(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022031988
(43)【公開日】2022-02-24
(54)【発明の名称】原子層堆積法による金属ルテニウム薄膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/18 20060101AFI20220216BHJP
C23C 16/455 20060101ALI20220216BHJP
【FI】
C23C16/18
C23C16/455
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2018210356
(22)【出願日】2018-11-08
(71)【出願人】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100209495
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 さおり
(72)【発明者】
【氏名】西田 章浩
(72)【発明者】
【氏名】遠津 正揮
【テーマコード(参考)】
4K030
【Fターム(参考)】
4K030AA02
4K030AA09
4K030AA11
4K030AA17
4K030BA01
4K030CA04
4K030CA12
4K030FA10
4K030HA01
4K030JA10
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、原子層堆積法により良質の金属ルテニウム薄膜を得るための製造方法を提供することにある。
【解決手段】本発明の基体上に原子層堆積法により金属ルテニウム薄膜を製造する方法は、(A)特定のルテニウム化合物を含む原料ガスを処理雰囲気に導入し、前記基体上に当該ルテニウム化合物を堆積させる工程; 特定の化合物を含む反応性ガスを処理雰囲気に導入し、前記基体上に堆積させた特定のルテニウム化合物と反応させる工程を含むことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体上に原子層堆積法により金属ルテニウム薄膜を製造する方法において、
(A)一般式(1)で表されるルテニウム化合物を含む原料ガスを処理雰囲気に導入し、前記基体上に一般式(1)で表されるルテニウム化合物を堆積させる工程;
(B)一般式(2)または一般式(3)で表される化合物のうち少なくとも1種を含む反応性ガスを処理雰囲気に導入し、前記基体上に堆積させた一般式(1)で表されるルテニウム化合物と反応させる工程を含む、金属ルテニウム薄膜の製造方法:
【化1】
(式中、R
1~R
12は、各々独立に水素または炭素原子数1~5のアルキル基を表す。)
【化2】
(式中、A
1は、炭素原子数1~5のアルカンジイル基を表し、X
1は、ハロゲン原子を表す。)
【化3】
(式中、A
2は、炭素原子数1~5のアルカンジイル基を表し、X
2は、ハロゲン原子を表す。)
【請求項2】
前記(B)工程における前記基体の温度が100℃~500℃の範囲である、請求項1に記載の金属ルテニウム薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記(A)工程と前記(B)工程の間及び前記(B)工程の後の少なくとも一方に、前記処理雰囲気のガスを排気する工程を有する、請求項1又は2に記載の金属ルテニウム薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記(A)工程と前記(B)工程とを含む成膜サイクルをこの順に繰り返す、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の金属ルテニウム薄膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子層堆積法による金属ルテニウム薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属ルテニウム薄膜は特異的な電気特性を示し、種々の用途に応用されている。例えば、DRAM素子に代表されるメモリー素子の電極材料、抵抗膜、ハードディスクの記録層に用いられる反磁性膜及び固体高分子形燃料電池用の触媒材料等として使用されている。
【0003】
上記の薄膜の製造法としては、スパッタリング法、イオンプレーティング法、塗布熱分解法やゾルゲル法等のMOD法、CVD法、原子層堆積法(以下、ALD法と記載することもある)が挙げられ、得られる薄膜の品質が良好なことからCVD法やALD法が主に用いられる。
【0004】
CVD法用原料やALD法用原料として用いられるルテニウム化合物としては、従来から、様々なルテニウム化合物が知られている。例えば、特許文献1には、ルテニウムとCOとから構成されるシンプルな分子構造であるドデカカルボニルトリルテニウムが開示されている。しかし、ドデカカルボニルトリルテニウムを、金属ルテニウム薄膜を製造するためのALD法用原料として用い、反応性ガスとしてオゾンや水素を用いた場合、得られる薄膜が金属ルテニウムと酸化ルテニウムの複合膜となることから、これを高温下で加熱して金属ルテニウムに還元する工程が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来知られた方法で、金属ルテニウム薄膜をALD法によって製造しようとした場合には、得られる薄膜が金属ルテニウムと酸化ルテニウムの複合膜となってしまい、これを高温下で加熱して金属ルテニウムに還元する工程が必要であった。この工程は、周辺の部材に大きなダメージを与えてしまう場合があることから、得られる薄膜が金属ルテニウムと酸化ルテニウムの複合膜にならず、金属ルテニウム薄膜を得ることができる、金属ルテニウム薄膜の製造方法が求められていた。
したがって、本発明の目的は、原子層堆積法により良質の金属ルテニウム薄膜を得るための製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、検討を重ねた結果、特定の工程を有する原子層堆積法による、金属ルテニウム薄膜の製造方法が上記課題を解決し得ることを知見し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は、基体上に原子層堆積法により金属ルテニウム薄膜を製造する方法において、
(A)一般式(1)で表されるルテニウム化合物を含む原料ガスを処理雰囲気に導入し、前記基体上に一般式(1)で表されるルテニウム化合物を堆積させる工程;
(B)一般式(2)または一般式(3)で表される化合物のうち少なくとも1種を含む反応性ガスを処理雰囲気に導入し、前記基体上に堆積させた一般式(1)で表されるルテニウム化合物と反応させる工程を含む、金属ルテニウム薄膜の製造方法を提供するものである:
【0009】
【化1】
(式中、R
1~R
12は各々独立に水素または炭素原子数1~5のアルキル基を表す。)
【化2】
(式中、A
1は炭素原子数1~5のアルカンジイル基を表し、X
1はハロゲン原子を表す。)
【化3】
(式中、A
2は炭素原子数1~5のアルカンジイル基を表し、X
2はハロゲン原子を表す。)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、品質の良い金属ルテニウム薄膜を原子層堆積法により製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る金属ルテニウム薄膜の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図2】本発明に係る金属ルテニウム薄膜の製造方法に用いられるALD法用装置の一例を示す概要図である。
【
図3】本発明に係る金属ルテニウム薄膜の製造方法に用いられるALD法用装置の別の例を示す概要図である。
【
図4】本発明に係る金属ルテニウム薄膜の製造方法に用いられるALD法用装置の別の例を示す概要図である。
【
図5】本発明に係る金属ルテニウム薄膜の製造方法に用いられるALD法用装置の別の例を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の原子層堆積法による金属ルテニウム薄膜の製造方法は、周知一般の原子層堆積法と同様の手順を用いることができるが、後述する(A)工程と(B)工程と、を組み合わせることを必須とすることに特徴がある。
【0013】
本発明の製造方法における(A)工程は、一般式(1)で表されるルテニウム化合物を含む原料ガスを処理雰囲気に導入し、基体上に一般式(1)で表されるルテニウム化合物を堆積させる工程である。ここで、「堆積」とは、基体上に一般式(1)で表されるルテニウム化合物が吸着していることを含む概念を示す。(A)工程において、一般式(1)で表されるルテニウム化合物を含む原料ガスを用い、これを(B)工程と組み合わせることで、純度の高い金属ルテニウム薄膜を製造することができるという効果がある。この工程における一般式(1)で表されるルテニウム化合物を含む原料ガスは、一般式(1)で表されるルテニウム化合物を90体積%以上含むことが好ましく、99体積%以上であることがさらに好ましい。
【0014】
上記一般式(1)において、R1~R12は、それぞれ独立に水素または炭素原子数1~5のアルキル基を表す。
【0015】
上記一般式(1)において、R1~R12で表される炭素原子数1~5のアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、第二ブチル、第三ブチル、イソブチル、n-ペンチル、第二ペンチル、第三ペンチル、イソペンチル、ネオペンチルが挙げられる。
【0016】
上記一般式(1)において、R1~R12は、これらの組み合わせが、常温常圧下において液体状態となり、蒸気圧が大きくなるものが好ましい。具体的には、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R11およびR12が水素であり、R1およびR10がメチル、エチル、プロピル、イソプロピルであるものは蒸気圧が高いことから好ましく、なかでもイソプロピルであるものが特に好ましい。
また、R1およびR10がメチルであり、R2、R4、R5、R6、R7、R8、R9およびR11が水素であり、R3およびR12がメチル、エチル、プロピル、イソプロピルであるものは蒸気圧が高いことから好ましく、なかでもメチルまたはエチルであるものが特に好ましい。
さらに、R1およびR10がメチルであり、R2、R3、R5、R6、R8、R9、R11およびR12が水素であり、R4およびR7がメチル、エチル、プロピル、イソプロピルであるものは蒸気圧が高いことから好ましく、なかでもイソプロピルであるものが特に好ましい。
これらのなかでも、得られる金属ルテニウム薄膜の純度がよい効果が高いことから、R1およびR10がメチルであり、R2、R3、R5、R6、R8、R9、R11およびR12が水素であり、R4およびR7がイソプロピルであるものが特に好ましい。
【0017】
上記一般式(1)で表されるルテニウム化合物の好ましい具体例としては、例えば、下記化合物No.1~No.21が挙げられる。
尚、下記化学式中の「Me」はメチル基を表し、「Et」はエチル基を表し、「iPr」はイソプロポキシ基を表す。
【0018】
【0019】
【0020】
【0021】
上記一般式(1)で表されるルテニウム化合物の製造方法は特に限定されるものではなく、周知の合成方法で製造することもできる。例えば、塩化ルテニウム(III)と、対応する構造のシクロヘキサジエン化合物を亜鉛存在下で反応させる方法などで得ることができる。この合成方法は、例えばJournal of the Chemical Society, Dalton Transactions, No.10,1980, 1961-1964に開示されている。また、市販されているものを使用することもできる。
【0022】
(A)工程における上記一般式(1)で表されるルテニウム化合物を気化させる方法は、特に限定されるものではなく、周知一般の原子層堆積法に用いられる有機金属化合物の気化方法で行うことができる。例えば、
図2~5に示すALD法用装置の原料容器中で加熱や減圧することによって気化させることができる。加熱する際の温度は20℃~200℃の範囲が好ましい。また、(A)工程において、気化させた上記一般式(1)で表されるルテニウム化合物を基体上に堆積させる際の基体の温度は100~500℃の範囲が好ましく、150~350℃がより好ましい。
【0023】
本発明の製造方法に用いることができる基体の材質としては、例えば、シリコン;インジウムヒ素、インジウムガリウム砒素、酸化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化タンタル、窒化タンタル、酸化チタン、窒化チタン、炭化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ランタン、窒化ガリウム等のセラミックス;ガラス;白金、アルミニウム、銅、ニッケル、コバルト、タングステン、モリブデン等の金属が挙げられる。なお、基体の形状としては、板状、球状、繊維状、鱗片状が挙げられる。基体表面は、平面であってもよく、トレンチ構造等の三次元構造となっていてもよい。
【0024】
本発明の製造方法における(B)工程は、上記一般式(2)または上記一般式(3)で表される化合物のうち少なくとも1種を含む反応性ガスを処理雰囲気に導入し、前記基体上に堆積させた上記一般式(1)で表されるルテニウム化合物と反応させる工程である。(B)工程において、上記一般式(1)で表されるルテニウム化合物と上記一般式(2)または上記一般式(3)で表される化合物のうち少なくとも1種を含む反応性ガスとを用いることで、品質のよい金属ルテニウム薄膜を効率よく製造することができるという効果がある。
【0025】
上記一般式(2)において、A1は、炭素原子数1~5のアルカンジイル基を表し、X1は、ハロゲン原子を表す。
【0026】
上記一般式(2)において、A1で表される炭素原子数1~5のアルカンジイル基としては、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、メチルエチレン、ブチレン、1-メチルプロピレン、2-メチルプロピレン、1,2-ジメチルプロピレン、1,3-ジメチルプロピレン、1-メチルブチレン、2-メチルブチレン、3-メチルブチレン、4-メチルブチレン等が挙げられる。
【0027】
上記一般式(2)において、X1で表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、アスタチン原子が挙げられる。
【0028】
上記一般式(2)において、A1およびX1は、これらの組み合わせが、蒸気圧が高く、一般式(1)で表されるルテニウム化合物との反応性が良好であるものが好ましい。具体的には、A1は、メチレン、エチレン、プロピレン、メチルエチレン、ブチレン、1-メチルプロピレン、2-メチルプロピレン、1,2-ジメチルプロピレン、1,3-ジメチルプロピレンであるものが好ましく、なかでもメチレン、エチレン、プロピレンであるものは一般式(1)で表されるルテニウム化合物との反応性が良好であることから好ましく、蒸気圧が高いことからメチレンが特に好ましい。
また、X1は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が好ましく、なかでも塩素原子、臭素原子が好ましい。
【0029】
上記一般式(2)で表される化合物の好ましい具体例としては、例えば、下記化合物No.22~No.27が挙げられる。
【0030】
【0031】
上記一般式(3)において、A2は、炭素原子数1~5のアルカンジイル基を表し、X2は、ハロゲン原子を表す。
【0032】
上記一般式(3)において、A2で表される炭素原子数1~5のアルカンジイル基としては、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、メチルエチレン、ブチレン、1-メチルプロピレン、2-メチルプロピレン、1,2-ジメチルプロピレン、1,3-ジメチルプロピレン、1-メチルブチレン、2-メチルブチレン、3-メチルブチレン、4-メチルブチレン等が挙げられる。
【0033】
上記一般式(3)において、X2で表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、アスタチン原子が挙げられる。
【0034】
上記一般式(3)において、A2およびX2は、これらの組み合わせが、蒸気圧が高く、一般式(1)で表されるルテニウム化合物との反応性が良好であるものが好ましい。具体的には、A2は、メチレン、エチレン、プロピレン、メチルエチレン、ブチレン、1-メチルプロピレン、2-メチルプロピレン、1,2-ジメチルプロピレン、1,3-ジメチルプロピレンであるものが好ましく、なかでもメチレン、エチレン、プロピレンであるものは一般式(1)で表されるルテニウム化合物との反応性が良好であることから好ましく、蒸気圧が高いことからメチレンが特に好ましい。
また、A2は、一般式(1)で表されるルテニウム化合物との反応性が良好であることからフッ素原子、塩素原子、臭素原子が好ましく、なかでも塩素原子、臭素原子が好ましい。
【0035】
上記一般式(3)で表される化合物の好ましい具体例としては、例えば、下記化合物No.28~No.33が挙げられる。
【0036】
【0037】
この工程における上記一般式(2)または上記一般式(3)で表される化合物のうち少なくとも1種を含む反応性ガスは、上記一般式(2)で表される化合物のみからなるガスまたは上記一般式(3)で表される化合物のみからなるガスであることができ、また、上記一般式(2)で表される化合物と上記一般式(3)で表される化合物との混合ガスであってもよい。また、これらのガスと、アルゴン、窒素、酸素、水素等のガスとの混合ガスであってもよい。
【0038】
(B)工程における上記一般式(2)および/または上記一般式(3)で表される化合物を含む反応性ガスを処理雰囲気に導入する方法は、特に限定されるものではなく、周知一般の原子層堆積法に用いられる反応性ガスの導入方法と同様に導入することができるが、あらかじめ気化させた反応性ガスを処理雰囲気に導入することが好ましい。
【0039】
例えば、本発明の製造方法によってシリコン基体上に金属ルテニウム薄膜を製造する方法について、
図1のフローチャートを用いて説明する。ここでは、
図2に示すALD法用装置を用いることとする。
【0040】
まず、シリコン基体を成膜チャンバー内に設置する。このシリコン基体の設置の方法は特に限定されるものではなく、周知一般の方法によって基体を成膜チャンバーに設置すればよい。また、一般式(1)で表されるルテニウム化合物を原料容器内で気化させ、これを成膜チャンバーに導入し、100~500℃、好ましくは150~350℃に加温したシリコン基体上に堆積(吸着)させる[(A)工程]。
【0041】
次に、シリコン基体上に堆積しなかった一般式(1)で表されるルテニウム化合物を成膜チャンバーから排気する(排気工程1)。シリコン基体上に堆積しなかった一般式(1)で表されるルテニウム化合物が成膜チャンバーから完全に排気されるのが理想的であるが、必ずしも完全に排気される必要はない。排気方法としては、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスにより系内をパージする方法、系内を減圧することで排気する方法、これらを組み合わせた方法などが挙げられる。減圧する場合の減圧度は、0.01~300Paが好ましく、0.1~100Paがより好ましい。
【0042】
次に、成膜チャンバーに一般式(2)または一般式(3)で表される化合物のうち少なくとも1種を含む反応性ガスを導入し、シリコン基体上に堆積させた一般式(1)で表されるルテニウム化合物と反応させる[(B)工程]。この際、一般式(2)または一般式(3)で表される化合物のうち少なくとも1種を含む反応性ガスをあらかじめ気化させておき、気体の状態で導入することが好ましい。本工程において熱を作用させる場合の温度は、100~500℃の範囲が好ましく、好ましくは150~350℃である。(A)工程のシリコン基体温度と、(B)工程において熱を作用させる場合の温度との差は、絶対値で0~20℃の範囲内であることが好ましい。この範囲内に調整することで、金属ルテニウム薄膜の反りが発生しにくいという効果が認められるためである。
【0043】
次に、未反応の一般式(2)または一般式(3)で表される化合物のうち少なくとも1種を含む反応性ガス及び副生したガスを成膜チャンバーから排気する(排気工程2)。未反応の一般式(2)または一般式(3)で表される化合物のうち少なくとも1種を含む反応性ガス及び副生したガスが反応室から完全に排気されるのが理想的であるが、必ずしも完全に排気される必要はない。排気方法としては、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスにより系内をパージする方法、系内を減圧することで排気する方法、これらを組み合わせた方法などが挙げられる。減圧する場合の減圧度は、0.01~300Paが好ましく、0.1~100Paがより好ましい。
【0044】
上記の(A)工程、排気工程1、(B)工程および排気工程2からなる一連の操作による薄膜堆積を1サイクルとし、この成膜サイクルを必要な膜厚の金属ルテニウム薄膜が得られるまで複数回繰り返してもよい。
【0045】
また、上記の(B)工程の後に、水素ガスなどの還元性ガスを反応性ガスとして導入して(B)工程および排気行程2と同様の操作を行ってもよい。
【0046】
また、本発明の製造方法には、プラズマ、光、電圧などのエネルギーを印加してもよい。これらのエネルギーを印加する時期は、特には限定されず、例えば、(A)工程における一般式(1)で表されるルテニウム化合物ガス導入時、(B)工程における加温時、排気工程における系内の排気時でもよく、上記の各工程の間でもよい。
【0047】
本発明の製造方法においては、薄膜堆積の後に、より良好な膜質を得るために不活性ガス雰囲気下もしくは還元性ガス雰囲気下でアニール処理を行ってもよく、段差埋め込みが必要な場合には、リフロー工程を設けてもよい。この場合の温度は、400~1200℃であり、500~800℃が好ましい。
【0048】
本発明により金属ルテニウム薄膜を製造するのに用いる装置は、周知のALD法用装置を用いることができる。具体的な装置の例としては
図2のような原子層堆積法用原料をバブリング供給することのできる装置や、
図3のように気化室を有する装置が挙げられる。また、
図4及び
図5のように反応性ガスに対してプラズマ処理を行うことのできる装置が挙げられる。
図2~
図5のような枚葉式装置に限らず、バッチ炉を用いた多数枚同時処理可能な装置を用いることもできる。
【実施例0049】
以下、実施例及び比較例をもって本発明を更に詳細に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施例等によって何ら制限を受けるものではない。
【0050】
[実施例1~16]金属ルテニウム薄膜の製造
図2に示す装置を用いて以下の条件のALD法により、シリコンウエハ上に金属ルテニウム薄膜を製造した。なお、用いた原料ガスと反応性ガスを表1に示す。
【0051】
【0052】
(条件)
反応温度(シリコンウエハ温度):300℃
下記(1)~(4)からなる一連の工程を1サイクルとして、50サイクル繰り返した:
(1)原料容器温度:150℃、原料容器内圧力:100Paの条件で気化させた原子層堆積法用原料を成膜チャンバーに導入し、系圧力:100Paで0.2秒間堆積させる;
(2)15秒間のアルゴンパージにより、堆積しなかった原料を除去する;
(3)反応性ガスを成膜チャンバーに導入し、系圧力:100Paで0.2秒間反応させる;
(4)30秒間のアルゴンパージにより、未反応の反応性ガス及び副生ガスを除去する。
【0053】
[比較例1~12]金属ルテニウム薄膜の製造
原料ガスおよび反応性ガスを表2の組み合わせとしたこと以外は、実施例1と同様の方法で薄膜を製造した。なお。比較化合物1はドデカカルボニルトリルテニウムである。
【0054】
【0055】
(評価)
実施例1~16および比較例1~12によって得られた薄膜を各々X線光電子分光法により薄膜組成を確認し、金属ルテニウム薄膜が得られているか確認した。この結果を表3に示す。
【0056】
【0057】
表3の結果より、評価例1~16はその全てで品質のよい金属ルテニウムが製造できていることが確認できた。一方、比較評価例1~8は金属ルテニウムと酸化ルテニウムの複合膜となっていることが確認できた。また、比較評価例9~12については、組成分析の結果、金属ルテニウムは確認できなかった。