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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022027077
(43)【公開日】2022-02-10
(54)【発明の名称】磁気記録再生装置
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/70 20060101AFI20220203BHJP
   G11B 5/706 20060101ALI20220203BHJP
   G11B 5/78 20060101ALI20220203BHJP
   G11B 5/584 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
G11B5/70
G11B5/706
G11B5/78
G11B5/584
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020130866
(22)【出願日】2020-07-31
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】中野 愛
(72)【発明者】
【氏名】村田 悠人
【テーマコード(参考)】
5D006
【Fターム(参考)】
5D006BA02
5D006BA06
5D006CA04
5D006CC02
5D006EA01
5D006FA03
(57)【要約】
【課題】磁気テープに対するデータの記録および/または再生において、良好に記録および/または再生を行うことを可能にするための手段を提供すること。
【解決手段】磁気記録再生装置中の密閉空間内に磁気テープと磁気ヘッドとを含み、温度21℃相対湿度50%の環境において測定される上記密閉空間内の相対湿度RHと温度60℃相対湿度5%の環境において測定される上記密閉空間内の相対湿度RHとの相対湿度差(RH-RH)が±10%以内である磁気記録再生装置。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気記録再生装置であって、
前記磁気記録再生装置中の密閉空間内に、
磁気テープと、
磁気ヘッドと、
を含み、
温度21℃相対湿度50%の環境において測定される前記密閉空間内の相対湿度RHと温度60℃相対湿度5%の環境において測定される前記密閉空間内の相対湿度RHとの相対湿度差、RH-RH、が、±10%以内である、磁気記録再生装置。
【請求項2】
前記相対湿度差、RH-RH、が±5%以内である、請求項1に記載の磁気記録再生装置。
【請求項3】
前記密閉空間内に湿度センサを更に含む、請求項1または2に記載の磁気記録再生装置。
【請求項4】
前記磁気テープは、非磁性支持体と、強磁性粉末を有する磁性層と、を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の磁気記録再生装置。
【請求項5】
前記強磁性粉末は、六方晶バリウムフェライト粉末である、請求項4に記載の磁気記録再生装置。
【請求項6】
前記強磁性粉末は、六方晶ストロンチウムフェライト粉末である、請求項4に記載の磁気記録再生装置。
【請求項7】
前記強磁性粉末は、ε-酸化鉄粉末である、請求項4に記載の磁気記録再生装置。
【請求項8】
前記磁気テープは、前記非磁性支持体と前記磁性層との間に、非磁性粉末を含む非磁性層を更に有する、請求項4~7のいずれか1項に記載の磁気記録再生装置。
【請求項9】
前記磁気テープは、前記非磁性支持体の前記磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を更に有する、請求項4~8のいずれか1項に記載の磁気記録再生装置。
【請求項10】
前記磁気テープのテープ厚みは5.6μm以下である、請求項1~9のいずれか1項に記載の磁気記録再生装置。
【請求項11】
前記磁気テープのテープ厚みは5.2μm以下である、請求項1~10のいずれか1項に記載の磁気記録再生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体にはテープ状のものとディスク状のものがあり、データバックアップ、アーカイブ等のデータストレージ用途には、テープ状の磁気記録媒体、即ち磁気テープが主に用いられている(例えば特許文献1および特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第10559328号明細書
【特許文献2】特開平6-203546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁気テープへのデータの記録は、通常、磁気テープが収容された磁気テープカートリッジを磁気記録再生装置(一般に「ドライブ」と呼ばれる。)へ挿入し、磁気テープカートリッジのリールと磁気記録再生装置に内蔵されている巻取りリールとの間で磁気テープを走行させ、磁気ヘッドを磁気テープのデータバンドに追従させてデータバンド上にデータを記録することにより行われる。これにより、データバンドにデータトラックが形成される。また、記録されたデータの再生時にも、通常、磁気テープカートリッジのリールと磁気記録再生装置に内蔵されている巻取りリールとの間で磁気テープを走行させ、磁気ヘッドを磁気テープのデータバンドに追従させてデータバンド上に記録されたデータの読み取りを行う。
【0005】
記録および/または再生が行われる際、磁気テープの変形(中でもテープ幅寸法の変化)によって、データを記録および/または再生するための磁気ヘッドが狙いのトラック位置からずれてデータの記録および/または再生を行ってしまうと、記録不良(例えば記録済データの上書き等)、再生不良(例えばデータの読み取り不良)等の現象が発生してしまう。他方、近年、磁気テープの高容量化のために、データトラックのトラック幅の狭小化へのニーズは高まっている。しかし、トラック幅を狭小化するほど、上記現象が顕在化し易い傾向がある。したがって、記録および/または再生における上記現象の発生を抑制することが、今後一層求められることが予想される。
【0006】
以上に鑑み、本発明の一態様は、磁気テープに対するデータの記録および/または再生において、良好に記録および/または再生を行うことを可能にするための手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、
磁気記録再生装置であって、
上記磁気記録再生装置中の密閉空間内に、
磁気テープと、
磁気ヘッドと、
を含み、
温度21℃相対湿度50%の環境において測定される上記密閉空間内の相対湿度RHと温度60℃相対湿度5%の環境において測定される上記密閉空間内の相対湿度RHとの相対湿度差(RH-RH)が、±10%以内である、磁気記録再生装置、
に関する。上記の「RH」は、Relative Humidityの略称である。
【0008】
一形態では、上記相対湿度差(RH-RH)は、±5%以内であることができる。
【0009】
一形態では、上記磁気記録再生装置は、上記密閉空間内に湿度センサを更に含むことができる。
【0010】
一形態では、上記磁気テープは、非磁性支持体と、強磁性粉末を有する磁性層と、を有することができる。
【0011】
一形態では、上記強磁性粉末は、六方晶バリウムフェライト粉末であることができる。
【0012】
一形態では、上記強磁性粉末は、六方晶ストロンチウムフェライト粉末であることができる。
【0013】
一形態では、上記強磁性粉末は、ε-酸化鉄粉末であることができる。
【0014】
一形態では、上記磁気テープは、上記非磁性支持体と上記磁性層との間に、非磁性粉末を含む非磁性層を更に有することができる。
【0015】
一形態では、上記磁気テープは、上記非磁性支持体の上記磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を更に有することができる。
【0016】
一形態では、上記磁気テープのテープ厚みは、5.6μm以下であることができる。
【0017】
一形態では、上記磁気テープのテープ厚みは、5.2μm以下であることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一態様によれば、磁気テープに対するデータの記録および/または再生において、良好に記録および/または再生を行うことを可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】データバンドおよびサーボバンドの配置例を示す。
図2】LTO(Linear Tape-Open) Ultriumフォーマットテープのサーボパターン配置例を示す。
図3】磁気記録再生装置の構成例を示す。
図4】磁気記録再生装置の他の構成例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一態様は、磁気記録再生装置に関する。上記磁気記録再生装置は、磁気記録再生装置中の密閉空間内に、磁気テープと、磁気ヘッドと、を含む。温度21℃相対湿度50%の環境において測定される上記密閉空間内の相対湿度RHと温度60℃相対湿度5%の環境において測定される上記密閉空間内の相対湿度RHとの相対湿度差(RH-RH)は、±10%以内である。
【0021】
本発明および本明細書において、「磁気記録再生装置」とは、磁気テープへのデータの記録および磁気テープに記録されたデータの再生の一方または両方を行うことができる装置をいうものとする。
先に説明したように、記録および/または再生が行われる際、磁気テープの変形(中でもテープ幅寸法の変化)によって、データを記録および/または再生するための磁気ヘッドが狙いのトラック位置からずれてデータの記録および/または再生を行ってしまうと、記録不良、再生不良等の現象が発生してしまう。この現象の発生原因である磁気テープの変形は、記録時と再生時との環境変化、先に記録が行われた際とその後に記録が行われる際との環境変化、先に再生が行われた際とその後に再生が行われる際との環境変化等の環境変化に起因して発生すると考えられる。環境変化に関して、先に示した特許文献1(米国特許第10559328号明細書)では、データストレージライブラリ内の環境を、ライブラリ毎の個別空調によって制御することが提案されている。しかし、そのような制御を行うためには、大規模な設備の導入、電力消費量の増加等によって多大なコストを要してしまう。
ところで、磁気記録媒体として磁気テープを用いる磁気記録再生装置では、通常、磁気ヘッドは磁気記録再生装置に内蔵されるのに対し、磁気テープは取り外し可能な媒体(いわゆる可換媒体)として扱われる。磁気テープを収容した磁気テープカートリッジが磁気記録装置に挿入され、磁気テープカートリッジのリールと磁気記録再生装置に内蔵されている巻取りリールとの間で磁気テープを走行させて磁気テープへのデータの記録および/または磁気テープに記録されたデータの再生が行われた後、磁気テープは磁気テープカートリッジに収容されて、磁気テープカートリッジごと磁気記録再生装置から取り出される。
これに対し本発明者は鋭意検討を重ねた結果、磁気テープを磁気ヘッドとともに磁気記録再生装置中の密閉空間内に収容し、この密閉空間内の湿度変化を低減することによって、上記の環境変化に起因するテープ変形(例えばテープ幅の変化)を抑制することが可能になることを新たに見出した。尚、先に示した特許文献2(特開平6-203546号公報)には、磁気ヘッド、磁気記録媒体等を筐体中に密閉することは提案されているものの(特開平6-203546号公報の請求項1等)、筐体中の湿度変化を抑制すべきことは何ら示唆されていない。
【0022】
以下、上記磁気記録再生装置について、更に詳細に説明する。
【0023】
[密閉空間]
上記磁気記録再生装置では、磁気テープおよび磁気ヘッドは、磁気記録再生装置中の密閉空間内に収容されている。本発明および本明細書において、「密閉空間」とは、JIS Z 2331:2006 ヘリウム漏れ試験方法に規定されているヘリウム(He)を使用する浸せき法(ボンビング法)によって評価される密閉度が10×10-8Pa・m/秒以下である空間をいうものとする。密閉空間の密閉度は、例えば、5×10―9Pa・m/秒以上10×10-8Pa・m/秒以下であることができ、または上記範囲を下回ってもよい。一形態では、筐体中の空間全体が上記密閉空間であることができ、他の一形態では筐体中の一部空間が上記密閉空間であることができる。
【0024】
上記密閉空間は、磁気記録再生装置の全体または一部を覆う筐体の内部空間であることができる。筐体の材質および形状は特に限定されず、例えば、通常の磁気記録再生装置の筐体の材質および形状と同様であることができる。一例として、筐体の材質としては、金属、樹脂等を挙げることができる。
【0025】
[密閉空間内の相対湿度差(RH-RH)]
上記密閉空間内について測定される相対湿度差(RH-RH)は、±10%以内、即ち-10%~+10%の範囲である。このように環境の違いによっても湿度の変化が少ない密閉空間内に磁気テープが収容されることによって、先に記載した環境変化に起因するテープ変形(例えばテープ幅の変化)を抑制することが可能になるため、磁気テープに対するデータの記録および/または再生において、良好に記録および/または再生を行うことが可能になると、本発明者は考えている。より良好に記録および/または再生を行うことを可能にする観点からは、相対湿度差(RH-RH)は、±9%以内であることが好ましく、±8%以内、±7%以内、±6%以内、±5%以内、±4%以内、±3%以内の順により好ましい。上記相対湿度差(RH-RH)は、0%、0%以上、0%超、±1%以上であることができ、値が小さいほど、より良好に記録および/または再生を行うことを可能にする観点から好ましい。
【0026】
上記密閉空間内の相対湿度差は、以下の方法によって測定される。
上記磁気記録再生装置全体を、雰囲気温度21℃相対湿度50%の環境に24時間以上置くことで同環境に慣らした後、同環境において磁気記録再生装置中の密閉空間内の湿度を測定する。こうして測定される相対湿度が、相対湿度RHである。
上記測定後、上記磁気記録再生装置全体を、雰囲気温度60℃相対湿度5%の環境に24時間以上置くことで同環境に慣らした後、同環境において磁気記録再生装置中の密閉空間内の湿度を測定する。こうして測定される相対湿度が、相対湿度RHである。
こうして測定された相対湿度RHとRHから、相対湿度差(RH-RH)を算出する。
このように大きな環境変化に晒されても湿度変化が少ない密閉空間内に磁気テープが収容されていることが、先に記載した環境変化に起因するテープ変形(例えばテープ幅の変化)を抑制することが可能になる理由と本発明者は考えている。尚、上記測定を行う環境の温度および湿度は、大きな環境変化の例示であって、上記磁気記録再生装置が使用される環境および保管される環境の温度および湿度は、上記温度および湿度に限定されるものではない。
【0027】
上記密閉空間内の湿度の測定は、例えば、密閉空間内に配置されている湿度センサを用いて行うことができる。湿度センサとしては、空間内の湿度の測定および測定結果の外部へ送信が可能な公知の湿度センサを用いることができる。また、湿度センサとしては、湿度に加えて温度も測定可能な温湿度センサを用いることもできる。
【0028】
上記密閉空間内に磁気ヘッドとともに磁気テープが収容されていることは、可換媒体として磁気テープを扱う従来の磁気記録再生装置とは異なり、磁気テープ近傍の湿度環境の制御を容易にすることに寄与し得る。また、密閉空間とすることで、詳細を後述する非磁性支持体が、吸湿および/または放湿することによって、密閉空間内の相対湿度を一定に保つことに寄与し得ると本発明者は考えている。
【0029】
また、上記密閉空間内の相対湿度差の制御手段としては、以下の手段も例示できる。
【0030】
密閉空間とするために空間を封止する密閉工程を実施する環境(以下、「密閉時周囲環境」と呼ぶ。)の温度および/または湿度を制御する。密閉時周囲環境としては、雰囲気温度16℃以上の環境が好ましく、20℃以上であることがより好ましく、30℃以上であることが更に好ましく、30~50℃の範囲であることが一層好ましい。また、密閉時周囲環境の相対湿度は、70%以下であることが好ましく。60%以下であることがより好ましい。密閉時周囲環境の相対湿度は、例えば10~60%の範囲であることができる。密閉工程は、密閉される空間を密閉時周囲環境に十分馴染ませた後(例えば同環境に10日間以上置いた後)に行うことが好ましい。
【0031】
密閉空間内に調湿剤を配置する。調湿剤としては、例えば市販品を使用することができる。市販の調湿剤の具体例としては、LIXIL社製エコカラット、古川電工社製ドライキーパー、帝人社製ベルサニードライ等を挙げることができる。ただし使用可能な調湿剤は、これらに限定されない。
【0032】
[磁気テープ]
上記磁気記録再生装置において、上記密閉空間内に収容されている磁気テープは、非磁性支持体と、強磁性粉末を含む磁性層と、を有する磁気テープであることができる。
【0033】
<非磁性支持体>
非磁性支持体(以下、単に「支持体」とも記載する。)としては、二軸延伸を行ったポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリアミド等の公知のものが挙げられる。
【0034】
上記磁気テープの非磁性支持体は、一形態では、芳香族ポリエステル支持体であることができる。本発明および本明細書において、「芳香族ポリエステル」とは、芳香族骨格および複数のエステル結合を含む樹脂を意味し、「芳香族ポリエステル支持体」とは、少なくとも1層の芳香族ポリエステルフィルムを含む支持体を意味する。「芳香族ポリエステルフィルム」とは、このフィルムを構成する成分の中で質量基準で最も多くを占める成分が芳香族ポリエステルであるフィルムをいうものとする。本発明および本明細書における「芳香族ポリエステル支持体」には、この支持体に含まれる樹脂フィルムがすべて芳香族ポリエステルフィルムであるものと、芳香族ポリエステルフィルムと他の樹脂フィルムとを含むものとが包含される。芳香族ポリエステル支持体の具体的態様としては、単層の芳香族ポリエステルフィルム、構成成分が同じ2層以上の芳香族ポリエステルフィルムの積層フィルム、構成成分が異なる2層以上の芳香族ポリエステルフィルムの積層フィルム、1層以上の芳香族ポリエステルフィルムおよび1層以上の芳香族ポリエステル以外の樹脂フィルムを含む積層フィルム等を挙げることができる。積層フィルムにおいて隣り合う2層の間に接着層等が任意に含まれていてもよい。また、芳香族ポリエステル支持体には、一方または両方の表面に蒸着等によって形成された金属膜および/または金属酸化物膜が任意に含まれていてもよい。以上については、本発明および本明細書における「ポリエチレンテレフタレート支持体」についても同様である。
【0035】
芳香族ポリエステルが有する芳香族骨格に含まれる芳香環は特に限定されるものではない。芳香環の具体例としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環等を挙げることができる。
例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)は、ベンゼン環を含むポリエステルであって、エチレングリコールとテレフタル酸および/またはテレフタル酸ジメチルとの重縮合によって得られる樹脂である。本発明および本明細書における「ポリエチレンテレフタレート」には、上記成分に加えて1種以上の他の成分(例えば、共重合成分、末端または側鎖に導入される成分等)を有する構造のものも包含される。
一形態では、上記磁気テープは、非磁性支持体としてポリエチレンテレフタレート支持体を含むことができる。
【0036】
また、非磁性支持体は、二軸延伸フィルムであることができ、コロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、熱処理等が施されたフィルムであってもよい。
【0037】
<磁性層>
(強磁性粉末)
磁性層に含まれる強磁性粉末としては、各種磁気記録媒体の磁性層において用いられる強磁性粉末として公知の強磁性粉末を1種または2種以上組み合わせて使用することができる。強磁性粉末として平均粒子サイズの小さいものを使用することは記録密度向上の観点から好ましい。この点から、強磁性粉末の平均粒子サイズは50nm以下であることが好ましく、45nm以下であることがより好ましく、40nm以下であることが更に好ましく、35nm以下であることが一層好ましく、30nm以下であることがより一層好ましく、25nm以下であることが更に一層好ましく、20nm以下であることがなお一層好ましい。一方、磁化の安定性の観点からは、強磁性粉末の平均粒子サイズは5nm以上であることが好ましく、8nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることが更に好ましく、15nm以上であることが一層好ましく、20nm以上であることがより一層好ましい。
【0038】
六方晶フェライト粉末
強磁性粉末の好ましい具体例としては、六方晶フェライト粉末を挙げることができる。六方晶フェライト粉末の詳細については、例えば、特開2011-225417号公報の段落0012~0030、特開2011-216149号公報の段落0134~0136、特開2012-204726号公報の段落0013~0030および特開2015-127985号公報の段落0029~0084を参照できる。
【0039】
本発明および本明細書において、「六方晶フェライト粉末」とは、X線回折分析によって、主相として六方晶フェライト型の結晶構造が検出される強磁性粉末をいうものとする。主相とは、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークが帰属する構造をいう。例えば、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークが六方晶フェライト型の結晶構造に帰属される場合、六方晶フェライト型の結晶構造が主相として検出されたと判断するものとする。X線回折分析によって単一の構造のみが検出された場合には、この検出された構造を主相とする。六方晶フェライト型の結晶構造は、構成原子として、少なくとも鉄原子、二価金属原子および酸素原子を含む。二価金属原子とは、イオンとして二価のカチオンになり得る金属原子であり、ストロンチウム原子、バリウム原子、カルシウム原子等のアルカリ土類金属原子、鉛原子等を挙げることができる。本発明および本明細書において、六方晶ストロンチウムフェライト粉末とは、この粉末に含まれる主な二価金属原子がストロンチウム原子であるものをいい、六方晶バリウムフェライト粉末とは、この粉末に含まれる主な二価金属原子がバリウム原子であるものをいう。主な二価金属原子とは、この粉末に含まれる二価金属原子の中で、原子%基準で最も多くを占める二価金属原子をいうものとする。ただし、上記の二価金属原子には、希土類原子は包含されないものとする。本発明および本明細書における「希土類原子」は、スカンジウム原子(Sc)、イットリウム原子(Y)、およびランタノイド原子からなる群から選択される。ランタノイド原子は、ランタン原子(La)、セリウム原子(Ce)、プラセオジム原子(Pr)、ネオジム原子(Nd)、プロメチウム原子(Pm)、サマリウム原子(Sm)、ユウロピウム原子(Eu)、ガドリニウム原子(Gd)、テルビウム原子(Tb)、ジスプロシウム原子(Dy)、ホルミウム原子(Ho)、エルビウム原子(Er)、ツリウム原子(Tm)、イッテルビウム原子(Yb)、およびルテチウム原子(Lu)からなる群から選択される。
【0040】
以下に、六方晶フェライト粉末の一形態である六方晶ストロンチウムフェライト粉末について、更に詳細に説明する。
【0041】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末の活性化体積は、好ましくは800~1600nmの範囲である。上記範囲の活性化体積を示す微粒子化された六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、優れた電磁変換特性を発揮する磁気テープの作製のために好適である。六方晶ストロンチウムフェライト粉末の活性化体積は、好ましくは800nm以上であり、例えば850nm以上であることもできる。また、電磁変換特性の更なる向上の観点から、六方晶ストロンチウムフェライト粉末の活性化体積は、1500nm以下であることがより好ましく、1400nm以下であることが更に好ましく、1300nm以下であることが一層好ましく、1200nm以下であることがより一層好ましく、1100nm以下であることが更により一層好ましい。六方晶バリウムフェライト粉末の活性化体積についても、同様である。
【0042】
「活性化体積」とは、磁化反転の単位であって、粒子の磁気的な大きさを示す指標である。本発明および本明細書に記載の活性化体積および後述の異方性定数Kuは、振動試料型磁力計を用いて保磁力Hc測定部の磁場スイープ速度3分と30分とで測定し(測定温度:23℃±1℃)、以下のHcと活性化体積Vとの関係式から求められる値である。異方性定数Kuの単位に関して、1erg/cc=1.0×10-1J/mである。
Hc=2Ku/Ms{1-[(kT/KuV)ln(At/0.693)]1/2
[上記式中、Ku:異方性定数(単位:J/m)、Ms:飽和磁化(単位:kA/m)、k:ボルツマン定数、T:絶対温度(単位:K)、V:活性化体積(単位:cm)、A:スピン歳差周波数(単位:s-1)、t:磁界反転時間(単位:s)]
【0043】
熱揺らぎの低減、換言すれば熱的安定性の向上の指標としては、異方性定数Kuを挙げることができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、好ましくは1.8×10J/m以上のKuを有することができ、より好ましくは2.0×10J/m以上のKuを有することができる。また、六方晶ストロンチウムフェライト粉末のKuは、例えば2.5×10J/m以下であることができる。ただしKuが高いほど熱的安定性が高いことを意味し好ましいため、上記例示した値に限定されるものではない。
【0044】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、希土類原子を含んでいてもよく、含まなくてもよい。六方晶ストロンチウムフェライト粉末が希土類原子を含む場合、鉄原子100原子%に対して、0.5~5.0原子%の含有率(バルク含有率)で希土類原子を含むことが好ましい。希土類原子を含む六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、一形態では、希土類原子表層部偏在性を有することができる。本発明および本明細書における「希土類原子表層部偏在性」とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を酸により部分溶解して得られた溶解液中の鉄原子100原子%に対する希土類原子含有率(以下、「希土類原子表層部含有率」または希土類原子に関して単に「表層部含有率」と記載する。)が、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を酸により全溶解して得られた溶解液中の鉄原子100原子%に対する希土類原子含有率(以下、「希土類原子バルク含有率」または希土類原子に関して単に「バルク含有率」と記載する。)と、
希土類原子表層部含有率/希土類原子バルク含有率>1.0
の比率を満たすことを意味する。後述の六方晶ストロンチウムフェライト粉末の希土類原子含有率とは、希土類原子バルク含有率と同義である。これに対し、酸を用いる部分溶解は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部を溶解するため、部分溶解により得られる溶解液中の希土類原子含有率とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部における希土類原子含有率である。希土類原子表層部含有率が、「希土類原子表層部含有率/希土類原子バルク含有率>1.0」の比率を満たすことは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子において、希土類原子が表層部に偏在(即ち内部より多く存在)していることを意味する。本発明および本明細書における表層部とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表面から内部に向かう一部領域を意味する。
【0045】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末が希土類原子を含む場合、希土類原子含有率(バルク含有率)は、鉄原子100原子%に対して0.5~5.0原子%の範囲であることが好ましい。上記範囲のバルク含有率で希土類原子を含み、かつ六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に希土類原子が偏在していることは、繰り返し再生における再生出力の低下を抑制することに寄与すると考えられる。これは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末が上記範囲のバルク含有率で希土類原子を含み、かつ六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に希土類原子が偏在していることにより、異方性定数Kuを高めることができるためと推察される。異方性定数Kuは、この値が高いほど、いわゆる熱揺らぎと呼ばれる現象の発生を抑制すること(換言すれば熱的安定性を向上させること)ができる。熱揺らぎの発生が抑制されることにより、繰り返し再生における再生出力の低下を抑制することができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末の粒子表層部に希土類原子が偏在することが、表層部の結晶格子内の鉄(Fe)のサイトのスピンを安定化することに寄与し、これにより異方性定数Kuが高まるのではないかと推察される。
また、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末を磁性層の強磁性粉末として用いることは、磁気ヘッドとの摺動によって磁性層表面が削れることを抑制することにも寄与すると推察される。即ち、磁気テープの走行耐久性の向上にも、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末が寄与し得ると推察される。これは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表面に希土類原子が偏在することが、粒子表面と磁性層に含まれる有機物質(例えば、結合剤および/または添加剤)との相互作用の向上に寄与し、その結果、磁性層の強度が向上するためではないかと推察される。
繰り返し再生における再生出力の低下をより一層抑制する観点および/または走行耐久性の更なる向上の観点からは、希土類原子含有率(バルク含有率)は、0.5~4.5原子%の範囲であることがより好ましく、1.0~4.5原子%の範囲であることが更に好ましく、1.5~4.5原子%の範囲であることが一層好ましい。
【0046】
上記バルク含有率は、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を全溶解して求められる含有率である。本発明および本明細書において、特記しない限り、原子について含有率とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を全溶解して求められるバルク含有率をいうものとする。希土類原子を含む六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、希土類原子として1種の希土類原子のみ含んでもよく、2種以上の希土類原子を含んでもよい。2種以上の希土類原子を含む場合の上記バルク含有率は、2種以上の希土類原子の合計について求められる。この点は、本発明および本明細書における他の成分についても同様である。即ち、特記しない限り、ある成分は、1種のみ用いてもよく、2種以上用いてもよい。2種以上用いられる場合の含有量または含有率とは、2種以上の合計についていうものとする。
【0047】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末が希土類原子を含む場合、含まれる希土類原子は、希土類原子のいずれか1種以上であればよい。繰り返し再生における再生出力の低下をより一層抑制する観点から好ましい希土類原子としては、ネオジム原子、サマリウム原子、イットリウム原子およびジスプロシウム原子を挙げることができ、ネオジム原子、サマリウム原子およびイットリウム原子がより好ましく、ネオジム原子が更に好ましい。
【0048】
希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末において、希土類原子は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に偏在していればよく、偏在の程度は限定されるものではない。例えば、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末について、後述する溶解条件で部分溶解して求められた希土類原子の表層部含有率と後述する溶解条件で全溶解して求められた希土類原子のバルク含有率との比率、「表層部含有率/バルク含有率」は1.0超であり、1.5以上であることができる。「表層部含有率/バルク含有率」が1.0より大きいことは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子において、希土類原子が表層部に偏在(即ち内部より多く存在)していることを意味する。また、後述する溶解条件で部分溶解して求められた希土類原子の表層部含有率と後述する溶解条件で全溶解して求められた希土類原子のバルク含有率との比率、「表層部含有率/バルク含有率」は、例えば、10.0以下、9.0以下、8.0以下、7.0以下、6.0以下、5.0以下、または4.0以下であることができる。ただし、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末において、希土類原子は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に偏在していればよく、上記の「表層部含有率/バルク含有率」は、例示した上限または下限に限定されるものではない。
【0049】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末の部分溶解および全溶解について、以下に説明する。粉末として存在している六方晶ストロンチウムフェライト粉末については、部分溶解および全溶解する試料粉末は、同一ロットの粉末から採取する。一方、磁気テープの磁性層に含まれている六方晶ストロンチウムフェライト粉末については、磁性層から取り出した六方晶ストロンチウムフェライト粉末の一部を部分溶解に付し、他の一部を全溶解に付す。磁性層からの六方晶ストロンチウムフェライト粉末の取り出しは、例えば、特開2015-91747号公報の段落0032に記載の方法によって行うことができる。
上記部分溶解とは、溶解終了時に液中に六方晶ストロンチウムフェライト粉末の残留が目視で確認できる程度に溶解することをいう。例えば、部分溶解により、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子について、粒子全体を100質量%として10~20質量%の領域を溶解することができる。一方、上記全溶解とは、溶解終了時に液中に六方晶ストロンチウムフェライト粉末の残留が目視で確認されない状態まで溶解することをいう。
上記部分溶解および表層部含有率の測定は、例えば、以下の方法により行われる。ただし、下記の試料粉末量等の溶解条件は例示であって、部分溶解および全溶解が可能な溶解条件を任意に採用できる。
試料粉末12mgおよび1mol/L塩酸10mLを入れた容器(例えばビーカー)を、設定温度70℃のホットプレート上で1時間保持する。得られた溶解液を0.1μmのメンブレンフィルタでろ過する。こうして得られたろ液の元素分析を誘導結合プラズマ(ICP;Inductively Coupled Plasma)分析装置によって行う。こうして、鉄原子100原子%に対する希土類原子の表層部含有率を求めることができる。元素分析により複数種の希土類原子が検出された場合には、全希土類原子の合計含有率を、表層部含有率とする。この点は、バルク含有率の測定においても、同様である。
一方、上記全溶解およびバルク含有率の測定は、例えば、以下の方法により行われる。
試料粉末12mgおよび4mol/L塩酸10mLを入れた容器(例えばビーカー)を、設定温度80℃のホットプレート上で3時間保持する。その後は上記の部分溶解および表層部含有率の測定と同様に行い、鉄原子100原子%に対するバルク含有率を求めることができる。
【0050】
磁気テープに記録されたデータを再生する際の再生出力を高める観点から、磁気テープに含まれる強磁性粉末の質量磁化σsが高いことは望ましい。この点に関して、希土類原子を含むものの希土類原子表層部偏在性を持たない六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、希土類原子を含まない六方晶ストロンチウムフェライト粉末と比べてσsが大きく低下する傾向が見られた。これに対し、そのようなσsの大きな低下を抑制するうえでも、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末は好ましいと考えられる。一形態では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末のσsは、45A・m/kg以上であることができ、47A・m/kg以上であることもできる。一方、σsは、ノイズ低減の観点からは、80A・m/kg以下であることが好ましく、60A・m/kg以下であることがより好ましい。σsは、振動試料型磁力計等の磁気特性を測定可能な公知の測定装置を用いて測定することができる。本発明および本明細書において、特記しない限り、質量磁化σsは、磁場強度15kOeで測定される値とする。1[kOe]=10/4π[A/m]である。
【0051】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末の構成原子の含有率(バルク含有率)に関して、ストロンチウム原子含有率は、鉄原子100原子%に対して、例えば2.0~15.0原子%の範囲であることができる。一形態では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、この粉末に含まれる二価金属原子がストロンチウム原子のみであることができる。また他の一形態では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、ストロンチウム原子に加えて1種以上の他の二価金属原子を含むこともできる。例えば、バリウム原子および/またはカルシウム原子を含むことができる。ストロンチウム原子以外の他の二価金属原子が含まれる場合、六方晶ストロンチウムフェライト粉末におけるバリウム原子含有率およびカルシウム原子含有率は、それぞれ、例えば、鉄原子100原子%に対して、0.05~5.0原子%の範囲であることができる。
【0052】
六方晶フェライトの結晶構造としては、マグネトプランバイト型(「M型」とも呼ばれる。)、W型、Y型およびZ型が知られている。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、いずれの結晶構造を取るものであってもよい。結晶構造は、X線回折分析によって確認することができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、X線回折分析によって、単一の結晶構造または2種以上の結晶構造が検出されるものであることができる。例えば一形態では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、X線回折分析によってM型の結晶構造のみが検出されるものであることができる。例えば、M型の六方晶フェライトは、AFe1219の組成式で表される。ここでAは二価金属原子を表し、六方晶ストロンチウムフェライト粉末がM型である場合、Aはストロンチウム原子(Sr)のみであるか、またはAとして複数の二価金属原子が含まれる場合には、上記の通り原子%基準で最も多くをストロンチウム原子(Sr)が占める。六方晶ストロンチウムフェライト粉末の二価金属原子含有率は、通常、六方晶フェライトの結晶構造の種類により定まるものであり、特に限定されるものではない。鉄原子含有率および酸素原子含有率についても、同様である。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、少なくとも、鉄原子、ストロンチウム原子および酸素原子を含み、更に希土類原子を含むこともできる。更に、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、これら原子以外の原子を含んでもよく、含まなくてもよい。一例として、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、アルミニウム原子(Al)を含むものであってもよい。アルミニウム原子の含有率は、鉄原子100原子%に対して、例えば0.5~10.0原子%であることができる。繰り返し再生における再生出力低下をより一層抑制する観点からは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、鉄原子、ストロンチウム原子、酸素原子および希土類原子を含み、これら原子以外の原子の含有率が、鉄原子100原子%に対して、10.0原子%以下であることが好ましく、0~5.0原子%の範囲であることがより好ましく、0原子%であってもよい。即ち、一形態では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、鉄原子、ストロンチウム原子、酸素原子および希土類原子以外の原子を含まなくてもよい。上記の原子%で表示される含有率は、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を全溶解して求められる各原子の含有率(単位:質量%)を、各原子の原子量を用いて原子%表示の値に換算して求められる。また、本発明および本明細書において、ある原子について「含まない」とは、全溶解してICP分析装置により測定される含有率が0質量%であることをいう。ICP分析装置の検出限界は、通常、質量基準で0.01ppm(parts per million)以下である。上記の「含まない」とは、ICP分析装置の検出限界未満の量で含まれることを包含する意味で用いるものとする。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、一形態では、ビスマス原子(Bi)を含まないものであることができる。
【0053】
金属粉末
強磁性粉末の好ましい具体例としては、強磁性金属粉末を挙げることもできる。強磁性金属粉末の詳細については、例えば特開2011-216149号公報の段落0137~0141および特開2005-251351号公報の段落0009~0023を参照できる。
【0054】
ε-酸化鉄粉末
強磁性粉末の好ましい具体例としては、ε-酸化鉄粉末を挙げることもできる。本発明および本明細書において、「ε-酸化鉄粉末」とは、X線回折分析によって、主相としてε-酸化鉄型の結晶構造が検出される強磁性粉末をいうものとする。例えば、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークがε-酸化鉄型の結晶構造に帰属される場合、ε-酸化鉄型の結晶構造が主相として検出されたと判断するものとする。ε-酸化鉄粉末の製造方法としては、ゲーサイトから作製する方法、逆ミセル法等が知られている。上記製造方法は、いずれも公知である。また、Feの一部がGa、Co、Ti、Al、Rh等の置換原子によって置換されたε-酸化鉄粉末を製造する方法については、例えば、J. Jpn. Soc. Powder Metallurgy Vol. 61 Supplement, No. S1, pp. S280-S284、J. Mater. Chem. C, 2013, 1, pp.5200-5206等を参照できる。ただし、上記磁気テープの磁性層において強磁性粉末として使用可能なε-酸化鉄粉末の製造方法は、ここで挙げた方法に限定されない。
【0055】
ε-酸化鉄粉末の活性化体積は、好ましくは300~1500nmの範囲である。上記範囲の活性化体積を示す微粒子化されたε-酸化鉄粉末は、優れた電磁変換特性を発揮する磁気テープの作製のために好適である。ε-酸化鉄粉末の活性化体積は、好ましくは300nm以上であり、例えば500nm以上であることもできる。また、電磁変換特性の更なる向上の観点から、ε-酸化鉄粉末の活性化体積は、1400nm以下であることがより好ましく、1300nm以下であることが更に好ましく、1200nm以下であることが一層好ましく、1100nm以下であることがより一層好ましい。
【0056】
熱揺らぎの低減、換言すれば熱的安定性の向上の指標としては、異方性定数Kuを挙げることができる。ε-酸化鉄粉末は、好ましくは3.0×10J/m以上のKuを有することができ、より好ましくは8.0×10J/m以上のKuを有することができる。また、ε-酸化鉄粉末のKuは、例えば3.0×10J/m以下であることができる。ただしKuが高いほど熱的安定性が高いことを意味し、好ましいため、上記例示した値に限定されるものではない。
【0057】
磁気テープに記録されたデータを再生する際の再生出力を高める観点から、磁気テープに含まれる強磁性粉末の質量磁化σsが高いことは望ましい。この点に関して、一形態では、ε-酸化鉄粉末のσsは、8A・m/kg以上であることができ、12A・m/kg以上であることもできる。一方、ε-酸化鉄粉末のσsは、ノイズ低減の観点からは、40A・m/kg以下であることが好ましく、35A・m/kg以下であることがより好ましい。
【0058】
本発明および本明細書において、特記しない限り、強磁性粉末等の各種粉末の平均粒子サイズは、透過型電子顕微鏡を用いて、以下の方法により測定される値とする。
粉末を、透過型電子顕微鏡を用いて撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率500000倍になるように印画紙にプリントして粉末を構成する粒子の写真を得る。得られた粒子の写真から目的の粒子を選びデジタイザーで粒子の輪郭をトレースし粒子(一次粒子)のサイズを測定する。一次粒子とは、凝集のない独立した粒子をいう。
以上の測定を、無作為に抽出した500個の粒子について行う。こうして得られた500個の粒子の粒子サイズの算術平均を、粉末の平均粒子サイズとする。上記透過型電子顕微鏡としては、例えば日立製透過型電子顕微鏡H-9000型を用いることができる。また、粒子サイズの測定は、公知の画像解析ソフト、例えばカールツァイス製画像解析ソフトKS-400を用いて行うことができる。後述の実施例に示す平均粒子サイズは、特記しない限り、透過型電子顕微鏡として日立製透過型電子顕微鏡H-9000型、画像解析ソフトとしてカールツァイス製画像解析ソフトKS-400を用いて測定された値である。本発明および本明細書において、粉末とは、複数の粒子の集合を意味する。例えば、強磁性粉末とは、複数の強磁性粒子の集合を意味する。また、複数の粒子の集合とは、集合を構成する粒子が直接接触している形態に限定されず、後述する結合剤、添加剤等が、粒子同士の間に介在している形態も包含される。粒子との語が、粉末を表すために用いられることもある。
【0059】
粒子サイズ測定のために磁気テープから試料粉末を採取する方法としては、例えば特開2011-048878号公報の段落0015に記載の方法を採用することができる。
【0060】
本発明および本明細書において、特記しない限り、粉末を構成する粒子のサイズ(粒子サイズ)は、上記の粒子写真において観察される粒子の形状が、
(1)針状、紡錘状、柱状(ただし、高さが底面の最大長径より大きい)等の場合は、粒子を構成する長軸の長さ、即ち長軸長で表され、
(2)板状または柱状(ただし、厚みまたは高さが板面または底面の最大長径より小さい)の場合は、その板面または底面の最大長径で表され、
(3)球形、多面体状、不定形等であって、かつ形状から粒子を構成する長軸を特定できない場合は、円相当径で表される。円相当径とは、円投影法で求められるものを言う。
【0061】
また、粉末の平均針状比は、上記測定において粒子の短軸の長さ、即ち短軸長を測定し、各粒子の(長軸長/短軸長)の値を求め、上記500個の粒子について得た値の算術平均を指す。ここで、特記しない限り、短軸長とは、上記粒子サイズの定義で(1)の場合は、粒子を構成する短軸の長さを、同じく(2)の場合は、厚みまたは高さを各々指し、(3)の場合は、長軸と短軸の区別がないから、(長軸長/短軸長)は、便宜上1とみなす。
そして、特記しない限り、粒子の形状が特定の場合、例えば、上記粒子サイズの定義(1)の場合、平均粒子サイズは平均長軸長であり、同定義(2)の場合、平均粒子サイズは平均板径である。同定義(3)の場合、平均粒子サイズは、平均直径(平均粒径、平均粒子径ともいう)である。
【0062】
磁性層における強磁性粉末の含有量(充填率)は、好ましくは50~90質量%の範囲であり、より好ましくは60~90質量%の範囲である。磁性層において強磁性粉末の充填率が高いことは、記録密度向上の観点から好ましい。
【0063】
(結合剤)
上記磁気テープは塗布型の磁気テープであることができ、磁性層に結合剤を含むことができる。結合剤とは、1種以上の樹脂である。結合剤としては、塗布型磁気記録媒体の結合剤として通常使用される各種樹脂を用いることができる。例えば、結合剤としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレート等を共重合したアクリル樹脂、ニトロセルロース等のセルロース樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルキラール樹脂等から選ばれる樹脂を単独で用いるか、または複数の樹脂を混合して用いることができる。これらの中で好ましいものはポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、セルロース樹脂、および塩化ビニル樹脂である。これらの樹脂は、ホモポリマーでもよく、コポリマー(共重合体)でもよい。これらの樹脂は、後述する非磁性層および/またはバックコート層においても結合剤として使用することができる。
以上の結合剤については、特開2010-24113号公報の段落0028~0031を参照できる。結合剤として使用される樹脂の平均分子量は、重量平均分子量として、例えば10,000以上200,000以下であることができる。本発明および本明細書における重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって、下記測定条件により測定された値をポリスチレン換算して求められる値である。後述の実施例に示す結合剤の重量平均分子量は、下記測定条件によって測定された値をポリスチレン換算して求めた値である。結合剤は、強磁性粉末100.0質量部に対して、例えば1.0~30.0質量部の量で使用することができる。
GPC装置:HLC-8120(東ソー社製)
カラム:TSK gel Multipore HXL-M(東ソー社製、7.8mmID(Inner Diameter)×30.0cm)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
【0064】
(硬化剤)
結合剤として使用可能な樹脂とともに硬化剤を使用することもできる。硬化剤は、一態様では加熱により硬化反応(架橋反応)が進行する化合物である熱硬化性化合物であることができ、他の一態様では光照射により硬化反応(架橋反応)が進行する光硬化性化合物であることができる。硬化剤は、磁性層形成工程の中で硬化反応が進行することにより、少なくとも一部は、結合剤等の他の成分と反応(架橋)した状態で磁性層に含まれ得る。この点は、他の層を形成するために用いられる組成物が硬化剤を含む場合に、この組成物を用いて形成される層についても同様である。好ましい硬化剤は、熱硬化性化合物であり、ポリイソシアネートが好適である。ポリイソシアネートの詳細については、特開2011-216149号公報の段落0124~0125を参照できる。硬化剤は、磁性層形成用組成物中に、結合剤100.0質量部に対して例えば0~80.0質量部、磁性層の強度向上の観点からは好ましくは50.0~80.0質量部の量で使用することができる。
【0065】
(添加剤)
磁性層には、必要に応じて1種以上の添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、一例として、上記の硬化剤が挙げられる。また、磁性層に含まれる添加剤としては、非磁性粉末(例えば無機粉末、カーボンブラック等)、潤滑剤、分散剤、分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤等を挙げることができる。例えば、潤滑剤については、特開2016-126817号公報の段落0030~0033、0035および0036を参照できる。後述する非磁性層に潤滑剤が含まれていてもよい。非磁性層に含まれ得る潤滑剤については、特開2016-126817号公報の段落0030、0031、0034~0036を参照できる。分散剤については、特開2012-133837号公報の段落0061および0071を参照できる。分散剤を非磁性層形成用組成物に添加してもよい。非磁性層形成用組成物に添加し得る分散剤については、特開2012-133837号公報の段落0061を参照できる。また、磁性層に含まれ得る非磁性粉末としては、研磨剤として機能することができる非磁性粉末、磁性層表面に適度に突出する突起を形成する突起形成剤として機能することができる非磁性粉末(例えば非磁性コロイド粒子等)等が挙げられる。尚、後述の実施例に示すコロイダルシリカ(シリカコロイド粒子)の平均粒子サイズは、特開2011-048878号公報の段落0015に平均粒径の測定方法として記載されている方法により求められた値である。添加剤は、所望の性質に応じて市販品を適宜選択して、または公知の方法で製造して、任意の量で使用することができる。研磨剤を含む磁性層に研磨剤の分散性を向上するために使用され得る添加剤の一例としては、特開2013-131285号公報の段落0012~0022に記載の分散剤を挙げることができる。
【0066】
以上説明した磁性層は、非磁性支持体表面上に直接、または非磁性層を介して間接的に、設けることができる。
【0067】
<非磁性層>
次に非磁性層について説明する。上記磁気テープは、非磁性支持体表面上に直接磁性層を有していてもよく、非磁性支持体表面上に非磁性粉末を含む非磁性層を介して磁性層を有していてもよい。非磁性層に使用される非磁性粉末は、無機物質の粉末でも有機物質の粉末でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機物質の粉末としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等の粉末が挙げられる。これらの非磁性粉末は、市販品として入手可能であり、公知の方法で製造することもできる。その詳細については、特開2011-216149号公報の段落0146~0150を参照できる。非磁性層に使用可能なカーボンブラックについては、特開2010-24113号公報の段落0040および0041も参照できる。非磁性層における非磁性粉末の含有量(充填率)は、好ましくは50~90質量%の範囲であり、より好ましくは60~90質量%の範囲である。
【0068】
非磁性層は、結合剤を含むことができ、添加剤を含むこともできる。非磁性層の結合剤、添加剤等のその他詳細については、非磁性層に関する公知技術を適用できる。また、例えば、結合剤の種類および含有量、添加剤の種類および含有量等に関しては、磁性層に関する公知技術も適用できる。
【0069】
本発明および本明細書において、非磁性層には、非磁性粉末とともに、例えば不純物として、または意図的に、少量の強磁性粉末を含む実質的に非磁性な層も包含されるものとする。ここで実質的に非磁性な層とは、この層の残留磁束密度が10mT以下であるか、保磁力が7.96kA/m(100Oe)以下であるか、または、残留磁束密度が10mT以下であり、かつ保磁力が7.96kA/m(100Oe)以下である層をいうものとする。非磁性層は、残留磁束密度および保磁力を持たないことが好ましい。
【0070】
<バックコート層>
上記磁気テープは、非磁性支持体の磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を有することもでき、有さなくてもよい。バックコート層には、カーボンブラックおよび無機粉末のいずれか一方または両方が含有されていることが好ましい。バックコート層は、結合剤を含むことができ、添加剤を含むこともできる。バックコート層の結合剤および添加剤については、バックコート層に関する公知技術を適用することができ、磁性層および/または非磁性層の処方に関する公知技術を適用することもできる。例えば、特開2006-331625号公報の段落0018~0020および米国特許第7,029,774号明細書の第4欄65行目~第5欄38行目の記載を、バックコート層について参照できる。
【0071】
<各種厚み>
磁気テープの厚み(総厚)に関して、近年の情報量の莫大な増大に伴い、磁気テープには記録容量を高めること(高容量化)が求められている。高容量化のための手段としては、磁気テープの厚みを薄くし(以下、「薄型化」とも記載する。)、磁気記録再生装置に収容される磁気テープ長を増すことが挙げられる。この点から、上記磁気テープの厚み(総厚)は、5.6μm以下であることが好ましく、5.5μm以下であることがより好ましく、5.4μm以下であることがより好ましく、5.3μm以下であることが更に好ましく、5.2μm以下であることが一層好ましい。また、ハンドリングの容易性の観点からは、磁気テープの厚みは3.0μm以上であることが好ましく、3.5μm以上であることがより好ましい。
【0072】
磁気テープの厚み(総厚)は、以下の方法によって測定することができる。
磁気テープの任意の部分からテープサンプル(例えば長さ5~10cm)を10枚切り出し、これらテープサンプルを重ねて厚みを測定する。測定された厚みを10分の1して得られた値(テープサンプル1枚当たりの厚み)を、テープ厚みとする。上記厚み測定は、0.1μmオーダーでの厚み測定が可能な公知の測定器を用いて行うことができる。
【0073】
非磁性支持体の厚みは、好ましくは3.0~5.0μmである。
磁性層の厚みは、用いる磁気ヘッドの飽和磁化量、ヘッドギャップ長、記録信号の帯域等により最適化することができ、一般には0.01μm~0.15μmであり、高密度記録化の観点から、好ましくは0.02μm~0.12μmであり、更に好ましくは0.03μm~0.1μmである。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する二層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。二層以上に分離する場合の磁性層の厚みとは、これらの層の合計厚みとする。
非磁性層の厚みは、例えば0.1~1.5μmであり、0.1~1.0μmであることが好ましい。
バックコート層の厚みは、0.9μm以下が好ましく、0.1~0.7μmが更に好ましい。
磁性層の厚み等の各種厚みは、以下の方法により求めることができる。
磁気テープの厚み方向の断面を、イオンビームにより露出させた後、露出した断面において走査型電子顕微鏡によって断面観察を行う。断面観察において任意の2箇所において求められた厚みの算術平均として、各種厚みを求めることができる。または、各種厚みは、製造条件等から算出される設計厚みとして求めることもできる。
【0074】
<製造工程>
(各層形成用組成物の調製)
磁性層、非磁性層またはバックコート層を形成するための組成物を調製する工程は、通常、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程を含むことができる。個々の工程はそれぞれ二段階以上に分かれていてもかまわない。各層形成用組成物の調製に用いられる成分は、どの工程の最初または途中で添加してもかまわない。溶媒としては、塗布型磁気記録媒体の製造に通常用いられる各種溶媒の1種または2種以上を用いることができる。溶媒については、例えば特開2011-216149号公報の段落0153を参照できる。また、個々の成分を2つ以上の工程で分割して添加してもかまわない。例えば、結合剤を混練工程、分散工程および分散後の粘度調整のための混合工程で分割して投入してもよい。上記磁気テープを製造するためには、公知の製造技術を各種工程において用いることができる。混練工程ではオープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダ等の強い混練力をもつものを使用することが好ましい。混練処理の詳細については、特開平1-106338号公報および特開平1-79274号公報を参照できる。分散機は公知のものを使用することができる。各層形成用組成物を調製する任意の段階において、公知の方法によってろ過を行ってもよい。ろ過は、例えばフィルタろ過によって行うことができる。ろ過に用いるフィルタとしては、例えば孔径0.01~3μmのフィルタ(例えばガラス繊維製フィルタ、ポリプロピレン製フィルタ等)を用いることができる。
【0075】
(塗布工程)
磁性層は、磁性層形成用組成物を、非磁性支持体表面上に直接塗布するか、または非磁性層形成用組成物と逐次もしくは同時に重層塗布することにより形成することができる。バックコート層は、バックコート層形成用組成物を、非磁性支持体の非磁性層および/または磁性層を有する(または非磁性層および/または磁性層が追って設けられる)表面とは反対側の表面に塗布することにより形成することができる。各層形成のための塗布の詳細については、特開2010-231843号公報の段落0066を参照できる。
【0076】
(その他の工程)
磁気テープの製造のためのその他の各種工程については、公知技術を適用できる。各種工程については、例えば特開2010-231843号公報の段落0067~0070を参照できる。例えば、磁性層形成用組成物の塗布層には、この塗布層が湿潤状態にあるうちに、配向ゾーンにおいて配向処理を行うことができる。配向処理については、特開2010-24113号公報の段落0052の記載をはじめとする各種公知技術を適用することができる。例えば、垂直配向処理は、異極対向磁石を用いる方法等の公知の方法によって行うことができる。配向ゾーンでは、乾燥風の温度、風量および/または配向ゾーンにおける搬送速度によって塗布層の乾燥速度を制御することができる。また、配向ゾーンに搬送する前に塗布層を予備乾燥させてもよい。
各種工程を経ることによって、長尺状の磁気テープ原反を得ることができる。得られた磁気テープ原反は、公知の裁断機によって、磁気記録再生装置のテープリールに巻取られるべき磁気テープの幅に裁断(スリット)される。上記の幅は規格にしたがい決定され、通常、1/2インチである。1/2インチ=12.65mmである。
スリットして得られた磁気テープには、通常、サーボパターンが形成される。サーボパターンについて、詳細は後述する。
【0077】
(熱処理)
一形態では、上記磁気テープは、以下のような熱処理を経て製造された磁気テープであることができる。
【0078】
熱処理としては、スリットして規格にしたがい決定された幅に裁断された磁気テープを、芯状部材に巻付け、巻付けた状態で行う熱処理を行うことができる。
【0079】
一形態では、熱処理用の芯状部材(以下、「熱処理用巻芯」と呼ぶ。)に磁気テープを巻付けた状態で上記熱処理を行い、熱処理後の磁気テープを磁気記録再生装置のテープリールに巻取り、このテープリールを磁気ヘッドとともに密閉空間内に収容することによって、磁気テープと磁気ヘッドが密閉空間内に収容された磁気記録再生装置を作製することができる。
熱処理用巻芯は、金属製、樹脂製、紙製等であることができる。熱処理用巻芯の材料は、スポーキング等の巻故障の発生を抑制する観点から、剛性が高い材料であることが好ましい。この点から、熱処理用巻芯は、金属製または樹脂製であることが好ましい。また、剛性の指標として、熱処理用巻芯の材料の曲げ弾性率は0.2GPa(ギガバスカル)以上が好ましく、0.3GPa以上がより好ましい。他方、高剛性の材料は一般に高価であるため、巻故障の発生を抑制できる剛性を超える剛性を有する材料の熱処理用巻芯を用いることはコスト増につながる。以上の点を考慮すると、熱処理用巻芯の材料の曲げ弾性率は250GPa以下が好ましい。曲げ弾性率は、ISO(International Organization for Standardization)178にしたがい測定される値であり、各種材料の曲げ弾性率は公知である。また、熱処理用巻芯は中実または中空の芯状部材であることができる。中空状の場合、剛性を維持する観点から、肉厚は2mm以上であることが好ましい。また、熱処理用巻芯は、フランジを有していてもよく、有さなくてもよい。
熱処理用巻芯に巻付ける磁気テープとして最終的に磁気記録再生装置に収容する長さ(以下、「最終製品長」と呼ぶ。)以上の磁気テープを準備し、この磁気テープを熱処理用巻芯に巻付けた状態で熱処理環境下に置くことにより熱処理を行うことが好ましい。熱処理用巻芯に巻付ける磁気テープ長は最終製品長以上であり、熱処理用巻芯等への巻取りの容易性の観点からは、「最終製品長+α」とすることが好ましい。このαは、上記の巻取りの容易性の観点からは5m以上であることが好ましい。熱処理用巻芯への巻取り時のテンションは、0.1N(ニュートン)以上が好ましい。また、過度な変形が発生することを抑制する観点から、熱処理用巻芯への巻取り時のテンションは1.5N以下が好ましく、1.0N以下がより好ましい。熱処理用巻芯の外径は、巻付けの容易性およびコイリング(長手方向のカール)の抑制の観点から、20mm以上が好ましく、40mm以上がより好ましい。また、熱処理用巻芯の外径は100mm以下が好ましく、90mm以下がより好ましい。熱処理用巻芯の幅は、この巻芯に巻付ける磁気テープの幅以上であればよい。また、熱処理後、熱処理用巻芯から磁気テープを取り外す際には、取り外す操作中に意図しないテープ変形が生じることを抑制するために、磁気テープおよび熱処理用巻芯が十分冷却された後に磁気テープを熱処理用巻芯から取り外すことが好ましい。取り外した磁気テープは、一度別の巻芯(「一時巻取り用巻芯」と呼ぶ。)に巻取り、その後、一時巻取り用巻芯から磁気記録再生装置のテープリール(例えば、外径は40~50mm程度)へ磁気テープを巻取ることが好ましい。これにより、熱処理時の磁気テープの熱処理用巻芯に対する内側と外側との関係を維持して、磁気記録再生装置のテープリールへ磁気テープを巻取ることができる。一時巻取り用巻芯の詳細およびこの巻芯へ磁気テープを巻取る際のテンションについては、熱処理用巻芯に関する先の記載を参照できる。上記熱処理を「最終製品長+α」の長さの磁気テープに施す形態においては、任意の段階で、「+α」の長さ分を切り取ればよい。例えば、一形態では、一時巻取り用巻芯から磁気記録再生装置のテープリールへ最終製品長分の磁気テープを巻取り、残りの「+α」の長さ分を切り取ればよい。切り取って廃棄される部分を少なくする観点からは、上記αは20m以下であることが好ましい。
【0080】
上記のように芯状部材に巻付けた状態で行われる熱処理の具体的形態について、以下に説明する。
熱処理を行う雰囲気温度(以下、「熱処理温度」と呼ぶ。)は、40℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましい。一方、過度な変形を抑制する観点からは、熱処理温度は75℃以下が好ましく、70℃以下がより好ましく、65℃以下が更に好ましい。
熱処理を行う雰囲気の重量絶対湿度は、0.1g/kg Dry air以上が好ましく、1g/kg Dry air以上がより好ましい。重量絶対湿度が上記範囲の雰囲気は、水分を低減するための特殊な装置を用いずに準備できるため好ましい。一方、重量絶対湿度は、結露が生じて作業性が低下することを抑制する観点からは、70g/kg Dry air以下が好ましく、66g/kg Dry air以下がより好ましい。熱処理時間は、0.3時間以上が好ましく、0.5時間以上がより好ましい。また、熱処理時間は、生産効率の観点からは、48時間以下が好ましい。
【0081】
(サーボパターンの形成)
「サーボパターンの形成」は、「サーボ信号の記録」ということもできる。以下に、サーボパターンの形成について説明する。
【0082】
サーボパターンは、通常、磁気テープの長手方向に沿って形成される。サーボ信号を利用する制御(サーボ制御)の方式としては、タイミングベースサーボ(TBS)、アンプリチュードサーボ、周波数サーボ等が挙げられる。
【0083】
ECMA(European Computer Manufacturers Association)―319(June 2001)に示される通り、LTO(Linear Tape-Open)規格に準拠した磁気テープ(一般に「LTOテープ」と呼ばれる。)では、タイミングベースサーボ方式が採用されている。このタイミングベースサーボ方式において、サーボパターンは、互いに非平行な一対の磁気ストライプ(「サーボストライプ」とも呼ばれる。)が、磁気テープの長手方向に連続的に複数配置されることによって構成されている。本発明および本明細書において、「タイミングベースサーボパターン」とは、タイミングベースサーボ方式のサーボシステムにおけるヘッドトラッキングを可能とするサーボパターンをいう。上記のように、サーボパターンが互いに非平行な一対の磁気ストライプにより構成される理由は、サーボパターン上を通過するサーボ信号読み取り素子に、その通過位置を教えるためである。具体的には、上記の一対の磁気ストライプは、その間隔が磁気テープの幅方向に沿って連続的に変化するように形成されており、サーボ信号読み取り素子がその間隔を読み取ることによって、サーボパターンとサーボ信号読み取り素子との相対位置を知ることができる。この相対位置の情報が、データトラックのトラッキングを可能にする。そのために、サーボパターン上には、通常、磁気テープの幅方向に沿って、複数のサーボトラックが設定されている。
【0084】
サーボバンドは、磁気テープの長手方向に連続するサーボパターンにより構成される。このサーボバンドは、通常、磁気テープに複数本設けられる。例えば、LTOテープにおいて、その数は5本である。隣接する2本のサーボバンドに挟まれた領域が、データバンドである。データバンドは、複数のデータトラックで構成されており、各データトラックは、各サーボトラックに対応している。
【0085】
また、一形態では、特開2004-318983号公報に示されているように、各サーボバンドには、サーボバンドの番号を示す情報(「サーボバンドID(identification)」または「UDIM(Unique DataBand Identification Method)情報」とも呼ばれる。)が埋め込まれている。このサーボバンドIDは、サーボバンド中に複数ある一対のサーボストライプのうちの特定のものを、その位置が磁気テープの長手方向に相対的に変位するように、ずらすことによって記録されている。具体的には、複数ある一対のサーボストライプのうちの特定のもののずらし方を、サーボバンド毎に変えている。これにより、記録されたサーボバンドIDはサーボバンド毎にユニークなものとなるため、一つのサーボバンドをサーボ信号読み取り素子で読み取るだけで、そのサーボバンドを一意に(uniquely)特定することができる。
【0086】
尚、サーボバンドを一意に特定する方法には、ECMA―319(June 2001)に示されているようなスタッガード方式を用いたものもある。このスタッガード方式では、磁気テープの長手方向に連続的に複数配置された、互いに非平行な一対の磁気ストライプ(サーボストライプ)の群を、サーボバンド毎に磁気テープの長手方向にずらすように記録する。隣接するサーボバンド間における、このずらし方の組み合わせは、磁気テープ全体においてユニークなものとされているため、2つのサーボ信号読み取り素子によりサーボパターンを読み取る際に、サーボバンドを一意に特定することも可能となっている。
【0087】
また、各サーボバンドには、ECMA―319(June 2001)に示されている通り、通常、磁気テープの長手方向の位置を示す情報(「LPOS(Longitudinal Position)情報」とも呼ばれる。)も埋め込まれている。このLPOS情報も、UDIM情報と同様に、一対のサーボストライプの位置を、磁気テープの長手方向にずらすことによって記録されている。ただし、UDIM情報とは異なり、このLPOS情報では、各サーボバンドに同じ信号が記録されている。
【0088】
上記のUDIM情報およびLPOS情報とは異なる他の情報を、サーボバンドに埋め込むことも可能である。この場合、埋め込まれる情報は、UDIM情報のようにサーボバンド毎に異なるものであってもよいし、LPOS情報のようにすべてのサーボバンドに共通のものであってもよい。
また、サーボバンドに情報を埋め込む方法としては、上記以外の方法を採用することも可能である。例えば、一対のサーボストライプの群の中から、所定の対を間引くことによって、所定のコードを記録するようにしてもよい。
【0089】
サーボパターン形成用ヘッドは、サーボライトヘッドと呼ばれる。サーボライトヘッドは、通常、上記一対の磁気ストライプに対応した一対のギャップを、サーボバンドの数だけ有する。通常、各一対のギャップには、それぞれコアとコイルが接続されており、コイルに電流パルスを供給することによって、コアに発生した磁界が、一対のギャップに漏れ磁界を生じさせることができる。サーボパターンの形成の際には、サーボライトヘッド上に磁気テープを走行させながら電流パルスを入力することによって、一対のギャップに対応した磁気パターンを磁気テープに転写させて、サーボパターンを形成することができる。各ギャップの幅は、形成されるサーボパターンの密度に応じて適宜設定することができる。各ギャップの幅は、例えば、1μm以下、1~10μm、10μm以上等に設定可能である。
【0090】
磁気テープにサーボパターンを形成する前には、磁気テープに対して、通常、消磁(イレース)処理が施される。このイレース処理は、直流磁石または交流磁石を用いて、磁気テープに一様な磁界を加えることによって行うことができる。イレース処理には、DC(Direct Current)イレースとAC(Alternating Current)イレースとがある。ACイレースは、磁気テープに印加する磁界の方向を反転させながら、その磁界の強度を徐々に下げることによって行われる。一方、DCイレースは、磁気テープに一方向の磁界を加えることによって行われる。DCイレースには、更に2つの方法がある。第一の方法は、磁気テープの長手方向に沿って一方向の磁界を加える、水平DCイレースである。第二の方法は、磁気テープの厚み方向に沿って一方向の磁界を加える、垂直DCイレースである。イレース処理は、磁気テープ全体に対して行ってもよいし、磁気テープのサーボバンド毎に行ってもよい。
【0091】
形成されるサーボパターンの磁界の向きは、イレースの向きに応じて決まる。例えば、磁気テープに水平DCイレースが施されている場合、サーボパターンの形成は、磁界の向きがイレースの向きと反対になるように行われる。これにより、サーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号の出力を、大きくすることができる。尚、特開2012-53940号公報に示されている通り、垂直DCイレースされた磁気テープに、上記ギャップを用いた磁気パターンの転写を行った場合、形成されたサーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号は、単極パルス形状となる。一方、水平DCイレースされた磁気テープに、上記ギャップを用いた磁気パターンの転写を行った場合、形成されたサーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号は、双極パルス形状となる。
【0092】
<磁気ヘッド>
上記磁気記録再生装置の密閉空間内に収容されている磁気ヘッドは、磁気テープへのデータの記録を行うことができる記録ヘッドであることができ、磁気テープに記録されたデータの再生を行うことができる再生ヘッドであることもできる。また、上記磁気記録再生装置は、一形態では、別々の磁気ヘッドとして、記録ヘッドと再生ヘッドの両方を含むことができる。他の一形態では、上記磁気テープ装置に含まれる磁気ヘッドは、記録素子と再生素子の両方を1つの磁気ヘッドに備えた構成を有することもできる。再生ヘッドとしては、磁気テープに記録された情報を感度よく読み取ることができる磁気抵抗効果型(MR;Magnetoresistive)素子を再生素子として含む磁気ヘッド(MRヘッド)が好ましい。MRヘッドとしては、公知の各種MRヘッド(例えば、GMR(Giant Magnetoresistive)ヘッド、TMR(Tunnel Magnetoresistive)ヘッド等)を用いることができる。また、データの記録および/またはデータの再生を行う磁気ヘッドには、サーボ信号読み取り素子が含まれていてもよい。または、データの記録および/またはデータの再生を行う磁気ヘッドとは別のヘッドとして、サーボ信号読み取り素子を備えた磁気ヘッド(サーボヘッド)が上記磁気テープ装置に含まれていてもよい。例えば、データの記録および/または記録されたデータの再生を行う磁気ヘッド(以下、「記録再生ヘッド」とも呼ぶ。)は、サーボ信号読み取り素子を2つ含むことができ、2つのサーボ信号読み取り素子のそれぞれが、データバンドを挟んで隣り合う2本のサーボバンドを同時に読み取ることができる。2つのサーボ信号読み取り素子の間に、1つまたは複数のデータ用素子を配置することができる。データの記録のための素子(記録素子)とデータの再生のための素子(再生素子)を、「データ用素子」と総称する。
【0093】
データの記録および/または記録されたデータの再生の際には、まず、サーボ信号を用いたトラッキングを行うことができる。即ち、サーボ信号読み取り素子を所定のサーボトラックに追従させることによって、データ用素子が、目的とするデータトラック上を通過するように制御することができる。データトラックの移動は、サーボ信号読み取り素子が読み取るサーボトラックを、テープ幅方向に変更することにより行われる。
また、記録再生ヘッドは、他のデータバンドに対する記録および/または再生を行うことも可能である。その際には、先に記載したUDIM情報を利用してサーボ信号読み取り素子を所定のサーボバンドに移動させ、そのサーボバンドに対するトラッキングを開始すればよい。
【0094】
図1に、データバンドおよびサーボバンドの配置例を示す。図1中、磁気テープTの磁性層には、複数のサーボバンド1が、ガイドバンド3に挟まれて配置されている。2本のサーボバンドに挟まれた複数の領域2が、データバンドである。サーボパターンは、磁化領域であって、サーボライトヘッドにより磁性層の特定の領域を磁化することによって形成される。サーボライトヘッドにより磁化する領域(サーボパターンを形成する位置)は規格により定められている。例えば業界標準規格であるLTO Ultriumフォーマットテープには、磁気テープ製造時に、図2に示すようにテープ幅方向に対して傾斜した複数のサーボパターンが、サーボバンド上に形成される。詳しくは、図2中、サーボバンド1上のサーボフレームSFは、サーボサブフレーム1(SSF1)およびサーボサブフレーム2(SSF2)から構成される。サーボサブフレーム1は、Aバースト(図2中、符号A)およびBバースト(図2中、符号B)から構成される。AバーストはサーボパターンA1~A5から構成され、BバーストはサーボパターンB1~B5から構成される。一方、サーボサブフレーム2は、Cバースト(図2中、符号C)およびDバースト(図2中、符号D)から構成される。CバーストはサーボパターンC1~C4から構成され、DバーストはサーボパターンD1~D4から構成される。このような18本のサーボパターンが5本と4本のセットで、5、5、4、4、の配列で並べられたサブフレームに配置され、サーボフレームを識別するために用いられる。図2には、説明のために1つのサーボフレームを示した。ただし、実際には、タイミングベースサーボ方式のヘッドトラッキングが行われる磁気テープの磁性層には、各サーボバンドに、複数のサーボフレームが走行方向に配置されている。図2中、矢印は走行方向を示している。例えば、LTO Ultriumフォーマットテープは、通常、磁性層の各サーボバンドに、テープ長1mあたり5000以上のサーボフレームを有する。
【0095】
<磁気記録再生装置の構成例>
図3に、磁気記録再生装置の構成例を示す。図3に示す磁気記録再生装置10では、磁気記録再生装置の全体を覆う筐体H1内の内部空間S1、即ち、磁気記録装置10の内部空間全体が、密閉空間である。内部に磁気テープ、磁気ヘッド等を配置した後、筐体H1を公知の封止手段(接着剤止め、ボルト止め、シリコンパッキン(packing)、溶接等)により封止することによって、筐体H1の内部空間全体を密閉空間とすることができる。
【0096】
図4に、磁気記録再生装置の他の構成例を示す。図4に示す磁気記録再生装置20では、磁気記録再生装置の全体を覆う筐体H1の内部空間S1に、筐体H2が配置されている。この筐体H2の内部空間S2が、磁気テープおよび磁気ヘッドを含む密閉空間である。即ち、磁気記録再生装置20の内部空間S1の一部である空間S2が、密閉空間である。この場合、筐体H1中の内部空間全体は密閉空間であってもよく、密閉空間でなくてもよい。即ち、磁気記録再生装置中の内部空間の一部が密閉空間の場合、磁気記録再生装置の内部空間全体は、密閉空間であってもよく、密閉空間でなくてもよい。筐体H2を封止して筐体H2の内部空間S2を密閉空間とするための封止手段については、先の記載を参照できる。
【0097】
磁気テープおよび磁気ヘッドを含む密閉空間が磁気記録再生装置の内部空間の一部である形態では、かかる密閉空間内には、テープリール、ガイドローラーおよび湿度センサが少なくとも含まれることが好ましく、記録再生アンプ、駆動装置および制御装置の1つ以上が更に含まれてもよい。
【0098】
磁気記録再生装置の内部空間全体が密閉空間である形態および一部が密閉空間である形態のいずれについても、密閉空間の内部容積は、密閉空間内に収容すべき磁気テープ、磁気テープヘッドおよび各種構成要素が収容できる容積であればよい。一形態では、密閉空間の内部容積は、1L(リットル)~3Lの範囲であることが好ましい。
【0099】
以下に、図3および図4に示されている磁気記録再生装置の各種構成要素について、更に説明する。
【0100】
図3および図4に示されている磁気記録再生装置では、磁気テープTへのデータの記録および磁気テープTに記録されたデータの再生は、制御装置11からの命令により記録再生ヘッドユニット12を制御して行われる。
磁気記録再生装置10および20は、2つのテープリール13Aおよび13Bを回転制御するスピンドルモーター14A、14Bおよびそれらの駆動装置16A、16Bから磁気テープの長手方向にかかるテンションの検出および調整が可能な構成を有している。
磁気記録再生装置10および20において、磁気テープTは、磁気テープTの磁性層表面が記録再生ヘッドユニット12の記録再生ヘッド表面に接する向きでガイドローラー15A、15B上を通り、テープリール13Aとテープリール13Bとの間を走行する。
制御装置11からの信号によりスピンドルモーター14A、14Bの回転およびトルクが制御され、磁気テープTが任意の速度とテンションで走行される。テープ速度の制御には、磁気テープ上に予め形成されたサーボパターンを利用することができる。テンションの検出のために、2つのテープリール13Aと13Bとの間にテンション検出機構を設けてもよい。テンションの調整は、スピンドルモーター14Aおよび14Bによって行われる制御の他に、ガイドローラー15Aおよび15Bを用いて行ってもよい。
【0101】
制御装置11は、例えば、制御部、記憶部、通信部等を含む。
【0102】
記録再生ヘッドユニット12は、例えば、記録再生ヘッド、記録再生ヘッドのトラック幅方向の位置を調整するサーボトラッキングアクチュエータ、記録再生アンプ17、制御装置11と接続するためのコネクタケーブル等から構成される。記録再生ヘッドは、例えば、磁気テープにデータを記録する記録素子、磁気テープのデータを再生する再生素子および磁気テープ上に記録されたサーボ信号を読み取るサーボ信号読み取り素子から構成される。1つの磁気ヘッド内に、記録素子、再生素子およびサーボ信号読み取り素子は、例えば、それぞれ1個以上搭載されている。または、磁気テープの走行方向に応じた複数の磁気ヘッド内に別々にそれぞれの素子を有していてもよい。
【0103】
記録再生ヘッドユニット12は、制御装置11からの命令に応じて、磁気テープTに対してデータを記録することが可能に構成されている。また、制御装置11からの命令に応じて、磁気テープTに記録されたデータを再生することが可能に構成されている。記録時および/または再生時、一形態では磁気テープの磁性層表面と磁気ヘッドとが接触し摺動し、磁気ヘッドによって磁気テープへのデータの記録および/または磁気テープに記録されたデータの再生が行われる。かかる形態の磁気記録再生装置は、一般に摺動型ドライブまたは接触摺動型ドライブと呼ばれる。本発明および本明細書において、磁気テープの磁性層表面とは、磁気テープの磁性層側表面と同義である。他の一形態では、磁気ヘッドは、磁性層表面とは、不作為に接触する場合を除き、非接触の状態で、磁気テープへのデータの記録および/または磁気テープに記録されたデータの再生を行う。かかる形態の磁気記録再生装置は、一般に浮上型ドライブと呼ばれる。
【0104】
制御装置11は、磁気テープTの走行時にサーボバンドから読み取られるサーボ信号から磁気テープの走行位置を求め、狙いの走行位置(トラック位置)に記録素子および/または再生素子が位置するように、サーボトラッキングアクチュエータを制御する機構を有している。このトラック位置の制御は、例えば、フィードバック制御により行われる。制御装置11は、磁気テープTの走行時に隣り合う2本のサーボバンドから読み取られるサーボ信号から、サーボバンド間隔を求める機構を有している。また、制御装置11は、サーボバンド間隔が狙いの値になるように、スピンドルモーター14Aおよびスピンドルモーター14Bのトルクおよび/またはガイドローラー15Aおよび15Bを制御して磁気テープの長手方向にかけるテンションを調整して変化させ得る機構を有している。このテンションの調整は、例えば、フィードバック制御により行われる。また、制御装置11は、求めたサーボバンド間隔の情報を、制御装置11の内部の記憶部、外部の接続機器等に保存することができる。
【0105】
磁気記録再生装置10および20において、記録時、再生時、ならびに、記録後および/または再生後の保管前のテープリールへの巻取り時の1つ以上のタイミングにおいて、磁気テープの長手方向にテンションをかけることができる。磁気テープの長手方向にかけるテンションは、一形態では一定値であり、他の一形態では変化する。本発明および本明細書におけるテンションに関して、磁気テープの長手方向にかけるテンションの値は、磁気テープの長手方向にかけるべきテンションとして、テンションを調整する機構を制御するために制御装置に入力される値とする。また、磁気テープの長手方向に実際にかかるテンションは、例えば、先に記載したように、2つのテープリールの間にテンション検出機構を設けて検出することができる。更に、例えば、最小テンションが規格等により定められた値または推奨された値を下回らないように、および/または、最大テンションが規格等により定められた値または推奨された値を上回らないように、磁気記録再生装置の制御装置等により制御することもできる。
【0106】
磁気テープへのデータの記録は、テープリール13Aと13Bとの間で磁気テープTを走行させながら行われる。磁気テープに記録されたデータの再生も、テープリール13Aと13Bとの間で磁気テープTを走行させながら行われる。
【0107】
温湿度センサ18としては、密閉空間内の相対湿度および温度の測定ならびに測定結果の外部へ送信が可能な公知の温湿度センサを用いることができる。
【0108】
記録および/または再生の終了後、磁気テープTは、一形態では、テープ全長またはその大部分(例えばテープ全長のうち85%以上または90%以上の長さの部分)がテープリール13A、13Bのいずれか一方に巻取られた状態で、次に記録および/または再生が行われるまで、磁気記録再生装置内に保管される。また、他の一形態では、磁気テープTは、一部(例えばテープ全長のうち40~60%程度の長さの部分)がテープリール13Aに巻取られ、他の一部がテープリール13Bに巻取られた状態で、次に記録および/または再生が行われるまで、磁気記録再生装置内に保管される。
【実施例0109】
以下に、本発明の一態様を実施例に基づき説明する。但し、本発明は実施例に示す実施形態に限定されるものではない。以下に記載の「部」、「%」の表示は、特に断らない限り、「質量部」、「質量%」を示す。「eq」は、当量(equivalent)であり、SI単位に換算不可の単位である。
また、以下の各種工程および操作は、特記しない限り、雰囲気温度20~25℃および相対湿度40~60%の環境において行った。
【0110】
[強磁性粉末]
表1中、強磁性粉末の種類の欄における「BaFe」は、平均粒子サイズ(平均板径)21nmの六方晶バリウムフェライト粉末を示す。
【0111】
表1中、強磁性粉末の種類の欄における「SrFe1」は、以下のように作製された六方晶ストロンチウムフェライト粉末を示す。
SrCOを1707g、HBOを687g、Feを1120g、Al(OH)を45g、BaCOを24g、CaCOを13g、およびNdを235g秤量し、ミキサーにて混合し原料混合物を得た。
得られた原料混合物を、白金ルツボで溶融温度1390℃で溶融し、融液を撹拌しつつ白金ルツボの底に設けた出湯口を加熱し、融液を約6g/秒で棒状に出湯させた。出湯液を水冷双ローラーで圧延急冷して非晶質体を作製した。
作製した非晶質体280gを電気炉に仕込み、昇温速度3.5℃/分にて635℃(結晶化温度)まで昇温し、同温度で5時間保持して六方晶ストロンチウムフェライト粒子を析出(結晶化)させた。
次いで六方晶ストロンチウムフェライト粒子を含む上記で得られた結晶化物を乳鉢で粗粉砕し、ガラス瓶に粒径1mmのジルコニアビーズ1000gと濃度1%の酢酸水溶液を800mL加えてペイントシェーカーにて3時間分散処理を行った。その後、得られた分散液をビーズと分離させステンレスビーカーに入れた。分散液を液温100℃で3時間静置させてガラス成分の溶解処理を行った後、遠心分離器で沈澱させてデカンテーションを繰り返して洗浄し、炉内温度110℃の加熱炉内で6時間乾燥させて六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末の平均粒子サイズは18nm、活性化体積は902nm、異方性定数Kuは2.2×10J/m、質量磁化σsは49A・m/kgであった。
上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末から試料粉末を12mg採取し、この試料粉末を先に例示した溶解条件によって部分溶解して得られたろ液の元素分析をICP分析装置によって行い、ネオジム原子の表層部含有率を求めた。
別途、上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末から試料粉末を12mg採取し、この試料粉末を先に例示した溶解条件によって全溶解して得られたろ液の元素分析をICP分析装置によって行い、ネオジム原子のバルク含有率を求めた。
上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末の鉄原子100原子%に対するネオジム原子の含有率(バルク含有率)は、2.9原子%であった。また、ネオジム原子の表層部含有率は8.0原子%であった。表層部含有率とバルク含有率との比率、「表層部含有率/バルク含有率」は2.8であり、ネオジム原子が粒子の表層に偏在していることが確認された。
【0112】
上記で得られた粉末が六方晶フェライトの結晶構造を示すことは、CuKα線を電圧45kVかつ強度40mAの条件で走査し、下記条件でX線回折パターンを測定すること(X線回折分析)により確認した。上記で得られた粉末は、マグネトプランバイト型(M型)の六方晶フェライトの結晶構造を示した。また、X線回折分析により検出された結晶相は、マグネトプランバイト型の単一相であった。
PANalytical X’Pert Pro回折計、PIXcel検出器
入射ビームおよび回折ビームのSollerスリット:0.017ラジアン
分散スリットの固定角:1/4度
マスク:10mm
散乱防止スリット:1/4度
測定モード:連続
1段階あたりの測定時間:3秒
測定速度:毎秒0.017度
測定ステップ:0.05度
【0113】
表1中、強磁性粉末の種類の欄における「SrFe2」は、以下のように作製された六方晶ストロンチウムフェライト粉末を示す。
SrCOを1725g、HBOを666g、Feを1332g、Al(OH)を52g、CaCOを34g、BaCOを141g秤量し、ミキサーにて混合し原料混合物を得た。
得られた原料混合物を、白金ルツボで溶融温度1380℃で溶解し、融液を撹拌しつつ白金ルツボの底に設けた出湯口を加熱し、融液を約6g/秒で棒状に出湯させた。出湯液を水冷双ロールで圧延急冷して非晶質体を作製した。
得られた非晶質体280gを電気炉に仕込み、645℃(結晶化温度)まで昇温し、同温度で5時間保持し六方晶ストロンチウムフェライト粒子を析出(結晶化)させた。
次いで六方晶ストロンチウムフェライト粒子を含む上記で得られた結晶化物を乳鉢で粗粉砕し、ガラス瓶に粒径1mmのジルコニアビーズ1000gと濃度1%の酢酸水溶液を800mL加えてペイントシェーカーにて3時間分散処理を行った。その後、得られた分散液をビーズと分離させステンレスビーカーに入れた。分散液を液温100℃で3時間静置させてガラス成分の溶解処理を行った後、遠心分離器で沈澱させてデカンテーションを繰り返して洗浄し、炉内温度110℃の加熱炉内で6時間乾燥させて六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末の平均粒子サイズは19nm、活性化体積は1102nm、異方性定数Kuは2.0×10J/m、質量磁化σsは50A・m/kgであった。
【0114】
表1中、「ε-酸化鉄」は、以下のように作製されたε-酸化鉄粉末を示す。
純水90gに、硝酸鉄(III)9水和物8.3g、硝酸ガリウム(III)8水和物1.3g、硝酸コバルト(II)6水和物190mg、硫酸チタン(IV)150mg、およびポリビニルピロリドン(PVP)1.5gを溶解させたものを、マグネチックスターラーを用いて撹拌しながら、大気雰囲気中、雰囲気温度25℃の条件下で、濃度25%のアンモニア水溶液4.0gを添加し、雰囲気温度25℃の温度条件のまま2時間撹拌した。得られた溶液に、クエン酸1gを純水9gに溶解させて得たクエン酸水溶液を加え、1時間撹拌した。撹拌後に沈殿した粉末を遠心分離によって採集し、純水で洗浄し、炉内温度80℃の加熱炉内で乾燥させた。
乾燥させた粉末に純水800gを加えて再度粉末を水に分散させて分散液を得た。得られた分散液を液温50℃に昇温し、撹拌しながら濃度25%アンモニア水溶液を40g滴下した。50℃の温度を保ったまま1時間撹拌した後、テトラエトキシシラン(TEOS)14mLを滴下し、24時間撹拌した。得られた反応溶液に、硫酸アンモニウム50gを加え、沈殿した粉末を遠心分離によって採集し、純水で洗浄し、炉内温度80℃の加熱炉内で24時間乾燥させ、強磁性粉末の前駆体を得た。
得られた強磁性粉末の前駆体を、大気雰囲気下、炉内温度1000℃の加熱炉内に装着し、4時間の熱処理を施した。
熱処理した強磁性粉末の前駆体を、4mol/Lの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液中に投入し、液温を70℃に維持して24時間撹拌することにより、熱処理した強磁性粉末の前駆体から不純物であるケイ酸化合物を除去した。
その後、遠心分離処理により、ケイ酸化合物を除去した強磁性粉末を採集し、純水で洗浄を行い、強磁性粉末を得た。
得られた強磁性粉末の組成を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES;Inductively Coupled Plasma-Optical Emission Spectrometry)により確認したところ、Ga、CoおよびTi置換型ε-酸化鉄(ε-Ga0.28Co0.05Ti0.05Fe1.62)であった。また、先に六方晶ストロンチウムフェライト粉末SrFe1に関して記載した条件と同様の条件でX線回折分析を行い、X線回折パターンのピークから、得られた強磁性粉末が、α相およびγ相の結晶構造を含まない、ε相の単相の結晶構造(ε-酸化鉄型の結晶構造)を有することを確認した。
得られたε-酸化鉄粉末の平均粒子サイズは12nm、活性化体積は746nm、異方性定数Kuは1.2×10J/m、質量磁化σsは16A・m/kgであった。
【0115】
上記の六方晶ストロンチウムフェライト粉末およびε-酸化鉄粉末の活性化体積および異方性定数Kuは、各強磁性粉末について、振動試料型磁力計(東英工業社製)を用いて、先に記載の方法により求められた値である。
また、質量磁化σsは、振動試料型磁力計(東英工業社製)を用いて磁場強度1194kA/m(15kOe)で測定された値である。
【0116】
[実施例1]
(1)アルミナ分散物の調製
アルファ化率約65%、BET(Brunauer-Emmett-Teller)比表面積20m/gのアルミナ粉末(住友化学社製HIT-80)100.0部に対し、3.0部の2,3-ジヒドロキシナフタレン(東京化成社製)、極性基としてSONa基を有するポリエステルポリウレタン樹脂(東洋紡社製UR-4800(極性基量:80meq/kg))の32%溶液(溶媒はメチルエチルケトンとトルエンの混合溶媒)を31.3部、溶媒としてメチルエチルケトンとシクロヘキサノン1:1(質量比)の混合溶液570.0部を混合し、ジルコニアビーズ存在下で、ペイントシェーカーにより5時間分散させた。分散後、メッシュにより分散液とビーズとを分け、アルミナ分散物を得た。
【0117】
(2)磁性層形成用組成物処方
(磁性液)
強磁性粉末(表1参照) 100.0部
SONa基含有ポリウレタン樹脂 14.0部
重量平均分子量:70,000、SONa基:0.2meq/g
シクロヘキサノン 150.0部
メチルエチルケトン 150.0部
(研磨剤液)
上記(1)で調製したアルミナ分散物 6.0部
(シリカゾル(突起形成剤液))
コロイダルシリカ(平均粒子サイズ:120nm) 2.0部
メチルエチルケトン 1.4部
(その他の成分)
ステアリン酸 2.0部
ステアリン酸アミド 0.2部
ブチルステアレート 2.0部
ポリイソシアネート(東ソー社製コロネート(登録商標)L) 2.5部
(仕上げ添加溶媒)
シクロヘキサノン 200.0部
メチルエチルケトン 200.0部
【0118】
(3)非磁性層形成用組成物処方
非磁性無機粉末:α-酸化鉄 100.0部
平均粒子サイズ(平均長軸長):0.15μm
平均針状比:7
BET比表面積:52m/g
カーボンブラック 20.0部
平均粒子サイズ:20nm
SONa基含有ポリウレタン樹脂 18.0部
重量平均分子量:70,000、SONa基:0.2meq/g
ステアリン酸 2.0部
ステアリン酸アミド 0.2部
ブチルステアレート 2.0部
シクロヘキサノン 300.0部
メチルエチルケトン 300.0部
【0119】
(4)バックコート層形成用組成物処方
カーボンブラック 100.0部
DBP(Dibutyl phthalate)吸油量:74cm/100g
ニトロセルロース 27.0部
スルホン酸基および/またはその塩を含有するポリエステルポリウレタン樹脂
62.0部
ポリエステル樹脂 4.0部
アルミナ粉末(BET比表面積:17m/g) 0.6部
メチルエチルケトン 600.0部
トルエン 600.0部
ポリイソシアネート(東ソー社製コロネート(登録商標)L) 15.0部
【0120】
(5)各層形成用組成物の調製
磁性層形成用組成物を、以下の方法により調製した。上記磁性液を、各成分をバッチ式縦型サンドミルを用いて24時間分散(ビーズ分散)することにより調製した。分散ビーズとしては、ビーズ径0.5mmのジルコニアビーズを使用した。上記サンドミルを用いて、調製した磁性液および上記研磨剤液および他の成分(シリカゾル、その他の成分および仕上げ添加溶媒)と混合し5分間ビーズ分散した後、バッチ型超音波装置(20kHz、300W)で0.5分間処理(超音波分散)を行った。その後、0.5μmの孔径を有するフィルタを用いてろ過を行い磁性層形成用組成物を調製した。
非磁性層形成用組成物を、以下の方法により調製した。潤滑剤(ステアリン酸、ステアリン酸アミドおよびブチルステアレート)を除く上記成分を、オープンニーダにより混練および希釈処理し、その後、横型ビーズミル分散機により分散処理を実施した。その後、潤滑剤(ステアリン酸、ステアリン酸アミドおよびブチルステアレート)を添加して、ディゾルバー撹拌機にて撹拌および混合処理を施して非磁性層形成用組成物を調製した。
バックコート層形成用組成物を、以下の方法により調製した。ポリイソシアネートを除く上記成分を、ディゾルバー撹拌機に導入し、周速10m/秒で30分間撹拌した後、横型ビーズミル分散機により分散処理を実施した。その後、ポリイソシアネートを添加して、ディゾルバー撹拌機にて撹拌および混合処理を施し、バックコート層形成用組成物を調製した。
【0121】
(6)磁気テープおよび磁気記録再生装置の作製方法
厚み4.1μmの二軸延伸されたポリエチレンテレフタレート支持体の表面上に、乾燥後の厚みが0.7μmとなるように上記(5)で調製した非磁性層形成用組成物を塗布および乾燥させて非磁性層を形成した。次いで、非磁性層上に乾燥後の厚みが0.1μmとなるように上記(5)で調製した磁性層形成用組成物を塗布して塗布層を形成した。その後に、磁性層形成用組成物の塗布層が未乾燥状態にあるうちに、磁場強度0.3Tの磁場を塗布層の表面に対し垂直方向に印加して垂直配向処理を行った後、乾燥させ、磁性層を形成した。その後、支持体の非磁性層および磁性層を形成した表面とは反対側の表面に、乾燥後の厚みが0.3μmとなるように上記(5)で調製したバックコート層形成用組成物を塗布および乾燥させてバックコート層を形成した。
その後、金属ロールのみから構成されるカレンダロールを用いて、速度100m/分、線圧300kg/cm、および90℃のカレンダ温度(カレンダロールの表面温度)にて、表面平滑化処理(カレンダ処理)を行った。
その後、長尺状の磁気テープ原反を雰囲気温度70℃の熱処理炉内に保管することにより熱処理を行った(熱処理時間:36時間)。熱処理後、1/2インチ幅にスリットして、磁気テープを得た。得られた磁気テープの磁性層に市販のサーボライターによってサーボ信号を記録することにより、LTO(Linear Tape-Open) Ultriumフォーマットにしたがう配置でデータバンド、サーボバンド、およびガイドバンドを有し、かつサーボバンド上にLTO Ultriumフォーマットにしたがう配置および形状のサーボパターン(タイミングベースサーボパターン)を有する磁気テープを得た。こうして形成されたサーボパターンは、JIS(Japanese Industrial Standards) X6175:2006およびStandard ECMA-319(June 2001)の記載にしたがうサーボパターンである。サーボバンドの合計本数は5、データバンドの合計本数は4である。
上記サーボパターン形成後の磁気テープ(長さ970m)を熱処理用巻芯に巻取り、この巻芯に巻付けた状態で熱処理した。熱処理用巻芯としては、曲げ弾性率0.8GPaの樹脂製の中実状の芯状部材(外径:50mm)を使用し、巻取り時のテンションは0.6Nとした。熱処理は、熱処理温度50℃で5時間行った。熱処理を行った雰囲気の重量絶対湿度は、10g/kg Dry airであった。
上記熱処理後、磁気テープおよび熱処理用巻芯が十分冷却された後に磁気テープを熱処理用巻芯から取り外し、一時巻取り用巻芯に巻取り、その後、一時巻取り用巻芯から、以下の工程で磁気記録装置内に配置されるテープリール(リール外径:44mm)へ最終製品長分(960m)の磁気テープを巻取り、残り10m分は切り取り、切り取り側の末端に、市販のスプライシングテープによって、Standard ECMA(European Computer Manufacturers Association)-319(June 2001) Section 3の項目9にしたがうリーダーテープを接合させた。一時巻取り用巻芯としては、熱処理用巻芯と同じ材料製で同じ外径を有する中実状の芯状部材を使用し、巻取り時のテンションは0.6Nとした。
以上により、長さ960mの磁気テープがテープリールに巻取られた。
表1に示す雰囲気温度および相対湿度の環境(密閉時周囲環境)において、図3に示す構成例の磁気記録再生装置を以下のように作製した。
上記で磁気テープが巻取られたテープリールを、図3に示されている各種構成要素が既に設置されている磁気記録再生装置10の全体を覆う筐体H1の内部空間S1に、図3中のテープリール13Aとして設置した。この状態で、密閉時周囲環境に10日以上置いた後、金属製の筐体H1を封止手段によって封止した。この筐体H1の内部空間S1の容積は3Lである。筐体H1中に配置する温湿度センサとしては、ティアンドデイ社製温度湿度データロガーTR-72wb-Sを使用した。
【0122】
[実施例2~7、比較例1]
密閉時周囲環境の温度、湿度および磁性層の形成に使用する強磁性粉末の1つ以上を表1に示すように変更した点以外、実施例1と同様に磁気記録再生装置を作製した。
【0123】
[実施例8]
磁気記録再生装置の筐体H内に調湿剤(LIXIL社製エコカラット)を配置した点以外、実施例1と同様に磁気記録再生装置を作製した。
【0124】
実施例1~8および比較例1について、それぞれ、密閉時周囲環境に10日以上置いた後に筐体H1を封止手段によって封止した後、内部空間S1内の温湿度を安定させるために6時間以上静置した後に温湿度センサによって筐体H1の内部空間S1内の相対湿度および温度を測定した。測定結果を、表1中、「密閉後テープ近傍環境A」の欄に示す。
密閉時周囲環境に10日間以上置いた後に筐体H1を封止したため、密閉後テープ近傍環境Aが密閉時周囲環境とほぼ同様の温湿度環境になっていることが確認された。
【0125】
[比較例2]
テープリールを磁気記録再生装置に収容せず、開放空間に配置されているリールテスターに取り付けた。後述の記録再生性能の評価は、このリールテスターを使用して開放空間において行った。
【0126】
[密閉度の測定]
実施例1~8および比較例1の各磁気記録再生装置については、筐体H1の内部空間S1の密閉度を、JIS Z 2331:2006 ヘリウム漏れ試験方法に規定されているヘリウム(He)を使用する浸せき法(ボンビング法)によって測定した。測定した結果、いずれの磁気記録再生装置についても、筐体H1の内部空間S1の密閉度は、5×10―9Pa・m/秒以上Pa・m/秒以上10×10-8Pa・m/秒以下であった。この結果から、実施例1~8および比較例1の各磁気記録再生装置は、筐体H1の内部空間S1が密閉空間であることが確認された。これら実施例および比較例について、後述の表1には、「系」の欄に「密閉」と表記した。
比較例2については、磁気テープは開放空間に置かれているため、後述の表1には、「系」の欄に「開放」と表記した。
【0127】
[相対湿度差(RH-RH)の測定]
以下の相対湿度の測定は、実施例1~8および比較例1については、筐体H1の内部空間S1内に配置されている温湿度センサを用いて行った。
比較例2については、磁気テープが巻取られているテープリールからの距離が30cm以内の位置に温湿度センサ(ティアンドデイ社製温度湿度データロガーTR-72wb-S)を設置して、以下の相対湿度の測定を行った。
雰囲気温度21℃相対湿度50%の環境(以下、「環境B」と記載する。)に6時間以上置いた後、同環境において、温湿度センサによって相対湿度RHを測定し、併せて温度も測定した。
その後、雰囲気温度60℃相対湿度5%の環境(以下、「環境C」と記載する。)に6時間以上置いた後、同環境において、温湿度センサによって相対湿度RHを測定し、併せて温度も測定した。
実施例1~8、比較例1、2について、それぞれ、相対湿度差(RH-RH)を算出した。
【0128】
[記録再生性能の評価]
記録再生ヘッドとして、再生素子(再生トラック幅1μm)および記録素子を32チャンネル有し、その両側にサーボ信号読み取り素子(以下では、一方を上側、他方を下側と呼ぶ。)を有する磁気ヘッドを使用した。
記録を行う環境の雰囲気温度は21℃相対湿度は50%とし、再生を行う環境の雰囲気温度は60℃相対湿度は5%とし、記録前および再生前には、それぞれ、各磁気記録再生装置(比較例2は磁気テープが巻取られたテープリールが取り付けられたリールテスター)を各環境に24時間以上置いた。
記録時、サーボトラッキングを行いながら記録再生ヘッドユニットにより磁気テープに特定のデータパターンを有する疑似ランダムデータの記録を行った。その際に磁気テープの長手方向にかけるテンションは0.56Nとした。データの記録では、隣接トラック間の(PES1+PES2)/2の値の差が1.1μmとなるように3往復以上の記録を行った。
再生時、サーボトラッキングを行いながら記録再生ヘッドユニットにより磁気テープに記録されたデータの再生を行った。その際に磁気テープの長手方向にかけるテンションは0.56Nとした。
PES1およびPES2について、以下に説明する。「PES」は、「Position Error Signal」の略称である。
データバンドを挟んで隣り合う2本のサーボバンドの間隔を求めるためには、サーボパターンの寸法が必要である。サーボパターンの寸法の規格は、LTOの世代によって異なる。そこでまず、磁気力顕微鏡等を用いて、AバーストとCバーストの対応する4ストライプ間の平均距離AC、およびサーボパターンのアジマス角αを計測する。
次に、上記磁気ヘッドを用いて、磁気テープに形成されたサーボパターンをテープ長手方向に沿って順次読み取る。1 LPOSワードの長さにわたるAバーストとBバーストに対応する5ストライプ間の平均時間をaと定義する。1LPOSワードの長さにわたるAバーストとCバーストの対応する4ストライプの平均時間をbと定義する。このとき、AC×(1/2-a/b)/(2×tan(α))で定義される値が、1LPOSワードの長さにわたってサーボ信号読み取り素子により得られたサーボ信号に基づく幅方向の読み取り位置PESを表す。1 LPOSワードについてのサーボパターンの読み取りは、上側と下側の2つのサーボ信号読み取り素子により同時に行う。上側のサーボ信号読み取り素子により得られたPESの値をPES1、下側のサーボ信号読み取り素子により得られたPESの値をPES2とする。
【0129】
記録再生性能の評価について、32チャンネルすべてのデータが正しく読み取られた場合に記録再生性能「3」と評価し、31~28チャンネルのデータが正しく読み取られた場合に記録再生性能「2」と評価し、それ以外の場合を記録再生性能「1」と評価した。
【0130】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明の一態様は、データストレージの技術分野において有用である。
図1
図2
図3
図4