(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022029075
(43)【公開日】2022-02-17
(54)【発明の名称】チオエステル誘導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 327/22 20060101AFI20220209BHJP
【FI】
C07C327/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020132188
(22)【出願日】2020-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】関 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】森 博志
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC60
4H006BB23
4H006BC14
4H006TN30
(57)【要約】 (修正有)
【課題】効率的なチオエステル誘導体の製造方法の提供。
【解決手段】アルキルマグネシウムハライド及びアリールマグネシウムハライドの少なくとも一方の存在下、式(1)で表されるラクトン誘導体と、R
3-SH(2)で表されるチオールとを接触させて、式(3)で表されるチオエステル誘導体を得ることを含む。この製造方法で得られるチオエステル誘導体は、例えば、カナグリフロジン等の糖尿病治療薬の合成のための中間体として用い得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキルマグネシウムハライド及びアリールマグネシウムハライドの少なくとも一方の存在下、下記式(1)で表されるラクトン誘導体と、下記式(2)で表されるチオールとを接触させて、下記式(3)で表されるチオエステル誘導体を得ることを含む、チオエステル誘導体の製造方法:
【化1】
上記式(1)において、R
1は、-(A)
s-(B)
t-Cで表され、
Aは、ハロゲノ基を有していてもよいアルキレン基であり、sは、0又は1であり、
Bは、O、S又はNHであり、tは、0又は1であり、
Cは、ハロゲノ基を有していてもよいアルキル基、ハロゲノ基を有していてもよいアラルキル基、ハロゲノ基を有していてもよいアリール基、ハロゲノ基を有していてもよいビニル基、又は、酸素、硫黄及び窒素からなる群より選ばれる少なくとも1種をヘテロ原子として含み、ハロゲノ基を有していてもよい複素環基であり、
R
2は、-(D)
u-Eで表され、
Dは、O、S又はNHであり、uは、0又は1であり、
Eは、ハロゲノ基を有していてもよいアルキル基、ハロゲノ基を有していてもよいアラルキル基、ハロゲノ基を有していてもよいアリール基、又は、酸素、硫黄及び窒素からなる群より選ばれる少なくとも1種をヘテロ原子として含み、ハロゲノ基を有していてもよい複素環基であり、
nは、1以上6以下であり、
R
3-SH (2)
上記式(2)において、R
3は、アルキル基、アラルキル基、又はアリール基であり、
【化2】
上記式(3)において、R
1、R
2、及びnは、前記式(1)のものと同義であり、R
3は、前記式(2)のものと同義である。
【請求項2】
1モルの前記式(1)で表されるラクトン誘導体に対する前記アルキルマグネシウムハライド及びアリールマグネシウムハライドの少なくとも一方の量は、0.1モル以上3モル以下である請求項1に記載のチオエステル誘導体の製造方法。
【請求項3】
前記式(1)で表されるラクトン誘導体と、前記式(2)で表されるチオールとを混合して得られた第1混合物と、前記アルキルマグネシウムハライド及びアリールマグネシウムハライドの少なくとも一方とを接触させることを含む請求項1又は2に記載のチオエステル誘導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チオエステル誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記式(4)に示すチオエステル誘導体は、例えば、カナグリフロジン等の糖尿病治療薬の合成のための中間体として用い得る(特許文献1)。
【0003】
【0004】
上記式(4)に示すチオエステル誘導体は、例えば、下記式(5)に示すラクトン誘導体を開環させた後、デカンチオールと反応させることにより得られる(特許文献1)。
【0005】
【0006】
このようなラクトン誘導体とチオールとの反応においては、トリメチルアルミニウムが反応剤として用いられている(特許文献1及び非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Tiffany Malinky Gierasch, Zhangjie Shi, and Gregory L. Verdine,“Extensively Stereodiversified Scaffolds for Use in Diversity-Oriented Library Synthesis” ORGANIC LETTERS, 2003, Vol.5, No.5 621-624.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、効率的なチオエステル誘導体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一実施形態によると、チオエステル誘導体の製造方法が提供される。この製造方法は、アルキルマグネシウムハライド及びアリールマグネシウムハライドの少なくとも一方の存在下、下記式(1)で表されるラクトン誘導体と、下記式(2)で表されるチオールとを接触させて、下記式(3)で表されるチオエステル誘導体を得ることを含む。
【0011】
【0012】
上記式(1)において、R1は、-(A)s-(B)t-Cで表される。Aは、ハロゲノ基を有していてもよいアルキレン基である。sは、0又は1である。Bは、O、S又はNHである。tは、0又は1である。Cは、ハロゲノ基を有していてもよいアルキル基、ハロゲノ基を有していてもよいアラルキル基、ハロゲノ基を有していてもよいアリール基、ハロゲノ基を有していてもよいビニル基、又は、酸素、硫黄及び窒素からなる群より選ばれる少なくとも1種をヘテロ原子として含み、ハロゲノ基を有していてもよい複素環基である。R2は、-(D)u-Eで表される。Dは、O、S又はNHである。uは、0又は1である。Eは、ハロゲノ基を有していてもよいアルキル基、ハロゲノ基を有していてもよいアラルキル基、ハロゲノ基を有していてもよいアリール基、又は、酸素、硫黄及び窒素からなる群より選ばれる少なくとも1種をヘテロ原子として含み、ハロゲノ基を有していてもよい複素環基である。nは、1以上6以下である。
【0013】
R3-SH (2)
上記式(2)において、R3は、アルキル基、アラルキル基、又はアリール基である。
【0014】
【0015】
上記式(3)において、R1、R2、及びnは、式(1)のものと同義であり、R3は、式(2)のものと同義である。
【発明の効果】
【0016】
実施形態によると、効率的なチオエステル誘導体の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施形態に係る製造方法は、アルキルマグネシウムハライド及びアリールマグネシウムハライドの少なくとも一方の存在下、上記式(1)で表されるラクトン誘導体(以下、ラクトン誘導体とも称する)と、上記式(2)で表されるチオール(以下、チオールとも称する)とを接触させて、上記式(3)で表されるチオエステル誘導体(以下、チオエステル誘導体とも称する)を得ることを含む。
【0018】
実施形態に係る製造方法では、反応剤として、アルキルマグネシウムハライド及びアリールマグネシウムハライドの少なくとも一方を用いる。それゆえ、安全かつ効率的にチオエステル誘導体を製造できる。すなわち、従来から反応剤として用いられているトリメチルアルミニウムは、発火性が高いため、その取り扱いには注意を要する。アルキルマグネシウムハライド及びアリールマグネシウムハライドは、トリメチルアルミニウムと比較して発火性が低いため、使用環境に比較的注意を払う必要がない。したがって、アルキルマグネシウムハライド及びアリールマグネシウムハライドの少なくとも一方を用いると、トリメチルアルミニウムを用いた場合と比較して、効率的にチオエステル誘導体を製造でき、ひいては、チオエステル誘導体の大量生産を実現できる。
【0019】
以下、実施形態に係る製造方法の詳細を説明する。
(アルキル及びアリールマグネシウムハライド)
アルキルマグネシウムハライド及びアリールマグネシウムハライドは、ラクトン誘導体を開環させた後、チオールと反応させる反応剤として作用する。
【0020】
アルキルマグネシウムハライド及びアリールマグネシウムハライドは、例えば、下記式(6)で表される。
R4MgX (6)
式(6)において、R4は、アルキル基又はアリール基である。アルキル基の炭素数は、1以上4以下であることが好ましい。アリール基の炭素数は、6以上10以下が好ましい。Xは、ハロゲン原子である。ハロゲン原子は、Cl、Br、I又はFであることが好ましく、より好ましくはClである。
【0021】
アルキルマグネシウムハライド及びアリールマグネシウムハライドは、チオール(R3-SH)と反応して、下記式(7)に示すように、炭化水素(R4H)とマグネシウムチオラート(XMgSR3)とを生成すると考えられる。このマグネシウムチオラートがラクトン誘導体と反応することにより、チオエステル誘導体を得られると考えられる。
【0022】
【0023】
アルキルマグネシウムハライドとしては、アルキルマグネシウムブロミド及びアルキルマグネシウムクロリドからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましく、アルキルマグネシウムクロリドを用いることがより好ましい。
【0024】
アルキルマグネシウムブロミドの具体例には、メチルマグネシウムブロミド、エチルマグネシウムブロミド、n-プロピルマグネシウムブロミド、イソプロピルマグネシウムブロミド、n-ブチルマグネシウムブロミド、及びイソブチルマグネシウムブロミドが挙げられる。
【0025】
アルキルマグネシウムクロリドの具体例には、メチルマグネシウムクロリド、エチルマグネシウムクロリド、n-プロピルマグネシウムクロリド、イソプロピルマグネシウムクロリド、n-ブチルマグネシウムクロリド、及びイドブチルマグネシウムクロリドが挙げられる。
【0026】
アリールマグネシウムハライドとしては、アリールマグネシウムブロミド及びアリールマグネシウムクロリドからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましく、アリールマグネシウムクロリドを用いることがより好ましい。
【0027】
アリールマグネシウムブロミドの具体例には、フェニルマグネシウムブロミドが挙げられる。アリールマグネシウムクロリドの具体例には、フェニルマグネシウムクロリドが挙げられる。アルキルマグネシウムハライド及びアリールマグネシウムハライドとしては、上記挙げた具体例のものを単独で用いてもよく、複数種類を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
1モルのラクトン誘導体に対するアルキルマグネシウムハライド及びアリールマグネシウムハライドの少なくとも一方の量は、例えば、0.1モル以上3モル以下であり、好ましくは、1モル以上2モル以下である。
【0029】
また、1モルのチオールに対するアルキルマグネシウムハライド及びアリールマグネシウムハライドの少なくとも一方の量は、例えば、0.1モル以上3モル以下であり、好ましくは、0.5モル以上1.5モル以下である。なお、ここで、アルキルマグネシウムハライド及びアリールマグネシウムハライドの少なくとも一方の量とは、アルキルマグネシウムハライド若しくはアリールマグネシウムハライドの量、あるいは、これらの混合物の合計量を意味する。
【0030】
(ラクトン誘導体)
ラクトン誘導体は、反応の基質となり得る。ラクトン誘導体は、下記式(1)で表される。
【0031】
【0032】
上記式(1)において、R1は、-(A)s-(B)t-Cで表される。
Aは、ハロゲノ基を有していてもよいアルキレン基である。アルキレン基の炭素数は、1以上6以下であり、好ましくは1である。sは、0又は1である。
Bは、O、S又はNHである。Bは、好ましくは、O、すなわち、エーテル結合である。tは、0又は1である。
【0033】
Cは、ハロゲノ基を有していてもよいアルキル基、ハロゲノ基を有していてもよいアラルキル基、ハロゲノ基を有していてもよいアリール基、ハロゲノ基を有していてもよいビニル基、又は、酸素、硫黄及び窒素からなる群より選ばれる少なくとも1種をヘテロ原子として含み、ハロゲノ基を有していてもよい複素環基である。Cは、アラルキル基であることが好ましく、ベンジル基であることがより好ましい。
【0034】
アルキル基の炭素数は、例えば、1以上24以下である。アラルキル基の炭素数は、例えば、7以上32以下である。アリール基の炭素数は、例えば、4以上20以下である。
【0035】
R2は、-(D)u-Eで表される。
Dは、O、S又はNHである。Dは、好ましくは、O、すなわち、エーテル結合である。uは、0又は1である。
【0036】
Eは、ハロゲノ基を有していてもよいアルキル基、ハロゲノ基を有していてもよいアラルキル基、ハロゲノ基を有していてもよいアリール基、又は、酸素、硫黄及び窒素からなる群より選ばれる少なくとも1種をヘテロ原子として含み、ハロゲノ基を有していてもよい複素環基である。Eは、アラルキル基であることが好ましく、ベンジル基であることがより好ましい。
【0037】
アルキル基の炭素数は、例えば、1以上24以下である。アラルキル基の炭素数は、例えば、7以上32以下である。アリール基の炭素数は、例えば、4以上20以下である。
【0038】
nは、1以上6以下である。nは、好ましくは1以上3以下である。すなわち、ラクトン誘導体は、4員環構造、5員環構造、又は6員環構造を有していることが好ましい。nが2以上である場合、R2は、それぞれ異なる構成であってもよく、互いに同一の構成であってもよい。
【0039】
ラクトン誘導体としては、下記式(8)で表されるラクトン誘導体を用いることが好ましい。
【0040】
【0041】
上記式(8)において、C1しては、上記式(1)においてCで挙げた官能基と同様のものを用い得る。E1、E2、及びE3としては、それぞれ、上記式(1)においてEで挙げた官能基と同様のものを用い得る。
【0042】
ラクトン誘導体の具体例としては、上述した下記式(5)で表される化合物である2,3,4,6-テトラ-O-ベンジル-D-グルコノ-1,5-ラクトンが挙げられる。
【0043】
【0044】
ラクトン誘導体としては、市販のものを用いてもよく、公知の方法で合成したものを用いてもよい。以下、上記式(5)に示すラクトン誘導体の製造方法を例に挙げて、ラクトン誘導体の製造方法を説明する。
【0045】
先ず、ラクトン誘導体合成のための原料である水酸基含有ラクトン誘導体を準備する。水酸基含有ラクトン誘導体としては、下記式(10)に示す化合物である2,3,4,6-テトラ-O-ベンジル-D-グルコピラノースを用いる。
【0046】
【0047】
式(10)に示す水酸基含有ラクトン誘導体を有機溶媒に溶解させて、溶液を得る。この溶液に無水酢酸を滴下し、十分に攪拌することにより、上記式(5)に示すラクトン誘導体が生成される。以上の反応は、窒素雰囲気下で行うことが好ましい。
【0048】
(チオール)
チオールは、下記式(2)で表される。
【0049】
R3-SH (2)
式(2)において、R3は、アルキル基、アラルキル基、又はアリール基である。R3は、アルキル基であることが好ましい。アルキル基の炭素数は、1以上20以下であることが好ましい。アラルキル基及びアリール基の炭素数は、7以上31以下であることが好ましい。
【0050】
チオールとしては、例えば、エタンチオール、t-ブチルメルカプタン、チオフェノール、ベンジルメルカプタン、及び1-デカンチオールからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いる。チオールとしては、1-デカンチオールを用いることが好ましい。
【0051】
1モルのラクトン誘導体に対するチオールの量は、例えば、0.1モル以上3モル以下であり、好ましくは、1モル以上2モル以下である。
【0052】
(チオエステル誘導体の製造)
アルキルマグネシウムハライド及びアリールマグネシウムハライドの少なくとも一方の存在下、ラクトン誘導体と、チオールとを接触させることにより、下記式(3)で表されるチオエステル誘導体が得られる。
【0053】
【0054】
上記式(3)において、R1、R2、及びnは、式(1)のものと同義であり、R3は、式(2)のものと同義である。
【0055】
上記式(8)で表されるラクトン誘導体と、式(2)で表されるチオールとを接触させた場合、下記式(9)で表されるチオエステル誘導体が得られる。
【0056】
【0057】
上記式(9)において、C1、E1、E2、及びE3は、式(8)のものと同義であり、R3は、式(2)のものと同義である。
【0058】
上記式(5)で表されるラクトン誘導体とデカンチオールとを接触させた場合、下記式(4)で表されるチオエステル誘導体である2,3,4,6-テトラ-O-ベンジル-1-チオ-D-グルコネートが得られる。この化合物は、糖尿病治療薬の一種であるカナグリフロジン合成のための中間体として用い得る。
【0059】
【0060】
アルキルマグネシウムハライド及びアリールマグネシウムハライドの少なくとも一方の存在下でのラクトン誘導体とチオールとの接触条件は、特に限定されない。接触温度は、例えば、-30℃以上60℃以下とし、好ましくは、-20℃以上40℃以下とし、より好ましくは、-20℃以上10℃以下とする。接触時間(反応時間)は、例えば、1時間以上72時間以下とし、好ましくは、1時間以上24時間以下とし、より好ましくは、1時間以上10時間以下とする。接触環境は、不活性雰囲気下であることが好ましく、窒素雰囲気下であることがより好ましい。
【0061】
アルキルマグネシウムハライド及びアリールマグネシウムハライドの少なくとも一方の存在下でのラクトン誘導体とチオールとの接触は、反応溶媒中で行われることが好ましい。1gのラクトン誘導体に対する反応溶媒の量は、例えば、1mL以上100mL以下であり、好ましくは、5mL以上50mL以下である。
【0062】
反応溶媒としては、例えば、塩化メチレン、クロロベンゼン、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチルテトラヒドロフラン、トルエン、キシレン、メシチレン、ヘキサン、及びヘプタンからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いる。反応溶媒としては、塩化メチレン、THF、及びトルエンからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0063】
アルキルマグネシウムハライド及びアリールマグネシウムハライドの少なくとも一方存在下、ラクトン誘導体とチオールとの接触は、ラクトン誘導体とチオールとを混合して第1混合物を得た後、この第1混合物とアルキルマグネシウムハライド及びアリールマグネシウムハライドの少なくとも一方とを接触させることにより行われることが好ましい。これにより、反応効率をより高められると考えられる。
【0064】
チオエステル誘導体の好ましい製造方法を以下に説明する。
先ず、ラクトン誘導体及びチオールを第1反応溶媒に溶解させて第1混合物を得る。また、アルキルマグネシウムハライド及びアリールマグネシウムハライドの少なくとも一方を、第2反応溶媒に溶解させて、第1溶液を得る。第1及び第2反応溶媒としては、上記の反応溶媒と同種のものを用い得る。第1及び第2反応溶媒は、互いに異なる種類のものを用いてもよく、同一種類であってもよい。
【0065】
次に、第1混合物に所定速度で第1溶液を加えた後、所定温度に保った状態で所定時間にわたって攪拌して、チオエステル誘導体を含む第2混合物を得る。所定速度は、例えば、0.03mL/min以上1mL/min以下とする。所定温度は、例えば、-20℃以上40℃以下とする。所定時間は、例えは、1時間以上10時間以下とする。なお、第1溶液との混合に先立って、第1混合物を上記所定温度まで冷却又は加熱することが好ましい。
【0066】
(チオエステル誘導体の分離方法)
チオエステル誘導体の製造方法において、反応溶媒を用いた場合、生成したチオエステル誘導体及び反応溶媒を含む第2混合物内から、以下の方法でチオエステル誘導体を分離することが好ましい。
【0067】
先ず、第2混合物に酸を混合して、有機層と水層とに分離させる。酸としては、例えば、1質量%以上10質量%以下の濃度の塩酸を用いる。有機層を抽出した後、水層に有機溶媒を加え、有機層と水層とに更に分離させ、再び有機層を抽出する。有機溶媒としては、上記反応溶媒と同様のものを用い得る。この有機溶媒の添加による有機層の分離抽出は、複数回繰り返し行ってもよい。以上の方法で得られた複数の有機層を混合した後、この有機層を洗浄液で洗浄する。洗浄液としては、蒸留水又は食塩水を用い得る。有機槽を蒸留水で洗浄した後、食塩水で更に洗浄してもよい。食塩水の濃度は、例えば、1質量%以上20質量%以下とする。
【0068】
次に、洗浄後の有機層に硫酸ナトリウムを加えて、有機層の脱水処理を行う。脱水処理後の有機層を濾過し、濾液を得る。この濾液を減圧濃縮し、チオエステル誘導体の固形物を得る。以上の方法により、第2混合物からチオエステル誘導体を分離できる。
【0069】
分離したチオエステル誘導体について、例えば、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製処理を行ってもよい。
【0070】
(HPLC測定)
以上の方法で得られたチオエステル誘導体の純度は、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で測定できる。
【0071】
チオエステル誘導体の純度は、チオエステル誘導体について得られたHPLCのクロマトグラムに検出したすべてのピークの面積値の合計に占めるチオエステル誘導体のピークの面積値の割合、すなわち、面積百分率で表せる。なお、このピーク面積値に、溶媒由来のピークは含まない。これと同様の方法で、水酸基含有ラクトン誘導体及びラクトン誘導体の純度を算出できる。
【0072】
また、チオエステル誘導体の反応転化率は、ラクトン誘導体について得られたHPLCのクロマトグラム及びチオエステル誘導体について得られたHPLCのクロマトグラムから算出できる。すなわち、ラクトン誘導体について得られたHPLCのクロマトグラムにおける水酸基含有ラクトン誘導体のピークの面積値A1及びラクトン誘導体のピークの面積値A2の合計面積値(A1+A2)に占める、チオエステル誘導体について得られたHPLCのクロマトグラムにおけるチオエステル誘導体の面積値A3の割合(A3/(A1+A2)×100)を、チオエステル誘導体の反応転化率とし得る。
【0073】
HPLCの測定条件の一例を下記に示す。
機種:ウォーターズコーポレーション製 Waters Alliance(登録商標) e2695
検出器:紫外吸光光度計 Waters 2489
測定波長:254nm
カラム:Kinetex(登録商標) C18、内径4.6mm、長さ25cm(粒子径5μm)(Phenomenex社製)
カラム温度:30℃一定
サンプル温度:25℃一定
移動相A:アセトニトリル
移動相B:ギ酸水溶液(pH=5)
移動相の送液:
0-10分:移動相A 40体積%、移動相B 60体積%
10-30分:移動相A 40体積%から95体積%まで上昇、移動相B 60体積%から5体積%まで低下
30-55分:移動相A 95体積%、移動相B 5体積%
流速:1.0mL/分
測定時間:55分。
【0074】
上記のHPLC条件下において、上記式(10)で表す水酸基含有ラクトン誘導体の保持時間はおよそ27.5分であり、上記式(5)で表すラクトン誘導体の保持時間はおよそ29.0分であり、上記式(4)で表すチオエステル誘導体の保持時間はおよそ38.8分である。
【実施例0075】
以下に実施例を挙げて、本発明を詳細に説明する。実施例は、具体例であって、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0076】
<製造例1>
(ラクトン誘導体の合成)
以下の方法で、上記式(5)に示すラクトン誘導体を合成した。
先ず、窒素雰囲気下、直径9.5cmの二枚攪拌翼を備えた1000mL四つ口フラスコに、15g(27.74mmol)の上記式(10)に表す水酸基含有ラクトン誘導体と、75mLのジメチルスルホキシドとを加え、25℃で30分間にわたって攪拌して反応液を得た。この反応液に45mLの無水酢酸をゆっくりと滴下し、20℃で17時間にわたって撹拌した。攪拌後の反応液に300mLのトルエンを加えた後、360mLの5質量%塩酸をゆっくりと滴下し、反応液を有機層と水層とに分離させた。抽出した有機層を、150mLの5質量%炭酸水素ナトリウム水溶液で3回洗浄した後、蒸留水、10質量%食塩水の順で更に有機層を洗浄した。洗浄後の有機層について、硫酸ナトリウムを用いて脱水処理を行った。脱水処理後の有機層を濾過し、得られた濾液を減圧濃縮して残渣を得た。この残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、14.61gの生成物を得た。
【0077】
この生成物における上記式(5)に示すラクトン誘導体及び上記式(10)に示す水酸基含有ラクトン誘導体のHPLCの面積百分率による純度を、上記の方法で測定したところ、ラクトン誘導体の純度は96.31%であり、水酸基含有ラクトン誘導体のピークは未検出であった。ラクトン誘導体の収率は、97.8%であった。
【0078】
<実施例1>
(チオエステル誘導体の製造)
以下の方法で、式(4)に示すチオエステル誘導体を製造した。
先ず、窒素雰囲気下、2.5cmの攪拌子を備えた50mL四つ口フラスコに、0.36g(2.04mmol)の1-デカンチオール、1g(1.86mmol)の製造例1で得られた式(5)に示すラクトン誘導体、及び10mLのテトラヒドロフランを加え、25℃で10分間にわたって攪拌して、第1混合物を得た。次に、テトラヒドロフランに2.04mmolのイソプロピルマグネシウムクロリドを溶解させて、1.02mLの第1溶液を得た。第1混合物を-10℃にまで冷却した後、これに第1溶液を15分間かけて滴下した。その後、この温度に保った状態で2時間にわたって攪拌して、チオエステル誘導体を含む第2混合物を得た。この第2混合物に含まれるチオエステル誘導体の反応転化率を上記の方法で測定したところ、反応転化率は92.8%であった。
【0079】
第2混合物に15mLの5質量%塩酸をゆっくりと滴下し、第2混合物を有機層と水層とに分離させた。有機層を抽出した後、水層に10mLの酢酸エチルを加え、有機層と水層とに分離させて、有機層を抽出した。この操作をもう一度行い、抽出した有機層をすべて混合した。混合した有機層について、蒸留水、10質量%食塩水の順で洗浄した。洗浄後の有機層を硫酸ナトリウムで脱水処理した。脱水処理後の有機層を濾過して、濾液を得た。この濾液を減圧濃縮して、1.18gの残渣を得た。
【0080】
この残渣における上記式(5)に示すラクトン誘導体及び上記式(4)に示すチオエステル誘導体のHPLCの面積百分率による純度を、上記の方法で測定したところ、ラクトン誘導体の純度は8.33%であり、チオエステル誘導体の純度は87.04%であった。チオエステル誘導体の収率は89.0%であった。
【0081】
次に、この残渣についてシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製処理を行った。精製処理後の残渣について、1H-NMR分光分析を400MHzで行った。溶媒としては重クロロホルム(CDCl3)を用いた。これにより、チオエステル誘導体の構造が上記式(4)に示すものであると確認された。その結果を下記に示す。
【0082】
δ 0.88(t,3H),1.24-1.38(m,14H),1.53-1.60(m,2H),2.75(d,1H),2.85(t,2H),3.52-3.61(m,2H),3.75(dd,1H),3.86-3.91(m,1H),4.07(t,1H),4.37(d,1H),4.45-4.55(m,4H),4.61-4.68(m,3H),4.81(d,1H),7.19-7.21(m,2H),7.24-7.36(m,16H),7.39-7.41(m,2H)。
【0083】
<参考例1>
第2溶液の代わりに、2.04mmolのトリメチルアルミニウムをトルエンに溶解させた溶液を用いたこと以外は、実施例1に記載したのと同様の方法で、チオエステル誘導体を含む第2混合物を得た。この第2混合物に含まれるチオエステル誘導体の反応転化率を上記の方法で測定したところ、反応転化率は91.0%であった。
【0084】
上記実施例1及び参考例1の比較から明らかなように、イソプロピルマグネシウムクロリドを反応剤として用いると、トリメチルアルミニウムを反応剤として用いたときと同等以上の反応転化率を実現できた。