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特開2022-28164新規物質、および該物質を含有する予防・治療剤と肌用製品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022028164
(43)【公開日】2022-02-16
(54)【発明の名称】新規物質、および該物質を含有する予防・治療剤と肌用製品
(51)【国際特許分類】
   C07C 49/637 20060101AFI20220208BHJP
   A61K 8/35 20060101ALI20220208BHJP
   A61Q 19/02 20060101ALI20220208BHJP
   A61Q 1/00 20060101ALI20220208BHJP
   A61Q 19/10 20060101ALI20220208BHJP
   A61K 31/122 20060101ALI20220208BHJP
   A61K 35/10 20150101ALI20220208BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20220208BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20220208BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20220208BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220208BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220208BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20220208BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220208BHJP
   C07C 49/643 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
C07C49/637
A61K8/35
A61Q19/02
A61Q1/00
A61Q19/10
A61K31/122
A61K35/10
A61P3/10
A61P9/00
A61P9/12
A61P25/28
A61P35/00
A61P37/06
A61P43/00 111
C07C49/643 CSP
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020131386
(22)【出願日】2020-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】504165591
【氏名又は名称】国立大学法人岩手大学
(71)【出願人】
【識別番号】399071421
【氏名又は名称】株式会社実正
(71)【出願人】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100107939
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(72)【発明者】
【氏名】木村 賢一
(72)【発明者】
【氏名】阿部 純平
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 聡
(72)【発明者】
【氏名】越野 広雪
【テーマコード(参考)】
4C083
4C087
4C206
4H006
【Fターム(参考)】
4C083AC211
4C083AC212
4C083CC03
4C083CC11
4C083CC19
4C083DD21
4C083DD31
4C083EE16
4C083FF01
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA04
4C087BA07
4C087NA14
4C087ZA16
4C087ZA36
4C087ZA42
4C087ZB08
4C087ZB26
4C087ZC41
4C206AA01
4C206AA02
4C206AA03
4C206CB16
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZA16
4C206ZA36
4C206ZA42
4C206ZB08
4C206ZB26
4C206ZC35
4C206ZC41
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB12
4H006AB20
(57)【要約】      (修正有)
【課題】メラノサイトのメラニン産生を抑制することができる物質の提供。
【解決手段】式(1)等で表される化学構造を有する化合物。

(R、R、R~R、R11~R17は、夫々独立に、置換/非置換のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、あるいは、水素、水酸基、アルデヒド基、又はカルボキシル基であり、オキソ基を形成していても良い;R、R10、R18はH又は水酸基である。)
【選択図】図15
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される化学構造を有する物質、式(2)で表される化学構造を有する物質、または式(3)で表される化学構造を有する物質であることを特徴とする物質。

【化1】




(式中、置換基R、R、R~R、R11~R17は、それぞれ独立に、置換基を有していても良いアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、あるいは、水素、水酸基、アルデヒド基、またはカルボキシル基であり、オキソ基を形成していても良く、R、R10、R18は水素または水酸基である。)

【化2】



(式中、置換基R’~R’、R’~R13’はそれぞれ独立に、置換基を有していても良いアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、あるいは、水素、水酸基、アルデヒド基、またはカルボキシル基であり、オキソ基を形成していても良く、R’、R’、R14’~R16’は水素または水酸基である。)

【化3】


(式中、R’’~R13’’は、それぞれ独立に、置換基を有していても良いアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、あるいは、水素、水酸基、アルデヒド基、またはカルボキシル基であり、オキソ基を形成していても良く、R14’’は水素または水酸基である。)
【請求項2】
前記物質が、美白効果を有することを特徴とする請求項1に記載の物質。
【請求項3】
前記物質が、メラニン産生抑制効果を有することを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載の物質。
【請求項4】
請求項2または3のいずれか1項に記載の物質を含有することを特徴とする肌用製品の素材。
【請求項5】
請求項4に記載の肌用製品の素材を含有することを特徴とする肌用製品。
【請求項6】
Ca2+シグナル伝達阻害活性を有することを特徴とする請求項1に記載の物質。
【請求項7】
請求項6に記載の物質が、Ca2+シグナル伝達に関わる各種疾病の予防または治療に対して有効に働くことを特徴とする予防・治療剤。
【請求項8】
前記疾病が、高血圧、狭心症、がん、免疫抑制、2型糖尿病、およびアルツハイマー病からなる群から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項7に記載の予防・治療剤。
【請求項9】
請求項6に記載の物質、または、請求項7または8のいずれか1項に記載の予防・治療剤を含有することを特徴とする予防。治療剤。
【請求項10】
前記式(1)で表される化学構造を有する物質、前記式(2)で表される化学構造を有する物質、および/または前記式(3)で表される化学構造を有する物質が、久慈産琥珀からアルコール抽出操作または超臨界流体抽出操作によって得られることを特徴とする請求項1、2、3、6のいずれか1項に記載の物質。
【請求項11】
久慈産琥珀からアルコール抽出操作または超臨界流体抽出操作によって得られることを特徴とする抽出物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な物質、並びに該物質を含有する予防・治療剤と肌用製品に関し、特に、美白効果を有し、高血圧、狭心症、がん、アレルギー、2型糖尿病、アルツハイマー等の病気の予防・治療に効果的な新規な物質、および、該物質を含有する化粧品などの肌用製品並びに予防・治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年においては、特に美容の観点から、紫外線による皮膚の蓄積的なダメージが特に意識されるようになった。紫外線の照射は、皮膚の基底層と毛母に存在するメラノサイトを刺激し、メラニンを産生する。メラニンは、ヒトの肌、毛髪、目の色を決定すると共に、生体にとって有害な紫外線を遮断する役割を持つ重要な生体色素である。一方、紫外線を長年にわたって浴びることで、メラニン色素が過剰に生産され、シミやシワ、ソバカスなど、外観的に好ましくない事象が生じる。そのため、メラノサイトのメラニン産生を効率的に抑制することは美容上からも健康上からも非常に重要である、と考えられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、琥珀熱水抽出物がメラニン産生を抑制し、美白効果を奏することから、琥珀熱水抽出物を有効成分として含有する美白剤が開示されている。また、より効果的な琥珀由来のメラニン産生抑制剤として、特許文献2には、琥珀抽出物をカラムクロマトグラフィーにより分画する工程を含む製造方法によりメラニン産生抑制剤が得られることが開示されている。
【0004】
また、特許文献3には、琥珀からCO超臨界抽出法を用いて抽出されたメラニン産生抑制剤が開示されている。
【0005】
しかしながら、これらは、メラニン産生抑制効果において満足のできるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-235551号公報
【特許文献2】特許第5858562号
【特許文献3】特開2019-194169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、メラノサイトのメラニン産生を抑制することができる物質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、満足のできるメラニン産生抑制効果を有する物質を探していたところ、満足のできる効果を有する物質を見出すことができたのである。また、該物質が、Ca2+シグナル伝達阻害活性を有することも、本発明者らによって、初めて明らかにされたのである。
【0009】
本発明の物質は、式(1)で表される化学構造を有する物質、式(2)で表される化学構造を有する物質、または式(3)で表される化学構造を有する物質であることを特徴とする。
【0010】
【化1】


【0011】
式(1)中、置換基R、R、R~R、R11~R17は、それぞれ独立に、置換基を有していても良いアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、あるいは、水素、水酸基、アルデヒド基、またはカルボキシル基であり、オキソ基を形成していても良く、R、R10、R18は水素または水酸基である。
【0012】
【化2】



【0013】
式(2)中、置換基R’~R’、R’~R13’はそれぞれ独立に、置換基を有していても良いアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、あるいは、水素、水酸基、アルデヒド基、またはカルボキシル基であり、オキソ基を形成していても良く、R’、R’、R14’~R16’は水素または水酸基である。
【0014】
【化3】


【0015】
式(3)中、置換基R’’~R13’’は、それぞれ独立に、置換基を有していても良いアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、あるいは、水素、水酸基、アルデヒド基、またはカルボキシル基であり、オキソ基を形成していても良く、R14’’は水素または水酸基である。
【0016】
ここで、該物質は、美白効果を有することが好ましい。
【0017】
また、該物質は、メラニン産生抑制効果を有することが好ましい。
【0018】
本発明の肌用製品の素材は、上記いずれかの物質を含有することを特徴とする。
【0019】
本発明の肌用製品は、上記肌用製品の素材を含有することを特徴とする。
【0020】
本発明において、上記物質は、Ca2+シグナル伝達阻害活性を有することが好ましい。
【0021】
本発明の予防・治療剤は、上記物質が、Ca2+シグナル伝達に関わる各種疾病の予防または治療に対して有効に働くことを特徴とする。
【0022】
ここで、前記疾病は、高血圧、狭心症、がん、免疫抑制、2型糖尿病、およびアルツハイマー病からなる群から選ばれる少なくとも1つであることができる。
【0023】
本発明の予防・治療剤は、上記いずれかの予防・治療剤を含有するものであることができる。
【0024】
本発明の物質は、前記式(1)で表される化学構造を有する物質、前記式(2)で表される化学構造を有する物質、および/または前記式(3)で表される化学構造を有する物質は、久慈産琥珀からアルコール抽出操作または超臨界流体抽出操作によって得られることを特徴とする。
【0025】
本発明の抽出物は、久慈産琥珀からアルコール抽出操作または超臨界流体抽出操作によって得られることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、メラノサイトのメラニン産生抑制効果に優れた物質および肌用製品並びに、各種疾病の治療・予防剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】Peak A(後述する式(4)で表される化合物に該当)、Peak B(後述する式(5)で表される化合物に該当)、およびPeak C(後述する式(6)で表される化合物に該当)の単離精製スキームを示す図である。
図2】式(4)、式(5)および式(6)で表される化学構造を有する3種類の物質のHPLC分析チャートを示す図である。
図3】式(4)で表される化学構造を有する物質の物理化学的性状を示す表である。
図4】式(4)で表される化学構造を有する物質のNMRケミカルシフト値を示す表である。
図5】式(4)で表される化学構造を有する物質の質量分析データ(EIMS)を示す図である。
図6】式(4)で表される化学構造を有する物質のUVスペクトルを示す図である。
図7】式(5)で表される化学構造を有する物質の物理化学的性状を示す表である。
図8】式(5)で表される化学構造を有する物質のNMRケミカルシフト値を示す表である。
図9】式(5)で表される化学構造を有する物質の質量分析データ(EIMS)を示す図である。
図10】式(5)で表される化学構造を有する物質のUVスペクトルを示す図である。
図11】式(6)で表される化学構造を有する物質の物理化学的性状を示す表である。
図12】式(6)で表される化学構造を有する物質のNMRケミカルシフト値を示す表である。
図13】式(6)で表される化学構造を有する物質の質量分析データ(EIMS)を示す図である。
図14】式(6)で表される化学構造を有する物質のUVスペクトルを示す図である。
図15】式(4)で表される化学構造を有する物質に関し、マウスB16メラノーマ細胞におけるメラニン産生抑制活性を示すグラフである。
図16】式(5)で表される化学構造を有する物質に関し、マウスB16メラノーマ細胞におけるメラニン産生抑制活性を示すグラフである。
図17】式(6)で表される化学構造を有する物質に関し、マウスB16メラノーマ細胞におけるメラニン産生抑制活性を示すグラフである。
図18】式(4)、式(5)および式(6)で表される化学構造を有する物質のCa2+シグナル伝達に関わる遺伝子変異酵母株に対する活性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、式(1)で表される化学構造を有する物質、式(2)で表される化学構造を有する物質、および式(3)で表される化学構造を有する物質について説明する。
【0029】
式(1)で表される化学構造を有する物質は、以下の構造式を有する。
【0030】
【化4】



【0031】
式(1)中、炭素に置換しうる置換基(R、R、R~R、R11~R17)は、それぞれ独立に、置換基を有していても良いアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、あるいは、水素、水酸基、アルデヒド基、またはカルボキシル基であり、オキソ基を形成していても良く、R、R10、R18は水素または水酸基である。ここで、アルキル基等は直鎖状、分岐状、環状のいずれであっても良く、各不斉炭素の立体構造はいずれであっても良い。また、水酸基はアセチル化されていても良く、カルボキシル基はメチルエステル、エチルエステル等のエステル化されたものでも良い。式(1)中、R、R、R11、R12、およびR17は、それぞれ水素、メチル基、ヒドロキシメチル基、アルデヒド基、またはカルボキシル基であることが好ましく、特にメチル基であることが好ましい。R、R、R、R、R、R、R13、R14、R15、R16は、それぞれ水素、または水酸基であることが好ましく、RおよびRは一方が水素で他方が水酸基であることが更に好ましく、同様に、RおよびRは一方が水素で他方が水酸基、RおよびRは一方が水素で他方が水酸基、R13およびR14は一方が水素で他方が水酸基、R15およびR16は一方が水素で他方が水酸基であることが更に好ましく、R、R、R、R、R、R、R13、R14、R15、R16は水素であることが特に好ましい。また、RとRでオキソ基を形成してもよく、同様にRとR、RとR、R13とR14、R15とR16で、それぞれオキソ基を形成してもよく、この場合、互変異性体も含まれる。また、R、R10、R18は、それぞれ水素であることが好ましい。
【0032】
ここで、式(1)中の置換基R、R、R11、R12、およびR17がそれぞれメチル基であり、それ以外の置換基(R~R、R~R10、R13~R16、R18)が全てHである物質は、1,13-シクロ-14,15-ジノル-1(10)-クレロデン-2-オン(1,13-Cyclo-14,15-dinor-1(10)-cleroden-2-one (1,13α-Cyclo-14,15-dinor-1(10)-cleroden-2-one))であり、以下の式(4)で表される構造式を有する。
【0033】
【化5】


【0034】
式(2)で表される化学構造を有する物質は、以下の構造式を有する。
【0035】
【化6】

【0036】
式(2)中、炭素に置換しうる置換基(R’~R’、R’~R13’)はそれぞれ独立に、置換基を有していても良いアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、あるいは、水素、水酸基、アルデヒド基、またはカルボキシル基であり、オキソ基を形成していても良く、R’、R’、R14’~R16’は水素または水酸基である。ここで、アルキル基等は直鎖状、分岐状、環状のいずれであっても良く、各不斉炭素の立体構造はいずれであっても良い。また、水酸基はアセチル化されていても良く、カルボキシル基はメチルエステル、エチルエステル等のエステル化されたものでも良い。式(2)中、R’、R’ 、R14’~R16’は、それぞれ水素であることが好ましい。R’、R’、R’、およびR10’は、それぞれ水素、メチル基、ヒドロキシメチル基、アルデヒド基、またはカルボキシル基であることが好ましく、メチル基であることが特に好ましい。R’、R’、R’、R’、R11’、およびR12’は、それぞれ水素、または水酸基であることが好ましく、R’およびR5’は一方が水素で他方が水酸基であることが更に好ましく、同様に、R’およびR’は一方が水素で他方が水酸基、R11’およびR12’は一方が水素で他方が水酸基であることが更に好ましく、特に全て水素であることが好ましい。また、R’とR5’でオキソ基を形成してもよく、同様にR’とR’で、R11’とR12’で、それぞれオキソ基を形成してもよく、この場合、互変異性体も含まれる。R14’、R15’およびR16’は水素であることが特に好ましい。また、R13’はプロピル基であることが好ましく、イソプロピル基であることが特に好ましい。
【0037】
ここで、式(2)中の置換基R’、R’、R’、およびR10’が、それぞれメチル基であり、置換基R13’がイソプロピル基であり、それ以外の置換基R’、 R’~R’、 R11’、R12’、R14’~R16’が全てHである物質は、1,12-シクロ-15-ノル-3-クレロデン-2-オン(1,12-Cyclo-15-nor-3-cleroden-2-one (1α,12β-Cyclo-15-nor-3-cleroden-2-one))であり、以下の式(5)で表される構造式を有する。
【0038】
【化7】



【0039】
式(3)で表される化学構造を有する物質は、以下の構造式を有する。
【0040】
【化8】



【0041】
式(3)中、炭素に置換しうる置換基(R’’~R13’’)は、それぞれ独立に、置換基を有していても良いアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、あるいは、水素、水酸基、アルデヒド基、またはカルボキシル基であり、オキソ基を形成していても良く、R14’’は水素または水酸基である。ここで、アルキル基等は直鎖状、分岐状、環状のいずれであっても良く、各不斉炭素の立体構造はいずれであっても良い。また、水酸基はアセチル化されていても良く、カルボキシル基はメチルエステル、エチルエステル等のエステル化されたものでも良い。式(3)中、R’’、R’’、R11’’およびR13’’は、それぞれ水素、メチル基、ヒドロキシメチル基、アルデヒド基、またはカルボキシル基であることが好ましく、特にメチル基であることが好ましい。R’’、R’’、R’’、R’’、R’’、R’’、R’’、およびR10’’は、それぞれ水素、または水酸基であることが好ましく、R’’およびR’’は一方が水素で他方が水酸基であることが更に好ましく、同様に、R’’およびR’’は一方が水素で他方が水酸基、R’’および’’は一方が水素で他方が水酸基、R’’およびR10’’は一方が水素で他方が水酸基であることが更に好ましく、特に全て水素であることが好ましい。また、R’’とR’’でオキソ基を形成してもよく、同様にR’’とR’’で、R’’とR’’で、R’’とR10’’でオキソ基を形成してもよく、この場合、互変異性体も含まれる。また、R14’’は水素であることが特に好ましく、R12’’はペンチル基であることが好ましく、イソペンチル基であることが特に好ましい。
【0042】
ここで、式(3)中の置換基R’’、R’’、R11’’およびR13’’がそれぞれメチル基であり、置換基R12’’がイソペンチル基であり、それ以外の置換基R’’~R’’、 R’’、 R10’’、R14’’が全てHである物質は、15-ノル-8-ラブデン-7-オン(15-Nor-8-labden-7-one)であり、以下の式(6)で表される構造式を有する。
【0043】
【化9】



【0044】
上述の式(1)で表される化学構造を有する物質、式(2)で表される化学構造を有する物質、式(3)で表される化学構造を有する物質は、それぞれ、優れたメラニン産生抑制効果を有する。したがって、本発明の物質は肌用製品の素材として有用であり、優れた美白効果を有する。本発明の肌用製品の素材を用いて肌用製品を形成することができる。本発明において、肌用製品とは、人体の皮膚等に適用される製品であり、基礎化粧品、メーキャップ化粧品、洗顔石鹸やボディー石鹸、ボディー乳液等のボディーケア商品などの化粧品類のみならず、医薬部外品に分類される薬用化粧品なども含む。
【0045】
また、上記式(1)で表される化学構造を有する物質、式(2)で表される化学構造を有する物質、式(3)で表される化学構造を有する物質は、それぞれ、Ca2+シグナル伝達阻害活性を有するものであり、Ca2+シグナル伝達の亢進により引き起こされる様々な疾病を、そのシグナルを阻害することで、予防や改善や治療にも適用できるものである。すなわち、本発明の物質は、Ca2+シグナル伝達に関わる各種疾病の予防または治療に対して有効に働くことができ、例えば、高血圧、狭心症、がん、免疫抑制(抗アレルギー)、2型糖尿病、アルツハイマー病などの疾病の予防や治療に有効に働くので、本発明の物質を含有するものはこれらの疾病(ただし、ここに列記したものに限定されるものではない)の予防・治療剤として有効である。
【0046】
本発明の式(1)で表される化学構造を有する物質、式(2)で表される化学構造を有する物質、および式(3)で表される化学構造を有する物質は、例えば、久慈産琥珀にアルコール抽出操作を行うことにより、あるいは、久慈産琥珀に超臨界CO抽出等の超臨界流体抽出操作を行うことにより得ることができるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
すなわち、これらの物質は、一般的な天然有機成分の抽出法に従って、例えば、粉末化した琥珀に有機溶媒を加えて抽出操作を行った後、得られた濾液から有機溶媒を除去することで得ることができる。本発明においては、有機溶媒としてアルコールが用いられ、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロパノールなどが挙げられる。
【0048】
抽出操作は、単一の有機溶媒を用いて行ってもよいし、複数の有機溶媒を混合して用いて行ってもよい。また、抽出操作を、例えばアルコール抽出した後、さらに酢酸エチルで抽出するといったように多段階で行い、抽出物の精製度を高めてもよい。さらに、イオン交換樹脂、非イオン性吸着樹脂、ゲルろ過クロマトグラフィー、活性炭やアルミナやシリカゲルなどの吸着剤によるクロマトグラフィーおよび高速液体クロマトグラフィーを用いた分離操作の他、結晶化操作、減圧濃縮操作、凍結操作などの各種操作を適宜組み合わせてもよい。
【0049】
本発明において、琥珀からアルコール抽出操作によって得られる物質は、例えば粉体状の琥珀粉末をアルコールに浸漬し、抽出物として得ることができ、例えば、琥珀粉末を室温でアルコールに所定期間浸漬し、その後、カラムクロマトグラフィーにより分画し、次いで、中圧液体クロマトグラフィーにより分画し、その後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により分取して得ることができる。
なお、アルコール抽出操作によって得られる物質は、収量が多くなり、効率的に得られるという利点がある。
【0050】
あるいは、本発明の式(1)で表される化学構造を有する物質、式(2)で表される化学構造を有する物質、および式(3)で表される化学構造を有する物質は、超臨界CO抽出操作によって得ることができる。例えば粉体状の琥珀粉末を超臨界流体抽出システムに充填して、抽出物を得ることができる。なお、琥珀粉末の粒径は10~5000μmであることが好ましく、更に好ましくは、150~180μmである。粉体状の琥珀粉末は商業的に入手することができるが、琥珀を、やすりやジェットミル粉砕機等を用いて粉体状にしても良い。
【0051】
超臨界CO抽出システムを用いて抽出物を得る場合には、温度、圧力、COの流速を所定条件に設定する必要があり、温度は25℃~150℃の範囲内であり、好ましくは32℃~120℃の範囲内であり、更に好ましくは60℃~100℃の範囲内である。また、圧力は5MPa~40MPaの範囲内であり、好ましくは7.5MPa~40MPaの範囲内であり、更に好ましくは15MPa~25MPaの範囲内である。また、COの流速は1mL/min~40mL/minの範囲内であることが好ましい。
【0052】
なお、本発明においては、本発明の効果を発揮する限りにおいて、超臨界CO抽出物は亜臨界CO抽出物も含むものとする。また、抽出物の形状としては、液体、固体、オイル状態などが挙げられ、液相、固相、オイルなども含むものとする。
【0053】
本発明においては、琥珀として、岩手県久慈市で採掘される琥珀(以下「久慈産琥珀」と称すこともある)が用いられる。
琥珀とは、樹脂が長期間地下に埋没し凝結してできた化石で、主に樹脂、精油、コハク酸等を含む。エタノールやクロロホルムやジエチルエーテルあるいはベンゼンに少量溶ける。琥珀は採掘したものそのままでも良いし、溶融して再び固めたものであっても良く、装飾工芸品、宝石、香料などの用途がある。近年では、琥珀粉末を化粧品に配合することも知られており、抽出に用いられる琥珀粉末は琥珀を宝石として加工した際に出る削り屑等を更に粉砕したものなどでもよい。
【0054】
本発明において、美白効果は、メラノサイトのメラニン産生を効率的に抑制することができるか否かで評価する。本発明の式(1)で表される化学構造を有する物質、式(2)で表される化学構造を有する物質、および式(3)で表される化学構造を有する物質は、メラノサイトのメラニン産生の抑制効果が高いことが本発明によって見出された。
【0055】
本発明において、上記抽出操作によって得られる抽出物、すなわち、式(1)で表される化学構造を有する物質、式(2)で表される化学構造を有する物質、および式(3)で表される化学構造を有する物質、の少なくとも1つを含有する抽出物は、メラニン産生抑制効果、およびCa2+シグナル伝達阻害活性を有する。
【実施例0056】
以下に、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではなく、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲内で種々の応用が可能である。
【0057】
(試料の調製)
久慈産琥珀メタノール抽出物および物質
久慈産琥珀粉末(久慈琥珀株式会社製)を、商業的に入手した。この久慈産琥珀粉末1007.1gを、十分量のメタノールに浸漬し、撹拌機を用いて攪拌しながら、室温で3日間抽出を行った。抽出後、濾過して得られた濾液をロータリーエバポレーターを用いて濃縮乾固させ、抽出物51.0g(抽出効率5.06%)を得た。
【0058】
得られた抽出物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(7.5cm×14.5cm)に供し、全17フラクションに分画し(フラクション1~17)、フラクション5の1.37gを得た。活性が認められたフラクション5について、中圧液体クロマトグラフィー(MPLC)分画および高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分取を行った。すなわち、フラクション5を中圧液体クロマトグラフィー(MPLC)を用いて精製を行い、全11フラクションに分画した(フラクション5-1~5-11)。活性が認められたフラクション5-7から、Peak A、Peak B、およびPeak Cを逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分取し、Peak Aを1.4mg、Peak Bを2.6mg、およびPeak Cを1.4mg得た。Peak A、Peak B、およびPeak Cは、いずれも無色オイル状であり、Peak AとPeak Cは254nm付近、Peak Bは238nm付近にUV吸収を示す化合物であった。各化合物(Peak A、Peak B、Peak C)の単離精製スキームを図1に、およびHPLCチャートを図2に示す。
【0059】
単離精製されて得られたPeak A、Peak B、およびPeak Cについて、その構造を、UV測定、NMR測定、質量分析によって解析した。
Peak Aの物理化学的性状を図3に、NMRケミカルシフト値を図4に、質量分析データ(EIMS)を図5に、UVスペクトルのチャート(25μg/mL in MeOH)を図6に示す。構造解析の結果から、Peak Aが式(4)で表される化学構造を有する物質であることが分かった。
Peak Bの物理化学的性状を図7に、NMRケミカルシフト値を図8に、質量分析データ(EIMS)を図9に、UVスペクトルのチャート(25μg/mL in MeOH)を図10に示す。構造解析の結果から、Peak Bが式(5)で表される化学構造を有する物質であることが分かった。
Peak Cの物理化学的性状を図11に、NMRケミカルシフト値を図12に、質量分析データ(EIMS)を図13に、UVスペクトルのチャート(25μg/mL in MeOH)を図14に示す。構造解析の結果から、Peak Cが式(6)で表される化学構造を有する物質であることが分かった。
【0060】
試験例1
メラニン産生抑制活性の試験
(B16マウスメラノーマ細胞の培養)
メラニン産生抑制試験に汎用されるB16マウスメラノーマ細胞(メラノサイト由来の癌化細胞)を、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所JCRB細胞バンクより商業的に入手した。B16マウスメラノーマ細胞は、CO濃度が5%で、37℃の環境下にて、10%牛胎児血清(FBS;Biological Industries, CT)、100U/mLペニシリン(penicillin)、および100μg/mLストレプトマイシン(streptomycin)(富士フィルム和光純薬株式会社製)を含有するEagle’s MEM(Sigma-Aldrich)を培地とし、25cmフラスコ中で培養した。
【0061】
(B16マウスメラノーマ細胞への試料の添加)
培養されたB16マウスメラノーマ細胞は、0.25%トリプシン-1mM EDTA混液(富士フィルム和光純薬株式会社製)を用いて25cmフラスコから剥離され、6穴培養プレートに2.4×10cells/wellの密度で播種した。
【0062】
播種した翌日(24時間後)、メラニン産生を促進するため、10%FBSを含有する培地に、3-イソブチル-1-メチルキサンチン(IBMX;富士フィルム和光純薬株式会社製)を100μMの濃度で加えてメラニン産生を刺激した。この培地に、メタノールに溶解した試料(式(4)で表される構造式を有する物質)を目的の濃度(添加濃度:0.01μg/mL、0.1μg/mL、1μg/mL)となるように添加した。
対照群の細胞には、試料を添加せず、100μMのIBMXのみを加えた10%FBS含有培地を2mL/well供した。
また、無刺激群の細胞には、IBMXを加えていない10%FBS含有培地を2mL/well供した。
ただし、対照群、および、すべての添加濃度の試料群において、メタノールの量は同等になるように調整した。
【0063】
(メラニン定量)
“B16マウスメラノーマ細胞への試料の添加”の操作を行ってから、3日後に、各wellの細胞を2mLのリン酸緩衝生理食塩水(Phosphate Buffered Saline;PBS(富士フィルム和光純薬株式会社製))で1回洗浄し、1MのNaOHを300μL/well加えて溶解した。溶出したメラニンをピペッティングにより攪拌して均一にした後、各wellから100μLずつ96穴プレートの2wellに採取し、吸光度を測り2Wellの平均をとった。
【0064】
これに先立って、標準メラニン(MPバイオメディカル社(MP Biomedicals, LLC(CA))の希釈系列を作製した。標準メラニンを1MのNaOHに100μg/mLの濃度で溶解し、検量線作成用として1MのNaOHで2.5μg/mL、5μg/mL、10μg/mLおよび20μg/mLに希釈した溶液を、上記96穴プレートに移した。この96穴プレート上の各液につき、マイクロプレートリーダーで450nmの吸光度を測定し、標準メラニンの希釈系列に照らしてメラニン濃度を算出した。ただし、バックグラウンドを消去するため、630nmの吸光度を差し引くように設定した。
【0065】
(タンパク定量)
上記“メラニン定量”の操作において1MのNaOHにより溶解した各wellの液から10μLずつ、別途用意した96穴プレートの2wellに採取し、水を90μLずつ加え、吸光度を測り2wellの平均をとった。すなわち、メラニン定量の操作において使用した96穴プレートとは別の96穴プレートに移した。同時に、検量線作成用として、BCAタンパク質定量キット(Takara BCA Protein Assay Kit、タカラバイオ株式会社製)付属のStandard Proteinの希釈系列を作り、同じ96穴プレートに移した。この96穴プレート上の各液にTakara BCA Protein Assay Kitの反応液を加え、37℃の環境下で発色させた後、マイクロプレートリーダーで545nmの吸光度を測定した。ただし、バックグラウンドを消去するため、630nmの吸光度を差し引くように設定した。
【0066】
上記“メラニン定量”の操作において測定した各群のメラニン量の割合は、上記“タンパク定量”の操作において測定した各wellのタンパク濃度で除した上で、下記式により、対照群を100%(無刺激群を0%、但し、図示せず)としたときの割合で表した。
その結果を図15に示す。
【0067】
メラニン量の割合(%)={(試料添加細胞の個別値-無刺激群の平均値)/(対照群の平均値-無刺激群の平均値)}×100
【0068】
(統計処理)
測定データは、ハートレイ検定により等分散であることを確認し、一元配置分散分析により試験した群の中に有意差があることを確認し、Dunnett検定により各群の対照群に対する有意差の有無を確認した。
なお、実施例においては、後続する試験例においても、全て、同様の統計処理を行った。
【0069】
次いで、試料を式(5)で表される構造式を有する物質に変更した以外は同様にしてメラニン量の割合を求めた。その結果を図16に示す。
【0070】
試料を式(6)で表される構造式を有する物質に変更した以外は同様にしてメラニン量の割合を求めた。その結果を図17に示す。
【0071】
図15から、式(4)で表される化学構造を有する物質はメラニン産生抑制活性を有し、例えば、濃度が0.01μg/mLでもp<0.05の有意差があり、濃度が1μg/mLではp<0.01の有意差があることが分かった。
図16から、式(5)で表される化学構造を有する物質はメラニン産生抑制活性を有し、例えば、濃度が0.1μg/mL以上でp<0.05の有意差があることが分かった。
図17から、式(6)で表される化学構造を有する物質はメラニン産生抑制活性を有し、例えば、濃度が1μg/mLでp<0.01の有意差があることが分かった。
【0072】
なお、久慈産琥珀メタノール抽出物についても、すなわち、“試料の調製”におけるフラクション分画前の抽出物についても、B16マウスメラノーマ細胞に対する活性評価を行ったところ、対照に対し、有意差(p<0.01)が認められた。
【0073】
試験例2
Ca2+シグナル伝達に関わる遺伝子変異酵母株(zds1Δ erg3Δ pdr1/3Δ)に対する生育回復活性
YNS17株を培養するためのYPD液体培地は、YPD Broth粉末10gを超音波洗浄機 (POWER SONIC 510、フナコシ株式会社製)を用いてMQ水に溶解させ、メスシリンダーを用いて200mLにメスアップした後、試験管小(16.5 mm×165 mm×12 mm)に5mLずつ、試験管大(18 mm×180 mm×12 mm)に10mLずつ分注し、121℃、15分間オートクレーブ (LSX-500、株式会社トミー精工製) をかけて滅菌したものを用いた。
【0074】
また、YPD寒天培地は、YPD agar粉末6.5gを超音波洗浄機を用いてMQ水100mLに懸濁させ、121℃、15分間オートクレーブをかけて滅菌したものを用いた。
【0075】
YNS17株は、クリーンベンチ (MCV-710ATS、三洋電機株式会社製) 内で白金耳を用いて摂取し、YPD液体培地5mLに植菌した後、28℃、120ppmで約18時間振盪培養 (Shaking Bath BW201、ヤマト科学株式会社製)した。振盪培養後、培養液がA590=0.7のとき60μLをYPD液体培地10mLに連じょうし、さらに28℃、120ppmで12時間振盪培養した。その後、培養液の590nmにおける吸光度A590を分光光度計(CO7500 Colorimeter)を用いて測定し、A590=0.8のとき培養液6.0mLを遠心管に入れ、培地中のCa2+濃度が0.3Mとなるように5MのCaClを3mL加えた後、全量が50mLとなるように50℃に保温したYPD寒天培地を加えた。培地を泡立てないように静かに撹拌した後、シャーレ (アズノール滅菌シャーレ、アズワン株式会社製) に12.5mLずつ敷き、室温で静置して固めた。メタノールに溶解したサンプルおよびポジティブコントロールとしてFK506(0.5 μg/mL)を、それぞれ5μLプレート上に直接スポットした後、28℃で3日間培養した。また、プレートは全て当日に作製したものを使用した。
サンプルのYNS17株に対する生育回復活性は、ポジティブコントロールを+++とし、-、(+)、+、++、+++の5段階で評価した。
【0076】
その結果を図18に示す。
図18から、Peak A、すなわち式(4)で表される構造式を有する物質は、生育円のできる最小生育回復濃度が0.31μg/spotであり、少ない濃度でもCa2+シグナル伝達阻害作用を有することが分かった。また、Peak B(式(5)で表される構造式を有する物質)は、最小生育回復濃度が0.63μg/spotであり、Peak C(式(6)で表される構造式を有する物質)は、最小生育回復濃度が0.31μg/spotであり、Peak A(式(4)で表される構造式を有する物質)およびPeak C(式(6)で表される構造式を有する物質)は、Peak B(式(5)で表される構造式を有する物質)よりも、Ca2+シグナル伝達阻害作用の効果が高いことが分かった。
【0077】
すなわち、式(4)で表される構造式を有する物質、式(5)で表される構造式を有する物質、および式(6)で表される構造式を有する物質は、いずれにおいても、Ca2+シグナル伝達阻害作用を有するものであり、Ca2+シグナル伝達の亢進により引き起こされる様々な疾病を、そのシグナルを阻害することで、予防や改善や治療にも適用できるものである。すなわち、本発明の物質は、Ca2+シグナル伝達に関わる各種疾病の予防または治療に対して有効に働くことができ、例えば、高血圧、狭心症、がん、免疫抑制(抗アレルギー)、2型糖尿病、アルツハイマー病などの疾病の予防や治療に有効に働くので、本発明の物質を含有するものはこれらの疾病(ただし、ここに列記したものに限定されるものではない)の予防・治療剤として有効である。
【0078】
本発明者らによって初めて見出された式(1)で表される構造式を有する物質、式(2)で表される構造式を有する物質、および式(3)で表される構造式を有する物質は、メラニン産生抑制効果を有し、肌用製品の素材(材料)として非常に有用であり、美白化粧品等の肌用製品として有用であることが分かった。また、これらの物質は、Ca2+シグナル伝達阻害活性を有するものであり、各種予防・治療剤として非常に有用であることも分かった。なお、これらの物質の効果は、これらに限定されるものではなく、これらの物質が本来有する効果は本発明の範囲に含まれるものである。
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
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図10
図11
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図18