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特開2022-25978嚥下促進用粉末油脂組成物及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022025978
(43)【公開日】2022-02-10
(54)【発明の名称】嚥下促進用粉末油脂組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20220203BHJP
   A23L 33/115 20160101ALI20220203BHJP
【FI】
A23D9/00 518
A23L33/115
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020129214
(22)【出願日】2020-07-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和1年8月23日 「平成31年度日本歯科医師会/デンツプライシロナスチューデント・クリニシャン・リサーチ・プログラム 日本代表選抜大会」における公開 〔刊行物等〕 令和1年8月25日 「第25回 日本摂食嚥下リハビリテーション学会学術大会 プログラム・抄録集」における公開 〔刊行物等〕 令和1年9月6日 「第25回 日本摂食嚥下リハビリテーション学会学術大会」における発表による公開 第25回 日本摂食嚥下リハビリテーション学会学術大会
(71)【出願人】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(71)【出願人】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】井上 誠
(72)【発明者】
【氏名】相澤 知里
(72)【発明者】
【氏名】竹井 絵理
(72)【発明者】
【氏名】岸本 奈月
(72)【発明者】
【氏名】クンワーニ シリマ
【テーマコード(参考)】
4B018
4B026
【Fターム(参考)】
4B018LE03
4B018MD10
4B018ME14
4B026DH10
4B026DX08
(57)【要約】
【課題】食品等の嚥下を促進することができる粉末油脂組成物を提供すること。
【解決手段】全トリグリセリド含有量を100質量%とした場合、1位~3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有する、1種以上のXXX型トリグリセリドを65~99質量%と、該XXX型トリグリセリドの脂肪酸残基Xの1つを炭素数yの脂肪酸残基Yに置換した、1種以上のX2Y型トリグリセリドを35~1質量%とを含有する嚥下促進用粉末油脂組成物で、前記炭素数xは、10~12から選択される整数で、前記炭素数yは、それぞれ独立して、x+2~x+12から選択される整数で、かつ22以下の整数であることを特徴とする嚥下促進用粉末油脂組成物を提供する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
全トリグリセリド含有量を100質量%とした場合、1位~3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有する、1種以上のXXX型トリグリセリドを65~99質量%と、該XXX型トリグリセリドの脂肪酸残基Xの1つを炭素数yの脂肪酸残基Yに置換した、1種以上のX2Y型トリグリセリドを35~1質量%とを含有する嚥下促進用粉末油脂組成物で、
前記炭素数xは、10~12から選択される整数で、
前記炭素数yは、それぞれ独立して、x+2~x+12から選択される整数で、かつ22以下の整数であることを特徴とする嚥下促進用粉末油脂組成物。
【請求項2】
舌を通じて冷感を付与できる、請求項1に記載の嚥下促進用粉末油脂組成物。
【請求項3】
前記嚥下促進用粉末油脂組成物のゆるめ嵩密度が0.1~0.6g/cm3であり、前記嚥下促進用粉末油脂組成物の平均粒径(d50)が0.5~200μmである、請求項1又は2に記載の嚥下促進用粉末油脂組成物。
【請求項4】
前記脂肪酸残基Xがカプリン酸残基及びラウリン酸残基から選択され、前記脂肪酸残基Yがミリスチン酸残基、パルミチン酸残基及びステアリン酸残基から選択される、請求項1~3の何れか1項に記載の嚥下促進用粉末油脂組成物。
【請求項5】
食品原料と、請求項1~4の何れか1項に記載の嚥下促進用粉末油脂組成物とを含有する嚥下が促進された食品であって、前記嚥下促進用粉末油脂組成物が、前記食品中に結晶状態で存在していることを特徴とする嚥下が促進された食品。
【請求項6】
前記嚥下が、前記嚥下促進用粉末油脂組成物が付与する舌を通じた冷感によって促進される、請求項5に記載の嚥下が促進された食品。
【請求項7】
請求項1~4の何れか1項に記載の嚥下促進用粉末油脂組成物を食品原料に混合して嚥下が促進された食品を得る工程を含み、ここで前記嚥下促進用粉末油脂組成物を、前記嚥下が促進された食品中に結晶状態で存在させることを特徴とする、嚥下が促進された食品の製造方法。
【請求項8】
請求項1~4の何れか1項に記載の嚥下促進用粉末油脂組成物を食品原料に混合して、前記嚥下促進用粉末油脂組成物が結晶状態で存在する嚥下が促進された食品を得る工程、及び、前記嚥下が促進された食品を経口的に摂取させる工程、とを含む、嚥下の促進方法(人に対する医療行為を除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嚥下促進用粉末油脂組成物、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢者、特に要介護高齢者は、食べ物を咀嚼する機能や、食べ物を嚥下する機能が衰えた、いわゆる咀嚼・嚥下困難者であることが多い。したがって、咀嚼・嚥下困難者が食事をした場合、食べ物が肺などに入る、いわゆる「誤嚥」による肺炎などを発症してしまうというケースが増えている。また、誤嚥のリスクがあるため食事の時間が長くなり、食事介助者への負担も増加していた。
そこで、炭酸水からなる嚥下改善剤を用いることで、咀嚼・嚥下困難者の嚥下反射を誘発し、嚥下改善が行われていた(特許文献1)。また、嚥下機能の回復を促すために、メントールを含有させたゼリー状の飲食品が開発されてきた(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-108298号公報
【特許文献2】特開2008-94743号公報
【特許文献3】国際公開第2016/013582号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、食品等の嚥下を促進することができる粉末油脂組成物を提供することであり得る。本発明の目的は、また、粉末油脂組成物が、特定のグリセリドを含有することにより、食品等の嚥下を促進することができる粉末油脂組成物を提供することであり得る。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、食品原料に特定の粉末油脂組成物を混合することで、当該粉末油脂組成物を含む食品の嚥下を促進することが出来ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、以下に関するものであり得る。
〔1〕全トリグリセリド含有量を100質量%とした場合、1位~3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有する、1種以上のXXX型トリグリセリドを65~99質量%と、該XXX型トリグリセリドの脂肪酸残基Xの1つを炭素数yの脂肪酸残基Yに置換した、1種以上のX2Y型トリグリセリドを35~1質量%とを含有する嚥下促進用粉末油脂組成物で、
前記炭素数xは、10~12から選択される整数で、
前記炭素数yは、それぞれ独立して、x+2~x+12から選択される整数で、かつ22以下の整数であることを特徴とする嚥下促進用粉末油脂組成物。
〔2〕舌を通じて冷感を付与できる、前記〔1〕に記載の嚥下促進用粉末油脂組成物。
〔3〕前記嚥下促進用粉末油脂組成物のゆるめ嵩密度が0.1~0.6g/cm3であり、前記嚥下促進用粉末油脂組成物の平均粒径(d50)が0.5~200μmである、前記〔1〕又は〔2〕に記載の嚥下促進用粉末油脂組成物。
〔4〕前記脂肪酸残基Xがカプリン酸残基及びラウリン酸残基から選択され、前記脂肪酸残基Yがミリスチン酸残基、パルミチン酸残基及びステアリン酸残基から選択される、前記〔1〕~〔3〕の何れか1項に記載の嚥下促進用粉末油脂組成物。
〔5〕食品原料と、前記〔1〕~〔4〕の何れか1項に記載の嚥下促進用粉末油脂組成物とを含有する嚥下が促進された食品であって、前記嚥下促進用粉末油脂組成物が、前記食品中に結晶状態で存在していることを特徴とする嚥下が促進された食品。
〔6〕前記嚥下が、前記嚥下促進用粉末油脂組成物が付与する舌を通じた冷感によって促進される、前記〔5〕に記載の嚥下が促進された食品。
〔7〕前記〔1〕~〔4〕の何れか1項に記載の嚥下促進用粉末油脂組成物を食品原料に混合して嚥下が促進された食品を得る工程を含み、ここで前記嚥下促進用粉末油脂組成物を、前記嚥下が促進された食品中に結晶状態で存在させることを特徴とする、嚥下が促進された食品の製造方法。
〔8〕前記〔1〕~〔4〕の何れか1項に記載の嚥下促進用粉末油脂組成物を食品原料に混合して、前記嚥下促進用粉末油脂組成物が結晶状態で存在する嚥下が促進された食品を得る工程、及び、前記嚥下が促進された食品を経口的に摂取させる工程、とを含む、嚥下の促進方法(任意に、人に対する医療行為を除く)。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、食品等の嚥下を促進することができる粉末油脂組成物及び当該粉末油脂組成物を含む嚥下が促進された食品を提供することができる。
また、本発明により、当該粉末油脂組成物を含む食品の嚥下を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】舌表面の各位置を示す概略図である。
図2】実施例又は比較例のサーモグラフィーである。
図3】実施例又は比較例の冷感潜時を示すグラフである。
図4】実施例又は比較例の冷感持続時間を示すグラフである。
図5】実施例又は比較例の冷感の強さの官能試験結果を示すグラフである。
図6】実施例又は比較例の嚥下衝動の強さの官能試験結果を示すグラフである。
図7】随意嚥下の試験を4回繰り返した後のパネラーの疲労度を示すグラフである。
図8】実施例又は比較例の随意嚥下の試験結果を示すグラフである。
図9】実施例又は比較例の初回嚥下までに要した時間の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の嚥下促進用粉末油脂組成物について説明をする。なお、本発明の嚥下促進用粉末油脂組成物には、国際公開第2016/013582号に記載された粉末油脂組成物を使用することができる。
【0010】
[嚥下促進用粉末油脂組成物]
嚥下促進用粉末油脂組成物は、全トリグリセリド含有量を100質量%とした場合、1位~3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有する、1種又はそれ以上のXXX型トリグリセリドを65~99質量%と、該XXX型トリグリセリドの脂肪酸残基Xの1つを炭素数yの脂肪酸残基Yに置換した、1種又はそれ以上のX2Y型トリグリセリドを35~1質量%とを含有する粉末油脂組成物であって、該炭素数xは、10~12から選択される整数で、該炭素数yは、それぞれ独立して、x+2~x+12から選択される整数で、かつ22以下の整数であることを特徴とする粉末油脂組成物である。
【0011】
<嚥下促進用粉末油脂組成物の特性>
本発明の嚥下促進用粉末油脂組成物は、常温(20℃)で粉末状の固体である。
本発明の嚥下促進用粉末油脂組成物のゆるめ嵩密度は、好ましくは0.1~0.6g/cm3であり、より好ましくは0.1~0.5g/cm3であり、さらにより好ましくは0.1~0.4g/cm3である。
ここで「ゆるめ嵩密度」とは、粉体を自然落下させた状態の充填密度である。ゆるめ嵩密度(g/cm3)は、ホソカワミクロン(株)のパウダテスタ(登録商標)(model PT-X)で測定することができる。具体的には、パウダテスタ(登録商標)に試料を仕込み、試料を仕込んだ上部シュートを振動させ、試料を自然落下により下部の測定用カップに落とす。測定用カップ(寸法:直径5cm、高さ4.5cmの円柱)から盛り上がった試料はすり落とし、受器の内容積(100cm3)分の試料の質量(Ag)を秤量し、以下の式からゆるめ嵩密度を求める。
ゆるめ嵩密度(g/cm3)=A(g)/100(cm3
【0012】
本発明の嚥下促進用粉末油脂組成物は、通常、板状結晶または球状結晶の形態を有し、好ましくは板状結晶の形態を有する。ここで、球状とは、アスペクト比が1.0以上1.1未満であることを指し、板状とは、アスペクト比が1.1以上であることを指す。なお、アスペクト比とは、粒子図形に対して、面積が最小となるように外接する長方形で囲み、その長方形の長辺の長さと短辺の長さの比と定義される。
本発明の嚥下促進用粉末油脂組成物は、例えば、0.5~200μm、好ましくは1~100μm、より好ましくは1~50μm、殊更好ましくは、1~30μm、殊更より好ましくは、1~20μm、殊更さらにより好ましくは、1~15μmの平均粒径(有効径)を有する。
本発明における平均粒径(有効径)は、粒度分布測定装置(例えば、日機装株式会社製、装置名:Microtrac MT3300ExII)でレーザー回折散乱法(ISO133201、及びISO9276-1)に基づいて、湿式測定により測定した値(d50:粒度分布における積算値50%の粒径の測定値)である。
有効径とは、測定対象となる結晶の実測回折パターンが、球形と仮定して得られる理論的回折パターンに適合する場合の、当該球形の粒径を意味する。このように、レーザー回折散乱法の場合、球形と仮定して得られる理論的回折パターンと、実測回折パターンを適合させて有効径を算出しているので、測定対象が板状形状であっても球状形状であっても同じ原理で測定することができる。
本発明の嚥下促進用粉末油脂組成物は、食品等と混合することにより、当該食品の嚥下を促進することができる。その意味でも、本発明の嚥下促進用粉末油脂組成物は、嚥下促進剤とも呼べる。理論に縛られるものではないが、当該嚥下促進作用は、本発明の特定の粉末組成物が有する冷感効果、すなわち、嚥下促進用粉末油脂組成物が舌上、特に奥舌上に配置された際に舌を通じて冷感を与え、これにより嚥下衝動が起こり、嚥下が促進されるものと考えられる。なお、嚥下とは食べ物を飲み込む動作を言い、舌などの動きで食べ物を口の奥に送り込む第一の動作、及び、口の奥から喉に入ってきた食べ物を飲み込む動作によって構成される一連の第二の動作を言う。本発明の嚥下促進は、好ましくは、舌などの動きで食べ物を口の奥に送り込む第一の動作を促進することを言う。その意味でも、本発明の嚥下促進用粉末油脂組成物は、口腔内、特に舌に対する冷感付与組成物又は冷感付与剤とも呼べる。
【0013】
<嚥下促進用粉末油脂組成物の組成>
<XXX型トリグリセリド>
XXX型トリグリセリドは、1位~3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有するトリグリセリドであり、各脂肪酸残基Xは互いに同一である。脂肪酸残基Xの脂肪酸は、直鎖又は分岐鎖であってもよく、また、飽和又は不飽和であってもよいが、好ましくは直鎖の飽和脂肪酸である。炭素数xは10~12の整数であり、10であることがより好ましい。
脂肪酸残基Xとして、例えば、カプリン酸(n-デカン酸)、ラウリン酸(ドデカン酸)の残基が挙げられる。その中でも、脂肪酸残基Xは、カプリン酸であることが好ましい。
本発明の嚥下促進用粉末油脂組成物は、1種又は2種以上の種類のXXX型トリグリセリドを含むもので、1種類のXXX型トリグリセリドを含むものがより好ましい。
嚥下促進用粉末脂組成物中のXXX型トリグリセリドの含量は、嚥下促進用粉末油脂組成物中の全トリグリセリド含有量を100質量%とした場合、65~99質量%であり、75~99質量%であることが好ましく、80~99質量%であることがより好ましく、83~98質量%であることがさらに好ましく、85~98質量%であることがさらにより好ましく、90~98質量%であることが最も好ましい。
【0014】
<X2Y型トリグリセリド>
X2Y型トリグリセリドは、先に説明をしたXXX型トリグリセリドの脂肪酸残基Xの1つを炭素数yの脂肪酸残基Yに置換したトリグリセリドであり、当該脂肪酸残基Yは、X2Y型トリグリセリドの1位~3位の何れに配置していてもよい。また、1つのX2Y型トリグリセリドに含まれる各脂肪酸残基Xは互いに同一であり、かつXXX型トリグリセリドの脂肪酸残基Xとも同一である。脂肪酸残基Yの脂肪酸は、直鎖又は分岐鎖であってもよく、また、飽和又は不飽和であってもよいが、好ましくは直鎖の飽和脂肪酸である。
X2Y型トリグリセリドの脂肪酸残基Yの炭素数yは、それぞれ独立して、x+2~x+12から選択される整数、好ましくはy=x+2~x+10から選択される整数、より好ましくはy=x+4~x+8から選択される整数で、かつ22以下の整数、好ましくは20以下の整数、より好ましくは18以下の整数である。
炭素数yの脂肪酸残基Yは、1種類の脂肪酸残基でも良いが、数種類異なる脂肪酸残基であっても良い。
脂肪酸残基Yとして、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、及びベヘン酸の残基が挙げられる。その中でも脂肪酸残基Yは、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、及びベヘン酸であることが好ましく、ミリスチン酸、パルミチン酸、及びステアリン酸であることがより好ましく、ミリスチン酸或いはステアリン酸であることがさらに好ましい。
本発明の嚥下促進用粉末油脂組成物は、上記XXX型トリグリセリドの脂肪酸残基Xの1つを炭素数yの脂肪酸残基Yに置換したX2Y型トリグリセリドを1種又は2種以上含み、好ましくは2種類~5種類含み、より好ましくは3~4種類含む。
各X2Y型トリグリセリドの脂肪酸残基Yの炭素数yは、上述の範囲内から、各X2Y型トリグリセリドごとにそれぞれ独立して選択される。例えば、本発明の嚥下促進用粉末油脂組成物を、トリカプリンとパーム核ステアリン極度硬化油とをエステル交換してX2Y型トリグリセリド製造した場合は、X2Y型トリグリセリドのxはすべて10であるが、yは12、14、16及び18の4種類あり、4種類のX2Y型トリグリセリド含む。
このように、嚥下促進用粉末油脂組成物中のX2Y型トリグリセリドの炭素数yの脂肪酸残基Yは、数種類の異なる脂肪酸残基であっても良い。また、嚥下促進用粉末油脂組成物中のX2Y型トリグリセリドの炭素数yの脂肪酸残基Yは、1種類の脂肪酸残基であっても良い。
嚥下促進用粉末油脂組成物中のX2Y型トリグリセリドの含量は、嚥下促進用粉末油脂組成物中の全トリグリセリド含有量を100質量%とした場合、35~1質量%であり、25~1質量%であることが好ましく、20~1質量%であることがより好ましく、17~2質量%であることがさらに好ましく、15~2質量%であることがさらにより好ましく、10~2質量%であることが最も好ましい。なお、本発明の嚥下促進用粉末油脂組成物に複数のX2Y型トリグリセリドが含まれる場合、上記X2Y型トリグリセリドの含有量は、含まれるX2Y型トリグリセリドの合計量である。
【0015】
<その他のトリグリセリド>
本発明の嚥下促進用粉末油脂組成物は、本発明の効果を損なわない限り、上記XXX型トリグリセリド及びX2Y型トリグリセリド以外の、その他のトリグリセリドを含んでいてもよい。その他のトリグリセリドは、複数の種類のトリグリセリドであってもよく、合成油脂であっても天然油脂であってもよい。天然油脂としては、例えば、ココアバター、ヒマワリ油、菜種油、大豆油、綿実油等が挙げられる。反対に、本発明の嚥下促進用粉末油脂組成物は、天然油脂ではなく、合成油脂のみから構成されていてもよい。
嚥下促進用粉末油脂組成物中のその他のトリグリセリドの含量は、嚥下促進用粉末油脂組成物中の全トリグリセリド含有量を100質量%とした場合、1質量%以上含有させることができて、5~30質量%程度含まれていても問題はなく、好ましくは0~30質量%であり、より好ましくは0~18質量%であり、さらに好ましくは0~15質量%であり、さらにより好ましくは0~8質量%である。
【0016】
<その他の成分>
本発明の嚥下促進用粉末油脂組成物は、上記トリグリセリドの他、任意に乳化剤、香料、脱脂粉乳、全脂粉乳、ココアパウダー、砂糖、デキストリン等のその他の成分を含んでいてもよい。これらその他の成分の量は、本発明の効果を損なわない限り任意の量とすることができるが、例えば、嚥下促進用粉末油脂組成物の全質量を100質量%とした場合、0~70質量%、好ましくは0~65質量%、より好ましくは0~30質量%である。
但し、本発明の好ましい嚥下促進用粉末油脂組成物は、実質的に油脂のみからなることが好ましい。ここで油脂とは、実質的にトリグリセリドのみからなるものである。また、「実質的に」とは、嚥下促進用粉末油脂組成物中に含まれる油脂以外の成分または油脂中に含まれるトリグリセリド以外の成分が、嚥下促進用粉末油脂組成物または油脂を100質量%とした場合、例えば、0~15質量%、好ましくは0~10質量%、より好ましくは0~5質量%であることを意味する。
【0017】
<嚥下促進用粉末油脂組成物の製造方法>
次に、本発明の嚥下促進用粉末油脂組成物の製造方法について説明をする。
本発明の嚥下促進用粉末油脂組成物は、原料の油脂組成物に含まれるトリグリセリドを融解して溶融状態の油脂組成物を得、この油脂組成物を冷却することにより、噴霧やミル等の粉砕機による機械粉砕等特別の加工手段を採らなくても、粉末状の油脂組成物(嚥下促進用粉末油脂組成物)を得ることができる。より具体的には、上記XXX型トリグリセリドと上記X2Y型トリグリセリドを含有する油脂組成物を、任意に加熱・融解し、溶融状態の油脂組成物を得、その後冷却して溶融状態の油脂組成物よりも体積が増加した空隙を有する固形物を形成する。得られた該固形物を篩にかける等により外部より軽く衝撃加えて粉砕する(ほぐす)ことで容易に嚥下促進用粉末油脂組成物を得ることができる。
【0018】
以下、詳細に本発明の嚥下促進用粉末油脂組成物の製造方法について説明をする。
本発明の嚥下促進用粉末油脂組成物は、国際公開第2016/013582号に記載された粉末油脂組成物の製造方法により製造することができる。
本発明の嚥下促進用粉末油脂組成物は、以下の工程(a)及び工程(d)を含む製造方法によって製造することができる。また、任意の工程(c)を含んだ方法でも製造することができる。
(a)全トリグリセリド含有量を100質量%とした場合、1位~3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有する、1種以上のXXX型トリグリセリドを65~99質量%と、該XXX型トリグリセリドの脂肪酸残基Xの1つを炭素数yの脂肪酸残基Yに置換した、1種以上のX2Y型トリグリセリドを35~1質量%とを含有し、該炭素数xは、10~12から選択される整数で、該炭素数yは、それぞれ独立して、x+2~x+12から選択される整数で、かつ22以下の整数である、油脂組成物を調製する工程、
(c)油脂組成物の結晶化を促進させる任意の工程、
(d)前記油脂組成物を、油脂組成物の融点より低い温度で冷却して油脂組成物を結晶化する工程。
後に詳しく説明するが、工程(a)により得られた油脂組成物が溶融状態になかった場合には、工程(a)と工程(d)の間で、油脂組成物を加熱してトリグリセリドを融解し、溶融状態の油脂組成物を得るという工程(b)を行う必要がある。
以下、工程(a)、(b)、(c)及び(d)について説明をする。
【0019】
〔工程(a)について〕
特定のトリグリセリドを特定量含有する油脂組成物を調製する工程(a)は、以下に説明をする調製方法(1)、(2)、又は(3)により行うことができる。
<工程(a):調製方法(1)>
調製方法(1)は、XXX型トリグリセリドとYYY型トリグリセリドとを別々に入手し、それらをエステル交換する方法である。
具体的には、原料として1位~3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有するXXX型トリグリセリド(1種又は2種以上)と、1位~3位に炭素数yの脂肪酸残基Yを有するYYY型トリグリセリド(1種又は2種以上)を入手する。それらを、XXX型トリグリセリド/YYY型トリグリセリドの質量比が、90/10~99/1となるように混合し反応原料とする。得られた反応原料をエステル交換反応することにより、XXX型トリグリセリドとX2Y型トリグリセリドとを含有する油脂組成物を製造する。
ここで、YYY型トリグリセリドは、1位~3位に炭素数yの脂肪酸残基Yを有するトリグリセリドで、当該炭素数y及び脂肪酸残基Yは、上述した通りである。
また、XXX型トリグリセリド、及びX2Y型トリグリセリドの詳細は、上述した通りである。
以下、調製方法(1)による工程(a)について詳細に説明をする。
【0020】
XXX型トリグリセリド、及びYYY型トリグリセリドは、市販品を用いたり、天然油脂やその分別油脂、及びそれらの水素添加油脂中に含まれるトリグリセリドを利用することもできるが、脂肪酸又は脂肪酸誘導体とグリセリンを用いた直接合成によって得ることができる。
XXX型トリグリセリドを直接合成する方法としては、(i)炭素数xの脂肪酸とグリセリンとを直接エステル化する方法(直接エステル合成)、(ii)炭素数xである脂肪酸Xのカルボキシル基がアルコキシル基と結合した脂肪酸アルキル(例えば、脂肪酸メチル及び脂肪酸エチル)とグリセリンとを塩基性または酸性触媒条件下にて反応させる方法(脂肪酸アルキルを用いたエステル交換合成)、(iii)炭素数xである脂肪酸Xのカルボキシル基の水酸基がハロゲンに置換された脂肪酸ハロゲン化物(例えば、脂肪酸クロリド及び脂肪酸ブロミド)とグリセリンとを塩基性触媒下にて反応させる方法(酸ハライド合成)等が挙げられる。
YYY型トリグリセリドを直接合成する方法としては、(i)炭素数Yの脂肪酸とグリセリンとを直接エステル化する方法(直接エステル合成)、(ii)炭素数yである脂肪酸Yのカルボキシル基がアルコキシル基と結合した脂肪酸アルキル(例えば、脂肪酸メチル及び脂肪酸エチル)とグリセリンとを塩基性または酸性触媒条件下にて反応させる方法(脂肪酸アルキルを用いたエステル交換合成)、(iii)炭素数yである脂肪酸Yのカルボキシル基の水酸基がハロゲンに置換された脂肪酸ハロゲン化物(例えば、脂肪酸クロリド及び脂肪酸ブロミド)とグリセリンとを塩基性触媒下にて反応させる方法(酸ハライド合成)等が挙げられる。
XXX型トリグリセリド及びYYY型トリグリセリドの製造は、前述の(i)~(iii)のいずれの方法によっても製造することができるが、製造の容易さの観点から、(i)直接エステル合成又は(ii)脂肪酸アルキルを用いたエステル交換合成による方法が好ましく、(i)直接エステル合成による方法がより好ましい。
【0021】
ここで、(i)の直接エステル合成によるXXX型トリグリセリド、又はYYY型トリグリセリドの製造についてさらに詳細に説明する。
反応原料であるグリセリンと脂肪酸の仕込み割合は、製造効率の観点から、グリセリン1モルに対して脂肪酸X、又は脂肪酸Yが3~5モルであることが好ましく、3~4モルであることがより好ましい。
直接エステル合成の反応温度は、エステル化反応によって生ずる生成水が系外に除去できる温度であればよく、例えば、120℃~300℃が好ましく、150℃~270℃がより好ましく、180℃~250℃がさらに好ましい。反応を180~250℃で行うことで、XXX型トリグリセリド、又はYYY型トリグリセリドを特に効率的に製造することができる。
直接エステル合成では、エステル化反応を促進する触媒を用いることができる。触媒としては酸触媒、及びアルカリ土類金属のアルコキシド等が挙げられる。触媒の使用量は、反応原料の総質量に対して0.001~1質量%程度であることが好ましい。
また、エステル化反応後、水洗、アルカリ脱酸及び/又は減圧脱酸、及び吸着処理等の公知の精製処理を行うことで、触媒や原料未反応物を除去することができる。更に、脱色・脱臭処理を施すことで、得られた反応物(XXX型トリグリセリド又はYYY型トリグリセリド)をさらに精製することができる。
【0022】
次に、XXX型トリグリセリドとYYY型トリグリセリドとのエステル交換反応について説明をする。
原料であるXXX型トリグリセリドとYYY型トリグリセリドを、XXX型トリグリセリド/YYY型トリグリセリドの質量比が、90/10~99/1、好ましくは93/7~99/1、より好ましくは95/5~99/1になるように混合し、反応原料を調製する。
特に、脂肪酸残基Xが炭素数10かつ脂肪酸残基Yが炭素数14~18の場合、XXX型トリグリセリド/YYY型トリグリセリドの質量比は、95/5~99/1であることが好ましく、また、脂肪酸残基Xが炭素数12かつ脂肪酸残基Yが炭素数16~18の場合、XXX型トリグリセリド/YYY型トリグリセリドの質量比は、95/5~99/1であることが好ましい。
【0023】
反応原料には、上記XXX型トリグリセリドやYYY型トリグリセリドの他、本発明の効果を損なわない限り、その他のトリグリセリド含有させることができる。
その他のトリグリセリドとしては、例えば、上記XXX型トリグリセリドの脂肪酸残基Xの1つが脂肪酸残基Yに置換したX2Y型トリグリセリド、上記XXX型トリグリセリドの脂肪酸残基Xの2つが脂肪酸残基Yに置換したXY2型トリグリセリド等を挙げることができる。
その他のトリグリセリドの量は、例えば、XXX型トリグリセリド及びYYY型トリグリセリドの合計質量を100質量%とした場合、0~15質量%であり、好ましくは0~7質量%であり、より好ましくは0~4質量%である。
【0024】
また、上記XXX型トリグリセリドやYYY型トリグリセリドの代わりに、天然由来のトリグリセリド組成物を使用してもよい。天然由来のトリグリセリド組成物としては、例えば、パーム核油、パーム核オレイン、パーム核ステアリン、ナタネ油、ヤシ油、大豆油、ヒマワリ油、サフラワー油、パームステアリン等を挙げることができる。これらの天然由来のトリグリセリド組成物は、さらに水素添加等により改質した硬化油、部分硬化油、極度硬化油であってもよい。
上記天然由来のトリグリセリド組成物の量は、これら天然由来のトリグリセリド組成物に含まれる必要なXXX型トリグリセリド又はYYY型トリグリセリドの量に依存するが、例えば、XXX型トリグリセリドのXがカプリン酸で、YYY型トリグリセリドの由来としてパーム核ステアリン極度硬化油を使用する場合、当該パーム核ステアリン極度硬化油に含まれる1位~3位にY残基を有するトリグリセリドが上述したYYY型トリグリセリドとして必要な量、即ちXXX型トリグリセリド/YYY型トリグリセリドの質量比で90/10~99/1、好ましくは93/7~99/1、より好ましくは95/5~98/2を満たす量で含まれることが適当である。
【0025】
エステル交換反応の反応原料には、上記トリグリセリドの他、任意に部分グリセリド、抗酸化剤、乳化剤、水などの溶媒等のその他の成分を含んでいてもよい。これらその他の成分の量は、本発明の効果を損なわない限り任意の量とすることができるが、例えば、得られる反応原料の質量を100質量%とした場合、その他の成分の含有量は0~5質量%であることが好ましく、0~2質量%でありことがより好ましく、0~1質量%であることがさらに好ましい。
【0026】
反応原料の混合は、原料を混合できるのであれば、公知のいかなる混合方法を用いてもよく、例えば、パドルミキサー、アジホモミキサー、ディスパーミキサー等で行うことができる。
混合は、必要に応じて加熱しながら行ってもよい。加熱温度は、例えば、50~120℃であることが好ましく、60~100℃であることがより好ましく、70~90℃であることがさらに好ましく、75~85℃であることがさらにより好ましい。
混合は、例えば、5~60分間行うことができ、10~50分間行うのが好ましく、20~40分間行うのがより好ましい。
なお、反応の触媒として酵素を使用する場合、酵素添加前に水は極力存在させないことが好ましい。酵素添加前の反応原料中の水の量は、原料全体中10質量%以下であることが好ましく、0.001~5質量%であることが好ましく、0.01~3質量%であることがより好ましく、0.01~2質量%であることがさらに好ましい。
【0027】
XXX型トリグリセリドとX2Y型トリグリセリドとを含有する油脂組成物は、上記反応原料を、触媒の存在下でエステル交換反応することにより製造することができる。
エステル交換反応の条件には特に限定はなく、通常行われているエステル交換反応の条件を用いることができる。
エステル交換反応時の温度は、50~120℃であることが好ましく、60~100℃であることがより好ましく、70~90℃であることがさらに好ましく、75~85℃であることがさらにより好ましい。
触媒には、酵素、アルカリ金属アルコキシド、アルカリ土類金属アルコキシド等を使用することができる。酵素としては、固定化酵素及び粉末酵素を使用できるが、酵素活性及び取扱い容易性の面から、粉末酵素であることが好ましい。
粉末酵素は、酵素含有水性液体をスプレードライ、フリーズドライ、溶剤沈澱後の乾燥などの方法で乾燥、粉末化したもので、特に限定する条件はないが、例えば、アルカリゲネス エスピー(Alcaligenes sp.)由来のリパーゼ(名糖産業株式会社、商品名リパーゼQLM)を使用することができる。
固定化酵素としては、酵素をシリカ、セライト、珪藻土、パーライト、ポリビニールアルコール、陰イオン交換樹脂、フェノール吸着樹脂、疎水性担体、陽イオン交換樹脂、キレート樹脂等の担体に固定化したものを用いることができる。
【0028】
アルカリ金属アルコキシドのアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウムを使用するのが好ましい。また、アルカリ土類金属アルコキシドのアルカリ土類金属としては、マグネシウム及びカルシウムを使用するのが好ましい。
アルコキシドとしては、メトキシド、エトキシド、プロポキシド、n-ブトキシド、t-ブトキシド等を挙げることができ、メトキシド又はエトキシドが好ましい。
具体的なアルカリ金属アルコキシド及びアルカリ土類金属アルコキシドとして、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、マグネシウムメトキシド、マグネシウムエトキシド等を挙げることができ、ナトリウムメトキシドを使用するのが好ましい。
これらの触媒は、1種又は2種以上を混合して使用してもよいが、酵素系の触媒とアルコキシド系の触媒は同時に使用しない方が好ましい。
触媒の添加量は、エステル交換反応が十分に進行する量であればよいが、原料であるトリグリセリドの合計質量を100質量%とした場合、0.01~20質量%であることが好ましく、0.05~10質量%であることがより好ましく、0.1~5質量%であることがさらに好ましく、0.2~1質量%であることがさらにより好ましい。上記触媒の他、任意の助触媒を使用することができる。
触媒は、反応原料に上記所定量を1度に投入してもよいが、上記所定量の触媒を、例えば、2~30回、好ましくは3~20回、より好ましくは5~15回に分けて反応原料に投入することができる。触媒を投入する時期は、上記工程(a)直後の他、1回目の触媒投入時から1~2時間おきに投入してもよい。
エステル交換反応は、常圧下、又は減圧下の条件で、上述した加熱温度により、0.5~50時間行うのが好ましく、1~40時間行うのがより好ましく、5~30時間行うのがさらに好ましく、10~20時間行うのがさらにより好ましい。また、反応時には攪拌するのが好ましい。
【0029】
<工程(a):調製方法(2)>
調製方法(2)は、XXX型トリグリセリドとYYY型トリグリセリドとを別々に入手し、それらをエステル交換するという調製方法(1)とは違って、XXX型トリグリセリドとX2Y型トリグリセリドを同時かつ直接合成する方法である。
具体的には、XXX型トリグリセリドとYYY型トリグリセリドの両方を製造するための原料(脂肪酸または脂肪酸誘導体とグリセリン)を、同じ反応容器に投入し、同時かつ直接合成することで、XXX型トリグリセリド及びX2Y型トリグリセリドを含有する油脂組成物を製造する。
以下、調製方法(2)による工程(a)について詳細に説明をする。
【0030】
XXX型トリグリセリドとX2Y型トリグリセリドを同時かつ直接合成する方法としては、(iv)炭素数xである脂肪酸X及び炭素数yの脂肪酸Yとグリセリンとを直接エステル化する方法(直接エステル合成)、(v)炭素数xである脂肪酸X及び炭素数yである脂肪酸Yのカルボキシル基がアルコキシル基と結合した脂肪酸アルキル(例えば、脂肪酸メチル及び脂肪酸エチル)とグリセリンとを塩基性または酸性触媒条件下にて反応させる方法(脂肪酸アルキルを用いたエステル交換合成)、(vi)炭素数xである脂肪酸X及び炭素数yである脂肪酸Yのカルボキシル基の水酸基がハロゲンに置換された脂肪酸ハロゲン化物(例えば、脂肪酸クロリド及び脂肪酸ブロミド)とグリセリンとを塩基性触媒下にて反応させる方法(酸ハライド合成)が挙げられる。
XXX型トリグリセリドとX2Y型トリグリセリドの製造は、前述の(iv)~(vi)のいずれの方法によっても製造することができるが、製造の容易さの観点から、(iv)直接エステル合成、又は(v)脂肪酸アルキルを用いたエステル交換合成が好ましく、(iv)直接エステル合成がより好ましい。
【0031】
ここで、(iv)の直接エステル合成による、XXX型トリグリセリド、及びX2Y型トリグリセリドXXX型トリグリセリドを含有する油脂組成物の製造についてさらに詳細に説明する。
直接エステル合成の条件は、得られる油脂組成物中のXXX型トリグリセリドとX2Y型トリグリセリドの含量が、先に説明した含量することができるのであれば、特に限定されない。ただ、反応後の油脂組成物中のXXX型トリグリセリドとX2Y型トリグリセリドの含量を、確実に先に説明した所望の含量にするために、次に説明をする2段階の反応を行うことが好ましい。
具体的には、1段階目の反応では、グリセリンと、炭素数yである脂肪酸Y及び炭素数xである脂肪酸Xを反応させた後、2段階目の反応では、1段階目の反応で得られた反応物に、炭素鎖xである脂肪酸Xを加えて反応をする。この2段階反応をすることにより、脂肪酸Yを余すことなくグリセリンと確実にエステル化することができ、反応系内でより確実にX2Y型トリグリセリドを生成させることができる。
1段階目の反応では、全グリセリド中におけるX2Y型トリグリセリドが所望の含量になるように調整するために、反応原料中の脂肪酸Yと脂肪酸Xの総モル量が、グリセリン1モルに対して、0.5~2.8モル量であることが好ましく、0.8~2.57モル量であることがより好ましく、1.1~2.2モル量であることが最も好ましい。
直接エステル合成の反応温度は、エステル化反応によって生ずる生成水が系外に除去できる温度であればよく、120℃~300℃であることが好ましく、150℃~270℃であることがより好ましく、180℃~250℃であることがさらに好ましい。特に、反応温度を180~250℃にすることで、効率的にX2Y型トリグリセリドを製造することができる。
【0032】
直接エステル合成では、エステル化反応を促進する触媒を用いても良い。触媒としては酸触媒、及びアルカリ土類金属のアルコキシド等が挙げられる。触媒の使用量は、反応原料の総質量に対して0.001~1質量%程度であることが好ましい。
(iv)の直接エステル合成では、反応終了後、水洗、アルカリ脱酸、減圧脱酸、吸着処理等の公知の精製処理を行うことで、反応物から触媒や原料未反応物を除去することができる。更に、脱色・脱臭処理を施すことで、反応物をさらに精製することができる。
【0033】
<工程(a):調製方法(3)>
調製方法(3)は、油脂組成物に、XXX型トリグリセリド及び/又はX2Y型トリグリセリドを添加することで、XXX型トリグリセリド及びX2Y型トリグリセリドの含有量を、所望の範囲に調製する方法である。
例えば、XXX型トリグリセリド、及びX2Y型トリグリセリドを含む油脂組成物であって、XXX型トリグリセリドの含有量が65~99質量%を満たさない油脂組成物、X2Y型トリグリセリドの含有量が35~1質量%を満たさない油脂組成物、又は、それら両方の含有量を満たさない油脂組成物を調製した後、それらにXXX型トリグリセリド、及び/又はX2Y型トリグリセリドを添加することで、最終的にトリグリセリド含有量を調製する方法である。
また、50~70質量%のXXX型トリグリセリドと50~30質量%のX2Y型トリグリセリドとを含む油脂組成物を調製した後、XXX型トリグリセリドを添加することで、最終的に65~99質量%のXXX型トリグリセリドと35~1質量%のX2Y型トリグリセリドとを含む油脂組成物を調製してもよい(XXX型トリグリセリドの添加による油脂組成物中のトリグリセリド含量の調製)。
さらに、この調製方法(3)には、まず、上記調製方法(1)又は(2)により、XXX型トリグリセリドを65~99質量%とX2Y型トリグリセリドを35~1質量%とを含有する油脂組成物を調製した後、XXX型トリグリセリド及び/又はX2Y型トリグリセリドを更に添加することによって、油脂組成物中のXXX型トリグリセリド及び/又はX2Y型トリグリセリドの含有量を、より好ましい範囲内へ調節する方法も含まれる(XXX型トリグリセリド又はX2Y型トリグリセリド添加による油脂組成物中の一層好適なトリグリセリド含量の調製)。
【0034】
〔工程(b)について〕
工程(a)で得られた油脂組成物が、溶融状態であった場合には、工程(b)を行う必要はないが、工程(a)により得られた油脂組成物が、溶融状態でなかった場合には、工程(a)の後に工程(b)を行い、その後工程(d)を行う必要がある。
工程(b)は、工程(a)で得られた油脂組成物が溶融状態になかった場合に、油脂組成物を加熱して、トリグリセリドを融解し、溶融状態の油脂組成物を得る工程である。
加熱温度は、油脂組成物中に含まれるトリグリセリドの融点以上の温度、特に、XXX型トリグリセリド及びX2Y型トリグリセリドの両方を融解できる温度、例えば、70~200℃であることが好ましく、75~150℃であることがより好ましく、80~100℃であることがさらに好ましい。
また、加熱時間は、例えば、0.5~3時間であることが好ましく、0.5~2時間であることがより好ましく、0.5~1時間であることがさらに好ましい。
【0035】
〔工程(d)について〕
工程(d)は、工程(a)又は工程(b)で得られた溶融状態の油脂組成物を、油脂組成物の融点より低い温度で冷却して油脂組成物を結晶化する工程である。
冷却は、より細かい粉末状の油脂組成物を得るために、油脂組成物を静置した状態で行うのが好ましい。
「油脂組成物の融点より低い温度」とは、例えば、油脂組成物の融点より1~30℃低い温度であることが好ましく、1~20℃より低い温度であることがより好ましく、1~15℃低い温度であることがさらに好ましい。
「油脂組成物の融点より低い温度」、すなわち、工程(d)での冷却温度について、以下に炭素数xの数値ごとに具体的温度を例示する。
炭素数xが10の場合、冷却温度は、10~30℃であることが好ましく、15~25℃であることがより好ましく、18~22℃であることがさらに好ましい。
炭素数xが11又は12の場合、冷却温度は、30~40℃であることが好ましく、32~38℃であることがより好ましく、33~37℃であることがさらに好ましい。
冷却時間は、2時間(120分)以上であることが好ましく、4時間(240分)~6日間であることがより好ましく、6時間~6日間であることがさらに好ましく、6時間~2日間であることがさらにより好ましい。特に、炭素数xが10~12の場合には、2~6日間冷却する場合もある。
【0036】
〔工程(c)について〕
次に、工程(c)について説明をする。工程(c)は、工程(a)から工程(d)を実施する間に任意に行うことができる工程で、油脂組成物の結晶化を促進させる工程である。
なお、工程(a)から工程(d)を実施する間とは、工程(a)の実施中、工程(a)の後で工程(d)の前、又は工程(d)の実施中のことをいう。なお、工程(b)を行う場合には、工程(b)の実施中に行うこともできる。
工程(c)は、シーディング法による方法(c1)、テンパリング法による方法(c2)、予備冷却法による方法(c3)、及びこれらの方法を複数組み合わせた方法により行うことができる。
以下、これらの方法について説明をする。
まず、シーディング法による方法(c1)について説明をする。
シーディング法は、溶融状態にある油脂組成物に対して行う結晶化促進方法で、詳しくは、溶融状態にある油脂組成物に核(種)を少量添加することで油脂組成物の結晶化を促進する方法である。
具体的なシーディング法について、次に例示する。
まず、冷却する油脂組成物に含まれるXXX型トリグリセリドと同じXXX型トリグリセリドを好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上含む油脂粉末を、結晶化の核(種)として準備する。この油脂粉末を、油脂組成物の冷却段階で、当該油脂組成物の品温が、好ましくは工程(d)の冷却温度の±0~+10℃、好ましくは+5~+10℃の温度に到達した時点で、まだ溶融状態にある油脂組成物100質量部に対して、好ましくは0.1~1質量部、より好ましくは0.2~0.8質量部添加することで、油脂組成物の結晶化を促進する。
次に、テンパリング法による方法(c2)について説明をする。
テンパリング法も、溶融状態にある油脂組成物に対して行う結晶化促進方法で、詳しくは、溶融状態にある油脂組成物を、工程(d)の冷却温度よりも低い温度で一定時間冷却した後に、工程(d)の冷却温度で冷却することにより、油脂組成物の粉末化を促進する方法である。
具体的なテンパリング法について、次に例示する。
まず、溶融状態にある油脂組成物を、工程(d)の冷却温度で静置する前に、工程(d)の冷却温度よりも低い温度、例えば、工程(d)の冷却温度よりも5~20℃低い温度、好ましくは7~15℃低い温度、より好ましくは8~12℃低い温度で、好ましくは10~120分間、より好ましくは30~90分間冷却することにより、油脂組成物の結晶化を促進する。この場合の冷却も、油脂組成物を静置して行うのが好ましい。
次に、予備冷却法による方法(c3)について説明をする。
予備冷却法は、前記工程(a)又は(b)で得られた溶融状態の油脂組成物を、工程(d)にて冷却する前に、工程(a)又は(b)で油脂組成物を溶融状態にする温度よりも低く、工程(d)の冷却温度よりも高い温度で予備冷却する方法である。
工程(a)又は(b)で油脂組成物を溶融状態にする温度よりも低く、工程(d)の冷却温度よりも高い温度とは、例えば、工程(d)の冷却温度よりも2~40℃高い温度、好ましくは3~30℃高い温度、より好ましくは4~30℃高い温度、さらに好ましくは5~10℃高い温度である。この予備冷却の温度は、冷却温度に近い温度に設定するほど、工程(d)の冷却温度における本冷却時間をより短くすることができる。
この予備冷却法は、シーディング法やテンパリング法と異なり、冷却温度を段階的に下げることで油脂組成物の結晶化を促進できる方法であり、工業的に製造する場合に利点が大きい。
【0037】
工程(d)で得られた結晶化した油脂組成物は、溶融状態の油脂組成物よりも体積が増加した空隙を有する固体物であるが、この空隙を有した固体物は容易に崩壊して粉末状の物質になるので、特に粉末化工程を設けなくても、結晶化した油脂組成物を容器に充填する充填工程や運搬工程で、固体物の空隙が崩壊して粉末状の物質にすることができる。
また、(d)工程で得られた空隙を有する固体物に、衝撃を与えて粉末化することもできる。衝撃を与える方法は特に限定されないが、例えば、通常の粉砕機を用いて空隙を有する固体物を粉砕する方法、空隙を有する固体物をスパチュラ、ゴムベラ、スコップ等でほぐす方法、容器に入れた空隙を有する固体物を振動させる方法、空隙を有する固体物を篩に掛けて衝撃を加える方法等が挙げられる。
このようにして、本発明の嚥下促進用粉末油脂組成物を製造することができる。
【0038】
<嚥下促進用粉末油脂組成物の用途>
嚥下促進用粉末油脂組成物は、それ自体で嚥下促進剤(嚥下促進用組成物)や冷感付与剤(冷感付与組成物)として使用できる他、従来から公知の嚥下訓練食品や嚥下調整食品、並びにこれらの原料である食品原料に混合して嚥下が促進された食品(嚥下促進食品)として使用することができる。なお、以下において、嚥下促進用粉末油脂組成物を含めた後の食品を「嚥下促進食品」と呼ぶことがあり、嚥下促進用粉末油脂組成物を含める前の嚥下訓練食品や嚥下調整食品等の食品を単に「食品」又は「嚥下用食品」と呼ぶことがある。また、嚥下促進用粉末油脂組成物を含める前の嚥下用食品及び該嚥下用食品の製造に用いられる原料を、まとめて食品原料と呼ぶことがある。
嚥下促進用粉末油脂組成物をそれ自体で使用する場合、食事を口に含む直前、口に含むと同時、又は食事を口に含んだ直後に経口摂取してもよい。嚥下促進用粉末油脂組成物の量は、1回の食事の経口摂取ごとに、例えば0.001~10g、好ましくは0.005~5g、より好ましくは0.01~1g、さらに好ましくは0.05~0.5gが適当である。また、嚥下促進用粉末油脂組成物を食品原料に予め混合して嚥下促進食品として使用する場合、嚥下促進用粉末油脂組成物の量は、嚥下促進食品の全体の質量に対して0.001~30質量%、好ましくは0.05~20質量%、より好ましくは0.01~10質量%、さらに好ましくは0.1~10質量%が適当である。
【0039】
<嚥下促進用粉末油脂組成物を含有する嚥下促進食品>
次に、本発明の嚥下促進用粉末油脂組成物を含有する嚥下が促進された食品(嚥下促進食品)について説明をする。
本発明の嚥下促進食品は、上記嚥下促進用粉末油脂組成物を含有する食品で、該嚥下促進用粉末油脂組成物は食品中で結晶状態として存在している。かかる食品としては、嚥下訓練食、嚥下調整食、キザミ食、ソフト食、濃厚流動食、それらに類似する形態の嚥下用食品等が挙げられる。
嚥下訓練食、嚥下調整食は、日本摂食嚥下リハビリテーション学会誌(「日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2013」、17(3)、255-267頁、2013年)で定義されている食品のことを言い、具体的には次の通りの食品である。
具体的な嚥下訓練食としては、例えば、均質で、付着性・凝集性・かたさに配慮したゼリーで、離水が少なく、スライス状にすくうことが可能なゼリー(嚥下訓練食品0j)や、均質で、付着性・凝集性・かたさに配慮したとろみ水(嚥下訓練食品0t)が挙げられる。
具体的な嚥下調整食としては、例えば、均質で、付着性、凝集性、かたさ、離水に配慮したゼリー・プリン・ムース状のもの(嚥下調整食1j)があり、具体的には、おもゆゼリー、ミキサー粥のゼリー等が挙げられる。
また、嚥下調整食としては、ピューレ食、ペースト食、ミキサー食など、均質でなめらかで、べたつかず、まとまりやすいもので、スプーンですくって食べることが可能なもの(嚥下調整食2-1)も挙げることができ、具体的には、粒がなく,付着性の低いペースト状のおもゆや粥等が挙げられる。
【0040】
さらに、嚥下調整食としては、ピューレ食、ペースト食、ミキサー食(ブレンダー食とも言われる)などで、べたつかず、まとまりやすいもので不均質なものも含み、スプーンですくって食べることが可能なもの(嚥下調整食2-2)を挙げることができ、具体的には、やや不均質(粒がある)でもやわらかく、離水もなく付着性も低い粥類等が挙げられる。
加えて、高齢者ソフト食とも呼ばれる嚥下調整食としては、形はあるが、押しつぶしが容易、食塊形成や移送が容易、咽頭でばらけず、嚥下しやすいように配慮されたもので、多量の離水がないもの(嚥下調整食3)があり、具体的には、離水に配慮した粥などが挙げられる。
また、別の高齢者ソフト食としての嚥下調整食としては、かたさ・ばらけやすさ・貼りつきやすさなどのないもので、箸やスプーンで切れるやわらかさのもの(嚥下調整食4)も挙げられ、具体的には、軟飯・全粥等が挙げられる。
【0041】
キザミ食とは、一般に、咀嚼機能に不具合がある者に配慮して、すでに咀嚼を行ったような形状に食材を細かく切り刻むことにより、咀嚼を行わなくても飲み込みやすく調製した食事形態を言う(国際公開第2011/024827号参照)。さらに食塊形成しやすいように、とろみ調整食品を併用して調整されることも多い。
ソフト食とは、一般に、黒田らにより開発された高齢者用のソフト食で、普通食の形態でありつつも、摂食・嚥下障害のある人も咀嚼しやすく、かつ食塊形成が容易で嚥下しやすい食品を言う(国際公開第2011/024827号参照)。
濃厚流動食とは、一般に、エネルギーや栄養素が少量で手軽に補える流動食品を言う。
【0042】
上記嚥下促進食品は、上記嚥下促進用粉末油脂組成物が食品中に結晶状態で存在する。嚥下促進用粉末油脂組成物が結晶状態で存在することにより、食品が舌の上に置かれた場合に舌を通じて冷感を付与することができ、もって食品の嚥下が促進されると考えられる。
【0043】
<嚥下促進用粉末油脂組成物を含有する嚥下促進食品の製造方法>
嚥下促進用粉末油脂組成物を含有する嚥下促進食品は、先に説明をした嚥下訓練食、嚥下調整食、キザミ食、ソフト食、濃厚流動食、それらに類似する形態の食品等をベースとする嚥下促進食品を製造する時に、嚥下促進用粉末油脂組成物を、嚥下促進用粉末油脂組成物を含める前の嚥下用食品や該嚥下用食品とする前の原料に混合することにより製造することができる。
また、既に製造された嚥下訓練食、嚥下調整食、キザミ食、ソフト食、濃厚流動食等、それらに類似する形態の嚥下用食品に、嚥下促進用粉末油脂組成物をふりかけたり、混合したりして作ることもできるため、簡単に嚥下促進食品を作ることができる。
嚥下訓練食、嚥下調整食、キザミ食、ソフト食、濃厚流動食等、それらに類似する形態の嚥下用食品等は、公知の方法で製造することができる。
また、嚥下訓練食、嚥下調整食、キザミ食、ソフト食、濃厚流動食、それらに類似する形態の嚥下用食品等の食品原料は、市販品を使用することができ、これらの嚥下用食品に、嚥下促進用粉末油脂組成物をふりかけたり、混合したりして簡単に嚥下促進食品を作ることもできる。
上述した嚥下訓練食品0jの市販品としては、例えば、ニュートリー(株)販売の商品「アイソトニックゼリー」、(株)大塚製薬工場販売の商品「エンゲリード アップルゼリー」、「エンゲリード グレープゼリー」等が挙げられる。
嚥下訓練食品0tについては、市販品としてその原料が販売されており、例えば、日清オイリオグループ(株)販売の商品「トロミアップパーフェクト」「トロミアップやさしいとろみ」、(株)クリニコ販売の商品「つるりんこ シリーズ」、ニュートリー(株)販売の商品「ソフティア シリーズ」、(株)フードケア販売の商品「ネオハイトロミールシリーズ」等が挙げられる。これらの原料を使って作った嚥下訓練食品0tに、嚥下促進用粉末油脂組成物をふりかけたり、混合したりすることで、嚥下促進用粉末油脂組成物を含有する嚥下促進食品を作ることができる。
【0044】
嚥下調整食1jの市販品としては、例えば、日清オイリオグループ(株)販売の商品「エネプリン」、「やわからおかずエネカップ」、「プロキュアプチプリン」、「トウフィール」、「MCTトウフィール」、(株)クリニコ販売の商品「エンジョイゼリー」、(株)フードケア販売の商品「エプリッチゼリー」、キッセイ薬品工業(株)販売の商品「カップアガロリー」、ニュートリー(株)販売の商品「はい!ババロア」等が挙げられる。
嚥下調整食2-1の市販品としては、例えば、ヘルシーフード(株)販売の商品「エナチャージ アップル風味」、ホリカフーズ(株)販売の商品「おいしくミキサー」、キユーピー(株)販売の商品「やさしい献立 なめらかおかず」、「やさしい献立 なめらか野菜」、マルハニチロ(株)販売の商品「やわとろ おいしさ満点食堂」、キッセイ薬品工業(株)販売の商品「やわらかカップ」等が挙げられる。
嚥下調整食2-2の市販品としては、例えば、ホリカフーズ(株)販売の商品「おいしくミキサー」、ニュートリー(株)販売の商品「ブレンダー食」、ヘルシーフード(株)販売の商品「パンがゆミックス ミルク風味」等が挙げられる。
嚥下調整食3の市販品としては、例えば、キユーピー(株)販売の商品「やさしい献立 やわらかおかず」、マルハニチロ(株)販売の商品「もっとエネルギーパワーライス」、日東ベスト(株)販売の商品「エスジー(SG)なめらかポーク」、「エスジー(SG)なめらかほうれん草」、(株)フードケア販売の商品「ふっくら白がゆ」、「ふっくらおはぎ」、(株)タカキベーカリー販売の商品「らくらく食パン」、キッセイ薬品工業(株)販売の商品「やわらかあいディッシュ」、大和製罐(株)販売の商品「エバースマイル 肉じゃが」、「エバースマイル ビーフカレー」等が挙げられる。
嚥下調整食4の市販品としては、例えば、キユーピー(株)販売の商品「やさしい献立 鶏と野菜のシチュー」、「やさしい献立 貝柱のマカロニグラタン」、(株)フードケア販売の商品「やわらかしゃりシリーズ」、旭松食品(株)販売の商品「カットグルメ ほうれん草の白和え」、アサヒグループ食品(株)販売の商品「バランス献立 すき焼き」、「バランス献立 鶏肉のクリーム煮」、マルハニチロ(株)販売の商品「もっとエネルギーおかずシリーズ」、フジッコ(株)販売の商品「ソフトデリ漬物」、「ソフトデリ煮豆」等が挙げられる。
【0045】
濃厚流動食の市販品としては、例えば、日清オイリオグループ(株)販売の「プロキュアZ バナナ味」、(株)明治販売の「明治メイバランスMiniカップ白桃ヨーグルト味」、(株)クリニコ販売の「CZ-Hi(シーゼット・ハイ)」、キユーピー(株)販売の「ファインケア バナナ味」、テルモ(株)販売の「テルミールミニコーンスープ味」、ネスレ日本(株)販売の「メディミル ロイシンプラス バニラ風味」、「アイソカル・100 コーヒー味」等が挙げられる。
また、嚥下促進食品中に嚥下促進用粉末油脂組成物が結晶状態で存在させるために、嚥下促進用粉末油脂組成物を食品原料に混合して嚥下促進食品を製造する際には、嚥下促進用粉末油脂組成物が融解する温度以上に加熱をしないことが好ましい。
【0046】
<嚥下の促進方法>
嚥下促進用粉末油脂組成物は、それ自体で、又は食品原料と混合した食品の形態で、嚥下の促進方法に利用することができる。具体的には、嚥下促進用粉末油脂組成物それ自体で、或いは、嚥下促進用粉末油脂組成物を食品原料に混合して、当該嚥下促進用粉末油脂組成物が結晶状態で存在する嚥下が促進された食品を得る工程、及び、当該嚥下が促進された食品を経口的に摂取させる工程、とを含む、嚥下の促進方法を提供することができる。ここで、嚥下の促進方法は、人や動物に対する医療行為を含んでいても含んでいなくてもよい。嚥下の促進に適した量は、上述した嚥下促進用粉末油脂組成物の量の通りである。嚥下の促進方法は、嚥下促進用粉末油脂組成物をそれ自体で使用する場合、食事を口に含む前、口に含むと同時、又は食事を口に含んだ後に経口摂取してもよい。嚥下促進用粉末油脂組成物を含む嚥下が促進された食品を提供する場合、当該嚥下促進食品のみを食事として摂取させる場合の他、他の食品と交互に、又は2~10回若しくは3~5回に1回の割合で嚥下促進食品を摂取させてもよい。
【0047】
次に、実施例により本発明の効果を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例0048】
製造例1〔XXX型トリグリセリド(トリカプリン)の合成〕
攪拌機、温度計、窒素ガス吹込管及び水分分離機を備えた3000mLの四つ口フラスコに、グリセリン(阪本薬品工業社製)288.9g(3.14mol)とカプリン酸{Palmac99-10(アシッドケム社製)}1911.2g(11.1mol;グリセリン1モルに対して3.5モル)とを仕込んだ。窒素気流下、180℃で2時間反応をさせた後、250℃に昇温し10時間反応させた。過剰のカプリン酸を170℃、400Pa(3Torr)の減圧下にて留去した後、脱色・濾過、脱臭を行い、50℃において淡黄色液状の反応物(トリカプリン)を1505g得た。
【0049】
製造例2〔嚥下促進用粉末油脂組成物(COF)の製造〕
攪拌機、温度計、窒素ガス吹込管及び水分分離機を備えた500mLの四つ口フラスコに、グリセリン(阪本薬品工業社製)44.4g(0.482mol)と、ミリスチン酸(Palmac98-14(アシッドケム社製))25.6g(0.112mol)とカプリン酸(Palmac99-10(アシッドケム社製))265.6g(1.541mol)を仕込み、窒素気流下、250℃の温度で15時間反応させた。過剰のカプリン酸を190℃、減圧下にて留去した後、脱色・濾過、脱臭を行い、50℃において淡黄色液状の反応物を186g得た(x=10、y=14、XXX型:80.6質量%、X2Y型:17.0質量%)。得られた反応物80gと、製造例1のトリカプリン120gを混合し原料油脂とした。得られた原料油脂を80℃で0.5時間維持して完全に融解した。
また、製造例1のトリカプリンを用いて、油脂粉末(核(種))を調製した。具体的には、製造例1のトリカプリン約100gを液体窒素で冷却固化させ、冷却固化したものを凍結粉砕機(アズワン株式会社製)で粉砕することにより油脂粉末(核(種))を調製した。
次に、原料油脂を27℃恒温槽にて品温が27℃になるまで冷却した後、調製した油脂粉末(核(種))を原料油脂に対して0.1質量%添加し、20℃恒温槽にて6時間静置することで油脂組成物を結晶化し、体積が増加した空隙を有する固形物を得た(シーディング法)。得られた固体物を、スパチュラでほぐすことで嚥下促進用粉末油脂組成物(以下、「COF」とも言う)を得た。
【0050】
・融点
得られた嚥下促進用粉末油脂組成物(COF)の融点は29℃であった。
・組成
また、以下に示す条件で、得られた嚥下促進用粉末油脂組成物(COF)のトリグリ組成分析した結果、嚥下促進用粉末油脂組成物(COF)は、全トリグリセリド含有量を100質量%とした場合、1位~3位に炭素数10の脂肪酸残基X(カプリン酸残基)を有する、XXX型トリグリセリドを91.9質量%、XXX型トリグリセリドの脂肪酸残基X(カプリン酸残基)の1つを炭素数14の脂肪酸残基Y(ミリスチン酸残基)に置換したX2Y型トリグリセリドを6.8質量%含有するものであった。
[分析方法]
・トリグリセリド組成
ガスクロマトグラフィー分析条件
DB1-ht(0.32mm×0.1μm×5m)Agilent Technologies社(123-1131)
注入量 :1.0μL
注入口 :370℃
検出器 :370℃
スプリット比 :50/1 35.1kPa コンスタントプレッシャー
カラムCT :200℃(0min hold)~(15℃/min)~370℃(4min hold)
【0051】
・平均粒径
また、得られた嚥下促進用粉末油脂組成物(COF)の平均粒径を、粒度分布測定装置(日機装株式会社製、装置名:Microtrac MT3300ExII)で、レーザー回折散乱法(ISO133201、及びISO9276-1)に基づいて、湿式測定により測定した。
具体的には、粒度分布測定装置に極小容量循環器(日機装株式会社製、装置名:USVR)を取り付け、分散溶媒として水を循環させた。また、100mlビーカーに試料を0.06g、中性洗剤を0.6g入れ、スパチュラで混合し、混合後に水を30ml加え、超音波洗浄器(アイワ医科工業株式会社製、装置名:AU-16C)に1分間供したものを滴下、循環させて測定した。得られた粒度分布における積算値50%の粒径の測定値(d50)を平均粒径とした。
その結果、製造例2の嚥下促進用粉末油脂組成物(COF)の平均粒径(d50)は、10.3μmであった。
【0052】
・ゆるめ嵩密度
実施例で使用した嚥下促進用粉末油脂組成物(COF)のゆるめ嵩密度(g/cm3)は、ホソカワミクロン(株)のパウダテスタ(登録商標)(model PT-X)で測定した。
具体的には、パウダテスタ(登録商標)に試料を仕込み、試料を仕込んだ上部シュートを振動させ、試料を自然落下により下部の測定用カップ(寸法:直径5cm、高さ4.5cmの円柱)に落とす。測定用カップから盛り上がった試料はすり落とし、受器の内容積(100cm3)分の試料の質量(Ag)を秤量し、以下の式からゆるめ嵩密度を求めた。
ゆるめ嵩密度(g/cm3)=A(g)/100(cm3
その結果、得られた嚥下促進用粉末油脂組成物(COF)のゆるめ嵩密度は、0.19g/cm3であった。
【0053】
[実験例]
上述のようにして得られた嚥下促進用粉末油脂組成物(COF)、及び比較例として米粉(まつや株式会社製「ごっくん粥」)を採用し、以下の実験を行った。なお、実施例1は比較例1と比べて嚥下促進用粉末油脂組成物(COF)又は米粉(Rice)の質量を同じとした試験であり、実施例2は比較例1と比べて嚥下促進用粉末油脂組成物(COF)又は米粉(Rice)の容量を同じとした試験である。

実施例1(COF-W):嚥下促進用粉末油脂組成物(COF)を0.2g
実施例2(COF-V):嚥下促進用粉末油脂組成物(COF)を0.05g
比較例1(Rice):米粉0.2g

実験1:冷感試験
実験2:嚥下試験

以下、これらの実験について詳細に説明する。
【0054】
[実験1]冷感試験
実施例及び比較例の嚥下促進用粉末油脂組成物(COF)又は米粉(Rice)を図1に示す舌表面のT(舌尖又は先端部(tip))、M(舌中央又は中央部(mid))、P(奥舌又は後方部(post))、L(舌縁又は側部(lateral))の全て又はいずれかの位置に適宜配置し、[実験1-1]としてサーモグラフィーによる経時変化(0秒及び60秒後)を観測すると共に、[実験1-2]及び[実験1-3]として27名のパネラーによる冷感の官能試験を行った。
[実験1-1]のサーモグラフィーによる経時変化試験は、舌表面の上記M(舌中央又は中央部(mid))の位置に実施例又は比較例の組成物を配置した際のサーモグラフィーによる温度測定を行い(0秒)、60秒後に再度温度測定を行い、経時変化を観察した。またコントロールとして実施例又は比較例の組成物を配置しない場合のサーモグラフィーによる経時変化も観察した。結果を図2に示す。図2の各サーモグラフィーは、図1のような奥舌を写真上部とし、舌尖を写真下部として撮影されたものである。実施例1の嚥下促進用粉末油脂組成物(COF)0.2gを配置した場合は60秒後でも低温を維持しているが、比較例1の米粉0.2gを配置した場合は60秒後に低温を維持できておらず、本発明の嚥下促進用粉末油脂組成物(COF)が冷感を維持するのに適していることがわかる。
【0055】
[実験1-2]の27名のパネラーによる冷感の官能試験
健常若年者27名(男性13名、女性14名、平均年齢±標準偏差:26.8±3.8歳)の専門パネラーにより、実施例及び比較例の組成物等を舌の上に配置したときの冷感について、官能試験を行った。具体的には、まず、パネラーの舌表面のT(舌尖又は先端部(tip))、M(舌中央又は中央部(mid))、P(奥舌又は後方部(post))、L(舌縁又は側部(lateral))のいずれかの位置に実施例及び比較例の組成物等を配置し(時点A)、パネラーが最初に冷感を感じた時点を測定し(時点B)、その後冷感を感じ終えた(冷感がなくなった)時点を測定した(時点C)。時点AからBまでの冷感を最初に感じるまでの時間(冷感潜時、B-A(秒))を図3に示すと共に、時点BからCまでの冷感を最初に感じてから冷感がなくなるまでの時間(冷感持続時間、C-B(秒))を図4に示した。
その結果、比較例1に比べて実施例1及び2は舌のどの位置に置いても冷感を最初に感じるまでの時間が有意に短かった(図3)。また、比較例1に比べて実施例1及び2は舌のどの位置に置いても冷感を最初に感じてから冷感がなくなるまでの時間が有意に長かった(図4)。
【0056】
[実験1-3]27名のパネラーによる冷感の強さの官能試験
上記[実験1-2]の実験後、全てのパネラーに、感じた冷感の強さを「冷たくない(0)」~「最高に冷たい(想像できる最大の冷たさ)(100)」のVASスケールで評価させた。その結果を図5に示す(図5中縦軸がVASスケール)。図5に示されるように、比較例1に比べて実施例1及び2は舌のどの位置に置いても強く冷感を感じていることがわかった。
【0057】
[実験2]嚥下試験
実施例及び比較例の嚥下促進用粉末油脂組成物(COF)又は米粉(Rice)が[実験2-1]嚥下衝動及び[実験2-2]随意嚥下へどのような影響を与えるかについて検討した。
[実験2-1]嚥下衝動
上記[実験1-2]の実験後、全てのパネラーに、嚥下衝動の強さを「嚥下したい感覚は全くない(0)」~「最高に嚥下したい感覚である(想像できる最大の嚥下衝動)(100)」のVASスケールで評価させた。その結果を図6に示す(図6中縦軸がVASスケール)。ここで、嚥下衝動とは、嚥下、即ち飲み込みたくなる衝動に駆られる現象である。その結果、M(舌中央又は中央部(mid))よりもP(奥舌又は後方部(post))において有意に嚥下衝動が大きいことが認められた。
【0058】
[実験2-2]随意嚥下
上記[実験2-1]で嚥下衝動が大きく観察できたP(奥舌又は後方部(post))の位置(図1)において実施例及び比較例の嚥下促進用粉末油脂組成物(COF)又は米粉(Rice)が随意嚥下に与える影響を検証した。ここで随意嚥下とは、嚥下を繰り返し行うこと、を意味し、随意嚥下の試験は、一定期間内に何回繰り返し嚥下を行うことができるかを測定することによって評価した。
具体的には、まず、健常若年者20名(男性9名、女性11名、平均年齢±標準偏差:26.6±3.9歳)の専門パネラーに、以下の実施例及び比較例の組成物等を以下の通り繰り返し嚥下させた。
実施例1(COF-W):嚥下促進用粉末油脂組成物(COF)を0.2g
比較例2(C10R):カプリン酸トリグリセリド含有液状中鎖脂肪酸油(日清オイリオグループ株式会社製日清MCT C10R)を0.2g
コントロール1:MCT(液状中鎖脂肪酸油(MCT)、日清オイリオグループ株式会社製「日清MCTオイル」)0.04gを水950μlに加えて調製)を0.1mL
コントロール2:l-メントール(1×10-1M水溶液、l-メントール0.016gにMCT(液状中鎖脂肪酸油(MCT)、日清オイリオグループ株式会社製「日清MCTオイル」)0.04gを混合溶解させ、水950μlを加えて調製)を0.1mL
【0059】
随意嚥下の試験は、以下のようにして行った。
(1)口腔内の唾液を集めて1回嚥下させる。
(2)コントロール1又は2を口腔内に投与し、口腔内に行きわたらせるよう指示し、10秒後に1回嚥下させる。
(3)(2)終了後から10秒経過後、舌上P(奥舌又は後方部(post))の位置に実施例1又は比較例2を配置する。
(4)(3)終了後から5秒経過後、口腔内で舌を上方に持ち上げる(挙上する)よう指示する。
(5)(4)終了後から5秒経過後、随意嚥下測定検査(modified repetitive saliva swallowing test,mRSST、本来30秒のRSSTを15秒に修正)を15秒間実施する。
【0060】
ここで、上記(1)~(4)は、随意嚥下の試験の前段階であり、(5)のmRSSTが随意嚥下の中心となる試験である。mRSST(随意嚥下測定検査)とは、15秒間にできるだけ早く嚥下するテストであり、15秒間に嚥下できた回数と初回嚥下までに要した時間を測定する。各回の嚥下において毎回実施例1又は比較例2の組成物等を追加することは行なわず、1回目の嚥下の際にのみ(3)で配置した組成物等を嚥下し、2回目以降は口腔内に残った組成物等を嚥下することになる。結果を図8(15秒間に嚥下できた回数)及び図9(初回嚥下までに要した時間)に示す。図8に示すように、コントロール1及び2のいずれを使用した場合においても、比較例2よりも実施例1の方が嚥下できた回数が多いことがわかる。また、図9に示すように、コントロール1及び2のいずれを使用した場合においても、比較例2と実施例1の初回嚥下までに要した時間に有意差はなかった。この図9の結果から、図8の嚥下回数の結果が、口腔内の唾液量や口腔内の環境等の別の要素により嚥下回数が変動したのではなく、実施例1の嚥下促進用粉末油脂組成物(COF)の存在によるところが大きいことがわかった。
【0061】
なお、予備試験として、mRSSTを4回繰り返した後のパネラーの疲労度を測定した(図7)。具体的には、健常若年者10名(女性10名、平均年齢±標準偏差:26.3±3.8歳)の専門パネラーに、以下の(6a)又は(6b)~(8)の試験を4回繰り返し、1回目から4回目のそれぞれにおける(7)のmRSSTの嚥下回数の平均値を嚥下回数として測定した。

(6a)25℃の水0.1mLを口腔内に投与して、これを口腔内に行きわたらせるよう指示し、10秒後に1回嚥下させる。
(6b)25℃の水0.1mLを口腔内に投与せず、(6a)と同じ口腔内に行きわたらせる動作を行うよう指示し、10秒後に1回嚥下動作を行わせる。
(7)(6a)又は(6b)終了後から10秒経過後、mRSSTを実施する。
(8)25℃の水で口腔内をリンスさせ、(7)のmRSST終了後から(6a)又は(6b)まで2分間のインターバルを置く。

具体的には、(6a)→(7)→(8)→(6b)→(7)→(8)→(6a)→(7)→(8)→(6b)→(7)の順で(7)のmRSSTを4回繰り返した。各回のmRSSTの嚥下回数を記録して、テストの繰り返しによる疲労感を評価した。その結果、1回目から4回目にかけて嚥下回数に有意な差は見られず、mRSSTを繰り返し行ってもパネラーが疲労して嚥下回数に影響することはないことを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の嚥下促進用粉末油脂組成物は、食品分野、特に介護用の食品分野において広く利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9