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特開2022-30885セルロース/磁性体複合体粒子及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022030885
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】セルロース/磁性体複合体粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/12 20060101AFI20220210BHJP
   C08J 9/26 20060101ALI20220210BHJP
   B01J 20/22 20060101ALI20220210BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20220210BHJP
   B03C 1/00 20060101ALI20220210BHJP
   B03C 1/01 20060101ALI20220210BHJP
   B03C 1/02 20060101ALI20220210BHJP
【FI】
C08J3/12 101
C08J3/12 CEP
C08J3/12 CEY
C08J9/26 102
B01J20/22 B
B01J20/30
B03C1/00 A
B03C1/01
B03C1/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020135197
(22)【出願日】2020-08-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り http://www3.scej.org/meeting/stu22w/prog/room_M1.html(第22回化学工学会学生発表会(岡山大会)講演プログラムにおいてタイトルを公開(講演番号:M22))。掲載日:令和2年1月15日 〔刊行物等〕 http://www3.scej.org/meeting/stu22w/abst/M22.pdf(第22回化学工学会学生発表会(岡山大会)発表要旨において要旨を公開(講演番号:M22))。掲載日:令和2年2月17日 〔刊行物等〕 http://www3.scej.org/meeting/51f/appl/serial_1.html(化学工学会第51回秋季大会の講演申し込み一覧においてタイトルを公開(受理番号89)。掲載日:令和2年6月3日
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【弁理士】
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100189393
【弁理士】
【氏名又は名称】前澤 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100203091
【弁理士】
【氏名又は名称】水鳥 正裕
(72)【発明者】
【氏名】荻 崇
(72)【発明者】
【氏名】北村 武大
(72)【発明者】
【氏名】後居 洋介
(72)【発明者】
【氏名】森田 祐子
【テーマコード(参考)】
4F070
4F074
4G066
【Fターム(参考)】
4F070AA02
4F070AA32
4F070AC12
4F070AC15
4F070AE28
4F070AE30
4F070DA34
4F070DB10
4F070DC03
4F070DC07
4F070DC15
4F074AA02
4F074AA48
4F074AC17
4F074AG20
4F074CB03
4F074CB17
4F074CB28
4F074CC22X
4F074CC27Y
4F074CC28Z
4F074CC29Z
4F074DA03
4F074DA24
4F074DA59
4G066AA80D
4G066AC02B
4G066BA09
4G066BA20
4G066BA23
4G066CA54
4G066DA07
4G066FA26
4G066FA38
4G066FA40
(57)【要約】
【課題】セルロースナノファイバーからなるセルロース粒子の収集性を向上する。
【解決手段】セルロースナノファイバーにより形成された粒子であって、磁性体粒子を含む、セルロース/磁性体複合体粒子である。該セルロース/磁性体複合体粒子は、テンプレート粒子の除去跡である複数の穴を粒子表面に備えてもよい。該セルロース/磁性体複合体粒子は吸着剤として用いることができる。該セルロース/磁性体複合体粒子は、セルロースナノファイバーと磁性体粒子を含む分散液を噴霧乾燥することにより製造することができる。該セルロース/磁性体複合体粒子は、当該粒子が分散した液体から磁石を用いて収集することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースナノファイバーにより形成された粒子であって、磁性体粒子を含む、セルロース/磁性体複合体粒子。
【請求項2】
テンプレート粒子の除去跡である複数の穴を粒子表面に備える、請求項1に記載のセルロース/磁性体複合体粒子。
【請求項3】
前記セルロース/磁性体複合体粒子の平均粒径が1~30μmであり、前記穴の平均孔径が前記セルロース/磁性体複合体粒子の平均粒径の1/200~1/5である、請求項2に記載のセルロース/磁性体複合体粒子。
【請求項4】
前記セルロースナノファイバーがアニオン性官能基を持つ、請求項1~3のいずれか1項に記載のセルロース/磁性体複合体粒子。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項のセルロース/磁性体複合体粒子を含む吸着剤。
【請求項6】
セルロースナノファイバーと磁性体粒子を含む分散液を噴霧乾燥することを含む、セルロース/磁性体複合体粒子の製造方法。
【請求項7】
噴霧乾燥する前記分散液が前記セルロースナノファイバー及び前記磁性体粒子とともにテンプレート粒子を含み、噴霧乾燥により前記セルロースナノファイバーと前記磁性体粒子と前記テンプレート粒子が複合化されたセルロース/磁性体/テンプレート複合体粒子を得ること、及び、得られたセルロース/磁性体/テンプレート複合体粒子に含まれる前記テンプレート粒子を有機溶剤で溶解させること、を含む、請求項6に記載のセルロース/磁性体複合体粒子の製造方法。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか1項に記載のセルロース/磁性体複合体粒子が分散した液体から磁石を用いて前記セルロース/磁性体複合体粒子を収集する収集方法。
【請求項9】
請求項1~4のいずれか1項に記載のセルロース/磁性体複合体粒子が分散した液体中で前記セルロース/磁性体複合体粒子に生理活性物質を吸着させ、前記液体から磁石を用いて前記生理活性物質を吸着した前記セルロース/磁性体複合体粒子を収集する、セルロース/磁性体複合体粒子の収集方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースナノファイバーと磁性体粒子とを複合化してなるセルロース/磁性体複合体粒子、及びその製造方法、並びに、該セルロース/磁性体複合体粒子を収集する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースナノファイバーの生化学分野での研究や応用として、タンパク質などの生理活性物質とTEMPO酸化セルロースナノファイバー(TOCN)との相互作用による吸着の検討事例が報告されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6159737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
セルロースナノファイバーは、例えば乾燥粉体として用いる際に、単に静置乾燥するだけでは凝集しやすく、吸着剤としての性能が低下してしまう。そのため、セルロースナノファイバーの分散液を噴霧乾燥することで、例えばマイクロサイズの粒子に形成することが考えられる。しかしながら、セルロースナノファイバーからなるセルロース粒子は分散液中から収集しにくいため、収集性を向上することが求められる。
【0005】
本発明の実施形態は、セルロースナノファイバーからなるセルロース粒子の収集性を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下に示される実施形態を含む。
[1] セルロースナノファイバーにより形成された粒子であって、磁性体粒子を含む、セルロース/磁性体複合体粒子。
[2] テンプレート粒子の除去跡である複数の穴を粒子表面に備える、[1]に記載のセルロース/磁性体複合体粒子。
[3] 前記セルロース/磁性体複合体粒子の平均粒径が1~30μmであり、前記穴の平均孔径が前記セルロース/磁性体複合体粒子の平均粒径の1/200~1/5である、[2]に記載のセルロース/磁性体複合体粒子。
[4] 前記セルロースナノファイバーがアニオン性官能基を持つ、[1]~[3]のいずれか1項に記載のセルロース/磁性体複合体粒子。
[5] [1]~[4]のいずれか1項のセルロース/磁性体複合体粒子を含む吸着剤。
[6] セルロースナノファイバーと磁性体粒子を含む分散液を噴霧乾燥することを含む、セルロース/磁性体複合体粒子の製造方法。
[7] 噴霧乾燥する前記分散液が前記セルロースナノファイバー及び前記磁性体粒子とともにテンプレート粒子を含み、噴霧乾燥により前記セルロースナノファイバーと前記磁性体粒子と前記テンプレート粒子が複合化されたセルロース/磁性体/テンプレート複合体粒子を得ること、及び、得られたセルロース/磁性体/テンプレート複合体粒子に含まれる前記テンプレート粒子を有機溶剤で溶解させること、を含む、[6]に記載のセルロース/磁性体複合体粒子の製造方法。
[8] [1]~[4]のいずれか1項に記載のセルロース/磁性体複合体粒子が分散した液体から磁石を用いて前記セルロース/磁性体複合体粒子を収集する収集方法。
[9] [1]~[4]のいずれか1項に記載のセルロース/磁性体複合体粒子が分散した液体中で前記セルロース/磁性体複合体粒子に生理活性物質を吸着させ、前記液体から磁石を用いて前記生理活性物質を吸着した前記セルロース/磁性体複合体粒子を収集する、セルロース/磁性体複合体粒子の収集方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施形態であると、セルロースナノファイバーからなるセルロース粒子に磁性体粒子を含ませてセルロース/磁性体複合体粒子としたことにより、磁石を用いて当該粒子を分散液中から収集することができ、収集性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】(A)セルロース/磁性体/テンプレート複合体粒子の概念図。(B)テンプレート粒子の除去跡の穴を有するセルロース/磁性体複合体粒子の概念図。
図2】セルロース/磁性体複合体粒子の収集方法を示す概念図。
図3】第1実験例におけるセルロース/磁性体複合体粒子のSEM画像。
図4】(A)参考例1のPMMA粒子とセルロースナノフィバーとの複合体粒子(PMMA/TOCN=1/1)のSEM画像。(B)参考例1のPMMA粒子溶解除去後の多孔性セルロース粒子のSEM画像。
図5】参考例1の多孔性セルロース粒子、そのトルエン処理前の複合体粒子、比較例1のセルロース粒子及びPMMA粒子についてのFT-IRの測定結果を示すグラフ。
図6】参考例2~4のPMMA粒子とセルロースナノフィバーとの複合体粒子及びそれらのPMMA粒子溶解除去後の多孔性セルロース粒子のSEM画像。
図7】(A)実施例5のPMMA粒子とセルロースナノファイバーと磁性体粒子との複合体粒子(TOCN/Fe/PMMA=1/1/4)のSEM画像。(B)実施例5のPMMA粒子溶解除去後のセルロース/磁性体複合体粒子。(C)その一部拡大画像。
図8】(A)実施例6のPMMA粒子溶解除去後のセルロース/磁性体複合体粒子(TOCN/Fe/PMMA=1/2/4)のSEM画像。(B)その一部拡大画像。
図9】セルロース/磁性体複合体粒子についてのリゾチームの吸着容量を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態に係るセルロース/磁性体複合体粒子は、セルロースナノファイバーにより形成された粒子であって、磁性体粒子を含むものである。
【0010】
セルロースナノファイバーとしては、下記(a)~(c)を満たすものを用いることが好ましい。
(a)数平均繊維径が3nm以上100nm以下であること。
(b)セルロースI型結晶構造を有すること。
(c)平均アスペクト比が2以上5000以下であること。
【0011】
上記(a)の数平均繊維径は、より好ましくは50nm以下であり、更に好ましくは30nm以下であり、10nm以下でもよい。数平均繊維径は、次のようにして測定することができる。
【0012】
すなわち、固形分率で0.05~0.1質量%のセルロースナノファイバーの水分散体を調製し、その水分散体を、親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストして、透過型電子顕微鏡(TEM)の観察用試料とする。なお、大きな繊維径の繊維を含む場合には、ガラス上へキャストした表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を観察してもよい。また、観察用試料は、例えば2質量%ウラニルアセテートでネガティブ染色してもよい。そして、構成する繊維の大きさに応じて5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。その際に、得られた画像内に縦横任意の画像幅の軸を想定し、その軸に対し、20本以上の繊維が交差するよう、試料および観察条件(倍率等)を調節する。そして、この条件を満たす観察画像を得た後、この画像に対し、1枚の画像当たり縦横2本ずつの無作為な軸を引き、軸に交錯する繊維の繊維径を目視で読み取っていく。このようにして、最低3枚の重複しない表面部分の画像を、電子顕微鏡で撮影し、各々2つの軸に交錯する繊維の繊維径の値を読み取る(したがって、最低20本×2×3=120本の繊維径の情報が得られる)。このようにして得られた繊維径の相加平均を数平均繊維径とする。
【0013】
上記(b)のセルロースI型結晶構造を有することは、広角X線回折像測定により得られる回折プロファイルにおいて、2θ=14°~17°付近と、2θ=22°~23°付近の2つの位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
【0014】
上記(c)の平均アスペクト比は、より好ましくは50以上であり、更に好ましくは100以上であり、200以上でもよい。平均アスペクト比は、より好ましくは1000以下であり、500以下でもよい。平均アスペクト比は、次のようにして測定することができる。
【0015】
すなわち、先に述べた方法に従い数平均繊維径を算出する。また、同様の観察画像からセルロースナノファイバーの数平均繊維長を算出する。詳細には、繊維の始点から終点までの長さ(繊維長)を最低10本目視で読み取る。なお、枝分かれしている繊維については、その繊維の最も長い部分の長さを繊維長とする。このようにして得られた繊維長の相加平均を算出し、数平均繊維長とする。これらの値を用いて平均アスペクト比を下記式に従い算出する。
平均アスペクト比=数平均繊維長(nm)/数平均繊維径(nm)
【0016】
セルロースナノファイバーとしては、アニオン性官能基を持つものが好ましく用いられる。アニオン性官能基を持つことにより、液中で負の電位を持つため、正の電位を持つ吸着質に対して有利な吸着性能を発揮することができる。
【0017】
アニオン性官能基としては、例えば、カルボキシ基、リン酸基、スルホン酸基、硝酸基、ホウ酸基、及び硫酸基からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。本明細書において、カルボキシ基は、酸型(-COOH)だけでなく、塩型、即ちカルボン酸塩基(-COOX、ここでXはカルボン酸と塩を形成する陽イオン)も含む概念であり、酸型と塩型が混在してもよい。リン酸基、スルホン酸基、硝酸基、ホウ酸基、及び硫酸基についても、同様に、酸型だけでなく、塩型も含む概念であり、酸型と塩型が混在してもよい。塩としては、特に限定されず、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、ホスホニウム塩等のオニウム塩、1級アミン、2級アミン、3級アミン等のアミン塩等が挙げられる。
【0018】
セルロースナノファイバーにおけるアニオン性官能基の量は、特に限定されず、例えば、セルロースナノファイバーの乾燥質量あたり、0.5~3.0mmol/gでもよく、1.5~2.0mmol/gでもよい。アニオン性官能基の量は、例えば、カルボキシ基の場合、0.1~1質量%の濃度に調製したセルロースナノファイバー含有スラリーを60mL調製し、0.1mol/Lの塩酸水溶液によってpHを約2.5とした後、0.05mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、電気伝導度測定を行い、pHが約11になるまで続け、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(V)から、下記式に従い求めることができる。リン酸基についても、同様の電気伝導度測定により測定することができる。その他のアニオン基についても公知の方法で測定すればよい。
アニオン性官能基量(mmol/g)=V(mL)×〔0.05/セルロースナノファイバー質量(g)〕
【0019】
一実施形態において、セルロースナノファイバーとしては、アニオン性官能基としてカルボキシ基を有することが好ましい。カルボキシ基を含有するセルロースナノファイバーとしては、例えば、セルロース分子中のグルコースユニットの水酸基を酸化してなる酸化セルロースナノファイバーや、セルロース分子中のグルコースユニットの水酸基をカルボキシメチル化してなるカルボキシメチル化セルロースナノファイバーが挙げられる。
【0020】
酸化セルロースナノファイバーとしては、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されてカルボキシ基に変性されたものが挙げられる。該酸化セルロースナノファイバーは、木材パルプなどの天然セルロースをN-オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いて酸化させ、解繊(微細化)処理することにより得られる。N-オキシル化合物としては、一般に酸化触媒として用いられるニトロキシラジカルを有する化合物が用いられ、例えばピペリジンニトロキシオキシラジカルであり、特に2,2,6,6-テトラメチルピペリジノオキシラジカル(TEMPO)または4-アセトアミド-TEMPOが好ましい。TEMPOで酸化されたセルロースナノファイバーは、一般にTEMPO酸化セルロースナノファイバー(TOCN)と称されている。なお、酸化セルロースナノファイバーは、カルボキシ基とともに、アルデヒド基又はケトン基を有していてもよい。
【0021】
セルロースナノファイバーは、解繊処理を行うことにより得てもよい。解繊処理は、アニオン性官能基を導入してから実施してもよく、導入前に実施してもよい。解繊処理は、例えば、高速回転下でのホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波分散処理機、ビーター、ディスク型レファイナー、コニカル型レファイナー、ダブルディスク型レファイナー、グラインダー等を用いて、セルロース繊維の分散液を処理することにより行うことができ、セルロースナノファイバーの分散液を得ることができる。
【0022】
実施形態に係るセルロース/磁性体複合体粒子は、セルロースナノファイバーからなるセルロース粒子に磁性体粒子を複合化させたものである。磁性体粒子は、セルロースナノファイバーに分散した状態に複合一体化されており、セルロースナノファイバーからなるセルロース粒子の粒子表面に付着していてもよく、内部に埋設されていてもよい。
【0023】
磁性体粒子としては、磁石により吸引されることが可能な強磁性体からなる粒子であれば特に限定されず、Fe、γ-Feなどの酸化鉄などの金属酸化物、鉄、マンガン、ニッケル、コバルト、クロムなどの金属またはこれらの合金、各種フェライトなどの金属塩、フェライト型あるいはマルテンサイト型ステンレス、アモルファス合金、シリコン鉄軟磁性結晶などの粒子が挙げられ、これらはいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0024】
磁性体粒子の平均粒径は、特に限定されない。通常は、後述するテンプレート粒子の平均粒径やその除去跡である穴の平均孔径よりも小さく、例えば1~200nmでもよく、10~120nmでもよい。
【0025】
セルロースナノファイバーと磁性体粒子との比率は、特に限定されないが、磁性体粒子(M)に対するセルロースナノファイバー(C)の質量比C/Mで0.1~10でもよく、0.5~5でもよく、0.8~3でもよい。
【0026】
実施形態に係るセルロース/磁性体複合体粒子は、テンプレート粒子の除去跡である複数の穴を粒子表面に備えることが好ましい。除去跡の穴は、樹脂製のテンプレート粒子を有機溶剤で溶解除去することにより形成される穴であり、セルロースナノファイバーの分散液を単に噴霧乾燥して得られるセルロース粒子における粒子表面の凹凸や隙間などによる穴とは明確に区別可能である。テンプレート粒子を用いることにより、その粒径に応じた孔径を持つ穴を形成することができる。そのため、セルロース/磁性体複合体粒子の表面に所望の孔径を持つ穴を形成してポーラス化することができるため、表面積を増大させた多孔性粒子を容易に得ることができる。
【0027】
上記除去跡の穴は、例えば吸着剤として用いる場合の吸着効果を高めるために粒子表面に設けられることが好ましく、粒子表面とともに粒子内部に設けられてもよい。
【0028】
穴の形状はテンプレート粒子の形状に対応した形状となる。テンプレート粒子として球状の粒子を用いる場合、その除去跡である穴は、セルロース/磁性体複合体粒子の粒子表面では部分球状、粒子内部では球状となる。そのため、球状のテンプレート粒子を用いる場合、セルロース/磁性体複合体粒子はその粒子表面に部分球状の穴を持つ。ここで、部分球状とは、球の一部を欠く形状のことである。但し、テンプレート粒子を溶解除去した後の処理によりセルロース/磁性体複合体粒子に歪みが生じることで除去跡の穴が変形する場合もあるため、上記の球状や部分球状は必ずしも厳密に球面又は部分球面を有する必要はなく、溶解除去後に歪んだ形状も含まれる。
【0029】
実施形態に係るセルロース/磁性体複合体粒子は、取り扱い性の観点からマイクロサイズであることが好ましい。より詳細には、セルロース/磁性体複合体粒子の平均粒径は、1~30μmであることが好ましく、より好ましくは2~20μmであり、更に好ましくは3~15μmである。
【0030】
セルロース/磁性体複合体粒子に上記穴を形成する場合、穴の平均孔径は特に限定されないが、セルロース/磁性体複合体粒子の平均粒径の1/200~1/5であることが好ましく、より好ましくは1/100~1/10である。例えば、上記穴の平均孔径は、100~1000nmでもよく、200~700nmでもよい。ここで、上記穴の平均孔径とは、粒子表面での孔径(開口径)の平均値である。
【0031】
セルロース/磁性体複合体粒子の粒子表面に形成される上記穴の面積比率(穴比率)は、特に限定されず、粒子の表面積に対する穴の開口面積の割合として5~75%でもよく、10~60%でもよい。
【0032】
セルロース/磁性体複合体粒子の窒素吸着比表面積(BET法)は、特に限定されないが、1~50m/gであることが好ましく、より好ましくは5~40m/gであり、10~30m/gでもよい。
【0033】
セルロース/磁性体複合体粒子のゼータ(ζ)電位は、特に限定されない。セルロースナノファイバーがアニオン性官能基を持つ場合、セルロース/磁性体複合体粒子は負のゼータ電位を持ち、その粒子表面にカチオン性有機化合物を静電的引力により吸着させることができる。ここで、ゼータ電位とは、電気二重層のすべり面での電位のことであり、界面動電位とも称される。セルロース/磁性体複合体粒子の純水中におけるゼータ電位は、例えば-100~-10mVでもよく、-70~-30mVでもよい。
【0034】
本実施形態に係るセルロース/磁性体複合体粒子は、セルロースナノファイバーと磁性体粒子により形成されるものであり、セルロースナノファイバーと磁性体粒子のみで構成されてもよいが、その他の成分を含有してもよい。例えば、テンプレート粒子が完全に溶解除去されずに残存している場合、テンプレート粒子を構成する樹脂を他の成分として含んでもよい。
【0035】
本実施形態に係るセルロース/磁性体複合体粒子は、セルロースナノファイバーと磁性体粒子を含む分散液を噴霧乾燥することにより製造することができる。噴霧乾燥することにより、セルロースナノファイバーを凝集させることなく乾燥粉体を得ることができ、セルロースナノファイバーと磁性体粒子を複合化することができる。
【0036】
噴霧乾燥に用いる分散液は、例えば溶媒として水を用いて、当該溶媒にセルロースナノファイバーと磁性体粒子を均一に混合分散させることにより調製される。分散液におけるセルロースナノファイバーの濃度は、噴霧乾燥によりセルロース粒子を形成することができれば特に限定されず、例えば、0.01~5質量%でもよく、0.05~1質量%でもよい。磁性体粒子の濃度も特に限定されず、例えば、0.01~50質量%でもよく、0.1~10質量%でもよい。
【0037】
分散液におけるセルロースナノファイバーと磁性体粒子との比率は、セルロース/磁性体複合体粒子での比率と同様、磁性体粒子(M)に対するセルロースナノファイバー(C)の質量比C/Mで0.1~10でもよく、0.5~5でもよく、0.8~3でもよい。
【0038】
噴霧乾燥は、分散液を気体中に噴霧して急速に乾燥させることで、乾燥粉体を作製する方法であり、公知の噴霧乾燥機を用いて行うことができる。噴霧乾燥における乾燥温度は、特に限定されず、例えば150~200℃でもよい。
【0039】
一実施形態において、粒子表面に上記除去跡の穴を持つセルロース/磁性体複合体多孔性粒子を製造する場合、その製造方法は以下の工程を含む。
(工程1)セルロースナノファイバーと磁性体粒子とテンプレート粒子を含む分散液を噴霧乾燥する工程、及び、
(工程2)噴霧乾燥により得られたセルロース/磁性体/テンプレート複合体粒子に含まれるテンプレート粒子を有機溶剤で溶解させる工程。
【0040】
この例では、噴霧乾燥する分散液がセルロースナノファイバー及び磁性体粒子とともにテンプレート粒子を含むことを特徴とする。テンプレート粒子とは、セルロースナノファイバーからなるセルロース粒子に穴を設けて多孔性粒子とするための型となる粒子であり、セルロースナノファイバーとともに複合化された後、有機溶剤や酸やアルカリなどにより溶解除去可能な樹脂粒子であれば、特に限定なく用いることができる。テンプレート粒子としては、有機材料または無機材料ともに用いることができる。有機材料としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸メチルなどのアクリル樹脂、ポリスチレンなどのスチレン樹脂、ポリビニルアルコールなどのビニル樹脂、ポリエステル樹脂などの樹脂粒子が挙げられる。無機材料としては、例えば、酸で溶解する炭酸カルシウムなどを用いることができ、アルカリで溶解するSiOなどを用いることができる。これらはいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0041】
テンプレート粒子の平均粒径は、特に限定されないが、100~1000nmであることが好ましく、より好ましくは200~800nmであり、300~700nmでもよい。
【0042】
工程1で調製する分散液において、セルロースナノファイバー及び磁性体粒子の濃度は上記のとおりである。テンプレート粒子の濃度は特に限定されず、例えば、0.01~20質量%でもよく、0.1~10質量%でもよい。
【0043】
該分散液において、セルロースナノファイバーとテンプレート粒子との比率は、特に限定されないが、セルロースナノファイバー(C)に対するテンプレート粒子(T)の質量比T/Cで0.5~10でもよく、1~6でもよい。
【0044】
工程1では噴霧乾燥によりセルロースナノファイバーと磁性体粒子とテンプレート粒子が複合化されたセルロース/磁性体/テンプレート複合体粒子が得られる。噴霧乾燥により得られるセルロース/磁性体/テンプレート複合体粒子は、図1(A)にその概念図を示すように、セルロースナノファイバーをマトリックスとして、該マトリックスに複数のテンプレート粒子と磁性体粒子が分散した状態に複合一体化される。
【0045】
該セルロース/磁性体/テンプレート複合体粒子において、セルロースナノファイバー(C)と磁性体粒子(M)の質量比C/Mは、上記のとおり0.1~10でもよく、0.5~5でもよく、0.8~3でもよい。テンプレート粒子(T)とセルロースナノファイバー(C)の質量比T/Cは、上記分散液と同様、0.5~10でもよく、1~6でもよい。セルロース/磁性体/テンプレート複合体粒子には、これら3成分以外の任意成分が含まれてもよい。
【0046】
工程2では、上記で得られたセルロース/磁性体/テンプレート複合体粒子を有機溶剤で処理し、当該複合体粒子に含まれるテンプレート粒子を溶解除去する。有機溶剤としては、セルロースナノファイバーを溶解させることなく、テンプレート粒子を溶解可能であれば、特に限定されず、テンプレート粒子を構成する樹脂の種類にもよるが、例えば、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、アルコール、N,N-ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。酸としては、例えば、塩酸、硫酸などが挙げられる。アルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液などが挙げられる。
【0047】
有機溶剤で処理してテンプレート粒子を溶解除去した後、有機溶剤から分離し乾燥してもよく、これによりセルロース/磁性体複合体多孔性粒子が得られる。図1(B)はセルロース/磁性体複合体多孔性粒子の概念図であり、セルロースナノファイバーからなる粒子には磁性体粒子が複合化されるとともに、当該粒子表面にテンプレート粒子の除去跡である複数の穴が設けられている。
【0048】
実施形態に係るセルロース/磁性体複合体粒子は、例えば、タンパク質などの生理活性物質用の吸着剤や担体として用いることができる。より詳細には、生理活性物質用吸着剤として、例えばタンパク質などの生理活性物質の精製、分離を行うことができ、また、カラムクロマトグラフィーの充填剤として生理活性物質の精製に利用できる。また、酵素などを担持して反応などを行うための担体として用いてもよい。なお、セルロースナノファイバーとしてアニオン性官能基を持つものを用いた場合には、等電点が7よりも大きい生理活性物質用の吸着剤として好適に用いられる。
【0049】
生理活性物質としては、特に限定されず、例えば、タンパク質、ホルモン、核酸(DNA、RNA)、糖、糖鎖、ビタミン、ペプチドなどが挙げられる。タンパク質としては、例えば、酵素、抗体、レセプターなどが挙げられる。
【0050】
実施形態に係る収集方法は、上記セルロース/磁性体複合体粒子が分散した液体から磁石を用いてセルロース/磁性体複合体粒子を収集(回収)する方法である。
【0051】
図2はセルロース/磁性体複合体粒子の収集方法の概念図である。図2(A)に示すように、水(緩衝液などの水溶液を含む。)や有機溶剤などの液体にセルロース/磁性体複合体粒子が分散しているとき、図2(B)に示すように、磁石を用いることで、その磁力によりセルロース/磁性体複合体粒子を容器の壁面に引きつけて集めることができるので、容易に液体から分離することができる。なお、磁石としては、永久磁石でもよく、電磁石でもよい。
【0052】
この収集方法は、液中からセルロース/磁性体複合体粒子を収集する様々な場面で用いることができる。例えば、セルロース/磁性体複合体粒子の製造方法において、上記工程2でテンプレート粒子を溶解除去した後、有機溶媒中からセルロース/磁性体複合体粒子を回収する際に利用してもよい。
【0053】
また、上記のように生理活性物質用の吸着剤として用いる場合に、液体中から特定の生理活性物質を取り出すために利用してもよい。すなわち、セルロース/磁性体複合体粒子が分散した液体中でセルロース/磁性体複合体粒子に生理活性物質を吸着させた後、該液体から磁石を用いて生理活性物質を吸着したセルロース/磁性体複合体粒子を収集してもよい。
【0054】
詳細には、一例として次の工程を含む方法により生理活性物質を取り出すことができる。すなわち、特定の生理活性物質を含む水溶液中にセルロース/磁性体複合体粒子を分散させて、該セルロース/磁性体複合体粒子に該特定の生理活性物質を吸着させる工程、該水溶液から磁石を用いて生理活性物質を吸着させたセルロース/磁性体複合体粒子を収集して取り出す工程、及び、水溶液から取り出したセルロース/磁性体複合体粒子から生理活性物質を脱離させる工程を含む方法である。セルロース/磁性体複合体粒子から生理活性物質を脱離させる方法としては、生理活性物質を吸着させたセルロース/磁性体複合体粒子を、吸着工程とは異なるpH(生理活性物質を脱離させるpH)に設定した緩衝液中におく方法が挙げられる。
【実施例0055】
以下、実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0056】
[測定方法]
(1)セルロースナノファイバーの数平均繊維径
セルロースナノファイバーの数平均繊維径を、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子社製、JEM-1400)を用いて観察した。すなわち、試料を親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストした後、2質量%ウラニルアセテート水溶液でネガティブ染色したTEM像(倍率:10000倍)から、先に述べた方法に従い、数平均繊維径を算出した。
【0057】
(2)セルロースナノファイバーの平均アスペクト比
数平均繊維径の測定と同様に調製した観察用試料を用いて、先に述べた方法に従い、セルロースナノファイバーの数平均繊維長を算出した。そして、上記数平均繊維径と数平均繊維長の値を用いて平均アスペクト比を上記式に従い算出した。
【0058】
(3)セルロースナノファイバーの結晶構造
X線回折装置(リガク社製、RINT-Ultima3)を用いて、試料の回折プロファイルを測定し、2θ=14°~17°付近と、2θ=22°~23°付近の2つの位置に典型的なピークが見られる場合は結晶構造(I型結晶構造)が「あり」と評価し、ピークが見られない場合は「なし」と評価した。
【0059】
(4)セルロースナノファイバーのカルボキシ基量
試料0.25gを水に分散させた水分散体60mLを調製し、0.1Mの塩酸水溶液によってpHを約2.5とした後、0.05Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、電気伝導度測定を行い、先に述べた方法に従い、カルボキシ基量を求めた。
【0060】
(5)セルロース/磁性体複合体粒子、テンプレート粒子の平均粒径
セルロース/磁性体複合体粒子の平均粒径は、SEM(走査型電子顕微鏡:S-5000、日立ハイテクノロジーズ社製、20kVの条件)により、倍率5千~2万倍で写真を撮影して、任意に200個以上の粒子を選定し、それらの直径を測定し、その平均値を求めた。テンプレート粒子についての平均粒径は、DLS(動的光散乱式粒径分布測定装置)から得られる体積粒径の累積分布関数において累積度数が全体の50%になる時の体積粒径(D50)の値であり、Malvern社製の「Zetasizer nano zs」を用いて動的光散乱法により測定した。試料濃度は、0.2mg/mLとし、溶媒として純水を用いた。
【0061】
(6)磁性体粒子の平均粒径
磁性体粒子の平均粒径は、SEM(走査型電子顕微鏡:S-5000、日立ハイテクノロジーズ社製、20kVの条件)により、倍率5千~2万倍で写真を撮影して、任意に200個以上の粒子を選定し、それらの直径を測定し、その平均値を求めた。
【0062】
(7)テンプレート粒子の除去跡の穴の平均孔径
セルロース/磁性体複合体粒子についての平均孔径は、SEM(走査型電子顕微鏡:S-5000、日立ハイテクノロジーズ社製、20kVの条件)により、倍率5千~2万倍で写真を撮影して、その中の粒子から任意に350個の穴を選定し、それらの開口径を測定し、その平均値を求めた。
【0063】
(8)セルロース/磁性体複合体粒子の粒子表面における穴の面積比率(穴比率)
任意の10個のセルロース/磁性体複合体粒子について、SEM(走査型電子顕微鏡:S-5000、日立ハイテクノロジーズ社製、20kVの条件)により、倍率5千~2万倍で写真を撮影して、写真に表された粒子の面積(粒子の外形線よりも内側の面積)と、外形線内にある全ての除去跡の穴の開口面積(写真から読み取れる開口部での面積)の総和を、画像解析ソフトにより求め、粒子の面積に対する穴の開口面積の比率(百分率)の平均値を穴比率として求めた。
【0064】
(9)ゼータ電位
Malvern社製の「Zetasizer nano zs」を用いて、pH7.0の純水中で0.2mg/mLとし、温度25℃の条件により測定した。
【0065】
(10)BET値
各粒子のBET法よる窒素吸着比表面積は、77Kでの窒素吸着等温線を容量測定器(ベル社製、BELSORP28SA)で測定した。
【0066】
(11)FT-IRの測定
各粒子についての化学組成をFT-IR((株)島津製作所製、FT-IR8700)で分析した。
【0067】
[第1実験例]
(1)原料
・TOCN:TEMPO酸化セルロースナノファイバー(レオクリスタI-2SX、第一工業製薬株式会社製、セルロース濃度:2質量%、セルロースI型結晶構造:「あり」、数平均繊維径:4nm、平均アスペクト比:280、カルボキシ基量:1.9mmol/g)
・Fe粒子:戸田工業株式会社(平均粒径:100nm)
【0068】
(2)操作
TOCNを純水とともに混合し、超音波分散(IKA社製,T10 ULTRA-TURRAX S0004)を20分間行って、TOCNの固形分濃度が0.08質量%の水分散液を調製した。次いで、該水分散液にFe粒子を濃度が0.02質量%となるように添加し、同様の超音波分散を40分間行うことにより、TOCNとFe粒子を含む水分散液(TOCN/Fe(質量比)=4/1)を調製した。得られた水分散液について、噴霧乾燥機(BUCHI(株)製、ミニスプレードライヤー B-290)を用いて噴霧乾燥を行うことにより、TOCNとFe粒子を複合化させ、実施例1のセルロース/磁性体複合体粒子(TOCN/Fe=4/1)を得た(収率:52.8質量%)。噴霧乾燥は入口温度:180℃、液流量:2.5mL/min、ガス流量:357L/時間とした。
【0069】
TOCNとFeの固形分質量比TOCN/Feが、実施例2では2/1、実施例3では1/1、実施例4では1/2となるようにFe粒子の添加量を調整し、その他は実施例1と同様にしてセルロース/磁性体複合体粒子を調製した。セルロース/磁性体複合体粒子の収率は、実施例2では55.5質量%、実施例3では52.1質量%、実施例4では42.1質量%であった。
【0070】
比較例1として、Fe粒子を添加せずにその他は実施例1と同様にしてセルロース粒子を調製した。
【0071】
(3)測定結果
得られた各粒子のSEM画像を図3に示す。なお、図3中、「T/F」はTOCN/Fe(質量比)を意味する。図3(A)は比較例1のセルロース粒子の画像、図3(B)はその一部拡大画像であり、比較例1のセルロース粒子にはFe粒子は見られなかった。図3(C)、(E)、(G)及び(I)はそれぞれ実施例1~4のセルロース/磁性体複合体粒子の画像、図3(D)、(F)、(H)及び(J)はそれぞれ実施例1~4の粒子の一部拡大画像である。これらの画像に示されるように、噴霧乾燥する分散液にFe粒子を添加した場合、得られたセルロース/磁性体複合体粒子の表面にFe粒子が存在しており、Fe粒子が複合化されたことを確認できた。また、分散液におけるFe粒子の濃度の増加とともに、セルロース粒子表面にFe粒子の増加が観察された。
【0072】
実施例1~4のセルロース/磁性体複合体粒子及び比較例1のセルロース粒子について、平均粒径と窒素吸着比表面積を測定した結果を下記表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
[第2実験例]
実施例1~4のセルロース/磁性体複合体粒子について、磁石による収集試験を行った。50mL容のガラス製バイアル瓶に、溶媒を50mLとセルロース/磁性体複合体粒子を10mg入れ、濃度0.2mg/mLのセルロース/磁性体複合体粒子分散液を調製した。溶媒としては、(a)純水、(b)エタノール、(c)pH9の緩衝液(NH4OH: 0.1M 5ml, NH4Cl:0.2M 1.07g, NaOH: 0.02M 10ml, water 85mlの混合液)を用いた。バイアル瓶の側面に図2(B)に示すように磁束密度が0.5テスラのネオジウム磁石(径2.5cm、高さ15cm)を接触させて、分散液中のセルロース/磁性体複合体粒子をバイアル瓶の側面に収集させた。セルロース/磁性体複合体粒子の収集が完了するまでの時間(収集時間)を上澄みが透明になるまで観察することにより測定した。
【0075】
結果は表2に示す通りであり、セルロース/磁性体複合体粒子におけるFe粒子の比率が高いほど、収集時間が短縮化された。また、分散液の溶媒としては水中よりもエタノール中の方が収集時間は短かった。
【0076】
【表2】
【0077】
[第3実験例]
(1)原料
・TOCN:第1実施例と同じ。
・PMMA粒子:ポリメタクリル酸メチル粒子(積水化成品工業(株)製、平均粒径:503nm)
【0078】
(2)操作
TOCNとPMMA粒子を純水とともに混合して、TOCNとPMMAの固形分濃度がそれぞれ0.08質量%の水分散液(PMMA/TOCN(質量比)=1/1)を調製した。その際、超音波分散(IKA社製,T10 ULTRA-TURRAX S0004)を1時間行い、均一に分散させた。得られた水分散液について、噴霧乾燥機(BUCHI(株)製、ミニスプレードライヤー B-290)を用いて、噴霧乾燥を行うことにより、TOCNとPMMA粒子との複合体粒子を得た。噴霧乾燥は、入口温度:180℃、液流量:2.5mL/min、ガス流量:357L/時間とした。得られた複合体粒子0.12質量部を17.3質量部のトルエンに添加し、100℃で15分間攪拌して、複合体粒子中のPMMA粒子を溶解除去した。その後、トルエン中から粒子を回収し乾燥することにより、参考例1の多孔性セルロース粒子を得た(収率:49.1質量%)。
【0079】
PMMA粒子とTOCNの固形分の質量比PMMA/TOCNを、参考例2では2/1、参考例3では3/1、参考例4では4/1となるようにPMMA粒子の添加量を調整し、その他は参考例1と同様にして多孔性セルロース粒子を調製した。多孔性セルロース粒子の収率は、参考例2では57.5質量%、参考例3では51.2質量%、参考例4では48.0質量%であった。
【0080】
(3)測定結果
参考例1について、トルエン処理前後の粒子のSEM画像を図4に示す。図4(A)に示すトルエン処理前の画像より、セルロースナノファイバーに複数のPMMA粒子が複合一体化された複合体粒子が得られていることがわかる。図4(B)に示すトルエン処理後の画像より、PMMA粒子が溶解除去されて、複数の部分球状の穴が粒子表面に形成された多孔性セルロース粒子が得られていることがわかる。
【0081】
参考例2~4について、トルエン処理前後の粒子のSEM画像を図6に示す。図6(A)、(C)及び(E)に示すトルエン処理前の複合体粒子の画像に対し、図6(B)、(D)及び(F)に示すトルエン処理後の画像では、PMMA粒子が溶解除去されて、複数の部分球状の穴が粒子表面に形成され、それにより表面積が増大した多孔性セルロース粒子が得られたことがわかる。
【0082】
参考例1~4の多孔性セルロース粒子について、平均粒径と平均孔径とBET法による窒素吸着比表面積と穴比率を測定した結果を、上記比較例1のセルロース粒子の平均粒径と窒素吸着比表面積とともに下記表3に示す。
【0083】
【表3】
【0084】
参考例1の多孔性セルロース粒子と、そのトルエン処理前の複合体粒子について、ゼータ電位を測定した。上記比較例1のセルロース粒子についてもゼータ電位を測定した。ゼータ電位の測定結果は以下のとおりであり、参考例1の多孔性セルロース粒子では、トルエン処理前の複合体粒子よりもゼータ電位の絶対値がやや小さかった。多孔性セルロース粒子は、PMMA粒子と複合化していない比較例1のセルロース粒子とゼータ電位が同等であり、セルロースナノファイバーからなる粒子であることがわかる。
・参考例1の多孔性セルロース粒子: -54.3mV
・参考例1のトルエン処理前の複合体粒子:-59.5mV
・比較例1のセルロース粒子: -55.3mV
【0085】
参考例1の多孔性セルロース粒子、そのトルエン処理前の複合体粒子、比較例1のセルロース粒子、及びPMMA粒子についてFT-IR測定を行った。結果は図5に示す通りである。図5中、「PMMA/TOCN=1」はトルエン処理前の複合体粒子、「TOCN porous」はトルエン処理後の多孔性セルロース粒子、「TOCN」は比較例1のセルロース粒子、「PMMA」はPMMA粒子についての測定結果をそれぞれ示す。波数1700cm-1を超えた付近にPMMA由来の吸収があり、これが多孔性セルロース粒子では小さくなっており、PMMA粒子の溶解除去が確認された。
【0086】
[第4実験例]
(1)原料
・TOCN,Fe粒子:第1実験例と同じ。
・PMMA粒子:第3実験例と同じ。
【0087】
(2)操作
TOCNとPMMA粒子を純水とともに混合し、超音波分散(IKA社製,T10 ULTRA-TURRAX S0004)を20分間行って、TOCNの固形分濃度が0.08質量%、PMMAの濃度が0.32質量%の水分散液を調製した。次いで、該水分散液にFe粒子を濃度が0.08質量%となるように添加し、同様の超音波分散を40分間行うことにより、TOCNとFe粒子とPMMA粒子を含む水分散液(TOCN/Fe/PMMA(質量比)=1/1/4)を調製した。
【0088】
得られた水分散液について、噴霧乾燥機(BUCHI(株)製、ミニスプレードライヤー B-290)を用いて、噴霧乾燥を行うことにより、TOCNとFe粒子とPMMA粒子との複合体粒子を得た。噴霧乾燥は入口温度:180℃、液流量:2.5mL/min、ガス流量:357L/時間とした。得られた複合体粒子0.12質量部をバイアル瓶内で17.3質量部のトルエンに添加し、100℃で30分間攪拌して、複合体粒子中のPMMA粒子を溶解除去した。
【0089】
その後、磁石によりトルエン中から粒子を回収し、乾燥することにより、実施例5のセルロース/磁性体複合体粒子を得た(収率:62.5質量%)。磁石による回収は、磁束密度が0.5テスラのネオジウム磁石(径2.5cm、高さ15cm)を、バイアル瓶の側面に室温で30~1080分間接触させ、セルロース/磁性体複合体粒子を集めた。上澄みが透明であることを確認後、バイアル瓶内のトルエンを除去した。バイアル瓶内のセルロース/磁性体複合体粒子はトルエンを用いて洗浄後、エタノール中で再分散し、常圧、60℃、1時間で乾燥を行った。
【0090】
TOCNとFe粒子とPMMA粒子の質量比TOCN/Fe/PMMAが1/2/4となるようにFe粒子の添加量を調整し、その他は実施例5と同様にして実施例6のセルロース/磁性体複合体粒子を調製した(収率:48.5質量%)。
【0091】
(3)測定結果
図7(A)に示すように、実施例5のトルエン処理前の粒子は、セルロースナノファイバーにFe粒子とPMMA粒子が複合化した粒子であった。図7(B)に示すように、トルエン処理後の粒子ではPMMA粒子が除去されており、表面にPMMA粒子の除去跡である複数の部分球状の穴を有しており、セルロース/磁性体複合体多孔性粒子の生成が確認された。また、図7(C)に示されるように、セルロース/磁性体複合体粒子の粒子表面だけでなく穴の内部にも酸化鉄(Fe粒子)が付着していることが確認できた。
【0092】
図8は、実施例6のセルロース/磁性体複合体粒子のSEM画像である。図8(A)に示されるように、実施例6のセルロース/磁性体複合体粒子も、表面にPMMA粒子の除去跡である複数の部分球状の穴を有していた。また、図8(B)に示されるように、セルロース/磁性体複合体粒子の粒子表面及び穴の内部に酸化鉄(Fe粒子)が付着していた。
【0093】
実施例5,6のセルロース/磁性体複合体粒子について、平均粒径と平均孔径と窒素吸着比表面積と穴比率とゼータ電位を測定した結果を下記表4に示す。
【0094】
【表4】
【0095】
[第5実験例:タンパク質吸着性能の評価]
(1)原料
・リゾチーム、ニワトリ卵白由来:MPバイオメディカル製(ゼータ電位:7.8mV、大きさ:4.5×3.0×3.0nm、等電点:11)。
・セルロース/磁性体複合体粒子:実施例5のセルロース/磁性体複合体粒子。
・セルロース粒子1:比較例1のセルロース粒子。
・セルロース粒子2:JNC株式会社製、セルファインC-500(カルボキシメチル基を導入したセルロース微粒子)
【0096】
(2)操作
リン酸緩衝液に溶解した0.4g/Lのリゾチーム溶液50mLに、セルロース/磁性体複合体粒子またはセルロース粒子1またはセルロース粒子2を10mg加え、振とう機を用いて撹拌し、攪拌時間が5分、10分、20分、30分、60分、90分、120分においてサンプリングを行った。サンプリングした試料から上清を分離した。粒子と上清との分離は、セルロース粒子1とセルロース粒子2については遠心分離(8000rpm,5分間)により行った。一方、セルロース/磁性体複合体粒子については、サンプリングした試料をネオジウム磁石を用いて、セルロース/磁性体複合体粒子と上清とに分離した。
【0097】
得られた上清について、紫外可視近赤外分光法(281nm)により、吸光度を測定し、別途作成した検量線との比較により、上清中の遊離のタンパク質量(C)を定量し、その結果から、リゾチームの吸着容量を算出した。リゾチームの吸着容量は、投入したリゾチーム質量(C)から上清中のタンパク質量(C)を差し引くことでリゾチームの吸着量(mg)を求め、投入した吸着剤の単位質量当たりの、リゾチームの吸着量として次式より算出した。
リゾチームの吸着量(mg)=C-C
リゾチームの吸着容量(mg/g)=(C-C)(mg)/投入した吸着剤の質量(g)
【0098】
(3)測定結果
結果は図9に示すとおりである。実施例5のセルロース/磁性体複合体粒子では、リゾチームの吸着容量が852mg/gであった。これは、テンプレート粒子を用いてポーラス化していない比較例1のセルロース粒子1および市販品のセルロース粒子2に比べて約1.4倍の吸着容量であり、タンパク質の吸着性能に優れていた。
【0099】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9