(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022031072
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】フォトクロミック光学物品
(51)【国際特許分類】
C09K 9/02 20060101AFI20220210BHJP
【FI】
C09K9/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020161392
(22)【出願日】2020-09-25
(31)【優先権主張番号】P 2020134793
(32)【優先日】2020-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020140363
(32)【優先日】2020-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】花崎 太一
(72)【発明者】
【氏名】森 力宏
(72)【発明者】
【氏名】百田 潤二
(57)【要約】
【課題】保護フィルム由来の外観不良、コーティングに伴うオレンジピール状の不良の双方を防止し、良好なフォトクロミック性を発現する硬化体となるフォトクロミック硬化性組成物を提供する。
【解決手段】(A)軸分子と該軸分子を包接する複数の環状分子とからなる複合分子構造を有しており、該環状分子に末端に水酸基を有する側鎖を導入したポリロタキサン化合物において、該側鎖の水酸基を、重合性基を有する化合物で1モル%以上100モル%未満変性したポリロタキサン化合物、(B)ケイ素を含有する2官能以上の(メタ)アクリレート基を有する重合性単量体、および、(C)フォトクロミック化合物、を含むフォトクロック硬化性組成物であって、前記(B)重合性単量体がフォトクロミック硬化性組成物を100質量部中、0.01重量部以上10重量部未満であるフォトクロミック硬化性組成物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)軸分子と該軸分子を包接する複数の環状分子とからなる複合分子構造を有しており、該環状分子に、末端に水酸基を有する側鎖を導入したポリロタキサン化合物において、該側鎖の水酸基を、重合性基を有する化合物で1モル%以上100モル%未満変性したポリロタキサン化合物、
(B)ケイ素を含有する2官能以上の(メタ)アクリレート基を有する重合性単量体、
および、
(C)フォトクロミック化合物、
を含むフォトクロック硬化性組成物であって、
前記(B)重合性単量体がフォトクロミック硬化性組成物を100質量部中、0.01重量部以上10重量部未満であるフォトクロミック硬化性組成物。
【請求項2】
前記(B)ケイ素を含有する2官能以上の(メタ)アクリレート基を有する重合性単量体が、(メタ)アクリレート基を有するシルセスキオキサンである請求項1に記載のフォトクロミック硬化性組成物
【請求項3】
前記(A)ポリロタキサン化合物の重合性基が(メタ)アクリレート基である請求項1に記載のフォトクロミック硬化性組成物。
【請求項4】
前記(A)ポリロタキサン化合物の環状分子がシクロデキストリン環である請求項1に記載のフォトクロミック硬化性組成物。
【請求項5】
前記(A)ポリロタキサン化合物の軸分子が、ポリエチレングリコールで形成され、且つ軸分子の両端にアダマンチル基が結合されている請求項1に記載のフォトクロミック硬化性組成物。
【請求項6】
前記(A)ポリロタキサン化合物に導入された末端に水酸基を有する側鎖が、ラクトン系化合物により導入された請求項1に記載のフォトクロミック硬化性組成物。
【請求項7】
前記シルセスキオキサンの重量平均分子量が1,500~20,000である請求項1に記載のフォトクロミック硬化性組成物。
【請求項8】
さらに、(E)有機シロキサン基を有する化合物を含んでおり、前記(E)有機シロキサン基を有する化合物がフォトクロミック硬化性組成物100質量部中、0.0001質量部以上15質量部以下である請求項1ないし8のいずれかに記載のフォトクロミック組成物。
【請求項9】
前記(E)有機シロキサン基を有する化合物が、有機基としてアルキル基および/または重合性基を有する化合物である請求項11に記載のフォトクロミック硬化性組成物。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載のフォトクロミック硬化性組成物を硬化させて得られるフォトクロミック硬化体。
【請求項11】
請求項10に記載の硬化体が光学基材上に積層されたフォトクロミック積層体。
【請求項12】
(C)フォトクロミック化合物を含むフォトクロック硬化性組成物であって、
(I)フォトクロミック硬化性組成物のSP値が8.0~12.0、
(II)前記フォトクロミック硬化性組成物を硬化させて得られるフォトクロミック硬化体の表面に貼り付ける傷防止用保護フィルムの粘着剤のSP値と、前記フォトクロミック硬化性組成物のSP値との差が0.05~5、
(III)前記フォトクロミック硬化性組成物を硬化させて得られるフォトクロミック硬化体のエチレングリコールとの接触角が50度以上180度未満、
(IV)前記フォトクロミック硬化性組成物を硬化させて得られるフォトクロミック硬化体のビッカーズ硬度は3以上8以下、
であるフォトクロミック硬化性組成物。
【請求項13】
さらに、(E)有機シロキサン基を有する化合物を含んでおり、前記(E)有機シロキサン基を有する化合物がフォトクロミック硬化性組成物100質量部中、0.0001質量部以上15質量部以下である請求項12に記載のフォトクロミック硬化性組成物。
【請求項14】
前記(E)有機シロキサン基を有する化合物が、有機基としてアルキル基および/または重合性基を有する化合物である請求項11に記載のフォトクロミック硬化性組成物。
【請求項15】
請求項12から14のいずれかに記載のフォトクロミック硬化性組成物を硬化させて得られるフォトクロミック硬化体。
【請求項16】
請求項15に記載の硬化体が光学基材上に積層されたフォトクロミック積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なフォトクロミック硬化性組成物に関する。さらには、フォトクロミック作用の優れており、外観の良い新規なフォトクロミック硬化体に関する。
【背景技術】
【0002】
クロメン化合物、フルギド化合物、スピロオキサジン化合物等に代表されるフォトクロミック化合物は、太陽光あるいは水銀灯の光のような紫外線を含む光を照射すると速やかに色が変わり、光の照射をやめて暗所におくと元の色に戻るという特性(フォトクロミック性)を有しており、この特性を活かして、種々の用途、特に光学材料の用途に使用されている。
【0003】
例えば、フォトクロミック化合物の使用によりフォトクロミック性が付与されているフォトクロミック眼鏡レンズは、太陽光のような紫外線を含む光が照射される屋外では速やかに着色してサングラスとして機能し、そのような光の照射がない屋内においては退色して透明な通常の眼鏡として機能するものであり、近年その需要は増大している。
【0004】
このフォトクロミック眼鏡レンズに用いられるフォトクロミック光学物品の製造方法としては、例えば、重合性モノマーとフォトクロミック化合物を混合し、それを重合させることにより、直接レンズ等の光学物品を成形する方法、プラスチックレンズ等の光学物品の表面にフォトクロミック化合物が分散された樹脂層をコーティングする方法、2枚の光学物品を、フォトクロミック化合物が分散された接着性樹脂により形成された接着層により接合する方法、などがある(特許文献1、2、3参照)。その中でも、プラスチックレンズ等の光学物品の表面にフォトクロミック化合物が分散された樹脂層をコーティングする方法が好適に用いられている。また、コーティング法では樹脂のコーティング性向上の為にレベリング剤を用いることが一般的である。
【0005】
上記方法で製造されるフォトクロミック光学物品には、太陽光のような紫外線を含む光が照射されるとすばやく応答して高濃度で発色し、そのような光がない屋内においては速やかに退色することが求められており、さらに優れたフォトクロミック性を発現させることが求められていた。
【0006】
その手法として、プラスチックレンズ等の光学物品の表面にフォトクロミック化合物が分散された樹脂層をコーティングする方法においては、フォトクロミック化合物が分散された樹脂層を強固に硬化させずに柔軟性をもたせる手法や、フォトクロミック化合物が分散された樹脂層の表面硬度を柔らかくすることで、光応答性や退色速度を向上させる手法が提案されている(特許文献4参照)。
【0007】
一般に、フォトクロミック光学物品、例えばフォトクロミック眼鏡レンズでは、製造された後、レンズ表面に傷がつかないように内紙と呼ばれる比較的柔らかい素材で包まれた後、袋に入れられて出荷される。また、フォトクロミック眼鏡レンズでは、各製造工程、保管、及び出荷時において、欠陥のないレンズ表面を得るため、レンズ表面に傷防止用保護フィルムを貼り付けることが広く知られている。これは工程中にレンズ表面に傷がつくことやゴミの付着を防止するためである。加えて、フォトクロミック眼鏡レンズは、通常は透明であるため、傷防止用保護フィルムが貼られているか否かを瞬時に判別することが難しい。そのため、通常は容易な判別が可能となる着色された傷防止用保護フィルムが使用されている。
【0008】
前記したフォトクロミック眼鏡レンズの出荷及び製造工程において、特許文献4のように表面硬度を柔らかくしたフォトクロミック眼鏡レンズでは、フォトクロミック化合物が分散された樹脂層の表面硬度が十分ではないため、レンズ表面に傷が付きやすい点で改良の余地があった。また、前記したように、傷防止用保護フィルムを貼り付けた場合、その着色剤や粘着剤がレンズ表面に付着し、初期着色や発色色調を損なうこと、及び粘着剤に起因するしわ状の外観不良が生じることもあり、前記のフォトクロミック眼鏡レンズの外観を損なうという点でも改良の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2012/176439号
【特許文献2】国際公開第2011/125956号
【特許文献3】国際公開第2013/099640号
【特許文献4】国際公開第2008/001578号
【特許文献5】国際公開第2015/054036号
【特許文献6】国際公開第2015/068798号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上のような課題に対し、フォトクロミック化合物が分散された樹脂層の表面に、硬化性樹脂を積層する方法が提案されている(特許文献5参照)。この方法は、フォトクロミック化合物が分散された樹脂層の表面に熱硬化性のエポキシ樹脂等を積層する方法である。この方法によれば、フォトクロミック化合物が分散された樹脂層の表面にもう一層別の積層されるため、より傷防止等が改善する効果が期待される。
【0011】
しかしながら、本発明者等の検討によれば、特許文献5に記載の方法であっても、以下の点で改善の余地があることが分かった。すなわち、特許文献5に記載の方法においては、製造時に密着性が不足して、クラックが入る等の外観不良が生じるという点で改善の余地があった。また、層を追加する必要があるため、コストアップや作業の煩雑性の面においても課題があり、改善の余地があった。
【0012】
特許文献6においては、ポリロタキサン化合物を配合することにより、優れたフォトクロミック硬化性組成物、および硬化体が得られるが、本発明者等の検討によると、以下の点で改善の余地があった。すなわち、ポリロタキサン化合物を配合フォトクロミック硬化性組成物は粘度が高くなる傾向にあるため、コーティング性向上のためにレベリング剤を添加すると、該レベリング剤が、傷防止用保護フィルムの粘着剤の付着、浸透を促進させているため、外観不良が生じやすいことが分かった。しかしながら、レベリング剤を添加しない場合、傷防止用保護フィルム由来の外観不良を低減できるが、コーティング性低下に伴うオレンジピール状の新たな外観不良が生じるという課題があり、改善の余地があった。
【0013】
したがって、本発明の目的は、フォトクロミック層の上に更なる層を積層せずに、傷防止用保護フィルム由来の外観不良、コーティングに伴うオレンジピール状の外観不良の双方を防止しつつ、良好なフォトクロミック光学物品を提供できるフォトクロミック硬化性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、レベリング剤を添加することなく、ポリロタキサン化合物、及びケイ素を含有する重合性単量体の割合を精密に制御することにより、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、第一の本発明は、
(1)(A)軸分子と該軸分子を包接する複数の環状分子とからなる複合分子構造を有しており、該環状分子に、末端に水酸基を有する側鎖を導入したポリロタキサン化合物において、該側鎖の水酸基を、重合性基を有する化合物で1モル%以上100モル%未満変性したポリロタキサン化合物、
(B)ケイ素を含有する2官能以上の(メタ)アクリレート基を有する重合性単量体、
および、
(C)フォトクロミック化合物
を含むフォトクロック硬化性組成物であって、
前記(B)重合性単量体がフォトクロミック硬化性組成物を100質量部としたとき、0.01重量部以上10重量部未満であるフォトクロミック硬化性組成物、である。
【0016】
また、本発明のフォトクロミック硬化性組成物は、以下の様態をとることが好ましい。
(2)前記(B)ケイ素を含有する2官能以上の(メタ)アクリレート基を有する重合性単量体が、(メタ)アクリレート基を有するシルセスキオキサンであるフォトクロミック硬化性組成物であること。
(3)前記(A)ポリロタキサン化合物の重合性基が(メタ)アクリレート基である請求項1に記載のフォトクロミック硬化性組成物であること。
(4)前記(A)ポリロタキサン化合物の環状分子がシクロデキストリン環である請求項1に記載のフォトクロミック硬化性組成物であること。
(5)前記(A)ポリロタキサン化合物の軸分子が、ポリエチレングリコールで形成され、且つ軸分子の両端にアダマンチル基が結合されている請求項1に記載のフォトクロミック硬化性組成物であること。
(6)前記(A)ポリロタキサン化合物に導入された末端に水酸基を有する側鎖が、ラクトン系化合物により導入された請求項1に記載のフォトクロミック硬化性組成物であること。
(7)前記シルセスキオキサンの重量平均分子量が1500~20000であるフォトクロミック硬化性組成物であること。
【0017】
第二の本発明は、前記フォトクロミック硬化性組成物を硬化させて得られるフォトクロミック硬化体であり、第三の本発明は、前記硬化体が光学基材上に積層されたフォトクロミック積層体である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、傷防止用保護フィルム由来の外観不良、コーティングに伴うオレンジピール状の不良の双方を防止し、良好なフォトクロミック性を発現する硬化体を得ることができる
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に用いるポリロタキサンの分子構造を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のフォトクロミック硬化性組成物は、
(A)軸分子と該軸分子を包接する複数の環状分子とからなる複合分子構造を有しており、該環状分子に末端に水酸基を有する側鎖を導入したポリロタキサン化合物において、該側鎖の水酸基を、重合性基を有する化合物で1モル%以上100モル%未満変性したポリロタキサン化合物、
(B)ケイ素を含有する2官能以上の(メタ)アクリレート基を有する重合性単量体、および、
(C)フォトクロミック化合物、
を含むフォトクロック硬化性組成物であって、
前記(B)重合性単量体がフォトクロミック硬化性組成物を100質量部としたとき、0.01重量部以上10重量部未満であるフォトクロミック硬化性組成物である。
【0021】
以下、各成分について説明する。
【0022】
<(A)ポリロタキサン化合物>
ポリロタキサンは公知の化合物であり、
図1に示されるような構造を示す。本発明で使用する(A)ポリロタキサン化合物(以下、(A)成分ともいう。)において、軸分子としては、種々のものが知られており、例えば、軸分子としては、環状分子が有する環を貫通し得る限りにおいて直鎖状或いは分岐鎖であってよく、一般にポリマーにより形成される。
【0023】
本発明で使用する(A)成分において、軸分子を形成するポリマーとして好適なものは、ポリエチレングリコール、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコールまたはポリビニルメチルエーテルであり、ポリエチレングリコールが最も好適である。
【0024】
さらに、前記軸分子の両端に形成される基としては、軸分子からの環状分子の脱離を防ぐ基であれば、特に制限されないが、嵩高い基であることが好ましく、たとえば、アダマンチル基、トリチル基、フルオレセイニル基、ジニトロフェニル基、及びピレニル基体を挙げることができ、特に導入のし易さなどの点で、アダマンチル基が好適である。
【0025】
前記軸分子の分子量は、特に制限されるものではないが、大きすぎると、他の成分、例えば、その他の重合性単量体等との相溶性が悪くなる傾向があり、小さすぎると環状分子の可動性が低下し、フォトクロミック性が低下する傾向がある。このような観点から、前記軸分子の重量平均分子量Mwは、1,000~100,000、特に5,000~80,000、特に好ましくは8,000~30,000の範囲にあることが好適である。なお、この重量平均分子量Mwは、後述する実施例で記載したGPC測定方法で測定した値である。
【0026】
また、前記環状分子は、上記のような軸分子を包接し得る大きさの環を有するものであればよく、このような環状分子としては、シクロデキストリン環、クラウンエーテル環、ベンゾクラウン環、ジベンゾクラウン環及びジシクロヘキサノクラウン環を挙げることができ、特にシクロデキストリン環が好ましい。尚、シクロデキストリン環には、α体(環内径0.45~0.6nm)、β体(環内径0.6~0.8nm)、γ体(環内径0.8~0.95nm)があるが、本発明では、特にα-シクロデキストリン環及びγ-シクロデキストリン環が好ましく、α-シクロデキストリン環が最も好ましい。
【0027】
上記のような環を有する環状分子は、1つの軸分子に複数個が包接しているが、一般に、軸分子1個当たりに包接し得る環状分子の最大包接数を1としたとき、環状分子の包接数は、0.001乃至0.6、より好ましくは、0.002乃至0.5、さらに好ましくは0.003乃至0.4の範囲にあることが好ましい。環状分子の包接数が多すぎると、一つの軸分子に対して環状分子が密に存在するため、その可動性が低下し、フォトクロミック性が低下する傾向がある。また包接数が少なすぎると、軸分子間の間隙が狭くなり、フォトクロミック化合物分子の可逆反応を許容し得る間隙が減少することとなり、やはりフォトクロミック性が低下する傾向がある。
【0028】
本発明で使用する(A)成分は、前記環状分子に、末端に水酸基を有する側鎖が導入されたポリロタキサン化合物を、該側鎖の水酸基を重合性基を有する化合物で変性したポリロタキサン化合物である。なお、この側鎖は、
図1において”5”で示されている。
【0029】
上記の末端に水酸を有する側鎖としては、特に制限されるものではないが、末端に水酸基を有し、かつ炭素数が3~20の範囲にある有機鎖の繰り返しにより形成されていることが好適である。このような側鎖の平均分子量は300~10,000、好ましくは350~8,000、より好ましくは350~5,000の範囲にあるのがよく、最も好ましくは、400~1,500の範囲にある。この側鎖の平均分子量は、側鎖の導入時に使用する量により調整ができ、計算により求めることができるが、1H-NMRの測定からも求めることができる。
【0030】
さらに、上記のような側鎖は、環状分子が有する官能基を利用し、この官能基を修飾することによって導入される。例えば、α-シクロデキストリン環は、官能基として18個の水酸基を有しており、この水酸基を介して側鎖が導入される。即ち、1つのα-シクロデキストリン環に対しては最大で18個の側鎖を導入することができることとなる。本発明においては、前述した側鎖の機能を十分に発揮させるためには、このような環が有する全官能基数の6%以上、特に30%以上が、側鎖で修飾されていることが好ましい。なお、環状分子が有する官能基は、他成分との相溶性に影響を与える場合があり、特に、該官能基が水酸基であると、他成分との相溶性に大きな影響を与える。そのため、該官能基が修飾された割合(修飾度)は、6%以上80%以下であることが好ましく、30%以上70%以下であることがより好ましい。
【0031】
本発明において、上記のような側鎖は、末端に水酸基を有するものであれば、直鎖状であってもよいし、分枝状であってもよい。また、開環重合;ラジカル重合;カチオン重合;アニオン重合;原子移動ラジカル重合、RAFT重合、NMP重合などのリビングラジカル重合などを利用し、前記環状分子の官能基に、末端に水酸基を有するように側鎖を導入することによって、所望の側鎖とすることができる。
【0032】
例えば、開環重合により、ラクトンや環状エーテル等の環状化合物に由来する側鎖を導入することができる。ラクトンや環状エーテル等の環状化合物を開環重合して導入した側鎖は、該側鎖の末端に水酸基が導入されることとなる。
【0033】
前記環状化合物の中でも、入手が容易であり、反応性が高く、さらには大きさ(分子量)の調整が容易であるという観点から、環状エーテルやラクトン化合物を用いることが好ましく、好適に使用されるラクトン化合物であり、ε-カプロラクトン、α-アセチル-γ-ブチロラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-ブチロラクトン等のラクトン化合物が特に好適であり、もっとも好ましいものはε-カプロラクトンである。
【0034】
また、開環重合により環状化合物を反応させて側鎖を導入する場合、環に結合している官能基(例えば水酸基)は反応性に乏しく、特に立体障害などにより大きな分子を直接反応させることが困難な場合がある。このような場合には、例えば、カプロラクトンなどを反応させるために、プロピレンオキシドなどの低分子化合物を官能基と反応させてのヒドロキシプロピル化を行い、末端に反応性に富んだ官能基(例えば水酸基)を導入した後、前述した環状化合物を用いての開環重合により、側鎖を導入するという手段を採用することができる。この場合、ヒドロキシプロピル化した部分も側鎖と見なすことができる。
【0035】
本発明で使用する(A)成分においては、環状分子に、末端に水酸基を有する側鎖を導入するには、側鎖の導入のし易さ、側鎖の大きさ(分子量)の調整のし易さ、および、該水酸基を変性すること等を考慮すると、前記開環重合により末端に水酸基を有する側鎖を導入する方法を採用することが好ましい。
【0036】
(末端に重合性基を有するポリロタキサン化合物)
本発明で使用する(A)成分においては、前記ポリロタキサンにおける側鎖の末端の水酸基と、重合性基を有する化合物とを反応させて、該ポリロタキサン化合物の側鎖に末端に重合性基を導入したものである。本発明においては、この反応を「変性」としている。
【0037】
前記重合性基を有する化合物は、前記した末端に水酸基を有する側鎖を利用して導入されるものであり、側鎖の水酸基と反応する化合物が適宜使用できる。なお、この重合性基を有する化合物は、他成分との相溶性を考慮すると、分子内に水酸基を有さない化合物であることが好ましい。
【0038】
前記重合性基としては、(メタ)アクリレート基(メタクリレート基、および/またはアクリレート基)、ビニル基、及びアリル基のようなラジカル重合性基が代表的である。中でも、硬化体の製造のし易さ、得られる硬化体の汎用性等を考慮すると、(メタ)アクリレート基が最も好適である。
【0039】
前記重合性基を有する化合物は、一分子中に、側鎖の水酸基と反応しうる官能基と該重合性基の両方の基を有する化合物である。該水酸基と反応しうる官能基としては、例えば、イソシアネート基、カルボキシル基、および酸塩化物基(例えば、-COCl基)等が挙げられる。イソシアネート基を有する化合物を反応させることで、ウレタン結合を介して重合性基が導入される。または、カルボキシル基、および酸塩化物基等を有する化合物を反応させることで、エステル結合を介して重合性基が導入される。
【0040】
前記重合性基を有する化合物を具体的に例示すると、イソシアネート基と(メタ)アクリレート基を有する化合物としては、2-イソシアナトエチルメタクリレート、2-イソシアナトエチルアクリレート、1,1-(ビスアクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート等が挙げられる。
【0041】
また、酸塩化物基(例えば、-COCl基)と(メタ)アクリレート基を有する化合物は、カルボキシル基と(メタ)アクレート基を有する化合物を塩化チオニルなどの塩素化剤と反応させることで合成することができる。
【0042】
カルボキシル基と(メタ)アクリレート基を有する化合物としては、2-メタクリロイルオキシエチルサクシネートやβ-カルボキシエチルアクリレートなどが挙げられる。
【0043】
前記重合性基を有する化合物と側鎖の水酸基との反応は、公知の該水酸基と反応しうる官能基と水酸基との反応条件を採用することができる。
【0044】
本発明で使用する(A)ポリロタキサン化合物は、側鎖の末端の水酸基に対する該重合性基の変性割合、すなわち、重合性基を有する化合物が該側鎖の全水酸基のモル数に対する反応割合は、1モル%以上100モル%未満であることが好ましく、得られる硬化体の歩留り、機械的強度、フォトクロミック特性等を考慮すると、前記重合性基を有する化合物による変性割合は、10モル%以上95モル%以下とすることがより好ましく、30モル%以上95モル%以下とすることが更に好ましく、ポリロタキサン化合物自体の生産性も考慮すると、70モル%以上95モル%以下とすることが特に好ましい。
【0045】
変性割合は、(重合性基が導入されたモル数)/(側鎖の全水酸基のモル数)×100で算出できる。なお、下記に詳述するが、(A)成分は、重合性基を有さない化合物で変性することもできる。そのため、側鎖の残りの水酸基は、下記に詳述する、重合性基を有さない化合物で変性することもできる。ただし、この場合、変性割合が高いため、水酸基が残存していてもよい。
【0046】
本発明で使用する(A)成分は、前記環状分子に導入した側鎖の末端に有する水酸基を、前記重合性基を有する化合物で変性していることが必須である。そして、前記側鎖の残りの水酸基(すなわち、前記環状分子に導入した側鎖の末端に有する水酸基のうち、重合性基を有する化合物で変性されていない水酸基)は、水酸基のままでもよいし、重合性基を有さない化合物で変性してもよい。
【0047】
前記重合性基を有さない化合物は、一分子中に、側鎖の水酸基と反応しうる官能基を有するものであり、該分子中には重合性基を含まないものである。重合性基を含まないとは、「前記重合性基を有する化合物」で説明した重合性基を含まないことを指す。そのため、前記重合性基を有さない化合物は、前記重合性基の代わりに、炭素数2~20のアルキル基、炭素数2~30のアルキレンオキシ基、炭素数6~20のアリール基を有することが好ましい。ちなみに、側鎖の水酸基と反応しうる官能基は、「前記重合性基を有する化合物」で説明したものと同じ官能基が挙げられる。
【0048】
前記重合性基を有さない化合物としては、イソシアネート基を有する化合物として、原料の入手のしやすさと水酸基との反応性が高いという観点から、炭素数2~20(イソシアネート基の炭素原子は除く)のイソシアネート化合物が好ましく、炭素数3~10のイソシアネート化合物が特に好適である。具体的には、好適なイソシアネート化合物を例示すると、n-プロピルイソシアネート、n-ブチルイソシアネート、n-ペンチルイソシアネート、n-ヘキシルイソシアネート、フェニルイソシアネート等が挙げられる。
【0049】
前記重合性基を有さない化合物としては、カルボン酸塩化物として、原料の入手のしやすさと水酸基との反応性が高いという観点から、炭素数2~20(カルボニル基の炭素原子を除く)のカルボン酸塩化物が好ましく、炭素数2~10のカルボン酸塩化物が特に好適である。具体的には、好適な酸塩化物を例示すると、アセチルクロリド、プロピオニルクロリド、ブチリルクロリド、ピバロイルクロリド、ヘキサノイルクロリド、ベンゾイルクロリド等が挙げられる。
【0050】
重合性基を有さない化合物の変性割合は、(重合性基有さない化合物が導入されたモル数)/(側鎖の全水酸基のモル数)×100で算出できる。この変性割合は、特に制限されるものではない。中でも、得られる硬化体の歩留り、機械的強度、フォトクロミック特性等を考慮すると、前記重合性基を有さない化合物による変性割合は、0~99モル%とすることが好ましく、0~90モル%とすることがより好ましく、0~70モル%とすることが更に好ましく、0~30モル%とすることが特に好ましい。
【0051】
(好適な(A)成分の構造・分子量)
本発明において、好適に使用される(A)成分は、上記の各成分の中でも、両端にアダマンチル基で結合しているポリエチレングリコールを軸分子とし、α-シクロデキストリン環を有する環状分子とし、さらに、ポリカプロラクトンにより該環状分子に末端が水酸基を有する側鎖が導入されているものが好ましい。
【0052】
また、前記重合性基を有する化合物、および必要に応じて使用する前記重合性基を有さない化合物で変性した(A)成分の重量平均分子量Mwは、100,000~1,000,000の範囲にあることが好ましい。該(A)成分の重量平均分子量Mwがこの範囲にあることにより、他成分との相溶性が向上し、硬化体の透明性をより向上できる。他成分との相溶性、硬化体の透明性等を考慮すると、該(A)ポリロタキサン化合物の重量平均分子量Mwは、100,000~800,000の範囲にあることがより好ましく、100,000~500,000の範囲にあることがさらに好ましい。なお、この重量平均分子量Mwは、下記の実施例で記載したGPC測定方法で測定した値である。
【0053】
<(B)ケイ素を含有する2官能以上の(メタ)アクリレート基を有する重合性単量体>
本発明に用いられる(B)ケイ素を含有する2官能以上の(メタ)アクリレート基を有する重合性単量体(以下、(B)成分ともいう。)は、分子内にケイ素を有し、2官能以上の(メタ)アクリレート基を有する重合性単量体であって、鎖状の有機シロキサン基を含む基を有しないものであれば、特に制限されるものではなく、公知のものを使用することができる。
【0054】
なお、本発明において、有機シロキサン基とは、シロキサン基を構成するケイ素原子に直接有機基が結合している基をいう。
【0055】
中でも、特に好適な(B)成分は、2官能以上の(メタ)アクリレート基を有するシルセスキオキサンである。シルセスキオキサンは、ケージ状、ハシゴ状、ランダムといった種々の分子構造を取るものであり、本発明においては、1種類の構造のシルセスキオキサンを使用することもできるし、複数の構造のシルセスキオキサンの混合物として使用することもできる。
【0056】
前記した2官能以上の(メタ)アクリレート基を有するシルセスキオキサンとしては、下記式(1)で示されるものが挙げられる。
【0057】
【0058】
(式中、aは、重合度であり、3~100の整数であり、複数個あるR1は、互いに同一もしくは異なっていてもよく、少なくとも2個以上の(メタ)アクリレート基を含む有機基である。ただし、R1は、鎖状の有機シロキサン基を含む基は含まない。)
【0059】
ここで、R1における、(メタ)アクリレート基を含む有機基は、(メタ)アクリレート基のみのものを含む(珪素原子に直接、(メタ)アクリレート基が結合するものを含む。)。本発明において(メタ)アクリレート基は、具体的には、(メタ)アクリレート基、のみならず、(メタ)アクリロキシプロピル基、(3-(メタ)アクリロキシプロピル)ジメチルシロキシ基も含み得る。中でも(メタ)アクリロキシプロピル基が、前記(B)成分製造時の原料の入手が容易であり、優れたフォトクロミック特性を発現しつつ、高い膜強度を得ることができるため特に好ましい。
【0060】
前記(B)成分の重量平均分子量Mwは、1,500~20,000であることが好ましく、(メタ)アクリル当量は150~800であることが好ましい。なお、(B)成分の重量平均分子量Mwは、ゲル浸透クロマトグラフィー法(GPC法)により測定した値である。
【0061】
また、前記(B)成分は、平均して、一分子中に(メタ)アクリレート基が10個以上含まれることが好ましく、中でも、一分子中に(メタ)アクリレート基が10~100個含まれることが好ましく、15~35個含まれることがさらに好ましい。
【0062】
一般にシルセスキオキサンは、ケージ状、ハシゴ状、ランダムといった種々の構造を取ることができるが、本発明で使用する(B)成分は、1種類の構造の化合物を使用することもできるし、複数の構造の化合物の混合物として使用することもできる。混合物の場合、混合物の合計質量を(B)成分の配合量と見なす。その中でも、(B)成分は、複数の構造の化合物からなる混合物であることが好ましい。
【0063】
前記(B)成分の合成方法としては、例えば、引用文献(Appl.Organometal.Chem.2001年、p.683-692参照)や特許文献(特開2004-143449号公報、特開1999-29640号公報)に記載の方法に従って製造することもできる。
【0064】
前記(B)成分の配合量は、得られるフォトクロミック硬化体の硬度、機械特性、並びに発色濃度、及び退色速度といったフォトクロミック特性、さらには外観不良を考慮すると、フォトクロミック硬化性組成物100質量部中、0.01質量部以上10重量部未満であることが必要であり、0.02質量部以上10重量部未満であることがより好ましく、0.03質量部以上9重量部以下とすることが更に好ましく、フォトクロミック硬化性組成物の粘度、及びコーティング性を考慮すると、0.05質量部以上7.5質量部以下することが特に好ましい。
【0065】
<(C)フォトクロミック化合物>
本発明で用いられる(C)フォトクロミック化合物(以下、(C)成分ともいう。)としては、何ら制限なく、公知のものを使用することができ、これらは、1種単独で使用することもできるし、2種以上を併用することもできる。
【0066】
このようなフォトクロミック化合物として代表的なものとしては、フルギド化合物、クロメン化合物及びスピロオキサジン化合物であり、例えば、特開平2-28154号公報、特開昭62-288830号公報、WO94/22850号パンフレット、WO96/14596号パンフレット等、多くの文献に開示されている。
【0067】
本発明においては、公知のフォトクロミック化合物の中でも、発色濃度、初期着色性、耐久性、退色速度などのフォトクロミック性の観点から、インデノ〔2,1-f〕ナフト〔1,2-b〕ピラン骨格を有するクロメン化合物を用いることがより好ましく、特に分子量が540以上のクロメン化合物が、発色濃度及び退色速度に特に優れるため好適に使用される。
【0068】
以下に示すクロメン化合物は、本発明において特に好適に使用されるクロメン化合物の例であるが、これに限定されるものではない。
【0069】
【0070】
上記に加え、分子内にオリゴマー鎖基を有するようなフォトクロミック化合物も好適に用いることができる。このようなオリゴマー鎖基を有するフォトクロミック化合物としては、WO2000/015630号パンフレット、WO2004/041961号パンフレット、WO2009/146509号パンフレット、WO2012/149599号パンフレット、WO2012/162725号パンフレット、WO2013/078086号パンフレット、WO2019/013249号パンフレット、WO2019/203205号パンフレット等、多くの文献に開示されている。これら分子内にオリゴマー鎖基を有するようなフォトクロミック化合物の中では、より優れたフォトクロミック性、耐久性を示すため、WO2019/013249号パンフレット、WO2019/203205号パンフレットに記載のオリゴマー鎖基を有するようなフォトクロミック化合物を用いることが好ましい。以下に示すオリゴマー鎖基を有するようなフォトクロミック化合物は、本発明において特に好適に使用される化合物の例であるが、これに限定されるものではない。
【0071】
【0072】
前記(C)成分の配合量は、得られるフォトクロミック硬化体の発色濃度、及び退色速度といったフォトクロミック特性を考慮すると、フォトクロミック硬化性組成物100質量部中、0.001質量部以上20重量部以下であることが好ましく、0.05質量部以上15重量部以下であることがより好ましく、0.1質量部以上10重量部以下とすることが更に好ましい。
【0073】
<(D)上記以外の重合性単量体>
本発明のフォトクロミック硬化性組成物は、前記(A)成分、(B)成分以外の重合性単量体(以下、(D)重合性単量体、又は(D)成分ともいう。)を含んでいてもよい。
【0074】
前記(D)成分としては、特に制限されるものではなく、公知のものを使用することができる。
【0075】
中でも、(メタ)アクリレート基を分子内に2つ以上有する多官能(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。中でも、(D1)(メタ)アクリレート基を分子内に2つ有する2官能(メタ)アクリレート(以下、(D1)2官能(メタ)アクリレート、又は(D1)成分ともいう。)、(D2)(メタ)アクリレート基を分子内に3つ以上有する多官能(メタ)アクリレート(以下、(D2)多官能(メタ)アクリレート、又は(D2)成分ともいう。)を含むことが好ましい。また、(D3)(メタ)アクリレート基を1つ有する単官能(メタ)アクリレート(以下、(D3)単官能(メタ)アクリレート、又は(D3)成分ともいう。)を含むこともできる。
これら(D)重合性単量体について説明する。
【0076】
((D1)2官能(メタ)アクリレート)
本発明のフォトクロミック硬化性組成物は、さらに(D1)成分を含むことが好ましい。以下に、その具体例を示す。具体的には、下記式(2)(以下、(D1-1)成分ともいう。)、下記式(3)(以下、(D1-2)成分ともいう。)および下記式(4)(以下、(D1-3)成分ともいう。)に示す化合物が好適である。その他、ウレタン結合を有する2官能(メタ)アクリレート(以下、(D1-4)成分ともいう。)もある。前記(D1-1)成分、前記(D1-2)成分、前記(D1-3)成分、および前記(D1-4)成分に該当しない2官能(メタ)アクリレート(以下、(D1-5)成分ともいう。)も挙げられる。
【0077】
これら(D)成分について説明する。
【0078】
(D1-1)下記式(2)で示される化合物
【0079】
【0080】
(式中、R2及びR3は、それぞれ、水素原子、又はメチル基であり、b及びcはそれぞれ独立に0以上の整数であり、かつ、b+cは2以上の整数である。)
上記式(2)で示される化合物を具体的に例示すると、以下のとおりである。
【0081】
ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ペンタエチレングリコールジメタクリレート、ペンタプロピレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ペンタエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、テトラプロピレングリコールジアクリレート、ペンタプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールとポリエチレングリコールの混合物よりなるジメタアクリレート(ポリエチレンが2個、ポリプロピレンが2個の繰り返し単位を有する)、ポリエチレングリコールジメタクリレート(特にb=4、c=0、平均分子量330)、ポリエチレングリコールジメタクリレート(特にb=9、c=0、平均分子量536)、ポリエチレングリコールジメタクリレート(特にb=14、c=0、平均分子量736)、トリプロピレングリコールジメタクリレート、テトラプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート(特にb=0、c=7、平均分子量536)、ポリエチレングリコールジアクリレート(特に平均分子量258)、ポリエチレングリコールジアクリレート(特に平均分子量b=4、c=0、308)、ポリエチレングリコールジアクリレート(特にb=9、c=0、平均分子量508)、ポリエチレングリコールジアクリレート(特にb=14、c=0、平均分子量708)、ポリエチレングリコールメタクリレートアクリレート(特にb=9、c=0、平均分子量522)。
【0082】
(D1-2)下記式(3)で示される化合物
【0083】
【0084】
(式中、R4およびR5は、それぞれ、水素原子またはメチル基であり、
R6およびR7は、それぞれ、水素原子またはメチル基であり、
R8は、水素原子またはハロゲン原子であり、
Aは、-O-,-S-,-(SO2)-,-CO-,-CH2-,
-CH=CH-,-C(CH3)2-,-C(CH3)(C6H5)-
の何れかであり、
dおよびeはそれぞれ1以上の整数であり、d+eは平均値で2以上30以下である。)
なお、上記式(3)で示される2官能(メタ)アクリレートは、通常、分子量の異なる分子の混合物の形で得られる。そのため、dおよびeは平均値で示した。
【0085】
上記式(3)で示される2官能(メタ)アクリレートの具体例としては、例えば、以下のビスフェノールAジ(メタ)アクリレートを挙げることができる。
【0086】
2,2-ビス[4-(メタクリロイルオキシエトキシ)フェニル]プロパン(d+e=2、平均分子量452)、2,2-ビス[4-(メタクリロイルオキシジエトキシ)フェニル]プロパン(d+e=4、平均分子量540)、2,2-ビス[4-(メタクリロイルオキシポリエトキシ)フェニル]プロパン(d+e=7、平均分子量672)、2,2-ビス[3,5-ジブロモ-4-(メタクリロイルオキシエトキシ)フェニル]プロパン(d+e=2、平均分子量768)、2,2-ビス(4-(メタクリロイルオキシジプロポキシ)フェニル)プロパン(d+e=4、平均分子量596)、2,2-ビス[4-(アクリロイルオキシジエトキシ)フェニル]プロパン(d+e=4、平均分子量512)、2,2-ビス[4-(アクリロイルオキシポリエトキシ)フェニル]プロパン(d+e=3、平均分子量466)、2,2-ビス[4-(アクリロイルオキシポリエトキシ)フェニル]プロパン(d+e=7、平均分子量642)、2,2-ビス[4-(メタクリロイルキシポリエトキシ)フェニル]プロパン(d+e=10、平均分子量804)、2,2-ビス[4-(メタクリロイルキシポリエトキシ)フェニル]プロパン(d+e=17、平均分子量1116)、2,2-ビス[4-(メタクリロイルキシポリエトキシ)フェニル]プロパン(d+e=30、平均分子量1684)、2,2-ビス[4-(アクリロイルキシポリエトキシ)フェニル]プロパン(d+e=10、平均分子量776)、2,2-ビス[4-(アクリロイルキシポリエトキシ)フェニル]プロパン(d+e=20、平均分子量1216)。
【0087】
(D1-3)下記式(4)で示される化合物
【0088】
【0089】
(式中、R9およびR10は、それぞれ、水素原子またはメチル基であり、
fは平均値で1~20の数であり、
B及びB’は、互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数2~15の
直鎖状または分岐状のアルキレン基であり、Bが複数存在する場合には、複数の
Bは同一の基であっても、異なる基であってもよい。)
上記式(4)で示される2官能(メタ)アクリレートは、ポリカーボネートジオールと(メタ)アクリル酸とを反応させることにより製造することができる。
【0090】
ここで、使用されるポリカーボネートジオールとしては、以下のものを例示することができる。具体的には、トリメチレングリコールのホスゲン化で得られるポリカーボネートジオール(平均分子量500~2000)、テトラメチレングリコールのホスゲン化で得られるポリカーボネートジオール(平均分子量500~2000)、ペンタメチレングリコールのホスゲン化で得られるポリカーボネートジオール(平均分子量500~2000)、ヘキサメチレングリコールのホスゲン化で得られるポリカーボネートジオール(平均分子量500~2000)、オクタメチレングリコールのホスゲン化で得られるポリカーボネートジオール(平均分子量500~2000)、ノナメチレングリコールとのホスゲン化で得られるポリカーボネートジオール(平均分子量500~2000)、トリエチレングリコールとテトラメチレングリコールとのホスゲン化で得られるポリカーボネートジオール(平均分子量500~2000)、テトラメチレングリコールとヘキサメチレンジグリコールとのホスゲン化で得られるポリカーボネートジオール(平均分子量500~2000)、ペンタメチレングリコールとヘキサメチレングリコールとのホスゲン化で得られるポリカーボネージオール(平均分子量500~2000)、テトラメチレングリコールとオクタメチレングリコールとのホスゲン化で得られるポリカーボネージオール(平均分子量500~2000)、ヘキサメチレングリコールとオクタメチレングリコールとのホスゲン化で得られるポリカーボネートジオール(平均分子量500~2000)、1-メチルトリメチレングリコールとのホスゲン化で得られるポリカーボネートジオール(平均分子量500~2000)が挙げられる
(D1-4)ウレタン結合を有する2官能(メタ)アクリレート
(D1-4)成分は、ポリオールとポリイソシアネートとの反応物が代表的である。ここで、ポリイソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、リジンイソシアネート、2,2,4-ヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、イソプロピリデンビス-4-シクロヘキシルイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネートまたはメチルシクロヘキサンジイソシアネートを挙げることができる。
【0091】
一方、ポリオールとしては、炭素数2~4のエチレンオキシド、プロピレンオキシド、ヘキサメチレンオキシドの繰り返し単位を有するポリアルキレングルコール、或いはポリカプロラクトンジオール等のポリエステルジオールを挙げることができる。また、ポリカーボネートジオール、ポリブタジエンジオール、又はペンタエリスリトール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、1,8-ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、トリメチロールプロパン等も例示することができる。
【0092】
また、これらポリイソシアネート及びポリオールの反応によりウレタンプレポリマーとしたものを、2-ヒドロキシ(メタ)アクリレートで更に反応させた反応混合物や、前記ジイソシアネートを2-ヒドロキシ(メタ)アクリレートと直接反応させた反応混合物であるウレタン(メタ)アクリレート等も使用することができる。
【0093】
2官能のものとしては、市販品として、新中村化学工業(株)製のU-2PPA(分子量482)、UA-122P(分子量1,100)、U-122P(分子量1,100)、及びダイセルユーシービー社製のEB4858(分子量454)、日本曹達(株)製のTEAI-1000、TE―2000、アルケマ社製のCN9014を挙げることができる。
【0094】
(D1-5)前記に該当しない2官能(メタ)アクリレート
(D1-5)前記に該当しない2官能(メタ)アクリレートとしては、置換基を有していてもよいアルキレン基の両末端に(メタ)アクリレート基を有するような化合物が挙げられる。その中でも、炭素数6~20のアルキレン基を有するものが好ましい。具体的には、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジメタクリレート、1,10-デカンジオールジアクリレート、1,10-デカンジオールジメタクリレート等が挙げられる。
【0095】
また、前記に該当しない2官能(メタ)アクリレートとして、下記式(7)で示されるブタジエンジ(メタ)アクリレートも挙げることができる。
【0096】
【0097】
(式中、
R16及びR17は、それぞれ、水素原子、又はメチル基であり、
k、l及びmはそれぞれ独立に0以上の整数であり、
かつ、k+l+mは1以上の整数である。)
上記式(7)で示される2官能(メタ)アクリレートは、特に制限されず、例えば、市販品として、大阪有機化学工業(株)製のBAC-45、アルケマ社製のCN307等のブタジエンジ(メタ)アクリレートを挙げることができる。
【0098】
また、前記に該当しない2官能(メタ)アクリレートとして、硫黄原子を含むような2官能(メタ)アクリレートも挙げることができる。硫黄原子はスルフィド基として分子鎖の一部を成しているものが好ましい。具体的には、ビス(2-メタクリロイルオキシエチルチオエチル)スルフィド、ビス(メタクリロイルオキシエチル)スルフィド、ビス(アクリロイルオキシエチル)スルフィド、1,2-ビス(メタクリロイルオキシエチルチオ)エタン、1,2-ビス(アクリロイルオキシエチル)エタン、ビス(2-メタクリロイルオキシエチルチオエチル)スルフィド、ビス(2-アクリロイルオキシエチルチオエチル)スルフィド、1,2-ビス(メタクリロイルオキシエチルチオエチルチオ)エタン、1,2-ビス(アクリロイルオキシエチルチオエチルチオ)エタン、1,2-ビス(メタクリロイルオキシイソプロピルチオイソプロピル)スルフィド、1,2-ビス(アクリロイルオキシイソプロピルチオイソプロピル)スルフィドが挙げられる。
【0099】
以上の(D1-1)成分、(D1-2)成分、(D1-3)成分、(D1-4)成分、および(D1-5)成分においては、各成分における単独成分を使用することもできるし、前記で説明した複数種類のものを使用することもできる。複数種類のものを使用する場合には、(D1)成分の基準となる質量は、複数種類のものの合計量である。
【0100】
((D2)多官能(メタ)アクリレート)
(D2)成分としては、下記式(5)で示される化合物(以下、(D2-1)成分ともいう。)、ウレタン結合を有する多官能(メタ)アクリレート(以下、(D2-2)成分ともいう。)、並びに、前記(D2-1)成分、および前記(D2-2)成分に該当しない多官能(メタ)アクリレート(以下、(D2-3)成分ともいう。)が挙げられる。
【0101】
(D2-1)下記式(5)で示される化合物
【0102】
【0103】
(式中、R11は、水素原子またはメチル基であり、
R12は、水素原子または炭素数1~2のアルキル基であり、
R13は、炭素数1~10である3~6価の有機基(ただし、鎖状の有機シロキサン基は含まない。))であり、
gは、平均値で0~3の数であり、hは3~6の数である。)
前記R12で示される炭素数1~2のアルキル基としてはメチル基が好ましい。R13で示される有機基としては、ポリオールから誘導される基、3~6価の炭化水素基、3~6価のウレタン結合を含む有機基が挙げられる。
【0104】
上記式(5)で示される化合物を具体的に示すと以下の通りである。
【0105】
トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタントリメタクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラメタクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリエチレングリコールトリメタクリレート、トリメチロールプロパントリエチレングリコールトリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラメタクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート。
【0106】
(D2-2)ウレタン結合を有する多官能(メタ)アクリレート
(D2-2)成分は、(D1-5)成分で説明したポリイソシアネート化合物とポリオール化合物を反応させて得られるものであり、分子中に3つ以上の(メタ)アクリレート基を有する化合物である。市販品として、新中村化学工業(株)製のU-4HA(分子量596、官能基数4)、U-6HA(分子量1,019、官能基数6)、U-6LPA(分子量818、官能基数6)、U-15HA(分子量2,300、官能基数15)を挙げることができる。
【0107】
(D2-3)前記に該当しない多官能(メタ)アクリレート
(D2-3)成分としては、ポリエステル化合物の末端を(メタ)アクリレート基で修飾した化合物である。原料となるポリエステル化合物の分子量や(メタ)アクリレート基の修飾量により種々のポリエステル(メタ)アクリレート化合物が市販されているものを使用することができる。具体的には、4官能ポリエステルオリゴマー(分子量2,500~3,500、ダイセルユーシービー社、EB80等)、6官能ポリエステルオリゴマー(分子量6,000~8,000、ダイセルユーシービー社、EB450等)、6官能ポリエステルオリゴマー(分子量45,000~55,000、ダイセルユーシービー社、EB1830等)、4官能ポリエステルオリゴマー(特に分子量10,000の第一工業製薬社、GX8488B等)等を挙げることができる。また、市販品として、アルケマ社製のCN2300、CN2301、CN2302、CN2303、CN2304、SB401、SB402、SB404、SB500E50、SB500K60、SB510E35、SB520E35、SB520M35、CN550、CN551、新中村化学工業(株)製のA-DPH-6E、A-DPH-12E、A-DPH-6EL、A-DPH-12EL、A-DPH-6P等も挙げることができる。
【0108】
以上に例示した(D2)成分((D2-1)成分、(D2-2)成分、(D2-3)成分)を使用することにより、重合により架橋密度が向上し、得られる硬化体の表面硬度を高めることができる。したがって、特に、コーティング法で得られるフォトクロミック硬化体(積層体)とする場合においては、(D2)成分を含むことが好ましい。特に(D2)成分の中でも(D2-1)成分を使用することが好ましい。
【0109】
以上の(D2-1)成分、(D2-2)成分、および(D2-3)成分は、各成分における単独成分を使用することもできるし、前記で説明した複数種類のものを使用することもできる。複数種類のものを使用する場合には、(D2)成分の基準となる質量は、複数種類のものの合計量である。
【0110】
((D3)単官能(メタ)アクリレート)
(D3)成分としては、下記式(6)で示される化合物が挙げられる。
【0111】
【0112】
(式中、R14は、水素原子またはメチル基であり、
R15は、水素原子、メチルジメトキシシリル基、トリメトキシシリル基、またはグリシジル基であり、
iは、0~10の整数であり、
jは、0~20の整数である。)
上記式(6)で示される化合物を具体的に示すと以下の通りである。
【0113】
メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(特に平均分子量293)、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(特に平均分子量468)、メトキシポリエチレングリコールアクリレート(特に平均分子量218)、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、(特に平均分子量454)、ステアリルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、オクチルアクリレート、ラウリルアクリレート、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、グリシジルメタクリレート、トリデシルアクリレート、トリデシルメタクリレート、イソオクチルアクリレート、イソオクチルメタクリレート、イソデシルアクリレート、イソデシルメタアクリレート。
【0114】
前記(D)成分の配合量は、得られるフォトクロミック硬化体の硬度、機械的特性、並びに、発色濃度、および退色速度といったフォトクロミック特性を考慮すると、フォトクロミック硬化性組成物100質量部中、0質量部以上99重量部以下であることが好ましく、10質量部以上99重量部以下であることがより好ましく、50質量部以上99重量部以下とすることが更に好ましい。
【0115】
また、(D)成分は、前記(D1)成分、前記(D2)成分、必要に応じて、前記(D3)成分を含むことが好ましい。各成分の配合比は、得られるフォトクロミック硬化体の硬度、機械的特性、並びに、発色濃度、および退色速度といったフォトクロミック特性を考慮すると、前記(D1)成分30~80質量%、前記(D2)成分10~60質量%、前記(D3)成分0~20質量%とすることが好ましい。
【0116】
<(E)有機シロキサン基を有する化合物>
本発明のフォトクロミック硬化性組成物は、さらに(E)有機シロキサン基を有する化合物(以下、(E)成分ともいう。)を含んでいてもよい。
【0117】
前記(E)成分としては、特に制限されるものではなく、公知のものを使用することができ、特に鎖状の有機シロキサン基を有する化合物が好適である。
【0118】
中でも、有機基として、アルキル基、アリール基または重合性基を有する鎖状の有機シロキサン基が好ましく、また、(E1)鎖状の有機シロキサン基を有するシルセスキオキサン化合物(以下、(E1)成分ともいう。)、(E2)鎖状の有機シロキサン基と、(メタ)アクリレート基を分子内に2つ有する2官能(メタ)アクリレート(以下、(E2)成分ともいう。)、(E3)鎖状の有機シロキサン基と、(メタ)アクリレート基を1つ有する単官能(メタ)アクリレート(以下、(E3)成分ともいう。)が好ましい。
これら(E)成分について説明する。
【0119】
(E1)鎖状の有機シロキサン基を有するシルセスキオキサン化合物
(E1)成分は、下記式(8)で示される化合物である。
【0120】
【0121】
(式中、nは、重合度であり、3~100の整数であり、複数個あるR18は、互いに同一もしくは異なっていてもよく、少なくとも1個が鎖状の有機シロキサン基を含む有機基である。)
ここで、R18は、少なくとも1個が鎖状の有機シロキサン基を含む有機基である。前記鎖状の有機シロキサン基の有機基としては、アルキル基、アリール基または重合性が好ましく、アルキル基およびアリール基としては、炭素数が1~20の非置換またはフッ素で置換された、アルキル基、シクロアルキル基、アリールアルキル基、およびアリール基から選択される基が好ましい。前記アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基、ペンチル基、オクチル基などが挙げられるが、メチル基が特に好ましい。前記アリール基としては、フェニル基、4-トリフルオロメチルフェニル基、4-フルオロフェニル基が挙げられる。前記シクロアルキル基としては、炭素数が3~15のシクロアルキル基が挙げられる。重合性基としては、(メタ)アクリレート基が挙げられる。
【0122】
また、R18は、少なくとも1個が鎖状の有機シロキサン基であれば、他の基を有していてもよく、たとえば(メタ)アクリレート基を含む有機基を有していてもよい。前記(メタ)アクリレート基を含む有機基としては、(メタ)アクリレート基、(メタ)アクリロキシプロピル基、(3-(メタ)アクリロキシプロピル)ジメチルシロキシ基等が挙げられる。中でも(メタ)アクリロキシプロピル基が、前記(E)成分製造時の原料の入手が容易であり、優れたフォトクロミック特性を発現しつつ、高い膜強度を得ることができるため特に好ましい。
【0123】
前記(E1)成分の重量平均分子量Mwは、500~5,000であることが好ましく、(メタ)アクリレート基を含む場合の(メタ)アクリル当量は100~5,000であることが好ましい。なお、(E1)成分の重量平均分子量Mwは、ゲル浸透クロマトグラフィー法(GPC法)により測定した値である。
【0124】
一般にシルセスキオキサンは、ケージ状、ハシゴ状、ランダムといった種々の構造を取ることができるが、本発明で使用する(E1)成分は、1種類の構造の化合物を使用することもできるし、複数の構造の化合物の混合物として使用することもできる。混合物の場合、混合物の合計質量を(E1)成分の配合量と見なす。その中でも、(E1)成分は、複数の構造の化合物からなる混合物であることが好ましい。
【0125】
(E2)鎖状の有機シロキサン基と、(メタ)アクリレート基を分子内に2つ有する2官能(メタ)アクリレート
(E2)成分としては、下記式(9)で示される化合物が挙げられる。
【0126】
【0127】
(式中、R19ないしR24はそれぞれ独立に、非置換またはフッ素で置換された一価の炭化水素基、好ましくは炭素数が1~20の非置換またはフッ素で置換されたアルキル基、シクロアルキル基、アリールアルキル基、お及びアリール基から選択される基であって、前記のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基、ペンチル基、オクチル基が好ましく、メチル基が特に好ましく、
oは1以上の整数であり、好ましくは1~20の整数であり、
R25、R26は、水素原子またはメチル基である。)
上記式(9)で示される(E2)成分は、特に制限されず、例えば、以下の市販品である信越化学工業株式会社製のX-22-164、X-22-164AS、X-22-164A、X-22-164B、X-22-164C、X-22-164E、X-22-2245等を用いることができる。
【0128】
(E3)鎖状の有機シロキサン基と、(メタ)アクリレート基を1つ有する単官能(メタ)アクリレート
(E3)成分としては、下記式(10)で示される化合物が挙げられる。
【0129】
【0130】
(式中、R27ないしR33はそれぞれ独立に、非置換またはフッ素で置換された一価の炭化水素基、好ましくは炭素数が1~20の非置換またはフッ素で置換されたアルキル基、シクロアルキル基、アリールアルキル基、およびアリール基から選択される基であって、前記のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基、ペンチル基、オクチル基が好ましく、メチル基が特に好ましく、
pは1以上の整数であり、好ましくは1~20の整数であり、
R34は、水素原子またはメチル基である。)
上記式(10)で示される(E3)成分は、特に制限されず、例えば、以下の市販品である信越化学工業株式会社製のX-22-174ASX、X-22-174BX、KF-2012、X-22-2426、X-22-2404等を用いることができる。
【0131】
前記(E)成分の配合量は、得られるフォトクロミック硬化体の硬度、機械特性、並びに発色濃度、及び退色速度といったフォトクロミック特性、さらには外観不良を考慮すると、フォトクロミック硬化性組成物100質量部中、0.0001質量部以上15重量部以下であることが好適であり、0.0005質量部以上12重量部以下であることがより好ましく、0.001質量部以上10重量部以下とすることがさらに好ましく、フォトクロミック硬化性組成物の粘度、及びコーティング性を考慮すると、0.005質量部以上5質量部以下することが特に好ましい。
【0132】
<その他添加成分>
本発明で用いられるフォトクロミック硬化性組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、それ自体公知の各種配合剤、例えば、重合開始剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、紫外線安定剤、酸化防止剤、着色防止剤、帯電防止剤、蛍光染料、染料、顔料、香料等の各種安定剤、添加剤、溶剤、レベリング剤等を必要に応じて配合することができる。
【0133】
前記その他添加成分の使用量は、本発明の効果を損なわない限り、特に制限されるものではないが、通常、フォトクロミック硬化性組成物100質量部に対して、0.001~10質量部、特に0.01~7.5質量部、更に0.05~6質量部の範囲である。
【0134】
(重合開始剤)
重合開始剤には、熱重合開始剤と光重合開始剤とがあり、その具体例は以下のとおりである。
【0135】
熱重合開始剤としては、
ジアシルパーオキサイド;ベンゾイルパーオキサイド、p-クロロベンゾイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、
パーオキシエステル;t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサネート、t-ブチルパーオキシネオデカネート、クミルパーオキシネオデカネート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、
パーカーボネート;ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-sec-ブチルパーオキシジカーボネート、
アゾ化合物;アゾビスイソブチロニトリル
等が挙げられる。
【0136】
光重合開始剤としては、
アセトフェノン系化合物;1-フェニル-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、
α-ジカルボニル系化合物;1,2-ジフェニルエタンジオン、メチルフェニルグリコキシレート、
アシルフォスフィンオキシド系化合物;2,6-ジメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィン酸メチルエステル、2,6-ジクロルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド、2,6-ジメトキシベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド、
が挙げられる。
【0137】
なお、光重合開始剤を用いる場合には、3級アミン等の公知の重合硬化促進助剤を併用することもできる。
【0138】
(紫外線安定剤)
紫外線安定剤は、フォトクロミック化合物の耐久性を向上させることができるために好適に使用される。このような紫外線安定剤としては、ヒンダードアミン光安定剤、ヒンダードフェノール酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤などが知られている。特に好適な紫外線安定剤は、以下の通りである。
【0139】
ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート、旭電化工業株式会社製アデカスタブLA-52、LA-57、LA-62、LA-63、LA-67、LA-77、LA-82、LA-87、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチル-フェノール エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-t-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート]、チバ・スペシャリティー・ケミカルズ社製のIRGANOX 1010、1035、1075、1098、1135、1141、1222、1330、1425、1520、259、3114、3790、5057、565、254。
【0140】
前記紫外線安定剤の使用量は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されるものではないが、フォトクロミック硬化性組成物100質量部に対して、0.001~10質量部、特に0.01~3質量部の範囲である。特にヒンダードアミン光安定剤を用いる場合、フォトクロミック化合物の種類によって耐久性の向上効果に差がある結果、調整された発色色調の色ズレが生じないようにするため、フォトクロミック化合物1モル当り、0.5~30モル、より好ましくは1~20モル、さらに好ましくは2~15モルの量とするのがよい。
【0141】
また本発明のフォトクロミック硬化性組成物には、非反応性シリコーンオイルを配合してもよい。前記非反応性シリコーンオイルは、本発明のフォトクロミック硬化体の表面に傷防止用保護フィルムを貼り付ける場合、該傷防止用保護フィルムの粘着剤が前記フォトクロミック硬化体表面に付着することを防止する効果を付与することができる。前記非反応性シリコーンオイルは、特に制限されず、市販品の信越化学工業株式会社製のKF-351A、KF-352A、FL-5、X-22-821、X-22-822、KF-412、KF-414等を用いることができる。
【0142】
また、前記フォトクロミック硬化性組成物のSP値は、特には限定されないが、コーティング性を考慮すると、5.0~15.0であることが好ましく、6.0~14.0であることがより好ましく、7.0~13.0であることが更に好ましく、8.0~12.0であることが特に好ましい。
【0143】
<フォトクロミック硬化体および積層体>
本発明のフォトクロミック硬化体は、各成分を混練して前記フォトクロミック硬化性組成物を調製し、これを硬化させることにより得ることができる
フォトクロミック硬化体を作製するための硬化は、紫外線、α線、β線、γ線、LED等の活性エネルギー線の照射、熱、あるいは両者の併用等により、ラジカル重合反応により行われる。即ち、用いる重合性単量体や重合硬化促進剤の種類及び形成されるフォトクロミック硬化体の形態に応じて、適宜の効果手段を採用すればよい。本発明において、フォトクロミック硬化体を後述するコーティング法によって形成する場合には、均一な膜厚が得られる理由から、光重合を採用することが好ましい。
【0144】
本発明において、フォトクロミック硬化性組成物を光重合させる際には、硬化条件のうち、特にUV強度は得られるフォトクロミック硬化体の性状に影響を与える。この照度条件は、光重合開始剤の種類と量や重合性単量体の種類によって影響を受けるので一概に限定はできないが、一般的に365nmの波長で10~500mW/cm2のUV光を0.1~5分の時間で光照射するように条件を選ぶのが好ましい。
【0145】
積層法(コーティング法)によりフォトクロミック積層体を得る場合には、フォトクロミック硬化性組成物を塗布液として使用し、スピンコートやディッピング等により、レンズ基材等の光学基材の表面に該塗布液を塗布し、次いで、窒素などの不活性ガス中でのUV照射や加熱等により重合硬化を行うことにより、光学基材の表面にフォトクロミック硬化体からなるフォトクロミック層が積層される。
【0146】
上記のような積層法(コーティング法)によりフォトクロミック積層体を光学基材の表面に形成する場合には、予め光学基材の表面に、アルカリ溶液、酸溶液などによる化学的処理、コロナ放電、プラズマ放電、研磨などによる物理的処理を行っておくことにより、フォトクロミック積層体と光学基材との密着性を高めることもできる。勿論、光学基材の表面に透明な接着樹脂層を設けておくことも可能である。
【0147】
上述した本発明のフォトクロミック硬化性組成物は、発色濃度や退色速度等に優れたフォトクロミック性を発現させることができ、しかも、機械的強度等の特性を低減させることもなく、フォトクロミック性が付与された光学基材、例えばフォトクロミックレンズの作製に有効に利用される。なお、前記にはコーティング法について説明したが、本発明のフォトクロミック硬化性組成物は、注型重合によりフォトクロミック硬化体を製造することもできる。
【0148】
また、本発明のフォトクロミック硬化性組成物により形成されるフォトクロミック層やフォトクロミック硬化体は、その用途に応じて、分散染料などの染料を用いる染色、シランカップリング剤やケイ素、ジルコニウム、アンチモン、アルミニウム、スズ、タングステン等のゾルを主成分とするハードコート剤を用いてのハードコート膜の作成、SiO2、TiO2、ZrO2等の金属酸化物の蒸着による薄膜形成、有機高分子を塗布しての薄膜による反射防止処理、帯電防止処理等の後加工を施すことも可能である。
【0149】
上記フォトクロミック硬化体の外観向上の観点から、フォトクロミック硬化体のビッカーズ硬度は3以上8以下であることが好ましく、3.5以上7.5以下であることがより好ましく、4以上7以下であることが特に好ましい。
【0150】
本発明のフォトクロミック硬化体は、表面を保護する目的で傷防止用保護フィルムを張り付けてもよい。
【0151】
前記したようにフォトクロミック硬化体の表面に傷防止用保護フィルムを貼り付ける場合、傷防止用保護フィルムの粘着剤が前記硬化体表面に付着し、前記硬化体が粘着剤に起因するしわ状の外観不良が生じることを改善する観点から、フォトクロミック硬化性組成物と粘着剤とのSP値が、一定の差であることが好ましい。
【0152】
前記フォトクロミック硬化性組成物と傷防止用保護フィルムの粘着剤のSP値の差の上限は特に限定されないが、接着性の観点から5以下であることが好ましい。フォトクロミック硬化性組成物と傷防止用保護フィルムの粘着剤のSP値の差は0.05~5であることが好ましく、0.075~4であることがより好ましく、0.1~3であることが特に好ましい。なお、ここでいるSP(溶解度パラメータ)値は、物質の極性に係る指標であり、多くの化学種の相互の溶解度と経験的に関連している。このSP値は、日本化学会編集の化学便覧応用編(1973年刊)、及びPolymer Handbook(第4版、Johannnes Brandrup及びE.H.Immergut編、1998年刊)における溶解度パラメータδの記載に準じて計算することができる。
【0153】
また、フォトクロミック硬化体に傷防止用保護フィルムを貼り付ける場合、傷防止用保護フィルムの粘着剤が硬化体表面に付着する外観不良を改善する観点から、フォトクロミック硬化体はエチレングリコールに対する接触角が高い方が好ましく、50度以上であることが好ましい。なお、フォトクロミック硬化体とエチレングリコールの接触角は50度以上であれば上限は特に限定されないが、180度未満であることが好ましい。50度以上であることにより、上記外観不良を低減するのに十分であり、上記接触角は50度以上150度以下であることがより好ましく、50度以上90度以下であることが更に好ましい。
【0154】
また本発明は、(C)フォトクロミック化合物を含むフォトクロック硬化性組成物であって、
(I)フォトクロミック硬化性のSP値が8.0~12.0、
(II)前記フォトクロミック硬化性組成物を硬化させて得られるフォトクロミック硬化体の表面に貼り付ける傷防止用保護フィルムの粘着剤のSP値と、フォトクロミック硬化性組成物のSP値との差が0.05~5、
(III)前記フォトクロミック硬化性組成物を硬化させて得られるフォトクロミック硬化体のエチレングリコールとの接触角が50度以上180度未満、
(IV)前記フォトクロミック硬化性組成物を硬化させて得られるフォトクロミック硬化体のビッカーズ硬度は3以上8以下、
であるフォトクロミック硬化性組成物も提供する。
【0155】
前記フォトクロミック硬化性組成物は、上記を満足すれば、特に限定されず、前記した(C)成分以外の、(A)成分および(B)成分の組み合わせ以外の組成でもよい。
【0156】
中でも、前記した(E)成分を用いることにより、好適に前記フォトクロミック硬化性組成物とすることができる。すなわち、前記フォトクロミック硬化性組成物は、(E)有機シロキサン基を有する化合物を含んでいることが好ましく、該(E)有機シロキサンを有する化合物がフォトクロミック硬化性組成物100質量部中、0.0001質量部以上15質量部以下であることが好ましく、前記有機シロキサン基を有する化合物が、有機基としてのアルキル基および/または重合性基を有する化合物であることが好ましく、該重合性基の少なくとも一つが(メタ)アクリレート基であることが好ましい。
【0157】
前記フォトクロミック硬化性組成物のSP値は、コーティング性の観点から8.0~12.0であり、8.5~12.0であることが好ましく、9.0~11.5であることがより好ましい。
【0158】
また、前記フォトクロミック硬化性組成物を硬化させて得られるフォトクロミック硬化体の表面に貼り付ける傷防止用保護フィルムの粘着剤のSP値と、フォトクロミック硬化性組成物のSP値との差は、傷防止用保護フィルムの粘着剤が前記硬化体表面に付着することによって、前記フォトクロミック硬化体に粘着剤が起因するしわ状の外観不良が生じることを改善する観
点から、0.05~5であり、0.075~4であることがより好ましく、0.1~3であることが特に好ましい。なお、ここでいるSP(溶解度パラメータ)値は、物質の極性に係る指標であり、多くの化学種の相互の溶解度と経験的に関連している。このSP値は、日本化学会編集の化学便覧応用編(1973年刊)、及びPolymer Handbook(第4版、Johannnes Brandrup及びE.H.Immergut編、1998年刊)における溶解度パラメータδの記載に準じて計算することができる。
【0159】
前記フォトクロミック硬化性組成物を硬化させて得られるフォトクロミック硬化体のエチレングリコールとの接触角は、傷防止用保護フィルムの粘着剤がフォトクロミック硬化体表面に付着する外観不良を改善する観点から、50度以上180度未満であり、50度以上150度以下であることがより好ましく、50度以上90度以下であることが更に好ましい。
【実施例0160】
次に、実施例及び比較例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。上記の各成分及び評価方法等は、以下の通りである。
【0161】
(A)成分
RX-1:(メタ)アクリレート基を有するポリロタキサン
(国際公開第WO2018/030275号に記載の方法に従って、以下の特性を満足する(メタ)アクリレート基を有するポリロタキサンを合成した。
(メタ)アクリレート基を有するポリロタキサンの重量平均分子量Mw(GPC);180,000
アクリレート基変性割合:80モル%
側鎖に残存するOH基の割合;20モル%)
軸分子;分子量11,000の直鎖状ポリエチレングリコール(PEG)
包接環;α-シクロデキストリン(α-CD) 導入割合0.25
軸分子の末端;アダマンタンで封止
包接環に導入した側鎖;側鎖の(平均)分子量が約500
【0162】
(B)成分
PMS-1:下記方法によって合成した(メタ)アクリレート基を有するシルセスキオキサン
(PMS1の合成)
3-トリメトキシシリルプロピルメタクリレート248g(1.0mol)にエタノール248mlおよび水54g(3.0mol)を加え、触媒として水酸化ナトリウム0.20g(0.005mol)を添加し、30℃で3時間反応させた。原料の消失を確認後、希塩酸で中和し、トルエン174ml、ヘプタン174ml、および水174gを添加し、水層を除去した。その後、水層が中性になるまで有機層を水洗し、溶媒を濃縮することによって本発明で用いられるシルセスキオキサン(PMS1)を得た。なお、1H-NMRより、原料は完全に消費されていることを確認した。また、29Si-NMRより、ケージ状構造、ラダー状構造およびランダム構造の混合物であることを確認した。
【0163】
本発明で用いられるシルセスキオキサン(PMS1)に含まれる酸性成分は次に記す滴定を行うことで酸価を定量して評価した。
【0164】
2mlミクロビューレットに0.1mol/L水酸化カリウムアルコール溶液(エタノール性)溶液(以下、測定液)をセットし、スターラーを準備した。メスシリンダーを用い、エタノールとトルエンを50mlずつ精秤し、200mlビーカーに入れ、スターラーにて撹拌混合した。フェノールフタレイン溶液3滴を加え、滴定液にて空滴定を行った。空滴定後の溶液に試料20gを入れ、スターラーにて撹拌混合した。さらに、フェノールフタレイン溶液3滴を加え、滴定液にて試料滴定を行って滴定量を得た。酸価の計算方法は以下の式に基づいて計算した。
【0165】
酸価(mgKOH/g)=滴定量(ml)×滴定液f×5.6÷試料量(g)
ここで、fは標準塩酸溶液を用いて求めた滴定液のファクターを示す。上記方法で使用したN/10水酸化カリウムアルコール溶液のfは0.094であった。また、試料量は試料中に含まれるシルセスキオキサンの重量である。
【0166】
この方法に従って測定したPMS1の酸価は1.1mgKOH/gであった。
【0167】
本発明で用いられるシルセスキオキサン(PMS1)の分子量分布は、ゲル浸透クロマトグラフィー法(GPC法)により測定した。
【0168】
装置としては、液体クロマトグラフ装置(日本ウォーターズ社製)を用いた。カラムとしては、Shodex GPC KF-802(排除限界分子量:5000、昭和電工株式会社製)、Shodex GPC GPC KF802.5(排除限界分子量:20000、昭和電工株式会社製)及びShodex GPC KF-803(排除限界分子量:70000、昭和電工株式会社製)を使用した。
【0169】
また、展開液としてテトラヒドロフランを用い、流速1ml/min、温度40℃の条件にて測定した。標準試料にポリスチレンを用い、比較換算により重量平均分子量を求めたところ、PMS1の重量平均分子量は4800であった。
【0170】
(C)成分
PC1:下記式で表される化合物
【0171】
【0172】
PC2:特願2017/213247号等に記載の方法で合成された下記式で表わされる化合物
【0173】
【0174】
PC3:WO2012/149599号記載の方法で合成された分子量2000のポリプロピレングリコール鎖の両末端にフォトクロミック化合物が結合した下記式で表される化合物
【0175】
(D)成分
(D1-1)成分;
9G:ポリエチレングリコールジメタクリレート(エチレングリコール鎖の平均差超9、平均分子量536)
14G;ポリエチレングリコールジメタクリレート(エチレングリコール鎖の平均鎖長14、平均分子量736)
(D1-3)成分;
A-400;ポリエチレングリコールジアクリレート(エチレングリコール鎖の平均鎖長9、平均分子量508)
(D1-5)成分;
PBA;ポリブタジエンジアクリレート(CN307)
(D2-1)成分;
TMPT;トリメチロールプロパントリメタクリレート
D-TMP;ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート
(D2-3)成分;
DPH;A-DPH-6P
HBA;ポリエステルアクリレート(CN2300)
(D3)成分;
SI-1:γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン
GMA:グリシジルメタクリレート
STM;ステアリルメタクリレート
【0176】
(E)成分
(E1)成分:A SI-20(AC-SQ SI-20、東亞合成株式会社製);アクリロキシプロピル基とポリジメチルシロキサン基を有するシルセスキオキサン
(E2)成分;X-22-164A(信越化学工業株式会社製)
(E3)成分;X-22-174BX(信越化学工業株式会社製)
【0177】
(重合開始剤)
CGI1:フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-ホスフィンオキシド(商品名:Omnirad819、IGM社製)(重合開始剤)
CGI2:1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(商品名:Omnirad184、IGM社製)(重合開始剤)
【0178】
(その他添加成分)
HALS:ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート(分子量508)(紫外線安定剤)
HP:エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート](チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、Irganox245)(安定剤)
FZ2110:(商品名:FZ2110、東レ・ダウコーニング株式会社製)(レベリング剤)
L7001:(商品名:L7001、東レ・ダウコーニング株式会社製)(レベリング剤)
【0179】
<実施例1>
フォトクロミック硬化性組成物の調整、およびフォトクロミック硬化体(フォトクロミック硬化体)の作製・評価に関して、下記処方により、各成分を十分に混合し、フォトクロミック硬化性組成物を調製した。
処方;
(フォトクロミック硬化性組成物)
(A)成分;RX-1 3質量部
(B)成分;PMS-1 0.015質量部
(C)成分;PC1 2質量部
(D)成分;
(D1-1)成分;9G 40質量部
(D1-2)成分;A-400 18.485質量部
(D2-1)成分;TMPT 30質量部
(D3)成分;SI-1 5.5質量部、GMA 1質量部
その他添加成分:
(重合開始剤);CGI-1 0.3質量部、CGI-2 0.3質量部
(安定剤);HALS 3質量部、HP 1質量部
(フォトクロミック積層体(フォトクロミック硬化体)の作製と評価)
前記フォトクロミック硬化性組成物を用い、積層法によりフォトクロミック積層体を得た。硬化方法を以下に示す。
【0180】
まず、光学基材として中心厚が2mmで屈折率が1.60のチオウレタン系プラスチックレンズを用意した。なお、このチオウレタン系プラスチックレンズは、事前に10%水酸化ナトリウム水溶液を用いて、50℃で5分間のアルカリエッチングを行い、その後十分に蒸留水で洗浄を実施した。
【0181】
スピンコーター(1H-DX2、MIKASA製)を用いて、上記のプラスチックレンズの表面に、湿気硬化型プライマー(製品名;TR-SC-P、(株)トクヤマ製)を回転数70rpmで15秒、続いて1000rpmで10秒コートした。その後、上記で得られたフォトクロミック組成物 約2gを、回転数60rpmで40秒、続いて600rpmで10~20秒かけて、フォトクロミックコーティング層の膜厚が40μmになるようにスピンコートした。
【0182】
このようにコーティング剤が表面に塗布されているレンズを、窒素ガス雰囲気中で出力200mW/cm2のメタルハライドランプを用いて、90秒間光を照射し、塗膜を硬化させた。その後さらに110℃で1時間加熱して、フォトクロミック層を有するフォトクロミック積層体を作製した。
【0183】
(評価方法)
(フォトクロミック性)
得られたフォトクロミック光学物品を試料とし、これに株式会社浜松ホトニクス製のキセノンランプL-2480(300W)SHL-100を、エアロマスフィルター(コーニング社製)を介して20±1℃、フォトクロミック光学物品表面でのビーム強度365nm=2.4mW/cm2、245nm=24μW/cm2で120秒間照射して発色させ、フォトクロミック性を測定した。
・最大吸収波長(λmax):
株式会社大塚電子工業製の分光光度計(瞬間マルチチャンネルフォトディテクターMCPD1000)により求めた発色後の最大吸収波長である。該最大吸収波長は発色時の色調に関係する。
・発色濃度{ε(120)-ε(0)}:
前記最大吸収波長における、120秒間光照射した後の吸光度{ε(120)}と光照射前の吸光度ε(0)との差。この値が高いほどフォトクロミック性が優れているといえる。
・退色速度〔t1/2(sec.)〕:
120秒間光照射後、光の照射を止めたときに、試料の前記最大吸収波長における吸光度が{ε(120)-ε(0)}の1/2まで低下するのに要する時間。この時間が短いほどフォトクロミック性が優れているといえる。
【0184】
(外観等)
・外観(オレンジピール、クラック、しわ不良)評価
得られたフォトクロミック光学物品を光学顕微鏡、照明装置(QC X75、バルブトロニクス社製)にて観察評価した。しわ不良は得られたフォトクロミック光学物品にBlue Film(HYN-06)を貼り付け、70℃1時間加熱した。Filmを剥がした後のフォトクロミック光学物品を光学顕微鏡、照明装置(QC X75、バルブトロニクス社製)にて観察評価した。評価基準を以下に示す。
A:均一であり外観不良は全く見られない
B:ごくわずかに微細な外観不良が見られる
C:部分的に外観不良が見られる
D:全体的に外観不良が見られる
【0185】
(密着性)
JISD-0202に準じてクロスカットテープ試験によって行った。即ち、カッターナイフを使い、得られたフォトクロミック光学物品の表面に1mm間隔に切れ目を入れ、マス目を100個形成させる。その上にセロファン粘着テープ(ニチバン株式会社製セロテープ(登録商標))を強く貼り付け、次いで、表面から90°方向へ一気に引っ張り剥離した後、フォトクロミック光学物品が残っているマス目を評価した。
【0186】
(エチレングリコールに対する接触角)
フォトクロミック積層体に対して、自動接触角計DM500(協和界面化学株式会社製)を用い、エチレングリコール(2.0μl)をフォトクロミック層に滴下した際にできる液滴に対し、滴下5秒後におけるフォトクロミック積層体の映連グリコールに対する接触角について5回測定を行いその平均値を結果とした。
【0187】
(ビッカーズ硬度)
ビッカーズ硬度は、マイクロビッカーズ硬度計PMT-X7A(株式会社マツザワ製)を用いて測定した。圧子には、四角錐型ダイヤモンド圧子を用い、荷重10gf、圧子の保持時間30秒の条件で測定した。測定結果は、計4回の測定を行い、測定誤差の大きい1回目の値を除いた計3回の平均値で示した。
【0188】
(SP値評価)
用いるフォトクロミック硬化性組成物、及び傷防止用保護フィルム(商品名:HYN-06)上の粘着剤のSP値を、日本化学会編集の化学便覧応用編(1973年刊)、及びPolymer Handbook(第4版、Johannnes Brandrup及びE.H.Immergut編、1998年刊)における溶解度パラメータδの記載に準じて計算し、評価した。
【0189】
<実施例2~19>
表1または表3に記載した各成分を用いた以外は、実施例1と同様にしてフォトクロミック硬化性組成物を調製し、また実施例1と同様にしてフォトクロミック積層体を作製し、評価を行った。評価結果を表2または表4に示す。
【0190】
<比較例1~4>
表1または表3に記載した各成分を用いた以外は、実施例1と同様にしてフォトクロミック硬化性組成物を調製し、また実施例1と同様にしてフォトクロミック積層体を作製し、評価を行った。評価結果を表2または表4に示す。
【0191】
【0192】
【0193】
【0194】