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特開2022-30541ナノ粒子を用いた視認判定可能な簡易分析技術
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022030541
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】ナノ粒子を用いた視認判定可能な簡易分析技術
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6876 20180101AFI20220210BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20220210BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20220210BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20220210BHJP
【FI】
C12Q1/6876 Z ZNA
G01N33/543 581A
G01N33/53 M
G01N33/53 D
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020134630
(22)【出願日】2020-08-07
(71)【出願人】
【識別番号】000156581
【氏名又は名称】日鉄環境株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098121
【弁理士】
【氏名又は名称】間山 世津子
(74)【代理人】
【識別番号】100107870
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 健一
(72)【発明者】
【氏名】蔵田 信也
(72)【発明者】
【氏名】山口 正裕
(72)【発明者】
【氏名】松村 康史
(72)【発明者】
【氏名】榎本 靖
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ79
4B063QR55
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】粒子凝集法を、迅速、高感度、かつ明瞭に検査対象物質の有無を簡便な方法で判定可能な技術に改良すること。
【解決手段】検査対象物質に親和性を有する分子(以下、「親和性分子」)を標識したナノスケールの粒子(以下、「ナノ粒子」)を溶液中で検査対象物質と反応させ、検査対象物質を介した架橋反応によりナノ粒子の凝集体を形成させ、凝集体形成に伴うナノ粒子の沈殿による溶液の濁度低下を測定することにより、検査対象物質の有無を判定することを含む、検査対象物質の検出方法。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物質に親和性を有する分子(以下、「親和性分子」)を標識した平均粒子径が1 nm以上かつ1000 nm未満であるナノスケールの粒子(以下、「ナノ粒子」)を溶液中で検査対象物質と反応させ、検査対象物質を介した架橋反応によりナノ粒子の凝集体を形成させ、凝集体形成に伴うナノ粒子の沈殿による溶液の濁度低下を測定することにより、検査対象物質の有無を判定することを含む、検査対象物質の検出方法。
【請求項2】
ナノ粒子が金属複合ナノ粒子である請求項1記載の方法。
【請求項3】
ナノ粒子の比重が1.2~3.0である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ナノ粒子の色が白よりも明度が低い色である請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
ナノ粒子の色が黒である請求項4記載の方法。
【請求項6】
検査対象物質が特定の遺伝子配列を有する核酸であり、親和性分子が当該核酸に対して相補的な配列を有する核酸プローブである請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
検査対象物質がタンパク質であり、親和性分子が当該タンパク質の抗体、または当該タンパク質に標識された分子に親和性を有する分子である請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
親和性分子を標識したナノ粒子を含む、検査対象物質を検出するためのキットであって、親和性分子を標識したナノ粒子を溶液中で検査対象物質と反応させ、検査対象物質を介した架橋反応によりナノ粒子の凝集体を形成させ、凝集体形成に伴うナノ粒子の沈殿による溶液の濁度低下を測定することにより、検査対象物質の有無を判定する前記キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノスケールの粒子(以下、ナノ粒子)に検査対象物質に対して親和性を有する分子(以下、親和性分子)を標識し(この標識されたナノ粒子を、以下、ナノ粒子プローブとする)、溶液中において、本ナノ粒子プローブと検査対象物質との結合によって発生するナノ粒子の凝集と、それに伴うナノ粒子の沈殿による濁度低下より、検査対象物質の検出を可能とする分析技術(以下、視認分析技術)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
目視にて検査対象物質の存在を特異的に判定できる解析技術としては、金ナノ粒子を使用した方法が開示されている(非特許文献1)。金ナノ粒子は、凝集体を形成すると、共鳴する光の波長が長波長側にシフトし、溶液は赤色から紫色ないし青色へと変化する。この金ナノ粒子の凝集に伴う色調変化を利用して、様々な分子センシングへの展開が試みられている。その中で最も広く使用されている仕組みは、粒子間を検査対象物質が橋渡しをするような形、すなわち架橋反応である。親和性分子を多数固定化した金ナノ粒子が多点で反応し、互いに結合すれば金ナノ粒子が三次元的に網目状につながった集合体が形成されることとなる。特定の分析対象が存在するときのみ凝集と、それに伴う色調変化が起こるので検査対象物質のセンシングが可能となる。
【0003】
検査対象物質が遺伝子の場合、検査対象遺伝子と相補的な配列を有する核酸プローブを標識した金ナノ粒子を親和性分子として使用し、核酸プローブと標的遺伝子とのハイブリダイゼーションによって金ナノ粒子が架橋された結果、金ナノ粒子の凝集と、それに伴う反応液の色調変化が発生し、その変化を視認することによって標的遺伝子の有無を判定する方法が開示されている2)
【0004】
検査対象物質がタンパク質の場合、検査対象タンパクを抗原とする抗体を親和性分子として標識した金ナノ粒子を使用し(非特許文献2)、抗体と抗原の結合によって金ナノ粒子が架橋された結果、金ナノ粒子の凝集と、それに伴う反応液の色調変化が発生し、その変化からタンパク質の有無を判定する方法が開示されている(非特許文献3)。
【0005】
上記の方法における色調変化は、分光光度計を用いた場合には良好な判定が可能であるものの、目視にて確実に判定するほどには大きくないため、検査の精度は判定者の経験や感覚に依存する割合が大きく、十分な検査精度を担保できないという課題を有する。
【0006】
その他の目視にて検査対象物質の存在を特異的に判定できる解析技術としては、微小粒子を使用した方法(以下、粒子凝集法)が挙げられる。微小粒子としては、ラテックスビーズが汎用される。本方法では、金ナノ粒子を用いた方法と同様、粒子表面に親和性分子を修飾し、検査対象物質が橋渡しをする架橋反応によって凝集体を形成させるが、この形成によって、ラテックス粒子が沈殿し、反応液の濁度が著しく低下する。この濁度低下により、目視にて検査対象物質の有無を判定することができる(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Chem Rev. 2012 May 9;112(5):2739-79.
【非特許文献2】Science. 1997 Aug 22;277(5329):1078-81.
【非特許文献3】Clin Biochem. 2004 Jan;37(1):27-35.
【非特許文献4】医用電子と生体工学 1984 年 22 巻 4 号 p. 267-273
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
粒子凝集法において、目視にて正確な判定を行うためには、背景に対して鮮明なコントラストを与え得る必要があるため、粒子自体が着色されていることが望ましい。しかしながら、乳化重合により得られたラテックス粒子は通常白色のため、目視判定が困難であった。この課題を解決する目的で、樹脂に色素を添加することで着色されたラテックス粒子を製造する技術が開示されている(特許3391839)。しかしながら、色素の添加量を一定以上増やした場合、ラテックス粒子より色素が溶出し反応液が着色する可能性があり、また粒子の物理的強度が低下するため、その添加量には限りがあることから、より色調の濃い粒子を製造することは困難であった。
【0009】
一方、粒子凝集法において、検査対象物質が同濃度であり、その結果として凝集体の大きさに差異が生じない場合、比重の小さい粒子を使用するよりも、比重の大きい粒子を使用したほうが、比重の大きい凝集体が形成されることから、より低い検査対象物質濃度にて沈殿が発生するものと推察される。また、比重の大きい凝集体を形成させるほど、凝集体の沈降速度は上昇し、濁度低下が速やかに生じるものと予想される。従って、粒子凝集法では、検査対象物質が存在しない場合、分析が完了するまで分散状態を担保可能な範囲において、使用する粒子の比重は大きいほうが検査対象物質を迅速かつ高感度に検出できると考えられる。しかしながら、現在汎用されるラテックス粒子の比重は、1を若干上回る程度となっていることから、もし、より比重の大きい粒子を粒子凝集法に適用することができれば、同法の高感度化、並びに迅速化に寄与する可能性が想定される。
【0010】
以上を踏まえると、粒子凝集法において、検査対象物質を目視にて判定する場合、求められる粒子の要件としては、(1)粒子の色調が濃いこと、(2)検査対象物質が存在しない場合、分析が完了するまで分散状態を担保できる範囲において比重が大きいこと、の2点が重要であると推察された。
【0011】
以上を踏まえ、本発明において解決しようとする課題は、上記の特性を有する粒子を粒子凝集法に適用することで、同法を、迅速、高感度、かつ明瞭に検査対象物質の有無を簡便な方法で判定可能な技術を改良することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
樹脂粒子に複数の金属粒子が固定化された構造を有するナノスケールの粒子(以下、金属複合ナノ粒子)が開示されている(WO/2016/002742)。本開示技術に記載された金属複合ナノ粒子は、金属粒子の少なくとも一部が、樹脂粒子の表層部において三次元的に分布し、かつ三次元的に分布した金属粒子の一部が部分的に樹脂粒子外に露出しており、残りの一部が樹脂粒子に内包されている。そのため、樹脂粒子への局在型表面プラズモン吸収を発現する金属粒子の担持量が多い。従って、金属複合ナノ粒子は、着色されたラテックス粒子よりも濃い色を呈し、視認性、目視判定性、検出感度に優れた素材である。また、比重の大きい金属粒子が三次元的に保持されていることから、本粒子の比重は1.2~3.0と大きく、凝集反応により、鋭敏かつ短時間に粒子の沈殿が発生する可能性がある。このような特性から、金属複合ナノ粒子は、粒子凝集法に使用する粒子として、好適に適用できる可能性が予想される。しかしながら、上記金属複合ナノ粒子については、粒子凝集法に適用可能な粒子としての検証がこれまでなされておらず、その効果については明かにされていなかった。
【0013】
発明者らは、上記の金属複合ナノ粒子を粒子凝集法に適用し、検査対象物質の有無について目視判定が可能か検証したところ、汎用されるラテックス粒子と比較して、検査対象物質と親和性分子の架橋反応に基づく凝集・沈殿に伴う濁度低下を、明瞭、迅速、かつ高感度に判定可能であることを発見した。本発明は、かかる発見に基づきなされたものである。
【0014】
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)検査対象物質に親和性を有する分子(以下、「親和性分子」)を標識したナノスケールの粒子(以下、「ナノ粒子」)を溶液中で検査対象物質と反応させ、検査対象物質を介した架橋反応によりナノ粒子の凝集体を形成させ、凝集体形成に伴うナノ粒子の沈殿による溶液の濁度低下を測定することにより、検査対象物質の有無を判定することを含む、検査対象物質の検出方法。
(2)ナノ粒子が金属複合ナノ粒子である(1)記載の方法。
(3)ナノ粒子の比重が1.2~3.0である(1)又は(2)に記載の方法。
(4)ナノ粒子の色が白よりも明度が低い色である(1)~(3)のいずれかに記載の方法。
(5)ナノ粒子の色が黒である(4)記載の方法。
(6)検査対象物質が特定の遺伝子配列を有する核酸であり、親和性分子が当該核酸に対して相補的な配列を有する核酸プローブである(1)~(5)のいずれかに記載の方法。
(7)検査対象物質がタンパク質であり、親和性分子が当該タンパク質の抗体、または当該タンパク質に標識された分子に親和性を有する分子である(1)~(5)のいずれかに記載の方法。
(8)親和性分子を標識したナノ粒子を含む、検査対象物質を検出するためのキットであって、親和性分子を標識したナノ粒子を溶液中で検査対象物質と反応させ、検査対象物質を介した架橋反応によりナノ粒子の凝集体を形成させ、凝集体形成に伴うナノ粒子の沈殿による溶液の濁度低下を測定することにより、検査対象物質の有無を判定する前記キット。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、迅速、高感度、かつ明瞭に検査対象物質の有無を目視のような簡便な方法で判定可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】ナノ粒子(ビーズ)を用いたタンパク質検出のスキームを示す。
図2】ナノ粒子(ビーズ)を用いた遺伝子検出のスキームを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の態様について詳細に説明する。
【0018】
本発明は、検査対象物質に親和性を有する分子(以下、「親和性分子」)を標識したナノスケールの粒子(以下、「ナノ粒子」)を溶液中で検査対象物質と反応させ、検査対象物質を介した架橋反応によりナノ粒子の凝集体を形成させ、凝集体形成に伴うナノ粒子の沈殿による溶液の濁度低下を測定することにより、検査対象物質の有無を判定することを含む、検査対象物質の検出方法を提供する。
【0019】
検査対象物質は、腫瘍マーカー、シグナル伝達物質、ホルモン等のタンパク質(ポリペプチド、オリゴペプチド等を含む)、核酸(一本鎖又は二本鎖の、DNA、RNA、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、PNA(ペプチド核酸)等を含む)又は核酸を有する物質、糖(オリゴ糖、多糖類、糖鎖等を含む)又は糖鎖を有する物質、脂質などその他の分子などを例示することができる。核酸は、特定の遺伝子配列を有するものであるとよい。一本鎖DNAとして、ウイルス、逆転写産物(cDNA)などを例示することができ、一本鎖RNAとしては、NASBA法で得られるRNA、リボゾーマルRNAなどを例示することができる。
【0020】
検査対象物質は、生体試料(例えば、全血、血清、血漿、尿、唾液、喀痰、鼻腔又は咽頭拭い液、髄液、羊水、乳頭分泌液、涙、汗、皮膚からの浸出液、組織や細胞及び便からの抽出液等)、その他の試料(例えば、食品の抽出液、土壌、活性汚泥や堆肥からの抽出液、上水、下水、廃水、河川や湖沼の水、海水等)等に含まれるアナライトでありうる。必要に応じて、検査対象物質の検出に先立って、前記試料に含まれるアナライトを前処理してもよい。前処理としては、酸、塩基、界面活性剤等の各種化学薬品等を用いた化学的処理や、加熱・撹拌・超音波等を用いた物理的処理が挙げられる。アナライトが核酸の場合には、核酸増幅を前処理として行ってもよい。また、前記試料は、通常の分析法で用いられる溶媒(水、生理食塩水、又は緩衝液等)や水混和有機溶媒で適宜希釈されていてもよい。
【0021】
本発明において、「親和性」とは、ある物質が他の物質と容易に結合する性質や傾向をいい、検査対象物質に親和性を有する分子としては、検査対象物質がタンパク質である場合は、検査対象タンパク質を抗原とする抗体、検査対象タンパク質に標識された分子(例えば、ビオチン)に親和性を有する分子(例えば、ストレプトアビジン、タマビジン)などを例示することができ、検査対象物質が特定の遺伝子配列を有する核酸である場合は、特定の遺伝子配列と相補的な配列を有する核酸プローブ、特定の分子と特異的に結合し、核酸分子、ペプチドにて構成されるアプタマー、対象とする鋳型分子を取り込んだ状態で高分子を重合させ、鋳型と同じ形と大きさの空隙を形成させて、これを分子認識に利用する分子インプリンティングポリマーなどを例示することができる。
【0022】
核酸プローブは、オリゴデオキシリボヌクレオチドで構成されていてもよいし、オリゴリボヌクレオチドで構成されていてもよい。また、それらの双方が介在しているキメリックオリゴヌクレオチド(chemiric oligonucleodite)でもよい。また、2-O-メチルオリゴリボヌクレオチド(2’-O-Methyl oligoribonucleotides)(oligoribonucleotideの5’末端のヌククレオシド(nucleoside)部がシチジンで、そのシチジンの2’位のOH基がメチル(methyl)基で修飾されているもの)を使用してもよい。又はRNAとの親和性を高めるために、2’-O-メチルオリゴリボヌクレオチドをオリゴデオキシヌクレオチド(oligodeoxynuclueotide)の中に介在させていてもよい。また、安定性と相補鎖への特異性に優れた人工核酸であるLocked Nucleic Acid(LNA)、N-O結合性架橋構造型人工核酸[2’,4’-BNANC]を用いてもよい。核酸プローブの塩基数は5~100であるとよく、好ましくは10~30、特に好ましくは15~25である。100を超える場合は、合成エラーが発生しやすくなり、目的以外の配列を持つプローブが含まれる可能性が高くなり、5未満の場合は、非特異的ハイブリダイゼーションが惹起し易くなり、測定誤差が大きくなる。核酸プローブのオリゴヌクレオチドは、通常の一般的オリゴヌクレオチドの製造方法で製造できる。例えば、化学合成法、プラスミドベクター、ファージベクター等を使用する微生物法等で製造できる(Tetrahedron letters、 22巻、 1859~1862頁、 1981年; Nucleic acids Research、 14巻、6227~6245頁、1986年)。尚、現在、市販されている核酸合成機を使用するのが好適である(例えば、ABI394(Perkin Elmer社製、USA))。
【0023】
ナノスケールの粒子(ナノ粒子)は、粒子径(直径)がナノオーダー(1nm以上かつ1000nm未満)である粒子を含む粒子をいい、ナノ粒子の平均粒子径(直径)は、20~1000nmの範囲内であるとよく、好ましくは、50~700nmの範囲内であり、より好ましくは、100~400nmの範囲内である。平均粒子径は、ディスク遠心式粒度分布測定装置(CPS Disc Centrifuge DC24000 UHR、CPS instruments, Inc.社製)を用いて測定することができる。
ナノ粒子は、従来の着色されたラテックス粒子よりも濃い色を呈し(ナノ粒子における可視光領域(380~750nm)の1粒子あたりの光吸収は、着色ラテックス粒子の3~12倍である。)、また、従来のラテックス粒子よりも比重が大きい(従来のラテックス粒子の比重は1.04程度)ものであるとよく、樹脂粒子に複数の金属粒子が固定化された構造を有するナノスケールの粒子(以下、金属複合ナノ粒子)(例えば、WO/2016/002742)などを例示することができる。
【0024】
金属複合ナノ粒子は、樹脂粒子外に露出した金属粒子と樹脂粒子に内包されている金属粒子を含み、これらの金属粒子の少なくとも一部は、樹脂粒子の表層部において三次元的に分布しているとよい。金属粒子の担持量は金属複合ナノ粒子の重量に対して5wt%~70wt%であるとよい。金属粒子の担持量は、後述の実施例に記載されている。金属粒子の60wt%~100wt%が、樹脂粒子の表層部に存在し、表層部に存在する金属粒子の5wt%~90wt%が樹脂粒子外に露出した部位を有するとよい。樹脂粒子は、金属イオンを吸着することが可能な置換基を構造に有するポリマー粒子であるとよい。ポリマー粒子は、含窒素ポリマー粒子であることが好ましい。含窒素ポリマーは、主鎖または側鎖に窒素原子を有する樹脂であり、ポリ-2-ビニルピリジン、ポリ-3-ビニルピリジン、ポリ-4-ビニルピリジン等のポリアミン、側鎖に窒素原子を有するアクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂などを例示することができる。金属粒子としては、金、白金、パラジウム、銀、ニッケル、銅、これらの金属の合金の粒子などを例示することができ、白金粒子が好ましい。金属粒子の平均粒子径は1~80nmの範囲内であるとよく、好ましくは、1nm以上かつ70nm未満であり、より好ましくは、1nm以上かつ50nm未満である。また、金属複合ナノ粒子の平均粒子径は、1nm以上かつ1000nm未満であるとよく、好ましくは、50nm以上かつ700nm未満であり、より好ましくは、100nm以上かつ400nm未満である。これらの平均粒子径は、ディスク遠心式粒度分布測定装置(CPS Disc Centrifuge DC24000 UHR、CPS instruments, Inc.社製)を用いて測定することができる。上記の金属複合ナノ粒子の製造法は、WO/2016/002742に記載されている。
【0025】
ナノ粒子の比重は1.2~3.0であるとよく、好ましくは、1.3~2.5であり、より好ましくは、1.5~2.1である。金属複合ナノ粒子の比重は、粒子中の金属分を測定し、金属単体の比重及び樹脂単体の比重から算出することができる。また、樹脂は10wt%の金属を含まないラテックス粒子分散液の比重測定を行って算出することができる。
【0026】
ナノ粒子の色は、白よりも明度が低い色であるとよく、好ましくは、黒である。
本発明において、「標識」とは、結合や修飾を包含する概念であり、親和性分子を標識したナノ粒子としては、検査対象物質が特定の遺伝子配列を有する核酸である場合は、特定の遺伝子配列と相補的な配列を有する核酸プローブを結合させたナノ粒子、検査対象物質がタンパク質である場合は、検査対象タンパク質を抗原とする抗体を結合させたナノ粒子、検査対象タンパク質に標識された分子(例えば、ビオチン)に親和性を有する分子(例えば、ストレプトアビジン、タマビジン)を結合させたナノ粒子、検査対象分子に親和性を有するアプタマーを結合させたナノ粒子、検査対象分子に親和性を有する分子インプリンティングポリマーを結合させたナノ粒子などを例示することができる。
【0027】
ナノ粒子への検査対象タンパク質の抗体(糖タンパク質)の標識には、例えば、ポリプロピレンやポリスチレン等のプラスティック表面にタンパク質が吸着する性質を利用し、抗体を標識する方法、ナノ粒子が、金属複合ナノ粒子であり、金属ナノ粒子が金や白金の場合には、タンパク質と金や白金コロイド表層の静電的、疏水的相互作用によるタンパク質の受動吸着を利用し、抗体を修飾する方法、ナノ粒子表面上にカルボキシル基を導入し、本官能基と、抗体に含まれるフリーのアミノ基とのアミド結合によって抗体を共有結合させる方法等が採用される。
【0028】
ナノ粒子を検査対象タンパク質に標識された分子(例えば、アビジン)に親和性を持つ分子(例えば、アビジン、ストレプトアビジン)は、抗体と同様、タンパク質であることから、上記した抗体の標識方法と同様の方法にて標識することが可能である。
ナノ粒子への核酸プローブの標識には、例えば、ナノ粒子の表面を核酸と親和性を有するシリカにて修飾の後、本シリカに核酸プローブを吸着させる方法、ナノ粒子表面のカルボキシル基を介してスクシンイミジル基を導入し、これを核酸プローブに導入したアミノ基と反応させる方法、ナノ粒子表面にアビジン、ストレプトアビジンを修飾し、これらと高い親和性を有するビオチンを導入した核酸プローブを反応させる方法、等が採用される。
【0029】
ナノ粒子に標識する親和性分子の量は、ナノ粒子の平均粒子径、検査対象分子の存在量、測定に要求される感度等に依存するが、一般的には1~1,000分子/粒子であるとよく、好ましくは5~200分子/粒子であり、より好ましくは、10~100分子/粒子である。標識された親和性分子の量は、標識前の親和性分子溶液と、標識後に回収された親和性分子溶液における親和性分子濃度を各々測定し、その差分より求めることができる。
【0030】
親和性分子がタンパク質である場合、総タンパク量の測定法が利用でき、例えば、紫外吸光光度法(タンパク質の紫外部吸収を利用した吸光光度法)、Bradford 法(トリフェニルメタン系色素である Coomassie Brilliant Blueを用いた比色法)、Fluorescamine法(タンパク質中の第一級アミンと速やかに反応すると,青緑色の蛍光を発する誘導体を形成するFluorescamineを用いた蛍光測定方法)を挙げることができる。親和性分子が核酸プローブである場合、例えば、紫外吸光光度法(核酸の紫外部吸収を利用した吸光光度法)、OliGreen法(一本鎖DNAと結合し、緑色の蛍光を発するOliGreenを使用した蛍光測定法)を挙げることができる。
【0031】
親和性分子を標識したナノ粒子は、検査対象物質と反応する前には、溶液中に均一に分散しているとよい(均一溶液系、完全混合系)。親和性分子を標識したナノ粒子が均一に分散している溶液は、例えば、570nmでの吸光度(測定セル光路長:10mm)が、0.5~10であるとよく、好ましくは、1~8あり、より好ましくは、2~6である。
溶液は、純水、精製水、生理食塩水、各種の緩衝液、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類等の水より比重の小さく、水と完全混合可能な溶媒を含む水溶液などの水溶液を例示することができる。
溶液の比重は、0.8~1.2であるとよく、好ましくは、0.9~1.1であり、より好ましくは、0.95~1.05である。
【0032】
溶液中のナノ粒子の濃度は、ナノ粒子と検査対象物質との架橋反応による溶液の濁度低下を測定(例えば、目視)できる濃度であればよく、ナノ粒子、標識物質(親和性分子)及び検査対象物質の種類により異なりうるが、例えば、検査対象物質がタンパク質、糖又は脂質である場合、溶液中のナノ粒子の濃度は、10~1014個/mLであるとよく、好ましくは、1010~1013個/mLであり、より好ましくは、5×1010~5×1012個/mLである。反応は、通常の抗原抗体反応又はタンパク質に標識された分子とそれに親和性を有する分子との反応に適した条件で行うとよく、塩濃度は、0~2.0M濃度であるとよく、好ましくは0.1~1.0mM濃度であり、pHは5~9であるとよく、好ましくは6~8である。反応温度は、10~50℃であるとよく、好ましくは15~30℃であり、反応時間は、1~60分であるとよく、好ましくは、5~20分である。
【0033】
また、検査対象物質が特定の遺伝子配列を有する核酸である場合、溶液中のナノ粒子の濃度は、10~1014個/mLであるとよく、好ましくは、1010~1013個/mLであり、より好ましくは、5×1010~5×1012個/mLである。検査対象物質である核酸と核酸プローブとのハイブリダイゼーションの方法は、通常の既知方法で行なうことができる(Analytical Biochemistry、 183巻、 231~244頁、 1989年; Nature Biotechnology、 14巻、 303~308頁、 1996年; Applied and Environmental Microbiology、 63巻、 1143-1147頁、 1997年)。例えば、ハイブリダイゼーションの条件は、塩濃度が0~2モル濃度、好ましくは0.1~1.0モル濃度、pHは6~8、好ましくは6.5~7.5である。温度は、核酸プローブの解離温度に依存するが、一般的には20~80℃であるとよく、好ましくは40~70℃であり、反応時間は、1~60分であるとよく、好ましくは、5~20分である。(コメントをご参照下さい。)
【0034】
本発明において、親和性分子を標識したナノ粒子を溶液中で検査対象物質と反応させると、検査対象物質を介した架橋反応により、ナノ粒子の凝集体が形成され、それに伴い、ナノ粒子が沈殿し、その結果、溶液の濁度が低下する。
【0035】
検査対象物質が、タンパク質、糖又は脂質であり、親和性分子が検査対象物質に標識された分子(標識分子)に親和性を有する分子である場合には、検査対象物質の1分子を複数の標識分子で標識するとよい。それにより、検査対象物質に標識された分子とナノ粒子に標識された親和性分子との反応が検査対象物質1分子あたり多点で発生し(架橋反応)、ナノ粒子の凝集体が形成される。ナノ粒子の凝集体形成に伴い、ナノ粒子が沈殿し、その結果、溶液の濁度が低下する。検査対象物質であるタンパク質(標的タンパク、例えば、Human CD3 epsilon)に標識された分子と、ナノ粒子に標識された分子との反応が、タンパク質1分子あたり多点で発生し(架橋反応)、ナノ粒子の凝集体が形成され、ナノ粒子が沈降するスキームを図1に示す。図1において、タンパク質はビオチンで標識され、ナノ粒子はタマビジンで標識されている。タマビジンはビオチンに親和性を有する。
検査対象物質が特定の遺伝子配列を有する核酸である場合には、2種類以上の核酸プローブの各々で標識した1種類又は2種類以上のナノ粒子を用いることにより、ナノ粒子と検査対象物質が反応する際には、1分子の検査対象物質を介して2個以上のナノ粒子が架橋され、この架橋は、1個のナノ粒子に対して複数存在することから、ナノ粒子が三次元的に網目状につながった凝集体を形成することとなる。ナノ粒子の凝集体形成に伴い、ナノ粒子が沈殿し、その結果、溶液の濁度が低下する。検査対象物質である特定の遺伝子配列を有する核酸(標的遺伝子)が、ナノ粒子に標識した、標的遺伝子に相補的な核酸プローブ(2種)と反応(ハイブリダイゼーション)し、ナノ粒子が標的遺伝子で架橋され、凝集して沈殿し、溶液の濁度が低下するスキームを図2に示す。図2において、ナノ粒子には、粒子表面のカルボキシル基を介してスクシンイミジル基を導入し、これを核酸プローブに導入したアミノ基と反応させることで、ナノ粒子を核酸プローブで標識している。
【0036】
架橋反応による溶液の濁度低下を測定することにより、検査対象物質の有無を判定することができる。溶液の濁度が低下すれば、検査対象物質が存在すると判定し、溶液の濁度が低下しなければ、検査対象物質が存在しないと判定することができる。溶液の濁度は、架橋反応が起こる前には、500~4,000であるとよく、好ましくは、700~4,000であり、より好ましくは、1,000~4,000であり、架橋反応により、ナノ粒子が沈殿し、濁度が低下した後の溶液の濁度は、1~400であるとよく、好ましくは、1~200であり、より好ましくは、1~50である。溶液の濁度が低下する前と後の濁度の差は、500~4,000であるとよく、好ましくは、700~4,000であり、より好ましくは、1,000~4,000である。溶液の濁度は、試料をよく振りまぜた後、吸収セル(10mm)にとり、波長600nm付近における透過光の強度を見掛けの吸光度にて測定することにより測定することができる。サンプルの濁度は、上記した測定方法にて、濁度標準液を段階希釈した溶液の吸光度を測定し、得られた吸光度と濁度の関係式を検量線として、別途測定したサンプルの吸光度より算出することができる。また、サンプルの吸光度が、検量線の測定範囲から外れた場合は、測定範囲に収まるようサンプルを純水で希釈することで精度よく測定することが可能である。
【0037】
本発明の方法により、検査対象物質の有無を1時間以内に判定することができ、好ましくは、1~60分の範囲内で、より好ましくは、5~20分の範囲内で判定することができる。
【0038】
本発明の方法により検査対象物質の検出可能な濃度の下限は、タンパク質、糖又は脂質の場合、1~100nM、核酸の場合も同様に、1~100nMとなりえる。
【0039】
本発明により、迅速、高感度かつ明瞭に検査対象物質の有無を目視で判定することができる。
【0040】
本発明は、検査対象物質に親和性を有する分子を標識したナノスケールの粒子を含む、検査対象物質を検出するためのキットも提供する。
【0041】
検査対象物質、検査対象物質に親和性を有する分子、検査対象物質に親和性を有する分子を標識したナノスケールの粒子については、前述した。
【0042】
本発明のキットは、検査対象物質に親和性を有する分子を標識したナノスケールの粒子の他、ネガティブコントロール用標準物質、ポジティブコントロール用標準物質、反応容器、分散媒、遺伝子増幅用試薬などを含んでもよい。
【0043】
本発明の方法及びキットは、遺伝子検査(病原菌やウイルスの検出、遺伝子の多型、変異解析など)、免疫学的診断法(抗原又は抗体の検出など)などに利用することができる。
【実施例0044】
次に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。
[実施例1]
内容:ナノ粒子の沈殿によるタンパク質の検出
【0045】
<使用ナノ粒子>
本実施例にて使用したナノ粒子を下表1に示した。ナノ粒子1は、市販のラテックスビーズ(マイクロモッド社製、品番:01-19-202)であり、既にストレプトアビジンにて標識済である。一方、ナノ粒子2は本実施例にて調整したものである。
【0046】
表1 本実施例にて使用したナノ粒子
【0047】
<金属複合ナノ粒子の吸光度測定>
金属複合ナノ粒子の吸光度は、光学用白板ガラス製セル(光路長10mm)に0.01wt%に調製した金属複合ナノ粒子分散液(分散媒:水)を入れ、瞬間マルチ測光システム(大塚電子社製、MCPD-3700)を用いて570nmの吸光度を測定した。
【0048】
<固形分濃度測定及び金属担持量の測定>
磁製るつぼに濃度調整前の分散液1gを入れ、70℃、3時間熱処理を行った。熱処理前後の重量を測定し、下記式により固形分濃度を算出した。
固形分濃度(wt%)=[乾燥後の重量(g)/ 乾燥前の重量(g)]× 100
【0049】
また、上記熱処理後のサンプルを、さらに500℃、5時間加熱処理を行い、加熱処理前後の重量を測定し、下記式より金属担持量を算出した。
金属担持量(wt%)=
[500℃加熱処理後の重量(g)/500℃加熱処理前の重量(g)]×100
【0050】
<金属複合ナノ粒子の平均粒子径の測定>
ディスク遠心式粒度分布測定装置(CPS Disc Centrifuge DC24000 UHR、CPS instruments, Inc.社製)を用いて測定した。測定は、金属複合ナノ粒子を水に分散させた状態で行った。
【0051】
<金属複合ナノ粒子の合成>
Aliquat 336[アルドリッチ社製](5.00g)及びリエチレングリコールメチルエーテルメタクリレートPEGMA、10.00g)を389.5gの純水に溶解した後、2-ビニルピリジン(2-VP、48.00g)及びジビニルベンゼン(DVB、2.00g)を加え、窒素気流下において150rpm、30℃で50分間、次いで60℃で30分間撹拌した。撹拌後、50.00gの純水に溶解した2,2-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(AIBA、0.50g)を2分間かけて滴下し、150rpm、60℃で3.5時間撹拌することで、平均粒子径200nmの樹脂粒子を得た。遠心分離(9000rpm、45分間)により沈殿させ、上澄みを除去した後、純水に再度分散させる操作を3回行った後、透析処理により不純物を除去した。その後、濃度調整を行い10wt%の樹脂粒子分散液を得た。
【0052】
上記樹脂粒子分散液(90ml)に純水245mlを加えた後、400mM塩化白金酸水溶液(90ml)を加え、60rpm、30℃で3時間撹拌後、室温で24時間放置した。その後、遠心分離(3100rpm、30分間)により樹脂粒子を沈殿させ、上澄みを除去する作業を3回繰り返すことで余分な塩化白金酸を除去した。その後、濃度調整を行い、5wt%白金イオン吸着樹脂粒子分散液を調製した。
【0053】
次に、純水3825mlに前記5wt%白金イオン吸着樹脂粒子分散液(55ml)を加え、160rpm、3℃で撹拌しながら、132mMのジメチルアミンボラン水溶液(110ml)を20分間かけて滴下した後、160rpm、3℃で1時間撹拌した。その後160rpm、25℃で3時間撹拌することで、平均粒子径215nmの樹脂-白金(金属)複合体を得た。前記樹脂-白金(金属)複合体を遠心分離(3100rpm、60分間)により沈殿させ、上澄みを除去した後、純水に再度分散させる作業を3回繰り返した後、透析処理により精製することで、不純物を取り除いた。その後、濃度調整を行い1wt%の樹脂-白金(金属)複合体分散液を得た。作製した樹脂-白金(金属)複合体分散液の吸光度は上記方法に従って測定した結果、0.57であった。また、形成した白金粒子の平均粒子径は6nm、白金の担持量は37.1wt%であった。この樹脂-白金(金属)複合体において、白金粒子は、樹脂粒子に完全に内包された内包白金粒子と、樹脂粒子内に埋包された部位及び樹脂粒子外に露出した部位を有する一部露出白金粒子と、樹脂粒子の表面に吸着している表面吸着白金粒子と、を含んでおり、少なくとも一部の白金粒子が、樹脂粒子の表層部において三次元的に分布していた。本実施例では、前記樹脂-白金(金属)複合体を金属複合ナノ粒子として使用した。
【0054】
<金属複合ナノ粒子へのタマビジンの標識>
得られた金属複合ナノ粒子である樹脂-白金(金属)複合体の分散液0.1ml(1.0wt%)に100mMホウ酸緩衝液0.9mlを加えた後、1mg/mlのタマビジン溶液10ml混合し、室温で約3時間攪拌して樹脂-白金(金属)複合体にタマビジン(耐熱性アビジン)を結合させた。終濃度が1%となるように牛血清アルブミン溶液を添加し、室温にて2時間攪拌して樹脂-白金(金属)複合体表面をブロックした。6000rpm、4℃で5分間遠心分離を行って回収し、0.1%牛血清アルブミンを含む緩衝液に懸濁してタマビジン標識樹脂-白金(金属)複合体分散液を作製した。
【0055】
<ナノ粒子を用いた凝集・沈殿条件の確認>
本実施例では、ナノ粒子に標識されたストレプトアビジンまたはタマビジンンとタンパク質に標識されたビオチンとの間の反応によりナノ粒子が架橋され、その結果、ナノ粒子が凝集体を形成するよう設計された実験系を用いた。
【0056】
具体的には、0.2ml PCRチューブに、ストレプトアビジンまたはタマビジンにて表面修飾された0.1wt%ナノ粒子(ラテックスビーズ、または金属複合ナノ粒子)を10μL、10×TE Bufferを2μL、検査対象物質としてビオチン化Human CD3 epsilonタンパク質(アクロバイオシステムズ社製、品番:CDE-H8223)を任意量添加した後、全量が20μLとなるよう滅菌済ミリQ水を添加した。なお、本実施例で使用したビオチン化Human CD3 epsilonタンパク質は、タンパク質1分子当たり複数のビオチンにて標識されていることから、ストレプトアビジンまたはタマビジンとの反応がタンパク質1分子あたり多点で発生し、ナノ粒子が三次元的に網目状につながった凝集体を形成することとなる。
また、ネガティブコントロール実験として、ビオチン化されていないHuman CD3 epsilonタンパク質(アクロバイオシステムズ社製、品番:CDE-H5223)を使用した実験を、検査対象物質を変えた以外、上記のビオチン化Human CD3 epsilonタンパク質を使用した実験と同条件にて実施した。
【0057】
結果は、ナノ粒子沈降に伴う濁度低下の発生した検査対象物質添加量、及び時間より評価した。
【0058】
濁度低下の判定は、濁度100の濁度標準液(関東化学社製、品番:40969-23)を、0.2ml PCRチューブに20μL添加したものを対象とし、目視判定にて、試験サンプルにおける濁度が、上記の対象液よりも低いと判断された場合は、試験サンプルにて濁度が低下したと判定し、上記の対象液よりも高いと判断された場合は、試験サンプルにて濁度が低下しなかった、または濁度低下が不良と判定した。
【0059】
<結果>
ナノ粒子としてラテックスビーズを用いた場合、粒子の沈殿に伴う濁度低下が視認された条件は、検査対象物質添加量が最も大きい反応系(65 ng/tube)において、60分以上反応された条件のみであった。
【0060】
一方、ナノ粒子として金属複合ナノ粒子を用いた場合、粒子沈殿に伴う濁度低下は、検査対象物質を12 ng/tube以上を添加し、10分以上反応させた全ての条件において確認された。また、ビオチン化されていないHuman CD3 epsilonタンパク質を使用したネガティブコントロール実験においては、全ての反応系でナノ粒子沈降に伴う濁度低下は確認されなかったから、本実施例において確認されたナノ粒子沈殿に伴う濁度低下は、ストレプトアビジンまたはタマビジンとタンパク質に標識されたビオチンとの間の結合反応によるナノ粒子の架橋反応に起因するものであることが示された。
【0061】
以上より、金属複合ナノ粒子を粒子凝集法によるタンパク質検出系に適用した場合、一般的に使用されるラテックスビーズを適用した場合と比較して、本法の検出感度向上と、分析時間の短縮が実現できることが示された。
【0062】
表2 粒子凝集法を用いたタンパク質検出における感度、反応時間に及ぼすナノ粒子種の影響
【0063】
[実施例2]
内容:ナノ粒子の沈殿による標的遺伝子の検出
【0064】
<使用オリゴDNA>
本実施例で使用したオリゴDNAを表3として示す。オリゴDNAは、全てつくばオリゴサービス株式会社(茨城県牛久市)に製造委託した。No.3,4のオリゴDNAについては、アミノ基等で末端修飾されており、HPLCにて精製を実施した。それ以外のものは、脱塩を目的としたゲルろ過精製とした。
【0065】
表3使用オリゴDNAの一覧
【0066】
<ナノ粒子へのスクシンイミジル基の導入>
ナノ粒子へのスクシンイミジル基の導入は、以下の工程を実施することで、粒子表面のカルボキシル基を介してスクシンイミジル基を導入した。
2mlマイクロチューブに1wt%の任意のナノ粒子を0.1ml添加し、0.9mlの50mM 2-モルフォリノエタンスルホン酸バッファー(以下、MES)pH6.1を添加し、超音波洗浄機(US-610(エスエヌディー社製))にて10秒程度超音波分散させた。
【0067】
次に、遠心分離により上澄みを除去した後に、1-エチル‐3-(3-ジメチルアミノプロビル)カルボジイミド塩酸塩(以下、EDC)を2mg/mlの濃度で含む50mM MESバッファー(pH6.1)を0.5ml、及びN-ヒドロキシスルホスクシンイミドナトリウム(以下、solfo-NHS)を2mg/mlの濃度で含む50mM MESバッファー(pH6.1)を0.5ml添加し、超音波洗浄機(US-610(エスエヌディー社製))にて10秒程度超音波分散した後に約1時間転倒混和させた。
その後、遠心分離により上澄みを除去した後に、50mM MESバッファー(pH6.1)を1.0ml添加し、超音波洗浄機(US-610(エスエヌディー社製))にて10秒程度超音波分散させた。なお、この工程は更に2回(計3回)繰り返した。
【0068】
<ナノ粒子への核酸プローブの修飾>
ナノ粒子への核酸プローブの修飾は、粒子表面に導入したスクシンイミジル基と核酸プローブに修飾したアミノ基との反応させることで実施した。以下にその詳細を示す。
【0069】
前述の方法で調整した0.1wt%のスクシンイミジル基導入済のナノ粒子を1mlが入った2mlマイクロチューブに、末端にアミノ基導入済みの核酸プローブ(表3に記載のNo.3,4 オリゴDNA)を最終濃度が100nMとなるよう1ml添加し、室温にて2時間反応をさせた。核酸プローブは、1つの反応チューブにつきオリゴDNAを1種類のみ添加・反応させたため、合計4反応(ナノ粒子:2種類×オリゴDNA:2種類)を実施した。
【0070】
その後、遠心分離により上澄みを除去した後に、1mlの停止バッファー(エタノールアミンを終濃度100mM含む50mM MESバッファー(pH6.1))を添加し、10秒程度超音波分散した後に約10分間転倒混和させた。
【0071】
次に、遠心分離により上澄みを除去した後に、1mlのブロッキングバッファー(カゼイン酸ナトリウムを1%含む50mM MESバッファー(pH6.1))を添加し、10秒程度超音波分散した後に約2時間転倒混和させた。
その後、遠心分離により上澄みを除去した後に、TEバッファー(ニッポンジーン社製)を1ml添加し、10秒程度超音波分散した。これを再度(計2回)繰り返し、核酸プローブが標識されたナノ粒子(ナノ粒子プローブ)懸濁液を得た。
【0072】
<ナノ粒子を用いた凝集・沈殿条件の確認>
本実施例では、ナノ粒子に標識された核酸プローブと標的遺伝子との間のハイブリダイゼーションによりビーズが架橋され、その結果、ナノ粒子が凝集体を形成するよう設計された実験系を用いた。
【0073】
具体的には、0.2ml PCRチューブに、異なる核酸プローブにて表面修飾された2種類の0.1wt%ナノ粒子(ラテックスビーズ、または金属複合ナノ粒子)を各5μL、10×TE Bufferを2μL、検査対象物質としてナノ粒子に標識した核酸プローブと相補的な配列を有するNo.1オリゴDNAを任意の終濃度となるよう添加した後、全量が20μLとなるよう滅菌済ミリQ水を添加した。
【0074】
なお、本実施例で標的遺伝子として使用したNo.1オリゴDNAは、異なる2種類の核酸プローブに相補的な配列を1分子あたり各1箇所有しており、ナノ粒子は1種類の異なる核酸プローブにて標識されたものを2種類使用することから、標的遺伝子を介して2つのナノ粒子が架橋される。また、この架橋は、1つのナノ粒子に対して複数存在することから、ナノ粒子が三次元的に網目状につながった凝集体を形成することとなる。
【0075】
上記に加えて、ネガティブコントロール実験として、核酸プローブに対して相補的な配列を持たないNo.2オリゴDNAを非標的遺伝子として使用した実験を、検査対象物質を変えた以外、上記の標的遺伝子を使用した実験と同条件にて実施した。
【0076】
結果は、ナノ粒子沈降に伴う濁度低下の発生した検査対象物質添加量、および時間より評価した。なお、濁度低下の判定方法は、実施例1と同様である。
【0077】
<結果>
ナノ粒子としてラテックスビーズを用いた場合、粒子の沈殿に伴う濁度低下が視認された条件は、標的遺伝子濃度が最も大きい反応系(20,000 nM)において60分以上反応された条件のみであった。
【0078】
一方、ナノ粒子として金属複合ナノ粒子を用いた場合、粒子沈殿に伴う濁度低下は、全ての条件において確認された。なお、非標的遺伝子を使用した場合は、全ての反応系でナノ粒子沈降に伴う濁度低下は確認されなかったことから、本実施例において確認されたナノ粒子沈殿に伴う濁度低下は、標的遺伝子と核酸プローブのハイブリダイゼーションによるナノ粒子の架橋反応に起因するものであることが示された。
【0079】
以上より、金属複合ナノ粒子を粒子凝集法による遺伝子検出系に適用した場合、タンパク質を検査対象物質とした場合と同様、一般的に使用されるラテックスビーズを適用した場合と比較して、本法の検出感度向上と、分析時間の短縮が実現できることが示された。
【0080】
表4 粒子凝集法を用いた標的遺伝子検出における感度、反応時間に及ぼすナノ粒子種の影響
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、検査対象物質の存在を特異的に判定できる解析技術として利用できる。
【配列表フリーテキスト】
【0082】
<配列番号1~4>実施例2で使用したオリゴDNAの塩基配列を示す。
図1
図2
【配列表】
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