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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022032850
(43)【公開日】2022-02-25
(54)【発明の名称】非エンベロープウイルスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/864 20060101AFI20220217BHJP
   C12N 7/02 20060101ALI20220217BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20220217BHJP
【FI】
C12N15/864 100Z
C12N7/02 ZNA
C12N7/01
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020137103
(22)【出願日】2020-08-14
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】久保田 進
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA95X
4B065AA95Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BB02
4B065BB03
4B065BB08
4B065BB31
4B065BC02
4B065BD14
4B065CA24
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】本発明は、煩雑な操作なく高純度の非エンベロープウイルスを得るための製造方法、高純度で非エンベロープウイルスを含有する細胞抽出液を得る方法、それらの方法に適したキット等を提供することを課題とする。
【解決手段】(a)非エンベロープウイルスを含有する細胞と塩基性の溶液とを混合する工程、(b)工程(a)で得られた混合物を酸性にする工程、および(c)非エンベロープウイルスを取得する工程、を含む非エンベロープウイルスの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)非エンベロープウイルスを含有する細胞と塩基性の溶液とを混合する工程、
(b)工程(a)で得られた混合物を酸性にする工程、および
(c)非エンベロープウイルスを取得する工程
を含む、非エンベロープウイルスの製造方法。
【請求項2】
非エンベロープウイルスを含有する細胞が、非エンベロープウイルスを産生する能力を有する細胞である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
非エンベロープウイルスを含有する細胞が、当該細胞を培養する工程によって得られたものである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
塩基性の溶液が、pH7.5~11の溶液である請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
塩基性の溶液が、ナトリウムイオンまたはカリウムイオンを含有する溶液である請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
酸性にする工程が、前記混合物に酸性の溶液を添加する工程である請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
酸性の溶液が、pH2~6.5の溶液である請求項6に記載の方法。
【請求項8】
酸性の溶液が、クエン酸を含有する溶液である請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
酸性の溶液が、さらにカチオンを含有する溶液である請求項6~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
酸性にする工程において、添加剤との接触を含まないことを特徴とする請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記添加剤が、界面活性剤である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
酸性にする工程が、
(b1)前記混合物を細胞と上清に分離する工程、および
(b2)前記上清に酸性の溶液を添加する工程
からなる、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
非エンベロープウイルスが、アデノ随伴ウイルスである請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
非エンベロープウイルスが、遺伝子組換えウイルスである請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
非エンベロープウイルスを含有する細胞と塩基性の溶液とを混合してなる混合物において、該混合物を酸性にすることを特徴とする、該混合物中の夾雑DNA含量を低減する方法。
【請求項16】
第1試薬として塩基性の溶液、第2試薬として酸性の溶液を含み、第1試薬、第2試薬
の順で使用することを特徴とする、非エンベロープウイルスを含有する細胞から非エンベロープウイルスを単離精製する為のキット。
【請求項17】
第1試薬としての塩基性の溶液が、pH7.5~11の溶液である、請求項16記載のキット。
【請求項18】
第2試薬としての酸性の溶液が、pH2~6.5の溶液である、請求項16または17記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非エンベロープウイルスの製造方法、高純度で非エンベロープウイルスを含有する細胞抽出液を得る方法、それらの方法に適したキット等に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子治療等の医療分野において、ヒトを含む哺乳動物細胞に遺伝子を導入する方法として、ウイルス由来の遺伝子導入用のベクター(以下、ウイルスベクター)を用いる方法が一般的である。ウイルスベクターとは、遺伝子組み換え技術を用いて天然由来のウイルスを改変し、所望の遺伝子等を標的に移入することができるようにしたベクターのことで、近年技術開発が進んでいる。
ウイルスベクターの由来となるウイルスとしては、レトロウイルスやレンチウイルス、センダイウイルス、ならびにヘルペスウイルス等のエンベロープを持つウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(以下、AAV)等のエンベロープを持たないウイルス(以下、非エンベロープウイルス)がよく知られている。
特にAAVはヒトを含む広範な種の細胞型に感染可能で、分化を終えた非分裂細胞にも感染すること、ヒトに対する病原性がないため副作用の心配が低いこと、ウイルス粒子が物理化学的に安定であること等から、遺伝子治療法に用いる遺伝子導入用のベクターとして有望視されている。
【0003】
遺伝子組換えウイルスの製造は、通常、ウイルス粒子を形成するのに必要な要素を細胞内でウイルス粒子が形成・産生されるような様式で細胞に導入してウイルスを産生する能力を有する細胞(ウイルス産生細胞)とし、当該細胞を培養することによって細胞内でウイルス粒子を形成させ、当該細胞からウイルス粒子を抽出することによって行われる。
ウイルス産生細胞からウイルス粒子を抽出する際、目的とするウイルス粒子以外に、ホスト細胞であるウイルス産生細胞に由来するDNAやタンパク質の夾雑が問題となる。
【0004】
特許文献1~4には、ウイルス、ウイルス粒子あるいはウイルスベクターのウイルス産生細胞からの抽出乃至製造方法が開示されている。特許文献1では、ウイルス産生細胞から抽出されたウイルス粒子を含む細胞抽出液中の夾雑タンパク質を除去する工程が記載され、当該工程により非エンベロープウイルス粒子を高純度に製造することを可能としている。特許文献2では、ウイルス産生細胞を酸で処理することにより高純度の非エンベロープウイルスを製造する方法が記載されている。特許文献3では、ウイルス産生細胞を酸で処理して粗抽出液を得、ポリエチレングリコールで沈殿させることで非エンベロープウイルス粒子を粗精製している。特許文献4では浸透圧等の培養条件を変えることで細胞を溶解することなく、ウイルス産生細胞からウイルス(粒子)を放出させる方法が記載されている。
しかしながら、従来の方法では工程数や添加する試薬の種類が多く満足のいくものではなかった。また、ホスト細胞由来の夾雑タンパク質の除去に加え、夾雑DNAをも除去し得る方法については何の知見も得られていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6616329号公報
【特許文献2】国際公開第2015/005430号
【特許文献3】特許第6521965号公報
【特許文献4】特許第4472182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、煩雑な操作なく高純度の非エンベロープウイルスを得るための製造方法、高純度で非エンベロープウイルスを含有する細胞抽出液を得る方法、それらの方法に適したキット等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題に鑑み、ウイルス産生細胞、特に非エンベロープウイルス産生細胞からのウイルス(粒子)抽出工程に着目し、試薬の種類や添加順序、反応条件を種々検討した。結果、抽出工程において、非エンベロープウイルス産生細胞をまず塩基性溶液(アルカリ溶液)と混合し、次にその混合物を酸性溶液で酸性にすることにより、従来よりもより多くのウイルス(粒子)の抽出が可能となり、また、ホスト細胞に由来する夾雑DNA含量が低減されていることを見出して本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は以下の通りである。
【0008】
[1](a)非エンベロープウイルスを含有する細胞と塩基性の溶液とを混合する工程、(b)工程(a)で得られた混合物を酸性にする工程、および
(c)非エンベロープウイルスを取得する工程
を含む、非エンベロープウイルスの製造方法。
[2]非エンベロープウイルスを含有する細胞が、非エンベロープウイルスを産生する能力を有する細胞である上記[1]に記載の方法。
[3]非エンベロープウイルスを含有する細胞が、当該細胞を培養する工程によって得られたものである、上記[1]または[2]に記載の方法。
[4]塩基性の溶液が、pH7.5~11の溶液である上記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]塩基性の溶液が、ナトリウムイオンまたはカリウムイオンを含有する溶液である上記[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]酸性にする工程が、前記混合物に酸性の溶液を添加する工程である上記[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]酸性の溶液が、pH2~6.5の溶液である上記[6]に記載の方法。
[8]酸性の溶液が、クエン酸を含有する溶液である上記[6]または[7]に記載の方法。
[9]酸性の溶液が、さらにカチオンを含有する溶液である上記[6]~[8]のいずれかに記載の方法。
[10]酸性にする工程において、添加剤との接触を含まないことを特徴とする上記[1]~[9]のいずれかに記載の方法。
[11]前記添加剤が、界面活性剤である上記[10]に記載の方法。
【0009】
[12]酸性にする工程が、
(b1)前記混合物を細胞と上清に分離する工程、および
(b2)前記上清に酸性の溶液を添加する工程
からなる、上記[1]~[11]のいずれかに記載の方法。
[13]非エンベロープウイルスが、アデノ随伴ウイルスである上記[1]~[12]のいずれかに記載の方法。
[14]非エンベロープウイルスが、遺伝子組換えウイルスである上記[1]~[13]のいずれかに記載の方法。
[15]非エンベロープウイルスを含有する細胞と塩基性の溶液とを混合してなる混合物において、該混合物を酸性にすることを特徴とする、該混合物中の夾雑DNA含量を低減する方法。
[16]非エンベロープウイルスを含有する細胞が、非エンベロープウイルスを産生する
能力を有する細胞である上記[15]に記載の方法。
[17]非エンベロープウイルスを含有する細胞が、当該細胞を培養する工程によって得られたものである、上記[15]または[16]に記載の方法。
[18]塩基性の溶液が、pH7.5~11の溶液である上記[15]~[17]のいずれかに記載の方法。
[19]塩基性の溶液が、ナトリウムイオンまたはカリウムイオンを含有する溶液である上記[15]~[18]のいずれかに記載の方法。
[20]酸性にする工程が、前記混合物に酸性の溶液を添加する工程である上記[15]~[19]のいずれかに記載の方法。
[21]酸性の溶液が、pH2~6.5の溶液である上記[20]に記載の方法。
【0010】
[22]酸性の溶液が、クエン酸を含有する溶液である上記[20]または[21]に記載の方法。
[23]酸性の溶液が、さらにカチオンを含有する溶液である上記[20]~[22]のいずれかに記載の方法。
[24]酸性にする工程において、添加剤との接触を含まないことを特徴とする上記[15]~[23]のいずれかに記載の方法。
[25]前記添加剤が、界面活性剤である上記[24]に記載の方法。
[26]酸性にする工程が、
(b1)前記混合物を細胞と上清に分離する工程、および
(b2)前記上清に酸性の溶液を添加する工程
からなる、上記[15]~[25]のいずれかに記載の方法。
[27]非エンベロープウイルスが、アデノ随伴ウイルスである上記[15]~[26]のいずれかに記載の方法。
[28]非エンベロープウイルスが、遺伝子組換えウイルスである上記[15]~[27]のいずれかに記載の方法。
[29]第1試薬として塩基性の溶液、第2試薬として酸性の溶液を含み、第1試薬、第2試薬の順で使用することを特徴とする、非エンベロープウイルスを含有する細胞から非エンベロープウイルスを単離精製する為のキット。
[30]第1試薬としての塩基性の溶液が、pH7.5~11の溶液である、上記[29]記載のキット。
[31]第2試薬としての酸性の溶液が、pH2~6.5の溶液である、上記[29]または[30]記載のキット。
[32]非エンベロープウイルスを含有する細胞が、非エンベロープウイルスを産生する能力を有する細胞である上記[29]~[31]のいずれかに記載の方法。
【0011】
[33]非エンベロープウイルスを含有する細胞が、当該細胞を培養する工程によって得られたものである、上記[29]~[32]のいずれかに記載の方法。
[34]塩基性の溶液が、ナトリウムイオンまたはカリウムイオンを含有する溶液である上記[29]~[33]のいずれかに記載の方法。
[35]酸性の溶液が、クエン酸を含有する溶液である上記[29]~[34]に記載の方法。
[36]酸性の溶液が、さらにカチオンを含有する溶液である上記[29]~[35]のいずれかに記載の方法。
[37]非エンベロープウイルスが、アデノ随伴ウイルスである上記[29]~[36]のいずれかに記載の方法。
[38]非エンベロープウイルスが、遺伝子組換えウイルスである上記[29]~[37]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明で得られたウイルス産生細胞の細胞抽出液は、従来の方法に比べてより非エンベロープウイルス抽出量が高く、夾雑DNA含量が顕著に少ない。従って、本発明の方法により製造された非エンベロープウイルスや当該非エンベロープウイルスを有効成分とする組成物は、遺伝子治療の基礎研究または臨床応用の分野における遺伝子導入方法として非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、pRC2-mi342 Vectorプラスミドマップを示す図である。
図2図2は、pHelper Vectorプラスミドマップを示す図である。
図3図3は、pAAV-GFP Vectorプラスミドマップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を説明する。本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味を有する。
【0015】
1.非エンベロープウイルスの製造方法
本発明の非エンベロープウイルス粒子の製造方法は、
(a)非エンベロープウイルスを含有する細胞と塩基性の溶液とを混合する工程、
(b)工程(a)で得られた混合物を酸性にする工程、および
(c)非エンベロープウイルスを取得する工程
を含むことを特徴とする。
【0016】
本発明において「非エンベロープウイルス」とは、エンベロープを持たないウイルスを意味する。エンベロープは、ウイルスが核、小胞体、ゴルジ装置、原形質膜、細胞膜等の膜を貫通して出芽する際に形成され、通常宿主由来のタンパク質又は宿主の細胞膜上に発現したウイルスのタンパク質を伴っており、標的細胞への感染に重要な役割を担っている。非エンベロープウイルスは、このようなエンベロープを持たないウイルスであり、アデノウイルス、パルボウイルス、パポバウイルス、ヒトパピローマウイルス等のDNAウイルス、ロタウイルス、コクサッキーウイルス、エンテロウイルス、サポウイルス、ノロウイルス、ポリオウイルス、エコーウイルス、A型肝炎ウイルス、E型肝炎ウイルス、ライノウイルス、アストロウイルス等のRNAウイルスが挙げられる。
【0017】
本発明において対象とする非エンベロープウイルスに特に制限はなく、既に産生方法が知られた非エンベロープウイルスでも、天然から新たに取得された非エンベロープウイルス、又はそれらを由来とする遺伝子組換えウイルスでもよい。好ましくはアデノウイルス、又はパルボウイルス科のアデノ随伴ウイルス(AAV)が例示される。AAVはエンベロープを持たない正20面体の外殻(キャプシド)とその内部に1本の線状一本鎖DNAを有する。キャプシドは3つのキャプシドタンパク質(VP1、VP2、及びVP3)を有する。本明細書において、AAVは野生型ウイルス及びその派生物を含み、特に記載する場合を除き全ての血清型及びクレードを含む。AAVの血清型については種々の報告があるが、ヒトに感染するAAVの血清型としては、少なくともAAV1,AAV2,AAV3a,AAV3b,AAV4,AAV5,AAV6,AAV7,AAV8,AAV9,AAV10,AAVrh.10,AAV11,AAV12及びAAV13の15種類が知られている。
「ウイルス粒子」とはキャプシドタンパク質の殻から構成された粒子を意味する。さらに本発明では、「ウイルス粒子」は、ウイルスゲノム(核酸形状)を含むものだけでなく、ウイルスゲノムを含んでいないキャプシドタンパク質のみから構成されたウイルス様の粒子である中空粒子(例えばAAV中空粒子)も包含する。従って、AAVとは、ウイルスゲノムが内包されたウイルス粒子、及び中空粒子のいずれかをいう。中空粒子とはAAV中空粒子を含む。
本発明において、ウイルスベクターとは、上記ウイルス粒子を意味する場合と該ウイルス粒子に包含されているウイルスゲノム(核酸形状)を意味する場合の両方が含まれ、例えば、AAVの場合、組換えAV(rAAV)ベクターはrAAV粒子もしくはrAAV粒子内に存在するウイルスゲノムDNAのいずれかを意味する。
【0018】
1.1.(a)非エンベロープウイルスを含有する細胞と塩基性の溶液とを混合する工程
本工程で用いる非エンベロープウイルスを含有する細胞は、所望の非エンベロープウイルスをその内部に保持している細胞であれば特に限定はされないが、具体的には該非エンベロープウイルスを産生する能力を有する細胞(本明細書中、単にウイルス産生細胞とも称する)が挙げられる。環境中や、感染症の患者の臨床検体等から得られたウイルス産生細胞でもよく、人為的に作製したウイルス産生細胞でもよい。好ましくは、人為的に作製した遺伝子組換えウイルス産生細胞が使用され、例えば所望の非エンベロープウイルスの粒子形成に必須な要素を供給する核酸、及び非エンベロープウイルスの粒子に封入される核酸を任意の細胞に導入することにより作製した非エンベロープウイルス産生細胞や、所望の細胞に人為的に非エンベロープウイルス、及び/又は当該ウイルスを産生させるために必要なヘルパーウイルスを感染させたウイルス産生細胞が使用される。
【0019】
細胞は、所望のウイルスが増殖可能であれば特に制限はなく、ヒト、サル、げっ歯類等の哺乳動物細胞、好適にはトランスフェクション効率が高い293細胞や293T細胞、293F細胞、293FT細胞、G3T-hi細胞、Sf9細胞、市販のウイルス産生用細胞株、AAV293細胞等が挙げられる。また、例えば、前記293細胞等はアデノウイルスE1タンパク質を恒常的に発現するが、このような、rAAV産生に必要なタンパク質の1つ又はいくつかを一過的もしくは恒常的に発現するように改変した細胞であってもよい。これらの種々の細胞に対して、公知の方法や市販のキットを用いて非エンベロープウイルスを導入し、非エンベロープウイルス産生細胞とすることができる。また、当該細胞の培養は、公知の培養条件で行うことができる。例えば温度30~37℃、湿度95%RH、CO濃度5~10%(v/v)での培養が例示されるが、これらに限定されるものではない。所望の非エンベロープウイルス産生細胞の増殖や非エンベロープウイルスの産生が達成できるのであれば前記の範囲以外の温度、湿度、CO濃度で実施してもよい。また、培養期間は特に限定はなく、例えば12~150時間、好適には48~120時間である。非エンベロープウイルス産生細胞の培養に使用される培地としては、細胞の培養に必要な成分を含んでいればよく、例えば、DMEM、IMDM、DMEM:F-12等の基本合成培地、また必要に応じてこれらの基本合成培地にウシ胎児血清、成長因子類、ペプチド類を添加したり、アミノ酸類を増量したりしたものが挙げられる。
【0020】
本工程では、該ウイルス産生細胞と塩基性の溶液とを混合するが、本発明において「塩基性の溶液」とは、pH7.5~11、好ましくはpH8~10の溶液であればよく、例えばナトリウムイオンまたはカリウムイオンを含有する溶液である。本発明の塩基性の溶液とはpH7.5~11、好ましくはpH8~10の水酸化ナトリウム溶液や水酸化カリウム溶液等の塩基性溶液である。なお、最も好ましくはpH8.5の水酸化ナトリウム溶液または水酸化カリウム溶液である。
【0021】
ウイルス産生細胞と塩基性の溶液との混合は、ウイルス産生細胞と塩基性の溶液とを接触させることによって実施する。当該工程は、例えば、ウイルス産生細胞の培養後の培養液を塩基性の溶液と接触する操作で実施されてもよく、ウイルス産生細胞の培養後に遠心分離やろ過によって培養液を除去して回収された非エンベロープウイルス産生細胞のペレットを塩基性の溶液に懸濁する操作により実施されてもよい。塩基性の溶液と接触させる時点での非エンベロープウイルス産生細胞は、既にウイルス産生が達成された状態であり、塩基性の溶液と接触している間にはウイルスの産生や細胞の増殖は見られない。塩基性の溶液と接触している際の温度と時間は特に限定はなく、温度としては例えば0~40℃
、好ましくは4~37℃、より好ましくは室温、時間としては例えば1分~48時間、好適には5分~24時間、より好ましくは5分~0.5時間が例示される。更に塩基性の溶液と接触させた状態で、-80℃等の超低温フリーザーにおいて長期に保存することも可能である。この接触操作により非エンベロープウイルスは産生細胞外に放出される。本発明の方法は、従来法として一般的な機械的攪拌、超音波破砕、凍結融解等の物理的な細胞破砕方法を含んでもよいし、含まなくてもよい。
【0022】
1.2.(b)工程(a)で得られた混合物を酸性にする工程
本工程は、工程(a)を経て得られた混合物、即ち、細胞外に非エンベロープウイルスが放出されたウイルスの粗抽出液を酸性にする工程である。酸性にする手段としては、気体の酸をバブリングする方法、固体の酸を添加する方法等が挙げられるが、好ましくは、あらかじめ調製しておいた酸性の溶液を所望のpHになるように添加する方法が挙げられる。具体的には、工程(a)により得られた非エンベロープウイルスを含有する混合物を遠心分離やフィルターろ過して上清またはろ液を取得し、細胞やその残渣と非エンベロープウイルスを分離する。非エンベロープウイルスを含有する上清またはろ液に酸性の溶液を添加する。本発明に使用される酸としては、例えば、クエン酸、酢酸、リンゴ酸、リン酸、塩酸、硫酸、硝酸、乳酸、プロピオン酸、酪酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、酒石酸、安息香酸、スルホサリチル酸、ギ酸、またはそれらの塩、更に、MES、Bis-Tris等の緩衝域がpH6.5未満のグッドバッファーから選択される化合物が例示される。酸性の溶液としては、例えば、前記化合物を含有する溶液に加え、カチオンを含有する溶液が使用される。カチオンを含有する溶液としては、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、酢酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム等の溶液が挙げられる。当該酸性の溶液における前記化合物の濃度としては、好ましくは濃度5mM~1M、より好ましくは10~500mMが例示される。酸性の溶液の調製に用いる溶媒には特に限定はなく、水、緩衝液、細胞培養用培地等、適宜選択可能である。特に好適には、クエン酸、及びそれらの塩を含有する水溶液が使用される。前記の酸または酸性の溶液は、所望のpHになるように前記試料に添加される。当該所望の終濃度は、前記試料のpHが酸性になるような濃度であればよく、特に限定されない。また、当該酸性にした後の最終pHは、好ましくはpH6.5未満であり、さらに好ましくはpH2~6.5、より好ましくはpH4~5の範囲であり、最も好ましくはpH4.5である。上記範囲内であれば、上清又はろ液に含まれるホスト細胞由来の夾雑物(例、タンパク質、DNA)の除去を行うことができる。上記pHの範囲よりも溶液を塩基性にした場合、細胞由来の夾雑物は十分に除去できない場合があり、上記pH範囲より溶液を酸性にした場合、非エンベロープウイルスが失活する場合がある。本工程を実施する際の温度と時間は特に限定はなく、温度としては例えば0~40℃、好適には4~37℃、時間としては例えば1分~48時間、好適には5分~24時間が例示される。工程(a)を経て得られた塩基性の混合物を中和できれば、例えば酸性の溶液の添加直後に次の工程を実施してもよい。
【0023】
本発明では、本工程において、添加剤との接触を含まないことを特徴とする。従来の方法では、ホスト細胞に由来する夾雑タンパク質を除去する為に、酸性条件でのタンパク質の溶解度を低下させる物質や酸性条件下で沈殿する物質を添加することによって、ウイルスと夾雑タンパク質を分離する方法が実施されていたが、本発明ではそのような添加剤(例、界面活性剤)を使用することなく夾雑物を分離することができる。
【0024】
1.3.(c)非エンベロープウイルスを取得する工程
本工程は、工程(b)を経て得られた混合物から夾雑物を沈殿物として除去し非エンベロープウイルスを含む画分を取得する工程である。沈殿の除去はろ過や遠心分離のような公知の固液分離方法で実施すればよい。好適には遠心分離により実施される。本発明で得られた非エンベロープウイルスを含有する画分は、実施例で示されるように、高濃度で非
エンベロープウイルスを含み、且つ、ホスト由来の夾雑物の量が極めて低減されていることから、必ずしも精製する必要はないが、所望によりさらに精製する工程に付してもよい。また、当該精製工程により、非エンベロープウイルスが濃縮されてもよい。当該精製方法としては、超遠心、クロマトグラフィー、限外ろ過、その他公知の方法が例示される。
【0025】
前記限外ろ過とは、限外ろ過膜を使用するろ過のことである。限外ろ過膜は、物理的に明瞭な多数の微細な孔を有する分離膜である。限外ろ過膜の分画分子量は、非エンベロープウイルス精製の点及び夾雑物除去の点から、50~300kDaであることが好ましく、70~150kDaであることがより好ましく、100kDaであることがさらに好ましい。例えば、分画分子量が100kDaの限外ろ過膜Amicon(登録商標)Ultra-15(メルクミリポア社製、以下、100kDaの限外ろ過膜と記載する)によって実施することができる。このとき、非エンベロープウイルス粒子を含む画分にポリエチレングリコール(PEG)を添加することにより、非エンベロープウイルス粒子の回収率を改善することができる。添加するPEGには特に限定はなく、種々の平均分子量のものを使用することができる。例えば平均分子量200~10,000のPEG、好ましくは平均分子量4,000~8,000のPEGが本発明では使用される。さらに好ましくは、平均分子量6,000のPEGが使用できる。
【0026】
また、前記クロマトグラフィーによる非エンベロープウイルス粒子の精製は、イオン交換カラム(例えば、ムスタングQ(pall社製))やアフィニティカラム(例えば、AVB Sepharose(登録商標)(Cytiva社製)やヘパリンカラム等)、ハイドロキシルアパタイトカラム等によって実施することができる。
【0027】
2.夾雑DNA含量を低減する方法
本発明は、非エンベロープウイルスを含有する細胞と塩基性の溶液とを混合してなる混合物において、該混合物を酸性にすることを特徴とする、該混合物中の夾雑DNA含量を低減する方法を提供する。
各用語の定義は上記「1.非エンベロープウイルスの製造方法」の項における記載と同
義である。
非エンベロープウイルスを含有する細胞と塩基性の溶液とを混合することによって得られた混合物、即ち、細胞外に非エンベロープウイルスが放出されたウイルスの粗抽出液にはホスト細胞由来の夾雑物(例、タンパク質、DNA)が含まれる。本発明では塩基性の溶液との混合によりアルカリ性となった該粗抽出液を酸性にすること、即ち中和することによって、界面活性剤等の他の添加剤を用いることなく、首尾よく夾雑物とウイルスを分離することが可能となり、非エンベロープウイルスの粗細胞抽出液における夾雑物含量を低減することができる。実施例で示されるように、特に、本発明では夾雑DNA含量が顕著に低減されている。
【0028】
3.非エンベロープウイルスを単離精製する為のキット
本発明は、非エンベロープウイルスを含有する細胞から非エンベロープウイルスを単離精製する為のキットを提供する。
本発明のキットは、上記「1.非エンベロープウイルスの製造方法」や「2.夾雑DN
A含量を低減する方法」を実施するためのキットでもあり、第1試薬として塩基性の溶液、第2試薬として酸性の溶液を含む。ここで、各試薬は、第1試薬、第2試薬の順で使用する。
第1試薬は、「1.非エンベロープウイルスの製造方法」では工程(a)で使用する試
薬であり塩基性の溶液を含む。「塩基性の溶液」としては、上記「1.非エンベロープウ
イルスの製造方法」の項で例示したものと同様のものが挙げられる。第1試薬は、「2.夾雑DNA含量を低減する方法」では、非エンベロープウイルスを含有する細胞と混合して混合物、即ちウイルスの粗細胞抽出液を調製する際に使用する塩基性の溶液として使用
することができる。従って、本発明のキットにおいては第1試薬を抽出(溶出)液とも称する。
第2試薬は、「1.非エンベロープウイルスの製造方法」では工程(b)で使用する試
薬であり酸性の溶液を含む。「酸性の溶液」としては、上記「1.非エンベロープウイル
スの製造方法」の項で例示したものと同様のものが挙げられる。第2試薬は、「2.夾雑DNA含量を低減する方法」では、アルカリ性のウイルスの粗細胞抽出液を中和して酸性にする際に使用する酸性の溶液として使用することができる。従って、本発明のキットにおいては第2試薬を中和溶液バッファーとも称する。
本発明のキットには、上記第1試薬および第2試薬に加えて、非エンベロープウイルス粒子の形成に必須な要素を供給する核酸を含むプラスミド、非エンベロープウイルス粒子に封入される核酸を含むプラスミド等を含めてもよい。
【0029】
本発明により、非エンベロープウイルスの製造方法の他、当該製造方法に使用されるキット、及び当該製造方法で製造した非エンベロープウイルス粒子も提供される。本発明の製造方法を用いて取得した非エンベロープウイルス(粒子)、ベクターは、医薬組成物の有効成分として使用することができる。当該医薬組成物は、患者由来の細胞に体外で使用するか、もしくは患者へ直接投与することができる。
【0030】
以下に実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明は何ら限定されるものではない。使用する試薬及び材料は特に限定されない限り商業的に入手可能であるか、既知文献等によって調製可能である。また、同様の効果、作用を有するものであれば代替可能であることを当業者は理解している。
【実施例0031】
〔実施例1〕AAV2の発現
(1)AAV2生産用細胞の播種
細胞培養用T75フラスコ(コーニング社)に、10% FBS(ギブコ社)を含むDMEM(シグマ社)に懸濁したHEK293T細胞(タカラバイオ社、AAVpro 293T Cell Line)を播種した。その後、37℃のCO2インキュベーターで培養を続け、およそ70-80%コンフルエントになっていることを確認した。
【0032】
(2)AAV2生産用細胞の継代
フラスコ内の培養培地を除き、10mLのD-PBS(富士フィルム和光純薬工業社)を加え、
フラスコ全体にD-PBSを行き渡らせた後、上清を除去した。TrypLE(ギブコ社)を2mL添加し、37℃で2分インキュベートした後、顕微鏡で細胞がしっかり剥がれていることを確認した。8mLの新鮮培地を加え、穏やかに攪拌した。細胞懸濁液は15mLのファルコンチューブに分注した。遠心分離(200 x g, 5分, 18℃)の後、上清は廃棄した。細胞ペレットをほぐすため、ファルコンチューブを振動させた。新鮮培地で細胞ペレットを懸濁し、セルカウンターで細胞数を計測した。細胞密度が4,000cells/cm2あるいは8,000cells/cm2となるようにT75フラスコあるいはT225フラスコに播種した。37℃、5%CO2で4,000cells/mlで播種した場合は4日間または8,000cells/mLで播種した場合は3日間、それぞれインキュベートした。およそ80%コンフルエントになったことを確認し、フラスコ内の培養培地を抜き、D-PBSを加え、全体に行き渡らせた後、上清を除去した。TrpLEを添加し、37℃で2分インキュベートした後、顕微鏡で細胞がしっかり剥がれていることを確認した。新鮮培地を加え、穏やかに攪拌した。細胞懸濁液を50mLのファルコンチューブに分注した。遠心分離(200 x g, 5分, 18℃)の後、上清は廃棄した。細胞ペレットをほぐすため、チューブを振動させた。新鮮培地で細胞ペレットを懸濁し、セルカウンターで細胞数を計測した。細胞密度が3.0x106cells/cm2となるようにT225フラスコに播種した。37℃、5% CO2で3日間インキュベートした。およそ80%コンフルエントになったことを確認した。
【0033】
(3)AAV2生産用プラスミドのトランスフェクション
前記(2)で調製した細胞に、PEIpro(Polyplus-transfection社)を用いて、AAV2のRepタ
ンパク質(配列番号1)及びCapタンパク質(配列番号2)をコードするプラスミ(タカラ
バイオ社製, pRC2-mi342 Vector, 図1)と、アデノウイルスのE2A配列(配列番号3)、VA配列(配列番号4)、E4配列(配列番号5)を含むプラスミド(タカラバイオ社製, pHelpler Vector, 図2)、並びにAAV2の2つのITRの間に蛍光タンパク質GFPの発現カセットを含むプラスミド(CELL BIOLABS社, pAAV-GFP, 図3)、をトランスフェクションした。トランスフェクション後おおよそ24時間後、培地を完全に除去し、2% FBSを含むDMEMを45mL、T225フラスコにゆっくりと加え、全体に培地を行き渡らせた後、37℃、5% CO2のインキュベーターで2日間培養した。
【0034】
〔実施例2〕AAV2生産細胞の細胞ペレットの回収
実施例1(3)の培養終了後、培養液に0.5M EDTA(pH 8.0)を562.5μL(1/80容量)添加し、
よく混合した。室温で10分間反応後、T225フラスコを叩いて細胞を剥離させた。剥離した細胞は溶液のまま回収し、遠心分離(1,800 x g, 10分, 4℃)した。遠心後の上清は取り除き、細胞ペレットを得た。
【0035】
〔実施例3〕AAV2生産細胞の細胞抽出液の回収
前記実施例2の細胞ペレット(2.1E+07cells)に、溶出液(20mM Glycine-NaOH, 250mM NaCl, pH8.5)を200μL添加し、ボルテックスで15秒間細胞を懸濁した。室温で5分間静置後、さらに15秒間ボルテックスして細胞を懸濁した。細胞懸濁液は遠心分離(9,000 x g, 10分, 4℃)した。さらにボルテックスで15秒間細胞を懸濁した。室温で5分間静置後さらに15秒間ボルテックスして細胞を懸濁した。遠心分離(9,000 x g, 10分, 4℃)後、上清を回収し、そこに20μLの酸性中和溶液 (500mM クエン酸バッファー, pH4.5)を添加しよく混ぜたのち、遠心分離(14,000 x g, 1分, 4℃)後の上清を細胞抽出液とした。酸性中和溶液を加えない場合は、酸性中和溶液の代わりに20μLの溶出液を添加しよく混ぜたのち、遠心分離(14,000 x g, 1分, 4℃)後の上清を細胞抽出液とした。コントロールとして、AAVpro(登録商標)Extraction Solution (タカラバイオ社) を用いた。このAAVpro(登録商標)Extraction Solutionはキットであり、内容としてAAV Extraction Solution A (pH4.9)とAAV Extraction Solution B (pH9.4)を含むものである。このとき、溶出液の代わりにAAV Extraction Solution A (pH4.9) を、 酸性中和溶液の代わりにAAV Extraction Solution B (pH9.4) を使用し、その他は上記と同じ方法で細胞抽出液を得た。細胞抽出液は、pHメーター (S2K712, ISFETCOM JAPAN) でpHを測定した。
【0036】
〔実施例4〕qPCRによる定量(宿主細胞由来DNA)
(1)検量線用スタンダード溶液の調製
一般的な培養方法で培養した遺伝子非導入HEK293T細胞は、前記実施例2の方法で細胞
ペレットを得た。この細胞ペレット(5.91E+06 cells)は200μLのD-PBS(-)で懸濁したのち、20μLのProteinase K (69504, QIAGEN社)を加えた。4μLのRNaseA (69504, QIAGEN社)を添加しボルテックスで混和後、室温で2分間インキュベートした。200μLのBuffer AL (69504, QIAGEN社) を加え、ボルテックスで完全に混和後、56℃で10分間インキュベートした。200μLのエタノールを添加し、ボルテックスで十分に混和した。この混和液をDNeasy Mini Spin Column (QIAGEN社) にアプライし、遠心分離(8,000 x g, 2分)した。ろ液は廃棄した。DNeasy Mini Spin Columnに500μLのBuffer AW1を添加し、遠心分離(8,000 x g, 1分)した。ろ液は廃棄した。DNeasy Mini Spin Columnに500μLのBuffer AW2を添加し、遠心分離(20,000 x g, 3分)した。ろ液は廃棄した。DNeasy Mini Spin Columnに200μLのBuffer AEを直接添加し、室温で1分間インキュベートしたのち、遠心分離(10,000 x g, 1分)し、200μLのDNA溶出液を得た。さらに、DNeasy Mini Spin Columnに200μLのBuffer AEを直接添加し、室温で1分間インキュベートしたのち、遠心分離(10,000 x g, 1分)し、先ほどの200μLのDNA溶出液と合わせて、400μLのDNA溶出液を得た。吸光光度計NanoDrop 2000 (Thermo Fisher Scientific社) を使ってDNA溶出液の濃度を求めた [DNA濃度 (ng/μL) = Abs260 x 50]。これをqPCRの検量線用のスタンダード溶液とした。
【0037】
(2)宿主細胞由来DNAの定量
前記実施例3の細胞抽出液80μLと120μLのD-PBS(-)、20μLのProteinase K (69504, QIAGEN社)、4μLのRNaseA (69504, QIAGEN社)をボルテックスで混和後、室温で2分間インキュベートした。200μLのBuffer AL (69504, QIAGEN社) を加えた。ボルテックスで完全に混和後、56℃で10分間インキュベートした。200μLのエタノールを添加し、ボルテックスで十分に混和した。この混和液をDNeasy Mini Spin Column (QIAGEN社) にアプライし、
遠心分離(10,000 x g, 1分)した。ろ液は廃棄した。DNeasy Mini Spin Columnに500μLのBuffer AW1を添加し、遠心分離(10,000 x g, 1分)した。ろ液は廃棄した。DNeasy Mini Spin Columnに500μLのBuffer AW2を添加し、遠心分離(20,000 x g, 3分)した。ろ液は廃
棄した。DNeasy Mini Spin Columnに200μLのBuffer AEを直接添加し、室温で1分間イン
キュベートしたのち、遠心分離(10,000 x g, 1分)し、DNA溶出液を得た。さらに、DNeasy
Mini Spin Columnに200μLのBuffer AEを直接添加し、室温で1分間インキュベートした
のち、遠心分離(10,000 x g, 1分)し、先ほどの200μLのDNA溶出液と合わせて、400μLのDNA溶出液を得た。
上記で得られたDNA溶出液の原液は、x1サンプルとし、蒸留水でx10サンプル(10倍希釈)とx100サンプル(100倍希釈)にそれぞれ調製した。前記実施例4のスタンダード溶液は、DNA濃度を3,000pg/μL, 1,000pg/μL, 300pg/μL, 100pg/μL, 30pg/μL, 10pg/μL, 3pg/
μL, 1pg/μLとなるように蒸留水で段階希釈した。96ウェルPCRプレート (401333, Agilent Technologies社)のウェル当たりに8.2μLの蒸留水と10μLのTHUNDERBIRD SYBR qPCR Mix +0.1x ROX_1/500量 (QPS-201, TOYOBO社) 、0.4μLのforward primer (5μM)、0.4μLのreverse primer (5μM)、1μLのサンプル溶液 (x1サンプル, x10サンプル, あるいは x100サンプル) を混合した。検量線用スタンダード溶液は、1μLのサンプル溶液の代わり
に1μLのスタンダード溶液(1pg/μL~3,000pg/μL) を加えた。リアルタイム定量PCR装置
(Stratagene Mx3000P, Agilent Technologies社) にプレートをセットしPCRを行った。PCRの条件を表1に示す。Forward primerとreverse primerの配列は表2に示す。グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ (GAPDH) の配列を認識する2種のプライマーセッ
トと、β-アクチン (ACTB) の配列を認識する2種のプライマーセットの計4セットでqPCR
を実施した。その結果を表3に示す。この結果より、アルカリ性の溶出液で宿主細胞から抽出したAAV2含有溶出液を酸性中和溶液と混合し酸性にすることで、宿主細胞由来DNA混
入量を2908.54pg/μL (Sample No.2) から6.77pg/μL (Sample No.1) に減少できること
が分かった。さらにこの本方法により、宿主細胞由来DNAの混入量について、既存の方法 (Sample No.3) に比べ、1/100程度の混入量にできることが分かった。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【0041】
宿主細胞由来DNA混入量はDNA溶液x1サンプル、x10サンプル、x100サンプルのqPCRの平
均値を取って算出した。Sample No.1はGAPDH1で定量限界以下 (n.d.)であった。GAPDH2とACTB1、ACTB2はDNA溶液x1サンプルのみ定量できたため、その値を示した。pHはそれぞれ5.0 (No.1)、7.6 (No.2)、8.8 (No.3) であった。
Sample No.1 : (溶出液:20mM Glycine-NaOH, 250mM NaCl, pH8.5、中和溶液:500mM ク
エン酸バッファー, pH4.5)、Sample No.2 : (溶出液:20mM Glycine-NaOH, 250mM NaCl, pH8.5、中和溶液:なし)、Sample No.3 : (溶出液:Extraction Solution A、中和溶液:Extraction Solution B)
相対値はSample No.3の宿主細胞由来DNAを1とし計算した。
(*): GAPDH2とACTB1、ACTB2の定量結果の平均値で算出した。
【0042】
〔実施例5〕宿主細胞由来タンパク質の定量
前記実施例3の細胞抽出液10μLを蒸留水30μLと混合し40μLとした。これを10μLずつ96ウェルプレートに分注した。2mg/mL Albumin Standard (23209, Thermo Fisher Scientific社) を検量線用試料とし、1,000μg/ml, 750μg/ml, 500μg/ml, 250μg/ml, 125μg/ml, 62.5μg/ml, 12.5μg/ml, 0μg/mlとなるように蒸留水で溶かした。これらを10μLずつ96ウェルプレートに分注した。Protein Assay Reagent (Pierce 660nm Protein Assay kit)を96ウェルプレートの各ウェルに150μl加えた。プレートシールをしてプレートシェーカー (1,000r/min, DeepWell Maximizer Bio Shaker M・BR-022UP, TAITEC) で1分間振とうさせた。5分間室温で静置したのち、プレートリーダー (Cytation5, BioTek社)で660nmの吸光度を測定した。細胞抽出液試料はn2での平均値、検量線用試料はn3での平均値を用いた。その結果を表4に示す。この結果より、アルカリ性の溶出液で宿主細胞から抽出したAAV2含有溶出液を酸性中和溶液と混合し酸性にすることで、宿主細胞由来タンパク質量を2877.7μg/mL (Sample No.2) から924pg/μL (Sample No.1) に減少できることが分
かった。さらにこの方法により、細胞抽出液中の宿主由来タンパク質量について、既存の方法 (Sample No.3) と同程度の濃度にできることが分かった。
【0043】
【表4】
【0044】
Sample No.1 : (溶出液:20mM Glycine-NaOH, 250mM NaCl, pH8.5、中和溶液:500mM ク
エン酸バッファー, pH4.5)、Sample No.2 : (溶出液:20mM Glycine-NaOH, 250mM NaCl, pH8.5、中和溶液:なし)、Sample No.3 : (溶出液:Extraction Solution A、中和溶液:Extraction Solution B)
相対値はSample No.3のタンパク質濃度を1とし計算した。
【0045】
〔実施例6〕qPCRによる定量 (AAV2抽出量)
(1)検量線用スタンダード溶液の調製
20μLのpAAV-GFP (図3) と50μLのNEBuffer3.1 (B7203S, New England BioLabs社)、420μLの蒸留水を混合したのち、その混合液に10μLのPvuI (R0655S, New England BioLabs社) を添加し、ピペッティングで混和した。500μLの反応液は、37℃、60分反応させた
。酵素反応終了後、pAAV-GFPが一本鎖になっていることをアガロースゲル電気泳動で確認した。酵素反応液は、QIAquick Gel Extraction Kit (28706, QIAGEN社) の定法に従って、一本鎖DNAを精製した。吸光光度計NanoDrop 2000 (Thermo Fisher Scientific社) を使って一本鎖DNAの濃度を求めた [DNA濃度 (ng/μL) = Abs260 x 50]。これを、AAV2抽出量のqPCR検量線用のスタンダード溶液とした。
【0046】
(2)qPCRによるAAV2抽出量の定量
12μLの蒸留水に2μLの実施例3で得られた細胞抽出液、2μLの10x DNase I Buffer (6233-4, タカラバイオ社)および4μLのDNase I (6223-3, タカラバイオ社)、を混合したの
ち、37℃、30分反応させた。95℃、10分で熱処理してDNase Iを失活させた。その反応液
に2μLのProteinase K (69504, QIAGEN社) と20μLのBuffer AL (エタノール未添加) (69504, QIAGEN社) を添加後、ボルテックスした。56℃、10分間インキュベートした。20μLエタノールを添加し、ボルテックスで十分に混和した。この混和液をDNeasy Mini Spin Column (QIAGEN社) にアプライし、遠心分離(10,000 x g, 1分)した。ろ液は廃棄した。DNeasy Mini Spin Columnに500μL Buffer AW1を添加し、遠心分離(10,000 x g, 1分)した
。ろ液は廃棄した。DNeasy Mini Spin Columnに500μL Buffer AW2を添加し、遠心分離(20,000 x g, 3分)した。ろ液は廃棄した。DNeasy Mini Spin Columnに20μL Buffer AEをDNeasy Mini Spin Columnに直接添加し、室温で1分間インキュベートしたのち、遠心分離(10,000 x g, 1分)し、AAV2ゲノム溶出液を得た。さらに、DNeasy Mini Spin Columnに20
μL Buffer AEを直接添加し、室温で1分間インキュベートしたのち、遠心分離(10,000 x g, 1分)し、先ほどの20μLのAAV2ゲノム溶出液と合わせて、40μLのAAV2ゲノム溶出液を
得た。2μLのAAV2ゲノム溶出液に38μLのEASY Dilution (6233-13, タカラバイオ社) を
加えて、x20 AAV2ゲノム溶出液を調製した。8μLのx20 AAV2ゲノム溶出液に32μLのEASY Dilution を加えて、x100のAAV2ゲノム溶出液を、10μLのx100 AAV2ゲノム溶出液に40μLのEASY Dilution を加えて、x500のAAV2ゲノム溶出液を、10μLのx500 AAV2ゲノム溶出液に40μLのEASY Dilution を加えて、x2,500のAAV2ゲノム溶出液をそれぞれ調製した。96
ウェルPCRプレート (401333, Agilent Technologies社)のウェル当たりに5.2μLの蒸留水と0.4μLのforward primer (5μM)、0.4μLのReverse primer (5μM)、10μLのThunderbird (+0.1x ROX)、4μLのAAV2ゲノム抽出液 (x100のAAV2ゲノム溶出液、x500のAAV2ゲノム
溶出液、あるいはx2,500のAAV2ゲノム溶出液) を混合した。検量線用スタンダード溶液は、4μLのAAV2ゲノム抽出液の代わりに4μLのスタンダード溶液(2.0E+02 copies/μL ~ 2.0E+07 copies/μL) を加えた。リアルタイム定量PCR装置 (Stratagene Mx3000P、Agilent Technologies社) にプレートをセットし、PCRを行った。PCRの条件を表5に示す。Forward primerとreverse primerは、CMVプロモーター上の任意の配列を選んだ。qPCRの結果
を表6に示す。この結果より、アルカリ性の溶出液で宿主細胞から抽出したAAV2含有溶出液を酸性中和溶液と混合し酸性にしても、細胞抽出液中のAAV2含量は減少しないことが分かった (Sample No.1、No.2)。さらに本方法により、既存の方法 (Sample No.3) に比べ
、AAV2の抽出量は3割程度向上することが分かった。
【0047】
【表5】
【0048】
【表6】
【0049】
AAV2ゲノム抽出液濃度 (vg/μL) は、x100 AAV2ゲノム溶出液とx500 AAV2ゲノム溶出液、x2,500 AAV2ゲノム溶出液をn1で測定し、その平均値をとった。スタンダード溶液は、
各濃度をn3で測定し、その平均値をとった。Sample No.1 : (溶出液:20mM Glycine-NaOH, 250mM NaCl, pH8.5、中和溶液:500mM クエン酸バッファー, pH4.5)、Sample No.2 : (溶出液:20mM Glycine-NaOH, 250mM NaCl, pH8.5、中和溶液:なし)、Sample No.3 : (溶出液:Extraction Solution A、中和溶液:Extraction Solution B)
【0050】
〔実施例7〕細胞抽出液のpHの影響
前記実施例3の溶出液 (4.76E+05 cells/μL) に、50mMクエン酸バッファー, pH4.5あるいは500mMクエン酸バッファー, pH4.5を(0μL~20μL) 加えた。遠心分離(14,000 x g, 1分, 4℃) 後、上清を回収し細胞抽出液とした。細胞抽出液は、pHメーター (S2K712, ISFETCOM JAPAN) でpHを測定した。前記細胞抽出液は、前記実施例4, 5, 6記載の方法で、宿主細胞由来DNA混入量 (表7)と宿主由来タンパク質分析結果 (表8)を示す。この結果よ
り、アルカリ性の溶出液で宿主細胞から抽出したAAV2含有溶出液を酸性中和溶液と混合し酸性にした場合、細胞抽出液が酸性であるほど宿主細胞由来タンパク質量は減少する傾向にあることがわかった。
【0051】
【表7】
【0052】
中和溶液はそれぞれSample No.1(500mM クエン酸バッファー, pH4.5, 20μL)、Sample No.2 (50mM クエン酸バッファー, pH4.5, 18μL) 、Sample No.3 (50mM クエン酸バッファ
ー, pH4.5, 6μL) 、Sample No.4 (50mM クエン酸バッファー, pH4.5, 4μL) 、Sample No.5 (添加なし)
【0053】
【表8】
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明で得られたウイルス産生細胞の細胞抽出液は、従来の方法に比べてより非エンベロープウイルス抽出量が高く、夾雑DNA含量が顕著に少ない。従って、本発明の方法により製造された非エンベロープウイルスや当該非エンベロープウイルスを有効成分とする組成物は、遺伝子治療の基礎研究または臨床応用の分野においける遺伝子導入方法として非常に有用である。
図1
図2
図3
【配列表】
2022032850000001.app