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特開2022-25844生存細菌の検出方法及びそのためのキット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022025844
(43)【公開日】2022-02-10
(54)【発明の名称】生存細菌の検出方法及びそのためのキット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6813 20180101AFI20220203BHJP
   C12N 15/10 20060101ALI20220203BHJP
   C12Q 1/6844 20180101ALI20220203BHJP
   C12Q 1/6841 20180101ALI20220203BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
C12Q1/6813 Z
C12N15/10 110Z
C12Q1/6844 Z ZNA
C12Q1/6841 Z
C12M1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020128968
(22)【出願日】2020-07-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和1年8月9日にbioRχivウェブサイトにて発表 令和2年6月15日にScientific Reports 第10巻、第9588号にて発表
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(72)【発明者】
【氏名】岡村 好子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宏和
(72)【発明者】
【氏名】堀尾 京平
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB02
4B029CC01
4B029FA03
4B029FA15
4B063QA01
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ06
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR56
4B063QR62
4B063QS11
4B063QS24
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】試料中の生存細菌を回収し損なうことなく、試料中における生存細菌を高精度且つ高感度で検出できるようにする。
【解決手段】本発明は、試料中の生存細菌を検出する方法であって、前記試料に対して限外ろ過膜を用いたろ過を行うことによって、前記試料中の前記生存細菌を濃縮する濃縮ステップと、前記限外ろ過膜によりトラップされた生存細菌が有する標的RNAと、該標的RNAと相補的な核酸配列を有するパドロック型DNAプローブとを前記細菌の菌体内でハイブリダイズし、前記標的RNAをプライマーとし、前記DNAプローブを鋳型として、RHa-RCA法により前記菌体内で一本鎖DNAの増幅を行う増幅ステップと、前記増幅ステップにより増幅された一本鎖DNAに標識プローブを前記菌体内でハイブリダイズする標識ステップと、前記標識ステップにより標識された一本鎖DNAを検出する検出ステップとを備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の生存細菌を検出する方法であって、
前記試料に対して限外ろ過膜を用いたろ過を行うことによって、前記試料中の前記生存細菌を濃縮する濃縮ステップと、
前記限外ろ過膜によりトラップされた生存細菌が有する標的RNAと、該標的RNAと相補的な核酸配列を有するパドロック型DNAプローブとを前記細菌の菌体内でハイブリダイズし、前記標的RNAをプライマーとし、前記DNAプローブを鋳型として、RNase H assisted rolling circle amplification(RHa-RCA)法により前記菌体内で一本鎖DNAの増幅を行う増幅ステップと、
前記増幅ステップにより増幅された一本鎖DNAに標識プローブを前記菌体内でハイブリダイズする標識ステップと、
前記標識ステップにより標識された一本鎖DNAを検出する検出ステップとを備えていることを特徴とする生存細菌の検出方法。
【請求項2】
前記増幅ステップの前に、前記限外ろ過膜によりトラップされた生存細菌に対して細胞透過処理を行うことを特徴とする請求項1に記載の生存細菌の検出方法。
【請求項3】
前記標識プローブは、蛍光標識試薬、ビオチン又は酵素により標識されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の生存細菌の検出方法。
【請求項4】
前記標識プローブは蛍光プローブであり、蛍光in situハイブリダイゼーション法により前記一本鎖DNAを検出することを特徴とする請求項3に記載の生存細菌の検出方法。
【請求項5】
前記限外ろ過膜は、100kDa以上の分子量の物質をトラップする限外ろ過膜であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の生存細菌の検出方法。
【請求項6】
前記増幅ステップ、前記標識ステップ及び前記検出ステップは、いずれも前記限外ろ過膜上で行うことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の生存細菌の検出方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の生存細菌の検出方法を行うためのキットであって、
前記限外ろ過膜と、
前記標的RNAと相補的な核酸配列を有するパドロック型DNAプローブと、
前記RHa-RCA法を行うための酵素と、
前記一本鎖DNAを標識するための標識プローブとを備えていることを特徴とするキット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生存細菌の検出方法及びそのためのキットに関し、特にローリングサークル増幅法を利用した生存細菌の検出方法及びそのためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
細胞培養に関連する製品や食品等は、日本薬局方やその業界において指定された手法によってコンタミネートしている細菌の存否が試験され、細菌の生存数が基準値以下であれば、出荷が認められる。その方法の1つが専用培地を使用したコロニー形成法であるが、コロニー形成に数日を要し、結核菌に至っては1ヶ月を要する。このため、即日で判定できるポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)やループ介在等温増幅法(LAMP)等の遺伝子増幅法が提案されているが、これらの方法は細菌に係るDNAを検出するため、死菌由来のDNAからもシグナルが発生してしまう。よって、生死を明確に区別できる即日判定法が求められている。
【0003】
細菌の生死判別には、RNAを検出する方法が知られている。RNAは分解しやすい分子で、死菌体内又は壊れた細胞から放出されたRNA分子は速やかに分解されるため、生死判別のマーカーになっている。一方、RNAはPCRやLAMPの直接の鋳型として利用できない。そのため逆転写反応(reverse transcription,RT)を経由することによりcDNAに変換することが必須となる。上述の食品業界では、近年ノロウイルスについて唯一RT-PCRが公定法として認められたが、その理由は、これまでの所ノロウイルスの培養法が確立されておらず、また自然界においてノロウイルスの塩基配列はDNAとして存在しないためである。しかしながら、微生物のRNA配列は基本的にDNA配列と同じであり、RNA溶液から完全にDNAを取り除くことが非常に困難なため、RT-PCR等の遺伝子検査は公定法としては認められていない。唯一、「公衆浴場における浴槽水等のレジオネラ属菌検査方法について」(薬生衛発0919第1号)により、viability PCR(vPCR)が定量PCRとの組み合わせによって、近年に認められた。vPCR法は、DNA抽出前に薬剤により死菌由来DNAを増幅の鋳型として使用できないようにしてから反応を行うが、一部生菌のDNAも阻害してしまうことを考慮に入れながらの使用が認められている。しかしながら、上記の通り一部生菌のDNAも阻害してしまうことで生菌を検出できない可能性が残るため、より高い厳格性が求められる医療製品等の検査には好ましくない手法である。
【0004】
以上のような問題がある中で、以前に本発明者らは、RNase HによるRNA/DNAハイブリッド分子を認識する原理に基づいたRNase H assisted rolling circle amplification(RHa-RCA)でRNAのみを直接検出することができる「RNA検出方法」を発明した(特許文献1及び非特許文献1を参照)。具体的に、この方法は、標的RNAに相補的なパドロック型のDNAプローブを用いて、当該プローブを標的RNAにハイブリダイズさせ、DNAリガーゼを用いて当該プローブを環状化した後にRNaseHを用いて標的RNAにニックを形成し、ニックが形成された標的RNAをプライマーとし、環状化されたDNAプローブを鋳型としてローリングサークル型DNA増幅法により一本鎖DNAの増幅を行うものであり、当該増幅によって標的RNAの有無を検出するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-183065号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Scientific Reports, 8, 7770.(2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記方法は、直接にRNAを検出する方法であるため、この方法を細菌の菌体内で、すなわちin-situで行うことは、試料中の細菌の検出方法に応用するのは好適であると考えられる。しかしながら、試料中に存在する細菌数が微小である場合であっても確実に検出できるかは不明であり、偽陰性の結果が得られるおそれもある。また、そのような場合に、試料に対して遠心分離処理を行って細菌を濃縮する方法が考えられるが、遠心回収を利用したとしても、試料中の全ての生存細菌を必ずしも回収できるわけではなく、試料中の本来の生存細菌数を評価できない問題もある。
【0008】
本発明は、前記問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、所定の製品(試料)中の生存細菌を回収し損なうことなく、試料中における生存細菌を高精度且つ高感度で検出できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するために、本発明に係る生存細菌の検出方法では、試料に対して限外ろ過処理をした後に、RHa-RCA法を利用して、試料中の生存細菌を高精度且つ高感度で検出できるようにした。
【0010】
具体的に、本発明に係る生存細菌の検出方法は、前記試料に対して限外ろ過膜を用いたろ過を行うことによって、前記試料中の前記生存細菌を濃縮する濃縮ステップと、前記限外ろ過膜によりトラップされた生存細菌が有する標的RNAと、該標的RNAと相補的な核酸配列を有するパドロック型DNAプローブとを前記細菌の菌体内でハイブリダイズし、前記標的RNAをプライマーとし、前記DNAプローブを鋳型として、RNase H assisted rolling circle amplification(RHa-RCA)法により前記菌体内で一本鎖DNAの増幅を行う増幅ステップと、前記増幅ステップにより増幅された一本鎖DNAに標識プローブを前記菌体内でハイブリダイズする標識ステップと、前記標識ステップにより標識された一本鎖DNAを検出する検出ステップとを備えていることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る生存細菌の検出方法によると、RHa-RCA法を試料中における細菌の菌体内で行うことにより、生存細菌が有する標的RNAを鋳型として一本鎖DNAが増幅されるか否かによって、試料中の細菌の有無を判別できる。すなわち、菌体内のRNAを直接に標的として検出するため、高精度で試料中の細菌の有無を判別することができる。さらに、本発明では、RHa-RCA法を行う前に、試料に対して限外ろ過膜を用いて試料中の生存細菌を濃縮するため、試料中の生存細菌を回収し損なうことなく、試料中の生存細菌の検出を高感度で行うことができる。
【0012】
本発明に係る生存細菌の検出方法において、前記増幅ステップの前に、前記限外ろ過膜によりトラップされた生存細菌に対して細胞透過処理を行うことが好ましい。
【0013】
このようにすると、増幅ステップ以降のステップを菌体内で効率的に行うことができる。
【0014】
本発明に係る生存細菌の検出方法において、前記標識プローブは、蛍光標識試薬、ビオチン又は酵素により標識され得る。
【0015】
本発明に係る生存細菌の検出方法において、前記標識プローブは蛍光プローブであり、蛍光in situハイブリダイゼーション(Fish)法により前記一本鎖DNAを検出することが好ましい。
【0016】
このようにすると、細菌中で増幅された一本鎖DNAを容易に検出することができる。
【0017】
本発明に係る生存細菌の検出方法において、前記限外ろ過膜は、100kDa以上の分子量の物質をトラップする限外ろ過膜であることが好ましい。
【0018】
このようにすると、試料中の細菌のみを効率よく濃縮できると共に、濃縮ステップ以後のステップを限外ろ過膜上で行う場合、RHa-RCAにより増幅された一本鎖DNAは、100kDaを遥かに超える分子量を有するため、膜上にトラップされて残る一方で、未反応のDNAプローブや標識プローブは、100kDa未満であるため限外ろ過膜を通過して膜上に残存しない。従って、検出ステップにおいて望まれないバックグラウンドを抑制することができて、より高感度で標識された所望の一本鎖DNAを検出することができる。
【0019】
本発明に係る生存細菌の検出方法において、前記増幅ステップ、前記標識ステップ及び前記検出ステップは、いずれも前記限外ろ過膜上で行うことが好ましい。
【0020】
このようにすると、試料の限外ろ過処理の後のステップを全て限外ろ過膜上で行うことができるため、各ステップの操作を簡便にすることができ、上述のように検出ステップにおいて望まれないバックグラウンドを抑制することができて、より高感度で標識された所望の一本鎖DNAを検出することができる。
【0021】
上記本発明に係る生存細菌の検出方法を行うためのキットは、前記限外ろ過膜と、前記標的RNAと相補的な核酸配列を有するパドロック型DNAプローブと、前記RHa-RCA法を行うための酵素と、前記一本鎖DNAを標識するための標識プローブとを備えていることを特徴とする。
【0022】
本発明に係るキットによると、上記本発明に係る生存細菌の検出方法を簡便に行うことができて、上述のように試料中の生存細菌の有無を高精度且つ高感度で検出することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る生存細菌の検出方法及びそのためのキットによると、試料中の生存細菌を回収し損なうことなく、試料中の生存細菌の有無を高精度且つ高感度で検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態に係る生存細菌の検出方法を説明するための概略図である。
図2】本発明の一実施形態におけるRHa-RCA法を説明するための概略図である。
図3】実施例に係る生存細菌の検出方法における検出ステップの結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用方法或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0026】
本発明に係る一実施形態は、生存細菌の検出方法であり、当該方法は、図1に示すように、試料に対して限外ろ過膜を用いたろ過を行うことによって、試料中の生存細菌を濃縮する濃縮ステップと、限外ろ過膜によりトラップされた生存細菌が有する標的RNAと、該標的RNAと相補的な核酸配列を有するパドロック型DNAプローブとを細菌の菌体内でハイブリダイズし、前記標的RNAをプライマーとし、前記DNAプローブを鋳型として、RHa-RCA法により菌体内で一本鎖DNAの増幅を行う増幅ステップと、増幅ステップにより増幅された一本鎖DNAに標識プローブを菌体内でハイブリダイズする標識ステップと、標識ステップにより標識された一本鎖DNAを検出する検出ステップとを備えている。
【0027】
本実施形態において、試料とは、生存細菌が存在するか否かを評価する対象であり、例えば図1に示すような細胞培養培地等の細胞培養に関する製品や食品等である。
【0028】
本実施形態において、生存細菌とは、生存している細菌であり、その種は特に限定されず、例えば大腸菌(E.coli)等のグラム陰性菌やブレビバチルス菌(Brevibacillus)等のグラム陽性菌であってもよい。
【0029】
本実施形態において、限外ろ過とは、対象を限外ろ過膜に通してろ過する処理であり、本実施形態において用いられる限外ろ過膜は、細菌をトラップできる構成の膜であれば特に限定されないが、公称分画分子量(NMWL)が100kDa程度であることが好ましい。このような限外ろ過膜としては、以下のものに限定されないが、例えばカップ型の限外ろ過膜や96ウェルフォーマットの限外ろ過膜等が好適に用いられ、具体的に例えばアミコンウルトラ0.5mL遠心式フィルター(メルク)等を用いることができる。このような限外ろ過膜を採用することで、細菌や後のステップで増幅される一本鎖DNA等をトラップする一方で、後のステップで用いられるプローブのうち未反応のプローブを通過させることができる。そうすると、限外ろ過膜上で、後の増幅ステップ、標識ステップ及び検出ステップを行うことができ、上記の通り増幅された一本鎖DNAを膜上にトラップできる一方で、未反応プローブを通過させることができるため、膜上で一本鎖DNAを検出する際のバックグラウンドを低減することができる。
【0030】
本実施形態において、RHa-RCA法とは、RNaseHを利用したローリングサークル型DNA増幅法であり、その詳細は、上記特許文献1に記載の通りである。具体的に、RHa-RCA法は、図2に示すように、標的RNA101と、標的RNA101の内部配列に相補的なパドロック型のDNAプローブ102とをハイブリダイズするハイブリダイズ工程S1と、標的RNA101とハイブリダイズされたDNAプローブ102をDNA結合酵素(DNAリガーゼ)103により環状化する環状化工程S2と、DNAプローブ102を環状化した後、ハイブリダイズされている標的RNA101に、リボヌクレアーゼH(RNaseH)104を用いてニックを形成するニック形成工程S3と、ニックが形成された標的RNAをプライマー101Aとし、環状化されたDNAプローブ102を鋳型として、DNA合成酵素(DNAポリメラーゼ)105を用いたローリングサークル型DNA増幅法により一本鎖DNA106の増幅を行う増幅工程S4とを備えている。
【0031】
パドロック型のDNAプローブは、例えばDNA合成機によって合成されたオリゴヌクレオチドを使用することができる。DNAプローブは、標的RNAの内部配列に相補的な配列を有し、標的RNAとハイブリダイズ可能であれば、どのようなものを用いることもできる。本実施形態において、標的RNAの内部配列とは、標的RNAの3’末端を含まない配列である。DNAプローブの配列は、全体が標的RNAと相補性を有していても、一部のみが標的RNAと相補性を有していてもよい。DNAプローブの大きさは、特に限定されないが、好ましくは30bp~20kb程度であり、より好ましくは50bp~2000bp程度である。なお、パドロック型のDNAプローブと、標的RNAとのハイブリダイズは、標的RNA及びプローブDNAの組み合わせを考慮して、適宜最適な条件を設定すればよい。
【0032】
標的RNAとハイブリダイズされたDNAプローブ(RNA-splinted padlock probe)の環状化は、DNA結合酵素(DNAリガーゼ)を用いて行うことができる。具体的には、T4 DNA ligase又はSplintR ligaseを用いて行うことができる。
【0033】
DNAプローブを環状化した後、標的RNAにおけるハイブリダイズしている部分に、RNaseHを用いてニックを形成する。これにより、標的RNAにおけるDNAプローブとハイブリダイズしている部分に3’末端が形成される。ハイブリダイズしている標的RNAにニックを形成する観点から、RNaseHの濃度は好ましくは0.003ユニット(U)以上、より好ましくは0.03U以上とする、ハイブリダイズした標的RNAの
完全な分解が生じないようにする観点から、好ましくは3U以下、より好ましくは0.3U以下とする。
【0034】
ニック部分(3’末端)からローリングサークル型DNA増幅法により一本鎖DNAの増幅(伸長)を行う。ローリングサークル型DNA増幅法は、ハイブリダイズした後にニックを形成した標的RNAをプライマーとし、環状化されたDNAプローブを鋳型として一本鎖DNAの伸長を行う。一本鎖DNAの伸長において、DNAの鎖置換(strand displacement)活性を有する鎖置換型DNA合成酵素を用いることが好ましい。「鎖置換活性」とは、DNAを複製していく過程において伸長方向に二本鎖のDNAが既に形成されている場合、相補鎖を5’側から引き剥がして鋳型を一本鎖にしながら、一本鎖となった鋳型に対して新たな相補鎖を合成してゆく活性を意味する。鎖置換型DNA合成酵素を用いることにより、鋳型である環状化されたDNAプローブの相補鎖が直列に繰り返し連結された高分子量の一本鎖DNAが得られる。
【0035】
鎖置換型DNA合成酵素は、特に限定されないが、例えば、phi29 DNA polymerase(New England BioLabs社他)、Klenow fragment(タカラバイオ社他)、Bst DNA polymerase(New England BioLabs社他)、BcaBEST DNA polymerase(タカラバイオ社)、PyroPhageTM 3173 DNA polymerase(Lucigen社)等を用いることができる。中でもphi29 DNA polymeraseは、室温程度の常温で反応が行えると共に、DNA合成速度が高いため好ましい。
【0036】
一本鎖DNAの増幅において使用される鎖置換型DNA合成酵素の量(濃度)は、使用する酵素の種類によって至適化することが好ましい。例えば、phi29 DNA polymeraseの場合、好ましくは終濃度約0.025ng/μL~1μg/μL、より好ましくは終濃度約5ng/μL~20ng/μLとすることができる。
【0037】
一本鎖DNAの増幅は、酵素の至適温度とプライマー鎖長に基づく変性温度(プライマーが鋳型DNAに結合(アニール)/解離する温度帯)に基づいて通常の手順により反応温度を設定することができる。例えば、反応温度は一定の常温とすることができる。本開示における「常温」とは、25℃~65℃を意味する。具体的に、鎖置換型DNA合成酵素としてphi29 DNA polymeraseを使用する場合は、反応温度を好ましくは25℃~42℃とする。また、耐熱性酵素を使用して行う場合は、反応温度を好ましくは55℃~65℃とする。耐熱性酵素を使用する場合は、環状DNAプローブ鎖における標的RNAと相補的な部分の長さは約30オリゴヌクレオチド以上であることが好ましい。
【0038】
本実施形態のRNA検出方法においては、一本鎖DNAの増幅を一定温度で行うことができるため、サーマルサイクラーを用いる必要がない。
【0039】
一本鎖DNAの増幅において、緩衝成分、マグネシウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、及びデオキシヌクレオシド三リン酸(dNTP)を含有する反応液を使用することができる。緩衝成分は、特に限定はないが、例えば、トリス塩酸又はトリス酢酸が好適に使用できる。マグネシウム塩としては、特に限定はないが、例えば、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム又は酢酸マグネシウムが好適に使用できる。塩化マグネシウムの場合その濃度は、好ましくは約5mM~20mM、より好ましくは約10mMである。また、カリウム塩としては、特に限定はないが、例えば、塩化カリウム、グルタミン酸カリウム又は酢酸カリウムが好適に使用できる。塩化カリウムの場合その濃度は、好ましくは約5mM~50mM、より好ましくは約20mMである。また、アンモニウム塩としては、特に限定はないが、例えば、硫酸アンモニウム又は酢酸アンモニウムが好適に使用できる。その濃度は、好ましくは約5mM~60mM、より好ましくは約40mMである。DNA増幅の基質となるdNTP混合物(dATP、dCTP、dGTP、dTTP)の濃度は、好ましくは約0.5mM~2mM、より好ましくは約1mMである。この他、反応液中には伸長反応の安定化を目的とした添加物を添加してもよい。例えば、ジチオトレイトール(DTT)を好ましくは約0.5mM~5mM、より好ましくは約1mM加えることができる。さらに、長時間反応に際し、副産物として生成される、DNA合成反応の阻害剤であるピロリン酸を除去するためにピロフォスファターゼを加えることによって合成効率を上げることもできる。ピロフォスファターゼは約0.02U/反応、添加することが好ましい。
【0040】
本実施形態において、上記RHa-RCA法を細菌の菌体内で行い、すなわちin situで行う。このため、予め細菌に対して細胞透過処理を行うことが好ましい。細胞透過処理は、各工程で用いられるプローブ等の材料が菌体内を容易に透過できるようになればその処理は特に限定されず、本技術分野において通常用いられている固定化処理及び透過処理を組み合わせて利用することができ、例えばパラホルムアルデヒドを用いて固定化した後にリゾチームを用いて透過処理をすることができる。
【0041】
また、本実施形態において、以上に説明したRHa-RCA法は、濃縮ステップを行った限外ろ過膜上にて行うことが好ましい。そうすると、上述したように、各ステップの操作を簡便に行うことができ、未反応プローブを通過させることができるため、膜上で一本鎖DNAを検出する際にバックグラウンドを低減することができる。
【0042】
上記RHa-RCA法により一本鎖DNAの増幅を行った後、標識ステップにおいて、増幅した一本鎖DNAを検出できるようにするために、一本鎖DNAの標識化を行う。本実施形態では、蛍光in situハイブリダイゼーション(Fish)法を利用する。具体的に、増幅した一本鎖DNAに特異的に結合する蛍光標識試薬(例えば、SYBR Green II(Invitrogen社)、Alexa568(Thermo Fisher Scientific社)等)を用いて、増幅した一本鎖DNAを標識化する。より具体的には、上記一本鎖DNAに相補的な配列を有し、蛍光標識化されたオリゴヌクレオチドを、上記増幅した一本鎖DNAにハイブリダイズさせることにより一本鎖DNAを標識化することができる。その後、検出ステップにおいて、例えば蛍光顕微鏡等を利用して、上記蛍光標識された一本鎖DNAを検出する。なお、本実施形態では、標識ステップにおいて、蛍光プローブを用いる例について説明したが、当然に他の標識手段を用いることもでき、例えばビオチン、又はペルオキシターゼやルシフェラーゼといった酵素を利用した標識手段を用いることもできる。
【0043】
仮に、検出ステップにおいて、蛍光標識された一本鎖DNAが検出されなかった場合、試料中に標的RNAが存在しない、すなわち生存細菌が存在しないと評価でき、一方、蛍光標識された一本鎖DNAが検出された場合、試料中の生存細菌が存在すると評価できる。このように、本実施形態に係る方法を用いると、試料中の生存細菌を回収し損なうことなく、高精度且つ高感度で試料中の生存細菌の有無を簡便に評価することができる。
【0044】
本発明に係る他の実施形態は、上記生存細菌の検出方法を行うためのキットであり、当該キットは、限外ろ過膜と、標的RNAと相補的な核酸配列を有するパドロック型DNAプローブと、RHa-RCA法を行うための酵素と、一本鎖DNAを標識するための標識プローブとを備えている。
【0045】
本実施形態において、限外ろ過膜、パドロック型DNAプローブ、RHa―RCA法を行うための酵素及び一本鎖DNAを標識するための標識プローブの具体的な説明は、上述した内容と同一であるため省略する。
【0046】
本実施形態に係るキットによると、上記本発明に係る生存細菌の検出方法を行うための材料を備えているため、上記方法を簡便に行うことができて、上述のように試料中の生存細菌を回収し損なうことなく、試料中の生存細菌の有無を高精度且つ高感度で評価することができる。
【実施例0047】
以下に、本発明に係る生存細菌の検出方法について詳細に説明するための実施例を示す。本実施例では、E.coliの検出を上記本発明に係る生存細菌の検出方法を用いて行った。
【0048】
(濃縮ステップ)
まず、E.coliを含む培地を準備し、当該培地を限外ろ過膜であるアミコンウルトラ0.5mL遠心式フィルター(NMWL:100kDa,メルク)に添加した。その後、4%パラホルムアルデヒドを加え14000×gで25℃、5分間の遠心分離処理を行った。ろ液を除去し、再度上記フィルダー上に4%パラホルムアルデヒドを加え、ボルテックスにより懸濁して15分間静置した(固定処理)。その後、再度上記条件で遠心分離処理を行ってろ液を除去した。その後、70%エタノールを加えて上記条件で遠心分離処理を行ってろ液を除去し、再度70%エタノールを加え、ボルテックスにより懸濁して60分間静置した。その後、再度上記条件で遠心分離処理を行ってろ液を除去した後に、25μg/mLのリゾチームを加えて上記条件で遠心分離処理を行った。ろ液を除去した後に、再度25μg/mLのリゾチームを加えてボルテックスにより懸濁して10分間静置した(細胞透過処理)。その後、上記条件で遠心分離処理を行ってろ液を除去した。
【0049】
(増幅ステップ)
上記濃縮ステップの後に、上記フィルター上において、20mMのトリス酢酸(pH7.5)、10mMの酢酸マグネシウム及び50mMのグルタミン酸カリウムを含むバッファーに100pmolのパドロック型プローブを混合した溶液を100μl加えた。なお、当該パドロック型プローブの配列は以下の通りである。
AGCCCTCAGGCATGGTTCCTTTTACGACCTCAATGCTGCTGCTGTACTACTCTTCTGCGCTCCTGGATGT(配列番号1)
【0050】
その後、95℃で1分間インキュベート後、30℃で30分以上緩やかに冷却し、その後に30℃で10分間インキュベートすることで、パドロック型DNAプローブを細菌の菌体内の標的RNAにハイブリダイズさせた。続いて、50μlのライゲーション混合液(20mMのTris酢酸塩(pH7.5)、10mMの酢酸マグネシウム、1.2mMのATP、50mMのグルタミン酸カリウム、10mMのジチオトレイトール及び25ユニットのSplintRリガーゼ(New EnglandBioLads社)を加え、37℃で10分間インキュベートすることによりパドロック型DNAプローブの環状化を行った。
【0051】
次に、20mMのトリス酢酸(pH7.5)、10mMの酢酸マグネシウム、80mMの硫酸アンモニウム、10mMのグルタミン酸カリウム、2.0mMのデオキシヌクレオシド三リン酸(dNTP)、0.004ユニットのピロフォスファターゼ(New England BioLads社)、0.06ユニットのRNaseH(バイオアカデミア)及び500ngのDNAフリーphi29DNAポリメラーゼ(関東化学)を含む100μlの反応混合液と150μlの上記環状化されたDNAプローブを含む混合液とを混合した。混合後、30℃で2時間インキュベートすることにより一本鎖DNAの増幅反応を行った。その後、65℃で10分間インキュベートすることにより、酵素の不活化処理を行った。
【0052】
不活化処理の後、遠心分離処理を行い、PBSで洗浄し、再度遠心分離処理を行いろ液を除去した。この操作により、未反応のプローブはフィルターを通過してろ液に含まれることとなる。
【0053】
(標識ステップ)
上記洗浄の後に、Alexa標識されたオリゴヌクレオチドをフィルター上に加え、37℃で3時間ハイブリダイズさせた。なお、当該オリゴヌクレオチドは5’側にAlexa568で標識され、当該オリゴヌクレオチドの配列は、CCTCAATGCTGCTGCTGTACTAC(配列番号2)である。その後、遠心分離処理を行い、PBSで洗浄し、再度遠心分離処理を行いろ液を除去した。この操作により、未反応のプローブはフィルターを通過してろ液に含まれることとなる。
【0054】
(検出ステップ)
上記標識ステップの後に、位相差対物レンズ(CFI PlanApo DM 100×(Nikon))及びORCA-Flash4.0 V3カメラ(浜松ホトニクス)を備えた蛍光顕微鏡(Nikon ECLIPSE E600)を用いて観察した。その結果を図3に示す。図3では、便宜上、特に強い赤色蛍光が認められた箇所の一部に白矢印を付けたが、白矢印の箇所以外にも細菌と重なる位置の多くに赤色蛍光が見られた。従って、本発明に係る方法を利用することにより、標的RNAを有する菌体内で正常に一本鎖DNAを増幅できることが分かった。
【0055】
以上のように、本発明に係る生存細菌の検出方法によると、菌体内のRNAを直接に標的として検出するため、高精度で試料中の細菌の有無を判別することができ、RHa-RCA法を行う前に、試料に対して限外ろ過膜を用いて試料中の生存細菌を濃縮するため、試料中の生存細菌の検出を高感度で行うことができる。
図1
図2
図3
【配列表】
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