(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022031137
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】半導体装置のシミュレーション装置およびシミュレーション方法
(51)【国際特許分類】
G06F 30/398 20200101AFI20220210BHJP
G06F 119/02 20200101ALN20220210BHJP
G06F 119/14 20200101ALN20220210BHJP
【FI】
G06F30/398
G06F119:02
G06F119:14
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021104261
(22)【出願日】2021-06-23
(31)【優先権主張番号】P 2020134813
(32)【優先日】2020-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】日清紡マイクロデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177493
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 修
(72)【発明者】
【氏名】荒木 千明
【テーマコード(参考)】
5B146
【Fターム(参考)】
5B146AA22
5B146DJ02
5B146DJ07
5B146GL08
5B146GL12
(57)【要約】 (修正有)
【課題】経験的なしきい値の設定なしで剥離等の不良モードの発生を判定することができるシミュレーション装置及びシミュレーション方法を提供する。
【解決手段】半導体素子が実装部材に実装され、実装部材の一部とともに封止部材で封止された半導体装置のシミュレーション装置10において、モデル生成部2で半導体装置内に不良モードのないモデルを生成し、シミュレーション部で第1のシミュレーション値を算出する。同様に指定する領域に不良モードを発生させたモデルを生成し第2のシミュレーション値を算出する。この第1のシミュレーション値と第2のシミュレーション値とを判定部6で比較し、不良モードが発生するか否かを判定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子が実装部材に実装され該実装部材の一部とともに封止部材で封止された半導体装置について、該半導体装置内で不良モードが発生するか否かを判定する半導体装置のシミュレーション装置において、
前記半導体装置内の指定する領域に不良モードのないモデルのシミュレーションを行い、第1のシミュレーション値を算出するとともに、前記半導体装置内の指定する領域に不良モードを発生させたモデルのシミュレーションを行い、第2のシミュレーション値を算出する算出手段と、
前記第1のシミュレーション値と前記第2のシミュレーション値とを比較し、前記指定する領域に前記不良モードが発生するか否かを判定する判定手段と、を備えたことを特徴とする半導体装置のシミュレーション装置。
【請求項2】
請求項1記載の半導体装置のシミュレーション装置において、
前記算出手段は、前記半導体装置内の指定する領域の内部応力を前記第1のシミュレーション値あるいは前記第2のシミュレーション値として算出する手段であり、
該判定手段は、前記第1のシミュレーション値が前記第2のシミュレーション値より小さいとき、前記不良モードは発生しないと判定し、あるいは前記第2のシミュレーション値が前記第1のシミュレーション値より小さいとき、前記不良モードが発生すると判定する手段であることを特徴とする半導体装置のシミュレーション装置。
【請求項3】
請求項1又は2いずれか記載の半導体装置のシミュレーション装置において、
前記不良モードは、前記半導体素子と前記実装部材間の剥離、前記半導体素子と前記封止部材間の剥離、前記実装部材と前記封止部材間の剥離、半導体素子の破壊、実装部材の破壊、封止部材の破壊のいずれかであることを特徴とする半導体装置のシミュレーション装置。
【請求項4】
半導体素子が実装部材に実装され該実装部材の一部とともに封止部材で封止された半導体装置について、該半導体装置内で不良モードが発生するか否かを判定する半導体装置のシミュレーション方法において、
前記半導体装置内の指定する領域に不良モードのないモデルのシミュレーションを行い、第1のシミュレーション値を算出するステップと、
前記半導体装置内の指定する領域に不良モードを発生させたモデルのシミュレーションを行い、第2のシミュレーション値を算出するステップと、
前記第1のシミュレーション値と前記第2のシミュレーション値とを比較し、前記不良モードが発生するか否かを判定するステップと、を含むことを特徴とする半導体装置のシミュレーション方法。
【請求項5】
請求項4記載の半導体装置のシミュレーション方法において、
前記第1のシミュレーション値を算出するステップと前記第2のシミュレーション値を算出するステップは、前記半導体装置内の指定する領域の内部応力をそれぞれ算出するステップであり、
前記不良モードが発生するか否かを判定するステップは、前記第1のシミュレーション値が前記第2のシミュレーション値より小さいとき、前記不良モードは発生しないと判定し、あるいは前記第2のシミュレーション値が前記第1のシミュレーション値より小さいとき、前記不良モードが発生すると判定するステップであることを特徴とする半導体装置のシミュレーション方法。
【請求項6】
請求項4記載の半導体装置のシミュレーション方法において、
前記第1のシミュレーション値を算出するステップと前記第2のシミュレーション値を算出するステップは、前記半導体装置内の指定する領域の端部に沿った複数の領域の内部応力をそれぞれ算出するステップであり、
前記不良モードが発生するか否かを判定するステップは、前記端部に沿った複数の領域について前記第1のシミュレーション値が前記第2のシミュレーション値より小さい領域が連続するとき、前記不良モードは発生しないと判定し、あるいは前記第2のシミュレーション値が前記第1のシミュレーション値より小さい領域が存在し、前記第1のシミュレーション値が前記第2のシミュレーション値より小さい領域が連続しないとき、前記不良モードが発生すると判定するステップであることを特徴とする半導体装置のシミュレーション方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子が実装部材に実装され、封止部材で封止された構造の半導体装置について、半導体装置内で不良モードが発生するか否かを判定する半導体装置のシミュレーション装置およびシミュレーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、半導体装置内で剥離等の各種不良モードが発生するか否かを判定する場合、所定の物性値について、算出されたシミュレーション値と経験的に得られたしきい値とを比較して判定を行う。
【0003】
例えば、半導体装置内で不良モードとして剥離が発生するか否かは、次のように判定する。まず、構成部材の寸法や物性を変えた半導体装置を作製して剥離が発生するか否かを確認する。一方、剥離が発生した複数の半導体装置について、シミュレーション装置を用い、それぞれの内部応力をシミュレーションする。このシミュレーション値の最小値は、剥離が発生する内部応力の特定値(A)となる。同様に、剥離が発生しない半導体装置について、内部応力をシミュレーションする。このシミュレーション値の最大値は、剥離が発生しない内部応力の特定値(B)となる。シミュレーション実行者は、この2つの特定値をしきい値(X)として設定する。あるいは2つの特定値間の値をしきい値(X)とする場合もある。
【0004】
一方シミュレーション対象の半導体装置について、その構成部材の寸法や物性値等のデータをシミュレーション装置に入力してモデルを設定し、内部応力のシミュレーションを行い、シミュレーション値(Y)を得る。
【0005】
このシミュレーション値(Y)と、先に設定したしきい値(X)とを比較して剥離が発生するか否かの判定を行う。例えば特定値(A)、特定値(B)をしきい値(X)として設定した場合、シミュレーション値(Y)が、しきい値(X:特定値A)より大きい場合、剥離が発生すると判定する。あるいはシミュレーション値(Y)が、しきい値(X:特定値B)より小さい場合、剥離は発生しないと判定する。この種のシミュレーション装置は、例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のシミュレーション装置およびシミュレーション方法では、経験的に得られたしきい値とシミュレーション値とを比較して不良モードが発生するか否かの判定を行っていた。ところで経験的に得られたしきい値が、シミュレーション対象となる半導体装置の不良モードの発生を判定するためのしきい値として妥当であるとは限らない。またそのしきい値と比較するシミュレーション値が、実測値と一致するかどうか確認することも難しい。つまり従来の判定方法は、不確かな2つの値を比較して予測するものであって、正確性に欠けるものであった。本発明はこのような実情に鑑み、経験的なしきい値の設定なしで剥離等の不良モードの発生を判定することができる半導体装置のシミュレーション装置およびシミュレーション方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本願請求項1に係る発明は、半導体素子が実装部材に実装され該実装部材の一部とともに封止部材で封止された半導体装置について、該半導体装置内で不良モードが発生するか否かを判定する半導体装置のシミュレーション装置において、前記半導体装置内の指定する領域に不良モードのないモデルのシミュレーションを行い、第1のシミュレーション値を算出するとともに、前記半導体装置内の指定する領域に不良モードを発生させたモデルのシミュレーションを行い、第2のシミュレーション値を算出する算出手段と、前記第1のシミュレーション値と前記第2のシミュレーション値とを比較し、前記指定する領域に前記不良モードが発生するか否かを判定する判定手段と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
本願請求項2に係る発明は、請求項1記載の半導体装置のシミュレーション装置において、前記算出手段は、前記半導体装置内の指定する領域の内部応力を前記第1のシミュレーション値あるいは前記第2のシミュレーション値として算出する手段であり、該判定手段は、前記第1のシミュレーション値が前記第2のシミュレーション値より小さいとき、前記不良モードは発生しないと判定し、あるいは前記第2のシミュレーション値が前記第1のシミュレーション値より小さいとき、前記不良モードが発生すると判定する手段であることを特徴とする。
【0010】
本願請求項3に係る発明は、請求項1又は2いずれか記載の半導体装置のシミュレーション装置において、前記不良モードは、前記半導体素子と前記実装部材間の剥離、前記半導体素子と前記封止部材間の剥離、前記実装部材と前記封止部材間の剥離、半導体素子の破壊、実装部材の破壊、封止部材の破壊のいずれかであることを特徴とする。
【0011】
本願請求項4に係る発明は、半導体素子が実装部材に実装され該実装部材の一部とともに封止部材で封止された半導体装置について、該半導体装置内で不良モードが発生するか否かを判定する半導体装置のシミュレーション方法において、前記半導体装置内の指定する領域に不良モードのないモデルのシミュレーションを行い、第1のシミュレーション値を算出するステップと、前記半導体装置内の指定する領域に不良モードを発生させたモデルのシミュレーションを行い、第2のシミュレーション値を算出するステップと、前記第1のシミュレーション値と前記第2のシミュレーション値とを比較し、前記不良モードが発生するか否かを判定するステップと、を含むことを特徴とする。
【0012】
本願請求項5に係る発明は、請求項4記載の半導体装置のシミュレーション方法において、前記第1のシミュレーション値を算出するステップと前記第2のシミュレーション値を算出するステップは、前記半導体装置内の指定する領域の内部応力をそれぞれ算出するステップであり、前記不良モードが発生するか否かを判定するステップは、前記第1のシミュレーション値が前記第2のシミュレーション値より小さいとき、前記不良モードは発生しないと判定し、あるいは前記第2のシミュレーション値が前記第1のシミュレーション値より小さいとき、前記不良モードが発生すると判定するステップであることを特徴とする。
【0013】
本願請求項6に係る発明は、請求項4記載の半導体装置のシミュレーション方法において、前記第1のシミュレーション値を算出するステップと前記第2のシミュレーション値を算出するステップは、前記半導体装置内の指定する領域の端部に沿った複数の領域の内部応力をそれぞれ算出するステップであり、前記不良モードが発生するか否かを判定するステップは、前記端部に沿った複数の領域について前記第1のシミュレーション値が前記第2のシミュレーション値より小さい領域が連続するとき、前記不良モードは発生しないと判定し、あるいは前記第2のシミュレーション値が前記第1のシミュレーション値より小さい領域が存在し、前記第1のシミュレーション値が前記第2のシミュレーション値より小さい領域が連続しないとき、前記不良モードが発生すると判定するステップであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の半導体装置のシミュレーション装置およびシミュレーション方法は、不良モードのないモデルと不良モードを発生させたモデルとからそれぞれ算出するシミュレーション値を比較するのみで、不良モードが発生するか否かを判定することを可能としている。本発明は判定のためのしきい値の設定を必要としないため、新規の構造の半導体装置のシミュレーションを容易に行うことができる。
【0015】
本発明は、モデルの設定さえ可能であれば種々の不良モードの発生を予測、判定することができ、簡便に種々の不良モードの発生の予測、判定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の半導体装置のシミュレーション装置の説明図である。
【
図2】本発明の第1の実施例のシミュレーション対象の半導体装置であって、剥離が発生していない半導体装置の説明図である。
【
図3】本発明の第1の実施例のシミュレーション対象の半導体装置であって、剥離を発生させた半導体装置の説明図である。
【
図4】本発明の第1の実施例の判定方法を説明する図である。
【
図5】本発明の第1の実施例のシミュレーション対象の半導体装置の設計変更を説明する図である。
【
図6】本発明の第2の実施例のシミュレーション対象の半導体装置であって、剥離が発生していない半導体装置の説明図である。
【
図7】本発明の第2の実施例のシミュレーション対象の半導体装置であって、剥離を発生させた半導体装置の説明図である。
【
図8】本発明の第2の実施例の判定方法を説明する図である。
【
図9】本発明の第2の実施例のシミュレーション対象の半導体装置の設計変更を説明する図である。
【
図10】本発明の第3の実施例のシミュレーション対象の半導体装置であって、剥離が発生していない半導体装置の説明図である。
【
図11】本発明の第3の実施例のシミュレーション対象の半導体装置であって、剥離を発生させた半導体装置の説明図である。
【
図12】本発明の第3の実施例の判定方法を説明する図である。
【
図13】本発明の第3の実施例の判定方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の半導体装置のシミュレーション装置およびシミュレーション方法は、半導体素子が実装部材に実装され、半導体素子と実装部材の少なくとも一部が封止部材で封止された構造の半導体装置をシミュレーション対象としている。またこの半導体装置において想定される不良モードが発生するか否かを判定するものである。以下、本発明の半導体装置のシミュレーション装置を用いて、シミュレーション対象の半導体装置に不良モードが発生するか否かを判定するシミュレーション方法について説明する。
【0018】
図1は、本発明の半導体装置のシミュレーション装置10の一例の説明図である。
図1に示すシミュレーション装置10は、パーソナルコンピュータ等の演算装置で構成することができ、シミュレーションの開始やモデル作成の指令等を入力する入力部1、所望のモデルを生成するモデル生成部2、モデル生成のために必要な複数のデータを記憶するデータ群記憶部3、モデル生成部2で生成されたモデルについてシミュレーションを行うシミュレーション部4、シミュレーション結果を記憶するシミュレーション値記憶部5、シミュレーション値から不良モードが発生するか否かを判定する判定部6、判定結果を表示等する出力部7により構成されている。
【0019】
なお
図1に示すシミュレーション装置において、データ群記憶部3は、必要なデータを入力部1から入力する構成、あるいはモデル生成部2内に必要なデータを記憶する構成とすれば、必ずしも必須ではない。同様にシミュレーション値記憶部5も、シミュレーション部4あるいは判定部6にシミュレーション部4で行ったシミュレーション値を記憶する構成とすれば、必ずしも必須ではない。また、判定部6から出力部7に出力される判定結果は、不良モードの発生の有無を明示する場合に限らず、不良モードが発生すると判定された場合と不良モードが発生しないと判定された場合とでシミュレーション値の表示方法を変える等、シミュレーション実行者が認識可能な方法で表示すればよい。
【0020】
本発明の半導体装置のシミュレーション方法は、次のようなステップを含んでいる。まず、シミュレーション対象の半導体装置について、どのような不良モードについてシミュレーションを行うかを決定する。通常のシミュレーション装置を用いたシミュレーション方法同様、シミュレーション実行者は、シミュレーションを開始するために必要な半導体装置に関する情報、不良モードに関する情報等を入力部1に入力する。モデル生成部2では、必要に応じてデータ群記憶部3に記憶されているデータを読み出し、シミュレーション対象の半導体装置のモデルを生成する。このとき、モデル生成部2では、半導体装置内に不良モードのないモデルと、半導体装置内に不良モードを発生させたモデルとを生成する。
【0021】
シミュレーション部4では、半導体装置内の指定する領域に不良モードのないモデルを用いてシミュレーションを行い第1のシミュレーション値を得て、シミュレーション値記憶部5に記憶させる。ここで算出される第1のシミュレーション値は、不良モードの発生に影響を与える物性値であり、後述する第2のシミュレーション値と比較する値とする。
【0022】
同様に、モデル生成部2によって第1のシミュレーションを行った領域と同じ半導体装置内の指定する領域に不良モードを発生させたモデルを用いて、シミュレーション部4でシミュレーションを行い、第2のシミュレーション値を得て、シミュレーション値記憶部5に記憶させる。
【0023】
シミュレーション部4のシミュレーションが終了すると、判定部6では、シミュレーション値記憶部5から第1のシミュレーション値と第2のシミュレーション値を読み出し、予め設定された判定方法に従い不良モードが発生するか否かを判定し、判定結果を出力部7に出力する。この判定結果が出力部7に表示等されることで、シミュレーション実行者はシミュレーション結果を知ることができる。
【0024】
判定部6における判定方法は、想定する不良モードとシミュレーションする物性値(第1のシミュレーション値および第2のシミュレーション値)との組み合わせにより、第1のシミュレーション値と第2のシミュレーション値の大小関係と不良モード発生の有無との関係を設定すればよい。以下、本発明の実施例について詳細に説明する。
【実施例0025】
本発明の第1の実施例として、半導体素子と実装部材との間に剥離が発生するか否かを判定する場合について説明する。
【0026】
図2は本実施例のシミュレーション対象の半導体装置20の断面図である。リードフレームからなる実装部材21上に接着部材22を介して半導体素子23が実装されている。実装部材21の一部と半導体素子23は、封止樹脂からなる封止部材24によって封止されている。本実施例では、このような構造の半導体装置20において、実装部材21と封止部材24との界面に、不良モードの一つとして剥離が発生するか否かを判定することとする。
【0027】
図2に示す半導体装置20は、剥離が発生していない場合となる。一方
図3に示す半導体装置20Aは、実装部材21と封止部材24との間の剥離形成領域25に剥離を発生させた場合となる。通常のシミュレーション同様、半導体装置20と半導体装置20Aについて、データ群記憶部3に記憶されたそれぞれの封止部材等の物性値や寸法等を読み出し、モデル生成部2でモデルを形成する。具体的には、実装部材21と封止部材24とが連続した剥離のないモデル(
図2に示す半導体装置20に相当)と、剥離形成領域25の実装部材21と封止部材24とを連続させないモデル(
図3に示す半導体装置20Aに相当)とを形成する。また実装部材21の種類を変えた場合について、それぞれのモデルも形成する。
【0028】
次に、内部応力のシミュレーションを行う。ここで、シミュレーション対象となる領域(実装部材21と封止部材24との接合部)近傍の内部応力をシミュレーションするものとする。実際の半導体装置では、封止部材で封止(例えば封止温度175℃)された後、常温(25℃)、信頼性試験工程(-65℃)、実装のためのリフロー工程(例えばリフロー温度260℃)のような温度が加わるので、同様の熱履歴を加わることも想定する。各温度でシミュレーション値を比較すればよいが、最も応力が小さくなる温度、この場合は封止温度と同じ温度のシミュレーション値を比較することとする。
【0029】
図4においてサンプルNo.1は、リードフレームとして一般的な42アロイフレームを用いた場合の内部応力のシミュレーション結果を、サンプルNo.2は、銅フレームを用いた場合の内部応力のシミュレーション結果をそれぞれ示す。シミュレーション結果の第1の値は剥離のないモデルのシミュレーション結果(第1のシミュレーション値に相当)であり、第2の値は剥離を発生させたモデルのシミュレーション結果(第2のシミュレーション値に相当)となる。
【0030】
剥離が発生するか否かの判定は次のように行う。第1の値と第2の値を比較し、第1の値が第2の値より小さいとき、第1の値を示す状態の方が第2の値を示す状態より静的な定常状態と言える。すなわち、剥離のない状態の方が、剥離が発生する状態より静的な定常状態と言える。このような判定方法に従うと、サンプルNo.1の半導体装置は、剥離は発生しないと判定される。実際の半導体装置について剥離の有無を観察した場合も、剥離はなく、判定結果と一致することが確認された。
【0031】
逆に、第2の値が第1の値より小さいとき、第2の値を示す状態の方が第1の値を示す状態より静的な定常状態と言える。すなわち、剥離が発生する状態の方が剥離のない状態より静的な定常状態と言える。この結果からサンプルNo.2の半導体装置は、剥離が発生すると判定され、実際の半導体装置について観察したところ、剥離があり、判定結果と一致することが確認された。
【0032】
従来のシミュレーション方法では、第1の値と経験的に得られたしきい値とを比較して剥離が発生するか否かを予想していた。これに対して本実施例では、しきい値を使用せず、第1の値と第2の値の大小関係を比較することで、実際の観察結果と一致する判定結果を得ることが可能であることを示している。
【0033】
ところで、本実施例に用いられるモデルの生成についても、従来例で説明したようにモデルの正確性を高めること、すなわちシミュレーション値と真の値とを一致させることは難しい。しかしながら、本実施例では、シミュレーション値の絶対値を比較するのではなく、剥離のないモデルと剥離を発生させたモデルのいずれが定常状態かを判定する構成とすることで、シミュレーション値の絶対値の正確性を求める必要がなくなる。なお、剥離が発生しない半導体装置とするためには、複数のモデルを生成し、それらのモデルについて判定を行うことが好ましい。
【0034】
次に、本発明を半導体装置の設計方法に適用する例を説明する。
図4に示すサンプルNo.2の構造の半導体装置は剥離が発生する。この半導体装置について、どのような構造とすれば剥離の発生を抑えられるか検討する。
【0035】
例えば、実装部材21と封止部材24の剥離について実装部材21に貫通孔26を形成し、アンカー効果を利用して剥離を防止できないか検討してみることとする。
【0036】
図5は、実装部材21の剥離形成領域25の一部に貫通孔26を形成した半導体装置20Bである。
図5に示すように、貫通孔26内に封止部材24を充填したモデルとなる。
【0037】
内部応力のシミュレーション結果は、
図4のサンプルNo.3となる。上述同様、剥離が発生するか否かの判定を行う。シミュレーション結果の第1の値と第2の値を比較すると、第1の値が第2の値より小さい。この結果は、この半導体装置20Bには剥離は発生しないということを示している。実際の半導体装置について剥離の有無を観察したところ、剥離はなく、判定結果と一致することが確認された。
【0038】
このように発明の半導体装置のシミュレーション装置およびシミュレーション方法によれば、簡便に半導体装置の設計を行うことが可能となる。
次に第2の実施例として、上記第1の実施例とは実装部材21の形状が異なる半導体装置において、実装部材21と封止部材24との間に剥離が発生するか否かを判定する場合について説明する。
次に、内部応力のシミュレーションを行う。ここで、シミュレーション対象となる領域(実装部材21と封止部材24との接合部)近傍の内部応力をシミュレーションするものとする。実際の半導体装置では、封止部材で封止(例えば封止温度160℃)された後、常温(25℃)信頼性試験工程(-65℃)、実装のためのリフロー工程(例えばリフロー温度260℃)のような温度が加わるので、同様の熱履歴が加わることも想定する。各温度でシミュレーション値を比較すればよいが、最も応力が小さくなる温度、この場合は封止温度と同じ温度のシミュレーション値を比較することとする。
剥離が発生するか否かの判定は次のように行う。第1の値と第2の値を比較し、第1の値が第2の値より小さいとき、第1の値を示す状態の方が第2の値を示す状態より静的な定常状態と言える。すなわち、剥離のない状態の方が、剥離が発生する状態より静的な定常状態と言える。逆に、第2の値が第1の値より小さいとき、第2の状態の方が第1の状態より静的な定常状態と言える。すなわち、剥離が発生する状態の方が剥離のない状態より静的な定常状態と言える。このような判定方法に従うと、サンプルNo.4の半導体装置は、剥離が発生すると判定される。実際の半導体装置30Aについて剥離の有無を観察したところ、剥離があり、判定結果と一致することが確認された。
本実施例の半導体装置30Bでは、実装部材21の形状や凹部27の形状を種々変更してシミュレーションを行った結果、形状の変更のみで剥離の発生を抑えることができないという結論となった。このように本発明の半導体装置のシミュレーション装置およびシミュレーション方法によれば、不良モードの発生を抑えることのできない半導体装置を判別することにも利用可能となる。