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特開2022-32816パン類の製造方法、成形済み冷凍パン類生地、成形済み冷凍パン類生地用組成物、およびパン類
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022032816
(43)【公開日】2022-02-25
(54)【発明の名称】パン類の製造方法、成形済み冷凍パン類生地、成形済み冷凍パン類生地用組成物、およびパン類
(51)【国際特許分類】
   A21D 6/00 20060101AFI20220217BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20220217BHJP
【FI】
A21D6/00
A21D13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020137037
(22)【出願日】2020-08-14
(71)【出願人】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】岸野 智
(72)【発明者】
【氏名】金子 由有紀
【テーマコード(参考)】
4B032
【Fターム(参考)】
4B032DB01
4B032DG01
4B032DK03
4B032DK12
4B032DK15
4B032DK17
4B032DK43
4B032DK47
4B032DK54
4B032DP40
4B032DP44
(57)【要約】
【課題】短時間でパン類の製造が可能であり、製造後のパン類の品質が高く、物流コストが低減できる成形済みの冷凍パン類生地を用いた技術を提供すること。
【解決手段】本技術では、成形済み冷凍パン類生地を、マイクロ波加熱する、マイクロ波加熱工程と、該マイクロ波加熱工程を経たパン類生地を、焼成および/または油ちょうする加熱工程と、を含む、パン類の製造方法を提供する。本技術に係るパン類の製造方法で用いる前記成形済み冷凍パン類生地は、穀粉類と、α化澱粉および/または増粘剤と、を含有させることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形済み冷凍パン類生地を、マイクロ波加熱する、マイクロ波加熱工程と、
該マイクロ波加熱工程を経たパン類生地を、焼成および/または油ちょうする加熱工程と、
を含む、パン類の製造方法。
【請求項2】
前記マイクロ波加熱工程におけるマイクロ波の照射量が、200~750J/gである、請求項1に記載のパン類の製造方法。
【請求項3】
前記成形済み冷凍パン類生地は、穀粉類と、α化澱粉および/または増粘剤と、を含有する、請求項1または2に記載のパン類の製造方法。
【請求項4】
穀粉類と、
α化澱粉および/または増粘剤と、
を含有し、
マイクロ波加熱後に焼成および/または油ちょうするための、成形済み冷凍パン類生地。
【請求項5】
前記α化澱粉の含有量が、前記穀粉類および前記α化澱粉の合計100質量%中、1.5~10質量%である、請求項4に記載の成形済み冷凍パン類生地。
【請求項6】
前記増粘剤の含有量が、前記穀粉類および前記α化澱粉の合計100質量部に対して、0.1~2.0質量部である、請求項4または5に記載の成形済み冷凍パン類生地。
【請求項7】
穀粉類と、
α化澱粉および/または増粘剤と、
を含有し、
マイクロ波加熱後に焼成および/または油ちょうするための、成形済み冷凍パン類生地用組成物。
【請求項8】
請求項4から6のいずれか一項に記載の成形済み冷凍パン類生地、または、請求項7に記載の成形済み冷凍パン類生地用組成物を用いた、パン類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パン類の製造方法、成形済み冷凍パン類生地、成形済み冷凍パン類生地用組成物、およびパン類に関する。
【背景技術】
【0002】
コンビニエンスストアやスーパー等の店内で加熱調理され、ホットスナック用什器や、ベーカリー、総菜売り場等で販売されるパン・ドーナツ類は、店舗での調理の手間や、提供にかかる時間を少なくするために、成形済みの冷凍パン類生地や成形・最終発酵・加熱(焼成、油ちょう等)された後に冷凍されたパン類が用いられることが多い。
【0003】
成形済み冷凍パン類生地を用いることで、生地の作製から成形までの工程を省略できる。また、成形・最終発酵・加熱(焼成、油ちょう等)された後に冷凍されたパン類を用いることで、さらに最終発酵から焼成までの工程も省略できる。そのため、店舗面積の縮小や設備負担の軽減を図ることが可能であり、且つ、熟練した職人以外の者でも簡便にパンを製造することが可能である。
【0004】
例えば、特許文献1には、成形・最終発酵・加熱(焼成、油ちょう等)された後に冷凍されたパン類を用いた技術が開示されている。具体的に、特許文献1には、フィリングとこれを包むパン生地とを含んで構成される冷凍焼成パンを、マイクロ波加熱により解凍して焼成パンを得る解凍工程と、該焼成パンを油揚げして揚げパン類を得る油揚げ工程とを備え、前記解凍工程において、該解凍工程直後の前記焼成パンの内部における前記パン生地の温度が15℃以上となるように、前記冷凍焼成パンを解凍する、揚げパン類の製造方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、成形したドーナツ生地を湿り蒸気で加熱した後、バッターで被覆し、フライすることを特徴とするドーナツの製造方法が開示されており、バッターで被覆したドーナツ生地は、そのままフライすることができるが、冷凍後、フライすることもできる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-67335号公報
【特許文献2】特開2020-43821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
成形済みの冷凍パン類生地は、成形された後最終発酵前に冷凍された生地、成形・最終発酵後に冷凍された生地、に大きく2つに分けられる。成形された後最終発酵前に冷凍された生地は、一定時間以上解凍および最終発酵が必要であり、焼成までに3時間以上の時間を要し、また、ある程度の製パン技術が必要である。成形・最終発酵後に冷凍された生地は、解凍するだけ又は冷凍のままで焼成できるため、焼成までの時間は20分程度であるが、輸送時や保管時、解凍時に破損しやすく、物流コストが高いといった問題がある。
【0008】
特許文献1に記載された製造方法で用いられている成形・最終発酵・加熱(焼成、油ちょう等)された後に冷凍されたパン類は、再加熱まで10分程度であるが、保管中や再加熱後の破損や食感の劣化が著しく、また、物流コストが高いといった問題がある。
【0009】
そこで本発明は、短時間でパン類の製造が可能であり、製造後のパン類の品質が高く、物流コストが低減できる成形済みの冷凍パン類生地を用いた技術を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本技術では、まず、成形済み冷凍パン類生地を、マイクロ波加熱する、マイクロ波加熱工程と、
該マイクロ波加熱工程を経たパン類生地を、焼成および/または油ちょうする加熱工程と、
を含む、パン類の製造方法を提供する。
本技術に係るパン類の製造方法では、前記マイクロ波加熱工程におけるマイクロ波の照射量を、200~750J/gに設定することができる。
本技術に係るパン類の製造方法で用いる前記成形済み冷凍パン類生地は、穀粉類と、α化澱粉および/または増粘剤と、を含有させることができる。
【0011】
本技術では、次に、穀粉類と、
α化澱粉および/または増粘剤と、
を含有し、
マイクロ波加熱後に焼成および/または油ちょうするための、成形済み冷凍パン類生地を提供する。
本技術に係る成形済み冷凍パン類生地において、前記α化澱粉の含有量は、前記穀粉類および前記α化澱粉の合計100質量%中、1.5~10質量%とすることができる。
また、本技術に係る成形済み冷凍パン類生地において、前記増粘剤の含有量は、前記穀粉類および前記α化澱粉の合計100質量部に対して、0.1~2.0質量部とすることができる。
【0012】
本技術では、また、穀粉類と、
α化澱粉および/または増粘剤と、
を含有し、
マイクロ波加熱後に焼成および/または油ちょうするための、成形済み冷凍パン類生地用組成物を提供する。
【0013】
本技術では、さらに、本技術に係る成形済み冷凍パン類生地、または、本技術に係る成形済み冷凍パン類生地用組成物を用いた、パン類を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本技術によれば、短時間でパン類の製造が可能であり、製造後のパン類の品質が高く、物流コストが低減できる成形済みの冷凍パン類生地を用いた製パン技術を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本技術を実施するための形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の実施形態の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。
【0016】
<1.成形済み冷凍パン類生地>
本技術に係る成形済み冷凍パン類生地は、穀粉類(但し、α化澱粉を除く。以下同様。)と、α化澱粉および/または増粘剤と、を必須成分とし、マイクロ波加熱後に焼成および/または油ちょうするための生地である。
【0017】
本技術に係る成形済み冷凍パン類生地は、解凍を行わなくても、マイクロ波加熱を行い、その後に焼成および/または油ちょうすることにより、従来の冷凍パン類生地を解凍および最終発酵して製造されたパン類に近い品質を有するパン類を製造することができる。
【0018】
また、従来の成形済み冷凍パン類生地を用いる場合、解凍および最終発酵を行う必要があるため、パン類を製造するまでに、4時間程度の時間を要するといった問題があった。一方、本技術に係る成形済み冷凍パン類生地を、マイクロ波加熱後に焼成および/または油ちょうして製造されたパン類は、短時間でパン類を製造することができ、保管中における破損等を防止することができ、製造後に時間が経過した後も、ふんわりとした食感が持続することを特徴とする。
【0019】
即ち、本技術に係る成形済み冷凍パン類生地を用いれば、解凍工程や一般的な最終発酵工程を行う必要がないため、短時間で品質が高く、保存劣化の少ない、パン類を製造することができる。
【0020】
なお、「最終発酵」とは、「ホイロ」ともいい、生地を成形した後加熱する前に発酵させる工程を意味する。最終発酵は、後段の焼成工程(加熱工程)での窯伸びや火通りを最適な状態とするために一般的な製パン方法においては必要不可欠な工程であり、加熱した際の窯伸び力が発揮できる程度に成形後の生地を膨張させる目的で行われる。また、生地表面の乾燥防止やイーストの活動を活性化させるために、湿度(70%以上)や温度(生地の種類により異なるが概ね27~38℃)を制御した専用の発酵室で行われる。パン類の種類によって異なるが、一般的には、成形直後の生地の2.5倍程度に膨張させる。最終発酵が不足(最終発酵における生地の膨張が不足)すると、焼成後のパン類はボリュームに欠け、形状が不揃いとなり、火通りが悪く、重く、クチャつく食感となる。また最終発酵が過度(最終発酵における生地の膨張が過度)になると、焼成後のパン類は、外観の品質低下(腰折れやシワの発生、焼き色が付かないなど)、内相の品質低下(空洞の発生など)、食感の低下(パサつきなど)が生じてしまう。
【0021】
本明細書において「一般的な最終発酵工程を行わずに」・「一般的な最終発酵させずに」・「一般的な最終発酵を経ずに」とは、何れも成形後の生地を後段の加熱工程に供するのに適した生地膨張の状態とするために、所定の湿度および温度下において、所定時間かけて生地を発行させる工程を行わないことを意味する。
【0022】
また、本明細書において、「解凍工程を経ずに」・「解凍させずに」・「解凍を行わずに」とは、何れも成形後に冷凍された生地を、凍結状態のままで後段のマイクロ波加熱工程に供することを意味する。
【0023】
(1)成形済み冷凍パン類生地の成分
(1-1)穀粉類
成形済み冷凍パン類生地に用いられる穀粉類は、特に限定されず、例えば、薄力粉、中力粉、強力粉、小麦全粒粉、デュラム小麦粉などの小麦粉、ライ麦粉、大麦粉、米粉、大豆粉(全脂または脱脂大豆粉、豆乳粉)、オーツ麦粉、そば粉、ヒエ粉、アワ粉、トウモロコシ粉などの公知の穀粉、および、α化澱粉以外の澱粉類(加工澱粉類を含む)から選択される1種または2種以上でありうる。これらの中でも小麦粉(好ましくは強力粉)を含むことが好ましい。また、α化澱粉以外の澱粉類(加工澱粉類を含む)を含む場合は小麦粉(好ましくは強力粉)を併用することが好ましい。
【0024】
(1-2)α化澱粉
本技術の成形済み冷凍パン類生地には、α化澱粉を含有させることができる。成形済み冷凍パン類生地におけるα化澱粉の含有量は、本技術の効果を損なわない限り特に限定されず、自由に設定することができる。本技術では、特に、α化澱粉の含有量を、穀粉類およびα化澱粉の合計100質量%中1.5~10質量%とすることが好ましく、3.0~9.0質量%とすることがより好ましい。
【0025】
α化澱粉には生地中の水分量を増やす働きがあり、生地作製に必要な加水量が増す。α化澱粉を含有することにより、生地中の水分量が増え、後述するマイクロ波加熱工程および後述する加熱工程において水蒸気膨化による生地膨張が起こり、パン類の容積が増加する。また、α化澱粉を用いることで、製造されるパン類の外観および食感を向上させ、かつ、保管中の食感の低下を防止することも可能である。
【0026】
しかしながら、α化澱粉は水分の保持力は弱いため、α化澱粉の含有量を多くしすぎると、生地のべたつきが生じて生地作製時の作業性が悪化する場合がある。また、α化澱粉の含有量を多くしすぎると、水蒸気膨化が過剰となり、製造されたパン類(放冷後)において、縮みが生じてしわが発生し見た目が劣る場合がある。そこで、本技術では、α化澱粉の含有量の上限を、10質量%以下とすることが好ましい。
【0027】
α化澱粉の含有量が少ないと、パン類の食感が重くなる傾向がある。そこで、本技術では、α化澱粉は、1.5質量%以上含有させることが好ましい。
【0028】
上記α化澱粉の原料となる澱粉(原料澱粉)は、植物から抽出した澱粉、およびこれらに化学的加工や物理的加工を施した加工澱粉であれば、特に制限はない。例えば、馬鈴薯澱粉、餅種(糯種またはワキシーともいう。)の馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、甘藷澱粉、サゴ澱粉、米澱粉、餅米澱粉などの澱粉、およびこれらの澱粉を原料として化学的な加工が施された加工澱粉が挙げられる。加工澱粉としては、どのような種類の加工澱粉でもよく、例えば、酵素処理澱粉;酸化澱粉;酸処理澱粉;酢酸澱粉(アセチル化澱粉)などのエステル化澱粉;リン酸化澱粉;ヒドロキシプロピル化澱粉などのエーテル化澱粉;リン酸架橋澱粉、アジピン酸架橋澱粉などの架橋澱粉;アセチル化アジピン酸架橋澱粉、アセチル化リン酸架橋澱粉、アセチル化酸化澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉およびリン酸モノエステル化リン酸架橋澱粉などの複数の加工を組み合わせた加工澱粉;などが挙げられる。本技術の成形済み冷凍パン類生地は、これらの原料澱粉を常法によってα化処理したα化澱粉を1種または2種以上含有しうる。本技術の成形済み冷凍パン類生地に用いられるα化澱粉としては、好ましくはα化加工澱粉であり、より好ましくは架橋処理が施されたα化架橋澱粉である。α化架橋澱粉を用いることで、加熱前に、解凍工程および最終発酵工程を経ずに製造されるパン類の品質をより向上させることが可能である。更に好ましくは、リン酸架橋を有するα化加工澱粉であり、α化エーテル化リン酸架橋澱粉および/またはα化リン酸架橋澱粉が特に好ましい。上記α化澱粉は、粉末状、糊状など任意の状態で用いることができる。
【0029】
(1-3)増粘剤
本技術の成形済み冷凍パン類生地には、増粘剤を含有させることができる。増粘剤には、生地の水分量増加に加えて水分保持力を高める働きがある。また、増粘剤は、加熱後のパン類の品質、特に食感(ふんわり・しっとりとした食感)を向上させる働きもある。加熱後の製品の食感を向上させるためには、製品が一定の水分を保持している必要がある。また、増粘剤は、α化澱粉との併用により、外観を良化させることができる。さらに、増粘剤は、α化澱粉との併用することにより、保管中の食感の低下を防止することも可能である。
【0030】
増粘剤は、好ましくは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(以下、「HPMC」ともいう。)、カルボキシメチルセルロース(以下、「CMC」ともいう。)およびガム質からなる群より選択される少なくとも1種である。ガム質としては、例えば、キサンタンガム、グアガム、タマリンドシードガム、ジェランガム、アラビアガムおよびタラガムなどが挙げられ、これらの中でもキサンタンガムおよび/またはグアガムが好ましい。すなわち、上記増粘剤は、より好ましくは、HPMC、CMC、キサンタンガムおよびグアガムからなる群より選択される少なくとも1種である。上記増粘剤は、更に好ましくはHPMCおよび/またはCMCであり、特に好ましくはHPMCである。
【0031】
成形済み冷凍パン類生地における増粘剤の含有量は、本技術の効果を損なわない限り、自由に設定することができる。本技術では、特に、増粘剤の含有量を、穀粉類およびα化澱粉の合計100質量部に対して、0.1~2.0質量部とすることが好ましく、0.2~1.5質量部とすることがより好ましく、0.3~1.0質量部とすることが更に好ましい。
【0032】
(1-4)イースト
本技術の成形済み冷凍パン類生地は、従来の冷凍パン類生地において通常用いられる量のイーストを含有させることができる。イーストを含有させる手段は、通常の製パン法における手段と同様に行えばよく、生地配合にイーストを直接添加する方法や予備発酵を行って添加する方法、サワー種・液種等の発酵種の形態で添加する方法などが挙げられる。イーストの種類は、特に限定されず、生イースト(圧搾パン酵母)、インスタントドライイースト、ドライイースト、セミドライイースト(アクティブドライイースト)、いわゆる天然酵母、など、パン類の製造方法で通常用いられるものであればよい。
【0033】
(1-5)その他
本技術の成形済み冷凍パン類生地は、本発明の効果を損なわない範囲において、上述した成分以外に、パン類用の生地に一般的に配合される他の成分を含有することができる。当該他の成分としては、例えば、小麦グルテン;ふすま、豆皮などの穀物外皮およびその加工品;大豆蛋白質、豆乳、おからなどの大豆加工品(穀粉類である大豆粉を除く);植物性油脂、動物性油脂、加工油脂、粉末油脂などの油脂類;卵黄、卵白、全卵などの卵類;脱脂粉乳、カゼイン、チーズ、牛乳などの乳由来製品;食物繊維;澱粉分解物、デキストリン、ぶどう糖、ショ糖、オリゴ糖、マルトースなどの糖質類;食塩、炭酸カルシウムなどの無機塩類;酵素製剤;ベーキングパウダーなどの膨張剤;乳化剤、その他、pH調整剤、ビタミン類、イーストフード、甘味料、香辛料、調味料、ミネラル類、色素、香料などが挙げられる。加熱後、放冷中の縮み(外皮のシワ発生)を予防するために、強力粉を使用するのがより好ましい。薄力粉や中力粉を使用するときは、小麦グルテンを添加することが好ましい。
【0034】
(2)成形済み冷凍パン類生地の形態
一般的に、冷凍パン類生地は、ミキシング後、成形前の生地を凍結した生地玉冷凍パン類生地;成形後、最終発酵前の生地を凍結した成形済み冷凍パン類生地;最終発酵後、加熱前の生地を凍結したホイロ済み冷凍パン類生地に大別される。本技術の成形済み冷凍パン類生地は、最終発酵をさせない、または最終発酵を完全に終えずに生地を凍結した成形済み冷凍パン類生地である。
【0035】
(3)成形済み冷凍パン類生地の製造方法
上記成形済み冷凍パン類生地は、ストレート法、中種法、発酵種法、湯種法などの公知の製パン方法により製造されうる。例えば、生地用の各種成分をミキシングして混捏生地を調製し、必要に応じて、フロアタイム、分割および丸め、ベンチタイム、成形といった工程(分割後の丸めを成形とする場合もある)を行った後に生地を凍結することで、冷凍パン類生地を製造することが可能である。本技術の製造方法においては、成形後に最終発酵をさせない、または最終発酵を完全に終えずにパン生地を凍結すること、または、成形後最終発酵させずにパン生地を凍結することが好ましい。すなわち、本技術の製造方法は、好ましくは分割および成形後に生地を凍結する成形済み冷凍パン類生地での製造方法であり、好ましくは成形後最終発酵させずに生地を凍結する成形済み冷凍パン類生地の製造方法である。成形済み冷凍パン類生地の製造方法において、分割および丸めと成形の間に任意でベンチタイムを設けてもよい。また、フロアタイムを設ける場合、その条件は特に限定されないが、冷蔵条件下でフロアタイムをとることもできる。また、冷蔵条件下では3時間以上、フロアタイムをとることもでき、10時間以上、フロアタイムをとることもできる。
【0036】
パン生地の凍結条件は、生地の種類や大きさなどによって適宜調整されればよく、特に限定されないが、凍結温度は好ましくは-20℃以下であり、より好ましくは-30℃以下であり、急速凍結とすることが好ましい。また、凍結後の冷凍パン類生地の冷凍保管条件は、生地の種類や大きさなどによって適宜調整されればよく、特に限定されないが、冷凍保管の温度は好ましくは-18℃以下であり、より好ましくは-20℃以下である。
【0037】
<2.パン類の製造方法>
本技術に係るパン類の製造方法は、成形済み冷凍パン類生地を用いて、マイクロ波加熱工程と、焼成および/または油ちょうする加熱工程と、を含む方法である。本技術に係るパン類の製造方法は、解凍工程や一般的な最終発酵工程を行わずに、成形済み冷凍パン類生地を用いて、マイクロ波加熱工程と、焼成および/または油ちょうする加熱工程と、行う方法であり、従来の冷凍パン類生地を最終発酵して製造されたパン類に近い品質のパン類を製造することができる方法である。
【0038】
なお、本技術に係るパン類の製造方法で用いる成形済み冷凍パン類生地は、最終発酵前の生地を凍結した成形済み冷凍パン類生地であれば、一般的な成形済み冷凍パン類生地を用いることができるが、前述した本技術に係る成形済み冷凍パン類生地を用いることがより好ましい。
【0039】
本技術に係るパン類の製造方法において、前記マイクロ波加熱工程におけるマイクロ波の照射量は、本技術の効果を損なわない限り特に限定されないが、本技術では、200~750J/gとすることが好ましく、300~600J/gとすることがより好ましく、350~500J/gとすることが更に好ましい。この条件範囲でマイクロ波加熱を行うことで、製造されるパン類の外観および食感を向上させ、かつ、保管中の食感の低下を防止するが可能である。なお、本技術において、「J/g」は、具材等を含む成形済み冷凍パン類生地あたりのマイクロ波照射量である。
【0040】
本技術に係るパン類の製造方法において、前記加熱工程では、焼成および/または油ちょうを行うが、油ちょうを行うことが好ましい。焼成および/または油ちょうの条件は、本技術の効果を損なわない限り、製造するパン類の種類に応じて、自由に設定することができる。
【0041】
<3.パン類>
本技術に係るパン類は、上記成形済み冷凍パン類生地、または、本技術に係る成形済み冷凍パン類生地用組成物を用いて製造された、パン類である。本技術に係るパン類の種類としては、特に限定されず、あらゆる種類のパンに適用することができる。例えば、イーストドーナツ類;カレーパン、総菜ドーナツ等のフィリング類を内包したドーナツ類;ジャムパン、クリームパン、あんぱん等のフィリング類を内包したパン類;メロンパン等の表面を別の生地で覆ったパン類;チョコチップ、レーズン、ナッツ類等を練り込んだパン類;チョコレート等でコーティングしたパン類;総菜パン類;フランスパン等のハード系パン類;山型食パン、角型食パン、ピザ、フォカッチャ等の食事パン類;ソフトフランスパン等のリーンな配合のパン類、バターロール、コロネ等の特殊な形状に成形したパン類;クロワッサン、デニッシュ等のマーガリン等の油脂やフィリング等で層構造を形成したパン類等、様々な種類のパン類に適用することができる。
【0042】
<4.冷凍パン類生地用組成物>
本技術に係る成形済み冷凍パン類生地用組成物は、上述した成形済み冷凍パン類生地に用いられる組成物である。当該組成物は、穀粉類(但し、α化澱粉を除く)と、α化澱粉および/または増粘剤と、を必須成分とする。また、本技術の組成物には、一般的なベーカリー製品に用いることができる成分を用いることも可能である。穀粉類、α化澱粉、膨張剤、一般的なベーカリー製品に用いることができる成分の詳細については、上記成形済み冷凍パン類生地の項で説明した内容と同様であるため、ここでの説明を省略する。
【0043】
本技術の成形済み冷凍パン類生地用組成物は、前述した成分を混合して得られる冷凍パン類生地用ミックスとして流通させる形態を採用することができる。また、本技術の成形済み冷凍パン類生地用組成物は、粉末状の形態であることが好ましい。
【実施例0044】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
本実施例で使用した原料の一部を以下に示す。
強力粉:ブルチアーレ(昭和産業株式会社)
CMC:サンローズF(日本製紙株式会社)
HPMC: メトセルF50(ユニテックフーズ株式会社)
【0046】
<実験例1>
実験例1では、成形済み冷凍パン類生地を用いて製パンする際の製造工程について検討を行った。
【0047】
1.成形済み冷凍パン類生地の製造
下記表1に示す配合の原料のうちマーガリン以外をミキサーボウルに入れ、ミキサーの低速で4分間、中速で8分間ミキシングした後、マーガリンを添加し、ミキサーの低速で3分間、中速で7分間ミキシングして混捏生地を調製した。生地の捏上温度は、20℃とした。室温で10分間フロアタイムをとり、50gに分割して室温で15分間ベンチタイムをとり、25gのカレーフィリングを包餡し、パン粉3gを付着させて、成形済みパン類生地を調製した。調整した成形済みパン類生地を、-35℃で40分間急速冷凍して成形済み冷凍パン類生地を製造した。得られた成形済み冷凍パン類生地を、-20℃の冷凍庫で4週間保管した。
【0048】
2.パン類の製造
[参考例1]
前記で製造・保管した成形済み冷凍パン類生地を、25℃で3時間かけて解凍した後、36℃湿度80%で60分間、最終発酵をおこなった。最終発酵後の生地を、180℃で6分間(3分反転3分)油ちょうし、カレードーナツ(パン類)を製造した。
【0049】
[実施例1および2]
前記で製造・保管した成形済み冷凍パン類生地を、凍結状態のまま、600Wの電子レンジで50秒間/個加熱した(フィリングを含むパン重量あたりのマイクロ波の照射量:385J/g)。マイクロ波加熱後の生地を、180℃で6分間(3分反転3分)油ちょうし、カレードーナツ(パン類)を製造した。
【0050】
[比較例1]
前記で製造・保管した成形済み冷凍パン類生地を、凍結状態のまま、180℃で12分間(6分反転6分)油ちょうし、カレードーナツ(パン類)を製造した。
【0051】
3.評価
得られたパン類の外観、油ちょう10分後の食感、および什器(70℃設定)保管5時間後の食感について、以下の基準に従って評価を行った。なお、各評価は、10名の専門パネルが評価した点数の平均点を評価点とした。
【0052】
[外観]
5:潰れ・火ぶくれがなく、非常に良好である
4:潰れ・火ぶくれがほとんどなく、良好である
3:潰れ・火ぶくれが少しあり、形状がやや劣る
2:潰れ・火ぶくれがあり、形状が劣る
1:潰れ・火ぶくれが多くあり、形状が非常に劣る
【0053】
[食感]
5:火通り良好、非常にふんわりとした食感である
4:火通り良好、ふんわりとした食感で好ましい
3:火通り良好、ややふんわりとした食感である
2:火通りやや悪く、ふんわりとした食感に欠け、やや重さを感じる食感で劣る
1:火通り悪く、ふんわりとした食感がなく、重い食感を強く感じて悪い
【0054】
4.結果
結果を表1に示す。なお、下記表において、各成分の配合量の単位は原則「質量部」であり、穀粉類とα化澱粉との合計が100質量部となっている(以下同様)。
【0055】
【表1】
【0056】
上記表1の結果が示すように、マイクロ波加熱を行った実施例1および2のパン類は、解凍および一般的な最終発酵を行っていないにも関わらず、解凍および最終発酵を行った参考例1と同等かそれ以上の外観および食感を備えることが分かった。この結果から、成形済み冷凍パン類生地をマイクロ波加熱した後に油ちょう等の加熱行うことで、解凍および一般的な最終発酵を行わなくても、解凍および最終発酵を行って製造したパン類と同等以上の品質のパン類が得られることが分かった。
【0057】
一方、マイクロ波加熱を行わずに油ちょうを行った比較例1では、油ちょうに、実施例1および2の倍の時間を要した。また、比較例1のパン類は、潰れ・火ぶくれがあり、形状が劣る外観であり、フライ10分後の食感、および什器保管5時間後の食感共に、実施例1および2に比べて劣る結果であった。
【0058】
さらに、α化澱粉を用いた実施例2のパン類は、解凍および一般的な最終発酵を行っていないにも関わらず、什器保管5時間後の食感が、比較例1のパン類の什器保管5時間後の食感よりも良好であるだけでなく、解凍および最終発酵を行った参考例1の什器保管5時間後の食感よりも良好であった。この結果から、α化澱粉を用いた成形済み冷凍パン類生地をマイクロ波加熱した後に油ちょう等の加熱行うことで、解凍および一般的な最終発酵を行わなくても、解凍および最終発酵を行って製造したパン類よりも品質の優れたパン類が得られることが分かった。
【0059】
<実験例2>
実験例2では、生地の配合の違いによる各評価の違いについて、検討を行った。
【0060】
1.成形済み冷凍パン類生地の製造
下記表2に示す配合の原料を用いて、前記実験例1と同様の方法にて、成形済み冷凍パン類生地を製造した。得られた成形済み冷凍パン類生地を、-20℃の冷凍庫で4週間保管した。
【0061】
2.パン類の製造
[実施例1~10]
前記で製造・保管した成形済み冷凍パン類生地を用いて、前記実験例1と同様の方法にて、カレードーナツ(パン類)を製造した。
【0062】
3.評価
得られたパン類の外観、油ちょう10分後の食感、および什器保管5時間後の食感について、前記実験例1と同様の評価基準に従って評価を行った。
【0063】
4.結果
結果を表2に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
上記表2の結果が示すように、α化澱粉および増粘剤を用いていない実施例1に比べて、α化澱粉および/または増粘剤を用いた実施例2~10の方が、食感の評価が向上し、かつ、保管中の食感の低下を防止できることが分かった。また、α化澱粉および増粘剤を併用することにより、保管中の食感の低下をより確実に防止できることが分かった(実施例3)。
【0066】
<実験例3>
実験例3では、成形済み冷凍パン類生地を製造する際の発酵条件の違いによる各評価の違いについて、検討を行った。
【0067】
1.成形済み冷凍パン類生地の製造
前記実施例2と同一の配合の原料を用いて、フロアタイムの条件以外は前記実験例1と同様の方法にて、成形済み冷凍パン類生地を製造した。各実施例のフロアタイムの条件を、表3に示す。得られた成形済み冷凍パン類生地を、-20℃の冷凍庫で4週間保管した。
【0068】
2.パン類の製造
[実施例2、11~13]
前記で製造・保管した成形済み冷凍パン類生地を用いて、前記実験例1と同様の方法にて、カレードーナツ(パン類)を製造した。
【0069】
3.評価
得られたパン類の外観、油ちょう10分後の食感、および什器保管5時間後の食感について、前記実験例1と同様の評価基準に従って評価を行った。
【0070】
4.結果
結果を表3に示す。
【0071】
【表3】
【0072】
上記表3の結果が示すように、室温で10分または3時間のフロアタイムをとった実施例2および11に比べて、5℃で10時間または24時間フロアタイムをとった実施例12および13の方が、保管中の食感の低下を確実に防止できることが分かった。この結果から、冷蔵条件下で長時間発酵させて成形済み冷凍パン類生地を製造することにより、保管中の食感の低下を防止する効果を向上させることが分かった。
【0073】
<実験例4>
実験例4では、マイクロ波加熱工程の条件の違いによる各評価の違いについて、検討を行った。
【0074】
1.成形済み冷凍パン類生地の製造
前記実施例2と同一の配合の原料を用いて、前記実験例1と同様の方法にて、成形済み冷凍パン類生地を製造した。得られた成形済み冷凍パン類生地を、-20℃の冷凍庫で4週間保管した。
【0075】
2.パン類の製造
[実施例14~19]
前記で製造・保管した成形済み冷凍パン類生地を用いて、マイクロ波加熱の条件以外は前記実験例1と同様の方法にて、カレードーナツ(パン類)を製造した。各実施例のマイクロ波加熱の条件を、表4に示す。
【0076】
3.評価
得られたパン類の外観、油ちょう10分後の食感、および什器保管5時間後の食感について、前記実験例1と同様の評価基準に従って評価を行った。
【0077】
4.結果
結果を表4に示す。
【0078】
【表4】
【0079】
上記表4の結果が示すように、実施例14~19の全てにおいて、外観および食感ともに問題なかったが、熱量が300~600J/gの範囲外の実施例14および19に比べて、熱量が300~600J/gの範囲内の実施例15~18の方が、外観および食感ともに優れていた。さらに、熱量が350~500J/gの範囲内の実施例16および17は、保管中の食感の低下がより確実に防止されていた。
【0080】
<実験例5>
実験例5では、本技術に係るパン類の製造方法において、加熱工程で焼成を行った製造例を示す。
【0081】
1.成形済み冷凍パン類生地の製造
下記表5に示す配合の原料のうちマーガリン以外をミキサーボウルに入れ、ミキサーの低速で4分間、中速で8分間ミキシングした後、マーガリンを添加し、ミキサーの低速で3分間、中速で7分間ミキシングして混捏生地を調製した。生地の捏上温度は、20℃とした。室温で10分間フロアタイムをとり、50gに分割して室温で10分間ベンチタイムをとり、丸めなおして、成形済みパン類生地を調製した。調整した成形済みパン類生地を、-35℃で40分間急速冷凍して成形済み冷凍パン類生地を製造した。得られた成形済み冷凍パン類生地を、-20℃の冷凍庫で4週間保管した。
【0082】
2.パン類の製造
[実施例20]
前記で製造・保管した成形済み冷凍パン類生地を、凍結状態のまま、600Wの電子レンジで40秒間/個加熱した(パン重量あたりのマイクロ波の照射量:480J/g)。マイクロ波加熱後の生地を、200℃で12分間焼成し、バンズ(パン類)を製造した。
【0083】
[比較例2]
前記で製造・保管した成形済み冷凍パン類生地を、凍結状態のまま、200℃で25分間焼成し、バンズ(パン類)を製造した。
【0084】
3.評価
得られたパン類の外観、焼成10分後の食感、および什器保管5時間後の食感について、前記実験例1と同様の評価基準に従って評価を行った。
【0085】
4.結果
結果を表5に示す。
【0086】
【表5】
【0087】
上記表5の結果が示すように、本技術に係るパン類の製造方法を用いた場合、加熱工程で焼成を行っても、製造されたパン類は、外観および食感ともに良好であった。
【0088】
一方、マイクロ波加熱を行わずに焼成をおこなった比較例2では、焼成に、実施例20の倍以上の時間を要した。また、比較例2のパン類は、潰れ・火ぶくれがあり、形状が劣る外観であり、焼成10分後の食感、および什器保管5時間後の食感共に、実施例20に比べて劣る結果であった。