点では、Na及びMn濃度が増加するにつれ、反応溶液のpH値は減少したが、全ての反応溶液のpH値はOCP形成に適した弱酸性から中性であった。3日経過時点では、反応溶液のpH値は1日のものと比較してわずかに増加した。
【0075】
サンプルをXRDにより特性評価した。図2に1日の処理をしたサンプルの広範囲XRDパターンを示した。
Mnが0mmol/Lの場合、Naが2mol/L以下で単相OCPが形成された一方で、Naが5mol/Lではヒドロキシアパタイト[HAp:Ca10(PO(OH)]が主成分のものが形成された。
Mn濃度が20mmol/L以下の場合、主にOCPが形成された。
Mn濃度が20mmol/Lを超えてNa濃度が低い場合、リン酸水素カルシウム二水和物[DCPD:CaHPO・2HO]及びマンガナイト[MnO(OH)]が主に形成された一方で、Na濃度が高い場合、DCPD及びマンガナイトが明らかに消失しOCPが形成された。さらに、CaCOが著しく残存した。
【0076】
小角でのピーク分析の結果、高濃度のNa、Mnで形成されたOCPでは、従来のOCPとは異なるピークを有することが示された(図3)。Mnが100mmol/L、Naが5mоl/Lで形成されたOCPは、OCP d(100)に相当する4.7°で最も強いピークを示したが、9.2°(OCP d(200))及び9.7°(OCP d(110))ではピークを示さず、9.4°でピークを示した。
【0077】
高濃度のNa及びMnを含有する溶液(Na-Mn系)においてMn置換OCPを得ることが提案された。しかしながら、サンプルにはMn置換OCPだけでなくMn置換OCPの特性を充分に評価するために除去されるべき残留物質としてCaCOも含まれていた。したがって、我々は高純度のMn置換OCP、反応時間の延長又はCaCO量の減少を得るための2つのさらなる評価を用いた。
第1段階として、我々は単純に処理時間を1日から3日に延長した。図4に3日の処理をしたサンプルの広範囲XRDパターンを示した。すべてのMn濃度において、各サンプルのOCPの比はわずかに減衰したが、HAp及びマンガナイトの比は増加した(図5)。さらに、Naが5mоl/L、Mnが100mmol/Lの場合、OCP(Mn置換OCP)の強度は大幅に減少した一方で、MnOOHは大幅に増加した。この現象は、時間が経過するにつれMn置換OCPがMnOOHに分解することを示唆している。よって、我々は、この溶液系において反応時間の延長はOCP形成にとって不利であると考えた。しかしながら、分析結果はさらなる調査に有益であると考えられたため、Na-Mn系で得られた相を相図としてまとめた(図6)。
【0078】
次の調査として、我々は出発物質であるCaCOの量を減少させた。図7にNaが5mоl/L、Mnが100mmоl/Lの溶液系でのCaCO量の振動結果のXRDパターンを示した。CaCO量を初期調査の半分の値である0.25gに減らした場合、余分なCaCOピークは観測されなかった。
次に、我々はOCP(OCP-Na,Mn)などの化学組成を調査した。OCP-Na,MnのCa/P比は0.67±0.05であった。OCP-Na,MnのNa及びMnの含有量はそれぞれ、%で8.2±0.4、30.7±2.8であった。よって、OCP-Na,Mnの化学組成はCaNaMn(PO・5HOとして与えられた。
【0079】
FT-IR分析は、OCP-Na,MnにおけるOCPのMn置換の態様を示す。XRD分析により、Mn置換がOCP単位格子に影響を与えることは示されている。分光法にとって低対称なOCP結晶構造(P-1)をうまく利用し、OCPで構成される6つのPO分子(P1~P6POと分類)の振動モードを判定することができた。この方法では、比較として従来のOCP(Na及びMnなしで製造)及びOCP(Na)(2mоl/LのNaありで製造)を用いた。図9にサンプルのFT-IRスペクトルを示した。OCP-Na,Mnの場合、バンドはHAp層に位置したP3 POに相当し、OCPの
最も強いバンドは消失した。さらに、HPO-OH層構造に相当したP5 POバンドは大幅にシフトした。よって、Mn(Naあり)は、OCP結晶構造の典型的な構造に影響を与えることがわかった。
【0080】
サンプルの熱挙動、特に熱安定性はTG-DTA法により評価することができた。FT-IRサンプルと同じように、比較として従来のOCP及びNa置換OCP(OCP(Na))の曲線を用いた。図10にOCP-Na,MnのTG-DTA曲線を示した。従来のOCPの場合、加熱工程における、吸着した水分の蒸発(~70℃)及びHPO-OH層構造の分解(~150℃)が2つのDTAピークとして現れた。一方、OCP-Na,Mnの場合、HPO-OH層構造は70℃以下で分解した。したがって、OCP-Na,Mnの熱安定性は、従来のOCPの熱安定性よりはるかに低いと結論づけた。
【0081】
SEMによりOCP-Na,Mnの微細構造を判定した。図8にサンプルのSEM顕微鏡写真を示した。全てのサンプルは、典型的なOCP形態である数μmにわたる大きさの板状結晶を示した。Mn含有サンプルの場合、板状結晶のアスペクト比はわずかに減少したが、著しい形態変化はほとんど観測されなかった。
【0082】
OCP-Na,Mnの材料研究は、Mn置換OCPがNaと共役することを示した。したがって、OCP-Na,Mnの生物学的反応を評価することができた。パウダーサンプルの場合、生体外での細胞培養方法が評価に適している。過去の研究では、Mnが、骨芽細胞の生存性、及び生体外での骨芽細胞のアルカリホスファターゼ(ALP)発生率を減衰させたことが示されている。生体外での細胞研究では、サンプルの分散が重要である。したがって、用いる細胞培地における分散特性を向上するため、我々はOCPサンプルを機械的に粉砕した。OCP-Na,Mn及び基準材料としてのOCPの大きさは、それぞれ、143.0±68.3nm、144.5±59.2nmであった。図11及び図12には、それぞれ骨芽細胞の生存性及び相対ALP活性を示した。OCPの場合、OCP量が増加するにつれ骨芽細胞の生存性はわずかに減少した一方で、OCP-Na,Mnの場合、1μg/mLを超えると骨芽細胞の生存性は大幅に減少した。ALP活性の場合、細胞応答の挙動は生存性とほぼ同様であった。さらに、OCP-Na,Mnが50μg/mLを超えると、骨芽細胞がALPを発生できないことが観測された。
【0083】
他のカチオンが、カチオン共役によるOCP単位格子へのMn置換にどのように影響を与えるかを確かめるため、我々は添加カチオンをNaから他の金属に変更した。図13に得られたサンプルのXRDパターンを示した。Naを除くアルカリ金属、Mg、Srの場合、OCP形成を誘導する共役工程の証拠は見られなかった。
【0084】
Na共役によるOCP単位格子へのMn置換はユニークな現象である。実際に、Na(1.02Å)とCa(1.00Å)とのイオン半径の類似性が、OCP単位格子へのNaの固体-液体置換を引き起こす。HPO-OH層構造の元であるP5 POの共役部位をNaが置換したため、この工程によりOCP層構造、特にHPO-OH層構造が強化された。しかしながら、Mnのイオン半径が0.80Åであるため、カチオンのイオン半径を議論するのみではこの現象をほとんど説明していない。したがって、そのような共役工程では、K、HN、及びRbなどの大きなイオン半径を有するカチオンが置換する可能性が高い。
【0085】
FT-IRスペクトルは、Mn置換部位が、P5 PO共役部位ではなくOCPのHAp層構造に位置するP3 PO共役部位であることを示した。HAp(及びOCP)形成を優先した比較的高いpH条件であるにもかかわらずMnがDCPDを誘導した。我々のFT-IR観測では、MnがHApのような構造形成を抑制した一方でNaが特にOCPのHPO-OH層構造を誘導したことを示唆した。この現象はまたHPO-OH
層構造、HAp層構造の側部を誘導することを示唆した。次いで、NaがMn抑制効果(TOC)をもたらすことによりOCP形成が誘導された。
【0086】
時間が経過するにつれ、DCPD及びOCP-Na,Mnが分解し、OCP及びマンガナイトが形成した。マンガナイトはMn豊富な材料である。したがって、Mnがマンガナイトとして反応系から除去されたため、DCPD及びOCP-Na,Mnからの残存Ca及びPOが再び反応しOCPを形成する。OCP-Na,Mn材料の進展での熱分析は、OCP-Na,MnがもはやOCPのグループではないとみなされてもよい、非常に制限された動力学及び熱力学領域を有する準安定相であることを示した。
【0087】
OCPへのMn置換へのNaの効果を調査した。Na濃度が高い場合、MnはP3 PO共役部位としてOCP単位格子に置換することができた。この工程はイオン半径の差の共役工程ではなく、HPO-OH層構造を誘導するNaによる典型的な現象から生じたものである。製造したOCP-Na,Mnの熱安定性は従来のOCPの熱安定性よりはるかに低かった。生体外での骨芽細胞の分析により、骨芽細胞に対し、OCP-Na,Mnが、Mn置換セラミック及び合金と類似の効果を示したことが示された。
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図11
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図13