IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日清製粉グループ本社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022023734
(43)【公開日】2022-02-08
(54)【発明の名称】凍結米飯の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20220201BHJP
【FI】
A23L7/10 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020126880
(22)【出願日】2020-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000226998
【氏名又は名称】株式会社日清製粉グループ本社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石田 一晃
(72)【発明者】
【氏名】夏目 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 純子
【テーマコード(参考)】
4B023
【Fターム(参考)】
4B023LC05
4B023LE13
4B023LG01
4B023LP05
4B023LP08
4B023LP10
4B023LP15
4B023LP20
(57)【要約】
【課題】解凍後の食感が良好な凍結米飯を提供すること。
【解決手段】本発明の凍結米飯の製造方法は、水分に浸漬させていない生米を蒸気処理して処理米を得る蒸気処理工程と、前記処理米を炊飯して炊飯米を得る炊飯工程と、前記炊飯米に水分を添加する加水工程と、前記加水工程を経た炊飯米を複数の塊状物に分けてから凍結する凍結工程とを有している。前記炊飯工程では、炊飯直後の炊飯米の質量が生米100質量部に対して230質量部以上250質量部未満となるように炊飯を行う。前記蒸気処理工程では、蒸気処理直後の処理米の質量が生米100質量部に対して104以上106質量部以下となるように蒸気処理を行うことが好ましい。前記加水工程では、炊飯米100質量部当たり5質量部以上15質量部以下の水分を添加することが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分に浸漬させていない生米を蒸気処理して処理米を得る蒸気処理工程と、
前記処理米を炊飯して炊飯米を得る炊飯工程と、
前記炊飯米に水分を添加する加水工程と、
前記加水工程を経た炊飯米を複数の塊状物に分けてから凍結する凍結工程と、を有し、
前記炊飯工程では、炊飯直後の炊飯米の質量が生米100質量部に対して230質量部以上250質量部未満となるように炊飯を行う、凍結米飯の製造方法。
【請求項2】
前記蒸気処理工程では、蒸気処理直後の処理米の質量が生米100質量部に対して104質量部以上106質量部以下となるように蒸気処理を行う、請求項1に記載の凍結米飯の製造方法。
【請求項3】
前記蒸気処理の処理時間が150秒間以上300秒間以下である、請求項1又は2に記載の凍結米飯の製造方法。
【請求項4】
前記炊飯工程では、炊飯直後の炊飯米の質量が生米100質量部に対して230質量部以上235質量部以下となるように炊飯を行う、請求項1~3の何れか1項に記載の凍結米飯の製造方法。
【請求項5】
前記炊飯工程は、水温5℃以上30℃以下の水中に処理米を3分間以上120分間以下浸漬する工程を含む、請求項1~4の何れか1項に記載の凍結米飯の製造方法。
【請求項6】
前記加水工程では、炊飯米100質量部当たり5質量部以上15質量部以下の水分を添加する、請求項1~5の何れか1項に記載の凍結米飯の製造方法。
【請求項7】
前記凍結工程を経て製造された凍結米飯は、前記複数の塊状物が凍結してなる複数の凍結塊状物を含み、該複数の凍結塊状物は、一辺の長さが3cmの仮想的な立方体の内部に、該立方体の内面と接触することなく収容可能な特定凍結塊状物を含み、
前記複数の凍結塊状物100質量部中に前記特定凍結塊状物が70質量部以上含まれている、請求項1~6の何れか1項に記載の凍結米飯の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の塊状物にバラ状化された凍結米飯の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍米飯などとも呼ばれる凍結米飯は、長期保存が可能で手軽に解凍加熱して食すことができるため、広く普及している。凍結米飯は典型的には、飯粒をバラ状に凍結させた状態となっており、これを皿などに拡げた状態で電子レンジ等の加熱調理器具により加熱することにより、解凍ムラや加熱ムラが生じないようになされている。しかし、一般的な粳米を常法により炊飯して得た米飯は、粘性が強いためほぐれにくく、バラ状化が不完全になることがあった。この問題を解決する技術として、特許文献1には、粳米を常法により炊飯して得た米飯を、50℃以下に冷却した後、米飯量に対して3%以上、10%未満の水を添加してほぐしを行い凍結する方法が開示されている。特許文献1に記載の技術によれば、米飯を簡単にバラ状化でき、良好な状態で凍結することができるとされている。
【0003】
また近年、コンビニエンスストアやスーパーマーケットに陳列される、おにぎりやお弁当の需要が増加するとともに、メーカーで大量炊飯され、常温、冷蔵、又は冷凍状態で比較的長時間保持される米飯の需要が高まっているところ、このような米飯は、家庭のように炊飯後高温状態で保持される米飯とは異なり、澱粉の老化をはじめとする各種の劣化が進行するという問題があり、また、炊飯後の成型工程で米飯が機械等設備に付着しやすいという問題もある。これらの問題を解決する技術として、特許文献2には、水分に浸漬させていない生米を蒸気処理する工程後に米を炊飯する工程を含み、炊飯直後の炊飯米の質量が生米100質量部に対して250質量部以上270質量部以下であることを特徴とする炊飯米の製造方法が開示されている。特許文献2に記載の技術は、米飯の劣化抑制及び炊飯後のべたつき防止(成型性の向上)を課題としたものであり、米飯の凍結を必須とするものではなく、米飯のバラ状化や解凍後の食感については具体的に言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5-68492号公報
【特許文献2】特開2019-141040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、解凍後の食感が良好な凍結米飯を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、水分に浸漬させていない生米を蒸気処理して処理米を得る蒸気処理工程と、前記処理米を炊飯して炊飯米を得る炊飯工程と、前記炊飯米に水分を添加する加水工程と、前記加水工程を経た炊飯米を複数の塊状物に分けてから凍結する凍結工程と、を有し、前記炊飯工程では、炊飯直後の炊飯米の質量が生米100質量部に対して230質量部以上250質量部未満となるように炊飯を行う、凍結米飯の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、長期保存が可能で、解凍後の食感が良好な凍結米飯を製造し得る、凍結米飯の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の凍結米飯の製造方法は少なくとも、蒸気処理工程、炊飯工程、加水工程、凍結工程を有する。
凍結米飯は解凍処理によって喫食可能な状態となるものであるところ、その解凍処理で解凍ムラや加熱ムラが起こると、解凍後の食感が低下するおそれがある。したがって、凍結米飯の解凍後の食感の向上を図るためには、凍結米飯の解凍処理で解凍ムラや加熱ムラが起こらないようにすることが重要であり、その観点から、凍結米飯の形態としては、比較的大きな1個の塊ではなく、比較的小さな複数の塊状物(凍結塊状物)の集合体の形態、いわゆるバラ状凍結米飯が好ましい。このバラ状凍結米飯を製造するためには、炊飯米を凍結する前に、複数の塊状物に分ける、いわゆるバラ状化する必要があるところ、本発明の凍結米飯の製造方法において、このバラ状化の促進に特に寄与する工程が、前記の蒸気処理工程及び加水工程である。
特に、炊飯工程の前に蒸気処理工程を実施し、生米を蒸気に晒すことで、その後の炊飯工程で得られる炊飯米に特有の粘りが低減され、これにより凍結前の炊飯米のバラ状化が容易になり得る。また、炊飯工程後で凍結工程の前に加水工程を実施し、炊飯米に適度な水分を添加することで、炊飯米のほぐれ性が向上し、これにより凍結前の炊飯米のバラ状化が容易になり得る。本発明の凍結米飯の製造方法は、この2つの工程(蒸気処理工程、加水工程)を併用することで、バラ状凍結米飯の製造を容易にし、解凍後の食感が良好な凍結米飯の製造を可能にしている。
【0009】
<蒸気処理工程>
蒸気処理工程は、水分に浸漬させていない生米を蒸気処理して処理米を得る工程である。ここでいう「水分に浸漬させていない生米」とは、実質的に加水していない生米をいい、例えば直前に水を用いた洗米処理を行なった米は含まれない。
【0010】
本発明で用いる生米の形態は、特に制限されず、凍結米飯の用途等に応じて適宜選択することができ、例えば、白米、無洗米、玄米、七分づき米、胚芽米、風で糠等を除去した生米などが挙げられ、これらの1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの生米の中でも、蒸気処理前に水分に浸漬させない点を徹底する観点から、無洗米、又は風で糠等を除去した生米が好ましく、品質の点から、無洗米がさらに好ましい。
【0011】
本発明で用いる生米の種類は、特に制限されず、凍結米飯の用途等に応じて適宜選択することができ、例えば、うるち米、糯米などが挙げられ、これらの1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。うるち米としては、低アミロース米、高アミロース米、通常のうるち米などを例示できる。典型的には、うるち米の生米が用いられる。
【0012】
本発明で用いる生米の品種は、特に制限されず、凍結米飯の用途等に応じて適宜選択することができ、例えば、コシヒカリ、ひとめぼれ、ヒノヒカリ、あきたこまち、ななつぼし、はえぬき、キヌヒカリ、まっしぐら、あさひの夢、ゆめぴりか、こしいぶき、きぬむすめ、つがるロマン、夢つくし、つや姫などが挙げられ、これらの1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0013】
蒸気処理に用いる蒸気の種類は、特に制限されず、飽和蒸気でも過熱蒸気でもよい。すなわち、生米に施す蒸気処理は、飽和蒸気処理でもよく、過熱蒸気処理でもよい。
生米の蒸気処理は、典型的には、処理対象の生米が収容された空間内、例えば飽和蒸気処理であれば蒸気庫内、過熱蒸気処理であればスチームオーブン内に、飽和蒸気又は過熱蒸気を導入し一定時間静置することで実施できる。
【0014】
前述したとおり、蒸気処理工程で実施する生米の蒸気処理は、凍結前の炊飯米のバラ状化、延いてはバラ状凍結米飯の製造を容易にし得る。蒸気処理による効果をより一層確実に奏させるようにするとともに、蒸気処理に起因する凍結米飯の解凍後の食感の低下を防止する観点から、蒸気処理工程では、蒸気処理直後の処理米の質量が、生米100質量部に対して、好ましくは104質量部以上、より好ましくは104.5質量部以上、更に好ましくは104.8質量部以上、そして、好ましくは106質量部以下、より好ましくは105.5質量部以下、更に好ましくは105質量部以下となるように、蒸気処理を施すことが好ましい。ここでいう「蒸気処理直後」とは、蒸気処理の終了時点(生米が蒸気に晒されなくなった時点)から5分以内を指す。生米100質量部に対する蒸気処理直後の処理米の質量が過少であると、蒸気処理を行う意義に乏しく、生米100質量部に対する蒸気処理直後の処理米の質量が過大であると、凍結米飯の解凍後の食感の低下を招くおそれがある。
【0015】
蒸気処理の処理時間、すなわち処理対象の生米を蒸気に晒す時間は、蒸気処理直後の処理米の質量が生米100質量部に対して前記範囲となるように調整することが好ましく、用いる生米の種類等に応じて適宜調整し得るが、好ましくは150秒間以上、より好ましくは160秒間以上、更に好ましくは180秒間以上、そして、好ましくは300秒間以下、より好ましくは250秒間以下、更に好ましくは210秒間以下である。蒸気処理の処理時間が短すぎると蒸気処理を行う意義に乏しく、蒸気処理の処理時間が長すぎると、凍結米飯の解凍後の食感の低下を招くおそれがある。
【0016】
前記と同様の観点、すなわちバラ状凍結米飯の製造効率と解凍後の食感とのバランスの観点から、蒸気処理における処理時間以外の条件は、以下のように調整することが好ましい。
飽和蒸気処理における雰囲気温度(飽和蒸気の温度)は、好ましくは80℃以上、より好ましくは85℃、更に好ましくは90℃以上である。
過熱蒸気処理における雰囲気温度(過熱蒸気の温度)は、好ましくは100℃以上200℃以下、より好ましくは100℃以上150℃以下、更に好ましくは100℃以上120℃以下である。また、過熱蒸気処理の絶対湿度は、好ましくは350g/m以上550g/m以下である。
【0017】
蒸気処理工程と次工程(炊飯工程)との間の時間間隔は、特に制限されないが、好ましくは24時間以内、より好ましくは12時間以内、更に好ましくは1時間以内であり、特に好ましくは30分以内である。斯かる時間間隔が長すぎると、蒸気処理によって得られた処理米の表面が再老化し、炊飯時に割れが生じやすくなり、結果的に粘りが生じやすくなり、機械適性が低下するおそれがあり、食味の低下のおそれもある。
【0018】
<炊飯工程>
炊飯工程は、蒸気処理工程で得られた処理米を炊飯して炊飯米を得る工程である。炊飯工程における炊飯方法は、加水して米を炊く方法であればよく、炊飯方法として従来慣用されているものから凍結米飯の用途等に応じて適宜選択することができる。炊飯方法は、典型的には、処理米を加熱して糊化及びα化を行う加熱処理と、追い炊き処理と、蒸らし処理とを含む。また、炊飯に用いる調理器具は特に制限されず、例えば、炊飯釜、炊飯鍋などを用いることができ、家庭用でも業務用でもよい。
【0019】
炊飯工程では、炊飯直後の炊飯米の質量が生米100質量部に対して230質量部以上250質量部未満となるように炊飯を行う。すなわち炊飯工程では、炊飯歩留まり(生米の質量に対する炊飯米の質量の割合)が230質量%以上250質量%未満となるように炊飯を行う。ここでいう「炊飯直後」とは、炊飯の終了時点から5分以内を指す。炊飯歩留まりは、特に凍結米飯の解凍後の食感に対する影響が大きく、本発明では、次工程の加水工程で炊飯米に水分を添加することを考慮して、斯かる食感を向上させる観点から、炊飯歩留まりを前記特定範囲に調整している。
炊飯工程では、好ましくは、炊飯直後の炊飯米の質量が生米100質量部に対して230質量部以上235質量部以下(炊飯歩留まり230質量%以上235質量%以下)となるように、より好ましくは炊飯直後の炊飯米の質量が生米100質量部に対して231質量部以上233質量部以下(炊飯歩留まり231質量%以上233質量%以下)となるように、炊飯を行うとよい。
【0020】
炊飯歩留まりを前記特定範囲に確実に調整する観点から、炊飯工程は、水温が好ましくは5℃以上30℃以下、より好ましくは15℃以上25℃以下の水中に、処理米を好ましくは3分間以上120分間以下、より好ましくは30分間以上90分間以下浸漬する工程を含むことが好ましい。すなわち、斯かる条件で処理米を水中に浸漬した後、該処理米を加熱することにより、炊飯を行うことが好ましい。このとき、処理米をそれが浸漬されている水ごと加熱してもよく、あるいは処理米の浸漬に使用した水を除去し、該処理米に水を新たに必要量加えて加熱してもよい。
【0021】
<加水工程>
加水工程は、炊飯工程で得られた炊飯米に水分を添加する工程である。加水工程は前述したとおり、凍結前の炊飯米のバラ状化、延いてはバラ状凍結米飯の製造を容易にし得る。加水工程による効果をより一層確実に奏させるようにするとともに、加水工程に起因する凍結米飯の解凍後の食感の低下を防止する観点から、加水工程では、炊飯米100質量部当たり、好ましくは5質量部以上15質量部以下、より好ましくは5質量部以上10質量部以下、更に好ましくは6質量部以上9質量部以下の水分を添加する。炊飯米100質量部当たりに添加する水分の量が過少であると、加水工程を行う意義に乏しく、炊飯米100質量部当たりに添加する水分の量が過大であると、凍結米飯の解凍後の食感の低下を招くおそれがある。
【0022】
加水工程で炊飯米に添加する水分としては、典型的には水が用いられるが、水に代えて、調味液を用いることもできる。調味液としては、例えば、水に砂糖、塩、酢、醤油、味噌などの調味料の1種以上を添加したもの、又は水溶液である酢若しくは醤油を例示できる。
【0023】
加水工程で炊飯米に水分を添加する方法は、特に制限されないが、炊飯米全体に水分を均一に行き渡らせることが好ましく、これが可能な方法で水分を添加することが好ましい。好ましい水分添加方法の一例として、スプレー等の液体噴霧器による水分の添加が挙げられる。例えば、水分の添加対象である炊飯米から一部を取り出し、その取り出した一部の炊飯米に噴霧器による水噴霧などの方法で所定量の水分を添加した後、再び、水分の添加対象である炊飯米から一部を取り出して水分を添加する、というように、炊飯米を複数に区分して各区分に対して所定量の水分を添加する方法が挙げられる。また例えば、水分の添加対象である炊飯米全体を適当な撹拌装置で撹拌するなどしてほぐしつつ、その攪拌中の炊飯米に所定量の水分を添加する方法が挙げられる。
【0024】
加水工程は、その前工程である炊飯工程の後直ちに行ってもよいが、炊飯直後の比較的高温の炊飯米に水分を添加すると、添加した水分が直ちに炊飯米に吸収されてしまい、炊飯米のほぐれ性を向上させるという加水工程の意義が損なわれるおそれがある。そこで、加水工程を意義あるものとする観点から、加水工程は、炊飯米全体の品温が炊飯直後よりも低温になってから行うことが好ましく、具体的には、炊飯米全体の品温が好ましくは60℃以下、より好ましくは40℃以下、更に好ましくは30℃以下、特に好ましく25℃以下となってから行うことが好ましい。一方、加水工程を行う前の炊飯米全体の品温の下限は特に制限されないが、該品温が0℃以下であると、次工程の凍結工程で凍結前に炊飯米をほぐすことが困難になるため好ましくないので、この点を考慮すると、好ましくは5℃以上、より好ましくは15℃以上である。加水工程を行うのに適した炊飯米全体の品温の範囲は、前述した上限と下限とを適宜組み合わせた範囲であり、特に好ましくは5℃以上40℃以下、とりわけ好ましくは15℃以上25℃以下である。
ここでいう「炊飯米全体の品温」とは、個々の炊飯米の米粒の品温ではなく、多数の炊飯米の米粒の集合体の中心部の温度を指す。すなわち、例えば、水分の添加対象である炊飯米の米粒が炊飯釜などの容器内に多数収容されて1つの塊を形成している場合、その塊の中心部の温度が、当該炊飯米全体の品温である。
炊飯米全体の品温を炊飯直後よりも低温にする方法は特に制限されず、炊飯直後の炊飯米を室温の環境下に放置するなどの自然冷却でもよく、炊飯米に冷風を当てるなどの強制冷却でもよい。
【0025】
<凍結工程>
凍結工程は、加水工程で水分が添加された炊飯米を複数の塊状物に分けてから、すなわちバラ状化してから、凍結する工程である。凍結工程を経て製造された凍結米飯、すなわち本発明の製造目的物は、この複数の塊状物が凍結してなる複数の凍結塊状物を含む、バラ状凍結米飯である。
凍結米飯を構成する凍結塊状物、あるいはその凍結前の状態である塊状物は、1粒以上の炊飯米の米粒からなるもので、典型的には、複数の炊飯米の飯粒どうしが互いに連結してなる不定形の飯粒の集合体である。
炊飯米を複数の塊状物に分ける、すなわちバラ状化する方法は特に制限されず、例えば、しゃもじなどの攪拌具を使って炊飯米をほぐして一様にバラ状化する方法が挙げられる。従来技術では、炊飯米の強い粘性などにより、このバラ状化が不完全になることがあったが、本発明では、凍結工程の前に実施される前述の2つの工程、すなわち炊飯工程の前に行われる蒸気処理工程と炊飯工程の後に行われる加水工程とにより、凍結前の炊飯米のバラ状化が容易になるため、解凍後の食感が良好な凍結米飯を安定的に製造し得る。
【0026】
本発明の製造目的物である凍結米飯を構成する凍結塊状物の大きさや形状は、解凍時の解凍ムラや加熱ムラの起こりやすさに少なからず影響する。本発明者らの知見によれば、この凍結塊状物が、「一辺の長さが3cmの仮想的な立方体(正六面体)の内部に、該立方体の内面と接触することなく収容可能なもの」であると、解凍時の解凍ムラや加熱ムラが抑制され、解凍後の食感が一層向上し得る。以下、前記立方体に収容可能な凍結塊状物を「特定凍結塊状物」とも言う。したがって、凍結工程において凍結前に炊飯米を複数の塊状物に分ける際には、該凍結工程を経て製造された凍結米飯に含まれる前記特定凍結塊状物の割合がなるべく多くなるようにすることが好ましい。
【0027】
具体的には、複数の凍結塊状物100質量部中に前記特定凍結塊状物が、好ましくは70質量部以上、より好ましくは90質量部以上、最も好ましくは100質量部となるように、炊飯米をその凍結前に複数の塊状物にわける(バラ状化する)ことが好ましい。換言すれば、凍結工程を経て製造された凍結米飯(バラ状凍結米飯)から任意に選択された凍結塊状物100質量部に占める、前記特定凍結塊状物の総質量の割合(以下、「特定凍結塊状物占有率」とも言う。)が、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量以上、最も好ましくは100質量%となるように、炊飯米をその凍結前にバラ状化することが好ましい。
【0028】
炊飯米の塊状物の凍結方法は特に制限されず、食品に対して通常行われる凍結方法を採用することができ、例えば、比較的短時間で凍結させる急速凍結でもよく、比較的ゆっくり凍結させる緩慢凍結でもよい。
【0029】
前述の各工程(蒸気処理工程、炊飯工程、加水工程、凍結工程)を経て製造された凍結米飯(複数の凍結塊状物からなるバラ状凍結米飯)は、その凍結状態が維持可能な雰囲気温度0℃以下の環境下で長時間保存が可能である。この凍結米飯は、自然解凍又は電子レンジ等の加熱調理器具を用いた加熱解凍により、喫食可能な状態となる。この凍結米飯は、米飯を用いる総菜事業をはじめとする種々の用途に使用でき、例えば、コンビニエンスストアやスーパーマーケットに陳列される、おにぎりやお弁当に用いることができる。
【0030】
本発明の製造方法によって製造される凍結米飯は、添加物、調味料、具材等の米以外の食材を含んでいてもよく、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。米以外の食材は、本発明の趣旨を逸脱しないことを条件として、本発明の製造方法における何れかの工程で添加することができる。
前記添加物としては、例えば、酵素(アミラーゼ、トランスグルタミナーゼ等)、油脂(サラダ油、大豆油、菜種油、コ-ン油、ごま油、バター等)、日持ち向上剤、品質改善剤などが挙げられる。
前記調味料としては、例えば、砂糖、甘味料、塩、胡椒、酢、醤油、味噌、だし、コンソメ、グルタミン酸ナトリウム、ケチャップ、カレ-粉、サフランなどが挙げられる。
前記具材としては、例えば、野菜、きのこ、こんにゃく、油揚げ、肉、魚介、海藻類、豆などが挙げられる。
【実施例0031】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は実施例により制限されるものではない。
【0032】
〔実施例1~4、参考例1~2〕
先ず、水分に浸漬させていない生米(形態:無洗米、種類:うるち米、品種:こしいぶき)を蒸気処理して処理米を得た(蒸気処理工程)。具体的には、生米300gをザルに計量し、蒸気庫(荒畑製作所社製、スチーマーボックスK-1DX)内に計量した生米を入れ、該蒸気庫内を温度90℃以上の飽和蒸気で充満させた状態で所定時間静置した。蒸気処理直後の処理米の質量を測定し、その測定値から、蒸気処理前の生米の質量を100質量部とした場合の該処理米の質量部(以下、「蒸気処理後の質量増加量」とも言う。)を算出した。
次に、処理米を炊飯して炊飯米を得た(炊飯工程)。具体的には、蒸気処理後速やかに、処理米を水温25℃の水道水を入れたボウルに浸漬し、該ボウルを槽内温度25℃の恒温槽に1時間静置した後(浸漬工程)、水切りし、炊飯器(パナソニック株式会社製、SR-HC103)を用いてその使用説明書に従って炊飯した。炊飯直後の炊飯米の質量を測定し、炊飯歩留まり(生米の質量に対する炊飯米の質量の割合)を算出した。
次に、炊飯米に水分を添加した(加水工程)。具体的には、炊飯器の上蓋を開けて炊飯米の入った内釜の上部開口が露出した状態で室温下にて放置することで、炊飯米全体の品温を30~40℃に冷却した後、内釜内の炊飯米から一部(200g)を取り出してザルに入れ、そのザル内の炊飯米の上方からスプレーで所定量の水を噴霧した。この一連の操作(炊飯米から一部を取り出して水噴霧)を繰り返すことで、炊飯米に所定量の水分を添加した。
次に、加水工程を経た炊飯米を複数の塊状物に分けてから凍結した(凍結工程)。すなわち、凍結前に炊飯米のバラ状化作業を行った。具体的には、炊飯米をしゃもじでほぐして適当な大きさの複数の塊状物にわけた後、それら複数の塊状物を庫内温度-40℃の冷凍庫に1時間以上静置することで凍結し、複数の凍結塊状物からなる凍結米飯を製造した。
【0033】
〔比較例1〕
蒸気処理工程及び加水工程の双方を実施しなかった以外は実施例1と同様にして、複数の凍結塊状物からなる凍結米飯を製造した。
〔比較例2~3〕
蒸気処理工程及び加水工程の何れか一方を実施しなかった以外は実施例1と同様にして、複数の凍結塊状物からなる凍結米飯を製造した。
〔比較例4~5〕
炊飯工程における浸漬工程の条件を適宜変更することで炊飯歩留まりを変更した以外は実施例1と同様にして、複数の凍結塊状物からなる凍結米飯を製造した。
【0034】
<評価試験>
各実施例、比較例及び参考例の凍結米飯について、前記特定凍結塊状物占有率(任意に選択された凍結塊状物100質量部に占める、特定凍結塊状物の総質量の割合)を算出し、下記の評価基準に従ってバラ状化の程度を評価した。
また、各実施例、比較例及び参考例の凍結米飯(凍結塊状物)100gを、電子レンジ(出力500W)で100秒間加熱して喫食可能な米飯とした上で、10名の専門パネラーにこの米飯を食してもらい、その際の食感を下記の評価基準に従って評価してもらった。結果を10名の評価点の平均値として下記表1に示す。
【0035】
<バラ状化の程度の評価基準>
5点:特定凍結塊状物占有率が90質量%以上。
4点:特定凍結塊状物占有率が70質量%以上90質量%未満。
3点:特定凍結塊状物占有率が50質量%以上70質量%未満。
2点:特定凍結塊状物占有率が30質量%以上50質量%未満。
1点:特定凍結塊状物占有率が30質量%未満。
<食感の評価基準>
5点:みずみずしく、粘りがあり、非常に良好。
4点:みずみずしく、良好。
3点:標準的。
2点:粘りが弱く、やや不良。
1点:パサつきを感じ、粘りが弱く、不良。
【0036】
【表1】
【0037】
表1に示すとおり、各実施例の凍結米飯は、前述の各工程(蒸気処理工程、炊飯工程、加水工程、凍結工程)を経て製造されているため、特定凍結塊状物占有率が70質量%以上であってバラ状化が実用上十分なレベルでなされており、且つ解凍後の食感が良好であった。
比較例1~3の凍結米飯は、蒸気処理工程及び/又は加水工程を経ずに製造されたため、比較例4~5の凍結米飯は、炊飯歩留まりが適切でないため、それぞれ、各実施例に比べて評価に劣る結果となった。
各実施例と各参考例との対比から、蒸気処理後の質量増加量(蒸気処理前の生米の質量を100質量部とした場合の処理米の質量部)は、下限が104質量部程度、上限が106質量部程度とすることが好ましく、蒸気処理工程はこれを満たすように行うことが好ましいことがわかる。