(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022024995
(43)【公開日】2022-02-09
(54)【発明の名称】ガラス部材
(51)【国際特許分類】
C03C 15/00 20060101AFI20220202BHJP
C03C 23/00 20060101ALI20220202BHJP
【FI】
C03C15/00 Z
C03C23/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021079730
(22)【出願日】2021-05-10
(31)【優先権主張番号】P 2020127495
(32)【優先日】2020-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】関 真悟
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 修
【テーマコード(参考)】
4G059
【Fターム(参考)】
4G059AA01
4G059AB01
4G059AC01
4G059BB14
(57)【要約】 (修正有)
【課題】視認性に優れた凹部を有するガラス部材を提供する。
【解決手段】ガラス部材は、凹部10を備えるガラス部材であって、断面視において、前記ガラス部材の主面1aと前記凹部の開口端面111とのなす角度が、90°~130°である。また、凹部は、円環状の溝又は円形状の窪みであり、凹部の外形の真円度が、外形寸法の5%以下である。凹部は、平面視において、直線形状、底面12に曲面を有する。凹部の底面の表面粗さRqが、前記凹部の側面11の表面粗さRqよりも小さい。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹部を備えるガラス部材であって、
断面視において、前記ガラス部材の主面と前記凹部の開口端面とのなす角度が、90°~130°であるガラス部材。
【請求項2】
断面視において、前記凹部の、前記開口端面よりも底面側の側面が、前記ガラス部材の主面に対して90°~130°の角度を有する請求項1に記載のガラス部材。
【請求項3】
前記凹部は、円環状の溝又は円形状の窪みである請求項1又は2に記載のガラス部材。
【請求項4】
平面視における、前記凹部の外形の真円度が、外形寸法の5%以下である請求項3に記載のガラス部材。
【請求項5】
前記凹部は、平面視において、直線形状を含む請求項1~4の何れか1項に記載のガラス部材。
【請求項6】
前記凹部は、底面に曲面を有する請求項1~5の何れか1項に記載のガラス部材。
【請求項7】
前記凹部の底面の表面粗さRqが、前記凹部の側面の表面粗さRqよりも小さい請求項1~6の何れか1項に記載のガラス部材。
【請求項8】
前記凹部の深さの前記ガラス部材の厚さに対する比が、0.05~0.5である請求項1~7の何れか1項に記載のガラス部材。
【請求項9】
前記ガラス部材は、平面視において、外形形状が互いに平行又は直交する位置関係にある直線部分を有しない請求項1~8の何れか1項に記載のガラス部材。
【請求項10】
前記ガラス部材は、平面視において、外形形状が直線部分を有しない請求項9のガラス部材。
【請求項11】
平面視において、前記凹部とは異なる位置に印刷層を備える請求項1~10の何れか1項に記載のガラス部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス部材に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス部材の製造工程上の管理を目的として、ガラス部材の表面にガラス部材等に関する種々の情報が取得可能な、文字、記号、図形等の組み合わせからなるマークを形成したガラス部材が知られている。
【0003】
このようなマークを有するガラス部材として、例えば、環状の溝で形成されたドットを構成単位とする情報表示部を表面に備える板ガラスが開示されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の板ガラスでは、マークは、ガラス部材の表面にレーザを照射してガラスを消失し、レーザの照射領域にドットを生じさせることで形成している。
【0004】
また、平板部と枠部とを備え、平板部と枠部とで囲まれた凹部をウェットエッチングで形成した光学用カバーガラスが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-210644号公報
【特許文献2】特開2011-37694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術のように、レーザ光をガラス部材の表面に照射してマークを加工する場合、ごく短時間に高エネルギー密度のレーザ光をガラス板に照射することでガラスを気化させてマークを形成している。そのため、レーザ加工部の非加工部との境界部分に多くの微小なクラックが形成され易く、マークの輪郭が不明瞭となる可能性がある。
【0007】
また、特許文献2に記載の技術のように、エッチングにより凹部を加工する場合、エッチング加工部と非加工部との境界部分の角度は緩やかとなるように形成され易く、マークの輪郭が不明瞭となる可能性がある。
【0008】
ガラス部材の表面に設けられるマークがガラス部材の位置決め用に使用される場合、マークの視認性の良否が位置決めの精度に影響する。例えば、カメラを用いた光学装置を用いてガラス部材の位置決めを行って、ガラス部材を加工する場合、マークの輪郭が不明瞭であると、ガラス部材の正確な位置決めができず、ガラス部材の加工や印刷層の形成を高精度にできない可能性がある。
【0009】
本発明の一態様は、視認性に優れた凹部を有するガラス部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るガラス部材の一態様は、凹部を備えるガラス部材であって、断面視において、前記ガラス部材の主面と前記凹部の開口端面とのなす角度が、90°~130°である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様は、視認性に優れた凹部を有するガラス部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係るガラス部材の平面図である。
【
図6】ガラス部材の製造方法を示すフローチャートである。
【
図7】例1-1のガラス部材の凹部を含む表面のSEM写真である。
【
図8】例1-1のガラス部材の凹部を含む断面のSEM写真である。
【
図10】例1-3のガラス部材の凹部を含む表面のSEM写真である。
【
図11】例1-3のガラス部材の凹部を含む断面のSEM写真である。
【
図13】例1-5のガラス部材の凹部を含む表面のSEM写真である。
【
図14】例1-5のガラス部材の凹部を含む断面のSEM写真である。
【
図15】例3-1のガラス部材の凹部を含む表面のSEM写真である。
【
図16】例3-2のガラス部材の凹部を含む表面のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の符号を付して、重複する説明は省略する。また、図面における各部材の縮尺は実際とは異なる場合がある。本明細書において数値範囲を示すチルダ「~」は、別段の断わりがない限り、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0014】
<ガラス部材>
本発明の実施形態に係るガラス部材について説明する。
図1は、本実施形態に係るガラス部材の平面図であり、
図2は、
図1のI-I断面図である。
図1及び
図2に示すように、本実施形態に係るガラス部材1は、その主面1aに、凹部10と、印刷層20とを有する板状部材であり、主面1aは平坦であり、凹部10をガラス部材1の位置決め用のマークとして用いるものである。なお、ガラス部材1は、湾曲して形成されていてもよい。
【0015】
ガラス部材1の平面視における外形形状は、特に限定されず、直線部分、曲線部分等を含むことができ、円形や楕円形状のような曲線部分のみからなってもよい。例えば、ガラス部材1は、平面視において、角C1~C4に丸みを有する略四角形状に形成されており、それぞれの角C1~C4の丸みは異なる曲率を有している。主面1aは、ガラス部材1における表面(上の面)となり、主面1aの反対側に位置する面がガラス部材1の裏面(下の面)となる。なお、角C1~C4の曲率は、いずれも同じでもよいし、4つの角C1~C4のうちの少なくとも1つが異なっていてもよい。また、丸みを有する角の数は、ガラス部材1の平面視において、3つ以上であればよい。
【0016】
本実施形態では、ガラス部材1は、凹部10をガラス部材1の位置決め用のマークとして用いることができるため、ガラス部材1の平面視において、外形形状が互いに平行又は直交する位置関係にある直線部分を有していなくてもよい。さらに、ガラス部材1は、平面視において、外形形状が直線部分を有していなくてもよい。すなわち、ガラス部材1は、平面視において、直交する2つの直線部分を有しないで構成することができる。
【0017】
ガラス部材1の端面は、主面1a及び裏面の端部に対して略垂直に形成されていてもよいし、傾斜して形成されていてもよい。
【0018】
ガラス部材1としては、例えば、ガラスウェハ(ガラス基板)、ガラスパネル、ガラスレンズ等が挙げられる。ガラス部材1の材質としては、ソーダライムシリカガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノシリケートガラス等を用いることができる。
【0019】
ガラス部材1は、物理強化、化学強化されていてもよい。化学強化する場合、ガラス部材1の表面に含まれる、例えば、LiイオンやNaイオン等のようなイオン半径が小さいイオンを、例えば、Kイオン等のように相対的にイオン半径が大きいイオンに置換する。これにより、ガラス部材1の表面から所定の深さに圧縮応力層を形成する。ガラス部材1を化学強化して、ガラス部材1の表面に圧縮応力層を形成することで、ガラス部材1の強度を向上させ、接触等によりガラス部材1が破損することを抑制することができる。
【0020】
図1に示すように、凹部10は、ガラス部材1の主面1aの異なる端面近傍に2つ形成されている。凹部10は、主面1aに、円環状の溝に形成されている。
図3は、
図1の凹部10の拡大図であり、
図4は、
図3のII-II断面図である。
図3に示すように、凹部10は、主面1aに、平面視において、円環状に形成され、
図4に示すように、凹部10は、断面視において、溝を形成している。
【0021】
なお、凹部10は、円形状の窪み、楕円形状に形成された溝、楕円形状の窪み等、平面視における凹部10とガラス部材1の主面1aとの輪郭が曲線形状であってもよい。また、多角形の溝、多角形の窪み、十字形状の溝等、平面視における凹部10とガラス部材1の主面1aとの輪郭が、直線形状であってもよい。さらに、凹部10は、平面視における凹部10とガラス部材1の主面1aとの輪郭が、曲面形状と直線形状とからなってもよい。
【0022】
凹部10は、前述した図形以外に、記号、文字列、バーコード、2次元コード等を構成してもよい。
【0023】
ガラス部材1の主面1aに形成される凹部10の個数は、1個でよいし、3個以上であってもよい。
【0024】
凹部10は、ガラス部材1の主面1aおよび主面1aの反対側の主面の両面に形成されてもよい。
【0025】
図5は、
図4の部分拡大図である。
図5に示すように、凹部10の側面11(壁面)は、開口端面111と、中間側面112と、底部側面113とを有している。
【0026】
開口端面111は、
図5に示すように、凹部10の深さH0(
図4参照)を100%とした際に、凹部10の深さH0(
図4参照)に対して凹部10の主面1aから垂直方向に5%の深さH1おける凹部10の側面11の位置(5%深さ凹部位置)11aと主面1aとの間の側面である。
【0027】
なお、凹部10の深さH0は、断面視において、ガラス部材1の主面1aから凹部10の底部のうちで最も深い部分までの距離、すなわち凹部10の底面12の最大深さとする。
【0028】
中間側面112は、
図4に示すように、凹部10の深さH0を100%とした際に、凹部10の深さH0に対して主面1aから垂直方向に5%深さ凹部位置11aと、凹部10の深さH0に対して主面1aから垂直方向に50%の深さH2における凹部10の側面11の位置(50%深さ凹部位置)11bとの間の側面である。
【0029】
底部側面113は、
図4に示すように、中間側面112と底面12との間の側面である。
【0030】
図5に示すように、凹部10の、断面視において、ガラス部材1の主面1a(ガラス部材主面)と凹部10の開口端面111とのなす角度αが、90°~130°である。角度αは、好ましくは92°~120°であり、より好ましくは95°~115°であり、更に好ましくは100°~110°である。角度αが90°~130°であれば、凹部10と主面1aとの境界が明確であり、凹部10の輪郭を明瞭にすることができる。また、角度αは適度な傾きであるため、凹部10の形成に要する費用を抑えることができる。
【0031】
なお、開口端面111の角度αとは、5%深さ凹部位置11aから主面1a側に凹部10の形状に沿って引いた直線と主面1aとのなす角度をいう。5%深さ凹部位置11aが曲線である場合は、開口端面111の角度αは、5%深さ凹部位置11aにおける接線と主面1aとのなす角度とする。
【0032】
開口端面111よりも底面12側の側面11のうち、中間側面112が、断面視において、ガラス部材1の主面1aに対して90°~130°の角度βを有することが好ましい。角度βは、より好ましくは92°~120°であり、さらに好ましくは95°~115°であり、最も好ましくは100°~110°である。角度βが90°~130°であれば、角度βは角度αに近い角度とすることができるため、凹部10の側面11の傾きの変化を抑えることができる。そのため、凹部10と主面1aとの境界が不明確となることを抑えることができる。
【0033】
なお、中間側面112の角度βとは、5%深さ凹部位置11aと50%深さ凹部位置11bとを結ぶ直線と主面1aとのなす角度をいう。
【0034】
また、凹部10は、平面視で、凹部10の外形の真円度が外形寸法の5%以下であることが好ましく、より好ましくは3%以下であり、さらに好ましくは1%以下である。凹部10の外形の真円度が外形寸法の5%以下であれば、凹部10の形状をより明確とし、凹部10の輪郭をより明瞭に確認することができる。
【0035】
なお、真円度は、JIS B0621-1984 幾何偏差の定義及び表示に基づいて求めることができる。
【0036】
凹部10は、
図4に示すように、底面12に曲面を有することが好ましい。凹部10は、底面12が曲面を有していれば、凹部10は容易に形成することができると共に、凹部10に角がないため、形状の崩れを生じ難くすることができる。また、ガラス部材1に曲げ応力等が作用した場合に、凹部10に起因する割れを抑制することができる。
【0037】
底面12の表面粗さRqは、凹部10の側面11の表面粗さRqよりも小さいことが好ましい。底面12の表面粗さRqが凹部10の側面11の表面粗さRqよりも小さければ、底面12が外部から確認し易くなるため、外部から凹部10を認識し易くすることができる。
【0038】
なお、表面粗さRqとは、JIS B 0601:2001に規定されている二乗平均平方根粗さRqである。この二乗平均平方根粗さRqは、表面粗さの標準偏差を意味する。表面粗さRqは、レーザ顕微鏡を用いて測定することができる。
【0039】
凹部10は、凹部10の深さH0のガラス部材1の厚さに対する比(凹部10の深さH0/ガラス部材1の厚さ)が下記式(1)を満たすことが好ましい。すなわち、凹部10の深さH0/ガラス部材1の厚さは、0.05~0.5であることが好ましく、より好ましくは0.10~0.4であり、さらに好ましくは0.15~0.25である。凹部10の深さ/ガラス部材1の厚さが0.05~0.5であれば、凹部10は、溝を形成するのに十分な深さを有することができるため、外部から認識することができる。また、凹部10の深さに対して、ガラス部材1の厚さを十分確保することができるため、ガラス部材1の強度を高く維持することができる。0.05<凹部10の深さH0/ガラス部材1の厚さ<0.5 ・・・(1)
【0040】
図1及び
図2に示すように、印刷層20は、平面視において、主面1aの上に、凹部10とは異なる位置に設けられている。印刷層20は、例えば、型式記号、製造番号、遮光層等である。凹部10があると、印刷層20の形成を行う際、位置決め用のアライメントマークとしての機能を有することができる。印刷層20は、黒インク等の有色のインク層で形成することができる。
【0041】
また、ガラス部材1は、その主面1aにAR膜、遮光層等を有していてもよい。
【0042】
(ガラス部材の製造方法)
本実施形態に係るガラス部材1の製造方法について説明する。
図6は、本実施形態に係るガラス部材1の製造方法を示すフローチャートである。
【0043】
図6に示すように、本実施形態に係るガラス部材の製造方法では、まず、ガラス素板を準備する(ガラス素板の準備工程:ステップS11)。
【0044】
ガラス素板を形成するガラス素材としては、例えば、ホウケイ酸ガラス、ソーダライムガラス、高シリカガラス等を用いることができる。ガラス素板の大きさ、厚さ、形状等は、完成品であるガラス部材1の用途等に応じて適宜選択される。
【0045】
ガラス素板は、フロート法、ダウンドロー法(例えば、オーバーフローダウンドロー法)、リドロー法、プレス成形法、引き上げ法等の公知の製造方法を用いて製造することができる。ガラス素板の製造方法としては、生産性及びコストに優れている点から、フロート法を用いることが好ましい。
【0046】
次に、ガラス素板を、複数のガラス基材に切断する(ガラス素板の切断工程:ステップS12)。
【0047】
ガラス素板の切断方法としては、例えば、ガラス素板の表面にレーザ光を照射してガラス素板の表面上で、レーザ光の照射領域を移動させることで切断する方法、カッターホイール等の機械的に切断する方法等を用いることができる。
【0048】
次いで、ガラス基材を、平面視において、前述したような形状に加工すると共に、ガラス基材の表面に凹部10を形成する(ガラス基材の外形の加工及び凹部の形成工程:ステップS13)。なお、ガラス基材の表面は、
図1及び
図2に示すガラス部材1の主面1aに相当し、以下、ガラス基材の表面を主面1aという。
【0049】
ガラス基材の外形の加工及び凹部10の形成は、同時に行っているが、別々に行ってもよい。別々に行う場合は、凹部10を形成し、次いで凹部10を基準として外形を加工する。このようにすることで、精度の高い外形加工を行うことができる。また、ガラス基材の外形の加工の前工程、後工程又は同時に、ガラス基材の板厚を適宜の厚さとなるように加工してもよい。ガラス基材の板厚の加工方法としては、研磨やスリミング(薬液を用いたケミカル研磨)等が挙げられる。
【0050】
ガラス基材の輪郭形状等外形の加工及び凹部10の形成は、レーザとウェットエッチングとを組み合せて用いることで行うことができる。
【0051】
レーザとしては、CO2レーザ、Nd:YAGレーザ等を使用することができ、半導体レーザ励起型YAGレーザが、集光性が良く好適である。レーザをガラス基材の主面1aに集光させることによって、ガラス基材の主面1a及びその下部に改質領域を形成することができる。なお、レーザを集光させる時には、フェムト秒レーザによって行うことが、レーザ集光部分周辺のガラス基材が熱的損傷及び化学的損傷を殆ど受けないため、好ましい。
【0052】
ウェットエッチングは、ガラス基材をエッチング液に浸漬することで行われる。エッチング液には、ガラス部材1を構成する材料により最適なものを用いることが好ましく、フッ化水素、フッ化アンモニウム、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム等のフッ化物を含有する水溶液;塩酸、硫酸、リン酸、硝酸等の無機酸を含有する水溶液;酢酸、コハク酸等の有機酸を含有する水溶液を好適に使用することができる。これらは、一種単独で用いてもよいし二種以上を併用してもよい。
【0053】
ガラス基材の外周表面と主面1aの特定の位置にレーザを照射して改質領域を形成した後、ガラス部材をエッチング液に浸漬してウェットエッチングを行う。エッチング液にガラス部材を浸漬すると、レーザを照射して形成した改質領域にはレーザが照射されていない非改質領域よりもエッチング液が浸透し易くなっており、改質領域は非改質領域よりもエッチングの進行を促進させることができる。よって、改質領域のエッチングレートは、未改質領域のエッチングレートよりも高いため、改質領域は未改質領域よりもエッチングを進行させることができる。
【0054】
これにより、改質領域に沿った任意の輪郭形状を形成し、平面視において、角に丸みを有する略四角形状であって、それぞれの角が異なる曲率を有するように加工されたガラス部材1が得られる。ガラス部材1の主面1aの特定の位置に、改質領域に沿った、円環状の凹部10を形成することができる。
【0055】
次いで、ガラス部材1の主面1a及び裏面を化学強化する(化学強化工程:ステップS14)。
【0056】
ガラス部材1を化学強化することで、ガラス部材1の主面1a及び裏面に含まれる、例えば、LiイオンやNaイオン等のようなイオン半径が小さいイオンを、例えば、Kイオン等のように相対的にイオン半径が大きいイオンに置換する。これにより、ガラス部材1の主面1a及び裏面から所定の深さの強化層を形成する。ガラス部材1を化学強化して、ガラス部材1の主面1a及び裏面に強化層を形成することで、ガラス部材1の強度を向上させ、接触等によりガラス部材1が破損することを抑制することができる。
【0057】
次いで、ガラス部材1の主面1aの端面近傍に印刷層20を形成する(印刷層の形成工程:ステップS15)。
【0058】
印刷層20は、スプレー印刷、インクジェット印刷、スクリーン印刷等の印刷方法を用いて形成することができる。中でも、スクリーン印刷は、印刷層20の平均厚さを均一としつつ、印刷層20を所望の形状に形成し易いため、好ましく用いることができる。
【0059】
これにより、主面1aに印刷層20を有するガラス部材1が得られる。
【0060】
なお、必要に応じて、ガラス部材1の主面1a及び/又は裏面にAR膜や遮光層を成膜(形成)して反射防止処理を施してもよい。
【0061】
このように、ガラス部材1は、主面1aに凹部10を備え、凹部10を、断面視で、ガラス部材1の主面1aと開口端面111とのなす角度αが90°~130°となるように形成している。これにより、ガラス部材1は、凹部10と主面1aとの境界を明確にし、凹部10の輪郭を明瞭にすることができるので、凹部10を外部から認識し易くすることができる。よって、ガラス部材1は、視認性に優れた凹部10を有することができる。
【0062】
また、ガラス部材1は、主面1aと開口端面111とのなす角度αを90°~130°とすることで、角度αは適度な傾きを有しており、凹部10を形成するための負担を軽減することができるため、凹部10の形成に要する費用を抑えることができる。
【0063】
さらに、ガラス部材1は、その輪郭形状の加工と同時に凹部10を形成することができるため、加工の工程を増やすことなく凹部10を形成することができる。そのため、ガラス部材1は、費用を低減しつつ製造することができる。
【0064】
ガラス部材1は、凹部10の断面視において、開口端面111よりも底面12側の側面、中間側面112が、底面12ガラス部材1の主面1aに対して90°~130°の角度βを有することができる。これにより、開口端面111から底面12側にかけて凹部10の側面11の傾きの変化を抑えることができ、凹部10と主面1aとの境界が不明確となるのを抑えられることができるため、凹部10の輪郭をより明瞭にすることができる。よって、ガラス部材1は、凹部10をより認識し易くすることができるので、凹部10の視認性をより向上させることができる。
【0065】
ガラス部材1は、凹部10を、円環状の溝に形成することができる。これにより、凹部10は主面1aに容易に形成することができる。また、凹部10が円環状に形成されることで、全方位で略均等に同一形状で認識することができるため、凹部10の視認性を高めることができる。
【0066】
ガラス部材1は、平面視における、凹部10の外形の真円度を外形寸法の5%以下とすることができる。これにより、凹部10の外形をより明確に把握することができるため、凹部10をより確認し易くすることができるため、凹部10の視認性をより高めることができる。
【0067】
ガラス部材1は、凹部10に、平面視において、直線形状を含むことができる。凹部10が直線形状を含むように形成されることで、凹部10は主面1aに容易に形成できる。また、凹部10の外形がより明確に把握し易くなるため、凹部10の視認性をより高めることができる。さらに、底面12の形状は崩れ難く、凹部10の形状を安定して維持できるため、凹部10の視認性の低下が抑えられる。
【0068】
ガラス部材1は、凹部10の底面12に曲面を有することができる。これにより、底面12は湾曲して形成することができるため、凹部10が側面11と底面12との間に角(カド)を有している場合等よりも、底面12の形状は崩れ難く、凹部10の形状を安定して維持することができる。よって、ガラス部材1は、凹部10の視認性が低下することを抑えることができる。
【0069】
ガラス部材1は、凹部10の底面12の表面粗さRqを凹部10の側面11の表面粗さRqよりも小さくすることができる。これにより、底面12を外部から確認し易くすることができるので、凹部10がより認識し易くなり、凹部10の視認性をより高めることができる。
【0070】
ガラス部材1は、凹部10の深さ/ガラス部材1の厚さを0.05~0.5とすることができる。これにより、凹部10はガラス部材1の厚さに対して所定の深さを有しつつ、ガラス部材1の強度低下を抑えることができる。そのため、ガラス部材1は、凹部10を外部から認識し易くすることができると共に、ガラス部材1の強度を維持することができる。
【0071】
ガラス部材1は、平面視において、その外形形状が互いに平行又は直交する位置関係にある直線部分を有しないように形成することができる。これにより、ガラス部材1は、外形形状が位置基準として用い難い形状である場合でも、凹部10を目印として用いることで、ガラス部材1の位置を正確に把握することができるので、ガラス部材1の位置決めを高精度に行うことができる。
【0072】
ガラス部材1は、平面視において、外形形状が直線部分を有しないように形成することもできる。これにより、ガラス部材1は、平面視において円形等のように、外形形状が位置基準としてより取り難い形状である場合でも、凹部10を目印として用いることで、ガラス部材1の位置を正確に把握することができるので、ガラス部材1の位置決めを高精度に行うことができる。
【0073】
ガラス部材1は、平面視において、凹部10と相違する位置に印刷層20を備えることができる。ガラス部材1は、凹部10を、印刷層20の形成を行う際等の位置決め用のアライメントマークとして機能させることができるので、主面1aに形成される印刷層20等の位置精度を高めることができる。
【0074】
このように、ガラス部材1は、視認性に優れた凹部10を備えることで、ガラス部材1が異形状ガラスで形成されている場合でもガラス部材1の位置決めを容易かつ正確に行うことができる。そのため、ガラス部材1は、カバーガラス、撮像装置の保護ガラス等のように、平面視において直線部分が有し難く、表面に曲面を含みやすいガラス物品に好適に用いることができる。
【0075】
なお、本実施形態においては、ガラス部材1は、端面に位置合わせ部や、外周の一部を切り欠いたオリフラ部等を有していてもよい。
【実施例0076】
以下、例を示して実施形態を更に具体的に説明するが、実施形態はこれらの例により限定されるものではない。例1-1~例1-4、例2-1~例2-12、例3-1及び例3-2は実施例であり、例1-5は比較例である。
【0077】
<例1-1>
[ガラス部材の作製]
ガラス部材として、外形寸法100mm×100mm、厚さ400μmのソーダライムガラス(AS2ガラス、AGC社製)を準備して、その表面にレーザを円環状に照射して改質領域を形成した。その後、ガラス部材をエッチング液に浸漬して、ガラス部材の表面をエッチング処理することで、ガラス部材の表面に円環状の凹部を形成した。
【0078】
[凹部の評価]
ガラス部材の凹部を含む表面をSEMで観察した。ガラス部材の凹部を含む表面を
図7に示す。その後、凹部が形成されたガラス部材を樹脂に包埋した。そして、ガラス部材の側面を研磨して凹部の断面を露出させ、凹部の断面をSEMで観察した。ガラス部材の凹部を含む断面を
図8に示し、
図8の部分拡大図を
図9に示す。
図7~
図9に示すように、凹部は、円環状の溝に形成され、凹部とガラス部材の表面との輪郭を明瞭に認識でき、凹部の視認性が高いことが確認された。また、凹部の底面は曲面を有しているのが確認された。凹部の視認性の結果を表1に示す。なお、表1では、凹部の視認性は、以下の評価基準に基づいて示す。
(評価基準)
○:凹部とガラス部材の表面との輪郭が明瞭に認識でき、凹部の視認性が高い。
×:凹部とガラス部材の表面との輪郭が不明瞭であり、凹部の視認性が低い。
【0079】
図9に示す凹部の断面図から、凹部の開口径及び深さを測定し、開口端面の角度と、中間側面の角度と、底面の曲率半径と、凹部の深さ/ガラス厚さとを算出した。なお、開口端面の角度と中間側面の角度凹部との、左側は凹部の断面におけるガラス部材の内側の側面であり、右側は凹部の断面におけるガラス部材の外側の側面である。凹部の、開口径、深さ、開口端面の角度、中間側面の角度及び底面の曲率半径と、凹部の深さ/ガラス厚さとの測定結果を表1に示す。
【0080】
なお、開口端面の角度は、凹部の深さを100%とし、凹部の深さに対して主面から垂直方向に5%の深さにおける凹部の側面の位置(5%深さ凹部位置)からガラス部材の表面側に凹部の形状に沿って引いた直線とガラス部材の表面とがなす角度である。中間側面の角度は、5%深さ凹部位置と、凹部の深さに対して主面から垂直方向に50%の深さの凹部の側面の位置(50%深さ凹部位置)とを結ぶ直線とガラス部材の表面とのなす角度をいう。
【0081】
また、凹部の表面粗さRqをレーザ顕微鏡(形状測定レーザーマイクロスコープVK-100、キーエンス社製)を用いて測定した。凹部の開口の中心に位置する底部とその周辺の湾曲した面の領域を底面とした。凹部の断面におけるガラス部材の内側の側面を左側側面とし、凹部の断面におけるガラス部材の外側の側面を右側側面とした。凹部の、底面、左側側面及び右側側面の表面粗さRqの測定結果を表1に示す。
【0082】
<例1-2>
例1-1において、開口径が110μm、深さが69μmとなるように凹部を形成したこと以外は、例1-1と同様にして行った。凹部は、例1-1と同様、円環状の溝に形成され、凹部とガラス部材の表面との輪郭を明瞭に認識でき、凹部の視認性が高いことが確認された。また、凹部の底面は曲面を有しているのが確認された。ガラス部材に形成した凹部の、開口径、深さ、開口端面の角度、中間側面の角度及び底面の曲率半径と、凹部の深さ/ガラス厚さとを測定した結果と、視認性の評価結果とを表1に示す。
【0083】
<例1-3>
例1-1において、開口径が112μm、深さが93μmとなるように凹部を形成したこと以外は、例1-1と同様にして行った。ガラス部材の凹部を含む表面を
図10に示し、ガラス部材の凹部を含む断面を
図11に示し、
図11の部分拡大図を
図12に示す。
図10~
図12に示すように、凹部は、例1-1と同様、円環状の溝に形成され、凹部とガラス部材の表面との輪郭を明瞭に認識でき、凹部の視認性が高いことが確認された。また、凹部の底面は曲面を有していることが確認された。ガラス部材に形成した凹部の、開口径、深さ、開口端面の角度、中間側面の角度及び底面の曲率半径と、凹部の深さ/ガラス厚さと、表面粗さRqとを測定した結果と、視認性の評価結果とを表1に示す。
【0084】
<例1-4>
例1-1において、開口径が112μm、深さが94μmとなるように凹部を形成したこと以外は、例1-1と同様にして行った。凹部は、例1-1と同様、円環状の溝に形成され、凹部とガラス部材の表面との輪郭を明瞭に認識でき、凹部の視認性が高いことが確認された。また、凹部の底面は曲面を有していることが確認された。ガラス部材に形成した凹部の、開口径、深さ、開口端面の角度、中間側面の角度及び底面の曲率半径と、凹部の深さ/ガラス厚さとを測定した結果と、視認性の評価結果とを表1に示す。
【0085】
<例1-5>
ガラス部材として、外形寸法100mm×100mm、厚さ1.0mmホウケイ酸ガラス(FP-1ガラス、AGCテクノグラス社製)の表面にレジストを形成してマスキングした後、ドライエッチングして、ガラス部材に矩形状の凹部(6mm×5mm、深さ400μm)を形成した。ガラス部材の凹部を含む表面を
図13に、ガラス部材の凹部を含む断面を
図14に示す。
図13及び
図14に示すように、凹部は、ガラス部材の主面から凹部の底面にかけて緩やかな側面を形成し、凹部とガラス部材の表面との輪郭は不明瞭であり、凹部の視認性が低いことが確認された。ガラス部材に形成した凹部の、深さ、開口端面の角度及び中間側面の角度と、凹部の深さ/ガラス厚さとを測定した結果と、視認性の評価結果とを表1に示す。
【0086】
【0087】
表1に示すように、例1-1~例1-4は、凹部を明瞭に確認することができたが、例1-5では、凹部が不明瞭であった。よって、例1-1~1-4は、例1-5と異なり、開口端面の角度を124°以下とすることで、凹部とガラス部材の表面との輪郭を明瞭に認識でき、凹部は優れた視認性を有することができるので、凹部は位置決めのマークとして有効に用いることができるといえる。
【0088】
<例2-1~例2-12>
例1-1と同様にしてガラス部材を作製した。なお、例2-1~例2-12のガラス部材は、開口端面の角度(左側、右側の平均)が104°~125°の範囲内、中間側面の角度(左側、右側の平均)が102°~115°の範囲内であった。作製したガラス部材を、CNC画像測定システム(NEXIV、株式会社ニコンインステック社製)を用いて、凹部の外形寸法及び凹部外形の真円度を測定し、外形寸法に対する真円度の割合を算出した。ガラス部材に形成した凹部の外形寸法、凹部外形の真円度及び外形寸法に対する真円度の割合を算出した結果とを表2に示す。
【0089】
また、凹部の表面及び断面を例1-1と同様にして観察した結果、凹部は、例1-1と同様、円環状の溝に形成され、凹部とガラス部材の表面との輪郭を明瞭に認識でき、凹部の視認性が高いことが確認された。また、凹部の底面は曲面を有しているのが確認された。視認性の評価結果を表2に示す。
【0090】
【0091】
表2に示すように、例2-1~2-12は、いずれも、凹部を明瞭に確認することができた。よって、例2-1~2-12は、外形寸法に対する真円度の割合を約0.40以下とすることで、凹部とガラス部材の表面との輪郭を明瞭に認識でき、凹部は優れた視認性を有することができるので、位置決めのマークとして有効に用いることができるといえる。
【0092】
<例3-1及び例3-2>
例1-1と同様にしてガラス部材を作製した。例3-1のガラス部材の凹部を含む表面を
図15に、例3-2のガラス部材の凹部を含む表面を
図16に示す。
図15に示すように、例3-1のガラス部材は、円環状の溝と直線からなる記号が形成されていることが確認された。また、
図16に示すように、例3-2のガラス部材は、円形状の窪みを複数配置したマトリックス型の2次元コードが形成されていることが確認された。
【0093】
よって、例3-1及び例3-2は、凹部とガラス部材の主面との輪郭を明瞭に認識でき、凹部は優れた視認性を有することができるので、識別記号として有効に用いることができるといえる。
【0094】
以上の通り、実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の組み合わせ、省略、置き換え、変更等を行うことが可能である。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。