(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022028540
(43)【公開日】2022-02-16
(54)【発明の名称】シール構造体の製造方法、およびシール構造体
(51)【国際特許分類】
F16J 15/10 20060101AFI20220208BHJP
F16J 15/06 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
F16J15/10 W
F16J15/06 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020132009
(22)【出願日】2020-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】谷井 史朗
【テーマコード(参考)】
3J040
【Fターム(参考)】
3J040AA01
3J040BA07
3J040EA17
3J040EA46
3J040FA13
3J040HA01
(57)【要約】
【課題】高温装置のin-situ補修に有意に適用できるシール構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】高温装置の内部空間を外界から遮断するシール構造体の製造方法であって、被膜成分を含む原料液をミスト化して、200℃以上の温度の被コーティング部に吹き付け、前記被コーティング部に前記被膜成分を堆積させ、被膜を形成する、製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温装置の内部空間を外界から遮断するシール構造体の製造方法であって、
被膜成分を含む原料液をミスト化して、200℃以上の温度の被コーティング部に吹き付け、
前記被コーティング部に前記被膜成分を堆積させ、被膜を形成する、製造方法。
【請求項2】
前記原料液は、溶媒を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記溶媒は、水、メタノール、エタノール、n-プロパノール、およびイソプロパノールの少なくとも一つを含む、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記原料液は、前記被膜成分の粒子を含む、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記原料液をミスト化することにより形成される、液体を含む粒子であるミスト化粒子の直径は、2μm~50μmの範囲である、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記原料液は、ケイ酸アルカリ溶液、シリカゾル、またはアルミナゾルである、請求項4または5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記原料液に含まれる前記粒子の濃度は、1質量%~20質量%の範囲である、請求項4~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記被膜は、厚さが1μm~20μmの範囲である、請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記被コーティング部は、シール部材の一部である、請求項1~8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
シール構造体であって、
多孔質な下地部材と、
該下地部材の上に配置された被膜と、
を有し、
前記被膜は、非有機物膜であり、シリカ、アルミナ、および炭素の少なくとも一つを含み、
前記下地部材の表面粗さRaは、1mm以上であり、
前記被膜の厚さは、1μm~20μmの範囲である、シール構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール構造体の製造方法、およびシール構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
高温雰囲気炉のような、雰囲気制御が可能な内部空間を有する高温装置は、各種分野において、幅広く使用されている。
【0003】
そのような高温装置において、該高温装置の使用中に、内部空間と外界とをシールするシール部材のシール性が低下することがある。また、その場合、しばしば、高温装置を高温状態に維持したままで、シール部材に対して補修を実施する必要が生じ得る。
【0004】
このような高温装置の、いわゆるin-situ補修のため、これまでに各種方法が提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高温装置のin-situ補修の一つの案として、シール部材の劣化部分に、水ガラスのような被膜成分を上塗りすることが考えられる。
【0007】
しかしながら、高温に維持されたシール部材の上に水ガラスの被膜を設置した場合、水ガラスから水分が蒸発する際に、被膜に貫通孔が形成されるという問題が生じる。この場合、得られる被膜は多孔質となり、良好なシール効果を発揮することができなくなる。
【0008】
このように、高温装置のin-situ補修の際に、緻密なシール構造体を製造する方法に対して要望がある。
【0009】
本発明は、このような背景に鑑みなされたものであり、本発明では、高温装置のin-situ補修に有意に適用できるシール構造体の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明では、そのようなシール構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、高温装置の内部空間を外界から遮断するシール構造体の製造方法であって、被膜成分を含む原料液をミスト化して、200℃以上の温度の被コーティング部に吹き付け、前記被コーティング部に前記被膜成分を堆積させ、被膜を形成する、製造方法が提供される。
【0011】
また、本発明では、シール構造体であって、多孔質な下地部材と、該下地部材の上に配置された被膜と、を有し、前記被膜は、非有機物膜であり、シリカ、アルミナ、および炭素の少なくとも一つを含み、前記下地部材の表面粗さRaは、1mm以上であり、前記被膜の厚さは、1μm~20μmの範囲である、シール構造体が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、高温装置のin-situ補修に有意に適用できるシール構造体の製造方法を提供することができる。また、本発明では、そのようなシール構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態によるシール構造体の製造方法のフローを模式的に示した図である。
【
図2】高温装置のシール部に形成された、本発明の一実施形態によるシール構造体を模式的に示した断面図である。
【
図4】各例に係るシール構造体における200℃での評価試験結果をまとめて示した図である。
【
図5】各例に係るシール構造体における300℃での評価試験結果をまとめて示した図である。
【
図6】各例に係るシール構造体における400℃での評価試験結果をまとめて示した図である。
【
図7】各例に係るシール構造体における500℃での評価試験結果をまとめて示した図である。
【
図8】本発明の一実施形態によるシール構造体の断面の一例を示した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0015】
本発明の一実施形態では、高温装置の内部空間を外界から遮断するシール構造体の製造方法であって、被膜成分を含む原料液をミスト化して、200℃以上の温度の被コーティング部に吹き付け、前記被コーティング部に前記被膜成分を堆積させ、被膜を形成する、製造方法が提供される。
【0016】
本発明の一実施形態では、200℃以上の高温に維持された被コーティング部に、ミスト化された原料液が吹き付けられる。
【0017】
原料液は、被膜成分を含む。従って、この原料液をミスト化することにより、液体をまとった被膜成分が、ミストとして形成される。
【0018】
このようなミストを被コーティング部に吹き付けた場合、ミストが被コーティング部の表面と接触した際に、ミストに含まれる溶媒が気化される。従って、被コーティング部の表面には、溶媒を含まない被膜成分が堆積される。
【0019】
このようなミストの被コーティング部との接触、および溶媒の気化が繰り返し継続されることにより、被コーティング部の表面に、被膜成分が逐次堆積される。
【0020】
例えば、原料液に含まれる被膜成分が粒子の形態の場合、原料液をミスト化することにより、液体を含む粒子(以下、特に、「ミスト化粒子」ともいう。)が形成される。このようなミスト化粒子を被コーティング部に吹き付けた場合、ミスト化粒子が被コーティング部の表面と接触した際に、溶媒が気化される。従って、被コーティング部の表面には、溶媒を含まない被膜成分の粒子が堆積される。
【0021】
あるいは、原料液に含まれる被膜成分が炭素を含む熱分解物質の形態の場合、原料液をミスト化することにより、液体をまとった熱分解物質(以下、特に、「ミスト化成分」ともいう。)が形成される。このミスト化成分が被コーティング部の表面と接触した際に、溶媒の気化と、熱分解物質の分解とが同時に生じる。従って、被コーティング部の表面には、溶媒を含まないカーボンが堆積される。
【0022】
このような「ミスト化粒子」または「ミスト化成分」を経由して形成される堆積物には、溶媒が実質的に含まれていない。このため、堆積物には、溶媒が気化する結果として生じる貫通孔は、形成されない。
【0023】
従って、本発明の一実施形態では、被コーティング部に、緻密な被膜を形成することができる。また、これにより、本発明の一実施形態では、良好なシール性能を発揮するシール構造体を製造することができる。
【0024】
(本発明の一実施形態によるシール構造体の製造方法)
次に、図面を参照して、本発明の一実施形態によるシール構造体の製造方法について、より詳しく説明する。
【0025】
図1には、本発明の一実施形態によるシール構造体の製造方法のフローを模式的に示す。
【0026】
図1に示すように、本発明の一実施形態によるシール構造体の製造方法(以下、「第1の製造方法」と称する。)は、
(1)原料液を調製する工程(工程S110)と、
(2)原料液をミスト化する工程(工程S120)と、
(3)ミスト化した原料液を、高温装置の被コーティング部に吹き付ける工程(工程S130)と、
を有する。
【0027】
以下、各工程について説明する。
【0028】
なお、ここでは、一例として、原料液が被膜成分の粒子を含み、従って、原料液をミスト化することにより、「ミスト化粒子」が形成される場合を想定して、第1の製造方法の各工程を説明する。
【0029】
(工程S110)
まず、高温装置の被コーティング部に設置される被膜用の原料液が調製される。
【0030】
原料液は、溶媒と、該溶媒中に分散された粒子とを有する。
【0031】
溶媒は、これに限られるものではないが、水、メタノール、エタノール、n-プロパノール、およびイソプロパノールの少なくとも一つを含んでもよい。安全上の観点から、溶媒は、特に、水であることが好ましい。
【0032】
粒子は、後に形成される被膜の成分で構成される。粒子は、例えば、アルミナ、またはシリカを含んでもよい。
【0033】
原料液は、例えば、ケイ酸アルカリ溶液、シリカゾル、またはアルミナゾルであってもよい。ケイ酸アルカリ溶液は、ケイ酸ナトリウム溶液(いわゆる水ガラス)であってもよい。
【0034】
原料液に含まれる固形分粒子の濃度は、特に限られないが、例えば、1質量%~20質量%の範囲である。固形分粒子の濃度が20質量%を超えると、原料液の粘度が高くなり、所定のミスト化状態の維持、およびミスト化粒子の安定した供給が難しくなる場合がある。
【0035】
(工程S120)
次に、前述の方法で調製された原料液がミスト化される。すなわち、原料液から、固形分粒子を含む液体粒子、すなわち「ミスト化粒子」が形成される。
【0036】
原料液をミスト化する方法は、特に限られない。原料液は、例えば、スプレーガン、エアブラシ、または超音波ブラシ等を用いて、ミスト状にされてもよい。
【0037】
ミスト化粒子の直径は、含まれる固形分粒子の濃度や粒径にも依存するが、例えば、2μm~50μmの範囲である。ミスト化粒子の直径を50μm以下とすることにより、以降の工程S130において、ミスト化粒子が被コーティング部の表面と接触し、次のミスト化粒子が到達する前に、ミスト化粒子に含まれる溶媒を迅速に気化させることができる。また、ミスト化粒子の直径を2μm以上とすることにより、以降の工程S130において、現実的な時間で、被コーティング部に被膜を形成することができる。
【0038】
なお、本願において、ミスト化粒子の直径は、レーザー回折式粒子分析で測定される。また、「ミスト化粒子」のキャリアガスとしては、空気の他、アルゴン、窒素、酸素等が使用され得る。
【0039】
(工程S130)
次に、ミスト化された原料液が、被コーティング部に供給される。例えば、被コーティング部は、高温装置のシール部材の一部、例えば、シール部材の一表面であってもよい。
【0040】
高温装置は、これに限られるものではないが、例えば、石炭のコークス炉、鉄鉱石の高炉、ガラスの溶解炉、およびガラスの成形炉等の各種窯炉が含まれる。これらの高温装置のシール部材の温度は、200℃~500℃の範囲になり得る。
【0041】
原料液の供給速度は、原料液の組成、含まれる固形分粒子の濃度、および設置対象の温度等によっても変化する。概して、原料液の供給速度は、例えば、0.0001~0.1cc/(sec・cm2)の範囲であってもよい。
【0042】
なお、供給速度が大き過ぎると、ミスト化粒子からの溶媒の気化が間に合わず、被膜に溶媒が含まれる可能性がある。
【0043】
従って、そのような問題を回避または抑制するため、ミスト化粒子を間欠的に供給してもよい。例えば、ミスト化された原料液の供給と停止を、周期的に繰り返してもよい。
【0044】
被コーティング部が高温に維持されているため、ミスト化粒子が被コーティング部の表面に到達すると、ミスト化粒子に含まれる溶媒は、気化され逸散される。従って、被コーティング部の表面には、溶媒を含まない被膜成分の粒子が、気孔を含まずに緻密な状態で堆積される。また、ミスト化された原料液は、継続して被コーティング部に供給される。このため、被コーティング部では、ミスト化粒子の溶媒気化、および固形分粒子の堆積が繰り返される。また、これに伴い、被コーティング部の表面に、被膜の成分の固形分粒子が逐次堆積される。
【0045】
このような現象が繰り返される結果、被コーティング部に被膜が形成される。被膜の厚さは、特に限られないが、例えば1μm~20μmの範囲である。
【0046】
第1の製造方法により得られる被膜は、貫通孔を含まず、緻密な形態を有する。
【0047】
従って、第1の製造方法では、シール性の良好な緻密な被膜をin-situで形成することができる。
【0048】
また、第1の製造方法では、ミスト化粒子が脱溶媒化され、粒子成分のみが逐次的に堆積され、これにより被膜が形成される。このような成膜方法では、被コーティング部の表面が比較的大きな凹凸を有する場合でも、緻密な被膜を形成することができる。
【0049】
例えば、第1の製造方法では、被コーティング部の表面粗さRaが1mm以上の場合でも、緻密な連続被膜を形成することができる。
【0050】
以上、原料液が被膜成分の固形分粒子を含む場合を例に、第1の製造方法について説明した。
【0051】
しかしながら、これは単なる一例であって、第1の製造方法は、別の構成を有してもよい。例えば、原料液は、被膜成分の粒子の代わりに、炭素を含む熱分解物質を含んでもよい。この場合、炭素を含む熱分解物質は、原料液中に溶解していてもよい。
【0052】
そのような原料液を使用した場合、工程S120において、「ミスト化粒子」の代わりに、「ミスト化成分」が形成される。従って、後続の工程S130では、「ミスト化成分」が被コーティング部の表面と接触した際に、熱分解物質の分解と、溶媒の気化とが同時に生じる。その結果、被コーティング部には、炭素被膜が形成される。
【0053】
この他にも各種変更が可能であることは、当業者には容易に理解される。
【0054】
(本発明の一実施形態によるシール構造体)
次に、
図2を参照して、本発明の一実施形態によるシール構造体について説明する。
【0055】
図2は、高温装置のシール部に形成された、本発明の一実施形態によるシール構造体を模式的に示した断面図である。
【0056】
図2に示すように、本発明の一実施形態によるシール構造体(以下、「第1のシール構造体」と称する。)100は、高温装置10の隙間15を塞ぐシール部20に設置される。
【0057】
より具体的には、高温装置10は、第1の壁部材30および第2の壁部材31を有し、第1および第2の壁部材30、31等により、高温装置10の内部に内部空間40が形成される。ただし、第1の壁部材30と第2の壁部材31との間には隙間15が存在し、この隙間15を封止するため、隙間15にシール部材42(下地部材)が充填される。これによりシール部20が構成され、内部空間40が外界と遮断される。
【0058】
しかしながら、高温装置10を例えば長期間使用すると、シール部材42が劣化し、そのシール性能が低下する。そのような場合、高温装置10を使用した状態で、すなわち、シール部20が高温の状態で、シール部材42を補修する必要が生じ得る。
【0059】
第1のシール構造体100は、そのようなin-situ補修により形成される。
【0060】
第1のシール構造体100は、(劣化した)シール部材42と、被膜120とを有する。
【0061】
被膜120は、前述のような本発明の一実施形態による製造方法、例えば第1の製造方法により製造される。従って、被膜120は、貫通孔が有意に抑制された、緻密な構造を有する。
【0062】
シール部材42は、非有機物膜で構成される。シール部材42は、シリカ、アルミナ、および炭素の少なくとも一つを含む。
【0063】
また、シール部材42は、表面44に大きな凹凸を有し得る。表面44の表面粗さRaは、例えば、1mm以上である。通常、このような大きな凹凸を有する表面44上に、in-situで均一な連続被膜を形成することは容易ではない。従って、従来の方法では、表面44上に被膜を形成することができたとしても、そのような被膜は、不連続なものになり、および/または良好な密着性を有しない。すなわち、長期にわたって良好なシール性を発揮する被膜を形成することは難しい。
【0064】
しかしながら、第1のシール構造体100においては、被膜120は、前述のような本発明の一実施形態による製造方法で形成される。すなわち、被膜120がアルミナおよび/またはシリカを含む場合、被膜120は、ミスト化粒子が脱溶媒され、粒子が表面に逐次堆積される現象を利用して形成される。また、被膜120が炭素を含む場合、被膜120は、ミスト化成分の脱溶媒および熱分解により、炭素が表面に逐次堆積される現象を利用して形成される。そのため、被膜120は、大きな凹凸を有する表面44上にも、均一に、適正な密着力で設置することができる。
【0065】
従って、第1のシール構造体100は、シール部材42の凹凸の表面44に、長期にわたって良好なシール性を発揮する被膜120を配置することができる。また、これにより、第1のシール構造体100では、長期にわたって、高温装置10に良好なシール性を確保することができる。
【0066】
なお、シール構造体100が設置されるシール部20を形成する第1の壁部材30および第2の壁部材31は、金属(例えば耐熱金属)、およびセラミックス(例えば耐火レンガ)など、耐熱性を備えた材料であれば、いかなる材料で構成されてもよい。
【0067】
また、シール構造体100が適用されるシール部20の温度は、高温装置10によって変化する。一例では、シール構造体100が適用されるシール部20の温度は、200℃~500℃の範囲である。
【実施例0068】
次に、本発明の実施例について説明する。なお、以下の記載において、例1~例5は実施例であり、例11は、比較例である。
【0069】
(例1)
以下の方法により、シール構造体のシール性能の評価を行った。
【0070】
(被膜用原料液の調製)
被膜の原料液には、水ガラス3号(富士化学社製)を水で希釈した溶液(水ガラス:水=2:1(質量比))を使用した。原料液に含まれる二酸化ケイ素粒子の濃度は、5質量%である。また、二酸化ケイ素のミスト化粒子の直径の平均値は、2.5μmである。例1~例4のミスト化粒子の直径は、シンパテックス社のレーザー回折式粒度分布測定装置(HELOS)を用いて測定した。
【0071】
以下、調製された原料液を、「A液」と称する。
【0072】
(試験装置による評価)
図3には、試験装置の構成を模式的に示す。
図3に示すように、この試験装置210は、金属管220と、該金属管220を収容する電気炉230とを備える。
【0073】
金属管220は、ステンレス鋼製で、略円柱形状を有する。金属管220の一つの面は開口226となっており、この開口226は、直径が25mmとなっている。なお、金属管220の内部の容積は約1Lである。
【0074】
金属管220は、開口226が電気炉230の先端と一致するようにして、電気炉230内に配置される。また、金属管220の一部には、別の開口が設けられており、この開口は、窒素ガスを安定して供給するためのバッファタンク240と接続されている。
【0075】
金属管220の開口226の内部には、予めシール部材228が設置されている。
【0076】
シール部材228は、ケイ砂による下地層(第1層)と、その上のモルタルによる第2層の2層構成とした。シール部材228は、以下のように形成した。
【0077】
まず、バインダー(水ガラス)を用いて円柱状のケイ砂下地層(直径25mm×長さ30mm)を作製し、それを開口226に設置した。次に、試験温度まで昇温した後、その表面にモルタルによる第2層を形成した。
【0078】
得られたシール部材228には、多くの通気孔が認められた。また、シール部材228の表面は、凹凸が激しく、表面粗さRaは、約0.1mmであった。
【0079】
試験装置を使用する際には、電気炉230を昇温し、金属管220の開口226を所定の温度に維持した。試験装置の各部材の温度が十分に安定してから、エアブラシ(カスタムマイクロンシリーズCM-CP2;アネスト岩田社製)を用いて、金属管220の開口226に向かって、前述のA液を吹き付けた。
【0080】
エアブラシと開口226との間の距離は、約100mmであった。また、A液の吹き付けは、0.0005cc/(sec・cm2)における10秒間の供給および10秒間の停止を1サイクルとし、3サイクル実施した。
【0081】
A液の吹き付けを完了してから3分経過後に、バッファタンク240から金属管220内に窒素ガスを供給した。窒素ガスの圧力が0.7kPaに達した時点で窒素ガスの供給を停止した。窒素ガスを停止した時点を時間の0(ゼロ)点とし、金属管220内の圧力の経時変化を測定した。
【0082】
(例2)
例1と同様の方法により、シール構造体のシール性能の評価を行った。
【0083】
ただし、この例2では、被膜の原料液として、シリカゾル(カタロイドS-20L;日揮触媒化成社製)を水で希釈した溶液を使用した。原料液に含まれる二酸化ケイ素粒子の濃度は、5質量%である。また、二酸化ケイ素のミスト化粒子の直径の平均値は、2.5μmである。
【0084】
以下、調製された原料液を、「B液」と称する。
【0085】
(例3)
例1と同様の方法により、シール構造体のシール性能の評価を行った。
【0086】
ただし、この例3では、被膜の原料液として、シリカゾル(スノーテックスC;日産化学社製)を水で希釈した溶液を使用した。原料液に含まれる二酸化ケイ素粒子の濃度は、5質量%である。また、二酸化ケイ素のミスト化粒子の直径の平均値は、2.5μmである。
【0087】
以下、調製された原料液を、「C液」と称する。
【0088】
(例4)
例1と同様の方法により、シール構造体のシール性能の評価を行った。
【0089】
ただし、この例4では、被膜の原料液として、アルミナゾル(カタロイド特殊品;日揮触媒化成社製)を水で希釈した溶液を使用した。原料液に含まれるアルミナゾルの濃度は、5質量%である。また、アルミナゾルのミスト化粒子の直径の平均値は、2.5μmである。
【0090】
以下、調製された原料液を、「D液」と称する。
【0091】
(例5)
例1と同様の方法により、シール構造体のシール性能の評価を行った。
【0092】
ただし、この例5では、被膜の原料液として、ショ糖(富士フィルム和光純薬製スクロース)溶液を使用した。原料液に含まれるショ糖の濃度は、5質量%である。
【0093】
以下、調製された原料液を、「E液」と称する。
【0094】
(例11)
例1と同様の方法により、シール構造体のシール性能の評価を行った。
【0095】
ただし、この例11では、シール部材228の上に、被膜を設置しなかった。すなわち、例11では、開口226にシール部材228のみを設置した状態で、金属管220内の圧力の経時変化を測定した。
【0096】
(結果)
図4~
図7には、各例に係る評価試験によって得られた結果をまとめて示す。
図4には、開口226が200℃の場合の試験結果を示し、
図5には、開口226が300℃の場合の試験結果を示し、
図6には、開口226が400℃の場合の試験結果を示し、
図7には、開口226が500℃の場合の試験結果を示す。
【0097】
これらの試験結果から、いずれの温度においても、例1~例5では、例11に比べて、圧力の低下が抑制されていることがわかる。吹付部の温度によって溶媒の揮散速度、粒子の結合度合いが変化するため、温度毎に各被膜のシール性能は変化している。
【0098】
図8には、例1におけるシール部材228の表面近傍における試験後の断面の一例を示す。
【0099】
図8から、例1では、シール部材228の上に、薄くて均一な被膜が形成されていることがわかる。また、この被膜には、貫通孔がほとんど認められないことがわかる。SEM-EDXを用いた分析の結果、この被膜は、シリカで構成されていることがわかった。
【0100】
また、図には示さないが、例2~例5におけるシール構造体の被膜部分においても、同様の形態が認められた。
【0101】
なお、例2および例3におけるシール構造体の被膜は、シリカで構成されていることがわかった。また、例4におけるシール構造体の被膜は、アルミナで構成されていることがわかった。さらに、例5におけるシール構造体の被膜は、炭素で構成されていることがわかった。
【0102】
このように、例1~例5において調製した原料液をミスト化して、対象部分に吹き付けることにより、良好なシール性を有するシール構造体が得られることが確認された。
【0103】
(まとめ)
以上によれば、例1~例5において調製した原料液をミスト化して、200℃以上の温度の被コーティング部に吹き付けることにより、高温装置のin-situ補修に有意に適用できるシール構造体の製造方法を提供することができる。また、そのようなシール構造体を提供することができる。