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特開2022-31457微細セルロース繊維、その製造方法、スラリー及び複合体
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  • 特開-微細セルロース繊維、その製造方法、スラリー及び複合体 図1
  • 特開-微細セルロース繊維、その製造方法、スラリー及び複合体 図2
  • 特開-微細セルロース繊維、その製造方法、スラリー及び複合体 図3
  • 特開-微細セルロース繊維、その製造方法、スラリー及び複合体 図4
  • 特開-微細セルロース繊維、その製造方法、スラリー及び複合体 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022031457
(43)【公開日】2022-02-18
(54)【発明の名称】微細セルロース繊維、その製造方法、スラリー及び複合体
(51)【国際特許分類】
   C08B 3/00 20060101AFI20220210BHJP
【FI】
C08B3/00
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021211425
(22)【出願日】2021-12-24
(62)【分割の表示】P 2017116549の分割
【原出願日】2017-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(72)【発明者】
【氏名】辻井 敬亘
(72)【発明者】
【氏名】榊原 圭太
(72)【発明者】
【氏名】田中 幸治
(72)【発明者】
【氏名】生熊 崇人
(72)【発明者】
【氏名】大川 淳也
(72)【発明者】
【氏名】松末 一紘
(57)【要約】
【課題】取扱性に優れ、樹脂の補強材等として好適に用いることができる微細セルロース繊維、その製造方法、並びにこの微細セルロース繊維を含むスラリー及び複合体を提供する。
【解決手段】カルバメート基を有し、平均繊維径が1nm以上15μm以下であり、濃度を2質量%とした場合における水分散液のB型粘度が、1000mPa・s以上5000mPa・s以下であり、ヒドロキシ基の少なくとも一部が上記カルバメート基で置換されており、上記カルバメート基が、-O-CO-NH、-O-CO-NHR又は-O-CO-NRで表される基(Rは、それぞれ独立して、飽和直鎖状炭化水素基、飽和分岐鎖状炭化水素基、飽和環状炭化水素基、不飽和直鎖状炭化水素基、不飽和分岐鎖状炭化水素基又は芳香族基である。)である微細セルロース繊維。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルバメート基を有し、
平均繊維径が1nm以上15μm以下であり、
濃度を2質量%とした場合における水分散液のB型粘度が、1000mPa・s以上5000mPa・s以下であり、
ヒドロキシ基の少なくとも一部が上記カルバメート基で置換されており、
上記カルバメート基が、-O-CO-NH、-O-CO-NHR又は-O-CO-NRで表される基(Rは、それぞれ独立して、飽和直鎖状炭化水素基、飽和分岐鎖状炭化水素基、飽和環状炭化水素基、不飽和直鎖状炭化水素基、不飽和分岐鎖状炭化水素基又は芳香族基である。)である微細セルロース繊維。
【請求項2】
カルバメート基を有し、
平均繊維径が1nm以上15μm以下であり、
ゼータ電位が-100mV以上-30mV以下であり、
ヒドロキシ基の少なくとも一部が上記カルバメート基で置換されており、
上記カルバメート基が、-O-CO-NH、-O-CO-NHR又は-O-CO-NRで表される基(Rは、それぞれ独立して、飽和直鎖状炭化水素基、飽和分岐鎖状炭化水素基、飽和環状炭化水素基、不飽和直鎖状炭化水素基、不飽和分岐鎖状炭化水素基又は芳香族基である。)である微細セルロース繊維。
【請求項3】
カルバメート基を有し、
平均繊維径が1nm以上15μm以下であり、
パルプ粘度が2cP以上15cP以下であり、
ヒドロキシ基の少なくとも一部が上記カルバメート基で置換されており、
上記カルバメート基が、-O-CO-NH、-O-CO-NHR又は-O-CO-NRで表される基(Rは、それぞれ独立して、飽和直鎖状炭化水素基、飽和分岐鎖状炭化水素基、飽和環状炭化水素基、不飽和直鎖状炭化水素基、不飽和分岐鎖状炭化水素基又は芳香族基である。)である微細セルロース繊維。
【請求項4】
カルバメート基を有し、
平均繊維径が1nm以上15μm以下であり、
濃度を2質量%とした場合における水分散液のB型粘度が、1000mPa・s以上5000mPa・s以下であり、
ゼータ電位が-100mV以上-30mV以下であり、
パルプ粘度が2cP以上15cP以下であり、
ヒドロキシ基の少なくとも一部が上記カルバメート基で置換されており、
上記カルバメート基が、-O-CO-NH、-O-CO-NHR又は-O-CO-NRで表される基(Rは、それぞれ独立して、飽和直鎖状炭化水素基、飽和分岐鎖状炭化水素基、飽和環状炭化水素基、不飽和直鎖状炭化水素基、不飽和分岐鎖状炭化水素基又は芳香族基である。)である微細セルロース繊維。
【請求項5】
ヒドロキシ基に対する上記カルバメート基の置換度が0.05以上0.5以下である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の微細セルロース繊維。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の微細セルロース繊維を含むスラリー。
【請求項7】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の微細セルロース繊維及び樹脂を含む複合体。
【請求項8】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の微細セルロース繊維を製造する方法であって、
植物原料と尿素又はその誘導体との混合物を加熱処理する工程、及び
上記植物原料を微細化処理する工程
を備える微細セルロース繊維の製造方法。
【請求項9】
上記加熱処理工程を120℃以上200℃以下で行う請求項8に記載の微細セルロース繊維の製造方法。
【請求項10】
上記加熱処理工程を酸性下で行う請求項8又は請求項9に記載の微細セルロース繊維の製造方法。
【請求項11】
上記微細セルロース繊維が樹脂の補強材として用いられる請求項8、請求項9又は請求項10に記載の微細セルロース繊維の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細セルロース繊維、その製造方法、スラリー及び複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、物質をナノメートルレベルまで微細化し、物質が持つ従来の性状とは異なる新たな物性を得ることを目的としたナノテクノロジーが注目されている。化学処理、粉砕処理等によりセルロース系原料であるパルプから製造されるセルロースナノファイバー(以下、「CNF」ともいう。)等の微細セルロース繊維は、強度、弾性、熱安定性等に優れているため、ろ過材、ろ過助剤、イオン交換体の基材、クロマトグラフィー分析機器の充填材、樹脂及びゴムの配合用充填剤等としての工業上の用途や、口紅、粉末化粧料、乳化化粧料等の化粧品の配合剤の用途に用いられることが期待されている。また、CNF等は、食品、化粧品、塗料等の粘度の保持剤、食品原料生地の強化剤、水分保持剤、食品安定化剤、低カロリー添加物、乳化安定化助剤などの多くの用途における利用が期待されている。
【0003】
このようなCNF等の利用方法の一つとして、熱可塑性樹脂の補強材に使用する提案がなされている。CNF等としての樹脂補強効果を発揮させるためには凝集を抑制しつつ樹脂に分散させる必要がある。この補強材としてのCNF等の凝集を抑えるべく、表面修飾したCNFを用いる技術が開発されている(特開2012-229350号公報、特開2012-214563号公報及び特表平11-513425号公報参照)。特許文献1~3では微細セルロース繊維を表面修飾することにより樹脂への補強効果を発現させているが、表面修飾剤は水中で失活する、あるいは反応が非常に遅い等の問題があるため、有機溶媒下で実施しなければならず、溶媒処理等の問題がある。特許文献4~5では尿素を用いてカルバメートをセルロースに導入し、水処理吸着剤やスポンジとして用いているが、樹脂への補強効果については、これまで知られていなかった。
【0004】
また、CNF等は多くのヒドロキシ基を有することから、樹脂等と均等に混合させることが困難となる。また、CNF等は、多くのヒドロキシ基を有することにより、水に分散させてスラリー状にした際に粘度が非常に高くなる。このように、CNF等は取扱性の点などから更なる改良が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-229350号公報
【特許文献2】特開2012-214563号公報
【特許文献3】特表平11-513425号公報
【特許文献4】特開2001-172302号公報
【特許文献5】特開平9-99238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、取扱性に優れ、樹脂の補強材等として好適に用いることができる微細セルロース繊維、その製造方法、並びにこの微細セルロース繊維を含むスラリー及び複合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた発明は、カルバメート基を有する微細セルロース繊維である。
【0008】
当該微細セルロース繊維はカルバメート基を有し、これにより従来の微細セルロース繊維と比較して親水性が低くなっており、一方、極性の低い樹脂等との親和性が高まっている。このため、当該微細セルロース繊維は、樹脂との均一分散性に優れる。また、当該微細セルロース繊維のスラリーは、従来の微細セルロース繊維のスラリーと比較して粘性も低い。従って、当該微細セルロース繊維は取扱性に優れ、樹脂の補強材等として好適に用いることができる。
【0009】
当該微細セルロース繊維におけるヒドロキシ基に対する上記カルバメート基の置換度が0.05以上0.5以下であることが好ましい。置換度が上記範囲であることによって、十分に取扱性を向上させつつ、生産コストの上昇を抑えることなどができる。
【0010】
上記課題を解決するためになされた別の発明は、当該微細セルロース繊維を含むスラリーである。当該スラリーは、比較的粘性が低いことなどにより、取扱性に優れる。また、当該スラリーは、ヒドロキシ基がカルバメート基に置換されている微細セルロース繊維が用いられていることで、乾燥効率も比較的高い。
【0011】
上記課題を解決するためになされたさらに別の発明は、当該微細セルロース繊維及び樹脂を含む複合体である。当該複合体は、カルバメート基を有する微細セルロース繊維を含み、この微細セルロース繊維は樹脂に対して均一性高く分散することができるため、高い強度等を有することができる。
【0012】
上記課題を解決するためになされたさらに別の発明は、植物原料と尿素又はその誘導体との混合物を加熱処理する工程、及び上記植物原料を微細化処理する工程を備える微細セルロース繊維の製造方法である。
【0013】
当該製造方法によれば、この加熱処理工程において、植物原料の主成分であるセルロースのヒドロキシ基の一部が尿素又はその誘導体と反応し、ヒドロキシ基の少なくとも一部がカルバメート基に置換される。この加熱処理工程を経て得られるカルバメート基を有する微細セルロース繊維は、従来の微細セルロース繊維と比較して親水性が低くなっており、一方、極性の低い樹脂等との親和性が高まっている。このため、得られる微細セルロース繊維は、樹脂との均一分散性に優れる。また、得られる微細セルロース繊維のスラリーは、従来の微細セルロース繊維のスラリーと比較して粘性も低い。従って、当該製造方法によれば、取扱性に優れ、樹脂の補強材等として好適に用いることができる微細セルロース繊維を得ることができる。
【0014】
当該製造方法は、上記加熱処理工程後に、上記植物原料を微細化処理する工程を備えることが好ましい。比較的サイズの大きい植物原料に対して加熱処理を行い、その後に微細化処理を行うことで、変性された微細セルロース繊維を効率的に得ることができる。これは、上記のようにパルプ等、微細化処理する前の植物原料は脱水効率が高いことや、加熱処理を経ることで植物原料が解繊されやすい状態となり、微細化処理が効果的に行われることなどによる。
【0015】
上記加熱処理工程を120℃以上200℃以下で行うことが好ましい。上記温度範囲で加熱処理を行うことで、セルロースと尿素又はその誘導体との反応を効果的に生じさせることができる。
【0016】
上記加熱処理工程を酸性下で行うことが好ましい。これにより、セルロースと尿素又はその誘導体との反応を効果的に生じさせることができる。
【0017】
上記微細セルロース繊維が樹脂の補強材として用いられることが好ましい。上述のように、当該製造方法によって得られる微細セルロース繊維は、取扱性に優れ、樹脂と混合して用いる補強材として好適に用いることができる。
【0018】
ここで、「微細セルロース繊維」とは、パルプ等の植物原料を解繊して得られる微細なセルロース繊維であって、繊維径が1nm以上15μm以下及び/又はフリーネスが100cc以下のものをいう。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、取扱性に優れ、樹脂の補強材等として好適に用いることができる微細セルロース繊維、その製造方法、並びにこの微細セルロース繊維を含むスラリー及び複合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る微細セルロース繊維の製造方法のフロー図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る複合体における任意成分である高分子分散剤の一例を示す説明図である。
図3図3は、実施例1で得られた微細セルロース繊維のSEM画像である。
図4図4は、比較例1で得られた微細セルロース繊維のSEM画像である。
図5図5は、実施例4で得られた微細セルロース繊維のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、適宜図面を参照にしつつ、本発明の一実施形態に係る微細セルロース繊維、その製造方法、スラリー、及び複合体について詳説する。
【0022】
<微細セルロース繊維>
本発明の一実施形態に係る微細セルロース繊維は、カルバメート基を有する。カルバメート基は、-O-CO-NH-で表される基であり、-O-CO-NH2、-O-CO-NHR、-O-CO-NR等で表わされる基であってよい。Rは、それぞれ独立して、飽和直鎖状炭化水素基、飽和分岐鎖状炭化水素基、飽和環状炭化水素基、不飽和直鎖状炭化水素基、不飽和分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、及びこれらの誘導基のいずれかである。当該微細セルロース繊維は、極性の高いヒドロキシ基の一部が、相対的に極性の低いカルバメート基に置換されているものである。従って、当該微細セルロース繊維は、従来の微細セルロース繊維と比較して親水性が低くなり、一方、極性の低い樹脂等との親和性が高まっている。このため、当該微細セルロース繊維は、樹脂との均一分散性に優れる。また、当該微細セルロース繊維のスラリーは、従来の微細セルロース繊維のスラリーと比較して粘性も低い。
【0023】
上記飽和直鎖状炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1~10の直鎖状のアルキル基を挙げることができる。
【0024】
上記飽和分岐鎖状炭化水素基としては、イソプロピル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等の炭素数3~10の分岐鎖状アルキル基を挙げることができる。
【0025】
上記飽和環状炭化水素基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基等のシクロアルキル基を挙げることができる。
【0026】
上記不飽和直鎖状炭化水素基としては、エテニル基、プロペン-1-イル基、プロペン-3-イル基等の炭素数2~10の直鎖状のアルケニル基、エチニル基、プロピン-1-イル基、プロピン-3-イル基等の炭素数2~10の直鎖状のアルキニル基等を挙げることができる。
【0027】
上記不飽和分岐鎖状炭化水素基としては、プロペン-2-イル基、ブテン-2-イル基、ブテン-3-イル基等の炭素数3~10の分岐鎖状アルケニル基、ブチン-3-イル基等の炭素数4~10の分岐鎖状アルキニル基等を挙げることができる。
【0028】
上記芳香族基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等を挙げることができる。
【0029】
上記誘導基としては、上記飽和直鎖状炭化水素基、飽和分岐鎖状炭化水素基、飽和環状炭化水素基、不飽和直鎖状炭化水素基、不飽和分岐鎖状炭化水素基及び芳香族基が有する1又は複数の水素原子が、置換基(例えば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ハロゲン原子等)で置換された基を挙げることができる。
【0030】
(物性等)
当該微細セルロース繊維を電子顕微鏡にて観察した平均繊維径の下限としては、2nmが好ましく、20nmがより好ましく、100nmがより好ましい。また、この下限は、500nmであってもよく、1μmであってもよい。一方、この上限としては、10μmや、1μmであってもよいが、500nmが好ましく、450nmがより好ましく、400nmがさらに好ましい。また、当該微細セルロース繊維の平均繊維長は、例えば1μm以上5000μm以下である。
【0031】
当該微細セルロース繊維のフリーネスは、100cc以下であることが好ましい。なお、フリーネスとは、JIS-P8121-2(2012)に準拠して測定されるカナダ標準ろ水度である。
【0032】
当該微細セルロース繊維におけるヒドロキシ基に対するカルバメート基の置換度の下限としては、0.05が好ましく、0.1がより好ましく、0.2がより好ましい。置換度を上記下限以上とすることで、カルバメート基を導入した上述の効果が特に十分に奏される。一方、この置換度の上限としては、例えば1であり、0.5が好ましく、0.4であってもよい。置換度の高い微細セルロース繊維は生産コストが上昇するため、置換度を上記上限以下とすることで、生産コストの上昇を抑制することができる。
【0033】
なお、セルロースは、無水グルコースを構造単位とする重合体であり、一構造単位当たり3つのヒドロキシ基を有する。従って、全てのヒドロキシ基がカルバメート基に置換されると、置換度は3となる。置換度は、ケルダール法による窒素定量から求めることができる。また、後述する実施例に記載のように、IRスペクトルにおける3300cm-1近傍のヒドロキシ基のピークに対する1715cm-1近傍のカルバメート基のピークの比から推測することもできる。
【0034】
当該微細セルロース繊維の保水度は、例えば200%以上400%以下であり、300%以下とすることができる。当該微細セルロース繊維は、ヒドロキシ基がカルバメート基に置換されていることで、比較的保水度を低くすることができる。これによって、乾燥効率を高めることなどができる。微細セルロース繊維の保水度(%)はJAPAN TAPPI No.26に準拠して測定される。
【0035】
当該微細セルロース繊維は、水分散状態でレーザー回折法により測定される擬似粒度分布曲線において単一のピークを有することが好ましい。このように、一つのピークを有する微細セルロース繊維は、十分な微細化が進行しており、微細セルロース繊維としての良好な物性を発揮することができ、得られる成形体、乾燥体、複合体等の強度をより高めることなどができる。なお、上記単一のピークとなる微細セルロース繊維の粒径(最頻値)としては、例えば5μm以上50μm以下が好ましい。微細セルロース繊維が上記サイズであることで、微細セルロース繊維特有の諸特性をより良好に発揮することができる。「擬似粒度分布曲線」とは、粒度分布測定装置(例えば堀場製作所の粒度分布測定装置「LA-960S」)を用いて測定される体積基準粒度分布を示す曲線を意味する。
【0036】
当該微細セルロース繊維のパルプ粘度の下限は、2cPが好ましく、4cPがより好ましい。当該微細セルロース繊維のパルプ粘度を上記下限以上とすることで、十分な重合度を有し、樹脂に対する補強材としての機能をより高めることなどができる。一方、このパルプ粘度の上限は、例えば15cPであり、6cPが好ましい。
【0037】
当該微細セルロース繊維の濃度を2質量%とした場合における水分散液のB型粘度の上限は、5000mPa・sであってよく、4000mPa・sが好ましく、3000mPa・sがより好ましく、2500mPa・sがさらに好ましい。当該微細セルロース繊維はヒドロキシ基がカルバメート基に置換されていることによりこのように粘性を比較的低くすることができ、水分散液(スラリー)とした際の良好な取扱性を有する。一方、このB型粘度の下限は、例えば1000mPa・sであり、1500mPa・sであってよく、2000mPa・sであってよい。
【0038】
当該微細セルロース繊維のゼータ電位は、例えば-100mV以上-30mV以下であり、-40mV以下であることが好ましく、-50mV以下であることがより好ましい。当該微細セルロース繊維が比較的大きい負のゼータ電位を有することで、分散安定性等を高めることができる。
【0039】
当該微細セルロース繊維は、樹脂の補強材の他、ろ過材、ろ過助剤、イオン交換体の基材、クロマトグラフィー分析機器の充填材、化粧品配合剤、食品等の粘度保持剤、食品原料生地の強化剤、水分保持剤、食品安定化剤、低カロリー添加物、乳化安定化助剤等として好適に用いることができる。
【0040】
<微細セルロース繊維の製造方法>
本発明の一実施形態に係る微細セルロース繊維の製造方法は、図1に示すように、混合工程、除去工程、加熱処理工程及び微細化処理工程をこの順に備える。なお、加熱処理工程及び微細化処理以外の工程は、必須の工程では無い。また、上記混合工程及び上記除去工程が、上記加熱処理工程に供される混合物を調製する工程である。以下、各工程順に説明する。
【0041】
(混合工程)
混合工程は、植物原料と尿素又はその誘導体(以下、尿素又は尿素の誘導体を尿素等と称する場合がある)とを分散媒中で混合する工程である。この混合工程を経ることで、植物原料と尿素等とが均一性高く混合した混合物を得ることができる。
【0042】
上記植物原料としては、木材、麻、バガス、ケナフ、エスパルト草、竹、籾殻、わら等を挙げることができる。これらの植物原料をそのまま用いてもよいが、これらを繊維状にしたパルプであることが好ましい。パルプを用いることで、加熱処理工程における尿素等との反応効率を高めることができる。なお、パルプの繊維径は、1μm超であり、通常、10μm以上100μm以下である。
【0043】
上記パルプとしては、例えば
広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)等の広葉樹クラフトパルプ(LKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)等の針葉樹クラフトパルプ(NKP)等の化学パルプ;
ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、晒サーモメカニカルパルプ(BTMP)等の機械パルプ;
茶古紙、クラフト封筒古紙、雑誌古紙、新聞古紙、チラシ古紙、オフィス古紙、段ボール古紙、上白古紙、ケント古紙、模造古紙、地券古紙、更紙古紙等から製造される古紙パルプ;
古紙パルプを脱墨処理した脱墨パルプ(DIP)などが挙げられる。これらは、本発明の効果を損なわない限り、単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
微細セルロース繊維の原料となるパルプとしては、これらの中で、高強度複合体を得ることができるなどの点から、化学パルプが好ましく、LKP及びNKPがより好ましい。
【0045】
尿素の誘導体としては、チオ尿素や尿素の水素原子をアルキル基で置換した化合物、ビウレットなどが挙げられる。
【0046】
パルプ等の植物原料に対する尿素等の混合比(尿素等/植物原料)の下限としては、質量比で10/100が好ましく、20/100がより好ましい。一方、この上限としては、質量比で、300/100が好ましく、200/100がより好ましい。尿素等の混合比を上記下限以上とすることで、効率的に十分な反応を行うことができる。一方、多量の尿素等を用いても反応効率は頭打ちになるため、尿素等の混合比を上記上限以下とすることで、生産コストの増加を抑制することができる。
【0047】
上記分散媒としては、通常、水であるが、アルコール、エーテル等の他の分散媒や、水と他の分散媒との混合物を用いてもよい。
【0048】
この混合工程においては、例えば水に植物原料と尿素等とを添加してもよいし、尿素等の水溶液に植物原料を添加してもよいし、植物原料を含むスラリー(パルプスラリー等)に尿素等を添加してもよい。また、添加後、均一に混合させるために、これらを撹拌してもよい。なお、この植物原料と尿素等とを含む分散液には、その他の成分がさらに含まれていてもよい。
【0049】
(除去工程)
除去工程は、上記混合工程で得られた植物原料及び尿素等を含む分散液から、分散媒を除去する工程である。分散媒を十分に除去することで、次の加熱処理工程において、効率的に尿素等を反応させることができる。
【0050】
この除去は、加熱により分散媒を揮発させることにより行うことが好ましい。これにより、尿素等の他の成分を残したまま、分散媒のみを効率的に除去することができる。
【0051】
この除去工程における加熱温度の下限としては、例えば分散媒が水である場合、50℃が好ましく、70℃がより好ましく、90℃がさらに好ましい。加熱温度を上記下限以上とすることで効率的に分散媒を揮発させる、すなわち除去することができる。一方、この加熱温度の上限としては、例えば120℃であり、100℃であってもよい。
【0052】
また、この除去工程における加熱時間は、十分に分散媒が除去(乾燥)される程度であれば特に限定されず、分散液中の固形分濃度等において適宜調整すればよい。この加熱時間は、例えば6時間以上24時間以下とすることができる。
【0053】
(加熱処理工程)
加熱処理工程は、植物原料と尿素等との混合物を加熱処理する工程である。この加熱処理工程において、植物原料の主成分であるセルロースのヒドロキシ基の少なくとも一部が尿素等と反応し、ヒドロキシ基がカルバメート基に置換される。
【0054】
この加熱処理工程における加熱温度の下限としては、例えば120℃であってよく、130℃であってもよいが、尿素の融点(約134℃)以上であることが好ましく、140℃が好ましく、150℃がより好ましい。加熱温度を上記下限以上とすることで、セルロースのカルバメート化反応をより効率的に行うことができる。一方、この加熱温度の上限としては、例えば200℃であり、180℃であってもよい。
【0055】
また、この加熱処理工程における加熱時間の下限としては、例えば15分でよく、30分でもよいが、1時間が好ましく、2時間がより好ましく、3時間がさらに好ましく、5時間がよりさらに好ましい。加熱時間を上記下限以上とすることで、十分なカルバメート化の反応を行うことができる。一方、この加熱時間の上限としては、例えば15時間であり、10時間であってもよい。
【0056】
この加熱処理工程を酸性下で行うことが好ましい。これにより、カルバメート化反応をより効果的に生じさせることができる。加熱処理工程における混合物のpHの上限としては、6が好ましく、5がより好ましく、4がさらに好ましい。一方、このpHの下限としては、1が好ましく、2がより好ましく、3がさらに好ましい。但し、加熱処理工程は、中性下で行ってもよい。混合物のpH(酸性度及びアルカリ性度)の調整は、混合物に酸性化合物(例えば、酢酸、クエン酸等)やアルカリ性化合物(水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム等)を添加すること等により行うことができる。また、この加熱処理工程をアルカリ性下でおこなってもよい。これによっても、中性下で行うよりも効果的にカルバメート化反応を行うことができる。この場合のpHとしては、例えば9以上12以下とすることができる。
【0057】
なお、加熱処理工程後の混合物には、洗浄を施してもよい。この洗浄は、水等で行えばよい。この洗浄により、未反応で残留している尿素等を除去することができる。
【0058】
(微細化工程)
微細化工程は、加熱処理工程で尿素等と反応させた植物原料(パルプ等)を微細化処理する工程である。これにより、植物原料が解繊され、CNF等の微細セルロース繊維を得ることができる。
【0059】
植物原料の微細化処理方法としては、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば植物原料を機械的処理による解繊に付してよく、酵素処理、酸処理等の化学的処理による解繊に付してもよい。
【0060】
機械的処理による解繊方法としては、例えばパルプを回転する砥石間で磨砕するグラインダー法、高圧ホモジナイザーを用いた対向衝突法、ボールミル、ロールミル、カッターミル等を用いる粉砕法などが挙げられる。
【0061】
なお、機械的処理による解繊の前に植物原料を予備叩解に付してもよい。予備叩解(機械的前処理)は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。具体的な方法の例としては、例えば、リファイナーを用いる方法を挙げることができる。また、植物原料には、本発明の効果を損なわない範囲で、解繊の前に化学的な前処理を施してもよい。
【0062】
(他の製造方法)
当該微細セルロース繊維は、上記方法以外の方法によって製造することもできる。例えば、パルプ等の植物原料を微細化処理して微細セルロース繊維を得た後、この微細セルロース繊維と尿素等とを混合して加熱処理に供してもよい。また、例えば、分散液中の植物原料と尿素等とをそのまま高温に加熱し、分散媒の除去工程とカルバメート化反応を伴う加熱処理工程とを、連続的あるいは一体的に行ってもよい。また、水等の分散媒を用いることなく粉末状の尿素等と植物原料とを混合し、この混合物に対して加熱処理を施してもよい。
【0063】
<スラリー>
本発明の一実施形態に係るスラリーは、上記微細セルロース繊維を含む。当該スラリーは、比較的粘性が低いことなどにより、取扱性に優れる。また、ヒドロキシ基がカルバメート基に置換されている微細セルロース繊維が用いられていることで、当該スラリーは、乾燥効率も比較的高い。
【0064】
当該スラリーは、上記微細セルロース繊維が水に分散されてなる微細セルロース繊維の水分散液である。当該スラリーは、上記微細セルロース繊維及び水以外の他の成分を含んでいてもよい。当該スラリーにおける微細セルロース繊維の含有量としては特に限定されないが、例えば0.1質量%以上10質量%以下とすることができる。
【0065】
当該スラリーのB型粘度の上限は、例えば5000mPa・sであってよく、4000mPa・sが好ましく、3000mPa・sがより好ましく、2500mPa・sがさらに好ましい。当該スラリーに含まれる微細セルロース繊維は、上述のようにヒドロキシ基がカルバメート基に置換されている。このため、当該スラリーは、このように粘性を比較的低くすることができ、良好な取扱性を有する。一方、このB型粘度の下限は、例えば1000mPa・sであり、1500mPa・sであってよく、2000mPa・sであってよい。
【0066】
<複合体>
本発明の一実施形態に係る複合体は、上記微細セルロース繊維と樹脂とを含む複合体である。当該複合体は、カルバメート基を有する微細セルロース繊維を含み、この微細セルロース繊維は樹脂に対して均一性高く分散することができるため、高い強度等を有することができる。
【0067】
上記樹脂としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、脂肪族ポリエステルや芳香族ポリエステル等のポリエステル、ポリスチレン、メタアクリレート、アクリレート等のアクリル樹脂、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール等の各種熱可塑性樹脂、スチレンブタジエンゴム等のゴムなどを挙げることができる。これらの樹脂は、1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0068】
当該複合体における微細セルロース繊維と樹脂との混合比率(微細セルロース繊維/樹脂)としては特に限定されないが、質量比で、例えば1/99以上40/60以下とすることができる。これにより良好な強度等を有する複合体を得ることができる。
【0069】
また、当該複合体には、微細セルロース繊維と樹脂との他に、他の成分が含有されていてもよい。この他の成分としては、充填剤、帯電防止剤、難燃剤、抗菌剤、着色剤、ラジカル捕捉剤、発泡剤、分散剤等を挙げることができる。上記分散剤としては、マレイン酸変性ポリプロピレン等の酸変性ポリオレフィンなどを挙げることができる。
【0070】
当該複合体は、分散剤をさらに含むことが好ましい。その分散剤は、樹脂親和性セグメントAとセルロース親和性セグメントBとを有し、ブロック共重合体構造又はグラジエント共重合体構造を有する成分が好ましい。
【0071】
ブロック共重合体構造とは、性質(例えば極性等)の異なる高分子鎖(セグメント)A、B、C・・・等が2種類以上直線状に結合した構造(例えばA-B、A-B-A、A-B-C等)のことである。高分子鎖Aと高分子鎖Bが直線状に結合した様な、A-B型ブロック共重合体構造が挙げられる。公知のリビング重合を利用することで、ブロック共重合体構造を得ることができる。
【0072】
分散剤は、樹脂親和性セグメントA(分散化セグメント)とセルロース親和性セグメントB(固定化セグメント)とを有し、A-B型ジブロック共重合体であることが好ましい。図2には高分子分散剤の概略を示す。樹脂親和性セグメントAを構成するモノマー単位は、炭化水素基等の疎水性基を有することが好ましい。上記炭化水素基としては、環状炭化水素基が好ましい。また、炭化水素基の炭素数としては、例えば3以上20以下であることが好ましく、5以上15以下であることがより好ましい。上記セルロース親和性セグメントBを構成するモノマー単位は、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基等の極性基を有することが好ましい。これらの極性基の中でもヒドロキシ基がより好ましい。
【0073】
樹脂親和性セグメントA及びセルロース親和性セグメントBを構成するモノマー単位は、ビニルモノマー単位であることが好ましく、(メタ)アクリレート系モノマー、(メタ)アクリルアミド系モノマー及びスチレン系モノマーよりなる群から選ばれる少なくとも一種のモノマー単位を含むことがより好ましい。
【0074】
グラジエント共重合体構造とは、性質(例えば極性等)の異なる2種類のモノマーA及びB由来の繰り返し単位からなる共重合体を例にとると、Aユニットに富む高分子鎖の一端からBユニットに富む他端に向かうにつれ、Aユニットの割合が減少しBユニットの割合が増加するような、繰り返し単位の分布勾配がある構造である。公知のリビング重合を利用することで、グラジエント共重合体構造を得ることができる。
【0075】
セルロース繊維の表面は、水酸基を有するため、A-B型ジブロック共重合体又はA-B型グラジエント共重合体のセルロース親和性セグメントBで効果的に被覆される。また、A-B型ジブロック共重合体又はA-B型グラジエント共重合体の樹脂親和性セグメントAにより、セルロース繊維の表面が疎水化される。
【0076】
当該微細セルロース繊維と樹脂とを混合する方法としては、混練機(押出機)、ベンチロール、バンバリーミキサー、ニーダー、プラネタリーミキサー等の混練機により混練する方法、攪拌羽により混合する方法、公転・自転方式の攪拌機により混合する方法等が挙げられる。混練機(押出機)として、一軸又は多軸混練機を使用することが好ましく、二軸混練機を用いることが好ましい。
【0077】
当該複合体の製造方法は、例えば、微細セルロース繊維の作製と微細セルロース繊維の樹脂中への分散を単一操作で行うことができる。本プロセスは、ナノ解繊(ナノレベルまでの解繊)とナノ分散(ナノレベルでの分散)との同時プロセス(Simultaneous nano-Fibrillation Compounding Process:SFCプロセス)であってよい。
【0078】
すなわち、当該複合体の製造方法は、
植物原料(パルプ等)と尿素等との混合物を加熱処理する工程、及び
上記加熱処理された植物原料と樹脂とを混練する工程
を備えることができる。
【0079】
上記加熱処理工程は、「微細セルロース繊維の製造方法」として上述した方法を採用することができる。この加熱処理工程の前に、「微細セルロース繊維の製造方法」と同様に混合工程及び除去工程を行ってもよい。
【0080】
上記混練工程においては、例えば、上記加熱処理(尿素処理)されたパルプ等の植物原料と樹脂との混合物を溶融混練することによって行うことができる。この混合物は、処理されたパルプ等を予め分散媒と混合した後、樹脂と混合し、分散媒を揮発させることで得ることができる。上記分散媒としては、有機溶媒が好ましく、エタノール等のアルコールがより好ましい。上記混練によって、植物原料に剪断力が付与され、植物原料と樹脂との混合と、植物原料の微細化とが同時に進行する。すなわち、上記混練工程は、上記の「微細セルロース繊維の製造方法」の微細化工程の一例ともいえる。混練工程を経た混合物は、例えば射出成型等の公知の成型法によって所望する形状の複合体とすることができる。
【0081】
当該複合体は、例えば自動車、電車、船舶、飛行機等の輸送機器の内装材、外装材、構造材等;パソコン、テレビ、電話、時計等の電化製品等の筺体、構造材、内部部品等;携帯電話等の移動通信機器等の筺体、構造材、内部部品等;携帯音楽再生機器、映像再生機器、印刷機器、複写機器、スポーツ用品、オフィス機器、玩具、スポーツ用品等の筺体、構造材、内部部品等;建築物、家具等の内装材、外装材、構造材等;文具等の事務機器等;その他、包装体、トレイ等の収容体、保護用部材、パーティション部材等;に用いることができる。
【実施例0082】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0083】
<評価方法>
以下の各種物性は、以下の評価方法に準じて測定した。
【0084】
(B型粘度(mPa・s)
微細セルロース繊維の水分散液のB型粘度(mPa・s)は、固形分濃度2質量%の微細セルロース繊維の水分散液について、JIS-Z8803:2011の「液体の粘度測定方法」に準拠して測定した。
【0085】
(ゼータ電位(mV))
微細セルロース繊維のゼータ電位(mV)は、ゼータ電位測定装置(MUTEK社の「model:SZP06」)を用い、電気泳動光散乱測定法により流動電位値を測定した。
【0086】
(パルプ粘度(cP))
微細セルロース繊維のパルプ粘度(cP)は、JIS-P8215:1998に準拠して測定した。
【0087】
(保水度(%))
微細セルロース繊維の保水度(%)は、JAPAN TAPPI No.26:2000に準拠して測定した。
【0088】
(引張弾性率(GPa)、引張強さ(MPa)
引張弾性率及び引張強さは、各試験片について、JIS-K7171:2008に準拠して測定した。
【0089】
[尿素配合量、反応時間及び反応温度についての評価]
<製造例1>
水を分散媒とし、パルプと尿素とを質量比で100:40で混合した(尿素配合量40%)。これを105℃で一晩放置することで乾燥させ、その後、反応時間1時間、反応温度140℃で加熱処理し、洗浄した。
【0090】
<製造例2~10>
尿素配合量、反応時間及び反応温度を表1に記載の通りとしたこと以外は製造例1と同様にした。
【0091】
(IR測定)
製造例1~10で得られた変性パルプについて、絶乾状態で赤外線スペクトルを測定した。IRスペクトルにおける3300cm-1近傍に現れるピークの高さに対する1715cm-1近傍に現れるピークの高さの比(1715cm-1/3300cm-1ピーク比)を表1に示す。IRスペクトルにおいて、1715cm-1近傍に現れるピークがカルバメート基に由来するピークであり、3300cm-1近傍に現れるピークがヒドロキシ基に由来するピークである。上記ピーク比が高い場合、ヒドロキシ基がカルバメート基に置換された割合が高いと言える。尿素配合量を多くすること、反応時間を長くすること、反応温度を高くすることで、カルバメート基の置換度が高くなることがわかる。
【0092】
(置換度の測定)
また、製造例4~10で得られた変性パルプについて、ケルダール法による窒素定量により、ヒドロキシ基のカルバメート基への置換度を測定した。測定結果を表1に示す。反応時間を長くすることや、反応温度を高くすることで置換度0.4程度までカルバメート基へ置換されることが分かる。
【0093】
(IRスペクトルと置換度との関係)
得られた変性パルプにおいてケルダール法により窒素定量から求めたカルバメート基への置換度(x)と、IRスペクトルにおける1715cm-1/3300cm-1ピーク比(y)との相関をとると、高い相関関係があることが確認できた。
【0094】
【表1】
【0095】
[加熱処理の際のpHについての評価]
<製造例11~13>
水を分散媒とし、パルプと尿素とを質量比で100:40で混合し、これにクエン酸又は水酸化ナトリウムを添加しpHを調整した(製造例11:pH11.3、製造例12:pH7.9、製造例13:pH3.6)。これを105℃で一晩放置することで乾燥させ、その後、反応時間4時間、反応温度140℃で加熱処理し、洗浄した。
【0096】
(IR測定)
製造例11~13で得られた変性パルプについて、絶乾状態で赤外線スペクトルを測定した。IRスペクトルにおける3300cm-1近傍に現れるピークの高さに対する1715cm-1近傍に現れるピークの高さの比(1715cm-1/3300cm-1ピーク比)を表2に示す。アルカリ性又は酸性下、特に酸性下で加熱処理することで、カルバメート基への置換度が高くなることがわかる。
【0097】
【表2】
【0098】
[処理回数についての評価]
<製造例14>
水を分散媒とし、パルプと尿素とを質量比で100:40で混合した。これを100℃で一晩放置することで乾燥させ、その後、反応時間4時間、反応温度140℃で加熱処理し、洗浄した。
【0099】
<製造例15>
製造例14の操作を2回繰り返した。すなわち、製造例14を行った後、水を分散媒とし、パルプと尿素とを質量比で100:40で混合した。これを105℃で一晩放置することで乾燥させ、その後、反応時間4時間、反応温度140℃で加熱処理し、洗浄した。
【0100】
<製造例16>
製造例14の操作を3回繰り返した。
【0101】
(IR測定)
製造例14~16で得られた変性パルプについて、絶乾状態で赤外線スペクトルを測定した。IRスペクトルにおける3300cm-1近傍に現れるピークの高さに対する1715cm-1近傍に現れるピークの高さの比(1715cm-1/3300cm-1ピーク比)を表3に示す。処理回数を増やすことで、カルバメート基への置換度が高くなっていくことがわかる。
【0102】
【表3】
【0103】
<実施例1>
製造例8で得られた変性パルプに対し、予備叩解としてリファイナー処理し、次いで高圧ホモジナイザーで解繊(微細化)処理し、カルバメート基を有する微細セルロース繊維のスラリーを得た。なお、リファイナー処理及び高圧ホモジナイザー処理は、いずれも複数回の循環処理を行った。得られたスラリーに含まれる実施例1の微細セルロース繊維のSEM画像を図3に示す。SEM画像より、微細セルロース繊維が得られたことが確認できる。
【0104】
<比較例1>
変性パルプの代わりに、非変性のパルプを用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例1の微細セルロース繊維を得た。得られた比較例1の微細セルロース繊維のSEM画像を図4に示す。
【0105】
(評価)
得られた微細セルロース繊維について、上記した方法にて、B型粘度、ゼータ電位、パルプ粘度及び保水度を測定した。結果を表4に示す。
【0106】
【表4】
【0107】
表4に示されるように、実施例1の微細セルロース繊維はB型粘度や保水度が低く、取扱性に優れることが分かる。
【0108】
<実施例2>
製造例8で得られた変性パルプを補強材として用い、ナノ解繊とナノ分散との同時プロセス(SFCプロセス)により、微細セルロース繊維強化樹脂の複合体を以下の要領で得た。
(1)プレミックスの調整
変性パルプ水分散液の水をエタノールで置換し、エタノール置換変性パルプ分散液を得た。エタノール置換変性パルプ分散液と高密度ポリエチレン(HDPE)(住友精化社の「フロービーズHE-3040」)とを固形分換算で3.3:4.9(w/w)の比率で混合後、減圧乾燥(60℃)により乾燥させ、変性パルプ/樹脂のプレミックスを得た。
(2)複合体の作製
得られたプレミックスに対して、変性パルプのセルロース部分の濃度が10質量%になるようにHDPE(旭化成ケミカルズ社の「サンテック-HD J320」)で希釈した。これを以下の条件で溶融混練した後、以下の条件で射出成型することで実施例2の複合体を得た。なお、変性パルプのセルロース部分とは、尿素変性された部分を含まない、原料のパルプに対応する部分をいう。すなわち、変性パルプのセルロース部分の濃度とは、原料パルプに換算した濃度をいう(以下、同様)。
(混練条件)
・混練装置:Xplore Instruments社製のXplore MC15K
・混練条件:二軸回転数200rpm,混練時間60min,混練温度140℃
(射出成型条件)
・射出成形機:Xplore Instruments社製のIM12K
・成型温度:150℃
・金型温度:50℃
・射出圧力:10bar/5s~13bar/32s
【0109】
<比較例2>
変性パルプの代わりに、非変性のパルプを用いたこと以外は実施例2と同様にして、比較例2の複合体を得た。
【0110】
(評価)
得られた実施例2及び比較例2の複合体について、上記した方法にて引張弾性率及び引張強さを測定した。結果を表5に示す。
【0111】
【表5】
【0112】
<実施例3>
得られたプレミックスに対して、分散剤としてのマレイン酸変性ポリプロピレン(MAPP)(東洋紡社の「トーヨータックPMA H-1100P」)を変性パルプのセルロース部分10質量部に対して6質量部添加し、変性パルプのセルロース部分濃度が10質量%になるようにHDPEで希釈したこと以外は実施例2と同様にして、実施例3の複合体を得た。
【0113】
<実施例4>
得られたプレミックスに対して、以下に示す高分子分散剤を用いたこと以外は実施例3と同様にして、実施例4の複合体を得た。以下に、上記高分子分散剤の化学構造を示す。
【0114】
【化1】
【0115】
上記高分子分散剤は、樹脂親和性セグメントAがポリ(ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート)、セルロース親和性セグメントBがポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)であるジブロック共重合体である。A鎖のGPCから算出した数平均分子量(M)は5,000、GPCから算出した分子量分布指数M/Mは1.4、NMRから算出した全体のMnは7,500、AとBの重合度の比率は19:19であった。
【0116】
<比較例3>
変性パルプの代わりに、非変性のパルプを用いたこと以外は実施例3と同様にして、比較例3の複合体を得た。
【0117】
(評価)
得られた実施例3、4及び比較例3の複合体について、上記した方法にて引張弾性率及び引張強さを測定した。結果を表6に示す。また、実施例4で得られた複合体を熱キシレン抽出でHDPE部分を除去した微細セルロース繊維のSEM画像を図5に示す。
【0118】
【表6】
【0119】
<実施例5>
プレミックス調整時、エタノールで置換せずに変性パルプ水分散液の水とHDPEとを混合したこと以外は実施例3と同様にして、実施例5の複合体を得た。
【0120】
<比較例4>
変性パルプの代わりに、非変性のパルプを用いたこと以外は実施例5と同様にして、比較例4の複合体を得た。
【0121】
(評価)
得られた実施例5及び比較例4の複合体について、上記した方法にて引張弾性率及び引張強さを測定した。結果を表7に示す。
【0122】
【表7】
【0123】
表5~7に示されるように、尿素処理した変性パルプを用い、カルバメート基を有する微細セルロース繊維を分散させることで、非変性パルプを用いた場合と比較して高い引張弾性率及び引張強さを有することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明の微細セルロース繊維及びその製造方法は、樹脂の補強材等及びその製造方法として好適に用いることができる。
図1
図2
図3
図4
図5