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特開2022-34040銅合金材料、電気電子部品、電子機器、及び銅合金材料の製造方法
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  • 特開-銅合金材料、電気電子部品、電子機器、及び銅合金材料の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022034040
(43)【公開日】2022-03-02
(54)【発明の名称】銅合金材料、電気電子部品、電子機器、及び銅合金材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/02 20060101AFI20220222BHJP
   C22F 1/08 20060101ALI20220222BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20220222BHJP
【FI】
C22C9/02
C22F1/08 B
C22F1/08 J
C22F1/00 622
C22F1/00 623
C22F1/00 630A
C22F1/00 630F
C22F1/00 630K
C22F1/00 661A
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021211420
(22)【出願日】2021-12-24
(62)【分割の表示】P 2019059099の分割
【原出願日】2019-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】長野 真之
(57)【要約】
【課題】抜き加工時に金属粉の発生を抑制すること。
【解決手段】Snを0.01~0.3質量%含有し、
残部が銅及び不可避的不純物からなる銅合金材料であり、
前記銅合金材料は、条又は板であり、
伸びが11%以下であり、
引張強さと伸びとの積が3700(MPa・%)以上である、
銅合金材料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Snを0.01~0.30質量%含有し、
残部が銅及び不可避的不純物からなる銅合金材料であり、
前記銅合金材料は、条又は板であり、
伸びが11%以下であり、
引張強さと伸びとの積が3700(MPa・%)以上である、
銅合金材料。
【請求項2】
請求項1に記載の銅合金材料を備える電気電子部品。
【請求項3】
請求項2の電気電子部品を備える電子機器。
【請求項4】
請求項1に記載の銅合金材料を製造する方法であって、
仕上げ冷間圧延の後に歪取焼鈍を行う工程を含み、
前記歪取焼鈍が、最大ばね限界値に対応する温度又は時間よりも高温又は長時間、且つばね限界値低下率10~25%となる条件で焼鈍を行うことを含む、
該方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅合金材料、電気電子部品、電子機器、及び銅合金材料の製造方法
に関する。より具体的には、Snを含む銅合金材料、電気電子部品、電子機器、及び銅合金材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅合金の板及び条は、主要な方法としてプレス加工により所定の形状に加工され電気電子部品に組み込まれる。プレス加工には、抜き加工、曲げ加工、絞り加工等があり、このうち抜き加工はすべてのプレス加工の一部に含まれる加工である。
【0003】
抜き加工を行う過程で金属粉が生じる。特許文献1では、金属粉の発生を有効に抑制することのできる抜き加工方法が開示されている。より具体的には、特許文献1では、複数段階での抜き加工(前段打抜き加工、後段打ち抜き加工)を行うこと、そして、前段打抜き加工後、後段打ち抜き加工前にスエージ加工を施すことが開示されている。
【0004】
また、特許文献2では、プレス打ち抜き加工性を改善したCu-Zn-Sn-Ca系合金が開示されている。より具体的には、特許文献2には、MgOやMgSの化合物粒子を生成してプレス打ち抜き加工後のバリを小さくすることが開示されている。
【0005】
また、特許文献3では、プレス打ち抜き加工性を改善したCu-Sn系合金が開示されている。より具体的には、せん断試験における変位―荷重曲線から求められる半価幅の、板厚に対する比(r)が0.2≦r≦0.7である銅合金板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-163904号公報
【特許文献2】特開2013-185221号公報
【特許文献3】特開2016-191088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
銅合金の板及び条に対して抜き加工を行うと金属粉が発生する。この金属粉の存在は、加工の工程において金型摩耗、打痕等の原因となる。また、抜き加工後の処理、加工等において、有害な異物となる可能性もある。例えば、プレス成型品と樹脂製の部材とを結合した物品を得る際、樹脂の内部に金属粉が異物として混入し、樹脂又は結合した物品の品質を低下させる場合がある。
【0008】
発生した金属粉は、プレス成型品を洗浄することにより除去することが可能な場合もある。しかし、仮に洗浄したとしも、意図せずに残存し不具合をもたらす場合もある。そこで、本発明は、抜き加工時に金属粉の発生しにくい銅合金材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
金属粉の発生は、プレス加工のなかでも特に抜き加工において顕著となる。抜き加工とは、銅合金等の板及び条から、必要な形状と不要な部分とを分離する加工である。必要な形状と不要な部分との境界において、せん断により板及び条が破断する。そして、板及び条の破断において、金属粉が発生する。
【0010】
金属粉が発生する態様の一つとして、バリの発生が挙げられ、これは、抜き加工において板及び条がせん断され、そして、破断する際に生じる。バリとは、板及び条の破断部の輪郭が有する凹凸である。この凹凸で尖った箇所から微小な部分が脱落し金属粉となる。一般に、抜き加工において生じるバリは、プレス品の品質において有害であるため、バリを抑制するためにプレス条件が設定される。
【0011】
銅合金等の板及び条の延性が低いと、バリは発生しにくい。この理由として、延性が低いと、抜き加工によるせん断において生じる塑性変形が小さく、これにより破断部の輪郭が有する凹凸も小さくなるためである。結果として、金属粉の発生が抑制される。従って、金属粉の発生を抑制するには、銅合金等の板及び条の延性を低くする設計をすればよい。例えば、延性を示す指標として伸びに着目し、伸びを低くする銅合金等の板および条を設計すればよい。
【0012】
しかし、本発明者が鋭意検討を行ったところ、更なる問題点を見出した。具体的には、延性が低いと、これが原因となって、かえって微小な部分が脱落しやすくなり、金属粉が発生しやすくなる傾向が見られた。
【0013】
すなわち、延性が高いとバリに起因する金属粉が発生する。一方で、延性が低いとバリに起因する金属粉は原理的に抑制されるものの、延性の低さに起因する金属粉の発生が促進される。
【0014】
そこで、銅合金等の板及び条の延性を適正な範囲に調整することにより、はじめて金属粉の発生を最小限に抑制することができることを見出した。
【0015】
本発明は、上記知見に基づいて完成され、一側面において、以下の発明を包含する。
(発明1)
Snを0.01~0.30質量%含有し、
残部が銅及び不可避的不純物からなる銅合金材料であり、
前記銅合金材料は、条又は板であり、
伸びが11%以下であり、
引張強さと伸びとの積が3700(MPa・%)以上である、
銅合金材料。
(発明2)
発明1の銅合金材料であって、下記の元素のうち少なくとも1種を、下記の上限値を超えない量で更に含有する、銅合金材料:
Pb:0.03質量%以下
Fe:0.02質量%以下
Zn:0.10質量%以下
P:0.020質量%以下
(発明3)
発明1又は2に記載の銅合金材料を備える電気電子部品。
(発明4)
発明3の電気電子部品を備える電子機器。
(発明5)
発明1又は2に記載の銅合金材料を製造する方法であって、
仕上げ冷間圧延の後に歪取焼鈍を行う工程を含み、
前記歪取焼鈍が、最大ばね限界値に対応する温度又は時間よりも高温又は長時間、且つばね限界値低下率10~25%となる条件で焼鈍を行うことを含む、
該方法。
【発明の効果】
【0016】
一側面において、本発明の銅合金材料は、伸びが11%以下であり、引張強さと伸びとの積が3700(MPa・%)以上である。これにより、バリの発生に起因する金属粉の発生と、低すぎる延性に起因する金属粉の発生とを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】最大ばね限界値及びばね限界値低下率に関する説明図である。縦軸はばね限界値を示し、横軸は温度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための具体的な実施形態について説明する。以下の説明は、本発明の理解を促進するためのものである。即ち、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0019】
1.銅合金材料
一実施形態において、本発明は銅合金材料に関する。
【0020】
1-1.形状
一実施形態において、本発明の銅合金材料は、条又は板である。通常、条及び板は以下の様に定義される。
「条」(strip、ribbon)とは、「0.1mm以上の均一な肉厚で、長方形断面をもち、スリットされたコイル形状で供給される圧延製品」をさす。
「板」(sheet、plate)とは、「0.1mm以上の均一な肉厚で、長方形断面をもち、シャー又はのこ(鋸)切断された平板で供給される圧延製品」をさす。
しかし、本明細書における条又は板は、上記定義内容のうち、「0.1mm以上」の部分を「0.05mm以上」に置き換えた内容で定義される物を指す。
【0021】
また、好ましい一実施形態において、本発明の銅合金材料の厚さは、0.05~2.0mmである。0.05mm未満であると、電気電子部品用として強度が不十分な場合がある。2.0mm超であると、電気電子部品の小型化および高精細化に対応できない場合がある。
【0022】
1-2.組成
一実施形態において、本発明の銅合金材料のSn濃度が0.01~0.30質量%である。Sn濃度が高いと導電率が低下し、特に、Sn濃度が0.30質量%を超えると導電率が70%を下回る場合がある。一方、Sn濃度が高いと0.2%耐力および引張強さが高くなる。Sn濃度の調整は、製品の引張強さを調整する手段のひとつである。好ましくは、Sn濃度が0.10~0.20質量%である。さらに好ましくは0.10~0.15質量%である。残部は、Cuおよび不可避的不純物である。
【0023】
一実施形態において、本発明の銅合金材料は、上記Sn及びCuの他に、少なくとも下記のいずれか1種の元素を、下記の量だけ、更に含有してもよい:
Pb:0~0.03質量%
Fe:0~0.02質量%
Zn:0~0.10質量%
P:0~0.020質量%(好ましくは、0.001質量%以上)
【0024】
一実施形態において、本発明の銅合金は、JISH3100(2018年)に規定される、合金番号がC1441の「すず入り銅」を含む。C1441の合金成分は、Snが0.10~0.20質量%であり、上述した範囲内である。更には、C1441の合金成分は、Pbが0.03質量%以下、Feが0.02質量%以下、Znが0.10質量%以下、Pが0.001~0.020質量%、残部がCuである。ただし、Pb、Fe、Zn、および、Pは、本発明が解決しようとする金属粉に係わる課題および解決手段に影響はないものの、導電性を損なう場合がある。Pb、Fe、Zn、および、Pは、導電性を損なわない範囲で許容するものとする。
【0025】
1-3.導電率
一実施形態において、本発明の銅合金材料の導電率は、70%IACS以上である。導電率が70%IACS以上であれば、電気電子部品に使用したとき、優れた導電性が発現する。好ましくは74%IACS以上、より好ましくは78%IACS以上である。
【0026】
導電率は、長手方向が圧延方向と平行な方向に採取した試験片に対して、20℃で、四端子法により測定する。測定方法は、JISH0505(1975年)「非鉄金属材料の体積抵抗率及び導電率測定方法」に準拠する。
【0027】
1-4.引張強さ(TS)
一実施形態において、本発明の銅合金材料の引張強さは、425MPa~580MPaである。引張強さが425MPa未満であると、電気電子部品に使用したとき、十分な強度が発揮されない。引張強さが580MPaを超えると、曲げ加工性が劣化する。好ましくは460MPa以上、及び/又は540MPa以下である。
【0028】
1-5.伸び(EL)
一実施形態において、本発明の銅合金材料の伸び率の上限は、11.0(%)である。一方で、下限値については、以下の様に規定される。
伸び(%)≧3700/引張強さ(MPa)
【0029】
伸びが下限を下回るものは、引張強さに対し伸びが相対的に低い。そのため、延性が劣り、抜き加工において金属粉が発生しやすい。一方で、伸びが上限を上回るものは、抜き加工によるプレス加工においてバリが発生しやすい。バリが発生しやすいと金属粉も発生しやすくなる。
【0030】
ここで、伸びの下限は、一定の値が定まらず、引張強さと関連付けて規定する。具体的には、次式のように引張強さと伸びとの積により規定する。
・引張強さ(MPa)×伸び(%)≧3700
【0031】
上記の式において、引張強さが高く、かつ、伸びが高いものは、金属粉が発生しにくい。金属粉が発生しにくいのは、引張強さが高く、かつ、延性が高いと、プレス加工において破断部の輪郭から微小部分が脱落しにくいからである。
【0032】
また、上記の式において、引張強さと伸びとの積の好ましい下限は3700(MPa・%)である。引張強さと伸びとの積が3700(MPa・%)を下回ると、強度および延性の低下により、金属粉が発生しやすくなる。上限値は特に規定されないが、典型的には6000(MPa・%)以下である。
【0033】
引張強さ及び伸びは、引張試験により測定する。引張試験は、JISZ2241(2011年)による。試験片は、圧延方向と平行な方向に採取し、JISZ2241に規定される5号試験片または13B号試験片を用い、評点距離を50mmとする。
【0034】
試験片が規定の寸法どおりに採取できない場合は、幅が5mm以上25mm以下、長さが150mm以上250mm以下である長方形の板を作製し試験片としてよい。または、幅の製品規格が5mm以上25mm以下である板又は条については、板又は条から150mm以上250mm以下の長さを切り出し試験片としてよい。
【0035】
試験片の寸法、あるいは、JISZ2241に規定される諸々の試験条件の設定によっては、引張強さおよび伸びの値に違いが生じる場合もあり得る。その場合において、いずれか1種類の試験片の寸法、あるいは、いずれか1種類の試験条件により引張強さおよび伸び率が上記の範囲に含まれるとき、その条または板は本発明の範囲に含まれるものとする。
【0036】
2.製造方法
一実施形態において、本発明は、銅合金材料の製造方法に関する。より具体的には、上述したいずれかの特性を備える銅合金材料の製造方法に関する。
【0037】
2-1.製造方法の工程の概要
溶解鋳造、熱間圧延、及び面削により得た板に、冷間圧延及び再結晶焼鈍を交互に行い、仕上げ冷間圧延を行うことができる。仕上げ冷間圧延は、製品の板厚を調整する最終の冷間圧延である。仕上げ冷間圧延後に、歪取焼鈍を行い製品とする。
【0038】
各工程における条件は、本発明にかかわる成分の銅合金等の板及び条の製造方法に関する周知技術を用いて設定すればよい。また、上記工程のほかに、任意で、脱脂する工程、酸洗する工程、研磨する工程、及び防錆処理工程のうち少なくともいずれか1以上を追加してもよい。脱脂する工程により、圧延油及び金属粉を除去することができる。酸洗及び研磨する工程により、酸化膜又は酸化層を除去することができる。防錆処理は、変色防止剤を用いてもよい。
【0039】
2-2.最終の再結晶焼鈍
最終の再結晶焼鈍で結晶粒度を微細化し、その後に仕上げ冷間圧延を行うと0.2%耐力および引張強さが高くなる。最終の再結晶焼鈍は、製品の引張強さを調整する手段のひとつである。一実施形態において、最終の再結晶焼鈍で得られる結晶粒度は例えば0.030mm以下である。
【0040】
2-3.仕上げ冷間圧延
冷間圧延の加工度が高いと引張強さが高くなる。ここで、加工度は以下の式により算出される。
加工度(%)=((冷間圧延前の板厚-冷間圧延後の板厚)/冷間圧延前の板厚)×100
仕上げ冷間圧延の加工度は、製品の引張強さを調整する手段のひとつである。一実施形態において、加工度は、たとえば50%以上である。
【0041】
2-4.歪取焼鈍
一般に、銅合金等の板及び条の製造においては、仕上げ冷間圧延後に歪取焼鈍を行う。当該歪取焼鈍の目的は、ばね性の向上、低温焼鈍効果による強度の向上、残留応力の低減、熱伸縮特性の向上、延性の向上、延性の向上による曲げ加工性の向上等が挙げられる。
【0042】
一実施形態において、本発明では、上記のうちばね性の向上、及び、延性の向上に着目し、歪取焼鈍の条件を調整する。ばね性と延性の関係について述べると、ばね性が高いと延性が劣り、延性が高いとばね性が劣る場合がある。一実施形態において、本発明では、最良のばね性に比べ劣る条件にて歪取焼鈍を行うことにより、必要な延性を確保する。
【0043】
具体的には、最良のばね性を示す指標としてばね限界値を採用し、ばね限界値の低下率を調整する。ばね限界値低下率は、以下の手順において定義され調整される。
(1)歪取焼鈍の時間が一定のもとで、歪取焼鈍の予備実験を行い、歪取焼鈍の温度と、歪取焼鈍後のばね限界値との関係についてデータを採取する。
(2)得られたデータから、温度とばね限界値との関係を表す曲線を作成する(図1参照)。ここで、横軸を温度とし、縦軸をばね限界値とする。
(3)曲線中、ある温度において、ばね限界値は最大値を示す。このばね限界値を最大ばね限界値Kb(MAX)とする。また、ばね限界値が最大値を示す温度をT(Kb(MAX))とする。
(4)次式よりばね限界値低下量ΔKbを定義する。
ΔKb=Kb(MAX)-Kb
(5)ばね限界値低下量の最大ばね限界値に対する比率として、ばね限界値低下率として定義する。
ばね限界値低下率(%)=(ΔKb/Kb(MAX))×100(%)
(6)本発明の一実施形態では、ばね限界値が最大値を示す温度T(Kb(MAX))より高温で、かつ、ばね限界値低下率が10~25%の温度にて歪取焼鈍をする。ばね限界値が最大値を示す温度T(Kb(MAX))より低温で、かつ、ばね限界値低下率が10~25%の温度にて歪取焼鈍をすると、高い伸び(%)が得られず、引張強さと伸びとの積(MPa・%)が好ましい範囲を下回り、プレス加工において金属粉が発生しやすくなる。
【0044】
上記において、時間とばね限界値との関係につき予備実験をしてもよい。その場合、上記の(1)~(6)および図の記載は、「温度」を「時間」と、「高温」を「長時間」と読み替える。例えば、(6)の記載は、「本発明の一実施形態では、ばね限界値が最大値を示す時間t(Kb(MAX))より長時間で、かつ、ばね限界値低下率が10~25%の時間にて歪取焼鈍をする。」という記載に読み替える。
【0045】
また、温度及び時間を規則的に同時に変える予備実験、例えば、温度と時間との比が一定である条件のもとで、温度と時間との積とばね限界値との関係につき予備実験をしてもよい。
【0046】
上記温度及び時間以外に、予備実験の方法や条件によって、ばね限界値の最大値が変動し、ばね限界値低下率の最適な範囲が変動することは、あり得ることであるが大勢に影響はなく当業者の実施に支障はない。なお、ばね限界値については、歪取焼鈍後の材料から、幅が10mmの短冊形状の試験片を、試験片の長手方向が圧延方向と平行方向になるように採取し、JISH3130に規定されているモーメント式試験により、ばね限界値を測定した。
【0047】
ばね限界値低下率の好ましい範囲は10~25%である。10%未満であると延性が低下し、金属粉が発生しやすくなる。一方で、25%を超えると延性が高くなり、バリの発生による金属粉が発生する。
【0048】
3.電気電子部品及び電子機器
上記銅合金材料に対して更に加工(例:プレス加工(抜き加工、曲げ加工等))及び/又は処理(例:メッキ処理等)を行ってもよい。上記銅合金材料を用いて、電気電子部品(例:コネクター、リレー、端子等)を製造することができる。そして、当該電気電子部品用いて電子機器を製造することもできる。
【実施例0049】
溶解鋳造、熱間圧延、面削により得た板に、冷間圧延および再結晶焼鈍を交互に行い、仕上げ冷間圧延を行い、板厚が0.1mmの板を得た。所望の引張強さを得るため、最終の再結晶焼鈍における結晶粒度、仕上げ冷間圧延における加工度を調整した。また、Sn濃度についても表1に記載の条件に従って調整した。なお、仕上げ冷間圧延を終えた時点において、いずれの事例も伸びは5%未満であった。
【0050】
仕上げ冷間圧延のあと、歪取焼鈍を行い製品とした。歪取焼鈍は、温度が300~600℃、時間が1秒~600秒において予備実験を行った上で実施し、ばね限界値低下量を表1の条件になるように制御した。
【0051】
得られた製品つき、導電率、引張強さ、伸び、金属粉評価、曲げ性評価を行った。
【0052】
金属粉の評価は、プレス加工において発生する金属粉を評価した。プレス加工では、長さが100mm、幅が10mmである長方形の板を、抜き加工により作製した。100個の板を重ねて束ね針金で両端を固定し、長さが100mm、幅が10mm、高さが10mmの直法体の試験片とした。ここで、「長さ」の方向は圧延方向と平行の方向、「幅」の方向は圧延方向と直角の方向である。
【0053】
得られた直方体の試験片で、プレス加工による破断面が露頭した面、すなわち長さが100mm、高さが10mの面に粘着テープを貼りつけて引きはがす操作を行った。この方法の実施にあっては、JISH8504(1999年)「めっきの密着性試験方法」の「g)引きはがし試験方法」を参照した。
【0054】
得られた粘着テープの粘着面を光学顕微鏡にて観察し、金属粉が容易に認められた場合を不良(×)とし、金属粉がほとんど認められなかった場合を良好(○)とした。粘着面には外来性の不可避的で微小な異物も多数付着しており、光学顕微鏡で輝度の高いものを金属粉と判断した。
【0055】
曲げ性は、W曲げ試験により評価した。曲げの方法は、BAD WAY、すなわち、長手方向が圧延方向と直角な方向に採取した試験片を用い、曲げ軸を圧延方向と平行な方向とした。試験片の幅を0.2mm、曲げ半径を0.0mmとした。JISH3100(2018年)「銅及び銅合金の板」における「7.3曲げ試験」の項を参照した。
【0056】
W曲げ試験における評価は、目視判定および写真判定によった。具体的には、光学顕微鏡による曲げ部の観察、および、光学顕微鏡により撮影した曲げ部の写真の確認により評価した。曲げ部において、割れが認められたものを不良とし、シワが認められたもの、および、シワが認められなかったものを良好とした。光学顕微鏡の輝度の調整により割れと疑われるシワが写真に認められるものは、不良とした。
【0057】
実施例および比較例を評価した結果を下表に示す。
【表1】
【0058】
表1において、発明例は、Sn濃度、ばね限界値の低下率、および、引張強さが好ましい範囲に調整されており、更には、伸び、および、「引張強さと伸びとの積」が好ましい値を示した(伸びは11%以下、引張強さと伸びとの積は3700以上)。その結果、発明例は、プレス加工における金属粉の評価、および、曲げ性の評価において良好な結果が得られた。
【0059】
ここで、発明例16は、JISH3100(2018年)に規定される、合金番号がC1441の「すず入り銅」である。発明例16の合金成分は、Snが0.15質量、Pbが0.001質量%、Feが0.01質量%、Znが0.05質量%、Pが0.010質量%、残部がCuであった。
【0060】
比較例1は、Sn濃度が低いため、引張強さが低く、電気電子部品に使用したとき、十分な強度が発揮されないことが予想される。また、比較例1は、ばね限界値の低下率が適正であったにもかかわらず、Sn濃度が低いため歪取焼鈍における軟化が著しく、伸び率が好ましい範囲の上限を超えた。その結果、プレス加工における金属粉の評価において不良となった。
【0061】
比較例2は、Sn濃度が低いため、引張強さが低く、電気電子部品に使用したとき、十分な強度が発揮されないことが予想される。また、ばね限界値の低下率が好ましい範囲を下回る設定をしたため、引張強さと伸びとの積が好ましい範囲を下回った。その結果、プレス加工における金属粉の評価において不良となった。
【0062】
比較例3は、ばね限界値の低下率が好ましい範囲の上限を超える設定をしたため、歪取焼鈍における軟化が著しく引張強さが好ましい範囲の下限を下回り、伸び率が好ましい範囲の上限を超えた。その結果、引張強さが低く、電気電子部品に使用したとき、十分な強度が発揮されないことが予想される。また、プレス加工における金属粉の評価において不良となった。
【0063】
比較例4は、ばね限界値の低下率が好ましい範囲の上限を超える設定をしたため、歪取焼鈍における軟化が著しく、伸び率が好ましい範囲の上限を超えた。その結果、プレス加工における金属粉の評価において不良となった。
【0064】
比較例5は、ばね限界値の低下率が好ましい範囲の下限を下回る設定をしたため、引張強さと伸びとの積が好ましい範囲を下回った。その結果、プレス加工における金属粉の評価において不良となった。
【0065】
比較例6は、ばね限界値の低下率が好ましい範囲の上限を超える設定をしたため、歪取焼鈍における軟化が著しく、伸び率が好ましい範囲の上限を超えた。その結果、プレス加工における金属粉の評価において不良となった。
【0066】
比較例7は、ばね限界値の低下率が好ましい範囲の下限を下回る設定をしたため、引張強さと伸びとの積が好ましい範囲を下回った。その結果、プレス加工における金属粉の評価において不良となった。
【0067】
比較例8は、Sn濃度が高いため、導電率が好ましい範囲の下限を下回った。電気電子部品に使用したとき、優れた導電性が発現しないことが予想される。また、比較例8は、Sn濃度が高いため、ばね限界値の低下率が好ましい範囲の上限を超える設定をしたにもかかわらず、伸びおよび「引張強さと伸びとの積」が好ましい範囲であった。その結果、プレス加工における金属粉の評価は良好であった。しかし、引張強さが高いため、曲げ性の評価において不良となった。
【0068】
比較例9は、Sn濃度が高いため、導電率が好ましい範囲の下限を下回った。電気電子部品に使用したとき、優れた導電性が発現しないことが予想される。また、比較例9は、ばね限界値の低下率が好ましい範囲で設定をしたため、伸びおよび「引張強さと伸びとの積」が好ましい範囲であった。その結果、プレス加工における金属粉の評価は良好であった。しかし、引張強さが高いため、曲げ性の評価において不良となった。
【0069】
比較例10は、Sn濃度が高いため、導電率が好ましい範囲の下限を下回った。電気電子部品に使用したとき、優れた導電性が発現しないことが予想される。また、比較例10は、ばね限界値の低下率が好ましい範囲の下限を下回る設定をしたため、引張強さと伸びとの積が好ましい範囲を下回った。その結果、プレス加工における金属粉の評価において不良となった。さらに、Sn濃度が高いため、引張強さが高くなり、曲げ性の評価において不良となった。
【0070】
比較例11は、ばね限界値が最大値を示す温度T(Kb(MAX))より低温で、かつ、ばね限界値低下率が10~25%の温度にて歪取焼鈍をした事例である。比較例11は、高い伸び(%)が得られず、引張強さと伸びとの積(MPa・%)が好ましい範囲を下回り、プレス加工における金属粉の評価において不良となった。
【0071】
以上、本発明の具体的な実施形態について説明してきた。上記実施形態は、本発明の具体例に過ぎず、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、上述の実施形態の1つに開示された技術的特徴は、他の実施形態に適用することができる。また、特記しない限り、特定の方法については、一部の工程を他の工程の順序と入れ替えることも可能であり、特定の2つの工程の間に更なる工程を追加してもよい。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって規定される。
図1