(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022028595
(43)【公開日】2022-02-16
(54)【発明の名称】末梢神経障害を予防または治療するための医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20220208BHJP
A61K 38/08 20190101ALI20220208BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220208BHJP
A61P 25/02 20060101ALI20220208BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220208BHJP
A61K 31/166 20060101ALI20220208BHJP
A61K 31/4164 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
A61K45/00
A61K38/08
A61P43/00 111
A61P25/02
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K31/166
A61K31/4164 ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021067829
(22)【出願日】2021-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2020131885
(32)【優先日】2020-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】森岡 徳光
(72)【発明者】
【氏名】中村 庸輝
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA17
4C084BA08
4C084BA17
4C084DC50
4C084NA14
4C084ZA051
4C084ZA201
4C084ZC022
4C085AA13
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4C085BB11
4C085EE01
4C086BC38
4C086MA01
4C086MA04
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4C086ZC42
4C206AA01
4C206AA02
4C206GA07
4C206GA30
4C206KA01
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZA20
4C206ZC42
(57)【要約】
【課題】末梢神経障害の予防薬または治療薬を提供する。
【解決手段】本開示は、末梢神経障害を予防または治療するための、RAGE阻害薬を含む医薬組成物などを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
末梢神経障害を予防または治療するための、RAGE阻害薬を含む医薬組成物。
【請求項2】
末梢神経障害が、薬剤性ニューロパチーである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
末梢神経障害が、外傷性ニューロパチーである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
末梢神経障害が、糖尿病性ニューロパチーまたは帯状疱疹後ニューロパチーである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
末梢神経障害が、三叉神経ニューロパチーである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
三叉神経ニューロパチーを予防または治療するための、RAGE阻害薬を含む医薬組成物。
【請求項7】
三叉神経ニューロパチーを予防するための、請求項5または6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
三叉神経ニューロパチーが、外傷に起因するものである、請求項5~7のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項9】
外傷が、手術による外傷である、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
手術が、歯科手術である、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
手術前に対象に投与される、請求項9または10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
RAGE阻害薬が、FPS-ZM1、アゼリラゴン、またはS100タンパク質に基づくペプチドである、請求項1~11のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項13】
RAGE阻害薬が、FPS-ZM1である、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
RAGE阻害薬が、抗RAGE抗体である、請求項1~11のいずれかに記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、末梢神経障害の予防および治療に関する。
【背景技術】
【0002】
末梢神経障害は、末梢神経細胞の機能不全により生じる病態であり、末梢神経細胞の神経細胞体や軸索、その周囲のシュワン細胞により形成される髄鞘の傷害により引き起こされる。末梢神経障害は、外傷、抗がん剤投与、糖尿病などの代謝性疾患など、様々な原因で生じることが知られており、疼痛、痛覚過敏、感覚鈍麻、痺れなどの感覚異常などをきたし、患者の生活の質 (QOL) を著しく低下させ、社会的損失をもたらす。
【0003】
三叉神経ニューロパチーは、末梢神経である三叉神経またはその周囲の細胞 (シュワン細胞など) の物理的な損傷により感覚異常を呈する病態であり、既存の薬物治療に対して抵抗性を示す。国際疼痛学会の報告によると、智歯(親知らず)の抜歯やインプラント手術などに伴い3-5%の患者に発生する。アジア人は解剖学的に顎が小さいため智歯の抜歯頻度が高いことや、近年のこれら施術率の増加も相まって、日本における三叉神経ニューロパチーの発症頻度は高まっているが、本病態に対する治療法は確立されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、末梢神経障害の予防薬または治療薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
ある態様において、本開示は、末梢神経障害を予防または治療するための、RAGE阻害薬を含む医薬組成物に関する。
【発明の効果】
【0006】
本開示により、これまで治療が困難であった三叉神経ニューロパチーを含む末梢神経障害の発症予防および治療が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、実施例の試験のタイムスケジュールを示す。矢印は薬物の投与を示す。顔面毛繕い時間は術後7日目 (Grooming) に、冷刺激に対する反応時間は術後13日目 (Cold) に測定した。
【
図2】
図2は、抗HMGB1抗体またはコントロールIgGを投与したdIoN-CCI処置マウスの顔面毛繕い時間 (左) および冷刺激に対する反応時間 (右) を示す。*, p < 0.05, ** p < 0.01。
【
図3】
図3は、RAGE阻害薬であるFPS-ZM1 (FPS)、TLR4阻害薬であるTAK242 (TAK)、または溶媒 (Veh) を投与したdIoN-CCI処置雄性マウスの顔面毛繕い時間 (左) および冷刺激に対する反応時間 (右) を示す。*, p < 0.05, ** p < 0.01。
【
図4】
図4は、RAGE阻害薬であるFPS-ZM1 (FPS) または溶媒 (Veh) を投与したdIoN-CCI処置雌性マウスの顔面毛繕い時間 (左) 及び 冷刺激に対する反応時間 (右) を示す。 *, p < 0.05, **, p < 0,01。
【
図5】
図5は、RAGE阻害薬であるRAGE Antagonist Peptide (RAP) (左)、アゼリラゴン (Azeliragon) (右)、または溶媒 (Veh) を投与したdIoN-CCI処置雄性マウスおよび雌性マウス (雄性: 上、雌性: 下) の冷刺激に対する反応時間を示す。 *, p < 0.05, **, p < 0,01。
【発明を実施するための形態】
【0008】
特に具体的な定めのない限り、本明細書で使用される用語は、有機化学、医学、薬学、分子生物学、微生物学等の分野における当業者に一般に理解されるとおりの意味を有する。以下にいくつかの本明細書で使用される用語についての定義を記載するが、これらの定義は、本明細書において、一般的な理解に優先する。
【0009】
末梢神経障害(ニューロパチーともいう)は、末梢神経細胞の機能不全により生じる病態であり、末梢神経細胞の神経細胞体や軸索、その周囲のシュワン細胞により形成される髄鞘の傷害により引き起こされる。末梢神経障害には、運動神経障害、感覚神経障害、または自律神経障害が含まれる。末梢神経障害の症状としては、疼痛、痛覚過敏、感覚鈍麻、痺れ、筋力低下、筋萎縮、便秘、腹痛、発汗障害、排尿障害、起立性低血圧などが挙げられる。ある実施形態において、末梢神経障害は、神経障害性疼痛である。
【0010】
末梢神経障害としては、薬剤性ニューロパチー、外傷性ニューロパチー(例えば、手術または怪我による外傷による)、感染性ニューロパチー(例えば、水痘帯状疱疹ウイルス感染による)、圧迫性ニューロパチー(例えば、腫瘍などの空間占拠性病変による圧迫や、骨または軟骨の変形による圧迫による)、代謝性ニューロパチー(例えば、糖尿病、尿毒症性などによる)、免疫性ニューロパチー(例えば、ギラン・バレー症候群)、遺伝性ニューロパチー(例えば、シャルコー・マリー・トゥース病、家族性アミロイドポリニューロパチー)が挙げられる。
【0011】
ある実施形態において、末梢神経障害は、薬剤性ニューロパチーである。薬剤性ニューロパチーの原因薬剤としては、抗がん剤(パクリタキセル、オキサリプラチン、シスプラチン、カルボプラチン、ドセタキセル、ビンクリスチン、ビンブラスチン、サリドマイドなど)、高脂血症治療薬(プラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチンなど)、抗ウイルス薬(ザルシタビン、ジダノシン、スタブジンなど)、抗結核薬(イソニアジド、エタンブトールなど)などが挙げられる。
【0012】
ある実施形態において、末梢神経障害は、外傷性ニューロパチーである。さらなる実施形態において、外傷性ニューロパチーは、手術による外傷に起因するものである。
【0013】
ある実施形態において、末梢神経障害は、糖尿病性ニューロパチーまたは帯状疱疹後ニューロパチーである。
【0014】
末梢神経障害として、また、三叉神経ニューロパチーが挙げられる。三叉神経は、第V脳神経とも呼ばれ、顔面領域の体性運動および知覚を司る。知覚性の神経線維は、三叉神経節から、眼神経、上顎神経、下顎神経の三神経に分枝する。三叉神経ニューロパチーは、三叉神経またはその周囲の細胞 (シュワン細胞など) の物理的な損傷により感覚異常を呈する病態である。感覚異常には、疼痛、痛覚過敏、感覚鈍麻、痺れなどが含まれる。三叉神経ニューロパチーは、疼痛を伴う場合も伴わない場合もある。本開示において、三叉神経ニューロパチーは、如何なる原因により生じたものであってもよい。三叉神経ニューロパチーの原因としては、外傷(例えば、手術または怪我による外傷)、感染(例えば、水痘帯状疱疹ウイルス感染)、圧迫(例えば、腫瘍などの空間占拠性病変による圧迫)が挙げられる。ある実施形態において、三叉神経ニューロパチーは、外傷に起因するものである。さらなる実施形態において、三叉神経ニューロパチーは、手術(例えば歯科手術、口腔手術、顔面手術)による外傷に起因するものである。さらなる実施形態において、三叉神経ニューロパチーは、歯科手術(例えば、抜歯、特に智歯の抜歯、またはインプラント手術)による外傷に起因するものである。
【0015】
RAGE (receptor for advanced glycation end products)は、AGE (advanced glycation end products) 、HMGB1 (high mobility group box 1) 、S100タンパク質などのリガンドの受容体として知られる膜貫通タンパク質である。RAGEの代表的アミノ酸配列は、GenBank accession No. AAH26069.1 に開示されている。本開示において、RAGE阻害薬とは、RAGEに結合し、RAGEからのシグナル伝達を阻害する物質を意味する。RAGE阻害薬には、RAGEとリガンドとの結合を阻害する物質が含まれる。ある実施形態において、RAGE阻害薬は、RAGEとHMGB1との結合を阻害する物質である。RAGE阻害薬は、低分子化合物、核酸、ペプチド、タンパク質、抗体などの物質であってよい。RAGE阻害薬としては、FPS-ZM1 (4-Chloro-N-cyclohexyl-N-(phenylmethyl)benzamide)、アゼリラゴン (azeliragon) (Pf04494700) などの化合物、S100タンパク質に基づくペプチド(S100-based peptide) (例えば、ELKVLMEKEL (配列番号1) のアミノ酸配列からなるペプチド) (Arumugam,T. et al., Clin. Cancer Res. 2012, 18(16), 4356-4364.)、A box (HMGB1の1-67アミノ酸、1- MGKGDPKKPR GKMSSYAFFV QTCREEHKKK HPDASVNFSE FSKKCSERWK TMSAKEKGKF EDMAKAD -67 (配列番号2)) (LeBlanc,P.M. et al., J. Biol. Chem. 2014, 289(11), 7777-7786; Kokkola,R. et al., Arthritis Rheum. 2003, 48(7), 2052-2058.; Yang,H. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 2004, 101(1), 296-301.) 、R2F8 (Ibrahim,Z.A. et al., Mol. Immunol. 2013, 56(4), 739-744.) などのペプチドなどが挙げられる。ある実施形態において、RAGE阻害薬は、FPS-ZM1、アゼリラゴン、またはS100タンパク質に基づくペプチドである。さらなる実施形態において、RAGE阻害薬は、FPS-ZM1である。別の実施形態において、RAGE阻害薬は、抗RAGE抗体である。RAGE阻害薬は、公知の手法により製造することができる。
【0016】
抗RAGE抗体は、限定はされないが、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、または抗体断片でありうる。抗体断片は、抗体の一部分を構成要素として含む分子を意味し、例えば、抗体の重鎖および軽鎖可変領域(VHおよびVL)、F(ab')2、Fab'、Fab、Fv、disulphide-linked FV (sdFv) 、Single-Chain FV (scFV) およびこれらの重合体が挙げられる。抗RAGE抗体は、RAGEの全体または一部のアミノ酸配列を含むペプチドを免疫原として用いて、一般的な方法により作製することができる。また、抗RAGE抗体は、遺伝子工学的手法を用いて抗体遺伝子を含む発現ベクターを作製して細胞で発現させることによっても、作製することができる。得られた抗体とRAGEとの結合、および得られた抗体のRAGEとリガンドとの結合に対する効果は、酵素免疫測定法(EIA)(ELISAを含む)、放射免疫測定法(RIA)、化学発光免疫測定法(CIA)、蛍光免疫測定法(FIA)などの免疫測定法や、BIACORE(登録商標)表面プラズモン共鳴アッセイなどにより確認することができる。
【0017】
末梢神経障害の予防とは、末梢神経障害を発症していない対象に対する処置であり、その発症を抑制することが含まれる。末梢神経障害の治療とは、末梢神経障害を発症している対象に対する処置であり、その病態の進行を遅延または停止すること、およびその症状を軽減、緩和、改善または除去することが含まれる。
【0018】
RAGE阻害薬は、所望の効果を発揮しうる量(本明細書中、「有効量」という)で対象に投与される。投与量は、対象の年齢、体重、健康状態等に応じて適宜決定される。例えば、ヒトに投与する場合、RAGE阻害薬の量として、1日あたり、0.01 g/kg~10 g/kgで投与されうる。RAGE阻害薬は、1日1回で、または複数回(例えば2、3または4回)にわけて投与してもよく、点滴等により連続的に投与してもよい。RAGE阻害薬は、連日投与しても、一定の間隔をあけて、例えば1~数日(例えば1、2、3、4、5または6日)、1~数週(例えば1、2、3、4、5または6週)、または1~数ヶ月(例えば1、2、3、4、5または6ヶ月)の間隔をあけて、投与してもよい。投与期間も特に限定されず、1~数日間(例えば1、2、3、4、5または6日間)、1~数週間(例えば1、2、3、4、5または6週間)、1~数ヶ月間(例えば1、2、3、4、5または6ヶ月間)、またはそれ以上でありうる。
【0019】
RAGE阻害薬は、末梢神経障害の発症前に投与しても、発症後に投与しても、その両方で投与してもよい。例えば、RAGE阻害薬は、末梢神経障害の原因となりうる手術の当日に、または手術前の一定の期間、例えば、1~数日間(例えば1、2、3、4、5または6日間)または1~数週間(例えば1、2、3、4、5または6週間)、連日または1~数日(例えば1、2、3、4、5または6日)の間隔をあけて、投与されうる。また、RAGE阻害薬は、手術後の一定の期間、例えば、1~数日間(例えば1、2、3、4、5または6日間)または1~数週間(例えば1、2、3、4、5または6週間)、連日または1~数日(例えば1、2、3、4、5または6日)の間隔をあけて、投与されうる。手術前と手術後とのいずれか一方で投与しても、両方で投与してもよい。
【0020】
本開示における「対象」は、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、サル等)であり、好ましくはヒトである。
【0021】
末梢神経障害が三叉神経ニューロパチーであり、手術による外傷に起因するものである場合、術前のX線検査等によりその発症リスクを予測することができ、発症リスクを有する対象に術前より介入することができる。ある実施形態において、対象は、手術(例えば、歯科手術、口腔手術、顔面手術)前の対象、特に、歯科手術(例えば、抜歯、特に智歯の抜歯、またはインプラント手術)前の対象である。さらなる実施形態において、対象は、三叉神経ニューロパチーの発症リスクを有する手術前の対象である。当業者は、三叉神経ニューロパチーの発症リスクを有する対象を、手術の内容、X線検査等による所見などに基づき、適宜決定することができる。例えば、手術が歯科手術である場合、三叉神経ニューロパチーの発症リスクを有する対象は、手術の内容、および/または歯 (例えば智歯) の生え方 (垂直、斜め、水平か、埋没しているかなど)、根の構造、下歯槽管 (下歯槽神経の通り道) との距離などの所見から、決定することができる。三叉神経ニューロパチーの発症リスクは、手術の難易度に相関することが報告されている。例えば、下顎の智歯の抜歯は上顎よりも困難であることが知られており、三叉神経ニューロパチーの発生率も高い。それゆえ、例えば、三叉神経ニューロパチーの発症リスクを有する対象は、下顎の智歯の抜歯をうける対象でありうる。また、三叉神経ニューロパチーの発症リスクを有する対象としては、智歯が埋没し水平に生えている対象、根の構造が複雑と判断される対象、下歯槽管が智歯の根と近接していると判断される対象などが挙げられる。
【0022】
RAGE阻害薬を含む医薬組成物は、いかなる剤形に製剤化されてもよい。剤形としては、例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、液剤、懸濁剤、乳濁液、吸入剤、注射剤などが挙げられる。注射剤は、溶液性注射剤、懸濁性注射剤、乳濁性注射剤、または用時調製型注射剤でありうる。製剤は常法により調製することができる。医薬組成物は、有効成分であるRAGE阻害薬に加え、医薬上許容される担体および/または添加剤を含んでもよい。医薬上許容される担体としては、ラクトース、マンニトール、トウモロコシデンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、滅菌水、生理食塩水、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油などが挙げられる。添加剤としては、崩壊剤、安定剤、酸化防止剤、緩衝剤、防腐剤、界面活性剤、キレート剤、結合剤、滑沢剤などが挙げられる。
【0023】
RAGE阻害薬は、いかなる方法で対象に投与してもよい。投与は、全身投与であっても、局所投与であってよく、また、経口投与であっても、非経口投与(例えば、皮下、皮内、静脈内、筋肉内など)であってよい。ある実施形態において、RAGE阻害薬は、局所投与により投与される。
【0024】
RAGE阻害薬は、少なくとも1つのさらなる有効成分、特に末梢神経障害の予防または治療のための少なくとも1つのさらなる有効成分と併用してもよい。少なくとも1つのさらなる有効成分としては、例えば、プレガバリン、デュロキセチンなどが挙げられる。RAGE阻害薬と少なくとも1つのさらなる有効成分とは、同じ組成物に含まれていても別の組成物に含まれていてもよく、これらの投与スケジュールは同じであっても異なっていてもよい。
【0025】
さらなる態様において、本開示は、
末梢神経障害の予防または治療を必要とする対象に有効量のRAGE阻害薬を投与することを含む、病態の予防または治療方法;
末梢神経障害を予防または治療するための、RAGE阻害薬の使用;および
末梢神経障害を予防または治療するための医薬の製造のための、RAGE阻害薬の使用
に関する。
【0026】
さらなる態様において、本開示は、三叉神経ニューロパチーを予防または治療するための、RAGE阻害薬を含む医薬組成物に関する。
【0027】
さらなる態様において、本開示は、
三叉神経ニューロパチーの予防または治療を必要とする対象に有効量のRAGE阻害薬を投与することを含む、病態の予防または治療方法;
三叉神経ニューロパチーを予防または治療するための、RAGE阻害薬の使用;および
三叉神経ニューロパチーを予防または治療するための医薬の製造のための、RAGE阻害薬の使用
に関する。
【0028】
本開示の例示的な実施形態を以下に記載する。
[1]
末梢神経障害を予防または治療するための、RAGE阻害薬を含む医薬組成物。
[2]
末梢神経障害が、薬剤性ニューロパチーである、前記1に記載の医薬組成物。
[3]
末梢神経障害が、外傷性ニューロパチーである、前記1に記載の医薬組成物。
[4]
末梢神経障害が、糖尿病性ニューロパチーまたは帯状疱疹後ニューロパチーである、前記1に記載の医薬組成物。
[5]
末梢神経障害が、三叉神経ニューロパチーである、前記1に記載の医薬組成物。
[6]
三叉神経ニューロパチーを予防または治療するための、RAGE阻害薬を含む医薬組成物。
[7]
三叉神経ニューロパチーを予防するための、前記5または6に記載の医薬組成物。
[8]
三叉神経ニューロパチーが、外傷に起因するものである、前記5~7のいずれかに記載の医薬組成物。
[9]
外傷が、手術による外傷である、前記8に記載の医薬組成物。
[10]
手術が、歯科手術である、前記9に記載の医薬組成物。
[11]
手術前に対象に投与される、前記9または10に記載の医薬組成物。
[12]
RAGE阻害薬が、FPS-ZM1、アゼリラゴン、またはS100タンパク質に基づくペプチドである、前記1~11のいずれかに記載の医薬組成物。
[13]
RAGE阻害薬が、FPS-ZM1である、前記12に記載の医薬組成物。
[14]
RAGE阻害薬が、抗RAGE抗体である、前記1~11のいずれかに記載の医薬組成物。
【0029】
[15]
末梢神経障害の予防または治療を必要とする対象に有効量のRAGE阻害薬を投与することを含む、病態の予防または治療方法。
[16]
末梢神経障害を予防または治療するための、RAGE阻害薬の使用。
[17]
末梢神経障害を予防または治療するための医薬の製造のための、RAGE阻害薬の使用。
【0030】
[18]
三叉神経ニューロパチーの予防または治療を必要とする対象に有効量のRAGE阻害薬を投与することを含む、病態の予防または治療方法。
[19]
三叉神経ニューロパチーを予防または治療するための、RAGE阻害薬の使用。
[20]
三叉神経ニューロパチーを予防または治療するための医薬の製造のための、RAGE阻害薬の使用。
【0031】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明は如何なる意味においてもこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例0032】
三叉神経ニューロパチーは、末梢神経である三叉神経またはその周囲の細胞 (シュワン細胞など) の物理的な損傷を起点として発症すると考えられる。これまでに他の中枢神経疾患において、損傷した細胞からアラーミンと総称される分子群 [HMGB1 (high mobility group box 1)、S100タンパク質など] が漏出し、周辺組織の炎症反応を増悪させることが報告されている。そこで、アラーミンの受容体であるTLR4 (toll-like receptor 4) およびRAGE (receptor for advanced glycation end products) の三叉神経ニューロパチーの発症期の役割を検討した。
【0033】
実験動物として雄性または雌性マウス (ddY系、5週齢) を用いた。三叉神経ニューロパチーのモデルは、遠位眼窩下神経の絞扼 (distal infraorbital nerve-chronic constriction injury: dIoN-CCI) により作製した。皮膚を切開し、神経の露出のみを行った擬似手術群 (Sham群) を対照とした。疼痛様行動の測定は、三叉神経ニューロパチーの評価として汎用されている顔面毛繕い時間および冷刺激に対する反応時間の測定により行った。冷刺激に対する反応時間は、汎用されているアセトン試験を用いて測定した。顔面毛繕い時間は術後7日目に、冷刺激に対する反応時間は術後13日目に測定した。抗HMGB1抗体(100 ng) (岡山大学大学院・医歯薬学総合研究科・薬理学分野・西堀 正洋 教授より供与)、コントロールIgG (100 ng) (岡山大学大学院・医歯薬学総合研究科・薬理学分野・西堀 正洋 教授より供与)、RAGE阻害薬であるFPS-ZM1 (5 nmol) (Cayman Chemical)、RAGE Antagonist Peptide [アミノ酸配列: ELKVLMEKEL (配列番号1)] (10 μg) (Merck)、およびアゼリラゴン (20 nmol) (Cayman Chemical)、並びにTLR4阻害薬であるTAK242 (5 nmol) (Cayman Chemical)は、それぞれ、本病態モデル作製時および処置48時間後に、絞扼神経周囲に投与した。薬液の体積は、モデル作製時は10 μLとし、処置48時間後は患部に行き渡るよう50 μLとした。FPS-ZM1、RAGE Antagonist Peptide、およびアゼリラゴンはRAGEとHMGB1を含むそのリガンドとの結合を阻害し、TAK242はTLR4とそのアダプター分子 (TIRAPおよびTRAM) との相互作用を阻害することが知られる。結果は平均値±標準誤差で示した。統計学的検討には2元配置分散分析およびTukeyの多重比較検定を用いた。
【0034】
結果を
図2から
図5に示す。雄性マウスにおける本病態モデルマウスは、dIoN-CCI処置7日後の顔面毛繕い時間および処置13日後の冷刺激に対する反応時間が擬似手術群と比較して有意に増加した。これらの疼痛様行動の増加は、抗HMGB1抗体およびFPS-ZM1の投与によって、擬似手術群のレベルまで有意に抑制された (
図2、
図3)。一方で、TLR4阻害薬であるTAK242の投与では有意な改善効果は認められなかった (
図3)。
【0035】
同様に、dIoN-CCI処置雌性マウスにおいても、FPS-ZM1の投与によってこれらの疼痛様行動の増加は有意に抑制された (
図4)。
【0036】
さらに、RAGE Antagonist Peptideまたはアゼリラゴンの投与によっても、dIoN-CCI処置13日後の冷刺激に対する反応時間の増加は、雄性マウスおよび雌性マウスのいずれにおいても有意に抑制された (
図5)。
【0037】
以上の結果から、損傷した細胞から放出されるアラーミンがRAGEに作用することで末梢神経障害を惹起することが示された。また、RAGE阻害薬が末梢神経障害の発症を予防しうること、その増悪を抑制しうることが示された。