IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JNC株式会社の特許一覧 ▶ JNC石油化学株式会社の特許一覧

特開2022-31104液晶調光素子用液晶組成物および液晶調光素子
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022031104
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】液晶調光素子用液晶組成物および液晶調光素子
(51)【国際特許分類】
   C09K 19/12 20060101AFI20220210BHJP
   C09K 19/56 20060101ALI20220210BHJP
   C09K 19/30 20060101ALI20220210BHJP
   C09K 19/34 20060101ALI20220210BHJP
   C09K 19/14 20060101ALI20220210BHJP
   C09K 19/16 20060101ALI20220210BHJP
   C09K 19/20 20060101ALI20220210BHJP
   G02F 1/13 20060101ALI20220210BHJP
   G02F 1/137 20060101ALI20220210BHJP
【FI】
C09K19/12
C09K19/56
C09K19/30
C09K19/34
C09K19/14
C09K19/16
C09K19/20
G02F1/13 500
G02F1/137 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021037298
(22)【出願日】2021-03-09
(31)【優先権主張番号】P 2020132814
(32)【優先日】2020-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】596032100
【氏名又は名称】JNC石油化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】平井 吉治
(72)【発明者】
【氏名】引頭 響子
【テーマコード(参考)】
2H088
4H027
【Fターム(参考)】
2H088EA34
2H088GA02
2H088GA13
2H088GA17
2H088HA01
2H088HA02
2H088HA03
2H088JA05
2H088JA13
2H088KA12
2H088KA13
4H027BA02
4H027BB02
4H027BD02
4H027BD03
4H027BD05
4H027BD07
4H027BD08
4H027BD10
4H027BD13
4H027BD16
4H027BD24
4H027CA04
4H027CD01
4H027CE04
4H027CG04
4H027CG05
4H027CH04
4H027CK04
4H027CL01
4H027CM01
4H027CM04
4H027CQ01
4H027CQ04
4H027CR04
4H027CT01
4H027CT03
4H027CT04
4H027CU01
4H027CU04
4H027CU05
4H027CW01
4H027CW03
4H027CX01
4H027DH04
4H027DN08
(57)【要約】
【課題】 高い上限温度、低い下限温度、小さな粘度、大きな光学異方性、正に大きな誘電率異方性、大きな比抵抗、光に対する高い安定性、熱に対する高い安定性、大きな弾性定数、小さならせんピッチ、優れた保管安定性のような特性の少なくとも1つを充足する、またはこれらの特性の少なくとも2つのあいだで適切なバランスを有するゲストホスト型の液晶調光素子用液晶組成物を提供し、そしてこの組成物を用いた液晶調光素子を提供する。
【解決手段】 正に大きな誘電率異方性を有する液晶組成物と、オクタヒドロビナフタレン構造を有する光学活性化合物と、特定種の二色性色素を含有する液晶調光素子用液晶組成物を用いる。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶組成物、光学活性化合物および二色性色素を含有し、
液晶組成物が、成分Aとして式(1)で表される化合物から選択された少なくとも1つの液晶化合物を含有し、
光学活性化合物が、式(K1)および式(K2)で表される化合物群から選択された少なくとも1つの化合物を含有し、二色性色素が、アゾ化合物、ベンゾチアジアゾール類、ジケトピロロピロール類からなる群から選択された少なくとも1つの化合物と、アントラキノン類からなる群から選択された少なくとも1つの化合物とを含む、液晶調光素子用液晶組成物。



式(1)において、Rは、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、または炭素数2から12のアルケニルであり;環Aは、1,4-シクロヘキシレン、1,4-フェニレン、2-フルオロ-1,4-フェニレン、2,3-ジフルオロ-1,4-フェニレン、2,6-ジフルオロ-1,4-フェニレン、ピリミジン-2,5-ジイル、1,3-ジオキサン-2,5-ジイル、またはテトラヒドロピラン-2,5-ジイルであり;Zは、単結合、エチレン、ビニレン、エチニレン、メチレンオキシ、カルボニルオキシ、またはジフルオロメチレンオキシであり;XおよびXは、水素またはフッ素であり;Yは、フッ素、塩素、シアノ、少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数1から12のアルキル、少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数1から12のアルコキシ、または少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数2から12のアルケニルオキシであり;aは、1、2、3、または4であり;
式(K1)および式(K2)において、
は、水素、ハロゲン、-C≡N、-N=C=O、-N=C=Sまたは炭素数1から12のアルキルであり、このRにおいて、少なくとも1つの-CH-は-O-、-S-、-COO-または-OCO-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH-CH-は-CH=CH-、-CF=CF-または-C≡C-で置き換えられもよく、少なくとも1つの水素はフッ素または塩素で置き換えられてもよく;
は、芳香族性の6から8員環、非芳香族性の3から8員環、または、炭素数9以上の縮合環であり、このAにおいて、少なくとも1つの水素はハロゲン、炭素数1から3のアルキルまたはハロアルキルで置き換えられてもよく、-CH-は-O-、-S-または-NH-で置き換えられてもよく、-CH=は-N=で置き換えられてもよく;
は、単結合、炭素数1から8のアルキレンであり、このZにおいて、少なくとも1つの-CH-は、-O-、-S-、-COO-、-OCO-、-CSO-、-OCS-、-N=N-、-CH=N-または-N=CH-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH-CH-は-CH=CH-、-CF=CF-または-C≡C-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの水素はハロゲンで置き換えられてもよく;
は、単結合、-COO-、-OCO-、-CHO-、-OCH-、-CFO-、-OCF-、または-CHCH-であり;
mKは、1から3の整数である。
【請求項2】
液晶組成物が成分Aとして式(1-1)から式(1-47)で表される化合物から選択された少なくとも1つの化合物を含有する、請求項1に記載の液晶調光素子用液晶組成物。







式(1-1)から式(1-47)において、Rは、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、または炭素数2から12のアルケニルであり、XおよびXは、水素またはフッ素であり;Yは、フッ素、塩素、シアノ、少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数1から12のアルキル、少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数1から12のアルコキシ、または少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数2から12のアルケニルオキシである。
【請求項3】
液晶組成物全量に基づいて、成分Aの割合が5%から90%の範囲である、請求項1または2に記載の液晶調光素子用液晶組成物。
【請求項4】
液晶組成物が成分Bとして式(2)で表される化合物から選択された少なくとも1つの化合物を含有する、請求項1から3のいずれか1項に記載の液晶調光素子用液晶組成物。


式(2)において、RおよびRは、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルケニル、または少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数2から12のアルケニルであり;環Bおよび環Cは、1,4-シクロヘキシレン、1,3-フェニレン、1,4-フェニレン、2-フルオロ-1,4-フェニレン、2,5-ジフルオロ-1,4-フェニレン、またはピリミジン-2,5-ジイルであり;Zは、単結合、エチレン、ビニレン、エチニレン、メチレンオキシ、またはカルボニルオキシであり;bは、1、2、3または4である。
【請求項5】
液晶組成物が成分Bとして式(2-1)から式(2-25)で表される化合物から選択された少なくとも1つの化合物を含有する、請求項1から4のいずれか1項に記載の液晶調光素子用液晶組成物。



式(2-1)から式(2-25)において、RおよびRは、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルケニル、または少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数2から12のアルケニルである。
【請求項6】
液晶組成物全量に基づいて、成分Bの割合が5%から90%の範囲である、請求項4または5に記載の液晶調光素子用液晶組成物。
【請求項7】
液晶組成物が成分Cとして式(3)で表される化合物から選択された少なくとも1つの化合物を含有する、請求項1から6のいずれか1項に記載の液晶調光素子用液晶組成物。


式(3)において、RおよびRは、水素、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルケニル、または炭素数2から12のアルケニルオキシであり;環Dおよび環Fは、1,4-シクロヘキシレン、1,4-シクロヘキセニレン、テトラヒドロピラン-2,5-ジイル、1,4-フェニレン、少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた1,4-フェニレン、ナフタレン-2,6-ジイル、少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられたナフタレン-2,6-ジイル、クロマン-2,6-ジイル、または少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられたクロマン-2,6-ジイルであり;環Eは、2,3-ジフルオロ-1,4-フェニレン、2-クロロ-3-フルオロ-1,4-フェニレン、2,3-ジフルオロ-5-メチル-1,4-フェニレン、3,4,5-トリフルオロナフタレン-2,6-ジイル、7,8-ジフルオロクロマン-2,6-ジイル、3,4,5,6-テトラフルオロフルオレン-2,7-ジイル、4,6-ジフルオロジベンゾフラン-3,7-ジイル、4,6-ジフルオロジベンゾチオフェン-3,7-ジイル、または1,1,6,7-テトラフルオロインダン-2,5-ジイルであり;ZおよびZは、単結合、エチレン、ビニレン、メチレンオキシ、またはカルボニルオキシであり;cは、0、1、2、または3であり、dは0または1であり、cとdとの和は3以下である。
【請求項8】
液晶組成物が成分Cとして式(3-1)から式(3-35)で表される化合物から選択された少なくとも1つの化合物を含有する、請求項1から7のいずれか1項に記載の液晶調光素子用液晶組成物。





式(3-1)から式(3-35)において、RおよびRは、水素、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルケニル、または炭素数2から12のアルケニルオキシである。
【請求項9】
液晶組成物全量に基づいて、成分Cの割合が3%から25%の範囲である、請求項7または8に記載の液晶調光素子用液晶組成物。
【請求項10】
光学活性化合物として、式(K1-1)から式(K1-7)および式(K2-1)から式(K2-4)で表される化合物から選択された少なくとも1つの化合物を含有する、請求項1から9のいずれか1項に記載の液晶調光素子用液晶組成物。



は、水素、または炭素数1から12のアルキルであり、このRにおいて、少なくとも1つの-CH-は-O-、-S-、-COO-または-OCO-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH-CH-は-CH=CH-、-CF=CF-または-C≡C-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの水素はフッ素または塩素で置き換えられてもよい。
【請求項11】
液晶組成物全量に基づいて、光学活性化合物の割合が0.01重量部から5重量部の範囲である、請求項1から10のいずれか1項に記載の液晶調光素子用液晶組成物。
【請求項12】
らせんピッチが2μmから20μmの範囲である、請求項1から11のいずれか1項に記載の液晶調光素子用液晶組成物。
【請求項13】
二色性色素が、アゾ化合物から選択された少なくとも1つの化合物と、アントラキノン類から選択された少なくとも1つの化合物とを含む、請求項1から12のいずれか1項に記載の液晶調光素子用液晶組成物。
【請求項14】
液晶組成物全量に基づいて、二色性色素の割合が0.01重量部から25重量部の範囲である、請求項1から13のいずれか1項に記載の液晶調光素子用液晶組成物。
【請求項15】
調光層が請求項1から14のいずれか1項に記載の液晶調光素子用液晶組成物であり、調光層が一対の透明基板により挟持され、透明基板が透明電極を有する、液晶調光素子。
【請求項16】
透明基板がガラス板またはアクリル板である、請求項15に記載の液晶調光素子。
【請求項17】
透明基板がプラスチックフィルムである、請求項15に記載の液晶調光素子。
【請求項18】
請求項15から17のいずれか1項に記載の液晶調光素子を使用する調光窓。
【請求項19】
請求項15から17のいずれか1項に記載の液晶調光素子を使用するスマートウィンドウ。
【請求項20】
請求項1から14のいずれか1項に記載の液晶調光素子用液晶組成物の、透明基板がプラスチックフィルムである液晶調光素子への使用。
【請求項21】
請求項1から14のいずれか1項に記載の液晶調光素子用液晶組成物の、調光窓への使用。
【請求項22】
請求項1から14のいずれか1項に記載の液晶調光素子用液晶組成物の、スマートウィンドウへの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として液晶調光素子に関する。更に詳しくは、正の誘電率異方性を有する液晶組成物、光学活性化合物、および二色性色素とを組み合せた、液晶調光素子用液晶組成物を有する液晶調光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶材料は、TVやスマートフォンに代表される文字や画像、映像を表示させる各種表示素子に利用されるだけではなく、光の透過を調節する調光素子としての利用も実用化されつつある。中でも、ホストとなる液晶組成物に二色性色素を添加した「ゲスト - ホスト(GH)型液晶組成物」を用いる場合には偏光板が不要になることから、低コストで透過率の高い調光素子が得られると期待されている。GH型液晶組成物については古くから検討されており、有用な素子性能(例えば、大きな二色比、高いコントラスト、液晶組成物との高い溶解性、優れた耐光性、優れた耐UV性、優れた耐熱性)を有する液晶表示素子や調光素子を開発する試みが行われてきた(特許文献1参照)。また、近年では、スマートウィンドウにおけるスイッチング範囲を広げるデバイスとして、ツイストネマチック液晶媒体を用いる方式が提案されている(特許文献2参照)
【0003】
一方、二色性色素を含有する液晶組成物においては、その構成する成分によって、液晶表示素子や調光素子への使用に適さないものがあり、更なる性能の向上が求められている。例えば、大きな二色比を得るためには、二色性色素を多量に液晶組成物に含有させる必要があり、二色性色素や液晶化合物が析出してしまう組成物溶解性の問題がある。特に、調光素子として利用するためには、広い温度範囲でネマチック液晶相を呈しなければならないが、色素の分子量は液晶化合物と比べて大きいため、低温での溶解性に課題がある。
【0004】
ツイストネマチック相を有する液晶組成物として、オクタヒドロビナフタレン骨格またはビナフタレン骨格を有する光学活性化合物を含むことを特徴とした誘電率異方性が正の液晶組成物が提案されている(特許文献3参照)。当該文献には、二色性色素を混合することに関して示唆はあるものの液晶調光用素子としての開示がなく、液晶調光素子としての検討は不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開1997/17415号
【特許文献2】特表2016-536634号公報
【特許文献3】特開2018-95668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、液晶組成物に特定構造を有する光学活性化合物と、二色性色素を組み合せることによって調光に適したゲストホスト型の液晶調光素子用液晶組成物を提供することである。別の課題は、ネマチック相の高い上限温度、ネマチック相の低い下限温度、小さな粘度、大きな光学異方性、正に大きな誘電率異方性、大きな比抵抗、光に対する高い安定性、熱に対する高い安定性、大きな弾性定数、小さならせんピッチのような特性の少なくとも1つを充足するゲストホスト型の液晶調光素子用液晶組成物を含有し、調光に適した液晶調光素子を提供することである。別の課題は、これらの特性の少なくとも2つのあいだで適切なバランスを有する液晶調光素子用液晶組成物を含有し、調光に適した液晶調光素子を提供することである。別の課題は、短い応答時間、大きな電圧保持率、低いしきい値電圧、小さなヘイズ率(輝点欠陥が少ない)、低温環境でも析出等が生じにくい良好な保管安定性、高い耐候性、長い寿命のような特性を有する液晶調光素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
液晶組成物、光学活性化合物および二色性色素を含有し、
液晶組成物が、成分Aとして式(1)で表される化合物から選択された少なくとも1つの液晶化合物を含有し、
光学活性化合物が、式(K1)および式(K2)で表されるオクタヒドロビナフタレン構造を有する化合物群から選択された少なくとも1つの化合物を含有し、
二色性色素が、アゾ化合物(azo compounds)、ベンゾチアジアゾール類(benzothiadiazoles)、ジケトピロロピロール類(diketopyrrolopyrroles)からなる群から選択された少なくとも1つの化合物と、アントラキノン類(anthraquinones)からなる群から選択された少なくとも1つの化合物とを含む、液晶調光素子用液晶組成物。



ここで、各式の記号の定義は後述する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の長所は、液晶組成物に特定構造の光学活性化合物と、特定の二色性色素を組み合せることによって調光に適した液晶調光素子用液晶組成物を提供することである。別の長所は、ネマチック相の高い上限温度、ネマチック相の低い下限温度、小さな粘度、大きな光学異方性、正に大きな誘電率異方性、大きな比抵抗、光に対する高い安定性、熱に対する高い安定性、大きな弾性定数、小さならせんピッチのような特性の少なくとも1つを充足する液晶調光素子用液晶組成物を含有し、調光に適した液晶調光素子を提供することである。別の長所は、これらの特性の少なくとも2つのあいだで適切なバランスを有する液晶調光素子用液晶組成物を含有し、調光に適した液晶調光素子を提供することである。別の長所は、短い応答時間、大きな電圧保持率、低いしきい値電圧、小さなヘイズ率(配向欠陥が少ない)、低温環境でも析出等が生じにくい良好な保管安定性、高い耐候性、長い寿命のような特性を有する液晶調光素子を提供することである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
この明細書では、「液晶性化合物」、「液晶組成物」、「光学活性化合物」、「二色性色素」、「液晶調光素子」などの用語を用いる。「液晶性化合物」は、ネマチック相、スメクチック相などの液晶相を有する化合物および液晶相を有しないが、ネマチック相の温度範囲、粘度、誘電率異方性のような特性を調節する目的で組成物に添加される化合物の総称である。この化合物は、例えば1,4-シクロヘキシレンや1,4-フェニレンのような六員環を有し、その分子(液晶分子)は棒状(rod-like)である。
【0010】
「液晶組成物」は、複数の液晶性化合物を混合することによって調製される。この液晶組成物に、光学活性化合物、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消光剤、二色性色素、消泡剤、極性化合物のような添加物が必要に応じて添加され、液晶調光素子用液晶組成物が調製される。液晶性化合物の割合は、添加物を添加した場合であっても、添加物を含まない液晶組成物に基づいた質量百分率(質量%)で表される。添加物の割合は、添加物を含まない液晶組成物に基づいた質量百分率で表される。すなわち、液晶性化合物や添加物の割合は、液晶性化合物の全量に基づいて算出される。なお、「質量%」の「質量」は、省略することがある。
【0011】
「液晶調光素子用液晶組成物」は、上記の調製処理によって生成する。「液晶調光素子」は、液晶調光素子用液晶組成物を有する素子であり、調光に用いられる液晶パネルおよび液晶モジュールの総称である。
【0012】
「ネマチック相の上限温度」を「上限温度」と略すことがある。「ネマチック相の下限温度」を「下限温度」と略すことがある。「誘電率異方性を上げる」の表現は、誘電率異方性が正である組成物のときは、その値が正に増加することを意味し、誘電率異方性が負である組成物のときは、その値が負に増加することを意味する。「電圧保持率が大きい」は、素子が初期段階において室温だけでなく上限温度に近い温度でも大きな電圧保持率を有し、そして長時間使用したあと室温だけでなく上限温度に近い温度でも素子は大きな電圧保持率を有することを意味する。組成物や素子の特性が経時変化試験によって検討されることがある。
【0013】


上記の化合物(1z)を例にして説明する。式(1z)において、六角形で囲んだαおよびβの記号はそれぞれ環αおよび環βに対応し、六員環、縮合環のような環を表す。添え字‘x’が2のとき、2つの環αが存在する。2つの環αが表す2つの基は、同一であってもよく、または異なってもよい。このルールは、添え字‘x’が2より大きいとき、任意の2つの環αに適用される。このルールは、結合基Zのような、他の記号にも適用される。環βの一辺を横切る斜線は、環β上の任意の水素が置換基(-Sp-P)で置き換えられてもよいことを表す。添え字‘y’は置き換えられた置換基の数を示す。添え字‘y’が0のとき、そのような置き換えはない。添え字‘y’が2以上のとき、環β上には複数の置換基(-Sp-P)が存在する。この場合にも、「同一であってもよく、または異なってもよい」のルールが適用される。なお、このルールは、Raの記号を複数の化合物に用いた場合にも適用される。
【0014】
式(1z)において、例えば、「RaおよびRbは、アルキル、アルコキシ、またはアルケニルである」の表現は、RaおよびRbが独立して、アルキル、アルコキシ、およびアルケニルの群から選択されることを意味する。すなわち、Raによって表される基とRbによって表される基が同一であってもよく、または異なってもよい。
【0015】
式(1z)で表される化合物から選択された少なくとも1つの化合物を「化合物(1z)」と略すことがある。「化合物(1z)」は、式(1z)で表される1つの化合物、2つの化合物の混合物、または3つ以上の化合物の混合物を意味する。他の式で表される化合物についても同様である。「式(1z)および式(2z)で表される化合物から選択された少なくとも1つの化合物」の表現は、化合物(1z)および化合物(2z)の群から選択された少なくとも1つの化合物を意味する。
【0016】
「主成分」は、混合物や組成物の中で最も大きな割合を占める成分を意味する。例えば、40%の化合物(1z)、35%の化合物(2z)、および25%の化合物(3z)の混合物において、主成分は、化合物(1z)である。成分が化合物(1z)のみであるときも、化合物(1z)は主成分と呼ばれる。化合物(1z)が単一の化合物であるときも、この化合物は主成分と呼ばれる。
【0017】
「少なくとも1つの‘A’」の表現は、‘A’の数は任意であることを意味する。「少なくとも1つの‘A’は、‘B’で置き換えられてもよい」の表現は、‘A’の数が1つのとき、‘A’の位置は任意であり、‘A’の数が2つ以上のときも、それらの位置は制限なく選択できる。「少なくとも1つの-CH-は-O-で置き換えられてもよい」の表現が使われることがある。この場合、-CH-CH-CH-は、隣接しない-CH-が-O-で置き換えられることによって-O-CH-O-に変換されてもよい。しかしながら、隣接した-CH-が-O-で置き換えられることはない。この置き換えでは-O-O-CH-(ペルオキシド)が生成するからである。
【0018】
液晶性化合物のアルキルは、直鎖状または分岐状であり、環状アルキルを含まない。直鎖状アルキルは、分岐状アルキルよりも好ましい。これらのことは、アルコキシ、アルケニルのような末端基についても同様である。1,4-シクロヘキシレンに関する立体配置は、上限温度を上げるためにシスよりもトランスが好ましい。2-フルオロ-1,4-フェニレンは左右非対称であるから、左向き(L)および右向き(R)が存在する。


テトラヒドロピラン-2,5-ジイルのような二価基においても同様である。カルボニルオキシのような結合基(-COO-または-OCO-)も同様である。
【0019】
本発明は、下記の項などである。
【0020】
項1. 液晶組成物、光学活性化合物および二色性色素を含有し、
液晶組成物が、成分Aとして式(1)で表される化合物から選択された少なくとも1つの液晶化合物を含有し、
光学活性化合物が、式(K1)および式(K2)で表される化合物群から選択された少なくとも1つの化合物を含有し、二色性色素が、アゾ化合物、ベンゾチアジアゾール類、ジケトピロロピロール類からなる群から選択された少なくとも1つの化合物と、アントラキノン類からなる群から選択された少なくとも1つの化合物とを含む、液晶調光素子用液晶組成物。



式(1)において、Rは、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、または炭素数2から12のアルケニルであり;環Aは、1,4-シクロヘキシレン、1,4-フェニレン、2-フルオロ-1,4-フェニレン、2,3-ジフルオロ-1,4-フェニレン、2,6-ジフルオロ-1,4-フェニレン、ピリミジン-2,5-ジイル、1,3-ジオキサン-2,5-ジイル、またはテトラヒドロピラン-2,5-ジイルであり;Zは、単結合、エチレン、ビニレン、エチニレン、メチレンオキシ、カルボニルオキシ、またはジフルオロメチレンオキシであり;XおよびXは、水素またはフッ素であり;Yは、フッ素、塩素、シアノ、少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数1から12のアルキル、少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数1から12のアルコキシ、または少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数2から12のアルケニルオキシであり;aは、1、2、3、または4であり;
式(K1)および式(K2)において、
は、水素、ハロゲン、-C≡N、-N=C=O、-N=C=Sまたは炭素数1から12のアルキルであり、このRにおいて、少なくとも1つの-CH-は-O-、-S-、-COO-または-OCO-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH-CH-は-CH=CH-、-CF=CF-または-C≡C-で置き換えられもよく、少なくとも1つの水素はフッ素または塩素で置き換えられてもよく;
は、芳香族性の6から8員環、非芳香族性の3から8員環、または、炭素数9以上の縮合環であり、このAにおいて、少なくとも1つの水素はハロゲン、炭素数1から3のアルキルまたはハロアルキルで置き換えられてもよく、-CH-は-O-、-S-または-NH-で置き換えられてもよく、-CH=は-N=で置き換えられてもよく;
は、単結合、炭素数1から8のアルキレンであり、このZにおいて、少なくとも1つの-CH-は、-O-、-S-、-COO-、-OCO-、-CSO-、-OCS-、-N=N-、-CH=N-または-N=CH-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH-CH-は-CH=CH-、-CF=CF-または-C≡C-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの水素はハロゲンで置き換えられてもよく;
は、単結合、-COO-、-OCO-、-CHO-、-OCH-、-CFO-、-OCF-、または-CHCH-であり;
mKは、1から3の整数である。
【0021】
項2. 液晶組成物が成分Aとして式(1-1)から式(1-47)で表される化合物から選択された少なくとも1つの化合物を含有する、項1に記載の液晶調光素子用液晶組成物。







式(1-1)から式(1-47)において、Rは、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、または炭素数2から12のアルケニルであり、XおよびXは、水素またはフッ素であり;Yは、フッ素、塩素、シアノ、少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数1から12のアルキル、少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数1から12のアルコキシ、または少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数2から12のアルケニルオキシである。
【0022】
項3. 液晶組成物全量に基づいて、成分Aの割合が5%から90%の範囲である、項1または2に記載の液晶調光素子用液晶組成物。
【0023】
項4. 液晶組成物が成分Bとして式(2)で表される化合物から選択された少なくとも1つの化合物を含有する、項1から3のいずれか1項に記載の液晶調光素子用液晶組成物。


式(2)において、RおよびRは、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルケニル、または少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数2から12のアルケニルであり;環Bおよび環Cは、1,4-シクロヘキシレン、1,3-フェニレン、1,4-フェニレン、2-フルオロ-1,4-フェニレン、2,5-ジフルオロ-1,4-フェニレン、またはピリミジン-2,5-ジイルであり;Zは、単結合、エチレン、ビニレン、エチニレン、メチレンオキシ、またはカルボニルオキシであり;bは、1、2、3または4である。
【0024】
項5. 液晶組成物が成分Bとして式(2-1)から式(2-25)で表される化合物から選択された少なくとも1つの化合物を含有する、項1から4のいずれか1項に記載の液晶調光素子用液晶組成物。



式(2-1)から式(2-25)において、RおよびRは、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルケニル、または少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数2から12のアルケニルである。
【0025】
項6. 液晶組成物全量に基づいて、成分Bの割合が5%から90%の範囲である、項4または5に記載の液晶調光素子用液晶組成物。
【0026】
項7. 液晶組成物が成分Cとして式(3)で表される化合物から選択された少なくとも1つの化合物を含有する、項1から6のいずれか1項に記載の液晶調光素子用液晶組成物。


式(3)において、RおよびRは、水素、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルケニル、または炭素数2から12のアルケニルオキシであり;環Dおよび環Fは、1,4-シクロヘキシレン、1,4-シクロヘキセニレン、テトラヒドロピラン-2,5-ジイル、1,4-フェニレン、少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた1,4-フェニレン、ナフタレン-2,6-ジイル、少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられたナフタレン-2,6-ジイル、クロマン-2,6-ジイル、または少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられたクロマン-2,6-ジイルであり;環Eは、2,3-ジフルオロ-1,4-フェニレン、2-クロロ-3-フルオロ-1,4-フェニレン、2,3-ジフルオロ-5-メチル-1,4-フェニレン、3,4,5-トリフルオロナフタレン-2,6-ジイル、7,8-ジフルオロクロマン-2,6-ジイル、3,4,5,6-テトラフルオロフルオレン-2,7-ジイル、4,6-ジフルオロジベンゾフラン-3,7-ジイル、4,6-ジフルオロジベンゾチオフェン-3,7-ジイル、または1,1,6,7-テトラフルオロインダン-2,5-ジイルであり;ZおよびZは、単結合、エチレン、ビニレン、メチレンオキシ、またはカルボニルオキシであり;cは、0、1、2、または3であり、dは0または1であり、cとdとの和は3以下である。
【0027】
項8. 液晶組成物が成分Cとして式(3-1)から式(3-35)で表される化合物から選択された少なくとも1つの化合物を含有する、項1から7のいずれか1項に記載の液晶調光素子用液晶組成物。





式(3-1)から式(3-35)において、RおよびRは、水素、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルケニル、または炭素数2から12のアルケニルオキシである。
【0028】
項9. 液晶組成物全量に基づいて、成分Cの割合が3%から25%の範囲である、項7または8に記載の液晶調光素子用液晶組成物。
【0029】
項10. 式(K1-1)から式(K1-7)および式(K2-1)から式(K2-4)で表される光学活性化合物から選択された少なくとも1つの化合物を含有する、項1から9のいずれか1項に記載の液晶調光素子用液晶組成物。



は、水素、または炭素数1から12のアルキルであり、このRにおいて、少なくとも1つの-CH-は-O-、-S-、-COO-または-OCO-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH-CH-は-CH=CH-、-CF=CF-または-C≡C-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの水素はフッ素または塩素で置き換えられてもよい。
【0030】
項11. 液晶組成物全量に基づいて、光学活性化合物の割合が0.01重量部から5重量部の範囲である、項1から10のいずれか1項に記載の液晶調光素子用液晶組成物。
【0031】
項12. らせんピッチが2μmから20μmの範囲である、項1から11のいずれか1項に記載の液晶調光素子用液晶組成物。
【0032】
項13. 二色性色素が、アゾ化合物から選択された少なくとも1つの化合物と、アントラキノン類から選択された少なくとも1つの化合物とを含む、項1から12のいずれか1項に記載の液晶調光素子用液晶組成物。
【0033】
項14. 液晶組成物全量に基づいて、二色性色素の割合が0.01重量部から25重量部の範囲である、項1から13のいずれか1項に記載の液晶調光素子用液晶組成物。
【0034】
項15. 調光層が項1から14のいずれか1項に記載の液晶調光素子用液晶組成物であり、調光層が一対の透明基板により挟持され、透明基板が透明電極を有する、液晶調光素子。
【0035】
項16. 透明基板がガラス板またはアクリル板である、項15に記載の液晶調光素子。
【0036】
項17. 透明基板がプラスチックフィルムである、項15に記載の液晶調光素子。
【0037】
項18. 項15から17のいずれか1項に記載の液晶調光素子を使用する調光窓。
【0038】
項19. 項15から17のいずれか1項に記載の液晶調光素子を使用するスマートウィンドウ。
【0039】
項20. 項1から14のいずれか1項に記載の液晶調光素子用液晶組成物の、透明基板がプラスチックフィルムである液晶調光素子への使用。
【0040】
項21. 項1から14のいずれか1項に記載の液晶調光素子用液晶組成物の、調光窓への使用。
【0041】
項22. 項1から14のいずれか1項に記載の液晶調光素子用液晶組成物の、スマートウィンドウへの使用。
【0042】
本発明は、次の項も含む。(a)液晶組成物が、成分Aとして、項1に記載の化合物(1)において、Yがフッ素である少なくとも1つの化合物を含有する、上記の液晶調光素子用液晶組成物。(b)液晶組成物が、成分Aとして、項1に記載の化合物(1)において、Yがシアノである少なくとも1つの化合物を含有する、上記の液晶調光素子用液晶組成物。
【0043】
本発明は、次の項も含む。(c)液晶組成物が、成分Aとして、項2に記載の
化合物(1-1)、化合物(1-2)、化合物(1-3)、化合物(1-7)、化合物(1-9)、化合物(1-13)、化合物(1-14)、化合物(1-15)、化合物(1-16)、化合物(1-17)、化合物(1-21)、化合物(1-22)、化合物(1-23)、化合物(1-24)、化合物(1-27)、化合物(1-28)、化合物(1-29)、化合物(1-30)、化合物(1-33)、化合物(1-34)、化合物(1-36)、化合物(1-41)、化合物(1-42)、化合物(1-43)および化合物(1-44)から選択された少なくとも1つの化合物を含有する、上記の液晶調光素子用液晶組成物。
【0044】
本発明は、次の項も含む。(d)液晶組成物が、成分Bとして、項5に記載の
化合物(2-1)、化合物(2-2)、化合物(2-3)、化合物(2-4)、化合物(2-6)、化合物(2-8)、化合物(2-9)、化合物(2-10)、化合物(2-11)、化合物(2-12)、化合物(2-13)、化合物(2-14)、化合物(2-16)、化合物(2-17)、化合物(2-19)、化合物(2-21)、化合物(2-24)および化合物(2-25)から選択された少なくとも1つの化合物を含有する、上記の液晶調光素子用液晶組成物。
【0045】
本発明は、次の項も含む。(e)液晶組成物が、成分Cとして、項8に記載の化合物(3-1)、化合物(3-5)、化合物(3-6)、化合物(3-7)、化合物(3-8)、化合物(3-12)、化合物(3-14)、化合物(3-19)、および化合物(3-34)から選択された少なくとも1つの化合物を含有する、上記の液晶調光素子用液晶組成物。
【0046】
我々は、液晶調光素子用液晶組成物の特性向上を試みた。液晶調光素子用液晶組成物の特性を向上させるには、オクタヒドロビナフタレン構造を有する光学活性化合物と、液晶組成物を混合したキラルネマチック液晶組成物に、特定種の二色性色素を有する、液晶調光素子用液晶組成物を用いるというアプローチを考えた。ネマチック液晶組成物と、オクタヒドロビナフタレン構造を有する光学活性化合物と、特定種の二色性色素の混合物である液晶調光素子用液晶組成物は、良好な相溶性と、高い耐候性の両立化を期待できることから液晶調光素子に使用できると考えたからである。我々は、この可能性について検討し、本発明に至った。
【0047】
本発明は、特定種の二色性色素と、キラルネマチック相を有する液晶組成物とを含有する液晶調光素子用液晶組成物、およびこの液晶調光素子用液晶組成物を有する液晶調光素子に関する。調光素子に適合させるために光学活性化合物(キラル剤)がネマチック液晶組成物に添加される。キラルネマチック液晶組成物は、このように調製される。液晶調光素子用液晶組成物は、キラルネマチック液晶組成物と、二色性色素とから構成される。我々は、特定の液晶調光素子用液晶組成物が、相溶性に優れ、条件によってフォーカルコニック状態、プレーナー状態、ホメオトロピック状態などを示すこと、そして調光用の素子に適していることを見出した。以下に、本発明を説明する。
【0048】
第一に、液晶組成物を説明する。この組成物は、複数の液晶性化合物を含有する。この組成物は、添加物を含有してもよい。添加物は、光学活性化合物、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消光剤、二色性色素、消泡剤、極性化合物などである。この組成物は、液晶性化合物の観点から組成物Aと組成物Bに分類される。組成物Aは、化合物(1)、化合物(2)、および化合物(3)から選択された液晶性化合物の他に、その他の液晶性化合物、添加物などをさらに含有してもよい。「その他の液晶性化合物」は、化合物(1)、化合物(2)、および化合物(3)とは異なる液晶性化合物である。このような化合物は、特性をさらに調整する目的で組成物に混合される。
【0049】
組成物Bは、実質的に化合物(1)、化合物(2)、および化合物(3)から選択された液晶性化合物のみからなる。「実質的に」は、組成物Bが添加物を含有してもよいが、その他の液晶性化合物を含有しないことを意味する。組成物Bは組成物Aに比較して成分の数が少ない。コストを下げるという観点から、組成物Bは組成物Aよりも好ましい。その他の液晶性化合物を混合することによって特性をさらに調整できるという観点から、組成物Aは組成物Bよりも好ましい。
【0050】
第二に、液晶性化合物の主要な特性、およびこの化合物が液晶組成物や素子に及ぼす主要な効果を説明する。成分化合物の主要な特性を表1にまとめる。表1の記号において、Lは大きいまたは高い、Mは中程度の、Sは小さいまたは低い、を意味する。記号L、M、Sは、成分化合物のあいだの定性的な比較に基づいた分類であり、0(ゼロ)は、極めて小さいことを意味する。
【0051】

【0052】
成分化合物が組成物の特性に及ぼす主要な効果は以下のとおりである。化合物(1)は、誘電率異方性を上げる。化合物(2)は、上限温度を上げる、または下限温度を下げる。化合物(3)は、液晶分子の短軸方向における誘電率を上げる。
【0053】
第三に、液晶性化合物の組合せや好ましい割合を説明する。好ましい組合せは、成分A+成分B、成分A+成分C、または成分A+成分B+成分Cである。さらに好ましい組合せは、成分A+成分B、または成分A+成分B+成分Cである。成分Aの中から選択された特定の1つまたは2つの化合物と成分B(または、成分C)とを組み合せてもよい。成分Bや成分Cについても同様である。
【0054】
成分Aの好ましい割合は、誘電率異方性を上げるために約5%以上であり、下限温度を下げるために約90%以下である。さらに好ましい割合は約10%から約85%の範囲である。特に好ましい割合は約20%から約80%の範囲である。
【0055】
成分Bの好ましい割合は、上限温度を上げる、または下限温度を下げるために約5%以上であり、誘電率異方性を上げるために約90%以下である。さらに好ましい割合は約10%から約85%の範囲である。特に好ましい割合は約20%から約80%の範囲である。
【0056】
成分Cの好ましい割合は、液晶分子の短軸方向における誘電率を上げるために約3%以上であり、下限温度を下げるために約25%以下である。さらに好ましい割合は約5%から約20%の範囲である。特に好ましい割合は約5%から約15%の範囲である。
【0057】
第四に、液晶性化合物の好ましい形態を説明する。式(1)、式(2)、および式(3)において、Rは、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、または炭素数2から12のアルケニルである。好ましいRは、光や熱に対する安定性を上げるために、炭素数1から12のアルキルである。
【0058】
およびRは、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルケニル、または少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数2から12のアルケニルである。好ましいRまたはRは、上限温度を上げる、または下限温度を下げるために炭素数2から12のアルケニルであり、光や熱に対する安定性を上げるために炭素数1から12のアルキルである。
【0059】
およびRは、水素、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルケニル、または炭素数2から12のアルケニルオキシである。好ましいRまたはRは、光や熱に対する安定性を上げるために炭素数1から12のアルキルであり、液晶分子の短軸方向における誘電率を上げるために炭素数1から12のアルコキシである。
【0060】
好ましいアルキルは、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、またはオクチルである。さらに好ましいアルキルは、粘度を下げるためにメチル、エチル、プロピル、ブチル、またはペンチルである。
【0061】
好ましいアルコキシは、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、またはヘプチルオキシである。粘度を下げるために、さらに好ましいアルコキシは、メトキシまたはエトキシである。
【0062】
好ましいアルケニルは、ビニル、1-プロペニル、2-プロペニル、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、1-ペンテニル、2-ペンテニル、3-ペンテニル、4-ペンテニル、1-ヘキセニル、2-ヘキセニル、3-ヘキセニル、4-ヘキセニル、または5-ヘキセニルである。さらに好ましいアルケニルは、粘度を下げるためにビニル、1-プロペニル、3-ブテニル、または3-ペンテニルである。これらのアルケニルにおける-CH=CH-の好ましい立体配置は、二重結合の位置に依存する。粘度を下げるためなどから1-プロペニル、1-ブテニル、1-ペンテニル、1-ヘキセニル、3-ペンテニル、3-ヘキセニルのようなアルケニルにおいてはトランスが好ましい。2-ブテニル、2-ペンテニル、2-ヘキセニルのようなアルケニルにおいてはシスが好ましい。
【0063】
好ましいアルケニルオキシは、ビニルオキシ、アリルオキシ、3-ブテニルオキシ、3-ペンテニルオキシ、または4-ペンテニルオキシである。粘度を下げるために、さらに好ましいアルケニルオキシは、アリルオキシまたは3-ブテニルオキシである。
【0064】
少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられたアルキルの好ましい例は、フルオロメチル、2-フルオロエチル、3-フルオロプロピル、4-フルオロブチル、5-フルオロペンチル、6-フルオロヘキシル、7-フルオロヘプチル、または8-フルオロオクチルである。さらに好ましい例は、誘電率異方性を上げるために2-フルオロエチル、3-フルオロプロピル、4-フルオロブチル、または5-フルオロペンチルである。
【0065】
少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられたアルケニルの好ましい例は、2,2-ジフルオロビニル、3,3-ジフルオロ-2-プロペニル、4,4-ジフルオロ-3-ブテニル、5,5-ジフルオロ-4-ペンテニル、または6,6-ジフルオロ-5-ヘキセニルである。さらに好ましい例は、粘度を下げるために2,2-ジフルオロビニルまたは4,4-ジフルオロ-3-ブテニルである。
【0066】
環Aは、1,4-シクロヘキシレン、1,4-フェニレン、2-フルオロ-1,4-フェニレン、2,3-ジフルオロ-1,4-フェニレン、2,6-ジフルオロ-1,4-フェニレン、ピリミジン-2,5-ジイル、1,3-ジオキサン-2,5-ジイル、またはテトラヒドロピラン-2,5-ジイルである。好ましい環Aは、光学異方性を上げるために1,4-フェニレンまたは2-フルオロ-1,4-フェニレンである。1,4-シクロヘキシレンに関する立体配置は、上限温度を上げるためにシスよりもトランスが好ましい。テトラヒドロピラン-2,5-ジイルは、


または


であり、好ましくは


である。
【0067】
環Bおよび環Cは、1,4-シクロヘキシレン、1,3-フェニレン、1,4-フェニレン、2-フルオロ-1,4-フェニレン、2,5-ジフルオロ-1,4-フェニレン、またはピリミジン-2,5-ジイルである。好ましい環Bまたは環Cは、上限温度を上げるために、または下限温度を下げるために1,4-シクロヘキシレンであり、下限温度を下げるために1,4-フェニレンである。光や熱に対する安定性を上げるために、好ましい環Bまたは環Cは、1,4-フェニレンである。
【0068】
環Dおよび環Fは、1,4-シクロヘキシレン、1,4-シクロヘキセニレン、テトラヒドロピラン-2,5-ジイル、1,4-フェニレン、少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた1,4-フェニレン、ナフタレン-2,6-ジイル、少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられたナフタレン-2,6-ジイル、クロマン-2,6-ジイル、または少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられたクロマン-2,6-ジイルである。好ましい環Dまたは環Fは、下限温度を下げるために、または上限温度を上げるために、1,4-シクロヘキシレンであり、下限温度を下げるために1,4-フェニレンである。
【0069】
環Eは、2,3-ジフルオロ-1,4-フェニレン、2-クロロ-3-フルオロ-1,4-フェニレン、2,3-ジフルオロ-5-メチル-1,4-フェニレン、3,4,5-トリフルオロナフタレン-2,6-ジイル、7,8-ジフルオロクロマン-2,6-ジイル、3,4,5,6-テトラフルオロフルオレン-2,7-ジイル(FLF4)、4,6-ジフルオロジベンゾフラン-3,7-ジイル(DBFF2)、4,6-ジフルオロジベンゾチオフェン-3,7-ジイル(DBTF2)、または1,1,6,7-テトラフルオロインダン-2,5-ジイル(InF4)である。


好ましい環Eは、粘度を下げるために2,3-ジフルオロ-1,4-フェニレンであり、液晶分子の短軸方向における誘電率を上げるために4,6-ジフルオロジベンゾチオフェン-3,7-ジイルである。
【0070】
は、単結合、エチレン、ビニレン、エチニレン、メチレンオキシ、カルボニルオキシ、またはジフルオロメチレンオキシである。好ましいZは、上限温度を上げるために単結合であり、誘電率異方性を上げるためにジフルオロメチレンオキシである。特に好ましいZは、単結合である。Zは、単結合、エチレン、ビニレン、エチニレン、メチレンオキシ、またはカルボニルオキシである。好ましいZは、光や熱に対する安定性を上げるために単結合である。ZおよびZは、単結合、エチレン、ビニレン、メチレンオキシ、またはカルボニルオキシである。好ましいZまたはZは、下限温度を下げるために単結合またはエチレンであり、液晶分子の短軸方向における誘電率を上げるためにメチレンオキシである。特に好ましいZまたはZは、単結合である。
【0071】
メチレンオキシのような二価基は、左右非対称である。メチレンオキシにおいて、-CHO-は-OCH-よりも好ましい。カルボニルオキシにおいて、-COO-は-OCO-よりも好ましい。ジフルオロメチレンオキシにおいて、-CFO-は-OCF-よりも好ましい。
【0072】
aは、1、2、3、または4である。好ましいaは、下限温度を下げるために2であり、誘電率異方性を上げるために3である。bは、1、2、3、または4である。好ましいbは、下限温度を下げるために1であり、上限温度を上げるために2または3である。光や熱に対する安定性を上げるために好ましいbは、3または4である。
cは、0、1、2、または3であり、dは、0または1であり、cおよびdの和は3以下である。好ましいcは、下限温度を下げるために1であり、上限温度を上げるために2または3である。好ましいdは、下限温度を下げるために0であり、下限温度を下げるために1である。
【0073】
およびXは、水素またはフッ素である。好ましいXまたはXは、上限温度を上げるために水素であり、誘電率異方性を上げるためにフッ素である。
【0074】
は、フッ素、塩素、シアノ、少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数1から12のアルキル、少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数1から12のアルコキシ、または少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられた炭素数2から12のアルケニルオキシである。好ましいYは、粘度を下げるためにフッ素であり、誘電率異方性を上げるためにシアノである。
【0075】
少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられたアルキルの好ましい例は、トリフルオロメチルである。少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられたアルコキシの好ましい例は、トリフルオロメトキシである。少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられたアルケニルオキシの好ましい例は、トリフルオロビニルオキシである。
【0076】
第五に、好ましい液晶性化合物を示す。好ましい化合物(1)は、項2に記載の化合物(1-1)から化合物(1-47)である。これらの化合物において、成分Aの少なくとも1つが、
化合物(1-1)、化合物(1-2)、化合物(1-7)、化合物(1-9)、化合物(1-13)、化合物(1-14)、化合物(1-15)、化合物(1-16)、化合物(1-17)、化合物(1-22)、化合物(1-23)、化合物(1-24)、化合物(1-28)、化合物(1-29)、化合物(1-30)、化合物(1-33)、化合物(1-34)、化合物(1-41)、化合物(1-42)、化合物(1-43)または化合物(1-44)であることが好ましい。
成分Aの少なくとも2つが、
化合物(1-1)および化合物(1-2)、
化合物(1-1)および化合物(1-9)、
化合物(1-2)および化合物(1-9)、
化合物(1-1)および化合物(1-16)、
化合物(1-2)および化合物(1-16)、
化合物(1-9)および化合物(1-16)、
化合物(1-9)および化合物(1-24)、
化合物(1-16)および化合物(1-24)、
化合物(1-9)および化合物(1-41)、
化合物(1-16)および化合物(1-41)、
化合物(1-9)および化合物(1-41)、
化合物(1-16)および化合物(1-42)または
化合物(1-28)および化合物(1-42)の組合せであることが好ましい。
【0077】
好ましい化合物(2)は、項5に記載の化合物(2-1)から化合物(2-25)である。これらの化合物において、成分Bの少なくとも1つが、
化合物(2-1)、化合物(2-2)、化合物(2-3)、化合物(2-4)、化合物(2-6)、化合物(2-8)、化合物(2-9)、化合物(2-10)、化合物(2-11)、化合物(2-12)、化合物(2-13)、化合物(2-16)、化合物(2-19)、化合物(2-20)、化合物(2-21)、化合物(2-24)または化合物(2-25)であることが好ましい。
成分Bの少なくとも2つが、
化合物(2-1)および化合物(2-2)、
化合物(2-1)および化合物(2-9)、
化合物(2-2)および化合物(2-9)、
化合物(2-2)および化合物(2-10)、
化合物(2-2)および化合物(2-12)、
化合物(2-2)および化合物(2-19)、
化合物(2-4)および化合物(2-9)、
化合物(2-4)および化合物(2-19)、
化合物(2-9)および化合物(2-10)、
化合物(2-9)および化合物(2-12)、または
化合物(2-10)および化合物(2-12)の組合せであることが好ましい。
【0078】
好ましい化合物(3)は、項8に記載の化合物(3-1)から化合物(3-35)である。これらの化合物において、成分Cの少なくとも1つが、化合物(3-1)、化合物(3-3)、化合物(3-6)、化合物(3-8)、化合物(3-10)、化合物(3-14)、または化合物(3-34)であることが好ましい。
成分Cの少なくとも2つが、
化合物(3-1)および化合物(3-8)、
化合物(3-1)および化合物(3-14)、
化合物(3-3)および化合物(3-8)、
化合物(3-3)および化合物(3-14)、
化合物(3-3)および化合物(3-34)、
化合物(3-6)および化合物(3-8)、
化合物(3-6)および化合物(3-10)、または
化合物(3-6)および化合物(3-14)の組合せであることが好ましい。
【0079】
第六に、光学活性化合物の好ましい形態およびその一例を説明する。光学活性化合物は、例えば、TNモードの液晶表示素子においても使用される。このモードでは、2枚の基板は配向膜を有する。ラビング方向を90度回転させて基板を配置する。光学活性化合物は、基板のあいだで液晶分子の配列が90度ねじれるように添加される。更に高いコントラストを得る場合は、STNモードの液晶表示素子を適用させ、液晶分子の配列を180度ねじれさせることが好ましく、240度ねじれ、または250度ねじれ、または260度ねじれ、または270度ねじれ、または360度以上ねじれさせることが更に好ましい。
液晶調光素子用液晶組成物のらせんピッチは、1μmから20μmであることが好ましい。光学活性化合物の量を増やすことによってらせんピッチは小さくなる。したがって、光学活性化合物は、液晶組成物に対して高い相溶性を有することが好ましい。
一方、液晶調光素子における調光層は、基板を、透明電極層が内側となるように対向させ、その際、スペーサーを介して、基板の間隔を調整することで得られる。得られる調光層の厚さは、1から100μmとなるように調整するのが好ましい。1.5から10μmが更に好ましく、偏光板を使用する場合は、コントラストが最大になるように液晶の屈折率異方性Δnとセル厚dとの積を調整することが好ましい。
【0080】
好ましい光学活性化合物は、化合物(K1)または化合物(K2)であり、好ましくは
化合物(K1-1)から化合物(K1-7)、または化合物(K2-1)から化合物(K2-4)である。これらの化合物の構造は、液晶性を有する化合物の構造に類似している。これらの化合物は、オクタヒドロビナフタレン構造を有することから、低融点であり、液晶組成物への高い相溶性を有する。また、ヘリカルツイストパワー(らせんねじり力)が大きいため、小さならせんピッチを形成しやすい観点から好ましい。これらの光学活性化合物は、軸不斉を有する。
【0081】




式(K1)、式(K2)、化合物(K1-1)から化合物(K1-7)、または化合物(K2-1)から化合物(K2-4)において、
は、水素、ハロゲン、-C≡N、-N=C=O、-N=C=Sまたは炭素数1から12のアルキルであり、R中の少なくとも1つの-CH-は-O-、-S-、-COO-または-OCO-で置き換えられてもよく、R中の少なくとも1つの-CH-CH-は-CH=CH-、-CF=CF-または-C≡C-で置き換えられもよく、R中の少なくとも1つの水素はフッ素または塩素で置き換えられてもよい。好ましいRは、水素、または炭素数1から12のアルキルであり、R中の少なくとも1つの-CH-は-O-、-S-、-COO-または-OCO-で置き換えられてもよく、R中の少なくとも1つの-CH-CH-は-CH=CH-、-CF=CF-または-C≡C-で置き換えられもよく、R中の少なくとも1つの水素はフッ素または塩素で置き換えられてもよい。
は、芳香族性の6から8員環、非芳香族性の3から8員環、または、炭素数9以上の縮合環であり、これらの環の少なくとも1つの水素はハロゲン、炭素数1から3のアルキルまたはハロアルキルで置き換えられてもよく、環の-CH-は-O-、-S-または-NH-で置き換えられてもよく、-CH=は-N=で置き換えられてもよい。
は、単結合、炭素数1から8のアルキレンであり、Z中の少なくとも1つの-CH-は、-O-、-S-、-COO-、-OCO-、-CSO-、-OCS-、-N=N-、-CH=N-または-N=CH-で置き換えられてもよく、Z中の少なくとも1つの-CH-CH-は-CH=CH-、-CF=CF-または-C≡C-で置き換えられてもよく、Z中の少なくとも1つの水素はハロゲンで置き換えられてもよい。
は、単結合、-COO-、-OCO-、-CHO-、-OCH-、-CFO-、-OCF-、または-CHCH-である。
mKは、1から3の整数である。
【0082】
光学活性化合物の好ましい割合は、液晶組成物全量に基づいて、
約0.01重量部から約5重量部の範囲である。さらに好ましい割合は、
約0.03重量部から約3重量部の範囲である。特に好ましい割合は、
約0.05重量部から約2重量部の範囲である。液晶調光素子用液晶組成物における好ましいらせんピッチは10μm以下である。さらに好ましいらせんピッチは5μm以下である。特に好ましいらせんピッチは3μm以下である。らせんピッチの温度依存性を低減、または調整するために、複数の光学活性化合物を混合して用いてもよい。その際には、添加量の観点からは、らせんねじり力が相殺することが無いように、同じねじれ方向を有する光学活性化合物を組み合わせるのが好ましい。
【0083】
化合物(K1)、化合物(K2)の一例は、以下のとおりである。

【0084】
第七に、二色性色素の好ましい形態およびその一例を説明する。
GH(guest host)モードの素子に適合させるために、二色性色素(dichroic dye)が液晶組成物に添加される。液晶調光素子は、部屋の仕切りや、建築用窓、車両用サンルーフ等に使われることがある。このような場合、特定の光を吸収させる目的で液晶組成物に二色性色素を添加する。複数の二色性色素を添加してもよい。液晶調光素子は太陽光の遮断に使われることがある。このような場合、黒色の(または、黒っぽい色の)二色性色素が液晶組成物に添加される。黒色は、シアン(cyan)、マゼンタ(magenta)、イエロー(yellow)の二色性色素を混合することによって調製される。例えば、特開2006-193742号公報、実施例42には、黒色の二色性色素が記載されている。この色素は、1つのアゾ化合物と3つのアントラキノン類を混合することによって調製される。また、特開2000-313881号公報、実施例2には、黒色の二色性色素が記載されている。5つのアゾ化合物と3つのアントラキノン類を混合することによって調製される。
アゾ化合物と、アントラキノン類とを併用することで、耐候性と液晶性化合物に対する相溶性の両立化を目指した二色性色素が調製できる。
【0085】
二色性色素の例は、ベンゾチアジアゾール類(benzothiadiazoles)、ジケトピロロピロール類(diketopyrrolopyrroles)、アゾ化合物(azo compounds)、アゾメチン化合物(azomethine compounds)、メチン化合物(methine compounds)、アントラキノン類(anthraquinones)、メロシアン類(merocyanines)、ナフトキノン類(naphthoquinones)、テトラジン類(tetrazines)、ピロメテン類(pyrromethenes)、スクアライン類(Squaraines)、およびペリレン類(perylenes)やテリレン類(terrylenes)、クアテリレン類(quaterrylenes)のようなリレン類(rylenes)である。
【0086】
このような二色性色素は、次に記載した特徴の少なくとも幾つかを有する。a)色素の分子が直線状である。b)分子の中央部には、ベンゾチアジアゾール環やジケトピロロピロール環のような二色性色素に特有の骨格が存在する。c)特有の骨格と共に分子を構成するベンゼン環やチオフェン環は、同一平面上に位置する。d)側鎖は、アルキルやアルコキシである。e)中央部に共役二重結合を有する。
【0087】
好ましい二色性色素は、ベンゾチアジアゾール類、ジケトピロロピロール類、アゾ化合物、アントラキノン類、およびペリレン類である。この五種類の色素の骨格を下に示す。例えば、ベンゾチアジアゾール類は、ベンゾチアジアゾール環を有する二色性色素を意味する。
【0088】

【0089】
市販されている二色性色素の例は、長瀬産業製のG-207、G-241、G-305、G-470、G-471、G-472、LSB-278、LSB-335、NKX-1366、NKX-3538、NKX-3540、NKX-3622、NKX-3739、NKX-3742、NKX-3773、NKX-4010、およびNKX-4033;三井化学ファイン製のS-428、SI-426、SI-486、M-412、およびM-483である。
【0090】
二色性色素の好ましい割合は、液晶組成物全量に基づいて、約0.01重量部から約25重量部の範囲である。さらに好ましい割合は、約0.1重量部から約23重量部の範囲である。特に好ましい割合は、約0.5重量部から約18重量部の範囲である。
【0091】
第八に、成分化合物の合成法を説明する。これらの化合物は既知の方法によって合成できる。合成法を例示する。化合物(1-9)および化合物(1-16)は、特開平2-233626号公報に記載された方法で合成する。化合物(2-1)は、特開昭59-176221号公報に記載された方法で合成する。化合物(3-1)は、特表平2-503441号公報に記載された方法で合成する。酸化防止剤は市販されている。光学活性化合物(K1)および(K2)は、国際公開2018/025996号に記載された方法で合成する。後述する化合物(11-1)は、アルドリッチ(Sigma-Aldrich Corporation)から入手できる。化合物(11-2)などは、米国特許3660505号明細書に記載された方法によって合成する。重合性化合物は市販されているか、または既知の方法で合成可能である。
【0092】
合成法を記載しなかった化合物は、オーガニック・シンセシス(Organic Syntheses, John Wiley & Sons, Inc.)、オーガニック・リアクションズ(Organic Reactions, John Wiley & Sons, Inc.)、コンプリヘンシブ・オーガニック・シンセシス(Comprehensive Organic Synthesis, Pergamon Press)、新実験化学講座(丸善)などの成書に記載された方法によって合成できる。組成物は、このようにして得た化合物から公知の方法によって調製される。例えば、成分化合物を混合し、そして加熱によって互いに溶解させる。
【0093】
第九に、液晶調光素子用液晶組成物に添加してもよい添加物を説明する。このような添加物は、(K1)および(K2)以外の光学活性化合物、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消光剤、消泡剤、極性化合物などである。添加物は、液晶調光素子用液晶組成物の代わりに液晶組成物に添加してもよい。
【0094】
(K1)および(K2)以外の光学活性化合物の一例は、以下の通りである。

【0095】

【0096】
大気中での加熱による比抵抗の低下を防止するために、または素子を長時間使用したあと、室温だけではなく上限温度に近い温度でも大きな電圧保持率を維持するために、化合物(11-1)から化合物(11-3)のような酸化防止剤を組成物に添加してもよい。

【0097】
化合物(11-2)や化合物(11-3)は揮発性の小ささから好ましく、素子を長時間使用したあと、室温だけではなく上限温度に近い温度でも大きな電圧保持率を維持するのに有効である。酸化防止剤の好ましい割合は、その効果を得るために約50ppm以上であり、上限温度を下げないように、または下限温度を上げないように約600ppm以下である。さらに好ましい割合は、約100ppmから約300ppmの範囲である。
【0098】
紫外線吸収剤の好ましい例は、ベンゾフェノン誘導体、ベンゾエート誘導体、トリアゾール誘導体などである。立体障害のあるアミンのような光安定剤も好ましい。光安定剤の好ましい例は、化合物(12-1)から化合物(12-16)などである。これらの吸収剤や安定剤における好ましい割合は、その効果を得るために約50ppm以上であり、上限温度を下げないように、または下限温度を上げないために約10000ppm以下である。さらに好ましい割合は約100ppmから約10000ppmの範囲である。
【0099】

【0100】

【0101】
消光剤は、液晶性化合物が吸収した光エネルギーを受容し、熱エネルギーに変換することにより、液晶性化合物の分解を防止する化合物である。消光剤の好ましい例は、化合物(13-1)から化合物(13-7)などである。これらの消光剤における好ましい割合は、その効果を得るために約50ppm以上であり、下限温度を上げないために約20000ppm以下である。さらに好ましい割合は約100ppmから約10000ppmの範囲である。

【0102】
泡立ちを防ぐために、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイルなどの消泡剤が組成物に添加される。消泡剤の好ましい割合は、その効果を得るために約1ppm以上であり、表示不良を防ぐために約1000ppm以下である。さらに好ましい割合は、約1ppmから約500ppmの範囲である。
【0103】
極性化合物は、極性をもつ有機化合物である。ここでは、イオン結合を有する化合物は含まれない。酸素、硫黄、および窒素のような原子は、より電気的に陰性であり、部分的な負電荷をもつ傾向にある。炭素および水素は中性であるか、または部分的な正電荷をもつ傾向がある。極性は、化合物中の別種の原子間で部分電荷が均等に分布しないことから生じる。例えば、極性化合物は、-OH、-COOH、-SH、-NH、>NH、>N-のような部分構造の少なくとも1つを有する。
【0104】
極性基は、ガラス基板、金属酸化物膜などの表面と非共有結合的な相互作用を有する。この化合物は、極性基の作用によって基板表面に吸着し、液晶分子の配向を制御する。
【0105】
最後に、液晶調光素子を説明する。
ネマチック組成物は、棒状の液晶性化合物の混合物である。
キラルネマチック組成物は、ネマチック組成物に光学活性化合物(キラル剤)を添加することによって調製される。液晶分子は、光学活性化合物の作用によって右ねじれまたは左ねじれを付与され、フォーカルコニック状態になる。微小領域では、液晶分子が層状に配列し、各層における液晶分子の方向は、らせん状に捩じれている。このらせん構造における捩れの軸をヘリカル軸という。らせん構造における1周期分の長さをらせんピッチという。フォーカルコニック状態は、このような微小領域の集合体であり、ヘリカル軸の方向はランダムである。フォーカルコニック状態(focal conic state)は、水平配向処理した配向膜上では、プレーナー状態(planar state)となる。
【0106】
本発明の調光素子用液晶組成物を調製し、この組成物を表示用の素子に入れる。この素子における上下両基板は、ITO等の透明電極を、調光層側に有する。また、上下両基板のいずれかに、吸収型偏光板または反射型偏光板を貼合していてもよい。
また、両透明電極上に、公知のポリイミド系水平配向膜を有している。この水平配向膜により、液晶分子は配向膜面に対して、1°から10°のプレチルト角、好ましくは、2°から9°のプレチルト角、より好ましくは3°から8°のプレチルト角を有する。上下基板における配向膜の配向処理方向(例えば、ラビング方向)は、30°から270°の角度、好ましくは100°から260°の角度、より好ましくは160から255°の角度、特に好ましくは230から250°の角度を含むことが好ましい。水平配向処理膜は、偏光露光処理によっても得ることができる(光配向法)。
この素子は上下基板に水平配向膜を有するため、液晶分子は配向膜の作用によってツイスト配向(プレーナー状態(planar state))となる。この状態において、二色性色素は液晶分子と同様な配向をとるため、素子を通過する光は二色性色素に吸収され、透過率は低下する。
この素子に電圧を印加することによって、液晶分子はホメオトロピック状態(homeotropic state)に転移し、二色性色素も同様な配向状態になる。このとき素子を通過する光は二色性色素に吸収されにくくなるため、透過率は上昇する。電圧を除去することで、ホメオトロピック状態は、ツイスト配向状態に戻る。一方、素子は電圧の有無に関わらず、透明である。
この素子において、リバースツイストドメインやストライプドメインなどの配向欠陥を抑制するには、捩れピッチ(p)とセル厚dとの関係であるd/p値が0.5から2.2を満たすことが好ましい。例えば、240°ツイストの場合、最適なd/p値は0.45から0.66の範囲内に存在する。目視や顕微鏡などでドメインを観察して配向欠陥が生じないよう調節することが好ましい。
【0107】
素子を長時間使用すると、表示画面にフリッカ(flicker)が発生することがある。このフリッカは、画像の焼き付きに関連し、素子を交流で駆動させる際に正フレームの電位と負フレームの電位との間に差が生じることによって発生すると推定される。フリッカ率(%)は、(|正の電圧を印加したときの輝度-負の電圧を印加したときの輝度|)/(平均輝度)×100、によって表すことができる。素子のフリッカ率は、0%から1%の範囲であることが好ましい。
【0108】
素子を長時間使用した場合、輝度が部分的に低下することがある。このような表示不良の一例は、線残像である。これは、隣り合った2つの電極に異なった電圧が繰り返し印加されることによって電極の間の輝度がすじ状に低下する現象である。この現象は、液晶組成物に含まれたイオン性不純物が電極付近の配向膜上に蓄積することに起因すると推定される。
【0109】
このような調光素子は、透明電極を有する一対の透明基板により挟持された調光層を有する。基板の一例は、ガラス板、石英板、アクリル板のような変形しにくい材質である。他の例は、アクリルフィルム、ポリカーボネートフィルムのような可撓性の透明プラスチックフィルムである。用途に応じて基板の一方はシリコン樹脂などの不透明な材料でもよい。この基板は、その上に透明電極を有してもよい。透明電極の例は、酸化インジウムスズ(tin-doped indium oxide、ITO)や導電性ポリマーである。この基板は、透明電極の上に配向膜を有してもよい。
【0110】
配向膜には、ポリイミドやポリビニルアルコールのような薄膜が適している。例えば、ポリイミド配向膜は、ポリイミド樹脂組成物を透明基板上に塗布し、約180℃以上の温度で熱硬化させ、必要に応じて綿布やレーヨン布でラビング処理、あるいは偏光紫外線照射で光配向処理することによって得ることができる。
【0111】
一対の基板は、透明電極層が内側となるように対向させる。基板間の厚さを均一にするためにスペーサーを入れてもよい。スペーサーの例は、ガラス粒子、プラスチック粒子、アルミナ粒子、フォトスペーサーなどである。調光層の好ましい厚さは約1μmから約100μmであり、より好ましくは約1.5μmから約20μmであり、更に好ましくは約1.5μmから約10μmである。一対の基板を張り合わせるには、汎用のシール剤を用いることができる。シール剤の例は、エポキシ系熱硬化性組成物である。
【0112】
このような素子は、必要に応じて、直線偏光板、素子の裏面に光吸収層、拡散反射板などを配置することができる。鏡面反射、拡散反射、再帰性反射、ホログラム反射等の機能を付加することもできる。
【0113】
このような素子は、調光フィルムや調光ガラスとしての機能を有する。素子がフィルム状である場合は、既存の窓へ張り付けるか、または、一対のガラス板で挟み、合わせガラスにすることができる。このような素子は、外壁に設置された窓、会議室と廊下との仕切り、車両用サンルーフや調光サングラス等に使われる。すなわち、電子ブラインド、調光窓、スマートウィンドウ、スマートグラスなどの用途がある。さらに、光スイッチとしての機能を液晶シャッターなどに利用できる。
【実施例0114】
実施例によって本発明をさらに詳しく説明する。本発明は、これらの実施例に制限されない。実施例では、組成物(M1)、組成物(M2)などを記載する。実施例では、組成物(M1)と組成物(M2)との混合物は、記載されていない。しかしながら、この混合物も開示されているとみなすことにする。実施例から選択された少なくとも2つの組成物の混合物も開示されているとみなすことにする。合成した化合物は、NMR分析などの方法によって同定した。化合物、組成物および素子の特性は、下記の方法によって測定した。
【0115】
NMR分析:測定には、ブルカーバイオスピン社製のDRX-500を用いた。H-NMRの測定では、試料をCDClなどの重水素化溶媒に溶解させ、測定は、室温で、500MHz、積算回数16回の条件で行った。テトラメチルシランを内部標準として用いた。19F-NMRの測定では、CFClを内部標準として用い、積算回数24回で行った。核磁気共鳴スペクトルの説明において、sはシングレット、dはダブレット、tはトリプレット、qはカルテット、quinはクインテット、sexはセクステット、mはマルチプレット、brはブロードであることを意味する。
【0116】
ガスクロマト分析:測定には島津製作所製のGC-14B型ガスクロマトグラフを用いた。キャリアーガスはヘリウム(2mL/分)である。試料気化室を280℃に、検出器(FID)を300℃に設定した。成分化合物の分離には、Agilent Technologies Inc.製のキャピラリカラムDB-1(長さ30m、内径0.32mm、膜厚0.25μm;固定液相はジメチルポリシロキサン;無極性)を用いた。このカラムは、200℃で2分間保持したあと、5℃/分の割合で280℃まで昇温した。試料はアセトン溶液(0.1%)に調製したあと、その1μLを試料気化室に注入した。記録計は島津製作所製のC-R5A型Chromatopac、またはその同等品である。得られたガスクロマトグラムは、成分化合物に対応するピークの保持時間およびピークの面積を示した。
【0117】
試料を希釈するための溶媒は、クロロホルム、ヘキサンなどを用いてもよい。成分化合物を分離するために、次のキャピラリカラムを用いてもよい。Agilent Technologies Inc.製のHP-1(長さ30m、内径0.32mm、膜厚0.25μm)、Restek Corporation製のRtx-1(長さ30m、内径0.32mm、膜厚0.25μm)、SGE International Pty. Ltd製のBP-1(長さ30m、内径0.32mm、膜厚0.25μm)。化合物ピークの重なりを防ぐ目的で島津製作所製のキャピラリカラムCBP1-M50-025(長さ50m、内径0.25mm、膜厚0.25μm)を用いてもよい。
【0118】
組成物に含有される液晶性化合物の割合は、次のような方法で算出してよい。液晶性化合物の混合物をガスクロマトグラフィー(FID)で分析する。ガスクロマトグラムにおけるピークの面積比は液晶性化合物の割合に相当する。上に記載したキャピラリカラムを用いたときは、各々の液晶性化合物の補正係数を1とみなしてよい。したがって、液晶性化合物の割合は、ピークの面積比から算出することができる。
【0119】
測定試料:液晶組成物、調光素子用液晶組成物またはこれらの組成物を有する素子の特性を測定するときは、液晶組成物または調光素子用液晶組成物をそのまま試料として用いた。化合物の特性を測定するときは、この化合物(15%)を母液晶(85%)に混合することによって測定用の試料を調製した。測定によって得られた値から外挿法によって化合物の特性値を算出した。(外挿値)={(試料の測定値)-0.85×(母液晶の測定値)}/0.15。この割合でスメクチック相(または結晶)が25℃で析出するときは、化合物と母液晶の割合を10%:90%、5%:95%、1%:99%の順に変更した。この外挿法によって化合物に関する上限温度、光学異方性、粘度、および誘電率異方性の値を求めた。
【0120】
下記の母液晶を用いた。

【0121】
測定方法:特性の測定は下記の方法で行った。これらの多くは、社団法人電子情報技術産業協会(Japan Electronics and Information Technology Industries Association;JEITAという)で審議制定されるJEITA規格(JEITA・ED-2521B)に記載された方法、またはこれを修飾した方法であった。測定に用いたTN(twisted nematic)素子には、薄膜トランジスター(TFT)を取り付けなかった。
【0122】
(1)ネマチック相の上限温度(NI;℃):偏光顕微鏡を備えた融点測定装置のホットプレートに試料を置き、1℃/分の速度で加熱した。試料の一部がネマチック相から等方性液体に変化したときの温度を測定した。ネマチック相の上限温度を「上限温度」と略すことがある。
【0123】
(2)ネマチック相の下限温度(T;℃):ネマチック相を有する試料をガラス瓶に入れ、0℃、-10℃、-20℃、-30℃、および-40℃のフリーザー中に10日間保管したあと、液晶相を観察した。例えば、試料が-20℃ではネマチック相のままであり、-30℃では結晶またはスメクチック相に変化したとき、Tを<-20℃と記載した。ネマチック相の下限温度を「下限温度」と略すことがある。
【0124】
(3)粘度(バルク粘度;η;20℃で測定;mPa・s):測定には東京計器株式会社製のE型回転粘度計を用いた。
【0125】
(4)粘度(回転粘度;γ1;25℃で測定;mPa・s):測定は、M. Imai et al., Molecular Crystals and Liquid Crystals, Vol. 259, 37 (1995) に記載された方法に従った。ツイスト角が0°であり、そして2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が5μmであるTN素子に試料を入れた。この素子に16Vから19.5Vの範囲で0.5V毎に段階的に印加した。0.2秒の無印加のあと、ただ1つの矩形波(矩形パルス;0.2秒)と無印加(2秒)の条件で印加を繰り返した。この印加によって発生した過渡電流(transient current)のピーク電流(peak current)とピーク時間(peak time)を測定した。これらの測定値とM. Imaiらの論文中の40頁記載の計算式(10)とから回転粘度の値を得た。この計算で必要な誘電率異方性の値は、この回転粘度を測定した素子を用い、下に記載した方法で求めた。
【0126】
(5)光学異方性(屈折率異方性;Δn;25℃で測定):測定は、波長589nmの光を用い、接眼鏡に偏光板を取り付けたアッベ屈折計によって行なった。主プリズムの表面を一方向にラビングしたあと、試料を主プリズムに滴下した。屈折率n∥は偏光の方向がラビングの方向と平行であるときに測定した。屈折率n⊥は偏光の方向がラビングの方向と垂直であるときに測定した。光学異方性の値は、Δn=n∥-n⊥、の式から計算した。
【0127】
(6)誘電率異方性(Δε;25℃で測定):2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が9μmであり、そしてツイスト角が80度であるTN素子に試料を入れた。この素子にサイン波(10V、1kHz)を印加し、2秒後に液晶分子の長軸方向における誘電率(ε∥)を測定した。この素子にサイン波(0.5V、1kHz)を印加し、2秒後に液晶分子の短軸方向における誘電率(ε⊥)を測定した。誘電率異方性の値は、Δε=ε∥-ε⊥、の式から計算した。
【0128】
(7)しきい値電圧(Vth;25℃で測定;V):測定には大塚電子株式会社製のLCD5100型輝度計を用いた。光源はハロゲンランプであった。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が0.45/Δn(μm)であり、ツイスト角が80度であるノーマリーホワイトモード(normally white mode)のTN素子に試料を入れた。この素子に印加する電圧(32Hz、矩形波)は0Vから10Vまで0.02Vずつ段階的に増加させた。この際に、素子に垂直方向から光を照射し、素子を透過した光量を測定した。この光量が最大になったときが透過率100%であり、この光量が最小であったときが透過率0%である電圧-透過率曲線を作成した。しきい値電圧は透過率が90%になったときの電圧で表した。
【0129】
(8)電圧保持率(VHR;25℃で測定;%):測定に用いたTN素子はポリイミド配向膜を有し、そして2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)は5μmであった。このTN素子に試料を入れ、紫外線で硬化する接着剤で密閉した。このTN素子を60℃の恒温槽に入れ、パルス電圧(1V、60マイクロ秒、3Hz)を印加して充電した。減衰する電圧を高速電圧計で166.6ミリ秒のあいだ測定し、単位周期における電圧曲線と横軸との間の面積Aを求めた。面積Bは減衰しなかったときの面積であった。電圧保持率は面積Bに対する面積Aの百分率で表した。
【0130】
(9)電圧保持率(UV-VHR;25℃で測定;%):試料を入れたTN素子に、光源としてブラックライトを使用し、5ミリWの紫外線を166.6分照射した。電圧保持率を測定し、紫外線に対する安定性を評価した。TN素子の構成や電圧保持率の測定方法は測定(8)に記載した。大きなUV-VHRを有する組成物は紫外線に対して大きな安定性を有する。UV-VHRは90%以上が好ましく、95%以上がさらに好ましい。
【0131】
(10)電圧保持率(加熱VHR;25℃で測定;%):試料を入れたTN素子を120℃の恒温槽内で20時間加熱したあと、電圧保持率を測定し、熱に対する安定性を評価した。TN素子の構成や電圧保持率の測定方法は測定(8)に記載した。大きな加熱VHRを有する組成物は熱に対して大きな安定性を有する。加熱VHRは90%以上が好ましく、95%以上がさらに好ましい。
【0132】
(11)応答時間(τ;25℃で測定;ms):測定には大塚電子株式会社製のLCD5100型輝度計を用いた。光源はハロゲンランプであった。ローパス・フィルター(Low-pass filter)は5kHzに設定した。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が8.8μmであり、ツイスト角が80度であるノーマリーホワイトモード(normally white mode)のTN素子に試料を入れた。この素子に矩形波(60Hz、5V、0.5秒)を印加した。この際に、素子に垂直方向から光を照射し、素子を透過した光量を測定した。この光量が最大になったときが透過率100%であり、この光量が最小であったときが透過率0%であるとみなした。立ち上がり時間(τr:rise time;ミリ秒)は、透過率が90%から10%に変化するのに要した時間である。立ち下がり時間(τf:fall time;ミリ秒)は透過率10%から90%に変化するのに要した時間である。応答時間は、このようにして求めた立ち上がり時間と立ち下がり時間との和で表した。
本発明において、応答時間が70ms以下である場合に、良好な応答時間を有するとした。
【0133】
(12)弾性定数(K;25℃で測定;pN):測定には横河・ヒューレットパッカード株式会社製のHP4284A型LCRメータを用いた。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が20μmである水平配向素子に試料を入れた。この素子に0Vから20Vの電荷を印加し、静電容量および印加電圧を測定した。測定した静電容量(C)と印加電圧(V)の値を「液晶デバイスハンドブック」(日刊工業新聞社)、75頁にある式(2.98)、式(2.101)を用いてフィッティングし、式(2.99)からK11およびK33の値を得た。次に同171頁にある式(3.18)に、先ほど求めたK11およびK33の値を用いてK22を算出した。弾性定数は、このようにして求めたK11、K22、およびK33の平均値で表した。
【0134】
(13)比抵抗(ρ;25℃で測定;Ωcm):電極を備えた容器に試料1.0mLを入れた。この容器に直流電圧(10V)を印加し、10秒後の直流電流を測定した。比抵抗は次の式から算出した。
(比抵抗)={(電圧)×(容器の電気容量)}/{(直流電流)×(真空の誘電率)}
【0135】
(14)らせんピッチ(P;室温で測定;μm):らせんピッチはくさび法にて測定した。「液晶便覧」、196頁(2000年発行、丸善)を参照。試料をくさび形セルに入れ、室温で2時間静置した後、ディスクリネーション線(disclination line)の間隔(d2-d1)を偏光顕微鏡(ニコン(株)、商品名MM40/60シリーズ)によって観察した。らせんピッチ(P)は、くさびセルの角度をθと表した次の式から算出した。P=2×(d2-d1)×tanθ。
【0136】
(15)短軸方向における誘電率(ε⊥;25℃で測定):2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が9μmであり、そしてツイスト角が80度であるTN素子に試料を入れた。この素子にサイン波(0.5V、1kHz)を印加し、2秒後に液晶分子の短軸方向における誘電率(ε⊥)を測定した。
【0137】
(16)プレチルト角(度):プレチルト角の測定には、分光エリプソメータM-2000U(J. A. Woollam Co., Inc. 製)を使用した。
【0138】
(17)配向安定性(液晶配向軸安定性):FFS(fringe field switching)素子の電極側における液晶配向軸の変化を評価した。ストレス印加前の電極側の液晶配向角度φ(before)を測定し、その後、素子に矩形波4.5V、60Hzを20分間印加した後、1秒間ショートし、1秒後および5分後に再び電極側の液晶配向角度φ(after)を測定した。これらの値から、1秒後および5分後の液晶配向角度の変化(Δφ;度)を次の式を用いて算出した。
Δφ(degree)=φ(after)-φ(before)
これらの測定はJ. Hilfiker, B. Johs, C. Herzinger, J. F. Elman, E. Montbach, D. Bryant, and P. J. Bos, Thin Solid Films, 455-456, (2004) 596-600を参考に行った。Δφが小さいほうが液晶配向軸の変化率が小さく、液晶分子がより安定化しているといえる。
【0139】
(18)フリッカ率(25℃で測定;%):測定には横河電機(株)製のマルチメディアディスプレイテスタ3298Fを用いた。光源はLEDであった。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が3.5μmであり、ラビング方向がアンチパラレルであるノーマリーブラックモード(normally black mode)の素子に試料を入れた。この素子を紫外線で硬化する接着剤を用いて密閉した。この素子に電圧を印加し、素子を透過した光量が最大になる電圧を測定した。この電圧を素子に印加しながらセンサ部を素子に近づけ、表示されたフリッカ率を読み取った。
【0140】
(19)線残像(Line Image Sticking Parameter;LISP;%):素子に電気的なストレスを与えることによって線残像を発生させた。線残像のある領域の輝度と残りの領域(参照領域)の輝度を測定した。線残像によって輝度が低下した割合を算出し、この割合によって線残像の大きさを表した。
【0141】
19a)輝度の測定:イメージング色彩輝度計(Radiant Zemax社製、PM-1433F-0)を用いて素子の画像を撮影した。この画像をソフトウエア(Prometric 9.1、Radiant Imaging社製)を用いて解析することによって素子の各領域の輝度を算出した。光源には平均輝度が3500cd/mであるLEDバックライトを用いた。
【0142】
19b)ストレス電圧の設定:セルギャップが3.5μmであり、マトリクス構造を有するFFS素子(縦4セル×横4セルの16セル)に試料を入れ、この素子を紫外線で硬化する接着剤を用いて密閉した。偏光軸が直交するように、この素子の上面と下面にそれぞれ偏光板を配置した。この素子に光を照射し、電圧(矩形波、60Hz)を印加した。電圧は、0Vから7.5Vの範囲で0.1V毎に段階的に増加させ、各電圧での透過光の輝度を測定した。輝度が極大になったときの電圧をV255と略した。輝度がV255の21.6%になったとき(すなわち、127階調)の電圧をV127と略した。
【0143】
19c)ストレスの条件:60℃、23時間の条件でストレス領域にV255(矩形波、30Hz)を、参照領域に0.5V(矩形波、30Hz)を印加し、チェッカーパターンを表示させた。次に、V127(矩形波、0.25Hz)を印加し、露光時間4000ミリ秒の条件で輝度を測定した。
【0144】
19d)線残像の算出:16セルのうち、中央部の4セル(縦2セル×横2セル)を算出に用いた。この4セルを25領域(縦5セル×横5セル)に分割した。四隅にある4領域(縦2セル×横2セル)の平均輝度を輝度Aと略した。25領域から四隅の領域を除いた領域は、十字形であった。この十字形の領域から中央の交差領域を除いた4領域において、輝度の最小値を輝度Bと略した。線残像は次の式から算出した。(線残像)=(輝度A-輝度B)/輝度A×100。線残像は、小さい方が好ましい。
【0145】
(20)面残像(Face Image Sticking Parameter;FISP;%):素子に電気的なストレスを与えることによって面残像を発生させた。面残像のある領域の輝度と残りの領域の輝度を25℃で測定した。面残像によって輝度が変化した割合を算出し、この割合によって面残像の大きさを表した。
【0146】
20a)「輝度の測定」、「ストレス電圧の設定」、「ストレスの条件」は、「線残像」の項に記載した手順に従った。
【0147】
20b)面残像は、次の式から算出した。(面残像)=(輝度C-輝度D)/輝度D×100。ここで、輝度Cは、V255を印加した8セルの平均輝度であり、輝度Dは、0.5Vを印加した8セルの平均輝度であった。面残像は、小さい方が好ましい。液晶組成物の誘電率異方性が正であるとき、面残像をP-FISPで示した。負であるときは、面残像をN-FISPで示した。
【0148】
(21)ヘイズ率(%):ヘイズ率の測定には、ヘイズメーターNDH5000(日本電色工業株式会社製)を使用した。
【0149】
(22)ヘイズ変化率(%):素子の耐候性試験を行った。試験の前後においてヘイズを測定し、ヘイズ変化率を算出した。この試験は、日本工業規格(JIS)K5600-7-7、促進耐候性及び促進耐光性(キセノンランプ法)に従って行った。測定には、(スガ試験機(株)製のスーパーキセノンウェザーメーターSX75型を使用した。測定条件は、照度(UVA;180W/m)、照射時間(100時間)、ブラックパネル温度(63±2℃)、槽内温度(35℃)、槽内相対湿度(40%RH)であった。UVAは、紫外線A(ultraviolet A)を意味する。
【0150】
(23)透過率の測定:素子の透過率測定は、大塚電子株式会社製のLCD5100型輝度計を用いた。光源はハロゲンランプであった。測定は、25℃で行った。素子には偏光板を貼合しないで行った。
透過率(off):調光用液晶組成物を注入した素子を、上記装置で電気光学特性を評価したときの、印加電圧が0(V)のときの透過率(%)である。
透過率(on):調光用液晶組成物を注入した素子を、上記装置で電気光学特性を評価したときの、印加電圧が50(V)のときの透過率(%)である。
本発明において、透過率(off)が、2%以下、透過率(on)が28%以上であるときに、良好な電気光学特性を有するとした。
【0151】
(24)液晶調光素子の特性
液晶調光素子の特性を測定するときは、通常は透明電極を有するガラス基板の素子を用いる。また、液晶調光素子では、プラスチックフィルムを基板に用いることがある。そこで、基板がポリカーボネートである素子を作成し、しきい値電圧、応答時間のような特性を測定した。この測定値をガラス基板の素子の場合と比較した。その結果、二種類の測定値は、ほぼ同一であった。そこで、ガラス基板の素子で特性を測定し、その結果を記載した。
【0152】
組成物の実施例を以下に示す。液晶性化合物は、下記の表3の定義に基づいて記号によって表した。表3において、1,4-シクロヘキシレンに関する立体配置はトランスである。記号化された化合物の後にあるかっこ内の番号は化合物が属する化学式を表す。(-)の記号はその他の液晶性化合物を意味する。最後に、組成物の特性値をまとめた。
【0153】


【0154】
次の組成物を実施例で使用した。
【0155】
[組成物(M1)]
5-HB-CL (1-1) 12%
3-BB(F)B(F,F)-F (1-24) 6%
3-BB(F,F)XB(F,F)-F (1-28) 20%
3-BB(F)B(F,F)XB(F,F)-F (1-41) 4%
4-BB(F)B(F,F)XB(F,F)-F (1-41) 4%
3-BB(F,F)XB(F)B(F,F)-F (1-42) 13%
1-BB-3 (2-3) 10%
V-HHB-1 (2-9) 8%
1-BB(F)B-2V (2-12) 3%
2-BB(F)B-2V (2-12) 4%
3-BB(F)B-2V (2-12) 4%
5-HBB(F)B-2 (2-21) 6%
5-HBB(F)B-3 (2-21) 6%
NI=79.2℃;Tc<-20℃;η=39.2mPa・s;Δn=0.179;Δε=13.2;Vth=1.46V.
【0156】
[組成物(M2)]
3-HB-C (1-1) 10%
3-HB(F)-C (1-1) 15%
3-HHB-F (1-9) 4%
2-HHB(F)-F (1-9) 11%
3-HHB(F)-F (1-9) 11%
5-HHB(F)-F (1-9) 10%
3-HHB(F)-C (1-9) 8%
3-BB(F,F)XB(F,F)-F (1-28) 1%
3-HB-O2 (2-2) 10%
3-HHB-1 (2-9) 8%
3-HHB-3 (2-9) 8%
3-HHB-O1 (2-9) 4%
NI=95.5℃;Tc<-20℃;η=22.3mPa・s;Δn=0.100;Δε=8.1;Vth=1.50V.
【0157】
[組成物(M3)]
2-HHB(F)-F (1-9) 12%
3-HHB(F)-F (1-9) 12%
5-HHB(F)-F (1-9) 11%
3-HHB(F,F)-F (1-9) 10%
3-HHXB(F,F)-F (1-13) 1%
2-HBB(F)-F (1-16) 4.5%
3-HBB(F)-F (1-16) 4.5%
5-HBB(F)-F (1-16) 9%
3-HBB(F,F)-F (1-16) 18%
3-HB-O2 (2-2) 5%
3-HHB-1 (2-9) 8%
3-HHB-O1 (2-9) 5%
NI=101.8℃;Tc<-20℃;η=24.5mPa・s;Δn=0.105;Δε=6.1;Vth=1.76V.
【0158】
[組成物(M4)]
3-BB(F,F)XB(F,F)-F (1-28) 15%
3-BB(F,F)XB(F)B(F,F)-F (1-42) 12%
3-HB-O2 (2-2) 15%
3-HHB-1 (2-9) 8%
3-HHB-3 (2-9) 10%
3-HHB-O1 (2-9) 5%
3-HBB-2 (2-10) 12%
2-BB(F)B-5 (2-12) 8%
3-BB(F)B-5 (2-12) 8%
3-BB(2F,5F)B-3 (2-13) 7%
NI=100.5℃;Tc<-20℃;η=32.3mPa・s;Δn=0.162;Δε=6.2;Vth=2.28V.
【0159】
[組成物(M5)]
3-HB-CL (1-1) 3%
5-HXB(F,F)-F (1-7) 3%
3-HHB-OCF3 (1-9) 3%
3-HHXB(F,F)-F (1-13) 6%
3-HGB(F,F)-F (1-14) 3%
3-HB(F)B(F,F)-F (1-17) 5%
3-BB(F,F)XB(F,F)-F (1-28) 6%
3-HHBB(F,F)-F (1-29) 6%
5-BB(F)B(F,F)XB(F)B(F,F)-F (1-43) 2%
3-BB(2F,3F)XB(F,F)-F (1-44) 4%
3-HHB(F,F)XB(F,F)-F (1) 4%
3-HBB(2F,3F)XB(F,F)-F (1) 5%
3-HH-V (2-1) 22%
3-HH-V1 (2-1) 10%
5-HB-O2 (2-2) 5%
3-HHEH-3 (2-8) 3%
3-HBB-2 (2-10) 7%
5-B(F)BB-3 (2-11) 3%
NI=77.2℃;Tc<-20℃;Δn=0.101;Δε=5.8;Vth=1.88V;η=13.7mPa・s;γ1=61.3mPa・s.
【0160】
[組成物(M6)]
2-HB(F)-C (1-1) 9%
3-HB(F)-C (1-1) 10%
3-HHB-F (1-9) 4%
2-HHB(F)-F (1-9) 6%
3-HHB(F)-F (1-9) 6%
5-HHB(F)-F (1-9) 6%
2-HHB(F)-C (1-9) 6%
3-HHB(F)-C (1-9) 6%
3-HEB-O4 (2-4) 6%
4-HEB-O2 (2-4) 4%
5-HEB-O1 (2-4) 4%
3-HEB-O2 (2-4) 3%
5-HEB-O2 (2-4) 3%
2-HHB-1 (2-9) 5%
3-HHB-1 (2-9) 8%
3-HHB-3 (2-9) 10%
3-HHB-O1 (2-9) 4%
NI=102.2℃;;Tc<-20℃;Δn=0.098;Δε=7.1;Vth=1.53V;η=25.7mPa・s;γ1=139.6mPa・s.
【0161】
[組成物(M7)]
2-HB(F)-C (1-1) 15%
3-HB(F)-C (1-1) 15%
3-HHB-F (1-9) 5%
2-HHB(F)-F (1-9) 3%
3-HHB(F)-F (1-9) 3%
5-HHB(F)-F (1-9) 4%
2-HHB(F)-C (1-9) 13%
3-HHB(F)-C (1-9) 12%
3-HEB-O4 (2-4) 5%
4-HEB-O2 (2-4) 4%
5-HEB-O1 (2-4) 4%
3-HEB-O2 (2-4) 3%
5-HEB-O2 (2-4) 2%
3-HHEBH-3 (2-19) 4%
3-HHEBH-4 (2-19) 4%
3-HHEBH-5 (2-19) 4%
NI=103.4℃;Tc<-20℃;Δn=0.105;Δε=11.4;Vth=1.18V;η=37.1mPa・s
【0162】
[組成物(M8)]
2-HHB(F)-F (1-9) 9%
3-HHB(F)-F (1-9) 9%
3-HHB(F)-F (1-9) 9%
3-HHB-F (1-9) 5%
1-HHB(F,F)-F (1-9) 5%
2-HHB(F,F)-F (1-9) 5%
3-HHB(F,F)-F (1-9) 5%
3-HBB(F)-F (1-16) 7%
3-HBB(F,F)-F (1-16) 18%
2-HHBB(F,F)-F (1-29) 4%
3-HHBB(F,F)-F (1-29) 5%
3-HH-4 (2-1) 9%
3-HHB-3 (2-9) 10%
NI=106.5℃;Tc<-20℃;Δn=0.098;Δε=6.22;Vth=1.52V;η=24.2mPa・s
【0163】
[組成物(M9)]
3-HHB(F,F)-F (1-9) 8%
2-HHB(F)-F (1-9) 15%
3-HHB(F)-F (1-9) 15%
5-HHB(F)-F (1-9) 15%
3-HHB-F (1-9) 5%
3-HH-4 (2-1) 12%
3-HB-O2 (2-2) 10%
3-HHEBH-3 (2-19) 7%
3-HHEBH-4 (2-19) 7%
3-HHEBH-5 (2-19) 6%
NI=139.7℃;Tc<-20℃;Δn=0.081;Δε=2.90;Vth=2.55V;η=24.5mPa・s
【0164】
[組成物(M10)]
2-HB(F)-C (1-1) 6%
3-HB(F)-C (1-1) 12%
2-HHB(F)-C (1-9) 10%
3-HHB(F)-C (1-9) 11%
3-HHB(F)-F (1-9) 3%
2-HHB(F,F)-F (1-9) 8%
3-HHB(F,F)-F (1-9) 10%
3-HHXB(F,F)-F (1-13) 17%
3-GB(F,F)XB(F,F)-F (1-22) 5%
5-HHBB(F,F)-F (1-29) 3%
3-HHEBH-3 (2-19) 3%
3-HHEBH-4 (2-19) 6%3-HHEBH-5 (2-19) 6%
NI=124.5℃;Tc<-20℃;Δn=0.100;Δε=14.4;Vth=0.95V;η=43mPa・s
【0165】
[組成物(M11)]
2-HHB(F)-F (1-9) 9%
3-HHB(F)-F (1-9) 9%
5-HHB(F)-F (1-9) 9%
3-HHB-F (1-9) 5%
1-HHB(F,F)-F (1-9) 5%
2-HHB(F,F)-F (1-9) 5%
3-HHB(F,F)-F (1-9) 10%
2-HBB(F)-F (1-16) 2%
3-HBB(F)-F (1-16) 2%
5-HBB(F)-F (1-16) 4%
3-HBB-F (1-16) 3%
5-HBB-F (1-16) 3%
3-HBB(F,F)-F (1-16) 15%
5-HBB(F,F)-F (1-16) 8%
2-HHBB(F,F)-F (1-29) 3%
3-HHBB(F,F)-F (1-29) 5%
5-BB(2F)BBm-2 (2-24) 3%
NI=102.0℃;Tc<-20℃;Δn=0.120;Δε=7.5;Vth=1.58V;η=32.8mPa・s
【0166】
[組成物(M12)]
3-HHB(F,F)-F (1-9) 10%
3-HHXB(F,F)-F (1-13) 2%
3-GHB(F,F)-F (1-15) 4%
3-BB(F)B(F,F)-F (1-24) 7%
3-BB(F,F)XB(F,F)-F (1-28) 14%
4-BB(F)B(F,F)XB(F,F)-F (1-41) 10%
5-BB(F)B(F,F)XB(F,F)-F (1-41) 6%
3-HH-V (2-1) 18%
3-HH-4 (2-1) 11%
5-HB-O2 (2-2) 2%
3-HHB-1 (2-9) 5%
3-HHB-3 (2-9) 5%
3-HHB-O1 (2-9) 6%
NI=78.4℃;Tc<-20℃;Δn=0.108;Δε=10.4;Vth=1.35V;η=17.8mPa・s;γ1=80mPa・s.
【0167】
[組成物(M13)]
2-HHB(F)-F (1-9) 9%
3-HHB(F)-F (1-9) 9%
5-HHB(F)-F (1-9) 9%
3-HHB-F (1-9) 5%
1-HHB(F,F)-F (1-9) 5%
2-HHB(F,F)-F (1-9) 5%
3-HHB(F,F)-F (1-9) 10%
2-HBB(F)-F (1-16) 2%
3-HBB(F)-F (1-16) 2%
5-HBB(F)-F (1-16) 4%
3-HBB-F (1-16) 3%
5-HBB-F (1-16) 3%
3-HBB(F,F)-F (1-16) 15%
5-HBB(F,F)-F (1-16) 8%
2-HHBB(F,F)-F (1-29) 3%
3-HHBB(F,F)-F (1-29) 5%
5-HBB(F)BB-2 (2-25) 3%
NI=108.0℃;Tc<-20℃;Δn=0.123;Δε=7.5;Vth=1.65V;η=35.1mPa・s
【0168】
次の光学活性化合物を実施例で使用した。

【0169】
[実施例1]
(1)液晶調光素子の作製
液晶組成物(M6)は正の誘電率異方性を有した。液晶組成物(M6)全量に基づいて、光学活性化合物(K1-7-1)を0.4重量部の割合で添加した。さらに、この液晶組成物(M6)全量に対して、二色性色素として、特開2000-313881号公報の実施例2に開示されている、アゾ系色素とアントラキノン系色素との混合物である黒色色素(色素組成物-II)を15重量部の割合で混合し、120℃で加熱混合させ、調光素子用液晶組成物を調製した。調光素子用液晶組成物のらせんピッチは3.0μmであった。この調光素子用液晶組成物を、2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が8.8μmである素子へ注入し、液晶調光素子とした。素子の上下両基板には水平配向処理をした配向膜が形成されており、上下両基板間の配向処理方向は80°ツイストするように設定した。
【0170】
(2)液晶調光素子の電気光学特性
上記の液晶調光素子へ、0Vから50Vの範囲の電圧を印加し、透過率を測定した。
透過率(off):1.6%、透過率(on):29.2% であったので、良好な電気光学特性を有する液晶調光素子であることが分かった。また、応答時間は62msであり、良好な応答時間を有することが分かった。
【0171】
(3)液晶調光素子用液晶組成物の低温保管安定性
上記の液晶調光素子を、-20℃で7日間保管したところ結晶等の異物は観察されず、透明状態であったことから、液晶調光素子用液晶組成物の保管安定性は良好であると判断した。
【0172】
[比較例1]
(1)液晶調光素子の作製
実施例1で用いた光学活性化合物(K1-7-1)の代わりに、式(L-1)で表される光学活性化合物を、液晶組成物(M6)全量に基づいて6.4重量部の割合で添加した。次に、実施例1と同様な方法で調光素子用液晶組成物を調製した。この調光素子用液晶組成物のらせんピッチは3.0μmであった。この調光素子用液晶組成物を用いて、実施例1と同様な方法で、液晶調光素子を得た。

【0173】
(2)液晶調光素子の電気光学特性
上記の液晶調光素子へ、0Vから50Vの範囲の電圧を印加し、透過率を測定した。
透過率(off):1.8%、透過率(on):28.5% であったので、良好な電気光学特性を有する液晶調光素子であることが分かった。一方、応答時間は84msであり、不十分な応答時間であることが分かった。
【0174】
(3)液晶調光素子用液晶組成物の低温保管安定性
上記の液晶調光素子用液晶組成物を、-20℃で7日間保管したところ結晶等の異物は観察されず、透明状態であったことから、液晶調光素子用液晶組成物の保管安定性は良好であると判断した。
【0175】
[比較例2]
(1)液晶調光素子の作製
実施例1で用いた二色性色素の代わりに、再公表特許WO2018/159303号の段落0189および実施例1に開示されているアゾ化合物3種からなる二色性色素(アゾ色素(A):アゾ色素(B):アゾ色素(C)=0.86:0.52:1.43(重量比))を、7重量部の割合で添加したこと以外は、実施例1と同様な方法で調光素子用液晶組成物を調製し、液晶調光素子を得た。
【0176】
(2)液晶調光素子の電気光学特性
上記の液晶調光素子へ、0Vから50Vの範囲の電圧を印加し、透過率を測定した。
透過率(off):1.4%、透過率(on):26.5%であったので、電気光学特性は不十分であることが分かった。一方、応答時間は38msであり、良好な応答時間を有することが分かった。
【0177】
(3)液晶調光素子用液晶組成物の低温保管安定性
上記の液晶調光素子用液晶組成物を、-20℃で7日間保管したところ結晶の異物が観察され、散乱状態が観察されたことから、液晶調光素子用液晶組成物の保管安定性は不十分であると判断した。
【0178】
以上の結果から、本発明の液晶調光素子は、良好な電気光学特性(高いコントラスト)と、良好な応答速度を有することが分かった。また、液晶調光素子用液晶組成物は、二色性色素との良好な相溶性を示し、低温下における高い保管安定性を有することが分かった。同様な効果は、液晶組成物(M6)以外の液晶組成物を用いても期待できる。
したがって、我々は、特定のキラルネマチック液晶組成物と、特定の二色性色素とを組み合せた、ゲスト-ホスト(GH)型液晶組成物を液晶調光素子に好適に使用することができると結論する。
【産業上の利用可能性】
【0179】
本発明の液晶調光素子用液晶組成物を有する液晶調光素子は、調光窓、スマートウィンドウ、スマートグラス、車両用サンルーフなどに用いることができる。