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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022027842
(43)【公開日】2022-02-14
(54)【発明の名称】ガラス基板、積層基板、および積層体
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/085 20060101AFI20220203BHJP
   C03C 3/087 20060101ALI20220203BHJP
   C03C 3/091 20060101ALI20220203BHJP
   B32B 17/04 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
C03C3/085
C03C3/087
C03C3/091
B32B17/04 Z
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021198042
(22)【出願日】2021-12-06
(62)【分割の表示】P 2020114272の分割
【原出願日】2016-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2015196548
(32)【優先日】2015-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塙 優
(72)【発明者】
【氏名】小野 和孝
(72)【発明者】
【氏名】澤村 茂輝
(57)【要約】
【課題】本発明は、ガラス基板、積層基板、および積層体を提供する。
【解決手段】本発明のガラス基板は、母組成として、酸化物基準のモル百分率表示で、SiO:58~75%、Al:4.5~16%、B:0~6%、MgO:0~6%、CaO:0~6%、SrO:5~20%、BaO:5~20%、MgO+CaO+SrO+BaO:15~40%を含み、アルカリ金属酸化物の含有量が酸化物基準のモル百分率表示で0~0.1%であり、50℃~350℃での平均熱膨張係数αが56~90(×10-7/℃)である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
母組成として、酸化物基準のモル百分率表示で、
SiO:58~75%、
Al:4.5~7%、
:0~6%、
MgO:0~6%、
CaO:0~6%、
SrO:5~20%、
BaO:9~20%、
MgO+CaO+SrO+BaO:15~40%を含み、
アルカリ金属酸化物の含有量が酸化物基準のモル百分率表示で0~0.1%であり、
50℃~350℃での平均熱膨張係数αが56~90(×10-7/℃)であり、
温度90℃、濃度0.1NのNaOH水溶液に20時間浸漬したときの単位面積当たりの重量減少が3mg/cm以下である、ガラス基板。
【請求項2】
温度90℃、濃度0.1規定のNaOH溶液に20時間浸漬後のヘーズ率が50%以下である請求項1に記載のガラス基板。
【請求項3】
酸化物基準のモル百分率表示で各酸化物の含有量の割合の関係を表した下記式(1)によって求められる値が56~90となる請求項1または2に記載のガラス基板。
0.174×(SiOの含有量)-0.012×(Alの含有量)+0.317×(Bの含有量)+0.988×(MgOの含有量)+1.715×(CaOの含有量)+2.011×(SrOの含有量)+2.251×(BaOの含有量)+0.076 (1)
【請求項4】
酸化物基準のモル百分率表示で、SiOおよびAlの合計含有量が65%以上である請求項1~3のいずれか1項に記載のガラス基板。
【請求項5】
温度90℃、濃度0.1規定のHCl溶液に20時間浸漬後の単位面積当たりの重量減少量が0.3mg/cm以下である請求項1~4のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項6】
温度25℃、濃度5%のHF溶液に20分浸漬後の単位面積当たりの重量減少量が13mg/cm以下である請求項1~5のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項7】
温度90℃、濃度0.1規定のHCl溶液に20時間浸漬後の厚さ1mmでのヘーズ率が50%以下である請求項1~6のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項8】
温度25℃、濃度5%のHF溶液に20分浸漬後のヘーズ率が50%以下である請求項1~7のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項9】
失透温度が1250℃以下である請求項1~8のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項10】
酸化物基準の質量百万分率表示で、Feの含有量が200ppm以下である請求項1~9のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項11】
ヤング率が65GPa以上である請求項1~10のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項12】
厚さが2.0mm以下である請求項1~11のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項13】
面積が70~2500cmである請求項1~12のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項14】
前記ガラス基板の形状が円形である請求項1~13のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項15】
前記ガラス基板のβ-OHが0.05~0.65mm-1である請求項1~14のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項16】
前記ガラス基板の少なくとも一の主表面に遮光膜を有する請求項1~15のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項17】
ガラス転移点(Tg)が680℃以上である請求項1~16のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項18】
ファンアウト型のウェハレベルパッケージ用のガラス基板である請求項1~17のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項19】
請求項1~18のいずれか一項に記載のガラス基板と、シリコン基板とが積層されて形成される積層基板。
【請求項20】
請求項19に記載の積層基板を構成するガラス基板に他のガラス基板を貼り合わせることにより形成される積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板、積層基板、および積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの分野では、デバイスの集積度が増加される一方、デバイスの小型化が進んでいる。それに伴い、高集積度を有するデバイスのパッケージング技術への要望が高まっている。
【0003】
近年、原寸のウェハ状態のガラス基板にシリコン基板を貼り合わせるウェハレベルパッケージ技術が脚光を浴びている。ウェハレベルパッケージとして用いられるガラス基板としては、例えば、ファンアウト型のウェハレベルパッケージ用の支持ガラス基板等が挙げられる(例えば、特許文献1参照)。ファンアウト型のウェハレベルパッケージでは、ガラス基板はシリコン基板と樹脂等の剥離層を介して貼り合わされ、シリコン基板は樹脂で包埋される。紫外線を照射することにより、ガラス基板と樹脂で包埋されたシリコン基板とは剥離される。剥離されたガラス基板は再利用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】日本国特開2015-78113号公報
【特許文献2】日本国特開平8-333133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ガラス基板とシリコン基板とを貼り合わせるためには、熱処理工程を必要とする。熱処理工程では、例えば、200℃~400℃の温度で剥離層を間に介してガラス基板とシリコン基板とを貼り合わせることにより積層基板を形成し、室温まで徐冷する。このとき、ガラス基板とシリコン基板との熱膨張係数に大きな差があると、熱膨張率の違いによりガラス基板およびシリコン基板に大きな残留歪(残留変形)が発生し、積層基板が変形、破損しやすい。
【0006】
また、シリコン基板にアルカリイオンが含まれると、半導体デバイスとしてゲート電圧をかけたときにアルカリイオンにより電場分布が変わり、スイッチング機能が働きにくくなる。そのため、熱処理工程でアルカリイオンがガラス基板からシリコン基板に拡散しないことが求められる。
【0007】
さらに、ガラス基板は、表面に汚れや異物があるとシリコン基板と貼り合わせしにくいため、HCl、HFなどの酸性溶液により洗浄された後に、シリコン基板と貼り合わせることが好ましい。また、ファンアウト型ウェハレベルパッケージでは、剥離されたガラス基板を再利用するために、HCl、HFなどの酸性溶液によりガラス基板に付着した剥離層が除去される。そのため、ガラス基板はHCl、HFなどの酸性溶液に対する化学的耐久性があることが求められる。
【0008】
特許文献1には、20~200℃の温度範囲における平均線熱膨張係数が50×10-7~66×10-7/℃である支持ガラス基板が開示されているが、NaOやKOなどのアルカリ金属酸化物を5質量%以上含んでいるため、熱処理工程でアルカリイオンが半導体基板に拡散しやすい。
【0009】
特許文献2には、0~300℃の温度範囲での線熱膨張率が60~90×10-7/℃であるガラスが開示されているが、酸性溶液に対する化学的耐久性が不十分である。
【0010】
これまで、(1)酸性溶液に対する化学的耐久性がよい、(2)ガラス基板とシリコン基板とを貼り合わせる熱処理工程においてアルカリイオンがシリコン基板に拡散しにくい、(3)熱処理工程において積層基板に発生する残留歪が小さいという3つの課題を全て解決できるガラス基板、積層基板、および積層体はなかった。
【0011】
本発明は、上記した3つの課題を全て解決するガラス基板、積層基板、および積層体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のガラス基板は、母組成として、酸化物基準のモル百分率表示で、
SiO :58~75%、
Al :4.5~16%、
:0~6%、
MgO :0~6%、
CaO :0~6%、
SrO :5~20%、
BaO :5~20%、
MgO+CaO+SrO+BaO :15~40%
を含み、
アルカリ金属酸化物の含有量が酸化物基準のモル百分率表示で0~0.1%であり、
50℃~350℃での平均熱膨張係数αが56~90(×10-7/℃)である。
【0013】
本発明の積層基板は、上記のガラス基板と、シリコン基板とが積層されて形成される。
【0014】
本発明の積層体は、上記積層基板を構成するガラス基板に他のガラス基板を貼り合わせることにより形成される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様に係るガラス基板は、酸性溶液に対する化学的耐久性がよい。また、ガラス基板とシリコン基板とを貼り合わせる熱処理工程において、アルカリイオンがシリコン基板に拡散しにくく、積層基板に発生する残留歪が小さい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1(A)及び図1(B)はシリコン基板と貼り合わせる本発明の一実施形態のガラス基板を表し、図1(A)は貼り合わせ前の断面図、図1(B)は貼り合わせ後の断面図を示す。
図2】本発明の一実施形態の積層基板の断面図。
図3】例1~例6の外観写真。
図4】例7~例11の外観写真。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について図を参照して詳細に説明する。
【0018】
本明細書における数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用され、特段の定めがない限り、以下本明細書において「~」は、同様の意味をもって使用される。
【0019】
まず、本発明の一実施形態のガラス基板について説明する。
【0020】
図1(A)及び図1(B)は、シリコン基板と貼り合わせる本発明の一実施形態のガラス基板の断面図である。図1(A)に表される本発明の一実施形態のガラス基板G1は、シリコン基板10と、剥離層20を間に介して、例えば、200℃~400℃の温度で貼り合わされ、図1(B)に表される積層基板30が得られる。シリコン基板10として、例えば、原寸のシリコンウェハや、シリコンチップが用いられる。剥離層20は、例えば、200~400℃の温度に耐えられる樹脂である。
【0021】
本発明の一実施形態のガラス基板は、シリコン基板と貼り合わせることにより使用される。例えば、ファンアウト型のウェハレベルパッケージ用の支持ガラス基板、ウェハレベルパッケージによる素子の小型化が有効なMEMS、CMOS、CIS等のイメージセンサ用のガラス基板、貫通孔を有するガラス基板(ガラスインターポーザ;GIP)、および半導体バックグラインド用のサポートガラス等に使用されるが、特に、ファンアウト型のウェハレベルパッケージ用の支持ガラス基板として好適である。
【0022】
図2は、本発明の一実施形態のガラス基板をファンアウト型のウェハレベルパッケージ用の支持ガラス基板として用いる本発明の一実施形態の積層基板の断面図である。
【0023】
ファンアウト型のウェハレベルパッケージでは、例えば、200℃~400℃の温度で、ガラス基板G2とシリコン基板40(例えばシリコンチップ)とを樹脂等の剥離層50を介して積層させ、さらにシリコン基板40を樹脂60で包埋することにより積層基板70が得られる。その後、紫外線を、ガラス基板G2を通して剥離層50に照射させることにより、ガラス基板G2と樹脂60で包埋されたシリコン基板40とは剥離される。剥離されたガラス基板G2は再利用される。樹脂60で包埋されたシリコン基板40は、銅線等により配線される。本発明の一実施形態に係るガラス基板は、後述するように酸性溶液に対する化学的耐久性が高いため、再利用されるファンアウト型のウェハレベルパッケージ用の支持ガラス基板として好適である。
【0024】
本発明の一実施形態のガラス基板は、母組成として、酸化物基準のモル百分率表示で、
SiO :58~75%、
Al :4.5~16%、
:0~6%、
MgO :0~6%、
CaO :0~6%、
SrO :5~20%、
BaO :5~20%、
MgO+CaO+SrO+BaO :15~40%
を含むことを特徴とする。
【0025】
SiOはガラスの骨格を形成する成分である。SiOの含有量が58%以上であれば、HCl、HFなどの酸性溶液およびNaOHなどのアルカリ性溶液に対する化学的耐久性が高くなる。また、耐熱性、耐候性が良好となる。SiOの含有量は、60%以上が好ましく、64%以上がより好ましい。一方、SiOの含有量が75%以下であれば、ガラス溶解時の粘性が高くなり過ぎず、溶融性が良好となる。溶融性が良好であれば、低い温度で溶解できることにより、燃料の使用量を抑えられ、溶解窯が損傷しにくい。SiOの含有量は、70%以下が好ましく、68%以下がより好ましい。
【0026】
Alの含有量が4.5%以上であれば、HCl、HFなどの酸性溶液およびNaOHなどのアルカリ性溶液に対する化学的耐久性が高くなる。また、耐候性、耐熱性が良好となり、ヤング率が高くなる。Alの含有量は、5.0%以上が好ましく、5.5%以上がより好ましく、5.8%以上がさらに好ましい。一方、Alの含有量が16%以下であれば、ガラス溶解時の粘性が高くなり過ぎずに溶融性が良好となる。また、失透温度を低くすることができ、安定して成形をすることができる。Alの含有量は、10%以下が好ましく、8%以下がより好ましく、7%以下がさらに好ましい。
【0027】
は必須成分ではないが、含有することによりガラス溶解時の粘性が高くなり過ぎずに溶融性が良好となる。また、失透温度を低くすることができ、安定して成形をすることができる。さらに、ヤング率が高くなり、ガラス基板を製造する際の後述する徐冷工程において発生するガラス基板の反りや割れを抑制することができる。Bの含有量は1%以上が好ましく、2%以上がより好ましい。一方、Bの含有量が6%以下であれば、ガラス転移点Tgを高くすることができる。Bの含有量は、5%以下が好ましく、4%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましい。
【0028】
MgOは必須成分ではないが、含有することによりガラス溶解時の粘性が高くなり過ぎずに溶融性が良好となる。また、耐候性が向上し、ヤング率が高くなる。MgOの含有量は、1%以上が好ましく、2%以上がより好ましい。一方、MgOの含有量が、6%以下であれば、失透しにくい。MgOの含有量は、5%以下が好ましく、4%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましい。
【0029】
CaOは必須成分ではないが、含有することによりガラス溶解時の粘性が高くなり過ぎずに溶融性が良好となる。また、耐候性が向上する。CaOの含有量は、1%以上が好ましく、2%以上がより好ましい。一方、CaOの含有量が6%以下であれば、失透温度を低くすることができ、安定して成形をすることができる。また、HCl、HFなどの酸性溶液およびNaOHなどのアルカリ性溶液に対する化学的耐久性が高くなる。CaOの含有量は、5.5%以下が好ましく、5%以下がより好ましく、4.5%以下がさらに好ましく、4%以下が特に好ましい。
【0030】
SrOの含有量が5%以上であれば、ガラス溶解時の粘性が高くなり過ぎずに溶融性が良好となる。また、耐候性が向上する。さらに、熱膨張係数を高くすることができる。SrOの含有量は、6%以上が好ましく、7%以上がより好ましく、8%以上がさらに好ましい。一方、SrOの含有量が20%以下であれば、失透温度を低くすることができ、安定して成形をすることができる。SrOの含有量は、17%以下が好ましく、14%以下がより好ましく、11%以下がさらに好ましく、10%以下が特に好ましい。
【0031】
BaOの含有量が5%以上であれば、ガラス溶解時の粘性が高くなり過ぎずに溶融性が良好となる。また、耐候性が向上する。さらに、熱膨張係数を高くすることができる。BaOの含有量は、8%以上が好ましく、9%以上が好ましく、10%以上が好ましく、11%以上がより好ましく、12%以上がさらに好ましく、13%以上が特に好ましく、14%以上が最も好ましい。一方、BaOの含有量が20%以下であれば、失透温度を低くすることができ、安定して成形をすることができる。BaOの含有量は、18%以下が好ましく、16%以下がより好ましく、15%以下がさらに好ましい。
【0032】
本発明の一実施形態のガラス基板は、酸化物基準のモル百分率表示で、MgO、CaO、SrO、およびBaOの合計含有量が15~40%であることを特徴とする。MgO、CaO、SrO、およびBaOの合計含有量が15%以上であれば、ガラス溶解時の粘性が高くなり過ぎずに溶融性が良好となる。また、耐候性が向上する。MgO、CaO、SrO、およびBaOの合計含有量は20%以上が好ましく、23%以上がより好ましく、25%以上がさらに好ましく、27%以上が特に好ましい。一方、MgO、CaO、SrO、およびBaOの合計含有量が40%以下であれば、HCl、HFなどの酸性溶液およびNaOHなどのアルカリ性溶液に対する化学的耐久性が高くなる。また、失透温度を低くすることができ、安定して成形をすることができる。MgO、CaO、SrO、およびBaOの合計含有量は36%以下が好ましく、32%以下がより好ましく、30%以下がさらに好ましく、29%以下が特に好ましい。
【0033】
本発明の一実施形態のガラス基板は、アルカリ金属酸化物の含有量が酸化物基準のモル百分率表示で0~0.1%であることを特徴とする。ここで、アルカリ金属酸化物は、LiO、NaO、KOなどである。アルカリ金属酸化物の含有量が酸化物基準のモル百分率表示で0.1%以下であれば、シリコン基板とガラス基板とを貼り合わせる熱処理工程において、アルカリイオンがシリコン基板に拡散しにくい。アルカリ金属酸化物の含有量は、酸化物基準のモル百分率表示で0.05%以下であることがより好ましく、0.02%以下であることがさらに好ましく、実質的に含まないことが特に好ましい。ここで、アルカリ金属酸化物を実質的に含まないとは、アルカリ金属酸化物を全く含まないこと、またはアルカリ金属酸化物を製造上不可避的に混入した不純物として含んでいてもよいことを意味する。
【0034】
本発明の一実施形態のガラス基板は、50℃~350℃での平均熱膨張係数αが56~90(×10-7/℃)であることを特徴とする。αが56~90(×10-7/℃)であれば、ガラス基板とシリコン基板とを貼り合わせる熱処理工程で、積層基板に発生する残留歪を小さくしやすい。ここで、ガラス基板とシリコン基板の間の剥離層による影響は、剥離層がガラス基板やシリコン基板と比べて十分に薄いため無視できる。
【0035】
また、ファンアウト型のウェハレベルパッケージとして用いる場合は、ガラス基板G2とシリコン基板40とを貼り合わせる熱処理工程で、さらにシリコン基板40が樹脂60で包埋される。αが56~90(×10-7/℃)であれば、ガラス基板G2、シリコン基板40および樹脂60に発生する残留歪を小さくしやすい。
【0036】
αは、60(×10-7/℃)以上が好ましく、62(×10-7/℃)以上がより好ましく、65(×10-7/℃)以上がさらに好ましく、67(×10-7/℃)以上が特に好ましい。一方、αは80(×10-7/℃)以下が好ましく、75(×10-7/℃)以下がより好ましく、72(×10-7/℃)以下がさらに好ましく、70(×10-7/℃)以下が特に好ましい。
【0037】
ここで、50℃~350℃の平均熱膨張係数αとは、JIS R3102(1995年)で規定されている方法で測定した、熱膨張係数を測定する温度範囲が50℃~350℃である平均熱膨張係数である。
【0038】
本発明の一実施形態のガラス基板は、酸化物基準のモル百分率表示で各酸化物の含有量の割合の関係を表した下記式(1)によって求められる値が56~90であることが好ましい。
【0039】
0.174×(SiOの含有量)-0.012×(Alの含有量)+0.317×(Bの含有量)+0.988×(MgOの含有量)+1.715×(CaOの含有量)+2.011×(SrOの含有量)+2.251×(BaOの含有量)+0.076 (1)
式(1)は、ガラス組成と50℃~350℃での平均熱膨張係数の関係を表す回帰式である。この回帰式は、SiOの含有量、Alの含有量、Bの含有量、MgOの含有量、CaOの含有量、SrOの含有量、BaOの含有量がそれぞれ異なる約100個のガラスの50℃~350℃での平均熱膨張係数を測定することにより得た。式(1)の値が56~90であれば、50℃~350℃での平均熱膨張係数を56~90(×10-7/℃)の範囲にしやすい。
【0040】
式(1)の値は、60以上が好ましく、62以上がより好ましく、65以上がさらに好ましく、67以上が特に好ましい。一方、式(1)の値が90以下であれば、熱処理工程でシリコン基板に発生する残留歪を小さくしやすい。式(1)の値は80以下が好ましく、75以下がより好ましく、72以下がさらに好ましく、70以下が特に好ましい。
【0041】
本発明の一実施形態のガラス基板は、酸化物基準のモル百分率表示で、SiOおよびAlの合計含有量が65%以上であることが好ましい。65%以上であれば、酸性溶液およびアルカリ性溶液に対する化学的耐久性が高くなる。SiOおよびAlの合計含有量は68%以上がより好ましく、70%以上がさらに好ましく、72%以上が特に好ましい。一方、SiOおよびAlの合計含有量は80%以下であることが好ましい。80%以下であれば、ガラス溶解時の粘性が高くなり過ぎずに溶融性が良好となり、平均熱膨張係数が低くなり過ぎない。SiOおよびAlの合計含有量は78%以下がより好ましく、76%以下がさらに好ましく、75%以下が特に好ましい。
【0042】
本発明の一実施形態のガラス基板は、SnO、SO、Cl、およびFなどを含有させてもよい。SnO、SO、Cl、およびFを含有させると、泡の発生を抑制して製造することができ、ガラス基板に含まれる泡が少ない。
【0043】
本発明の一実施形態のガラス基板は、耐候性を向上させるためにZrOを含有させてもよい。含有させる場合は酸化物基準のモル百分率表示で、2%以下が好ましく、1%以下がさらに好ましく、0.5%以下が特に好ましい。
【0044】
本発明の一実施形態のガラス基板は、粘性や平均熱膨張係数を調整するためにZnOを含有させてもよい。含有させる場合は酸化物基準のモル百分率表示で、2%以下が好ましく、1%以下がさらに好ましく、0.5%以下が特に好ましい。
【0045】
本発明の一実施形態のガラス基板は、ガラスの化学的耐久性やヤング率を向上させるために、Y、La、TiOを含有させてもよいが、その合計含有量は、酸化物基準のモル百分率表示で、2%以下が好ましく、1%以下がさらに好ましく、0.5%以下が特に好ましい。
【0046】
本発明の一実施形態のガラス基板は、紫外線透過率を高くするために還元剤を含有させてもよい。含有させる場合は酸化物基準の質量百分率表示で、それぞれ2%以下が好ましく、1%以下がさらに好ましく、0.5%以下が特に好ましく、0.2%以下が最も好ましい。還元剤としては、炭素、コークス等が挙げられる。
【0047】
本発明の一実施形態のガラス基板は、脈理、着色等を考慮すると、V、P、CeO、Y、La、TiOを実質的に含有しないことが好ましい。
【0048】
本発明の一実施形態のガラス基板は、環境負荷を考慮すると、As、Sbを実質的に含有しないことが好ましい。また、安定してフロート成形することを考慮すると、ZnOを実質的に含有しないことが好ましい。
【0049】
本発明の一実施形態のガラス基板は、温度90℃、濃度0.1規定のHCl溶液に20時間浸漬後の単位面積当たりの重量減少量が0.3mg/cm以下であることが好ましい。重量減少量が0.3mg/cm以下であれば、HCl溶液への耐久性が高く、ガラス基板をHCl溶液により洗浄する際にガラス基板が薄板化しにくい。また、積層基板から剥離されたガラス基板をHCl溶液により洗浄する際にもガラス基板が薄板化しにくく、再利用しやすい。重量減少量は0.2mg/cm以下がより好ましく、0.1mg/cm以下がさらに好ましく、0.05mg/cm以下が特に好ましく、0.03mg/cm以下が最も好ましい。
【0050】
本発明の一実施形態のガラス基板は、温度90℃、濃度0.1規定のHCl溶液に20時間浸漬後の厚さ1mmでのヘーズ率が50%以下であることが好ましい。ヘーズ率はJIS K7136(2000年)にしたがい測定された値である。ヘーズ率が50%以下であれば、HCl溶液への耐久性が高く、ガラス基板をHCl溶液により洗浄する際にガラス基板が薄板化しにくい。また、積層基板から剥離されたガラス基板をHCl溶液により洗浄する際にもガラス基板が薄板化しにくく、再利用しやすい。ヘーズ率は30%以下が好ましく、10%以下が好ましく、5%以下がより好ましく、2%以下がさらに好ましく、1%以下が特に好ましく、0.5%以下が最も好ましい。
【0051】
本発明の一実施形態のガラス基板は、温度25℃、濃度5%のHF溶液に20分浸漬後の単位面積当たりの重量減少量が13mg/cm以下であることが好ましい。13mg/cm以下であれば、HF溶液への耐久性が高く、ガラス基板をHF溶液により洗浄する際にガラス基板が薄板化しにくい。また、積層基板から剥離されたガラス基板をHF溶液により洗浄する際にもガラス基板が薄板化しにくく、再利用しやすい。重量減少量は11mg/cm以下がより好ましく、9mg/cm以下がさらに好ましく、7mg/cm以下が特に好ましく、6mg/cm以下が最も好ましい。
【0052】
本発明の一実施形態のガラス基板は、温度25℃、濃度5%のHF溶液に20分浸漬後のヘーズ率が50%以下であることが好ましい。ヘーズ率が50%以下であれば、HF溶液への耐久性が高く、ガラス基板をHF溶液により洗浄する際にガラス基板が薄板化しにくい。また、積層基板から剥離されたガラス基板をHF溶液により洗浄する際にもガラス基板が薄板化しにくく、再利用しやすい。ヘーズ率は30%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましく、5%以下が特に好ましく、2%以下が最も好ましい。
【0053】
本発明の一実施形態のガラス基板は、NaOHなどのアルカリ溶液により洗浄された後に、シリコン基板と貼り合わせてもよい。NaOHなどのアルカリ溶液により洗浄することにより、ガラス基板上の汚れや異物を除去することができる。
【0054】
本発明の一実施形態のガラス基板は、温度90℃、濃度0.1規定のNaOH溶液に20時間浸漬後の単位面積当たりの重量減少量が3mg/cm以下であることが好ましい。重量減少量が3mg/cm以下であれば、NaOH溶液への耐久性が高く、ガラス基板をNaOH溶液により洗浄する際にガラス基板が薄板化しにくい。また、積層基板から剥離されたガラス基板を洗浄する際にもガラス基板が薄板化しにくく、再利用しやすい。重量減少量は2.5mg/cm以下がより好ましく、2mg/cm以下がさらに好ましく、1.5mg/cm以下が特に好ましく、1mg/cm以下が最も好ましい。
【0055】
本発明の一実施形態のガラス基板は、温度90℃、濃度0.1規定のNaOH溶液に20時間浸漬後のヘーズ率が50%以下であることが好ましい。ヘーズ率が50%以下であれば、NaOH溶液への耐久性が高く、ガラス基板をNaOH溶液により洗浄する際にガラス基板が薄板化しにくい。また、積層基板から剥離されたガラス基板をNaOH溶液により洗浄する際にもガラス基板が薄板化しにくく、再利用しやすい。ヘーズ率は30%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましく、2%以下が特に好ましく、1%以下が最も好ましい。
【0056】
本発明の一実施形態のガラス基板は、ファンアウト型のウェハレベルパッケージとして用いる場合は、ガラス基板とシリコン基板との間の剥離層に、紫外線がガラス基板を通して照射されることにより、ガラス基板が積層基板から剥離される。
【0057】
本発明の一実施形態のガラス基板は、波長360nmの透過率が厚さ1mmにおいて15%以上であることが好ましい。ガラス基板の波長360nmの透過率が15%以上であれば、紫外線を照射することにより、ガラス基板を積層基板から容易に剥離できる。波長360nmの透過率は20%以上がより好ましく、25%以上がさらに好ましく、30%以上が特に好ましい。
【0058】
本発明の一実施形態のガラス基板は、ガラス失透温度が1250℃以下であることが好ましい。ガラス失透温度が1250℃以下であれば、安定して成形をすることができる。ガラス失透温度は1200℃以下がより好ましく、1170℃以下がさらに好ましく、1150℃以下が特に好ましく、1100℃以下が最も好ましい。ガラス失透温度とは、白金製の皿に粉砕されたガラス粒子を入れ、一定温度に制御された電気炉中で17時間熱処理を行い、熱処理後の光学顕微鏡観察によって、ガラス表面および内部に結晶が析出しない温度の最大値である。
【0059】
本発明の一実施形態のガラス基板は、失透粘性(ηTL)が103.8dPa・s以上であることが好ましい。失透粘性が103.8dPa・s以上であれば、安定して成形をすることができる。失透粘性は104.0dPa・s以上がより好ましく、104.2dPa・s以上がさらに好ましい。
【0060】
本発明の一実施形態のガラス基板は、CMOSセンサーのカバーガラスとして用いる場合に可視光を吸収しにくくするためには、酸化物基準の質量百万分率表示で、Feの含有量が200ppm以下であることが好ましい。Feの含有量は、150ppm以下がより好ましく、100ppm以下がさらに好ましく、50ppm以下が特に好ましい。
【0061】
本発明の一実施形態のガラス基板は、熱伝導率を高くし、溶融性を良好とするためには、酸化物基準の質量百万分率表示で、Feの含有量が200ppmを超えて1000ppm以下であることが好ましい。Feの含有量が200ppmを超えていれば、ガラス基板の熱伝導率を高くし、溶融性を良好とすることができる。Feの含有量が1000ppm以下であれば、可視光の吸収が小さく、着色しにくい。Feの含有量は300~800ppmがより好ましく、400~700ppmがさらに好ましく、500~600ppmが特に好ましい。
【0062】
本発明の一実施形態のガラス基板は、Feに換算した全鉄中のFeに換算した2価の鉄の質量割合(%)(以下、Fe-Redoxという)が20%以上であることが好ましい。Fe-Redoxが20%以上であれば、ガラス基板の波長400nm以下の透過率を高くすることができ、樹脂などの剥離層に照射される紫外線が多くなり、ガラス基板が積層基板から容易に剥離される。Fe-redoxは25%以上がより好ましく、30%以上がさらに好ましく、40%以上が特に好ましい。
【0063】
本発明の一実施形態のガラス基板は、ヤング率が65GPa以上であることが好ましい。ヤング率は、超音波パルス法により測定された値である。ヤング率が65GPa以上であれば、ガラス基板を製造する際の後述する徐冷工程において発生するガラス基板の反りや割れを抑制することができる。また、シリコン基板と貼り合わせる際のシリコン基板との接触や、ガラス基板の運搬時の周辺部材との接触による破損を抑制することができる。ここで、ヤング率は超音波法により求められる値である。ヤング率は70GPa以上であることがより好ましく、75GPa以上であることがさらに好ましく、80GPa以上であることが特に好ましい。ヤング率は、100GPa以下であることが好ましい。ヤング率が100GPa以下であれば、ガラスが脆くなる事を抑制し、ガラス基板の切削時の欠けを抑えることができる。ヤング率は90GPa以下であることがより好ましく、87GPa以下であることがさらに好ましい。
【0064】
本発明の一実施形態のガラス基板は、厚さが2.0mm以下であることが好ましい。厚さが2.0mm以下であれば、ガラス基板とシリコン基板とを貼り合わせた積層基板を小型にすることができる。厚さは、1.5mm以下であることがより好ましく、1.0mm以下であることがさらに好ましく、0.8mm以下であることが特に好ましい。厚さは、0.1mm以上であることが好ましい。厚さが0.1mm以上であれば、シリコン基板と貼り合わせる際のシリコン基板との接触や、ガラス基板の運搬時の周辺部材との接触による破損を抑制することができる。また、ガラス基板の自重たわみを抑えることができる。厚さは、0.2mm以上がより好ましく、0.3mm以上がさらに好ましい。
【0065】
本発明の一実施形態のガラス基板は、少なくとも一の主表面の面積が70~2500cmであることが好ましい。ガラス基板の面積が70cm以上であれば、多数のシリコン基板(例えば、シリコンチップ)を配置することができ、ガラス基板とシリコン基板とを積層させる工程において生産性が向上する。面積は80cm以上であることがより好ましく、170cm以上であることがさらに好ましく、300cm以上であることが特に好ましく、700cm以上であることが最も好ましい。面積が2500cm以下であればガラス基板の取り扱いが容易になり、シリコン基板と貼り合わせる際のシリコン基板との接触や、ガラス基板の運搬時の周辺部材との接触による破損を抑制することができる。面積は、2100cm以下がより好ましく、1700cm以下がさらに好ましく、800cm以下が特に好ましく、750cm以下が最も好ましい。
【0066】
本発明の一実施形態のガラス基板は、密度が3.50g/cm以下であることが好ましい。密度が3.50g/cm以下であれば、ガラス基板が軽量であり、ガラス基板の取り扱いが容易である。また、ガラス基板の自重によるたわみを低減する事ができる。密度は3.40g/cm以下がより好ましく、3.30g/cm以下がさらに好ましい。密度は、2.50g/cm以上が好ましい。密度が2.50g/cm以上であれば、ガラスのビッカース硬度が高くなり、ガラス表面に傷をつき難くすることができる。密度は2.60g/cm以上がより好ましく、2.70g/cm以上がさらに好ましく、2.80g/cm以上が特に好ましい。
【0067】
本発明の一実施形態のガラス基板は、主表面の形状が円形であることが好ましい。円形であれば、円形のシリコン基板との積層が容易である。ここで、円形とは真円に限らず、直径が同一の真円からの寸法差が50μm以下である場合を含む。
【0068】
本発明の一実施形態のガラス基板は、主表面の形状が円形に限らず、矩形であってもよい。ガラス基板は、ガラス基板の端にノッチがあってもよいし、オリフラがあってもよい。円形の場合、外周の一部が直線であってもよい。
【0069】
本発明の一実施形態のガラス基板は、円形である場合において、直径は7cm以上であることが好ましい。直径が7cm以上であれば、ガラス基板とシリコン基板とを貼り合わせることにより形成される積層基板からは、多くの半導体素子を得ることができ、生産性が向上する。直径は10cm以上がより好ましく、15cm以上がさらに好ましく、20cm以上が特に好ましく、25cm以上が最も好ましい。直径は50cm以下であることが好ましい。直径が50cm以下であれば、ガラス基板の取り扱いが容易である。直径は45cm以下がより好ましく、40cm以下がさらに好ましく、35cm以下が特に好ましい。
【0070】
本発明の一実施形態のガラス基板は、β-OHが0.05~0.65mm-1であることが好ましい。β-OHは本発明の一実施形態のガラス基板の中の水分含有量を示す指標であり、β-OHを0.05mm-1以上にすることによって、泡の発生を抑制して製造することができ、ガラス基板の泡が少ない。β-OHは、0.1mm-1以上がより好ましく、0.15mm-1以上がさらに好ましく、0.17mm-1以上が特に好ましい。一方、β-OHを0.65mm-1以下にすることによって、耐熱性を高めることができる。β-OHは、0.55mm-1以下がより好ましく、0.5mm-1以下がさらに好ましく、0.45mm-1以下が特に好ましい。ここで、β-OHは、以下の式により求められた値である。
【0071】
β-OH(mm-1)=-log10(T3500cm-1/T4000cm-1)/t
上記式において、T3500cm-1は、波数(wave number)3500cm-1の光の透過率(%)であり、T4000cm-1は、波数4000cm-1の光の透過率(%)であり、tは、ガラス基板の厚さ(mm)である。
【0072】
本発明の一実施形態のガラス基板は、ガラス基板の少なくとも一の主表面に遮光膜を有することが好ましい。ガラス基板の主表面に遮光膜が形成されることで、ガラス基板や積層基板の検査工程において、ガラス基板や積層基板の位置を検出しやすい。位置はガラス基板や積層基板に光を照射することによる反射光で特定される。ガラス基板は光を透過しやすいため、ガラス基板の主表面に遮光膜を形成することにより反射光が強くなり、位置を検出しやすくなる。遮光膜はTiを含むことが好ましい。
【0073】
本発明の一実施形態のガラス基板は、歪点が620℃以上であることが好ましい。歪点が620℃以上であれば、熱処理工程でガラス基板の寸法変化を少なく抑えることができる。歪点は650℃以上であることがより好ましく、670℃以上であることがさらに好ましく、690℃以上が特に好ましい。
【0074】
本発明の一実施形態のガラス基板は、ガラス転移点(Tg)が680℃以上であることが好ましい。ガラス転移点(Tg)が680℃以上であれば、熱処理工程でガラス基板の寸法変化を少なく抑えることができる。ガラス転移点(Tg)は700℃以上であることがより好ましく、720℃以上であることがさらに好ましく、730℃以上であることが特に好ましい。
【0075】
本発明の一実施形態のガラス基板は、粘度が10dPa・sとなる温度(T)が、1670℃以下であることが好ましい。Tが1670℃以下であれば、溶融性が良好である。Tは、1600℃以下がより好ましく、1550℃以下がさらに好ましく、1500℃以下が特に好ましい。
【0076】
本発明の一実施形態のガラス基板は、粘度が10dPa・sとなる温度(T)が、1270℃以下であることが好ましい。Tが1270℃以下であれば、溶融性が良好である。Tは、1230℃以下がより好ましく、1200℃以下がさらに好ましく、1150℃以下が特に好ましく、1100℃以下が最も好ましい。なお、他の物性確保の容易性を考慮すると、粘度が10dPa・sとなる温度(T)は1050℃以上である。
【0077】
本発明の一実施形態のガラス基板は、粘度が10dPa・sとなる温度(T)とガラス失透温度(T)との差(T-T)が-20℃以上であることが好ましい。(T-T)が-20℃以上であれば、安定して成形をすることができる。(T-T)は0℃以上がより好ましく、10℃以上がさらに好ましく、20℃以上が特に好ましく、30℃以上が最も好ましい。
【0078】
次に、本発明の一実施形態の積層基板について説明する。
【0079】
本発明の一実施形態の積層基板は、上述したガラス基板と、シリコン基板とが積層されて形成されることを特徴とする。そのように形成された積層基板は、酸性溶液に対する化学的耐久性が高い。また、シリコン基板とガラス基板を貼り合わせる熱処理工程においてアルカリイオンがシリコン基板に拡散しにくく、積層基板に発生する残留歪が小さい。
【0080】
次に、本発明の一実施形態に係る積層体について説明する。
【0081】
本発明の一実施形態の積層体は、上記積層基板を構成するガラス基板に他のガラス基板を貼り合わせることにより形成されることを特徴とする。本発明の一実施形態の積層基板を、例えば、半導体バックグラインド用のサポートガラスとして用いる場合に、積層基板の厚さを薄くするために、ガラス基板とシリコン基板とを貼り合わせた後に、ガラス基板を研磨する。
【0082】
本発明の一実施形態の積層体は、積層基板を構成するガラス基板に他のガラス基板を貼り合わせることにより形成されているため、ガラス基板を研磨する代わりに他のガラス基板を剥離することによって、積層体の厚さを薄くすることができる。例えば、任意の厚さのガラス基板を有する積層基板に対して、該ガラス基板の半分の厚さのガラス基板2枚を有する積層体は、ガラス基板の1枚を剥離することによって、研磨せずとも積層基板の厚さよりも薄くすることができる。また、任意の厚さのガラス基板を有する積層基板のたわみ量は、該ガラス基板の半分の厚さのガラス基板を2枚積層した積層体のたわみ量よりも大きい。所望の厚さのガラス基板を所望の枚数積層することにより積層体を形成することで、積層体のたわみ量を小さくすることができる。
【0083】
次に、本発明の一実施形態のガラス基板の製造方法について説明する。
【0084】
本発明の一実施形態のガラス基板を製造する場合、溶解、清澄、成形、徐冷、および切断工程を経る。
【0085】
溶解工程では、所望のガラス組成となるように原料を調製し、原料を溶解炉に投入し、好ましくは1450~1650℃程度に加熱して溶融ガラスを得る。
【0086】
原料には酸化物、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物が使用され、場合により塩化物などのハロゲン化物なども使用できる。溶解工程や清澄工程で溶融ガラスが白金と接触する工程がある場合、微小な白金粒子が溶融ガラス中に溶出し、得られるガラス板中に異物として混入してしまう場合があるが、硝酸塩原料の使用はこの白金異物の溶出を防止する効果があるため、使用することが好ましい。硝酸塩としては、硝酸ストロンチウム、硝酸バリウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウムなどを使用できる。硝酸ストロンチウムを使用することがより好ましい。原料粒度も溶け残りが生じない程度の数百ミクロンの大きな粒径の原料から、原料搬送時の飛散が生じない、二次粒子として凝集しない程度の数ミクロン程度の小さな粒径の原料まで適宜使用できる。造粒体の使用も可能である。含水量、β-OH、Feの酸化還元度またはレドックス[Fe2+/(Fe2++Fe3+)]などの溶解条件も適宜調整できる。
【0087】
清澄工程では、本発明におけるガラス基板は、清澄剤としてSOやSnOを用いることができる。また、減圧による脱泡法を適用してもよい。SO源としては、Al、Mg、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種の元素の硫酸塩であることが好ましく、アルカリ土類金属の硫酸塩であることがより好ましく、中でも、CaSO・2HO、SrSO、およびBaSOが、泡を大きくする作用が著しく、特に好ましい。減圧による脱泡法における清澄剤としてはClやFなどのハロゲンを使用するのが好ましい。Cl源としては、Al、Mg、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種の元素の塩化物であることが好ましく、アルカリ土類金属の塩化物であることがより好ましく、中でも、SrCl・6HO、およびBaCl・2HOが、泡を大きくする作用が著しく、かつ潮解性が小さいため、特に好ましい。F源としては、Al、Mg、Ca、SrおよびBaから選ばれた少なくとも1種の元素のフッ化物であることが好ましく、アルカリ土類金属のフッ化物であることがより好ましく、中でも、CaFがガラス原料の溶解性を大きくする作用が著しく、より好ましい。
【0088】
成形工程では、溶融ガラスを溶融金属上に流して板状にしてガラスリボンを得るフロート法が適用される。
【0089】
徐冷工程では、ガラスリボンを徐冷する。
【0090】
切断工程では、徐冷後、ガラスリボンを所定の大きさに切断し、ガラス基板を得る。
【0091】
本発明は上記実施形態に限定されない。本発明の目的を達成できる範囲での変形や改良等は本発明に含まれる。
【0092】
例えば、本発明の一実施形態のガラス基板を製造する場合、成形工程で、フュージョン法やプレス成形法などを適用して溶融ガラスを板状にしてもよい。
【0093】
また、本発明の一実施形態のガラス基板を製造する場合、白金坩堝を用いてもよい。白金坩堝を用いた場合、溶解工程は、得られるガラス基板の組成となるように原料を調製し、原料を入れた白金坩堝を電気炉に投入し、好ましくは1450~1650℃程度に加熱して白金スターラーを挿入し1~3時間撹拌し溶融ガラスを得る。
【0094】
また、切断して得られたガラス基板を、例えばガラス転移点Tgよりも50℃程度高い温度となるように加熱した後、室温状態まで徐冷してもよい。このようにすることで、ガラス基板の残留歪を取り除くことができる。
【0095】
また、本発明の一実施形態に係るガラス基板は、貫通孔を有するガラス基板(ガラスインターポーザ;GIP)として用いてもよい。GIPを用いる貫通ガラスビア(TGV)技術では、例えば、200~400℃の温度でGIPの一方の主表面にシリコン基板が貼り合わされ、GIPの他の一方の主表面にポリイミド樹脂に銅等により配線して構成される配線基板が貼り合わされ、シリコン基板と配線基板とはガラス基板の貫通孔を介して銅線等により接続される。
【0096】
本発明の一実施形態に係るガラス基板は、50℃~350℃での平均熱膨張係数αが56~90(×10-7/℃)であるので、GIPとして用いた場合に、熱処理工程でガラス基板、シリコン基板、配線基板、および配線に発生する残留歪を小さくすることができる。
【実施例0097】
以下、実施例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されない。
【0098】
表1~2に示すガラス組成となるように珪砂等の各種のガラス原料を調合し、該目標組成の原料100%に対し、酸化物基準の質量百分率表示で、硫酸塩をSO換算で0.1~1%、Clを0.1~1%添加し、白金坩堝を用いて1550~1650℃の温度で3時間加熱し溶解した。溶解にあたっては、白金スターラーを挿入し1時間攪拌しガラスの均質化を行った。次いで溶融ガラスを流し出し、板状に成形後、板状のガラスをガラス転移点Tgよりも50℃程度高い温度の電気炉に入れ、冷却速度1℃/分で電気炉を降温させ、ガラスが室温になるまで冷却した。
【0099】
得られたガラスの平均熱膨張係数(単位:10-7/℃)、密度(単位:g/cm)、ヤング率(単位:GPa)、歪点(単位:℃)、ガラス転移点Tg(単位:℃)、T(単位:℃)、T(単位:℃)、失透温度(単位:℃)、および耐薬品性を測定し、式(1)の値、およびT-Tを求め、表1~2に示した。なお、表中のかっこ書きした値は、計算により求めたものである。また、表中の空欄は、当該物性について未測定であることを示す。ガラス中のアルカリ金属酸化物の含有量は、酸化物基準のモル百分率表示で0.1%以下であった。また、ガラス中のFe残存量は10~300ppm、SO残存量は10~300ppmであった。以下に各物性の測定方法を示す。
【0100】
(平均熱膨張係数)
JIS R3102(1995年)に規定されている方法に従い、示差熱膨張計(TMA)を用いて測定した。測定温度範囲は50~350℃で、単位を10-7/℃として表した。
【0101】
(密度)
泡を含まない約20gのガラス塊をアルキメデス法によって測定した。
【0102】
(ヤング率)
厚さ0.5~10mmのガラスについて、超音波パルス法により測定した。
【0103】
(歪点)
JIS R3103-2(2001年)に規定されている方法に従い測定した。(ガラス転移点Tg)
JIS R3103-3(2001年)に規定されている方法に従い、TMAを用いて測定した。
【0104】
(T
回転粘度計を用いて粘度を測定し、10dPa・sとなるときの温度T(℃)を測定した。
【0105】
(T
回転粘度計を用いて粘度を測定し、10dPa・sとなるときの温度T(℃)を測定した。
【0106】
(失透温度)
失透温度は、白金製皿に粉砕されたガラス粒子を入れ、一定温度に制御された電気炉中で17時間熱処理を行い、熱処理後の光学顕微鏡観察によって、ガラス表面および内部に結晶が析出しない温度の最大値である。
【0107】
(耐薬品性:重量減少量、ヘーズ率、外観)
得られたガラスを40mm×40mm×1mmとなるようにダイヤモンド砥石、酸化セリウム砥石、および酸化セリウム砥粒を用いて鏡面加工した。HClに対する耐久性を調べるために、鏡面加工したガラスを直交する2辺を支持するようフッ素樹脂製の治具の上に設置し、蓋付きのフッ素樹脂製容器に入れた温度90℃、濃度0.1規定の330mlのHCl溶液に20時間浸漬させた。ガラスを取り出し、イオン交換水で表面を洗い流し、イオン交換水中で10分間超音波洗浄を行い、治具の上で自然乾燥させた。その後、外観観察を行い、重量を測定し、浸漬前後での単位面積当たりの重量減少量(単位:mg/cm)を測定した。さらに、JIS K7136(2000年)に規定されている方法に従い、ヘーズメータ(スガ試験機社製タッチパネル式ヘーズコンピュータ、型番:HZ-2)を用いて、浸漬後のガラスのヘーズ率(単位:%)を測定した。
【0108】
また、HFに対する耐久性を調べるために、鏡面加工したガラスを直交する2辺を支持するようフッ素樹脂製の治具の上に設置し、蓋付きのフッ素樹脂製容器に入れた温度25℃、濃度5%の150mlのHF溶液に20分浸漬させた。ガラスを取り出し、イオン交換水で表面を洗い流し、イオン交換水中で10分間超音波洗浄を行い、治具の上で自然乾燥させた。その後、外観観察を行い、浸漬前後での単位面積当たりの重量減少量(単位:mg/cm)、およびヘーズ率(単位:%)を測定した。
【0109】
さらに、NaOHに対する耐久性を調べるために、鏡面加工したガラスを直交する2辺を支持するようフッ素樹脂製の治具の上に設置し、蓋付きのフッ素樹脂製容器に入れた温度90℃、濃度0.1規定の330mlのNaOH溶液に20時間浸漬させた。ガラスを取り出し、イオン交換水で表面を洗い流し、イオン交換水中で10分間超音波洗浄を行い、治具の上で自然乾燥させた。その後、外観観察を行い、重量を測定し、浸漬前後での単位面積当たりの重量減少量(単位:mg/cm)、およびヘーズ率(単位:%)を測定した。
【0110】
外観観察は、それぞれ目視で行い、次の評価指標による定性評価を行った。また、写真撮影を行い、図3~4に示した。
〔評価指標〕
◎:ガラス板全体が透明
○:ガラス板の透明である部分が全体の90%以上
△:ガラス板の透明である部分が全体の90%未満またはガラス板表面の一部が変質している
×:ガラス板全体が白濁している
【0111】
【表1】
【0112】
【表2】
【0113】
例1~18は実施例、例19は比較例である。
【0114】
例1~18の本発明のガラス基板は、90℃の濃度0.1規定のHCl溶液に20時間浸漬後の単位面積当たりの重量減少量が0.3mg/cm以下、ヘーズ率が50%以下であり、25℃の濃度5%のHF溶液に20分浸漬後の単位面積当たりの重量減少量が13mg/cm以下、ヘーズ率が50%以下であった。HF溶液への浸漬後、およびHCl溶液への浸漬後のいずれの外観写真においてもガラス板全体が白濁しているものはなく、酸性溶液に対する化学的耐久性が高かった。
【0115】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2015年10月2日出願の日本特許出願(特願2015-196548)、に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0116】
10、40 シリコン基板
20、50 剥離層
30、70 積層基板
60 樹脂
G1、G2 ガラス基板
図1
図2
図3
図4